(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933338
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 9/00 20060101AFI20160526BHJP
C07F 9/6574 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
C12P9/00
!C07F9/6574 Z
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-117412(P2012-117412)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-13404(P2013-13404A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-126901(P2011-126901)
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508104880
【氏名又は名称】SANSHO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】室伏 きみ子
(72)【発明者】
【氏名】今村 茂行
【審査官】
吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−222643(JP,A)
【文献】
特開2001−178489(JP,A)
【文献】
特開2006−174770(JP,A)
【文献】
特表2003−502035(JP,A)
【文献】
特開2009−234931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 9/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質(但し、水素添加物を除く)にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、ナトリウム塩を添加した後、反応物から溶媒を除去することを含む環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法であって、前記リゾ型リン脂質が大豆由来リン脂質にホスホリパーゼA2を作用させて得られたリゾ型リン脂質であり、前記ホスホリパーゼDが、アクチノマジュラ属由来のホスホリパーゼDである、製造方法。
【請求項2】
ナトリウム塩が塩化ナトリウムである、請求項1に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項3】
有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、キレート剤の存在下においてナトリウム塩を添加する、請求項1又は2に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項4】
キレート剤がEDTAである、請求項3に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項5】
大豆由来リン脂質にホスホリパーゼA2を作用させて得られた反応物から、リゾ型リン脂質を単離精製することなく有機溶媒及び/又は水を含む系に溶解し、ホスホリパーゼDを作用させる、請求項1から4の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項6】
40%以上の純度を有する環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物が得られる、請求項1から5の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項7】
1mg/mL以上の環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する溶液が得られる、請求項1から5の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項8】
環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する溶液が、水溶液である、請求項7に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法、並びに上記製造方法により得られる環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ホスファチジン酸(以下、cPAと略すこともある)は、がん細胞の転移および浸潤を阻害する等の生理活性を有することが知られ(非特許文献1)、抗腫瘍剤を含む医薬品や機能性食品としての用途が期待されており、また、生体内のヒアルロン酸合成促進作用を有することから、化粧品に添加されている。
【0003】
従来、このような環状ホスファチジン酸の製造方法としては、化学的に合成する方法(特許文献1及び2)や、リゾ型リン脂質にホスフォリパーゼDを作用させることによる酵素反応を利用した方法(特許文献3及び4)が知られている。環状ホスファチジン酸は脂質であり水に不溶であるため、ナトリウム塩などの水溶性の塩とすることが必要であり、化学的に合成した環状ホスファチジン酸を、水素化ナトリウムや水酸化ナトリウムなどの強塩基で処理し、ナトリウム塩に変換する方法で環状ホスファチジン酸ナトリウムが調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−228169号公報
【特許文献2】特開平7−258278号公報
【特許文献3】特開2001−178489号公報
【特許文献4】特開2008−222643号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Biochemica et Biophysica Acta 15288(2002),p.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環状ホスファチジン酸は不安定であることから、上述の科学的合成法に記載されたような強塩基を用いる方法は好ましくなく、また、化学的合成法では環状ホスファチジン酸を高収率および高純度で得ることは困難であり、温和で簡便な方法で環状ホスファチジン酸ナトリウムを高収率かつ高純度で調製する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、環状ホスファチジン酸ナトリウムの調製方法について鋭意検討した結果、有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質(但し、水素添加物を除く)にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、塩化ナトリウムを添加した後、反応物から溶媒を除去することにより、極めて穏和な条件下で簡便な方法で、高収率かつ高純度で環状ホスファチジン酸ナトリウムを調製することができることを見出した。本発明は係る知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) 有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質(但し、水素添加物を除く)にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、ナトリウム塩を添加した後、反応物から溶媒を除去することを含む環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
(2) ナトリウム塩が塩化ナトリウムである、(1)に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
(3) 有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、キレート剤の存在下においてナトリウム塩を添加する、(1)又は(2)に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【0009】
(4) キレート剤がEDTAである、(3)に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
(5) リゾ型リン脂質が大豆由来リン脂質あるいは卵黄由来リン脂質あるいはトウモロコシ由来リン脂質にホスホリパーゼA2を作用させて得られたリゾ型リン脂質である、(1)から(4)の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
(6) リゾ型リン脂質が大豆由来リン脂質あるいは卵黄由来リン脂質あるいはトウモロコシ由来リン脂質にホスホリパーゼA2を作用させて得られた反応物から、リゾ型リン脂質を単離精製することなく有機溶媒及び/又は水を含む系に溶解し、ホスフォリパーゼDを作用させる、(1)から(5)の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法。
【0010】
(7) (1)から(6)の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法により得られる、40%以上の純度を有する環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物。
(8) (1)から(6)の何れか1項に記載の環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法により得られる、1mg/mL以上の環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する溶液。
(9) 環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する溶液が、水溶液である、(8)に記載の溶液。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質にホスホリパーゼDを作用させることで、極めて穏和で簡便な方法で、高収率かつ高純度で環状ホスファチジン酸ナトリウムを製造できる。本発明によれば、反応物をナトリウム塩で処理するだけで、環状ホスファチジン酸を単離、精製することなく、環状ホスファチジン酸ナトリウムを調製することができるため、大豆などの天然物を原料とした環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造法として特に有用である。本発明の製造条件によって得られる環状ホスファチジン酸ナトリウムは、特に大豆由来のリン脂質あるいは卵黄由来リン脂質あるいはトウモロコシ由来リン脂質を原料とした場合、室温での水溶性が高く、特に精製することなく水溶液を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、有機溶媒及び/又は水を含む系においてリゾ型リン脂質(但し、水素添加物を除く)にホスホリパーゼDを作用させて得られる反応物に、塩化ナトリウムを添加した後、反応物から溶媒を除去することを特徴とする。
【0013】
環状ホスファチジン酸ナトリウムの調製に関しては、水素添加大豆由来リゾホスファチジルコリンを水に溶解し、酢酸ナトリウム緩衝液および2Mの塩化ナトリウムを添加、ホスホリパーゼDと反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液で中和、クロロホルム/メタノールで抽出し、有機溶媒層を回収して溶媒を溜去し、環状ホスファチジン酸ナトリウムを得たとの記載がある(特許文献4)が、得られた物質の脂肪酸組成が記載されているのみであり、ナトリウム含有量などの記載はなく、環状ホスファチジン酸ナトリウムであることが明確に示されていない。
【0014】
本発明者らはホスホリパーゼDの酵素反応はカルシウムイオンが存在しなくても十分に進行し、塩化ナトリウムは酵素反応を阻害することを見出した。更にリゾ型リン脂質を有機溶媒及び/又は水を含む系に溶解し、酢酸緩衝液を添加して、pHを5.5〜6.5に調整し、ホスホリパーゼDの酵素反応を行なうことにより、反応を効率よく進行させるとともに、反応終了後に、ナトリウム塩の水溶液を添加することで、環状ホスファチジン酸ナトリウムを収率良く製造することに成功した。また、また、大豆由来のリン脂質あるいは卵黄由来リン脂質あるいはトウモロコシ由来リン脂質を原料としホスホリパーゼA2を作用させてえられるリゾ型リン脂質を単離精製することなく、連続してホスホリパーゼDの反応を行なう場合は、反応液中に少量のカルシウムイオンが残存し、環状ホスファチジン酸のカルシウム塩が精製するが、反応終了後にナトリウムイオンと共にキレート剤を併用することで高純度の環状ホスファチジン酸ナトリウムを得ることができる。
【0015】
本発明において用いられるナトリウム塩としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等を使用できるが、好ましくは塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、より好ましくは塩化ナトリウムである。好ましく使用できる塩化ナトリウム濃度は0.5M〜3Mであるがより好ましくは2〜3Mである。
【0016】
本発明において用いられるキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸、フィチン酸等であるが、好ましくはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、最も好ましくはEDTAである。
【0017】
本発明において用いられる有機溶媒としては、クロロホルム、メチレンクロライド、トルエン、エチルエーテル、酢酸エチル、ヘキサン等を使用できるが、好ましくは、クロロホルム、メチレンクロライド、トルエン、より好ましくはクロロホルム、トルエンである。
【0018】
本発明において用いられるリゾ型リン脂質は、ホスホリパーゼDの基質特異性を考慮すると、リゾホスファチジルコリン(LPC)であることが好ましく、大豆由来のリン脂質あるいは卵黄由来リン脂質あるいはトウモロコシ由来リン脂質を原料とし、ホスホリパーゼA2をさせて得られるLPCが最も好ましい。本発明で用いるリゾ型リン脂質としては、水素添加リゾ型リン脂質は除外され、水素未添加のリゾ型リン脂質が使用される。
【0019】
本発明において用いられるホスホリパーゼDは、上記リゾ型リン脂質に作用させた場合に、cPAを生成するものであれば特に限定されるものではないが、ストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)またはアクチノマヂュラ エスピー(Actinomadula sp.)に由来するホスホリパーゼDが特に好ましく用いられる。
【0020】
リゾ型リン脂質とホスホリパーゼDとの反応は、酵素が活性を発現できる条件であれば、特に限定されないが、好ましくはリゾ型リン脂質をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、酢酸緩衝液を添加してpHを5.0から7.0に調整し、10〜100単位/mlのホスホリパーゼDを添加して、25℃〜50℃に加温し連続的に攪拌しながら5〜30時間程度反応させることにより行なう。反応終了後2〜3Mの塩化ナトリウム、0.1から0.3MのEDTAを添加して連続的に攪拌した。反応物を遠心分離(3000回転、5分間)にかけ有機溶媒層を回収し溶媒を溜去すれば環状ホスファチジン酸ナトリウムを粉末固形物として得ることができる。反応終了後必要に応じてメタノールなどの有機溶媒を添加して有機溶媒層を回収しても良い。更に高純度の環状ホスファチジン酸ナトリウムを得る場合には、シリカゲルや吸着樹脂などを用いて精製すれば良い。
【0021】
本発明によれば、上記した本発明による環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法により得られる、40%以上の純度を有する環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物が提供される。純度は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。本発明で言う純度とは、標準品(97%純度品)をコントロールとして、薄層クロマトグラフのスポットをデンシトメーターにより測定し、面積比で定量した結果として得られる純度である。標準品(97%純度品)は、実施例3で得た高純度環状ホスファチジン酸ナトリウムを再クロマトにより精製したものであり、実施例5に記載の脂肪酸組成を有するものである。
【0022】
更に本発明によれば、上記した本発明による環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法により得られる、1mg/mL以上の環状ホスファチジン酸ナトリウムを含有する溶液が提供される。環状ホスファチジン酸ナトリウムの濃度は1mg/mL以上であれば特に限定されず、2mg/mL以上、3mg/mL以上、又は5mg/mL以上でもよい。
【0023】
以下の実施例で本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1;環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の製造方法
大豆リン脂質(レシチン含量:70%)(水素未添加物)10gを0.3M塩化カルシウムを含有する100mLの1M酢酸バッファー(pH6.5)で溶解させた後、6000単位のストレプトマイセス属由来のホスホリパーゼA2を添加し、40℃で18時間攪拌して反応させた。反応液をpH2.5に調整して酵素を失活させた後、100mLのクロロホルム、50mLのメタノールを添加して十分攪拌混合し脂質成分を抽出した。クロロホルム層を集め、ロータリーエバポレータで減圧乾固させた。固形分に100mLのアセトンを加えリン脂質を沈殿させ遊離脂肪酸を除去した。沈殿物5gを40mLのクロロホルムに溶解させ、1M酢酸バッファー(pH5.5)10mLを加え、更に1500単位のアクチノマジュラ属由来のホスホリパーゼDを添加して40℃で18時間攪拌しながら反応を行った。反応液に20mLの3M塩化ナトリウム、20mLの0.1M EDTA溶液を添加して40℃で1時間攪拌を行った。更に20mLのメタノールを添加して十分攪拌した後、3000回転、5分間遠心分離してクロロホルム層を集めた。この溶液をロータリーエバポレータで減圧乾固させ環状ホスファチジン酸ナトリウム塩3.8gを得た。収率はレシチン含量70%(10g中7g)から環状ホスファチジン酸Naを3.8gを得たので54.3%であった。環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度分析は、シリカゲルプレートを用い、クロロホルム:メタノール:酢酸:5%二亜硫酸ナトリウム(100:40:12:5、V/V)で展開後、5%酢酸銅:8%燐酸:2%硫酸混合液に短時間浸漬し風乾後、180℃で約10分加熱した後、生成したスポットをスキャナー(アトー社製)法によって行った。即ち、標準品(97%純度品)をコントロールとして、薄層クロマトグラフのスポットをデンシトメーターにより測定し、面積比で定量した。上記工程で得られた生成物中環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度は54%であった。
【0025】
実施例2;キレート剤を用いない環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の製造方法
大豆リン脂質(レシチン含量:70%)(水素未添加物)10gを0.3M塩化カルシウムを含有する100mLの1M酢酸バッファー(pH6.5)で溶解させた後、6000単位のストレプトマイセス属由来のホスホリパーゼA2を添加し、40℃で18時間攪拌して反応させた。反応液をpH2.5に調整して酵素を失活させた後、100mLのクロロホルム、50mLのメタノールを添加して十分攪拌混合し脂質成分を抽出した。クロロホルム層を集め、ロータリーエバポレータで減圧乾固させた。固形分に100mLのアセトンを加えリン脂質を沈殿させ遊離脂肪酸を除去した。沈殿物5gを40mLのクロロホルムに溶解させ、1M酢酸バッファー(pH5.5)10mLを加え、更に1500単位のアクチノマジュラ属由来のホスホリパーゼDを添加して40℃で18時間攪拌しながら反応を行った。反応液に20mLの3M塩化ナトリウムを添加して40℃で1時間攪拌を行った。更に20mLのメタノールを添加して十分攪拌した後、3000回転、5分間遠心分離してクロロホルム層を集めた。この溶液をロータリーエバポレータで減圧乾固させ環状ホスファチジン酸ナトリウム塩3.7gを得た。収率はレシチン含量70%(10g中7g)から環状ホスファチジン酸Naを3.7gを得たので52.9%であった。環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度分析は、実施例1記載の方法で行なった。本工程で得られた生成物中環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度は53%であった。
【0026】
実施例3;高純度環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の製造方法
実施例1で得られた環状ホスファチジン酸ナトリウム塩500mgを5mLの10%メタノールを含むクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラムにかけ、同一溶媒で展開、更に20%メタノールを含むクロロホルムで展開し、10mLの画分に分取した。実施例1に示したTLC法によって環状ホスファチジン酸ナトリウム塩を含有する画分を確認して集め、ロータリーエバポレータで減圧乾固させ環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の粉末320mgを得た。本試料の環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度は95%であった。
【0027】
実施例4;イオンクロマト法によるナトリウム含量の分析
実施例1及び実施例2で得た環状ホスファチジン酸ナトリウム塩について、イオンクロマト法によってナトリウム含量を測定した。カラムはIonPac CS14(日本ダイオネクス社製)、移動相は10mMメタンスルホン酸水溶液を用い、流速1.0mL/分、カラム温度は30℃、注入量は10μLとし、検出は電気伝導度検出器で行なった。標準溶液は陽イオン混合標準液II(Li
+ 0.5mg/L, Na
+ 2mg/L, NH
4+ 2mg/L, K
+ 5mg/L, Ca
2+ 5mg/L, Mg
2+ 5mg/L)を用いた。カラム温度は30℃、注入量は10μLとした。分析の結果、環状ホスファチジン酸と等モルのナトリウムを検出したことから1ナトリウム塩であることがわかった。
【0028】
実施例5;
実施例3で得られた高純度環状ホスファチジン酸ナトリウムの脂肪酸組成をガスクロマトグラム法により分析した。試料20mg/mLになるように塩酸メタノールに溶解し、65℃で30分間加温した。室温に戻した後、棟梁の水、次いで棟梁のヘキサンを加えて十分に攪拌混合した。3000回転、5分間遠心分離を行い、ヘキサン層2μLをキャピラリーカラムに注入し構成脂肪酸を分析した。分析は以下である。
脂肪酸 含量(%)
パルミチン酸 23.9
ステアリン酸 5.4
オレイン酸 8.6
リノール酸 53.4
リノレン酸 4.9
その他の脂肪酸 3.8
【0029】
実施例6;環状ホスファチジン酸ナトリウム水溶液の状態
実施例1及び実施例2で得た環状ホスファチジン酸ナトリウムの1mg/mLの水溶液を調製し、660nmでの吸光度を測定した。実施例1で得た試料の吸光度は0.05、実施例2で得た試料の吸光度は0.15であった。実施例1で得た試料では、キレート剤を用いた製造方法で得た試料であることから、カルシウム塩が存在せずに透明になった。
【0030】
比較例1;環状ホスファチジン酸ナトリウム水溶液の状態
実施例1に記載した大豆リン脂質の代わりに水素添加大豆リン脂質を用い、実施例1の記載と同様の操作により環状ホスファチジン酸ナトリウムを得た。この環状ホスファチジン酸ナトリウムの1mg/mLの水溶液を調製し、660nmでの吸光度を測定した。吸光度は0.33であった。
【0031】
実施例7:環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の製造方法
大豆リン脂質(レシチン含量:70%)(水素未添加物)10gを0.3M塩化カルシウムを含有する100mLの1M酢酸バッファー(pH6.5)に溶解させた後、6000単位のストレプトマイセス属由来のホスホリパーゼA2を添加し、40℃で18時間攪拌して反応させた。反応液をpH2.5に調整して酵素を失活させた後、pHを5.5に調整した。次いでこの反応液に1500単位のアクチノマジュラ属由来のホスホリパーゼDを添加して40℃で18時間攪拌しながら反応を行った。この反応液にヘキサン100mLを添加し室温で30分間攪拌抽出を行った。遠心分離によりヘキサン層を集め、これに10mMのEDTA、0.1M酢酸緩衝液pH6.5、0.5M塩化ナトリウムからなる水溶液50mLを加え室温で30分間攪拌した後、遠心分離によりヘキサン層を集め、ロータリーエバポレーターで濃縮させた。これにアセトン50mLを加え十分攪拌し遠心分離によりアセトン層を除去した。この操作を2回繰り返し遊離脂肪酸を除去した。アセトン不溶物を集め減圧乾燥して環状ホスファチジン酸ナトリウム3.6gを得た。