(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、本発明の実施形態におけるスパークプラグ300の構成を示す説明図である。
図1において、スパークプラグ300の中心軸である軸線OLの右側にはスパークプラグ300の側面構成を示しており、軸線OLの左側にはスパークプラグ300の中心軸を通る断面構成を示している。なお、以下の説明では、軸線OLに沿って、後述する接地電極10が配置されている側(
図1の下方側)を先端側と呼び、後述する端子金具40が配置されている側(
図1の上方側)を後端側と呼ぶ。
【0019】
スパークプラグ300は、絶縁碍子30と、中心電極20と、主体金具50と、接地電極10と、端子金具40とを備えている。中心電極20は絶縁碍子30によって保持され、絶縁碍子30は主体金具50によって保持されている。接地電極10は主体金具50の先端側の端面57に取り付けられており、端子金具40は絶縁碍子30の後端側に取り付けられている。
【0020】
絶縁碍子30は、軸線OLと平行な軸孔31を備えた筒状の絶縁体であり、アルミナ等のセラミックス材料を焼成して形成される。絶縁碍子30は、中央胴部32と、後端側胴部33と、先端側胴部34と、脚長部35とを備えている。中央胴部32は、絶縁碍子30において、軸線OLに沿った中央付近に配置されており、他の部分よりも外径が大きい。後端側胴部33は、中央胴部32よりも後端側に配置されており、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する。先端側胴部34は、中央胴部32よりも先端側に配置されており、脚長部35は、先端側胴部34よりも先端側に配置されている。脚長部35の外径は、先端側胴部34の外径よりも小さい。
【0021】
中心電極20は、棒状の金属製部材であり、セラミック抵抗61およびシール体62を介して端子金具40に電気的に接続されている。中心電極20は、絶縁碍子30の軸孔31に挿入されており、中心電極20の先端側の一部は、絶縁碍子30の脚長部35から露出している(この点については後述する)。中心電極20は、被覆部分25の内側に、被覆部分25よりも熱伝導性に優れる芯部分26が埋設された構造を有している(
図3参照)。中心電極20の被覆部分25としては、例えば、ニッケルを主成分とするニッケル合金からなる材料を採用することができる。中心電極20の芯部分26としては、例えば、銅または銅を主成分とする合金からなる材料を採用することができる。
【0022】
中心電極20の先端側の端部には、耐火花消耗性や耐酸化消耗性を向上させるための貴金属チップ70が設けられている。貴金属チップ70は、貴金属あるいは貴金属を主成分とする合金を用いて形成されている。例えば、貴金属チップ70は、Pt−Ir合金(Ptを主成分とするIrを添加した合金)(密度21(g/cm
3))またはIr−Pt合金(Irを主成分とするPtを添加した合金)(密度22(g/cm
3))と、母材としてのインコネル(INC600)(密度8.3(g/cm3))とからなる材料を用いて形成される。なお、「主成分」とあるのは、貴金属チップ中、最も多く添加されている成分をいう。貴金属チップ70は、貴金属成分が50質量%以上であることが好ましい。また、貴金属チップ70と中心電極20との密度差が、中心電極20の密度の2倍以上であることがより好ましい。
【0023】
主体金具50は、絶縁碍子30における後端側胴部33の先端側の一部から脚長部35に亘る部分を包囲する略円筒形の金具である。主体金具50は、例えば、低炭素鋼などの金属により形成されている。主体金具50は、ネジ部52と、工具係合部51と、座部54とを備えている。ネジ部52は、主体金具50の先端側に配置され、略円筒形の外観形状を有している。ネジ部52の表面には、スパークプラグ300をエンジンヘッド500に取り付ける際に、エンジンヘッド500のネジ孔201に螺合するネジ山が形成されている。工具係合部51は、例えば、六角形の断面形状を有し、スパークプラグ300をエンジンヘッド500に取り付ける際に図示しない工具と嵌合する。座部54とエンジンヘッド500との間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット59が嵌挿される。主体金具50は、主体金具50の後端部53が加締められることにより、絶縁碍子30に組み付けられる。
【0024】
接地電極10は、屈曲した棒状の金属製部材である。接地電極10の構造は、図示しないが、中心電極20と同様である。すなわち、接地電極10は、ニッケル合金からなる被覆部分に、銅または銅を主成分とする合金からなる芯部分が埋設された構造を有している。接地電極10の一方の端部である基端部12は、主体金具50の先端側の端面57に接合されており、他方の端部である自由端部11は中心電極20の先端側の端部と対向するように屈曲されている。接地電極10の自由端部11と中心電極20の先端側の端部との間には、火花放電のための間隙(放電ギャップ)が形成される。接地電極10の自由端部11に、耐火花消耗性や耐酸化消耗性を向上させるための貴金属チップが接合されていてもよい。
【0025】
端子金具40は、先端側が絶縁碍子30の軸孔31に収容され、後端部が軸孔31から露出している。端子金具40には、図示しない高圧ケーブルが接続され、高電圧が印加される。
【0026】
A−2.中心電極の詳細構成:
図2ないし
図4は、中心電極20の詳細構成を示す説明図である。
図2には、中心電極20における先端側の一部の側面構成を示しており、
図3には、中心電極20における先端側の一部の中心軸を通る断面構成を示している。また、
図4には、中心電極20と貴金属チップ70とをレーザー溶接によって接合する前の断面構成を示している。なお、
図2ないし
図4では、図の上方側が先端側であり、図の下方側が後端側である。
【0027】
中心電極20は、軸方向に沿った長さがLs(mm)であり直径がDs(mm)である略円柱形状の小径部23と、小径部23の後端側に位置し、直径がDg(mm)(ただし、Dg>Ds)の略円柱形状の大径部21と、小径部23と大径部21とを連結する連結部22とを有している。連結部22の形状は、小径部23との境界位置(直径Ds)から大径部21との境界位置(直径Dg)にかけて直径が連続的に変化するテーパー形状である。このように、本実施形態では、中心電極20が小径部23と連結部22と大径部21とを有する構成であるため、良好な着火性を有する。
【0028】
図2に示すように、中心電極20の小径部23および連結部22は、絶縁碍子30(の脚長部35)の先端側の端面よりも先端側に位置している。すなわち、連結部22と大径部21との境界は、絶縁碍子30の先端側の端面よりも先端側に位置する。中心電極20と絶縁碍子30との位置関係をこのような関係にすると、着火性が向上するため好ましい。ただし、連結部22と大径部21との境界が絶縁碍子30の先端側の端面より後端側に位置しても、該境界と該先端側端面との軸方向に沿った距離Lgが2mm以内であれば、着火性の低下は軽微である。絶縁碍子30(絶縁体)と中心電極20の大径部21との間のクリアランスXは、通常は0mmを超える値である。このクリアランスXの好ましい値については後述する。
【0029】
中心電極20の小径部23の先端側の端部には、貴金属チップ70がレーザー溶接により接合されている。貴金属チップ70を接合する際には、
図4に示すように、略円柱形状の貴金属チップ70が小径部23の先端側の端面に載置された状態で、貴金属チップ70と小径部23との境界部分にレーザーが照射される。これにより、
図2および
図3に示すように、該境界部分に溶融部92が形成され、貴金属チップ70と中心電極20とが接合される。
【0030】
なお、貴金属チップ70と中心電極20とが接合された状態において、
図3に示すように、溶接前の貴金属チップ70と小径部23との境界が残っている場合には、貴金属チップ70の長さLcは実測可能である。一方、
図5に示すように、溶融部92が径方向に連続的に形成され、溶接前の貴金属チップ70と小径部23との境界が残っていない場合には、次のように貴金属チップ70の長さLcを推定する。中心電極20の中心軸を含む断面において、貴金属チップ70を径方向に3等分する2つの直線SLを想定し、各直線SLにおいて溶融部92と重複する部分(線分)の中点Pa,Pbを求め、軸方向に沿った貴金属チップ70の先端側端面と各中点Pa,Pbとの間の距離La,Lbの平均((La+Lb)/2)を、貴金属チップ70の長さLcとして推定する。貴金属チップ70の長さLcが推定されれば、小径部23の長さLsも推定される。
【0031】
A−3.性能評価試験:
以上説明した本実施形態のスパークプラグ300を対象に、着火性、貴金属チップ70の耐久性および中心電極20の耐折損性について性能評価試験を行った。
【0032】
A−3−1.着火性に関する性能評価試験:
スパークプラグ300の着火性に関する性能評価試験結果を表1に示す。着火性に関する性能評価試験では、中心電極20の小径部23の長さLsを異ならせた複数のサンプル(サンプル1−5)について、失火しない限界の空燃比を調べた。限界空燃比の値が大きいほど、スパークプラグ300の着火性は良い。詳細な試験条件は、試験方法:失火限界法、使用エンジン:タイプ;直列4気筒DOHC自然吸気型、排気量;1.6リットル、運転条件:回転数;1600rpm、貴金属チップ70の寸法:直径Dc;0.6mm、長さLc;0.5mm、小径部23の寸法:直径Ds;0.9mm、長さLs;0.6−0.8mm(サンプルによって異なる)、大径部21の寸法:直径Dg;2.6mm、である。
【0034】
小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとの和(Lc+Ls)が1.15以上であるサンプル2−5は、限界空燃比が19以上であり、良好な着火性を示した。一方、和(Lc+Ls)が1.15より小さいサンプル1は、限界空燃比が19未満であり、良好な着火性が得られなかった。なお、この試験では、小径部23の長さLsを変えることによって和(Lc+Ls)を変化させたが、貴金属チップ70の長さLcを変えることによって和(Lc+Ls)を変化させても、同様の試験結果が得られると考えられる。すなわち、スパークプラグ300の着火性は、小径部23の長さLsおよび貴金属チップ70の長さLcの個々の値ではなく、それらの和(Lc+Ls)によって左右されると考えられる。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、スパークプラグ300の良好な着火性を確保するという観点から、下記の関係を満たすように構成されていることが好ましい。
Lc+Ls≧1.15
【0035】
ただし、小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとの和(Lc+Ls)が大きすぎると、エンジン内での過加熱による中心電極20の耐久性低下の問題が発生する。そのため、中心電極20は、良好な着火性と耐久性とを確保するという観点から、下記の関係を満たすように構成されていることがより好ましい。
1.15≦Lc+Ls≦3.0
また、中心電極20は、良好な着火性とより良好な耐久性とを確保するという観点から、下記の関係を満たすように構成されていることがさらに好ましい。
1.15≦Lc+Ls≦2.0
【0036】
A−3−2.耐久性に関する性能評価試験:
スパークプラグ300の耐久性に関する性能評価試験結果を
図6に示す。中心電極20の小径部23の直径Dsを小さくするほど、貴金属チップ70からの熱引き性が悪くなるため、貴金属チップ70の消耗が大きくなる。耐久性に関する性能評価試験では、中心電極20の小径部23の直径Dsと、貴金属チップ70の消耗との関係について調べた。詳細な試験条件は、試験方法:エンジン全開耐久試験、使用エンジン:タイプ;直列4気筒DOHC自然吸気型、排気量;1.6リットル、運転条件:回転数;5000rpm W.O.T.、100時間運転、大径部21の温度;摂氏800度、貴金属チップ70(Ir−Pt合金)の寸法:直径Dc;0.6mm、長さLc;0.5mm、小径部23の寸法:直径Ds;0.5−1.2mm(サンプルによって異なる)、長さLs;0.65mm、である。
【0037】
図6に示すように、小径部23の直径Dsが大きいほど、貴金属チップ70からの熱引き性が良くなるため、貴金属チップ70の消耗量が小さくなる。具体的には、小径部23の直径Dsが0.6mm(すなわち、貴金属チップ70の直径Dcと同じ値)以上である場合には、貴金属チップ70の消耗量が0.1mm未満となるため好ましい。一方、小径部23の直径Dsが1.0mm(すなわち、貴金属チップ70の直径Dcより0.4mm大きい値)以上である場合には、直径Dsを大きくしても貴金属チップ70の消耗量は横ばいである。これは、小径部23の直径Dsと貴金属チップ70の直径Dcとの差がある程度以上大きいと、直径Dsを大きくしても、その増加部分が貴金属チップ70からの熱引きにほとんど寄与しないためであると考えられる。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、スパークプラグ300の良好な着火性の確保と貴金属チップ70の消耗抑制の観点から、下記の関係を満たすように構成されていることが好ましい。
Dc≦Ds≦Dc+0.4
【0038】
A−3−3.中心電極20の耐折損性に関する第1の性能評価試験:
中心電極20の耐折損性に関する第1の性能評価試験結果を表2ないし表9に示す。耐折損性に関する第1の性能評価試験では、小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとの和(Lc+Ls)に対する小径部23の長さLsの比(Ls/(Lc+Ls)、以下「小径部占有比」と呼ぶ)を異ならせた複数のサンプルについて、耐折損性を調べた。なお、各サンプルの小径部占有比を異ならせるために、和(Lc+Ls)を1.15(mm)(表2ないし表5)または1.2(mm)(表6ないし表9)に固定しつつ、各サンプルの小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとを異ならせた。
【0039】
小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))は、中心電極20の内、小径部23と貴金属チップ70とにより構成された部分の全長に対する、小径部23の長さLsの占める割合を表している。貴金属チップ70は密度の高い材料で形成されているため、和(Lc+Ls)が同じであれば、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が大きいほど、小径部23と貴金属チップ70とにより構成された部分は軽くなる。そのため、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が大きいほど、耐折損性は向上すると考えられる。詳細な試験条件は、試験方法:超音波振動試験、振動方向:中心電極20の径方向、振動周波数:27.3kHz、評価:振動を180秒間与えた場合の中心電極20の折損有無(〇:折損無し、×:折損有り)、貴金属チップ70の寸法:直径Dc;0.4−1.0mm(サンプルによって異なる)、長さLc;0.3−0.8mm(サンプルによって異なる)、小径部23の寸法:直径Ds;0.7−1.3mm(サンプルによって異なる)、長さLs;0.35−0.85mm(サンプルによって異なる)、大径部21の寸法:直径Dg;2.6mm、溶融部92の寸法:溶融部92の軸方向に沿った長さ;0.4mm、である。
【0048】
表2ないし表5には、小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとの和(Lc+Ls)が1.15(mm)である場合の評価試験結果を示しており、表6ないし表9には、上記和(Lc+Ls)が1.2(mm)である場合の評価試験結果を示している。表2ないし表5のそれぞれは、貴金属チップ70の直径Dcと小径部23の直径Dsとが互いに異なっている。同様に、表6ないし表9のそれぞれは、貴金属チップ70の直径Dcと小径部23の直径Dsとが互いに異なっている。
【0049】
小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が0.48未満のサンプル(サンプル11,12,21,22,31,32,41,42,51,52,61,62,71,72,81,82)では、貴金属チップ70の直径Dcや小径部23の直径Dsの大小にかかわらず、180秒間の振動によって折損が発生した。なお、折損は、小径部23と連結部22との境界付近で発生した。一方、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が0.48以上のサンプル(上記以外のサンプル)では、直径Dcや直径Dsの大小にかかわらず、180秒間の振動を与えても折損は発生しなかった。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、耐折損性を向上させるという観点から、下記の関係を満たすように構成されていることが好ましい。
Ls/(Lc+Ls)≧0.48
【0050】
ただし、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が大きすぎると、貴金属チップ70の長さLcが短くなりすぎて、貴金属チップ70の耐久性低下の問題が発生する。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、耐折損性の向上と貴金属チップ70の耐久性確保との観点から、下記の関係を満たすように構成されていることがより好ましい。
0.48≦Ls/(Lc+Ls)≦0.75
【0051】
A−3−4.中心電極20の耐折損性に関する第2の性能評価試験:
中心電極20の耐折損性に関する第2の性能評価試験結果を表10ないし表17に示す。耐折損性に関する第2の性能評価試験は、上述した耐折損性に関する第1の性能評価試験において、振動を与える時間を180秒間から300秒間に変更したものであり、その他の方法・条件等については耐折損性に関する第1の性能評価試験と同じである。
【0060】
表10ないし表13には、小径部23の長さLsと貴金属チップ70の長さLcとの和(Lc+Ls)が1.15(mm)である場合の評価試験結果を示しており、表14ないし表17には、上記和(Lc+Ls)が1.2(mm)である場合の評価試験結果を示している。表10ないし表13のそれぞれは、貴金属チップ70の直径Dcと小径部23の直径Dsとが互いに異なっている。同様に、表14ないし表17のそれぞれは、貴金属チップ70の直径Dcと小径部23の直径Dsとが互いに異なっている。
【0061】
小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が0.61未満のサンプル(サンプル91,92,93,101,102,103,111,112,113,121,122,123,131,132,133,141,142,143,151,152,153,161,162,163)では、貴金属チップ70の直径Dcや小径部23の直径Dsの大小にかかわらず、300秒間の振動によって折損が発生した。一方、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が0.61以上のサンプル(上記以外のサンプル)では、直径Dcや直径Dsの大小にかかわらず、300秒間の振動を与えても折損は発生しなかった。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、耐折損性のさらなる向上と貴金属チップ70の耐久性確保との観点から、下記の関係を満たすように構成されていることがさらに好ましい。
0.61≦Ls/(Lc+Ls)≦0.75
【0062】
A−3−5.中心電極20の耐折損性に関する第3の性能評価試験:
中心電極20の耐折損性に関する第3の性能評価試験結果を
図7に示す。中心電極20の耐折損性は、大径部21の直径Dgにも影響される。一般に、大径部21の直径Dgが小さいほど、中心電極20の振動が大きくなるため、中心電極20の折損の可能性は高くなる。耐折損性に関する第3の性能評価試験では、大径部21の直径Dgが互いに異なる複数のサンプルについて、耐折損性を調べた。具体的には、バーナー冷熱試験(バーナーによる2分間加熱(摂氏900度)と1分間冷却とを1000サイクル繰り返す試験)の後に、上述した耐折損性に関する第1,2の性能評価試験と同様の超音波振動試験を行った。ただし、耐折損性に関する第3の性能評価試験では、中心電極20の折損が発生するまで振動を与え続けた。詳細な試験条件は、貴金属チップ70の寸法:直径Dc;0.6mm、長さLc;0.8mmまたは0.4mm(サンプルによって異なる)、小径部23の寸法:直径Ds;0.9mm、長さLs;0.4mmまたは0.8mm(サンプルによって異なる)、大径部21の寸法:直径Dg;1.7−2.6mm(サンプルによって異なる)、である。
【0063】
図7に示すように、全体的傾向として、大径部21の直径Dgが小さいほど、中心電極20の折損までの時間が短い(すなわち、耐折損性が低い)。また、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))に着目すると、小径部占有比が0.67であるサンプル(
図7において三角形プロットにより示す)は、小径部占有比が0.33であるサンプル(
図7において円形プロットにより示す)と比較して、中心電極20の折損までの時間が長い(すなわち、耐折損性が高い)。
【0064】
試験では、大径部21の直径Dgが同じサンプル同士を比較して、小径部占有比を0.33から0.67に変更することによる耐折損性向上率を求めた。耐折損性向上率は、小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))が0.33であるサンプルが折損するまでの時間に対する、小径部占有比が0.67であるサンプルが折損するまでの時間の比として算出される。
図7に示すように、耐折損性向上率は、大径部21の直径Dgが小さいほど高い。具体的には、大径部21の直径Dgが2.6mm以下であれば、耐折損性向上率は1.1(10%向上)以上である。そのため、スパークプラグ300の中心電極20が、下記の関係を満たすように構成されていれば、上述のように小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))を大きくなるように構成することによる耐折損性向上の効果が大きいと言える。
Dg≦2.6
【0065】
また、大径部21の直径Dgが2.3mm以下であれば、耐折損性向上率は1.3(30%向上)以上である。そのため、スパークプラグ300の中心電極20が、下記の関係を満たすように構成されていれば、上述のように小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))を大きくなるように構成することによる耐折損性向上の効果がさらに大きいと言える。
Dg≦2.3
【0066】
ただし、大径部21の直径Dgが小さすぎると、大径部21の加工容易性の低下や耐久性の低下といった問題が発生する。そのため、スパークプラグ300の中心電極20は、耐折損性の向上と大径部21の加工容易性・耐久性の確保との観点から、下記の関係を満たすように構成されていることがより好ましい。
1.7≦Dg≦2.3
【0067】
また、
図7によれば、大径部21の直径Dgが1.9mm以下であれば、耐折損性向上率は1.8(80%向上)以上である。そのため、スパークプラグ300の中心電極20が、下記の関係を満たすように構成されていれば、上述のように小径部占有比(Ls/(Lc+Ls))を大きくなるように構成することによる耐折損性向上の効果がより大きいと言える。
1.7≦Dg≦1.9
【0068】
A−3−6.中心電極20の耐折損性に関する第4の性能評価試験:
中心電極20の耐折損性に関する第4の性能評価試験結果を
図8に示す。中心電極20の耐折損性は、中心電極20と絶縁碍子30との間のクリアランスX(
図2)にも影響される。一般に、クリアランスXが大きいほど、中心電極20の振動が大きくなるため、中心電極20の折損の可能性は高くなる。耐折損性に関する第4の性能評価試験では、クリアランスXが互いに異なる2種類のサンプル(比較例サンプル及び実施例サンプル)について、耐折損性を調べた。上述した第3の性能評価試験は、絶縁碍子30が付されていない中心電極20をサンプルとして使用していたが、第4の性能評価試験では、絶縁碍子30付きの中心電極20をサンプルとして使用した。その他の試験条件は、サンプルの形状が異なる点以外は、上述した第3の性能評価試験と同じである。比較例サンプルの形状は、貴金属チップ70の寸法:直径Dc;0.6mm、長さLc;0.8mm、小径部23の寸法:直径Ds;0.9mm、長さLs;0.4mm、大径部21の寸法:直径Dg;1.9mm、である。また、実施例サンプルの形状は、貴金属チップ70の寸法:直径Dc;0.6mm、長さLc;0.4mm、小径部23の寸法:直径Ds;0.9mm、長さLs;0.8mm、大径部21の寸法:直径Dg;1.9mm、である。なお、
図8の実施例サンプルの寸法は、
図7において黒三角のプロットのうちでDg=1.9mmで示されるサンプルの寸法に対応している。
【0069】
図8に示すように、全体的傾向として、クリアランスXが大きいほど、中心電極20の折損までの時間が短い(すなわち、耐折損性が低い)。なお、実施例サンプルでは、クリアランスXがゼロの場合について試験をしていないが、比較例サンプルの傾向を考慮するとクリアンランスXが0.03mmの場合以上の折損時間になるものと推定される。クリアンランスXが0.03〜0.15mmである実施例サンプルは、折損時間が138秒以上であり、
図7に示した黒三角のプロット(Dg=1.9mm)の結果よりも良好な耐折損性を有する。また、クリアンランスXが0.20mmである実施例サンプルでは、折損時間が112秒であり、
図7に示した黒三角のプロット(Dg=1.9mm)の結果とほぼ同等である。従って、クリアンランスXの範囲を制限することによって耐折損性を向上させるという意味では、クリアンランスXを0.15mm以下とすることが好ましい。また、中心電極20の熱膨張を考慮すると、クリアンランスXは0mmを超えることが好ましい。従って、スパークプラグ300の中心電極20が、下記の関係を満たすように構成されていれば、耐折損性を更に向上させることが可能である。
0.03≦X≦0.15
【0070】
A−4.その他:
図9は、中心電極20の小径部23と連結部22の境界部分の好ましい形状を示す説明図である。
図2と
図9とを比較すれば理解できるように、
図9のスパークプラグでは、小径部23と連結部22の境界部分24にR(いわゆる丸め形状)が付されている。換言すれば、この境界部分24は、丸められた輪郭を有しており、小径部23と連結部22の境目が不明瞭であって、正面視ではなだらかな曲面を示す。一方、
図2に示したスパークプラグでは、小径部23と連結部22の境界部は、これらの両者の境目が明瞭であり、正面視では2つの直線が一点で交わる幾何学的な形状を示す。なお、
図9に示した境界部分24は、境界部分24の全周に亘ってこのような丸め形状を有することが好ましい。また、丸め形状の半径Rは、0.1mm以上0.5mm以下の範囲とすることが好ましい。このような丸め形状を有するように境界部分24を形成すれば、中心電極20に外力が掛かった場合にも、小径部23と連結部22の振れを小さく抑えることができる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態のスパークプラグ300は、中心電極20を備えており、中心電極20は、先端にレーザー溶接によって貴金属チップ70が接合された小径部23と、小径部23より径の大きい大径部21と、小径部23と大径部21とを連結する連結部22とを有している。このようなスパークプラグ300を、下記の式(1)−(3)を満たすように構成すれば、下記式(2)を満たすことによって、良好な着火性を確保しつつ中心電極20の耐久性低下を抑制することができ、また下記式(3)を満たすことによって、下記式(1)のように耐折損性が低くなる傾向にある大径部21の直径Dgが小さい中心電極20を用いても、中心電極20の先端に位置する貴金属チップ70と小径部23とで構成された部分の重量増大を抑制して中心電極20の耐折損性を向上させることができると共に、貴金属チップ70の長さが極端に短くなることを回避して貴金属チップ70の耐久性低下を抑制することができる。なお、下記の式(1)−(3)において、Lcは貴金属チップ70の軸方向長さであり、Lsは小径部23の軸方向長さである。
Dg≦2.6・・・(1)
1.15≦Lc+Ls≦3.0・・・(2)
0.48≦Ls/(Lc+Ls)≦0.75・・・(3)
【0072】
また、スパークプラグ300を、さらに下記の式(4)を満たすように構成すれば、中心電極20の先端に位置する貴金属チップ70と小径部23とで構成された部分の重量をより軽減することができ、中心電極20の耐折損性をさらに向上させることができる。
0.61≦Ls/(Lc+Ls)≦0.75・・・(4)
【0073】
また、スパークプラグ300を、さらに下記の式(5)を満たすように構成すれば、小径部23の直径Dsが過大となることを防止して良好な着火性を確保しつつ、小径部23を介した貴金属チップ70からの熱引きをある程度確保して貴金属チップ70の消耗を抑制することができる。なお、下記の式(5)において、Dcは貴金属チップ70の直径であり、Dsは小径部23の直径である。
Dc≦Ds≦Dc+0.4・・・(5)
【0074】
また、スパークプラグ300を、さらに下記の式(6)を満たすように構成すれば、大径部21の直径Dgが過度に小さくなって加工が困難となったり耐久性が低下したりすることを回避しつつ、耐折損性が低くなる傾向にある大径部21の直径Dgが小さい中心電極20の耐折損性を向上させることができる。
1.7≦Dg≦2.3・・・(6)
【0075】
また、スパークプラグ300を、さらに下記の式(7)を満たすように構成すれば、耐折損性がより低くなる傾向にある大径部21の直径Dgがより小さい中心電極20を用いても、中心電極20の耐折損性を向上させることができる。
1.7≦Dg≦1.9・・・(7)
【0076】
また、スパークプラグ300の中心電極20と絶縁体(絶縁碍子30)との間のクリアランスをX(mm)としたときに、さらに下記の式(8)を満たすように構成すれば、中心電極の耐折損性を更に向上させることができる。
0.03≦X≦0.15・・・(8)
【0077】
また、スパークプラグ300の中心電極20の小径部23と連結部22の境界部分24が丸められた輪郭を有するようにすれば、中心電極20に外力が掛かった場合にも、小径部23と連結部22の振れを小さく抑えることができる。
【0078】
B.変形例:
上記実施形態におけるスパークプラグ300の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、スパークプラグ300の各構成部品を形成する材料は、上記実施形態に記載された材料に限られない。また、上記実施形態では、中心電極20は、被覆部分25と芯部分26との2層構造であるとしているが、中心電極20は単層構造であってもよいし、3層以上の構造であってもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、小径部23と貴金属チップ70との境界はスパークプラグ300の中心軸に略垂直な平坦形状であるが(
図4)、この境界が凹凸のある形状であってもよい。小径部23と貴金属チップ70との境界が凹凸のある形状である場合には、小径部23の長さLsおよび貴金属チップ70の長さLcを決めるための境界面は、小径部23における最も先端側に位置する部分を通り、スパークプラグ300の中心軸に略垂直な平面であるものとする。
【0080】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。