(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被験体における軸索再生を促進するための組成物であって、該組成物は、複能性成体前駆細胞(MAPC)または該幹細胞から分泌される因子を含み、該組成物は、該軸索再生を促進するために十分な時間、十分な量で投与されるものであることを特徴とし、
ここで、該MAPCが、複数の胚性胚葉の細胞型に分化し、かつ/またはoct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1、sox−2およびSSEA4の1つまたは複数を発現する能力を有することを特徴とし、
該ニューロン損傷は、脊髄損傷の結果である、
組成物。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、脊髄損傷後の再生不全の概略図である。
【
図2】
図2は、in vivoでの軸索ダイバックの概略図である。
【
図3-1】
図3は、後柱圧壊後のマクロファージ浸潤および軸索ダイバックの実際の図およびグラフ表示である。マクロファージ浸潤は、脊髄損傷後の軸索退縮と相関している。脊髄損傷後に時間の経過に伴う上行性感覚軸索の大幅な退縮が存在する。A、B、病変後の後柱圧壊(DCC)脊髄損傷2日目(A)および7日目(B)の厚さ20μmの縦方向切片の画像モンタージュを示す。Dex−TR、テキサスレッド結合デキストラン3000MW。切片の向きは、尾側が画像の左側に、吻側が右側にくるようになっている。下の白色のボックスは、各時点の1匹の動物の複数の切片の重ね合わせた線維トレーシングによる病変の中心(点線)に対する軸索の位置を表す。ルーラーティックマークは、200μmきざみの増分を示す。A、病変後2日目に、後根神経節(赤)が、GFAP+反応性星状細胞(青)によりマークされた病変の中心の軸索切断の最初の部位から短距離退縮した。病変内に活性化ミクログリア細胞である可能性が最も高いいくつかのED−1+細胞(緑)が存在する。B、病変後7日目までに、損傷した軸索(赤)が病変の中心から大幅に退縮した。病変および周囲組織が、主として浸潤性マクロファージであるED−1+細胞(緑)で満たされているが、反応性星状細胞(青)が病変コアを空にした。C、平均軸索退縮の時間的推移を示すグラフ。退縮の大部分は病変後7日間に発生したが、試験期間である病変後28日まで続いていた。軸索退縮(黒色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14、28日目と有意に異なっている(一元配置ANOVA、F(4,40)=6.50、p<0.001;テュキーの事後検定、#p<0.05、
*p<0.01、
**p<0.001)。マクロファージ枯渇(赤色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14および28日目と有意であり、4日目は14および28日目と有意であり、7日目は2および14日目と有意である(一元配置ANOVA、F(4,40)=22.83、p<0.001;テュキーの事後検定、
*p<0.01、
**p<0.001、
***p<0.0001)。エラーバーは、SEMを示す。スケールバー:A、B、250μm。
【
図3-2】
図3は、後柱圧壊後のマクロファージ浸潤および軸索ダイバックの実際の図およびグラフ表示である。マクロファージ浸潤は、脊髄損傷後の軸索退縮と相関している。脊髄損傷後に時間の経過に伴う上行性感覚軸索の大幅な退縮が存在する。A、B、病変後の後柱圧壊(DCC)脊髄損傷2日目(A)および7日目(B)の厚さ20μmの縦方向切片の画像モンタージュを示す。Dex−TR、テキサスレッド結合デキストラン3000MW。切片の向きは、尾側が画像の左側に、吻側が右側にくるようになっている。下の白色のボックスは、各時点の1匹の動物の複数の切片の重ね合わせた線維トレーシングによる病変の中心(点線)に対する軸索の位置を表す。ルーラーティックマークは、200μmきざみの増分を示す。A、病変後2日目に、後根神経節(赤)が、GFAP+反応性星状細胞(青)によりマークされた病変の中心の軸索切断の最初の部位から短距離退縮した。病変内に活性化ミクログリア細胞である可能性が最も高いいくつかのED−1+細胞(緑)が存在する。B、病変後7日目までに、損傷した軸索(赤)が病変の中心から大幅に退縮した。病変および周囲組織が、主として浸潤性マクロファージであるED−1+細胞(緑)で満たされているが、反応性星状細胞(青)が病変コアを空にした。C、平均軸索退縮の時間的推移を示すグラフ。退縮の大部分は病変後7日間に発生したが、試験期間である病変後28日まで続いていた。軸索退縮(黒色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14、28日目と有意に異なっている(一元配置ANOVA、F(4,40)=6.50、p<0.001;テュキーの事後検定、#p<0.05、
*p<0.01、
**p<0.001)。マクロファージ枯渇(赤色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14および28日目と有意であり、4日目は14および28日目と有意であり、7日目は2および14日目と有意である(一元配置ANOVA、F(4,40)=22.83、p<0.001;テュキーの事後検定、
*p<0.01、
**p<0.001、
***p<0.0001)。エラーバーは、SEMを示す。スケールバー:A、B、250μm。
【
図3-3】
図3は、後柱圧壊後のマクロファージ浸潤および軸索ダイバックの実際の図およびグラフ表示である。マクロファージ浸潤は、脊髄損傷後の軸索退縮と相関している。脊髄損傷後に時間の経過に伴う上行性感覚軸索の大幅な退縮が存在する。A、B、病変後の後柱圧壊(DCC)脊髄損傷2日目(A)および7日目(B)の厚さ20μmの縦方向切片の画像モンタージュを示す。Dex−TR、テキサスレッド結合デキストラン3000MW。切片の向きは、尾側が画像の左側に、吻側が右側にくるようになっている。下の白色のボックスは、各時点の1匹の動物の複数の切片の重ね合わせた線維トレーシングによる病変の中心(点線)に対する軸索の位置を表す。ルーラーティックマークは、200μmきざみの増分を示す。A、病変後2日目に、後根神経節(赤)が、GFAP+反応性星状細胞(青)によりマークされた病変の中心の軸索切断の最初の部位から短距離退縮した。病変内に活性化ミクログリア細胞である可能性が最も高いいくつかのED−1+細胞(緑)が存在する。B、病変後7日目までに、損傷した軸索(赤)が病変の中心から大幅に退縮した。病変および周囲組織が、主として浸潤性マクロファージであるED−1+細胞(緑)で満たされているが、反応性星状細胞(青)が病変コアを空にした。C、平均軸索退縮の時間的推移を示すグラフ。退縮の大部分は病変後7日間に発生したが、試験期間である病変後28日まで続いていた。軸索退縮(黒色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14、28日目と有意に異なっている(一元配置ANOVA、F(4,40)=6.50、p<0.001;テュキーの事後検定、#p<0.05、
*p<0.01、
**p<0.001)。マクロファージ枯渇(赤色グラフ)は次の通りである:2日目は7、14および28日目と有意であり、4日目は14および28日目と有意であり、7日目は2および14日目と有意である(一元配置ANOVA、F(4,40)=22.83、p<0.001;テュキーの事後検定、
*p<0.01、
**p<0.001、
***p<0.0001)。エラーバーは、SEMを示す。スケールバー:A、B、250μm。
【
図4-1】
図4は、in vitroでニューロンダイバックを誘発するマクロファージの経時的モンタージュを示す図である。マクロファージは、グリア瘢痕のin vitroモデルにおけるジストロフィー成体後根神経節軸索の大幅な退縮を誘発する。A、成長促進細胞外マトリックス分子ラミニンおよび強力阻害性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの逆スポット勾配上で成長するジストロフィー成体後根神経節ニューロンの培養物に、NR8383マクロファージを添加した、低速度撮影動画からの単一フレーム画像の6パネルモンタージュ。各フレームの時間を各画像の右下に示し、矢印は成長円錐の中心ドメインを示す。アステリスクは、フレームシフト時の成長円錐の位置の基準としての培養物中の定点を示す。最初のマクロファージと成長円錐との接触は、30分目のマクロファージの添加直後に行われた。61分目に第2のマクロファージとジストロフィー軸索との間に物理的接触が認められる。110分目に退縮が始まったときに、その他のマクロファージが軸索の軌道を物理的に変化させた。150分目に成長円錐が多数のマクロファージにより見えなくなり、退縮してフレームからほぼ外れた状態になった。スケールバー、20μm。B、Aにおける完全な低速度撮影動画の成長円錐を追跡した位置グラフ。各ポイントは、単一フレームの成長円錐の中心ドメインの位置を表す(30秒ごと)。軸索は、マクロファージ接触の後に約100μmという大規模な退縮を受けた。C、他の代表的な低速度撮影実験からの位置グラフ。
【
図4-2】
図4は、in vitroでニューロンダイバックを誘発するマクロファージの経時的モンタージュを示す図である。マクロファージは、グリア瘢痕のin vitroモデルにおけるジストロフィー成体後根神経節軸索の大幅な退縮を誘発する。A、成長促進細胞外マトリックス分子ラミニンおよび強力阻害性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの逆スポット勾配上で成長するジストロフィー成体後根神経節ニューロンの培養物に、NR8383マクロファージを添加した、低速度撮影動画からの単一フレーム画像の6パネルモンタージュ。各フレームの時間を各画像の右下に示し、矢印は成長円錐の中心ドメインを示す。アステリスクは、フレームシフト時の成長円錐の位置の基準としての培養物中の定点を示す。最初のマクロファージと成長円錐との接触は、30分目のマクロファージの添加直後に行われた。61分目に第2のマクロファージとジストロフィー軸索との間に物理的接触が認められる。110分目に退縮が始まったときに、その他のマクロファージが軸索の軌道を物理的に変化させた。150分目に成長円錐が多数のマクロファージにより見えなくなり、退縮してフレームからほぼ外れた状態になった。スケールバー、20μm。B、Aにおける完全な低速度撮影動画の成長円錐を追跡した位置グラフ。各ポイントは、単一フレームの成長円錐の中心ドメインの位置を表す(30秒ごと)。軸索は、マクロファージ接触の後に約100μmという大規模な退縮を受けた。C、他の代表的な低速度撮影実験からの位置グラフ。
【
図5】
図5は、軸索とマクロファージとの間で生じた接触を示す図である。マクロファージは、グリア瘢痕のin vitroモデルにおいてジストロフィー軸索と物理的に相互作用する。A、マクロファージがジストロフィー軸索と物理的に接触している、低速度撮影の精選したフレーム。退縮が起こる前に、軸索が基質から持ち上げられ、著しく曲げられていた(矢印)間に成長円錐は依然として付着していた。B、
図3Aの第3の画像の高倍率像。マクロファージとジストロフィー軸索との間で数個所の接着接触が起こっていた。矢印は、マクロファージが軸索から離れたときに、これらの接触により形成された膜突起を示す。C、マクロファージ(緑)添加の2.5時間後の成体DRGニューロン(赤)の培養の40倍共焦点zスタック3次元再構成。マクロファージがジストロフィー成長円錐と直接接触していることが認められる。D、3次元再構成の側面図を生じたx軸の周りにCを90°回転したもの。矢印は、隣接したマクロファージ(緑)により基質から持ち上げられたニューロン突起(赤)を示す。スケールバー:A、B、20μm;C、50μm。
【
図6-1】
図6は、マクロファージ接触による軸索ダイバックを妨げるMMP9阻害剤の低速度撮影モンタージュを示す図である。
【
図6-2】
図6は、マクロファージ接触による軸索ダイバックを妨げるMMP9阻害剤の低速度撮影モンタージュを示す図である。
【
図7】
図7は、マクロファージ誘発性後根神経節(DRG)ニューロンダイバックに対する外部添加生細胞(MAPC)または馴化培地の効果を評価するための実験設計を示す図である。
【
図8-1】
図8は、MAPCの添加がマクロファージ誘発性ダイバックを予防することを示す、DRGと共培養したMAPCの低速度撮影モンタージュを示す図である。MAPCは、マクロファージの添加の1日前に投与する。
【
図8-2】
図8は、MAPCの添加がマクロファージ誘発性ダイバックを予防することを示す、DRGと共培養したMAPCの低速度撮影モンタージュを示す図である。MAPCは、マクロファージの添加の1日前に投与する。
【
図9-1】
図9は、MAPC馴化培地がマクロファージ誘発性軸索ダイバックを予防することを示す実験の低速度撮影モンタージュを示す図である。馴化培地は、マクロファージの添加の30分前に添加する。
【
図9-2】
図9は、MAPC馴化培地がマクロファージ誘発性軸索ダイバックを予防することを示す実験の低速度撮影モンタージュを示す図である。馴化培地は、マクロファージの添加の30分前に添加する。
【
図10-1】
図10は、MAPC馴化培地により刺激したマクロファージが軸索ダイバックを誘発しないことを示す低速度撮影モンタージュを示す図である。
【
図10-2】
図10は、MAPC馴化培地により刺激したマクロファージが軸索ダイバックを誘発しないことを示す低速度撮影モンタージュを示す図である。
【
図11】
図11は、MAPCがマクロファージ媒介性軸索ダイバックを予防することのグラフ表示を示す図である。
【
図12】
図12は、MAPCまたは馴化培地を用いるin vitro実験の実験概要を示す図である。
【
図13】
図13は、MAPCが後根圧壊損傷後のマクロファージ媒介性軸索ダイバックを予防し、病変コアへの再生を促進することを示す図である。ビヒクル対照またはMAPCを移植した損傷後7日脊髄切片のグラフおよび実際の表示。マクロファージは、グリア瘢痕のin vitroモデルにおけるジストロフィー成体後根神経節軸索の広範な退縮を誘発する。NR838マクロファージを、成長促進細胞外マトリックス分子ラミニンおよび強力抑制性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの逆スポット勾配上で成長するジストロフィー成体後根神経節ニューロンの培養に加えた。位置グラフは、完全な低速度撮影動画における成長円錐を追跡するものである。各ポイントは、単一フレームの成長円錐の中心ドメインの位置を表す(30秒ごと)。軸索は、マクロファージ接触の後に約100μmという大規模な退縮を受けた。
【0028】
パネルは、病変後7日目の後柱圧壊(DCC)脊髄損傷の厚さ20μmの縦方向切片の10倍画像モンタージュを示す。線維をテキサスレッド結合3000MWデキストランで標識し、マクロファージをED−1+(紫)で視覚化している。切片の向きは、尾側が画像の左側に、吻側が右側にくるようになっている。下に病変の中心にマークし(黒実線)、各条件ごとの1匹の動物の複数の切片の3つの重ね合わせた線維トレーシングを示す。A、病変およびビヒクル注射のみの後の7日目に、後根神経節軸索(赤)が病変の中心の軸索切断の開始部位から著しく遠い位置に退縮した。B、病変およびMAPC移植後の7日目までに、損傷した軸索が数多く病変内に退縮した。C、ビヒクル対照またはMAPC移植を受けた動物における損傷後2、4および7日にわたる平均軸索退縮を示すグラフ。条件、MAPC移植対ビヒクル対照は、一般的線型モデルにより互いに有意に異なっている、
*p<0.0001。スケールバー:A、B、200μm
【
図14-1】
図14は、NG2
+グリア細胞がマクロファージ誘発性軸索退縮を妨げないことを示す低速度撮影モンタージュを示す図である。NG2+細胞は、in vitroで軸索を安定化するが、マクロファージ攻撃の後のマクロファージ媒介性退縮を妨げない。A、in vitroでの2日後のアグリカンおよびラミニンの勾配上のベータチューブリン+(赤)軸索の軸索とNG2+(緑)細胞との結合を示す40倍共焦点像。縁を白色の点線により示す。B、NG2+細胞がビメンチン(赤)を発現している。C、NG2+細胞がネスチン(赤)を発現している。D、成体マウス脊髄NG2+細胞の存在下でのアグリカン/ラミニン勾配上のマクロファージ/軸索相互作用を例示する低速度撮影動画の6つの代表的フレーム。NR8383マクロファージを成体DRGニューロンの2DIV培養に加える。各フレームの時間を各画像の右下に示し、アステリスクはフレームシフト時の位置の基準としての培養皿上の定点を表す。矢印は、成長円錐の中心ドメインを示す。マクロファージを30分の観察期間後に加え、最初の接触が103分目に起こる。軸索は110分までに既に長距離の退縮を受けていた。白矢印は、退縮線維の存在を示している。E、Dに示す低速度撮影動画の各フレーム(30秒)の成長円錐の位置のグラフ。赤は、スポットの内側縁の位置を表す。矢印は、成長の最初の軌跡を示す。F、マクロファージとの接触後のアグリカン/ラミニンスポット勾配上のNG2+細胞を含む共培養中の6つのジストロフィー軸索の始点からの距離。矢じりは、軸索がNG2細胞に退縮した位置を示す。スケールバー:A、B、C、50μm。D、20μm。
【
図14-2】
図14は、NG2
+グリア細胞がマクロファージ誘発性軸索退縮を妨げないことを示す低速度撮影モンタージュを示す図である。NG2+細胞は、in vitroで軸索を安定化するが、マクロファージ攻撃の後のマクロファージ媒介性退縮を妨げない。A、in vitroでの2日後のアグリカンおよびラミニンの勾配上のベータチューブリン+(赤)軸索の軸索とNG2+(緑)細胞との結合を示す40倍共焦点像。縁を白色の点線により示す。B、NG2+細胞がビメンチン(赤)を発現している。C、NG2+細胞がネスチン(赤)を発現している。D、成体マウス脊髄NG2+細胞の存在下でのアグリカン/ラミニン勾配上のマクロファージ/軸索相互作用を例示する低速度撮影動画の6つの代表的フレーム。NR8383マクロファージを成体DRGニューロンの2DIV培養に加える。各フレームの時間を各画像の右下に示し、アステリスクはフレームシフト時の位置の基準としての培養皿上の定点を表す。矢印は、成長円錐の中心ドメインを示す。マクロファージを30分の観察期間後に加え、最初の接触が103分目に起こる。軸索は110分までに既に長距離の退縮を受けていた。白矢印は、退縮線維の存在を示している。E、Dに示す低速度撮影動画の各フレーム(30秒)の成長円錐の位置のグラフ。赤は、スポットの内側縁の位置を表す。矢印は、成長の最初の軌跡を示す。F、マクロファージとの接触後のアグリカン/ラミニンスポット勾配上のNG2+細胞を含む共培養中の6つのジストロフィー軸索の始点からの距離。矢じりは、軸索がNG2細胞に退縮した位置を示す。スケールバー:A、B、C、50μm。D、20μm。
【
図15】
図15は、スポット勾配単独上で培養したMAPCの共焦点像およびスポット勾配上でニューロンとともに成長しているMAPCの高倍率像を示す図である。
【0029】
CS56(赤)およびラミニンにより視覚化したアグリカンの2方向性勾配上で培養したGFP+MAPC(緑)の10倍共焦点像。βチューブリン(青)により視覚化した生体DRGニューロンと共培養したMAPCの40倍共焦点像。成体DRGおよびMAPCは、in vitroで2日後に阻止スポット縁を越えていない。
【0030】
アグリカンのスポット勾配に添加されたMAPCは、阻害縁を侵さなかったが、スポットの中心に十分に接着し、成体DRG軸索と結合した。
【
図16】
図16は、in vitroでの軸索伸長に対する対照培地またはMAPC馴化培地の影響のグラフ表示および実際の描写を示す図である。
【
図17-1】
図17は、対照培地がマクロファージ誘発性軸索ダイバックを予防しないことを示す実験の低速度撮影モンタージュを示す図である。馴化培地は、マクロファージの添加の30分前に加える。
【0031】
マクロファージは、対照MAPC培地の存在にもかかわらず、グリア瘢痕のin vitroモデルにおけるジストロフィー成体後根神経節軸索の大幅な退縮を誘発する。A、NR8383マクロファージを、成長促進細胞外マトリックス分子ラミニンおよび強力抑制性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの逆スポット勾配上で成長するジストロフィー成体後根神経節ニューロンの培養に加えた低速度撮影動画からの単一フレーム画像の6パネルモンタージュ。各フレームの時間を各画像の右下に示し、矢印は成長円錐の中心ドメインを示す。アステリスクは、フレームシフト時の成長円錐の位置の基準としての培養中の定点を示す。スケールバー、20μm。B、Aにおける完全な低速度撮影動画の成長円錐を追跡した位置グラフ。各ポイントは、単一フレームの成長円錐の中心ドメインの位置を表す(30秒ごと)。軸索は、マクロファージ接触の後に約80μmという大規模な退縮を受けた。
【0032】
低速度撮影皿へのMAPC馴化培地の直接の添加が成長円錐の形態のジストロフィー膠着(stalled)状態から運動性扁平状態への変化をもたらした。マクロファージがこれらの軸索に依然として接触していたが、接触は、一般的に一過性であり、一般的に軸索退縮をもたらさなかった。対照MAPC培地は、軸索退縮を予防しなかった。MAPC馴化培地で前処理したマクロファージもスポット上の軸索に接触したが、退縮を引き起こさなかった(
図9〜12)。MAPCがマクロファージに作用して、それらの受容体発現、損傷細胞に対する反応またはMMP−9の分泌を変化させた可能性がある。
【
図17-2】
図17は、対照培地がマクロファージ誘発性軸索ダイバックを予防しないことを示す実験の低速度撮影モンタージュを示す図である。馴化培地は、マクロファージの添加の30分前に加える。
【0033】
マクロファージは、対照MAPC培地の存在にもかかわらず、グリア瘢痕のin vitroモデルにおけるジストロフィー成体後根神経節軸索の大幅な退縮を誘発する。A、NR8383マクロファージを、成長促進細胞外マトリックス分子ラミニンおよび強力抑制性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの逆スポット勾配上で成長するジストロフィー成体後根神経節ニューロンの培養に加えた低速度撮影動画からの単一フレーム画像の6パネルモンタージュ。各フレームの時間を各画像の右下に示し、矢印は成長円錐の中心ドメインを示す。アステリスクは、フレームシフト時の成長円錐の位置の基準としての培養中の定点を示す。スケールバー、20μm。B、Aにおける完全な低速度撮影動画の成長円錐を追跡した位置グラフ。各ポイントは、単一フレームの成長円錐の中心ドメインの位置を表す(30秒ごと)。軸索は、マクロファージ接触の後に約80μmという大規模な退縮を受けた。
【0034】
低速度撮影皿へのMAPC馴化培地の直接の添加が成長円錐の形態のジストロフィー膠着(stalled)状態から運動性扁平状態への変化をもたらした。マクロファージがこれらの軸索に依然として接触していたが、接触は、一般的に一過性であり、一般的に軸索退縮をもたらさなかった。対照MAPC培地は、軸索退縮を予防しなかった。MAPC馴化培地で前処理したマクロファージもスポット上の軸索に接触したが、退縮を引き起こさなかった(
図9〜12)。MAPCがマクロファージに作用して、それらの受容体発現、損傷細胞に対する反応またはMMP−9の分泌を変化させた可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
「1つの(a)」または「1つの(an)」は本明細書において、1つまたは複数;少なくとも1つを意味する。複数形は、本明細書において使用される場合、一般に単数を含む。
【0036】
本明細書において、「接着する(adhere)、付着(adherence)、接着(adhesion)」などの用語は、軸索退縮を誘発するのに十分な期間の結合を指す。本明細書においてさらに述べると、マクロファージ(または他の細胞)とジストロフィー軸索の間で、一過性で軸索退縮を生じない物理的接触が起こり得ることが理解される。本発明の状況の中で、本発明の試薬によって低減または予防される付着は、軸索退縮を誘発するのに十分な期間起こるものである。したがって、本発明は、ジストロフィー軸索とED−1
+細胞の間の物理的接触を可能にする試薬を排除しない。したがって、本発明は、接触(例えば、一過性の物理的接触)可能にするが、軸索ダイバックをもたらすのに十分な時間の付着を可能にしない試薬を包含する。
【0037】
「同時投与する」は、2つ以上の作用物質の同時投与または連続投与を含めて、互いと併用して、一緒に、協調的に投与すること意味する。
【0038】
「含む(comprising)」は、限定するものではないが、必ずしも他に含まれ得るものに対して制限または排除することなく、指示対象を含むこと意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」は、組成物中に他のどんな成分が存在しようとも、xおよびyを含有する任意の組成物を包含する。同様に、「xのステップを含む方法」は、xが方法における唯一のステップであろうと、複数のステップのうちの1つだけであろうと、どんなに多くの他のステップが存在しようと、それらと比較してxがどんなに簡単または複雑であろうと、xが実施される任意の方法を包含する。語根「含む(comprise)」の語を使用した「からなる(comprised of)」および類似の句は、本明細書において「含む(comprising)」の同義語として使用され、同一の意味を有する。
【0039】
「からなる(comprised of)」は、含む(comprising)の同義語である(上記参照)。
【0040】
「馴化細胞培養培地」は、当技術分野で周知の用語であり、細胞を増殖させた培地を指す。本明細書においてこの用語は、ジストロフィーニューロンへの活性化マクロファージの接着を低減し、かつ/または神経突起伸長/軸索再生を促進するのに有効な因子を分泌するのに十分な時間、細胞を増殖させることを意味する。
【0041】
馴化細胞培養培地は、培地中に因子が分泌されるように細胞を培養した培地を指す。本発明の目的では、培地がジストロフィーニューロンへのマクロファージの接着を低減し、したがって軸索退縮を低減し、かつ/または神経突起伸長/軸索再生を促進するように、このような因子の有効量を産生するのに十分な回数の細胞分裂によって細胞を増殖させることができる。細胞は、それだけには限定されないが、遠心分離、ろ過、免疫除去(例えば、タグ付き抗体および磁性カラムを介した)およびFACSソーティングを含めた、当技術分野で既知の方法のいずれかによって培地から除去される。
【0042】
「ダイバック」は、軸索への外傷の結果として起こる軸索退縮を指すのに使用される専門用語である。本発明の状況の中では、軸索退縮は、ED−1
+細胞、特にマクロファージおよびミクログリアの十分な付着の結果として起こるものを指す。このようなマクロファージおよびミクログリア(すなわち、ED−1
+細胞)は、休止または不活性の状態ではない。これらは活性化されている。「活性化される」という用語は、軸索退縮をもたらすように細胞がジストロフィー軸索に接着するのを可能にする、これらの細胞の状態を指す。in vitroでの活性化をもたらす条件の例は、本願明細書においてさらに記載される。しかし、このような活性化は、本明細書において開示される特定の条件に制限されないことが理解されよう。
【0043】
本発明は活性化マクロファージを特に対象とする(また、それによって例示される)ことが多いが、これらはED−1
+細胞のクラスにあり、本発明はこのような細胞の他のものにも関する。一例としては活性化ミクログリアがある。
【0044】
「有効量」は一般に、所望の局所または全身作用をもたらす量を意味する。例えば、有効量は、有益なまたは所望の臨床結果を実現するのに十分な量である。有効量は、単回投与で一度に、または数回の投与で有効量をもたらす分割量として提供することができる。有効量と見なされる量についての正確な決定は、そのサイズ、年齢、損傷、および/または治療されている疾患もしくは損傷、および損傷が起こってから、もしくは疾患が開始してからの時間を含めた、各被験体に特有の因子に基づくことができる。当業者であれば、当技術分野で通常のこれらの考慮事項に基づいて、所与の被験体にとっての有効量を決定することができよう。本明細書において、「有効用量」は「有効量」と同一の意味を有する。
【0045】
「有効な経路」は一般に、所望の区画、系または場所に対する作用物質の送達を提供する経路を意味する。例えば、有効な経路は、作用物質を投与して、有益なまたは所望の臨床結果を実現するのに十分な量の作用物質を所望の作用部位に提供することができる経路である。
【0046】
「EC細胞」は、奇形癌腫と呼ばれる癌の種類の分析から発見された。1964年に、奇形癌腫の単一細胞が単離され、培養物中で未分化のまま維持できることが研究者らによって認められた。この種の幹細胞は、胚性癌腫細胞(EC細胞)として知られるようになった。
【0047】
「胚性幹細胞(ESC)」は、当技術分野で周知であり、何年にもわたり多くの異なる哺乳動物種から調製されている。胚性幹細胞は、胚盤胞として知られる初期胚の内部細胞塊に由来する幹細胞である。胚性幹細胞は、3種の一次胚葉:外胚葉、内胚葉および中胚葉のあらゆる派生物に分化することができる。これらの派生物には、成体において220を超える細胞型のそれぞれが含まれる。ES細胞は、胎盤を除いて体のどんな組織にもなることができる。桑実胚の細胞だけが全能性であり、すべての組織および胎盤になることができる。
【0048】
「含む、挙げられる(include)」という用語の使用は、限定を意図するものではない。例えば、抗体阻害剤は断片および変異体を「含む」と述べることは、抗体阻害剤の他の形が排除されることを意味しない。
【0049】
「人工多能性幹細胞(IPSCまたはIPS細胞)」は、例えば、未分化の表現型を体細胞に付与する外来遺伝子を導入することによって再プログラムされた体細胞である。次いで、これらの細胞を、未分化の子孫に分化するように誘導することができる。IPS細胞は、2006年に最初に発見された手法の変法を使用して得られている(Yamanaka, S.ら、Cell Stem Cell、1巻:39〜49頁(2007年))。例えば、ある場合においては、IPS細胞を生み出すために、科学者らは皮膚細胞から始め、次いで、レトロウイルスを使用した標準的な実験技法により遺伝子が細胞DNAに挿入されるようにこの皮膚細胞を改変した。ある場合においては、挿入される遺伝子は、細胞を胚性幹細胞様の状態にしておくように自然の制御因子として一緒に働くことがわかっているOct4、Sox2、Lif4およびc−mycである。これらの細胞は文献で報告されている。例えば、Wernigら、PNAS、105巻:5856〜5861頁(2008年);Jaenischら、Cell、132巻:567〜582頁(2008年);Hannaら、Cell、133巻:250〜264頁(2008年);およびBrambrinkら、Cell Stem Cell、2巻:151〜159頁(2008年)を参照のこと。これらの参考文献は、IPSCおよびその生成方法の教示に関して参照により組み込まれる。このような細胞は、特定の培養条件(特定の作用物質への曝露)によって生み出すことができることも可能である。
【0050】
「単離された」という用語は、1種または複数の細胞が、in vivoでは1種または複数の細胞に関連している1種もしくは複数の細胞または1種もしくは複数の細胞成分に関連していないことを指す。「濃縮された集団」は、in vivoまたは一次培養物における所望の細胞の数の、1種または複数の他の細胞型に対する相対的な増加を意味する。
【0051】
しかし、本明細書において、「単離された」という用語は、幹細胞だけの存在を示すものではない。むしろ、「単離された」という用語は、細胞がその自然の組織環境から取り出され、通常の組織環境と比較して高い濃度で存在することを示す。したがって、「単離された」細胞集団は、幹細胞以外の細胞型をさらに含むことがあり、別の組織成分を含むこともある。これは、例えば、細胞倍加という用語で表現することもできる。細胞は、in vivoまたはその元の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、脂肪組織など)におけるその元の数と比較して多く含まれるように、in vitroまたはex vivoで10、20、30、40以上の倍加を受けることができる。
【0052】
「MAPC」は「複能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell)」の頭字語である。それは非胚性幹細胞を指す。MAPCの「成体(adult)」という用語は非制限的である。それは非胚性体細胞を指す。胚性幹細胞と同様に、MAPCは、複数の胚葉の細胞系譜を生じることができる。MAPCは、分化すると3種すべての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞型を生じ得る。胚性幹細胞と同様に、ヒトMAPCはテロメラーゼ、Oct3/4(すなわち、Oct3A)、rex−1、rox−1およびsox−2を発現し、SSEA−4を発現する可能性がある(Jiang, Y.ら、Nature、418巻:41頁(2002年);Exp Hematol、30巻:896頁(2002年)も参照のこと)。テロメアがMAPCに広がっており、これらは核型が正常である。哺乳動物に注入されたMAPCは複数の器官に移動し、それと同化することができるので、MAPCは自己再生する幹細胞である。MAPCに関する「複能性の」は、分化すると複数の、例えば3つすべての原始胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞系譜を生じる能力を指す。
【0053】
「神経突起伸長」は、損傷部位のニューロンが退縮しなくなるだけでなく、成長し伸展する性質を指す。
【0054】
「薬学的に許容される担体」は、本発明において使用される細胞にとっての任意の薬学的に許容される媒体である。このような媒体は、等張性、細胞代謝、pHなどを保持することができる。この媒体は、in vivoでの被験体への投与に適合性であり、したがって、細胞送達および治療に使用することができる。
【0055】
「始原胚性生殖細胞」(PG細胞またはEG細胞)は、多くの未分化細胞型を産生するように培養および刺激することができる。
【0056】
「前駆細胞」は、その最終分化した子孫の特徴のすべてではないが一部を有する、幹細胞の分化の間に産生される細胞である。「心臓前駆細胞」などの定義される前駆細胞は、特定の細胞型または最終分化した細胞型ではなく、ある系列に運命付けられる。頭字語「MAPC」に使用される「前駆体(progenitor)」という用語は、これらの細胞を特定の系列に限定しない。
【0057】
本明細書において「低減する」という用語は、予防ならびに減少させることを意味する。治療の状況では、「低減する」ことは、1種または複数の臨床症状を予防または回復させることである。臨床症状は、未治療のままにしておくと被験体の生活の質(健康)に悪影響を及ぼす、または及ぼすことになる1つ(または複数)の症状である。
【0058】
「退縮」という用語は、グリア瘢痕が形成する場所などの損傷部位から軸索が後退することを指す。ここで、再生軸索の末端は伸長を停止し、ジストロフィー性になる。次いで、これらのジストロフィー末端は、グリア瘢痕および損傷部位からさらに後退する可能性がある。
【0059】
「自己再生」は、複製された娘幹細胞を産生する能力を指し、その娘幹細胞はそれを生み出した細胞と同一の分化能を有する。この状況で使用される類似の用語は「増殖」である。
【0060】
「幹細胞」は、自己再生(すなわち、同じ分化能を有する子孫)を起こし、さらには分化能がより制限された子孫細胞を産生することができる細胞を意味する。本発明の状況の中では、幹細胞は、例えば、核移植、より原始の幹細胞との融合、特定の転写因子の導入、または特定の条件下での培養により脱分化された、より分化した細胞も包含するであろう。例えば、Wilmutら、Nature、385巻:810〜813頁(1997年);Yingら、Nature、416巻:545〜548頁(2002年);Guanら、Nature、440巻:1199〜1203頁(2006年);Takahashiら、Cell、126巻:663〜676頁(2006年);Okitaら、Nature、448巻:313〜317頁(2007年);およびTakahashiら、Cell、131巻:861〜872頁(2007年)を参照のこと。
【0061】
脱分化は、ある化合物の投与または脱分化を引き起こすであろうin vitroもしくはin vivoの物理的な環境への曝露によって引き起こすこともできる。幹細胞は、奇形癌腫などの病的組織および胚様体(これらは、内部細胞塊に直接的に由来しないが胚組織に由来する点から、胚性幹細胞と見なすことができる)などのいくつかの他の供給源に由来するものでもよい。幹細胞は、幹細胞機能に関連する遺伝子を人工多能性幹細胞などの非幹細胞に導入することによって産生することもできる。
【0062】
「被験体」は、ヒトなどの哺乳動物などの脊椎動物を意味する。哺乳動物としては、それだけには限定されないが、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシおよびブタが挙げられる。
【0063】
「治療有効量」という用語は、哺乳動物において任意の治療応答が生じるように決定される量を指す。例えば、有効量の治療用細胞または細胞関連作用物質は、患者の生存性を延長し、かつ/または明らかな臨床症状を阻害することができる。本明細書において使用される用語の意味の範囲内で治療上有効な治療には、疾患の転帰それ自体を改善しなくても被験体の生活の質を改善する治療も含まれる。このような治療有効量は、当業者によって容易に確認される。したがって、「治療する」ことは、このような量を送達することを意味する。したがって、治療することにより、ジストロフィー軸索への活性化マクロファージの付着によって起こる任意の病的な症状を予防または回復させることができる。治療することはさらに、軸索再生の有益な臨床効果を指す。
【0064】
「治療する」、「治療すること」または「治療」は、本発明に関して広く使用され、それぞれこのような用語は、療法を妨害するものおよび/または療法に起因するものを含めた、欠損、機能障害、疾患または他の有害な過程を、とりわけ、予防すること、回復させること、阻害することまたは治癒することを包含する。
【0065】
幹細胞
本発明は、好ましくは、ヒト、非ヒト霊長類、家畜(domestic animals)、家畜(livestock)、他の非ヒト哺乳類などの脊椎動物種の幹細胞を用いて実施することができる。これらの幹細胞としては、それだけには限定されないが、以下に記載する細胞が挙げられる。
【0066】
胚性幹細胞
胚性幹細胞(ESC)は、無制限な自己再生および複能性分化能を有するので、最も詳細に研究されている幹細胞となっている。これらの細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から得る。または移植後胚の始原生殖細胞から得ることもできる(胚性生殖細胞すなわちEG細胞)。ESおよびEG細胞は、最初にマウスから、それより後になって多くの異なった動物から得られ、さらに最近になって非ヒト霊長類およびヒトからも得られた。マウス胚盤胞または他の動物の胚盤胞に導入された際に、ESCは、動物のすべての組織に寄与できる。SSEA1(マウス)およびSSEA4(ヒト)に対する抗体で陽性染色することによって、ESおよびEG細胞を同定することができる。例えば、米国特許第5,453,357号、同第5,656,479号、同第5,670,372号、同第5,843,780号、同第5,874,301号、同第5,914,268号、同第6,110,739号、同第6,190,910号、同第6,200,806号、同第6,432,711号、同第6,436,701号、同第6,500,668号、同第6,703,279号、同第6,875,607号、同第7,029,913号、同第7,112,437号、同第7,145,057号、同第7,153,684号および同第7,294,508号を参照のこと。これらのそれぞれは、胚性幹細胞およびそれらを作製し増殖させる方法の教示のために、参照により本明細書に組み込まれる。したがって、ESCおよびそれらを単離し増殖させる方法は当技術分野で周知である。
【0067】
胚性幹細胞の能力状態にin vivoで影響を与える多くの転写因子および外因性サイトカインが同定されている。幹細胞多能性に関与していることが最初に記載された転写因子はOct4である。Oct4は、転写因子のPOU(Pit−Oct−Unc)ファミリーに属し、「八量体モチーフ」と呼ばれる八量体配列をプロモーターまたはエンハンサー領域内に含有する遺伝子の転写を活性化できるDNA結合タンパク質である。Oct4は、受精した接合体の卵割期の時期に、卵筒が形成されるまで発現される。Oct3/4の機能は、分化誘導遺伝子(すなわち、FoxaD3、hCG)を抑制し、多能性を促進する遺伝子(FGF4、Utfl、Rex1)を活性化することである。高移動群(HMG)ボックス転写因子の一員であるSox2は、Oct4と協働して、内部細胞塊で発現される遺伝子の転写を活性化する。胚性幹細胞におけるOct3/4発現が特定のレベルの間に維持されることが必須である。Oct4発現レベルの>50%の過剰発現または下方制御は胚性幹細胞の運命を改変し、それぞれ原始内胚葉/中胚葉または栄養外胚葉を形成することになる。in vivoにおいて、Oct4欠失胚は、胚盤胞期まで発生するが、その内部細胞塊細胞は多能性でない。代わりに、それらは、胚体外栄養芽細胞系列に沿って分化する。哺乳類Spalt転写因子であるSall4は、Oct4の上流調節因子であり、したがって、胚発生の初期段階中にOct4の適切なレベルを維持するために重要である。Sall4レベルが特定の閾値の下まで下がると、栄養芽細胞は、異所的に内部細胞塊へと増殖することになる。多能性に必要な別の転写因子はNanogである。これは、常若の地を意味するケルト部族「Tir Nan Og」にちなんだ命名である。in vivoにおいて、Nanogは、小型化桑実胚期から発現され、続いて内部細胞塊に限定され、着床期に下方制御される。Nanogの下方制御は、制御されない多能性細胞の増殖を避けるため、および原腸形成中の多系列分化を可能にするために重要であり得る。5.5日目に単離されたNanog欠失胚は、主として胚体外内胚葉を含有し、かついかなる識別可能なエピブラストも含有しない混乱した胚盤胞から成る。
【0068】
非胚性幹細胞
幹細胞はほとんどの組織で同定されている。おそらく最も詳細に特徴付けられているのは、造血幹細胞(HSC)である。HSCは、細胞表面マーカーおよび機能的特性を用いて精製できる中胚葉由来の細胞である。HSCは、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児肝、および卵黄嚢から単離されている。HSCは、造血作用を開始し、複数の造血系列を生成する。致死線量照射動物に移植された場合、HSCは、赤血球系、好中球マクロファージ、巨核球、およびリンパ球系の造血細胞プールの再増殖を可能にする。いくつかの自己再生細胞分裂を行うようにHSCを誘導することもできる。例えば、米国特許第5,635,387号、同第5,460,964号、同第5,677,136号、同第5,750,397号、同第5,681,599号および同第5,716,827号を参照のこと。米国特許第5,192,553号は、ヒト新生児または胎児の造血幹細胞または前駆細胞を単離する方法を報告している。米国特許第5,716,827号は、Thy−1
+前駆体であるヒト造血細胞と、in vitroでそれらを再生させるのに適した増殖培地とを報告している。米国特許第5,635,387号は、ヒト造血細胞およびそれらの前駆体を培養する方法およびデバイスを報告している。米国特許第6,015,554号は、ヒトリンパ系細胞および樹状細胞を再構成する方法を記載している。したがって、HSCおよびそれらを単離し増殖させる方法は当技術分野で周知である。
【0069】
当技術分野で周知の別の幹細胞は、神経幹細胞(NSC)である。これらの細胞は、in vivoで増殖し、少なくともいくつかの神経細胞を継続的に再生できる。ex vivo培養する場合、増殖するように、さらに様々なタイプのニューロンおよびグリア細胞に分化するように神経幹細胞を誘導することができる。脳に移植する場合、神経幹細胞は、神経細胞およびグリア細胞を植え込み、生成することができる。例えば、Gage F.H.、Science、287巻、1433〜1438頁(2000年)、Svendsen S.N.ら、Brain Pathology、9巻、499〜513頁(1999年)、およびOkabe S.ら、Mech Development、59巻、89〜102頁(1996年)を参照のこと。米国特許第5,851,832号は、脳組織から得られる多能性神経幹細胞を報告している。米国特許第5,766,948号は、新生児大脳半球からの神経芽細胞の産生を報告している。米国特許第5,564,183号および第5,849,553号は、哺乳類神経冠幹細胞の使用を報告している。米国特許第6,040,180号は、哺乳類多能性CNS幹細胞の培養物からの分化ニューロンのin vitro生成を報告する。国際公開第98/50526号および国際公開第99/01159号は、神経上皮幹細胞、乏突起グリア細胞−星状細胞前駆体、および系列限定神経前駆体の生成および単離を報告している。米国特許第5,968,829号は、胚前脳から得られた神経幹細胞を報告している。したがって、神経幹細胞およびそれらを作製し増殖させる方法は当技術分野で周知である。
【0070】
当技術分野で詳細に研究されている別の幹細胞は、間充織幹細胞(MSC)である。MSCは、胚性中胚葉から得られ、とりわけ成人骨髄、末梢血、脂肪、胎盤、および臍帯血を含めた多くの供給源から単離できる。MSCは、筋、骨、軟骨、脂肪および腱を含めた多くの中胚葉性組織に分化できる。これらの細胞について多数の文献がある。例えば、米国特許第5,486,389号、同第5,827,735号、同第5,811,094号、同第5,736,396号、同第5,837,539号、同第5,837,670号および同第5,827,740号を参照のこと。Pittenger, M.ら、Science、284巻、143〜147頁(1999年)も参照のこと。
【0071】
成体幹細胞の別の例は、脂肪由来成体幹細胞(ADSC)である。ADSCは通常、脂肪吸引と、それに続くコラゲナーゼを用いたADSCの放出とによって、脂肪から単離されている。ADSCは、はるかに多くの細胞を脂肪から単離できることを除いて、様々な意味で骨髄から得られるMSCに類似している。これらの細胞は、骨、脂肪、筋、軟骨、およびニューロンに分化することが報告されている。単離の方法は、米国特許出願公開第2005/0153442号に記載されている。
【0072】
当技術分野で公知の他の幹細胞としては、「卵形細胞」とも呼ばれる胃腸幹細胞、表皮幹細胞および肝幹細胞が挙げられる(Potten, C.ら、Trans R Soc
Lond B Biol Sci、353巻、821〜830号(1998年)、Watt, F.、Trans R Soc Lond B Biol Sci、353巻、831頁(1997年)、Alisonら、Hepatology、29巻、678〜683頁(1998年))。
【0073】
複数の胚葉の細胞型に分化できると報告されている他の非胚性細胞としては、それだけには限定されないが、臍帯血からの細胞(米国特許出願公開第2002/0164794号を参照)、胎盤(米国特許出願公開第2003/0181269号を参照)、臍帯マトリックス(Mitchell, K.E.ら、Stem Cells、21巻、50〜60頁(2003年))、小さな胚様幹細胞(small embryonic−like
stem cell)(Kucia, M.ら、J Physiol Pharmacol、57巻補5号、5〜18頁(2006年))、羊水幹細胞(Atala, A.、J Tissue Regen Med、1巻、83〜96頁(2007年))、皮膚由来前駆細胞(Tomaら、Nat Cell Biol、3巻、778〜784頁(2001年))、および骨髄(米国特許出願公開第2003/0059414号および同第2006/0147246号を参照)が挙げられる。これらの開示のそれぞれは、これらの細胞の教示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
体細胞を再プログラムする戦略
核移植、細胞融合、培養誘発再プログラム化などのいくつかの異なった戦略が、分化細胞から胚状態への転換を誘導するのに用いられている。核移植は、除核された卵細胞に体細胞核を注入するものであり、代理母内への移植によって、クローンを生み出すことができ(「生殖的クローニング」)、または、培養における外植によって、遺伝学的に一致した胚性幹(ES)細胞を生み出すことができる(「体細胞核移植」、SCNT)。ES細胞と体細胞の細胞融合は、多能性ES細胞のすべての特徴を示すハイブリッドの生成をもたらす。培養における体細胞の外植は、多能性または複能性であり得る不死化細胞株を選択する。現在のところ、精原幹細胞は、出生後動物から得ることができる多能性細胞の唯一の供給源である。特定の因子を用いた体細胞の形質導入によって、多能性状態への再プログラム化を開始させることができる。これらの実験的なアプローチは広範に総説されている(HochedlingerおよびJaenisch、Nature、441巻、1061〜1067頁(2006年)、およびYamanaka, S.、Cell Stem Cell、1巻、39〜49頁(2007年))。
【0075】
核移植
体細胞核移植(SCNT)とも呼ばれる核移植(NT)は、ヒツジのドリーなどのクローン動物を生成するための、ドナー体細胞から、除核された卵母細胞への核の導入を指す(Wilmutら、Nature、385巻、810〜813頁(1997年)。NTによる生きた動物の生成は、最終分化細胞のものを含めた体細胞の後成的状態が、安定ではあるが不可逆的に固定されておらず、新規の生物の発生を指示できる胚状態に再プログラムできることを実証した。胚発生および疾患に関与する基本的な後成的作用機序を解明するための興味深い実験的アプローチの提供に加えて、核クローニング技術は、患者特異的な移植薬のための潜在的関心対象でもある。
体細胞と胚性幹細胞との融合
未分化状態への体細胞性核の後成的再プログラム化は、体細胞との胚性細胞の融合によって産生されたマウスハイブリッドで実証された。様々な体細胞と胚性癌腫細胞(Solter, D.、Nat Rev Genet、7巻、319〜327頁(2006年))、胚性生殖細胞(EG)またはES細胞(ZwakaおよびThomson、Development、132巻、227〜233頁(2005年))との間のハイブリッドは、親の胚性細胞と多くの特徴を共有しており、多能性表現型がそのような融合産物で優性であることを示している。マウス(Tadaら、Curr Biol、11巻、1553〜1558頁(2001年))と同様に、ヒトES細胞は、融合後に体細胞核を再プログラムする能力を有する(Cowanら、Science、309巻、1369〜1373頁(2005年);Yuら、Science、318巻、1917〜1920頁(2006年))。Oct4などのサイレント多能性マーカーの活性化または不活性な体細胞X染色体の再活性は、ハイブリッド細胞内の体細胞ゲノムの再プログラム化の分子的証拠を提供した。融合の2日後に最初に観察されるDNA複製が多能性マーカーの活性化に必須であること(DoおよびScholer、Stem Cells、22巻、941〜949頁(2004年))、および神経幹細胞に融合する際に、ES細胞内のNanogの強制的過剰発現が多能性を促進すること(Silvaら、Nature、441巻、997〜1001頁(2006年))が示唆されている。
培養誘導再プログラム化
多能性細胞は、割球および胚盤胞の内部細胞塊(ICM)などの胚供給源(ES細胞)、エピブラスト(EpiSC細胞)、始原生殖細胞(EG細胞)および出生後精原幹細胞(「maGSCsm」「ES様」細胞)から得られている。以下の多能性細胞は、それらのドナー細胞/組織と共に以下の通りである:マウス卵母細胞から単為生殖(parthogenetic)ES細胞が得られている(Narasimhaら、Curr Biol、7巻、881〜884頁(1997年));割球から胚性幹細胞が得られている(Wakayamaら、Stem Cells、25巻、986〜993頁(2007年));内部細胞塊細胞(供給源は該当しない)(Egganら、Nature、428巻、44〜49頁(2004年));始原生殖細胞から胚性生殖細胞および胎生期癌細胞が得られている(Matsuiら、Cell、70巻、841〜847頁(1992年));精原幹細胞からGMCS、maSSCおよびMASCが得られている(Guanら、Nature、440巻、1199〜1203頁(2006年);Kanatsu−Shinoharaら、Cell、119巻、1001〜1012頁(2004年);およびSeandelら、Nature、449巻、346〜350頁(2007年));エピブラストからEpiSC細胞が得られている(Bronsら、Nature、448巻、191〜195頁(2007年);Tesarら、Nature、448巻、196〜199頁(2007年));ヒト卵母細胞から単為生殖ES細胞が得られている(Cibelliら、Science、295L819頁(2002年);Revazovaら、Cloning Stem Cells、9巻、432〜449頁(2007年));ヒト胚盤胞からヒトES細胞が得られている(Thomsonら、Science、282巻、1145〜1147頁(1998年));骨髄からMAPCが得られている(Jiangら、Nature、418巻、41〜49頁(2002年);PhinneyおよびProckop, Stem Cells、25巻、2896〜2902頁(2007年));臍帯血細胞(臍帯血から得られる)(van de Venら、Exp Hematol、35巻、1753〜1765頁(2007年));神経細胞から得られる神経球由来細胞(Clarkeら、Science、288巻、1660〜1663頁(2000年))。PGCまたは精原幹細胞などの生殖細胞系列から得られるドナー細胞は、in vivoで単能性であることが公知であるが、長期のin vitro培養後に多能性のES様細胞(Kanatsu−Shinoharaら、Science、119巻、1001〜1012頁(2004年)またはmaGSC(Guanら、Nature、440巻、1199〜1203頁(2006年)が単離できる。これらの多分化能細胞型の大部分はin vitro分化および奇形腫形成が可能であったが、ES、EG、EC、および精原幹細胞由来のmaGCSまたはES様細胞のみが、出生後キメラを形成して生殖系列に寄与することができたので、より厳格な判定規準で多能性であった。最近、成体マウスの精巣精原幹細胞から多能性成体精原幹細胞(MASC)が得られ、これらの細胞は、ES細胞の発現プロファイル(Seandelら、Nature、449巻、346〜350頁(2007年))とは異なるが、移植後マウス胚のエピブラストから得られたEpiSC細胞に類似した発現プロファイルを有していた(Bronsら、Nature、448巻、191〜195頁(2007年);Tesarら、Nature、448巻、196〜199頁(2007年))。
特定の転写因子による再プログラム化
TakahashiおよびYamanakaは、体細胞をES状態に戻す再プログラム化を報告している(TakahashiおよびYamanaka, Cell、126巻、663〜676頁(2006年))。彼らは、4つの転写因子Oct4、Sox2、c−mycおよびKlf4のウイルス媒介形質導入と、それに続くOct4標的遺伝子Fbx15の活性化との後に、マウス胎児線維芽細胞(MEF)および成体線維芽細胞を多能性のES様細胞に再プログラムすることに成功した(
図2A)。活性化されたFbx15を有した細胞が新しく作り出されたiPS(人工多能性幹)細胞であり、生きているキメラを生成することはできなかったが、奇形腫を形成するそれらの能力によって多能性であることが示された。この多能性状態は、導入されたOct4およびSox2遺伝子の継続的なウイルス性発現に依存していたが、内因性のOct4およびNanog遺伝子は、発現されなかったか、またはES細胞より低レベルで発現されており、それらのそれぞれのプロモーターは、大幅にメチル化されていることが見出された。これは、Fbx15−iPS細胞はES細胞には相当しなかったが、再プログラム化の不完全な状態を表したものであり得るという結論と一致している。Oct4およびSox2が多能性に必須であることは遺伝的実験によって確立されたが(ChambersおよびSmith, Oncogene、23巻、7150〜7160頁(2004年);Ivanonaら、Nature、442巻、5330538頁(2006年);Masuiら、Nat Cell Biol、9巻、625〜635頁(2007年))、再プログラム化における2つの発癌遺伝子c−mycおよびKlf4の役割はそれほど明確でない。低効率ではあるが、c−myc形質導入の非存在下でマウスおよびヒト両方のiPS細胞が得られたので、これらの発癌遺伝子のいくつかは、実際に、再プログラム化に不要であり得る(Nakagawaら、Nat Biotechnol、26巻、191〜106頁(2008年);Werningら、Nature、448巻、318〜324頁(2008年);Yuら、Science、318巻、1917〜1920頁(2007年))。
【0076】
MAPC
MAPCは、「複能性成体前駆細胞」(非ES、非EG、非生殖)を表す頭字語である。MAPCは、3種の原始胚葉(外胚葉、中胚葉および内胚葉)すべてなど、少なくとも2つの細胞型に分化する能力を有する。ES細胞において見出された遺伝子はMAPCでも見出された(例えば、テロメラーゼ、Oct3/4、rex−1、rox−1、sox−2)。Oct3/4(ヒトではOct3A)はES細胞および生殖細胞に特異的なようである。MAPCは、MSCよりも原始的な前駆体細胞集団を表し、上皮、内皮、神経、筋、造血、骨形成、肝、軟骨形成および脂肪系列を包含する分化能を示す(Verfaillie, C.M., Trends Cell Biol、12巻、502〜8頁(2002年)、Jahagirdar, B.N.ら、Exp Hematol、29巻、543〜56頁(2001年);Reyes, M.およびC.M. Verfaillie、Ann N Y Acad Sci、938巻、231〜233頁(2001年);Jiang, Yら、Exp Hematol、30896〜904頁(2002年);およびJiang, Y.ら、Nature、418巻、41〜9頁(2002年))。
【0077】
ヒトMAPCは、米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号に記載されている。MAPCは他の哺乳類でも同定されている。例えば、マウスMAPCは、米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号にも記載されている。ラットMAPCは、米国特許出願第10/467,963号にも記載されている。
【0078】
Catherine Verfaillieによって単離されたMAPCを説明するためにこれらの参考文献は本明細書に組み込まれる。
【0079】
MAPCの単離および増殖
MAPCの単離方法は当技術分野で公知である。例えば米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号を参照のこと。これらの方法は、MAPCの特徴付け(表現型)と共に、参照により本明細書に組み込まれる。MAPCは、限定されるものではないが、骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚を含めた複数の供給源から単離できる。したがって、骨髄穿刺液、脳または肝生検、および他の臓器を取得し、細胞を、これらの細胞で発現される(または発現されない)遺伝子に依拠して、当業者に利用可能なポジティブまたはネガティブ選択技法を用いて単離することが可能である(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、上記で参照した出願に開示されているものなどの機能的または形態学的アッセイによって)。
米国特許第7,015,037号に記載のヒト骨髄由来のMAPC
MAPCは、共通白血球抗原CD45または赤芽球特異グリコホリンA(Gly−A)を発現しない。細胞の混成集団をFicoll Hypaque分離にかけた。次いで、抗CD45および抗Gly−A抗体を用いて細胞をネガティブ選択にかけ、CD45
+かつGly−A
+細胞の集団を枯渇させ、次いで、残っている約0.1%の骨髄単核細胞を回収した。細胞は、フィブロネクチンコーティングされたウェルにプレーティングし、CD45
+かつGly−A
+の細胞を下記の通り2〜4週間培養することもできる。接着骨髄細胞の培養では、多くの接着間質細胞が細胞倍加約30で複製老化を起こし、より均質な細胞集団が増殖を続けて、長いテロメアを維持する。
【0080】
別法では、ポジティブ選択を用いて、細胞特異的なマーカーの組合せを介して細胞を単離することができる。当業者には、ポジティブ選択技法およびネガティブ選択技法の両方が利用可能であり、ネガティブ選択目的に適した多数のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体も当技術分野で利用可能であり(例えば、Leukocyte Typing V、Schlossmanら編集(1995年)、Oxford University Pressを参照)、多くの供給源から市販されている。
【0081】
細胞集団の混合物から哺乳類細胞を分別する技法も、Schwartzら、米国特許第5,759,793号(磁気分離)、Baschら、1983年(免疫アフィニティークロマトグラフィー)、WysockiおよびSato、1978年(蛍光活性化細胞選別)に記載されている。
【0082】
米国特許第7,015,037号に記載のMAPC培養
本明細書に記載の通りに単離されたMAPCは、米国特許第7,015,037号および本明細書で開示の方法を用いて培養できる。これらの方法に関して、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
追加の培養方法
追加実験では、MAPCが培養される密度は、約200細胞/cm
2から約1500細胞/cm
2まで、約2000細胞/cm
2までを含めた、約100細胞/cm
2または約150細胞/cm
2から約10,000細胞/cm
2まで変動し得る。密度は、種相互で異なり得る。さらに、最適密度は、細胞の培養条件および供給源に応じて異なり得る。培養条件と細胞との所与のセットについて最適な密度を決定することは当業者の技能の範囲内にある。
【0084】
また、培養MAPCの単離、成長および分化中の任意の時に、約1〜5%、とりわけ3〜5%を含めた、約10%未満の有効大気酸素濃度を用いることもできる。
【0085】
細胞は、様々な血清中濃度、例えば、約2〜20%で培養できる。ウシ胎児血清を用いてもよい。より高濃度の血清は、より低い酸素分圧、例えば、約15〜20%と組み合わせて使用できる。培養皿に付着する前に細胞を選択する必要はない。例えば、フィコール勾配の後に、細胞を、例えば、250,000〜500,000/cm
2で直接プレーティングすることができる。接着コロニーを採取し、場合によりプールし、増殖させることができる。
【0086】
実施例における実験手順で使用される一実施形態では、高血清(約15〜20%)および低酸素(約3〜5%)条件が細胞培養に使用された。詳細には、コロニーからの接着細胞を約1700〜2300細胞/cm
2の密度で、18%血清および3%酸素(PDGFおよびEGFを含む)中にプレーティングし、継代させた。
【0087】
MAPCに特定した実施形態では、補足物は、3つの系列に分化する能力をMAPCが保持するのを可能にする細胞因子または細胞成分である。これは、未分化状態の特異的マーカーの発現によって示され得る。MAPCは、例えば、Oct3/4(Oct3A)を構成的に発現し、高レベルのテロメラーゼを維持する。
【0088】
細胞培養
一般に、本発明に有用な細胞は、当技術分野で利用可能であり、かつ周知の培養培地中で維持され、増殖させることができる。そのような培地としては、それだけには限定されないが、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(登録商標)(DMEM)、DMEM F12 medium(登録商標)、Eagle’s
Minimum Essential Medium(登録商標)、F−12K medium(登録商標)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(登録商標)およびRPMI−1640 medium(登録商標)が挙げられる。多くの培地は、ピルビン酸ナトリウム含有または非含有の低グルコース処方で利用可能である。
【0089】
細胞培養培地に哺乳類血清を補足することも企図されている。血清は、しばしば生存および増殖に必要な細胞因子および細胞成分を含有する。血清の例としては、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清(BS)、コウシ血清(CS)、胎児ウシ血清(FCS)、新生児ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ヒト血清、ニワトリ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、血清代替物およびウシ胚液が挙げられる。補体カスケードの成分を不活性化することが必要であると考えられる場合、血清を55〜65℃で熱不活性化できると理解されている。
【0090】
最適な成長および増殖のために必要な微量元素を細胞に供給するのに、追加の補足物を有利に用いることもできる。そのような補足物としては、インスリン、トランスフェリン、ナトリウムセレニウム、およびこれらの組合せが挙げられる。これらの成分は、限定されるものではないが、Hanks’Balanced Salt Solution(登録商標)(HBSS)、Earle’s Salt Solution(登録商標)、酸化防止補足物、MCDB−201補足物、リン酸緩衝食塩水(PBS)、アスコルビン酸およびアスコルビン酸−2−ホスフェート、ならびに追加のアミノ酸などの塩溶液中に含まれ得る。多くの細胞培養培地は既にアミノ酸を含有しているが、一部は、細胞を培養する前に補足を必要とする。そのようなアミノ酸としては、それだけには限定されないが、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシンおよびL−バリンが挙げられる。これらの補足物の適切な濃度を決定することは、十分に当業者の技術範囲内にある。
【0091】
ホルモンも、細胞培養で有利に用いることができる。ホルモンとしては、それだけには限定されないが、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメサゾン、β−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)、甲状腺刺激ホルモン、チロキシン、およびL−チロニンが挙げられる。
【0092】
細胞のタイプおよび分化細胞の運命に応じて、脂質および脂質担体も、細胞培養培地を補足するのに使用できる。そのような脂質および担体としては、それだけには限定されないが、とりわけシクロデキシトリン(α、β、γ)、コレステロール、アルブミンに結合したリノール酸、アルブミンに結合したリノール酸およびオレイン酸、非結合リノール酸、アルブミンに結合したリノール−オレイン−アラキドン酸、非結合およびアルブミンに結合したオレイン酸が挙げられる。
【0093】
支持細胞層の使用も企図されている。支持細胞は、培養しにくい培養細胞、とりわけES細胞の成長を支持するのに用いられる。支持細胞は、γ照射によって不活性化された正常細胞である。培養において、支持細胞層は、他の細胞のための基底層として働き、それら自身ではさらなる成長も分裂もせずに細胞因子を供給する(Lim, J.W.およびBodnar, A、2002年)。支持細胞層細胞の例は、典型的には、ヒト二倍体肺細胞、マウス胎児線維芽細胞、スイスマウス胎児線維芽細胞であるが、幹細胞の最適な増殖、生存および増殖を可能にするのに有利である細胞成分および細胞因子を供給できる任意の分裂終了細胞であり得る。白血病抑制因子(LIF)に抗分化特性があるので、多くの場合、支持細胞層は、ES細胞を未分化な増殖状態に保つのに必要ではない。したがって、一部の種におけるMAPCを未分化状態に維持するのに、LIFの補足を用いることができた。
【0094】
細胞は、低血清または無血清培養培地中で培養してもよい。MAPCを培養するのに用いられる無血清培地は、米国特許第7,015,037号に記載されている。多くの細胞は、無血清または低血清培地中で培養された。この場合、培地に1つまたは複数の増殖因子を補足した。一般的に使用される増殖因子としては、それだけには限定されないが、骨形成タンパク質、基礎線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子および上皮成長因子が挙げられる。例えば、米国特許第7,169,610号、同第7,109,032号、同第7,037,721号、同第6,617,161号、同第6,617,159号、同第6,372,210号、同第6,224,860号、同第6,037,174号、同第5,908,782号、同第5,766,951号、同第5,397,706号、および同第4,657,866号を参照のこと。これらすべては、無血清培地中での細胞の培養を教示するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
培養細胞は、懸濁液中に維持することも、細胞外基質成分などの固体支持体に付着させることもできる。幹細胞は、コラーゲンI型およびII型、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、「スーパーフィブロネクチン」、フィブロネクチン様ポリマー、ゼラチン、ポリD、ポリL−リシン、トロンボスポンジン、およびビトロネクチンなど、固体支持体へのそれらの付着を促進する追加因子をしばしば必要とする。本発明の一実施形態はフィブロネクチンを利用する。例えば、Ohashiら、Nature Medicine13巻、880〜885頁(2007年);Matsumotoら、J Bioscience and Bioengineering、105巻、350〜354頁(2008年);Kirouacら、Cell Stem Cell、3巻、369〜381頁(2008年);Chuaら、Biomaterials、26巻、2537〜2547頁(2005年);Drobinskayaら、Stem Cells、26巻、2245〜2256頁(2008年);Dvir−Ginzbergら、FASEB J、22巻、1440〜1449頁(2008年);Turnerら、J Biomed Mater
Res Part B. Appl Biomater、82B巻、156〜168頁(2007年);およびMiyazawaら、Journal of Gastroenterology and Hepatology、22巻、1959〜1964頁(2007年)を参照のこと。
【0096】
細胞は、「3D」(集合)培養で培養してもよい。一例は、2008年1月18日出願の米国仮特許出願第61/022、121号である。
【0097】
培養中で確立されれば、細胞は、新鮮なまま用いることも、例えば、40%FCSおよび10%DMSOを含むDMEMを用いて、冷凍ストックとして凍結させて、保存することもできる。培養細胞の冷凍ストックを調製するための他の方法も当業者に利用可能である。
【0098】
医薬製剤
ある実施形態では、精製された細胞集団は、送達に適合させたおよび適当な、すなわち、生理的に適合性の組成物内に存在する。したがって、幹細胞集団の組成物は、しばしば、1つまたは複数の緩衝液(例えば、中性に緩衝された生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤、静菌剤、EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、製剤を受容者の血液と等張に、低張にまたはわずかに高張にする溶質、懸濁化剤、増粘剤および/または防腐剤をさらに含むはずである。
【0099】
別の実施形態では、精製された細胞集団は、冷凍または貯蔵に適合させたまたは適当な組成物内に存在する。
【0100】
多くの実施形態では、被験体に投与するための細胞(または馴化培地)の純度は、約100%である。別の実施形態では、この純度は、95%〜100%である。いくつかの実施形態では、この純度は、85%〜95%である。特に、別の細胞との混合物の場合には、このパーセントは、約10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、または90%〜95%とすることができる。または単離/純度は、細胞が経験した細胞倍加に関して、例えば、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50回またはそれより多くの細胞倍加で表すことができる。
【0101】
所与の量における細胞数は、周知のおよび常法に従う手順および器具類によって決定することができる。所与の量の細胞混合物における細胞パーセントは、ほぼ同じ手順によって決定することができる。細胞は、手作業でまたは自動セルカウンターの使用によって、容易に計数することができる。特異的細胞は、所与の量において、特異的染色および目視検査を使用して、ならびに特異的結合試薬、典型的には抗体、蛍光タグ、および蛍光活性化細胞選別装置を使用して自動化された方法によって決定することができる。
【0102】
所与の適用のために細胞を投与するための製剤の選択は、様々な因子によって決定する。これらの中で突出しているものは、被験体の種、治療される障害、機能不全、または疾患の性質ならびに被験体におけるその状態および分布、投与される別の療法および作用物質の性質、投与のための最適な経路、その経路での生存性、投薬レジメン、ならびに当業者に明らかとなる別の因子であろう。特に、例えば、適当な担体および別の添加剤の選択は、正確な投与経路および特定の投薬形態の性質によって決まるであろう。
【0103】
例えば、細胞の生存は、細胞ベースの療法の有効性の重要な決定要素であり得る。これは、一次療法および補助療法の両方について当てはまる。標的部位が細胞播種および細胞増殖にとって適さない場合は、別の懸念が生じる。このことにより、その部位への進入路および/または治療細胞のそこへの移植を妨げる可能性がある。本発明の様々な実施形態は、細胞の生存を増加させ、かつ/または播種および/もしくは増殖に対する障害によって引き起こされる問題を克服する手段を含む。
【0104】
細胞/培地の水性懸濁液の最終製剤は、典型的には、懸濁液のイオン強度を等張性(すなわち、約0.1〜0.2)に、および生理的pH(すなわち、約pH6.8〜7.5)に調整する必要があるはずである。最終製剤はまた、典型的には、マルトースなどの液体滑沢剤を含有し、これは身体に許容されなければならない。例示的な滑沢剤成分は、グリセロール、グリコーゲン、マルトースなどを含む。ポリエチレングリコールおよびヒアルロン酸ならびに非線維性コラーゲン、好ましくはスクシニル化コラーゲンなどの有機ポリマーベース材料は、滑沢剤としても機能することができる。そのような滑沢剤は、注入部位に注入された生体材料の注入可能性、侵入可能性および分散を向上させるため、および組成物の粘性を変更することによってスパイキング量を減少させるために一般に使用される。この最終製剤は、定義によれば、薬学的に許容される担体中の細胞である。
【0105】
その後、細胞を、組織欠損部位での正確な配置のためにシリンジまたは別の注入装置に入れる。「注入可能な」という用語は、製剤が、通常の条件下、常圧下で、実質的なスパイキングがなく、わずか25の低ゲージを有するシリンジから分配可能であることを意味する。スパイキングは、組成物を、組織中に注入されるよりも、シリンジから漏れ出させる可能性がある。この正確な配置のために、27ゲージ(200μI.D.)またはさらには30ゲージ(150μI.D.)の細さの針が望ましい。そのような針から押し出すことができる最大粒径は、少なくとも以下ものの複雑な関数であろう:粒子最大寸法、粒子アスペクト比(長さ:幅)、粒子硬度、粒子の表面粗さおよび粒子に影響を及ぼす関連因子:粒子粘着性、懸濁流体の粘弾性特性、および針を通過する流速。ニュートン流体中に懸濁された硬質球状ビーズは、最も単純な事例を表し、粘弾性流体中の繊維状または分岐状粒子は、より複雑であると考えられる。
【0106】
本発明の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム、あるいはデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、または別の無機溶質もしくは有機溶質などの別の薬学的に許容される作用物質を使用して達成することができる。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンを含有する緩衝液に関して特に好ましい。
【0107】
組成物の粘性は、所望であれば、薬学的に許容される増粘剤を使用して、選択されたレベルで維持することができる。容易におよび経済的に利用可能であり、作業しやすいため、メチルセルロースが好ましい。別の適当な増粘剤は、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどを含む。増粘剤の好ましい濃度は、選択される作用物質に依存するはずである。重要な点は、選択された粘性を達成する量を使用することである。粘性組成物は通常、そのような増粘剤の添加によって溶液から調製される。
【0108】
薬学的に許容される防腐剤または安定剤を利用して、細胞/培地組成物の有効期限を増加させることができる。そのような防腐剤が含まれる場合、細胞の生存可能性または有効性に影響を及ぼさない組成物を選択することは十分に当業者の認識範囲内である。
【0109】
当業者は、組成物の成分が化学的に不活性であるべきであることを認識するはずである。このことは、化学および医薬の原則において、当業者にとって問題とならない。問題は、標準的なテキストを参照することによって、または、本開示、本明細書において引用されている、および当技術分野において一般に利用可能である文書により提供される情報を使用して簡単な実験(過度の実験を伴わない)によって、容易に回避することができる。
【0110】
無菌の注入用溶液は、本発明を実施する際に利用される細胞/培地を、必要に応じて様々な量の別の成分を含む、必要量の適切な溶媒に組み込むことによって調製することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、細胞/培地は、溶液、懸濁液、または乳液などの、注入可能な単位投薬形態に処方される。細胞/培地の注入のために適当な医薬製剤は、典型的には、無菌の水性溶液および分散液である。注入用製剤のための担体は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、および適当なそれらの混合物を含有する溶媒または分散培地とすることができる。
【0112】
当業者は、本発明の方法において投与される組成物中の、細胞および任意選択の添加剤、ビヒクル、および/または担体の量を容易に決定することができる。典型的には、任意の添加剤(細胞に加えて)は、リン酸緩衝生理食塩水などの溶液中、0.001〜50wt%の量で存在する。活性成分は、約0.0001〜約5wt%、好ましくは約0.0001〜約1wt%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05wt%または約0.001〜約20wt%、好ましくは約0.01〜約10wt%、および最も好ましくは約0.05〜約5wt%などの、数マイクログラム〜数ミリグラムの水準で存在する。
【0113】
いくつかの実施形態では、細胞は、投与のために、特に、カプセル化が療法の有効性を強化する、または取扱いおよび/または貯蔵有効期限において利点をもたらす場合、カプセル化される。カプセル化は、細胞により媒介される免疫抑制の有効性を増加させるいくつかの実施形態では、結果として、免疫抑制薬療法の必要性も軽減することができる。
【0114】
また、カプセル化は、いくつかの実施形態では、細胞(一般に、同種異系の移植において免疫原性ではない、またはほんのわずかに免疫原性である)に対する被験体の免疫応答をさらに軽減し、それにより、細胞の投与時に起こる可能性がある移植片拒絶または炎症を低減し得る、被験体の免疫系に対する障壁を提供する。
【0115】
細胞は、膜、ならびにカプセルによって、植込みの前にカプセル化されてもよい。利用可能な細胞カプセル化の多くの方法のいずれを利用してもよいことが予想される。いくつかの実施形態では、細胞は、個々にカプセル化される。いくつかの実施形態では、多くの細胞が、同じ膜内にカプセル化される。植込み後に細胞が取り出される実施形態では、単一の膜内などに多くの細胞をカプセル化している比較的大きな構造が、回収のために好都合な手段をもたらし得る。
【0116】
広範な種類の材料を、細胞のマイクロカプセル化のために、様々な実施形態において使用することができる。そのような材料は、例えば、ポリマーカプセル、アルギン酸−ポリ−L−リシン−アルギン酸マイクロカプセル、バリウムポリ−L−リシンアルギン酸カプセル、バリウムアルギン酸カプセル、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル(PAN/PVC)中空糸、およびポリエーテルスルホン(PES)中空糸を含む。
【0117】
細胞の投与のために使用することができる細胞のマイクロカプセル化のための技術は、当業者に公知であり、例えば、Chang, P.ら、1999年;Matthew, H. W.ら、1991年;Yanagi, K.ら、1989年;Cai Z. H.ら、1988年;Chang, T. M.、1992年、および米国特許第5,639,275号(これは、例えば、生物学的に活性な分子を安定に発現する細胞の長期間の維持のための生体適合性カプセルを記述している)において記述されている。カプセル化のさらなる方法は、欧州特許出願公開第301,777号および米国特許第4,353,888号;同第4,744,933号;同第4,749,620号;同第4,814,274号;同第5,084,350号;同第5,089,272号;同第5,578,442号;同第5,639,275号;および同第5,676,943号にある。前述のすべては、細胞のカプセル化に関する部分において、参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】
ある特定の実施形態は、細胞を、バイオポリマーまたは合成ポリマーなどのポリマー中に組み込む。バイオポリマーの例としては、それだけには限定されないが、フィブロネクチン、フィビン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、およびプロテオグリカンが挙げられる。上記で論じられたサイトカインなどの別の因子もまた、ポリマー中に組み込むことができる。本発明の別の実施形態では、細胞は、3次元ゲルの隙間に組み込まれてもよい。大きなポリマーまたはゲルは、典型的には、外科的に植え込まれる。十分に小さい粒子または繊維の形に製剤化することができるポリマーまたはゲルは、別の一般的な、より好都合な、非外科的な経路によって投与することができる。
【0119】
投薬
組成物は、投薬量でおよび医学および獣医学分野の当業者に周知の技術によって、年齢、性別、体重、および特定の患者の状態、および投与される製剤(例えば、液体に対して固体)などの因子を考慮に入れて、投与することができる。ヒトまたは別の哺乳動物のための用量は、過度の実験を行うことなく、この開示、本明細書において引用されている文献、および当技術分野における知識から、当業者が決定することができる。
【0120】
様々な本発明の実施形態に従って使用されるのに適切な細胞/培地の用量は、非常に多くの因子に依存する。この用量は、異なる環境では大きく異なり得る。一次療法および補助療法のために投与される最適な用量を決定するパラメータは、一般に、以下のいくつかまたはすべてを含む:治療される疾患およびその段階;被験体の種、それらの健康状態、性別、年齢、体重、および代謝速度;被験体の免疫能力;施される別の療法;および被験体の病歴または遺伝子型から予期される潜在的な合併症。パラメータはまた、以下を含み得る:細胞が同系、自己由来、同種異系、または異種であるかどうか;それらの効能(特異的活性);細胞/培地が有効となるために標的とされなければならない部位および/または分布;ならびに、細胞/培地への進入可能性および/または細胞の生着などのそのような部位の特徴。さらなるパラメータは、別の因子(増殖因子およびサイトカインなど)との同時投与を含む。所与の状況における最適な用量はまた、細胞/培地が処方される方法、これらの投与される方法、および投与後に細胞/培地が標的部位に局在化する程度も考慮に入れる。最終的に、最適な投薬の決定は、最大の有益な作用の閾値より低くなく、用量に関連する有害な作用が、増加させた用量の利点より勝る閾値より高くもない有効な用量を必然的にもたらすはずである。
【0121】
いくつかの実施形態のための細胞の最適な用量は、自己由来の、骨髄単核球移植のために使用される用量の範囲にある。細胞の極めて純粋な調製のために、様々な実施形態における最適な用量は、投与1回当たり10
4〜10
8細胞/受容者質量kgの範囲となる。いくつかの実施形態では、投与1回当たりの最適な用量は、10
5〜10
7細胞/kgとなる。多くの実施形態では、投与1回当たりの最適な用量は、5×10
5〜5×10
6細胞/kgとなる。参照のために、前述における高用量は、自己由来の骨髄単核球移植において使用される有核細胞の用量に類似している。低用量のいくつかは、自己由来の骨髄単核球移植において使用されるCD34
+細胞/kgの数に類似している。
【0122】
単回用量を、すべてを一度に、断片的に、または継続的に、一定期間にわたって送達してもよいことが理解されるべきである。全体の用量をまた、単一の位置に送達しても、またはいくつかの位置にわたって断片的に広げてもよい。
【0123】
様々な実施形態では、細胞/培地を、初回用量で投与し、その後さらなる投与によって維持することができる。細胞/培地を、最初、1つの方法によって投与し、その後同じ方法または1つもしくは複数の異なる方法によって投与することができる。レベルは、細胞/培地の継続する投与によって維持することができる。様々な実施形態は、細胞/培地を、最初に、または被験体におけるそれらのレベルを維持するために、または両方で、静脈内注入によって投与する。様々な実施形態では、投与の別の形態は、患者の状態および本明細書において他の箇所で論じられている別の因子に応じて使用される。
【0124】
ヒト被験体は、実験動物よりも一般により長く治療されるが、治療は、疾患経過の長さおよび治療の有効性に対応する長さを一般に有することに留意する。当業者は、ヒトについての適切な用量を決定するために、ヒトにおいておよび/またはラット、マウス、非ヒト霊長類など動物において行われた別の手順の結果を使用する際に、このことを考慮に入れるはずである。これらの考慮に基づく、および本開示および従来技術により提供される手引きを考慮に入れたそのような決定により、当業者は、過度の実験を行うことなく、用量を決定することができるであろう。
【0125】
初回投与およびさらなる用量のための、または逐次投与のための適当なレジメンは、すべて同じであってもよく、または様々であってもよい。適切なレジメンは、本開示、本明細書において引用されている文献、および当技術分野における知識から、当業者が確認することができる。
【0126】
用量、頻度、および治療の継続時間は、疾患の性質、被験体、および投与され得る別の療法を含む多くの因子によって決定する。したがって、広範な種類のレジメンが、細胞/培地を投与するために使用されてもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、細胞/培地は、1回用量で被験体に投与される。別の実施形態では、細胞/培地は、一連の2回またはそれより多くの用量で連続して被験体に投与される。細胞/培地が、単回用量で、2回用量で、および/または2回を超える用量で投与されるいくつかの別の実施形態では、用量は同じでも、または異なっていてもよく、これらは、等しい間隔でまたは異なる間隔で投与される。
【0128】
細胞/培地は、多頻度で、広範囲の時間にわたって投与されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞/培地は、1日未満の期間にわたって投与される。別の実施形態では、細胞/培地は、2、3、4、5、または6日にわたって投与される。いくつかの実施形態では、細胞/培地は、1週当たり1または複数回、数週間にわたって投与される。別の実施形態では、細胞/培地は、数週間にわたって1〜数カ月間投与される。様々な実施形態では、細胞/培地は、数カ月の期間にわたって投与されてもよい。別の実施形態では、細胞/培地は、1または複数年の期間にわたって投与されてもよい。一般に、治療の長さは、疾患経過の長さ、適用される療法の有効性、および治療される被験体の状態および反応に対応するはずである。
【0129】
例えば、脊髄損傷に関して、2つの段階が存在し得ることがこの文書において説明されている。動物モデルにおいて、第1の段階では、マクロファージは、病変に浸潤せず、これが約24時間継続する。しかしながら、第2の段階では、マクロファージは病変に浸潤し、この一連の事象は、治療レジメンを評価するときに考慮され得る。一実施形態では、細胞は、損傷後直ちに、または可能な限り損傷の直前に、など、第1段階の間でさえ、マクロファージまたはジストロフィー軸索と相互作用するであろう別の細胞の浸潤を見越して投与される。治療はその後、最初のおよびさらなるマクロファージ浸潤と同時に起こるように継続してもよく、予防的に継続しても、または、場合により、マクロファージまたは別の関連細胞がもう損傷に浸潤していないと判断されたときは停止してもよい。
【実施例】
【0130】
(実施例I)
「グリア瘢痕モデル」アグリカン−ラミニン対立スポット勾配(Tomら、2004年;Steinmetzら、2005年)。グリア瘢痕モデルを教示するこれらの参考文献は、参照により組み込まれる。このモデルは、in vitroでの接着/退縮の低減における細胞、タンパク質、培地などの有効性についてのアッセイを実現する。
【0131】
阻害性マトリックスがin vivoでの病変後に発生するものとよりよく類似している空間的構造に提示される場合、PGは軸索におけるいわゆるジストロフィー状態を誘発し得る。これを行うために、PGアグリカンおよび成長促進分子ラミニンの溶液のスポットをニトロセルロース製カバースリップ上にのせ、風乾した。
【0132】
乾燥の一貫したアーチファクトにより、スポットの縁部が中心よりも濃度が次第に高くなるアグリカンを含む大まかな勾配が生じた。縁部の最も外側の部分は、中心の領域よりも低い濃度のラミニンを含んでいた。最適なECM濃度(アグリカン0.7mg/mlおよびラミニン5μg/ml)が良好な細胞付着をもたらした。したがって、高アグリカン−低ラミニンの外側縁部は、神経突起の再生には特に過酷な環境であると考えられた。そのシャープな外側界面を越えてラミニン周囲からスポット内に内向きに何も入らなかった。スポットの中心部の内部から求心的に成長している線維は、縁部の内側部分に入ることができたが、さらに成長することはできなかった。勾配内に入ると、軸索は捕捉されると考えられた。こん棒様のジストロフィーエンドボール(endball)が勾配内の神経突起の末端に形成した。「ジストロフィー終末」の挙動を観察するために、経時的顕微鏡検査法を用いた。ジストロフィー成長円錐は、短距離を進もうとすることが多かったが、不可避的に、はい進む成長円錐は、より小型のボールにまとまり、退縮して、再び移動し始めることになる。
【0133】
(実施例II)
軸索退縮およびマクロファージ
要約
in vivoにおいて、後柱圧壊脊髄損傷後の切断された軸索の末端のジストロフィー退縮クラブとED−1
+細胞との間に密接な相関が認められた(
図3)。グリア瘢痕のin vitroモデル(Tomら、2004年;Steinmetzら、2005年)を適用して、軸索とED−1
+細胞との間の相互作用を実時間で検討した。ジストロフィー成長円錐とED−1
+マクロファージとの間の直接的な細胞間接触が長距離の軸索退縮を誘発した(
図4、5)。in vivoでのマクロファージ枯渇のためにクロドロネートリポソームを用いたこと(Popovichら、1999年)の結果は、対照と比較してクロドロネート処理動物における軸索退縮の有意な減少であった。これらのデータは、ED−1
+細胞が物理的細胞間相互作用により損傷脊髄軸索の退縮に直接関与していることを示している。
【0134】
結果
1.上行後柱感覚軸索が脊髄損傷後に大幅に退縮する
本発明者らは、活性化マクロファージの浸潤が軸索の退縮に直接的な役割を果たす可能性があると考えた。亜急性および慢性脊髄病変内で活性化マクロファージと再生軸索の末端との間に密接な関連性が認められ、これらの2つの細胞型間の直接的な物理的相互作用の可能性が見越された。後柱圧壊損傷後の感覚軸索退縮の程度を特徴付け、病変へのマクロファージの浸潤と相関させた。成体雌Sprague−Dawleyラットの後柱をC8のレベルで圧壊し、損傷ニューロンの副次集団を坐骨神経のデキストラン−テキサスレッド標識により追跡した。病変後2、4、7、14および28日目に脊髄組織を採取し、標識線維の末端と病変の中心との間の距離を測定した。病変後2日目までに、軸索は既に平均距離343±46.92μm(平均値±SD)退縮していたが、この早期の退縮は、ニューロン自体の内部の内因性メカニズムに起因していた可能性が最も高い(Kerschensteinerら、2005年)。損傷後2日目に病変は、常在性ミクログリア細胞であった可能性が最も大きい、反応性星状細胞(GFAP
+)およびいくつかのED−1
+細胞から主として構成されていたことに留意することは重要である。病変後2日目から7日目までに病変内のED−1
+細胞の数の劇的な増加があり、その大多数が浸潤性マクロファージであった可能性が最も大きい(Popovichら、1997年;DonnellyおよびPopovich、2007年)。後柱内の上行感覚線維の第2段階の縮退は、最初の週にわたって最も速やかに起こり、その後、次の数週間にわたり徐々に起こった。病変後28日目までに、軸索は病変中心から平均距離774±70.26μmの位置に退縮した。これらのデータから、上行感覚軸索の退縮の時期が病変内のED−1
+細胞の浸潤および蓄積と時空的に一致していることがわかる。
【0135】
2.活性化マクロファージの枯渇がin vivoでの軸索退縮を減少させる
in vivoでの第2段階の軸索縮退の大部分は、マクロファージの浸潤と時間的に一致する病変後2日目から7日目までに上行後柱感覚軸索で起こる。in vivoでの軸索縮退へのマクロファージの関与をさらに実証するために、循環単球/マクロファージを枯渇させるために動物をクロドロネートリポソームで処理した(van Rooijenら、1997年;Popovichら、1999年)。循環単球/マクロファージを枯渇させるために動物にクロドロネートリポソームの注射を損傷の1日前に開始して1日おきに行った。次いで、病変後2日目、4日目および7日目に動物を軸索縮退について評価した(
図3)。クロドロネートリポソームの注射を施した動物は、病変後4日目および7日目に対照リポソームの投与を施した動物(それぞれ586±42.89μmおよび806±62.71μm)と比較して病変後4日目および7日目に退縮の有意な減少を示した(それぞれ402±81.85μmおよび439±46.33μm)。退縮の減少は、空リポソーム対照と比較してクロドロネート投与動物の病変のED−1
+細胞数の有意な減少と相関していた。クロドロネートリポソームの処理は、マクロファージの枯渇が空洞化の減少につながるという以前の所見(Popovichら、1999年)と関連性がある、病変コアにおけるGFAP
+星状細突起の増加ももたらした。重要なことに、病変後2日目にクロドロネート処理および対照リポソーム処理動物で示された退縮の量の差はなかった。この時点ではマクロファージの浸潤はまだ起こっておらず、このことは、軸索縮退の最初の段階はマクロファージ非依存性であり、内因性ニューロンメカニズムまたは、場合によっては活性化常在性ミクログリア細胞との相互作用におそらく起因することを示唆する。循環マクロファージ/単球のクロドロネート媒介枯渇によって、通常病変後4日目および7日目に認められた軸索退縮が妨げられ、この第2段階の退縮が浸潤性マクロファージによって引き起こされたことがわかった。クロドロネート投与動物における有意な再生(すなわち、病変の中心を超える軸索の伸長)の証拠はなかった。
【0136】
3.グリア瘢痕のin vitroモデルにおいてジストロフィー成長円錐がマクロファージとの接触後に大幅に退縮する
in vivoでのED−1
+細胞と損傷した軸索とに密接な関連性があるという所見は、これらの細胞型間の相互作用が軸索の退縮に役割を果たしている可能性があることを示唆するものである。グリア瘢痕のin vitroモデルにおける成体感覚ニューロン軸索とマクロファージとの相互作用を試験した。30分間のベースライン観察期間の後、NR8383マクロファージを培養物に添加し、このマクロファージとジストロフィー軸索との相互作用をモニターした。ジストロフィー軸索とマクロファージとの間の直接的な細胞間接触を頻繁に観察した。これらの接触は、長時間にわたるものであり、マクロファージの移動と一緒になったとき、軸索の効果的な曲げおよび基質からの持ち上げをもたらした軸索の劇的な操作につながった。2つの細胞を結びつける長期にわたり這う過程が、マクロファージが軸索から離れた後に残ることが多かったので、2つの細胞型の間に強い長時間持続する接着が起こり得たことは明らかであった。しかし、退縮後にマクロファージ接触を失ったいくつかの軸索が、それらが再びジストロフィーになるまで伸長することができたので、マクロファージ誘発性退縮は、軸索の再成長を永久的に妨げなかった。これらの2つの細胞型の間の直接的な細胞間接触は、最終的には常に軸索の大幅な退縮をもたらした。したがって、マクロファージ接触は、グリア瘢痕のin vitroモデルにおいてジストロフィー軸索の退縮を誘発した。
【0137】
4.直接的な物理的細胞間相互作用がマクロファージ誘発性退縮に必要である
マクロファージが、ジストロフィー軸索に非常に近くまで移動するが、接触しないことが認められた多くの例が存在し、これらの例では軸索退縮が認められなかった。軸索とマクロファージとの間の物理的相互作用が軸索の退縮を誘発するのに必要であるかどうか、またはマクロファージ由来因子が十分であるかを判断するために、マクロファージをDRG培養物に添加する前にマクロファージをトリプシンで処理して、細胞外タンパク質を除去した。トリプシンによるマクロファージの前処理により、広範なマクロファージの移動性と軸索との複数回の衝突が可能になった。しかし、処理は、マクロファージが軸索に物理的につなぎ留められることを完全に妨げ、長時間持続する直接的な細胞間接触がない場合には、その後の退縮は認められなかった。しかし、マクロファージが退縮を誘発する因子(複数可)を分泌していた可能性があった。この仮説を検定するために、マクロファージ馴化培地をin vitroでジストロフィー軸索に加えた。マクロファージ馴化培地は、退縮を誘発しなかった。したがって、軸索の近くにマクロファージまたは分泌因子が単に存在することでは、ジストロフィー軸索との物理的な相互作用がない場合には、軸索の退縮を誘発することができなかった。
【0138】
5.マクロファージ誘発性退縮における基質の役割
基質が軸索の退縮に役割を果たすかどうかを判断するために、ジストロフィー成長円錐を生じさせない均一な成長促進ラミニン基質上で成体感覚ニューロンを培養した。ラミニン上の成長円錐は、多数の糸状仮足および層状仮足により扁平であり、全体的な軸索の退縮が一定の速度で起こった。マクロファージをこれらの培養物に添加した場合、軸索との直接的な細胞間接触が認められた。しかし、これらの接触は、一過性であり、広範でないので、速やかに絶たれ、軸索の退縮をもたらさなかった。膜接触点の遺残物がニューロンに速やかに再吸収され、成長円錐が妨げられずに基質にわたって伸長し続けた。したがって、マクロファージ誘発性軸索退縮は、基質依存性であり、許容状態の基質ラミニン上で活発な成長状態のニューロンは、CSPG勾配により誘発されたジストロフィーの状態にあるものと異なり、マクロファージ接触に対して感受性でなかった。
【0139】
6.活性化初代マクロファージも軸索退縮を誘発する
さらなる問題は、初代マクロファージがNR8383マクロファージ細胞系とin vitroで同じようにジストロフィー軸索と相互作用するかどうかであった。成体Sprague−Dawleyラットの骨髄から前駆細胞を採取し、in vitroでマクロファージに分化させ、80%を超えるED−1
+細胞の培養物を得た。マクロファージのこの特定の集団は、他の身体の源から採取された集団と異なる脊髄病変に認められるマクロファージの表現型、形態および機能特性を保持することが示された(Longbrakeら、2007年)。次に軸索退縮を誘発する初代マクロファージの能力を評価した。非刺激初代マクロファージは、退縮を誘発することができなかった。スポット勾配ニューロン培養物に添加した場合、これらのマクロファージは、基質に接着したが、運動性でなく、休止状態のマクロファージの特性を示した。マクロファージがジストロフィー軸索上に落ち着いた場合にのみ、軸索との接触が起こった。マクロファージも、それらの細胞間相互作用も、細胞系マクロファージで以前に認められた物理的特性のいずれも、すなわち、引っ張りも、細胞過程による物理的付着の徴候なども示さなかった。
【0140】
ジストロフィー軸索と相互作用するためにはマクロファージが活性化された状態になければならない可能性がある。低速度撮影培養皿に添加する前に初代マクロファージを培養物中で活性化サイトカインインターフェロンガンマにより刺激した。これらのマクロファージは、中程度の活性化の状態を示し、わずかに丸い形態を示したが、依然として運動性でなく、ジストロフィー軸索との強い結合を形成せず、したがって、軸索退縮を誘発しなかった。DRG培養物に添加する前に、初代マクロファージをインインターフェロンガンマとリポ多糖(LPS)との組合せでさらに刺激した。これらのマクロファージは、活性化マクロファージの形態および挙動、すなわち、丸く、食細胞の形状および高度に運動性を示した。これらの活性化マクロファージは、細胞系マクロファージと同様に頻繁にジストロフィー軸索の退縮を誘発した。それらは、強い細胞間接着および物理的つかみ、基質からの軸索の引っ張りおよび持ち上げをもたらす、ジストロフィー軸索との激しい物理的相互作用を示した。初代マクロファージは、活性化状態にある場合、in vitroでジストロフィー軸索の退縮を誘発した。これは、in vitroでの軸索の退縮の本試験における細胞系マクロファージの使用をバリデートするものである。したがって、NR8383マクロファージ細胞系が、さらなる刺激なしに脊髄病変内に認められたマクロファージと同様に一定の活性化状態にあった細胞の純粋な集団を構成していたので、実験の大部分をNR8383マクロファージ細胞系を用いて行った。
【0141】
7.活性化ミクログリア細胞はin vitroで軸索退縮を中程度に誘発することができる
マクロファージは、一般的に病変後3日目まで損傷脊髄に浸潤しないので、CNS内の常在性グリア細胞は損傷に即時に反応する(Watanabeら、1999年)。病変内のグリア細胞は、活性化マクロファージと酷似して、活性化され、食作用を有するようになる。常在性グリア細胞であった可能性が最も高かった一般的なマクロファージの浸潤の前の病変後2日目に限られた数のED−1
+細胞が損傷部内に認められた。軸索退縮に対するミクログリア細胞寄与の可能性をin vitroモデルを用いて評価した。皮質ミクログリア細胞をP1 Sprague−Dawleyラットから採取し、低速度撮影した培養物に添加する前にin vitroで成熟させた。初代マクロファージと同様に、初代ミクログリア細胞は、培養物中で活性化された状態になるためにはインターフェロンガンマおよびLPSで刺激しなければならなかった。非刺激ミクログリア細胞は、ラミニン/アグリカンスポット勾配基質に接着せず、これが我々のモデルにおけるジストロフィー軸索と相互作用することを妨げた。しかし、刺激されたミクログリア細胞は、軸索と接着し、物理的に相互作用し、50%の時間退縮を誘発したが、活性化ミクログリア細胞とジストロフィー軸索との接触は、マクロファージの接触ほど強くなかった。したがって、実験的に活性化されたミクログリア細胞も軸索退縮の誘発に役割を果たすことができる。
【0142】
8.他のCNS細胞型である星状細胞はin vitroで軸索退縮を誘発できない
他の問題は、in vitroでのジストロフィー軸索の退縮の誘発は、病変脊髄内で通常認められる食作用を有する細胞型に特異的であり、ジストロフィー軸索と他の細胞型との相互作用の単なる結果ではないかどうかであった。星状細胞は、CNSの損傷後のグリア瘢痕の不可欠な構成要素である。それらは、高い数で存在し、再生性軸索に広範に接触する。DRG培養物に添加する前に、皮質星状細胞をin vitroで成熟させた。星状細胞は、基質に接着し、ジストロフィー軸索に広範に接触した。基質に結合した後、星状細胞は速やかに縁から離れてアグリカン勾配を下って移動した。星状細胞突起は、軸索上に広がり、時として軸索の側方変位をもたらした。しかし、これらの接触は、接触した軸索の退縮をもたらさなかった。したがって、退縮の誘発は、ED−1
+食細胞との相互作用に特異的であって、他の細胞型との単なる物理的相互作用ではない。
【0143】
材料および方法
1.後柱圧壊病変モデル
33匹の成体雌Sprague−Dawleyラット(250〜300g)をin vivo試験に用いた。すべての外科的処置のためにラットを吸入イソフルオランガス(2%)で麻酔した。T1椎弓切除術を実施して、C8脊髄セグメントの背側面を露出させた。30ゲージ針を用いて中線から両側0.75mmにデュロトミーを行った。次いで、Dumont#3鉗子をC8の後脊髄に1.0mmの深さに挿入し、鉗子を押し込み、圧力を10秒間保持し、さらに2回繰り返すことによって、後柱圧壊病変を加えた。病変の完了は、白色物質の除去の観察によって確認した。次いで、膜の穴をゲルフィルムで覆った。筋層を4−0ナイロン縫合糸で縫合し、皮膚を外科用ステープルで閉じた。切開部の閉鎖時に、動物にマルカイン(1.0mg/kg)を切開部に沿って皮下に、ならびにブプレノルフィン(0.1mg/kg)を筋肉内に投与した。術後、麻酔からの回復時に動物を加熱ランプで温め、飼料および水を自由に摂取させた。病変後2、4、7、14または28日目に動物を屠殺した(1群当たりN=3)。すべての動物への処置は、Case Western Reserve Universityの動物資源センターのガイドラインおよびプロトコールに従って実施した。
【0144】
2.マクロファージ枯渇
動物に後柱圧壊損傷の前日、ならびに2日目の時点の病変後1日目、病変後1および3日目(4日目の時点)、ならびに病変後1、3および5日目(7日目の時点)にもリポソーム封入クロドロネートまたは空リポソーム対照を腹腔内注射した(1群当たりN=3)。クロドロネートは、Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germanyからの寄贈であった。クロドロネートは、前述のようにリポソームの封入されていた(Van RooijenおよびSanders、1994年)。
【0145】
3.軸索の標識
屠殺の2日前に、後柱をテキサスレッド結合3000MWデキストランで一側に標識した。手短に述べると、右後肢の坐骨神経を露出させ、Dumont#3鉗子で10秒間圧壊し、さらに2回繰り返した。1.0μLの滅菌水中3000MWデキストラン−テキサスレッド10%をHamilton注射器で圧壊部位の坐骨神経内に注射した。筋層を4−0ナイロン縫合糸で、皮膚を外科用ステープルで閉じた。切開部の閉鎖時に、動物にマルカイン(1.0mg/kg)を切開部に沿って皮下に、ならびにブプレノルフィン(0.1mg/kg)を筋肉内に投与した。術後、麻酔からの回復時に動物を加熱ランプで温め、飼料および水を自由に摂取させた。動物を標識の2日後にイソフルランの過剰投与により屠殺し、PBSと続いて4%PFAで潅流した。組織を採取し、4%PFAで後固定し、免疫組織化学検査用に処理した。
【0146】
4.免疫組織化学検査
組織を4%PFAで一夜後固定し、30%スクロースに一夜浸漬し、OCTマウンティング媒体中に凍結し、クリオスタット上で20μm縦方向切片に切断した。次いで、組織を抗GFAP(Accurate Chemical and Scientific Corporation、Westbury、NY)、抗ED−1(Millipore、Billerica、MA)で染色し、それぞれAlexafluor−405またはAlexafluor−488(Invitrogen、Carlsbad、CA)とともにインキュベートし、次いで、Zeiss Axiovert 510レーザー走査共焦点顕微鏡で撮像した。
【0147】
5.in vivo軸索退縮の定量
1匹の動物当たり脊髄の背面の200μm下の深さで始まる3連続切片を動物ごとに分析して、軸索退縮を定量した。Zeiss LSM5 Image Browserソフトウエアを用いて特性GFAPおよびED−1染色パターンおよび標識軸索の末端と中心の間の距離により病変の中心を同定した。群のすべての動物のすべての切片の測定値を平均して、時点ごとの退縮の平均距離を求めた。
【0148】
損傷線維標識軸索をトレースするために用いた手法は、後柱内の極めて表面を検索した。また、標識された線維の数は、トレーサーを注射するレベルの坐骨神経の線維束収縮の程度によって異なることがあり得る。標識軸索は、複数の理由のためにその深さでのみ定量した。この深さは、すべての動物における標識線維を一貫して含んでいたが、一部の動物は、より深い深さの標識線維を有していなかった。病変の直線の程度は、後柱のより深いレベルで増加する。したがって、脊髄内のより深い部位にある軸索は、より表面レベルのものよりはるかに大きい病変に遭遇する。動物および群間の正確な比較を可能にするために退縮の距離の定量を病変の同様の位置で行わなければならない。標識の程度の差のため、標識軸索の全集団の定量は、結果の歪みにつながる可能性がある。その代わりに、それらを一貫して検査し、すべての動物において正確に定量することができるように、標識軸索の特定の集団および位置を定量した。
【0149】
6.DRGの解離
DRGは、以前に記載されたように採取した(Tomら、2004年;Daviesら、1999年)。手短に述べると、DRGを成体雌Sprague−Dawleyラットから切り離した(Zivic Miller、Harlan)。中枢および末梢根を除去し、神経節をHBSS中コラゲナーゼII(200U/mL、Worthington)およびディスパーゼII(2.5U/mL、Roche)の溶液中でインキュベートした。消化DRGを洗浄し、新鮮なHBSS−CMF中で3回緩やかに摩砕した後、低速度で遠心分離した。次いで、解離DRGをB−27、Glutamaxおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したNeurobasal−A培地(すべてInvitrogen製)に再懸濁し、計数した。DRGを3000細胞/mLの密度、合計6000細胞/皿でDelta−T皿(Fisher)上に置いた。
【0150】
7.経時皿の準備
Delta−T培養皿(Fisher、Pittsburgh、PA)をTomら、2004年と同様に調製した。手短に述べると、2番ビットを用いて各皿の上半分に1つの穴をあけて、経時顕微鏡検査時の細胞、酵素、阻害剤などの添加用のポートを造成した。次いで、皿を滅菌水で洗浄し、ポリ−1−リシン(0.1mg/mL、Sigma)を用いて室温で終夜被覆し、滅菌水で洗浄し、乾燥した。培養物表面上に2.0μLのアグリカン溶液(2.0mg/mL、Sigma in HBSS−CMF、Invitrogen)をピペッティングすることにより、アグリカン勾配スポットを形成させ、乾燥した。1つの皿当たり6つのスポットをのせた。アグリカンスポットが完全に乾燥した後、皿の全表面をHBSS−CMF中ラミニン溶液(10μg/mL、BTI、Stoughton、MA)中に37℃で3時間浸した。細胞の平板培養の直前にラミニン浴を除去した。ラミニン浴のみを用い、アグリカンを用いないで、ラミニンのみの基質を含む皿を上と同様に調製した。ここで用いた基質の濃度は、Tomら、2004年により用いられたものと異なる。皿調製プロトコールからニトロセルロースを除くことによって、顕微鏡検査の明瞭さを改善することができる。しかし、皿表面への基質の結合の差を補償するために、用いる基質の濃度を上記のものに再較正した。
【0151】
経時撮像後に、DRGを4%PFAで固定し、抗B−チューブリンIII型(1:500;Sigma、St.Louis、MO)および抗コンドロイチン硫酸(CS−56、1:500、Sigma)で免疫染色した。
【0152】
8.細胞系マクロファージ培養
成体Sprague−Dawley肺胞マクロファージ細胞系である、NR8383細胞(ATCC#CRL−2192)をYinら(2003年)に記載の通り培養した。手短に述べると、細胞を非被覆組織培養フラスコ(Corning)中、15%FBS、Glutamax、Penn/Strep(Invitrogen)および重炭酸ナトリウム(Sigma)を添加したF−12K培地(Invitrogen)中で培養し、週2〜3回フィードした。この細胞系は、接着性および懸濁細胞の混合培養物を形成しており、フィーディング時に浮遊細胞を収集し、再び平板培養することによって継代培養した。経時顕微鏡実験用の細胞系マクロファージを準備するために、細胞を0.5%トリプシン/EDTA(Sigma)を用いて収集し、血清不含有F−12Kで3回洗浄し、非被覆組織培養フラスコ中、血清不含有F−12K中で1.0×10
6/mLの密度で平板培養した。翌日経時実験に用いる前に、培養細胞系マクロファージをEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、HEPES(50μM、Sigma)の添加を含め上のように補足したNeurobasal−A中に2.5×10
5/70μLの密度で再懸濁した。
【0153】
9.初代骨髄由来マクロファージ培養
以前に確立されたプロトコール(Tobianら、2004年)に基づいて骨髄前駆細胞を収集した。手短に述べると、成体雌Sprague−Dawleyラット(225〜275g、Harlan)から大腿骨を除去した。大腿骨の末端を除去し、10%FBS、Glutamax、Penn/Strep、ベータ−メルカプトエタノールおよびHEPES(Invitrogen)(D10F)を添加した冷DMEMを含む注射器を大腿骨に挿入し、骨髄を流し出し、収集した。得られた細胞混合物を70ミクロンフィルターに通し、遠心分離した。上清を除去し、得られた細胞ペレットをAKT溶解緩衝液(BioWhitacre)に再懸濁して、赤血球を溶解し、遠心分離した。上清を除去し、骨髄前駆細胞を含むペレットを再懸濁し、さらに20%LADMAC細胞系馴化培地(Dr.Clifford Hardingの寛大な寄贈物)をさらに添加した上のDMEM中で平板培養して、マクロファージへの分化を誘導した。細胞を5、7、9日目にフィードし、10日目に培養実験用に収集した。経時実験の1日前に、トリプシン/EDTAを用いて初代マクロファージを収集し、D10Fで3回洗浄し、非被覆ペトリ皿(Falcon)中、D10F中で1.0×10
6/mLの密度で平板培養した。翌日、初代マクロファージをEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、経時顕微鏡実験用にNeurobasal−A+HEPES中に5.0×10
5/70μLの密度で再懸濁した。
【0154】
10.皮質星状細胞標本
P0−P1ラットの皮質を除去し、細切し、EDTA中0.5%トリプシンで処理することにより、皮質星状細胞を収集した。細胞を、ポリ−L−リシンを被覆したT75フラスコ上10%FBS(Sigma)および2mM Glutamaxを含むDMEM/F12(Invitrogen)に播種し、4時間後に振とうして、非接着細胞を除去した。星状細胞を培養物中で少なくとも28日間成熟させた。星状細胞をEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、経時顕微鏡実験用にNeurobasal−A+HEPES中に5.0×10
5/70μLの密度で再懸濁した。
【0155】
11.皮質ミクログリア細胞標本
P0−P1ラットの皮質を除去し、細切し、EDTA中0.5%トリプシンで処理することにより、皮質ミクログリア細胞を収集した。細胞を、ポリ−L−リシンを被覆したT75フラスコ上20%FBS(Sigma)および2mM Glutamaxを含むDMEM/F12(Invitrogen)中で5〜7日間平板培養した。経時実験の1日前に、フラスコを攪拌して、接着性の低い細胞を除去し、これらの細胞を非被覆ペトリ皿(Falcon)中、D10F中で1.0×10
6/mLの密度で平板培養した。翌日、初代ミクログリア細胞をEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、経時顕微鏡実験用にNeurobasal−A+HEPES中に5.0×10
5/70μLの密度で再懸濁した。
【0156】
12.経時顕微鏡試験
低速度撮像の前にDRGニューロンを37℃で48時間インキュベートした。加熱ステージ装置に移す前にHEPES(50μM、Sigma)を含むNeurobasal−A培地を培養物に添加した。100倍油浸対物レンズを用いたZeiss Axiovert405M顕微鏡により3時間にわたり30秒ごとに経時画像を得た。スポットリム中にまっすぐ延び、特徴的なジストロフィー形態を有していた成長円錐を選択した。ニューロンを30分間観察し、さらなる細胞型の添加の前にベースライン挙動を測定した(初代マクロファージN=3を除くすべての群についてN=6)。細胞の添加後150分間成長円錐を観察した。我々はMetamorphソフトウエアにより伸長/退縮および成長の速度を追跡した。
【0157】
13.統計解析
データは、Minitab 15ソフトウエアを用いて一元もしくは二元配置ANOVAまたは適切な場合、一般的線型モデル、およびテュキー事後検定により解析した。
【0158】
考察
結果は、マクロファージが直接的な物理的接触によりジストロフィー成体軸索の退縮を誘発するという最初の決定的な証拠を示している。退縮の誘発は、ニューロンの成長状態およびマクロファージの活性化状態に依存していた。初代骨髄由来マクロファージは、in vitroで軸索退縮を誘発するために細胞系マクロファージおよび脊髄病変内のマクロファージと同様な活性化の状態に達するのにインターフェロンガンマおよびLPSによる刺激を必要とした。これは、in vivoでのマクロファージの挙動は状態に依存し、マクロファージの浸潤のみがミエリン変性が存在する場合の軸索退縮と相関することを示す以前の研究と一致している(McPhailら、2004年)。本試験は、成体感覚ニューロンが、阻害性CSPGの勾配によって誘発された停滞した成長のジストロフィー状態にあった場合にマクロファージ誘発性退縮を受けやすかったことを示している。均一なラミニン基質上で成長の活発な状態にある成体ニューロンは、マクロファージとの接触を速やかに断ち、退縮しなかった。
【0159】
退縮の誘発は、複数の内因性および外因性のメカニズムを必要とする可能性がある。本試験は、マクロファージとジストロフィーニューロンとの直接的な細胞間接触なしに起こらなかったことを示している。トリプシン処理マクロファージまたはマクロファージ馴化培地のみの添加は、退縮を誘発するのに不十分であった。マクロファージは、退縮を誘発するためにジストロフィー軸索の成長円錐と特異的に接触しなければならないことはなかった。活性化マクロファージとの接触がそのジストロフィー終末から離れた軸索内のシグナル伝達経路を始動させる可能性がある。
【0160】
マクロファージおよびニューロンが互いを物理的に識別し、相互作用するいくつかの候補結合パートナーが存在する。マクロファージは、軸索ビトロネクチンを認識し結合するためにアルファvおよびベータ1インテグリン受容体を使用する可能性があり(Sobelら、1995年)、変性末梢神経へのマクロファージの接着は、ベータ1インテグリンを阻害することによって部分的に減弱される(Brownら、1997年)。視神経の損傷後に、軸索は、マクロファージ上に存在するEphB3受容体により認識されるephrinB3を発現する(Liuら、2006年)。シアル酸のマクロファージ特異的受容体であるSialoadhesinは、ニューロン細胞膜上に存在する(Kelmら、1994年;Tangら、1997年)。マクロファージはまた、エンドサイトーシスのために損傷ニューロンに警告を与える(flag)可能性がある、アポトーシスを受ける細胞の外膜表面上で曝露されるホスファチジルセリンを認識する(Deら、2002年;De Simoneら、2004年)。さらに、fractalkineは、CNSニューロン上で主として発現するケモカインであり、一方、その受容体CX3CR1は、マクロファージ上に認められる(Zujovicら、2000年;Umeharaら、2001年)。これらの分子のもしあるならばどれが、マクロファージ認識のためにそれらを標的にするジストロフィー成体ニューロンの表面上で発現または上方制御されるかを判断するためにさらなる試験を行わなければならない。
【0161】
本試験は、上行後柱経路が退縮を受け(Borgensら、1986年;McPhailら、2004年;Stirlingら、2004年;BakerおよびHagg、2005年;Bakerら、2007年)、その時期がマクロファージの浸潤と一致することを確認するものである。軸索退縮は、下行皮質脊髄路(FishmanおよびKelley、1984年;Iizukaら、1987年;Hillら、2001年;Seifら、2007年)、延髄脊髄路(HouleおよびJin、2001年)および赤核脊髄路(Schwartzら、2005年;Caoら、2007年)を含む脊髄内の他の経路において検討された。軸索退縮の2つの異なる段階があることを考慮することは重要である。in vivoでの成体マウスの軸索切断感覚軸索を撮像した最近の試験で、損傷の最初の数時間以内の約300μmの軸索退縮とそれに続く病変後最初の3日間にわたる軸索の安定化が示された(Kerschensteinerら、2005年)。したがって、本試験の焦点は、活性化マクロファージに起因し、ニューロンの本質的特性ではない第2の後期の軸索退縮であった。
【0162】
本試験は、損傷前および正常な退縮期間中のクロドロネートリポソームの投与が病変後2〜7日目の第2段階の軸索退縮を予防したことを示している。以前の試験で、クロドロネートリポソーム媒介性マクロファージ枯渇が病変容積の減少およびニューロンの生存率の増加をもたらすことが示された(Popovichら、1999年;van Rooijenおよびvan Kesteren−Hendrikx、2002年)。これらの著者らはマクロファージ枯渇の軸索再生効果を強調しているが、本試験におけるデータは、クロドロネートリポソーム投与動物の病変の軸索含量の増加は、少なくとも一部は軸索退縮の減衰に起因する可能性があることを示唆している。
【0163】
(実施例III)
幹細胞は活性化マクロファージのDRGへの接着を妨げることができる
結果
1.モデル
後柱圧壊損傷後に、再生軸索は、マクロファージおよびミクログリア細胞に遭遇し、ジストロフィー終末を形成する。これについての概略を
図1に示す。本発明者らの実験室による以前の試験で、マクロファージ浸潤が後柱圧壊損傷後の軸索ダイバックと相関することが示された(
図2および3)。損傷後の上行後柱感覚軸索の軸索ダイバックの程度を特徴付けた後、本発明者らは、様々な治療戦略を評価するために用いることができる、ダイバックのin vitroモデルを確立した。in vitroアッセイは、成長促進タンパク質ラミニンおよび強力に阻害性のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンアグリカンの対立勾配の基質上の培養成体DRGニューロンからなっている(Tomら、2004年)。このスポット勾配は、軸索成長を停滞させ、損傷脊髄で認められるものと同様なジストロフィー成長円錐の形成を誘発する。
【0164】
経時顕微鏡検査法は、本発明者らがフィロポディア(filopodia)の数、ラメラポディア(lamellapodia)の程度およびジストロフィー終末における小胞の数などの成長円錐動力学を綿密に検討することを可能にするものであった。軸索の広範な退縮につながるジストロフィー軸索とマクロファージとの間の直接的細胞間接触を頻繁に観察した(
図4および5)。マクロファージ馴化培地も、ジストロフィー軸索近傍のマクロファージの存在も退縮をもたらさなかったので、退縮を誘発するためには直接的細胞接触が必要であった。したがって、本発明者らは、活性化マクロファージの枯渇または調節が脊髄損傷における可能な治療標的であるという仮説を立てた。
【0165】
本発明者らは、マクロファージ−ニューロン相互作用がダイバックをもたらすメカニズムを解明した。マクロファージは、デブリの分解およびクリアランスを促進する様々なプロテアーゼを分泌することが公知であり、本発明者らは、マクロファージがMMP−9を発現し、分泌することを示した。彼らはプロテアーゼが、退縮することをもたらす基質からジストロフィー軸索を局所的に除去することに関与する可能性があるという仮説を立てた。マクロファージにより発現されるプロテアーゼの1つのクラスは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)である。特定のMMPを欠くトランスジェニックマウスが、一般的なMMP阻害剤GM6001を投与した動物と同様に、損傷後の軸索再成長の促進を示すので、MMPsは、CNSにおける再生不良に既に関連付けられた。MMP活性部位において亜鉛キレータとして作用するGM6001をマクロファージ添加時に経時皿に加えた。in vitroモデルにおけるGM6001または特異的MMP−9阻害剤による処理(
図6)は、マクロファージとの直接的な細胞間接触後にジストロフィー成長円錐の退縮を予防したが、特異的MMP−2阻害剤は予防しなかった。GM6001および特異的MMP−9阻害剤は、マクロファージとジストロフィー軸索との直接的な細胞間接触を妨げなかった。したがって、MMPsおよびMMP−9は、軸索ダイバックに役割を果たすことに関係していると見なされる。
【0166】
2.MAPCはin vitroでのマクロファージ媒介性軸索ダイバックを妨げる
図7にMAPCがマクロファージの阻害作用を調節することができるかどうかを判断するための実験設計の概略図を示す。MAPCを1DIV DRGスポット培養物に添加し、さらに1日インキュベートした。これらの共培養したニューロンの成長円錐の形態は、スポット上に一般的に認められるジストロフィー成長円錐とかなり異なっていた。これらの成長円錐は、ますます運動性となり、扁平化し、広範なラメラポディアを有していた。マクロファージは、成長円錐および軸索に接触したが、これらの接触はしばしば一過性のものであり、撮像した6つの軸索のうちの5つは、特徴的なマクロファージ媒介性退縮を受けなかった(
図8)。
【0167】
この結果は、MAPCの神経刺激または免疫調節作用または両方に起因する可能性がある。この問題に取り組むために、一連の馴化培地実験を実施した。解離DRGニューロンをMAPC馴化培地で24時間処理し、培地対照と比較して、最長の神経突起を評価した。群間に神経突起の長さの有意な差は認められず、作用は完全には神経刺激作用性ではないことが示唆された。
【0168】
経時皿へのMAPC馴化培地の直接的な添加は、成長円錐の形態のジストロフィー性の停滞状態から運動性の扁平な状態への変化をもたらした。マクロファージは、依然としてこれらの軸索に接触したが、これらの接触は一般的に一過性であり、一般的に軸索退縮をもたらさなかった。MAPC馴化培地で前処理したマクロファージもスポット上で軸索に接触したが、退縮を引き起こさなかった(
図9〜12)。MAPCがマクロファージに作用して、それらの受容体発現、損傷細胞に対する反応またはMMP−9の分泌を変化させる可能性がある。
【0169】
3.MAPCは後柱圧壊損傷後の軸索ダイバックの程度を低下させる
in vivoでの軸索ダイバックに対するMAPCの免疫調節作用を脊髄損傷の後柱圧壊モデルを用いて検討した。軸索ダイバックの最も劇的な段階は、活性化マクロファージの病変への浸潤と時空的に関連していた、病変後2〜4日目に起こる。MAPCが、軸索ダイバックの量を減少させるように病変内の活性化マクロファージを調節する可能性があった。したがって、MAPCを損傷直後に脊髄に移植し、病変後2〜4日目に軸索ダイバックの程度を測定した。MAPCは、病変の約500ミクロン尾側、中線の500ミクロン外側に移植した。この位置は、上行路のさらなる破壊を最小限にし、細胞が病変部位で血液およびCSFの流れにより脊髄から変位することを防ぐように損傷軸索の末端の近くにMAPCを置くために選択した。
【0170】
移植したMAPCを、病変後2および4日目に注射部位におけるGFP
+細胞の存在によって明らかなように脊髄組織に取り込むのに成功した。さらに、MAPCは、移植部位から大幅に移動し、病変のコアを占有し、損傷軸索の終末と結合したことも認められた。病変後2日目に、MAPC移植動物における軸索ダイバックの程度は、対照動物と有意に異なっていなかった(
図13)。MAPCの移植は、病変後2日目に通常認められる軸索ダイバックの程度を妨げなかった。しかし、ダイバックのこの初期の段階は、この時点ではマクロファージはまだ病変に浸潤していなかったので、内因性のニューロンメカニズムに起因する可能性が最も高く、活性化マクロファージにより媒介されるものではない。
【0171】
病変後4日目に、MAPC移植動物は、非注射対照と比較して軸索ダイバックの程度の有意な低下を示した(
図13)。MAPCの移植は、本試験で活性化マクロファージの浸潤によって直接的に引き起こされたことが示された、この時点で通常認められる軸索ダイバックをほぼ完全に減少させた。したがって、損傷脊髄内のMAPCの存在は、in vivoでのマクロファージ誘発性軸索ダイバックを減少させるのに十分である。
【0172】
(実施例IV)
病変コアにおけるビメンチン/NG2
+稀突起グリア前駆細胞は、マクロファージ浸潤の時点近くに拡大し始め、軸索切断線維の末端は、この細胞集団と結合している。これは、CNS病変内のNG2
+細胞が軸索を安定化する役割を果たすことにより、NG2
+細胞がマクロファージ媒介性退縮を予防する理想的候補となることを示唆する。成体マウス脊髄からのNG2
+グリア細胞をin vitroで1日後にDRG培養物に添加した。2日目に、30分間のベースライン観察期間の後、NR8383マクロファージを経時皿に添加し、さらに2.5時間観察した。DRGを含む培養物中のNG2
+グリア細胞の存在は、マクロファージ誘発性退縮を予防するのに十分ではない(N=5)。
図14において、軸索は、マクロファージ接触後に退縮し、NG2
+グリア細胞上で安定化する。
【0173】
方法
1.DRG解離
DRGは、以前に記載されたように採取した(Tomら、2004年;Daviesら、1999年)。手短に述べると、DRGを成体雌Sprague−Dawleyラットから切り離した(Harlan)。中枢および末梢根を除去し、神経節をHBSS中コラゲナーゼII(200U/mL、Worthington)およびディスパーゼII(2.5U/mL、Roche)の溶液中でインキュベートした。消化DRGを洗浄し、新鮮なHBSS−CMF中で3回緩やかに摩砕した後、低速度で遠心分離した。次いで、解離DRGをB−27、Glutamaxおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したNeurobasal−A培地(すべてInvitrogen製)に再懸濁し、計数した。DRGを3000細胞/mLの密度、合計6000細胞/皿でDelta−T皿(Fisher)上に置いた。
【0174】
2.経時皿の準備
Delta−T培養皿(Fisher)をTomら、2004年と同様に調製した。手短に述べると、2番ビットを用いて各皿の上半分に1つの穴をあけて、経時顕微鏡検査時の細胞、酵素、阻害剤などの添加用のポートを造成した。次いで、皿を滅菌水で洗浄し、ポリ−1−リシン(0.1mg/mL、Invitrogen)を用いて室温で終夜被覆し、滅菌水で洗浄し、乾燥した。培養添加し表面上に2.0μLのアグリカン溶液(2.0mg/mL、Sigma in HBSS−CMF、Invitrogen)をピペッティングすることにより、アグリカン勾配スポットを形成させ、乾燥した。1つの皿当たり6つのスポットをのせた。アグリカンスポットが完全に乾燥した後、皿の全表面をラミニン溶液(10μg/mL、HBSS−CMF中のBTI)中に37℃で3時間浸した。細胞の平板培養の直前にラミニン浴を除去した。
【0175】
3.細胞系マクロファージ培養
成体Sprague−Dawley肺胞マクロファージ細胞系である、NR8383細胞(ATCC#CRL−2192)をYinら(2003年)に記載の通り培養した。手短に述べると、細胞を非被覆組織培養フラスコ(Corning)中、15%FBS(Sigma)、Glutamax、Penn/Strep(Invitrogen)および重炭酸ナトリウム(Sigma)を添加したF−12K培地(Invitrogen)中で培養し、週2〜3回フィードした。経時顕微鏡実験用の細胞系マクロファージを準備するために、細胞をトリプシン/EDTA(Invitrogen)を用いて収集し、3回洗浄し、非被覆組織培養フラスコ中、血清不含有F−12K中で1.0×10
6/mLの密度で平板培養した。経時実験に用いる前に、培養細胞系マクロファージをEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、HEPES(50μM、Sigma)を添加したNeurobasal−A中に2.5×10
5/70μlの密度で再懸濁した。
【0176】
4.MAPC培養
GFPで標識したSprague−DawleyラットMAPCを、低グルコースDMEM(Invitrogen)、0.4×MCDB−201培地(Sigma)、1×ITS液体培地補足物質(Sigma)、1mg/mlリノール酸−アルブミン(Sigma)、100U/mlペニシリンGナトリウム/100μg/ml硫酸ストレプトマイシン(Invitrogen)、100μM 2−P−L−アスコルビン酸(Sigma)、100ng/ml EGF(Sigma)、100ng/ml PDGF(R&D Systems)、50nMデキサメタゾン(Sigma)、1000U/ml ESGRO(Chemicon)および2%ウシ胎児血清(Hyclone)からなるラットMAPC培地中で生育した。培養物を10ng/mlフィブロネクチン(Invitrogen)被覆150cm
2組織培養フラスコ(Corning)上で1000細胞/cm
2の初期密度で平板培養し、その後、200細胞/cm
2で再び平板培養した。細胞は、15mlの培地/フラスコ中で37℃および5.0%CO
2で維持し、トリプシン/EDTA(Invitrogen)を用いて3〜4日ごとに継代を行った。
【0177】
5.MAPC馴化培地
細胞を上述のように培養し、48時間後に50mlコニカルチューブ(BD Bioscience)に馴化培地を収集した。馴化培地を4℃で400×gで5分間遠心分離し、上清を新たな50mlコニカルチューブに移した。次いで、馴化培地を4℃で保存した。
【0178】
MAPC馴化培地を上述のように得、Amicon Microcon Ultracel YM−3 3,000MWCO遠心フィルター(Millipore、Bedford MA)を用いて50倍に濃縮した。
【0179】
6.MAPC馴化培地処理マクロファージ
NR8383ラットマクロファージを上述のように培養し、経時顕微鏡実験の1日前に、マクロファージをトリプシン/EDTA(Invitrogen)を用いて収集し、3回洗浄し、非被覆組織培養フラスコ中、血清不含有F−12K中で1.0×10
6/mLの密度で平板培養した。1mLの血清不含有F12K培地当たり20μLの50倍濃縮MAPC馴化培地を1×の最終濃度を得るために加えた。経時実験に用いる前に、培養細胞系マクロファージをEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、HEPES(50μM、Sigma)を添加したNeurobasal−A中に2.5×10
5/70μlの密度で再懸濁した。
【0180】
7.経時顕微鏡検査
経時撮像の前にDRGニューロンを37℃で48時間インキュベートした。加熱ステージ装置に移す前に、HEPES(50μM、Sigma)を含むNeurobasal−A培地を培養物に添加した。100倍油浸対物レンズを用いたZeiss Axiovert405M顕微鏡により3時間にわたり30秒ごとに経時画像を得た。スポットリム中にまっすぐ延び、特徴的なジストロフィー形態を有していた成長円錐を30分間選択して、細胞または馴化培地の添加前にベースライン挙動を観察し、次いで3時間観察した。
【0181】
細胞添加実験のために、培養ラット由来MAPCを組織培養フラスコから採取し、3回洗浄し、Neurobasal−A培地に再懸濁した。共培養実験のために、MAPC(100,000/皿)を24時間後に後根神経節ニューロン培養物に添加し、経時撮像の前に37℃でさらに24時間インキュベートした。
【0182】
経時撮像時にMAPC馴化培地をDRG培養物に添加した実験のために、30分間のベースライン成長円錐の観察の後に90μLの50×MAPC−CMを加えた。
【0183】
30分間のベースライン撮像の後にMAPC馴化培地処理マクロファージを経時培養物に添加した(500,000細胞/皿)。
【0184】
Metamorphソフトウエアを用いて伸長/退縮、成長速度、旋回および分岐を解析した。
【0185】
8.免疫細胞化学検査
経時撮像後に、DRGを4%PFAで固定し、抗B−チューブリンIII型(1:500;Sigma)、抗コンドロイチン硫酸(CS−56、1:500、Sigma)および抗GFP(1:500、Invitrogen)で免疫染色した。
【0186】
9.初代骨髄由来マクロファージ培養
骨髄前駆細胞をTobianら、2004年に記載されているように採取した。手短に述べると、成体雌Sprague−Dawleyラット(Harlan)から大腿骨を除去した。大腿骨の末端を除去し、10%FBS、Glutamax、Penn/Strep、ベータ−メルカプトエタノールおよびHEPES(Invitrogen)(D10F)を添加した冷DMEMを含む注射器を大腿骨に挿入し、骨髄を流し出し、収集した。得られた細胞混合物を70μmフィルターに通し、遠心分離した。上清を除去し、得られた細胞ペレットをAKT溶解緩衝液(BioWhitacre)に再懸濁して、赤血球を溶解し、遠心分離した。上清を除去し、骨髄前駆細胞を含むペレットを再懸濁し、さらに20%LADMAC細胞系馴化培地(Dr.Clifford Hardingの寛大な寄贈物)をさらに添加した上のDMEM中で平板培養して、マクロファージへの分化を誘導した。細胞を10日目に培養実験用に収集した。経時実験の1日前に、トリプシン/EDTAを用いて初代マクロファージを収集し、D10Fで3回洗浄し、非被覆ペトリ皿(Falcon)中、D10F中で1.0×10
6/mlの密度で平板培養した。翌日、初代マクロファージをEDTAおよび細胞スクレーパーを用いて収集し、経時顕微鏡実験用にNeurobasal−A+HEPES中に5.0×10
5/70μlの密度で再懸濁した。
【0187】
10.後柱圧壊病変モデル
成体雌Sprague−Dawleyラット250〜300gをすべての外科的処置のために吸入イソフルオランガス(2%)で麻酔した。T1椎弓切除術を実施して、C8脊髄セグメントの背側面を露出させた。30ゲージ針を用いて中線から両側0.75mmにデュロトミーを行った。次いで、Dumont#3宝石商摂子をC8の後脊髄に1.0mmの深さに挿入し、摂子を押し込み、圧力を10秒間保持し、さらに2回繰り返すことによって、後柱圧壊病変を加えた。病変の完了は、白色物質の除去の観察によって確認した。次いで、膜の穴をゲルフィルムで覆った。筋層を4−0ナイロン縫合糸で縫合し、皮膚を外科用ステープルで閉じた。切開部の閉鎖時に、動物にマルカイン(1.0mg/kg)を切開部に沿って皮下に、ならびにブプレノルフィン(0.1mg/kg)を筋肉内に投与した。術後、麻酔からの回復時に動物を加熱ランプで温め、飼料および水を自由に摂取させた。病変後2、4、7、14または28日目に動物を屠殺した。
【0188】
11.細胞移植
培養ラット由来MAPCまたは初代骨髄由来マクロファージ(インターフェロンガンマおよびLPSで24時間刺激した)を組織培養フラスコから採取し、HBSS−CMFで3回洗浄し、200,000細胞/μLの密度でHBSS−CMFに懸濁した。後柱圧壊損傷の直後に、1.0μLの細胞懸濁液を右側後柱に0.5mmの深さで一側に注射した。注射部位は、中線の0.5mm外側で、病変の縁の0.5mm尾側であった。細胞は、Nanoject II(Drummond)に取り付けた引きガラスピペットにより15秒間隔で44回の23.0nLパルスで注射した。最終の注射の2分後にガラスピペットを脊髄から引き抜いた。移植後、注射部位をゲルフィルムで覆い、筋層を4−0エチコン縫合糸で閉じ、皮膚を外科用ステープルで閉じた。術後、麻酔からの回復時に動物を加熱ランプで温め、飼料および水を自由に摂取させた。病変後2または4日目に動物を屠殺した
12.軸索の標識
屠殺の2日前に、後柱をテキサスレッド結合3000MWデキストランで一側に標識した。手短に述べると、右後肢の坐骨神経を露出させ、Dumont#3鉗子で10秒間圧壊した。1.0μLの滅菌水中3000MWデキストラン−テキサスレッド10%をHamilton注射器で圧壊部位の坐骨神経内に注射した。筋層を4−0ナイロン縫合糸で、皮膚を外科用ステープルで閉じた。切開部の閉鎖時に、動物にマルカイン(1.0mg/kg)を切開部に沿って皮下に、ならびにブプレノルフィン(0.1mg/kg)を筋肉内に投与した。術後、麻酔からの回復時に動物を加熱ランプで温め、飼料および水を自由に摂取させた。動物を標識の2日後にイソフルランの過剰投与により屠殺し、PBSと続いて4%PFAで潅流した。組織を採取し、4%PFAで後固定し、免疫組織化学検査用に処理した。
【0189】
13.免疫組織化学検査
組織を4%PFAで終夜後固定し、30%スクロースに終夜浸漬し、OCTマウンティング媒体中に凍結し、クリオスタット上で20μm縦方向切片に切断した。次いで、組織を抗GFAP/Alexafluor−405、抗ED−1/Alexafluor−594または−633、抗GFP/Alexafluor−488および抗ビメンチン/Alexafluor−633で染色した。次にZeiss Axiovert 510レーザー走査共焦点顕微鏡で10倍の倍率で撮像した。
【0190】
14.軸索ダイバックの定量
軸索ダイバックを定量するために、1匹の動物当たり脊髄の背面の200μm下の深さで始まる3連続切片を分析した。特性GFAPおよび/またはビメンチン染色パターンによって病変の中心を識別し、Zeiss LSM 5 Image Browserソフトウエアを用いて中心を定めた。病変内で最も遠く突き出している5つの標識軸索の末端と病変の中心との距離を測定した。群内のすべての動物からのすべての切片の測定値を平均して、各時点についてのダイバックの平均距離を求めた。
【0191】
(実施例V)
間葉幹細胞は、市販のものを入手することができる。例えば、Rat Mesenchymal Stem Cell Kit(Milliporeカタログ番号SCR026)は、成体Fisher 344ラットの骨髄から分離されたすぐ使用できる初代間葉幹細胞ならびに間葉幹細胞集団の特徴付けのための陽性および陰性マーカーのパネルを備えている。陽性細胞マーカーは、間葉幹細胞上に存在する2つの細胞表面分子(インテグリンb1およびCD54)に対する抗体を含む。陰性細胞マーカーは、間葉幹細胞によって発現されない2つの特異的造血細胞表現マーカー(白血球上に存在するCD14ならびに単球およびマクロファージ上に存在するCD45)に対する抗体を含む。これらの間葉幹細胞を、退縮を減少させる能力について評価したところ、in vitro(グリア瘢痕)で退縮を減少させた(接着を減少させた)ことが認められた。
【0192】
(実施例VI)
5μg/mlラミニン上で生育した成体DRGのMAPC馴化培地処理は、神経突起の伸長を促進する。
図16を参照のこと。各解離DRGからの最長の軸索を、培地がNeurobasal−Aを含み、MAPC馴化培地、対照培地を加えた、または追加の培地を加えなかった、群について測定した。すべての条件は、互いから有意であった。一元配置ANOVA、
*p<0.0001。B、無処理DRGの伸長の平均量を表す16倍画像。C、MAPC馴化培地で前処理したDRGの伸長の平均量を表す16倍画像。
【0193】
この結果は、MAPCの神経刺激または免疫調節作用または両方に起因する可能性がある。この問題に取り組むために、一連の馴化培地実験を実施した。解離DRGニューロンを新鮮なMAPC馴化培地で24時間処理し、培地対照と比較した。各DRGの最長の神経突起を測定した。新鮮MAPC馴化培地は、ラミニン上の伸長を有意に増加させた。このことから、MAPCは成体ニューロンに対して神経刺激作用を有する1つまたは複数の成長因子を分泌することが示唆される。以前に凍結したMAPC馴化培地は、ニューロンに対して同じ作用を示さなかったことから、因子が凍結過程で変化または不活性化したことが示唆される。
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