特許第5933547号(P5933547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933547腎神経切除用の順次始動RF電極セットを含む装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933547
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】腎神経切除用の順次始動RF電極セットを含む装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   A61B17/39 310
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-523191(P2013-523191)
(86)(22)【出願日】2011年7月25日
(65)【公表番号】特表2013-536012(P2013-536012A)
(43)【公表日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】US2011045150
(87)【国際公開番号】WO2012015720
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年7月23日
(31)【優先権主張番号】61/418,665
(32)【優先日】2010年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/188,684
(32)【優先日】2011年7月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/369,444
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジェンソン、マーク
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−514921(JP,A)
【文献】 特表2008−515544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 ― 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端と遠位端とを有する可撓性シャフトを備えるカテーテルと、
前記シャフトの前記遠位端に設けられる治療素子と、
前記シャフトの前記遠位端に設けられ、切除中に治療部位での対象組織に対する前記治療素子の位置を維持するように構成される位置決め機構と、
電極セットを画定し、前記治療素子に互いに対して配置される複数の電極であって、前記電極セットが所定順序で切換可能な始動および停止を行って前記対象組織に向けられる複数の重複加熱区域を生成するように構成される電極と、
前記重複加熱区域は、前記対象組織を切除するのに十分な前記治療素子からの距離での高い熱生成に関連付けられる遠位区域と、前記治療素子近傍の前記治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、前記遠位区域よりも低い熱生成に関連付けられる近位区域と、を画定することと、
前記シャフトに沿って延在し、かつ前記電極セットに接続される導電体機構と、
を備え
前記電極セットを画定する前記複数の電極が円周パターンで配置されている装置。
【請求項2】
前記遠位区域が略連続的なオーム加熱と関連付けられ、かつ
前記近位区域が間欠的なオーム加熱と関連付けられる請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記近位区域が前記遠位区域よりも少ない重複電流路を有する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の加熱区域のうち少なくともいくつかが、前記電極セットの始動および停止に基づき制御される複数の加熱点であって各々が空間にて互いに隔てられている複数の加熱点を前記治療素子にて有する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記近位区域内の加熱が、前記治療素子近傍の前記治療部位で組織の凝固壊死を引き起こすのに必要な温度よりも低い請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記近位区域内の加熱が、前記治療素子の近傍の組織の温度を50℃超に上昇させるには不十分である請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記治療素子が、前記治療素子と前記治療素子近傍の組織との間に画定される電極−組織界面での冷却を提供するように構成される冷却機構を備える請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記位置決め機構がバルーンまたは拡張型メッシュ構造を備える請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記治療素子および前記位置決め機構が共通構造上に配置される請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記治療素子および前記位置決め機構は、腎動脈内に配備される大きさにサイズ化されており、かつ
前記対象組織が腎動脈またはその近傍の血管周囲腎神経組織を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記治療素子が臓器の対象組織、血管、腫瘍、または病変組織を治療するように構成される請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記治療素子が肺静脈切除用に構成される請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記治療素子に設けられるとともに前記導電体機構に接続される温度センサ機構を備え、前記温度センサ機構が前記電極セットのうちの少なくともいくつかの電極の温度を感知するように構成される請求項1乃至12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記導電体機構に接続された高周波ACジェネレータを備え、
前記ジェネレータが前記所定順序に従い、前記温度センサ機構から受信した信号に応答して前記電極の始動および停止を制御するように構成され、前記ジェネレータが、前記遠位区域内では前記対象組織を少なくとも55℃の温度まで加熱させるのに十分な熱を生成し、前記近位区域内では前記治療素子の近傍の組織に全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない温度までに加熱を制限するように、前記電極に伝えられる高周波ACエネルギーを制御する請求項13に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の対象組織を切除する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
概して、高血圧治療の血管周囲腎神経切除のために腎動脈に配置されるRF電極を使用する際、最高電流密度、ひいては最大加熱は通常、ふつうは腎動脈の内腔に配置される電極の近傍に適用される。腎神経を効果的に切除する組織温度を達成するために、腎動脈も損傷を受ける。能動冷却を提供することができるが、より大きなカテーテルとより複雑なシステムを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の実施形態は概して、身体の対象組織を切除する装置と方法に関する。本開示の実施形態は、腎動脈や腎神経節などの神経支配された腎脈管構造を切除する装置と方法に関する。
【0005】
各種実施形態によると、装置は、近位端と遠位端とを有する可撓性シャフトを備えるカテーテルを含む。治療素子はシャフトの遠位端に設けられる。位置決め機構はシャフトの遠位端に設けられ、切除中に治療部位の対象組織に対する治療素子の位置を保持するように構成される。
【0006】
電極セットを画定する複数の電極は、治療素子で互いに対して配置される。電極セットは、所定順序で切換可能な始動および停止を行って、対象組織に向けられる重複加熱区域を生成するように構成される。
【0007】
いくつかの実施形態では、重複加熱区域は、対象組織を切除するのに十分な治療素子からの距離での略連続的なオーム加熱と関連付けられる遠位区域と、治療素子近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない間欠的なオーム加熱と関連付けられる近位区域と、を画定する。好ましくは、近位区域は遠位区域よりも少ない重複電流路を有する。
【0008】
他の実施形態では、近位区域内の加熱は、治療素子近傍の治療部位で組織の凝固壊死を引き起こすのに必要な温度よりも低い。たとえば、別の実施形態によると、近位区域内の加熱は、治療素子近傍の組織の温度を約50℃超に上昇させるのに不十分である。
【0009】
いくつかの実施形態では、重複加熱区域は、対象組織を切除するのに十分な治療素子からの距離での比較的高い電流密度に関連付けられる遠位区域と、治療素子近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、遠位区域よりも低い電流密度に関連付けられる近位区域と、を画定する。
【0010】
他の実施形態では、複数の加熱区域のうち少なくともいくつかは、電極セットの始動および停止に基づき空間的に分離された原点を治療素子に有する。各加熱区域は、対象組織を切除するのに十分な治療素子からの距離での略連続的なオーム加熱の遠位区域を備える。各加熱区域は、治療素子近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、治療素子に近接する間欠的なオーム加熱の近位区域をさらに備える。
【0011】
各種実施形態によると、装置は、近位端、遠位端、および経皮位置に対して患者の腎動脈にアクセスするのに十分な長さを有する可撓性シャフトを備えたカテーテルを含む。治療素子は、シャフトの遠位端に設けられ、腎動脈内に配備されるような大きさとされる。治療素子は、腎動脈内の同治療素子の位置を保持するように構成される拡張型構造を備える。
【0012】
電極セットを画定する複数の電極は治療素子で互いに対して配置される。電極セットは、所定順序で切換可能な始動および停止を行って、腎動脈の血管周囲神経に向けられる重複加熱区域を生成するように構成される。重複加熱区域は、血管周囲腎神経を切除するのに十分な治療素子からの距離での比較的高い電流密度と関連付けられる遠位区域と、治療素子近傍の腎動脈組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、遠位区域よりも低い電流密度に関連付けられる近位区域と、を画定する。
【0013】
導電体機構はカテーテルのシャフトに沿って延在し、電極セットに接続される。温度センサ機構が治療素子に設けられ、導電体機構に接続される。温度センサ機構は電極セットの温度を感知するように構成される。
【0014】
他の実施形態によると、方法は、切除中に身体の治療部位の対象組織に対する治療素子の位置を保持するために実行することができる。治療素子は好ましくは、電極セットを画定し、治療素子で互いに対して配置される複数の電極を含む。該方法は、所定順序で電極を切換可能に始動および停止して、対象組織に向けられる重複加熱区域を生成することも含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、重複加熱区域は、対象組織を切除するのに十分な治療素子からの距離での比較的高い電流密度と関連付けられる遠位区域と、治療素子近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、遠位区域よりも低い電流密度に関連付けられる近位区域と、を画定する。
【0016】
他の実施形態では、加熱区域のうち少なくともいくつかは、電極セットの始動および停止に基づき空間的に分離された原点を治療素子に有する。各加熱区域は、対象組織を切除するのに十分な治療素子からの距離での略連続的なオーム加熱の遠位区域と、治療素子近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、治療素子近傍の間欠的なオーム加熱の近位区域と、を備える。
【0017】
これらのおよびその他の特徴は、以下の詳細な説明および添付図面に鑑み理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】右腎と、腹部大動脈から側方に分岐する腎動脈を含む腎脈管構造を示す図である。
図2A】腎動脈の交感神経支配を示す図である。
図2B】腎動脈の交感神経支配を示す図である。
図3A】腎動脈壁の各種組織層を示す図である。
図3B】腎神経の一部を示す図である。
図3C】腎神経の一部を示す図である。
図4A】各種実施形態に係る、1つまたは複数の電極セットに配置された複数のRF電極を支持する治療素子を備えるカテーテルの図である。
図4B】各種実施形態に係る、図4Aに示されるカテーテルのシャフトの断面図である。
図5】カテーテルの治療素子に配置される電極セットの個々のRF電極からの重複加熱領域を概略的に示す図であり、該重複加熱領域は各種実施形態に係る、神経切除のための最高加熱区域と、動脈壁の比較的低温の区域とを含む。
図6】各種実施形態に係る、カテーテル拡張型構造の一部に相互に間隔をおいて配置された代表的な電極セットの図である。
図7】各種実施形態に係る、拡張型構造の一部に配置される複数の電極および温度センサと、外部制御システムの各種構成要素とを示すブロック図である。
図8】本開示の各種実施形態に係る代表的なRF腎治療装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の実施形態は、改良されたRF切除カテーテル、システム、および方法に関する。ここに開示される装置は、電流を使用する、改良された切除カテーテルおよびシステムに関する。本開示の実施形態は高血圧治療のために血管周囲腎神経を切除する装置と方法に関する。
【0020】
高血圧は、血圧が高い慢性的医学的症状である。持続性高血圧は、心臓まひ、心不全、動脈瘤、および心発作などの様々の有害な医学的症状と関連する大きなリスク要因である。持続性高血圧は慢性腎疾患の主要原因である。腎臓に供する交感神経系の過活動は、高血圧とその進行に関わる。腎臓の脱神経を介して腎臓の神経を非活性化させることで、血圧を下げることができ、これは従来の薬剤に反応しない多くの高血圧患者にとって実行可能な治療オプションとなり得る。
【0021】
腎臓は、血液ろ過、流体バランス調節、血圧制御、電解質バランス、およびホルモン生成などを含む多数の人体プロセスにおいて助けになる。腎臓の主機能の1つは、血液から毒素、無機塩類、および水を除去して尿を生成することである。腎臓は、腹部大動脈から左右に分岐する腎動脈を通じて心出力量の約20〜25%を受け、腎臓の凹表面である腎門でそれぞれの腎臓に入る。
【0022】
血流は腎動脈および輸入細動脈を通って腎臓に入り、腎小体という腎臓のろ過部に入る。腎小体は、毛細血管が絡み合い、ボーマン嚢と呼ばれる流体が充填されたカップ状の袋によって覆われた糸球体で構成される。血液中の溶質は、毛細血管内の血液とボーマン嚢内の流体との間の圧力勾配により、糸球体の極薄の毛細血管壁を通ってろ過される。圧力勾配は細動脈の収縮または拡張によって制御される。ろ過後、ろ過された血液は輸出細動脈および尿細管周囲毛細血管を通過し、小葉間静脈に収束し、最終的に腎静脈を通って腎臓を出る。
【0023】
血液からろ過される粒子と流体は、ボーマン嚢から多数の細管を通って集合管まで移動する。尿は集合管で生成され、尿管および膀胱を通って出る。細管は尿細管周囲毛細血管(ろ過された血液を含む)に囲まれている。ろ液が細管を通り集合管に向かうにつれ、栄養物、水、およびナトリウムや塩化物などの電解質は血液内に再吸収される。
【0024】
腎臓は、主に大動脈腎神経節から発生する腎神経叢によって神経支配される。神経は腎動脈の走路に沿って腎臓まで進むため、腎神経節は腎神経叢の神経によって形成される。腎神経は、交感神経および副交感神経要素を含む自律神経系の一部である。交感神経系が身体の「戦うか逃げるか」の反応を提供する神経系として知られる一方、副交感神経系は「休養と消化」の反応を提供する。交感神経活動の刺激は交感神経反応を作動させて、腎臓において血管収縮および体液貯留を高めるホルモンの生成を増加させる。この過程は、腎交感神経活動の上昇に応答するレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)反応と称される。
【0025】
血液量の減少に応答して、腎臓はアンジオテンシンの生成を刺激するレニンを分泌する。アンジオテンシンにより血管は収縮して、血圧が上昇し、副腎皮質からのアルドステロンホルモンの分泌も刺激される。また、アルドステロンによって、腎臓の細管がナトリウムと水の再吸収を増加させて、体液量と血圧が上昇する。
【0026】
うっ血性心不全(CHF)は腎臓機能と関連する症状である。身体全体に有効に血液を送ることができないときにCHFが発症する。血流が低下すると、腎小体内の血液の不十分な潅流のために腎機能が劣化する。腎臓への血流が減少すると、腎臓は交感神経系の活動を上昇させ(すなわち、RAASが過活動となる)、体液貯留および血管拘束を促進するホルモンを分泌する。次いで体液貯留と血管拘束は循環系の周辺抵抗を増大させて、心臓にさらに負荷をかけ、血流をさらに低下させる。心機能および腎機能の低下が継続すると、最終的に身体が抗しがたいほどの負荷を受けて、心疾患代償不全が発生し、患者の入院につながる場合が多い。
【0027】
図1は、右腎10と、腹部大動脈20から側方に分岐する腎動脈12を含む腎脈管構造とを示す。図1では、説明を簡潔にするために右腎10のみが示されているが、以下、右腎および左腎とその関連の腎脈管構造および神経系構造が言及され、そのすべてが本開示の実施形態のコンテクストの範囲に入ると企図される。本開示の様々な特徴と実施形態を説明し易くするため、腎動脈12は右腎10および腹部大動脈20よりも不釣り合いに大きく図示されている。
【0028】
右腎と左腎は、腹部大動脈20の右側面と左側面からそれぞれ分岐する右腎動脈および左腎動脈から血液を供給される。右腎動脈および左腎動脈はそれぞれ腹部大動脈20に略直角になるように横隔膜の脚を横断して方向付けられる。右腎動脈および左腎動脈は腹部大動脈20から腎臓の門17に隣接する腎洞まで実質的に延在し、区動脈に分岐し、その後、腎臓10内の小葉間動脈へと分岐する。小葉間動脈は外側に放射状に広がり、腎被膜を貫通して腎錐体間の腎柱間を通って延在する。通常、腎臓は総心出量の約20%を受け、正常な人の場合、それは1分間当たりに腎臓を通る血流約1200mLに相当する。
【0029】
腎臓の主機能は、尿の生成および濃度を制御することによって身体の水と電解質のバランスを維持することである。尿を生成する際、腎臓は尿やアンモニアなどの老廃物を排出する。腎臓はグルコースとアミノ酸の再吸収も制御し、ビタミンD、レニン、およびエリスロポエチンを含むホルモンの生成に重要な機能を果たす。
【0030】
腎臓の重要な第2の機能は、身体の代謝恒常性を制御することである。止血機能の制御は、電解質、酸塩基平衡、および血圧の調節を含む。たとえば、腎臓は、尿で失われる水分量を調節し、たとえばエリスロポエチンおよびレニンを放出することによって血液量および血圧を調節する任を果たす。腎臓は、尿で失われる量とカルシトリオールの合成を制御することによってプラズマイオン濃度(たとえば、ナトリウム、カリウム、塩化物イオン、カルシウムイオンレベル)も調節する。腎臓によって制御されるその他の止血機能は、尿中の水素および重炭酸イオンの減少を制御することによって血液pHを安定化させること、貴重な栄養物の排出を防止して栄養物を保存すること、解毒で肝臓を支援することを含む。
【0031】
図1には一般的に右の副腎と称される右副腎11も示されている。副腎11は、腎臓10の上にある星形の内分泌腺である。副腎(左右)の主機能は、コルチゾールとアドレナリン(エピネフリン)をそれぞれ含むコルチコステロイドとカテコールアミンの合成を通じて身体のストレス反応を調節することである。腎臓10、副腎11、腎血管12、およびその近傍の腎周囲脂肪は、腎筋膜、たとえば、腹膜腔外の連続組織から得られる筋膜鞘であるジェロータ筋膜(図示せず)によって囲まれている。
【0032】
身体の自律神経系は、血管、消化系、心臓、および分泌腺内の平滑筋の不随意行動を制御する。自律神経系は交感神経系および副交感神経系に分類される。一般用語でいう副交感神経系は、心拍数を低下させ、血圧を低下させ、消化を刺激することによって身体に休養の準備をさせる。交感神経系は、心拍数を上昇させ、血圧を上昇させ、新陳代謝を高めることによって身体の戦うか逃げるか反応(fight−or−flight response)を生じさせる。
【0033】
自律神経系では、中枢神経系から発生し、各種神経節まで延在する線維が節前線維と称される一方、神経節からエフェクタ臓器まで延在する線維は節後線維と称される。交感神経系は、副腎11からのアドレナリン(エピネフリン)と、それより程度は落ちるがノルエピネフリンとの放出を通じて活性化される。このアドレナリン放出は節前交感神経から放出される神経伝達物質のアセチルコリンによって始動される。
【0034】
腎臓および尿管(図示せず)は腎神経14により神経支配される。図1および2A〜2Bは、腎脈管構造の交感神経支配、主に腎動脈12の神経支配を示す。腎脈管構造の交感神経支配の主機能は、腎臓の血流と血圧の調節、レニン放出の刺激、および水とナトリウムイオンの再吸収の直接的刺激を含む。
【0035】
腎脈管構造を支配する神経の大半は、上腸間膜神経節26から生じる交感神経節後線維である。腎神経14は腎動脈12に沿って略軸方向に延在し、門17で腎臓10に入り、腎臓10内の腎動脈12の分岐をたどり、個々のネフロンまで延在する。腎神経節24、上腸間膜神経節26、左右大動脈腎神経節22、および腹腔神経節28などの他の腎神経節も腎脈管構造を神経支配する。腹腔神経節28は比較的多い胸内臓神経(比較的多いTSN)によって連結される。大動脈腎神経節26は比較的少ない胸内臓神経(比較的少ないTSN)によって連結され、腎神経叢の比較的大きな部分を神経支配する。
【0036】
腎臓10への交感神経信号は、主に脊髄分節T10〜T12およびLIから発生する神経支配された腎脈管構造を介して伝達される。副交感神経信号は、主に下脳の延髄から脊髄分節S2〜S4で発生する。交感神経トラフィックは交感神経幹神経節を通って移動し、そこでシナプスを形成するものもあれば、大動脈腎神経節22で(比較的少ない胸内臓神経、すなわち、比較的少ないTSNを介して)および腎神経節24で(最も少ない胸内臓神経、すなわち、最も少ないTSNを介して)シナプスを形成するものもある。その後、シナプス後交感神経信号は腎動脈12の神経14に沿って腎臓10まで進む。シナプス前副交感神経信号は、腎臓10またはその近傍にシナプスを形成する前に腎臓10近傍の部位まで伝わる。
【0037】
特に図2Aを参照すると、腎動脈12は、大半の動脈および細動脈と同様、腎動脈内腔13の径を制御する平滑筋34に裏打ちされている。平滑筋は概して、大小動脈および静脈ならびに各種臓器の中膜層内に見られる不随意平滑筋である。腎臓の糸球体は、たとえば、メサンギウム細胞と呼ばれる平滑筋状の細胞を含む。平滑筋は構造、機能、興奮収縮連関、および収縮機構の点で、骨格筋や心筋と基本的に異なる。
【0038】
平滑筋細胞は自律神経系によって収縮または弛緩するように刺激することができるが、ホルモンおよび血液伝播性電解質および作用薬(たとえば、血管拡張剤または血管収縮剤)に応答して隣接細胞からの刺激に反応することもできる。腎臓10の傍糸球体装置の輸入細動脈内の特定の平滑筋細胞は、たとえば、アンジオテンシンII系を活性化するレニンを生成する。
【0039】
腎神経14は腎動脈壁15の平滑筋34を神経支配し、腎動脈壁15に沿って略軸方向または長手方向に縦に延在する。平滑筋34は図2Bに示されるように、腎動脈の周囲を囲み、腎神経14の長手方向に略横断する方向に縦に延在する。
【0040】
腎動脈12の平滑筋34は自律神経系の不随意制御下にある。交感神経の活動が増大すると、たとえば、平滑筋34が収縮する傾向があり、腎動脈内腔13の径が減少して血液潅流を低減させる。交感神経活動が低下すると、平滑筋34が弛緩する傾向があり、血管拡張が増大して、腎動脈内腔径と血液潅流を増大させる。反対に、副交感神経活動が高まると、平滑筋34が弛緩する傾向があり、副交感神経活動が低下すると、平滑筋が収縮する。
【0041】
図3Aは腎動脈による縦断面の一部を示し、腎動脈12の壁15の各種組織層を示す。腎動脈12の最内側層は、内膜32の最内側層である内皮細胞30であって、内側弾性膜によって支持される。内皮細胞30は、血管腔13を通って流れる血液と接触する細胞の単層である。内皮細胞は通常、多角形、楕円形、または紡錘形であり、非常に特異な円形または楕円形の核を有する。内皮細胞30は、血管収縮および血管拡張、血液凝固による血圧の制御、および内腔13内の含有物と内膜32を中膜34から分離する内膜32の薄膜や外膜36などの周囲組織との間のバリア層としての機能、といった様々な血管機能に関わる。内膜32の薄膜または浸軟は、高弾性の薄く、透明で、無色の構造であり、長手方向の波形パターンを有する。
【0042】
内膜32には、腎動脈12の中間層である中膜33が隣接する。中膜は平滑筋34および弾性組織で構成される。中膜33は線維の色や横配列によって容易に特定することができる。より具体的には、中膜33は主に、薄板または薄膜状に構成され、動脈壁15の周囲に環状に配置される平滑筋繊維34の束から成る。腎動脈壁15の最外層は連続組織で構成される外膜36である。外膜36は、傷の回復に重要な役割を果たす線維芽細胞38を含む。
【0043】
血管周囲領域37は、腎動脈壁15の外膜36近傍の周辺に示されている。腎神経14は外膜36に隣接して示され、血管周囲領域37の一部を通過している。腎神経14は腎動脈12の外壁15に沿って略長手方向に延在するように示されている。腎神経14の本幹は通常、腎動脈12の外膜36内または上に存在し、血管周囲領域37を通過することが多く、特定の分流が中膜33内へと進み腎動脈平滑筋34を弱体化させる。
【0044】
本開示の実施形態は、神経支配された腎脈管構造に様々な程度の除神経治療を提供するために実施することができる。たとえば、本開示の実施形態は本開示の治療装置を使用して行われる除神経治療によって、腎神経刺激伝達遮断の程度および相対的永続度を制御することができる。腎神経損傷の程度および相対的永続度は、交感神経活動の所望の低減(部分的または完全なブロックを含む)を達成し、所望の永続度(一時的または不治の損傷を含む)を実現するように調整することができる。
【0045】
図3Bおよび3Cを参照すると、図3Bおよび3Cに示される腎神経14の部分は神経線維14bの束14aを含み、各束は神経節内、脊髄、または脳内に位置する細胞体またはニューロンを始端または終端とする軸索または樹状突起を備える。神経14の支持組織構造14cは神経内膜(神経軸索線維を囲む)、神経周膜(線維群を囲んで束を形成する)、および神経上膜(束を神経状に縛る)を含み、それらの膜は神経線維14bと束14aを分離および支持するのに供する。具体的には、神経内膜管または細管とも称される神経内膜は、神経束内の神経線維14bのミエリン鞘を包囲する繊細な連続組織層である。
【0046】
ニューロンの主要構成要素は、核と、樹状突起と呼ばれる細胞拡張部と、神経信号を担持するケーブル状の突出部である軸索とを含むニューロンの中央部である体細胞を含む。軸索端末は、神経伝達物質の化学物質が対象組織と通信するために放出される特別な構造であるシナプスを含む。末梢神経系の多数のニューロンの軸索は、シュワン細胞として知られる一種のグリア細胞によって形成されるミエリンで覆われる。ミエリン形成シュワン細胞は軸索に巻き付けられ、ランヴィエ絞輪と呼ばれる規則的に間隔をおいて配置されたノードにおいて軸索鞘は覆われずに残される。軸索のミエリン形成は、サルテーションと呼ばれる特に急速な電気刺激伝播モードを可能にする。
【0047】
いくつかの実施形態では、本開示の治療装置は、腎神経線維14bに一過性で回復不能な損傷を負わせる除神経治療を施すように実施することができる。他の実施形態では、本開示の治療装置は、治療が適時に終了すれば回復可能であるが、腎神経線維14bにより重篤な損傷を引き起こす除神経治療を施すように実施することができる。好適な実施形態では、本開示の治療装置は、腎神経線維14bに重篤で不治の損傷を引き起こす結果、腎交感神経活動を永久的に停止させる除神経治療を施すように実施することができる。たとえば、治療装置は、神経線維14bの神経内膜管を物理的に分離するのに十分な程度まで神経線維の形状を破壊して再生および再神経支配の過程を防止する除神経治療を施すように実施することができる。
【0048】
たとえば、当該業界において既知なセドン分類によると、本開示の治療装置は、一過性伝導障害と一致する腎神経線維14bへの損傷を与えることによって、腎神経線維14bに沿った神経刺激の伝達を遮断する除神経治療を提供するために実施することができる。一過性伝導障害は、神経線維14bまたはその鞘の破壊がない神経障害を指す。この場合、神経線維への神経刺激の断絶があり、ウォラー変性が生じないため、真の再生なしに回復には数時間から数カ月かかる。ウォラー変性は、ニューロンの細胞核から分離した軸索の部分が変性する過程を指す。この過程は順行性変性としても知られる。一過性伝導障害は、本開示の実施形態に係る治療装置を使用して腎神経線維14bに対して与えることのできる最も軽度な形の神経損傷である。
【0049】
治療装置は、軸索断裂症と一致する腎神経線維への損傷を与えることによって、腎神経線維14bに沿った神経刺激の伝達を遮断するように実施することができる。軸索断裂症では、神経線維の軸索の相対的連続性とミエリンの被覆は失われるが、神経線維の連続組織枠組みは保持される。この場合、神経線維14bの被包支持組織14cは保持される。軸索の連続性が失われるため、ウォラー変性が発生する。軸索断裂症は、軸索の再生を通じてのみ回復し、その過程には約数週間または数ヶ月の時間がかかる。電気的には、神経線維14bは急速で完全な変性を示す。再生および再神経支配は、神経内管が損傷を受けない限り発生し得る。
【0050】
治療装置は、神経断裂症に相当する腎神経線維14bへの損傷を与えることによって腎神経線維14bに沿って神経刺激の伝達を遮断するように実施することができる。セドン分類によると、神経断裂症はスキームにおいて最も重篤な神経損傷である。この種の損傷では、神経線維14bと神経鞘の両方が破壊されている。部分的回復はあるかもしれないが、完治は不可能である。神経断裂症は、軸索および被包連続組織14cの連続性を失うことを含み、腎神経線維14bの場合には自律機能が完全に失われる。神経線維14bが完全に分断されたら、軸索の再生により神経腫が近位断端に形成される。
【0051】
神経断裂症の神経損傷のより階層的な分類は、当該技術において既知なサンダーランドシステムを参照して行うことができる。サンダーランドシステムは5度の神経損傷を定義し、最初の2つはセドン分類による一過性伝導障害および軸索断裂症にほぼ相当する。後者3つのサンダーランドシステム分類は、異なるレベルの神経断裂症神経障害を説明している。
【0052】
サンダーランドシステムにおける第1および2度の神経損傷は、セドンの一過性伝導障害および軸索断裂症にそれぞれ類似する。サンダーランドシステムによる第3度の神経損傷は神経内膜の破壊を含み、神経上膜と神経周膜は影響を受けない。回復は束内線維症の程度に応じて不十分から完治に及ぶ。第4度の神経損傷はすべての神経および支持要素の離断を含み、神経上膜は影響を受けない。神経はふつう拡張している。第5度の神経損傷は、連続性を失った神経線維14bの完全な切断を含む。
【0053】
本開示の実施形態は、腎神経の切除中、腎動脈の損傷を低減させる改良された方法を提供する装置および方法に関する。各種実施形態は、近傍の対象組織を切除する際、身体のその他の組織および構造の損傷を低減させる装置および方法に関する。その他の身体の組織、構造、および対象組織の例は、たとえば心調律障害の治療のための肺静脈または電気的活性対象心組織など、臓器、腫瘍、病変組織、および心臓の脈管構造を含む。
【0054】
本開示の実施形態は、電流を使用する、高血圧治療用の血管周囲腎神経切除のための装置および方法に関する。上述したように、腎動脈内に配置されるRF電極を使用する際、最高電流密度、ひいては最高加熱および損傷領域は通常、電極の近傍に適用される。本開示の実施形態は、1セットの隣接RF電極の間で電流を移動させることによって腎動脈への損傷を低減しつつ、対象神経の十分な切除を提供する。
【0055】
各種実施形態によると、1つの電極が始動されると、他の電極に隣接する動脈壁の部分を冷却することができる。電流はセット内の別の電極に切り替えられて、第1の電極に隣接する動脈壁の部分を冷却させることができる。電流は血管周囲組織内で幾分分散するため、セット内の各電極の始動によって加熱される領域が重複して、対象組織の冷却を阻害する。
【0056】
次に図4Aを参照すると、治療部位の対象組織を切除するための複数の順次始動可能なRF電極を含むカテーテル100が図示されている。図4Aは、説明のために提供される概略図である。バルーン102を通る内側内腔はバルーンの膨張を維持しつつガイドワイヤ通路として使用することができ、ガイドワイヤ穴111はこの内側内腔の遠位端の概略表示であると理解されたい。
【0057】
いくつかの実施形態によると、カテーテル100は、近位端および遠位端を有する可撓性シャフト104を含む。治療素子101はシャフト104の遠位端に設けられる。位置決め機構102は、シャフト204の遠位端に設けられ、切除中に治療部位の対象組織に対する治療素子101の位置を保持するように構成される。位置決め機構102は好ましくは、バルーンまたはメッシュ構造などの放射状拡張型構造103を含む。図4Aに示される実施形態では、治療機構101および位置決め機構102は共通構造(たとえば、拡張型構造103)上に配置される。他の実施形態では、治療機構101および位置決め機構102はカテーテル100の別々の構造上に配置することができる。
【0058】
いくつかの実施形態によると、カテーテル100のシャフト104は、経皮位置に対する患者の腎動脈12にアクセスするのに十分な長さを有する。シャフト204の遠位端に設けられる治療素子101は、腎動脈12内に配備される大きさとする。治療素子101は、バルーンまたはメッシュ構造などの、腎動脈12内での治療素子101の位置を保持するように構成された放射状拡張型構造103を備える。
【0059】
図4Bは、電極導体内腔113a、センサ導体内腔113b、ガイドワイヤ内腔111、供給内腔106、および帰還内腔108を含む、図4Aのカテーテル100のシャフト104の断面を示す。供給内腔106および帰還内腔108はそれぞれ、膨張および収縮動作中にバルーン102との間で加圧流体を送出および除去する。
【0060】
電極およびセンサ導体内腔113a、113bはそれぞれ絶縁材料層を含むことができる、および/またはそこに配置される導体はそれぞれ絶縁層を含むことができる。各種実施形態では、所与の電極セット119の各電極120は、電極導体内腔113aを延在する個々の導電体を介して、カテーテル100の導電体機構110に接続される。
【0061】
温度センサ機構121は図4Aに示され、電極セット119内に分布される複数の温度センサ123を含む。温度センサ機構121は、電極120のセット119またはその近傍の温度を感知するように構成される。所与の温度センサ機構121の各温度センサ123は、センサ導体内腔113bを延在する個々の導電体を介してカテーテル100の導電体機構110に接続される。導電体機構110はシャフト104に沿ってカテーテル100の近位端まで延在する。
【0062】
なお、各電極120は対応する数の温度センサ123を有する必要はなく、1つ、2つ、または少数(すなわち、電極120の数よりも少ない数)の温度センサ123を、電極セット119に配備することができる。いくつかの実施形態では、たとえば、電極120のセット119の時間始動および空間位置機構によって提供される電極−組織界面での局地的冷却に鑑み、温度の感知を利用しない。
【0063】
ガイドワイヤ内腔111は、腎動脈などの所望の治療位置へのバルーン102の送達を簡易化するために臨床医によって使用することができるガイドワイヤまたはその他の長尺状誘導支援部材を収容するように構成される。図4Aに示される構造では、ガイドワイヤ内腔111はバルーン102の開放内腔を画定し、バルーン102をたとえば腎動脈に誘導するためにガイドワイヤを該内腔内で前進させる。ガイドワイヤが腎動脈内に配置された後、バルーンカテーテル100はガイドワイヤに沿って前進し、オーバー・ザ・ワイヤ技術を用いて腎動脈の内腔に運ばれる。
【0064】
図4Aおよび5に示されるように、複数の電極120が電極セット119を画定し、治療素子101で互いに対して配置される。電極セット119の電極120は、所定順序で切換可能な始動および停止を行い、対象組織に向けられる重複加熱区域240を生成するように構成される。たとえば、電極セット内の個々の電極は所定順序で通電することができる、あるいはセット内の複数の電極はたとえば電極1および3、次に2と4というように同時に通電することができる。電極の通電は、時間的に一部重複していてもよい。様々な電気波形を用いて特定の電極を通電して、動脈壁損傷を低減しながら対象組織の加熱を高めることができる。図5は、別々のRF電極120からの重複加熱区域と、神経切除のために最も加熱される区域および動脈壁の比較的低温の区域とを概略的に示す。
【0065】
なお、図5では、影付きの円錐は、比較的高い電流密度の区域を概略的に表すために使用されている。実際の電界および電流線はより複雑であり、各種組織のインピーダンスや帰還電極(双極機構が使用される場合、外皮パッドまたは第2の電極)の位置などの多くの要因に依存すると理解されたい。
【0066】
図5は、間欠的加熱によって低温となる動脈壁の重複電流路の少ない領域と、より継続的に通電され、わずかに距離をおいて対象組織の加熱を高める領域とを示す。たとえば、図5の重複加熱区域240は、対象組織を切除するのに十分な治療素子101からの距離での比較的高い電流密度に関連付けられる遠位区域250と、治療素子101近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、遠位区域よりも低い電流密度に関連付けられる近位区域260とを、画定する。
【0067】
近位加熱区域260に関連付けられる電流密度は好ましくは、治療素子101近傍の治療部位で組織の凝固壊死を引き起こすのに必要な電流密度よりも低い。たとえば、近位加熱区域260に関連付けられる電流密度は好ましくは、約50℃超の温度まで治療素子101近傍の組織を加熱させるのに不十分である。対照的に、遠位加熱区域250に関連付けられる電流密度は好ましくは、対象組織を少なくとも約55℃の温度まで加熱するのに十分である。
【0068】
各種実施形態によると、加熱区域240のうち少なくともいくつかは、電極120のセット119の選択的始動および停止に基づき空間的に分離された原点を治療素子101に有する。各加熱区域240は、対象組織を切除するのに十分な治療素子101からの距離において略連続的なオーム加熱の遠位区域250を備える。各加熱区域240は、治療素子101近傍の治療部位の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、治療素子101近傍の間欠的なオーム加熱の近位区域260も備える。
【0069】
いくつかの実施形態によると、電極セット119の電極120は所定順序での切換可能な始動および停止を行い、腎動脈12の血管周囲神経に向けられる重複加熱区域240を生成するように構成することができる。重複加熱区域240は、血管周囲腎神経を切除するのに十分な治療素子101からの距離での比較的高い電流密度に関連付けられる遠位区域250と、治療素子101近傍の腎動脈12の組織に対して全く熱傷を引き起こさない、あるいはごくわずかな熱傷しか引き起こさない、遠位区域250よりも低い電流密度に関連付けられる近位区域260とを画定する。
【0070】
各種実施形態では、電極120のセット119の時間始動機構および空間位置機構は、電極120に隣接して配置される腎動脈組織が熱傷を受ける場合でも、腎動脈壁の相当部分を残すように選択することができる。したがって、わずかな割合の腎動脈組織(すなわち、電極120に隣接して配置されるわずかな割合の腎動脈組織)しか、切除中に熱傷を受けない。
【0071】
いくつかの実施形態では、電極120のセット119の時間始動および空間位置機構によって提供される冷却に加えて、電極−組織界面での局地的冷却を強化する冷却機構を含むことが望ましいかもしれない。血液潅流内腔は治療素子101内または上に組み込むことができ、血管周囲腎神経の切除中に腎動脈12の壁の冷却を行うために使用することができる。たとえば、冷却内腔機構は切除中に、腎動脈12を通過する血液を分流させ、治療素子101によって支持される電極を冷却することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、冷却機構は、治療素子101に組み込まれる長手方向の、または螺旋状の路または溝を構成することができる。路または溝を通過する血液は、切除中に腎動脈12の壁の冷却を強める役割を果たす。受動的または能動的冷却機構は、本開示の実施形態によって提供される動脈壁保護を相乗作用的に向上させることができる。
【0073】
いくつかのアプローチによると、実験によってどの始動順序および電源設定の組み合わせが効率的であるかを判定することができ、そこから標準的な始動計画を確立し使用することができる。単純な温度測定または電気測定(たとえば、インピーダンス、電流、または電圧感知またはそれらの組み合わせ)を、カスタマイズや調節の制限された標準的な始動計画、たとえば、単純な温度測定または電気測定を用いることによって大きさまたは時間で単純に増減された標準的な順序と電源の割合およびタイミングの使用と組み合わせることができる。
【0074】
次に図6を参照すると、電極120の代表セット119は拡張型構造103の一部に相互に間隔をおいて配置されている。温度センサ機構121は電極120のセット119に近接して拡張型構造103に配置される。図6に示されるように、温度センサ機構121の個々の温度センサ123は、電極セット119の各電極120の近傍に配置される。
【0075】
図5および6に示されるように、熱電温度計などの1つまたは複数の温度センサ123が、電極セット119の温度を測定するために電極セット119に設けられる。いくつかの実施形態では、温度センサ123は電極セット123の各電極120またはその近傍に配置され、切除電極機構101の個々の電極位置での正確な温度測定を可能にする。
【0076】
1セットの導電体127は、電極セット119の各電極120と外部電極始動回路間の電気的接続を確立するために拡張型構造103上に配置される。1セットの導電体129は、温度センサ機構121の各温度センサ123と外部温度センサ回路間の電気的接続を確立するために拡張型構造103上に配置される。
【0077】
いくつかの実施形態では、導電体127および129は、拡張型構造103(たとえば、バルーン)を作製するのに使用される非導電ポリマ材料と適切なマスキングと組み合わせて金属層を使用して形成することができる。他の実施形態では、導電体127および129は、非導電材料または被覆および適切なマスキングと組み合わせて導電ワイヤメッシュを用いて形成することができる。別の実施形態では、ワイヤメッシュ構造はワイヤメッシュ、編組、または籠とすることができる。特定の実施の電気的特徴に応じて、ワイヤメッシュ構造は、絶縁または非絶縁導電ワイヤ、非導電またはポリマ構造、あるいはそれらの組み合わせを備えることができる。
【0078】
一形態では、8つの単極電極123のセット119は、腎動脈内の位置を保持するために拡張型バルーンまたはワイヤメッシュ構造103に固定することができる。該セットの導電体127は、動脈12を冷却するが、対象組織の所望の加熱を維持するように各RF電極120を順次始動させる外部電極始動回路に接続される。他の数の電極を使用することもでき、たとえば5つの電極のセットを1−3−5−2−4の順に繰り返して、または最大の動脈冷却を得るように選択されたその他の順番で始動させることができる。
【0079】
腎動脈壁の別の領域に配置される電極123の1つまたは複数の追加セット119は、血管周囲腎神経の別々の場所を切除するのに使用することができる、あるいはカテーテルおよび/または拡張型構造103は別の位置に移動させて、再度始動させることができる。
【0080】
各種実施形態によると、双極電極セットを使用し、始動される電極123の位置を混合することによって、対象組織の加熱を維持するが、動脈を間欠的に加熱および冷却して動脈損傷を最小限に抑えることができる。類似のアプローチでは、他の加熱機構を利用して、交差する隣接位置を順次加熱して、対象組織を切除する加熱区域と動脈12を保護する比較的低温の区域とを生成することができる。類似のアプローチでは、腫瘍切除またはBPH(良性前立腺肥大症)治療などのために、加熱装置に近い組織を保護しつつ、わずかに距離をおいて対象組織を切除するように使用することができる。
【0081】
図7は、各種実施形態に係る、拡張型構造103の一部に配置される複数の電極および温度センサと、外部制御システムの各種構成要素とを示すブロック図である。いくつかの実施形態では、カテーテル101の拡張型構造103に配置される2つ以上の電極セット119を使用することが望ましいかもしれない。2つ、3つ、または4つの電極セット119を、拡張型構造103の別々の長手方向の位置および円周位置に配置することができる。たとえば、4つのオフセット電極セット119はそれぞれ拡張型構造103上の円弧の別々の90度をカバーし、略螺旋形状を画定するように配備することができる。別の例では、3つの電極セット119が拡張型構造103の円弧をそれぞれ120度ずつカバーし、略円周形状を画定するように配備することができる。
【0082】
図7に示される拡張型構造103の部分は複数の電極セット119a〜119nを含み、各電極セットはいくつかの個別に制御される電極120を備える。電極セット119a〜119nはそれぞれ外部電極始動回路320に電気的に接続される。上述したように、各電極セット119a〜119nの各電極120は別々に外部電極始動回路320に接続される。
【0083】
図7に示される拡張型構造103の部分は複数の温度センサアレイ121a〜121nをさらに備え、各アレイはいくつかの独立した温度センサ123を備える。温度センサアレイ121a〜121nはそれぞれ外部温度測定回路328に電気的に接続される。各温度センサアレイ121a〜121nの各温度センサ123は別々に外部温度測定回路328に接続される。
【0084】
外部温度測定回路328は外部電極始動回路320に接続される。各温度センサアレイ121a〜121nの各温度センサ123の温度情報は、外部温度測定回路328によって外部電極始動回路320に提供される。外部電極始動回路320は電源制御部322およびタイミング制御部324を含む。部分的に受信した温度情報に基づいて、外部電極始動回路320は、各電極セット119a〜119nの各電極123の始動順序、および各電極123に供給されるRFエネルギーの量を制御する。
【0085】
図8は、本開示の各種実施形態に係る代表的なRF腎治療装置300を示す。図8に示される装置300は、電源制御回路322およびタイミング制御回路324を備える外部電極始動回路320を含む。RFジェネレータを含む外部電極始動回路320は温度測定回路328に接続され、任意のインピーダンスセンサ326に接続することができる。カテーテル100は、導体、膨張流体、薬剤、アクチュエータ素子、オブチュレータ、センサ、または必要または所望に応じてその他の構成要素などの様々な構成要素を収容するように構成される内腔機構105を組み込んだシャフト104を含む。
【0086】
外部電極始動回路320のRFジェネレータは、患者の背中または腎臓近傍の他の身体の部分と快適に係合するように構成される帰還パッド電極330を含むことができる。RFジェネレータによって生成される高周波エネルギーは、カテーテルのシャフト104の内腔に配置される導体機構110によって、カテーテル101の遠位端で治療素子101に接続される。
【0087】
図8に示される装置を使用する腎除神経治療は通常、腎動脈に配置される治療素子101の1つまたは複数の電極セット119と患者の背中に配置される帰還パッド電極330とを用いて実行され、RFジェネレータは単極モードで動作する。この実施では、1つまたは複数の電極セット119の電極120は単極構造で動作するように構成される。別の実施では、1つまたは複数の電極セット119の電極120は、双極構造で動作するように構成することができ、その場合、帰還電極パッド330は必要とされない。
【0088】
高周波エネルギーは所定の始動順序に従い1つまたは複数の電極セット119を通過して流れ、腎動脈の近傍組織において電流の流れとジュール加熱を生じさせる。電極120の順次始動は上述したように重複加熱区域を生成する機能を果たし、各加熱区域は血管周囲腎神経を切除するのに十分な治療素子101からの距離で略連続的なオーム加熱の遠位区域と、治療素子101近傍の腎動脈組織に熱傷を負わせるには不十分な治療素子101に隣接する間欠的なオーム加熱の近位区域と、を備える。
【0089】
概して、腎動脈組織の温度が約113°F(50℃)を超えて上昇すると、タンパク質が永久的に損傷を受ける(腎神経線維のタンパク質を含む)。約65℃を超えて加熱されると、コラーゲン変性および組織収縮が発生する。約65℃を超えて最高100℃まで加熱されると、細胞壁が破壊されて油が水と分離する。約100℃超では、組織が乾燥する。
【0090】
いくつかの実施形態によると、電極始動回路320は、所定順序に従い、温度測定回路328から受信された信号に応じて、1つまたは複数の電極セット119の電極120の始動および停止を制御するように構成される。電極始動回路320は、対象組織を少なくとも65℃の温度まで加熱させるのに十分なレベルまで加熱する遠位区域内の電流密度を維持し、治療素子の近傍の組織を50℃超の温度まで加熱するのに不十分なレベルまで加熱する近位区域内の電流密度を維持するように、電極120に伝えられる高周波エネルギーを制御する。
【0091】
治療素子101に配置される温度センサ123は腎動脈組織温度の継続的監視を提供し、RFジェネレータの電源は目標温度が達成および維持されるように自動的に調節される。インピーダンスセンサ機構326はRF除神経治療中の電気インピーダンスを測定および監視するのに使用でき、RFジェネレータ320の電源及びタイミングは、インピーダンス測定またはインピーダンスと温度との組み合わせの測定に基づいて調節することができる。切除領域のサイズは主に、治療素子101の電極123のサイズ、数、および形状、印加される電力、およびエネルギーが印加される継続期間によって決定される。
【0092】
マーカバンド314は、処置中の視覚化を可能にするために治療素子101の1つまたは複数の部分に配置することができる。カテーテル101の他の部分、たとえばシャフト104の1つまたは複数の部分(たとえば、ヒンジ機構356)がマーカバンド314を含むことができる。マーカバンド314は、プラチナまたはその他のX線不透過性金属の固体または分割バンドであってもよい。X線不透過性材料は、蛍光スクリーンにまたは他の画像技術で医療処置中に比較的明るい画像を生成することができる材料であると理解される。この比較的明るい画像は、ユーザがカテーテル101の先端、治療素子101、およびヒンジ356など、カテーテル100の特定位置を判定するのを助ける。いくつかの実施形態によると、カテーテル100の編組および/または電極はX線不透過とすることができ、バルーンが拡張型構造103の一部として使用される場合、バルーンに造影剤/生理食塩水を充填することができる。
【0093】
ここに開示される各種実施形態は通常、高血圧の制御のための血管周囲腎神経の切除という状況で説明されている。しかしながら、本開示の実施形態は、その他の状況、たとえば、その他の動脈、静脈、および脈管構造(たとえば、心臓および泌尿器脈管構造と血管)を含む身体のその他の血管、および各種臓器を含む身体のその他の組織内からの切除にも適用可能であると理解されたい。
【0094】
各種実施形態の多数の特徴を各種実施形態の構造および機能の詳細と共に上記の説明で述べたが、この詳細な説明は単に例示的であり、詳細、特に各種実施形態によって例示される部分の構造および機構は、添付の請求項で表現される用語の広範な一般的意味により示される最大の範囲まで変更することができると理解されたい。
図2A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図1
図2B
図3A
図6
図7
図8