特許第5932907号(P5932907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932907
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】合金粉末及び磁性部品
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20160526BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20160526BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   B22F1/00 Y
   H01F1/14 C
   C22C45/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-147249(P2014-147249)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-23326(P2016-23326A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】西山 信行
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ パルマナンド
(72)【発明者】
【氏名】竹中 佳生
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067863(JP,A)
【文献】 特開2015−157999(JP,A)
【文献】 特開2007−107094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶化のための熱処理がなされていない合金粉末であり、かつ主相としてアモルファス相又はアモルファス相とα−Feの結晶相との混相組織を有する組成式Fe100−a−b−c−d−e−fCoSiCuの合金粉末であって、3.5≦a≦4.5at%、6≦b≦15at%、2<c≦11at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%であり、粒径90μm以下であり、かつ1.6T以上の飽和磁束密度と100A/m以下の保磁力を有する合金粉末。
【請求項2】
請求項1記載の合金粉末であって、70≦100−a−b−c−d−e−f≦83.5at%である、合金粉末。
【請求項3】
請求項1記載の合金粉末であって、70≦100−a−b−c−d−e−f≦79at%である、合金粉末。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の合金粉末を用いて構成された磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタやノイズフィルタ、チョークコイルなどの電子部品に使用可能なFe基アモルファス合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、主相としてアモルファス相を有する合金粉末を提案している。特許文献1の合金粉末の平均粒径は0.7μm以上5.0μm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−55182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノイズフィルタやチョークコイルのような電子部品への使用を考えると、飽和磁束密度はモーター用途の場合と比較して小さくてもよい一方で、保磁力が小さく鉄損を低く抑えることが必要とされる。かかる要求を満たし、且つ、粒径の大きな粉末を安定的に得るためには、合金のアモルファス形成能を高めることが要求される。アモルファス形成能が高い合金から粉末を製造すると、特性の良い粉末の形成の歩留まりを向上させることができる。
【0005】
そこで、本発明は、高いアモルファス形成能を有する合金粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の合金粉末として、
主相としてアモルファス相又はアモルファス相とα−Feの結晶相との混相組織を有する組成式Fe100−a−b−c−d−e−fCoSiCuの合金粉末であって、3.5≦a≦4.5at%、6≦b≦15at%、2≦c≦11at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%であり、粒径90μm以下の合金粉末を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の合金粉末として、第1の合金粉末であって、
70≦100−a−b−c−d−e−f≦83.5at%である
合金粉末を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の合金粉末として、第1の合金粉末であって、
70≦100−a−b−c−d−e−f≦79at%である
合金粉末を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の合金粉末として、第1の合金粉末であって、
1.6T以上の飽和磁束密度と100A/m以下の保磁力を有する
合金粉末を提供する。
【0010】
更に、本発明は、上述した合金粉末を用いて構成された磁性部品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
Coを3.5at%以上且つ4.5at%以下含むFeCoBSiPCu合金又はFeCoBSiPCuC合金は高いアモルファス形成能を有しており、大きな粒径の合金粉末を得やすい。また、Feの量を下げたことからナノ結晶化するには不向きである一方、保磁力が小さく鉄損も低いといった電子部品用として優れた磁気特性をも有している。粒径の大きな粉末であっても良好な磁気特性を有することになるので歩留まりが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態による合金粉末は、ノイズフィルタのような電子部品用として好適なものであり、組成式Fe100−a−b−c−d−e−fCoSiCuのものである。ここで、3.5≦a≦4.5at%、6≦b≦15at%、2<c≦11at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%。即ち、Cを含まない場合には、組成式はFe100−a−b−c−d−eCoSiCuであり、Cを0<f≦2at%含む場合には、組成式はFe100−a−b−c−d−e−fCoSiCuである。
【0013】
本実施の形態において、Co元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。FeBSiPCu合金又はFeBSiPCuC合金に対してCo元素を一定量加えると、FeBSiPCu合金又はFeBSiPCuC合金のアモルファス相形成能が向上することから、粒径の大きな合金粉末を安定して作製することができる。但し、Coの割合が3.5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、その結果、合金粉末中に化合物相が析出して、飽和磁束密度が低下してしまう。一方、Coの割合が4.5at%より多いと、保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Coの割合は、3.5at%以上、4.5at%以下であることが望ましい。アモルファス相形成能を高めるためにCoの割合を3.5at%以上と多くした場合であっても、他の元素B,Si,P,Cuの値を下記のように調整することにより、良好な磁気特性を得ることができる。
【0014】
本実施の形態において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が6at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、その結果、合金粉末中に化合物相が析出して、飽和磁束密度が低下すると共に保磁力が上昇してしまう。Bの割合が15at%より多いと、飽和磁束密度が低下してしまう。従って、Bの割合は、6at%以上、15at%以下であることが望ましい。
【0015】
本実施の形態において、Si元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Siの割合が2at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、その結果、合金粉末中に化合物相が析出して、飽和磁束密度が低下すると共に保磁力が上昇してしまう。Siの割合が11at%より多いと、保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Siの割合は、2at%以上、11at%以下であることが望ましい。
【0016】
本実施の形態において、P元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Pの割合が3at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、その結果、合金粉末中に化合物相が析出して、保磁力が上昇してしまう。Pの割合が5at%より多いと、飽和磁束密度が低下してしまう。従って、Pの割合は、3at%以上、5at%以下であることが望ましい。
【0017】
本実施の形態において、Cu元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Cuの割合が0.5at%より少ないと、飽和磁束密度が低下してしまう。Cuの割合が1.1at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、その結果、合金粉末中に化合物相が析出して、飽和磁束密度が低下すると共に保磁力が上昇してしまう。従って、Cuの割合は、0.5at%以上、1.1at%以下であることが望ましい。
【0018】
本実施の形態において、Fe元素は主元素であり、上記組成式において残部を占め且つ磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。但し、Feの割合が83.5at%を超えると、化合物相が多量に析出し飽和磁束密度が極端に低下するケースが多くなる。また、Feの割合が79at%を超えると、アモルファス形成能が低下するため保磁力が増加する傾向にあることから、これを防止するため半金属元素の割合を厳密に調整する必要がある。従って、Feの割合は、83.5at%以下であることが望ましく、更に、79at%以下であることが好ましい。
【0019】
上述した組成式Fe100−a−b−c−d−eCoSiCuを有する合金組成物に対してC元素を一定量加えて合金組成物の総材料コストを下げることとしてもよい。但し、Cの割合が2at%を超えると、飽和磁束密度が低下してしまう。従って、C元素を加えて合金組成物の組成式をFe100−a−b−c−d−e−fCoSiCuとする場合であっても、Cの割合は、2at%以下(0を含まない)であることが望ましい。
【0020】
本実施の形態における合金粉末は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって作製してもよいし、薄帯の合金組成物を粉砕することで作製してもよい。
【0021】
更に、作成した合金粉末を粉末をふるいにかけて、粉末粒径が90μm以下のものと90μmを超えるものとに分ける。このようにして得られた本実施の形態による合金粉末は、90μm以下の粒径を有していると共に、1.6T以上の高い飽和磁束密度と100A/m以下の低い保磁力を有している。
【0022】
本実施の形態による合金粉末を成形して、巻磁芯、積層磁芯、圧粉磁芯などの磁気コアを形成することができる。また、その磁気コアを用いて、インダクタやノイズフィルタ、チョークコイルのような電子部品を提供することができる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、複数の実施例及び複数の比較例を参照しながら更に詳細に説明する。
【0024】
(実施例1〜11及び比較例1〜10)
まず、Cを含まないFeCoBSiPCu合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表1に掲げられた本発明の実施例1〜11及び比較例1〜10の合金組成となるように秤量し、高周波誘導溶解処理により溶解して母合金を作製した。この母合金をガスアトマイズ法にて処理し、粉末を得た。合金溶湯の吐出量は平均15g/秒以下とし、ガス圧は10MPa以上とした。このようにして得た粉末をふるいにかけて、粉末粒径が90μm以下のものと90μmを超えるものとに分け、実施例1〜11及び比較例1〜10の合金粉末を得た。合金粉末の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金粉末の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い23.9kA/m(300エルステッド)の磁場にて測定した。測定結果を表4に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2から理解されるように、実施例1〜11の合金粉末は、アモルファス相を主相とするものであるか、アモルファス相とα−Feの結晶相との混相組織を有するものであった。これに対して、比較例1、比較例3、比較例5、比較例7及び比較例10の合金粉末は、化合物相を含んでいた。また、実施例1〜11の合金粉末は、100A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.6T以上の高い飽和磁束密度を有していた。これに対して、比較例1〜10の合金粉末は、飽和磁束密度が1.6Tよりも低いか、保磁力が100A/mよりも大きすぎるものであった。このように発明によれば、熱処理してナノ結晶化させずとも、小さな保磁力と高い飽和磁束密度を実現することができる。
【0028】
(実施例12〜14及び比較例11)
更にCを含めたFeCoBSiPCuC合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表3に掲げられた本発明の実施例12〜14及び比較例11の合金組成となるように秤量し、高周波誘導溶解処理により溶解して母合金を作製した。この母合金をガスアトマイズ法にて処理し、粉末を得た。合金溶湯の吐出量は平均15g/秒以下とし、ガス圧は10MPa以上とした。このようにして得た粉末をふるいにかけて、粉末粒径が90μm以下のものと90μmを超えるものとに分け、実施例12〜14及び比較例11の合金粉末を得た。合金粉末の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金粉末の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い23.9kA/m(300エルステッド)の磁場にて測定した。測定結果を表4に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
表4から理解されるように、実施例12〜14の合金粉末は、アモルファス相を主相とするものであるか、アモルファス相とα−Feの結晶相との混相組織を有するものであった。また、実施例12〜14の合金粉末は、100A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.6T以上の高い飽和磁束密度を有していた。これに対して、比較例11の合金粉末は、低い飽和磁束密度を有するものであった。