(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の着色剤は0.25〜0.96質量%の白色顔料を含み、第2の着色剤は0.04〜0.1質量%のカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、0.2質量%以下のポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、0.025〜0.4質量%のポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法。
前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、1〜4質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロックコポリマーをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の方法。
前記射出成形は、バレル温度が270〜310℃、型温度が45〜70℃の射出成形機を使用するステップを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】2,6−ジメチルフェノールを酸化重合してポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)および3,3’,5,5’−テトラメチルジフェノキノンを産出し、該反応混合物の再平衡によって、取り込まれたジフェノキノンの末端および内部残基を有するポリ(アリーレンエーテル)を生成し得る化学スキームである。
【0008】
(発明の詳細な説明)
グレー色のポリ(アリーレンエーテル)組成物を用いて、大型の、頂部開放の長方形ボックスを射出成形すると、射出成形機のゲートに関連した位置に黒い環が現れた。
図1は黒い環が現れたボックス面の図である。この黒い環の発生原因については明らかではなかった。後述の実施例に記載の実験により、成形用組成物中の黒い着色剤の濃度を下げることによって、この黒い環が低減でき得ることがわかった。いかなる特別の機構仮説にも束縛されることなく、本発明者は、バルク組成に対する過剰の黒色顔料ではなく、白色顔料の局部的不足に付随すると考える。射出成形プロセスによって、成形ゲート周囲に個々の着色剤の分離(すなわち、空間的分離)が起こると考える理由がないことを考慮すれば、これは驚くべきことである。
【0009】
一実施形態は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物を射出成形して射出成形品を形成するステップを備えた、射出成形品における美的欠陥の低減方法であって、前記射出成形品の一部は、少なくとも10cmの第1の寸法と、少なくとも10cmの第2の寸法と、1cm以下の第3の寸法と、を有し、前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して、25℃のクロロホルム中で測定した固有粘度が約0.3〜約0.55dL/gの、約50〜約70質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、ポリスチレンとポリブタジエンとを含む、約12〜約30質量%のゴム変性ポリスチレンと、約5〜約25質量%の有機リン酸エステル難燃剤と、合計量が約0.3〜約1質量%の第1の着色剤および第2の着色剤と、を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
該方法では、特定のポリ(アリーレンエーテル)組成物を射出成形するステップが必要である。該方法では、射出成形品製造用の金型(類)を十分に充填できるバレル容量とトン数を有していれば、従来の射出成形装置が利用できる。射出成形用の例示的な装置および条件は、後述の実施例に記載されている。一部の実施形態では、該射出成形は、射出成形機のバレルを該ポリ(アリーレンエーテル)組成物で充填するステップと、バレルの少なくとも80質量%を用いて単一の射出成形品を成形するステップと、を備える。一部の実施形態では、射出成形は、バレル温度が約270〜約300℃、具体的には約275〜約300℃、金型温度が約45〜約70℃、具体的には約50〜約65℃の射出成形機を使用するステップを備える。
【0011】
該方法によって射出成形品が形成される。該方法は、厚みが薄い大きな部分を有する射出成形品には特に好適である。具体的には、該射出成形品は、少なくとも10cmの第1の寸法と、少なくとも10cmの第2の寸法と、1cm以下の第3の寸法と、を有する一部を含む。このように、第1および第2の寸法は、該部分の「大きな」特徴を定義し、第3の寸法は、「厚みが薄い」特徴を定義する。該射出成形品の「一部」は、例えば鉛酸蓄電池容器の5つの平面(分離した頂面は除く)の1つであり得る。一部の実施形態では、該第1の寸法は10〜約100cmであり、第2の寸法は10〜約100cmであり、第3の寸法は約0.02〜1cmである。一部の実施形態では、該第1の寸法は約30〜約100cmであり、第2の寸法は約30〜約100cmであり、第3の寸法は約0.1〜約0.5cmである。一部の実施形態では、該射出成形品は、質量が約1,000〜約4,000gの、具体的には約1,500〜約3,600gのバッテリケースである。ある小型のバッテリケースの質量は約1,600〜約1,800gであり、ある大型のバッテリケースのそれは約3,200〜約3,600gである。一部の実施形態では、該第1および第2の寸法は平面を確定する。例えば、該成形品は、少なくとも1つの壁が(平面)長方形で、全体が長方柱のバッテリケースであり得る。一部の実施形態では、該射出成形品は、鉛酸蓄電池用のケースである。
【0012】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物はポリ(アリーレンエーテル)を含む。好適なポリ(アリーレンエーテル)としては、下式の繰り返し構造単位を含むものが挙げられる:
【0013】
【化1】
式中、Z
1はそれぞれ独立に、ハロゲン、ヒドロカルビル基が第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C
1−C
12ヒドロカルビル、C
1−C
12ヒドロカルビルチオ、C
1−C
12ヒドロカルビルオキシ、あるいは少なくとも2つの炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを分離しているC
2−C
12ハロヒドロカルビルオキシであり;Z
2はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロカルビル基が第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C
1−C
12ヒドロカルビル、C
1−C
12ヒドロカルビルチオ、C
1−C
12ヒドロカルビルオキシ、あるいは少なくとも2つの炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを分離しているC
2−C
12ハロヒドロカルビルオキシである。本明細書において、「ヒドロカルビル」は、単独であるいは別の用語の接頭辞、接尾辞またはフラグメントとして使用されたとしても、炭素と水素だけを含む残基を指す。該残基は、脂肪族または芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝鎖、飽和または不飽和であり得る。それはまた、脂肪族、芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝鎖、飽和および不飽和炭化水素部分の組み合わせも含み得る。しかしながら、該ヒドロカルビル残基が置換であると記載された場合、それは選択的に、該置換残基の炭素と水素員上にヘテロ原子を含んでいてもよい。従って、置換であると特定的に記載された場合、該ヒドロカルビル残基は、1個または複数個のカルボニル基、アミノ基、水酸基なども含み得、あるいは、該ヒドロカルビル残基の骨格内にヘテロ原子を含み得る。一例として、Z
1は、末端の3,5−ジメチル−1,4−フェニル基と酸化重合触媒のジ−n−ブチルアミン成分との反応で形成されたジ−n−ブチルアミノメチル基であり得る。
【0014】
前記ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度は、25℃のクロロホルム中で測定して、約0.3〜約0.55dL/gである。
【0015】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、その比が約1.3:1〜約4:1である質量平均分子量とピーク分子量とで特徴付けられる。この範囲内で、この比は約1.5:1〜約3:1であり得、具体的には約1.5:1〜約2.5:1であり得、より具体的には約1.6:1〜約2.3:1であり得、さらにより具体的には1.7:1〜約2.1:1であり得る。該ポリ(アリーレンエーテル)の分子量分布は、典型的には、250〜1,000,000原子質量単位の分子量範囲内で分析される。本明細書での「ピーク分子量」は、分子量分布において最瀕分子量として定義される。統計用語では、ピーク分子量は分子量分布モードである。実用語では、分子量がゲル透過クロマトグラフィなどのクロマトグラフ法で決定される場合、ピーク分子量は、分子量(X軸)と吸光度(Y軸)のプロットの最高点におけるポリ(アリーレンエーテル)の分子量である。ゲル透過クロマトグラフィによる分子量分布の詳細な決定方法は、Guoらの国際出願公報第2010/039470A2号の実施例に記載されている。
【0016】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、モルホリン含有触媒で調製されたポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)であり、トルエンにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を溶解し、メタノールからの沈殿、再スラリーおよび単離によって調製したポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の精製されたサンプルは、250〜1,000,000原子質量単位の分子量範囲で単峰性の分子量分布を有しており、分子量が該精製サンプル全体の数平均分子量の15倍超のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を2.2質量%以下含む。一部の実施形態では、分子量を減少させる6つの等しいポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)重量画分に分離後の精製サンプルは、末端のモルホリン置換フェノキシ基を含むポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を少なくとも10モル%含む第1の、最も高い分子量画分を含む。これらの実施形態によるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)については、Carrilloらの米国特許出願公報第2011/0003962A1号にさらに記載されている。
【0017】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、組み込まれたジフェノキノン残基を本質的に含まない。この文脈において、「本質的に含まない」とは、ジフェノキノン残基を含むポリ(アリーレンエーテル)分子が1質量%未満であることを意味する。Hayの米国特許第3,306,874号に記載されているように、一価フェノールの酸化重合によるポリ(アリーレンエーテル)の合成では、所望のポリ(アリーレンエーテル)だけでなく、ジフェノキノンも副生成物として産出される。例えば、一価フェノールが2,6−ジメチルフェノールの場合、3,3’,5,5’−テトラメチルジフェノキノンが生成される。該ジフェノキノンは典型的には、前記重合反応混合物を加熱して末端または内部ジフェノキノン残基を含むポリ(アリーレンエーテル)を生成することによって、ポリ(アリーレンエーテル)内に「再平衡される」(すなわち、ジフェノキノンがポリ(アリーレンエーテル)構造内に取り込まれる)。例えば、
図2のスキームに示すように、ポリ(アリーレンエーテル)を2,6−ジメチルフェノールの酸化重合で調製してポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)と3,3’,5,5’−テトラメチルジフェノキノンを産出する場合、反応混合物の再平衡によって、取り込まれたジフェノキノンの末端および内部残基を有するポリ(アリーレンエーテル)が生成され得る。しかしながら、こうした再平衡によって、ポリ(アリーレンエーテル)の分子量が低減する(例えば、pおよびq+rはそれぞれn未満)。従って、より高分子量のポリ(アリーレンエーテル)が望ましい場合、該ジフェノキノンをポリ(アリーレンエーテル)鎖へ再平衡させずに、ポリ(アリーレンエーテル)から分離することが有用であり得る。こうした分離は、例えば、ポリ(アリーレンエーテル)は不溶だがジフェノキノンが可溶の溶媒または溶媒混合物に、ポリ(アリーレンエーテル)を沈殿させることによって実現される。例えば、トルエン中の2,6−ジメチルフェノールの酸化重合によってポリ(アリーレンエーテル)を調製して、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)と3,3’,5,5’−テトラメチルジフェノキノンとを含むトルエン溶液を産出する場合、ジフェノキノンを本質的に含まないポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)は、該トルエン溶液1容積とメタノールまたはメタノール/水混合物約1〜約4容積とを混合することによって得られる。あるいは、酸化重合中に生成されるジフェノキノン副生成物の量は、(例えば、10質量%未満の一価フェノールの存在下で酸化重合を開始し、少なくとも50分の間に少なくとも95質量%の一価フェノールを添加することによって)最小化でき、およびまたは、ポリ(アリーレンエーテル)鎖へのジフェノキノンの再平衡は、(例えば、酸化重合終了後200分以内にポリ(アリーレンエーテル)を単離することによって)最小化できる。これらの方法は、Delsmanらの国際特許出願公報第2009/104107A1号に記載されている。トルエン中のジフェノキノンの温度依存性の溶解度を利用する代替方法では、ジフェノキノンとポリ(アリーレンエーテル)とを含むトルエン溶液の温度を、ジフェノキノンはほとんど不溶だがポリ(アリーレンエーテル)は可溶である約25℃に調整して、不溶のジフェノキノンを固液分離(例えばろ過)によって除去できる。
【0018】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位、2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位あるいはこれらの組み合わせを含む。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)はポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、25℃のクロロホルム中で測定した固有粘度が約0.3〜約0.55dL/gの、具体的には約0.35〜約0.5dL/gの、より具体的には約0.35〜約0.46dL/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を含む。
【0019】
該ポリ(アリーレンエーテル)は、典型的にはヒドロキシ基に対してオルト位置に存在するアミノアルキル含有末端基(類)を有する分子を含み得る。また、テトラメチルジフェニルキノン(TMDQ)副生成物が存在する2,6−ジメチルフェノール含有反応混合物から典型的に得られるTMDQ末端基類も存在することが多い。該ポリ(アリーレンエーテル)は、ホモポリマー、コポリマー、グラフトコポリマー、イオノマー、ブロックコポリマー、あるいはこれらのものを少なくとも1つ含む組合せの形態であり得る。
【0020】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して約50〜約70質量%のポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内で、ポリ(アリーレンエーテル)の量は約53〜約67質量%であり得、より具体的には約56〜約64質量%であり得る。
【0021】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)に加えて、ゴム変性ポリスチレンを含む。該ゴム変性ポリスチレンは、ポリスチレンとポリブタジエンとを含む。ゴム変性ポリスチレンは、「耐衝撃性ポリスチレン」あるいは「HIPS」とも呼ばれる。一部の実施形態では、該ゴム変性ポリスチレンは、その質量に対して、80〜96質量%の、具体的には88〜94質量%のポリスチレンと、4〜20質量%の、具体的には6〜12質量%のポリブタジエンと、を含む。一部の実施形態では、該ゴム変性ポリスチレンの有効ゲル含量は10〜35%である。好適なゴム変性ポリスチレンは、例えば、SABIC Innovative Plastics社からHIPS3190として、また、American Styrenics社からD7055.5およびD7022.27として市販されている。
【0022】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して、約12〜約30質量%の、具体的には約14〜約26質量%の、より具体的には約16〜約22質量%のゴム変性ポリスチレンを含む。
【0023】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)とゴム変性ポリスチレンに加えて、有機リン酸エステル難燃剤を含む。典型的な有機リン酸エステル難燃剤としては、フェニル基、置換フェニル基あるいはこれらの組み合わせを含むリン酸エステル、例えばレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)などのレゾルシノール系ビス−アリールリン酸エステルおよび、例えばビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)などのビスフェノール系リン酸エステルが挙げられる。一部の実施形態では、該有機リン酸エステルは、トリス(アルキルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS登録番号第89492−23−9号または同第78−33−1号)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(CAS登録番号第57583−54−7号)、ビス−フェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(CAS登録番号第181028−79−5号)、トリフェニルホスフェート(CAS登録番号第115−86−6号)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS登録番号第68937−41−7号)およびこれらの混合物から選択される。
【0024】
一部の実施形態では、該有機リン酸エステルは、下式の構造を有するビス−アリールホスフェートを含む:
【0025】
【化2】
式中、Rはそれぞれ独立に、C
1−C
12アルキレン基であり、R
5およびR
6はそれぞれ独立に、C
1−C
5アルキル基であり、R
1、R
2およびR
4は独立に、C
1−C
12ヒドロカルビル基であり、R
3はそれぞれ独立に、C
1−C
12ヒドロカルビル基であり、nは1〜25であり、s1とs2は独立に、0、1または2の整数である。一部の実施形態では、OR
1、OR
2、OR
3およびOR
4は独立に、フェノール、モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノールまたはトリアルキルフェノールから誘導される。
【0026】
当業者には容易に理解されるように、該ビス−アリールホスフェートはビスフェノールから誘導される。典型的なビスフェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(所謂ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが挙げられる。一部の実施形態では、該ビスフェノールはビスフェノールAを含む。
【0027】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して、約5〜約25質量%の、具体的には約8〜約21質量%の、より具体的には約11〜約18質量%の有機リン酸エステル難燃剤を含む。
【0028】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)、ゴム変性ポリスチレンおよび有機リン酸エステル難燃剤に加えて、第1の着色剤と第2の着色剤を含む。後述の実施例に記載されるように、本発明者らは、黒い環の形成は、射出成形中の成形ゲート周囲の2つの着色剤の空間的分離に関連することを見出した。一部の実施形態では、該第1の着色剤は白色顔料を含み、第2の着色剤は黒色顔料を含む。
【0029】
第1の着色剤あるいは第2の着色剤として好適な着色剤としては、例えば、R.GachterおよびH.Mullerの、「プラスチック添加剤ハンドブック;熱可塑性プラスチック用の安定剤、加工助剤、可塑剤、充填剤、補強剤および着色剤;第3版」、Munch:Hanser Publishers(1990)、637〜676ページに記載されているものなどが挙げられる。具体的な着色剤としては、例えば、カーボンブラック、顔料ブラック11、二酸化チタン、酸化亜鉛、ディスパースイェロー201、ソルベントグリーン3、顔料グリーン50、ソルベントレッド52、ソルベントレッド135、顔料レッド101、ソルベントバイオレット13、ディスパースオレンジ47、ソルベントオレンジ60、ソルベントブルー104、顔料ブラウン24およびこれらの混合物が挙げられる。一部の実施形態では、該第1の着色剤は二酸化チタンを含み、第2の着色剤はカーボンブラックを含む。
【0030】
一部の実施形態では、該着色剤は、グレー色のポリ(アリーレンエーテル)組成物と射出成形品の製造に有効である。例えば、該射出成形品表面のCIE1976L
*a
*b
*パラメータは、ASTM D2244−09bに準拠して測定して、L
*が約25〜約45、具体的には約30〜約40であり、a
*が−10〜約10、具体的には約−5〜約5であり、b
*が−10〜約10,具体的には約−5〜約5である。
【0031】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物中のすべての着色剤の合計量は、組成物の合計質量に対して、約0.3〜約1質量%であり、具体的には約0.4〜約0.9質量%であり、より具体的には約0.5〜約0.8質量%である。着色剤の合計量が約1質量%より多い場合、射出成形品表面に可視環が形成される。着色剤の合計量が約0.3質量%未満の場合、射出成形品の所望の外観形成には不十分である。
【0032】
一部の実施形態では、該着色剤は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して、約0.25〜約0.96質量%の白色顔料を第1の着色剤として含み、約0.04〜約0.1質量%の黒色顔料を第2の着色剤として含む。約0.25〜約0.96質量%の範囲内で、白色顔料の量は約0.25〜約0.8質量%であり得、具体的には約0.3〜約0.6質量%であり得、より具体的には約0.35〜約0.5質量%であり得る。約0.04〜約0.1質量%の範囲内で、黒色顔料の量は約0.05〜約0.08質量%であり得る。一部の実施形態では、該白色顔料は二酸化チタンを含む。一部の実施形態では、該黒色顔料はカーボンブラックを含む。一部の実施形態では、該カーボンブラックのヨウ素吸収量は、ASTM D1510−02aに準拠して測定して、約150〜約500g/kgである。
【0033】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して、0.2質量%以下の、具体的には0.1質量%以下のポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含む。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)は、ポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含まない。後述の実施例に示すように、ポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーが存在することによって、黒い環が形成され得る。
【0034】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は選択的に、炭化水素樹脂をさらに含み得る。炭化水素樹脂としては、脂肪族炭化水素樹脂、水素化脂肪族炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、脂環式炭化水素樹脂、水素化脂環式樹脂、脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジンおよびロジンエステル、水素化ロジンおよびロジンエステル、およびこれらの混合物が挙げられる。本明細書において、炭化水素樹脂に関する「水素化」には、完全に水素化された樹脂、実質的に水素化された樹脂および部分的に水素化された樹脂が含まれる。好適な芳香族樹脂としては、芳香族含量が約1〜約30質量%の芳香族変性脂肪族樹脂、芳香族変性脂環式樹脂および水素化芳香族炭化水素樹脂が挙げられる。上記の樹脂類のいずれのものも、当分野で既知の方法を用いて、不飽和エステルまたは無水物でグラフト化されてもよい。こうしたグラフト化によって、樹脂の特性は向上させられる。一実施形態では、該炭化水素樹脂は、水素化芳香族炭化水素樹脂である。
【0035】
好適な炭化水素樹脂は市販されており、その例としては、例えば、ExxonMobil Chemical社から販売されているEMPR100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、116、117および118樹脂類およびOPPERA樹脂;荒川化学工業(株)から販売されているARKON P140、P125、P115、M115およびM135、およびSUPER ESTERロジンエステル;Arizona Chemical社から販売されているSYLVARESポリテルペン樹脂、スチレン化テルペン樹脂およびテルペンフェノール樹脂;Arizona Chemical社から販売されているSYLVATACおよびSYLVALITEロジンエステル;Cray Valley社から販売されているNORSOLENE脂肪族芳香族樹脂;DRT Chemical社から販売されているDERTOPHENEテルペンフェノール樹脂およびDERCOLYTEポリテルペン樹脂;Eastman Chemical社から販売されているEASTOTAC樹脂、PICCOTAC樹脂、REGALITEおよびREGALREZ水素化脂環式/芳香族樹脂およびPICCOLYTEおよびPERMALYNポリテルペン樹脂、ロジンおよびロジンエステル;Goodyear Chemical社から販売されているWINGTACK樹脂;Neville Chemical社から販売されているクマロン/インデン樹脂;日本ゼオン(株)から販売されているQUINTONE酸変性C5樹脂、C5/C9樹脂および酸変性C5/C9樹脂;およびヤスハラケミカル(株)から販売されているCLEARON水素化テルペン樹脂などが挙げられる。
【0036】
一部の実施形態では、該炭化水素樹脂の軟化点は約80〜約180℃であり、具体的には約100〜約170℃であり、より具体的には約110〜約150℃であり、さらにより具体的には約120〜約130℃である。軟化点は、ASTM E28−99に準拠した環とボールの軟化点として測定される。具体的な炭化水素樹脂はARKON P125であり、その軟化点は約125℃である。
【0037】
炭化水素樹脂が該ポリ(アリーレンエーテル)組成物中に存在する場合、その量は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して約1〜約5質量%であり、具体的には約2〜約4質量%である。
【0038】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンをさらに含む。スチレン−アクリロニトリルコポリマー(SAN)中のカプセル化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、TSANとしても既知である。TSANは、ポリテトラフルオロエチレンの存在下、スチレンとアクリロニトリルとの重合により製造できる。一部の実施形態では、TSANは、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンの質量に対して、約30〜約70質量%のポリテトラフルオロエチレンと、約30〜約70質量%のポリ(スチレン−アクリロニトリルと、を含む。一部の実施形態では、該カプセル化するポリ(スチレン−アクリロニトリルは、約50〜約90質量%のスチレン残基と、約10〜約50質量%のアクリロニトリル残基と、を含む。
【0039】
ポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンが該ポリ(アリーレンエーテル)組成物中に存在する場合、その量は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して約0.025〜約0.4質量%であり、具体的には約0.05〜約0.2質量%である。
【0040】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、エチレンホモポリマーをさらに含む。該エチレンホモポリマーのメルトフローレートは、ASTM D1238−10に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgで測定して、約10〜約50g/10minである。エチレンホモポリマーが使用される場合、その量は、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して、約0.5〜約4質量%であり、具体的には約1〜約3質量%である。
【0041】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロックコポリマーをさらに含む。簡略化のために、この成分を「水素化ブロックコポリマー」と呼ぶ。該水素化ブロックコポリマーは、その質量に対して、約10〜約90質量%のポリ(アルケニル芳香族)と、約10〜約90質量%の水素化ポリ(共役ジエン)と、を含み得る。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、低ポリ(アルケニル芳香族含量)水素化ブロックコポリマーであり、その中でのポリ(アルケニル芳香族)含量は、該低ポリ(アルケニル芳香族含量)水素化ブロックコポリマーの質量に対して約10〜40質量%未満であり、具体的には約20〜約35質量%であり、より具体的には約25〜約35質量%であり、さらにより具体的には約30〜約35質量%である。他の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、高ポリ(アルケニル芳香族含量)水素化ブロックコポリマーであり、その中でのポリ(アルケニル芳香族)含量は、該高ポリ(アルケニル芳香族含量)水素化ブロックコポリマーの質量に対して40〜約90質量%であり、具体的には約50〜約80質量%であり、より具体的には約60〜約70質量%である。
【0042】
一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーの質量平均分子量は、約40,000〜約400,000原子質量単位である。数平均分子量と質量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィによって、およびポリスチレン標準との比較に基づいて求められる。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーの質量平均分子量は、約200,000〜約400,000原子質量単位であり、具体的には約220,000〜約350,000原子質量単位である。他の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーの質量平均分子量は、約40,000〜約200,000原子質量単位であり、具体的には約40,000〜180,000原子質量単位であり、より具体的には約40,000〜約150,000原子質量単位である。
【0043】
該水素化ブロックコポリマーの調製に用いるアルケニル芳香族モノマーは下式の構造を有し得る:
【0044】
【化3】
式中、R
7およびR
8はそれぞれ独立に、水素原子、C
1−C
8アルキル基またはC
2−C
8アルケニル基を表し;R
9およびR
13はそれぞれ独立に、水素原子、C
1−C
8アルキル基、塩素原子または臭素原子を表し;R
10、R
11およびR
12はそれぞれ独立に、水素原子、C
1−C
8アルキル基またはC
2−C
8アルケニル基を表し、あるいはR
10およびR
11は中央の芳香環と共にナフチル基を形成し、あるいはR
11およびR
12は中央の芳香環と共にナフチル基を形成する。具体的なアルケニル芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、p−クロロスチレンなどのクロロスチレン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレンなどのメチルスチレン、および3−t−ブチルスチレンおよび4−t−ブチルスチレンなどのt−ブチルスチレンが挙げられる。一部の実施形態では、該アルケニル芳香族モノマーはスチレンである。
【0045】
該水素化ブロックコポリマーの調製に用いる共役ジエンはC
4−C
20共役ジエンであり得る。好適な共役ジエンとしては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。一部の実施形態では、該共役ジエンは、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンあるいはこれらの組み合わせである。一部の実施形態では、該共役ジエンは1,3−ブタジエンから構成される。
【0046】
該水素化ブロックコポリマーは、(A)アルケニル芳香族化合物から誘導された少なくとも1つのブロックと、(B)共役ジエンから誘導された少なくとも1つのブロックと、を含み、ブロック(B)中の脂肪族不飽和基含量が水素化によって少なくとも部分的に低減されていることを特徴とするコポリマーである。一部の実施形態では、(B)ブロック中の脂肪族不飽和は少なくとも50%、具体的には少なくとも70%低減されている。ブロック(A)と(B)の配置としては、リニア構造、グラフト構造、および分枝鎖の有無に拘わらないラジアルテレブロック構造がある。リニアブロックコポリマーには、傾斜型リニア構造および非傾斜型リニア構造がある。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは傾斜型リニア構造を有する。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは非傾斜型リニア構造を有する。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、アルケニル芳香族モノマーがランダムに取り込まれた(B)ブロックを含む。リニアブロックコポリマー構造には、ジブロック(A−Bブロック)構造、トリブロック(A−B−AブロックまたはB−A−Bブロック)構造、テトラブロック(A−B−A−Bブロック)構造、ペンタブロック(A−B−A−B−AブロックあるいはB−A−B−A−Bブロック)構造、および(A)および(B)を合計で6個以上含むリニア構造などがあり、ここで、各(A)ブロックの分子量は、他のAブロックのそれと同じであっても異なっていてもよく、各(B)ブロックの分子量は、他のBブロックのそれと同じであっても異なっていてもよい。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、ジブロックコポリマー、トリブロックコポリマーまたはこれらの組み合わせである。
【0047】
一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、該アルケニル芳香族化合物と共役ジエン以外のモノマーの残基を含まない。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、該アルケニル芳香族化合物と共役ジエンから誘導されたブロックから構成される。該ブロックコポリマーは、これらで形成されたグラフト、あるいは他の任意のモノマーで形成されたグラフトを含まない。また、該ブロックコポリマーは炭素原子と水素原子から構成され、従って、ヘテロ原子を含まない。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、無水マレイン酸などの1つまたは複数の酸官能化剤の残基を含む。一部の実施形態では、該水素化ブロックコポリマーは、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマーを含む。
【0048】
水素化ブロックコポリマーの調製方法は当分野で既知であり、また、多くの水素化ブロックコポリマーが市販されている。市販の水素化ブロックコポリマーの例としては、Kraton Polymers社からKraton G1701およびG1702として販売されているポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)ジブロックコポリマー;Kraton Polymers社からKraton G1641、G1650、G1651、G1654、G1657、G1726、G4609、G4610、GRP−6598、RP−6924、MD−6932M、MD−6933およびMD−6939として販売されているポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;Kraton Polymers社からKraton RP−6935およびRP−6936として販売されているポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン−スチレン)−ポリスチレ(S−EB/S−S)トリブロックコポリマー;Kraton Polymers社からKraton G1730として販売されているポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;Kraton Polymers社からKraton G1901、G−1924およびMD−6684として販売されている無水マレイン酸−グラフト化ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;Kraton Polymers社からKraton MD−6670として販売されている無水マレイン酸−グラフト化ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン−スチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;旭化成ケミカルズ(株)からTUFTEC H1043として販売されている、ポリスチレン含量が67質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;旭化成ケミカルズ(株)からTUFTEC H1051として販売されている、ポリスチレン含量が42質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;旭化成ケミカルズ(株)からTUFTEC P1000およびP2000として販売されているポリスチレン−ポリ(ブタジエン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;Chevron Phillips Chemical社からK−Resin KK38、KR01、KR03およびKR05として販売されている水素化ラジアルブロックコポリマー;(株)クラレからSEPTON S8104として販売されている、ポリスチレン含量が60質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;(株)クラレからSEPTON S4044、S4055、S4077およびS4099として販売されているポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレントリブロックコポリマー;および(株)クラレからSEPTON S2104として販売されている、ポリスチレン含量が65質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロックコポリマーなどが挙げられる。2つ以上の水素化ブロックコポリマーの混合物も使用できる。
【0049】
水素化ブロックコポリマーが該ポリ(アリーレンエーテル)組成物中に存在する場合、その量は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して約1〜約4質量%であり、具体的には約1.5〜約3質量%である。
【0050】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、アリールホスファイトをさらに含む。該アリールホスファイトは一般に、リン系リン原子に共有結合したアリールオキシ基を少なくとも1つ含むホスファイトである。一部の実施形態では、該アリールホスファイトはP(OR
1)
3の構造を有する:
式中、R
1は、少なくとも1つが未置換または置換C
6−C
24アリールであることを条件として、それぞれ独立にC
1−C
24ヒドロカルビルである。一部の実施形態では、R
1はそれぞれ独立に、未置換または置換C
6−C
24アリールである。一部の実施形態では、該アリールホスファイトは、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(CAS登録番号第31570−04−4号)を含む。アリールホスファイトが該ポリ(アリーレンエーテル)組成物中に存在する場合、その量は、ポリ(アリーレンエーテル)組成物の合計質量に対して約0.1〜約1質量%であり、具体的には約0.3〜約0.5質量%である。
【0051】
該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は選択的に、熱可塑性プラスチック分野で既知の種々の添加剤をさらに含み得る。例えば、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は選択的に、安定剤、酸化防止剤、離型剤、加工助剤、防滴剤、成核剤、UVカット剤、香料、帯電防止剤、鉱油、金属不活性化剤、ブロッキング防止剤など、およびこれらの組み合わせから選択された添加剤をさらに含み得る。
【0052】
必要なものあるいは選択的なものとして本明細書で教示されない成分は、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物から除外され得る。
【0053】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、該ポリ(アリーレンエーテル)、ゴム変性ポリスチレン、選択的な水素化ブロックコポリマー、選択的なポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンおよび選択的なエチレンホモポリマー以外のいかなるポリマーも含まない。この文脈において、「含まない」とは、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物が、明記されたポリマーを1質量%以下、具体的には0.1質量%以下含むことを意味し、より具体的には全く含まないことを意味する。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ(アルケニル芳香族)ホモポリマー、ポリ(フェニレンスルフィド)および、アルケニル芳香族と共役ジエンとの未水素化ブロックコポリマーの1つまたは複数を含まない。
【0054】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、α‐オレフィン/ヒンダードビニリデンモノマーインターポリマーを含まない。この文脈において、「含まない」とは、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物が、α‐オレフィン/ヒンダードビニリデンモノマーインターポリマーを1質量%以下、具体的には0.1質量%以下含むことを意味し、より具体的には全く含まないことを意味する。「α‐オレフィン/ヒンダードビニリデンモノマーインターポリマー」は、(1)ビニリデン芳香族モノマーあるいは、ビニリデン芳香族モノマーとヒンダード脂肪族ビニリデンモノマーとの組み合わせと、(2)C
2−C
20脂肪族α‐オレフィンと、のコポリマーである。これらのコポリマーは、Cheungらの米国特許第6,201,067号にさらに記載および例示されている。
【0055】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は芳香族アミンを含まない。この文脈において、「含まない」とは、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物が、芳香族アミンを0.1質量%未満含むことを意味し、より具体的には全く含まないことを意味する。本明細書での「芳香族アミン」は、少なくとも1つの未置換または置換フェニル基がアミン窒素原子に直接結合している化合物を指す。芳香族アミンの例は、Venderboschの米国特許第6,350,514B1号に見られる。
【0056】
一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は充填剤を含まない。この文脈において、「含まない」とは、該ポリ(アリーレンエーテル)組成物が、充填剤を5質量%以下、具体的には3質量%以下、より具体的には1質量%以下、さらにより具体的には0.5質量%以下含むことを意味し、さらにより具体的には全く含まないことを意味する。充填剤の除外が、組成物を着色するための二酸化チタンなどの少量の無機顔料を除外しないことは理解されるであろう。
【0057】
本方法の非常に特定的な実施形態では、該第1の着色剤は約0.25〜約0.94質量%の白色顔料を含み、第2の着色剤は約0.04〜約0.1質量%のカーボンブラックを含み;該ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、0.2質量%以下のポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含み;該ポリ(アリーレンエーテル)組成物はさらに、約1〜約5質量%の炭化水素樹脂と、約0.025〜約0.4質量%のポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンと、約0.5〜約4質量%のエチレンホモポリマーと、約1〜約4質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロックコポリマーと、を含み;該射出成形は、バレル温度が約270〜約310℃、型温度が約45〜約70℃の射出成形機を使用するステップを備え;該射出成形品は、鉛酸蓄電池用のケースである。一部の実施形態では、該射出成形品表面のCIE1976L
*a
*b
*パラメータは、ASTM D2244−09bに準拠して測定して、L
*が約25〜約45であり、a
*が−10〜約10であり、bが−10〜約10である。
【0058】
本発明は該射出成形品そのものに及ぶ。従って、一実施形態は、上記方法の任意の変形によって形成された射出成形品である。
【0059】
本発明は少なくとも以下の実施形態を含む。
【0060】
実施形態1:ポリ(アリーレンエーテル)組成物を射出成形して射出成形品を形成するステップを備えた、射出成形品における美的欠陥の低減方法であって、前記射出成形品の一部は、少なくとも10cmの第1の寸法と、少なくとも10cmの第2の寸法と、1cm以下の第3の寸法と、を有し、前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、その合計質量に対して、温度25℃のクロロホルム中で測定した固有粘度が約0.3〜約0.55dL/gの、約50〜約70質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、ポリスチレンとポリブタジエンとを含む、約12〜約30質量%のゴム変性ポリスチレンと、約5〜約25質量%の有機リン酸エステル難燃剤と、合計量が約0.3〜約1質量%の第1の着色剤および第2の着色剤と、を含むことを特徴とする方法。
【0061】
実施形態2:前記第1の着色剤は白色顔料を含み、第2の着色剤は黒色顔料を含むことを特徴とする実施形態1に記載の方法。
【0062】
実施形態3:前記第1の着色剤は約0.25〜約1.0質量%の白色顔料を含み、第2の着色剤は約0.04〜約0.1質量%のカーボンブラックを含むことを特徴とする実施形態1または実施形態2に記載の方法。
【0063】
実施形態4:前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、0.2質量%以下のポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態3のいずれかに記載の方法。
【0064】
実施形態5:前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、約1〜約5質量%の炭化水素樹脂をさらに含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態4のいずれかに記載の方法。
【0065】
実施形態6:前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、約0.025〜約0.4質量%のポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンをさらに含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態5のいずれかに記載の方法。
【0066】
実施形態7:前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、約0.5〜約4質量%のエチレンホモポリマーをさらに含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態6のいずれかに記載の方法。
【0067】
実施形態8:前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、約1〜約4質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロックコポリマーをさらに含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態7のいずれかに記載の方法。
【0068】
実施形態9:前記射出成形は、バレル温度が約270〜約310℃、型温度が約45〜約70℃の射出成形機を使用するステップを備えることを特徴とする実施形態1乃至実施形態8のいずれかに記載の方法。
【0069】
実施形態10:前記射出成形品は、鉛酸蓄電池用のケースであることを特徴とする実施形態1乃至実施形態9のいずれかに記載の方法。
【0070】
実施形態11:前記射出成形品表面のCIE1976L
*a
*b
*パラメータは、ASTM D2244−09bに準拠して測定して、L
*が約25〜約45であり、a
*が−10〜約10であり、b
*が−10〜約10であることを特徴とする実施形態1乃至実施形態10のいずれかに記載の方法。
【0071】
実施形態12:前記第1の着色剤は約0.25〜約1.0質量%の白色顔料を含み、第2の着色剤は約0.04〜約0.1質量%のカーボンブラックを含み;前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物は、0.2質量%以下のポリ(エチレン酸化物)−ポリ(プロピレン酸化物)ブロックコポリマーを含み;前記ポリ(アリーレンエーテル)組成物はさらに、約1〜約5質量%の炭化水素樹脂と、約0.025〜約0.4質量%のポリ(スチレン−アクリロニトリル)−カプセル化ポリテトラフルオロエチレンと、約0.5〜約4質量%のエチレンホモポリマーと、約1〜約4質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロックコポリマーと、を含み;前記射出成形は、バレル温度が約270〜約310℃、型温度が約45〜約70℃の射出成形機を使用するステップを備え;前記射出成形品は、鉛酸蓄電池用のケースであることを特徴とする実施形態1に記載の方法。前記射出成形品表面のCIE1976L
*a
*b
*パラメータは、ASTM D2244−09bに準拠して測定して、選択的に、L
*が約25〜約45であり、a
*が−10〜約10であり、b
*が−10〜約10であり得る。
【0072】
実施形態13:実施形態1乃至実施形態12のいずれかに記載の方法で形成されたことを特徴とする射出成形品。
【0073】
実施形態14:鉛酸蓄電池用のケースであることを特徴とする実施形態13に記載の射出成形品。
【0074】
以下の非限定的実施例によって本発明をさらに例証する。
実施例1および
参考例2、比較実施例1〜8
【0075】
表1に記載の成分を用いて熱可塑性組成物を調製した。
【0076】
【表1-1】
【0077】
【表1-2】
【0078】
組成物を表2に示す。成分量の単位は質量部である。11個のバレルを備え、スクリュー長と径の比(L/D)が約38:1の、Werner & Pfleiderer53mm共回転二軸スクリュー押出機での溶融混練により、組成物を調製した。該押出機を、スクリュー回転速度300rpm、処理量約250ポンド/h(113kg/h)で作動させた。バレル温度を、供給口からダイまで、350°F−500°F−500°F−550°F(177℃−260℃−260℃−288℃)に設定した。レゾルシノールビス(ジフェニールホスフェート)を除く成分はすべて押出機供給口で添加し、レゾルシノールビス(ジフェニールホスフェート)は、バレル3と4間で押出機に直接ポンプ送液した。押出したストランドを水浴中で冷却し、ペレタイザーで裁断した。
【0079】
各組成物を用いて、頂部開放の長方形ボックス状の小型部品を射出成形した。該小型部品の底面の概略寸法は、52cm×12.4cm×4.5mmであり、大きな2側面のそれは、52cm×20.6cm×5.3mmであり、小さな2側面のそれは、20.6cm×12.4cm×4.8mmであった。500トンToyoプレスを用いて射出成形した。フラットバレル温度プロファイルを約277〜299℃、金型温度を約49〜約66℃とした。成形したバッテリケースを目視検査して、射出成形ゲートに対応する位置での可視環を確認した。
【0080】
また、比較実施例1、比較実施例5および実施例1の組成物を用いて、頂部開放の長方形ボックス状の大型部品を射出成形した。該大型部品の底面の概略寸法は、52cm×12.4cm×4.2mmであり、大きな2側面のそれは、52cm×30cm×6.1mmであり、小さな2側面のそれは、12.4cm×30cm×5.3mmであった。射出成形機およびその条件は小型部品の場合と同じとし、成形した大型部品を同様に目視検査した。
【0081】
ASTM D790−10に準拠し温度23℃で、曲げ弾性率(単位:MPa)と曲げ強度(単位:MPa)を測定した。ASTM D648−07方法Bに準拠し荷重0.45MPaで、熱変形温度(単位:℃)を測定した。ASTM D256−10に準拠し温度23℃で、ノッチ付アイゾッド衝撃強度(単位:J/m)を測定した。ASTM D3763−10e1に準拠し温度23℃で、最大荷重時のダイナタップエネルギー(単位:J)、破断時のダイナタップエネルギー(単位:J)およびダイナタップ全エネルギー(単位:J)を測定し、最大荷重時のダイナタップエネルギーに関連する最大荷重(単位:kN)についても報告する。ASTM D1238−10に準拠し、温度280℃、荷重5kgで、メルトマスフローレート(単位:g/10min)を測定した。ASTM D638−10に準拠し温度23℃で、引張弾性率(単位:MPa)、引張降伏点応力(単位:MPa)、引張降伏点伸び率(単位:%)および引張破断伸び率(単位:%)を測定した。
【0082】
結果を表2に示す。比較実施例1の組成物は、良好な物性と難燃性とを示すが、小型および大型部品の両方において、黒い環が見られた点で黒い環問題を示す。比較実施例2では、着色剤をすべて削除しているため、グレー色の物品成形用の実用的な処方ではない。しかしながら、成形ゲート周囲には変色は見られなかった。比較実施例3では、硫化亜鉛、酸化亜鉛、炭化水素樹脂および離型剤を削除し、標準ポリスチレンの代わりに高流動性ゴム変性ポリスチレンを使用し、また、着色剤の濃度を低減している。小型部品成形時に黒い環は見られなかったが、延性が低下する。比較実施例4は、約2質量%の水素化ブロックコポリマーをさらに含む点を除いて、比較実施例3と同様なものである。再掲になるが、小型部品では黒い環は見られなかった。しかしながら、比較実施例3〜6における同様の着色剤配合から、比較実施例3および4では、比較実施例5および6のように、大型部品で黒い環が発生すると考えられる。比較実施例5では、標準ゴム変性ポリスチレンに戻している。小型部品では黒い環が見られなかったが、大型部品では観察された。比較実施例6では、約0.4質量%の離型剤を添加している。小型部品で黒い環が見られた。比較実施例7では、白色顔料として、二酸化チタンではなく硫化亜鉛を使用している。小型部品および大型部品の両方で黒い環が見られた。比較実施例8では、カーボンブラックの代わりに黒色酸化鉄を使用している。小型部品および大型部品の両方で黒い環が見られた。
【0083】
実施例1の組成物では、着色剤濃度を低減しており、著しく低濃度のニ酸化チタンとカーボンブラックが含まれている。実施例1の組成物で成形されたバッテリケースは、小型および大型部品の両方において黒い環は見られず、所望のグレー色を呈している。また、実施例1の組成物は、剛性、耐熱性および延性を含む物性の望ましいバランスも示す。
【0084】
【表2-1】
【0085】
【表2-2】
【0086】
【表2-3】
【0087】
【表2-4】
【0088】
【表2-5】
【0089】
【表2-6】
【0090】
本明細書では実施例を用いて最良の実施形態を含めて本発明を開示しており、当業者によって本発明をなし使用することを可能にしている。本発明の特許範囲は請求項によって定義され、当業者がもたらすその他の実施例も包含し得る。こうしたその他の実施例は、請求項の文字どおりの解釈と違わない構成要素を有する場合、あるいは請求項の文字どおりの解釈とごくわずかな違いしかない等価な構成要素を含む場合には、請求項の範囲内であると意図される。
【0091】
引用された特許、特許出願および他の参考文献はすべて、参照により本明細書に援用される。しかしながら、本出願中の用語が援用された参考文献の用語と矛盾するか対立する場合、本出願の用語が援用された参考文献の矛盾する用語に優先する。
【0092】
本明細書で開示された範囲はすべて、終点を含むものであり、該終点は互いに独立に組み合わせできる。本明細書で開示した範囲はそれぞれ、この開示範囲内の任意の点またはサブ範囲の開示を構成する。
【0093】
本発明の記述文脈(特に以下の請求項の文脈)における単数表現は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数および複数を含むものと解釈される。また、本明細書で用いられる、「第1の」「第2の」などの用語は、いかなる順序や量あるいは重要度を表すものではなく、ある成分と他の成分とを区別するために用いられるものである。量に関連して用いた「約」は、記載された数値を含むものであり、文脈上決定される意味(例えば、特定の量の測定に関連した誤差の程度を含む)を有するものである。