【実施例1】
【0014】
本発明のトロリー式トラックのパンタグラフ装置の実施例1を
図1〜
図11を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例1に適用されるトロリー式トラックの全体構成概略図である。
この実施例では、大規模鉱山での鉱石運搬などに使用されるトロリー式ダンプトラックを例に挙げ説明する。
【0015】
図1において、1は鉱山の走路上に張られた架線(トロリー線)、2はトロリー式のダンプトラックで、このダンプトラック2は前記架線1から得た電力で走行するトロリーモードと、エンジンで発電機を駆動して得られる電力で走行する非トロリーモードの何れでも走行可能な電気駆動式のダンプトラックである。本実施例では、トロリーモードと非トロリーモードを常に使い分けて走行する構成としており、特に登坂時には、前記架線1から得た電力を使用するトロリーモードで走行することにより、登坂速度を向上できるようにしている。なお、ダンプトラックが急坂等の大きな動力を必要とする環境下で使用される場合には、架線1から得た電力とエンジンで得られる電力を同時に使用して走行させるように構成することも可能である。
【0016】
また、前記エンジン(通常はディーゼルエンジン)で発電機を駆動して走行する場合には、発電機で得られた電気をインバータ等の制御機器で制御した後、交流(AC)モータ(誘導モータ)を駆動し走行するというAC駆動方式を採用している。
なお、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)インバータとグリッド抵抗を採用することにより、より強力な電気ブレーキ力を発揮させることも可能になる。
【0017】
前記ダンプトラック2の上部には昇降するパンタグラフを備えるパンタグラフ装置4が搭載されている。即ち、前記ダンプトラック2の前部にパンタグラフ搭載用の架台3が設置され、この架台3の上部(運転室2aの前方上部)には前記架線1から集電するためのパンタグラフ装置4が設置されている。5は前記パンタグラフ装置4上部の集電舟で、前記架線1と接して摺動し、架線1から電気を集電するものである。
【0018】
図2〜
図5は前記パンタグラフ装置4の全体構造を示す斜視図で、
図2は左側前方から見た全体斜視図、
図3は
図2に示すパンタグラフ装置を反対側から見た全体斜視図、
図4は右側前方から見た全体斜視図、
図5は
図4に示すパンタグラフ装置を反対側から見た全体斜視図である。これらの図を用いて本実施例におけるパンタグラフ装置の全体構成を説明する。
【0019】
上記
図2〜
図5において、6は
図1に示したパンタグラフ搭載用架台3の上部に取り付けられるパンタグラフ装置4の台枠である。この台枠6の上部には揺動支持軸7(
図3、
図4参照)を介してパンタグラフ装置4の下枠8の基端部8a(
図3参照)が揺動自在に取り付けられている。従って、この下枠8は前記揺動支持軸7を中心として起伏する。この下枠8の先端部(上端部)8bには連結軸9が前記揺動支持軸7と平行に設けられ、この連結軸9には上枠10の基端部10aが揺動自在に連結されている。前記上枠10の先端部(上端部)10bには、前記集電舟5が舟支え5a、舟支え棒5b(
図5参照)及び連結軸5c(
図4参照)などを介して揺動自在に支持されている。
【0020】
前記下枠8と平行リンク機構を構成するように下釣合棒(平行リンク)11(
図2,
図5参照)が、また前記上枠10と平行リンク機構を構成するように上釣合棒(平行リンク)12(
図3,
図5参照)が設けられている。
前記下釣合棒11はその基端部11aが前記台枠6に回動自在に取り付けられている。
また、前記下枠8の先端部8bに設けられた前記連結軸9には平行リンク受け13が回動自在に取り付けられており、前記下釣合棒11の先端部11bは前記平行リンク受け13に回動自在に連結されている。従って、前記下枠8、下釣合棒11、台枠6及び平行リンク受け13により平行リンク機構が構成され、前記平行リンク受け13は前記下枠8が起伏動作しても常に同じ姿勢(同様の姿勢)に保持される。
【0021】
また、
図3,
図5に示すように、前記上釣合棒12は、その基端部12aが前記平行リンク受け13に回動自在に連結され、またその先端部12bは前記集電舟5の舟支え棒5bに設けたブラケット5dに回動自在に連結されている。従って、前記上枠10、上釣合棒12、平行リンク受け13及び前記集電舟5(特に、ブラケット5d、舟支え棒5b、連結軸5c)により平行リンク機構が構成され、前記集電舟5は前記下枠8及び上枠10が起伏動作しても常に同じ姿勢(例えば水平位置)に保持される。これにより、前記集電舟5は、パンタグラフ装置4が上昇動作をしても、下降動作をしても常に同じ姿勢(例えば水平位置)に保持されるから、集電舟5の舟5e上面に設けた摺り板5fを均一に前記架線1に接触させることが可能となる。
【0022】
14は、
図5に示すように、その基端側が前記台枠6のブラケット6aに取り付けられ、その先端側が前記下枠8に設けられたブラケット8cに連結されている油圧シリンダ(アクチュエータ)で、この油圧シリンダ14を伸ばすと、前記下枠8が起立し(立ち上がり)、前記油圧シリンダ14を縮めると前記下枠8は下方に倒れるように構成されている。
【0023】
15は、前記上枠10を立ち上げるためのばねで、このばね15の一端側(下端側)は前記台枠6に設けたブラケット6bに結合され、その他端側(上端側)は、前記上枠10と一体に構成され且つ前記連結軸9を挟んで反対側に延びるように設けた腕部10cに、ばね受け棒10d及びばね受けブラケット10eを介して結合されている。この例では、前記ブラケット6bは前記揺動支持軸7の位置よりも前記下枠8が倒れる側に設置されており、前記下枠8を前記油圧シリンダ14により起立させることにより、前記ばね15を介して連結されている前記ブラケット6bと10e間の距離が大きくなるように構成している。これにより、前記下枠8を起立させて前記ばね15に発生する張力を増大させることができる。
【0024】
従って、前記油圧シリンダ14を伸ばして前記下枠8を上方に立ち上げるにことで前記ばね15が伸ばされ、その張力が大きくなることにより、前記腕部10cを下方に引っ張り、前記連結軸9を支点として前記上枠10を上方に立ち上げることができる。即ち、前記下枠8を所定位置まで起立させることにより、前記上枠10に作用する重力による前記連結軸9まわりの回転モーメント(
図2の右まわりの回転モーメント)よりも、前記ばね15の張力による前記連結軸9まわりの回転モーメント(
図2の左まわりの回転モーメント)が大きくなるように構成しておけば、前記下枠8の起立に連動して前記上枠10を自動的に上方に持ち上げることができる。
【0025】
逆に、前記油圧シリンダ14を縮め、前記下枠8を下方に倒していくと、前記ばね15も縮んでその張力が小さくなる。そして、前記上枠10に作用する重力による前記連結軸9まわりの回転モーメントよりも、前記ばね15の張力による前記連結軸9まわりの回転モーメントが小さくなれば、前記上枠10は下方に倒れる。但し、本実施例では、前記平行リンク受け13に上枠受け部(ストッパ)13aを設けており、上枠10が略水平位置よりも下向きになるのを前記上枠受け部13aで防止するように構成している。
【0026】
なお、
図4などに示す10fは、前記腕部10cに一体に取り付けられたダンパ用のブラケットで、このブラケット10fのダンパ係止部10gには、図示していないが、基端側が前記台枠6に固定されたダンパ装置の先端側が取り付けられる。このダンパ装置は上枠10が振動するのを抑制するものである。
また、上記
図2〜
図5において、16は前記パンタグラフ装置4が畳まれて使用されない状況となった場合に、前記パンタグラフ装置4の集電舟5を前記台枠6に固定するためのかぎ装置である。
【0027】
次に、
図6及び
図7に示す正面図により、本実施例のパンタグラフ装置4の動作を説明する。
図6は下枠8のみ起立している状態を示し、
図7は
図6の状態から上枠10も起立した(立ち上げた)状態を示す図である。これらの図において、上記
図1〜
図5と同一符号を付した部分は同一または相当する部分である。
【0028】
図6は、前記油圧シリンダ14を伸ばすことにより、下枠8のみが立ち上がっている状態を示している。この
図6のように、前記油圧シリンダ14により前記下枠8を立ち上げると、これに伴って前記ばね15は伸び、その張力を増加させることができる。前記油圧シリンダ14を伸ばしていくことにより、前記下枠8を徐々に立ち上げ、前記ばね15の張力による回転モーメントが、前記上枠10に作用する重力による回転モーメントに勝ると、
図7に示すように、前記上枠10は前記ばね15により、前記連結軸9を支点として上方に立ち上がる。
【0029】
前記上枠10の立ち上がり動作に連動して、前記ばね15は縮んでいくので、ばねの張力は減少し、ばね15の張力による回転モーメントが、前記上枠10に作用する重力による回転モーメントとバランスすると上枠10の上昇は停止する。
【0030】
但し、本実施例では、前記連結軸9周辺の部分斜視図である
図10及び
図11に示すように、前記下枠8の先端部にはゴム製のストッパ18が設けられており、前記上枠10の上昇が停止するよりも低い位置で、前記上枠10は前記下枠8に設けられた前記ストッパに当たってその上昇が停止するように構成されている。
【0031】
この状態が突き放し高さとなり、
図7に示す状態は、前記集電舟5が前記突き放し高さになっている状態を示している。前記突き放し高さは、パンタグラフ装置4の集電舟5が前記架線1に接触して変動する範囲である作用範囲よりも高い位置になるように構成されており、前記作用範囲における最高作用高さとなった状態でも適切な所定の押付力で集電舟5を前記架線1に押し付けることができるように構成されている。
【0032】
図7に示す状態から、前記油圧シリンダ14を縮めて前記下枠8を倒していくと、前記ばね15は縮んでいき、ばね15の張力による回転モーメントが前記上枠10に作用する重力による回転モーメントよりも小さくなる。この状態になると、前記上枠10は下降し、水平位置よりも下向きに回転しようとする。しかし、本実施例では、前述したように、前記上枠10は、前記平行リンク受け13の上枠受け部13aで受け止められるので、略水平状態を保たれる。この上枠10は、略水平を保たれた状態のまま、前記下枠8の下降動作に連動して下方に移動し、パンタグラフ装置4は畳まれた状態となる。
【0033】
なお、上記
図6及び
図7においては、上釣合棒12は一点鎖線で表示されている。また、これらの図において、17は前記パンタグラフ装置4が畳まれた状態となったときに、前記集電舟5を支える舟受けで、この舟受け17は、前記台枠6にかぎ装置16を挟んで前後(集電舟5の長手方向)に2箇所設けられ、集電舟5下面の両側を支えることができるようになっている。
【0034】
更に、前記上枠10の先端側に設けたブラケット10hにはパンタグラフ固定用パイプ10iが設けられており、このパンタグラフ固定用パイプ10iは、パンタグラフ装置4が畳まれたときに、前記台枠6に設けた前記かぎ装置16の受け部16aで受け止められ、前記かぎ装置16の油圧シリンダ16bにより回動されるかぎ部16cにより強固に固定されるように構成されている。これにより、トラック2が非トロリーモードで荒れた路面を走行するような場合であっても、パンタグラフ装置4が、激しく振動したり大きく揺れて、破損したり変形するのを防止するようにしている。
【0035】
図8は上記
図2〜
図7で説明したパンタグラフ装置4が畳まれた状態を示す正面図である。この
図8において、上記
図1〜
図7と同一符号を付した部分は同一部分を示しているので、その詳細な説明は省略する。
なお、前記パンタグラフ装置4が畳まれた状態では、前述したように、台枠6に設置されている前記舟受け17の上面に、前記集電舟5の舟5eの下面が載置されるように構成されている。
【0036】
以上説明した本実施例の構成とすることにより、
図1に示すように、パンタグラフ装置4の集電舟5が架線1に接してトロリーモードで走行可能な状態では、
図2〜
図7に示すばね15の付勢力により、前記上枠10を介して前記集電舟5は架線1に押圧され、架線1とダンプトラック2との間の間隔の変化に応じて、パンタグラフ装置4の集電舟5を上下に昇降させることができる。
【0037】
図9は、上述した本実施例1におけるパンタグラフ装置4の昇降動作を説明する図である。
図9において、(a)図は、ばね15の機能を説明するために、平行リンク(下釣合棒11及び上釣合棒12)を省略して示す図、(b)図は前記平行リンク(下釣合棒11及び上釣合棒12)の機能を説明するために、油圧シリンダ14やばね15を省略して示す図である。また、
図9において、
図2〜
図8と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【0038】
これら(a)図及び(b)図において、一点鎖線で示す水平方向の線は、それぞれパンタグラフ装置4の最下面O(即ち、台枠6の下面部分で、
図1に示すパンタグラフ搭載用架台3の上面の高さに相当)、最低作用高さA、標準作用高さB、最高作用高さCである。前記最低作用高さAとは、トロリー式トラックがトロリーモードで走行中にパンタグラフ装置4の集電舟5が最も下降可能な位置に対するパンタグラフ装置4の最下面0からの高さ、前記最高作用高さCとは、トロリー式トラックがトロリーモードで走行中にパンタグラフ装置4の集電舟5が最も上昇する位置に対するパンタグラフ装置4最下面0からの高さ、前記標準作用高さBとは、トロリー式トラックがトロリーモードで走行時のパンタグラフ装置4の集電舟5の標準的な高さ位置に対するパンタグラフ装置4最下面0からの高さで、前記最低作用高さAと前記最高作用高さCのほぼ中間位置の高さである。
【0039】
トロリー式トラックがトロリーモードで走行する場合、パンタグラフ装置4の集電舟5の高さ位置は、前記標準作用高さBを中心にして、前記最低作用高さAと最高作用高さCとの間で上下動し、常時架線1に接触するように構成されている。この最低作用高さAと最高作用高さCとの間の範囲をパンタグラフ装置4の作用範囲と呼んでいる。
【0040】
また、(a)(b)の各図において、4Aはパンタグラフ装置4が畳まれた状態を、4Bはパンタグラフ装置4が立ち上げられた状態をそれぞれ示している。なお、(a)図に示した油圧シリンダ14の設置位置は上記
図2〜
図8に示したものとは異なる位置に表示しているが、油圧シリンダ14により下枠8が俯仰動される機能は同じである。
【0041】
まず、(a)図を用いて説明する。下枠8は揺動支持軸7を支点にして回動する。この揺動支持軸7はパンタグラフ装置4の最下面Oから寸法Dの高さの所に設けられている。
上枠10は前記下枠8の先端に設けられた連結軸9を支点にして回動され、この上枠10の先端側には集電舟5が設けられている。パンタグラフ装置4が4Aで示す畳まれた状態から、油圧シリンダ14により、下枠8を4Bで示す状態に立ち上げていくと、これに伴いばね15も寝た状態から立ち上がりながら引っ張られて、その張力を増加させる。そして、前記ばね15の張力による回転モーメントが、前記上枠10に作用する重力による回転モーメントに勝ると、前記上枠10は前記ばね15により、前記連結軸9を支点として上方に立ち上がり、集電舟5は上昇して架線1(
図1参照)に接触する。前記集電舟5が架線1に接触すると、集電舟5はそれより上昇できないので、前記ばね15により前記集電舟5は架線1に押し付けられた状態で保持される。
【0042】
なお、上枠10を10Bで示している実線の位置は、集電舟5が標準作用高さBで架線1に接触している状態を示し、また、二点鎖線で示す10Aの位置は、集電舟5が最低作用高さAで架線1に接触している状態を、二点鎖線で示す10Cの位置は、集電舟5が最高作用高さCで架線1に接触している状態を示している。即ち、前記集電舟5は、前記ばね15の付勢力により前記架線1に接して押圧されながら、架線1とダンプトラック2との間の間隔の変化に応じて、上下に昇降することができるように構成されている。
【0043】
このように、本実施例によれば、パンタグラフ装置4を、前記油圧シリンダ14により、下枠8を4Aの畳んだ状態から4Bの状態まで立ち上げることで、ばね15の張力を増加させ、これに伴って自動的に上枠10を立ち上げ、集電舟5が架線1に接して押圧される位置まで上昇させることができる。この結果、トロリー式トラックをトロリーモードで走行させることが可能となる。
【0044】
次に、パンタグラフ装置4の下降動作について説明する。集電舟5をばね15の張力で常に架線1に押圧して接触を維持し、トロリーモードで走行可能な状態(4Bに示す状態)から、4Aに示すように、前記パンタグラフ装置4を畳んで非トロリーモードに移る場合には、まず前記油圧シリンダ14により前記下枠8を倒していく。これに伴い、前記ばね15も縮んでいき、このばね15の張力による回転モーメントが、前記上枠10に作用する重力による回転モーメントよりも小さくなると、前記上枠10は連結軸9を支点にして二点鎖線で示す10Aの位置以下まで下降し、その後前記油圧シリンダ14により前記下枠8を更に下降させていくと、4Aで示すようにパンタグラフ装置4が畳まれた状態となる。
【0045】
次に、(b)図を用いて平行リンク(下釣合棒11及び上釣合棒12)の機能を説明する。この(b)図において、11は下釣合棒、12は上釣合棒、13は平行リンク受け、13aは平行リンク受け13の上枠受け部である。他は(a)図で説明したものと同一である。
【0046】
4Aで示すパンタグラフ装置4が畳まれた状態では、下釣合棒11により、平行リンク受け13の上枠受け部13aが略水平になるように構成されており、上枠10はこの上枠受け部13aに支えられて略水平位置に保持されている。また、集電舟5も前記平行リンク受け13及びこれに接続された上釣合棒12により、図に示すように略水平位置に保持されている。
【0047】
前記下枠8が前記油圧シリンダ14により立ち上げられると、前記ばね15の張力により、前記集電舟5が前記架線1に接するように上枠10も立ち上げられるが、前記下釣合棒11により、平行リンク受け13の上枠受け部13aは略水平に保持されたままとなり、また集電舟5も前記平行リンク受け13及びこれに接続された上釣合棒12により、図に示すように略水平位置に保持されたままとなっている。更に、前記架線1の位置とダンプトラック2との間隔が変動することにより、前記上枠10が前記10Aの位置から前記10Cの位置までの範囲でその立ち上り角度が変動しても、前記集電舟5は、前記平行リンク受け13及びこれに接続された上釣合棒12により、略水平位置に保持されたまま上下動する。
【0048】
次に、パンタグラフ装置4を、4Bに示す状態から4Aに示す状態に畳む場合、前記油圧シリンダ14により前記下枠8を倒していく。これに伴い、前記ばね15の張力が低下し、ばね15の張力による回転モーメントが、上枠10に作用する重力による回転モーメントよりも小さくなると、前記上枠10は連結軸9を支点にして二点鎖線で示す10Aの位置以下まで下降する。この上枠10は更に下方位置まで回動しようとするが、前記上枠受け部13aで受け止められて、略水平位置に保持され、その後前記油圧シリンダ14により更に前記下枠8を下降させることで、パンタグラフ装置4は4Aで示すように、畳まれた状態となる。
【0049】
以上説明したように、パンタグラフ装置4を
図9に示す畳んだ状態4Aから、油圧シリンダ14により下枠8を、
図9の4Bに示すように立ち上げていくことにより、ばね15が伸びてその張力が増加し、自動的に上枠10を
図7に示す突き放し高さ位置まで上昇させることが可能となる。従って、架線1に集電舟5を押圧させながら集電して走行させるトロリーモードでトロリー式トラックを走行させることができる。また、トロリー式トラックがトロリーモードで走行している時には、前記集電舟5は、前記架線1と前記トロリー式トラックとの間隔の変化、即ち前記架線1とパンタグラフ装置4の前記台枠6との距離の変化に応じて、前記ばね15の付勢力により、前記上枠10を前記台枠6に対して昇降させることができる。
【0050】
また、この昇降動作をしている場合でも、前述した平行リンク機構により、前記集電舟5の姿勢を一定として、この集電舟5の上面に配置した摺り板5fと前記架線1との摺動状態が適正に維持されるようにしている。
【0051】
パンタグラフ装置4を畳む場合には、前記油圧シリンダ14により前記下枠8を下降させていくことで、前記ばね5の張力が減少し、前記上枠10に作用する重力による回転モーメントで該上枠10を自動的に下降させ、パンタグラフ装置4を畳んだ状態にすることができる。
【0052】
このように、本実施例によれば、前記油圧シリンダ14を伸縮させて、前記下枠8を起立させたり、倒すことにより、前記ばね15の張力を変化させて、前記上枠10を自動的に立ち上げたり、倒すことが可能となる。これにより、前記集電舟5を架線1に接するように上昇させたり、或いはパンタグラフ装置4を畳んで前記集電舟5を下降させて収納することができる。
【0053】
以上述べた本実施例のトロリー式トラックのパンタグラフ装置による効果を以下説明する。
(1)ばね15には上枠10に作用する重量による回転モーメントが作用するだけであり、前記上枠10よりも2〜3倍も重量の大きな下枠8の重力による回転モーメントも合わせて支持する必要はなくなる。即ち、前記ばね15のばね力は、パンタグラフ装置4の上枠10に作用する重量による回転モーメントよりも大きな回転モーメントを発生させることができるものであれば良く、前記集電舟5が最低作用高さAとなる位置から少なくとも最高作用高さCの位置(好ましくは最高作用高さよりも高い突き放し高さの位置)まで上昇させることができれば良い。従って、前記ばね15のばね力は、前記下枠8も合せて支持する場合に比べ、例えば1/3から1/4以下の大きさで良くなる。
(2)ばね15のばね力を大幅に小さくでき、強力なばねを用いる必要がなくなるから、上枠10を介して集電舟5を適切な力で架線1に押し付けることができる。この結果、前記集電舟5の摺り板5fや前記架線1の摩耗量の低減を図ることが可能となるだけでなく、前記摺り板5fに過大な荷重が掛らなくなることにより、該摺り板5fに割れや欠けが発生することも減少させることができる。
(3)集電舟5を、架線1の比較的大きな高さ変化に対しても容易に追従させることが可能となる。即ち、本実施例では、トロリー式トラックをトロリーモードで走行させる場合、下枠8は油圧シリンダ14により所定位置まで立ち上げられた状態に保持され、上枠10及びこれに取り付けられた集電舟5のみが、前記架線1の位置とダンプトラック2との間隔の変動に応じて、前述した作用範囲内で上下動するだけである。従って、トロリーモードでの走行時においては、重量の大きな前記下枠8は架線位置との関係で上下動(俯仰動)することはないから、上下動する部分(上枠10と集電舟5)の重量を大幅(例えば1/3から1/4程度)に低減できる。この結果、前記上下動する部分が軽量化された分、集電舟5の架線1への追従性を向上できる。
(4)下枠8は油圧シリンダ14により所定位置まで立ち上げられるから、ばね15は、前記下枠8先端の連結軸9のある高い位置から上枠10を立ち上げ、前記作用範囲で架線1の位置に追従させることができれば良い。従って、上記特許文献2に記載のような、パンタグラフを、畳んだ状態から最高作用高さ以上の高さまで上昇させることを可能にするような長くて強力なばねは必要なくなり、大形のウインチも必要ない。また、上記特許文献1に記載のように、空気シリンダのみでパンタグラフを昇降させるものでもないから、大形の空気シリンダも不要となる。
(5)下枠8を油圧シリンダ14で所定位置まで立ち上げることで、ばね15の張力を増加させ、このばね力で上枠10を立ち上げる構成としているので、パンタグラフ装置4の駆動機構を簡素化することができる。この結果、部品点数を低減できると共に軽量化も図れ、更に可動部分の減少による摩耗部品の低減を図ることもできる。
【0054】
このように、本実施例によれば、長くて強力なばねを使用することなく、大きな可動範囲を得ることができると共に、適切な押付力で架線に接触させることができる。更に、架線の高さ変化に対して重量の大きな下枠を上下動させる必要がないから、押付力を大きくすることなく架線への追従性も大幅に向上できるトロリー式トラックのパンタグラフ装置を得ることができる。
【0055】
なお、上記実施例では、パンタグラフ装置の下枠を昇降させるアクチュエータとして油圧シリンダを用いた例で説明したが、前記アクチュエータは油圧シリンダに限られるものではなく、空気圧を利用した空気シリンダなどで構成することも可能である。