(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1A、
図1Bに示すベーンポンプ1は、タンク26に貯留される作動油を油圧機器(流体圧供給先)18に供給する油圧供給源として用いられるものである。油圧機器18は、例えば、車両に搭載される変速機やパワーステアリング装置である。
【0016】
ベーンポンプ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0017】
図2に示すように、ベーンポンプ1は、駆動シャフト9の端部に図示しないエンジンまたは電動モータの動力が伝達され、駆動シャフト9に連結されたロータ2が回転する。ロータ2は、
図3において矢印で示すように時計回りの方向に回転する。
【0018】
ポンプボディ10には、ロータ2、カムリング4、及びサイドプレート30等が収容されるポンプ収容凹部10Aが形成される。ポンプボディ10にはポンプカバー60が締結され、このポンプカバー60によってポンプ収容凹部10Aが封止される。駆動シャフト9は、ポンプボディ10とポンプカバー60に回転自在に支持される。
【0019】
なお、これに限らず、カムリング4、サイドプレート30がポンプボディ10に一体形成される構成としてもよい。
【0020】
図3にも示すように、カムリング4とロータ2の間には複数のベーン3が介装される。ロータ2には、複数のスリット8が所定間隔をもって放射状に形成される。ベーン3は、矩形の板状に形成され、スリット8に摺動自在に挿入される。
【0021】
スリット8の奥側には、ベーン3の基端部との間にベーン背圧室6が画成され、このベーン背圧室6にポンプ吐出圧が導かれる。ベーン3は、その基端部を押圧するベーン背圧室6の圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット8から突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面5に摺接する。
【0022】
カムリング4の内側には、カムリング4の内周カム面5と、ロータ2の外周と、隣り合うベーン3とによって複数のポンプ室7が画成される。ロータ2が回転するのに伴って内周カム面5に摺接するベーン3が往復動してポンプ室7が拡縮する。これにより、作動油が
図2に矢印で示すように吸込通路25を通じて第一の吸込ポート31と第二の吸込ポート33からポンプ室7に吸い込まれ、ポンプ室7にて加圧された作動油が吐出ポート32、34から高圧室35に吐出される。
【0023】
カムリング4は、内周カム面5が略長円形状をした環状の部材である。ロータ2が1回転するのに伴って、内周カム面5に追従する各ベーン3が2回往復動する。
【0024】
平衡型のベーンポンプ1は、ベーン3が一回目の往復動をする第一の吸込領域及び第一の吐出領域と、ベーン3が二回目の往復動をする第二の吸込領域及び第二の吐出領域と、を有する。第一、第二の吸込領域では、ロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容積が拡張する。第一、第二の吐出領域では、ロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容積が収縮する。第一の吸込領域、第一の吐出領域、第二の吸込領域、第二の吐出領域の間には、ベーン3がロータ2の径方向について移動する方向が切り替わる遷移領域が存在する。
【0025】
カムリング4の内周カム面5には、ロータ2の回転に伴って第一の吸込ポート31を通じて作動油が吸い込まれる第一の吸込区間5Aと、第一の吸込吐出遷移区間5Bと、第一の吐出ポート32を通じて作動油が吐出される第一の吐出区間5Cと、吐出吸込遷移区間5Dと、第二の吸込ポート33を通じて作動油が吸い込まれる第二の吸込区間5Eと、第二の吸込吐出遷移区間5Fと、第二の吐出ポート34を通じて作動油が吐出される第二の吐出区間5Gと、吐出吸込遷移区間5Hと、が形成される。
【0026】
第一の吸込ポート31及び第一の吸込区間5Aは第一の吸込領域に配置される。第一の吐出ポート32及び第一の吐出区間5Cは第一の吐出領域に配置される。第一の吸込吐出遷移区間5Bは、第一の吸込区間5Aと第一の吐出区間5Cとの間に配置される。第二の吸込ポート33及び第二の吸込区間5Eは第二の吸込領域に配置される。吐出吸込遷移区間5Dは、第一の吐出区間5Cと第二の吸込区間5Eとの間に配置される。第二の吐出ポート34及び第二の吐出区間5Gは第二の吐出領域に配置される。第二の吸込吐出遷移区間5Fは、第二の吸込区間5Eと第二の吐出区間5Gとの間に配置される。吐出吸込遷移区間5Hは、第二の吐出区間5Gと第一の吸込区間5Aとの間に配置される。
【0027】
ポンプカバー60は、ロータ2及びベーン3が摺接するロータ前側端面69を有する。ロータ2は、その回転中心軸に直交する前後の端面21、22を有し、前側の端面21がポンプカバー60のロータ前側端面69に摺接する。ロータ2の後側の端面22は、サイドプレート30のロータ後側端面38に摺接する。
【0028】
なお、ロータ2が摺接するロータ前側端面は、上述した構成に限らず、ポンプカバー60と別体でサイドプレート(図示せず)が設けられる構成としてもよい。
【0029】
図1Aに示すように、第一の吸込ポート31、第二の吸込ポート33は、吸込通路25を介してタンク26に連通し、タンク26からの作動油が導かれる。
【0030】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aの底部とサイドプレート30の間には高圧室35が画成される。高圧室35には、第一の吐出ポート32及び第二の吐出ポート34がそれぞれ開口している。高圧室35は、吐出ポート32、34と油圧機器18を連通する吐出通路36の一部を構成する。
【0031】
高圧室35に導かれるポンプ吐出圧によってサイドプレート30のロータ後側端面38がカムリング4の後側の端面に押し付けられる。
【0032】
ベーンポンプ1の作動時に、ベーン3は、その基端部を押圧するベーン背圧室6の作動油圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット8から突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面5に摺接する。
【0033】
図4に示すように、サイドプレート30のロータ後側端面38には、第一の吸込ポート31と、第二の吸込ポート33と、第一の吐出ポート32と、第二の吐出ポート34と、4つの背圧ポート41〜44と、が開口される。各背圧ポート41〜44は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に並んで延び、各ベーン背圧室6にそれぞれ連通される。各背圧ポート41〜44は、第一の吸込領域、第一の吐出領域、第二の吸込領域、第二の吐出領域にそれぞれ配置される。
【0034】
サイドプレート30には、第一の吸込領域において高圧室35と背圧ポート41とを連通する吐出圧導入通路51と、第二の吸込領域において高圧室35と背圧ポート43とを連通する吐出圧導入通路53と、が形成される。これにより、ベーンポンプ1の作動時に、高圧室35に生じるポンプ吐出圧が背圧ポート41、43を通じて第一、第二の吸込領域におけるベーン背圧室6に導かれる。
【0035】
図5に示すように、ポンプカバー60におけるロータ2が摺接するロータ前側端面69には、第一の吸込領域に第一の吸込ポート65が開口し、第一の吐出領域に第一の吐出ポート66が開口し、第二の吸込領域に第二の吸込ポート67が開口し、第二の吐出領域に第二の吐出ポート68が開口する。吸込ポート65と吸込ポート67は、吸込通路25を介してタンク26に連通し、タンク26からの作動油が導かれる。
【0036】
ポンプカバー60のロータ前側端面69には、4つの背圧ポート61〜64が形成される。各背圧ポート61〜64は、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に並んで延び、各ベーン背圧室6にそれぞれ連通される。
図3に2点鎖線で示すように、第一の吸込側背圧ポート61は、第一の吸込区間5Aに摺接するベーン3によって拡張するベーン背圧室6に連通する。第一の吐出側背圧ポート62は、第一の吐出区間5Cに摺接するベーン3によって収縮するベーン背圧室6に連通する。第二の吸込側背圧ポート63は、第二の吸込区間5Eに摺接するベーン3によって拡張するベーン背圧室6に連通する。第二の吐出側背圧ポート64は、第二の吐出区間5Gに摺接するベーン3によって収縮するベーン背圧室6に連通する。
【0037】
このベーン背圧導入手段として、ポンプカバー60には第一の吸込側背圧ポート61と第一の吐出側背圧ポート62とを連通する背圧連通路91と、第二の吸込側背圧ポート63と第二の吐出側背圧ポート64とを連通する背圧連通路93と、が形成される。これにより、第一の吐出領域で収縮するベーン背圧室6の作動油が吐出側背圧ポート62、背圧連通路91、吸込側背圧ポート61を通じて第一の吸込領域で拡張するベーン背圧室6に流入し、ベーン3がスリット8から突出することが促される。第二の吐出領域で収縮するベーン背圧室6の作動油が吐出側背圧ポート64、背圧連通路93、吸込側背圧ポート63を通じて第二の吸込領域で拡張するベーン背圧室6に流入し、ベーン3がスリット8から突出することが促される。
【0038】
背圧連通路91、93は、ポンプカバー60のロータ前側端面69に開口する溝と、ロータ2の端面21の間に画成される。なお、背圧連通路91、93は、上述した構成に限らず、ポンプカバー60に形成される通孔によって画成してもよい。
【0039】
ロータ2の下部にある第二の吐出側背圧ポート64に導かれるベーン背圧がロータ2の上部にある第一の吸込側背圧ポート61に導かれることを制限するベーン背圧導入制限手段を備える。このベーン背圧導入制限手段として、第二の吐出側背圧ポート64と第一の吸込側背圧ポート61とは、両者の間に背圧連通路が設けられず、ロータ2に摺接するロータ前側端面69によって両者の連通が遮断されている。同様に、第一の吐出側背圧ポート62と第二の吸込側背圧ポート63とは、両者の間に背圧連通路が設けられず、ロータ2に摺接するロータ前側端面69によって両者の連通が遮断されている。
【0040】
ベーンポンプ1は、以下の条件を満たす姿勢になるように搭載される。
・内周カム面5の第一の吸込区間5Aが第二の吐出区間5Gより上方にあり、吐出区間5Cが内周カム面5の吸込区間5Eより上方に配置される。
・第一の吸込領域と第一の吐出領域の間に設けられる内周カム面5の第一の吸込吐出遷移区間5Bと、第二の吸込領域と第二の吐出領域の間に設けられる内周カム面5の第二の吸込吐出遷移区間5Fと、が鉛直方向に並ぶようにそれぞれ配置される。即ち、第一の吸込吐出遷移区間5Bと第二の吸込吐出遷移区間5Fとは、鉛直方向に延びる同一線上と交差するように配置されている。
【0041】
図3に示すように、ベーンポンプ1が上記の条件を満たす姿勢をとることにより、第一の吸込領域及び第一の吐出領域に位置するベーン3には重力がスリット8の内奥に入る方向に働く。一方、第二の吸込領域及び第二の吐出領域に位置するベーン3には重力がスリット8から突出する方向に働く。
図3において上下に並び第一、第二の吸込吐出遷移区間5B、5Fが設けられる遷移領域では、ベーン3が鉛直方向に延びるため、ベーン3に働く重力が最大になる。
図3において左右に並び吐出吸込遷移区間5D、5Hが設けられる遷移領域では、ベーン3が水平方向に延びるため、ベーン3に働く重力が最小(零)になる。
【0042】
なお、ベーンポンプ1の姿勢は、上述した構成に限らず、内周カム面5の第一の吸込区間5Aが第二の吐出区間5Gより上方にあり、吐出区間5Cが内周カム面5の吸込区間5Eより上方に配置されていれば、第一、第二の吸込吐出遷移区間5B、5Fを結ぶ仮想線が鉛直方向に延びる鉛直線に対してある程度傾斜してもよい。
【0043】
ベーンポンプ1の停止状態が続くと、
図3に示すように、第一の吸込領域及び第一の吐出領域にあるベーン3が重力によって各スリット8の内奥に落ち込み、ベーン3とカムリング4との間に画成される間隙を介して第一の吐出ポート32と第一の吸込ポート31を連通する圧力逃がし路39がつくられる。一方、第二の吸込領域及び第二の吐出領域にあるベーン3は、重力によって各スリット8から突出して内周カム面5に当接した状態が維持される。
【0044】
ベーンポンプ1の起動時に、ポンプ室7が第二の吐出領域において収縮することによって、第二の吐出ポート34から高圧室35に導かれるポンプ吐出圧が、
図3に矢印Aで示すように、第一の吐出ポート32から上記の圧力逃がし路39を通じて吸込通路25へと逃げてしまうと、高圧室35の吐出圧が上昇するのに時間がかかる。
【0045】
これに対処して、ベーンポンプ1には、第一の吐出ポート32に逆止弁70が設けられる。この逆止弁70は、第一の吐出ポート32から高圧室35に吐出される作動油の流れに対して開弁し、高圧室35から第一の吐出ポート32に向かう作動油の流れに対して閉弁する。
【0046】
図1Aの回路図には、ベーンポンプ1の通常作動時における作動油の流れを矢印で示している。ロータ2が矢印方向に回転するベーンポンプ1の作動時に、第一、第二の吐出領域において、ベーン3がカムリング4に追従してスリット8に入り、第一、第二の吸込領域において、ベーン3がカムリング4に追従してスリット8から突出する動作が繰り返され、ポンプ室7が拡縮される。これに伴って、タンク26内の作動油が、吸込通路25、第一の吸込ポート31、第二の吸込ポート33を通じてポンプ室7に供給される。一方、ポンプ室7から吐出される加圧作動油は、第一の吐出ポート32及び第二の吐出ポート34、高圧室35、吐出通路36を順に通じて油圧機器18に供給される。このとき、第一の吐出ポート32から高圧室35に流入する作動油に対しては、逆止弁70が開弁する。油圧機器18から排出される作動油は、戻し通路27を通じてタンク26に戻される。
【0047】
上記ベーンポンプ1の作動時に、高圧室35のポンプ吐出圧が各吐出圧導入通路51、53から各背圧ポート41、43を通じて各ベーン背圧室6に導かれ、この圧力によってベーン3がスリット8から突出する方向に付勢される。
【0048】
前述したように、ベーンポンプ1の停止状態が続くと、ベーンポンプ1の上部に位置するベーン3が重力によって各スリット8の内奥に落ち込み、第一の吐出ポート32と第一の吸込ポート31を連通する圧力逃がし路39がつくられる。この状態からロータ2が矢印方向に回転するのに伴って、第一の吐出領域において、ベーン3がスリット8に落ち込んでポンプ室7が画成されないため、第一の吐出ポート32には加圧作動油が導かれず、逆止弁70が閉弁している。一方、第二の吐出領域においては、重力によって各スリット8から突出してポンプ室7が画成されているため、ベーン3が内周カム面5に追従してスリット8に入り、ポンプ室7が収縮される。こうして収縮する第二の吐出領域のポンプ室7から吐出される加圧作動油は、第二の吐出ポート34を通じて高圧室35に導かれる。このとき、逆止弁70が閉弁しているため、高圧室35に導かれるポンプ吐出圧が、第一の吸込ポート31と圧力逃がし路39を通じて吸込通路25へと逃げてしまうことが抑えられ、高圧室35のポンプ吐出圧が速やかに上昇する。
【0049】
図1Bは、上記の圧力逃がし路39がつくられたベーンポンプ1の起動時における作動油の流れを矢印で示している。タンク26内の作動油が、吸込通路25、第二の吸込ポート33を通じて第二の吸込領域のポンプ室7に供給される。一方、第二の吐出領域のポンプ室7から吐出される加圧作動油は、逆止弁70によって第一の吸込ポート31と圧力逃がし路39を通じて吸込通路25へと逆流することが抑えられる。これにより、第二の吐出領域のポンプ室7から吐出される加圧作動油が、第二の吐出ポート34、高圧室35、吐出通路36を順に通じて油圧機器18に供給される。
【0050】
上記
図1Bに示すベーンポンプ1の起動時に、ロータ2のサイドプレート30側では、高圧室35のポンプ吐出圧が各吐出圧導入通路51、53から各背圧ポート41、43を介して各ベーン背圧室6に導かれる。背圧ポート41に導かれる圧力によって第一の吸込領域にて落ち込んでいたベーン3がスリット8から突出することが促され、圧力逃がし路39がなくなることによってポンプ吐出圧が速やかに上昇する。
【0051】
上記
図1Bに示すベーンポンプ1の起動時に、ロータ2のポンプカバー60側では、第二の吐出領域において、ベーン3が重力によって各スリット8から突出しているため、ベーン3が内周カム面5に追従してスリット8に入る。このベーン3の基端部によって収縮するベーン背圧室6の作動油が吐出側背圧ポート64、背圧連通路93、吸込側背圧ポート63を通じて第二の吸込領域で拡張するベーン背圧室6に流入し、ベーン背圧室6の圧力が高められる。
【0052】
図6A、
図6Bは、逆止弁70を示す断面図である。逆止弁70は、サイドプレート30の背面37に当接して吐出ポート32を閉塞する弁体71と、この弁体71の背面74から突出する2本のピン81と、このピン81を摺動可能に支持するガイド穴11と、弁体71をサイドプレート30に押し付けるスプリング82と、を備える。
【0053】
弁体71は、サイドプレート30の背面37に当接可能とする端面73と、この端面73と平行に延びる背面74と、を有する板状に形成される。
【0054】
ピン81は、その断面が円形であり、その側面が円筒になっている。ピン81は、例えば焼入硬化処理が施され、所定の寸法精度を有するダウエルピンが用いられる。なお、上述した構成に限らず、ピン81を弁体71に一体形成してもよい。
【0055】
弁体71は背面74に開口する2つの嵌合穴75が形成され、この嵌合穴75に円柱状のピン81が圧入される。ピン81は、弁体71の背面から突出し、ロータ2の回転軸と平行に延びる。
【0056】
ポンプボディ10には、各ピン81を摺動可能に挿入させる2つのガイド穴11が形成される。このガイド穴11は、ロータ2の回転軸と平行に延びるように形成される。これにより、弁体71がピン81を介して平行移動するように支持される。
【0057】
ガイド穴11は円形の断面形状を有し、ガイド穴11とピン81の間にはハメアイ隙間が設けられる。これにより、ガイド穴11に対してピン81が円滑に摺動するとともに、弁体71の端面73がサイドプレート30の背面37に隙間無く当接するようになっている。
【0058】
弁体71をサイドプレート30に押し付ける付勢手段として、コイル状のスプリング82が設けられる。スプリング82は、ポンプボディ10と弁体71の間に圧縮して介装される。ポンプボディ10には、コイル状のスプリング82の一部が収容されるスプリング収容穴12が形成される。一方、弁体71の背面74に開口するスプリング受け部76が形成され、このスプリング受け部76の内側にコイル状のスプリング82の一端が着座する。スプリング収容穴12及びスプリング受け部76は、ロータ2の回転軸と平行に延びるように形成される。これにより、弁体71に対するスプリング82のバネ力がピン81と平行方向に働く。
【0059】
ガイド穴11と高圧室35とを連通するガイド穴連通路14が設けられる。これにより、逆止弁70の開閉作動時に、ピン81がガイド穴11に対して軸方向に摺動するのに伴って、ガイド穴11の作動流体がガイド穴連通路14を通って高圧室35に出入りする。
【0060】
ポンプボディ10には、各ガイド穴11とスプリング収容穴12を連通する2つのガイド穴側方スリット13が形成される。各ガイド穴側方スリット13及びスプリング収容穴12は、各ガイド穴11と高圧室35とを連通するガイド穴連通路14を画成している。これにより、ガイド穴11の軸方向についてガイド穴連通路14の流路面積が十分に確保される。逆止弁70の開閉作動時に、ガイド穴11内の作動流体がガイド穴側方スリット13を通ってスプリング収容穴12に出入りし、ピン81がガイド穴11に対して円滑に摺動することができる。
【0061】
各ガイド穴側方スリット13は、ガイド穴11とスプリング収容穴12の両方に開口し、その先端開口部が後述するポンプボディ10の弁体対峙面16Bに開口し、その基端面がガイド穴11及びスプリング収容穴12の底部12Aに連接する部位によって形成される。
【0062】
ポンプボディ10を鋳造によって形成する際に、ポンプボディ10の各ガイド穴11とスプリング収容穴12と各ガイド穴側方スリット13は、金型によって成形される。ポンプボディ10を鋳造した後に、ガイド穴11に切削加工を施す。スプリング収容穴12と各ガイド穴側方スリット13には切削加工が施されないため、ポンプボディ10に施される切削加工数が削減され、ポンプボディ10を効率よく製造できる。
【0063】
図7は、逆止弁70及びサイドプレート30を示す背面図である。弁体71は、長孔状の第一の吐出ポート32に沿ってサイドプレート30の周方向に延びる外形を有する板状に形成される。弁体71は、第一の吐出ポート32に対向するように、ロータ2の回転軸を中心とする円弧状に延び、サイドプレート30の内周面30Aと外周面30Bに沿う外形を有する。
【0064】
スプリング82は、2本のピン81の間に配置され、弁体71を挟んで第一の吐出ポート32に対向する。スプリング受け部76は、2つの嵌合穴75の間に配置され、2つの嵌合穴75と一直線上に並び、2つの嵌合穴75に等しい間隔を持つように配置される。
【0065】
ポンプボディ10の高圧室35を画成する内壁面16は、環状の流路を画成する環状流路壁面16Aと、弁体71の背面74に対峙する弁体対峙面16Bとを有する。
【0066】
ポンプボディ10の環状流路壁面16Aは、その断面が凹状に湾曲して形成され、ロータ2の回転軸を中心として環状に延びる。
【0067】
ポンプボディ10の弁体対峙面16Bは、環状流路壁面16Aからサイドプレート30に向けて隆起した部位に、ロータ2の回転軸と略直交する平面状に形成される。
【0068】
図6Bに示すように、弁体71が第一の吐出ポート32を開く開弁位置にあるとき、弁体71の背面74が弁体対峙面16Bに当接し、弁体71の端面73とサイドプレート30の背面37の間に所定幅Sの流路が画成される。この開弁位置にて、弁体71の端面73は、サイドプレート30の背面37に略平行に対峙している。
【0069】
図2に示すように、ポンプボディ10の高圧室35を画成する内壁面16は、第二の吐出ポート34に対峙する吐出ポート対峙壁部16Cを有する。この吐出ポート対峙壁部16Cは、サイドプレート30の背面37に略平行に対峙する平面状に形成される。第二の吐出ポート34の開口端と吐出ポート対峙壁部16Cの間に画成される流路の幅は、弁体71の端面73とサイドプレート30の背面37の間に画成される流路の幅Sと同等に形成される。
【0070】
ポンプボディ10の環状流路壁面16Aの図示しない底部は、後述する吐出ポート対峙壁部16Dと同様に、弁体対峙面16Bよりサイドプレート30の背面37から離れて形成される。
【0071】
以下、逆止弁70の動作について説明する。
【0072】
ベーンポンプ1の停止時において、
図3に示すように、第一の吐出領域と第一の吸込領域におけるベーン3がスリット8の内奥に落ち込み、第一の吐出ポート32と第一の吸込ポート31を連通する圧力逃がし路39がつくられている状態が生じる。
【0073】
図3に示す停止状態からロータ2が回転し始めるベーンポンプ1の起動時において、弁体71がスプリング82の付勢力によってサイドプレート30に押し付けられ、弁体71の端面73がサイドプレート30の背面37に隙間なく当接し、第一の吐出ポート32と高圧室35間が遮断される。
【0074】
逆止弁70が閉弁した状態でロータ2が回転するのに伴って第一の吐出ポート32の圧力が上昇すると、弁体71が第一の吐出ポート32から吐出する作動油の圧力によってサイドプレート30から離れる。こうして逆止弁70が開弁すると、作動油が
図2、
図6Bに矢印で示すように第一の吐出ポート32から高圧室35に吐出される。
【0075】
弁体71が第一の吐出ポート32から吐出する作動油の圧力によってスプリング82のバネ力に抗して移動するときに、2本のピン81がガイド穴11に摺動することによって、弁体71は2本のピン81によってサイドプレート30に対する姿勢を維持して移動する。これにより、弁体71がサイドプレート30に対して移動するストロークが十分に確保される。
【0076】
通常の作動時では、
図2、
図6Bに示すように、弁体71の背面74が弁体対峙面16Bに当接し、第一の吐出ポート32の開口端(サイドプレート30の背面37)と弁体71の端面73との間に所定幅Sの流路が画成される。これにより、逆止弁70の開弁時に弁体71とサイドプレート30の間に画成される流路の断面積が十分に確保され、逆止弁70によってベーンポンプ1の駆動損失が増えることを抑えられる。
【0077】
一方、第二の吐出ポート34の開口端(サイドプレート30の背面37)と吐出ポート対峙壁部16Cとの間にも所定幅Sの流路が画成されている。これにより、第一の吐出ポート32、第二の吐出ポート34からそれぞれ吐出する作動油の圧力が均等になり、第一の吐出ポート32、第二の吐出ポート34からロータ2が受ける圧力が釣り合うことによってベーンポンプ1から騒音等が発生することを抑えられる。
【0078】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0079】
〔1〕逆止弁70は、サイドプレート30の吐出ポート32が開口する背面37に当接して吐出ポート32を閉塞する弁体71と、この弁体71の背面74から突出する複数本のピン81と、高圧室35に面して開口するように形成されピン81が摺動自在に挿入されるガイド穴11と、高圧室35に収容されて弁体71をサイドプレート30に押し付ける付勢手段(スプリング82)と、を備える構成としたため、複数のピン81がガイド穴11に摺動することによって、弁体71がサイドプレート30に対する姿勢を維持して移動し、弁体71がサイドプレート30に対して移動するストロークが十分に確保される。これにより、逆止弁70の開弁時に弁体71とサイドプレート30の間に画成される流路の断面積が十分に確保され、逆止弁70によってベーンポンプ1の駆動損失が増えることを抑えられる。
【0080】
〔2〕付勢手段はコイル状のスプリング82であり、このスプリング82が2本のピン81の間で弁体71を挟んで吐出ポート32に対向するように配置されるため、弁体71が2本のピン81によってサイドプレート30に対する姿勢を維持して円滑に移動することができる。
【0081】
なお、上述した構成に限らず、弁体71が3本以上のピンを介して移動可能に支持される構成としてもよい。
【0082】
〔3〕ガイド穴11と高圧室35を連通するガイド穴連通路14を備えたため、逆止弁70の開閉作動時に、ピン81の摺動に伴って拡縮するガイド穴11内の作動流体がガイド穴連通路14を通って高圧室35に出入りし、ピン81がガイド穴11に対して円滑に摺動することができる。
【0083】
〔4〕高圧室35に面して開口するように形成されスプリング82を収容するスプリング収容穴12と、ガイド穴11とスプリング収容穴12を連通するガイド穴側方スリット13と、を備え、ガイド穴連通路14がガイド穴側方スリット13及びスプリング収容穴12によって構成されるため、ガイド穴連通路14の流路断面積が十分に確保され、ピン81がガイド穴11に対して円滑に摺動することができる。
【0084】
なお、ガイド穴連通路14は、上述した構成に限らず、ガイド穴11と高圧室35とを連通する通孔によって形成してもよい。
【0085】
〔5〕高圧室35に開口する2つの吐出ポート32、34を備える平衡型ベーンポンプ1であって、内周カム面5の第一の吐出区間5Cが第二の吸込区間5Eより上方にあるように配置され、起動時にスリット8に落ち込んだベーン3によってポンプ室7が吸込側(吸込通路25)に連通する第一の吐出領域に逆止弁70が設けられ、逆止弁70が第一の吐出ポート32から高圧室35に吐出される作動流体の流れに対して開弁する構成としたため、起動時に、逆止弁70が閉弁することによって、ポンプ室7に生じる作動流体圧がスリット8に落ち込んだベーン3によって画成される圧力逃がし路39を通って吸込側(吸込通路25)に逃げることが抑えられ、ポンプ吐出圧の上昇を速められる。
【0086】
平衡型ベーンポンプ1であって、起動時にスリット8に落ち込んだベーン3によってポンプ室7が吸込側(吸込通路25)に連通しない領域(第二の吐出領域)にある吐出ポート34に逆止弁70が設けられないため、この吐出ポート34から高圧室35に流入する作動流体の流れに対して逆止弁70が抵抗を付与することがなく、ベーンポンプ1の駆動損失が増大することを回避できる。
【0087】
なお、上述した構成に限らず、第一、第二の吐出ポート32、34の両方に逆止弁70をそれぞれ設けてもよい。これにより、ベーンポンプ1の搭載方向によらず、上記の作用、効果が得られる。
【0088】
〔6〕逆止弁70が設けられる第一の吐出ポート32と、逆止弁70が設けられない第二の吐出ポート34と、を備える平衡型ベーンポンプ1であって、高圧室35を画成する内壁面16に第二の吐出ポート34に対峙する吐出ポート対峙壁部16Cが設けられ、第二の吐出ポート34の開口端と吐出ポート対峙壁部16Cの間に画成される流路の幅が、第一の吐出ポート32の開口端と弁体71の間に画成される流路の幅Sと同等に形成されるため、第一の吐出ポート32、第二の吐出ポート34からそれぞれ吐出する作動油の圧力が均等になり、ベーンポンプ1から騒音等が発生することを抑えられる。
【0089】
なお、上述した構成に限らず、
図2に2点鎖線で示すように、高圧室35を画成する内壁面16に第二の吐出ポート34に対峙する吐出ポート対峙壁部16Dを凹状に窪む断面形状に形成し、この吐出ポート対峙壁部16Dが環状流路壁面16Aの底部と段差なく延びるようにしてもよい。これにより、第二の吐出ポート34の開口端と吐出ポート対峙壁部16Dの間に画成される流路の幅が大きくなり、第二の吐出ポート34から吐出される作動油の流量を増やすことができる。
【0090】
本発明は、上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。