(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933458
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】転がり軸受のケージ
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20160526BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20160526BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20160526BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/26
F16C33/58
F16C33/66 Z
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-554290(P2012-554290)
(86)(22)【出願日】2011年2月16日
(65)【公表番号】特表2013-520625(P2013-520625A)
(43)【公表日】2013年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2011052270
(87)【国際公開番号】WO2011104150
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2014年2月13日
(31)【優先権主張番号】102010009331.9
(32)【優先日】2010年2月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ホアスト マズーフ
(72)【発明者】
【氏名】オトマー ハートリング
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング マイ
(72)【発明者】
【氏名】ノアベアト クレッツァー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ハイツマン
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー ケストラー
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ロメル
【審査官】
村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−034825(JP,U)
【文献】
特開昭56−147923(JP,A)
【文献】
特開昭63−053317(JP,A)
【文献】
特開平11−336767(JP,A)
【文献】
特開2006−118526(JP,A)
【文献】
特開平07−259864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 19/26
F16C 33/58
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(4)と内輪(5)との間に支承されている転動体(6)と、ポケット(19)を形成するウェブ(18)により互いに結合されている2つの側方リング(16,17)と、を備えており、
少なくとも1つの前記側方リング(16,17)は、前記外輪(4)の半径方向内側の周面(15)に向かって半径方向外方に延びるつば(24)を有しており、該つば(24)の軸線方向内側の側面(25)は、前記側方リング(16,17)の軸線方向内側の側面(20)に対して軸線方向に間隔を置いて段部(26)を形成するように配置されており、前記段部(26)及び前記つば(24)の側面(25)は、潤滑剤によって充填可能な、半径方向上方に開放しているポケット(27)を形成する、転がり軸受(2)のケージ(1)であって、
前記段部(26)の軸線方向の延長部において、少なくとも1つの側方リング(16,17)の前記つば(24)の側面(25)に、潤滑剤によって充填可能な環状溝(28)が設けられていて、該環状溝(28)は前記段部(26)により半径方向内方に画成されており、前記つば(24)の、前記側方リング(16,17)の軸線方向に対して平行な縁部(29)により半径方向外方に画成されており、かつ前記段部(26)と前記縁部(29)との間に円弧状部を有することを特徴とする、転がり軸受のケージ。
【請求項2】
前記つば(24)の半径方向外側の周方向面(30)が、前記外輪(4)の周面(15)に対して半径方向に小さな間隔を置いて配置されていることを特徴とする、請求項1記載のケージ。
【請求項3】
2つの側方リング(16,17)は、潤滑剤によって充填可能な環状溝(28)が夫々設けられているつば(24)を有しており、前記環状溝(28)は夫々、前記つば(24)の段部(26)により半径方向内方に画成されており、かつ前記つば(24)の縁部(29)により半径方向外方に画成されていることを特徴とする、請求項1又は2記載のケージ。
【請求項4】
一方の側方リング(17)は、前記つば(24)が設けられている側方リング(16)よりも小さな直径を有することを特徴とする、請求項1又は2記載のケージ。
【請求項5】
前記小さな直径を有する側方リング(17)は、軸線方向外方に斜めに加工された半径方向外側の周方向面(31)を有することを特徴とする、請求項4記載のケージ。
【請求項6】
前記転がり軸受(2)は円筒ころ軸受(3)として形成されており、前記転動体(6)は円筒ころ(7)として形成されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項記載のケージ。
【請求項7】
前記内輪(5)の半径方向外側の周面(8)に、前記円筒ころ(7)のための軌道(9)として働く環状溝(10)が加工されており、該環状溝(10)は、前記円筒ころ(7)を軸線方向に制限する側方のつば壁(11,12)を有することを特徴とする、請求項6記載のケージ。
【請求項8】
前記環状溝(10)は、前記円筒ころ(7)を潤滑するための潤滑剤によって充填可能な側方のポケット(13,14)を有することを特徴とする、請求項7記載のケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受のケージに関し、外輪と内輪との間に支承されている転動体と、ポケットを形成するウェブにより互いに結合されている2つの側方リングとを備えており、少なくとも1つの側方リングは、外輪の半径方向内側の周面に向かって半径方向外方に延びているつばを有しており、このつばの軸線方向において内側の側面は、側方リングの軸線方向内側の側面に対して軸線方向に間隔を置いて段部を形成して配置されており、段部及びつばの側面は、潤滑剤によって充填可能な、半径方向上方に開放しているポケットを形成する。
【0002】
発明の背景
例えば工作機械の迅速に回転するスピンドルのために転がり軸受を使用する場合、油脂使用期間を長くするという要求がある。このことは、転がり軸受において一回限り使用される潤滑剤が、軸受油又は他の適した潤滑材として可能な限り長く、その潤滑作用を維持し、かつ可能な限り持続的に転がり軸受の特に高い負荷のかかる個所に供給される、と理解される。転がり軸受のケージのポケット、及び少なくとも軸線方向の荷重時に転がり軸受の転動体に滑り接触することがあるケージの側方リングの側面が、上記敏感な個所に属する。
【0003】
特に潤滑剤を貯めるための貯蔵部をケージに設けてある転がり軸受のケージを製造することが既に提案されている。ドイツ連邦共和国特許出願公開第102006027692号明細書において、例えば、ケージのウェブの領域に小さな油貯蔵部が形成されている円筒ころ軸受のケージが公知である。この構成において、ケージ案内面への付加的な供給部は設けられていない。この面は真っ直ぐであり、潤滑剤のための貯蔵部又はポケットを有していない。
【0004】
ドイツ連邦共和国実用新案第7933184号明細書において、つばを備えたケージを有する円筒ころ軸受が公知になっている。この円筒ころ軸受には鋸歯状の切欠きが加工されている。この鋸歯状の切欠きは、外輪における環状溝と関連して、シールのために働きかつ潤滑剤の保持のために働く。これにより、ケージポケット若しくはケージ案内面へ向かっての潤滑剤の所望の圧送は可能ではない。
【0005】
特開2007−147056号公報において、夫々につばを備えた、軸線方向に互いに離間されている2つの側方リングを有する円筒ころ軸受のためのケージがやはり公知である。このケージにおいて、つば及び少なくとも1つの段部は、潤滑剤のためのポケットを形成する。上記ケージへの潤滑剤の供給を改良するために、上記明細書の図面10によれば、ポケットが複数の段を有するようになっている。
【0006】
しかし特開2007−147056号公報において公知のケージは、潤滑剤貯蔵部に関しては依然として最適ではない。その理由は、段付けされたポケットは、確かに、少し多くの潤滑剤を収容することはできるが、この構造でも、迅速に回転する転がり軸受において見受けられる問題、つまり潤滑剤を半径方向外方に外輪に向かって放出する遠心力の発生を解決することはできない。このため、潤滑剤はケージポケットに向けてかつ側方リングの接触面に向けて圧送されないので、潤滑剤の有効性は減じられる。
【0007】
発明の目的
本発明の目的は、上記欠点を解決するケージを提供することである。特に、潤滑剤を収容しかつ貯蔵し、潤滑剤を運転中に適切に転動体とケージとの接触面に放出する、簡単に製造できるケージを提案したい。
【0008】
発明の要約
本発明は、上記目的が、側方リングの少なくとも1つのつばに軸線方向の環状溝が設けられていることにより達成することができる、という思想に基づく。
【0009】
したがって、本発明は、転がり軸受のケージから出発し、このケージが外輪と内輪との間に支承されている転動体と、ポケットを形成するウェブにより互いに結合されている2つの側方リングとを備えており、少なくとも1つの側方リングは、外輪の半径方向内側の周面に向かって半径方向外方に延びるつばを有しており、このつばの軸線方向内側の側面は、側方リングの軸線方向内側の側面に対して軸線方向に間隔を置いて段部を形成して配置されており、段部及びつばの側面は、潤滑剤によって充填可能な、半径方向上方に開放しているポケットを形成する。さらに、段部の軸線方向の延長部において、少なくとも1つの側方リングのつばの側面に、段部により半径方向内方に画成されていて、つばの縁部により半径方向外方に画成されている、潤滑剤によって充填可能な環状溝が設けられている。
【0010】
有利にはこの構成により、軸線方向外方、半径方向外方かつ半径方向内方に画成されている環状の空洞がもたらされるようになる。この空洞は、軸線方向内方にのみ開放されている。環状溝により形成された空洞又はポケットは、軸線方向内方にのみ、ひいてはケージと転動体との接触面に向かって環状溝を離れることがある潤滑剤を収容することができる。したがって、潤滑剤は、まず軸受外輪に向かって半径方向外方に環状溝を離れることはできないので、影響を及ぼす遠心力に効果的に対応することができる。
【0011】
さらに、一方の側方リングのつばの半径方向外側の周方向面が、外輪の半径方向内側の周面に対して少し半径方向に間隔を置いて配置されているようになっていてよい。
【0012】
別の有利な改良形において、2つの側方リングはつばを有するようになっていてよい。これらの側方リングには夫々、潤滑剤でもって充填可能な環状溝が設けられている。これらの環状溝は夫々、つばの段部により半径方向内方に画成されていて、つばの縁部により半径方向外方に画成されている。
【0013】
本発明の択一的な構成は、一方の側方リングが、つばを備えた側方リングよりも小さな直径を有するようになっている。この構成はさらに、小さな直径を備えた側方リングが、軸線方向外方に斜めに加工された半径方向外側の周方向面を有している構成により、補完することができる。
【0014】
本発明の特に有利な改良形において、転がり軸受は円筒ころ軸受として形成されており、転動体は円筒ころとして形成されているようになっている。
【0015】
さらにこの構成は、内輪の半径方向外側の周面に、円筒ころのための軌道として働く、円筒ころを軸線方向に制限する側方のつば壁を有している環状溝がフライス加工されている構成により補完することもできる。
【0016】
最後に特に有利には、本発明のさらに別の構成は、内輪における環状溝が、円筒ころを潤滑するための潤滑剤で充填可能な側方のポケットを有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る転がり軸受のケージの実施の形態の断面図であって、そのうちの半分を示す図である。
【
図2】
図1に示したケージの一部分を拡大して示す図である。
【0018】
以下に、本発明を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図面の詳細な説明
図1,2に、転がり軸受2の本発明に係るケージ1の実施の形態を示す。
図1には、円筒ころ軸受3として形成された転がり軸受2の半分を、縦断面図において示す。この円筒ころ軸受3は、自体公知の形式において外輪4及び内輪5から成っている。外輪4及び内輪5の間には転動体6が配置されている。これらの転動体6は円筒ころ7として形成されている。内輪5の半径方向外側の周面8に、円筒ころ7のための軌道9として働く環状溝10が加工されている。これにより、円筒ころ7を軸線方向に支持する側方のつば壁11,12が形成されている。環状溝10は、円筒ころ7を潤滑する潤滑剤によって充填可能な側方のポケット13,14を、環状溝10の半径方向内側の端部に有する。外輪4の半径方向内側の周面15は、円筒ころ7のための軌道を形成する。
【0020】
図2において部分的に拡大して示されているケージ1は、複数のウェブ18によって互いに結合されている、軸線方向外側の2つの側方リング16,17から成っている。隣り合うウェブ18と側方リング16,17との間に夫々、空間が残っている。この空間は、各円筒ころ7を収容するためのポケット19として働く。
【0021】
側方リング16,17の軸線方向内側の側面20,21は、円筒ころ7の軸線方向外側の端面22,23の軸線方向の案内のために働く。軸線方向に負荷がかかる場合、円筒ころ7の端面22,23は、側方リング16,17の側面20,21に沿って走行し、かつ滑動するので、側方リング16,17の側面20,21には、潤滑剤を供給する必要がある。
【0022】
側方リング16は、外輪4の周面15に向かって半径方向外方に延びているつば24を有する。このつば24の軸線方向内側の側面25は、側方リング16の側面20に対して軸線方向に間隔を置いて配置されているので、段部26が形成されている。この段部26とつば24の側面25とは、潤滑剤によって充填可能な、半径方向上方に開放したポケット27を形成する。
【0023】
潤滑剤が可能な限り長期に亘ってポケット27内に留まり、遠心力によりポケット27の領域を離れることがないように、段部26の軸線方向の延長部において側面25に、段部26により半径方向内方に画成されていて、つば24の縁部29により半径方向外方に画成されている環状溝28が設けられている。縁部29は、環状溝28内に充填される充填材がほぼ、半径方向外方に排出され得ない、ということを提供する。つば24の半径方向外側の周方向面30と、外輪4の内側の周面15との間の可能な限り小さな間隔は、潤滑剤がポケット27を離れることができないか、又は少なくとも少量だけしかポケット27を離れることができない、ということを付加的に提供する。
【0024】
環状溝28の製造は、適切なフライス工具によって、軸線方向内側から、つば24の軸線方向内側の側面25内へ軸線方向に案内されたアンダカットにより行われる。このことを容易にするために、側方リング17は小さな直径を有し、かつ斜めに加工された半径方向外側の周方向面31を有する。したがってケージ1は片側で案内されるケージ1である。
【0025】
また、図示の実施の形態とは異なり、2つの側方リング16,17を鏡像的に同じに形成することも可能であるので、側方リング17は、向かい合う側方リング16に相応に形成されてもおり、同様につばは段部、及び潤滑剤のためのポケットである環状溝を有してもいる。
【符号の説明】
【0026】
1 ケージ
2 転がり軸受
3 円筒ころ軸受
4 外輪
5 内輪
6 転動体
7 円筒ころ
8 周面
9 軌道
10 環状溝
11 つば壁
12 つば壁
13 ポケット
14 ポケット
15 周面
16 側方リング
17 側方リング
18 ウェブ
19 ポケット
20 側面
21 側面
22 転動体の端面
23 転動体の端面
24 つば
25 側面
26 段部
27 ポケット
28 環状溝
29 縁部
30 側方リング16のつば24の半径方向外側の周方向面
31 側方リング17の半径方向外側の周方向面