特許第5933088号(P5933088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933088カチオン電着塗料組成物を被塗物に塗装するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5933088
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物を被塗物に塗装するための方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20160526BHJP
   B05D 1/04 20060101ALI20160526BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   B05D3/00 D
   B05D1/04 H
   B05D7/24 302U
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-183642(P2015-183642)
(22)【出願日】2015年9月17日
【審査請求日】2015年9月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068528
【氏名又は名称】神東アクサルタコーティングシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000192844
【氏名又は名称】神東塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】嵐倉 彰一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄野 昌文
(72)【発明者】
【氏名】井上 晋一
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−183106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
C09D1/00−10/00
C09D101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物を被塗物に塗装するための方法において、カチオン電着塗料組成物が、アミン変性エポキシ樹脂(A)ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)、及びその他の成分(C)を構成成分として含み、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対して、カチオン電着塗料組成物を浴液温度28℃において均一に塗装して得られる塗膜の焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が10〜200kΩ・cmであり、かつ、5μmに達したときの塗膜抵抗が30〜350kΩ・cmであること、アミン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA、メチルイソブチルケトン、ジメチルベンジルアミン、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、メチルエタノールアミン、及びジエチレントリアミンのジケチミン物を原料として含むものであり、ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)が、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリプロピレングリコール、εカプロラクタム、ヘキシルグリコール、及びメチルイソブチルケトンを原料として含むものであるか、又はポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、及びメチルイソブチルケトンを原料として含むものであり、その他の成分(C)が、ブチルジグリコールを含み、さらにポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの縮合物又はヘキシルグリコールを含むこと、及び塗装が、浴液温度28℃で行なわれることを特徴とする方法。
【請求項2】
カチオン電着塗料組成物が、顔料ペーストをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被塗物が、鉄系金属基材、アルミニウム系金属基材、又は亜鉛系金属基材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対してカチオン電着塗料組成物を塗装する方法において、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性を高いレベルで維持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に自動車の車体等の被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することによって行なわれる。この方法は、大型で複雑な形状を有する自動車の車体等の被塗物の下塗りに最も適した方法として広く採用されている。
【0003】
金属素材からなる被塗物には、耐食性向上を目的として、例えばリン酸亜鉛による化成皮膜処理が施されたものが使用されている。しかしながら、リン酸亜鉛による化成皮膜処理は、反応性が極めて高い処理剤を使用するため、廃液の処理に多大な工程や労力が必要であり、作業性やコストの点で大きな問題を有している。
【0004】
一方、同じ被塗物の耐食性向上を目的として、ジルコニウム化合物による化成皮膜処理が使用されている。ジルコニウム化合物による化成皮膜処理は、上述のリン酸亜鉛による化成皮膜処理のような問題は生じないが、かかる処理を施された被塗物は、電着塗料との密着性が悪く、しかも化成処理皮膜厚が薄いため、つきまわり性能(被塗物の隅々まで塗膜が形成される性能)が低下する問題があった。
【0005】
これに対して、ジルコニウム化合物による化成皮膜処理を施された被塗物にカチオン電着塗料組成物を塗装するための方法において、塗装温度30℃における180秒間の電圧印加により形成される厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗を900〜1600kΩ・cmにする方法が提案されている(特許文献1参照)。かかる方法は、つきまわり性の向上には有効であるが、塗膜の平滑性、膜厚保持性、耐ガスピンホール性の点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−95678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対してカチオン電着塗料組成物を塗装する方法において、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全てを高いレベルで達成することができる方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、上述の目的を達成するためにカチオン電着塗装の条件について鋭意検討した結果、従来技術より電着塗膜の膜厚が薄い電着工程の極めて初期における塗膜抵抗に着目し、この塗膜抵抗を、比較的低い特定の範囲に制御することによって、かつ電着工程の極めて初期における塗膜抵抗の増加を特定の範囲に制御することによって、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全てを高いレベルで維持することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)の構成を有するものである。
(1)カチオン電着塗料組成物を被塗物に塗装するための方法において、カチオン電着塗料組成物が、アミン変性エポキシ樹脂(A)ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)、及びその他の成分(C)を構成成分として含み、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対して、カチオン電着塗料組成物を浴液温度28℃において均一に塗装して得られる塗膜の焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が10〜200kΩ・cmであり、かつ、5μmに達したときの塗膜抵抗が30〜350kΩ・cmであること、アミン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA、メチルイソブチルケトン、ジメチルベンジルアミン、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、メチルエタノールアミン、及びジエチレントリアミンのジケチミン物を原料として含むものであり、ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)が、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリプロピレングリコール、εカプロラクタム、ヘキシルグリコール、及びメチルイソブチルケトンを原料として含むものであるか、又はポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、及びメチルイソブチルケトンを原料として含むものであり、その他の成分(C)が、ブチルジグリコールを含み、さらにポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの縮合物又はヘキシルグリコールを含むこと、及び塗装が、浴液温度28℃で行なわれることを特徴とする方法。
(2)カチオン電着塗料組成物が、顔料ペーストをさらに含むことを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)被塗物が、鉄系金属基材、アルミニウム系金属基材、又は亜鉛系金属基材であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、カチオン電着工程の極めて初期における塗料の塗膜抵抗及びその増加を特定の範囲に制御しているので、つきまわり性だけでなく、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性も高いレベルで維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、つきまわり性の評価方法を説明する模式図である。
図2図2は、つきまわり性の評価方法を説明する模式図である。
図3図3は、つきまわり性の評価方法を説明する模式図である。
図4図4は、つきまわり性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塗装方法で使用されるカチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(A)及びブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)を必須構成成分として含む。以下、これらの必須構成成分について説明する。
【0013】
[アミン変性エポキシ樹脂(A)]
アミン変性エポキシ樹脂(A)は、アミンで変性されたエポキシ樹脂であり、そのエポキシ骨格は平均して1分子当り2個のエポキシ基を有し、数平均分子量は400〜2400、特に1000〜1600であることが好ましい。具体的には、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有するポリフェノールのグリシジルエーテル、あるいはその重縮合物が挙げられ、好ましいポリフェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等が挙げられるが、特に好ましくは2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、いわゆるビスフェノールAである。さらに、1分子中に2個のアルコール性水酸基を有するジオールのグリシジルエーテル、あるいはその重縮合物が挙げられ、好ましいジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオリゴマージオールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、アミン変性エポキシ樹脂を好適な分子量に調整するためには、上記化合物を連結剤で高分子量化反応させることが必要である。好ましい連結剤としては、上記のポリフェノールや1分子中に2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、カルボキシル基含有のブタジエン重合体、あるいはブタジエン/アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。また、アミノ基を含有する連結剤としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、あるいはヘキサメチレンジアミン等のジアミンの各アミノ基をモノエポキシ化合物で2級化したジアミン等が挙げられる。さらに、エポキシ基の開環により生成した水酸基に対して、ジイソシアネートによる連結も可能である。特に好ましくは、上記ポリフェノールのグリシジルエーテルあるいは上記ジオールのグリシジルエーテル、もしくはこれらの混合物を上記ポリフェノールで連結反応する方法により達成することができ、触媒存在下で70〜180℃で反応させるのが好適である。
【0015】
エポキシ末端はアミノ化を基本とするが、エポキシ基の一部を必要に応じて1分子中に1個のカルボキシル基を有する化合物、あるいは1分子中に1個のフェノール性水酸基を有する化合物で付加反応させて樹脂の塩基性を調整することができる。アミノ化剤としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエチレントリアミンの1級アミノ基をケトンと反応させたジケチミン、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。特に好ましくは、水酸基を有するアルカノールアミン類を用いた場合であり、反応は無溶剤あるいは溶剤存在下で50〜130℃で行なうのが好適である。
【0016】
[ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)]
ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)は、ポリイソシアネートと、それをブロックするブロック剤とから構成される。ポリイソシアネートとしては、2,4−あるいは2,6−トルエンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−あるいは1,4−ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビス−(イソシアネートメチル)−ノルボルナン、3−あるいは4−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、m−あるいはp−キシレンジイソシアネート、m−あるいはp−テトラメチルキシレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独でも混合物でも使用可能である。
【0017】
ポリイソシアネートは、一部をポリオールと反応させることができる。かかる例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のセロソルブ化合物、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール化合物、アセト酢酸エチルエステル、マロン酸ジエチルエステル等の活性メチレン基含有化合物が挙げられる。
【0019】
ポリイソシアネートとブロック剤の反応は、無溶剤あるいはイソシアネート基と反応しない溶剤の存在下で、50〜130℃で行なうのが好適である。
【0020】
本発明の塗装方法で使用されるカチオン電着塗料組成物におけるアミン変性エポキシ樹脂(A)/ブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)の重量割合は特に限定されるものではないが、固形分重量比で55〜75/45〜25であることが好ましい。
【0021】
[その他の成分]
本発明の塗装方法で使用されるカチオン電着塗料組成物は、上述のアミン変性エポキシ樹脂(A)及びブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)の必須構成成分以外に、所望により顔料ペースト、さらには、可塑剤、界面活性剤、UV吸収剤、酸化防止剤などの任意の公知の添加成分を含むことができる。
【0022】
顔料ペーストは、顔料分散樹脂を水溶化し、必要に応じて消泡剤や界面活性剤、はじき防止剤等の添加剤を配合したビヒクルに体質顔料、着色顔料、防錆顔料、硬化触媒顔料等を混合し、分散機を通して顔料分散したものである。
【0023】
顔料分散樹脂としては、アミン変性エポキシ樹脂(A)をギ酸や酢酸、乳酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸等で中和した3級アミン型やエポキシ末端を4級化した4級アンモニウム塩型が使用できる。体質顔料としては、カオリン、タルク、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ等、着色顔料としては、カーボンブラック、チタンホワイト、ベンガラ等、防錆顔料としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ビスマス化合物等、硬化触媒としては、スズ化合物、ビスマス化合物等が使用できる。
【0024】
本発明の塗装方法で使用されるカチオン電着塗料組成物における合計樹脂重量(A+B)/顔料ペーストの重量割合は特に限定はされないが、70〜80/30〜20であることが好ましい。
【0025】
アミン変性エポキシ樹脂(A)、及びブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)を混合した樹脂をエマルション化する際に必要な中和酸は、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸等が好適であり、これらの混合物も使用可能である。
【0026】
本発明の塗装方法で使用されるカチオン電着塗料組成物は、上記エマルションを脱イオン水で希釈し、所望により顔料ペーストを撹拌下で混合することによって得られる。塗料組成物の固形分濃度は、20%前後に調整することが好ましい。
【0027】
[被塗物の基材]
本発明の塗装方法の塗装対象である被塗物は、カチオン電着可能な金属基材であれば特に限定されないが、例えば鉄系金属基材、アルミニウム系金属基材、又は亜鉛系金属基材を使用することができる。本発明の塗装方法によれば、被塗物が鉄系金属基材及びアルミニウム系金属基材である場合に生じる、つきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性の問題を解消し、被塗物が亜鉛系金属基材である場合に特有のこれらの問題と、耐ガスピンホール性の問題を解消することができる。
【0028】
[ジルコニウム化成皮膜処理]
本発明の塗装方法では、被塗物には、ジルコニウム化成皮膜処理を予め施しておき、かかるジルコニウム化成皮膜処理が施された被塗物に対してカチオン電着塗装を行なう。ジルコニウム化成皮膜処理は、ジルコニウム化成処理剤を被塗物と接触させて、被塗物の表面に化成処理皮膜を形成させる処理であり、被塗物の耐食性や塗膜密着性を向上させるために施される。
【0029】
ジルコニウム化成皮膜処理は、リン酸亜鉛化成皮膜処理と比べて環境に対する負荷が少ない点で、今日多く採用されている。ジルコニウム化成処理剤としては、従来から様々なものが提案されているが、一般的には、フッ化ジルコン酸などのジルコニウム含有化合物、フッ化水素酸などの、処理液の安定化のためのフッ素化合物、及びその他の任意の添加成分を水に溶解したものである。また、最近、廃水中のフッ素含有量の規制強化の傾向を受けて、フッ素含有化合物を含まないタイプのジルコニウム化成処理剤も提案されている。本発明においては、これらのジルコニウム化成処理剤に限らず、従来公知のいずれのジルコニウム化成処理剤も使用することができる。
【0030】
このようなジルコニウム化成処理剤を被塗物と接触させることによって、被塗物の表面に化成処理皮膜が形成される。ジルコニウム化成処理剤を被塗物に接触させる方法は、特に限定されず、一般的に浸漬法、スプレー法、ロールコート法、流しかけ法等を挙げることができる。処理温度及び処理時間も、特に限定されず、一般的に20〜80℃及び2〜1000秒である。形成された化成処理皮膜中のジルコニウムの含有量は、一般的に10mg/m〜1g/mである。
【0031】
[塗膜抵抗]
本発明の塗装方法は、このようにしてジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対して、上述のカチオン電着塗料組成物を塗装するが、ここで、カチオン電着塗料組成物を浴液温度28℃において均一に塗装して得られる塗膜の焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が10〜200kΩ・cmであり、かつ、5μmに達したときの塗膜抵抗が30〜350kΩ・cmであることを特徴とする。膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗は、カチオン電着工程の極めて初期における塗膜抵抗に相当する。本発明は、この極めて初期の塗膜抵抗を、比較的低い特定の範囲に制御し、さらにこの極めて初期での塗膜抵抗の増加を特定の範囲に制御することによって、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全てを高いレベルで両立することを可能にする。
【0032】
本発明では、塗膜の焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗は、10〜200kΩ・cmであることが必要であり、好ましくは40〜150kΩ・cm、より好ましくは60〜130kΩ・cmである。膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が上記下限未満の場合、最終的に形成される塗膜は、つきまわり性に劣る。一方、膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が上記上限を超える場合、最終的に形成される塗膜は、塗膜の平滑性に劣る。
【0033】
また、本発明では、塗膜の焼付後の膜厚が5μmに達したときの塗膜抵抗は、30〜350kΩ・cmであることが必要であり、好ましくは80〜270kΩ・cm、より好ましくは120〜250kΩ・cmである。膜厚が5μmに達したときの塗膜抵抗が上記下限未満の場合、最終的に形成される塗膜は、つきまわり性に劣る。一方、膜厚が5μmに達したときの塗膜抵抗が上記上限を超える場合、最終的に形成される塗膜は、膜厚保持性、及び(被塗物が亜鉛系金属基材である場合は)耐ガスピンホール性に劣る。
【0034】
膜厚が3μm及び5μmに達したときの塗膜抵抗を上述の範囲に制御することは、析出した未硬化状態の塗膜の物性値を調整することで行なわれる。具体的には、析出塗膜の樹脂成分の粘弾性、塩基性度、析出塗膜に含まれる溶剤の種類、量、析出塗膜の顔料濃度などを調整することにより制御することができる。一般には、析出塗膜を柔らかい方向に調整すると、析出塗膜中でイオン性物質が移動しやすくなり、塗膜抵抗が低くなり、樹脂の粘弾性を低い方向に、塩基性度を高い方向に、溶剤量を多い方向に、顔料濃度を低い方向に調整すると、塗膜抵抗が低くなる。ただし、本発明で着目している電着初期段階においては、析出した粒子が融着し、被塗物上で成膜するという工程が関与するため、実際に成分の種類や量の変化に対する塗膜抵抗の変動傾向を個別具体的に把握してから調整することが好ましい。
【0035】
[カチオン電着塗装]
本発明の方法では、カチオン電着塗装は、従来通り、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することによって行なえばよい。電着塗装の条件は、特に限定されないが、一般的に、印加電圧は50〜500V程度であり、通電時間は、30秒〜10分程度である。電着塗装後、被塗物を水洗して、表面に残留する余分な塗料組成物を洗い落とす。その後、焼付けを行なって、被塗物の表面に形成された塗膜を硬化させる。カチオン電着塗装で得られる最終的な塗膜の焼付後の膜厚は、一般的に5〜100μmである。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
(アミン変性エポキシ樹脂A1の製造)
表1に記載の原料配合に従ってアミン変性エポキシ樹脂A1を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を投入し、撹拌を開始し、150℃で3時間保温し、続いて原料(5)を投入し150℃で2時間保温した後、原料(6)を徐々に投入しながら80℃まで冷却した。次いで原料(7)、(8)を順次投入し、100℃で4時間保温して、固形分75重量%のアミン変性エポキシ樹脂A1を得た。
【0038】
【表1】
【0039】
(アミン変性エポキシ樹脂A2の製造)
表2に記載の原料配合に従ってアミン変性エポキシ樹脂A2を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を投入し、撹拌を開始し、150℃で3時間保温し、続いて原料(5)を投入し150℃で2時間保温した後、原料(6)を徐々に投入しながら80℃まで冷却した。次いで原料(7)、(8)を順次投入し、100℃で4時間保温して、固形分75重量%のアミン変性エポキシ樹脂A2を得た。
【0040】
【表2】
【0041】
(ブロックイソシアネート硬化剤樹脂B1の製造)
表3に記載の原料配合に従ってブロックイソシアネート硬化剤樹脂B1を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)、(5)を投入し、撹拌を開始し、発熱に注意しながら昇温し、100℃で3時間保温して、固形分85重量%のブロックイソシアネート硬化剤樹脂B1を得た。
【0042】
【表3】
【0043】
(ブロックイソシアネート硬化剤樹脂B2の製造)
表4に記載の原料配合に従ってブロックイソシアネート硬化剤樹脂B2を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を投入し、撹拌を開始し、発熱に注意しながら昇温し、100℃で3時間保温して、固形分85重量%のブロックイソシアネート硬化剤樹脂B2を得た。
【0044】
【表4】
【0045】
(顔料分散樹脂P1の製造)
表5に記載の原料配合に従って顔料分散樹脂P1を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を投入し、撹拌を開始した。150℃で4時間保温した後、原料(5)を徐々に投入しながら70℃まで冷却した。次いで原料(6)、(7)の混合物を投入し、80℃で2時間保温して、固形分70重量%の顔料分散樹脂P1を得た。
【0046】
【表5】
【0047】
(顔料分散樹脂P2の製造)
表6に記載の原料配合に従って顔料分散樹脂P2を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)を投入し、撹拌を開始した。発熱に注意しながら昇温し、120℃で4時間保温して、固形分70重量%の顔料分散樹脂P2を得た。
【0048】
【表6】
【0049】
(エマルションの製造)
表7に記載の原料配合に従ってエマルションE1〜E10を製造した。具体的には、撹拌機、温度計、冷却管および減圧装置を備えた3リットルのフラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)を投入し、撹拌を開始した。次いで原料(10)を徐々に投入し、固形分30重量%のエマルションE1〜E10を得た。
【0050】
【表7】
【0051】
(顔料ペーストの製造)
表8に記載の原料配合に従って顔料ペーストD1、D2を製造した。具体的には、容器に原料(1)、(2)を投入し、撹拌を開始した。原料(3)、(4)をゆっくりと投入して溶解させた。次いで原料(5)、(6)、(7)、(8)、(9)を投入し、常温で1時間均一混合したものを横型サンドミルで粒度10μm以下になるまで分散し、固形分60重量%の顔料ペーストD1、D2を得た。
【0052】
【表8】
【0053】
(カチオン電着塗料組成物の製造)
表9に記載の配合に従って実施例で使用するカチオン電着塗料組成物a〜e、及び比較例で使用するカチオン電着塗料組成物f〜jを製造した。具体的には、容器に各エマルション1749gをはかりとり、撹拌下で脱イオン水1791gを投入し、次いで各顔料ペースト460gを投入して、固形分20重量%の各カチオン電着塗料組成物を得た。
【0054】
【表9】
【0055】
(被塗物の準備)
被塗物として、冷間圧延鋼板(SPC−SD)、亜鉛系めっき鋼板(GA)、及び6000系アルミニウム(Al)を準備した。これらの被塗物はいずれも、日本テストパネル社製であり、その大きさは、70mm×150mm×0.8mmであった。
【0056】
(ジルコニウム化成皮膜処理)
次に、これらの被塗物に対して、以下の手順に従って、ジルコニウム化成皮膜処理を施した。
【0057】
シラン縮合反応物の製造
温度計、撹拌機、冷却管、窒素導入機を具備した1リットルのフラスコに対してエタノール200g、脱イオン水200gを仕込み、攪拌を行なった。気相に窒素を吹き込み、攪拌を続けながら、3−アミノプロピルトリエトキシシラン110g、ビス(トリエトキシシリル)エタン10gを投入し、均一な溶液が得られた後に60℃まで昇温した。60℃で6時間反応させてから、留分を除去し、プロピレングリコールモノメチルエーテルに交換しながら、沸点が120℃になるまで昇温した。次いで60℃まで冷却した後、減圧蒸留で濃縮し、不揮発分40%溶液のシラン縮合反応物を得た。
【0058】
金属表面処理用組成物の調製
上記のようにして得られたシラン縮合反応物と、六フッ化ジルコニウム酸アンモニウム及び硝酸マグネシウムを使用して、ジルコニウムの金属元素換算濃度が100ppm、マグネシウムの金属元素換算濃度が1000ppm、シラン縮合反応物の固形分濃度が200ppmであるように金属表面処理用組成物を調製した。
【0059】
40℃の市販脱脂液に各被塗物を2分間浸漬して脱脂処理した後、水道水で30秒間の水洗処理に供した。次いで、水洗処理後の各被塗物を、pH4.0、温度45℃に調整した金属表面処理用組成物に120秒間浸漬処理した。pHは硝酸又はアンモニアで調整した。浸漬処理後の各被塗物を水道水で30秒間水洗し、さらにイオン交換水で30秒間水洗処理に供した。次いで、熱風乾燥炉により80℃で5分間乾燥させ、ジルコニウム化成皮膜処理を施された各被塗物を得た。
【0060】
実施例1〜5及び比較例1〜5(被塗物として、鉄系金属基材を使用した例)
ジルコニウム化成皮膜処理を施された被塗物として、鉄系金属基材である冷間圧延鋼板(SPC−SD)を使用し、カチオン電着塗料組成物として、表10に示すものを使用し、カチオン電着塗装を行ない、膜厚が3μm及び5μmに達した時の塗膜抵抗を測定し、その結果を表10に示した。塗膜抵抗の具体的な測定手順は、以下の通りである。
【0061】
[塗膜抵抗]
ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物の裏面をガムテープなどでマスキングする。極板/被塗物比を1/4、極間距離を150mmとして、28℃に調整したカチオン電着塗料組成物に被塗物を全没させる。撹拌下に荷電圧30Vで1秒単位の塗装を行ない、式(1)から、塗膜が所定の厚さ(3μm及び5μm)に達した時の塗膜抵抗[kΩ・cm]を求める。
R=V×S×(1/Af−1/Ai)・・・式(1)
式中、R:塗膜抵抗(kΩ・cm
V :極間電圧(V)
Ai:初期電流値(A)
Af:最終電流値(A)
S :被塗面積(cm
【0062】
【表10】
【0063】
表10から明らかな通り、実施例1〜5はいずれも、膜厚3μmでの塗膜抵抗が15〜195kΩ・cmの範囲であり、膜厚5μmでの塗膜抵抗が35〜345kΩ・cmの範囲であり、いずれも本発明の範囲内である。これに対して、比較例1〜5はいずれも、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗の少なくとも一方が本発明の範囲外である。即ち、比較例1は、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がそれぞれ5kΩ・cm及び7kΩ・cmであり、本発明の範囲の下限未満である。比較例2は、膜厚3μmでの塗膜抵抗が5kΩ・cmであり、本発明の範囲の下限未満であり、膜厚5μmでの塗膜抵抗が400kΩ・cmであり、本発明の範囲の上限より大きい。比較例3は、膜厚5μmでの塗膜抵抗が400kΩ・cmであり、本発明の範囲の上限より大きい。比較例4は、膜厚3μmでの塗膜抵抗が230kΩ・cmであり、本発明の範囲の上限より大きい。比較例5は、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がそれぞれ230kΩ・cm及び400kΩ・cmであり、本発明の範囲の上限より大きい。
【0064】
次に、実施例1〜5及び比較例1〜5のカチオン電着塗料組成物を使用して、以下の手順でつきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性を評価し、その結果を表11に示した。なお、表11には、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗の値を再掲している。
【0065】
[つきまわり性]
つきまわり性は、4枚ボックス法により評価した。即ち、図1に示すように、パネル底部から50mm、両側から35mmの位置に8mm径の貫通穴が設けてあるパネル(a)と、穴のないパネル(b)に、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物を用いて、図2図3に示すように、組み合わせ(対極面側から順に、A面、B面、C面・・・非対極面側をH面と称する)、4枚を立てた状態で間隔20mmの平行に配置し、両側面及び底部を粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックスを用いる。このボックスを図4に示すように各実施例または比較例のカチオン電着塗料組成物を入れたカチオン電着塗装容器に浸漬し、各貫通穴からのみカチオン電着塗料組成物がボックス内に侵入するようにする。次に各被塗物を電気的に接続し、最も対極に近い被塗物(A面)と対極との距離が150mmになるように配置する。このボックスを陰極とし、対極を陽極として電圧を印加し、浴液温度28℃でカチオン電着塗装を行なった。通電方法は5〜30秒で所定の電圧まで昇圧する方法(ソフトスタート)でも、通常の通電でも良いが、今回はドカン通電を採用した。塗装後、ボックスを分解して各被塗物を水洗し、170℃で20分間焼付けし、A面からH面までの膜厚を測定する。A面膜厚(単位μm)に対するG面膜厚(単位μm)の割合(G/A)により、つきまわり性を評価し、この値が大きいほどつきまわり性が良いと評価できる。
浸漬深さ:9cm、負荷電圧:200V
評価基準
○:G/Aが55%以上
△:G/Aが35%以上55%未満
×:G/Aが35%未満
【0066】
[塗膜の平滑性]
浴液温度28℃で、焼付後の硬化塗膜の膜厚が20μmとなる塗装電圧で、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物をカチオン電着塗装する。水洗した後、170℃で20分間焼付し、硬化塗膜を得る。得られた塗膜について、株式会社ミツトヨ製の表面粗度計SJ−301を用いて、塗膜の平滑性(Ra)を測定する。
測定条件
カットオフ:2.5mm
送り速さ:0.5mm/秒
評価基準
○:Raが0.25以下
△:Raが0.25超0.31未満
×:Raが0.31以上
【0067】
[膜厚保持性]
ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物を用いて、浴液温度28℃、負荷電圧200V、通電時間3分(30秒スロー昇圧)の条件でカチオン電着塗装させるときに、30℃でエージングさせたカチオン電着塗料組成物について、建浴後1日目の膜厚に対する経時7日目の膜厚保持率を評価する。
評価基準
○:膜厚保持率85%以上
△:膜厚保持率70%超85%未満
×:膜厚保持率70%以下
【0068】
【表11】
【0069】
表11から明らかな通り、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がいずれも本発明の範囲内である実施例1〜5は、つきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性の全ての性能に優れていた。これに対して、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗の少なくとも一方が本発明の範囲外である比較例1〜5は、つきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性のうちの少なくとも一つの性能に劣っていた。
【0070】
実施例6〜8及び比較例6〜7(被塗物として、亜鉛系金属基材を使用した例)
ジルコニウム化成皮膜処理を施された被塗物として、亜鉛系金属基材である亜鉛系めっき鋼板(GA)を使用し、カチオン電着塗料組成物として、表12に示すものを使用し、カチオン電着塗装を行ない、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順で、膜厚が3μm及び5μmに達した時の塗膜抵抗を測定し、次に、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順でつきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性を評価し、その結果を表12に示した。なお、耐ガスピンホール性は、亜鉛系金属基材に特有の現象であるガスピンホールの発生しにくさを評価するものであり、その評価手順は、以下の通りである。
【0071】
[耐ガスピンホール性]
浴液温度28℃、負荷電圧230V、通電時間3分(30秒スロー昇圧)で、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物をカチオン電着塗装し、水洗した後、170℃で20分間焼付し、硬化塗膜を得る。得られた塗膜について、発生するガスピンホール数を評価する。
評価基準
○:塗膜にガスピンホールが発生しない
△:塗膜のガスピンホール数が1〜20個
×:塗膜のガスピンホール数が21個以上
【0072】
【表12】
【0073】
表12から明らかな通り、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がいずれも本発明の範囲内である実施例6〜8は、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全ての性能に優れていた。これに対して、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がいずれも本発明の範囲外である比較例6〜7は、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性のうちの少なくとも一つの性能に劣っていた。
【0074】
実施例9〜11及び比較例8〜9(被塗物として、アルミニウム系金属基材を使用した例)
ジルコニウム化成皮膜処理を施された被塗物として、アルミニウム系金属基材である5000系アルミニウム(Al)又は6000系アルミニウム(Al)を使用し、カチオン電着塗料組成物として、表13に示すものを使用し、カチオン電着塗装を行ない、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順で、塗膜が3μm及び5μmに達した時の塗膜抵抗を測定し、次に、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順でつきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性を評価し、その結果を表13に示した。
【0075】
【表13】
【0076】
表13から明らかな通り、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がいずれも本発明の範囲内である実施例9〜11は、つきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性の全ての性能に優れていた。これに対して、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗がいずれも本発明の範囲外である比較例8〜9は、つきまわり性、塗膜の平滑性、及び膜厚保持性のうちの少なくとも一つの性能に劣っていた。
【0077】
参考例(特許文献1の実施例1の再現)
特許文献1(特開2010−95678)の記述に従い、製造例2−1のブロックイソシアネート硬化剤、製造例2−2のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂、製造例2−3のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、及び製造例2−7の顔料分散樹脂ワニスを合成した。次に、製造例2−7の顔料分散樹脂ワニスを用いて、製造例2−8の顔料分散ペーストを作成した。次に、特許文献1の実施例1の記述に従い、製造例2−3のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と製造例2−1のブロックイソシアネート硬化剤より、バインダー樹脂エマルジョンを得た。得られたバインダー樹脂エマルジョンに製造例2−2のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を加え、混合物を得た。得られた混合物に製造例2−8の顔料分散ペーストを加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0078】
被塗物として、亜鉛系金属基材である亜鉛系めっき鋼板(GA)を使用し、カチオン電着塗料組成物として、上記調整によって得られたカチオン電着塗料組成物を使用して、浴液温度28℃でカチオン電着塗装を行ない、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順で、膜厚が3μm及び5μmに達した時の塗膜抵抗を測定し、次に、実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の手順でつきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性を評価し、その結果を表14に示した。また、膜厚が15μmに達した時の塗膜抵抗も、特許文献1に記載の測定方法に従って測定して、その結果を表14に示した。
【0079】
【表14】
【0080】
表14から明らかな通り、参考例は、膜厚15μmでの塗膜抵抗は、特許文献1の請求項1に規定される範囲内であるが、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗はいずれも、本発明の範囲の上限より大きかった。また、参考例では、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性が不良となった。
【0081】
参考例が、特許文献1では、つきまわり性及び塗膜の外観評価において優れた評価を得ながら、本願の上記性能評価において劣った評価しか得られなかった原因を検討すると、この原因は、特許文献1と本願の評価条件(目標膜厚)の厳しさの相違にあると考えられる。即ち、特許文献1での性能評価条件は、目標膜厚15μmであり、この性能評価条件は、本願の評価条件(目標膜厚20μm)に比べて緩い条件であるため、参考例は、特許文献1では、つきまわり性及び塗膜の外観評価の点で性能評価が優れることになっていたが、本願のような厳しい条件では、つきまわり性を除く他の全ての性能について、劣った結果を示すことになったと思われる。この点から、特許文献1の方法は、あくまで膜厚15μmの塗膜を形成するときには好ましいが、本願のように標準膜厚(20μm)において塗膜のつきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全ての性能を良好にするためには、膜厚3μm及び5μmでの塗膜抵抗を本願で規定する範囲に制御することが必要であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の方法は、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対して、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性を高いレベルで維持することができるので、極めて有用である。
【要約】
【課題】ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対してカチオン電着塗料組成物を塗装する方法において、つきまわり性、塗膜の平滑性、膜厚保持性、及び耐ガスピンホール性の全てを高いレベルで達成することができる方法を提供する。
【解決手段】カチオン電着塗料組成物を被塗物に塗装するための方法において、カチオン電着塗料組成物が、アミン変性エポキシ樹脂(A)及びブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)を構成成分として含み、ジルコニウム化成皮膜処理を施した被塗物に対して、カチオン電着塗料組成物を浴液温度28℃において均一に塗装して得られる塗膜の焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗が10〜200kΩ・cmであり、かつ、5μmに達したときの塗膜抵抗が30〜350kΩ・cmであることを特徴とする。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4