(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933297
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】コンクリートの通電方法
(51)【国際特許分類】
B28B 21/92 20060101AFI20160526BHJP
B28B 21/04 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
B28B21/92
B28B21/04
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-50439(P2012-50439)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-184355(P2013-184355A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−269268(JP,A)
【文献】
特開平06−065928(JP,A)
【文献】
特開昭60−262605(JP,A)
【文献】
特表平09−501390(JP,A)
【文献】
特開2004−122620(JP,A)
【文献】
特開昭53−036519(JP,A)
【文献】
特開2000−303700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/24
B28B 21/00−21/98
B28C 1/00−9/04
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まだ固まらないフレッシュコンクリートを二重管容器の外管と内管の間に充填し、一方の管を陰極とし、もう一方の管を陽極として直流電流により通電することを特徴とするコンクリートの通電方法。
【請求項2】
練り混ぜから120分以内に通電処理を行うことを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの通電方法。
【請求項3】
通電時間が120分以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリートの通電方法。
【請求項4】
0.5アンペア以上で通電することを特徴とする請求項1〜3のうちの1項に記載のコンクリートの通電方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの1項に記載のコンクリートの通電方法を使用することによりコンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの通電方法、特に、コンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの耐久性について、高い関心が寄せられている。この背景には、この10年内にあった、「耐震偽造問題」、「コンクリート構造物の崩落問題」、「品質確保促進法」等が要因として挙げられる。
【0003】
コンクリート構造物の安全性、信頼性を高める方法として、コンクリートのひび割れを抑制する方法が種々検討されている。例えば、膨張材を混和する方法(特許文献1〜特許文献4)、収縮低減剤を添加する方法(特許文献5〜特許文献10)等が挙げられる。しかしながら、コンクリートのひび割れの原因は多岐にわたり、膨張材や収縮低減剤を使用するだけでは抜本的な対策とはならないケースが散見される。
【0004】
コンクリートは、変形能力に乏しく、脆性的でひび割れやすい。コンクリートは、特に、乾燥収縮や自己収縮等の収縮の影響によって、ひび割れるおそれがある。コンクリートは、収縮による応力がコンクリートの引っ張り強度を上回った段階でひび割れてしまうおそれがある。コンクリートの引っ張り強度を増進する材料も提案されている(特許文献11)が、その効果は十分でなく、実用化されていない。
【0005】
コンクリートの変形能力を高めることが出来れば、コンクリートはひび割れにくくなる。したがって、コンクリートの変形能力を高める技術の開発が重要である。しかしながら、これまでコンクリートの変形能力を高める技術の提案は極めて少ない状況にあった。
【0006】
混和剤や混和材によって、コンクリートの変形性能を改善することも考えられるが、自己収縮が大きくなったり、水和発熱挙動に影響を及ぼしたり、凝結挙動や強度発現性等、他の物性に影響を与える場合が多く、こういった副次的な連行現象でひび割れの発生確率を増す危険性もあり、相対的に有効な方法とならない可能性もある。
【0007】
そのため、今日では特別な混和剤や混和材を用いなくても、効果的にコンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法の提案が強く望まれている。アンモニアを取り除く目的でフレッシュコンクリートに通電処理する方法が提案されている(特許文献12)。しかしながら、この方法は通電に電極を用いるものであり、具体的にはチタンメッシュを2面に配置し、片方を陰極に、もう一方を陽極に通電する方法である。しかしながら、二重管構造を採用することにより、コンクリートのひび割れ抵抗性を高めることについて、記載はない。コンクリートや木質セメント板を加熱することを目的として通電処理ことも提案されている(特許文献13や特許文献14)。しかしながら、特許文献13や特許文献14は二重管構造でないために、これらの方法でもひび割れ抵抗性を高めることはできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42−21840号公報
【特許文献2】特公昭53−31170号公報
【特許文献3】特開平07−232944号公報
【特許文献4】特開平13−64054号公報
【特許文献5】特開昭56−37259号公報
【特許文献6】国際公開WO82/003071パンフレット
【特許文献7】特開昭59−21557号公報
【特許文献8】特開昭59−152253号公報
【特許文献9】特開昭59−184753号公報
【特許文献10】特開昭60−16846号公報
【特許文献11】特開2004−143030号公報
【特許文献12】特開2004−122620号公報
【特許文献13】特開昭54−109669号公報
【特許文献14】特開昭56−140058号公報
【0009】
本発明者らは、前記の課題に鑑み、コンクリートのひび割れ抵抗性を向上させる方法について種々の検討を重ねた結果、まだ固まらないコンクリートを二重管容器の外管と内管の間に充填して通電するという、特殊な処理を行うことによって、効果的にコンクリートのひび割れ抵抗性が向上することを知見して本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特別な混和剤や混和材を用いなくても、効果的にコンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、まだ固まらないフレッシュコンクリートを二重管容器の外管と内管の間に充填し、一方の管を陰極とし、もう一方の管を陽極として直流電流により通電することを特徴とするコンクリートの通電方法であり、練り混ぜから120分以内に通電処理を行うことを特徴とする該コンクリートの通電方法であり、通電時間が120分以内であることを特徴とする該コンクリートの通電方法であり、0.5アンペア以上で通電することを特徴とする該コンクリートの通電方法であり、該コンクリートの通電方法を使用することによりコンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリートの通電方法は、特別な混和剤や混和材を用いなくても、効果的にコンクリートのひび割れ抵抗性を高めることができ、幅広い配合のコンクリートにも対応する等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コンクリートの拘束供試体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、まだ固まらないフレッシュコンクリートを二重管容器の外管と内管の間に充填した後、一方の管を陰極とし、もう一方の管を陽極として直流電流により通電することを特徴とする。本発明では、硬化する前に、まだ固まらないフレッシュコンクリートの状態として通電することが好ましい。本発明では、内管が陰極の場合は外管を陽極とし、外管が陰極の場合は内管を陽極とする。硬化してから通電したのでは、本発明の効果は得られない。本発明は、二重管容器を電極の代わりに、例えば、二重電極として、用いることが重要である。電極として棒状のものを用いたり、チタンメッシュやボードのような面状のものを用いたりしても、本発明の効果は得られない。
【0016】
二重管容器は、外管と内管からなる容器である。二重管容器の内部は、中空であることが好ましい。ここで二重管容器の形状は、箱型でも良いし、筒型でも良い。通電処理した後、スムーズに施工へ移す観点から、筒型が好ましい。
【0017】
陰極と陽極の距離は特に限定されるものではないが、通常、100cm以下が好ましく、50cm以下がより好ましく、20cm以下が最も好ましい。陰極と陽極の距離が100cmを超えると、通電時間が長くなったり、ひび割れ抵抗性の向上効果が十分に得られなかったりする場合がある。
【0018】
陰極や陽極は、メッシュ状、ラス状、テープ状のものを適用することで、面と面で通電することができ、効率良くコンクリートに通電処理を行うことができる。ラスとは、土木・建築で用いられる金網の1種である。メッシュ状あるいはラス状の格子のサイズは、効率良い通電の観点から、1辺の長さが30cm以下であることが好ましく、10cm以下であることがより好ましい。テープ状の場合には、その幅が5cm以上であることが好ましく、10cm以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明では、練り混ぜ直後から120分以内に通電処理を行うことが好ましい。最も好ましいのは、練り混ぜ直後から通電することである。練り混ぜ直後から120分を超えて通電すると、ひび割れ抵抗性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0020】
直流電流を通電する際の電流は、特に限定されるものではないが、短期間で除塩を完了する観点から、0.5アンペア以上であることが好ましく、1アンペア以上であることがより好ましい。ただし、安全性を重視する場合には、低い電流値で長い時間をかけて通電することもできる。
【0021】
通電時間は、コンクリートの配合にも影響されるため、一義的に定まるものではないが、通常、30〜120分が好ましい。通電時間が30分未満では、ひび割れ抵抗性の向上効果が十分に得られない場合があり、通電時間が120分を超えると、コンクリートの凝結時間と施工に要する時間との関係で、施工が困難となる場合がある。ただし、凝結遅延剤を併用し、凝結時間を長く設定した上で、通電時間を120分以上確保することも可能である。
【0022】
本発明のコンクリートの通電方法を行う際、夏季を中心として気温が高い時期に行うことが、効果がより顕著である観点から、好ましい。具体的には、平均気温が10℃以上の時期に行うことが望ましい。ただし、気温が10℃以下の時期は、コンクリートの凝結時間が長く、通電時間を長く確保することができるため、好ましい点もある。施工計画との兼ね合いで、寒い時期に本発明のコンクリートの通電方法を行うことも可能である。
【0023】
コンクリートに通電すると、コンクリート中のNaイオンが陰極側に集積するため、セメント中のNa量が減少する。Na含有量が小さいセメントは引張強度が増進する。本発明のコンクリートの通電方法により、ひび割れ抵抗性が高まる理由は不明だが、セメントの引張強度が増進することと関係があると考えられる。
【0024】
コンクリートの配合は特に限定されるものではなく、あらゆる配合のコンクリートで適用可能である。ただし、コンクリートのコンシステンシーにはやや影響を及ぼす。具体的には、コンクリートのスランプ値が大きい場合、本発明の効果は大きい。スランプ値は8cm以上が好ましく、12cm以上がより好ましく、18cm以上が最も好ましい。
【0025】
コンクリートの水セメント比(W/C)は、30〜70質量%が好ましい。コンクリートの細骨材率(s/a)は、30〜60容積%が好ましい。
【0026】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
「実験例1」
単位セメント量300kg/m
3、単位水量175kg/m
3、s/a=42%、スランプ値12cmのコンクリートを調製した。このコンクリートを直径15cmの二重円筒形の容器に入れ、直流電流により通電した。二重円筒形の二重管容器として、外管の内径15cm、
内管の外径6.05cm、高さ10cmの鋼製容器、即ち、中空円筒管を使用した。円筒管の内管の内面と、円筒管の外管の外面とに、それぞれ幅5cmのテープ電極を、テープ電極の管への接着面が向かい合わせの位置になるように貼り付けた。内管を陰極とし、外管を陽極とした。電流を1アンペアとし、通電時間を表1に示すように変化させ、通電後のコンクリートを用いてひび割れ抵抗性を評価した。ひび割れ抵抗性の評価は、
図1に示すコンクリートの拘束供試体を作製することによって行った。通電後のコンクリートを、20℃80%R.H.の恒温恒湿室内にて静置し、材齢1日で外管を脱型後、材齢28日まで20℃水中養生を行った。材齢28日に供試体を水中から取り出し、
図1に示すコンクリートの拘束供試体を作製した。鋼管1は、二重管容器の内管である。拘束供試体のコンクリート1の側面にひずみゲージ3を貼りつけ、20℃、60%R.H.の恒温恒湿室内で乾燥養生を行った。この際ひずみゲージをデータロガー((株)東京測器研究所製TDS−530)につなげ、乾燥養生開始から連続的にひび割れ発生時までのコンクリートの収縮ひずみを記録した。ひび割れの確認は1日1回目視にて発生の有無を確認することにより行った。比較のために、通電を行わなかった場合の結果も併記した。結果を表1に示す。
【0028】
(使用材料)
セメント:市販普通ポルトランドセメント、比重3.16
細骨材:新潟県青海産石灰砂、比重2.64
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、比重2.65、最大骨材寸法13mm
水:水道水
【0029】
(評価方法)
スランプ:JIS A 1101に準じた。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、通電することにより、ひび割れ発生ひずみが大きくなり、伸び能力が高まり、ひび割れ抵抗性が高くなっていることがわかる。通電時間が長くなるほど、ひび割れ抵抗性は高くなっていることがわかる。
【0032】
「実験例2」
通電時間を60分とし、電流を表2に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より、電流値が高いほど、ひび割れ抵抗性が高くなっていることがわかる。
【0035】
「実験例3」
通電時間を60分とし、電流を1アンペアとし、コンクリートのスランプ値を表3に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0036】
【表3】
【0037】
表3より、コンクリートのスランプ値が大きい方が、ひび割れ抵抗性が高くなっていることがわかる。
【0038】
「実験例4」
通電時間を60分とし、陰極と陽極の距離を表4に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0039】
【表4】
【0040】
表4より、陰極と陽極の距離が短いほど、ひび割れ抵抗性が高くなっていることがわかる。
【0041】
「実験例5」
通電時間を60分とし、練り混ぜから通電開始までの時間を表5に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0042】
【表5】
【0043】
表5より、通電開始までの時間が120分以内だと、ひび割れ抵抗性が高くなっていることがわかる。通電開始までの時間が短いほど、ひび割れ抵抗性は高くなっていることがわかる。
【0044】
「実験例6」
単位セメント量300kg/m
3、単位水量175kg/m
3、s/a=42%、スランプ値12cmのコンクリートを調製した。このコンクリートを直径15cmの円筒形の容器に入れ、直流電流により通電した。円筒形の容器として、外管の内径15cm、高さ10cmの鋼製容器、即ち、中空部分がなく、円筒管内部が全てコンクリートで充填した円筒管を使用した。円筒管の外管の外面に、幅5cmのテープ電極を貼り付けた。円筒管の中心に、幅5cmのテープ電極を予め配置した。円筒管の中心と、円筒管の外管の外面とに、テープ電極の表面が、向かい合わせの位置になるように配置した。円筒管の中心の電極を陰極とし、外管を陽極とした。電流を1アンペアとし、通電時間を60分とし、通電後のコンクリートを用いてひび割れ抵抗性を評価した。ひび割れ抵抗性の評価は、拘束供試体が中空でないこと以外は、
図1と同じコンクリートの拘束供試体を作製することによって行った。ひび割れ抵抗性の評価は、実験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
表6より、中空部分がなく、円筒管内部が全てコンクリートで充填した円筒管を使用した場合、ひび割れ抵抗性は低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のコンクリートのひび割れ抵抗性を高める方法を適用することにより、特別な混和剤や混和材を用いなくても、効果的にコンクリートのひび割れ抵抗性を高めることができ、幅広い配合のコンクリートにも対応できる等の効果を奏する。
【符号の説明】
【0048】
1 鋼管
2 コンクリート
3 ひずみゲージ