【実施例】
【0022】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0023】
実験方法
ヒト皮膚構成細胞におけるPDGF-B遺伝子発現量の測定
ヒト皮膚の構成細胞におけるPDGF-B遺伝子発現量を定量PCR法で調べた。表皮角化細胞KCおよび毛包上皮細胞である外毛根鞘細胞ORSCはEpilife-KG2培地(クラボウ)、皮膚線維芽細胞FBは10%FBS添加のDMEM培地(Invitrogen)、ヒト血管内皮細胞HUVECはEGM-2培地(三光純薬)を用いて増殖培養を行った。各細胞をIsogen(ニッポンジーン)に回収して、提供されたプロトコールに従いtotal RNAを抽出した。精製したtotal RNAの濃度は核酸定量装置Nanodrop(Thermo scientific)により測定した。各サンプルについて同量のtotal RNAを用いて、ランダムプライマー(Invitrogen)と逆転写酵素Superscript III(Invitrogen)により、Invitrogen社のマニュアルに従いcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型に反応試薬LightCycler FastStart DNA Master PLUS SYBR Green (Roche)、反応装置LightCycler(Roche)を用いて定量PCRを行った。組成条件はRocheのプロトコールに従った。また、PCRの条件は、初期変性95℃で10分、変性95℃で10秒、アニール60℃で10秒、伸長72℃で10秒とした。使用したプライマーの配列は以下の通であり、LightCyclerの附属のソフトウェアを用いて、PDGF遺伝子の発現量を測定した。
【0024】
PDGF-A:
フォワードプライマー:5‘-ATACCTCGCCCATGTTCTG-3‘(配列番号1)
リバースプライマー:5‘-GATGCTTCTCTTCCTCCGAA-3‘(配列番号2)
PDGF-B:
フォワードプライマー:5‘-CTTTAAGAAGGCCACGGTGA-3‘(配列番号3)
リバースプライマー:5‘-CTTCAGTGCCGTCTTGTCAT-3‘(配列番号4)
PDGF-C:
フォワードプライマー:5‘-TATATTAGGGCGCTGGTGTG-3‘(配列番号5)
リバースプライマー:5‘-ATTAAGCAGGTCCAGTGGCA-3‘(配列番号6)
PDGF-D:
フォワードプライマー:5‘-TGGGAATCTGTCACAAGCTC-3‘(配列番号7)
リバースプライマー:5‘-CTTTTGACTTCCGGTCATGG-3‘(配列番号8)
G3PDH:
フォワードプライマー:5‘-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3‘(配列番号9)
リバースプライマー:5‘-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3‘(配列番号10)
【0025】
なお、G3PDHは内部標準として用い、各遺伝子それぞれの定量時において、これを用いて対照群のcDNA量を補正した。
【0026】
遊走能の評価
市販の脂肪由来の間葉系幹細胞MSCを購入して間葉系幹細胞用培地 MesenPro (Invitrogen)で継代培養を行った。次に、24穴培養プレートに無血清のMSC用培地StemPro培地(Invitrogen)にPDGF-AA、PDGF-ABあるいはPDGF-BB(R&D Systems)を5〜30ng/mlの濃度で加え、その上にファイブロネクチンコートセルインサート(BD bioscience)をセットし、StemPro培地に懸濁したMSC 50,000個を播種した。CO
2インキュベーターで一晩培養を行った後、培養液を吸引除去した。続いて、セルインサーをHoechist 33258-PBS溶液に10分間浸漬してセルインサート上に接着している細胞の核を染色した。PBSで洗浄した後、セルインサートの裏側を蛍光顕微鏡下で観察して画像の撮影を行った。各セルインサートについてランダムに5枚の画像を撮影、移動した細胞の数をカウントした。
【0027】
ヒト皮膚組織におけるPDFG-BBの局在部位
ヒト皮膚組織を凍結組織包埋剤OTCコンパウンド(サクラファインテックジャパン)に包埋し、凍結切片作製装置クライオスタット(Leica)にて50μmの凍結切片を作製した。室温で風乾した凍結切片を、-20℃で15分間冷却した冷アセトンを用いて室温で15分間固定した。次に、TBSで洗浄後に無血清ブロッキング試薬(DAKO)で30分間ブロッキング処理を行い、3%BSA含有のTBSTで100倍に希釈したウサギAnti-ヒトPDGF-BB抗体(Abcam)とヒツジAnti-ヒトCD31抗体(R&D systems)と4℃で一晩反応させた。TBSTで40分間を2回、TBSで40分間を1回の計3回の洗浄を行った後、3%BSA含有のTBSTで200倍希釈したAlexa 488標識-anti-sheep IgG とAlexa 594標識-anti-rabbit IgG標識の二次抗体(Invitrogen)と1時間反応させた。反応後の切片をTBSTで40分間を2回、TBSで40分間を1回の計3回洗浄した後、Hoechist 33258で核染色を行ってから、共焦点蛍光顕微鏡 LSM5 PASCAL(Zeiss)を用いて観察および画像取り込みを行った。
【0028】
血管内皮細胞チューブ形成アッセイ
In Vitro Angiogenesis Assay Kitを用いてコーティングした8穴のチャンバースライドに、赤色の蛍光色素(PKH26 RED FLUORESCENT, Sigma)で標識したHUVEC、緑色の蛍光色素(PKH67 GREEN FLUORESCENT, Sigma)で標識したMSCを播種した後、5%CO2 存在下、37℃で12時間インキュベートした。共焦点蛍光顕微鏡 LSM5 PASCAL(Zeiss)を用いて、形成されたチューブの状態を観察、画像の撮影を行った。また、マウス抗PDGFレセプター中和抗体(R&D Systems)またはアイソタイプの一致するマウスIgGは5μg/mlの濃度で使用した。
【0029】
定量PCR法によるヒト皮膚におけるPDGF遺伝子発現量の測定
ヒト皮膚組織を液体窒素で凍結、クライオプレス(マイクロテック・ニチオン)を用いて液体窒素の冷却下において組織の破砕処理を行った。サンプルをIsogen(ニッポンジーン)に回収して、提供されたプロトコールを用いて皮膚のtotal RNAを抽出した。PDGF-B遺伝この発現量は、以下のプライマーを用いて前述と同様の方法で行った。
PDGF-B:
フォワードプライマー:5‘-CCTGGCATGCAAGTGTGA-3‘(配列番号11)
リバースプライマー:5‘-CCAATGGTCACCCGATTT-3‘(配列番号12)
【0030】
皮膚におけるヒト間葉系幹細胞の染色
ヒト皮膚組織をホルマリン-リン酸緩衝液で1週間まで固定した後、自動包埋機(サクラファインテックジャパン)を用いてパラフィンに包埋した。得られたヒト皮膚パラフィンブロックからミクロトーム(Leica)にて6μmの組織切片を作製、APSコートスライドガラスに貼り付けて伸展機(サクラファインテックジャパン)の上で伸展・乾燥させた。作製した皮膚組織スライドについて、キシレンによる脱パラフィンとエタノール/水系列での親水処理を行いさらにTBS緩衝液でリンスしてから、20μg/mlのProteinase K(Roche)と37℃で15分間の酵素反応処理を行ってCD34抗原を賦活化させた。次に、TBSTで十分に洗浄した後、無血清ブロッキング試薬(DAKO)で15分間ブロッキング処理を行い、3%BSA含有のTBSTで500倍に希釈したマウスAnti-ヒトCD34抗体(クローンQBEND-10、Abcam)と室温で1時間反応させた。TBSTで15分間を2回、TBSで15分間を1回の計3回の洗浄を行った後に、抗マウス抗体用染色試薬(ヒストファインマウスステインキット、ニチレイ)と15分間反応させた。次に、反応後の切片をTBSTで15分間を2回、TBSで15分間を1回の計3回洗浄した後、ペルオキシダ-ゼ標識ストレプトアビジン(ニチレイ)と15分間の反応を行った。反応後の切片をTBSTで15分間を2回、TBSで15分間を1回の計3回洗浄した後、シンプルステインDAB溶液(ニチレイ)を用いて発色反応を行った。対比染色は行わずに蒸留水でリンスした後、エタノール/水系列による脱水とキシレンによる透徹処理を行い、さらにマウントクイック(大道産業)とカバーガラスを用いて封入した。微分干渉顕微鏡(Olympus BX51 )で対物20倍のレンズにて画像取り込みを行い、それぞれの切片に対して10枚の画像についてCD34陽性細胞の数をカウントした。
【0031】
血管内皮細胞におけるPDGF-Bの産生亢進作用の評価
ヒト血管内皮細胞HUVECをEGM-2培地(三光純薬)で継代培養を行い、継代4代目の細胞をVEGF-Aを含まないHumedia-EG2培地(クラボウ)に懸濁してコラーゲンコート24穴マルチプレート(旭硝子)に20,000個の割合で播種、5%CO
2 存在下、37℃で細胞が集密に達するままで3〜5日間の培養を行った。レチノイン酸1μM、10μMあるいは溶媒コントロールDMSOを添加したHumedia-EG2培地(クラボウ)に交換した後、さらに2日間培養を行った。培養終了時に培養上清を回収、ヒトPDGF-BB Quantikine ELISAキット(R&D Systems)を用いて、提供されたプロトコールに従いPDGF-BBの定量を行った。また、培養後の細胞からRNA抽出試薬MagNA Pure LC mRNA HSキット(Roche)と自動核酸抽出装置MagNA Pure LC 1.0 インスツルメント(Roche)を用いて、提供されたプロトコールに従ってmRNAの抽出・精製を行った。各サンプルについて同容量のmRNAを鋳型に、配列番号9と10のプライマーペアー、反応試薬QuantiFast SYBR Green RT-PCR Kit(Qiagen)と反応装置LightCycler(Roche)を用いて、PDGF-B遺伝子のワンステップ定量RT-PCRを行った。組成条件はQiagenのプロトコールに従った。また、RT-PCRの条件は、RT反応50℃で20分、初期変性95℃で15分、変性94℃で15秒、アニール60℃で20秒、伸長72℃で30秒とした。なお、G3PDHは内部標準として用い、これを用いて対照群のmRNA量を補正した。
【0032】
結果
ヒト皮膚において間葉系幹細胞が血管部位に局在していることが明らかになっている(特願2009-213291)。線維芽細胞の遊走因子として知られるPDGFファミリーについて、血管部位で発現が高い分子種を調べる目的で、4つの遺伝子PDGF-A、PDGF-B、PDGF-C、PDGF-Dの皮膚構成細胞での発現を比較した結果、PDGF-BはHUVECにおいて非常に発現が高く、一方でFBではほとんど発現していないことが明らかになった(
図1)。その他、PDGF-AはKC、ORSC、HUVECで同等かつFBの4倍程度、PDGFCとPDGFDはFBでの発現が顕著に高い結果であった(
図1)。HUVECでPDGFAとPDGFBの発現が認められたことから、これらの遺伝子から生じるPDGF タンパク質のPDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BBの間葉系幹細胞の遊走能への影響を調べた。その結果、PDGF-BBがPDGF-AAやPDGF-ABと比較して有意に、幹細胞の遊走能を亢進することが明らかになった(
図2)。
【0033】
次に、真皮や皮下脂肪におけるPDGF-BBの局在を調べたところ、太い血管部位において血管マーカーCD31と一致して分布していた(
図3)。太い血管部位での分布状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、PDGF-BBは血管内皮細胞の外側かつ周皮細胞(=真皮幹細胞)の間に存在していることが分かった(
図4)。さらに、血管内皮細胞チューブ形成アッセイに間葉系幹細胞を加えるとそのほとんどが分岐部に集積するのに対して、PDGF-BBのレセプターPDGFRβの中和抗体存在下では分岐部への集積が阻害され(
図5)、血管部位への間葉系幹細胞の集積にPDGF-BBが働いていると考えられた。ヒト皮膚における間葉系幹細胞およびPDGF-BBの加齢変化を調べたところ、老化に伴い間葉系幹細胞の数が減少していること(
図6)、PDGF-B遺伝子の発現も同様に老化で減少することが分かった(
図7)。これらのことから、PDGF-BBを維持・亢進することにより間葉系幹細胞を多くすることで、皮膚を賦活化できる可能性が考えられる。
【0034】
そこで、PDGF-BBの発現を亢進する薬剤についてELISA法および定量PCR法で調べた結果、トレチノイン(all trans retinoic acid)に濃度依存的な活性を見出した(
図8)。