特許第5933170号(P5933170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933170ポリブテン−1(共)重合体およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933170
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】ポリブテン−1(共)重合体およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/08 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   C08F10/08
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-226881(P2010-226881)
(22)【出願日】2010年10月6日
(62)【分割の表示】特願平11-544231の分割
【原出願日】1999年3月2日
(65)【公開番号】特開2011-46953(P2011-46953A)
(43)【公開日】2011年3月10日
【審査請求日】2010年11月1日
(31)【優先権主張番号】98200674.4
(32)【優先日】1998年3月5日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513076604
【氏名又は名称】バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】セッチヒン,ジュリアノ
(72)【発明者】
【氏名】コリーナ,ジャンニ
(72)【発明者】
【氏名】コベジ,マッシモ
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−060613(JP,A)
【文献】 特開平05−009352(JP,A)
【文献】 エドワード・P・ムーア 編著者,保田哲男、佐久間暢 翻訳監修者,ポリプロピレンハンドブック,株式会社工業調査会,1998年 5月15日,第24頁,第47頁−第55頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60− 4/70
C08F 10/00− 10/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)13C−NMR分析により測定されたアイソタクチックインデックス(mmmm%)が95よりも高く、
(ii)特定の方法に従ったGPC分析により測定された分子量分布(MWD)がMw/Mnでより高く10.3以下である、
ポリブテン−1単独重合体、またはブテン−1のほかに2〜10の炭素原子を有するアルファ−オレフィンを20重量%まで含むポリブテン−1共重合体の製造方法であって、
(A)Ti化合物およびMgCl2に担持された内部電子供与化合物からなる固体成分、(B)アルキルアルミニウム化合物、および
(C)外部電子供与化合物としてのRSi(ORで表される化合物(ここでaは1であり、bは1であり、cは2であり、RおよびRはヘテロ原子を任意に含む炭素原子1〜18のアルキル、シクロアルキルまたはアリール基であって、RおよびRの少なくとも一方が、ヘテロ原子を任意に含む炭素原子3〜10の分岐状アルキル、シクロアルキルまたはアリール基から選択され、Rは、1〜10の炭素原子を含有するアルキル基である)からなる立体特異性触媒を用い、
ブテン−1、またはブテン−1と2〜10の炭素原子を有するアルファ−オレフィンとを、分子量調節剤濃度の異なる2以上の重合工程にて重合することを含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記ポリブテン−1単独重合体またはポリブテン−1共重合体の前記アイソタクチックインデックス(mmmm%)が95よりも高く、95.4以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記外部電子供与化合物におけるaが1、bが1、cが2、かつR、Rの少なくとも一方が炭素原子3〜10の分岐状アルキルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記外部電子供与化合物が、ジイソプロピルジメトキシシランである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリブテン−1単独重合体または共重合体のASTM D1238 Eに従ったメルトインデックスが0.1〜10(g/10分)である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブテン−1(共)重合体およびそれらの製造方法に関する。さらに本発明は、本発明のポリブテン−1(共)重合体から得られる物品に関する。特に、本発明は、高い結晶化度および広い分子量分布により特徴づけられるポリブテン−1(共)重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブテン−1(共)重合体はこの技術分野でよく知られている。耐圧性、耐クリープ性および衝撃強さの点におけるそれらの良い特性のゆえに、それらは金属パイプに置き換えられるべきパイプの製造に主に用いられる。それらの良い性質にもかかわらず、ポリブテン−1の物品、特にパイプの性能は、一般的な機械特性および特に耐圧性の点において、完全には満足できない結果をしばしばもたらしていた。したがって、このようなポリブテン−1(共)重合体の性質、特に機械特性を、物品(特にパイプ)における耐圧性(耐破裂応力ともいう)が高度に改善されるように、改善することが望まれている。ポリブテン−1(共)重合体は、一般に、助触媒としてのジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)とともに、TiClを主とした触媒成分の存在下に、ブテン−1を重合させることにより製造される。時には、ジエチルアルミニウムヨーダイド(DEAI)もDEACと混合して用いられる。得られる重合体は、しかしながら、一般に、満足できる機械特性を示さない。さらに、TiClを主とした触媒で得られる低い収率ゆえに、これらの触媒で製造されるポリブテン類は、ポリマーの性質を低下さす高含量の触媒残渣(一般に、300ppmより多いTi)を含んでおり、脱灰分の工程が必要となる。
【0003】
ポリブテン−1(共)重合体は、(A)MgClに担持されたTi化合物と電子供与化合物からなる固体成分;(B)アルキルアルミニウム化合物および、所望により(C)外部の電子供与化合物からなる立体特異性のある触媒の存在下に、モノマーを重合することによっても製造される。
【0004】
このタイプの方法はEP−A−17296に記載されている。この方法では、デカリン中135℃で測定したときの極限粘度数[η]が1.5から4であり、アイソタクチシティの値が少なくとも95%であり、そして、Mw/Mnで示される分子量分布(MWD)が6より大きくないポリブテン−1重合体を製造することができる。
【0005】
しかしながら、上記の出願において記載されたポリマーが示す機械特性は、完全に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第17296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、優れた機械特性を有し、高い耐破裂応力のパイプを得ることができるポリブテン−1共重合体の必要性が、依然として求められている。
驚くべきことに、非常に高い結晶化度および広い分子量分布を有するポリブテン−1(共)重合体が、上記の要求に合うことが見出された。したがって、以下の性質で特徴付けられるポリブテン−1単独重合体またはブテン−1以外の2〜10の炭素原子を有するアルファーオレフィンを20重量%まで含むポリブテン−1共重合体を提供することが本発明の目的である。
(i)後記の方法によるNMR分析で測定されるアイソタクチック指数(mmmm%)が93よりも高く;
(ii)後記の方法によるGPC分析で測定される分子量分布(MWD)がMw/Mnで6より高く;そして(iii)Tippmで表わされる触媒残渣の含量が50よりも低い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましくは、本発明の(共)重合体は94、より好ましくは95よりも高いアイソタクチック指数を有する。さらに、極めて高い結晶化度および極めて広いMWDを併せ有する(共)重合体が、より良い機械特性を有していることが認められたので、7よりも高い、さらに好ましくは9よりも高いMWDを有するポリブテン−1(共)重合体はさらに好ましい。上で説明したとおり、上記の条件を満足するかぎり、α−オレフィンを20重量%まで含むブテン−1の共重合体も、本発明の範囲に含まれる。ブテンとは異なるα−オレフィン類の中でも特に好ましいのは、エチレン、プロピレンおよびヘキセン−1からなる群から選択されるものである。本発明の共重合体は、そのようなオレフィン類を好ましくは2〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%含む。
【0009】
ポリマーの分子量に関して特に限定はないが、(共)重合体はメルトインデックス「E」が100〜0.01、より好ましくは10〜0.1の範囲内となるようなMwを有するのが好ましい。特に、重合体がパイプ製造用の押出成形装置に用いられるとき、1〜0.1、特に0.3〜0.5の範囲のメルトインデックスを有する重合体が好ましい。
【0010】
本発明の重合体は、(A)MgClに担持されたTi化合物と内部電子供与化合物からなる固体成分;(B)アルキルアルミニウム化合物、および任意に(C)外部電子供与化合物からなる立体特異性触媒の存在下に、単量体を重合することにより製造できる。活性型の塩化マグネシウムが支持体として好適に用いられる。活性型の塩化マグネシウムがチーグラーナッタ触媒用の支持体として特に適していることが、特許文献から広く知られている。特に、米国特許第4,298,718号および米国特許第4,495,338号は、チーグラーナッタ触媒におけるこれらの化合物の使用を記載した最初のものである。これらの特許から、オレフィン重合用の触媒成分中の担体または補助担体として使用される活性型のマグネシウムジハライドが、X線スペクトルにより特徴付けられることが知られている。このX線スペクトルでは、不活性ハライドのスペクトラムにおいて出現する最も強い回折線が激減し、最大の強度がより強い線のそれに対して相対的に低い角度の方へ移動しているハロにより置き換えられている。
【0011】
本発明の触媒成分中で使用される好ましいチタン化合物は、TiClおよびTiClであり;さらに、式Ti(OR)n−y(ここで、nはチタンの原子価であり、yは1からnの間の数である)のTi−ハロアルコレートが使用され得る。
【0012】
内部電子供与化合物は、エステル、エーテル、アミンおよびケトンから選択され得る。それは好ましくは、モノカルボン酸類、例えば安息香酸、もしくはポリカルボン酸類、例えばフタル酸もしくはマロン酸のアルキル、シクロアルキルもしくはアリールエステルから選択される。該アルキル、シクロアルキルまたはアリール基は1〜18の炭素原子を有する。そのような電子供与化合物の例は、安息香酸メチル、安息香酸エチルおよびフタル酸ジイソブチルである。
【0013】
固体触媒成分の製造は、いくつかの方法により行うことができる。これらの方法の1つによれば、無水状態の塩化マグネシウムおよび内部電子供与化合物は、塩化マグネシウムの活性化が起こる条件下で一緒に粉砕される。このようにして得られた生成物は、80〜135℃の温度で、過剰のTiClで1回またはそれ以上処理され得る。この処理に次いで、クロライドのイオンが消失するまで炭化水素溶媒で洗浄する。さらなる方法によれば、無水状態の塩化マグネシウム、チタン化合物および内部電子供与化合物を一緒に粉砕して得られる生成物を、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロメタンなどのようなハロゲン化炭化水素で処理する。この処理は、1〜4時間、40℃〜ハロゲン化炭化水素の沸点までの温度で行われる。得られる生成物を次いで、一般にヘキサンのような不活性炭化水素溶媒で洗浄する。
【0014】
さらに他の方法によれば、塩化マグネシウムを公知の方法で予め活性化し、次いで、約80〜135℃の温度で、溶液中に内部電子供与化合物を含む過剰のTiClで処理する。TiClでの処理を繰り返し、未反応のTiClを除去するために、固体をヘキサンで洗浄する。
【0015】
さらなる方法は、マグネシウムアルコラートもしくはクロロアルコラート(特に、米国特許第4,220,554号に従って製造されたクロロアルコラート)と内部電子供与化合物からなる過剰のTiClとを、溶液中、約80〜120℃の温度で反応させることからなる。
【0016】
好ましい方法によれば、固体触媒成分は、式Ti(OR)n−y(式中、nはチタンの原子価であり、yは1〜nの数である)のチタン化合物、好ましくはTiClと、式MgCl・pROH(式中、pは0.1および6の間の数、好ましくは2〜3.5の数であり、Rは1〜18の炭素原子を有する炭化水素基である)の付加化合物から誘導される塩化マグネシウムとの反応により製造され得る。
【0017】
付加化合物は、アルコールと塩化マグネシウムを、付加化合物と非混和性の不活性炭化水素の存在下に混合し、付加化合物の融点温度(100〜130℃)で攪拌条件下に操作することにより、好適に球状に製造される。次いで、このエマルジョンをすばやく冷却することによって、球状粒子の形態にある付加化合物の固化を引き起こす。この方法により製造される球状の付加化合物の例は、米国特許第4,399,054号および米国特許第4,469,648号に記載されている。このようにして得られた付加化合物は、Ti化合物と直接反応させることができ、あるいはアルコールのモル数が通常3より低く、好ましくは0.1〜2.5の間にある付加化合物を得るように、それを熱制御された脱アルコール(80−130℃)に前もって付すことができる。Ti化合物との反応は、付加化合物(脱アルコールされたまたはそのままの)を冷TiCl(通常0℃)に懸濁し、;混合物を80〜130℃まで加熱し、この温度で0.5〜2時間保つことにより行うことができる。TiClでの処理は、1回またはそれ以上行うことができる。内部電子供与化合物は、TiClでの処理中に加えることができる。電子供与化合物での処理は、1回またはそれ以上繰り返すことができる。
【0018】
球状の触媒成分の製造は、例えば、ヨーロッパ特許出願EP−A−395083、EP−A−553805、EP−A−553806、EP−A−601525およびWO98/44001に記載されている。
【0019】
上記の方法で得られる固体触媒成分は、表面積(B.E.T法による)が通常20〜500m/gの間、好ましくは50〜400m/gの間であり、また総多孔率(B.E.T法による)が0.2cm/gより高く、好ましくは0.2〜0.6cm/gの間にある。丸みをもった細孔による多孔率(Hg法)は、10.000Åまで、通常0.3〜1.5cm/g、好ましくは0.45〜1cm/gの範囲にある。
【0020】
この発明の固体触媒成分を製造するさらなる方法は、マグネシウムジアルコキサイドまたはジアリールオキサイドのようなマグネシウムジヒドロカルビルオキサイド化合物を、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなどのような)中のTiClの溶液で80〜130℃の間の温度でハロゲン化することからなる。芳香族炭化水素溶液のTiClでの処理は、1回またはそれ以上繰り返すことができ、内部電子供与化合物はこれらの1回またはそれ以上の処理中に加えられる。
【0021】
一般に、内部電子供与化合物はMgClに対するモル比で0.01〜1、好ましくは0.05〜0.5使用される。
アルキル−Al化合物(B)は、好ましくは、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウム化合物の中から選択される。トリアルキルアルミニウムのアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムハイドライドまたはAlEtClおよびAlEtClのようなアルキルアルミニウムセスキクロライドとの混合物を用いることも可能である。
【0022】
外部供与体(C)は、上記の内部供与体と同じタイプでもよく、あるいは異なっていてもよい。
適当な外部電子供与化合物は、シリコン化合物、エーテル類、エステル類、アミン類、複素環化合物類、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ケトン類および一般式(I)の1,3−ジエーテル類を含む。;
【0023】
【化1】
【0024】
[式中、R、RII、RIII、RIV、RおよびRVIは、互いに同じであるかまたは異なって、水素または炭素原子1〜18を有する炭化水素基であり、そしてRVIIおよびRVIIIは、互いに同じであるかまたは異なって、水素でないことを除いてR〜RVIと同じ意味を有し;R〜RVIII基の1つまたはそれ以上が結合して環を形成していてもよい]。特に好ましいのは、RVIIおよびRVIIIがC−Cアルキル基から選択される1,3−ジエーテル類である。
【0025】
もう一つの好ましい外部供与化合物の類は、式Si(OR[式中、aおよびbは0から2の整数であり、cは1から3の整数であり、(a+b+c)の合計は4であり;R、RおよびRは、任意にヘテロ原子を含む炭素原子1〜18のアルキル、シクロアルキルまたはアリール基である]のシリコン化合物である。特に好ましいのは、aが1であり、bが1であり、cが2であり、RおよびRの少なくとも一方が、ヘテロ原子を任意に含む炭素原子3〜10の分枝状アルキル、シクロアルキルまたはアリール基から選択され、そしてRはC−C10アルキル基、特にメチルである。そのような好ましいシリコン化合物の例は、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチル−t−ブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、2−エチルピペリジニル−2−t−ブチルジメトキシシランおよび1,1,1−トリフルオロプロピル−2−エチルピペリジニル−ジメトキシシランである。さらに、aが0であり、cが3であり、Rが任意にヘテロ原子を含む分枝状アルキルまたはシクロアルキル基であり、Rがメチルであるシリコン化合物も好ましい。そのような好ましいシリコン化合物の例は、シクロヘキシルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシランおよびテキシルトリメトキシシランである。ジイソプロピルジメトキシシランの使用が特に好ましい。
【0026】
電子供与化合物(c)は、有機アルミニウム化合物と該電子供与化合物(c)とのモル比が0.1〜500、好ましくは1〜300、さらに好ましくは3〜100となるような量で使用される。
【0027】
重合方法は公知の技術、例えば、希釈剤としての不活性炭化水素溶媒を用いるスラリー重合、または反応媒体として例えば液体ブテン−1を用いる溶液重合により行うことができる。さらに、気相中、1またはそれ以上の流動または機械的撹拌床反応器中で操作して重合方法を行うこともできる。溶液および気相方法は特に好ましい。
【0028】
重合は、通常、20〜120℃、好ましくは40〜80℃の温度で行われる。重合が気相で行われるとき、操作圧力は通常0.1〜2.5MPa、好ましくは0.5〜1.5MPaの間である。塊重合では、操作圧力は通常1〜6MPa、好ましくは1.5〜4MPaの間である。さらに、触媒を重合工程に特に適したものとするために、予備重合工程で該触媒を予備重合させることが可能である。そのような予備重合は、液相中(スラリーまたは溶液)または気相中で、通常100℃よりも低い温度で、好ましくは20〜70℃の温度で行うことができる。予備重合工程は、固体触媒成分のg当たり0.5〜2000gの間、好ましくは5〜500gの間、より好ましくは固体触媒成分g当たり10〜100gの間の量のポリマーを得るのに必要な少量のモノマーでしばらくの間行われる。予備重合で用いられるモノマーは、ブテン−1および/または炭素原子2〜10の他のα−オレフィンであってもよい。特に、予備重合がプロピレンで行われるとき、非常によい結果が得られる。この場合、最終のポリブテン−1生成物の重量に基づいて0.5から20%、好ましくは1から15%のポリプロピレン含量を得るのに必要なモノマー量および重合時間で、予備重合を行えば特に有用であることが分かった。この反応器内混合(in−reactor−blend)方法で得られるポリブテン−1組成物は、優れた性質、特に非常に高い耐破裂応力を示した。
【0029】
先に説明したように、本発明のポリブテンは、Mw/Mnの用語で表わすとき、殊に6より高い、広い分子量分布により特徴づけられる。そのような広いMWDのポリブテン−1は、いくつかの方法で得ることができる。そのような方法の一つは、ブテン−1を(共)重合させるとき、本来的に広いMWDの重合体を生産することのできる触媒を用いることからなる。もう一つの可能な方法は、通常の混合器を使用して十分に異なった分子量を有するブテン−1重合体を機械的に混合する方法である。
【0030】
本発明のポリブテン類の製造法の好ましい一つは、分子量調節剤の濃度、モノマーの濃度、温度、圧力などのような、異なった作業条件下で操作する少なくとも2つの重合反応器中で行われる気相または溶液方法からなる。この特別な方法により、2つの反応器中で異なった平均分子量のポリブテンが得られ、このようにして任意に二形態(bimodal)のタイプの広いMWDを有する最終生成物に導かれる。広いMWDの触媒の使用に関連して、この方法は、所望の広さのMWDを有し、かつメルトインデックスなどのような他の性質を適当に合わせた最終生成物を生産できるように様々な重合工程を適当に調節できるという利点を有する。
【0031】
さらに、異なった分子量を有する重合体を機械的に混合する方法と比較して、多段重合方法は、2つの重合体画分の分子特性が大きく異なるにもかかわらず、良い均質性を有する重合体が得られるという利点を有する。
【0032】
何らかの理論に結びつけることを望まないが、この事実に対する可能な説明は、2つの重合体が同じ反応媒体中で生成するので、より良い混合度が機械的な混合技術に対して達成されるということである。この特徴は非常に重要である。なぜなら、ポリオレフィン生成物中に望みもしないフィッシュアイの存在が次々に生じるということが、重合体のゲルの数および種類に直接相関しているからである。この問題は、非常に異なった分子量画分のある広い分子量分布を有する重合体に特に関連がある。したがって、高い均質性を有する重合体は、ゲルの含量の低減を示し、それゆえにより良い機械的および外観的な特性を示す。本発明のポリブテン−1重合体は、フィルムのm当たり400より低い、好ましくは300より低い、さらに好ましくは200より低いゲル数によって実証された非常に高い均質性により特徴づけられる。このタイプの生成物が高い重要性のある機械的性質であることが観察された。また、追加的な予備重合工程の存在が、最終生成物の質をさらに改善していることも観察された。
【0033】
本発明のポリブテンは、ポリブテンが通常用いられているすべての適用において、使用することができる。しかしながら、この分野の熟練者に知られているように、また型通りの試験によって容易に決定できるように、さらなる重合体成分、添加剤(安定剤、抗酸化剤、防腐剤、核剤、加工助剤などのような)および特有の性質を与え得る有機および無機充填剤を本発明の生成物に添加することも可能である。
【0034】
以下の実施例は、本発明を限定することなく、本発明をより詳細に説明するためのものである。
特性
13CNMRによるアイソタクチックインデックス(mmmm%)の決定>
この測定は、CCl中の重合体の10重量%溶液を製造し、FTモードにおいてウォルツ16デカップリングプロトン下125.7MHzで、スペクトラル幅10Khzで、90°パルス角度およびパルス反復16秒および3600スキャンで操作するDRX500MHz器を用いて、120℃でスペクトルを記録することにより行われる。アイソタクチックインデックスは、次いで、「化学シフト計算および重合機構から決定された5重合体の炭素−13 NMRスペクトルの帰属、T.アサクラほか、Macromolecules 1991,242334−2340に基づいて計算される。
【0035】
<メルトインデックスの決定>
ASTMD1238 条件“E”
<ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によるMWDの決定>
TSKカラムセット(GMHXL−HT型)を備えたウォーターズ150−C ALC/GPCシステムを用いて、135℃で、溶媒として1,2−ジクロロベンゼン(ODCB)(2,6−ジ−t−ブチル p−クレゾール(BHT)0.1 vol.で安定化された)を用い、流速1ml/分で作動させて、これを決定する。
【0036】
試料をODCB中、140℃の温度で1時間連続攪拌することにより溶解する。この溶液を0.45μmのテフロン膜で濾過する。濾液(濃度0.08−1.2g/l、注入量300μl)をGPCに付す。ポリスチレン(ポリマーラボラトリーズにより供給される)の単分散画分を標準として用いた。PB共重合体用のユニバーサルキャリブレーションは、PS(K=7.11×10−5dl/g;α=0.743)およびPB(K=1.18×10−4dl/g;α=0.725)に対するMark−Houwink定数の直線的な組合せを用いて行った。
【0037】
<耐クリープ性(%変形)>
10Mpaの荷重下、50℃の温度で、10000分間保った試料の変形%を測定することにより評価した。
【0038】
<耐破裂応力>
ISO1167:1996により求めた。
<コモノマー含量>
NMR分光法により決定したコモノマーの重量%である。
【0039】
<極限粘度数[η]>
ASTM2857−70
触媒井渣(ppm Ti)
重合体中のチタンのppmはPhillips PW1404器具を用いたX−線蛍光分光法により測定する。
【0040】
<m当たりのゲル(フィッシュアイ)の数の決定>
当たりのゲルの数の決定は、プロジェクターにより拡大スケールで壁面グラフ上に投影されたポリブテンフィルム(50μ厚さ、130×7.5cmサイズ)の一片のゲルの数を目視により検出することにより行う。計数は、同じフィルムの5つの異なった片について行い、最終的な数はNo=A/Sで表わす。ここで、Noはm当たりのゲルの数であり、Aは5つのフィルム片において数えられたグルの数であり、Sは検査された5つのフィルム片のmで表わした全表面である。
【0041】
<降伏強さ> ASTM D 638
<破断強さ> ASTM D 638
<降伏伸び> ASTM D 638
<破断伸び> ASTM D 638
<曲げ弾性率> ASTM D 790
<引張弾性率> ASTM D 790
<アイゾッド> ASTM D 256
【実施例】
【0042】
実施例1
<固体触媒成分の製造>
窒素置換された500mlの4つ口丸底フラスコにTiCl225mlを0℃で入れた。攪拌している間に微小球体状のMgCl・2.1COH(10,000rpmに代えて3,000rpmで操作した以外は、USP4,399,054の実施例2に記載のようにして製造された付加物の一部熱脱アルコールにより得られた)10.3gを加えた。フラスコを40℃に加熱し、ジイソブチルフタレート6.5ミリモルをその上に加えた。温度を100℃に上げ、2時間維持した。次いで、攪拌を止め、固体生成物を安定させ、上澄液を吸い取った。
【0043】
新しいTiCl200mlを加え、混合物を120℃で1時間反応させ、次いで上澄液を吸い取った。TiClおよびジイソブチルフタレートでの処理を繰り返し、得られた個体を、60℃で、無水ヘキサンで6回(6×100ml)洗浄し、次いで、真空下に乾燥した。:触媒成分は、Ti2.4重量%およびフタレート8.6重量%を含んでいた。
【0044】
<ブテン−1の気相重合>
上記のようにして製造された触媒成分、AlEt(TEA)と、TEA/触媒重量比10、TAE/DIPMS重量比8およびDIPMS/触媒 重量比1.25を有するような量のジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)とを、不活性媒体としてプロパンを含む活性化容器中、室温で混合し、約15分間滞留させた。
【0045】
上記反応の生成物を、次いで、35℃の温度に保ち、液体プロピレンを含む予備重合ループ反応器に仕込んだ。さらなる触媒を加えることなく予備重合を2時間続けた。触媒成分g当たり288gの転換を得た。このようにして得られた予備重合触媒システムを、次いで、以下の条件下で作動する第1気相重合反応器に入れた。
【0046】
温度(℃):60℃重合時間(時間):11圧力(bar):9ブテン(気相中のモル%):20プロパン(気相中のモル%):80収量:1.4Kg/g触媒
このようにして得られた生成物を、次いで以下の条件で作動する第2気相重合反応器に入れた。
【0047】
温度(℃):70℃
重合時間(時間):9
圧力(bar):9
ブテン(気相中のモル%):20
プロパン(気相中のモル%):80
水素(g/h):6.7
収量:5Kg/g触媒
以下の特性を有するポリブテン−1最終生成物を得た。
【0048】
アイソタクチックインデックス(%mmmm)95.1
MWD:10.3
Mw:740000
Mn:71800
MIE(g/10分):0.48
触媒残渣(Ti ppm):27
ポリプロピレン含量(重量%):5
得られたポリブテンを以下の性質の測定に供した。
【0049】
結果を表1に示すとともに、ミツイにより市販されているポリブテン−1製品、PB5040Gおよびシェルにより市販されているポリブテン−1、PB0110の特性と比較した。
【0050】
実施例2(参照例)
<ブテン−1の塊重合>
上記のようにして製造された触媒成分、AliBu(TIBA)と、TIBA/触媒の重量比80、TIBA/DIPMS重量比10を有するような量のジイソプロピルジメトキシシランとを、不活性媒体としてヘキサンを含む活性化容器中、室温で混合し、約5分間滞留させた。
【0051】
上記反応の生成物を、次いで、室温で、液体ブテン−1を含む反応器に入れた。次いで、10分間で温度を75℃まで上げ、水素の不存在下、以下の温度などの条件下で重合を行った。
【0052】
温度(℃):70℃
重合時間(時間):2時間
圧力(bar):10
次いで、水素を反応器に入れ、第2重合工程を以下の条件で行った。
【0053】
温度(℃):75℃
重合時間(時間):2
圧力(bar):14
達成された収量:14Kg/g触媒
以下の特性を有するポリブテン−1最終生成物を得た。
【0054】
アイソタクチックインデックス(%mmmm):95.4
MWD:8
MIE(g/10分):0.35
触媒残渣(Ti ppm):2
得られたポリブテンについて行った試験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】