(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、網目状補強材は、織物を構成する線材の交点が盛り上がった形態をなしており、その交点部分で製造時に気泡を巻き込むおそれがある。気泡を巻き込むと、熱伝導性シート中に空気層が存在することになるため、熱伝導性能が低下する。さらに、強度面でも物性が低下し、破れ易くなるといった問題が生じる。
上記のような課題を解決するためになされたのが本発明であり、その目的は、網目状補強材を備えて取扱い性を良好にした熱伝導性シートについて、製造時に気泡の混入を発生し難くして容易に製造できる熱伝導性シートを提供することにある。
また、気泡の混入を無くして熱伝導性が良く、高強度で破れにくい熱伝導性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために以下の構成を提供する。
樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物が、メッシュシートの両面を被覆して熱伝導層を形成する熱伝導性シートについて、メッシュシートが経糸と緯糸の互いに交差する2方向の線材のみで網目を形成し、メッシュシートの厚みが該経糸と該緯糸の線径の合計の50%〜90%の長さであって、前記線材の交点に、経糸と緯糸が交差する隙間を減じて熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備える熱伝導性シートである。
【0008】
樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物に補強部材であるメッシュシートを埋設したため、メッシュシートを埋設しない熱伝導性シートに比べて強度が高く、取扱い性を良好にすることができる。
また、網目状補強材としてメッシュシートを採用したことから、その貫通孔を熱伝導性組成物が容易に貫通し、熱伝導性シートの一方側面から他方側面まで連続して熱伝導層を形成することができる。そのため、熱の伝導をメッシュシートで遮ることなく、熱伝導層に起因した熱伝導性能を発揮することができる。
さらに、熱伝導層とメッシュシートとの界面で空気の混入を抑制する気泡防止部を備えるため、熱伝導性シートの製造時に線材の交点においても熱伝導性組成物が容易に流れ込み、気泡を発生し難くすることができる。
【0009】
特にメッシュシートが経糸と緯糸の互いに交差する2方向の線材のみで網目を形成することとすれば、複数の線材が複雑に絡み合って生じる網目に比べて網目が簡単に生じており、網目をつくる貫通孔の表面形状が単純で、熱伝導性シートに気泡残りを生じさせる原因となる凹凸が少ない。
また、メッシュシートの厚みが経糸と緯糸の線径の合計の50%〜90%の長さとすれば、経糸と緯糸との交点において、経糸と緯糸が単純に重なるのではなく、経糸と緯糸が潰れているか、一体となっているか等の何らかの交点処理が施されているため、メッシュシートの厚み自体を薄くできるだけでなく、網目をつくる貫通孔の表面積が減って、熱伝導性シートに気泡残りを起こしにくい。
そして、前記線材の交点に、経糸と緯糸が交差する隙間を減じて熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備えているため、熱伝導性シートの製造時に気泡を発生し難くすることができる。
【0010】
メッシュシートの交点に気泡防止部を備えた上記発明に対し、メッシュシートの交点に気泡防止部を備えていない場合には、メッシュシートの交点付近でメッシュシートを構成する線材が交差して生じる微細な隙間に対し熱伝導性組成物が入り難く、熱伝導層内に気泡が残存する。その結果、熱伝導性能の悪化を招くおそれがある。その問題の回避として、メッシュシートの開口率や開口径等の諸条件、熱伝導性組成物の粘度やぬれ性等の諸物性を最適化する設計技術が考えられるが、本発明ではそういった設計技術を厳密に見極めることなく、気泡の発生を防止することができる。
【0011】
網目の幅は、経糸または緯糸の線径の5倍〜40倍に形成することが好ましい。網目の幅が経糸または緯糸の線径の5倍以上に形成されると、メッシュシートの網目をつくる貫通孔の幅に対する高さが低く、この貫通孔に熱伝導性組成物が入り込み易くなるため、気泡残りが生じにくい熱伝導性シートを得ることができる。また、40倍を超えると補強効果が期待した程には向上しない場合がある。
【0012】
気泡防止部を線材の交点で線材が潰れた潰れ部とすることができる。気泡防止部が線材の交点で線材が潰れた潰れ部であれば、経糸と緯糸の交点で互いの接触面積が広がり交点付近の気泡残りとなるような余分なスペースを減じることができる。また、メッシュシートの厚みを経糸と緯糸の線径の合計よりも薄くすることができる。
【0013】
また、樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物が、メッシュシートの両面を被覆して熱伝導層を形成する熱伝導性シートについて、メッシュシートが互いに交差する線材で網目を形成し、前記線材が交わる交点に、熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備える熱伝導性シートである。
【0014】
樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物に補強部材であるメッシュシートを埋設したため、メッシュシートを埋設しない熱伝導性シートに比べて強度が高く、取扱い性を良好にすることができる。
また、網目状補強材としてメッシュシートを採用したことから、その貫通孔を熱伝導性組成物が容易に貫通し、熱伝導性シートの一方側面から他方側面まで連続して熱伝導層を形成することができる。そのため、熱の伝導をメッシュシートで遮ることなく、熱伝導層に起因した熱伝導性能を発揮することができる。
さらに、熱伝導層とメッシュシートとの界面で空気の混入を抑制する気泡防止部を備えるため、熱伝導性シートの製造時に線材の交点においても熱伝導性組成物が容易に流れ込み、気泡を発生し難くすることができる。
【0015】
気泡防止部は、気泡防止部が交点で線材を熱融着または溶接した融着部とすることができる。すなわち、気泡防止部をメッシュシートの交点が熱融着または溶接された融着部とすることができる。
メッシュシートの交点が熱融着または溶接されているため、その交点が目止め処理されていない通常のメッシュシートに比べて、交点部分が扁平化するとともに、交点部分での隙間がほとんどなくなる。そのため、熱伝導性シートの製造時に交点で気泡が発生し難くなり、空気の混入を抑制することができる。
【0016】
メッシュシートは、樹脂製や金属製とすることができるが、熱可塑性樹脂とすることで熱融着が簡単にでき、所望のメッシュシートを簡単に安く製造できるメリットがある。
【0017】
気泡防止部は、気泡防止部が交点で線材を圧着した圧着部とすることができる。気泡防止部をメッシュシートの交点が圧着された圧着部としたため、その交点が圧着や融着等のいわゆる目止め処理が施されていない通常のメッシュシートに比べて、交点部分が扁平化すると共に、その交点部分における隙間がほとんどなくなる。そのため、メッシュシートに熱伝導性組成物を被覆して熱伝導性シートを成形する際に、メッシュシートの交点で気泡が発生し難くなり、空気の混入を抑制することができる。
【0018】
このように、気泡防止部が融着部や圧着部である場合に、メッシュシートの交点が扁平化するため、メッシュシートと熱伝導層の厚さが実質的に同等の熱伝導性シートを得ることができる。すなわち、メッシュシートの厚さと熱伝導層の厚さを実質的に同等としても、メッシュシートの交点が扁平化しているため、その交点が熱伝導層から露出し難い。そのため、薄く且つ取扱い易い熱伝導性シートを製造することができる。
【0019】
気泡防止部は、気泡防止部が交点を被覆した樹脂被膜部とすることができる。気泡防止部をメッシュシートの交点に形成した樹脂被膜部としたため、交点部分での段差が緩やかになるとともに、交点付近の隙間が樹脂被膜で満たされて小さくなる。そのため、交点付近に熱伝導性組成物が入り込み易く空気の混入を抑制することができる。
【0020】
さらに、熱伝導層を粘着層と非粘着層との積層物とすることができる。そして、メッシュシートをその粘着層内、非粘着層内、または粘着層と非粘着層との界面に埋設することができる。
熱伝導層を粘着層と非粘着層との積層物としたため、一方面を粘着面とし他方面を非粘着面とすることができるので、電子部品への組付け作業が容易な熱伝導性シートとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱伝導性シートは、メッシュシートを埋設しない熱伝導性シートに比べて、熱伝導性能を維持したまま、取扱い性が良好である。
また、メッシュシートの交点に気泡防止部を備えるため、熱伝導層内に気泡が混入し難い熱伝導性シートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について以下に示す実施形態に基づきさらに詳細に説明する。なお、各実施形態で共通する構成については、同一の符号を付して重複説明を省略する。また、共通する材質、作用、効果等についても重複説明を省略する。
【0024】
第1実施形態〔図1〜図11〕:
図1には熱伝導性シート11の平面図を示す。熱伝導性シート11は、ICやCPUなどの発熱体や、ヒートシンクやヒートパイプなどの放熱体と良好な密着性を有する電子機器用部品であり、
図2の断面図に示すように、シート状の熱伝導層15の内部にメッシュシート14が埋設されている。
本実施形態では、取扱い性の向上のために、熱伝導層15を粘着層13と非粘着層12の2層構成としており、メッシュシート14は熱伝導層15の中でも非粘着層12の部分に埋設されている。非粘着層12は、格子状のメッシュシート14に形成された網目(貫通孔)を挿通しており、粘着層13側の一方面(粘着層13との界面)と外面側の他方面(外面)とが連続している。
また、メッシュシート14の交点には気泡の混入を防止する気泡防止部18を形成している。
メッシュシート14が熱伝導層15に埋設された状態を示す模式図を
図3に示す。
【0025】
熱伝導層15は、熱を伝導しやすいように、樹脂組成物からなる基材中に熱伝導性フィラーが分散された熱伝導性組成物で形成されている。
この熱伝導層15のうち粘着層13は、粘着性を有しており、被着対象物と容易に粘着する。一方、非粘着層12は、非粘着層12どうしを加圧せずに接触させても付着しにくく、作業者の手に触れても粘着しにくい。また、非粘着層12は加圧されて付着しても剥がれやすい。
粘着層13と非粘着層12は、樹脂組成物の架橋剤の割合だけ異なるように配合することにより、容易に粘着層13と非粘着層12とに分けて成形することができ、粘着層13と非粘着層12との密着性も良好な熱伝導層15とすることができる。但し、粘着層13と非粘着層12を異種材質のものから構成してもよい。
【0026】
熱伝導層15のうち、粘着層13の硬度は、日本工業規格であるJIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される値(以下「E硬度」という。)で60以下が好ましい。熱伝導層15のE硬度が60を超える場合、発熱体や放熱体の形状への追従性が十分に得られず、発熱体や放熱体と熱伝導層15との密着性が低下して熱伝導性シート11の熱伝導性が低下するおそれがあるからである。熱伝導層15のE硬度が60以下の場合には、発熱体や放熱体の表面が凹凸形状を有する場合にも、発熱体や放熱体の形状に沿って熱伝導層15が良好に追従し、発熱体や放熱体と熱伝導性シート11との密着性を十分に確保することができる。更に、60以下のE硬度を有する熱伝導層15によって熱伝導性シート11の柔軟性が確保される。そのため、例えば熱伝導性シート11が取り付けられた発熱体に加わる衝撃を熱伝導性シート11が吸収することにより、発熱体を好適に保護することができる。しかしながら、粘着層13のE硬度が10未満である場合には、本実施形態のように非粘着層12を有していることが好ましい。即ち、非粘着層12を有する場合の粘着層13のE硬度は、10以上60以下がより好ましい。
一方、粘着層13のE高度は、熱伝導性シート11の取扱い性の観点から60〜90が好ましい。
【0027】
熱伝導層15の厚さは、メッシュシート14の厚さと同等以上であり、0.1mm〜5mm程度が好ましい。5mmを超えると熱伝導性能が低下(熱抵抗が高まる)するおそれがあり、また、0.1mm未満であると、メッシュシート14を用いても取扱い難いものとなるためである。
【0028】
熱伝導層15を形成する材料となる樹脂組成物には、混合後に硬化してゴム状またはゲル状の高分子基材となる、主剤と硬化剤のような混合系から生じるものとすることができる。例えば、未架橋ゴムと架橋剤であったり、架橋剤を含む未架橋ゴムと架橋促進剤であったりすることができ、また、その硬化反応も常温硬化であっても熱硬化であっても良い。シリコーンゴムであればシリコーンゴム主剤と硬化剤であってビニル基含有シリコーン生ゴムと過酸化物などが例示できる。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーやポリアミド系熱可塑性エラストマーであれば、ジオールとジカルボン酸とすることができ、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであれば、ジイソシアネートとジオールとすることができる。なお、ここでは混合前の少なくとも2成分の一方を主剤とし他方を硬化剤と呼ぶものであって、どちらを主剤と定義しても硬化剤と定義しても良いものとする。従って、例えば、混合割合の少ない方、粘度の低い方を主剤としても良い。
更に、前記高分子基材は、こうした主剤と硬化剤のうち、硬化剤を含まない主剤だけであっても良い。したがって、本発明において、樹脂組成物または高分子基材といっても、一般的に樹脂や高分子と称される程度の高分子量であることを必ずしも要しない。
【0029】
これらの高分子基材、あるいは主剤と硬化剤には、熱伝導性シート11の生産性、耐候性、耐熱性など種々の性質を高める目的で種々の添加材を含んだものを用いることができる。そうした添加材を例示すれば、可塑剤、補強材、着色剤、耐熱向上剤、カップリング剤、難燃剤、粘着剤、触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤など、種々の機能性向上剤が挙げられる。
【0030】
熱伝導性フィラーには、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭素繊維などからなる微細粉が挙げられる。金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英などが挙げられ、金属窒化物としては、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムなどが挙げられる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、樹脂繊維を炭化処理した繊維、樹脂繊維を黒鉛化処理した繊維などが挙げられる。こうした熱伝導性フィラーは、熱伝導層に対して一定方向に配向させることもでき、配向させた方が熱伝導性が高まる点で好ましい。
【0031】
メッシュシート14は、メッシュを構成する線材を平織、紋織、畳織、紋畳等によって織ってシート状に形成したもの、または線材を織らずに重ねてシート状に形成したもの、さらに線材を編んでシート状に形成したものなどを含む網目状物である。
網目の形状は限定せず、網目はメッシュシート14の表側から裏側に至るものであれば良いが、網目となる貫通孔がメッシュシート14の面直方向に沿って形成されたものが好ましく、その点で畳織よりは平織が好ましい。
また、メッシュを構成する線材はメッシュシート14の面直方向での重なりが少ない方が好ましく、この点で紋織よりは平織が好ましい。
さらに、網目は規則的に形成される方が均一な熱伝導性能を与えることから好ましく、この点で不織布や編み物よりも織物が好ましい。
そして、線材の交点付近に熱伝導性組成物が入り込みにくい隙間を小さくできる点で
経糸と緯糸の2方向の線材のみからなり線材同士が重なる交点が1本の経糸と1本の緯糸のみからなる
図4で示すメッシュシート14が最も好ましい。
【0032】
メッシュシート14の線材の材質には、ガラスや、鉄、銅、黄銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の金属、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
メッシュシート14の交点を熱融着する場合や圧着する場合は、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
気泡防止部18は、メッシュを形成する線材が交わる交点に設けられ、熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する部位である。
線材どうしを単に交差させただけの交点においては、
図5で示すメッシュシート4のように、経糸4aと緯糸4bの接触面積は小さく、その交点付近にできる隙間Aが大きくなる。この隙間Aがあると樹脂組成物でメッシュシート4を被覆する際に隙間Aに気泡が入りやすくなる。これに対し、この隙間Aを減じることで、樹脂組成物がメッシュシート14を被覆した際に気泡が残ることを妨ぐため、気泡防止部18は隙間Aを減らしている構成ということができる。
【0034】
より具体的な気泡防止部18の一実施態様としては、
図6で示すように、線材14a,14bの交点で線材14a,14bが潰れた潰れ部18として構成できる。
潰れ部18は、経糸14aと緯糸14bの交点が熱融着または溶接された融着部18aとして形成される。熱融着も溶接も線材を溶かして固着させることを意味し、線材が熱可塑性樹脂であれば熱融着、線材が金属であれば溶接により線材を溶かして固着することができる。
潰れ部18はまた、
図7で示すように、交点が圧着されたことによる圧着部18bとしても形成される。
【0035】
メッシュシート14の交点に融着部または圧着部として潰れ部18が形成されているため、
図6や
図7で示すように、盛り上がっていた交点部分が扁平化している。換言すれば、経糸14aと緯糸14b(以下、経糸14a及び緯糸14bをまとめて「経緯」ともいう。)との接触面積が増大し、経緯の交点部分での隙間がほとんどなくなるため、メッシュシート14の交点での気泡の発生を起こし難くしている。すなわち、熱伝導性組成物をそのメッシュシート14の両面に被覆して熱伝導性シート11を形成する際に、熱伝導性組成物がメッシュシート14の経緯に満遍なく塗布され易く、空気の混入を抑制することができる。このような気泡防止部18を備えていない
図5で示す通常のメッシュシート4を用いると、メッシュシート4の経緯4a,4bの交点部分での隙間Aに熱伝導性組成物が入り込み難く、空気(エアー)が残存した状態で形成され易い。その結果、熱伝導性能の悪化を招くおそれがある。そのような問題が発生しないように、メッシュシート14の開口率や開口径等の諸条件や熱伝導性組成物の粘度やぬれ性等の諸物性を最適化した設計技術が必要となるが、本実施形態ではそれを回避することができる。
【0036】
熱融着や溶接の条件は、素材の材質により異なるが、熱可塑性樹脂であればその融点付近の加工温度で、10秒〜10分程度の熱処理時間で行うことができる。なお、交点が融着されたメッシュシート14は市販されているものを用いることができる。
圧着の場合は、プレス機やカレンダー(圧延)加工機、ロール等により線材の交点に対し圧着加工を行うことができるが、圧着済みの市販のメッシュシート14を用いることもできる。
【0037】
線材14a,14bに金属材料を用いる場合には、溶接しても線材14a,14bの交点に生じる隙間Aを小さくし難いため、溶接よりは圧着した交点を有するメッシュシート14が好ましい。これに対し、樹脂材料を用いる場合には、熱融着でも圧着でも隙間Aを小さくできるため、どちらも好ましい。
金属製と樹脂製のメッシュシート14を比較すると、金属製の方が熱伝導性シートの補強効果に優れるため、薄いメッシュシート14とすることができる。
【0038】
気泡防止部18の別の実施態様としては、
図8で示すように、線材14a,14bの交点に樹脂被膜を形成した樹脂被膜部18cとして構成できる。経糸14aと緯糸14bとの交点に生じる隙間Aを樹脂被膜で埋めることができるからである。したがって、樹脂被膜部18cは線材14a,14bの交点、より厳密には交点付近に形成されていれば良い。
作業性、製造のし易さから、メッシュシート14の孔が埋まらない程度の全面に樹脂被膜部18cが形成されていても良い。樹脂被膜の材質としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、ポリウレタン系、エポキシ系、ポリイソブチレン系等の液状組成物、液状ポリマー、塗料、インク、接着剤などを用いることができる。この中でも熱伝導層と同材質を用い得ること、柔軟性を有することから、シリコーン系、ポリウレタン系、ポリイソブチレン系を用いることが好ましい。
ここで、樹脂製メッシュシートとすれば、樹脂被膜を形成し易いというメリットが得られ、金属製メッシュシートとすれば、優れた補強効果を有し、より薄型化できる。
【0039】
メッシュシート14の大きさは、熱伝導層15の熱伝導性能の維持及び、熱伝導層15と一体となった際の熱伝導性シート11の取扱い性の観点から、その厚さは10μm〜500μm程度、開口は200μm〜1200μm、開口率は40〜90%、線径は20μm〜300μm程度のものを用いることが好ましい。
【0040】
熱伝導性シート11の製造方法の一例を説明する。
まず樹脂組成物と熱伝導性フィラーを攪拌機で混合して粘着層13用の熱伝導性組成物(以下、「粘着層組成物17」という。)を用意する。その一方で、硬化剤の添加量を粘着層組成物17よりも多くした非粘着層12用の熱伝導性組成物(以下、「非粘着層組成物16」という。)を用意する。
次に、
図9で示すように、コンベアー1に載置するフィルムシート2の上方に僅かに浮いた状態でメッシュシート14を配置する。そして
図10で示すように、そのメッシュシート14が浸るように、非粘着層組成物16をフィルムシート2上に塗布してシーティングする。さらに
図11で示すように、粘着層組成物17を塗布してシーティングする。こうした過程において、非粘着層組成物16の粘度を調整したり、適当な開口率を有するメッシュシート14を選択したりすることにより、非粘着層組成物16がメッシュシート14の貫通孔を挿通し、メッシュシート14の上下面(表裏面)に非粘着層12が形成されるようにしている。
その後、両熱伝導性組成物を硬化させて成形することで、非粘着層12と粘着層13とが積層した熱伝導層16を形成し、非粘着層12中にメッシュシート14が埋設した熱伝導性シート11を得ることができる。
【0041】
また、次の方法によっても熱伝導性シート11を製造することができる。熱伝導性組成物を用意した後、まず粘着層組成物17をフィルムシート2に塗布してシーティングし、粘着層13を予め成形する。次に、その粘着層13の上方にメッシュシート14を僅かに浮いた状態で配置し、そのメッシュシート14が浸るように非粘着層組成物16をシーティングして成形する(図示せず)。こうして、非粘着層12と粘着層13とが積層した熱伝導層15を形成し、非粘着層12中にメッシュシート14が埋設した熱伝導性シート11を得ることができる。
【0042】
メッシュシート14を非粘着層12に埋設しているため、メッシュシート14を粘着層12に埋設したときよりも高強度の熱伝導性シート11とすることができる。また、一般的に非粘着層12の方が粘着層13よりも硬い傾向があり、粘着層13よりも硬い非粘着層12にメッシュシート14を埋設していることにより、熱伝導性シート11に強い荷重がかかっても熱伝導層15からメッシュシート14の経緯が露出し難くすることができる。さらに、粘着層13にメッシュシート14を埋設すると荷重を受けた際に粘着層13が平面方向に広がり難いが、非粘着層12にメッシュシート14を埋設することで荷重を受けた際に粘着層13が平面方向に広がり易く、粘着層13の特徴を発揮し易くすることができる。
【0043】
第2実施形態〔図12〕:
上記実施形態では、熱伝導層15を粘着層13と非粘着層12とからなる積層構成とし、その非粘着層12の内部にメッシュシート14を埋設したが、本実施形態で示す熱伝導性シート21は、
図12に示すように、粘着層13の内部にメッシュシート14を埋設している。
熱伝導性シート21の製造は次のように行うことができる。
非粘着層12の内部にメッシュシート14を埋設した先の実施形態で示した熱伝導性シート11の製造において非粘着層12へメッシュシート14を埋設した工程と同様にして粘着層13へメッシュシート14を埋設する。また、非粘着層12へ粘着層13を積層する工程と同様にして粘着層13へ非粘着層12を積層する工程を行う。こうして熱伝導性シート21の製造を行う。
【0044】
メッシュシート14を粘着層13に埋設しているため、非粘着層12よりも強度が低く形成されることが多い粘着層13の強度を上げることができ、熱伝導性シート21全体の強度を有る程度強くすることができる。そのため、取扱い性に優れた熱伝導性シート21とすることができる。
また、粘着層13を非粘着層12に比べて厚く形成すれば、粘着層13内部にメッシュシート14を埋設しても、その粘着層13の外面及び非粘着層12との界面では柔らかさを保ち、粘着層13に起因した熱伝導性能を発揮し易くすることができる。
【0045】
第3実施形態〔図13〕:
本記実施形態で示す熱伝導性シート31は、
図13に示すように、粘着層13と非粘着層12との界面付近にメッシュシート14を埋設している。
熱伝導性シート31の製造は、まず非粘着層12となる非粘着層組成物16をフィルムシート2上に塗布する。続いて塗布した非粘着層組成物16の上にめり込むようにメッシュシート14を押圧配置する。そしてメッシュシート14が半分程度浸った非粘着層組成物16の上に粘着層組成物17を塗布してシーティングする。その後、両熱伝導性組成物を硬化させて成形することで、非粘着層12と粘着層13とが積層した界面にメッシュシート14が埋設した熱伝導性シート31を得ることができる。
なお、非粘着層12と粘着層13の塗布工程の順序を変えて製造しても良い。
【0046】
メッシュシート14を非粘着層12と粘着層13との界面に埋設しているため、メッシュシートを非粘着層12に埋設した場合(第1実施形態)と、粘着層13に埋設した場合(第2実施形態)との両方の特徴を生かすことができる。
【0047】
その他の実施形態[図14,図15]:
図14で示すように、熱伝導層15を粘着層13のみで形成することができ、また、
図15で示すように、熱伝導層15を非粘着層12のみで形成することができる。こうした場合のメッシュシート14は、粘着層13または非粘着層12に埋設される。
熱伝導層15を粘着層13のみとすれば、被着体との密着性が向上し、熱伝導性能を高めることができる。この場合、取扱い性を考慮して、より強度の高い金属製のメッシュシートを用いることが好ましい。熱伝導層15を非粘着層12のみとすれば、シート表面に粘着性が無く組付け作業が容易になる。そして、熱伝導層15を2層構成としない分、製造コストを抑えることができる。
【実施例】
【0048】
実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1
図2に示す構成を有する熱伝導性シートを以下の工程に従って製造した。
まず、樹脂組成物としての液状のシリコーンポリマー100質量部に、熱伝導性フィラーとしての酸化アルミニウム粒子(平均粒径50μm)200質量部と水酸化アルミニウム粒子(平均粒径50μm)200質量部とを混合し、プラネタリーミキサーによって脱泡を行いつつ30分間混練し、粘着層を形成する粘着層組成物を調製した。また、硬化剤の配合量を多くした非粘着層組成物も同様に調製した。こうした粘着層組成物と非粘着層組成物から試験片を作製し、E硬度を測定したところ、粘着層は5であり、非粘着層は70であった。
【0049】
次に、
図9で示すように、コンベアーに載置した厚さ150μmのPETフィルムの上方に、交点が熱融着された融着部を持つポリエステル製メッシュシート(線径98μm、開口550μm、開口率72%、厚さ150μm)を僅かに浮いた状態で配置した。そして、
図10で示すように、コンマコーター法によるシーティングラインにて、メッシュシートが浸るように非粘着層組成物をPETフィルム上に塗工した。次に
図11で示すように、非粘着層組成物と同様にして粘着層組成物を塗工して、硬化炉で120℃、10分間熱処理を行って非粘着層及び粘着層を硬化させ、非粘着層と粘着層とが積層した熱伝導層を形成し、メッシュシートが非粘着層中に埋設した熱伝導性シート(厚さ0.72mm)を得た。
【0050】
実施例2
非粘着層を形成していない点を除き、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
実施例3
実施例1のメッシュシートに代えて、交点が圧着された圧着部を有する金属製メッシュシート(線径80μm、開口238μm、開口率56%、厚さ230μm)を用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
実施例4
実施例1のメッシュシートに代えて、交点の目止め処理が施されていないPET製メッシュシート(線径71μm、開口292μm、開口率65%、厚さ125μm)を用い、予めそのメッシュシートの全面に渡ってシリコーン系塗料を塗布して乾燥させ、交点を含む略全面にシリコーン系樹脂被膜を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0051】
比較例1
メッシュシートを用いていない点を除き、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
比較例2
非粘着層を形成していない点を除き、比較例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
比較例3
実施例1のメッシュシートに代えて、交点が目止め処理されていないPET製メッシュシート(線径71μm、開口292μm、開口率65%、厚さ125μm)を用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0052】
各実施例及び比較例について、以下の項目について評価した。結果を表1に示す。
(気泡の確認)
各例の熱伝導性シートの気泡の有無を、走査型電子顕微鏡(SEM)で各例の表面状態を観察することで確認した。メッシュシートを埋設した熱伝導性シートについては、その影響をより明確に確認するためにメッシュシートに近い側の表面を観察した。
一例として、
図16には実施例1のSEM画像を示し、
図17には比較例3のSEM画像を示す。表1における「気泡」の項目中、「有」は
図17のように気泡が確認されたことを表し、「無」は
図16のように目立った気泡が確認されなかったことを表す。なお、ここで「有」のものは、数十μm〜数百μm程度、具体的には、50μm〜300μm程度の気泡が確認された。
(厚さ)
各例の熱伝導性シートの厚さをシックネスゲージにより測定した。その結果を表1中の「厚さ」欄に示す。
【0053】
(引張強度)
各例の熱伝導性シートを引張試験用の試験片にカットし、日本工業規格であるJISK6251に準拠して引張試験を行い、引張強度を求めた。
(熱抵抗)
各例の熱伝導性シートについて熱抵抗を測定した。
図18で示すように、基板B上の発熱体Hと放熱体Rの間に各例の試験片S(各例の熱伝導性シートを10mm×10mmの寸法にカットしたもの)を挟持し、放熱体R上に重りWを載置して一定荷重(20N)を試験片Sに加えた。そして、発熱体Hが発熱した状態で10分間放置した後、試験片における発熱体H側の外面の温度T1と放熱体R側の外面の温度T2とを測定機Mで測定した。そして、下記式(1)により試験片Sの熱抵抗値を算出した。発熱体Hは通常、CPUに代表される電子部品であるが、シートの性能評価の簡素化および迅速化のため、本試験では発熱体として発熱量が4Wであるヒータを用いた。
熱抵抗値(℃/W)=(T1(℃)−T2(℃))/発熱量(W)…(1)
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1〜実施例4の熱伝導性シートについては、引張強度が高く、補強効果が確認され、取扱いし易いかった。また、気泡は殆ど確認されなかった。
一方、比較例1及び比較例2の熱伝導性シートについては、引張強度が弱く、取扱いし難いものであった。また、比較例3の熱伝導性シートについては、取扱い性は良好であったが気泡が確認された。
【0056】
実施例1〜実施例4を比較例1及び比較例2と対比した引張強度の結果の相違から、メッシュシートを備えることで引張強度が高まり、補強効果が確認され、取扱い易くなることが分かる。
また、実施例1〜実施例4を比較例3と対比した気泡の有無の結果から、気泡防止部を備えていれば気泡は殆ど確認されなかったが、気泡防止部を備えていないと気泡が認められた。