【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1に係るデュプレクサの構成を示す図である。デュプレクサ10は、アンテナ端子Ant、送信端子Tx、及び2つの受信端子(Rx1、Rx2)に接続されている。デュプレクサ10は、アンテナ端子Antと送信端子Tx1との間に接続された送信フィルタ回路12と、アンテナ端子Antと受信端子(Rx1、Rx2)との間に接続された受信フィルタ回路14とを含む。送信フィルタ回路12及び受信フィルタ回路14は、アンテナ端子Antを共有している。受信フィルタ回路14は、2つの平衡出力端子(Rx1、Rx2)に接続されたバランス回路となっている。
【0021】
デュプレクサ10は、更に、受信フィルタ回路14と受信端子(Rx1、Rx2)との間に接続されたマッチング回路20と、アンテナ端子Ant及び接地の間に接続されたインダクタL1を含む。L1は、アンテナ端子Ant側に設けられた整合用のインダクタである。マッチング回路20は、受信フィルタ回路14と受信端子Rx1との間に接続されたインダクタL2と、受信フィルタ回路14と受信端子Rx2との間に接続されたインダクタL3とを含む。実施例1では、マッチング回路20におけるインダクタ(L2、L3)が、受信端子(Rx1、Rx2)に直列に接続される構成となっている。
【0022】
図2は、受信フィルタ回路14の詳細な構成を示す図である。受信フィルタ回路14は、ラダー状に配置された共振器Reso1〜Reso6の間に、二重モードSAWフィルタであるDMS1及びDMS2を含むDMS部40が設けられた構成となっている。具体的には、アンテナ端子Antからの信号経路に近い順から、直列共振器のReso1及びReso3が直列に接続されている。信号経路は、Reso3の後段で2つに分割され、一方には二重モードSAWフィルタのうちDMS1が、他方にはDMS2が、それぞれ接続されている。DMS1は、直列共振器Reso5を介して受信端子Rx1に接続され、DMS2は、直列共振器Reso6を介して受信端子Rx2に接続されている。並列共振器のうちReso2は、Reso1及び
Reso3の間のノードと接地との間に接続され、並列共振器のうちReso4は、Reso3及びDMS部40(DMS1、DMS2)との間のノードと接地との間に接続されている。
【0023】
共振器Reso1〜Reso6は、SAW共振器であり、それぞれ1組のIDT(Interdigital Transducer)30と、その両端に配置された2つの反射電極32とを含む。DMS1〜DMS2は、二重モードSAWフィルタであり、それぞれ弾性表面波の伝搬方向に配置された3組のIDT30a〜30cと、その両端に配置された2つの反射電極32とを含む。DMS1では、3組のIDTのうち中央のIDT30bがアンテナ端子Ant側のReso3に接続され、他のIDT30a及び30cが受信端子Rx1側のReso5に接続されている。DMS2においても同様に、3組のIDTのうち中央のIDTがアンテナ端子Ant側の
Reso3に、他のIDTが受信端子Rx2側の
Reso6にそれぞれ接続されている。
【0024】
なお、実施例1において共振器Reso1〜Reso6はSAW共振器であるが、共振器Reso1〜Reso6には他の弾性波デバイスによる共振器(例えば、圧電薄膜共振器など)を用いてもよい。また、Reso1〜Reso6の共振器の有無、及び共振器の分割数を変更しても良い。
【0025】
図3は、受信フィルタ回路14におけるマッチング前後のインピーダンス特性の比較を示すグラフである。以下の説明では、マッチング前のインピーダンスを「出力インピーダンス」、マッチング後のインピーダンスを「終端インピーダンス」と称する。
図1を参照に、出力インピーダンスは、受信フィルタ回路14及びマッチング回路20の間のノードから見た受信フィルタ回路14のインピーダンスであり、終端インピーダンスは、受信端子(Rx1、Rx2)から見たマッチング回路20のインピーダンスである。
図3では、マッチング前の出力インピーダンスを150Ωとし、マッチング後の出力インピーダンスが100Ωとなるようにマッチングを行っている。このとき、アンテナ端子側のインダクタL1の値は、マッチングの前後において共通の3.6nHとしている。
【0026】
受信フィルタ回路14は、例えば終端インピーダンスを100Ωとして使用される。このとき、マッチング前の出力インピーダンスの値や、マッチング回路20の構成(マッチング方法)を変化させることにより、受信フィルタ回路14のフィルタ特性を変化させることができる。以下、好ましい出力インピーダンスの値及びマッチング回路20の構成について検討する。
【0027】
図4は、受信フィルタ回路14における出力インピーダンスの違いによる挿入損失特性の比較を示すグラフである。また、
図5は、受信フィルタ回路14における通過帯域の損失をプロットしたグラフであり、
図6は、受信フィルタ回路14の帯域幅(損失:−2.5dB)をプロットしたグラフである。
図4〜
図6では、マッチング回路20がないもの(出力インピーダンス=終端インピーダンス)と仮定して、その値を100Ω〜300Ωの範囲で変化させている。
図4及び
図5に示すように、出力インピーダンスが125Ω〜200Ωの範囲では、100Ωの場合に比べて挿入損失が改善されている。また、
図4及び
図6に示すように、出力インピーダンスが125Ω〜250Ωの範囲では、100Ωの場合に比べて帯域幅が改善されている。従って、出力インピーダンスは125Ω以上250Ω以下の範囲とすることが好ましい。
【0028】
図4〜
図6における出力インピーダンスは、受信フィルタ回路14を構成するSAWフィルタ(
図2)におけるIDTの開口長により変化する。SAWフィルタのインピーダンスをZ、電極指の容量をCとすると、Z=1/jωCで表される。従って、出力インピーダンスZが大きくなるほど、容量Cは小さくなり、IDTの開口長は小さくなる。
図4〜
図6では、出力インピーダンスを100Ω、125Ω、150Ω、200Ω、250Ω、300Ωとした場合において、DMS1及びDMS2のIDTの開口長はそれぞれ37λ、33.5λ、30λ、23λ、16λ、9λとなっている。
図4〜
図6のグラフにおいては、出力インピーダンスが300Ωの場合にフィルタ特性が大幅に劣化しているが、これはIDTの開口長が短くなったことにより、回折による損失の影響が生じているためと考えられる。
【0029】
以上のように、出力インピーダンスが大きくなるほど、フィルタ特性において挿入損失及び帯域幅の改善が見られることが分かる。従って、受信フィルタ回路14の出力インピーダンスは、終端インピーダンスより大きくなるように設定することが好ましい。
【0030】
図7は、実施例1の第1変形例に係るデュプレクサの構成を示す図である。実施例1(
図1)とは、マッチング回路22の構成が異なっており、その他の構成は同一である。第1変形例では、マッチング回路22が、2つの平衡受信端子(Rx1、Rx2)の間に接続されたインダクタL4から構成され、それぞれの受信端子に独立のインダクタが接続される構成とはなっていない。
【0031】
図8は、受信フィルタ回路14及びマッチング回路の挿入損失特性を、実施例1及びその変形例1で比較した結果を示すグラフであり、
図9は両者のインピーダンス特性の比較結果を示すグラフである。実施例1は、前述のように、マッチング回路として
図1のマッチング回路20を用い、出力インピーダンスを150Ω、終端インピーダンスを100Ωとしたものである。変形例1は、マッチング回路として
図7のマッチング回路22を用い、出力インピーダンス及び終端インピーダンスを共に100Ωとしたものである。デュプレクサ10における各インダクタのインダクタンスは、L1=3.6nH、L2=2.4nH、L3=2.4nH、L4=18nHとしている。
【0032】
図9に示すように、終端インピーダンス(100Ω)へのマッチングの点では、変形例1は実施例1と比べて同等の性能を示している。しかし、
図8に示すように、帯域幅の点では、変形例1は実施例1に比べて狭くなっている。これは、変形例の方が受信フィルタ回路14の出力インピーダンスが小さく、IDTの開口長が長くなっているためと考えられる。
【0033】
図10は、受信フィルタ回路14及びマッチング回路の挿入損失特性を、実施例1及び他の変形例2で比較した結果を示すグラフであり、
図11は両者のインピーダンス特性の比較結果を示すグラフである。変形例2は、マッチング回路として
図7のマッチング回路22を用い、出力インピーダンスを150Ω、終端インピーダンスを共に100Ωとしたものである。デュプレクサ10における各インダクタのインダクタンスは、変形例1と同様にL1=3.6nH、L2=2.4nH、L3=2.4nH、L4=18nHとしている。
【0034】
図11に示すように、終端インピーダンス(100Ω)へのマッチングの点では、変形例2は実施例1と比べて高い側へずれている。そのため、
図10に示すように、帯域幅の点では、変形例2は実施例1に比べて狭くなっている。これは、実施例1が受信端子(Rx1、Rx2)に対し直列接続されたインダクタ(L2、L3)でマッチングを行っているのに対し、変形例2では並列接続されたインダクタ(L4)によりマッチングを行っているため、マッチングが取れていないと考えられる。以上のことから、マッチング回路20には、各受信端子(Rx1、Rx2)に対し直列接続されたインダクタ(L1、L2)を用いることが好ましい。
【0035】
以上のように、実施例1に係るデュプレクサ10及び受信フィルタ回路14によれば、マッチング後におけるインピーダンス(終端インピーダンス)の値をマッチング前におけるインピーダンス(出力インピーダンス)より小さくすることにより、フィルタ特性の改善を図ることができる。また、受信フィルタ回路14が平衡端子(Rx1、Rx2)を有する場合には、マッチング回路20がそれぞれの平衡端子に直列に接続されたインダクタ(L2、L3)を含むようにすることで、フィルタ特性の改善を更に図ることができる。
【0036】
実施例1では、受信フィルタ回路14におけるDMS部40を
図2の構成としたが、DMS部40としては他の構成を用いることもできる。以下、この点について説明する。
【0037】
図12(a)は、DMS部の変形例を示す図(その1)である。
DMS部40aは、3つのIDTを含む二重モードSAWフィルタであるDMS3から構成されている。DMS3では、3つのIDT30a〜30cが、弾性表面波の伝搬方向に配列され、その両端に反射電極32がそれぞれ配置されている。3つのIDTのうち、中央のIDT30bがアンテナ端子Ant側に接続され、他のIDTのうちIDT30aが受信端子Rx1に、IDT30cが受信端子Rx2に、それぞれ接続されている。
【0038】
図2におけるDMS部40の各DMS(DMS1、DMS2)の容量をCpとし、これを
図12(a)のDMS3で置き換えることを考えた場合、DMS3の容量(Cs)はCs=2Cpで表される。従って、例えば出力インピーダンスを150Ωとし、DMS1及びDMS2の開口長を30λとした場合、DMS3の開口長は倍の60λとなり、電極指抵抗が増大してしまう。従って、実施例1のDMS部40を
図12(a)の構成で置き換えることは可能であるが、電極指抵抗を低減する観点からは、
図2の構成の方が好ましい。
【0039】
図12(b)は、DMS部の変形例を示す図(その2)である。
DMS部40bは、5つのIDTを含む二重モードSAWフィルタであるDMS4から構成されている。DMS4では、5つのIDT30a〜30eが、弾性表面波の伝搬方向に配列され、その両端に反射電極32がそれぞれ配置されている。3つのIDTのうち、中央の及び両端のIDT30a、30c、30eがアンテナ端子Ant側に共通に接続され、他のIDTのうちIDT30bが受信端子Rx1に、IDT30dが受信端子Rx2に、それぞれ接続されている。本構成においても、実施例1と同じく、フィルタ特性の改善を図ることができる。
【0040】
図13は、DMS部の変形例を示す図(その3)である。
DMS部40cは、
図2におけるDMS1及びDMS2が縦結合された構造を有する。すなわち、受信端子Rx1及びアンテナ端子Antの間には、DMS5及びDMS7が直列に接続され、受信端子Rx2及びアンテナ端子Antの間には、DMS6及びDMS8が直列に接続されている。各DMS5〜DMS8は、それぞれ3つのIDTを含む二重モードSAWフィルタとなっている。本構成においても、実施例1と同じく、フィルタ特性の改善を図ることができる。
【0041】
実施例1では、マッチング回路20におけるインダクタL2及びL3値を共に2.4nHとした例について説明したが、これらのインダクタの値は異なっていてもよい。
【0042】
図14は、マッチング回路20におけるインダクタンスの違いによるバランス特性の比較を示すグラフである。グラフの点線は、実施例1のようにL2=L3とした場合を示し、グラフの実線は、L2≠L3(L2=2.0nH、L3=2.4nH)とした場合を示す。図示するように、実線のグラフの方が、点線のグラフに比べ、フィルタのバランス特性が改善されている。このように、平衡端子を有する受信端子(Rx1、Rx2)に対し、マッチング回路20として2つのインダクタ(L2、L3)を直列に接続する場合には、それぞれのインダクタのインダクタンスを任意に調整することにより、バランス特性の改善を図ることができる。
【0043】
実施例1では、受信フィルタ回路14と受信端子(Rx1、Rx2)との間にマッチング回路20を配置する例について説明したが、マッチング回路20を他の箇所に配置した場合でも、実施例1と同様にフィルタ特性の改善を図ることができる。
【0044】
図15は、変形例に係るデュプレクサの構成を示す図(その2)である。デュプレクサ10は、2つの送信端子(Tx1、Tx2)を有し、送信フィルタ回路12と送信端子の間にはマッチング回路24が接続されている。マッチング回路24の構成は、
図1と同様に、各送信端子(Tx1、Tx2)に対し、インダクタ(L5、L6)が直列に接続された構成となっている。送信フィルタ回路12は、
図2の受信フィルタ回路14と同じく、二重モードフィルタを含むSAWフィルタがラダー状に配置された構成となっている。以下の説明において、送信フィルタ回路12及びマッチング回路24の間のノードから見た送信フィルタ回路12のインピーダンスを「入力インピーダンス」、受信端子(Rx1、Rx2)から見たマッチング回路24のインピーダンスを「終端インピーダンス」と称する。
【0045】
図15のデュプレクサにおいても、マッチング前の「入力インピーダンス」を、マッチング後の「終端インピーダンス」より大きくすることで、送信フィルタ回路12内のSAWフィルタを構成するIDTの開口長を小さくすることができる。その結果、
図5及び
図6に示すように、フィルタの挿入損失及び帯域幅を改善できることが期待される。
【0046】
図16は、変形例に係るデュプレクサの構成を示す図(その3)である。これまでの実施例及び変形例と異なり、デュプレクサ10は1つの受信端子(不平衡端子)Rxのみを有する。受信フィルタ回路14及び受信端子Rxの間には、マッチング回路26が設けられている。マッチング回路26は、実施例1と同じく、受信端子Rxに直列に接続されたインダクタL7を含む。
【0047】
図16のデュプレクサにおいても、マッチング前の「出力インピーダンス」を、マッチング後の「終端インピーダンス」より大きくすることで、受信フィルタ回路14内のSAWフィルタを構成するIDTの開口長を小さくすることができる。その結果、
図5及び
図6に示すように、フィルタの挿入損失及び帯域幅を改善できることが期待される。
【0048】
なお、
図16のマッチング回路26は、送信フィルタ回路12側に設けられていてもよい。また、実施例1及びその変形例では、マッチング回路が受信側または送信側のいずれか一方に設けられている例について説明した。しかし、マッチング回路は、送信フィルタ回路12及び送信端子Txの間、及び受信フィルタ回路14及び受信端子Rxの間の少なくとも一方に設けられていればよく、両方にマッチング回路を設ける構成を採用することも可能である。
【0049】
また、実施例1及び変形例では、共振器またはDMSを構成する弾性波デバイスとして、弾性表面波(SAW)を用いる弾性波デバイスを例に説明を行ったが、他にもIDTを含むフィルタとして、ラブ波・弾性境界波等を用いる弾性波デバイスを採用することができる。
【0050】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。