特許第5933423号(P5933423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933423
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】高圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/36 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   F02M59/36
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-268108(P2012-268108)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114722(P2014-114722A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩邦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕
【審査官】 赤間 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−156265(JP,A)
【文献】 実開昭62−066063(JP,U)
【文献】 特開平05−332464(JP,A)
【文献】 特開2012−082809(JP,A)
【文献】 特開2002−004977(JP,A)
【文献】 特開2003−148291(JP,A)
【文献】 特開2007−333140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00〜71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャ(20)と、
前記プランジャの往復移動により燃料が加圧されるポンプ室(12)、及びそのポンプ室に連通する導入通路(13)を有するポンプボディ(10)と、
前記導入通路の内壁に形成された弁座(62)に着座及び離座する弁本体(42)、及びその弁本体の移動方向に延びる第1案内部(43)を有し、前記ポンプ室と前記導入通路とを連通及び遮断する吸入弁(41、46)と、
前記吸入弁の前記第1案内部に摺接する第2案内部(56、59)、及び前記吸入弁に当接する当接部(54)を有し、前記吸入弁の開弁方向の移動を制限するストッパ(50、57)と、
前記吸入弁の開弁時に前記第1案内部と前記第2案内部とが重なる位置に設けられ、前記ストッパと前記吸入弁との間に形成されたバルブ室(44)と前記ポンプ室とを連通するオリフィス(70,71,73)と、を備え
前記ストッパの前記当接部には、溝が設けられていることを特徴とする高圧ポンプ(1)。
【請求項2】
前記ストッパの前記当接部と前記弁体とが当接している状態のとき、前記ポンプ室と前記バルブ室とは前記溝を通じて連通していることを特徴とする請求項1に記載の高圧ポンプ。
【請求項3】
前記オリフィス(70)は、前記吸入弁の前記第1案内部に設けられ、前記吸入弁の開弁時の開口断面積が、前記吸入弁の閉弁時の開口断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の高圧ポンプ。
【請求項4】
前記吸入弁の開弁時に前記オリフィスと前記第2案内部とが重なる面積は、前記吸入弁の閉弁時に前記オリフィスと前記吸入弁とが重なる面積よりも大きいことを特徴とする請求項に記載の高圧ポンプ。
【請求項5】
前記オリフィス(71,73)は、前記ストッパの前記第2案内部に設けられ、前記吸入弁の開弁時の開口断面積が、前記吸入弁の閉弁時の開口断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の高圧ポンプ。
【請求項6】
前記吸入弁の開弁時に前記オリフィスと前記第1案内部とが重なる面積は、前記吸入弁の閉弁時に前記オリフィスと前記第1案内部とが重なる面積よりも大きいことを特徴とする請求項に記載の高圧ポンプ。
【請求項7】
前記オリフィスの穴径は、前記吸入弁が閉弁状態から開弁状態に移動するときのリフト量よりも大きいことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【請求項8】
前記プランジャの下降により吐出行程から吸入行程に移行する際、前記オリフィスは、前記バルブ室から前記ポンプ室へ燃料を流すことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【請求項9】
前記プランジャの上昇中における調量行程の際、前記オリフィスは、前記ポンプ室から前記バルブ室への燃料の流れを規制することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【請求項10】
前記プランジャの上昇中に調量行程から吐出行程に移行する際、前記オリフィスは、前記ポンプ室から前記バルブ室へ燃料を流すことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関に燃料を供給する燃料供給系統に設けられ、燃料を加圧する高圧ポンプが知られている。高圧ポンプは、内燃機関のカムシャフトの回転により往復駆動するプランジャによって、導入通路からポンプ室に燃料を吸入、加圧し、加圧した燃料を吐出する。
特許文献1に記載の高圧ポンプは、導入通路に有底筒状の吸入弁が設けられ、その吸入弁の内側に、吸入弁のリフト量を規定するストッパ当接面から突出した凸部が挿入されている。ストッパの凸部は、吸入弁の開弁時および閉弁時の移動を案内する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−082809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の高圧ポンプは、吸入弁の内壁とストッパの凸部との間に形成されたバルブ室の燃料が吸入弁の外側に排出されにくい構造になっている。そのため、吸入弁の開弁時、バルブ室の燃料が流体抵抗となり、吸入弁の開弁動作が遅くなると、導入通路からポンプ室への燃料の吸入量、つまり吸入効率が低下する。したがって、内燃機関のカムシャフトが高速で回転し、プランジャの往復移動速度が速くなると、高圧ポンプの燃料吐出量が減少する不具合がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、燃料が加圧されるポンプ室への燃料の吸入効率を高めることの可能な高圧ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、吸入弁の第1案内部とストッパの第2案内部との間にバルブ室を有する高圧ポンプにおいて、燃料が加圧されるポンプ室とバルブ室とを連通するオリフィスを、吸入弁の開弁時に第1案内部と第2案内部とが重なる位置に設けている。ストッパは、吸入弁に当接する当接部を有する。そのストッパの当接部には、溝が設けられている。
これにより、高圧ポンプが吐出行程から吸入行程に移行する際、バルブ室の燃料はオリフィスを通りポンプ室へ流れる。そのため、バルブ室の燃料が吸入弁の移動を妨げることがないので、吸入弁が速やかに開弁する。したがって、導入通路からポンプ室への燃料の吸入効率を高めることができる。
また、吸入弁の開弁時に第1案内部と第2案内部とが重なる位置にオリフィスを設けることで、吸入弁の開弁時と閉弁時において、オリフィスの開口断面積を変えることが可能になる。吸入弁の開弁時の開口断面積を、吸入弁の閉弁時の開口断面積よりも小さくすれば、高圧ポンプの調量行程の際、ポンプ室からオリフィスを通りバルブ室に流入しようとする燃料が少なくなる。そのため、バルブ室の燃料圧力の上昇が抑制され、吸入弁がバルブ室の燃料圧力によって閉弁してしまう現象(自閉)が発生する回転数を高くすることが可能になる。したがって、高圧ポンプのプランジャの往復移動速度が速くなる内燃機関の高回転時に、高圧ポンプの燃料吐出量を確実に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の第1実施形態による高圧ポンプの断面図である。
図2図1のII部分の拡大図において、吸入弁の閉弁状態を示す断面図である。
図3図1のII部分の拡大図において、吸入弁の開弁状態を示す断面図である。
図4】(A)は高圧ポンプの燃料吐出量とオリフィス面積との関係を示すグラフであり、(B)は吸入弁の自閉限界回転数とオリフィス面積との関係を示すグラフである。
図5】吸入弁の開弁時と閉弁時におけるオリフィス開口面積の変化を示すグラフである。
図6】第2実施形態による高圧ポンプの吸入弁の閉弁状態を示す断面図である。
図7】第2実施形態による高圧ポンプの吸入弁の開弁状態を示す断面図である。
図8】第3実施形態による高圧ポンプの吸入弁の閉弁状態を示す断面図である。
図9】第3実施形態による高圧ポンプの吸入弁の開弁状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1図5に示す。本実施形態の高圧ポンプ1は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給系統に設けられる。燃料タンクから汲み上げられた燃料は、高圧ポンプ1により加圧され、デリバリパイプに蓄圧される。そしてデリバリパイプに接続するインジェクタから内燃機関の各気筒に噴射供給される。
【0008】
(高圧ポンプの構成)
図1に示すように、高圧ポンプ1は、ポンプボディ10、プランジャ20、ダンパ室30、電磁弁部40及び吐出弁部90などを備えている。
ポンプボディ10には、円筒状のシリンダ11が設けられている。シリンダ11には、プランジャ20が軸方向に往復移動可能に収容されている。プランジャ20のポンプボディ10から突出した端部に設けられるスプリング座21と、プランジャ20の外周のオイルシール22を保持するオイルシールホルダ23との間にスプリング24が設けられている。このスプリング24により、プランジャ20は図示しないエンジンのカムシャフト側へ付勢される。そのため、プランジャ20は、カムシャフトのカムプロファイルに従い軸方向に往復移動する。プランジャ20の往復移動により、ポンプ室12の容積が変化することで燃料が吸入、加圧される。
【0009】
次に、ダンパ室30について説明する。
ポンプボディ10には、シリンダ11の反対側に突出する筒状の筒部31が設けられている。筒部31に有底筒状のカバー32が被さることで、ダンパ室30が形成される。
ダンパ室30には、パルセーションダンパ33、支持部材34及び波ばね35が収容されている。
パルセーションダンパ33は、2枚の金属ダイアフラムから構成され、内部に所定圧の気体が密封されている。パルセーションダンパ33は、2枚の金属ダイアフラムがダンパ室30の圧力変化に応じて弾性変形することで、ダンパ室30の燃圧脈動を低減する。
【0010】
ダンパ室30は、図示しない燃料通路を通じて図示しない燃料導入口と連通している。この燃料導入口には図示しない燃料タンクから燃料が供給される。そのため、ダンパ室30は、燃料導入口から燃料タンクの燃料が供給される。
【0011】
続いて、電磁弁部40について説明する。
電磁弁部40は、ポンプ室12とダンパ室30とを連通する導入通路13に設けられ、導入通路13の開放および遮断を制御する。電磁弁部40は、吸入弁41、ストッパ50、および電磁駆動部80などから構成される。
ポンプボディ10には、シリンダ11の中心軸と略垂直に凹部14が設けられている。凹部14の開口をコアハウジング15が覆うことで、ダンパ室30からポンプ室12までの導入通路13が区画される。
【0012】
図2および図3に示すように、筒部材60、弁座部材61、吸入弁41およびストッパ50は、この順で、コアハウジング15側からポンプ室12に向かい、導入通路13に設けられている。
ストッパ50は、有底筒状のカップ部51、およびカップ部51の弁座部材側の開口端から径外方向に延びる外縁部52を有する。ストッパ50は、外縁部52が導入通路13に設けられた段差17に当接している。また、ストッパ50の外縁部52には、板厚方向に通じる通路53が周方向に複数個形成されている。
【0013】
弁座部材61は、筒状に形成され、ストッパ側に環状の弁座62を有している。弁座部材61は、弁座62の外側に、吸入弁41と反対側に凹む湾曲部63を有している。
筒部材60は、導入通路13の内壁に設けられためねじ141に螺合されている。筒部材60をめねじ141に螺合することにより、弁座部材61およびストッパ50はポンプボディ10の段差17に押し付けられ、ポンプボディ10に固定される。
【0014】
吸入弁41は、円板状の弁本体42、および弁本体42から弁座62の反対側へ延びる筒状の第1案内部43を有する。吸入弁41の弁本体42は、弁座部材61の弁座62に着座および離座可能である。吸入弁41が弁座62に着座することで導入通路13とポンプ室12とが閉塞され、吸入弁41が弁座62から離座することで導入通路13とポンプ室12とが連通する。
吸入弁41の弁本体42は、弁座62の反対側の面が、ストッパ50のカップ部51の開口端に設けられた当接部54に当接する。これにより、吸入弁41は、開弁方向の移動を制限される。ストッパ50の当接部54には、径方向に延びる溝55が周方向に1本または複数本設けられている。
【0015】
吸入弁41の第1案内部43の外周面は、ストッパ50のカップ部51を構成する筒状の第2案内部56の内周面と摺接する。吸入弁41は、その第1案内部43がストッパ50の第2案内部56に案内されることにより、弁座62からの脱落または傾きが防がれ、弁座62に確実に着座または離座することが可能になる。
吸入弁41とストッパ50が当接したとき、ポンプ室12からストッパ50の溝55を通り、吸入弁41の第1案内部43とストッパ50の第2案内部56との隙間に燃料が流れる。
【0016】
吸入弁41とストッパ50との間には、バルブ室44が形成される。バルブ室44には、第1スプリング45が設けられる。第1スプリング45は、吸入弁41を弁座側に付勢している。
吸入弁41の第1案内部43には、径方向に通じるオリフィス70が設けられている。オリフィス70は、バルブ室44とポンプ室12とを連通する。なお、ポンプ室12とは、弁座62よりもシリンダ側で燃料が加圧される空間をいう。
【0017】
オリフィス70は、第1案内部43のうちで、吸入弁41の開弁時に第2案内部56と重なり、吸入弁41の閉弁時に第2案内部56に重ならない個所を含んで設けられる。そのため、オリフィス70は、吸入弁41の開弁時に第2案内部56に重なる面積が大きく、吸入弁41の閉弁時に第2案内部56に重なる面積が小さくなる。したがって、吸入弁41の開弁時におけるオリフィス70の開口断面積は、吸入弁41の閉弁時におけるオリフィス70の開口断面積よりも小さいものとなる。
オリフィス70の穴径は、吸入弁41のリフト量よりも大きい。そのため、吸入弁41の開弁時と閉弁時において、オリフィス70の開口断面積は、吸入弁41のリフトによって大きく変化する。
【0018】
電磁駆動部80について説明する。
図1に示すように、コアハウジング15の内側にニードルガイド16が固定されている。ニードルガイド16は、ニードル81を軸方向に移動可能に支持している。
ニードル81は、一端が可動コア82に固定され、他端が吸入弁41に当接可能である。
ニードル81は、その外壁から径外方向に延びる係止部83が設けられている。この係止部83とニードルガイド16との間に第2スプリング84が設けられている。第2スプリング84は、第1スプリング45よりも強い力で、ニードル81をポンプ室側に付勢している。
【0019】
可動コア82は、磁性体から形成され、コアハウジング15の内側に設けられた可動コア室85に収容される。可動コア82は、軸方向に往復移動可能である。
固定コア86は、磁性体から形成され、コアハウジング15と非磁性体からなる環状部87を挟んで設けられる。
固定コア86の径外側にコネクタ88が設けられている。コネクタ88は、有底筒状のヨーク881により保持されている。コネクタ88の内側に設けられたボビン882にコイル89が巻回されている。コネクタ88の端子883を通じてコイル89に通電されると、コイル89は磁界を発生する。
【0020】
コイル89に通電していないとき、可動コア82と固定コア86とは、第2スプリング84の弾性力により互いに離れている。ニードル81は、ポンプ室12側へ移動し、ニードル81の端面が吸入弁41を押圧する。
コイル89に通電されると、固定コア86、可動コア82、ヨーク881及びコアハウジング15によって形成される磁気回路に磁束が流れ、可動コア82が第2スプリング84の弾性力に抗し、固定コア86側に磁気吸引される。これにより、ニードル81は、吸入弁41に対する押圧力を解除する。
【0021】
次に吐出弁部90について説明する。
吐出弁部90は、吐出弁91、規制部材92、スプリング93などから構成されている。
ポンプボディ10には、シリンダ11の中心軸と略垂直に吐出通路94が形成されている。吐出弁91は、吐出通路94に往復移動可能に収容されている。吐出弁91は、弁座95に着座又は離座することで、吐出通路94を開閉する。
吐出弁91の燃料吐出口96側に設けられた規制部材92は、吐出弁91の燃料吐出口96側への移動を規制する。
スプリング93は、一端が規制部材92に当接し、他端が吐出弁91に当接し、吐出弁91を弁座側へ付勢している。
【0022】
ポンプ室12の燃料の圧力が上昇し、ポンプ室側の燃料から吐出弁91が受ける力がスプリング93の弾性力と弁座95の下流側の燃料から受ける力との和よりも大きくなると、吐出弁91は弁座95から離座する。これにより、燃料吐出口96から燃料が吐出される。
一方、ポンプ室12の燃料の圧力が低下し、ポンプ室側の燃料から吐出弁91が受ける力がスプリング93の弾性力と弁座95の下流側の燃料から受ける力との和よりも小さくなると、吐出弁91は弁座95に着座する。これにより、弁座95の下流側の燃料がポンプ室12へ逆流することが防がれる。
【0023】
(高圧ポンプの作動)
次に高圧ポンプ1の作動について説明する。
(1)吸入行程
カムシャフトの回転により、プランジャ20が上死点から下死点に向かって下降すると、ポンプ室12の容積が増加し、燃料が減圧される。吐出弁91は弁座95に着座し、吐出通路94を閉塞する。
一方、吸入弁41は、ポンプ室12と導入通路13との差圧により、第1スプリング45の付勢力に抗してストッパ側へ移動し、開弁状態となる。すなわち、図2の状態から図3の状態へ移行する。吸入弁41がストッパ側へ移動するとき、バルブ室44の燃料はオリフィス70を通りポンプ室12へ流れる。
なお、吸入行程の前行程である吐出行程の途中からコイル89への通電は停止されているので、吸入行程において、可動コア82と一体のニードル81は、第2スプリング84の付勢力によりポンプ室側へ移動し、吸入弁41をポンプ室側へ押圧する。
吸入弁41の開弁により、ダンパ室30から導入通路13を経由し、ポンプ室12に燃料が吸入される。
【0024】
(2)調量行程
カムシャフトの回転により、プランジャ20が下死点から上死点に向かって上昇すると、ポンプ室12の容積が減少する。このとき、所定の時期まではコイル89への通電が停止されているので、第2スプリング84の付勢力によりニードル81が吸入弁41をポンプ室側へ押圧し、吸入弁41は開弁状態を維持する。
吸入弁41の開弁により、ポンプ室12と導入通路13とは連通した状態が維持される。このため、一度ポンプ室12に吸入された低圧燃料が、導入通路13を経由し、ダンパ室30へ戻される。したがって、ポンプ室12の圧力は上昇しない。
このとき、図3に示すように、オリフィス70は、その開口の大部分がストッパ50の第2案内部56と重なる。これにより、オリフィス70は、ポンプ室12からバルブ室44への燃料の流れを規制する。したがって、バルブ室44の燃料圧力の上昇が抑えられ、バルブ室44内の燃料圧力が吸入弁41に作用することによって発生する自閉力は小さいものとなる。
【0025】
(3)吐出行程
プランジャ20が下死点から上死点に向かって上昇する途中の所定の時刻に、コイル89へ通電される。するとコイル89に発生する磁界により、固定コア86と可動コア82との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が第2スプリング84の弾性力と第1スプリング45の弾性力との差よりも大きくなると、可動コア82とニードル81は固定コア側へ移動する。これにより、吸入弁41に対するニードル81の押圧力が解除される。吸入弁41は、第1スプリング45の弾性力、及びポンプ室12からダンパ室側へ排出される低圧燃料の流れによって生ずる力により、弁座側へ移動し、閉弁状態となる。すなわち、図3の状態から図2の状態へ移行する。吸入弁41が弁座側へ移動するとき、ポンプ室12の燃料は、ストッパ50の溝55、第1案内部43と第2案内部56との隙間、及びオリフィス70を通り、バルブ室44へ流入する。
【0026】
吸入弁41が閉弁した時から、ポンプ室12の燃料圧力は、プランジャ20の上昇と共に高くなる。ポンプ室12の燃料圧力が吐出弁91に作用する力が、吐出通路94の燃料圧力が吐出弁91に作用する力およびスプリング93の付勢力よりも大きくなると、吐出弁91が開弁する。これにより、ポンプ室12で加圧された高圧燃料は吐出通路94を経由して燃料吐出口96から吐出する。
なお、吐出行程の途中でコイル89への通電が停止される。ポンプ室12の燃料圧力が吸入弁41に作用する力は、第2スプリング84の付勢力よりも大きいので、吸入弁41は閉弁状態を維持する。
高圧ポンプ1は、(1)から(3)の行程を繰り返し、内燃機関に必要な量の燃料を加圧して吐出する。
【0027】
(オリフィスに関する検討)
図4(A)、(B)は、ストッパ50のカップ部51の底に種々の穴径のオリフィスを設け、高圧ポンプ1を駆動したときの吐出量特性と自閉限界特性を示すものである。
図4(A)はオリフィスの開口断面積と高圧ポンプの燃料吐出量との関係を示し、図4(B)はオリフィスの開口断面積と吸入弁が自閉してしまうポンプ回転数(自閉限界回転数)との関係を示している。
なお、図4(A)における燃料吐出量は、調量行程を省いた燃料の全量吐出状態のものである。
【0028】
図4(A)を参照すると、オリフィスの開口断面積が大きいと燃料吐出量が増加し、オリフィスの開口断面積が小さいと燃料吐出量が減少する。これは、オリフィスの開口断面積が大きいと、高圧ポンプの吸入行程時に吸入弁41の開弁応答性が良好になり、吸入効率が高まることで、高圧ポンプの燃料吐出量が増加するためである。したがって、燃料吐出量の観点からみると、オリフィスの開口断面積は、図4(A)の斜線部αの領域のものとするのが好ましい。
【0029】
一方、図4(B)を参照すると、オリフィスの開口断面積が小さいと自閉限界回転数が高くなり、オリフィスの開口断面積が大きいと自閉限界回転数が低くなる。これは、オリフィスの開口断面積が小さいと、高圧ポンプの調量行程時にバルブ室44の燃料圧力の増加が抑制され、吸入弁の自閉力が小さくなるからである。したがって、自閉限界回転数の観点からみると、オリフィスの開口断面積は、図4(B)の斜線部βの領域のものとするのが好ましい。
図4(A)、(B)に示す特性により、オリフィスの開口断面積が一定の場合、矢印Xに示すように、燃料吐出量と自閉限界回転数の両方を有利な条件とできる開口断面積は存在しない。
【0030】
次に、吸入弁41の第1案内部43にオリフィス70を設けた場合のオリフィス開口断面積−吸入弁リフト量特性を図5(A)に示す。
ここでは、上述のとおり、オリフィスの穴径は、吸入弁のバルブリフトよりも大きく設定している。
【0031】
図5(B)では、吸入弁の閉弁時と開弁時において、オリフィスの開口断面積を斜線で示している。すなわち、オリフィスの開口断面積は、吸入弁41の閉弁時に大きく、開弁時に小さくなる。
【0032】
図5(A)に示すように、吸入弁の閉弁時において、オリフィスの開口断面積は、燃料吐出量を増加させる斜線部αの領域のものとなる。また、吸入弁の開弁時において、オリフィスの開口断面積は、自閉限界回転数を高める斜線部βの領域のものとなる。つまり、吸入弁の第1案内部43にオリフィスを設けたとき、そのオリフィスは、燃料吐出量を増加することの可能な斜線部αの領域と、自閉限界回転数を高めることの可能な斜線部βの領域の両方の条件を満たすことできる。
【0033】
(第1実施形態の作用効果)
第1実施形態は、次の作用効果を奏する。
(1)第1実施形態では、吸入弁41の第1案内部43のうち、吸入弁41の開弁時に第2案内部56と重なる位置を含むようにオリフィス70を設けた。これにより、オリフィス70の開口断面積は、吸入弁41の閉弁時に大きく、開弁時に小さくなる。
オリフィス70の開口断面積は吸入弁41の閉弁時に大きいので、高圧ポンプが吐出行程から吸入行程に移行する際、バルブ室44の燃料はポンプ室12へ流れ、吸入弁41の開弁動作が良好になる。したがって、導入通路13からポンプ室12への燃料の吸入効率を高めることができる。
また、オリフィス70の開口断面積は吸入弁41の開弁時に小さいので、高圧ポンプの調量行程の際、バルブ室44の燃料圧力の上昇が抑制され、吸入弁41の自閉限界回転数が高まる。したがって、プランジャの往復移動速度が速くなる内燃機関の高回転時に、高圧ポンプ1の燃料吐出量を確実に制御することができる。
さらに、オリフィス70の開口断面積は吸入弁41の開弁時に小さいので、高圧ポンプの調量行程の際、バルブ室44の燃料圧力の上昇が抑制されることから、電磁駆動部80の第2スプリング84の荷重を小さくすることが可能になる。そのため、調量行程から吐出行程に移行する際に電磁駆動部80に供給する電力を小さくすることが可能になる。したがって、高圧ポンプ1を小型化すると共に、高圧ポンプ1の消費電力を低減することができる。
【0034】
(2)第1実施形態では、オリフィス70の穴径は、吸入弁41のリフト量よりも大きい。これにより、吸入弁41の移動によるオリフィス70の開口断面積の変化量を大きくすることができる。
【0035】
(3)第1実施形態では、吐出行程から吸入行程に移行する際、吸入弁41の開弁方向への移動と共にオリフィス70は、バルブ室44からポンプ室12へ燃料を流す。これにより、導入通路13からポンプ室12への燃料の吸入効率を高め、高圧ポンプの燃料吐出量を増加することができる。
【0036】
(4)第1実施形態では、調量行程の際、オリフィス70は、ポンプ室12からバルブ室44への燃料の流れを規制する。これにより、吸入弁41の自閉限界回転数を高め、高回転時における高圧ポンプの燃料吐出量を確実に制御することができる。
【0037】
(5)第1実施形態では、調量行程から吐出行程に移行する際、吸入弁41の閉弁方向への移動と共にオリフィス70は、ポンプ室12からバルブ室44へ燃料を流す。これにより、吸入弁41を速やかに閉弁させ、高圧ポンプの燃料吐出量を確実に制御することができる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図6および図7に示す。以下、複数の実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態では、オリフィス71がストッパ50の第2案内部56のうち、吸入弁41の開弁時に吸入弁41の第1案内部43と重なり、吸入弁41の閉弁時に第1案内部43に重ならない個所を含んで設けられている。この構成においても、オリフィス71は、吸入弁41の開弁時に第1案内部43に重なる面積が大きく、吸入弁41の閉弁時に第1案内部43に重なる面積が小さくなる。したがって、吸入弁41の開弁時におけるオリフィス71の開口断面積は、吸入弁41の閉弁時におけるオリフィス71の開口断面積よりも小さいものとなる。
第2実施形態においても、第1実施形態と同一の作用効果を奏することができる。
【0039】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図8および図9に示す。
第3実施形態では、吸入弁46は、有底筒状のハット部47、およびこのハット部47のストッパ側の開口端から径外方向へ円環状に延びる環状部48を有する。環状部48は、弁座部材65の弁座62に着座および離座可能である。
ストッパ57は、円盤部58、およびこの円盤部58からニードル側へ突出する突部59を有する。ストッパ57は、円盤部58が弁座部材65に設けられた段差66に固定されている。また、ストッパ57の円盤部58には、板厚方向に通じる通路581が周方向に複数個形成されている。
吸入弁46のハット部47のストッパ側の開口端に設けられた当接部49は、ストッパ57の円盤部58に当接する。これにより、吸入弁46は、開弁方向の移動を制限される。吸入弁46の当接部49には、径方向に延びる溝491が周方向に1本または複数本設けられている。
【0040】
ストッパ57の突部59は、吸入弁46のハット部47の内側に挿入されている。ストッパ57の突部59の外周面は、吸入弁46のハット部47の内周面と摺接する。吸入弁46は、ハット部47の内周面がストッパ57の突部59に案内されることにより、弁座62からの脱落または傾きが防がれ、弁座62に確実に着座することが可能になる。
第3実施形態では、ストッパ57の突部59が特許請求の範囲に記載の「第2案内部」に相当する。
【0041】
ストッパ57の突部59には、軸方向に凹む穴部72と、その穴部72から径方向に通じるオリフィス73が設けられている。穴部72とオリフィス73は、バルブ室44とポンプ室12とを連通する。オリフィス73は、吸入弁46の開弁時にハット部47に重なる面積が大きく、吸入弁46の閉弁時にハット部47に重なる面積が小さくなる。したがって、吸入弁46の開弁時におけるオリフィス73の開口断面積は、吸入弁46の閉弁時におけるオリフィス73の開口断面積よりも小さいものとなる。
【0042】
高圧ポンプの吸入行程時、吸入弁46は、図8の状態から図9の状態へ移行する。このとき、バルブ室44の燃料は穴部72とオリフィス73を通りポンプ室12へ流れる。
高圧ポンプの調量行程時、吸入弁46は、図9の状態を維持する。このとき、オリフィス73は開口断面積が小さく、ポンプ室12からバルブ室44への燃料の流れを規制する。そのため、バルブ室44の燃料圧力の上昇が抑えられる。
高圧ポンプの吐出行程時、吸入弁46は、図9の状態から図8の状態へ移行する。吸入弁46が弁座側へ移動するとき、ポンプ室12の燃料は、吸入弁46の当接部49の溝491、吸入弁46のハット部47とストッパ57の突部59との隙間、オリフィス73、穴部72を通り、バルブ室44へ流入する。
第3実施形態においても、第1実施形態および第2実施形態と同一の作用効果を奏することができる。
【0043】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、電磁弁部40に関し、コイル89に通電していないとき、可動コア82が吸入弁41、46を開弁するノーマリーオープン弁として説明した。これに対し、他の実施形態では、電磁弁部は、コイルに通電していないとき、可動コアが吸入弁を閉弁するノーマリークローズ弁としてもよい。
上述した実施形態では、吸入弁41、46とニードル81とを別体で構成した。これに対し、他の実施形態では、吸入弁とニードルとを一体で構成してもよい。
上述した実施形態では、オリフィス70の穴径を吸入弁41のリフト量よりも大きいものとした。これに対し、他の実施形態では、オリフィスの穴径は吸入弁41のリフト量よりも小さいものであってもよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 ・・・高圧ポンプ
12・・・ポンプ室
13・・・導入通路
43・・・第1案内部
41、46・・・吸入弁
56・・・第2案内部
59・・・突部(第2案内部)
50、57・・・ストッパ
44・・・バルブ室
70,71,73・・・オリフィス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9