【実施例】
【0026】
以下の実施例において、保水率、柔軟性、トロンビン保持量、ウサギ皮膚接着力、効能は次のようにして求めた。
【0027】
保水率:1cm×1cm角の試料を切り取り、試料に5μLずつ水を含浸させ、含水量を求めた。
保水率(重量%)=(W2−W1)/W1×100
W1:初期試料重量 W2:含水時試料重量
柔軟性:(JIS−L−1906 8.19.2 B法)スライド法で、試験片の大きさを1cm×7.5cmとして剛軟度測定を行った。
トロンビン保持量:シート体積当りに含有した溶液量(μL/cm
3)
ウサギ皮膚接着力:ウサギ皮膚を採取し、皮下組織を剥離した。皮膚を3×3cm
2に裁断し、37℃に加温した。台座に固定化したウサギ皮膚の上に冶具を設置し、その上にフィブリノゲン固定化シート(2cm×2cm)を設置し、蒸留水200μmを滴下した。トロンビン固定化シート(2cm×2cm)をフィブリノゲン固定化シートの上に重層し、タッピング後、37℃で3分間インキュベートした。冶具をプッシュプルゲージにセットし、一定の力で引き上げ、剥離する時の力を測定した。
効能:ウサギ腹部大動脈噴出性出血モデル
麻酔下、日本白色ウサギの頚動脈を露出させ、カテーテルを挿入して血圧トランスデューサーに接続し、腹部を正中切開し、腹部大動脈を露出させる。ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より 300U/kg 投与し、平均血圧が80mmHg〜100mmHgの範囲にあることを確認する。露出させた腹部大動脈に21G注射針を穿刺して出血を作製する。出血部位に検体を適用して3分間圧迫し、止血を行い、1分間の出血の有無を観察した。
【0028】
実施例1
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は10ml/h、湿度35%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は4.3μmであった。疎構造の嵩密度は33kg/m
3、厚みは786μm、密構造の嵩密度は172kg/m
3、厚みは11μmであった。得られた繊維成形体の目付けは2.7mg/cm
2、保水率は1880重量%、柔軟性は0.72mN・cmであった。
【0029】
市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm
2)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン担持シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を
図1に示す。
【0030】
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm
2)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1571μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は7.2Nであった。
【0031】
実施例2
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は6ml/h、湿度35%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は3.2μmであった。疎構造の嵩密度は40kg/m
3、厚みは875μm、密構造の嵩密度は186kg/m
3、厚みは8.5μmであった。得られた繊維成形体の目付けは2.7mg/cm
2、保水率は1685重量%、柔軟性は1.24mN・cmであった。
【0032】
ボルヒールのキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm
2)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、繊維成形体内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を
図2に示す。
【0033】
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm
2)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1540μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は6.4Nであった。
【0034】
実施例3
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加した乳酸−グリコール酸共重合体(重量平均分子量12万6千、モル比=50/50、PURAC)12重量部を、88重量部のジクロロメタンに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は30cm、吐出量は10ml/h、湿度11%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は4.1μmであった。疎構造の嵩密度は24kg/m
3、厚みは875μm、密構造の嵩密度は152kg/m
3、厚みは14.5μmであった。得られた繊維成形体の目付けは3.0mg/cm
2、保水率は1500重量%、柔軟性は0.91mN・cmであった。
【0035】
ボルヒールのキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm
2)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、繊維成形体内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を
図3に示す。
【0036】
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm
2)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1330μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は6.8Nであった。
【0037】
実施例4
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は6ml/h、湿度26%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は3.3μmであった。疎構造の嵩密度は13kg/m
3、厚みは650μm、密構造の嵩密度は158kg/m
3、厚みは17μmであった。この繊維成形体を部分的熱融着により3枚積層した。融着面積は9%とした。得られた積層繊維成形体の目付けは2.82mg/cm
2、保水率は2075重量%、柔軟性は0.96mN・cmであった。
【0038】
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記で作製した繊維構造体(5×5cm
2)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易にシート内に染み込んだ。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。本シートを取り扱っても担持したフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を
図4に示す。
【0039】
次に、市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上記で作製した積層繊維成形体(2×2cm
2)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に積層繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートへのトロンビン保持量は1619μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は6.8Nであった。
これらのシートを用いた効能評価では、噴出性出血に対して、出血部位に検体を適用して3分間圧迫後の1分間の出血の有無は、4例中4例で止血効果が認められた。
【0040】
実施例5
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加した乳酸−グリコール酸共重合体(重量平均分子量12万6千、モル比=50/50、PURAC)12重量部を、88重量部のジクロロメタンに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は30cm、吐出量は10ml/h、湿度11%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は5.2μmであった。疎構造の嵩密度は18kg/m
3、厚みは833μm、密構造の嵩密度は152kg/m
3、厚みは14.5μmであった。この繊維成形体を部分的熱融着により3枚積層した。融着面積は9%とした。得られた積層繊維成形体の目付けは2.64mg/cm
2、保水率は1923重量%、柔軟性は0.90mN・cmであった。
【0041】
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記で作製した繊維構造体(5×5cm
2)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易にシート内に染み込んだ。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。本シートを取り扱っても担持したフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を
図5に示す。
【0042】
次に、市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上記で作製した積層繊維成形体(2×2cm
2)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に積層繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートへのトロンビン保持量は1262μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は6.5Nであった。
【0043】
比較例1
積層繊維成形体に代えてポリグリコール酸系繊維成形体であるネオベール(登録商標、グンゼ株式会社製、平均繊維径20μm、厚さ150μm、シート柔軟性1.23mN・cm)を用いた以外は、実施例1と同様に、フィブリノゲン固定化シートおよびトロンビン固定化シートを作製した。SEM観察により0.01mm
2以上の貫通孔が観察された。
フィブリノゲン溶液は繊維成形体へ染み込みにくかった。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されておらず、フィブリノゲン固定化シートはピンセットで取り扱うと、担持されていたフィブリノゲンが剥落した(重量変化89%)。SEM像を
図6に示す。
【0044】
同様に、トロンビン溶液も繊維成形体への染み込みが悪かった。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートへのトロンビン保持量は1254μL/cm
3であった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は4.1Nであった。
【0045】
これらのシートを用いた効能評価では、噴出性出血に対して、出血部位に検体を適用して3分間圧迫後の1分間の出血の有無は、3例中2例で止血効果が見られたが、1例では出血が認められた。