(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933370
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】ダイヤフラム弁
(51)【国際特許分類】
F16K 7/14 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
F16K7/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-147298(P2012-147298)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-9765(P2014-9765A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100083149
【弁理士】
【氏名又は名称】日比 紀彦
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一功
(72)【発明者】
【氏名】小艾 睦典
(72)【発明者】
【氏名】四方 出
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−026577(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0118752(US,A1)
【文献】
米国特許第5755428(US,A)
【文献】
特開2003−042314(JP,A)
【文献】
実開平07−029368(JP,U)
【文献】
特開2010−144765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/12− 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体通路の周縁に配置されたシートと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行う弾性変形可能な球殻状ダイヤフラムと、ダイヤフラムの外周縁部をボディの凹所底面との間で保持する押さえアダプタと、ダイヤフラムの中央部を押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラム押さえを上下移動させる上下移動手段とを備えているダイヤフラム弁において、
押さえアダプタは、その下面全体が所定の傾斜角度とされたテーパ状とされており、ボディの凹所底面は、円形の平坦部と、平坦部の外周に連なり平坦部に対して凹まされている凹部とを有しており、ダイヤフラムは、流体通路が開となっている状態において、外周縁部の上面が押さえアダプタのテーパ状下面と面接触し、外周縁部の下面がボディの凹所底面の平坦部の外周と線接触するようになされていることを特徴とするダイヤフラム弁。
【請求項2】
押さえアダプタの下面のテーパ角度は、ボディの凹所底面の平坦部に対して15.5〜16.5°とされていることを特徴とする請求項1のダイヤフラム弁。
【請求項3】
ダイヤフラム押さえのダイヤフラムに当接している面の曲率半径は、10.5〜12.5mmとされていることを特徴とする請求項1または2のダイヤフラム弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイヤフラム弁に関し、特に、小型化が可能なダイヤフラム弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤフラム弁として、流体通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体通路の周縁に配置されたシートと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行う球殻状ダイヤフラムと、ダイヤフラムの外周縁部をボディの凹所底面との間で保持する押さえアダプタと、ダイヤフラムの中央部を押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラム押さえを上下移動させる上下移動手段とを備えているものが知られている(特許文献1など)。
【0003】
このようなダイヤフラムは、その外周縁部がボディに固定されることで、ボディに設けられた上向き凹所の開口をシールするとともに、その中央部分が外周縁部に対して弾性変形可能(上下移動可能)とされ、ダイヤフラム押さえの上下移動に伴って弾性変形して流体通路開閉に寄与する。
【0004】
従来、押さえアダプタの下面は、所定の傾斜角度とされたテーパ部と、テーパ面の外周に設けられた平坦部とからなり、ボディの凹所底面の外周縁部は、円形の平坦状とされており、ダイヤフラムの外周縁部は、押さえアダプタの平坦部とボディの外周縁部の平坦状底面との間で挟持されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−80858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のダイヤフラム弁では、ダイヤフラムは、開閉操作が行われるごとに、大きく変形することから、その耐久性を向上することが重要なものとなっている。特に、ダイヤフラム弁を小型化する際には、ダイヤフラムも小型化されることで、耐久性確保の点で難しいという問題があった。従来のものでは、ダイヤフラムの外周縁部が押さえアダプタの平坦部とボディの外周縁部の平坦状底面との間で挟持されていることから、弾性変形する球殻状のダイヤフラムの外周縁部に変形不可能でかつ球殻状部分に対して屈曲する平坦状部分が存在しており、耐久性に不利であった。
【0007】
この発明の目的は、ダイヤフラム弁を小型化するに際し、耐久性を向上することができるダイヤフラム弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるダイヤフラム弁は、流体通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体通路の周縁に配置されたシートと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行う弾性変形可能な球殻状ダイヤフラムと、ダイヤフラムの外周縁部をボディの凹所底面との間で保持する押さえアダプタと、ダイヤフラムの中央部を押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラム押さえを上下移動させる上下移動手段とを備えているダイヤフラム弁において、押さえアダプタは、その下面全体が所定の傾斜角度とされたテーパ状とされており、ボディの凹所底面は、円形の平坦部と、平坦部の外周に連なり平坦部に対して凹まされている凹部とを有しており、ダイヤフラムは、流体通路が開となっている状態において、外周縁部の上面が押さえアダプタのテーパ状下面と面接触し、外周縁部の下面がボディの凹所底面の平坦部の外周と線接触するようになされていることを特徴とするものである。
【0009】
ダイヤフラムは、流体通路が開となっている状態(通常、上に凸の球殻状の状態)において、ダイヤフラムの外周縁部の上面が押さえアダプタの下面と面接触していることで、自然状態である球殻状からの変形が小さく抑えられる。そして、ダイヤフラムの外周縁部の下面がボディの凹所底面の平坦部の外周と線接触するようになされていることで、ダイヤフラムは、押さえアダプタとボディとによって保持された状態においても、自然状態である球殻状からの変形が小さく抑えられた状態が維持される。すなわち、弾性変形する球殻状のダイヤフラムの外周縁部に変形不可能でかつ球殻状部分に対して屈曲する平坦状部分が存在しないことから、部分的に応力が集中することが回避されて、ダイヤフラムの変形が最適化され、ダイヤフラムの耐久性が向上する。
【0010】
押さえアダプタの下面のテーパ角度は、ボディの平坦面に対して15.5〜16.5°とされていることが好ましい。
【0011】
押さえアダプタの下面のテーパ角度がボディの平坦面に対して15.5〜16.5°(15.5°以上でかつ16.5°以下)とされることで、押さえアダプタの下面のテーパ角度がボディの平坦面に対して14°または18°などとされているものに比べて、より一層耐久性向上することができる。
【0012】
また、ダイヤフラム押さえのダイヤフラムに当接している面の曲率半径は、10.5〜12.5mm(10.5mm以上でかつ12.5mm以下)とされていることが好ましい。
【0013】
このようにすると、ダイヤフラム押さえ形状による効果が追加され、より一層耐久性向上することができる。
【0014】
ダイヤフラム弁は、上下移動手段が開閉ハンドルなどの手動弁であってもよく、上下移動手段が適宜なアクチュエータとされた自動弁であってもよく、自動弁の場合のアクチュエータは、流体(空気)圧によるものでもよく、電磁力によるものでもよい。
【0015】
なお、この明細書において、ステムの移動方向を上下方向というものとするが、この方向は、便宜的なものであり、実際の取付けでは、上下方向が鉛直方向とされるだけでなく、水平方向とされることもある。
【発明の効果】
【0016】
この発明のダイヤフラム弁によると、ダイヤフラムの変形が最適化され、ダイヤフラムの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁の1実施形態を示す縦断面図で、流体通路が開の状態を示している。
【
図2】
図2は、
図1の要部を拡大して示す拡大縦断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下および左右は、
図1の上下および左右をいうものとする。
【0019】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁の1実施形態を示しており、ダイヤフラム弁(1)は、流体流入通路(2a)、流体流出通路(2b)および上方に向かって開口した凹所(2c)を有しているブロック状ボディ(2)と、ボディ(2)の凹所(2c)上部に下端部がねじ合わされて上方にのびる円筒状ボンネット(3)と、流体流入通路(2a)の周縁に設けられた環状のシート(4)と、シート(4)に押圧または離間されて流体流入通路(2a)を開閉するダイヤフラム(5)と、ダイヤフラム(5)の中央部を押さえるダイヤフラム押さえ(6)と、ボンネット(3)内に上下移動自在に挿入されてダイヤフラム押さえ(6)を介してダイヤフラム(5)をシート(4)に押圧・離間させるステム(7)と、ボンネット(3)下端面とボディ(2)の凹所(2c)底面との間に配置されてダイヤフラム(5)の外周縁部をボディ(2)の凹所(2c)底面との間で保持する押さえアダプタ(8)と、頂壁(9a)を有しボンネット(3)にねじ合わされたケーシング(9)と、ステム(7)に一体化されたピストン(10)と、ピストン(10)を下方に付勢する圧縮コイルばね(付勢部材)(11)と、ピストン(10)下面に設けられた操作エア導入室(12)と、操作エア導入室(12)内に操作エアを導入する操作エア導入通路(13)とを備えている。
【0020】
ダイヤフラム(5)は、球殻状とされており、
図1および2に示す上に凸の円弧状が自然状態となっている。ダイヤフラム(5)は、例えば、ニッケル合金薄板からなるものとされ、円形に切り抜き、中央部を上方へ膨出させた球殻状に形成される。ダイヤフラム(5)は、ステンレス鋼薄板からなるものや、ステンレス鋼薄板とニッケル・コバルト合金薄板との積層体よりなるものとされることがある。
【0021】
図2に拡大して示すように、押さえアダプタ(8)は、その下面(8a)全体が所定の傾斜角度とされたテーパ状とされている。また、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(14)は、円形の平坦部(14a)と、平坦部(14a)の外周に連なり平坦部(14a)に対して凹まされている環状の凹部(14b)とを有している。
【0022】
押さえアダプタ(8)は、ボンネット(3)がボディ(2)にねじ合わされることで、ダイヤフラム(5)の外周縁部に上面から当接した状態で固定される。この際、押さえアダプタ(8)の下面(8a)全体がテーパ状とされていることにより、ダイヤフラム(5)は、球殻状(上に凸の円弧状)からほとんど変形することなく、その外周縁部の上面が押さえアダプタ(8)のテーパ状下面(8a)と面接触(広い範囲で接触)した状態で、押さえアダプタ(8)とボディ(2)の凹所(2c)の底面(14)との間に保持される。また、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(14)の外周縁部に凹部(14b)が設けられていることにより、ダイヤフラム(5)の外周縁部は、凹部(14b)内に収容される。したがって、ダイヤフラム(5)の外周縁部は、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(14)に沿うような変形を受けることはなく、その下面が凹所(2c)の底面(14)の平坦部(14a)の外周(14c)と線接触する。
【0023】
各部材の具体的な数値として、押さえアダプタ(8)の下面(8a)のテーパ角度θは、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(14)の平坦部(14a)に対して16°(15.5〜16.5°)とされている。また、ダイヤフラム押さえ(6)のダイヤフラム(5)に当接している面(6a)の曲率半径SRは、11mmまたは12mm(10.5〜12.5mm)とされている。
【0024】
表1に、ダイヤフラム押さえ(6)の形状(SR)および押さえアダプタ(8)のテーパ角度(θ)を変更した場合のダイヤフラム(5)の耐久性テスト結果を示している。なお、ダイヤフラム(5)は、厚さtが0.05mmのものを2枚積層したものとされ、ダイヤフラム(5)の高さh(ダイヤフラム(5)の外周縁から頂点までの高さ)は、0.7mmとされている。
【表1】
【0025】
上記表1から、押さえアダプタ(8)の下面(8a)のテーパ角度θ:16°(15.5〜16.5°)、ダイヤフラム押さえ(6)の曲率半径SR:11mmまたは12mm(10.5〜12.5mm)とすることにより、耐久性の向上が得られることが分かる。
【0026】
すなわち、ダイヤフラム(5)は、押さえアダプタ(8)の下面(8a)のテーパ角度θによって、自然状態からの変形量が変わるため、テーパ角度θがダイヤフラム(5)の耐久性に影響を及ぼす。したがって、テーパ角度θを最適化、具体的には、15.5〜16.5°とすることにより、ダイヤフラム(5)の耐久性を向上させることができる。また、ダイヤフラム押さえ(6)の曲率半径SRによっても、ダイヤフラム(5)の自然状態からの変形量が変わる。そこで、曲率半径SRを最適化、具体的には、10.5〜12.5mmとすることにより、ダイヤフラム(5)の耐久性をより一層向上させることができる。
【0027】
なお、上記において、ステム(7)、ピストン(10)、圧縮コイルばね(付勢部材)(11)、操作エア導入室(12)、操作エア導入通路(13)などは、ダイヤフラム押さえ(6)を上下移動させる上下移動手段を構成しているが、上下移動手段の構成は、
図1に示したものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0028】
(1):ダイヤフラム弁、(2):ボディ、(2a):流体流入通路、(2b):流体流出通路、(2c):凹所、(5):ダイヤフラム、(6):ダイヤフラム押さえ、(7):ステム、(8):押さえアダプタ、(14):底面、(14a):平坦部、(14b):凹部、(14c):外周、