【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
1.ラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006の分離方法
パン製造に用いられるパネトーネ元種を滅菌した生理食塩水に段階的に希釈し、MYP寒天培地や1%マルトース添加MRS寒天培地などの分離用寒天培地(10ppmのシクロヘキシミドおよび10ppmのアジ化ナトリウムを加えたもの)に塗布し、培養することにより分離した。培養条件は25℃で、2〜4日間培養し形成したコロニーを分離した。
【0062】
2.菌学的性質の同定
ラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006の形態的性質をMYP液体培地により、同定した。MYP液体培地はマルトース 10g、酵母エキス 5g、ペプトン 1g、酢酸ナトリウム 1g、グルタミン酸ナトリウム 1g、硫酸マグネシウム 200mg、硫酸マンガン 20mg、硫酸第一鉄 10mg、塩化ナトリウム 10mg、Tween80 0.25gを水 1000mlに加え、1N NaOHでpH6.6に調整したものを使用した。
【0063】
MYP液体培地での24時間培養において、1.0〜5.0×0.4μmの長桿菌であり、単一または連鎖状に存在した。胞子は形成せず、非運動性で、グラム陽性であった。各種菌学的特性の同定は、「乳酸菌実験マニュアル」(朝倉書店)に従い、また、分類同定の基準としてバージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)Vol.2(1986)を参照した。得られた菌学的性質を以下に示す。
【0064】
(1)グラム陽性
(2)桿菌
(3)運動性なし
(4)無胞子
(5)通性嫌気性
(6)カタラーゼ陰性
(7)生育温度 10〜28℃ (至適生育温度 25℃)
(8)生育pH 5.5〜9.0
(9)マルトースを資化してD(+)−乳酸、L(+)−乳酸、エタノール及び炭酸ガスを生成する。
また、極微弱であるが、培養条件によってはグルコースも資化した。
【0065】
3.培養的性質の同定
本発明のラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006の培養的性質を、(1)から(3)の各培地で調べた。
(1)1%マルトース加MRS寒天平板培地
上記培地はDifco Lactobacilli MRS broth 1000mlにさらにマルトース10gおよび寒天15gを添加されてなる培地である。コロニーは、25℃、3−4日間培養で直径約2〜3mmまたはそれ以下の円形、半レンズ状突起、不透明の灰白色、やや乾燥した形状であった。
(2)MYP液体培地
25℃、24時間培養で菌体が増殖して培地が白濁し、綿毛状の沈殿を生じた。
(3)MYP寒天培地(穿刺培養)
MYP寒天培地はMYP液体培地1000mlにさらに寒天15gを添加されてなる培地である。穿刺によって一様に生育した。
【0066】
4.生理・生化学的性質の同定
各種菌学的性質の同定は、「乳酸菌実験マニュアル」(朝倉書店)に従って行った。得られた生理・生化学的性質を以下に示す。
【0067】
本発明の菌株の生理・生化学的性質を以下に示す。
(1)生育温度 10〜28℃ (至適生育温度 25℃)
(2)生育pH域 5.5〜9.0
(3)酸素との関係
通性嫌気性。酸素存在下でも嫌気的条件でも生育できる。
(4)生育必須物質
上記MYP液体培地中、マルトース、酵母エキスおよび脂肪酸、特に不飽和脂肪酸を必須要求する。
(5)糖類発酵性
マルトースを資化し、酸およびガスを産生する。
(6)リトマスミルク:不変
(7)硝酸塩の還元:陰性
(8)ゼラチンを液化しない。
(9)ウレアーゼ:陰性
(10)カタラーゼ:陰性
(11)でんぷんを加水分解しない。
(12)マルトースからの生成物:L(+)−乳酸、D(+)−乳酸、エタノール
【0068】
5.遺伝学的解析
本発明のラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006の遺伝子学的解析を次のように行った。ラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006の分類学的位置を確認する為に、16SrRNA遺伝子の塩基配列データと既知種の配列データとを比較した。DNAの抽出は、MYP液体培地で、25℃、24時間培養した菌液を定法に従って抽出した。16SrRNA遺伝子解析の結果より、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスの標準菌株であるラクトバチルス・サンフランシスエンシスJCM5668(JAPAN COLLECTION OF MICROORGANISMS、独立行政法人 理化学研究所)と1564bp中99.7%の相同性を示した。
【0069】
6.ラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006と標準菌株の比較
本発明の菌株とラクトバチルス・サンフランシスエンシスJCM5668の糖資化性を比較したところ、本発明菌は炭素源としてマルトースに非常に特化しており通常の培養条件においては、グルコースをほとんど資化しなかった。一方、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスJCM5668は、マルトースおよびグルコースを共に資化した。また、本発明の菌株の培養温度帯も低く、生育温度は28℃以下であり、特に25℃にて良好な生育を示すが、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスJCM5668の至適生育温度は、30〜35℃であった。よって、公知の菌株と比較すると一致しないので本発明の菌株は新規なラクトバチルス・サンフランシスエンシスWB1006と命名した。
【0070】
実施例1(パンの製造)
MYP液体培地には、マルトースは和光純薬工業株式会社製の「マルトース一水和物」、酵母エキスはDifco社製の「酵母エキス(Yeast Extract)」、ペプトンはDifco社製の「ペプトン(Peptone,Bacto TM)」、酢酸ナトリウムは和光純薬工業株式会社製の「酢酸ナトリウム三水和物」、グルタミン酸ナトリウムは和光純薬工業株式会社製の「L−グルタミン酸一ナトリウム」、硫酸マグネシウムは和光純薬工業株式会社製の「硫酸マグネシウム七水和物」、硫酸マンガンは和光純薬工業株式会社製の「硫酸マンガン(II) 四水和物」、硫酸第一鉄は和光純薬工業株式会社製の「硫酸鉄(II) 七水和物」、塩化ナトリウムは和光純薬工業株式会社製の「塩化ナトリウム」、Tween80は和光純薬工業株式会社製の「ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート」を使用した。
【0071】
また製パンには、小麦粉は日本製粉株式会社製の「イーグル」、イーストはオリエンタル酵母株式会社の「USイースト」、食塩は財団法人塩事業センター製の「食塩」、砂糖は三井製糖株式会社製の「グラニュー糖GHC1」、脱脂粉乳はジェイティフーズ株式会社製の「ミルファイン」、ショートニングは株式会社ADEKA製の「プレミアムショートCF」、製パン改良剤はオリエンタル酵母株式会社の「ドーナチュラルGF」を使用した。
【0072】
パンの製造は、中種法で行った。下記表1に示す配合割合で原料を混合し、この混合物を24℃にて捏ね上げ、28℃、75RH%で12時間発酵させ、元種とした。
【0073】
【表1】
【0074】
次に、上記の元種と表2記載の原料とを混合し、中種を調製した。ミキシング条件は、低速3分・中速1分(L3M1)であり、24℃で捏上した後、28℃、75RH%で4時間発酵させた。
【0075】
【表2】
【0076】
前記中種を用い、表3に示す配合割合で原材料を混合、本捏後、フロアータイム20分後に分割重量220gで生地を分割し、ベンチタイム20分後に成形後、2斤食パン型に生地6個型詰めし、ホイロ発酵(35℃、75RH%、60分)、焼成(上火200℃、下火230℃、32分)を行い、食パンを製造した。本捏のミキシング条件は、低速3分・中速3分・高速1分・ショートニング添加後低速2分、中速2分、高速1分であり、26℃で捏ね上げた。
【0077】
【表3】
【0078】
比較例1(パンの製造)
実施例1において、元種に含まれる本発明の菌株を全く加えない以外は、実施例1と同様の方法でパンを作製した。
【0079】
比較例2(パンの製造)
実施例1において、元種に本発明の菌株ではなく、L.sanfranciscensis JCM5668(標準株)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパンを作製した。
【0080】
試験例1(乳酸菌を配合するパンの防黴性の評価)
[試験方法]
実施例1及び比較例1〜2で得られたパンを用いて、黴の強制汚染試験を行った。黴としては、著名なAspergillus niger(以下、A.nigerと略す。)を試験菌株とした。各食パンをスライスし、40箇所に約50胞子ずつ植菌し、胞子の形成が確認された箇所を数え、胞子形成に要した日数を測定した。比較例1〜2は、汚染約3日後から黴の胞子形成が確認された。しかし、本発明の菌株を使用した食パンである実施例は、汚染約35日後においても、黴の胞子形成が確認されなかった。試験結果を表4及び
図1に示した。
【0081】
よって、試験例より、本発明の菌株をパンに種として用いることにより、従来よりも高い防黴効果が得られることが証明された。
【0082】
【表4】
【0083】
実施例2(パンの製造)
実施例2は、実施例1と同様にMYP液体培地及び製パン材料を用いた。パンの製造方法は、中種法を用いた。下記表5に示す配合割合で原料を混合し、この混合物を24℃にて捏ね上げ、28℃、75RH%で12時間発酵させ、元種とした。
【0084】
【表5】
【0085】
次に、上記表5の元種と表6記載の原料とを混合し、中種を調製した。ミキシング条件は、低速3分であり、24℃で捏上後、28℃、75RH%で4時間発酵させた。
【0086】
【表6】
【0087】
表6に示した中種を用い、下記表7に示す配合割合で原料を混合し、本捏を実施した。本捏後に分割重量220gで生地を分割し、ベンチタイム20分後に成形後、型詰めし、ホイロ発酵(35℃、75RH%、60分)、焼成(下火175℃、上火200℃、20分)を行い、食パンを製造した。本捏のミキシング条件は、低速3分・中速2分・ショートニング添加後低速2分・中速1分で、26℃で捏上げた。
【0088】
【表7】
【0089】
比較例3(パンの製造)
実施例2において、元種に含まれる本発明の菌株を全く加えない以外は、実施例2と同様の方法でパンを作製した。
【0090】
試験例2(乳酸菌を配合するパンの防黴性の評価)
実施例2および比較例3で得られたパンを用いて、黴の強制汚染試験を行った。黴としては、著名なPenicillium chrysogenum(以下、P.chrysogenumと略す)を試験菌株とし、試験例1と同様の方法にて防黴性を評価した。比較例3は、汚染約3日後から黴の胞子形成が確認され、全ての接種箇所より胞子形成が確認できた。実施例2は、汚染約6日後に胞子形成が確認され、7〜10日後も一部の箇所より胞子形成が確認できた。実施例2は、比較例3に比べて、汚染箇所が増加する傾向は非常にゆるやかであった。試験結果を表8及び
図2に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
次に、本発明の菌株を配合した実施例2で製造したパン、及び菌株を配合しなかった比較例3で製造したパンを用い、食中毒菌として知られている黄色ブドウ球菌の増殖抑制作用を検討した。
【0093】
試験例3(乳酸菌を配合するパンの黄色ブドウ球菌の増殖抑制作用)
[試験方法]
黄色ブドウ球菌として、Staphylococcus aureus JCM2413 (以下、黄色ブドウ球菌と略す)を試験菌株として用いた。
【0094】
前述の比較例3及び実施例2の各食パンをスライスし、食パン内部を2.5cm×2.5cm 角にカットし(2.5〜2.8g/サンプル)、約1000個/500μL/サンプルの黄色ブドウ球菌を接種した。試験菌を接種したパンは密閉容器にて、35℃、24時間培養した。培養後、サンプルをPBS(−)にて懸濁し、ブドウ球菌分離用培地(Staphylococcus Medium No.110、日水製薬)にて、生菌数を測定し、乳酸菌無添加パン(比較例3)における増殖を100%とした場合の本発明菌配合パン(実施例2)における増殖割合を比較した。結果を表9および
図3に示した。表中の黄色ブドウ球菌数は、n=4で試験を行い、その平均値を示す。
【0095】
【表9】
【0096】
比較例3において黄色ブドウ球菌は、3×10
8個/サンプルに増殖していた。本発明の菌株を配合したパンである実施例2においては、黄色ブドウ球菌は2.0×10
6 個/サンプルであり、比較例3に対して、増加率は100分の1以下であった。上記試験より、本発明の菌株をパンに配合することで、黄色ブドウ球菌の増殖が抑制されることが証明された。
【0097】
また、試験例1−3から、本発明の菌株を中種に配合した場合、焼成によりパンを製造した後であっても、黴及び黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制効果を有していることが証明された。