【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、各測定数値は下記のような条件で測定した値である。
【0060】
(活性測定)
まず、0.5w/v%マルトース水溶液40μlと0.1mol/LのHEPES緩衝液(pH7)40μlを含む溶液に、酵素試料20μlを添加して、30℃で10分間酵素反応させた。この反応液に2mol/LのTris−HCl溶液(pH7)を添加して
反応を停止した。前記反応液に、グルコーステストワコーC II溶液(和光純薬製)を100μl添加し、37℃で30分間インキュベートし発色させた。このうち200μlを96ウェルマイクロプレートに移液し、マイクロプレートリーダー(『Model 680』Bio Rad社製)にて波長490nmの吸光度を測定することにより生じたグルコースを定量した。グルコースの標準曲線は、0〜0.01w/v%グルコース水溶液を用いて作成した。酵素単位1Uは、前記条件で、1分間に1μmolのマルトースを分解させる酵素量と定義した。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0061】
(タンパク質の定量)
タンパク質の定量は、DC protein assay kit(Bio Rad社製)を使用して、添付のプロトコルに従って行った。タンパク質の標準曲線は0〜1mg/mlのbovine serum albumin(Bio Rad社製)を用いて作成した。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0062】
(タンパク質の純度)
タンパク質の純度は、SDS−PAGE(Sodium dodecyl sulfate Poly−Acrylamide Gel Electrophoresis)により評価した。ポリアクリルアミドゲル(12.5%)は、アトー社製の商品名『e−PAGEL』を使用した。サイズマーカーはインビトロジェン社製の『Mark12 Unstained Standard』を使用した。電気泳動は、25mAの定電流で行った。タンパク質の染色は、関東化学社製の商品名『ラピッド CBB Kanto』を使用して、添付のプロトコルに従って行った。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0063】
<実施例1:Halomonas sp. H11からのα−グルコシダーゼ精製>
可溶性澱粉(関東化学製)10g/L、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、和光純薬製)5g/L、酵母抽出物(商品名『イーストエキストラクト』、ベクトン・ディッキンソン製)5g/L、塩化ナトリウム(和光純薬製)35g/L、リン酸二水素カリウム(関東化学製)1g/L、硫酸マグネシウム七水和物(関東化学製)0.2g/L、および水からなるpH7の液体培地2Lを5Lのバッフル付きフラスコに調製し、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し冷却した。
【0064】
次いで、Halomonas sp. H11菌株のグリセロールストックを10μlディスポループ1エーゼ分植菌し、37℃、150rpmで24時間回転振盪培養した。培養液を冷却遠心機にて遠心分離し(4℃、5,800xg、30分間)、得られた菌体細胞を20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)で懸濁した後、再度上記と同様の条件で遠心分離することにより菌体を洗浄した。上清を取り除き、菌体細胞を同緩衝液5
0mlに懸濁し、超音波破砕機(microsom(商標) ultrasonic cell disruptor)にて細胞を破砕した(出力:4ワット、全出力時間: 2
0分間)。細胞破砕液を遠心分離し(4℃,5,800xg,30分間)、回収した上清を菌体内粗酵素液とした。なお、全ての操作は氷上で行った。本粗酵素液について、タンパク質量とα−グルコシダーゼ活性を測定したところ、833mgのタンパク質、19.4Uの酵素活性が含まれており、比活性は0.023U/mgであった。
【0065】
前記粗酵素液50mlに1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を1ml加えることによりpH5とし、20mmol/L 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)で平衡化されたイオン交換カラムに、以下の条件で供し、塩化ナトリウム濃度0.1mol/L付近に溶出された画分(部分精製酵素1)を回収した。
【0066】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) DEAE−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ: φ15mm×170mm
ゲル量 : 30mL
溶出液 : 20mmol/L 酢酸ナトリウム(pH 5)
塩化ナトリウム濃度0mol/L〜0.5mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 2mL/min
溶出液量 : 120mL
【0067】
部分精製酵素1には24.8mgのタンパク質と、2.2Uの酵素活性が含まれており、比活性は0.090U/mgであった。前記粗酵素液からの精製度は3.8倍であった。
【0068】
前記部分精製酵素1に、硫酸アンモニウムを少量ずつ加え、終濃度1.5mol/Lとした。これを1.5mol/L硫酸アンモニウムを含む20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)で平衡化した疎水カラムに、以下の条件で供した。そして、硫酸アンモニウム濃度1.0mol/L付近で溶出された画分(部分精製酵素2)を回収した。
【0069】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) BUTHYL−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ : φ15mm×200mm
ゲル量 : 35mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)
硫酸アンモニウム濃度1.5mol/L〜0mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 2mL/min
溶出液量 : 120mL
【0070】
部分精製酵素2には、7.9mgのタンパク質と、19.7Uの酵素活性が含まれており、比活性は2.5U/mgであった。
【0071】
前記部分精製酵素2を限外ろ過(Amicon Ultra−15 centrifugal Filter Unit、ろ過分子量10,000、ミリポア社製)にて脱塩・濃縮した後、溶媒を20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)に置換した。
【0072】
脱塩・濃縮した部分精製酵素2には、6.5mgのタンパク質と、7.1Uの酵素活性が含まれており、比活性は1.1U/mgであった。脱塩・濃縮前の部分精製酵素2に比べ比活性が低下したのは、限外ろ過において、本酵素活性を活性化する一価カチオン(アンモニウムイオン等)が除去されたためと考えられる。
【0073】
当該サンプルを20mmol/L HEPES緩衝液(pH 7)で平衡化したイオン交換カラムに、以下の条件で供し、塩化ナトリウム濃度0.1mol/L付近に溶出した画分を回収(精製酵素)し、上記と同様の限外ろ過膜で脱塩・濃縮し、以後の実験に使用した。
【0074】
(条件)
カラム : resource Q(GEヘルスケア社製)
カラムサイズ : φ6.4mm×30mm
ゲル量 : 1mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)
塩化ナトリウム濃度0mmol/L〜1mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 3mL/min
溶出液量 : 30mL
【0075】
前記画分は0.92mgのタンパク質と1.1Uの酵素活性が含まれており、比活性は1.2U/mgであった。前記粗酵素液からの精製度は51倍、回収率は5.6%であった。この画分を1μg SDS−PAGEに供した。この結果を
図1に示す。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は前記画分の結果である。
図1のレーン2に示すように、1本のバンドのみが検出されたことから、前記画分において、酵素は単一に精製されていることが分かった。得られた精製酵素について、各種特性を調査した。
【0076】
下記表2に本酵素α−グルコシダーゼの精製の概要を示す。下記表2において、比活性はタンパク質1mgあたりの酵素活性(U/mg)を示し、回収率は、粗酵素液の総活性に対する酵素活性の残存率(%)を示し、精製度は、粗酵素液の比活性に対する倍率(倍)を示す(以下の実施例でも同様である)。なお、疏水カラム精製後の酵素(工程3)の比活性及び精製度が高いのは、溶出液中に含まれる硫酸アンモニウムの影響によるものと考えられる。
【0077】
【表2】
【0078】
<実施例2:SDS−PAGEによる分子量測定>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼをSDS−PAGEに供し、サイズマーカーと比較して分子量を測定したところ、本発明のα−グルコシダーゼは分子量58,000±2000ダルトンであった(
図1)。
【0079】
<実施例3:至適pHおよびpH安定性評価>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、酵素活性および酵素安定性におよぼすpHの影響を調べた。本酵素の活性測定時に用いる反応緩衝液を40mmol/Lのブリトン・ロビンソン緩衝液(pH3〜12)に置き換えることにより、至適pHを求めた。最も高い活性を示したpHにおける活性を100(%)とし、各pHにおける相対活性を算出した。pH安定性は、10mmol/Lのブリトン・ロビンソン緩衝液(pH3〜12)および0.36mg/mlの精製酵素からなる溶液を4℃にて24時間インキュベートした後、活性測定を行った。最も高い活性を示したpHにおける活性を100(%)とし、各処理pHにおける残存活性(%)を算出した。
【0080】
これらの結果を
図2に示した。
図2において、横軸はpHであり、左側の縦軸は相対活性(%)、右側の縦軸は残存活性(%)であり、黒丸(●)は相対活性(至適pH)の結果、白丸(○)は残存活性(pH安定性)の結果を示す。
図2に示すように、本発明におけるHalomonas sp. H11株由来のα−グルコシダーゼの至適pHは6〜8の範囲であった。また、pH5.5〜12の範囲で、残存活性65%以上であった。
【0081】
<実施例4:至適温度および温度安定性評価>
実施例1で得た精製α−グルコシダーゼを用いて至適温度および温度安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液を4〜60℃の各温度に15分間保持した後、活性測定を行うことにより求めた。最も高い活性を示した温度における活性を100(%)とし、各保管温度における残存活性(%)を算出した。至適温度は、4〜60℃の各温度で活性測定を行うことにより求めた。最も高い活性を示した温度における活性を100(%)とし、各温度における相対活性を算出した。
【0082】
これらの結果を
図3に示した。
図3において、横軸は温度であり、左側の縦軸は相対活性(%)、右側の縦軸は残存活性(%)であり、黒丸(●)は相対活性(至適温度)の結果、白丸(○)は残存活性(温度安定性)の結果を示す。
図3に示すように、本発明におけるHalomonas sp. H11株由来のα−グルコシダーゼの至適温度は、20℃〜35℃であり、温度安定性は4℃〜45℃であることがわかった。
【0083】
さらに、アンモニウムイオン10mmol/L存在下で至適温度を調べた。その結果を
図4に示した。
図4から明らかなように、本発明のα−グルコシダーゼは、硫酸アンモニウム10mmol/L存在下で、至適温度が25〜45℃になることが判明した。
【0084】
<実施例5:基質特異性評価>
各基質溶液(4mmol/L)としてα−結合からなる各種グルコオリゴ糖(マルトース、イソマルトース(東京化成工業製)、トレハロース(日本食品化工製)、ニゲロース(和光純薬工業製)、コージビオース(和光純薬製)、マルトトリオース(日本食品化工製)、マルトテトラオース(生化学工業製)、マルトペンタオース(生化学工業製)およびマルトヘキサオース(生化学工業製))、スクロース(関東化学製)、メチル−α−D−グルコシド(田岡化学製)、pNPG(シグマ社製)及び可溶化澱粉(ナカライテスク製)を基質とし、酵素添加量0.72μgにて通常の活性測定法と同様に活性測定を行っ
た。ただし、可溶化澱粉に関しては基質濃度を1w/v%とし、pNPGに関しては基質濃度を2mmol/Lとし、1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を反応容量の2倍量添加することにより反応を停止した。マイクロプレートリーダーにて波長405nmの吸光度を測定することにより遊離のp−ニトロフェノール濃度を求め、1分間に1μmolのpNPGを加水分解する活性を1Uとした。標準曲線の作成には、p−ニトロフェノール(和光純薬製)0〜0.2mmol/Lを使用した。
【0085】
表3に、マルトースに対する加水分解活性を100%としたときのその他の基質に対す
る分解活性を相対値(%)で示した。表3から明らかなように、本発明におけるα−グルコシダーゼは、イソマルトース、トレハロース、ニゲロース、コージビオース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、メチルグルコシドおよび可溶性澱粉を実質的に加水分解しないことが判明した。
一方、スクロースに対して約33%、pNPGに対して約77%の相対活性を示した。
【0086】
【表3】
【0087】
<実施例6:酵素活性におよぼす各種イオンの影響>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、酵素活性におよぼす各種イオンの影響を調べた。LiCl、NaCl、MgCl・6H
2O、KCl、CaCl
2、MnCl
2・2H
2O、FeCl
2・4H
2O、CoCl
2・6H
2O、CuCl、ZnCl
2、R
bCl、AgNO
2、CsClおよびNH
4Clまたは(NH
4)
2SO
4(全て関東化学製
)をカチオン濃度として200mmol/Lとなるよう純水に溶解し、各種カチオン水溶液を調製した。各種カチオン水溶液を酵素反応液中のカチオン濃度が10mmol/Lとなるよう添加し、pH7、30℃において酵素活性を測定した。カチオン無添加における酵素活性を100(%)とし、各種カチオン10mmol/L存在時の相対酵素活性(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表3から明らかなように、カチオン非存在下と比較しK
+、Rb
+、NH
4+、Cs
+、L
i
+およびNa
+の存在下にて相対活性が上昇し、それぞれ592%、564%、503%、319%、151%および116%となった。反対に、Mg
2+、Ca
2+、Co
2+およびZn
2+においてはそれぞれ30、20、1および0%に低下した。以上より、本発明におけるα−グルコシダーゼは、一価のアルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンにより活性化されることが判明した。
【0090】
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンおよびアンモニウムイオン0.001〜100mmol/L存在下において、それぞれ活性測定を行い、カチオン濃度の酵素比活性に及ぼす影響を調べた。結果を
図5に示す。
【0091】
図5から明らかなように、各カチオン濃度10mmol/Lにおいてそれぞれの活性化効果はほぼ飽和に達し、それ以上の濃度においても酵素の比活性は殆ど変化しなかった。また、カチオン0.001mmol/Lの存在下においても活性化が認められた。以上のことから、本酵素を十分に活性化するためにはカチオン濃度10mmol/L以上が好ましいが、0.001mmol/L程度でも効果があることが明らかとなった。
【0092】
<実施例7:N末端アミノ酸配列>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、本酵素のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサーモデルProcise 492cLC(アプライドバイオシステムズ製)により解析したところ、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜20、すなわち、MQDNMMWWRGGVIYQIYPRSであることが判明した。
【0093】
<実施例8:遺伝子配列の同定>
(ゲノムの調製)
実施例1で示した培地10mLに、Halomonas sp.H11株のグリセロールストックを接種し、37℃、150rpmで16時間培養した。培養液を1.5mL容エッペンドルフチューブに1mLずつ分注し遠心分離(4℃、14,000rpm、2分間)し上清を取り除いた。5mg/mLのリゾチーム(生化学工業製)、TE(pH8)溶液をチューブ1本当たり350μL添加し、37℃にて1時間保持した。10%SDS溶液を50μL添加し転倒混和し37℃にて30分間保持した。TE飽和フェノールを400μL添加し穏やかに転倒混和した後遠心分離(室温、14,000rpm、5分間)した。上層を新たなエッペンドルフチューブに移した後、フェノールクロロホルム溶液を400μL添加し穏やかに転倒混和し、上記と同様に遠心分離した。それぞれの上層を一つのエッペンドルフチューブに移し、3mol/L酢酸ナトリウム水溶液および95(v/v%)冷エタノールを、それぞれ溶液の1/10容量および2倍容量添加し遠心分離(4℃、14,000rpm、15分間)した。得られた沈殿物を70%エタノールにてリンス洗浄し風乾した。0.2mg/mlのRNase/TE溶液を400μL添加し、35℃にて30分間保持した。フェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿法を上記と同様に行い、乾燥させた沈殿物をTE100μLに溶解し、ゲノム溶液とした。
【0094】
(N末端配列にもとづいたDNAプライマーの合成)
実施例7において示された本発明のα−グルコシダーゼにおけるN末端アミノ酸配列に基づき、第1から8番目のアミノ酸残基に対応する、5´−ATGCARGAYAAYATGATGTGGTGG−3´(以下、「PFG−F1A−8G」と表記する)(配列番号5)、および第5番目から11番目のアミノ酸に対応する5´−ATGATGTGGTGGCGNGGNGG−3´(以下、「PFG−5A−11G(CGN)」と表記する)(配列番号6)で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを化学合成した。なお、塩基配列におけるNはA,T,G,Cの混合塩基を示す。以下同じ。
【0095】
(カセットPCRによる配列決定)
Takara LA PCR
TM in vitro Cloning Kit(タカラバイオ製)を使用し、遺伝子配列を決定した。前記で調製したゲノムを、SalIおよびPstI(いずれもタカラバイオ製)で処理し、キット付属のカセットDNAに連結させた。
【0096】
1st PCRのプライマーとして、表5に示したPFG−F1A−8Gとcassette primer C1sのセット、PFG−F´1とcassette primer C1sのセット、およびPFG−R´3とcassette primer C1sのセットを使用した。この際、DNAポリメラーゼとしてKOD plus ver.
2(東洋紡製)またはEx Taq(タカラバイオ製)を用いたこと以外は添付説明書に従い行った。2nd PCRでは、各1st PCRの反応液を水で10倍希釈したもの1μLを鋳型とし、プライマーとしてそれぞれPFG−5A−11G(CGN)とcassette primer C2sのセット、PFG−F´2とcassette primer C2sのセット、およびPFG−R´2とcassette primer
C2sのセットを使用した。この際、DNAポリメラーゼとしてEx Taqを使用したこと以外は添付説明書に従った。
【0097】
2nd PCRで増幅の認められた各断片を市販のキット(GEヘルスケア製、商品名『illustra GFX
TM PCR DNA and Gel Band Purification Kit』、以後、「GFX」と表記する)にて精製した。精製した増幅断片を市販のライゲーションキット(タカラバイオ製、商品名『DNA Ligation Kit(Mighty Mix)』)を用いてTベクター(プロメガ製、『pGE
M T easy vector』)に連結させた。上記ライゲーション反応液で通常のコンピテントセルDH5αをヒートショック法により形質転換した。それを50μg/mlアンピシリン、0.1mmol/L IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド)および2μg/mL X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドシル−β−D−ガラクトシド)を含むLBプレートに塗布し37℃で静置培養した。得られた白色コロニーを無作為につまようじで一掻きし、減菌水30μLに懸濁し、そのうち1μLをコロニーPCRの鋳型とした。コロニーPCRは、表4に示したプライマーpGEM−up−FおよびpGEM−dn−Rのセットを使用し、DNAポリメラーゼとしてEx Taqを使用し20μLの系で行った。94℃に2分間保持し、94℃に30秒間、55℃に30秒間、72℃に2分間からなるプログラムを30回繰り返し、最後に72℃に3分間保持した。増幅バンドが認められたものに関してPCR反応液を上記と同様にGFXにて精製した。
これを鋳型として表5に示したシーケンシング用プライマー(PFG−F´3〜F´6、PFG−R´1、R´3)で適宜シーケンス反応させ配列解析に供した。シーケンス反応はDTCS with Quick Start Kit(ベックマン・コールター製)を用い、操作は添付のプロトコルに従った。
【0098】
【表5】
【0099】
上記カセットPCRにおいては、SalI−カセットを鋳型とした2nd PCRにおいて、約500bpの増幅断片が認められた。この断片を上記記載の方法にてTベクターに連結させ、大腸菌を形質転換した後、定法に従いプラスミドを調製した。これを鋳型として、表5記載のオリゴヌクレオチドpGEM−up−FおよびpGEM−dn−Rにてシーケンス解析したところ、5´−ATGATGTGGTGGCGNGGNGG−3´(配列番号6)を含む塩基配列が含まれていた。また、含まれていた配列をアミノ酸に翻訳したところ、実施例7において明らかとなった、本発明のHalomonas sp. H11株のα−グルコシダーゼのN末端アミノ酸配列中の4番目から20番目のアミノ酸
配列(配列番号2の4〜20番目のアミノ酸配列)であるMMWWRGGVIYQIYPRSと一致した。このことから、本塩基配列が、本発明のα−グルコシダーゼに対応する遺伝子の一部であることが明らかとなった。その塩基配列を基に、表5に示すオリゴヌクレオチドPFG−F´1、PFR−F´2、PFG−F´3、PFG−R´1、PFR−R´2およびPFG−R´3を合成した。
【0100】
PstI−カセットを鋳型として、PFG−F´1とcassette primer
C1sのセットおよびPFG−R´3とcassette primer C1sのセットで1st PCRを行った。そのPCR産物を鋳型として、それぞれPFG−F´2とcassette primer C2sのセットおよびPFG−R´2とcassette primer C2sのセットで2nd PCRを行ったところ、それぞれ約2.5kbpおよび約1.5kbpの増幅断片が認められた。上記方法に従い、これらのDNA断片のシーケンス解析を行ったところ、本発明におけるα−グルコシダーゼ遺伝子のDNA配列は、配列番号1に示す配列であることが明らかとなった。配列番号1に示すDNA配列がコードするアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列である。
【0101】
<実施例9:形質転換体の作製>
実施例8で調製したHalomonas sp. H11株のゲノムDNAを鋳型として、表6に記載のクローニング用オリゴヌクレオチド、PFG−F−NdeIおよびPFG−R−XhoIを用いてα−グルコシダーゼをクローニングした。すなわち、鋳型100ng、10×KOD ver.2 buffer 5μL、2mmol/L dNTPs 5μL、25mmol/L MgSO
4 3μL、20mmol/Lのプライマー溶液
各1mL、KOD plus polymerase 1μLを混合し、水で50μLにメスアップした。PCR条件は以下の通りである。94℃に2分間保持した後、94℃に30秒間、55℃に30秒間、72℃に2分間からなるサイクルを30回繰り返し、最後に72℃に3分間保持した。このうち4μlを電気泳動に供し、約1.5 kbの増幅断
片を確認した。当該断片をGFXにて精製した。これを、NdeIおよびXhoI(いずれもタカラバイオ製)で酵素処理し、GFXにて精製した。本DNA断片を、上記と同様にNdeIおよびXhoIで制限酵素処理したpET22b(ノバジェン製)に、通常のライゲーション反応にて連結させ発現用プラスミドを作製した。プラスミドの調製には、DH5αを使用し、表6に示したシーケンス解析用オリゴヌクレオチドにてクローニングが正しく行われていることを確認した。以上のようにして作製したプラスミドを『pET22b−PFG』と命名した。
【0102】
【表6】
【0103】
<実施例10:形質転換体によるα−グルコシダーゼの産生>
上記pET22b−PFGで、BL21(DE3) Codon Plus RIL(ノバジェン製)を形質転換した。
50μg/mlアンピシリンを含むLB培地3mLに、上記形質転換体を接種し、37℃で一晩前培養した。このうち1mLを600mLの同培地に接種し、37℃で3時間培養した。それを氷冷し、0.1mol/LのIPTGを600μL添加した。これを16℃で24時間回転振盪培養した。得られた培養物を、定法に従い、遠心分離して菌体を回収した。菌体を20mmol/L HEPES(pH7)約40mLに懸濁して、実施例1に示した方法にて超音波破砕した。これを遠心分離した上清を粗酵素液とした。
【0104】
粗酵素液のα−グルコシダーゼ活性を、通常の活性測定法および系内に20mmol/Lの硫酸アンモニウムを含んだ活性測定法により測定した。その結果、前者および後者において、それぞれ1.67U/mlおよび16.2U/mlのα−グルコシダーゼ活性が認められた。このことから、アンモニウムイオンにより活性化される特徴を有した、本発明におけるα−グルコシダーゼが形質転換体により産生されていることが明らかとなった。
【0105】
上記で得た粗酵素液を、さらに実施例1に示した方法に準じて、DEAEトヨパール650Mゲル、ブチルトヨパール650Mゲルを用いたカラムクロマトグラフィーに供して精製し、さらにこの精製酵素をSDS−PAGEに供したところ、分子量58,000±2,000ダルトンの単一バンドが認められた。本組換え酵素の理化学的性質は実質的に実施例1で精製された野生株由来の精製酵素と同一であった。なお、アンモニウムイオンによる活性化率が野生株由来の精製酵素と若干異なったことは、酵素失活および緩衝液の構成成分からなるナトリウムイオンの影響であるものと考えられた。本精製酵素を以後、精製rPfGと表記することがある。
【0106】
<実施例11:粗酵素によるグリセロールの配糖化>
20w/v%マルトース、20w/v%グリセロール、5mmol/L硫酸アンモニウムおよび20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グル
コシダーゼ活性として1.5U/gマルトースとなるように、実施例1の方法にて調製した粗酵素液を添加し反応液量1mLとした。40℃にてインキュベートし、2週間後にサンプリングした。また、対照として、特許文献4(特開平11−222496号公報)に記載された方法に準じてAspergellus niger由来のα−グルコシダーゼを用いた反応を行った。すなわち、30w/v%マルトース、30w/v%グリセロール、20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を含む溶液に2.5U/gマルトースとなるようにトランスグルコシダーゼアマノ(アマノエンザイム製、以下、「TGアマノ」と表記することがある)を添加し40℃にて2週間反応させた。各反応溶液を熱失活させ、5w/v%程度に希釈し、イオン交換樹脂(アンバーライト MB4、オルガノ製)により脱塩、フィルター(Millex HP φ13mm、膜孔0.45μm、ミリポア製)でろ過した後、以下のHPLC条件にて測定した。なお、得られたHPLCピーク面積比をそのサンプル中の固形分重量比とみなした。
【0107】
(HPLC分析条件)
カラム : Ultron PS−80N.L (φ8.0×500 mm)、信和化工製
溶媒 : 純水
流速 : 0.9 ml/min
カラム温度 : 50℃
注入量 : 10μL
検出器 : 示差屈折計
【0108】
その結果、本発明におけるα−グルコシダーゼの粗酵素における反応溶液において、反応前には見られなかった溶出時間11.1分付近の生成物(生成物X)が32.9%含まれていた。本生成物Xは、特許文献4で示される方法(本実施列の対照実験)で生成したα−D−グルコピラノシル−グリセロール(以下、「グルコシルグリセロール」と表記する)と同溶出時間の物質であった。
【0109】
そこで、上記と同様のHPLC条件にて5w/v%の各サンプルを99μL注入し、注入後10〜12分間に検出器の出力ラインから20秒毎に溶離液を分取した。それを3〜5セット繰り返し、分取した画分の糖組成を同条件にて分析した。溶出時間11.1分の物質純度が90%以上の画分を回収しスピードバック遠心濃縮機にてBrix10程度まで濃縮した。当該サンプル5μLにTMSI−C(GLサイエンス製)を500μL添加し、60℃にて10分間保持したものを試料として、特許文献4記載の方法と同様の条件でガスクロマトグラフ(GC)分析した。
【0110】
その結果、物質Xは、GC分析においても対照実験で調製したグルコシルグリセロールと同溶出時間に検出され、対照と同様の、3つの異性体ピークが検出された。以上より、物質Xは、トランスグルコシダーゼアマノにより生成されるものと同様のグルコシルグリセロールであることが明らかとなった。また、本発明のα−グルコシダーゼにより生成したグルコシルグリセロールの異性体割合を、GCによるピーク面積比より算出したところ、2−O−α−D-グルコシルグリセロール:(2R)−1−O−α−D−グルコシルグ
リセロール:(2S)−1−O−α−D−グルコシルグリセロールは10:52:38であった。
【0111】
一方、上記HPLC条件において、反応液の固形分組成を分析したところ、表7に示すように、全固形分に占めるグルコシルグリセロールの割合は32.9%であり、副生成物のグルコース(G1)および重合度3のオリゴ糖(G3)がそれぞれ26.3%および0.7%であった。トランスグルコシダーゼアマノにおける反応溶液においては、上記成分の割合はそれぞれ、24.9%、25.4%および7.2%であった。なお、以下の高純
度化の実験結果から、これらの重合度2のオリゴ糖(G2)およびG3には分岐糖(イソマルトース、パノースおよびイソマルトトリオース)が含まれていることが示唆された。
【0112】
このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いた配糖化反応においては、重合度3のオリゴ糖を実質的に生成しないことがわかった。また、グルコシルグリセロールの生成効率を表すグルコシルグリセロール/グルコース値は、1.25であった。本数値は、トランスグルコシダーゼアマノを使用したときの0.98よりも、優れていた。粗酵素液を使用した反応溶液の、その他の占める成分は粗酵素液に含まれる残渣であった。したがって、本発明におけるα−グルコシダーゼは、既知酵素よりもグリセロールを効率的に配糖化可能であることに加え、目的の配糖体の収量が多く、さらには粗酵素液中に含まれる夾雑タンパク質は配糖化反応に全く悪影響を及ぼさないことが示され、粗酵素であっても配糖化反応に使用可能であることが明らかとなった。
【0113】
表7中におけるG1はグルコース、Glc−Glyはグルコシルグリセロール、G2はマルトースおよびイソマルトースの総量、G3はマルトトリオース、パノースおよびイソマルトトリオースの総量のことを言う。
【0114】
【表7】
【0115】
さらに、上記反応物を、グルコアミラーゼ処理工程を経ずに、高純度化可能かを検討した。すなわち、上記反応物を水でBrix20に希釈し、固形分1gあたり1gとなるように酵母(ダイヤイーストYST,協和発酵フーズ製)を添加した。これを30℃で15時間インキュベートした。煮沸して酵母を死滅させ、発酵により生じたエタノールをエバポレーターにより除去した後、通常の分析と同様に脱イオンおよびフィルターろ過して上記と同様のHPLC分析に供した。なお、この際に使用する酵母は、特に制限されず、一般的なパン酵母、醸造用酵母ならびに実験用酵母等、グルコースを資化するものであれば何を用いてもよい。
【0116】
その固形分分析結果を表8に示す。表8から明らかなように、両反応液において、酵母がグルコースを消費し、本発明におけるα−グルコシダーゼおよびトランスグルコシダーゼアマノの反応液においてグルコース含量がそれぞれ0.8%および0.5%に減少した。一方、酵母の発酵によりグリセロールが生じたため、反応前(表7)と比較してグリセロール含量が増加した。一方、G2およびG3含量は、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いた場合はそれぞれ1.2%および0.6%と低いのに対して、トランスグルコシダーゼアマノの場合は、生じた副産物の分岐糖が酵母により資化されないため、それぞれ5.6%および10.0%と高い値を示した。目的生成物のグルコシルグリセロールは、前者においては後者の1.4倍であった。このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼを使用することにより、副産物のオリゴ糖を除去するグルコアミラーゼ処理を要さず、さらには、酵母または適当方法によりグルコースおよびG2を除去することにより目的
配糖体がより容易に高純度化可能であることがわかった。それぞれのその他に占める成分は、酵素溶液および酵母由来の高分子であった。
【0117】
【表8】
【0118】
本発明におけるα−グルコシダーゼを用いて配糖化反応を行い、続いて、例えば上記のように酵母処理を施した反応液には、従来、例えばオリゴ糖の分離に一般的に用いられるNaまたはCaフォーム等のクロマト分離用陽イオン交換クロマトグラフィーや、膜分画等で目的配糖体との分離が困難であるとされるG1、G2およびG3が実質的に含まれていないために、然る分離手段を選択することにより、従来法よりも容易に高純度化可能であることが期待できる。さらには、G1、G2およびG3が実質的に含まれていないゆえに目的配糖体の含量が多い。
【0119】
実施例1と同様の方法にて調製したHalomonas sp.A8株およびHalomonas sp.A10株の粗酵素においても、本実施例に示される方法によりグリセロールの配糖化を試みた。Halomonas A8株およびA10株の粗酵素添加量をマルトース1gに対してそれぞれ0.07Uおよび0.1Uとした以外の反応条件は上記と同様である。反応4日後の糖組成を表9に示す。
【0120】
表9から明らかなように、いずれの粗酵素においてもGlc−Glyが生成し、G3が実質的に生成されていなかった。なお、これらA8及びA10株においてマルトース(G2)が消費されきれなかったのは、粗酵素中の酵素活性が低かったことから、反応が十分に進まなかったことが原因であると考えられた。酵素量と反応時間には密接な関係があることから、適切に反応させることによりHalomonas sp.H11株の粗酵素のものと同等の反応を行うことが可能であると考えられる。なお、A8及びA10株の反応溶液共に、その他の占める成分は粗酵素液に含まれる残渣であった。
【0121】
【表9】
【0122】
さらに、グリセロールは、グルコシルグリセロールと全く異なる分子量であることから
、上記のような分離手段を用いれば容易に目的配糖体と分離可能である。したがって、本実施例に示したような、グルコシルグリセロールの製造においては、グリセロールを含む画分を回収して、糖転移反応の受容体として繰り返し使用することが可能である。
【0123】
<実施例12:各種α−グルコシダーゼによるグリセロールの配糖化能比較>
各種α−グルコシダーゼによるグリセロールの配糖化能を比較した。20w/v%マルトース、20w/v%グリセロール、0または5mmol/L硫酸アンモニウム(硫安)および40mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコ
シダーゼ活性として1U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製組換え酵素(精製rPfG)を添加し反応液量1mLとした。対照として、トランスグルコシダーゼアマノおよびテイスターゼの反応では上記と同様の基質濃度、0mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/Lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)とし、アクレオニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来のα−グルコシダーゼ(テイスターゼ、キリン製)の反応では緩衝液をHEPES(pH7)としたこと以外は上記と同様である。これらを40℃にてインキュベートし、実施例11と同様にHPLC条件で糖組成を分析した。
【0124】
反応17時間目における各反応溶液の糖組成を表10に示す。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下であることを表す。
【0125】
【表10】
【0126】
上記表10から明らかなように、精製rPfGによる反応においては、反応17時間後においてトランスグルコシダーゼアマノまたはテイスターゼよりもGlc−Glyの生成量が多いことが明らかとなった。さらに、硫酸アンモニウムを5mmol/L(0.675g/L)となるように添加した反応系においては、無添加のときと比較してGlc−Glyの生成量が多いことが明らかとなった。また、反応48時間までの糖組成の経時変化をとったところ、硫酸アンモニウムの添加によりGlc−Glyの生成反応が促進されることが明らかとなった(
図6)。
【0127】
<実施例13:エタノールの配糖化>
20w/v%マルトース、10v/v%エタノール、5mmol/L硫酸アンモニウムおよび20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコ
シダーゼ活性として1.0U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製rPfGを添加し、純水で反応液量1mLとした。40℃にてインキュベートし、1週間後にサンプリングした。また、対照として、特許文献5(特開2002−1739
5号公報)に記載された方法に準じてAspergellus niger由来のα−グルコシダーゼを用いた反応を行った。すなわち、上記と同様のマルトースおよびエタノール濃度で、20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を含む溶液に1.0U/g
マルトースとなるようにトランスグルコシダーゼアマノ(アマノエンザイム製)を添加し40℃にてインキュベートした。上記と同様に、1週間後にサンプリングした。各反応溶
液を熱失活させ、水で10倍希釈し、イオン交換樹脂(アンバーライト MB4、オルガノ製)により脱塩、フィルター(Millex HP φ13mm、膜孔0.45μm、ミリポア製)でろ過した後、以下のHPLC条件にて分析した。標品として1w/v%のエチル−α−D−グルコシド(和光純薬製、以下、「エチルグルコシド」と表記する)を同様に分析した。
【0128】
(HPLC分析条件)
カラム : Aminex HPX−42A (φ7.8×300 mm)、Bio−Rad製
溶媒 : 純水
流速 : 0.5ml/min
カラム温度 : 75℃
注入量 : 10μL
検出器 : 示差屈折計
【0129】
反応液のHPLC分析結果を表11に示した。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下を表す。
【0130】
【表11】
【0131】
本発明におけるα−グルコシダーゼの精製rPfGにおける反応溶液において、反応前には見られなかった溶出時間21分付近の生成物が15.0%含まれていた。本生成物は、標品のエチルグルコシドと同溶出時間であり、エタノールの水酸基はひとつであることから、本生成物はエチルグルコシドであると判断した。また、本反応において、副生したG3は0.7%であり、実質的に生成されていないことが明らかとなった。
一方、トランスグルコシダーゼアマノによる本実施列の対照実験においては、エチルグルコシドのピークは目視において認められたものの、機器の検出限界以下であった。また、G2およびG3(面積(%))は、それぞれ26.8%および29.8%と高かった。
【0132】
以上より、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いてエタノールを配糖化することによれば、既存技術よりもエチルグルコシドを効率的に調製可能であり、さらに、オリゴ糖を分解する工程を経ることなく、実施例11に示したような方法または特許文献5で示さ
れるようなグルコースオキシダーゼによりG1を除去し、エタノールを適当な蒸留装置により除去することにより、エチルグルコシドをより高純度化可能であることが期待できる。この際、エタノールを含む成分を冷却し回収すれば、それをリサイクルすることが可能である。
【0133】
さらに、前記実施例11に記載した方法のように、エタノールを除去した後、さらに適当な分画操作を経ることにより、より高度に目的成分を高純度化することが可能である。
【0134】
<実施例14:各種α−グルコシダーゼによるエタノールの配糖化>
各種α−グルコシダーゼによるエタノールの配糖化能を比較した。20w/v%マルトース、10v/v%エタノール、0または5mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコシダーゼ活性
として1U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製rPfGを添加し反応液量1mLとした。対照として、トランスグルコシダーゼアマノおよびテイスターゼの反応では上記と同様の基質濃度、0mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/Lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)とし、Acremonium sp.由来のα−グルコシダーゼ(テイスターゼ、キリン製)の反応では緩衝液をHEPES(pH7)としたこと以外は上記と同様である。これらを40℃にてインキュベートし、実施例13と同様にHPLC条件で糖組成を分析した。
48時間後の糖組成を表12に示す。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下であることを表す。
【0135】
【表12】
【0136】
上記表12から明らかなように、精製rPfGによる反応においては、反応48時間後においてトランスグルコシダーゼアマノまたはテイスターゼよりもエチルグルコシドの生成量が多いことが明らかとなった。さらに、硫酸アンモニウムを5mmol/L(0.675g/L)となるように添加した反応系においては、無添加のときと比較してエチルグルコシドの生成量が多いことが明らかとなった。以上より、硫酸アンモニウムの添加によりエチルグルコシドの生成反応が促進されることが明らかとなった(
図7)。
【0137】
<実施例15:各種糖受容体に対する配糖化>
本発明におけるα−グルコシダーゼが、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸に対して糖転移可能か否かを調べた。すなわち、上記各受容体1〜5w/v%、マルトース10w/v%
、50mmol/L HEPES緩衝液(pH7)および5mmol/L硫酸アンモニウムの系に、実施例10で精製したrPfGを1U/gマルトースとなるよう添加した。コントロールとして、酵素の代わりに水を添加したものを調製した。30〜40℃にて24〜72時間反応させ、アスコルビン酸以外の生成物に関してはTLCにて確認した。TLCは、ハイドロキノンの反応液には1−ブタノール:エタノール:水=5:3:2(v/v)、L−メントールの反応液にはクロロホルム:メタノール:水=6:4:1(v/v)、その他の反応液には1−ブタノール:2−プロパノール:水=2:2:1(v/v)を展開溶媒として使用した。10w/v%硫酸/メタノール溶液を噴霧しオーブンで加熱することにより、糖組成を確認した。アスコルビン酸の生成物は以下のHPLC条件において確認した。
【0138】
(HPLC分析条件)
カラム : Wakopak−WT−B−30 (φ10mm×300 mm)、和光純薬製
溶媒 : 70ppm硝酸/水
流速 : 0.5ml/min
カラム温度 : 30℃
検出器 : 示差屈折計およびUV検出器(検出波長238nm)
【0139】
その結果、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールの反応溶液において、反応前溶液およびコントロールには見られないスポット、すなわち生成物が確認された。また、アスコルビン酸の反応溶液においては、L−アスコルビン酸とは異なる溶出時間に波長238nmに吸光ピークを有する生成物が現れた。なお、L−アスコルビン酸は、波長238nmに吸光ピークを有する。このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼは、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸に対しても糖転移反応を起こすことが明らかとなった。本結果および実施例11〜14の結果に基づき、本発明のα―グルコシダーゼにより配糖化可能な糖受容体を表13に纏めた。表中の白丸(○)は生成物が認められたことを意味する。
【0140】
【表13】
【0141】
上記結果より、本発明におけるα−グルコシダーゼは少なくともグリセロール、エタノール、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸の配糖体製造に利用可能であることが明らかとなった。
【0142】
<実施例16:Halomonas sp. A8株由来α−グルコシダーゼの精製および組換え酵素の調製>
実施例1と同様の方法にて、Halomonas sp.A8株からα−グルコシダーゼを精製し、実施例7と同様の方法にて精製酵素のN末端アミノ酸配列を決定したところ、Halomonas sp.H11株と同様の配列、すなわち、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜20、MQDNMMWWRGGVIYQIYPRSであることが判明した。そこで、さらに、実施例8と同様の方法により、α−グルコシダーゼをコードする遺伝子配列を同定したところ、配列表の配列番号3に示すDNA配列であることが明らかとなった。配列番号3に示すDNA配列がコードするアミノ酸配列は、配列番号4に示す配列である。
【0143】
<実施例17:Halomonas sp. A8株由来α−グルコシダーゼの諸性質の検討>
実施例9の方法と同様に組換え酵素を大腸菌により調製し、精製した。以後、本精製酵素を用いて、Halomonas sp. A8株のα−グルコシダーゼの諸性質を調べた。
【0144】
実施例2〜6と同様の方法で、実施例16で精製した組換え酵素の諸性質を調べた。SDS−PAGEの結果、本酵素の分子量は58000±2000であった(
図8:レーン1は分子量マーカー、レーン2は本酵素の結果)。至適pHは5〜8.5であった(
図9:白丸(○))。pH5.5〜9.5で安定であった(
図9:白三角(△))。
至適温度は、カチオン無添加においては15〜30℃であり(
図10:白丸(○))、5mmol/L硫酸アンモニウム存在下においては15〜35℃であった(
図11:白三角(△))。また、40℃以下で安定であった(
図10:白三角(△))。
【0145】
基質特異性の結果を表14に示した。表14から明らかなように、本酵素はマルトース、スクロースおよびpNPG以外を実質的に基質としないことが明らかとなった。
【0146】
【表14】
【0147】
実施例16で精製した組換え酵素を用いて各種カチオン(リチウムイオン(○)、ナトリウムイオン(△)、カリウムイオン(◆)、ルビジウムイオン(□)、セシウムイオン(黒三角)、アンモニウムイオン(●))濃度を0〜100mMとしたときの活性を測定した。カチオン非存在下のときの活性を100(%)としたときの相対活性を
図12に示す。カリウムイオン100mMのときの相対活性は、3150%であった。