(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933057
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】三フッ化窒素の効率的な製造のための電解装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20060101AFI20160526BHJP
C25B 1/24 20060101ALI20160526BHJP
C25B 15/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
C25B9/00 F
C25B1/24 A
C25B15/02 302
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-35224(P2015-35224)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-172241(P2015-172241A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】61/944,911
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/560,023
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591035368
【氏名又は名称】エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン アーノルド クローズ
(72)【発明者】
【氏名】レイナルド マリオ マチャド
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ ジョセフ ハート
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ パトリック ニールセン
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0181182(US,A1)
【文献】
特開平11−335882(JP,A)
【文献】
特開2006−089820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電流密度でフッ化水素含有溶融塩電解質を電解することによって三フッ化窒素を製造するための電解装置であって、
各アノードチャンバ及びカソードチャンバの間の1つ又は複数の隔壁によって1つ又は複数のアノードチャンバ及びカソードチャンバに分割されている電解セルであって、各アノードチャンバが内側表面及び外側表面を含む1つ又は複数のアノードを含み、各カソードチャンバが1つ又は複数のカソードを含み、アノードチャンバ及びカソードチャンバは、1つ又は複数のカソードのうちのいずれか1つが1つ又は複数のアノードの外側表面に隣接し、かつ1つ又は複数のアノードの内側表面に隣接するカソードがないように構成されている電解セルと、
1つ又は複数のアノード及び1つ又は複数のカソードを取り囲む溶融塩電解質と、
アノードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのアノードガス出口と、
カソードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのカソードガス出口と
を含む、電解装置。
【請求項2】
1つ又は複数のカソードが、フッ化水素含有溶融塩電解質中に完全に浸漬している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
少なくとも1つの入口をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも1つの入口が、フッ化水素含有溶融塩を電解液として受け入れるのに適したものである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
フッ化水素含有溶融塩電解質がNH4Fを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
NH4Fが14wt%〜24wt%の濃度で存在している、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
1つ又は複数のアノードがU字形である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
1つ又は複数のアノードが銅母線に取り付けられている、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
1つ又は複数のアノードが非黒鉛化炭素を含む、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
1つ又は複数のカソードが炭素鋼を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
1つ又は複数のアノードがある長さと幅を有し、かつ隣接するアノード間の空隙によって互いに離れて配置されており、空隙の距離がアノードの幅より小さく、アノードの周囲及び背後での流動を可能にしている、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
1つ又は複数のカソードが電解質中に完全に浸漬しかつ1つ又は複数のアノードが電解質のレベルよりも上まで達するように、電解質がセルの底面より上のレベルにありかつ電解質のレベルが1つ又は複数のカソードよりも上にある、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも1つのアノードガスが、三フッ化窒素(NF3)、窒素(N2)、及びフッ素(F2)からなる群より選択される少なくとも1つのガスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
少なくとも1つのカソードガスが水素を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
アノード電流接続を通して1つ又は複数のアノードにそしてカソード電流接続を通して1つ又は複数のカソードに電流を供給する電流制御器をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
電解質補給流量制御器と通信する電解質のレベル測定用手段又はレベル指示器をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
流量制御器が、HF源と連通している流量制御弁と通信してこれを制御し、かつアンモニア源と連通している流量制御弁と通信してこれを制御することにより、電解が進んで溶融塩電解質が枯渇状態になると、レベル指示器が補給流量制御器に電解質を補充する必要があることを信号で送り、電解質補給流量制御器が流量制御弁と通信して、流量制御弁を用いてアンモニア源から溶融電解質にアンモニアを、そして流量制御弁を用いてHF源から溶融電解質にHFをそれぞれ補給するようになっている、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
印加される電流密度が0.1〜30A/dm2である、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
フッ化水素含有溶融塩電解質がNH4F・HF及びKF・NH4F・HFからなる群より選択される、請求項5に記載の装置。
【請求項20】
印加された電流密度でフッ化水素含有溶融塩電解質を電解することによって三フッ化窒素を製造するための電解装置であって、
本体、セル底面、及びセル上面を含み、各アノードチャンバ及びカソードチャンバの間で有孔ダイヤフラムによって1つ又は複数のアノードチャンバ及びカソードチャンバに分割されている電解セルであって、各アノードチャンバが内側表面及び外側表面を含む1つ又は複数のアノードを含み、各カソードチャンバが1つ又は複数のカソードを含み、アノードチャンバ及びカソードチャンバは、1つ又は複数のカソードのうちのいずれか1つが1つ又は複数のアノードの外側表面に隣接し、かつ1つ又は複数のアノードの内側表面に隣接するカソードがないように構成されている電解セルと、
1つ又は複数のアノード及び1つ又は複数のカソードを取り囲み、セル上面からの距離によって画定されるレベルにある溶融塩電解質と、
アノードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのアノードガス出口と、
カソードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのカソードガス出口と
を含み、1つ又は複数のカソードが多孔質ダイヤフラムから15〜20mmの距離にあり、
1つ又は複数のアノードが多孔質ダイヤフラムから15〜20mmの距離にあり、
1つ又は複数のカソードがセル底面から100〜130mmの距離にあり、
1つ又は複数のアノードがセル底面から120〜140mmの距離にあり、
電解質のレベルがセル上面から140〜160mmの距離にある、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、全体が参照により本明細書に援用されている2014年2月26日出願の米国仮特許出願第61/944,911号の非仮出願である。
【0002】
本発明は、溶融塩電解により三フッ化窒素ガスを製造するのに使用される電解装置に関する。特には、本発明は、三フッ化窒素ガスのより効率的な製造をもたらす電解セルの構造的な構成に関する。さらに、本発明は、電解セル並びに三フッ化窒素ガスの効率的な製造に有用な方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、半導体製造において使用するための三フッ化窒素(NF
3)ガスの需要量は大きくかつ成長しつつある。三フッ化窒素は、例えば、エッチャント又はチャンバ清浄用ガスとして使用され得る。これらの用途のための需要は近年著しく増大してきた。このような利用分野では、四フッ化炭素(CF
4)副産物含有量が可能なかぎり低い高純度の三フッ化窒素ガスが所望される。
【0004】
NF
3ガスは、さまざまな方法によって製造可能である。それらのうち、溶解塩電解は、他の方法に比べて優れた収量を提供し、大量生産に好適であり、したがって有用な商業的プロセスとみなされている。詳細には、少量のCF
4しか含まない高純度のNF
3ガスを製造する目的で、溶解塩電解方法は、最も低コストでNF
3を製造することができる。概して、溶解塩電解によりNF
3ガスを製造するためのプロセスによると、例示的な好適な溶解塩浴は、酸性フッ化アンモニウム、フッ化アンモニウム及びフッ化水素に由来するNH
4F・HF系、又はNH
4F・HF系に酸性フッ化カリウム又はフッ化カリウムを添加することによって製造されるKF・NH
4F・HF系を含んでいる。
【0005】
NF
3ガスを製造するプロセスにおいて、NF
3ガス及び窒素(N
2)ガスはアノードにおいて生成され、一方水素(H
2)ガスはカソードにおいて生成される。すなわち、ガス生成反応は両電極において発生する。アノードにおいて生成されるNF
3ガスがカソードで生成されるH
2ガスと混合された場合爆発が起こる危険性があり、したがって、爆発をひき起こし得る量でアノードにおいてH
2とNF
3が混合される可能性を最小限に抑える必要がある。その上、アノードにおけるH
2の存在は、他の望ましくない反応、例えばNF及びN
2を形成させるF
2及びNF
3との反応を導くことになり、こうして、セルの効率及びNF
3の生産性は低減する。
【0006】
NF
3を生成するための先行技術の電解セルの幾何形状は、カソード及びアノードの周囲で形成されるガスと液体電解質の循環を制限することによってアノードへのH
2の泳動の問題に寄与し得る。形成されたガスをセルから除去するのに必要な時間が長くなればなるほど、アノードへのH
2の泳動が発生する可能性は高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、所望されない副産物を実質的に生成することなしに、NF
3を連続的に製造及び生成するための安全かつ効率の良い製造装置及び方法に対するニーズがなおも存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、印加された電流密度でフッ化水素含有溶融塩電解質を電解することによって三フッ化窒素を製造するための電解装置であって、
各アノードチャンバ及びカソードチャンバの間の1つ又は複数の隔壁によって1つ又は複数のアノードチャンバ及びカソードチャンバに分割されている電解セルであって、各アノードチャンバが内側表面及び外側表面を含む1つ又は複数のアノードを含み、各カソードチャンバが1つ又は複数のカソードを含み、アノードチャンバ及びカソードチャンバは、1つ又は複数のカソードのうちのいずれか1つが1つ又は複数のアノードの外側表面に隣接し、かつ1つ又は複数のアノードの内側表面に隣接するカソードがないように構成されている電解セルと、
1つ又は複数のアノード及び1つ又は複数のカソードを取り囲む溶融塩電解質と、
アノードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのアノードガス出口と、
カソードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのカソードガス出口と
を含む電解装置を提供することによってこのニーズを満足させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る電解セルの一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、フッ化水素(HF)含有溶融塩電解質を利用する電解セルを含むフッ素含有ガス生成システムに関する。具体的発明は、一次生成物としてNF
3を製造する電解セルに関するものであるが、F
2が一次生成物である電解セルに本発明を応用することも同様に有益である。同様に意外にも、本発明の装置及びシステムが、最高約100%の電流効率の増加、及びNF
3の製造において使用される先行技術の電解セルと比べたNF
3の製造の対応する増加をもたらすことも見出された。
【0011】
本発明の電解装置を使用してNF
3を製造するためには、HF含有電解質は、NF
3を製造するのに有用である任意の公知のHF含有電解質、例えば溶融NH
4F及びHF(「二元電解質」と呼ぶ)又は(NH
4F)又はKF及びHFのHF含有溶解塩(「三元電解質」と呼ぶ)であり得る。さらに、HF含有溶解塩電解質は同様に、他の添加剤、例えばフッ化セシウム及び/又はフッ化リチウムを、性能改善を目的として含んでいてよい。濃度はNH
4Fモル%及びHF比の形で表現されてよい。HF比は、以下の等式により定義される。
HF比=中性pHに滴定可能なHFのモル数/(NH
4F(モル数)+KF(モル数))
HF比は、電解質中の塩合計に対する遊離HFレベルの比に相当する。三元電解質を伴う一部の実施形態では、14wt%〜24wt%、より好ましくは16wt%〜21wt%、最も好ましくは17.5wt%〜19.5wt%の範囲内のNH
4F濃度;1.3〜1.7、より好ましくは1.45〜1.6、最も好ましくは、1.5〜1.55のHF比で電解セルを作動させることが好適であるかもしれない。他の実施形態では、好ましい濃度範囲は、印加される電流及び電解質温度などの作動条件に応じて変動し得る。好ましい濃度範囲は同様に、二元電解質を含む実施形態において、異なる可能性がある。電解セルの高い効率と安全な作動の間のバランスに基づいて濃度範囲を選択することが望ましい。このようなバランスは、アノードチャンバ(生成)ガス中のF
2を0.5%〜5%モルとしてセルを作動させることによって達成されるかもしれない。アノード生成ガス中のフッ素濃度を結果として高くする条件下でセルを作動させると、セルの効率は低下する。しかしながら、アノード生成ガス中のフッ素がさらに低いあるいはゼロである場合、それはより安全性の低い条件を表す。
【0012】
フッ化水素含有二元電解質を製造するための方法に関しては、特に制約条件はなく、任意の従来の方法を使用することができる。例えば、二フッ化水素アンモニウム及び/又はNH
4F中に無水フッ化水素を補給することにより、HF含有二元電解質を製造することができる。HF含有三元電解質を製造するための方法に関しては、特に制約条件は無く、任意の従来の方法を使用することができる。例えば、二フッ化水素アンモニウム及び/又はNH
4FとKFの混合物中に無水HF及びアンモニアを補給することによって、HF含有三元電解質を製造することができる。
【0013】
本発明は、任意の具体的電解質組成に限定されず、例えばHF及びアンモニアを含む二元電解質に言及する本明細書中のあらゆる説明は、便宜上のものであるにすぎない。NF
3を製造するために有用な任意の電解質を、説明中に代入することができ、それは本発明中に包含される。
【0014】
NH
4Fを含むHF含有溶融塩電解質の電解は、カソードにおいて水素をそして、アノードにおいて三フッ化窒素、窒素及び少量のさまざまな他の不純物を含む気体混合物の発生を結果としてもたらす。従来の電解セルにおいては、1つ又は複数のアノード及び1つ又は複数のカソードが利用される。NF
3の製造のための一部の電解セルにおいて、カソードは、NF
3を含む気体混合物と水素の混合を防止するため、1つ又は複数のダイヤフラムなどの好適な手段によりアノードから分離される。しかしながら、このようなセルの場合でも、爆発性混合物を生成するのに充分な量の水素がアノード区画内に漏出し、NF
3を含有する気体混合物と混合した状態になって気体混合物の一部を形成する可能性がある。本発明者らは、同様に、ダイヤフラムの分極に起因する電気化学的手段又は副産物化学が関与する化学的手段のいずれかによってもアノードチャンバ内で水素が生成され得ることを断定した。
【0015】
以下の機構によって、アノード生成ガス中に存在する水素が準安定引火性混合物の形成を結果としてもたらし得ることを説明できる。1つの機構においては、カソードで形成した水素気泡がカソードチャンバからアノードチャンバ内に泳動し、アノードガス中に水素ガスを放出し得る。これは、典型的な作動条件中に、対流的電解質流がダイヤフラムを通って水素気泡を運ぶ場合に発生し得る。セルが作動させられるとアノードガス中に余剰のフッ素が存在することになり、アノードチャンバ内を泳動する水素は全て急速にフッ素と反応してHFを形成する。
【0016】
本発明者らが見出した別の機構においては、局所的フッ素濃度が非常に低くフッ素とNH
4Fとの反応速度が比較的速い化学反応条件下で、アノードチャンバ内で化学的に水素が生成され得る。このシナリオでは、フッ素はNH
4Fと急速に反応してモノフルオロフッ化アンモニウムを形成する。次に、モノフルオロフッ化アンモニウムは、フッ素と反応することができないうちにアンモニウムと反応して、反応式1及び2にしたがって窒素と水素を形成する。
F
2 + NH
4+・F
- → NFH
3+・F
- + HF 反応式1
NH
4+・F
- +NFH
3+・F
- → N
2 2H
2 +3HF 反応式2
【0017】
物理的障壁(例えばダイヤフラム及びスカート)は、水素がセル内のカソードからアノード側まで進むことを防ぐ一助となるかもしれないが、アノード側で作り出された水素がアノード側生成ガス流内に入るのを回避することはない。
【0018】
本発明によると、概して0.1〜30A/dm
2又は0.3〜15A/dm
2又は0.6〜12A/dm
2の範囲内にある印加電流密度でフッ化水素含有溶融塩電解質を電解することにより三フッ化窒素を製造するための電解装置において、各々のアノードチャンバとカソードチャンバの間の1つ又は複数の隔壁によって1つ又は複数のアノードチャンバとカソードチャンバに分割されている電解セルであって、各アノードチャンバが、内側表面及び外側表面を含む1つ又は複数のアノードを含み、各カソードチャンバが1つ又は複数のカソードを含み、ここでアノードチャンバとカソードチャンバは、1つ又は複数のカソードのうちのいずれか1つが、1つ又は複数のアノードの外側表面に隣接し、1つ又は複数のアノードの内側表面に隣接するカソードが全く無いような形で構成されている電解セルと;1つ又は複数のアノード及び1つ又は複数のカソードを取り囲む溶融塩電解質と;アノードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのアノードガス出口と;カソードチャンバからガスを取り出すための少なくとも1つのカソードガス出口と、を含む電解装置が提供されている。
【0019】
[セルの設計及び建造]
図1は、三フッ化窒素含有生成ガスの製造のための本発明の電解セル装置の主要な部分の略図を示す。電解セル装置は、電解装置本体26と上部フタ又は被覆28を有する電解セル25を含む。セル25は、垂直に配置されたガス分離スカート19とダイヤフラム22によってアノードチャンバ17とカソードチャンバ18に分割されている。ガス分離スカート19は好ましくは中実であり、ダイヤフラム22は好ましくは有孔であるか又は製織されたものであり、したがって多孔質になっている。アノードチャンバとカソードチャンバの間に垂直方向に位置づけされたガス分離スカート19及びダイヤフラム22の機能は、電解中にNF
3含有アノード生成ガスが水素含有カソード生成ガスと混合されるのを防ぐことにある。
【0020】
1つ又は複数のアノード20がアノードチャンバ17内に配置されている。アノード20は好ましくは、
図1に描かれている通り銅の母線40にアノードが取り付けられている状態でU字形構成であり、内側表面2と外側表面4を有する。好ましくは、アノード20は非黒鉛化炭素製である。1つ又は複数のカソード21がカソードチャンバ18内に配置されている。カソード21は好ましくは炭素鋼製である。
【0021】
好ましい実施形態において、アノードは、隣接するアノード間の空隙によって互いに離れて配置されており、ここで空隙距離はアノードの幅より小さく、アノードの周り及び背後での流動を可能にしている。
【0022】
図1に示された実施形態において、電解セル25は、フッ化水素酸及びアンモニア含有溶解塩電解質23を格納している。電解質23のレベル27は、電解セル25の底面53より上の電解質の高さである。重要なことに、電解質23のレベル27はカソード21より上であり、それによってカソード21は電解質23中に完全に浸漬し、アノード20は電解質23のレベル27よりも上まで達するようになっている。
【0023】
電解セル25は、原料又は電解質23を構成する成分を補給するための補給管12及び16を有する。
図1に示されている通り、補給管12は、HF補給管12であり、補給管16はアンモニア補給管16である。他の実施形態において、補給管12及び16の一方又は両方を使用して、予め混合されたHF及びアンモニア含有溶解塩電解液を直接セルに補給してもよい。概して、補給管12及び18は、カソードチャンバ18内に具備されている。アノードチャンバ17は、電解セル25からNN
3含有生成ガス混合物を取り出すためのアノード生成物出口パイプ11を有する。カソードチャンバ18は、電解セル25からガスを取り出すためのカソード生成物出口パイプ13を有する。所望される場合には、本発明の電解装置はさらに、アノードチャンバ及びカソードチャンバ内のパージガスパイプ接続部などの追加の構成要素を含んでいてよい。例えば窒素などのパージガス供給源(図示せず)を、電解セルのアノードチャンバ17及び/又はカソードチャンバ18(図示せず)に接続して、安全上の理由での電解セルのパージを提供するか、又は、目詰まりしたパイプ用のブローアウト手段を提供するか、又は入口及び出口管及びパイプ及び他の器具類の適正な機能を提供してもよい。
【0024】
本実施形態のセルを作動させた場合、三フッ化窒素含有ガスがアノードで生成され、水素がカソードで生成される。アノードチャンバで生成されたガスは、三フッ化窒素(NF
3)、窒素(N
2)及びフッ素(F
2)を含んでいてよい。さらに、HFは電解質23を上回る蒸気圧を有し、したがって、アノードチャンバ17及びカソードチャンバ18の両方から出るガスの中に存在する。
【0025】
図1に示されたセル25は、同様に、電解セルのための制御プロセス又はオペレータが規定する目標範囲内で増減できるレベルで、アノード電流接続を通してアノード20にそしてカソード電流接続を通してカソード21に電流を供給する電流制御器も含んでいる。
【0026】
図1に示された装置は同様に、電解質補給流量制御器と通信する電解質のレベル測定用手段又はレベル指示器も含んでいてよい。流量制御器は同様に流量制御弁とも通信しこれを制御し、この流量制御弁はHF源と連通し、アンモニア源と連通状態にある流量制御弁と通信しこれを制御する。電解が進み溶融塩電解質が枯渇状態になるにつれてレベル指示器は補給流量制御器に対し電解質を補充する必要がある旨の信号を送る。電解質補給流量制御器は流量制御弁と通信し、それぞれ流量制御弁を用いてアンモニア源からそして流量制御弁を用いてHF源から溶融電解質内へとアンモニア及びHFを補給させる。流量制御弁は、アンモニアの消費量に基づいてアンモニア供給源からのアンモニアの補給量を調整して三フッ化窒素含有ガスを形成するために使用可能である。電解質中のアンモニア及び他の構成成分の組成比率は、生成ガス組成及び生成ガス流量が関与する質量平衡から得られてよい。
【0027】
電解質のレベルは、セル25の底面53より上の電解質の高さである。セル内には、2つの別個の電解質レベルをひき起こす2つのチャンバ間に存在し得る圧力差を明らかにするため、例えばアノードチャンバとカソードチャンバ内に1つずつの、1つ又は複数のレベル指示器又は検出器が存在していてよい。レベル検出器は、電流伝導又はガスバブラーシステムなど、利用可能な異なる方法のいずれに基づくものであってもよい。電解質のレベルは、電解セルの幾何形状及び電解セルの作動条件を考慮に入れて、適切な値に設定される。電解質レベルは、セル内への電解質の補給流量を制御する補給流量制御器によって調整される。電解質補給流量制御器は、HF供給源から電解セル装置までのHFの流量を制御する弁を制御し、アンモニア供給源からセルへのアンモニアの流量を制御する弁を制御する。電解質補給流量制御器は、セルに対し電解質補給を追加する前に、セル内の電解質のレベルを考慮に入れる。レベル指示器は、レベルを電解質補給流量制御器に通信する。電解質補給流量制御器は、レベルが目標レベルより低く下がった場合に、セルへの補給を追加させる。
【0028】
電解質23の温度を測定するため、セル内に温度検出器を具備してもよい。温度検出器は、熱電対又は、当該技術分野において公知の他の直接的又は間接的、接触又は非接触型温度測定手段であってよい。セル25には典型的に、セルの外側表面の少なくとも一部分の周りに及び/又はこの部分と接触して配置された熱伝導流体ジャケットであってよい温度調整手段が具備されている。熱伝導流体ジャケットが使用される場合、それは、電解質の温度を上昇させるべきか低下させるべきかによって、すなわちセル、特にその中の電解質を加熱すべきか冷却すべきかに応じて、加熱された又は室温の又は冷却された熱伝導流体を循環させる。熱伝導流体は、本明細書中で記述されている目的のために使用するのに好適であるとみなされている任意の流体、例えば水、グリコール及び鉱油であってよい。一部の実施形態、例えば
図1に示されている実施形態においては、代替的に又は付加的に、温度調整手段は、電解質レベルより下で電解セル25の内部に存在してよくかつ/又はセル本体の底面又は側壁内に埋設されている循環する加熱又は冷却媒体を有する熱伝導管60を含んでいてよい。好ましい実施形態において、熱伝導管は、カソードの背後の電解ゾーンの外側に存在する。
【0029】
代替的には、他の加熱手段又は冷却手段、例えば抵抗加熱器、送風器及び当該技術分野にとって公知の他の器具を使用してもよい。熱伝導流体の流量は、図中に示されていないポンプ、加熱器及び冷却手段を含み得る電解質温度制御器によって制御される。電解質温度制御器は、温度検出器から入力を受信し、その温度読取り値に応えて電解質の温度に応答して温度調整手段の動作を自動的に調整又は維持してよい。温度調整手段を介した電解質の温度の調整は、代替的には、手動で行なってもよい。図示された実施形態における温度調整手段は、弁を開閉してより多くの加熱流体又は冷却流体を流すようにする場合もあれば、熱伝導媒体の温度を加熱器に上昇させる場合もあり、あるいは、加熱器に熱伝導媒体の加熱を停止させてその温度ひいては電解質の温度を低下させる場合もある。
【0030】
本発明において実施される電解においては、電解質23の温度に関して、電解質の動作温度範囲の下限は、電解質を溶融状態に維持するのに必要とされる最低温度である。電解質を溶融状態に維持するのに必要とされる最低温度は、電解質の組成によって左右される。一部の実施形態において、電解質23の温度は、典型的には、85〜140℃、又は100〜130℃である。
【0031】
セルの腐食性条件に曝露された場合にその材料が耐久性を有するかぎり、セルの構成要素を製造するために任意の材料を使用してよい。当業者にとっては公知の通り、セル本体、分離スカート及びダイヤフラムのための有用な材料は、鉄、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル又はニッケル合金、例えばMonel(登録商標)などである。
【0032】
好ましい実施形態において、構成要素は、以下のように配置される。
【0034】
[セル性能]
上述の設計特徴を考慮して、電解質循環の最大化は、以下の通り自由対流及び気泡対流の使用を最大化することによって達成される。
【0035】
[アノード]
アノードチャンバ内で、NF
3、HF及びF
2で構成されるアノードガスは、炭素アノード上をレンズ状気泡の形で上昇する。いずれかの特定の理論により拘束される意図は無いものの、レンズ状気泡は、炭素アノードの表面に付着して過渡的なガスチャネルを作り上げ、これによりガスは液体電解質より上にあるアノードチャンバ内の自由ガス空間内へと上昇することができる。こうして、アノードの表面近くの電解質循環は、上昇するアノードガスによって駆動される。(カソードに対面する)アノード前面のガス気泡は、液体流を上向きに駆動し、ジュール加熱によってひき起こされるアノード前面の自由対流は液体流を上向きに駆動する。
【0036】
[カソード]
カソードチャンバ内では、H
2及びHF気泡で構成されるカソードガスは、電解質内を自由に上昇する。特定の理論により拘束される意図は無いものの、カソードガスの気泡は、およそ0.1mm〜1mmの範囲内にあり、炭素鋼カソードから崩壊して離れる。これらの気泡は、電解質内を自由に上昇して、カソードチャンバ内部に液体電解質流を生成する。カソードと多孔質ダイヤフラムの間の空隙が過度に広い場合には、循環のための駆動力は削減される。空隙がより狭いと、液体循環を駆動するためのより高い局所的ガスホールドアップ及びより大きい表面速度が可能となる。(アノードに対面する)カソード前面のガスの気泡は、液体流を上向きに駆動し、ジュール加熱によってひき起こされるカソード前面の自由対流は、液体流を上向きに駆動する。カソードの背面の冷却表面は、液体流を下向きに駆動する。
【0037】
本発明者らは、意外にも、セルの内部の循環の改善/増大が多くの利益をもたらすことを見出した。例えば、循環の改善/増大は、カソードチャンバからアノードチャンバ内への水素の越流を削減する。その上、循環の改善/増大は、アノードチャンバ内の冷却された電解質の更新によりアノード表面の近くの温度を制御し、こうして、そのような選択性が温度の関数であることを理由として、N
2形成に比べてNF
3の形成に有利に作用する。
【0038】
以上で詳述した電解装置を利用する本発明の方法は、アノード生成ガス流中の水素量を爆発性量より低く、すなわち本発明によると5mol%未満に維持するために使用される。水素量が爆発性量よりも低い量で存在することを保証するため、水素の量は、それが4mol%未満、3mol%未満、2mol%未満、1mol未満又は検出不可量で存在するように維持されてよい。
【0039】
以下の実施例は、本発明の利益をさらに例証するものである。
【実施例】
【0040】
以下の実施例中で使用される電気化学セルは、A.P.Huber、J.Dykstra及びB.H.Thompson,「Multi−ton Production of Fluorine for Manufacture of Uranium Hexafluoride」,Proceedings of the Second United Nations International Conference on the Peaceful Uses of Atomic Energy,Geneva Switzerland,September 1〜13,1958に記載される通りのものである。使用されたアノードブレードは、寸法2インチ×8インチ×22インチでGraftech International(USA)製のYBDXXグレードであった。ただし、F
2又はNF
3の生成にとって有用であるはずの当該技術分野において公知の任意の炭素アノード材料を用いて類似の作用を得ることができると考えられる。このようなアノードとしては、SGL Group(ドイツ)及び東洋炭素株式会社(日本)などのメーカーが製造するものが含まれる。セルの本体は、高さ30インチ、幅32インチ及び長さ74インチでMonel(登録商標)製であった。設計1の場合、活性アノードの計画面積は、12インチ×8インチ×ブレード32枚×1ブレードあたり2面=6144in
2又は3.96m
2であった。設計2の場合、活性ブレードの計画面積は12インチ×8インチ×ブレード32枚×1ブレードあたり1面=3072in
2又は1.98m
2であった。初期三元電解質は、1.5のHF比で、18wt%のNH
4Fと44wt%のKFで構成されていた。以下で詳述される実験のためには、設計2は、
図1に描かれた本発明のセル設計を利用する電解装置である。設計1は、アノードの内側表面に隣接するカソードを有する従来のAECセルである、
図2の対照装置である。
図2では、アノードの内側表面に隣接するカソードに、参照番号100が付番されている。下表は、2つの設計の間のいくつかの差異を強調している。
【0041】
【表2】
【0042】
[実施例1:NF
3の生産性及び純度]
設計1及び2に係るセルに、GrafTech International製の32YBDXXグレードのアノードを供給し、これを3000A〜5000Aで作動させた。これらの電流は、設計1のセルについては7.6〜12.6A/dm
2のアノード電流密度に対応し、設計2のセルについては15.1〜25.2A/dm
2のアノード電流密度に対応していた。設計1のセルを平均17×10
6Ah又は177日間(ここでAh=Amp時間=平均アンペア×オンライン時間数)作動させ、設計2のセルを平均13×10
6Ah又は135日間作動させた。セルを127〜130℃のセル温度に維持した。セルにアンモニア及びHFを加えることにより、HF=37±1%、LiF=1±0.25%、KF=44±1%、NH
4F=18±1%の範囲内に電解質組成を維持し、アノードガス内のF
2レベルを0.5%〜4%に維持した。
【0043】
結果を下表に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
セル抵抗の計算
【数1】
【0046】
定常状態における動作についてのNF
3生産性の計算、
【数2】
【0047】
[実施例2:NF
3電流効率]
設計1及び2に係るセルに、GrafTech International製の32YBDXXグレードのアノードを供給し、これを4000Aの平均電流で作動させた。セルを127〜130℃のセル温度に維持した。
【0048】
結果を下表に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
実施例1及び2は、液体/電解質循環を最大化するようにセル幾何形状が調整されることを条件として、セル抵抗、アノード電流密度及びセル電位が増大する場合でさえ、所与のセルサイズにおけるNF
3生産性を増大させることができるということを示している。
【0051】
以上の説明は、主として例示目的に意図されている。本発明について、その1つの例示的実施形態に関連して図示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その形状及び細部における上述の及びさまざまな他の変更、削除及び追加を行なうことができることを理解するはずである。