特許第5933575号(P5933575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5933575-酸化インジウム含有層の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933575
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】酸化インジウム含有層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/12 20060101AFI20160602BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   C23C18/12
   C01G15/00 B
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-538122(P2013-538122)
(86)(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公表番号】特表2013-543931(P2013-543931A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011068736
(87)【国際公開番号】WO2012062575
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2014年5月14日
(31)【優先権主張番号】102010043668.2
(32)【優先日】2010年11月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュタイガー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイ ヴ ファム
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ティーム
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ メルクロフ
(72)【発明者】
【氏名】アーネ ホッペ
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−115010(JP,A)
【文献】 特開平10−324820(JP,A)
【文献】 特開昭59−198606(JP,A)
【文献】 特開2005−272189(JP,A)
【文献】 特開2001−172006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム含有層を製造するための液相法であって、少なくとも1つの酸化インジウム前駆体と、少なくとも1つの溶剤もしくは分散媒体とを含有する混合物から製造可能な被覆組成物を、以下のa)〜d)の順で、
a) 基板上に塗布し、
b) 該基板上に塗布された組成物を電磁波で照射し、
c) 随意に乾燥させ、且つ、
d) 酸化インジウム含有層へと熱により変換する、
前記方法であって、
・ 酸化インジウム前駆体が、一般式InX(OR)2
[式中、R=アルキル基および/またはアルコキシアルキル基であり且つX=F、Cl、BrまたはIである]
のインジウムハロゲンアルコキシドであり、且つ、
・ 170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する電磁波での照射を実施することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記照射を、183〜187nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する電磁波を用いて実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記照射を、低圧水銀放電ランプを使用して行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのインジウムハロゲンアルコキシドのアルキル基もしくはアルコキシアルキル基が、C1〜C15−アルコキシ基またはアルキルオキシアルキル基であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記インジウムハロゲンアルコキシドが、InCl(OMe)2、InCl(OCH2CH2OCH32、InCl(OEt)2、InCl(OiPr)2またはInCl(OtBu)2であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
組成物の合計質量に対して0.1〜10質量%の割合のインジウムハロゲンアルコキシドInX(OR)2を用いることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、インジウムハロゲンアルコキシドの他に、さらに、他の前駆体を、溶解または分散して有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記他の前駆体が、他の元素のアルコキシドまたはハロゲンアルコキシドであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記他の前駆体が、B、Al、Ga、Ge、Sn、Pb、P、Hf、ZnおよびSbのアルコキシドまたはハロゲンアルコキシドであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの溶剤または分散媒体が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、tert−ブタノール、酢酸ブチル、メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノールまたはトルエンであることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの溶剤または分散媒体が、組成物の合計質量に対して90〜99.9質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
段階b)における照射を、酸素(O2)の存在下で実施することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
構造化された酸化インジウム含有層を製造するための請求項12に記載の方法であって、段階b)における照射を、相応の構造が予め備えられたマスクを通じて行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項14】
段階d)における熱処理の後に段階e)を有し、前記段階e)において、段階b)で照射されていない領域を、水性酸を使用して除去することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
変換を、500℃未満且つ120℃より高い温度で熱により行うことを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
電子素子用の伝導層または半導体層を製造するための、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法によって製造された少なくとも1つの酸化インジウム含有層の使用。
【請求項17】
トランジスタ、ダイオード、センサまたは太陽電池用の伝導層または半導体層を製造するための、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法によって製造された少なくとも1つの酸化インジウム含有層の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム含有層の製造方法、本発明による方法によって製造可能な酸化インジウム含有層並びにその使用に関する。
【0002】
印刷および他の液体堆積プロセスによる半導体電子素子の層の製造は、多くの他の方法、例えば化学気相堆積(CVD)と比較して、プロセス技術の簡略化、およびはるかにより安価な製造コストを可能にし、なぜなら、この場合、半導体の堆積を連続的なプロセスで行うことができるからである。さらにまたより低いプロセス温度の場合、フレキシブル基板の上でも機能し、且つ、随意に(とりわけ非常に薄い層の場合、且つ殊に酸化物半導体の際)、印刷された層の光学的透明性が達成される可能性が開ける。半導体層とは、ここで且つ次の層において、チャネル長20μmを有する素子の場合で、ゲート・ソース間電圧50V、且つソース・ドレイン間電圧50Vの際の電荷担体移動度1〜50cm2/Vsを有すると理解される。
【0003】
印刷または他の液体堆積方法によって製造される素子層の材料が、それぞれの層特性を決定的に規定するので、その選択は各々のこの素子層を含有する素子に重大な影響を及ぼす。印刷された半導体層についての重要なパラメータは、それぞれの電荷担体移動度、並びに、その製造の際に用いられる印刷可能な前駆物質の加工性および加工温度である。該材料は、多数の用途および基板に適するために、良好な電荷担体移動度を有し、且つ、溶液から、且つ明らかに500℃未満の温度で製造可能であるべきである。得られる半導体層の光学的透明性は、多くの新種の用途のために同様に望ましい。
【0004】
酸化インジウム(酸化インジウム(III)、In23)は、3.6〜3.75eVの間の大きなバンドギャップ(蒸着層について測定、H.S. Kim, P.D. Byrne, A. Facchetti, T.J. Marks; J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12580〜12581)ゆえに有望であり、ひいてはよく用いられる半導体である。さらにまた、数百ナノメートル厚の薄膜は、550nmで90%より大きな可視スペクトル領域における高い透明性を有することができる。極めて規則性の高い酸化インジウム単結晶においては、さらに、160cm2/Vsまでの電荷担体移動度を測定できる。しかしながら、これまでのところ、かかる値は溶液からの加工によっては達成することができていない (H. Nakazawa, Y. Ito, E. Matsumoto, K. Adachi, N. Aoki, Y. Ochiai; J. Appl. Phys. 2006, 100, 093706、およびA. Gupta, H. Cao, Parekh, K.K.V. Rao, A.R. Raju, U.V. Waghmare; J. Appl. Phys. 2007, 101, 09N513)。
【0005】
酸化インジウムは多くの場合、酸化スズ(IV) (SnO2)と一緒に半導体混合酸化物ITOとして用いられる。ITO層の比較的高い伝導率と共に可視スペクトル領域での透明性ゆえに、とりわけ液晶ディスプレイ(LCD; liquid crystal display)の分野における、殊に「透明電極」としての用途が見出されている。この、多くの場合はドープされた金属酸化物層は、工業的にとりわけ費用のかかる、高真空中での蒸着法によって製造される。これに対し、ITO被覆基板の経済面での重要性が大きいことに基づき、何らかの、とりわけゾル−ゲル技術に基づく、酸化インジウム含有層の被覆方法が存在する。
【0006】
原理的に、印刷法による酸化インジウム−半導体の製造のためには2つの可能性がある: 1) 粒子法(この場合、(ナノ)粒子が印刷可能な分散液中に存在し、且つ印刷工程の後に焼結工程によって所望の半導体層へと変換される)、並びに、2) 前駆体法(この場合、少なくとも1つの可溶性または分散可能な前駆生成物が、相応の組成物の印刷後に、酸化インジウム含有層に変換される)。ここで、前駆体とは、熱により、または電磁波で分解可能な化合物であり、それを用いて酸素または他の酸化物質の存在または不在下で、金属酸化物含有層を形成できるものであると理解されるべきである。前記粒子法は、前駆体の使用と比べて、2つの重大な欠点を有する: ひとつは、粒子分散液がコロイドの不安定さを有することであり、このことにより(後の層特性に関して不利になる)分散添加剤の使用が必須になることであり、他方は、使用可能な粒子の多くは(例えば不動態化層に基づき)、焼結によって不完全な層しか構成されず、層中にまだ部分的に粒子状の構造が存在することである。粒子の境界で、粒子と粒子の著しい抵抗が生じ、それにより電荷担体の移動度が低下し、且つ全体的な層の抵抗が高まる。
【0007】
酸化インジウム層の製造のための様々な前駆体がある。例えば、インジウム塩の他に、インジウムアルコキシド(ホモレプチック、即ち、インジウムおよびアルコキシド基のみを有する化合物、殊にIn(OR)3型 [式中、R=アルキル基もしくはオキシアルキル基]のインジウム化合物)、およびインジウムハロゲンアルコキシド(即ち、ハロゲン基もアルコキシド基も有するインジウム化合物、殊に、InXm(OR)3-m型 [式中、X=ハロゲン、R=アルキル基もしくはオキシアルキル基、且つm=1,2]の三価のインジウム化合物)を、酸化インジウム含有層の製造のための前駆体として用いることができる。
【0008】
例えば、Marksらは、製造に際してメトキシエタノール中に溶解された、塩InCl3並びに塩基モノエタノールアミン(MEA)を含む前駆体含有組成物が用いられる素子について記載している。組成物をスピンコーティング(Spin−coating)した後、400℃での熱処理によって、相応の酸化インジウム層が生じる(H.S. Kim, P.D. Byrne, A. Facchetti, T.J. Marks; J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12580〜12581および捕捉情報)。
【0009】
インジウム含有組成物に対して、インジウムアルコキシドもしくはインジウムハロゲンアルコキシド含有組成物は、低い温度で酸化インジウム含有被覆物に変換され得るという利点をもたらす。さらには、今までは、ハロゲン含有前駆体が潜在的に、品質の低下したハロゲン含有層をみちびくという欠点を有するという前提から出発していた。この理由から、過去においては、インジウムアルコキシドを用いた層形成のための試みが行われていた。
【0010】
インジウムアルコキシド並びにインジウムハロゲンアルコキシドおよびその合成は、1970年代から既に記載されている。
【0011】
例えば、Carmaltらは、レビュー文献において、とりわけインジウム(III)アルコキシドおよびアルキルアルコキシドの合成、構造および反応性について、この時点で公知であったデータをまとめている(Carmalt et al., Coord. Chem Rev. 250 (2006), 682〜709)。
【0012】
Chatterjeeらは、昔から知られたインジウムアルコキシドの合成について記載している。彼らは、塩化インジウム(III) (InCl3)とナトリウムアルコキシド NaOR[式中、Rは−メチル、−エチル、イソ−プロピル、n−、s−、t−ブチルおよび−ペンチル基を表す]とからのインジウムトリスアルコキシドIn(OR)3の製造について記載している (S. Chatterjee, S. R. Bindal, R.C. Mehrotra; J. Indian Chem. Soc.1976, 53, 867)。
【0013】
Bradleyらは、Chatterjeeらと類似の反応を報告しており、且つ、ほぼ同一の出発材料(InCl3、イソプロピルナトリウム)および反応条件の際に、中心元素として酸素を有するインジウムオキソアルコキシドクラスタを得ている (D.C. Bradley, H. Chudzynska, D.M. Frigo, M.E. Hammond, M.B. Hursthouse, M.A. Mazid; Polyhedron 1990, 9, 719)。
【0014】
生成物中で特に少ない塩素不純物をもたらす、この方法の特に良好な変法は、US2009−0112012号A1内に記載されている。生成物中で可能な限り低い程度の塩素不純物を達成するという努力は、この場合、今までは塩素不純物が電子素子の性能または寿命の低下に寄与するという前提から出発していたことに起因する(例えばUS6426425号B2と比較)。
【0015】
インジウム(III)ハロゲン化物が塩基性媒体中でアルコールと反応する純粋なインジウムアルコキシドの製造についてUS5237081号A内に記載された方法は、同様にインジウムハロゲン化物に、しかしながら他の塩基に基づく。該塩基は低い求核性を有する強塩基であるべきである。例として挙げられた塩基は、実例に挙げられた複素環式ヘテロ環状体の他には、三級アミンである。
【0016】
ホモレプチックインジウムアルコキシド錯体の代替的な合成経路がSeigi Suhらによって、J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 9396〜9404内に記載されている。しかしながら、そこで記載された方法は、非常に煩雑であり、且つ/または市販ではない(ひいては前段階において合成することにおいてなおさら不利である)出発材料に基づく。
【0017】
ハロゲンアルコキシ金属化合物の一般的な製造方法は、US4681959号A内に記載されている: そこには、一般に、金属アルコキシド(殊にテトラアルコキシ化合物、例えばテトラメチルチタネート)の2段階の製造方法が記載され、この場合、少なくとも二価の金属のハロゲン化物とアルコールとを、随意に芳香族溶剤の存在下で、まずは中間生成物(金属のハロゲンアルコキシ化合物)へと反応させる。この場合、生じるハロゲン化水素を、不活性ガス、例えば窒素を用いて除去することが好ましい。
【0018】
インジウムハロゲンアルコキシドおよびその合成は、JP02−113033号AおよびJP02−145459号A内にも記載されている。例えば、JP02−113033号Aは、組み込むべきアルコキシド基に相応するアルコール中に塩化インジウムを溶解した後、特定の割合のアルカリ金属またはアルカリ金属アルコキシドを引き続き添加することによって、インジウムの塩素含有アルコキシドを製造できることを開示している。相応の方法はJP02−145459号Aにも記載されている。
【0019】
インジウムアルコキシドおよびインジウムハロゲンアルコキシドからの酸化インジウム含有層の製造は、原理的に、i) ゾルゲルプロセスによって(この場合、用いられる前駆体を水の存在下で加水分解および次の縮合によってまずはゲルへと反応させ、その後、金属酸化物へと変換する)、または、ii) 無水溶液から行うことができる。この場合、酸化インジウム含有層への変換は熱により、および/または電磁波によって行うことができる。
【0020】
熱による変換を用いた酸化インジウム含有層の製造方法は従来技術に属する。WO2008/083310号A1は、例えば無機層もしくは有機/無機の混成層を基板上に製造するための方法であって、金属アルコキシド(例えば一般式R1M(OR2y-x)またはそのプレポリマーを基板上に塗布し、その後、生じる金属アルコキシド層を、水の存在中で且つ熱を供給しながら水と反応させて硬化させることを記載している。用いることができる金属アルコキシドは、とりわけ、インジウムアルコキシドであってよい。変換後、得られる層を次に熱またはUVで処理することができる。
【0021】
JP01−115010号Aも、ゾル−ゲル法の際の熱による変換に関している。この文献には、加水分解していない組成物よりも長いポットライフを有し、且つ、式In(OR)xCl3-xの塩素含有インジウムアルコキシドを有する、透明伝導性薄層用の組成物が記載されている。この組成物を基板上に塗布した後、基板上のアルコキシドを、水の部分を空気中、200℃までで、次に乾燥させることによってゲル化し、温度400〜600℃で変換できる。
【0022】
JP02−113033号Aは、非金属材料上への静電防止被覆の施与方法であって、非金属材料を、塩素含有インジウムアルコキシドを含む組成物で被覆し、該組成物を空気でゲル化し、次に焼成する前記方法を記載している。
【0023】
JP2007−042689Aは、インジウムアルコキシドを含有していてよい金属アルコキシド溶液、並びにこれらの金属アルコキシド溶液を使用する半導体素子の製造法を記載している。該金属アルコキシド溶液を、熱処理によって酸化物層へと変換できる。
【0024】
JP02−145459号Aは、貯蔵の際に加水分解せず、且つ焼成によって酸化インジウム含有層に変換できる、インジウムハロゲンアルコキシド含有被覆組成物を記載している。
【0025】
JP59−198607号Aは、種々の樹脂からの保護フィルムを有することができる透明伝導性層の製造方法を記載している。該透明伝導性層は、酸化インジウム含有層であってよく、且つ、相応の組成物を基板上に塗布し、乾燥させ、且つ熱により変換する液相法によって製造できる。実施例によれば、InCl(OC372含有組成物を用いることができる。
【0026】
JP59−198606号Aは、InClx(OR)3-xおよび有機溶剤を有し、且つ、有機溶剤に対する水の割合0.1〜10%を有する、透明導電性層を形成するための組成物を記載している。従って、この組成物は、インジウムハロゲンアルコキシドのゾルである。透明伝導性層の形成のために、該組成物を基板上に塗布し、且つ、典型的には150℃で乾燥させ、好ましくは300℃の温度で焼成する。
【0027】
しかしながら、純粋に熱により実施される変換は、それによって微細な構造を作ることができず、且つ、さらには、生じる層特性の正確な制御が可能ではないという欠点を有する。
【0028】
この理由から、電磁波(殊にUV光線)の使用に基づく酸化インジウム含有層の変換方法が開発された。
【0029】
例えば、JP09−157855号Aは、金属酸化物層を製造するためのゾル−ゲル法であって、加水分解によって金属アルコキシドまたは金属塩(例えばインジウムアルコキシドまたはインジウム塩)から製造された金属酸化物ゾルを、基板表面上に塗布し、随意にゲルがまだ結晶化しない温度で乾燥させ、且つ、360nm未満のUV光線で照射する、前記方法を記載している。
【0030】
しかしながら、もっぱら光線によって行われる変換は、長い時間にわたって非常に高いエネルギー密度が必要とされ、この点で装置的に非常に費用がかかるという欠点を有する。この理由から、熱による変換だけではなく電磁波を用いた変換にも基づく方法が開発された。
【0031】
JP2000−016812号Aは、ゾル−ゲル法による金属酸化物層の製造方法を記載している。この場合、基板を、金属塩または金属アルコキシド、殊にIn23−SnO2組成物からの金属酸化物ゾルの被覆組成物で被覆し、そして360nm未満の波長のUV光線で照射し、且つ熱処理する。
【0032】
JP11−106935号Aは、酸化物に基づく透明伝導性膜の製造方法であって、とりわけ金属(例えばインジウム)のアルコキシドを含む無水組成物を基板上に塗布し、そして加熱する、前記方法記載している。該膜をさらに、引き続きUV光線または可視光線(VIS−Strahlung)を用いて、金属酸化物に基づく薄層に変換できる。
【0033】
DE102009054997号は、無水溶液からの酸化インジウム含有層の製造のための液相方法であって、少なくとも1つの溶剤もしくは分散媒体と、式InX(OR)2の少なくとも1つの前駆体とを含有する無水組成物を、無水雰囲気中で基板上に塗布し、<360nmの電磁波で照射し、且つ熱により変換する、前記方法を記載している。
【0034】
しかしながら、熱による変換と電磁波を用いた変換とを併用することによる酸化インジウム含有層を製造するための公知の方法は、文献内に詳細に記載されるインジウムアルコキシドの使用が、明らかに劣悪な半導体特性を有するという欠点を有する。さらには、熱による変換と電磁波もしくはUV光線を用いた変換との併用ですら、それだけでは、殊に生じる電界効果移動度μFETに関して、充分に満足な結果をもたらさない。
【0035】
従って、記載された従来技術の欠点を克服し、且つ、酸化インジウム含有層を製造するための改善された方法を提供することが課題である。
【0036】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載の酸化インジウム含有層を製造するための液相法であって、少なくとも1つの酸化インジウム前駆体と、少なくとも1つの溶剤もしくは分散媒体とを含有する混合物から製造可能な被覆組成物を、以下のa)〜d)の順で、
a) 基板上に塗布し、
b) 該基板上に塗布された組成物を電磁波で照射し、
c) 随意に乾燥させ、且つ
d) 酸化インジウム含有層へと熱により変換し、
ここで、
・ 酸化インジウム前駆体が、一般式InX(OR)2
[式中、R=アルキル基および/またはアルコキシアルキル基であり且つX=F、Cl、BrまたはIである]
のインジウムハロゲンアルコキシドであり、且つ、
・ 170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する電磁波での照射を実施する、
前記方法によって解決される。
【0037】
酸化インジウム含有層を製造するための本発明による液相法は、被覆される基板を、一般式InX(OR)2 [式中、R=アルキル基および/またはアルコキシアルキル基であり、且つX=F、Cl、BrまたはIである]の少なくとも1つのインジウムハロゲンアルコキシドに基づく液体の被覆組成物で被覆し、電磁波で照射し、随意に次に乾燥させ、引き続き熱により変換する、少なくとも1つの工程段階を含む方法である。殊にこの方法はスパッタまたはCVD法ではない。本発明の意味における液体組成物とは、SATP条件(「Standard Ambient Temperature and Pressure」、T=25℃およびp=1013hPa)で、且つ、被覆される基板に塗布する際に液体で存在する組成物であると理解される。
【0038】
ここで、一般式InX(OR)2の少なくとも1つの酸化インジウム前駆体を含有する混合物から製造できる被覆組成物とは、前駆体InX(OR)2を含有する被覆組成物であるとも理解されるし、(随意にInX(OR)2に追加して)InX(OR)2から、少なくとも1つの溶剤もしくは分散媒体と混合して製造可能なインジウムオキソアルコキシドまたはインジウムハロゲンオキソアルコキシド(殊に一般式In72(OH)(OR)124(ROH)xまたはIn626(OR)6(R’CH(O)COOR’’)2(HOR)x(HNR’’’2yのもの)を含有する被覆組成物であるとも理解される。しかしながら、本発明による方法を、InX(OR)2を含有する被覆組成物を用いて実施することが好ましい。
【0039】
本発明による方法の工程産物である酸化インジウム含有層とは、本質的に酸化状態で存在するインジウム原子もしくはインジウムイオンを有する金属もしくは半金属層であると理解される。随意に、該酸化インジウム含有層は、完全ではない変換、または不完全な除去に相応する副生成物からの窒素部分(反応から)、炭素部分(殊にカルベン部分)、ハロゲン部分および/またはアルコキシド部分を有することがある。この場合、該酸化インジウム含有層は、純粋な酸化インジウム層であることができ、即ち、生じ得る窒素部分、炭素部分(殊にカルベン部分)、アルコキシド部分、またはハロゲン部分を考慮に入れない場合、本質的に、酸化された形で存在するインジウム原子もしくはインジウムイオンからなるか、または、部分的に、元素の形または酸化された形で存在し得るさらなる金属、半金属、または非金属を有することができる。純粋な酸化インジウム層を作製するために、本発明による方法では、インジウムハロゲンアルコキシドのみ、好ましくは1つのインジウムハロゲンアルコキシドのみを用いるべきである。これに対して、他の金属、半金属および/または非金属を有する層を作製するためには、インジウムハロゲンアルコキシドの他に、酸化数0でのこれらの元素の前駆体(中性の形でさらなる金属を含有する層の製造のために)、もしくは正の酸化数での元素を含有する、酸素含有前駆体(例えば他の金属アルコキシドまたは金属ハロゲンアルコキシド)が用いられる。
【0040】
意外なことに、ハロゲン含有前駆体が必然的に不利な層をもたらすという従来の仮定が常に当てはまるわけではないことがさらに判明した。例えば液体の酸化インジウム前駆体組成物を基板上に塗布し、且つその被膜を熱による変換の前にまずUV光線で処理するという本発明による方法の場合、インジウムアルコキシドの代わりにインジウム塩素ジアルコキシドを使用することに基づき、より良好な層すら得られ、なぜなら、これはより良好な電気特性、殊に高い電界効果移動度を有するからである。さらには、インジウムアルコキシドの代わりにインジウムハロゲンジアルコキシドを使用する場合、さらに意外なことに、アモルファス層を得ることができる。アモルファス層は、個々のナノ結晶からの層に比べて、均質性がより高いという利点を有しており、このことは同様に、より大きな基板上でのより良好な電気特性、殊に均一な電界効果移動度において注目される。
【0041】
電磁波での照射は、本発明によれば170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する電磁波を用いて行う。この場合、「170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で」有する光線とは、照射されるべき試料に対して、この2つの波長範囲について概して特定の強度が少なくとも5mW/cm2であり、ただしこの場合、この2つの範囲の、強度がより弱いほうでは、基板に対する強度が少なくとも0.5mW/cm2である光線と理解される。絶対値は、種々の市販の装置を用いて直接的に、且つ、波長に依存して測定することができる。例としては、Hamamatsu社の「UV Power Meter C9536」を挙げることができる。
【0042】
好ましくは、μFETについて特に良好な値をみちびくので、183〜187nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する電磁波での照射を行い、その際、ここでもまた、「有意な割合」という用語に対応する理解は、照射されるべき試料に対して、この2つの波長範囲について概して特定の強度が少なくとも5mW/cm2であり、ただし、この2つの範囲の強度がより弱いほうでは、常に基板に対する強度が少なくとも0.5mW/cm2である、ということに基づく。
【0043】
特に良好な結果は、さらに、170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有利な割合で有する光線、183〜187nmの範囲および250〜258nmの範囲を有意な割合で有するさらに好ましい相応の光線が、2つの軸に関してそれぞれリニアスケールでの強度−波長スペクトルにおいて、ランプの全体の放射に対して、少なくとも85%の強度(スペクトルの全ての波長に対する積分として計算された光線の合計強度における、部分領域の積分の合計のパーセント割合について計算)を、両方のそれぞれ挙げられた領域内で有する場合に達成される。
【0044】
170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を著しい割合で有する相応の光線は、好ましくは低圧水銀放電ランプ、殊に石英ガラスの低圧水銀放電ランプを使用することによって発生させることができる。特に好ましく使用可能な石英ガラスの低圧水銀放電ランプは、照明装置GLF−100を備えた、商品名Model 144AX−220として入手されるJelight Company, Inc社のランプであり、そのスペクトルを図1に示す。
【0045】
本発明によって使用される酸化インジウム前駆体InX(OR)2は、好ましくは、C1〜C15−アルキル基またはアルキルオキシアルキル基、即ち、合計1〜15個の炭素原子を有するアルキル基またはアルキルオキシアルキル基の群から選択されるアルキル基もしくはアルキルオキシアルキル基Rを有する。好ましくは、−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2OCH3、−CH(CH32または−C(CH33から選択されるアルキル基もしくはアルキルオキシアルキル基である。
【0046】
インジウムハロゲンアルコキシドは、同一もしくは異なるR基を有することができる。しかしながら、好ましくは、本発明による方法のために、同一のアルキル基もしくはアルキルオキシアルキル基Rを有するインジウムハロゲンアルコキシドが用いられる。
【0047】
原理的に、インジウムハロゲンアルコキシドにおいて、全てのハロゲンを用いることができる。しかしながら、とりわけ特に良好な結果は、インジウム塩素アルコキシドが用いられる場合、即ち、X=Clの場合に達成される。
【0048】
最良の結果は、用いられるインジウムハロゲンアルコキシドが、InCl(OMe)2、InCl(OCH2CH2OCH3)、InCl(OEt)2、InCl(OiPr)2またはInCl(OtBu)2である場合に達成される。
【0049】
インジウムハロゲンアルコキシドInX(OR)2は、組成物の合計質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%の割合、特に好ましくは0.5〜6質量%の割合、とりわけ特に好ましくは1〜5質量%の割合で用いられる。
【0050】
インジウムハロゲンアルコキシドを含む組成物は、これを、溶解、即ち解離、もしくは、分子レベルに溶剤分子と錯化、または液相中に分散して有することができる。
【0051】
本発明による方法は、インジウム含有前駆体のみが使用される場合、高品質および良好な特性を有するIn23層の製造のために特に良好に適している。特に良好な層は、唯一の用いられる前駆体がインジウムハロゲンアルコキシドである場合に得られる。
【0052】
しかしながら、該組成物は、インジウムハロゲンアルコキシドの他に、さらなる前駆体、好ましくは他の元素のアルコキシドおよびハロゲンアルコキシドを溶解または分散して有することができる。B、Al、Ga、Ge、Sn、Pb、P、Hf、ZnおよびSbのアルコキシドおよびハロゲンアルコキシドが特に好ましい。とりわけ特に有利に用いられるアルコキシドおよびハロゲンアルコキシドは、化合物Ga(OiPr)3、Ga(OtBu)3、Zn(OMe)2、Sn(OtBu)4である。それに応じて、これらの化合物の使用により、さらにまたB、Al、Ga、Ge、Sn、Pb、P、ZnおよびSbの元素もしくはそれらの酸化物を有する、酸化インジウム含有層を製造できる。
【0053】
該組成物はさらに、少なくとも1つの溶剤もしくは分散媒体を有する。従って、該組成物が2つまたはそれより多くの溶剤もしくは分散剤を有することもできる。しかしながら、特に良好な酸化インジウム含有層を達成するためには、1つだけの溶剤もしくは分散媒体が組成物中に存在するべきである。
【0054】
好ましく用いることができる溶剤もしくは分散媒体は、非プロトン性溶剤および弱プロトン性溶剤もしくは分散媒体、即ち、非プロトン性無極性溶剤/分散媒体の群、即ち、アルカン、置換アルカン、アルケン、アルキン、脂肪族または芳香族の置換基を有するまたは有さない芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素、テトラメチルシランの群から、非プロトン性極性溶剤/分散媒体の群、すなわち、エーテル、芳香族エーテル、置換エーテル、エステルまたは酸無水物、ケトン、第三級アミン、ニトロメタン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)またはプロピレンカーボネートの群および弱プロトン性溶剤/分散媒体の群、即ち、アルコール、第一級アミンおよび第二級アミンおよびホルムアミドの群から選択されるものである。特に好ましく用いることができる溶剤もしくは分散媒体は、アルコール並びにトルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、n−ヘキサン、n−プタン、トリス−(3,6−ジオキサヘプチル)−アミン(TDA)、2−アミノメチルテトラヒドロフラン、フェネトール、4−メチルアニソール、3−メチルアニソール、メチルベンゾエート、酢酸ブチル、酢酸エチル、メトキシエタノール、ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラリン、エチルベンゾエートおよびジエチルエーテルである。とりわけ特に好ましい溶剤もしくは分散媒体は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、tert−ブタノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノールおよびトルエン、並びにそれらの混合物である。溶剤が、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、tert−ブタノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、1−メトキシ−2−プロパノール、およびトルエンであれば、毒性が低いので、さらに好ましい。
【0055】
溶剤もしくは分散媒体は、好ましくは組成物の合計質量に対して99.9〜90質量%の割合で用いられる。
【0056】
好ましくは、本発明による方法で用いられる組成物は、特に良好な印刷能力を得るために、DIN53019 Part1〜2に準拠して測定し、且つ20℃で測って、1mPa・s〜10Pa・sの粘度、殊に1mPa・s〜100mPa・sの粘度を有する。相応の粘度を、ポリマー、セルロース誘導体、または例えば商品名Aerosilとして入手可能なSiO2、および殊に好ましくはPMMA、ポリビニルアルコール、ウレタン増粘剤またはポリアクリレート増粘剤を添加することによって調整できる。
【0057】
本発明による方法で用いられる基板は、好ましくはガラス、シリコン、二酸化シリコン、金属酸化物または遷移金属酸化物、金属またはポリマー材料、殊にPI、PEN、PEEK、PCまたはPETからなる基板である。
【0058】
本発明による方法は、特に有利には印刷法(殊にフレキソ/グラビア印刷、インクジェット印刷、とりわけ特に好ましくは連続的な熱またはピエゾ式インクジェット印刷、オフセット印刷、デジタルオフセット印刷およびスクリーン印刷)、噴霧法、回転塗布法(「スピンコーティング」)、浸漬法(「ディップコーティング」)から選択される被覆方法、およびメニスカスコーティング、スリットコーティング、スロットダイコーティング、およびカーテンコーティングから選択される方法である。とりわけ特に好ましくは、本発明による方法は印刷法である。印刷法として、殊に、インクジェット並びに液体トナー法(例えばHP Indigo)が適しており、なぜなら、この方法は、印刷材料を構造化して施与するために特に良好に適しているからである。
【0059】
既に説明されたとおり、170〜210nmの範囲および250〜258nmの範囲の光線を有意な割合で有する光線での照射を行う。その際、酸素(O2)の存在中で照射を実施する場合に、特に良好な結果が得られる。とりわけ特に良好な結果は、15〜25容積%の酸素を含有する雰囲気中で照射を行う場合に得られる。酸素の使用は、本発明による方法の際、選択された波長によってO2から選択的に原子の酸素(O)もしくはオゾン(O3)が生じ、それが前駆体の有機基と反応し、ひいては特定の等級の酸化インジウム含有層への熱による変換のために必要な温度が下がるという利点を有する。
【0060】
本発明による方法によって構造化された半導体層を、段階b)において、相応の構造を予め備えたマスクを通じて照射する場合に、特に良好に製造できる。相応の原子状酸素は、マスクを通じて出入りできる位置の有機前駆体成分と反応するか、もしくはそれを除去する。それによって選択的に照射された領域は、それに基づき、照射されていない領域よりも、熱処理後に後処理に対する耐久性がある。照射されていない領域は、熱処理後に既に、殊に弱酸(特に好ましくは0.1Mのシュウ酸)を用いることによって除去されている。従って、相応の構造を予め備えたマスクを通じて段階b)における照射を行い、熱処理後に、段階e)において照射されていない領域を水性の酸を用いて除去する相応の方法も、本発明の対象である。特に好ましいマスクの種類は、接触マスクおよびシャドウマスクである。接触マスクは、試料上に載っているマスクであって、構造化が実施されるべき位置で開口部、またはより薄い材料の濃度の領域(殊に孔)を有するものである。特に好ましい接触マスクの種類は、最終的なレイアウトをもたらす、エッチングまたはレーザー切断された、開口部を有する板である。接触マスクとは対照的に、シャドウマスクは構造化の際に、試料に対して若干の間隔をあけて用いられる。好ましいシャドウマスクは、石英ガラスからなり、なぜなら、石英ガラスは、UV光について透過性であるという利点を有するからである。影になる領域は、好ましくはクロムを蒸着され、且つ、UV光の透過を回避する。相応のシャドウマスクは、しばしば、クロム−ガラスマスクとも称される。有利には、シャドウマスクはおよび非接触マスクが用いられ、なぜなら、これらは試料表面と直接的に接触しないで用いられるという利点を有するからである。
【0061】
酸化インジウム含有層を製造するための本発明による方法は、さらには、水の存在または不在下での実施について、原則的に同様に適している。この場合、「水の存在下」での実施とは、殊に、酸化インジウム前駆体を照射前に、水の存在下でゲルに変換し、その後、照射する、ゾル−ゲル法であると理解される。しかしながら、本発明による方法を、ゾル−ゲル法としてではなく実施することが、方法の運用が容易であるので好ましい。
【0062】
さらには、原則的に本発明による方法を、完全に無水の雰囲気中(即ち、500ppm未満の水の存在下)、且つ、無水の組成物(即ち、同様に500ppm未満の水を含有するもの)を用いて実施できるか、または、相応の含水雰囲気中且つ含水組成物を用いて実施できる。特に良好な結果を達成するために、殊に、可能な限り平坦な表面を達成するために、相対湿度は70%以下である。
【0063】
被覆および照射後、且つ変換前に、被覆基板をさらに、好ましくは乾燥させる。このための相応の措置および条件は当業者に公知である。乾燥は、本質的に材料の転換はまだ生じず、溶剤もしくは分散媒体が除去される温度という点で、変換とは異なる。熱通路において乾燥を実施するのであれば、温度は120℃以下である。
【0064】
酸化インジウム含有層への最後の変換を、熱通路で行う。好ましくは最後の変換を、500℃未満且つ120℃より高い温度で行う。しかしながら、変換のために150℃〜400℃の温度を用いた場合、特に良好な結果を達成できる。この温度を実現するための方法は、好ましくはオーブン、熱風、ホットプレート、赤外線、および電子線を利用することに基づく。
【0065】
この場合、典型的には、数秒から数時間までの変換時間が用いられる。
【0066】
さらに、熱による変換を、熱処理前、熱処理の間、または熱処理後に、UV光線、赤外線、または可視光線を照射するか、または被覆された基板を空気もしくは酸素で処理することによって促進できる。
【0067】
さらに、本発明による方法によって作製された膜の品質は、変換段階に引き続き組み合わされた温度処理とガス処理(H2またはO2を用いる)、プラズマ処理(Arプラズマ、N2プラズマ、O2プラズマまたはH2プラズマ)、レーザー処理(UV、可視光線または赤外線領域の波長)、またはオゾン処理によってさらに改善できる。
【0068】
厚さを増すために、被覆工程を繰り返すことができる。この場合、被覆工程は、それぞれ個々の塗膜を電磁波で照射し、そして変換するか、または、複数の塗膜について、それぞれ電磁波照射を引き続き行い、最後の塗膜の後に、熱による唯一の変換段階を用いて行われる。
【0069】
さらに、本発明の対象は、本発明による方法によって製造可能な酸化インジウム含有層である。この場合、純粋な酸化インジウム層である、本発明による方法によって製造可能な酸化インジウム含有層が、特に良好な特性を有する。既に先述したとおり、その製造に際して、インジウム含有前駆体のみ、好ましくはインジウムハロゲンアルコキシドのみ、特に好ましくはインジウムハロゲンアルコキシドのみを用いる。
【0070】
本発明による方法によって製造可能な酸化インジウム含有層は、有利には、電子素子用の伝導層または半導体層の製造のために、殊にトランジスタ(殊に薄膜トランジスタ)、ダイオード、センサまたは太陽電池の製造のために適している。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】商品名Model 144AX−220として入手されるJelight Company, Inc社のランプのスペクトルを示す図である。
【0072】
以下の実施例は、それに限定されることなく、本発明の対象をより詳細に説明する。
【0073】
実施例:
実施例(前駆体としてのインジウム塩素アルコキシド)
エッジ長約15mmを有し、且つ、約200nm厚のシリコン酸化膜、およびITO/金によるフィンガー構造を有する、ドープされたシリコン基板に、エタノール中、1.0質量%のInCl(OMe)2溶液100μlを塗布した。その後、スピンコーティングを2000rpmで(5秒間)行う。被覆された基板を、この被覆工程の直後に、5分間、水銀放電ランプから生じるUV光線(照明装置 GLF−100、Jelight 144AX−220、石英、Jelight)を用い、150〜300nmの波長範囲で照射する。引き続き、該基板を1時間、ホットプレート上、350℃の温度で加熱する。変換後、グローブボックス内で電界効果移動度についての値μFET=8.5cm2/Vsが測定された。
【0074】
比較例(前駆体としてのインジウムアルコキシド)
エッジ長約15mmを有し、且つ、約200nm厚のシリコン酸化膜、およびITO/金によるフィンガー構造を有する、ドープされたシリコン基板に、エタノール中、1.0質量%のIn(OiPr)3溶液100μlを塗布した。その後、スピンコーティングを2000rpmで(5秒間)行う。被覆された基板を、この被覆工程の直後に、5分間、水銀放電ランプから生じるUV光線(照明装置 GLF−100、Jelight 144AX−220、石英、Jelight)を用い、150〜300nmの波長範囲で照射する。引き続き、該基板を1時間、ホットプレート上、350℃の温度で加熱する。変換後、グローブボックス内で電界効果移動度についての値μFET=3.8cm2/Vsが測定された。
【0075】
比較例(前駆体としてのインジウム塩素アルコキシドおよび代替のUV光源)
エッジ長約15mmを有し、且つ、約200nm厚のシリコン酸化膜、およびITO/金によるフィンガー構造を有する、ドープシリコン基板に、エタノール中、1.0質量%のInCl(OMe)2溶液100μlを塗布した。その後、スピンコーティングを2000rpmで(5秒間)行う。被覆された基板を、この被覆工程の直後に、5分間、水銀放電ランプから生じるUV光線(照明装置 GLG−100, Jelight 144AX−220、無オゾン、Jelight、波長<210nmの光線がない)を用い、230〜350nmの波長範囲で照射する。引き続き、該基板を1時間、ホットプレート上、350℃の温度で加熱する。変換後、グローブボックス内で電界効果移動度についての値μFET=4.5cm2/Vsが測定された。
図1