特許第5933071号(P5933071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933071
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】加水燃料用添加剤、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/32 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   C10L1/32 D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-86031(P2015-86031)
(22)【出願日】2015年4月20日
(62)【分割の表示】特願2012-538692(P2012-538692)の分割
【原出願日】2011年10月12日
(65)【公開番号】特開2015-172197(P2015-172197A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2015年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-231862(P2010-231862)
(32)【優先日】2010年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515160884
【氏名又は名称】井手上 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井手上 正彦
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−095683(JP,A)
【文献】 米国特許第05004479(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L,B01F
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水燃料用添加剤であって、
炭素数16以上の脂肪酸から選ばれる1種類又は複数種類の界面活性剤と、グリコール系アルコールと、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールと、アンモニア水と、からなる、
加水燃料用添加剤。
【請求項2】
前記加水燃料用添加剤の組成が、前記界面活性剤55〜70重量部、前記グリコール系アルコール10〜15重量部、前記アルコール15〜25重量部(エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールとして)、及び前記アンモニア水5.5〜8.8重量部(25%溶液として)である、
請求項1に記載の加水燃料用添加剤。
【請求項3】
前記炭素数16以上の脂肪酸が、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸又はメリシン酸からなる群から選択される、
請求項1または2に記載の加水燃料用添加剤。
【請求項4】
前記グリコール系アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のグリコール系アルコールである、
請求項1〜3の何れか1項に記載の加水燃料用添加剤。
【請求項5】
炭素数16以上の脂肪酸から選ばれる1種類又は複数種類の界面活性剤と、グリコール系アルコールと、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールと、を混合し攪拌する第1工程と、得られた混合液にアンモニア水を加え、更に攪拌および混合する第2工程と、を含む
加水燃料用添加剤の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程は、前記界面活性剤55〜70重量部、前記グリコール系アルコール10〜15重量部、前記アルコール15〜25重量部(エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールとして)を混合し撹拌することを含み、
前記第2工程は、前記第1工程で得られた混合液に前記アンモニア水5.5〜8.8重量部(25%溶液として)を加え、更に撹拌および混合することを含む、
請求項5に記載の加水燃料用添加剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2010年10月14日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2010−231862号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2010−231862号の全内容を本国際出願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、加水燃料用添加剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、原油価格の高騰や地球資源である化石燃料の枯渇問題、また、それを使用する際に排出され、地球の環境破壊につながるCO等の温室効果ガスや環境汚染物質の低減化の観点から、燃料油に適量の水を混合した燃料、いわゆるエマルジョン燃料の研究が盛んに行われている。
【0004】
エマルジョン燃料は、一般には燃料油(重油や灯油、軽油、廃油等)に水と界面活性剤を添加し、機械的に撹拌して燃料油中に水を分散させた燃料であり、燃料の使用量の削減やそれに伴う環境汚染物質の低減化に、ある程度有効な燃料として公知である。このようなエマルジョン燃料としては、例えば特許文献1から5を始めとした様々なものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−77418
【特許文献2】特開2009−51939
【特許文献3】特開2008−150421
【特許文献4】特開2007−510046
【特許文献5】特開2006−188616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、エマルジョン燃料に関しては、長年にわたり研究、開発が行われており、一部で試験的に運用されている。
しかしながら、前記従来のエマルジョン燃料においては、製造後に比較的短時間で燃料油と水が分離し、上層に油分の多くが移動し下層に水分の多くが移動して二層化することがある。このような二層化による使用上のトラブルや、貯蔵(備蓄)と輸送の困難性及び含水の影響による燃焼効率や燃焼カロリーの低下、熱効率の低下による燃費の低下及び燃焼室の腐食等、様々な欠点や問題点を有していた。
【0007】
したがって、エマルジョン燃料においては、これらの要因が重なり、一部で試験的に運用されている例はあるものの、市場での十分な普及には至っていないのが現状である。
(本発明の目的)
本発明は、水の粒子を細かくし、燃料油全体に均一に分散させ、乳化を抑制して可溶化することができる加水燃料用添加剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、燃料油と水が分離したり二層化したりすることを抑制して、製造後、品質を低下させることなく長期にわたる貯蔵と、輸送ができる加水燃料およびその製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、通常の燃料と比較して、燃焼効率及び燃焼カロリーの向上を図ると共に、CO等の温室効果ガスや環境汚染物質の排出を低減することができる加水燃料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、次のとおりである。
本発明の加水燃料用添加剤は、
炭素数16以上の脂肪酸から選ばれる1種類又は複数種類の界面活性剤と、グリコール系アルコールと、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールと、アンモニアとを含む。
【0010】
本発明の加水燃料用添加剤においては、
記界面活性剤55〜70重量部、前記グリコール系アルコール10〜15重量部、前記アルコール15〜25重量部(エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールとして)、及び前記アンモニア水5.5〜8.8重量部(25%溶液として)であってもよい。
【0011】
本発明の加水燃料用添加剤においては、
当該加水燃料用添加剤の組成が、前記界面活性剤55〜70重量部、前記グリコール系アルコール10〜15重量部、前記アルコール15〜25重量部(エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールとして)を混合した溶液に、該溶液100g当たり、前記アンモニア水(25%溶液として)を1.25〜2.0リットル溶解させたものであってもよい。
【0012】
本発明の加水燃料用添加剤においては、前記のとおり、
前記界面活性剤が、炭素数16以上の脂肪酸から選ばれる1種類又は複数種類の界面活性剤であってもよい。
【0013】
また、前記炭素数が16以上の脂肪酸が、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸又はメリシン酸からなる群から選択されてもよい。
【0014】
本発明の加水燃料用添加剤においては、
前記グリコール系アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のグリコール系アルコールであってもよい。
【0015】
本発明の加水燃料用添加剤においては、前記のとおり、
ルコールが、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールであってもよい。
【0016】
本発明の加水燃料用添加剤の製造方法は、
炭素数16以上の脂肪酸から選ばれる1種類又は複数種類の界面活性剤55〜70重量部、グリコール系アルコール10〜15重量部、アルコール15〜25重量部(エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる1種類または複数種類のアルコールとして)を混合し撹拌する第1工程と、得られた混合液にアンモニア水5.5〜8.8重量部(25%溶液として)を加え、更に撹拌および混合する第2工程と、を含む。
【0017】
開示される水燃料は、
燃料油に、水と、本発明の加水燃料用添加剤とを配合し、前記燃料油に対して水の粒子を細かくして分散し可溶化したものである。
【0018】
水燃料においては、
前記燃料油が、A重油、ガソリン、軽油、灯油、ケロシン、植物油、バイオディーゼル燃料からなる群から選ばれる一種類の燃料油であってもよい。
【0019】
水燃料においては、
当該加水燃料の組成が、前記燃料油58〜62重量部、前記加水燃料用添加剤15〜20重量部、前記水18〜27重量部であってもよい。
【0020】
水燃料の製造方法は、
燃料油58〜62重量部と、本発明の加水燃料用添加剤15〜20重量部とを混合し撹拌する工程と、得られた混合液に水18〜27重量部を加え、撹拌および混合して、前記燃料油に水を可溶化させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、水の粒子を細かくし、燃料油全体に均一に分散させ、乳化を抑制して可溶化することができる加水燃料用添加剤及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明は、燃料油と水が分離したり二層化したりすることを抑制して、製造後、品質を低下させることなく長期にわたる貯蔵と、輸送ができると共に、通常の燃料と比較して、燃焼効率及び燃焼カロリーの向上を図ると共に、CO等の温室効果ガスや環境汚染物質の排出を低減することができる加水燃料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る加水燃料用添加剤及びそれを使用した加水燃料について説明する。
本明細書及び特許請求の範囲において、「可溶化」の用語は、水などの溶媒に本来は溶けないか又は溶けにくい物質が、界面活性剤の存在下で、その溶媒に溶けるようになるという意味を含むものである。
【0023】
本発明に係る加水燃料用添加剤及び加水燃料の原料又は成分の主な性質を以下に簡単に説明する。
前記原料又は成分は、いずれも一般市場で様々な用途に使用されているものであり、流通量も多く比較的安価なものであるため入手が容易である。
【0024】
界面活性剤には多くの種類があるが、本発明においては脂肪酸を使用する。脂肪酸には炭素数が4から30まで様々な種類があり、本発明者が試行及び実験を重ねた結果、炭素数が16以上の脂肪酸が特に有効であることが分かった。
【0025】
炭素数16以上の脂肪酸としては、例えばパルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等があげられる。これらの炭素数16以上の脂肪酸の中でも、特に流通量、価格等の観点から入手及び使用に有利と思われるオレイン酸を使用することが好ましい。本発明では、これらの炭素数16以上の脂肪酸からなる群から選ばれる一種類の界面活性剤を使用してもよいし、これらの炭素数16以上の脂肪酸からなる群から選ばれる複数種類の界面活性剤を混合して使用してもよい。
【0026】
グリコール系アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。これらのグリコール系アルコールの中でも、特に流通量、価格等の観点から入手及び使用に有利と思われるプロピレングリコールを使用することが好ましい。本発明では、ここで例示したグリコール系アルコールの中から一種類を選択して使用してもよいし、ここで例示したグリコール系アルコールの中から複数種類を選択して混合して使用してもよい。
【0027】
た、アルコールとしては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等があげられる。これらのアルコールの中でも、特に流通量、価格等の観点から入手及び使用に有利と思われるエタノールを使用することが好ましい。本発明では、ここで例示したアルコールの中から一種類を選択して使用してもよいし、ここで例示したアルコールの中から複数種類を選択して混合して使用してもよい。
【0028】
オレイン酸(oleic Acid)は、浅黄色もしくは黄褐色をした液体であり、例えばラードのような動植物油に含まれる脂肪酸である。水には溶けず、有機溶剤に溶ける。本発明に係る加水燃料用添加剤の主成分であるが、完成した添加剤の凝固点を勘案して凝固点8℃以下のものを採用するのが好ましい。
【0029】
プロピレングリコール(propylene glycol)は、無色、無味、無臭で吸湿性のある液体である。保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液などとして用いられる。
エタノール(ethanol)は、一般的なアルコールの性質を持つものであり、水を始めとする極性溶媒や炭化水素を含む各種有機溶剤など、様々な溶媒と混和することができる。殺菌、消毒の用途で用いられる。
【0030】
アンモニア(Ammonia)は、常温常圧では無色の気体で、特有の強い刺激臭を持つ。水によく溶けるため、水溶液(アンモニア水)として使用されることも多い。
次に、加水燃料用添加剤の各成分の作用(役割)について説明する。
【0031】
燃料油の表面張力は比較的小さく(弱く)、これに対し水の表面張力は比較的大きい(強い)。界面活性剤は、燃料油と水の双方の表面張力をより小さくし、撹拌混合することで、乳化状態になりやすいようにする働きをする。
【0032】
プロピレングリコールは、水の表面張力の大きさを燃料油の表面張力に近づける改質作用を促進する働きをする。
エタノールは、プロピレングリコールとは反対に燃料油の表面張力の大きさを水の表面張力に近づける改質作用を促進する働きをする。
【0033】
また、アンモニア(アンモニア水)は、水の粒子を細かくして燃料油と水を結合させ、水を可溶化し燃料油に包含させる働きをする。
水燃料用添加剤の製造にあたり、界面活性剤の配合割合が70重量部を超えると、燃料油と水の表面張力を小さくする作用の進行は鈍化し、他の成分の機能を抑制する傾向がある。また、界面活性剤の配合割合が55重量部に満たないと、燃料油と水の表面張力を十分に小さくすることができなくなる傾向がある。これにより、いずれの場合も加水燃料用添加剤を使用した加水燃料が乳化しやすくなる。
【0034】
プロピレングリコールの配合割合が15重量部を超えると、前記水の表面張力の大きさを燃料油の表面張力に近づける改質作用が鈍化する傾向がある。また、プロピレングリコールの配合割合が10重量部に満たないと、前記改質作用が不十分となる傾向がある。これにより、いずれの場合も加水燃料用添加剤を使用した加水燃料が乳化しやすくなる。
【0035】
エタノールの配合割合が25重量部を超えると、前記燃料油の表面張力の大きさを水の表面張力に近づける改質作用が鈍化する傾向がある。また、エタノールの配合割合が15重量部に満たないと、前記改質作用が不十分となる傾向がある。これにより、いずれの場合も加水燃料用添加剤を使用した加水燃料が乳化しやすくなる。
【0036】
アンモニアは、次のような性質を有する。アンモニア水(25%溶液)の場合は、8.8重量部を超えると、前記水の粒子を細かくして燃料油と水を結合させ、水を可溶化し燃料油に包含させる作用が鈍化する傾向がある。また、アンモニアの場合は、界面活性剤、グリコール系アルコール、アルコールを混合した溶液100g当たりの溶解量が2.0リットルを超えると、前記水の粒子を細かくして燃料油と水を結合させ、水を可溶化し燃料油に包含させる作用が鈍化する傾向がある。さらに、アンモニア水(25%溶液)の場合は、5.5重量部に満たないと、前記水を可溶化し燃料油に包含させる作用が不十分となる傾向がある。また、アンモニアの場合は、界面活性剤、グリコール系アルコール、アルコールを混合した溶液100g当たりの溶解量が1.25リットルに満たないと、前記水を可溶化し燃料油に包含させる作用が不十分となる傾向がある。また、これにより、いずれの場合も加水燃料用添加剤を使用した加水燃料が乳化しやすくなる。
【0037】
水燃料の製造にあたり、燃料油の配合割合が58重量部に満たないと、十分な燃焼効率と燃焼カロリーが得られない傾向がある。また、燃料油の配合割合が62重量部を超えると、地球の環境破壊につながるCO等の温室効果ガスや環境汚染物質の排出が増加する傾向がある。
【0038】
水燃料の製造に使用する燃料油は、A重油、ガソリン、軽油、灯油、ケロシン(ジェット燃料として利用される場合がある)、植物油、バイオディーゼル燃料から選択することができる。A重油とは、重油の一種であり、動粘度によりJIS規格で分類されたものである。また、バイオディーゼル燃料は、BDF(登録商標)とも呼ばれ、生物由来油から作られるディーゼルエンジン用燃料の総称である。バイオディーゼル燃料は、バイオマスエネルギーの1つであり、原料となるパーム、ジャトロファ、廃食油などの油脂からグリセリンをエステル交換により取り除くなどして化学処理を施し、ディーゼルエンジンとして使用できるようにしたものである。
【0039】
水の配合割合が27重量部を超えると、十分な燃焼効率と燃焼カロリーが得られない傾向がある。また、水の配合割合が18重量部に満たないと、地球の環境破壊につながるCO等の温室効果ガスや環境汚染物質の排出が増加する傾向がある。
【0040】
水燃料用添加剤の配合割合が15重量部に満たないと、水の粒子を細かくして燃料油と水を結合させることにより水を可溶化し燃料油に包含させることができなくなる傾向がある。また、加水燃料用添加剤の配合割合が20重量部を超えると、水を可溶化し燃料油に包含させることはできても、燃料油の配合割合が相対的に減るため十分な燃焼効率と燃焼カロリーが得られない傾向がある。
【0041】
水燃料用添加剤の製造は、撹拌機に界面活性剤55〜70重量部、グリコール系アルコール10〜15重量部、アルコール15〜25重量部を混合し撹拌する工程と、その後、アンモニア水(25%溶液)5.5〜8.8重量部を混合し、所要時間撹拌して反応させる工程を経て行われる。また、アンモニア水ではなく、アンモニア(アンモニアガス)を使用する場合は、界面活性剤、グリコール系アルコール、アルコールを混合した溶液100g当たり、1.25〜2.0リットルを溶解させる。なお、アンモニア水又はアンモニアを混合した後の反応については、溶液に気泡状のものが発生し、溶液の温度が40〜55℃位まで上昇することで確認ができる。
【0042】
水燃料は、燃料油と前記加水燃料用添加剤及び水の配合割合が、燃料油58〜62重量部、加水燃料用添加剤15〜20重量部、水18〜27重量部である。加水燃料の製造は、燃料油58〜62重量部と加水燃料用添加剤15〜20重量部を混合し、所要時間撹拌する工程と、得られた混合液に水18〜27重量部を加えながら撹拌・混合し、水を可溶化し包含させる工程を経て行われる。
(作用)
まず、燃料油と水を界面活性剤の存在下で混合した後、燃料油と水が分離したり二層化したりする最大の要因は、燃料油と水の表面張力が大きく違うためである。
【0043】
本発明に係る加水燃料用添加剤を使用して加水燃料を製造した場合、燃料油と水の表面張力の大きさが同等又は同等にきわめて近くなることにより、燃料油の粒子の中に水の粒子を細かくして均一に分散させ、可溶化・包含させることができると思われる。この理由は明らかではないが、仮に、前記理由が正しくないとしても、本発明の成立にいささかの影響も与えるものではない。
【0044】
本発明に係る加水燃料は、加水燃料用添加剤の存在下で水の粒子が細かくなって燃料油に可溶化していると思われるので、エマルジョン化(乳化)することがなく、燃料油そのものと同等の透明度を有しており、時間の経過と共に燃料油と水が分離したり二層化したりすることもない。したがって、製造後、数年経過したものも分離したり二層化したりせず透き通った状態、すなわち水の粒子が燃料油に可溶化した状態を保つことができる。
【0045】
また、加水燃料の燃焼時には、一般に使用される燃料油そのものを燃料とした場合と比較して、より完全燃焼に近い状態で燃焼するので、燃焼効率や燃焼カロリーが向上すると共に、CO等温室効果ガスや環境汚染物質の発生も抑制することができる。このことは、後述する取得データはもとより、試験施設である炉内の煤の色、量からも確認することができる。
【0046】
以下、本発明の一実施例について説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
〔加水燃料用添加剤の製造方法〕
本実施例においては、炭素数16以上の脂肪酸としてオレイン酸を使用し、グリコール系アルコールとしてプロピレングリコールを使用し、アルコールとしてエタノールを使用した。
【0048】
水燃料用添加剤は、まず、撹拌機の撹拌槽に、界面活性剤であるオレイン酸1.30kg(65重量部)、プロピレングリコール0.24kg(12重量部)、エタノール0.34kg(17重量部)、を投入して混合し、5分間撹拌する。なお、この撹拌時間は、前記各成分の配合割合や量の違いで適宜調整することができる。この攪拌時間は、例えば、5〜10分間としてもよい。
【0049】
前記のようにオレイン酸、プロピレングリコール及びエタノールを混合した後、撹拌槽にアンモニア水(25%溶液)0.12kg(6重量部)を加えながら、10分間撹拌・混合する。この攪拌時間は、例えば、5〜10分間としてもよい。
【0050】
その後、前記混合物である溶液に気泡状物質が発生し、溶液の温度が反応熱の発生により、40〜55℃位まで徐々に上昇する。なお、温度については外気温などの条件によって前記温度範囲から逸脱することがあってもよい。
【0051】
前記のような溶液中の気泡状物質の発生と溶液の温度の上昇は、化学反応の進行を意味していると思われるが、そのメカニズムについては明らかではない。そして、そのまましばらく撹拌を続けると、この気泡状物質が徐々に消滅していき、溶液の温度も元の温度に戻るので、これが反応の終了を意味すると思われる。このようにして、加水燃料用添加剤2.0kgを製造することができた。
【0052】
前記製造方法で使用する撹拌機は、任意・公知のものが使用される。撹拌方法については、アジテータ、循環ポンプ、ラインミキサーなど、様々な方法があるが、本発明に係る製造方法においては、市販の循環ポンプにより循環させるだけの簡単な方法で撹拌を行った。循環ポンプの吐量など、撹拌の強さについて特に限定するものではないが、気泡が発生するような激しい撹拌を行う必要はない。
〔加水燃料の製造方法〕
次に、前記のようにして製造された加水燃料用添加剤を用いた加水燃料を製造する方法について説明する。
【0053】
撹拌機を使用し、燃料油であるA重油6.0kg(60重量部)と前記のようにして製造された加水燃料用添加剤2.0kg(20重量部)を混合し、5分間撹拌する。撹拌時間はこれに限定するものではなく、前記原料の配合割合や量の違いで適宜調整することができる。この攪拌時間は、例えば、5〜10分間としてもよい。
【0054】
前記撹拌作業によって十分に撹拌することにより、燃料油の中に加水燃料用添加剤を満遍なく均一に混合することが重要である。満遍なく均一に混合することで、この後加えられる水を燃料油の中に均一に分散し、可溶化・包含させることが可能になる。
【0055】
次に、燃料油に加水燃料用添加剤が加えられ撹拌された溶液に、水2.0kg(20重量部)を加えながら、さらに撹拌する。この撹拌時間は本実施例では10分間であるが、撹拌時間はこれに限定するものではなく、各原料の配合割合や量の違いで適宜調整することができる。この攪拌時間は、例えば、5〜10分間としてもよい。
【0056】
このような工程を経ることで、燃料油中には水の粒子が細かくなって均等に分散し、可溶化・包含されたものと思われ、乳化することなく、原料の燃料油であるA重油そのものと同等の透明度を有する加水燃料10.0kgを製造することができた。
【0057】
なお、加水燃料を製造する際に各成分を混合する順序は、燃料油に加水燃料用添加剤を入れた後、水を入れるのが重要である。加水燃料用添加剤と水を直接混合するとドロドロの粘性を有する状態となるため、混合する順序に間違いがないようにする。
【0058】
また、加水燃料の製造に使用する撹拌機は、本実施例ではラインミキサーであるが、他の撹拌機を使用することもできる。また、本実施例に係る加水燃料用添加剤を使用した加水燃料は、原料である水の種類について特に限定することなく使用することができる。つまり、いわゆる硬水でも軟水でも使用することができ、普通の水道水や井戸水を使用することもできる。
【0059】
本実施例に係る加水燃料の外観を経時的に観察した結果について以下に説明する。
比較対象となる燃料としては、本実施例の加水燃料の原料であり、漁船の燃料として使用しているものと同等のA重油を使用した。
【0060】
表1は、A重油と、本実施例に係る加水燃料の製造後における経過時間の異なるサンプルS1、S2の外観を示すデータである。
【0061】
【表1】
〔考察〕
表1から分かるように、製造直後のサンプルS1は、原料の燃料油であるA重油そのものとそれ程違わない透明度を有しており、更に、製造後878日(約二年五ヶ月)が経過したサンプルS2もサンプルS1に比べれば色濃くなったが透明度を有する状態を維持していた。また、サンプルS1、S2共に燃料油であるA重油と水の分離も二層化も認められなかった。このように、本実施例に係る加水燃料は、製造後、長期にわたって燃料油と水の分離及び二層化が起こらない状態を維持できることがわかった。
〔燃焼試験〕
本実施例に係る加水燃料の燃焼試験の結果について以下に説明する。
【0062】
比較対象となる燃料としては、本実施例の加水燃料の原料であり、漁船の燃料として使用しているものと同等のA重油を使用した。
また、A重油と本実施例に係る加水燃料との燃焼試験は、バーナーボイラーを使用して行った。データの測定は、環境衛生科学研究所において、オルザット法、円形ろ紙方、化学発光法、中和滴定法など、JIS規格に沿った測定方法で測定した。
【0063】
具体的には、CO等の排出ガス組成をオルザット法、煤塵濃度を円形ろ紙法、窒素酸化物濃度を化学発光法、硫黄酸化物濃度を中和滴定法、水分量を吸湿管法、酸素濃度をジルコニア式で測定した。
【0064】
なお、使用したバーナーボイラーは、三州社製のビニールハウス暖房機SK−200KM−DFであり、使用した循環ポンプは、荏原製作所社製の15GPE6.4型であり、ラインミキサーは、OHR社製のスタティクミキサーF型を使用した。
【0065】
表2は、A重油と、本実施例に係る加水燃料の製造後における経過時間の異なるサンプルS1、S2の燃焼性能を比較したデータである。
【0066】
【表2】
〔考察〕
表2から、本実施例に係る加水燃料は、A重油と比較して燃焼温度がやや向上することが認められた。また、加水燃料は、温室効果ガスであるCOを始めとする煤塵、窒素酸化物、硫黄酸化物等の各種環境汚染物質の排出量が大幅に低減することがわかった。しかも、加水燃料の製造後における経過時間に関わらず、サンプルS1、S2は、ほぼ同等の値を示した。
【0067】
また、前記燃焼試験の結果から、一応次のようにまとめることができる。
すなわち、バーナーボイラーでの加水燃料の燃焼は、燃料油であるA重油滴の燃焼であり、A重油滴の表面に物理的現象により気化したA重油と空気中の酸素が混合気を形成して燃焼が進行するようである。そして、加水燃料に含まれている水の粒子がこの燃焼により輻射熱を受けて加熱され、沸点に達して次々とミクロ爆発を起こし、周囲のA重油滴を飛散させることによりA重油の二次微粒化が起こるものと考えられる。
【0068】
このように、燃料油であるA重油が瞬時に細かくなる(超微粒化する)ことにより、空気との接触面積が増大し、急速に完全燃焼が行なわれ、燃焼排ガス中の煤煙や未燃炭素の発生を抑えると思われる。また、この接触面積の増大は、燃焼に必要な空気量が過剰になることを抑え、排気ガスによる熱の持ち去りを低く抑えることができるので、省エネルギー効果が大きくなる。
【0069】
この条件を満たすためには、燃料油の粒子の中に水の粒子を細かくして均一に分散・包含させることが最も重要であるが、通常、水の粒子は表面張力が比較的大きいため、例えば20〜40ナノメートルまで細かくすることは困難であり、従来のエマルジョン燃料はこの水の粒子を細かくすることが十分にできていないために乳化した状態となっていた。
【0070】
表3は、本実施例の加水燃料と従来のエマルジョン燃料の特徴の比較を示したものである。エマルジョン燃料については、日本国内だけでも数多くの会社が実験、研究を行っており、容易に入手することができる。ここでは、その中の1つのエマルジョン燃料を比較例として使用した。
【0071】
【表3】
本実施例に係る加水燃料用添加剤は、燃料油に混合される水の粒径を20〜40ナノメートルまで細かくすることが可能であると思われる。水の粒径がナノメートル単位であることは、水がA重油に可溶化し、乳化することなく、透明度がA重油とそれ程変わらないことで証明することができる。これにより、加水燃料を単なる燃料油・水の混合ではなく、燃料油であるA重油の粒子の中に細かくなった水の粒子が均一に分散した可溶化・包含状態とすることができる。
【0072】
なお、エマルジョン燃料に含まれる水の粒子の大きさはマイクロメートル単位であり、ナノメートル単位まで細かくすることができないために乳化した状態となる。
このように、本実施例に係る加水燃料は、エマルジョン燃料と比較して、燃焼温度・燃焼効率及び燃焼カロリーが高く燃費が低下しない。また、燃料油と水が乳化することなく透き通った包含状態となっているために分離したり二層化することがない。したがって、長期にわたる貯蔵と、輸送をすることが可能であり、装置の腐食等、燃焼機関への影響も低減できる。
〔発電機出力試験〕
続いて、本実施例に係る加水燃料の発電機出力試験の結果について以下に説明する。この試験では、発電機として、西鉄テクノサービス株式会社建設機械事業部の福岡営業所にある型式DCA90SPH(発電機容量90KVA/220V/60Hz/236A/力率0.8)の発電機を使用し、また、負荷装置として同営業所の型式LE−125の装置を使用した。
【0073】
比較対象となる燃料としては、本実施例の加水燃料の原料であり、漁船の燃料として使用しているものと同等のA重油を使用した。
その結果を、以下の表4に示す。
【0074】
【表4】
表4に示すように、負荷率100%の場合には、実施例Aは比較例aと比べてやや回転数の低下が確認された。しかし、電流値は、発電機に設けられた自動電圧調整器によって定格電流を発生させることで、実施例Aと比較例aとの間で差は認められなかった。
【0075】
さらに、上記の試験に使用した加水燃料中のA重油の代わりに軽油を使用して製造した加水燃料についても、上記と同様の発電機出力試験を行った。ここでは、比較対象となる燃料として、当該加水燃料の原料である軽油を使用した。
【0076】
その結果を、以下の表5に示す。
【0077】
【表5】
表5に示すように、負荷率100%の場合には、実施例Bは比較例bと比べてやや回転数の低下が確認された。しかし、電流値は、発電機に設けられた自動電圧調整器によって定格電流を発生させることで、実施例Bと比較例bとの間で差は認められなかった。
【0078】
以上より、発電機出力試験では、本発明に加水燃料(実施例AおよびB)とJIS燃料(比較例aおよびb)との間で同等の出力が得られることが確認された。
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態だけに限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術範囲に包含される。