特許第5933524号(P5933524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933524熱および溶媒蒸気アニール工程により製造される、改良されたバルクヘテロジャンクション型デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933524
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】熱および溶媒蒸気アニール工程により製造される、改良されたバルクヘテロジャンクション型デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/48 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   H01L31/04 186
【請求項の数】28
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-503916(P2013-503916)
(86)(22)【出願日】2011年4月6日
(65)【公表番号】特表2013-527978(P2013-527978A)
(43)【公表日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】US2011031439
(87)【国際公開番号】WO2011127186
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年4月1日
(31)【優先権主張番号】61/322,039
(32)【優先日】2010年4月8日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/393,646
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509009692
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァシティ オブ ミシガン
(73)【特許権者】
【識別番号】508230226
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】フォレスト,ステファン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,マーク,イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ゴーダン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シイ
【審査官】 清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−268449(JP,A)
【文献】 特表2005−538555(JP,A)
【文献】 特開2009−090637(JP,A)
【文献】 Guodan Wei, Siyi Wang, Kyle Renshaw, Mark E. Thompson, and Stephen R. Forrest,Solution-Processed Squaraine Bulk Heterojunction Photovoltaic Cells,ACS NANO,2010年 4月 1日,Volume 4, Number 4,Pages 1927-1934
【文献】 Weili Liu, Ruigang Liu, Wen Wang, Weiwei Li, Wenyong Liu, Kai Zheng, Lin Ma, Ye Tian, Zhishan Bo, and Yong Huang,Tailoring Nanowire Network Morphology and Charge Carrier Mobility of Poly(3-hexylthiophene)/C60 Films,The Journal of Physical Chemistry,2009年 6月 8日,Volume 113, Issue 26,Pages 11385-11389
【文献】 Yun Zhao, Xiaoyang Guo, Zhiyuan Xie, Yao Qu, Yanhou Geng, Lixiang Wang,Solvent Vapor-Induced Self Assembly and its Influence on Optoelectronic Conversion of Poly(3-hexylthiophene):Methanofullerene Bulk Heterojunction Photovoltaic Cells,Journal of Applied Polymer Science,2008年10月31日,Volume 111, Issue 4,Pages 1799-1804
【文献】 Jong Hwan Park, Jong Soo Kim, Ji Hwang Lee, Wi Hyoung Lee, and Kilwon Cho,Effect of Annealing Solvent Solubility on the Performance of Poly(3-hexylthiophene)/Methanofullerene,The Journal of Physical Chemistry C,2009年10月 8日,Vol.113 No.40,Page.17579-17584
【文献】 Tricia A. Bull, Liam S. C. Pingree, Samson A. Jenekhe, David S. Ginger, and Christine K. Luscombe,The Role of Mesoscopic PCBM Crystallites in Solvent Vapor Annealed Copolymer Solar Cells,ACS NANO,2009年 2月19日,Volume 3, Number 3,Pages 627-636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00−51/56
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性デバイスの製造方法であって、以下:
少なくとも一つの第1電極およびバルクヘテロ接合を有する構造体を準備する工程、ここで、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料および少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料を含み、前記第1小分子有機光活性材料および前記第2小分子有機光活性材料は、ポリマーでない
少なくとも一種の溶媒を準備する工程;
少なくとも前記溶媒の一部を蒸発させる工程;および
前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させる工程、ここで、前記蒸発させた溶媒への接触が、前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料又は第2小分子有機光活性材料の結晶性を増大させる、を含む。
【請求項2】
前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱的にアニールする工程が、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱的にアニールする工程が、50℃以上で行われる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記構造体が、前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料および前記少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料を、前記少なくとも一つの第1電極上に堆積させることによって準備される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記堆積が、スピン製膜(spin-casting)によって行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バルクヘテロ接合上に、少なくとも一つの第2電極をパターニングする工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つの第1電極と前記バルクヘテロ接合との間に、界面層を配置する工程をさらに含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記バルクヘテロ接合と前記少なくとも一つの第2電極との間に、少なくとも一つの遮断層を配置する工程をさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記構造体が、密閉容器内で前記蒸発させた溶媒に接触させられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記構造体が、5分から30分の間前記蒸発させた溶媒に接触させられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料および前記少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料が、1atmにおける沸点が70℃以下の製膜溶媒(casting solvent)から製膜される、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記製膜溶媒が、クロロホルムである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料および前記少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料が、1atmにおける沸点が175℃よりも高い製膜溶媒から製膜される、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記製膜溶媒が、1,2−ジクロロベンゼンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一種の溶媒が、ジクロロメタンである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料が、2,4−ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノ)−2,6−ジヒドロキシフェニル]およびスクアライン(squaraine,SQ)から選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料が、PC70BMを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一つの遮断層が、BCPを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
感光性デバイス中のバルクヘテロ接合の結晶性を増大させる方法であって、ここで、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料および少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料を含み、前記第1小分子有機光活性材料および前記第2小分子有機光活性材料は、ポリマーでなく、以下:
前記バルクヘテロ接合の少なくとも一部を、蒸発させた溶媒に接触させる工程、ここで、前記感光性デバイスは、前記蒸発させた溶媒に接触させる前の前記デバイスと比較したとき、一以上の以下の特性を示す:
曲線因子(FF)の増大;
外部量子効率(EQE)の増大;および
電圧に対する電流密度(J−V)の増大、を含む。
【請求項21】
前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記熱的にアニールする工程が、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記熱的にアニールする工程が、50℃以上で行われる、請求項21または22に記載の方法
【請求項24】
前記構造体が、密閉容器内で前記蒸発させた溶媒に接触させられる、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記デバイスが、5分から30分の間前記蒸発させた溶媒に接触させられる、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも一種の溶媒が、ジクロロメタンである、請求項20〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも一つの第1小分子有機光活性材料が、2,4−ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノ)−2,6−ジヒドロキシフェニル]およびスクアライン(squaraine,SQ)から選択される、請求項20〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも一つの第2小分子有機光活性材料が、[6,6]−フェニルC70ブタン酸メチルエステル(PC70BM)から選択される、請求項20〜27のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年4月8日提出の米国仮出願番号第61/322、039号および2010年10月15日提出の米国仮出願番号第61/393、646号の利益を享受する。これらの出願の内容全体は参照によってここに組み入れる。
【0002】
連邦支援研究に関する声明
本発明は、米国エネルギー省、再生可能エネルギー研究所により授与された授与番号DE−FG36−08GO18022に基づく合衆国政府の支援でなされた。合衆国政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
共同研究の合意
本出願の発明は、大学−企業間協力研究の合意による以下の一以上の団体の協力により、および/またはこれに関連してなされた:ユニヴァシティ オブ ミシガンおよびグローバル フォトニック エネルギー コーポレーション。この合意はクレームした発明のなされる前およびなされた日に有効であり、クレームした発明はこの合意の範囲の活動の結果なされたものである。
【0004】
開示の分野
本開示は全般に、熱および溶媒蒸気アニール工程(annealing processes)による、バルクヘテロジャンクション型有機光電池の製造方法に関する。より具体的には、バルクヘテロ接合を気化させた溶媒に接触させること(exposing)により、また、熱および溶媒蒸気アニールを組み合わせることにより、メゾスコピックな秩序(mesoscopic order)および有機薄膜の結晶性を向上させることを目的とする。
【背景技術】
【0005】
背景
光電子(optoelectronic)デバイスは物質の光学的および電子的性質によっており、電子的に電磁波放射を発生するか検出する、または、周囲の電磁波放射から電気を発生させるものである。
【0006】
感光性光電デバイスは電磁波放射を電気に変換する。太陽電池は、光起電力(Photovoltaic 「PV」)デバイスとも称され、電力を発生させるために特別に使用される感光性光電デバイスの一種である。太陽光以外の光源から電気的エネルギーを発生させるPVデバイスは、例えば、照明、加熱、または、電気回路、計算機、ラジオ、コンピュータ等のデバイスへの電力供給、または、遠隔モニター、通信装置のため、電力を消費する負荷体を駆動するために使用され得る。これらの電力発生への応用はしばしば、太陽や他の光源からの直接照射が使用できないときに連続運転をするため、または、特定の用途に要求されるPVデバイスの出力を一定にするために、バッテリーの充電を伴う。ここで使用される「負荷抵抗」は、電力を消費または貯蔵するあらゆる回路、デバイス、装置またはシステムを参照する。
【0007】
別の種類の感光性光電デバイスは光伝導セルである。この機能においては、検出回路が、光吸収による変化を検出するためにデバイスの抵抗をモニターする。
【0008】
別の種類の感光性光電デバイスは、光検出器である。操作において、光検出器は、印加されたバイアス電圧を受け、光検出器が電磁波放射にさらされたときに発生する電流を測定する電流検出回路と連結して使用される。ここで記載する検出回路は、光検出器にバイアス電圧を供給する、および電磁波放射に対する光検出器の電気的応答を測定する能力がある。
【0009】
これら三種類の感光性光電デバイスは、下記で定義する整流接合が存在するかどうかによって、また、デバイスがバイアスまたはバイアス電圧として知られる外部からの印加電圧で動作するかどうかによっても特徴づけることができる。光伝導セルは整流接合を有しておらず、通常はバイアスによって動作する。PVデバイスは、少なくとも一の整流接合を有し、バイアスなしで動作する。通常は、太陽電池は回路、デバイスまたは設備に電力を供給する。光検出器または光伝導体は、検出回路を制御するための信号もしくは電流、または検出回路からの情報の出力を供給するが、回路、デバイスまたは設備には電力を供給しない。
【0010】
従来、感光性光電デバイスは、多数の無機半導体、例えば、結晶性、多結晶性および非晶質ケイ素、ガリウムヒ素、テルル化カドミウム並びにその他で構築されてきた。ここでは、「半導体」の語は、電荷キャリアが熱的または電磁的励起により誘起されるときに電気を通すことのできる物質を指す。「光伝導性(photoconductive)」の語は、一般的に、キャリアが物質中の電荷を伝導する、すなわち輸送するために、電磁放射エネルギーが吸収され、それにより電荷キャリアの励起エネルギーに変換されるプロセスに関連する。「光伝導体」および「光伝導性物質」は、ここでは、電荷キャリアを生成する、電磁放射を吸収する性質のために選択された半導体物質を参照するために用いられる。
【0011】
PVデバイスは、入射する太陽エネルギーを有用な電力に変換し得る効率によって特徴づけることができる。結晶質または非晶質ケイ素を用いるデバイスは、商業的応用において重要であり、23%以上の高効率を達成するものもある。しかしながら、効率のよい結晶基板のデバイス、特に大きな表面積のものは、効率を損なう重大な欠陥なしに大きな結晶を製造することに本質的な問題があるため、製造が困難であり高価である。一方、高効率の非晶質ケイ素デバイスは、まだ安定性の問題を有している。現状で市販されている非晶質ケイ素の電池は、4〜8%の間の効率で安定となっている。
【0012】
PVデバイスは、標準的な照明条件下で(すなわち、1000W/m、AM1.5スペクトルの照明下での標準試験条件(Standard Test Condition))、電力発生を最大にするため、光電流と光電圧との最大積にするために最適化され得る。標準的な照明条件下のこのような電池の電力変換効率は以下の3つのパラメータに依存する:(1)ゼロバイアスでの電流、すなわちアンペア単位の短絡回路電流ISC、(2)開回路条件下の光起電力、すなわちボルト単位での開回路電圧VOC、および(3)曲線因子ff。
【0013】
PVデバイスは、負荷に接続され光に照射されたときに光生成(photo-generated)電流を生じる。無限負荷(infinite load)下で照射されたときは、PVデバイスは可能な最大電圧、V開回路またはVOCを発生する。電気的接続が短絡した状態で照射されたときは、PVデバイスは、可能な最大電流、I短絡回路またはISCを生じる。実際に電力を発生させるために使用するときは、PVデバイスは有限の負荷抵抗に接続され、電力出力は電流および電圧の積、I×Vで与えられる。PVデバイスにより発生する全体の最大電力は、本質的に積、ISC×VOCを超過することはできない。負荷の値が最大電力を引き出すために最適化されたとき、電流および電圧はそれぞれLmaxおよびVmaxの値を取る。
【0014】
PVデバイスの性能を数値化したものは、曲線因子ffであり、以下のように定義される:
ff={Imaxmax}/{ISCOC} (1)
ここで、実際の使用においてISCおよびVOCが同時に得られることはないため、ffは常に1より小さい。にもかかわらず、ffが1に近づくにつれて、デバイスは直列または内部抵抗がより小さくなり、したがって最適条件下では、ISCおよびVOCの積のより大きなパーセンテージを負荷に与える。ここで、Pincはデバイスに入射する電力であり、デバイスの電力効率ηは、以下で計算し得る:
η=ff(ISCOC)/Pinc
半導体の実質的な容積を占める内部形成電場を生成するためには、通常、特に分子の量子エネルギー状態の分布に関連する導電特性を適当に選択した材料の二層を並置する方法が取られる。これら二つの材料の界面は光起電性接合(photovoltaic junction)と呼ばれている。従来の半導体理論では、PV接合を形成する物質は、一般的にnまたはp型のどちらかを意味してきた。ここで、n型は大部分のキャリアの種類が電子であることを意味する。これは、相対的な自由エネルギー状態で多数の電子を有する物質とみなすこともできる。p型は大部分のキャリアが正孔であることを意味する。このような物質は相対的な自由エネルギー状態で多数の正孔を有する。型の背景としては、光生成ではなく、大部分のキャリア濃度は第一に意図的でない欠陥または不純物に依存する。不純物の種類および濃度は、価電子帯の最大エネルギーと伝導帯の最小エネルギーとの間のギャップ中の、Fermiエネルギーまたはレベルの値を決定する。Fermiエネルギーは、占有確率が1/2に等しいエネルギーの値で示される、統計的な分子の量子エネルギー状態の占有を特徴づける。伝導帯の最小エネルギー準位付近のFermiエネルギーは、電子が優勢なキャリアであることを示している。価電子帯の最大エネルギー付近のFermiエネルギーは、正孔が優勢なキャリアであることを示す。したがって、Fermiエネルギーは従来の半導体の第一の特徴的性質であり、プロトタイプのPV接合はこれまでp−n界面であった。
【0015】
「整流」の語は、とりわけ接合部分が非対称な導電特性を有する、すなわち界面は好ましくは一方向の電荷輸送を行うことを意味する。整流は通常、適当に選択された物質の間の接合において生じる内部(built-in)電場を伴う。
【0016】
従来の無機半導体PVセルは、内部電場を形成するためにp−n接合を用いていた。TangによってAppl.Phys Lett.48,183(1986)に報告されたような初期の有機薄膜電池は、従来無機PV電池で使用されたものに類似するヘテロ接合を含む。しかしながら、現在では、p−n型接合の確立に加えて、ヘテロ接合のエネルギー準位オフセットも重要な役割を果たすことが認識されている。
【0017】
有機D−Aヘテロ接合でのエネルギー準位オフセットは、有機物質中の光生成プロセスの基本的な性質ゆえに、有機PVデバイスの操作に重要であるとされている。有機物質の光励起において、局在化したFrenkelまたは電荷移動励起子が生成される。電気的検出または電流発生が起こるためには、束縛された励起子がそれを構成する電子および正孔に解離しなければならない。このようなプロセスは内部電場によって誘起され得るが、有機デバイス中で通常観察される電場(F〜10V/cm)での効率は低い。有機物質中での大部分の効果的な励起子解離はドナー−アクセプター(D−A)界面で生じる。そのような界面では、低イオン化ポテンシャルのドナー物質は、高電子親和力のアクセプター物質とヘテロ接合を形成する。ドナーおよびアクセプター物質のエネルギー準位の配列によっては、励起子の解離はそのような界面でエネルギー的に好ましいものとなり得、アクセプター物質内の自由電子ポーラロンおよびドナー物質内の自由正孔ポーラロンを生じる。
【0018】
有機PV電池は、ケイ素を基礎とする従来のデバイスに比較すると、潜在的に多くの優位点を有している。有機PV電池は軽量で、材料の使用が経済的であり、フレキシブルなプラスチック膜等の低コストの基板に堆積できる。しかしながら、有機PVデバイスは典型的には、相対的に低い外部量子効率(電気変換効率に関連する電磁波放射)を有し、1%以下のオーダーである。このことは、部分的に、固有の光伝導性プロセスの二次的な性質によると考えられる。すなわち、キャリア生成は、励起子発生、拡散およびイオン化または凝集(collection)を必要とする。これらの各プロセスに関連する効率ηがある。添え字は以下のように用いられる:Pは電力効率、EXTは外部量子効率、Aは光子吸収励起子生成、EDは拡散、CCは凝集およびINTは内部量子効率。この表記を用いると:
η〜ηEXT=ηηEDηCC
ηEXT=ηηINT
励起子の拡散長さ(L)は典型的には光吸収長さ(〜500Å)よりも大幅に小さく(L〜50Å)、厚いゆえに高抵抗の、多層にまたは高度に折りたたまれた界面を有する電池、および低光吸収効率の薄い電池との間には二律背反の関係が要求される。
【0019】
いくつかのバルクヘテロ接合型(BHJ)デバイスの製造方法は、ポリマーのスピンコート中における相分離、低分子量の有機層を高温でアニールすることによって誘発されるドナーアクセプター混合物からの相分離、および有機層の蒸着による低分子量の有機層の制御成長を含んでいる。
【0020】
高効率のバルクヘテロジャンクション型太陽電池とするためのある課題は、典型的な相分離の規模を、励起子の拡散範囲および電荷キャリアを電極まで輸送するための連続的な経路の範囲内とすると同時に、効率的に励起子の解離を生じさせるため、光活性層内のドナーおよびアクセプター材料間の界面を最小限とすることである。高効率の太陽電池のための理想的な材料系および混合構造を実現するため、熱および溶媒蒸気アニール工程といった、一以上のアニール工程を経て、ドナー−アクセプターの混合形態および結晶性を制御することが望まれる。
【0021】
スピン製膜工程(spin-cast process)は、均一な薄膜を形成する簡便な方法を提供すると同時に、当該行程中、溶媒が素早く乾燥し、綿密に混合されたドナーおよびアクセプター材料の相分離が抑制されうる。有機材料は、溶液から鋳造される際、非晶質、結晶性または半結晶性構造をとりうるため、有機分子の力学的な会合過程は、種々の溶媒によって異なる蒸発時間の影響を受ける。これにより、活性層の微細構造および形態が決定され、キャリア輸送性およびデバイス成績においてばらつきが生じうる。したがって、スピンコートにより得られる薄膜は、一般的に、熱力学的平衡状態になく、熱力学的な力により、膜が安定な平衡状態となるように再構築される。かような変化は、昇温または溶媒の蒸気圧によって促進される。
【0022】
有機半導体材料において、メゾスコピックな秩序および結晶性を向上させることにより、アニール後に電荷キャリア輸送が促進され、これは、分子間のπ−πスタッキングが最大となっていることにより示される。一般的に、バルク太陽電池の成績は、活性層のナノメーターの分散状態(nanometer morphology)を制御することにより最適化される。小分子のバルク太陽電池では、DPP(TBFu)2/PC70BM系において、電荷キャリアの移動度を向上させ、キャリアの回収を改善するために、熱的アニール工程が研究されている。
【0023】
あるいは、活性層の分散状態制御および最適化のため、溶媒蒸気アニールが有用である。ここでは、大気を急速に溶媒で飽和させ、動力学的膜形成をさらに延長する。このような、熱的アニールといったさらなる膜形成により、ドナー−アクセプター領域における相互浸透が改善され、ドナー領域の秩序もまた向上しうる。したがって、活性層の分散状態制御および最適化技術をさらに発展させる必要がある。本明細書中、出願人は、かような要求だけでなく、より性能特性が向上したバルクヘテロジャンクション型デバイスの製造に用いることができる溶媒蒸気アニール工程を開示する。出願人は、活性層の分散状態を最適化し、より性能特性が向上したバルクヘテロジャンクション型デバイスをもたらす、熱および蒸気アニールの組み合わせもまた開示する。
【発明の概要】
【0024】
概要
特定の熱および/または溶媒蒸気アニール工程にさらすことを含む、バルクヘテロジャンクション型有機感光性デバイスの製造方法が開示される。一実施形態において、感光性デバイスの製造方法は、以下:
少なくとも一つの電極およびバルクヘテロ接合を有する構造体を準備する工程、ここで、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1光活性材料および少なくとも一つの第2光活性材料を含む;
少なくとも一種の溶媒を供給する工程;
少なくとも前記溶媒の一部を蒸発させる工程;および
前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させる工程(exposing)、ここで、前記蒸発させた溶媒への接触が、少なくとも一つの前記第1光活性材料又は第2光活性材料の結晶性を増大させる、を含む。
【0025】
ある実施形態において、上記方法は、前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む。ある実施形態において、熱的にアニールする工程は、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる。
【0026】
他の実施形態において、感光性デバイス中のバルクヘテロ接合の結晶性を増大させる方法が開示され、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料を含む。一実施形態において、前記方法は、以下を含む:
前記バルクヘテロ接合の少なくとも一部を、蒸発させた溶媒に接触させる工程、ここで、前記感光性デバイスは、前記蒸発させた溶媒に接触させない前記デバイスと比較したとき、一以上の以下の特性を示す:
曲線因子(FF)の増大;
外部量子効率(EQE)の増大;および
電圧に対する電流密度(J−V)の増大。
【0027】
ある実施形態において、上記方法は、前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む。ある実施形態において、前記熱的にアニールする工程は、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
添付図面は、本明細書に組み込まれると共に本明細書の一部分を成すものであり、本明細書中で開示された各実施形態を図示し、この開示とともに、本願の原理を説明するための助けとなる。図面は必ずしも一定の縮尺で描かれていない。
図1A図1Aは、クロロホルムから製膜し(cast)、さまざまな温度で10分間、熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池、およびクロロホルムから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、XRD(X線回折データ)を表わしている。
図1B図1Bは、クロロホルムから製膜された直後の(as-cast)SQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の二乗平均平方根(RMS)粗さを表わしている。
図1C図1Cは、70℃で10分間、熱的にアニールされたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の二乗平均平方根(RMS)粗さを表わしている。
図1D図1Dは、ジクロロメタンを用いて12分間溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の二乗平均平方根(RMS)粗さを表わしている。
図2A図2Aは、クロロホルムから製膜し、さまざまな温度で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図2B図2Bは、クロロホルムから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図2C図2Cは、1,2−ジクロロベンゼンから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図3A図3Aは、1,2−ジクロロベンゼンから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、EQEを表わしている。
図3B図3Bは、1,2−ジクロロベンゼンから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたバルクヘテロジャンクション型デバイスの、J−Vを表わしている。
図3C図3Cは、1,2−ジクロロベンゼンから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたバルクヘテロジャンクション型デバイスの、電力強度(power intensity)に対するηを表わしている。
図4図4は、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたバルクヘテロジャンクション型デバイスの、XRDを表わしている。
図5A図5Aは、DCBから製膜した直後のバルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMSを表わしている。
図5B図5Bは、ジクロロメタンを用いて12分間溶媒アニールしたバルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMSを表わしている。
図5C図5Cは、ジクロロメタンを用いて30分間溶媒アニールしたバルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMSを表わしている。
図6A図6Aは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、吸収係数を表わしている。
図6B図6Bは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、PL(フォトルミネッセンス)強度を表わしている(図6Aの説明を参照)。
図6C図6Cは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、EQEを表わしている(図6Aの説明を参照)。
図6D図6Dは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、V(電圧)に対する電流密度を表わしている(図6Aの説明を参照)。
図7A図7Aは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、電力強度(power intensity)に対するηを表わしている。
図7B図7Bは、DCBから製膜し、さまざまな接触時間でジクロロメタンを用いて溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池の、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図8A図8Aは、さまざまな温度で20分間、熱的にアニールしたSQ:C60平面電池の、XRD(X線回折データ)を表わしている。
図8B図8Bは、図8Aにおいて試験した平面のSQ:C60デバイスのEQEを表わしている。
図9A図9Aは、図8Aにおいて試験した平面のSQ:C60デバイスの、電力強度(power intensity)に対するηを表わしている。
図9B図9Bは、図8Aにおいて試験した平面のSQ:C60デバイスの、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図10A図10Aは、DCBから製膜し、さまざまな温度で10分間、熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、XPS(X線光電子分光法)測定を表わしている。
図10B図10Bは、図10Aにおいて開示されたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、AFM(原子間力顕微鏡法)測定を表わしている。
図11A図11Aは、図10Aにおいて開示されたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、電力強度(power intensity)に対するηを表わしている。
図11B図11Bは、図10Aにおいて開示されたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図12A図12Aは、DCBから製膜した直後のSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMS(粗さ測定システム;roughness measurement system)を表わしている。
図12B図12Bは、DCBから製膜した後、70℃で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMS粗さを表わしている。
図12C図12Cは、DCBから製膜した後、ジクロロメタンを用いて30分間溶媒蒸気アニールし、50℃で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMS粗さを表わしている。
図12D図12Dは、DCBから製膜した後、110℃で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、RMS粗さを表わしている。
図12E図12Eは、DCBから製膜した後、ジクロロメタンを用いてさまざまな時間で溶媒蒸気アニールし、50℃で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、XRDを表わしている。
図13A図13Aは、DCBから製膜した後、ジクロロメタンを用いてさまざまな時間で溶媒蒸気アニールし、50℃で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、電力強度(power intensity)に対するηを表わしている。
図13B図13Bは、図13Aにおいて試験したSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、電力強度(power intensity)に対するFFを表わしている。
図14図14は、図13Aにおいて試験したSQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロジャンクション型デバイスの、EQEを表わしている。
図15図15は、製膜直後のSQ/C60平面電池およびさまざまな温度で熱的にアニールしたSQ/C60平面電池、製膜直後のSQ:PC70BM(1:6)バルク電池およびさまざまな温度で熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク電池、ならびに製膜直後のSQ:PC70BM(1:6)バルク電池および2分、6分、8分および12分DCM溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク電池の、1sunにおけるηの要約を表わしている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本明細書で用いられる、「有機」の語は、ポリマー材料の他、有機光電子デバイスを製造するために用いられうる小分子有機材料もまた含む。「小分子」とは、ポリマーでない、いかなる有機材料をも指すものであり、「小分子」は、実際には非常に大きなものとなりうる。小分子は、場合によっては繰り返し単位を含むこともある。たとえば、置換基として長鎖のアルキル基を用いることにより、当該分子が「小分子」の分類から除外されることはない。小分子は、ポリマーに組み込まれるものでもあり、たとえば、ポリマー骨格上のペンダント基(a pendent group)として、または当該骨格の一部として組み込まれうる。小分子は、中心部分上に構築された一連の化学的な外殻構造からなるデンドリマーの中心部分としての役割も果たしうる。デンドリマーの中心部分は、蛍光または燐光の小分子発光体である。デンドリマーは、「小分子」となりうる。一般的に、ポリマーは、分子ごとに変化しうる分子量を備えた明確な化学式を有する一方で、小分子は、分子ごとに変わらない分子量を備えた明確な化学式を有する。本明細書中で用いられる、「有機」は、ヒドロカルビルおよびヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含むが、これに限定されない。
【0030】
本明細書中、バルクヘテロジャンクション型有機光電池の製造において、溶媒を用いたアニール、特に溶媒蒸気アニールおよび熱的アニールを用いる方法ならびに工程が開示される。有機材料の形態および相分離は、電荷分離および収集の両方を可能にする点で重要となりうる。本明細書中に開示される溶媒蒸気アニール工程は、バルクヘテロ接合を含む一またはそれ以上の有機光活性材料へのテンプレート効果(a templating effect)を与えるのに有用であり、結果として、有機材料が自己集合(self-assembling)し、規則的な会合体を形成しうる。ナノ形態(Nanomorphology)および有機材料の結晶性は、溶媒の種類や持続時間に依存しうる。ある実施形態において、本明細書中に開示される溶媒蒸気アニールおよび/または熱的アニール工程は、製膜直後の、大部分は本来アモルファスであるバルクヘテロ接合の混合物を含む、一またはそれ以上の有機材料の結晶性を増大させることが可能でありうる。
【0031】
一実施形態において、以下を含む感光性デバイスの製造方法が開示される:
少なくとも一つの電極およびバルクヘテロ接合を有する構造体を準備する工程、ここで、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料を含む;
少なくとも一種の溶媒を準備する工程;
少なくとも前記溶媒の一部を蒸発させる工程;および
前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させる工程、ここで、前記接触が、少なくとも一つの前記第1有機光活性材料又は第2有機光活性材料の結晶性を増大させる。
【0032】
ある実施形態において、上記方法は、前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む。ある実施形態において、前記熱的にアニールする工程は、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる。
【0033】
ある実施形態において、前記構造体は、前記少なくとも一つの第1有機光活性材料および前記少なくとも一つの第2有機光活性材料を、前記第1電極上に堆積させることによって準備される。アニール工程が完了した後、第2電極が、バルクヘテロ接合上にパターニングされうる。
【0034】
アノードおよびカソードといった電極は、金属または「金属代替物(metal substitutes)」から形成されうる。本明細書中、「金属」の語は、元素的に純粋な金属、および二以上の元素的に純粋な金属からなる材料である合金からなる材料の両方を包含する。「金属代替物(metal substitute)」の語は、通常の定義の範囲内の金属でない材料であり、導電性のような金属に似た特性を有する材料を示すものである。金属代替物は、たとえば、ドープされた広いバンドギャップを有する半導体、縮退半導体、導電性酸化物および導電性ポリマーを含む。
【0035】
「カソード」の語は、以下の態様で用いられる。空間放射(ambient irradiation)下、負荷抵抗に接続され、外部印加電圧に接続されない状態で、非積層PVデバイスまたは積層PVデバイスの単一のユニット、たとえば、PVデバイスにおいて、電子が光導電性材料からカソードへ移動する。同様に、本明細書中、「アノード」の語は、照明下にあるPVデバイスにおいて、ホールが光導電性材料からアノードへ移動する(電子が逆方向に移動することに相当する)といったように使用される。本明細書中で使用されるとき、アノードおよびカソードは、電極または電荷輸送層でありうる。
【0036】
電極は、単層または多層(「化合物」電極)により構成され、透明、半透明または不透明でありうる。電極および電極材料の例としては、Bulovicらによる米国特許第6,352,777号およびParthasarathyらによる米国特許第6,420,031号に開示されたものが含まれ、これらの各特徴は、参照により本明細書中に組み込まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書中、関連する波長において、少なくとも50%の空間電磁波放射(ambient electromagnetic radiation)を透過するとき、層が「透明である」という。
【0037】
一実施形態において、第1電極は、モリブデン酸化物(MoOx)からなる界面層を含みうる。MoOxは、有機PV電池における典型的な界面層であり、暗電流を減少させ、開回路電流を増大させるのに有用であると考えられている(Li, N. et al,. Open circuit voltage enhancement due to reduced dark current in small moleculephotovoltaic cells, Appl. Phys. Lett., 94, 023307, Jan. 2009)。
【0038】
ある実施形態において、第1有機光活性材料は、ドナー型の材料を含みうる。本明細書中で用いられうる第1有機光活性材料の限定されない例としては、サブフタロシアニン(SubPc)、銅フタロシアニン(CuPc)、クロロアルミニウムフタロシアニン(ClAlPc)、スズフタロシアニン(SnPc)、ペンタセン、テトラセン、ジインデノペリレン(DIP)およびスクアライン(SQ)が挙げられる。
【0039】
ある実施形態において、第2有機光活性材料は、アクセプター型の材料を含みうる。本明細書中で用いられうる第2有機光活性材料の限定されない例としては、C60、C70、[6,6]−フェニルC70ブタン酸メチルエステル(PC70BM)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ビス−ベンズイミダゾール(PTCBI)およびヘキサデカフルオロフタロシアニン(F16CuPc)が挙げられる。
【0040】
他の実施形態において、遮断層が備えられていてもよく、たとえば、バルクヘテロ接合と第2電極との間に備えられていてもよい。励起子遮断層(EBLs)の例としては、Forrestらによる米国特許第6,451,415号および米国特許第7,230,269号に開示されており、これらのEBLsに関する開示は、参照により本明細書中に組み込まれる。EBLsの追加の背景説明は、Peumansらの“Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double-heterostructure photovoltaic diodes,”Applied Physics Letters 76, 2650-52 (2000)において理解されうるものであり、これもまた参照により本明細書中に組み込まれる。EBLsは、ドナーおよび/またはアクセプター材料から励起子が流出ことを抑制することにより、クエンチを減少させると考えられている。本明細書中で用いられうる励起子遮断層の限定されない例としては、バトクプロイン(BCP)、バトフェナントロリン(BPhen)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ビス−ベンズイミダゾール(PTCBI)、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBi)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(RuAcaca3)、およびアルミニウム(III)フェノレート(Alq OPH)が挙げられる。
【0041】
本明細書中で用いられうる第2電極の例としては、金属代替物、非金属材料または、たとえばAg,AuおよびAlから選択される金属材料が挙げられる。
【0042】
第1電極は、インジウム錫酸化物(ITO)、スズ酸化物(TO)、ガリウムインジウム錫酸化物(GITO)、亜鉛酸化物(ZO)および亜鉛インジウム錫酸化物(ZITO)から選択される導電性酸化物、ならびにポリアニリン(PANI)からなる透明導電性ポリマーによって構成されうることが理解される。一実施形態において、バルクヘテロジャンクション型有機光電池は、以下を含む:
ITO/MoO/SQ:PC70BM/LiF/Al;および
ITO/MoO/SQ:PC70BM/C60/BCP/LiF/Al。
【0043】
本明細書中の有機層の厚みは、25〜1200Å、50〜950Å、あるいは100〜700Åの範囲でありうる。ある実施形態において、バルクヘテロ接合は、たとえば、真空熱蒸発(vacuum thermal evaporation;VTE)、スピンコーティング、または有機気相堆積法(organic vapor phase deposition;OVPD)により形成されうる。OVPDは、堆積チャンバー内に上記を輸送するためにキャリアガスを用いる点で、真空熱蒸発と異なっている。空間的に蒸発及び輸送機能を分離することで、堆積工程を正確に制御することや、たとえば、平滑な表面を有する平面または突出部分のある層といったような、有機表面の形態を制御することができる。
【0044】
一実施形態において、バルクヘテロ接合はスピンコーティングにより形成される。スピンコーティングを経たバルクヘテロ接合の形成時に、異なる溶媒系を用いると、完成時の感光性デバイスの到達効率に影響を与えうる。たとえば、デバイス低沸点溶媒または高沸点溶媒を用いて作製されうる。低沸点溶媒は急速に蒸発するため、さらに形態を制御するためには、より高沸点溶媒を用いると好ましい。ある実施形態において、バルクヘテロ接合の初期準備で1,2−ジクロロベンゼン(DCB)のような溶媒を使用すると、低沸点溶媒を用いて準備を行った時と比較して、溶媒蒸気アニールした後、最終的にはPVデバイスの特性が改善されうる。
【0045】
ある実施形態において、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料は、1atmにおける沸点が約70℃以下の製膜溶媒(casting solvent)から製膜(cast)される。例示的な溶媒としては、クロロホルムが挙げられる。他の実施形態において、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料は、1atmにおける沸点が約130℃よりも高い製膜溶媒から製膜される。他の実施形態において、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料は、1atmにおける沸点が約175℃よりも高い製膜溶媒から製膜される。例示的な溶媒としては、DCBが挙げられる。
【0046】
バルクヘテロジャンクション型PV電池の特性を改善するために、堆積させた有機層のフィルムの分散状態は、一またはそれ以上の有機光活性材料を溶媒蒸気アニールに接触させること(exposing)により、さらに最適化されうる。ある実施形態において、最適なアニールを行うために1種以上の溶媒が用いられうる。接触時間もまた、有機材料の最終的な分散状態に影響を与えうる。
【0047】
例示的な蒸発溶媒としては、ジクロロメタンが挙げられる。ある実施形態において、構造体は、密閉容器内で蒸発させた溶媒に接触させられると好ましい。ある実施形態において、構造体は、約5分から約30分またはそれ以上の間、約6分〜約15分、あるいは約10分〜約12分の間蒸発させた溶媒に接触させられうる。
【0048】
ある実施形態において、ヘテロ接合は、熱的なアニールにさらに晒されると好ましい。熱的にアニールする工程は、分散状態、結晶性の制御および/または製造されたデバイスの性能の改良のために有用でありうる。たとえば、溶媒蒸気アニールに、製膜直後のデバイスを晒した後、構造体を熱的にアニールすることが好ましい。熱的アニールは、蒸気アニール工程による溶媒を完全に除去するのに十分な温度で行われうる。たとえば、ジクロロメタンを用いた溶媒蒸気アニールに構造体を接触させた後、当該構造体に直接熱を加えることによって熱的アニールを行うと好ましい。このようなことは、N雰囲気下、50℃に加熱されたホットプレート上に構造体を載置することによって達成されうる。本明細書中、感光性デバイス中のバルクヘテロ結合の結晶性を増大させる方法もまた開示される。ここで、前記バルクヘテロ接合は、少なくとも一つの第1有機光活性材料および少なくとも一つの第2有機光活性材料を含む。この実施形態において、上記方法は、以下を含む:
前記バルクヘテロ接合の少なくとも一部を、蒸発させた溶媒に接触させる工程、ここで、前記感光性デバイスは、前記蒸発させた溶媒に接触させない前記デバイスと比較したとき、一以上の以下の特性を示す;
曲線因子(FF)の増大;
外部量子効率(EQE)の増大;および
電圧に対する電流密度(J−V)の増大。
【0049】
ある実施形態において、上記方法は、前記構造体を熱的にアニールする工程をさらに含む。ある実施形態において、前記熱的にアニールする工程は、前記構造体の少なくとも一部を、前記蒸発させた溶媒に接触させた後に行われる。適当な方法および材料は、以下で詳述されるものを含むが、これに限定されない。
【実施例】
【0050】
実施例
本開示は、以下の例示的な実施形態の詳細な説明および実施例を参照することにより、より容易に理解されうる。本明細書中に開示された詳細な説明および実施例を考慮して、他の実施形態が当業者にとって明らかとなろうことが理解される。
【0051】
実施例1
6000RPM(毎分回転数)の速度で、80ÅのMoOが予め被覆されたインジウム錫酸化物(ITO)基板上にスピンコートされたSQ:PC70BM(重量濃度で1:6である)薄膜のX線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折装置を使用して、θ−2θ法で、40kVのCuKα線源を用いることによって得た。クロロホルム中で20mg/mlの濃度の溶液から製膜されたSQ:PC70BM(1:6)混合物の厚みは、Woolam VASE偏光解析器を用いて決定され、680Åであった。
【0052】
原子間力顕微鏡法(AFM)画像は、タッピングモードのNanoscope III AFMで収集した。溶媒アニールによるサンプルとして、SQ:PC70BM(1:6)バルクフィルムを1mLのジクロロメタン(DCM)入りの密閉されたガラスバイアル中に収め、6分から30分の間で時間を変化させてアニールした。熱的にアニールしたサンプルとして、SQ:PC70BM(1:6)フィルムを50℃、70℃、110℃および130℃で10分間、Nグローブボックス中のホットプレート上でアニールした。
【0053】
次に、クロロホルム溶媒から製膜した直後のSQ:PC70BM(1:6)フィルムのDCM溶媒アニールを、以下の構造を有する太陽電池について行った:ITO/MoO(80Å)/SQ:PC70BM(1:6 680Å)/LiF(8A)/Al(1000Å)。デバイスを熱的に蒸発させたC60層で被覆し、ITO/MoO(80Å)/SQ:PC70BM(1:6 680Å)/C60(40A)/BCP(10Å)/LiF(8Å)/Al(1000Å)の構造とした。ここで、基準圧力を10−7torrとした真空系中でMoOをITO表面上に熱的に蒸発させた。デバイス面積を7.9×10−3cmとするシャドーマスクを介して8Åの厚みのLiFおよび1000Åの厚みのAlカソードを熱的に蒸発させて、デバイスを完成させた。Oriel 150W ソーラーシミュレータおよびNREL校正標準Si検出器を用いて、AM1.5Gフィルターを備えたXeアークランプから照射することにより、デバイスの電流密度−電圧(J−V)特性およびηを測定した。測定および太陽光スペクトルの収集は、標準的な方法を用いて行った。EQEは、400Hzで遮断した(chopped)Xeランプからの単色光を、デバイスの活性領域に焦点を合わせることで測定した。
【0054】
図1Aにおいて示されるように、50℃、70℃、110℃および130℃で10分間熱的にアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池には、XRDピークが現れず、これは、アモルファス特性であることを示している。対照的に、12分よりも長くDCM溶媒アニールを行った後のものは、(001)および(002)ピークに帰属されうる二つのSQのXRDピークが現れている。溶媒アニール後のSQ:PC70BM(1:6)混合物におけるSQピークが比較的弱く表れているため、いかなる特定の理論に縛られることなく、SQおよびPC70BMのアモルファスセグメント間で、SQが整列した/結晶性ドメインを形成していると考えられる。製膜直後(図1B)、および四つの熱的にアニールしたサンプルのAFM画像の粗度は、平均して約0.58±0.12nmであり、SQおよびPC70BM相の明らかな相分離の差は観察されず、このような結果は、XRDの結果と一致するものであった。PC70BMがSQ分子の会合を妨害しうるものであり、製膜直後のSQ:PC70BMフィルム(図1A)においてその結晶性を低下させると考えられる。対照的に、溶媒アニール後のSQ:PC70BMフィルムの粗度は、約0.58±0.12nm(製膜直後)から約5.6±1.2nm(DCMで8分−図1C)までといったように、一桁増加することが明らかとなった。DCMによるアニール時間をより長くして12分とすると、SQ:PC70BM(1:6)混合物の粗度は2倍となり(図1D)、より多くのSQクラスターが多結晶化し、激しい相分離が生じていることが示唆された。したがって、製膜直後のアモルファスのSQ:PC70BM(1:6)フィルムをDCMアニールすることで、SQ相のナノ結晶の形態を与えたと考えられる。
【0055】
クロロホルム溶媒から製膜された直後のものを、温度範囲を50℃から130℃として熱的にアニールすることにより得たSQ:PC70BM(1:6)バルクセルの曲線因子を、図2Aに示す。熱的にアニールする工程は、曲線因子を改善させないことが現れており、この結果は、図1AのXRDデータと一致し、熱的アニールは、大きな結晶性の発達を生じさせることが示唆された。クロロホルム溶媒から製膜された後、DCMによる溶媒アニール工程を行った、SQ:PC70BM(1:6)デバイスの結果を図2Bに示す。図に示されるように、DCMアニール時間が6分であるものの、1sun照明における曲線因子が改善されていることが明らかとなった。DCB溶媒から製膜したSQ:PC70BM(1:6)デバイス(図2C)において、曲線因子は急速に減少している。対照的に、10分間継続してDCMアニールされたデバイスの曲線因子は、1sunでの照射において徐々に増加していることが示された。図1Aに示されるように、DCM溶媒アニールの継続時間が長いほど、混合物におけるSQ相の結晶性が増大し、SQ:PC70BM(1:6)混合物においてDCMアニール時間を延長するほど、曲線因子が改善され、このようなことは、少なくとも、SQ相の会合/結晶性含有物が増加することに起因していると考えられる。
【0056】
図3A中の、溶媒から製膜された直後のSQ:PC70BM(1:6)バルク電池と、溶媒アニールされたSQ:PC70BM(1:6)バルク電池の外部量子効率(EQE)により、300nmから750nmまでにおいて、幅広く、かつ良好なスペクトル感度が得られることが示されている。λ=約350nmおよび約500nmに中心があるピークは、PC70BM吸収に由来すると考えられる一方で、λ=約690nmにおけるEQEピークは、SQ吸収によるものであると考えられる。DCM溶媒アニール時間が10分であるものについて、EQEピークの増大およびカーブシフトという結果から、DCM溶媒アニール工程後では、励起子の解離および電荷回収がより均衡した状態であることが示唆される。
【0057】
DCB溶媒から製膜されたSQ:PC70BM(1:6)バルク電池の、1sun照射におけるJ−V特性を図3Bに示す。その後にDCM溶媒アニールしたものは、短絡電流密度が増加し、J−V曲線の形状が変化したことが現れており、デバイスがより導電性となったことが示唆される。10分間DCMアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルクデバイスのFFは、製膜直後のデバイスと比較して、高い電力強度において、比較的高い値を示しており、バルクフィルムの内部で、より良好なキャリア電荷輸送を示すことを示唆している。図3Cは、DCM溶媒アニールしたデバイスが、電力強度に対するηにおいてもまた明らかな増大を示すことを意味している。これらの結果は、図2Aおよび2Bにおいて示される、熱および溶媒アニールされたデバイスの挙動と一致していると思われる。
【0058】
実施例2
1000RPM(毎分回転数)の低速で、80ÅのMoOが予め被覆されたインジウム錫酸化物(ITO)基板上に30秒間1000rpmでスピンコートされたSQ:PC70BM(相対重量濃度で1:6である)薄膜のX線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折装置を使用して、θ−2θ法で、40kVのCuKα線源を用いることによって得た。12時間ホットプレート上で加熱された1,2−ジクロロベンゼン(DCB)中で42mg/mlの濃度の溶液から製膜されたSQ:PC70BM(1:6)混合物の厚みは、Woolam VASE偏光解析器を用いて決定され、780Åであった。
【0059】
原子間力顕微鏡法(AFM)画像は、タッピングモードのNanoscope III AFMで収集した。溶媒アニールによるサンプルとして、SQ:PC70BM(1:6)バルクフィルムを1mLのジクロロメタン(DCM)入りの密閉されたガラスバイアル中に収め、6分から30分の間で時間を変化させてアニールした。透過電子顕微鏡法(TEM)による研究のため、80ÅのMoOがコートされたITO基板上のSQ:PC70BM(1:6)フィルムを脱イオン(DI)水中に1時間浸漬させた。次に、MoOを水中で溶解させ、有機層をDI水の表面に浮かせた。その後、製膜直後、および溶媒アニールしたSQ:PC70BM(1:6)フィルムを、Cuグリッドがコートされたホーリーカーボン(holy carbon)フィルム上に転写した。200 kV JEOL 2010F分析電子顕微鏡を用いてTEM画像を得た。
【0060】
製膜直後のもの、および四つのDCMアニールした石英基板上のフィルムの吸収スペクトルを、Perkin-Elmer Lambda 1500 UV-NIR分光計を用いて計測した。励起波長λ=600nmとしてフォトルミネッセンス(PL)を測定した。太陽電池の構造は、以下の構造とした:ITO/MoO(80Å)/SQ:PC70BM(1:6 780Å)/C60(40Å)/BCP(10Å)/Al(1000Å)。ここで、基準圧力を10−7torrとした真空系中でMoOをITO表面上に熱的に蒸発させた。スピンキャスト堆積および溶媒アニールに続いて、デバイス面積を8×10−3cmとするシャドーマスクを介して8Åの厚みのLiFおよび1000Åの厚みのAlカソードを熱的に蒸発させて、デバイスを完成させた。Oriel 150W ソーラーシミュレータおよびNREL校正標準Si検出器を用いて、AM1.5Gフィルターを備えたXeアークランプから照射することにより、デバイスの電流密度−電圧(J−V)特性および電力変換効率(η)を測定した。測定および太陽光スペクトルの収集は、標準的な方法を用いて行った。EQEは、200Hzで遮断したXeランプからの単色光を、デバイスの活性領域に焦点を合わせることで測定した。
【0061】
室温下、超高純度窒素で満たされたグローブボックス中に収められ、密閉されたガラスバイアル中で、6分から30分の間、DCM蒸気にフィルムを接触させてSQ:PC70BM(1:6)混合物のアニールを行った。図4に示されるように、堆積した直後のSQ:PC70BMフィルムは、X線回折(XRD)ピークがなく、これはアモルファス構造であることを示唆している。対照的に、10分アニールした後、2θ=約7.80±0.08°において、アニール時間を30分まで延長した際にその強度が増大するピークが現れている。このピークはSQの(001)反射であり、約11.26±0.16Åの分子間隔に相当する。DCMに30分間接触させた後、(002)反射に相当する第2ピークが現れ、順を追って継続的に増加していることを示唆している。12分および30分間アニールした混合物中のSQの平均結晶サイズは、それぞれ2.0±0.2nmおよび51±4nmと推定され、シェラー法を用いたXRDピークのブロード化により推定される。
【0062】
製膜直後のフィルムのAFM画像(図5A)から得られる二乗平均平方根粗さは、約0.8±0.1nmである。対照的に、12分間溶媒アニールした後の混合物の粗さは、約8.4±1.2nm(図5B)まで増加し、これは、混合物中におけるSQの多結晶成長に起因して、実質的な粗面化が生じていることを示唆している。さらに30分までアニール時間を長くしても、さらに粗面化して12.0±1.4nm(図5C)となっていることから示されているように、SQおよびPC70BMの相分離は継続する。この粗面化は、相分離のためであると考えられ、透過型電子顕微鏡(TEM)画像(図5C)およびAFM(図5Cの挿入図)により測定された表面相画像においてもまた観測される。XRDの線幅の拡大から上述したように、平均結晶ドメインサイズもまた、粗面化に伴って増大しているように見える。
【0063】
製膜直後、および四つのDCM溶媒アニールした石英基板上のSQ:PC70BM混合物のフィルムの可視吸収スペクトルを、図6Aに示す。アニール時間が8分となるまでは、観測したスペクトル幅の全体にわたってSQの吸収係数が増大したが、さらに時間を長くすると、かような変化は飽和したように見える。結晶性の混合物フィルム(DCM12分)のλ=680nmの吸収ピークは、アモルファスフィルムよりもはっきりしないこともまた示されている。
【0064】
フィルムのフォトルミネッセンス(PL)強度は、光生成ドナー励起子からアクセプター分子への電荷輸送が生じるとクエンチされる(quenched)(図6B)。したがって、SQ:PC70BM混合物における有意なPLクエンチは、界面間(間隔L)での光誘起生成(Photogeneration)に起因して励起子が効率的に解離することを示唆している。上述のように、関連する長さスケールは、SQについては1.6nm、PC70BMについては20nmから40nmである。10分のものは最もPL強度のクエンチが大きく、続いて、アニール時間がさらに長くなると、クエンチは小さくなる。本明細書におけるLおよび平均結晶サイズδは、いかなる特定の理論に縛られることなく理解されうる。およそ10〜12分間アニールした後、L〜δ〜2nmであるとき、PLクエンチが最も強く表れる。さらなるアニールは、δ>>Lである点において、結晶としてのさらなる相分離の開始を引き起こすことが示されており、したがって、励起子はもはや解離したヘテロ界面へ効率的に輸送されなくなる。
【0065】
図6C中の、製膜された直後および溶媒アニールされた太陽電池のEQEは、吸収スペクトルに類似して、幅広なスペクトル応答を示しており、λ=300nmからλ=750nmまでの波長に広がっている。EQEピークは、約26±2%(製膜された直後のもの)から約60±1%(10分間アニールしたもの)まで増大している。12分間アニールした後、EQEピークは、全波長範囲にわたって40%未満(<40%)まで減少している。これらの結果は、吸収において得られた結果と類似しており、さらに、Lに相当するサイズが最適化されることにより、電池効率が結晶サイズに強く依存していることを示唆しており、したがって、SQおよびPC70BM間の解離したドナー/アクセプター界面への励起子拡散を最大にする。
【0066】
図6D中に示される、AM1.5G疑似太陽放射で、1sunにおいて測定されたJ−V特性により、短絡電流密度(Jsc)が約6.9mA/cm(製膜された直後のもの)から約12.0mA/cm(10分間溶媒アニールしたもの)まで増大し、DCMに12分間接触させた後に、約8.3mA/cmまで減少していることが示唆されている。FFの結果は、アニール時間に対して同様の依存性を示しており、分子パッキングが改良された結晶性有機材料であることが予想され、配向がそろうこと(extended order)により直列抵抗を下げることが示唆される。改良されたダイオード方程式を用いてJ−Vカーブにフィッティングすることにより、特定の直列抵抗、RSAが得られる。製膜直後の電池は、約35.2±1.0Ω・cmのRSAを有しており、アニール時間が12分であるとき、徐々に約5.0±0.5Ω・cmまで減少する。しかしながら、DCMアニール時間をさらに増加させると、活性層および接触物間のピンホール密度を増加させる可能性があり、ダイオードを短絡させうると考えられる。
【0067】
アニールによる光学的および電気的な変化は、ηを増大させることが図7Aにおいて示されている。ここで、製膜された直後の電池のηは、電力強度に伴い、わずかに増加しているように見えるが、1sunにおいて、約2.4±0.1%にまで次第に小さくなり、これに伴い、FFは、同時に約0.40±0.02(0.002sunにおいて)から約0.36±0.01(1sun)まで減少する(図7B参照)。対照的に、10分間アニールした電池は、それに応じてηが1.5±0.1%から5.2±0.3%(1sun)まで増加することが示され、これらの群では電池のピーク測定値が5.5%であると同時に、FFが約0.42±0.01(0.002sun)から約0.50±0.01(1sun)まで増加している(JSC=12.0mA/cm、FF=0.5およびVoc=0.92V)。最終的には、12分アニールした電池は、ηが約3.2±0.1%に低下し、これは、EQEおよびFFの減少に起因しうる。
【0068】
実施例3
バルク太陽電池を有する二層構造と比較するため、SQ/C60平面電池を対照(control)電池として製造した。デバイス性能に対して結晶性が与える影響を調べるため、製膜された直後のSQ薄層を、50℃から130℃までの温度でアニールした。図8Aに示されるように、110℃および130℃でアニールされたSQフィルムは、(001)および(002)ピークを示し、これは、結晶性であることを示唆している。平面セルのEQE(図8B)により、110℃までアニール温度を昇温させると、光応答性が改善されたことが示されている。130℃のアニール温度では、約650nmおよび約760nmの、SQフィルムに帰属される二つのピークがあり、これは、アニール温度の上昇に伴い、SQモノマーが二量化反応を起こしていることが示唆される。110℃でアニールされた電池は、効率(η)では約4.6%にピークを与え、1sun照明においてFF=0.59、Voc=0.76VおよびJsc=10.05mA/cmであり、FFは、低強度において約0.70近辺にまで達する。アニール温度を約130℃まで昇温すると、Vocが0.46Vまで低下するため、ηが2.9%にまで低下している(図9A〜B参照)。図8Aに示されるように、アニール温度を130℃にすると、結晶性が増大し、高い電力強度において、FFが0.67まで上昇する。
【0069】
SQ:PC70BM(1:6)バルクヘテロ接合を実施例2に記載の方法と同様にして作製した。50℃、70℃、110℃および130℃で10分間アニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク太陽電池は、XRDピークは現れず、これは、アモルファス特性であることを示している。いかなる特定の理論に縛られることなく、PC70BMがSQ分子の会合を阻害し、その結晶性を損ねていると考えられる。製膜直後、および四つの熱的にアニールしたサンプルのAFM画像の粗度は、平均して約0.579±0.06nmであり、SQおよびPC70BM相の明らかな相分離の差は観察されず、このような結果は、XRDの結果と一致するものであった。熱的アニールによるSQおよびPC70BMの成分再構成をXPS(図10)によってもまた研究した。結合エネルギーが402eVであるN 1sピークは、PC70BM分子(C8214)においてN原子は存在しないため、SQ:PC70BMフィルムの表面上でSQ(C3244)会合が存在していることを示唆している。SQおよびPC70BMに帰属されると思われるC 1sおよびO 1sの強いピークがある。五つのサンプルの表面上におけるSQおよびPC70BMの組成物を、XPS測定(図10A)から得られたO/C原子比率を用いて評価した。Nピークは非常に弱いため、組成物のC/NまたはO/N原子比率は決定できなかった。図10Bにおいて示されるように、種々のSQ:PC70BMサンプル表面から得られた濃度は、AFM測定と一致しており、熱的にアニールした後の明らかな重量比変化は見られなかった。したがって、XRD、AFMおよびXPS測定より、熱工程のみを経たスピン製膜サンプルにおいて、形態または結晶性の変化は見られなかった。
【0070】
5つのデバイスのデバイス性能を、図11に示す。70℃でアニールしたSQ:PC70BM(1:6)バルク電池について、AM1.5G照明で0.02sun(2mW/cm)においてその効率は約5.3%、FF=0.48であり、1sunにおいて約4.0%、FF=0.37に低下した。このFFの低下は、バルク太陽電池が抵抗性を残しており、それぞれの電極への二つの連続的な電荷輸送経路の欠如を示すことを示唆しており、これは同様に、自由なキャリアの抽出を抑制しうる。
【0071】
製膜された直後のフィルムにおけるSQおよびPC70BMの形態変化および結晶性をさらに制御するため、溶媒および熱的なアニールの組み合わせを探求した。溶媒アニール時間は、空気中でスピンコートした後、フィルムを直ちに蓋つきのガラス瓶中で保持することにより制御される。当該瓶は、1mlのジクロロメタン(DCM)で満たされている。当該瓶は、溶媒が急速に蒸発するのを防止するため、蓋によって覆われている。その後、製膜された直後、および四つのアニールされたフィルムを、DCM溶媒を除去するために50℃でアニールするため、Nグローブボックス中のホットプレート上に載置した。図12に示されるように、SQ:PC70BMフィルムの粗度は、約0.83nm(図12A−製膜された後、溶媒または熱的にアニールされていないもの)から、約8.4nm(図12C−DCM溶媒アニールを30分間行い、次いで50℃で熱的にアニールしたもの)まで、一桁増大した。図12Bおよび12Dの結果は、熱的なアニールのみ行ったものの結果である。XRDデータ(図12E−種々の溶媒アニール時間で晒され、次いで50℃で熱的にアニールされたフィルム)は、より長時間アニールされたSQ:PC70BMフィルムでは、(001)SQピークがあることを明確に示しており、これは、DCMアニール溶媒の溶解性および揮発性によって、DCM蒸気相が確かにSQ:PC70BM混合物のナノスケール相分離を促進することを示唆している。この結果は、アニール溶媒の溶解性および蒸気圧によって、SQ:PC70BMバルク太陽電池の分散状態および分子秩序が、制御されうることを示唆している。
【0072】
種々の時間においてDCM溶媒アニールにさらされた後、50℃で熱的にアニールされたデバイスの性能を、図13に記載する。6分アニールされたサンプルについて、約5.3%という最も高い効率が達成され、AM1.5G照明で0.02sunにおいてFF=0.47であり、1sunにおいて効率はゆっくりと約4.4%に低下し、FF=0.39であった。製膜直後のデバイスと比較して、6分間DCMアニールしたSQ:PC70BMバルクデバイスのFFは、高い電力強度においてより高い値を有することが示され、これは、バルクフィルム内で、より良好なキャリア電荷輸送が生じていることを示唆している。混合物中におけるSQの結晶特性は、ホール電荷輸送を促進させうるようにSQ分子が秩序だって会合していることを示唆している。ある程度において、DCM溶媒アニールは、熱的アニールのみによって生じるデバイス特性を低下させる電荷の不均衡を減少させることが示されている。FFは、DCMアニールしたデバイスについては0.50よりも依然として低く、ナノスケールにおけるSQおよびPC70BM混合物の良好に制御された相分離について、種々の溶媒やアニール時間を経てさらに調査されうる。図14は、図13に記載された、作製された直後のデバイスのEQE応答を示しており、約300nmから約750nmまでのスペクトル応答性を示している。
【0073】
実施例以外、または、特に指摘しない場合において、本明細書および特許請求の範囲で用いる配合量、反応条件等を表わす全ては、「約」の語によって全ての具体例において変更し得るものと解釈される。したがって、特に反対のことを指摘しない限り、明細書および添付の特許請求の範囲で規定される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化させ得る概略値である。最低限でも、特許請求の範囲の範囲と同等の規定に本発明を制限することを意図しないものとして、各数値パラメータは、有効数字および通常の四捨五入方法に照らして解釈すべきである。
【0074】
広い範囲の開示である数値範囲およびパラメータは概算ではあるものの、特に指摘しない限りは、特定の実施例で規定した数値はできる限り正確に報告される。いかなる数値も、しかしながら、各試験測定での標準偏差の不可避の結果、本質的にある誤差を含んでいる。
【0075】
本明細書中で用いられる、「その」、「一つの」または「一の」の語は、「少なくとも一つの」を意味し、特に反対の明示的な記載がない限り、「唯一の」に限定されるべきではない。したがって、たとえば、「一つの層」は、「少なくとも一つの層」を意味すると解されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図14
図15