(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
1つのチャネル使用間隔(channel use interval)中に基地局アンテナ・アレイによって送信されるメッセージを運ぶ信号は、本明細書においては「シンボル」と呼ばれる。各基地局が送信のための複数のアンテナを有しており、通常、各シンボルが複数のOFDMサブキャリアまたは「トーン」に分散されるので、シンボルは、空間的および周波数的に分散される。
【0027】
用語「アンテナ」は、セルに関連する基地局アンテナを指す。各セルは、多くともM個のアンテナを有する。用語「端末」は、モバイルユーザ端末を指す。
【0028】
セルの総数はLである。各セルは、多くともK個の端末を含む。パイロット信号の総数はKである。パイロット信号は、1、...、Kを付番される。パイロット信号は、各セルにおいて、第fの端末がパイロット信号kを割り当てられるように端末に割り当てられると仮定される。
【0029】
アンテナmjは、セルjの第mのアンテナである。端末klは、セルlの第kの端末である。
【0030】
トーンnに関して、アンテナmjと端末klとの間のチャネル係数は、g
nmjklである。以降、トーンのインデックスnは、我々の表記から削除される。M×Kチャネル行列G
jlが、セルjの基地局とセルlの端末との間で
【数1】
によって定義される。
【0031】
チャネル係数gは、高速フェージング因子hと低速フェージング因子β
1/2とに分解され得る。
【数2】
【0032】
高速フェージングを表すh係数は、1/4波長ものわずかな動きによって変わり得る。一方、β係数によって表されるフェージングの挙動は、低速で変化している。β係数(すなわち、低速フェージング係数)は「シャドー」フェージング係数と呼ばれることが多いが、このフェージングは、概して、幾何学的減衰とシャドー・フェージングとの組み合わせである。通常、β係数は、周波数に対して一定であり、空間および時間に対して低速で変化している。対称的に、通常、高速フェージングは、空間および時間に対して急速に変わる。周波数で、高速フェージングは、チャネルの遅延拡散の逆数である周波数間隔にわたって変化する。以下の我々の数学的分析の一般性を損なうことなく、我々は、h係数が単位分散(unit variance)を有するという都合のよい仮定を行うことができる。(gの乗法的分解(multiplicative decomposition)が一意でないので、我々はそのようにする自由がある。)
【0033】
式(2)の低速フェージング係数は、セルjの基地局およびセルlのk番目の端末に関してインデックス付けされたことが分かる。式(2)の低速フェージング係数は、これらの係数が少なくともアンテナ・アレイの空間スケール(spatial scale)では空間的位置とほぼ独立していると考えられるので、セルjの基地局の個々のアンテナに関してインデックス付けされなかった。アンテナ・アレイが大きいためにこの仮定が正しくない可能性があるときに有用である1つの一般化する手法が、以下で検討される。
【0034】
図1は、それぞれの基地局20〜23を有するセル10〜13を含むセルラ・ネットワークの一部を示す。それぞれ30〜33、40〜43、50〜53、および60〜63とラベル付けされた複数のモバイル端末が、各セル内に示される。図を簡単にするために、基地局のそれぞれは、単一のアンテナだけを有するものとして扱われる。
【0035】
順方向リンクの送信で、基地局20は、例えば、経路70で端末30にメッセージを送信する。端末40、50、および60が端末30と同じパイロット信号を割り振られた場合、パイロット汚染が、送信されるメッセージに、それぞれ端末40、50、および60への経路71、72、および73上で干渉を起こさせる可能性がある。
【0036】
逆に、逆方向リンクの送信では、端末30が、経路70で基地局20にメッセージを送信する。(この例示の目的で、我々は、経路70〜73を双方向であるものとして扱っている。)パイロット汚染が、経路70で端末30から逆方向リンク・メッセージが送信されている状態で、経路71〜73上の逆方向リンク・メッセージに基地局20で干渉を起こさせる可能性がある。
【0037】
図2は、セル100および101を含むセルラ・ネットワークの一部を示す。高速フェージング係数および低速フェージング係数によって意味されることを示すために、我々は、図に、セル100の基地局アンテナ・アレイ110と、セル100のモバイル端末kと、セル101のモバイル端末k’とを含めた。図を簡単にするために、セルのすべてのその他の特徴は、省略された。図に示されたように、セル100は、この例示を目的としてセルjであり、セル101は、セルlである。アンテナ・アレイ110は、M個のアンテナを含み、それらのアンテナのうちアンテナ1およびアンテナMが明示された。アンテナ・アレイ110は便宜的にリニア・アレイとして描かれたが、アンテナの地理的分布がリニア形または任意のその他の特定の形状をとることは必須ではないことに留意されたい。同様に、リニア・アンテナ・アレイの縮尺は、単に便宜的にセルのサイズと同程度であるように描かれた。アンテナ・アレイの地理的スケール(geographical scale)に対する制限は、アンテナ間の電磁結合を最小化するためにアンテナを少なくとも半波長離間することが概して有利であるということを除いて存在しない。
【0038】
図に目を向けると、アンテナ1から端末kへ、アンテナ1から端末k’へ、アンテナMから端末kへ、およびアンテナMから端末k’への伝播経路が、それぞれ、高速フェージング係数h
1jkj、h
1jk’l、h
Mjkj、およびh
Mjk’lでラベル付けされたことが分かる。2つの低速フェージング係数も、図に示された。それらの低速フェージング係数は、アンテナ・アレイ110からセルjの端末kへの
【数3】
、およびアンテナ・アレイ110からセルlの端末k’への
【数4】
である。アンテナ110の中間のアンテナからそれぞれの端末へのその他の高速フェージング係数は、図中で単に破線で示される。
【0039】
我々は、以下の検討で、OFDM信号変調が順方向リンク信号と逆方向リンク信号のとの両方に対して使用されると仮定する。しかし、本発明はOFDMに限定されず、時間反転変調(time−reversal modulation)またはCDMA変調などのその他の変調技術を使用して実装され得ることを理解されたい。
【0040】
基地局毎のアンテナの数Mは、広い範囲の中の任意の値をとり得る。しかし、20個未満のアンテナは、以下で説明される信号加算平均の恩恵を実現するにはおそらく不十分である。一方、1000個を超えるアンテナは、性能を最適化するために有利ではあるが、空間およびコストの制限が原因でおそらく実際的でない。
【0041】
我々の新しい手法を説明する前に、我々は、Marzetta 2010に示されている順方向リンクの送信のための手法を簡潔に説明する。そこで説明されるように、順方向リンクの送信のために、各セルは、成分がそのセルによってサービスを提供されるそれぞれの端末に宛てたシンボルであるK×1ベクトルにM×Kプリコーディング行列を適用することによって得られるM×1ベクトルを送信する。プリコーディング行列は、基地局アンテナと所与のセルによってサービスを提供される端末との間のそのセル内の推定されたチャネル行列の共役行列である。したがって、第jの基地局は、
【数5】
を送信し、第1の項は、プリコーディング行列であり、第2の項は、送信されるべきシンボルのK×1ベクトルである。プリコーディング行列は、
【数6】
によって与えられるM×K行列であり、ここで、各成分
【数7】
は、上で与えられたg
nmjklの推定値の複素共役である。
【0042】
ベクトル
【数8】
は、
【数9】
によって与えられ、ここで、成分a
kjは、セルj内の第kの端末に宛てた第jの基地局からのシンボルである。
【0043】
チャネル行列を推定するプロセスは、その他のセルからのパイロットによって汚染される。つまり、所与のアンテナと端末kとの間のチャネル係数のそれぞれの測定値は、所与のアンテナとその他のセルの第kの端末との間のチャネル係数による加算的な寄与を含む。結果として、行列の推定値
【数10】
の成分は、パイロット汚染を含む。
【0044】
基地局のすべては、同期して送信する。したがって、各端末は、プリコーディング行列と物理的な伝播チャネルとの合成された効果を含む、基地局のすべてからの同期された送信の合計を受信する。
【0045】
つまり、
【数11】
がセルlのK個の端末によって受信された信号のK×1ベクトルであるものとし、それらの信号のそれぞれがL個すべての基地局にわたって合計される場合、我々は、
【数12】
を得る。
【0046】
先の式において、
【数13】
は、相関のない雑音のベクトルであり、ρ
fは、順方向の信号対雑音比(SNR)の測定値であり、上付き文字「T」は、共役をとらない行列の転置を指し、V
jは、成分がゼロ平均でランダムに分散され、互いに相関がなく、伝播行列と相関がないと考えられる受信機のM×K行列であり、ρ
pは、パイロット信号のSNRの測定値である。
【0047】
我々は、第kのユーザのチャネル・ベクトル(すなわち、行列G
jlの第k列)がほぼ直交する(quasi−orthogonal)と仮定する。言い換えると、我々は、wおよびyが異なる行列G
jlの第k列である場合、
【数14】
であると仮定する。我々は、そのような仮定が、概して、以下の考察から正当化されると考える。
【0048】
独立したレイリー・フェージングの仮定の下では、必然的に、準直交性(quasi−orthogonality)が付随する。しかし、見通し伝播条件の下でさえも、独立したレイリー・フェージングが仮定され得るとき、チャネル・ベクトルはほぼ直交するとやはり仮定され得る。つまり、端末がランダムに位置する場合、漸近的直交性のために必要なことは、十分に大きなMの値に対して、任意の2つの端末間の通常の角度的な間隔が、基地局アンテナのアレイの角度的なレイリーの解像限界を超えていなければならないことだけである。(ラジアンで表されるとき、角度的なレイリーの解像限界は、波長をアレイの直線的な広がり(linear extent)で割った値である)。
【0049】
当業者は、基地局アンテナおよび端末が有限個の固有モード(normal mode)を有する導波路として振る舞うトンネルもしくはその他のそのような領域内にある場合、またはすべての放射が少数の散乱体(scatterer)の集まりを通過しなければならないいわゆるキーホール現象(keyhole phenomenon)が存在する場合、漸近的直交性の仮定は保たれ得ないことを理解するであろう。
【0050】
漸近的直交性の仮定の下で、
【数15】
に関する先の式は、大きなMに対しては、大きなMの制約の中で、低速フェージング係数によるセル間結合が原因である残留干渉を除いてすべての干渉が消えるので、より単純な式になる。この結合は、各セル内の第kの端末に、その他のセルの第kの端末に宛てたシンボルからの干渉のみを被るようにさせる。
【0051】
結果として、第lのセル内の第kの端末は、信号
【数16】
を受信し、ここで、
【数17】
が
【数18】
で与えられ、ここで、a
klは、セルlの第kの端末に宛てたシンボルであり、a
k2は、セル2の第kの端末に宛てたシンボルであり、以下同様である。
【0052】
今や、我々は、メッセージを運ぶシンボルの行列Sを[S]
kj=a
kjによって定義し、ここで、上述のように、a
kjは、セルj内の第kの端末に宛てた第jの基地局からのシンボルである。行列を明示的に書くと、我々は、
【数19】
を得る。
【数20】
に関する上の式の右側の第2の乗法の項は、行列S
Tの第kの列であり、上付き文字「T」は、共役をとらない行列の転置を指すことがここで分かる。
【0053】
より広く、すべてのセルの第kの端末によって受信されるそれぞれの信号は、(式を簡単にするために因子
【数21】
を無視して)積
【数22】
によって与えられるL×1ベクトルで表され、ここで
【数23】
である。したがって、
【数24】
に関する上の式はB(k)の第l行をS
Tの第f列に掛けたスカラ積であることが分かる。
【0054】
今や、パイロット汚染プリコーディング行列A(k)=f[B(k)]を定義し、ここで、f[・]は、干渉を最小化し、有用な信号の電力を最大化するプリコーディング行列を得るための逆行列計算または別の関数を指す。当業者に知られている逆行列計算の1つの代替は、ダーティー・ペーパー・プリコーディング(dirty paper precoding)と呼ばれることが多い非線形プリコーディング技術である。
【0055】
逆行列計算のさまざまなその他の代替が、知られている。例えば、ビームフォーミングで使用されるべきプリコーディング行列を得るための技術が、C.B.Peelら、「A vector−perturbation technique for near−capacity multiantenna multiuser communication−part I:Channel inversion and regularization」、IEEE Transactions on Communications 53(2005年1月)195〜202頁に示されている。別のそのような技術が、H.Vikaloら、「Rate maximization in multi−antenna broadcast channels with linear preprocessing」、IEEE Transactions on Wireless Communications 5(2006年9月)2338〜2342頁に示されている。
【0056】
A(k)のエントリが、
【数25】
によって示されるものとする。
【0057】
以降、我々は、Marzetta(2010)に示された手順から逸脱する我々の新しい手法を紹介する。
【0058】
順方向リンク
既に、我々は、第jの基地局が
【数26】
を送信し、第1の項がプリコーディング行列であり、第2の項が送信されるべきシンボルのベクトル、すなわち、
【数27】
であると述べた。今や、
【数28】
を定義し、ここで、成分a
kjは上述の通り定義され、s(k)はS
Tの第k列である。
【0059】
我々の新しい手順の下では、対称的に、第jの基地局が
【数29】
を送信し、ここで、
【数30】
であり、成分c
k(j)は、
c
k(j)=
kAj・s(k)
別の言い方をすれば、
【数31】
であり、ここで、上の検討から理解されるであろうように、
kA
jは、行列A(k)の第j行であり、任意の正方行列Mに対して、diag(M)は、エントリが行列Mの対角成分であるベクトルである。
【0060】
順方向リンクのパイロット汚染が原因である干渉を完全に打ち消すために、第jの基地局の送信電力をベクトル
【数32】
のノルムの2乗に比例させることが望ましい。換言すると、第jの基地局の送信電力は、
【数33】
となり、ここで、ρ
fは、すべての基地局に対して一様である倍率である。その他の要因が、所与の基地局の送信電力がP
jから逸脱せざるを得ないと決定づける可能性があるが、そのような理想的でない状況の下でさえも、我々は、そのような逸脱が重大になることはまれであると考える。重大な逸脱がある場合、それらの逸脱は、セル間干渉をもたらすと予想されるに違いない。
【0061】
上述の検討が、我々が以降で見る
図3にまとめられている。図は、順方向リンク信号を処理するための1つのあり得る手順を示し、この手順は、例示的であり、非限定的であるように意図されている。ネットワークの各基地局が、図に示される手順を実行する。図は、1つの代表基地局、すなわち、基地局jによって実行される手順のステップを対象とする。
【0062】
310において、基地局jが、kのすべての値に対して、パイロット汚染プリコーディング行列A(k)の第j行を得る。我々は、今や、同じインデックスkを有するすべての端末からなる端末のグループの概念を導入する。したがって、K個の端末のグループが存在し、それぞれの端末のグループは、ネットワークの各セルからの(多くとも)1つの端末からなる。したがって、我々は、インデックスkを端末グループインデックスと呼ぶ。
【0063】
320において、基地局jが、ビームフォーミング・プリコーディング行列
【数34】
を得る。330において、基地局jが、信号行列S
Tを得る。
【0064】
パイロット汚染およびビームフォーミング・プリコーディング行列ならびに発信信号行列を基地局に配信するための方法が、以下に示される。図に示されるように、行列A(k)は、
【数35】
およびS
Tを更新するためのサイクルとは異なるサイクルで更新される可能性がある。その理由は、A(k)が、少なくとも数シンボル間隔にわたって、およびおそらくは10シンボル間隔以上の継続時間にわたって変化しないものとして扱われ得ると我々が考える低速フェージング係数に基づくからである。
【0065】
340において、基地局jが、K個のパイロット汚染プリコーディング行列A(k)の第j行、および信号行列S
Tからその基地局自体の発信メッセージ・ベクトル
【数36】
を計算する。メッセージ・ベクトル
【数37】
はK個の成分を有し、それらの成分のそれぞれはK個の端末のグループのうちの1つに属するそれぞれの端末に宛てたメッセージを運ぶシンボルの一次結合であることに留意されたい。
【0066】
350において、基地局jが、ビームフォーミング・プリコーディング行列
【数38】
を用いて発信メッセージ・ベクトル
【数39】
をビームフォーミングする。360において、基地局jが、ビームフォーミングされた発信メッセージ・ベクトルを変調し、ネットワークのその他のL−1個の基地局のすべてと同期して送信する。
【0067】
低速フェージング係数β
jklは、概して、M個の基地局アンテナ、周波数、および少なくとも数個のタイムスロットにわたって一定であると仮定され得るので、大きな困難なしに推定され得る。ここで、我々は、あらゆるセル内の各端末とあらゆる基地局アンテナ・アレイとの間の低速フェージング係数を推定するための1つの例示的な手順を提供する。
【0068】
1つまたは複数のOFDMシンボルは、低速フェージング係数の推定に専用である。概して、約1400の異なるトーンが、OFDMシンボル毎に利用可能になる。(この推定は、20MHzの帯域幅と、
【数40】
ミリ秒のシンボル継続時間とを仮定する。)各端末は、利用可能なトーンのうちの異なる1つを割り振られる。各端末が一意の連番qを有するように、すべてのセルにまたがって端末のすべてにグローバルな数え上げが課される。今や、すべてのqに対して、第qの端末が、第qのトーンでパイロット信号を送信する。
【0069】
さしあたりセルのインデックスjおよび端末のインデックスkを削除し、パイロット・シーケンスが単位電力を有すると仮定して、我々は、基地局が第qのトーンにおいて第mのアンテナで信号
【数41】
を受信し、ここで、g
m(q)は第mの基地局アンテナと第qの端末との間のトーンqのチャネル係数であると言うことができる。上で説明されたように、g
m(q)は、高速フェージング係数h
m(q)と、qおよびmとほぼ無関係である低速フェージング係数
【数42】
とに分解され得る。上述のように、我々は、一般性を失うことなく、h
mが単位分散でランダムに分散されると仮定することができる。したがって、我々は、βを
【数43】
として推定することができる。
【0070】
通常、端末は、それらの端末のパイロット信号を同期して送信する。推定を改善するために、複数のトーンが各端末に割り振られる可能性があり、トーン全体で平均が行われる可能性がある。同様に、複数のOFDMシンボルにわたって平均が行われる可能性がある。
【0071】
端末がn個の多数のOFDMシンボルを使用してそれらの端末のパイロットを送信する場合、n個の端末が所与のトーンでn個のシンボルの互いに直行するシーケンスを送信しているとすると、同じトーンがn個の端末の間で共有される可能性がある。そのような場合、(β係数の推定を目的として)サービスを提供され得る端末の総数は、利用可能なトーンの数にパイロットの長さを掛けた積、すなわち、上記の例においては1400nである。
【0072】
相互の干渉が無視できるほど互いに十分に離れているモバイル端末は、同じトーンおよび同じパイロット・シーケンスを再利用する可能性がある。
【0073】
セルjが非常に大きなアンテナ・アレイを有する場合、空間的な準独立性(quasi−independence)の仮定が成り立たなくなる可能性がある。そのような場合、例えばM個のアンテナを、仮定がそれぞれに対して有効であるそれぞれM
1個のアンテナ、M
2個のアンテナなどの2つ以上のサブ・アレイに分割することが有利である。そのとき、それぞれの低速フェージング係数は、
【数44】
によって与えられる加重平均
【数45】
として有利に推定され、ここで、
【数46】
であり、
【数47】
は、第wのサブ・アレイに関して推定される低速フェージング係数である。
【0074】
概して、背景雑音の分散の推定値を取得することも望ましい。これは、信号対雑音比を推定するために使用される可能性があり、そして今度はその信号対雑音比が、適切なデータ送信レートの決定、電力の割り当ての最適化などのために使用される可能性がある。背景雑音の分散は、例えば、すべての端末が送信していないOFDMシンボル間隔の間に推定され得る。
【0075】
上述の検討が
図4にまとめられており、
図4は、低速フェージング係数を推定し、行列A(k)の列を得るための1つのあり得る手順を示す。示される手順は、単なる例として提供され、限定的であるように意図されていない。
【0076】
ここで
図4に目を向けると、410において、すべてのセル内のすべての端末がそれらの端末のそれぞれの一意に割り振られたトーンqでそれらの端末のパイロット信号を同期して送信することが分かる。420において、基地局のそれぞれが、その基地局自体と(多くとも)KL個の端末のそれぞれとの間の低速フェージング係数を推定する。430において、基地局のすべてが、それらの基地局の推定値β(q)をネットワークの中央ノードに転送する。
【0077】
例えば、LTEネットワークにおいては、1つの基地局、すなわち、1つのeNode−Bが、中央ノードとして働くように選択される可能性がある。その他の可能性は、以下で検討される。
【0078】
440において、中央ノードのサーバが、チャネル推定値β(q)を、それぞれの端末のグループkに関する低速フェージング行列B(k)の対応する要素にマッピングする。それぞれの端末のグループに関して、サーバは、B(k)の逆行列を求めて、対応するパイロット汚染プリコーディング行列A(k)を得る。
【0079】
450において、サーバが、A(k)のそれぞれの行を基地局jのそれぞれに配信し、j=1,...,Lである。つまり、基地局jは、K個のパイロット汚染プリコーディング行列のそれぞれの第j行を受信する。
【0080】
460において、サーバが、同じ発信信号行列S
Tを基地局のそれぞれに配信する。
【0081】
上述のように、1つの基地局が中央ノードとして働く可能性がある。より詳細には、1つのeNode−Bが、基地局のすべてがX2インターフェースを介して相互に通信するeNode−Bであるネットワーク内の中央ノードとして働く可能性がある。
【0082】
別の例において、ネットワークは、例えば、LTE基地局と、WCDMA基地局と、UMTS基地局との任意の組み合わせを含み得るさまざまな種類の3GPP基地局を含む。それぞれのそのような基地局は、その基地局がさまざまな種類のその他の3GPP基地局と通信するサービング・ゲートウェイ(SGW)へのインターフェースを有する。そのようなネットワークにおいて、中央ノードの機能は、コアネットワーク内にあるSGWに有利に存在する可能性がある。
【0083】
別の例において、ネットワークは、CDMAまたはDOなどの3GPP基地局と非3GPPテクノロジーに属する基地局との両方を含む。その例では、中央ノードの機能は、やはりコアネットワーク内にあるPDNゲートウェイ(PGW)に有利に存在する。
【0084】
図5は、順方向リンク信号の処理の別の図を与える。図に見られるように、信号行列S
TのK個の列が、計算ブロック500.1〜500.Lに入力として与えられる。低速フェージング係数の組510が、計算ブロック520に入力として与えられ、プリコーディング行列A(1)、...、A(K)が計算される。プリコーディング行列のそれぞれの第j行が、計算ブロック500.1〜500.Lのうちの第jの計算ブロックに入力として与えられ、j=1,...,Lである。
【0085】
出力側では、計算ブロック500.1〜500.Lのうちの第jの計算ブロックが、すべてのjに対して、K個のパイロット汚染プリコーディングされたシンボルc
1(j)、...、c
K(j)を提供する。各セルにおいて、パイロット汚染プリコーディングされたシンボルが、適用可能なビームフォーミング・プリコーディング行列
【数48】
と一緒にビームフォーマ530に入力として与えられる。各ビームフォーマの出力が、適切な無線周波数変調、例えば、OFDM変調540にかけられ、送信される。
【0086】
逆方向リンク
逆方向リンクにおいて、第jの基地局は、セルのL個すべての中の端末のすべてからの送信の合計を基地局の各アンテナで構成するM×1ベクトルを、1シンボル間隔で、各トーンの中で受信する。受信されるベクトル
【数49】
は、我々がトーンのインデックスnへの依存性の明示的な表現を避け続ける以下の式によって与えられる。
【数50】
ここで、ρ
rは、信号対雑音比の測定値であり、
【数51】
は、第lのセルの端末からのシンボルのK×1ベクトル
【数52】
であり、
【数53】
は、成分がゼロ平均であり、互いに相関がなく、チャネル行列と相関がないと考えられる受信機の雑音のベクトルである。G
jlは、上で与えられたM×Kチャネル行列である。
【0087】
基地局は、最大比合成のよく知られている技術を使用してその基地局の受信された信号を処理する。したがって、K×1ベクトル
【数54】
によって表される処理された信号は、
【数55】
にチャネル推定値
【数56】
の共役転置を掛けることによって得られる。
【数57】
【0088】
我々は、ここで、チャネル係数gが高速フェージング因子hと低速フェージング因子β
1/2とに分解される、すなわち、
【数58】
であることを思い出す。
【0089】
我々は、上の式によって定義された積の展開で、それぞれの加算される項が、チャネル行列G
jlのそれぞれの列のおかげで2つのM成分ランダム・ベクトルの間の内積に比例することに気付く。我々の漸近的直交性の仮定が正しい限りにおいて、高速フェージングおよびランダム・ノイズの影響は、Mが無制限に増加するにつれて平均化される傾向があり、総和は、極限的な式(limiting expression)に近づき、したがって、
【数59】
の第kの成分は(大きなMの制約の中で)
【数60】
によって与えられる。
【0090】
より広く、K×L行列Yを
【数61】
による定義することにする。ベクトル
【数62】
は、Yの第j列であることが分かる。我々は、Yを、受信逆方向リンク信号行列と呼ぶ。行列Yの行kおよび列jの要素は、基地局jによって端末のグループkから受信された累積的メッセージである。したがって、Yの第j列が基地局jによって受信されたそれぞれの端末のグループからの累積的メッセージからなることが理解される。
【0091】
ここで、我々は、L×L行列
【数63】
を
【数64】
によって定義する。
【0092】
ここで、我々は、ベクトル
【数65】
をYの第k行として定義することにする。ベクトル
【数66】
を、グループkのそれぞれの端末によって送信された信号からなるL×1ベクトルとして、すなわち、
【数67】
と定義することにする。
【0093】
大きなMに対する我々の近似の下で、Yの第k行は
【数68】
によって与えられることが先の式から分かる。Yの第k行は、それぞれの基地局によって端末のグループkから受信された累積的メッセージからなることが理解される。
【0094】
各基地局は、その基地局のサービス・エリア内の各端末によって送信されるその基地局に宛てた逆方向リンク・シンボルを復元しようとする。つまり、セルjの基地局は、セルによってサービスを提供されるK個の端末から送信されたそれぞれのシンボル
【数69】
を復元しようとし、k=1,...,Kである。
【0095】
我々の新しい手法によってこれを実現するために、基地局は、行列Yが基地局のすべてに知られるように情報を交換する。バックホールによって提供される通信チャネルが、例えば、そのような目的のために使用される可能性がある。
【0096】
それぞれの端末のグループkに関して、行列
【数70】
、または同等にその行列の転置B(k)が、上述のように中心ノードによって取得され得る。
【0097】
jのすべての値に関して、セルjの基地局は、すべてのその他の基地局に値
【数71】
を配信し、k=1,...,Kである。別の言い方をすれば、セルjの基地局は、各セルが単独で完全な受信逆方向リンク信号行列Yを構築することができるようにその他のすべてのセルの基地局に
【数72】
を配信する。
【0098】
今や、我々は、パイロット汚染ポストコーディング行列
【数73】
を定義し、ここで、f[・]は、干渉を最小化し、有用な信号の電力を最大化するポストコーディング行列を得るための逆行列計算または別の関数を指す。ポストコーディング行列は、例えば、例えば、中央ノードのサーバによって計算され、その中央ノードから基地局に配信される可能性がある。
【0099】
kの各値に関して、各基地局は、
【数74】
を計算して値
【数75】
を復元する。したがって、特に、セルjの基地局は、値
【数76】
を復元する。
【0100】
基地局によって実行される上述のさまざまな操作が、我々が以降で見る
図6にまとめられている。
図6に示されるステップは、1つの代表基地局、すなわち、基地局jを対象とするが、同じステップがネットワーク内のL個の基地局のそれぞれによって実行され得ることが理解される。図に示されるステップは、例示的であるように意図されており、限定的であるように意図されていない。
【0101】
610において、基地局jが、中央ノードからパイロット汚染ポストコーディング行列
【数77】
を得る。620において、基地局が、要素が基地局jのアンテナとその基地局がサービスを提供する端末との間の伝播係数の推定値である行列
【数78】
を得る。図で、
【数79】
および
【数80】
は異なるサイクルで更新され得ることが分かる。これは、
【数81】
が、上述のように、複数のシンボル間隔毎に1回以下の頻度で更新される必要がある低速フェージング係数だけに基づくためである。基地局による
【数82】
の推定は、上で検討された。
【0102】
630において、基地局の各アンテナが、ネットワーク内の(多くとも)KL個のすべての端末から同期した逆方向リンクの送信を受信する。したがって、信号
【数83】
は、M個の要素を有するベクトルであり、要素のそれぞれは、送信する端末のすべてからの送信されたメッセージを運ぶシンボルを合成する累積的信号である。
【0103】
640において、基地局jが、
【数84】
を使用して最大比合成によって生の信号
【数85】
を処理して、受信逆方向リンク信号ベクトル
【数86】
を得る。
【数87】
はK個の要素を有する列ベクトルであり、K個の要素のそれぞれは、K個の端末のグループのうちの1つからのすべての送信されたメッセージを運ぶ信号を合成する累積的信号であることが理解される。
【0104】
650において、基地局が、すべてのその他の基地局から、すなわち、l=1,2,...,Lである基地局lから対応する逆方向リンク信号ベクトル
【数88】
を得る。660において、基地局が、逆方向リンク信号ベクトルのすべてから、すなわち、上記のベクトル
【数89】
および上記のベクトル
【数90】
から受信逆方向リンク信号行列Yを組み立てる。前記逆方向リンク信号ベクトルのそれぞれは、Yの列を構成し、それぞれのセルとYのそれぞれの列との間に対応が存在することが理解される。
【0105】
670において、基地局jが、Yの行のそれぞれを順に選択する。基地局は、各行
【数91】
を転置し、次いで、それにパイロット汚染ポストコーディング行列
【数92】
を左から掛け、Yの各行はそれぞれの端末のグループに対応することが理解される。それぞれの左からの乗算の結果は、L個の要素を有するベクトルであり、このベクトルにおいて要素のそれぞれは、第kの端末のグループの(多くとも)L個の端末のうちの1つによって逆方向リンクで受信された復元されたメッセージを運ぶシンボルである。
【0106】
したがって、基地局jは、それぞれの端末のグループからの(多くとも)L個のシンボルを復元する。680において、基地局が、それぞれの端末のグループから復元された第jのシンボルを選択する。つまり、基地局は、それぞれの端末のグループから、その基地局自体に宛てられていたそのメッセージを運ぶシンボルを選択する。
【0107】
図7は、逆方向リンク信号の処理の別の図を与える。図に見られるように、端末700は、基地局710によって
【数93】
として受信される逆方向リンク信号を送信する。j=1,...,Lのすべてのjに関して、第jの基地局は、各周波数サブチャネルに対して、その基地局自体のセルのそれぞれのチャネル行列の推定値
【数94】
の共役転置
【数95】
を適用して、それによって、K個の受信されたシンボルy
1j,...,y
Kjを得る。
【0108】
受信されたシンボルは、各基地局によって計算ブロック720に転送され、計算ブロック720において、受信されたシンボルは、受信信号行列Yへと組み立てられるものとして概念的に示されている。(当業者が理解するであろうように、単に理解の助けとして行列Yに対する言及がなされるが、実際には、行列Yを構築するなんらかの明確な計算ステップが存在するとは限らない。)
【0109】
低速フェージング係数の組730が、計算ブロック740に入力として与えられ、計算ブロック740において、行列
【数96】
が、k=1,...,Kであるすべてのkに対して計算される。行列
【数97】
が、計算ブロック720に入力として与えられ、計算ブロック720において、すべてのkに対して、パイロット汚染ポストコーディング行列
【数98】
が計算される。
【0110】
また、ブロック720において、パイロット汚染ポストコーディング行列
【数99】
が、受信信号行列Yに作用して、図のブロック750に示されるように、メッセージを運ぶシンボルa
kjを復元し、k=1,...,K、j=1,...,Lである。上述のように、各基地局は、メッセージを運ぶシンボルを復元するための計算を個々に実行することができる。
【0111】
代替的に、計算は、中心の場所で実行される可能性があり、それから、それぞれの基地局に宛てたシンボルが、その基地局に転送される可能性がある。したがって、図は、ブロック750の復元されたシンボルを、各行がそれぞれのセルに対応し、各列がそれぞれの端末のグループに対応する行列として示す。図に示されるように、行列の各行は、その行の対応する基地局に転送される。
【0112】
パイロット汚染プリコーディング行列およびパイロット汚染ポストコーディング行列の計算を含む上述のさまざまな数学的計算は、個々の基地局に位置するデジタル・プロセッサによって、または中央ユニットに位置するデジタル・プロセッサによって、またはさまざまに配置されたデジタル・プロセッサの組み合わせによって実行され得る。限定することなく、デジタル・プロセッサは、ソフトウェア、ファームウェア、またはハードウェアで具現化される制御の下で動作する汎用もしくは専用デジタル・コンピュータ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサなどのうちのいずれかである可能性がある。
【0113】
上で明示的に説明されなかったさまざまな近似および代替アルゴリズムおよび数学的定式化が、上述の原理から逸脱することなく実装で使用され得ることが理解される。これらのうちで重要なのは、伝播係数の測定値などの特定の量を、それらの量の値が適切な閾値未満である場合にゼロに設定することである。
【0114】
我々は、用語「セル」を、セル、セクタ、またはワイヤレス・ネットワーク内の任意の同様の定義された受信エリアを意味するは広い意味で使用したことも理解されたい。