特許第5933650号(P5933650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933650
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】発酵飲食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/02 20060101AFI20160602BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20160602BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20160602BHJP
【FI】
   A23L2/02 Z
   A23L1/212 A
   A23K1/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-161932(P2014-161932)
(22)【出願日】2014年8月7日
(62)【分割の表示】特願2009-517769(P2009-517769)の分割
【原出願日】2008年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-209921(P2014-209921A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2014年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2007-145677(P2007-145677)
(32)【優先日】2007年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 誉充
(72)【発明者】
【氏名】武田 将彦
(72)【発明者】
【氏名】今吉 成和
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 信浩
【審査官】 佐藤 巌
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/149654(WO,A1)
【文献】 特開平04−004862(JP,A)
【文献】 特開2005−333898(JP,A)
【文献】 特開2001−333692(JP,A)
【文献】 特許第4734131(JP,B2)
【文献】 特許第4734132(JP,B2)
【文献】 BERGQVIST, S.W. et al.,Food Microbiology,2005年,Vol.22,pp.53-61
【文献】 SAVARD, T. et al.,Sciences des Aliments,2003年,Vol.23,pp.273-283
【文献】 STAMER, J.R. et al.,Appl. Microbiol.,1973年,Vol.26, No.2,pp.161-166
【文献】 DEMIR, N. et al.,Eur. Food Res. Technol.,2004年,Vol.218,pp.465-468
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性原料をストレート換算で50質量%以上、およびリンゴ酸を0.2〜2.0質量%またはフラクトースを2.0〜20.0質量%含有し、かつpHが5.0〜7.0、糖度が6〜24%に調整された培地に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)FERM BP−4693株を添加して、少なくとも該乳酸菌株の対数増殖期終了時まで発酵させる発酵飲食品の製造方法であって、
ラクトバチルス ブレビスFERM BP−4693株による発酵開始時から前記対数増殖期終了時までのいずれかの時点において、さらに、酸またはラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)FERM BP−10958株を培地に添加して、前記発酵開始時から前記対数増殖期終了時までの間は培地のpH低下速度が0.01〜0.3(1/時間)となるようにして、前記発酵終了時の培地のpHが3.3〜4.6となるように発酵させることを特徴とする発酵飲食品の製造方法。
【請求項2】
前記発酵終了後に発酵物の温度を下げることを特徴とする請求項1に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項3】
前記培地が、乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項4】
前記培地が、リンゴ酸を0.2〜0.45質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性原料を主原料として、これを発酵させて得られる発酵飲食品およびその製造方法に関する。
本願は、2007年5月31日に出願された特願2007−145677号に基づいて優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、各種の発酵飲食品の製造に用いられているが、菌自体が整腸効果や病原菌抑制等の優れた生理活性を有するものがあり、このような有用な乳酸菌を発酵飲食品の製造に用いるだけでなく、発酵飲食品中に生きた状態で残すことで、健康増進を志向した優れた飲食品とすることができる。
一方、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌株(以下、ラクトバチルス ブレビスと略記することがある)は、乳酸菌の中でも特に耐ストレス性が強く、極めて広範な優れた生理作用を有することが知られており、これまでに、例えば、抗アレルギー剤、インターフェロン産生能向上剤、抗胃炎剤および抗潰瘍剤、肝炎治療・予防剤、腫瘍増殖抑制剤、抗腫瘍活性剤、γ−アミノ酪酸の生産への利用について報告されている。
【0003】
このように、ラクトバチルス ブレビスは、それ自体が極めて有用な乳酸菌であり、生きた状態で摂取すれば、容易に腸に到達して長く生存できるため、健康増進を志向した飲食品として、ラクトバチルス ブレビスを生きた状態で含有する発酵飲食品の開発が望まれている。これまでに、このような発酵飲食品を製造する方法が種々提案されており、例えば、通常の乳酸発酵で用いる乳単独を原料とした発酵培地を用いて発酵飲食品を製造する方法や、果実や野菜、果汁や野菜汁、豆乳や麦芽汁等の植物性原料を用い、これにグルタミン酸またはグルタミン酸含有物を添加して発酵させて飲食品を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−215529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、乳単独を原料とした発酵培地を用いると、ラクトバチルス ブレビスの増殖が48時間で5倍程度にとどまり発酵を十分に行うことができず、良好な品質の発酵飲食品を得ることができないという問題点があった。
また、乳単独以外のものを原料とした発酵培地を用いて、発酵が十分に進行した発酵飲食品を製造した場合でも、その飲食品中の生きた状態のラクトバチルス ブレビスは耐ストレス性が強いために、該飲食品は冷蔵保存期間中にも発酵が進行してしまい、味や香りが変化して品質が劣化してしまうという問題点があった。
さらに、特許文献1に記載の方法は、種々の有用な生理活性を有するγ−アミノ酪酸を発酵で産生し、これを含有する発酵飲食品を得ることを目的としたものであり、発酵培地中に残存するグルタミン酸や、得られた飲食品中に含有されるγ−アミノ酪酸等の影響で、味や香り等の官能面で好ましくないものができてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ラクトバチルス ブレビスを用いて植物性原料を主原料とする培地を発酵させて得られ、生きた状態のラクトバチルス ブレビスを含有し、味や香りが良好で、製造後の保存性に優れた発酵飲食品およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、植物性原料をストレート換算で50質量%以上、およびリンゴ酸を0.2〜2.0質量%またはフラクトースを2.0〜20.0質量%含有し、かつpHが5.0〜7.0、糖度が6〜24%に調整された培地に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)FERM BP−4693株を添加して、少なくとも該乳酸菌株の対数増殖期終了時まで発酵させる発酵飲食品の製造方法であって、ラクトバチルス ブレビスFERM BP−4693株による発酵開始時から前記対数増殖期終了時までのいずれかの時点において、さらに、酸またはラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)FERM BP−10958株を培地に添加して、前記発酵開始時から前記対数増殖期終了時までの間は培地のpH低下速度が0.01〜0.3(1/時間)となるようにして、前記発酵終了時の培地のpHが3.3〜4.6となるように発酵させることを特徴とする発酵飲食品の製造方法である。
前記発酵飲食品の製造方法において、発酵終了後に発酵物の温度を下げることが好ましい。
前記培地は、乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有することが好ましい。
前記培地は、リンゴ酸を0.2〜0.45質量%含有することが好ましい
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、生きた状態のラクトバチルス ブレビスが含有され、冷蔵保存性に優れた味や香りの良い発酵飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ラクトバチルス ペントーサスBP−10958の撮影画像である。(a)はコロニー画像を示し、(b)は染色画像を示す。
図2】実施例5における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図3】実施例6における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図4】実施例9における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図5】実施例10における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図6】実施例5'における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図7】実施例6'における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図8】実施例9'における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
図9】実施例10'における、培地のpH低下速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明で用いる植物性原料としては、具体的には、野菜、果実、穀類および豆類を挙げることができる。
野菜としては、例えば、トマト、赤ピーマン、ニンジン、キャベツ、はくさい、レタス、大根、ほうれん草、ケール、玉葱、なす、プチヴェール(登録商標)(ケールと芽キャベツの交雑種)、しいたけ、シメジ等を挙げることができる。
果実としては、例えば、グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、イチゴ、パイナップル、キウイ、グアバ、マンゴー、アセロラ、ブルーベリー、ザクロ、モモ、洋なし、パパイヤ、メロン、スイカ、バナナ、イチジク等を挙げることができる。
穀類としては、例えば、麦(麦芽)、米等を、豆類としては、例えば、大豆、エンドウ等を挙げることができる。
本発明においては、これら植物性原料を単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。目的とする製品にあわせて、適宜最適な組み合わせを選択することができる。
【0011】
本発明においては、前記植物性原料を、搾汁液、磨砕物または破砕物などの非濃縮物(非濃縮液)、あるいはこれらの濃縮物(濃縮液)、希釈物(希釈液)または乾燥物等に加工した形態で用いることができる。例えば、大豆であれば、豆乳や微細物の懸濁液の形態で用いることもできる。
中でも、透明で濁りのない液体状態のもの(清澄果汁とも称することがある)を用いると、発酵飲食品の製造に際して種々のものを混合することができ、汎用性が高く好ましい。前記清澄果汁は、例えば、果汁(野菜汁や豆乳なども含む)を限界濾過(UF)膜でろ過処理することにより得られる。
【0012】
本発明において、例えば、発酵培地中にリンゴ酸を含有させる場合には、植物性原料としては、pHおよびリンゴ酸含量の値を考慮すると、ニンジンおよびプチヴェール(登録商標)からなる群から選択される一種以上を用いることが好ましい。これらは、リンゴ酸を適量含有し、その加工物のpHは、発酵前の発酵培地に必要なpHに近く、したがってこれらを用いることで、発酵培地のpHおよびリンゴ酸含量の調整が容易となる。
また、発酵性や発酵液の汎用性を考慮すると、ニンジンおよびプチヴェール(登録商標)からなる群から選択される一種以上の清澄果汁を用いることが好ましい。
【0013】
また、例えば、発酵培地中にフラクトースを含有させる場合には、植物性原料としては、pHおよびフラクトース含量の値を考慮すると、トマト、赤ピーマン、プチヴェール(登録商標)およびスイカからなる群から選択される一種以上を用いることが好ましい。これらは、フラクトースを適量含有し、その加工物のpHは、発酵前の発酵培地に必要なpHに近く、したがってこれらを用いることで、発酵培地のpHおよびフラクトース含量の調整が容易となる。
また、発酵性や発酵液の汎用性を考慮すると、トマト、赤ピーマン、プチヴェール(登録商標)およびスイカからなる群から選択される一種以上の清澄果汁を用いることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記植物性原料は、発酵培地中にストレート換算で50質量%以上含有されるが、75質量%以上含有されることが好ましい。ここで、ストレート換算とは、濃縮、希釈等の濃度変化を伴う加工を行っていない植物性原料の濃度への換算を指す。したがって、植物性原料として濃縮物を用いる場合には、ストレート換算で100質量%以上含有させることもでき、目的に応じて適宜調整すれば良い。
なお、前記植物性原料の発酵培地中におけるストレート換算での含有量の上限値は特に限定されないが、発酵時間の観点から、発酵培地中にストレート換算で、300質量%以下含有されることが好ましい。
【0015】
本発明において、発酵培地中にリンゴ酸を含有させる場合には、その含有量は0.2〜2.0質量%とするが、0.2〜0.45質量%とすることが好ましい。発酵物中には、発酵培地中のリンゴ酸含量に依存して発酵で生じた炭酸が含有されるが、リンゴ酸含量を0.2〜0.45質量%とすることで、発酵物中の炭酸ガスの量を少なくすることができ、得られる発酵飲食品は、刺激感が少なく官能上より好ましいものとなる。またリンゴ酸含有量は、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈することにより、植物性原料に含有されるリンゴ酸で前記範囲に調整することが好ましい。植物性原料だけでリンゴ酸含有量を調整することが困難な場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、リンゴ酸を別途添加して調整しても良い。リンゴ酸を別途添加する場合には、リンゴ酸の
水溶液を用いることが好ましい。
ラクトバチルス ブレビスは、リンゴ酸資化性を有するため、上記のように培地中に適度な量のリンゴ酸を含有させることで、発酵を良好に行うことができる。
【0016】
また、本発明において、発酵培地中にフラクトースを含有させる場合には、その含有量は2.0〜20.0質量%とするが、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈することにより、前記植物性原料に含有されるフラクトースでこの値に調整することが好ましい。植物性原料だけでフラクトース含量を調整することが困難な場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、フラクトースを別途添加して調整しても良い。フラクトースを別途添加する場合には、フラクトースの水溶液を用いることが好ましい。
ラクトバチルス ブレビスは、フラクトース資化性も有するため、上記のように培地中に適度な量のフラクトースを含有させることで、発酵を良好に行うことができる。
【0017】
本発明においては、前記発酵培地に乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有させて発酵を行っても良い。このように乳を添加することで、ラクトバチルス ブレビスによる発酵をより良好に行うことができ、発酵物中の生菌数を増やすことができる。この時用いる乳としては、例えば、獣乳、脱脂粉乳、発酵乳、またはこれらの酵素処理物等を挙げることができ、これらの中でも脱脂粉乳を用いることが好ましい。
乳の添加量は、無脂乳固形分として0.1質量%よりも少ないと添加効果が見られなくなり、20質量%よりも多くなるとラクトバチルス ブレビスがストレスを受けて発酵が良好に進行しにくく、得られる発酵飲食品の味や香りも悪くなりやすく、発酵培地の調製自体も困難となる場合がある。
【0018】
本発明においては、発酵前の発酵培地のpHを5.0〜7.0の範囲に調整するが、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈して、pH調整剤を用いることなく、植物性原料の種類あるいは量を適宜調整することで前記範囲に調整することが好ましい。pH調整剤を用いる場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、食品用に一般的に用いられているものを添加して調整すれば良く、その種類は特に限定されない。例えば、好ましい酸としてはクエン酸を、好ましい塩基としては炭酸カリウムを挙げることができる。用いるpH調整剤が結晶である場合には、水溶液として添加することが好ましい。
【0019】
発酵培地の糖度(以下、Brix.と略記する)は、特に限定されないが、6〜24%であることが好ましい。
【0020】
発酵に用いる培地は、例えば、前記植物性原料を適宜加工した後、蒸留水等で希釈することにより、リンゴ酸含有量またはフラクトース含有量およびpHを前記の範囲に調整すれば良いが、この方法に限定されない。この時、必要であれば、リンゴ酸またはフラクトースあるいはpH調整剤を別途添加することもできる。このように調製した発酵培地は、ラクトバチルス ブレビスを植菌する前に、所定の条件で加熱殺菌することが好ましい。
【0021】
本発明で用いる水としては特に限定されず、蒸留水、イオン交換水等、飲食品の製造に通常用いられるもので良い。
【0022】
本発明においては、前記発酵培地に、ラクトバチルス ブレビスを添加して発酵を行う。
ラクトバチルス ブレビスとしては、例えば、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)FERM BP−4693株(以下、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株と略記することがある)、ラクトバチルス ブレビスJCM1059(Lactobacillus brevis JCM1059)株等を挙げることができる。なかでも、発酵がより良好に進行し、発酵物中に十分な数の生菌をより得やすい点等から、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株が好ましい。また、これらラクトバチルス ブレビスは、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0023】
ラクトバチルス ブレビスBP−4693株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号 305−8566))より入手することができる。また、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより、入手することができる。
【0024】
ラクトバチルス ブレビスは、前培養してから培地の発酵に用いることが好ましい。前培養は公知の方法で行えば良く、例えば、市販の乳酸菌用培地を、所定の濃度となるように蒸留水に溶解させ、オートクレーブ滅菌した後、ラクトバチルス ブレビスを植菌して、所定時間前培養する方法が挙げられる。
【0025】
ラクトバチルス ブレビスを用いた培地の発酵は、少なくともラクトバチルス ブレビスの対数増殖期終了時まで行う。すなわち、対数増殖期終了時に直ちに発酵を停止しても良いし、対数増殖期終了後も引き続きある時間だけ発酵を行ってから発酵を停止しても良い。ただし、発酵終了時の培地のpHは3.3〜4.6とする。
この時、発酵開始から対数増殖期の終了までの所要時間を事前に確認しておくと良く、そのためには、例えば、予め同様の条件で発酵を行って所要時間を確認すれば良い。発酵開始時から対数増殖期終了時までのいずれかの時点において、乳酸生産菌株ではなく酸を添加する場合には、発酵開始から対数増殖期終了までの所要時間は、酸添加の有無によらずほぼ一定となるので、予め所要時間を確認する場合に、必ずしも酸の添加は必要ではない。
【0026】
本発明においては、発酵開始時から対数増殖期終了時までのいずれかの時点において、さらに酸または乳酸生産菌株を培地に添加する。ここで「乳酸生産菌株」とは、ラクトバチルス ブレビス以外の乳酸生産菌株のことを指す。酸または乳酸生産菌株を添加する回数は、一回でも良く複数回でも良い。複数回添加する場合、その回数は特に限定されない。そして添加する時期も上記範囲内であればいずれでも良い。乳酸生産菌株を添加する場合には、培地のpH低下速度の調整が容易で、得られる発酵飲食品の品質が優れることから、発酵開始時に添加することが好ましい。また、酸および乳酸生産菌株は併用しても良い。
そして、発酵開始時から対数増殖期終了時までの間は、培地のpH低下速度が0.01〜0.3(1/時間)となるようにして、発酵終了時の培地のpHが3.3〜4.6となるように発酵させる。ここで、「pH低下速度(1/時間)」とは、一時間あたりのpHの低下値のことを指す。
【0027】
さらに酸または乳酸生産菌株を添加しないと、対数増殖期終了時のpHが概ね4.8〜5.8程度と高くなり、ラクトバチルス ブレビスの発酵が比較的活発な状態のままとなり、得られる発酵飲食品は、さらなる発酵の進行により、味や香り、保存性すべての点で満足できる品質とはならない。
これに対し、本発明のように酸または乳酸生産菌株を添加すれば、ラクトバチルス ブレビスの対数増殖期終了時のpHを、発酵終了時に必要とされるpHの範囲内(3.3〜4.6)とすることができ、対数増殖期以降においては過度な発酵が抑制されるので、発酵の度合いが、味や香り、保存性に優れた発酵飲食品を得る上で適した状態となる。
また、pH低下速度を上記のようにすることで、ラクトバチルス ブレビスの対数増殖期終了時に向けて培地のpHは徐々に低下し、このpH低下に伴ってラクトバチルス ブレビスの発酵活性が徐々に弱まって適度に抑制され、得られる発酵飲食品の保存性が高まる。培地のpH低下速度は、発酵開始時から対数増殖期終了時までの間、一定にしても良いし、変化させても良い。
【0028】
なお、乳酸生産菌株を添加する場合には、ラクトバチルス ブレビスの対数増殖期終了時までに、該乳酸生産菌株の対数増殖期は必ずしも終了している必要はない。
【0029】
培地の発酵は、公知の方法に従って行えば良く、例えば、培地に前記前培養物を植菌し、ラクトバチルス ブレビスを培養すれば良い。この時の植菌量は0.1〜10容量%であることが好ましく、培養時の温度は20〜40℃であることが好ましく、時間は12〜72時間であることが好ましい。本発明においては、味や香り、保存性に優れた発酵飲食品を得る上で、発酵の度合いを制御することは重要であり、上記範囲であれば、より優れた品質の発酵飲食品を得ることができる。
【0030】
また、乳酸生産菌株を添加する場合には、その添加方法は特に限定されないが、該乳酸生産菌株を前培養してから添加することが好ましい。この時の乳酸生産菌株の前培養は、ラクトバチルス ブレビスの場合と同様に行えば良い。そして、前記乳酸生産菌株は、例えば、植菌量が好ましくは0.1〜10容量%となるように発酵培地に添加すれば良い。
【0031】
添加する酸としては、食品用として一般的に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、乳酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の酸性の有機化合物、リン酸等の酸性の無機化合物を挙げることができ、これらから選択される一種以上を用いることができる。ただし、前記のように、発酵培地に乳を無脂乳固形分として0.1〜20質量%含有させる場合には、乳酸を用いることが好ましい。また、用いる酸が結晶である場合には、水溶液として発酵物に添加することが好ましい。
【0032】
添加する乳酸生産菌株は、ラクトバチルス ブレビス以外の乳酸生産菌株であれば特に限定されず、目的とする発酵飲食品の種類に応じて適宜選択できる。例えば、ラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属する乳酸菌株が挙げられ、なかでも特に好ましいものとして、ラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)FERM BP−10958株(以下、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株と略記することがある)が挙げられる。
ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株は、しば漬け(刻んだナスや赤紫蘇を塩漬けし、乳酸発酵させて得られる漬物)由来の菌株の中からスクリーニングにより選抜された新規乳酸菌株であり、後に詳しく説明する。
【0033】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、発酵飲食品の味や香り、あるいは保存安定性を調整する目的で、発酵後の発酵物に副資材を添加しても良い。用いる副資材としては、食品用として一般的に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、香料、糖液等を挙げることができる。また、これら副資材は一種以上を用いることができる。
【0034】
本発明においては、発酵終了後は、発酵物の温度を下げることが好ましい。発酵物の温度を下げることで、さらなる培地の発酵を確実に抑制でき、保存中における発酵飲食品の味や香りの変質をより効果的に抑制することができる。この時の温度は0〜15℃であることが好ましい。具体的には、例えば、30℃程度で発酵を行った場合には、10℃程度まで冷却すれば良い。また、冷却は、発酵終了後速やかに行うことが好ましい。
また、発酵物の冷却を行う場合には、前記副資材の添加は、冷却の前後いずれにおいても行うことができる。
【0035】
得られた発酵物中のラクトバチルス ブレビスの生菌数は、冷却保存中にはほとんど増加することがなく、発酵直後の優れた味や香りをそのまま保持できる。
【0036】
得られた発酵物は、そのまま発酵飲食品としても良いし、必要に応じて適当な添加物を加えたり、加工したりするなどして発酵飲食品としても良い。
【0037】
本発明の発酵飲食品は、上述の製造方法により得られるものである。また、該発酵飲食品は、動物用の飼料としても好適である。
【0038】
以下、本発明で用いるラクトバチルス ペントーサスBP−10958株について説明する。
<ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の取得>
京都市左京区大原地区で採取したしば漬けを、滅菌済みメスを使用して5mm角以下になるまで細かく刻み、無菌的に生理食塩水で10倍希釈を段階的に8回繰り返して、8段階それぞれの希釈系列を調製した。
各希釈系列から希釈液1mLをシャーレに滴下し、0.5%(w/v)沈降性炭酸カルシウム入りMRS寒天培地を用い、混釈法による寒天平板を無菌的に作製し、30℃で48時間嫌気培養を行った。
培養後、寒天の中程で形成されるコロニーの立体形態を観察し、白色、両凸レンズ型、直径が1mm程度のコロニーを釣菌して保存用高層培地(0.5%(w/v)沈降性炭酸カルシウム入りMRS寒天培地)に無菌的に穿刺接種し、30 ℃で24時間嫌気培養した。
保存用高層培地に生育した菌体を、白金線で釣菌して生理食塩水1mLに懸濁した。
懸濁した生理食塩水と0.5%(w/v)沈降性炭酸カルシウム入りMRS寒天培地とを用い、混釈法による寒天平板を無菌的に作製し、30℃で48時間嫌気培養を行った。
培養後、寒天の中程で形成されるコロニーの立体形態を観察し、両凸レンズ型、直径が1mm程度のコロニーを釣菌して保存用高層培地(0.5%(w/v)沈降性炭酸カルシウム入りMRS寒天培地)に無菌的に穿刺接種し、30℃で24時間嫌気培養した。
保存用高層培地に生育した菌体を、無菌的に白金線を用いて釣菌して画線培養用培地(BL寒天培地)に画線し、30℃で48時間嫌気培養した。
培養後、コロニーの表面形態を確認して、円形、周縁がスムース、隆起が半円状であり、色調が中心から周縁に向かって赤茶色か白色となるコロニーを選別して、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958(以下、さらに「本菌株」と略記することがある)を取得した。この時の本菌株の撮影画像を図1に示す。撮影条件は以下の通りである。コロニー画像:デジタルカメラ COOLPIX 4500(株式会社ニコン製)/レンズから3cmの距離で接写撮影。染色画像:顕微鏡 BX51(オリンパス株式会社製)、デジタルカメラ DP70(オリンパス株式会社製)/100倍の対物油浸レンズを用いて撮影。
【0039】
<ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の同定>
(形態的性質)
本菌株の形態的性質は、前記各培地で培養した時のコロニーを顕微鏡観察することにより確認した。その結果、細胞形態は桿菌であり、ラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)JCM1558T株(以下、「基準株」と略記することがある)同様、胞子を有さず、運動性も有していなかった。
【0040】
(生理学的性質)
本菌株の生理学的性質を公知の方法により評価し、基準株と比較した。結果を表1に示す。
表1に示すように、本菌株は、基準株と同じ生理学的性質を示した。
【0041】
【表1】
【0042】
(炭水化物の分解性)
本菌株の各種炭水化物の分解性を、細菌検査同定用キットApi 50 CH(bio Merieux社製)を使用して評価し、基準株と比較した。その結果を表2および3に示す。
表2および3から明らかなように、本菌株と基準株とは、D−キシロース、D−ラフィノースの資化性に相違が認められた(表中、「*」で示した)。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
(塩基配列)
本菌株の16S rDNAの塩基配列(部分配列)を公知の方法で決定した。決定した塩基配列のうち、5'末端(1番目)から495番目までの塩基配列を配列番号1に示す。この決定した塩基配列について、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センターが運営している日本DNAデータバンクの相同性検索(BLAST)を行った。
その結果、本菌株の配列番号1に示す塩基配列は、22番目の塩基が不明であるが、それ以外は基準株と同じであり、基準株とは99%以上の相同性を示した。
【0046】
(カード形成能)
Brix.42%のニンジン濃縮果汁を蒸留水で希釈し、pH6.4、Brix.12%に調整したニンジン培地に、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の凍結保存菌液を1%(v/v)接種し、30℃で18時間培養して賦活した後、同様の条件で継代したものを前培養液とした。
次いで、市販の大豆粉を25%(w/v)、グルコースを2%(w/v)、フラクトースを4%(w/v)それぞれ含む培地50mLに、前記前培養液を1%(v/v)接種し、30℃で9時間培養した。
その結果、培養終了時には、カードが形成されていることが確認され、容器を倒立させても60秒以上カードが崩れることはなかった。
一方、本菌株に代わり基準株を用いて同様に培養を行ったところ、培養終了時にカードが形成されていることが確認されたが、容器を倒立させたところ、形成されていたカードは60秒経過前に速やかにカードが崩れた。
すなわち、本菌株は、基準株よりもカード形成能が顕著に優れていた。
【0047】
以上の結果に示される通り、本菌株は、基準株と比較すると、16S rDNAの前記塩基配列が99%以上の相同性を有し、前記形態的性質および生理学的性質は同じであるが、炭水化物の分解性が異なるものである。そして、培養時におけるカード形成能が基準株よりも顕著に優れており、これは従来のラクトバチルス ペントーサスに属する乳酸菌株とは明らかに相違するものである。
以上より、本菌株は、ラクトバチルス ペントーサスに属する新規の乳酸菌株である。
【0048】
ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株は、平成19年3月9日付けで受託番号FERM P−21248として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号 305−8566))に寄託され、受託番号FERM BP−10958として国際寄託当局に移管されている。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
表4、5、7、9、10、および12に示す条件で発酵培地を発酵させて発酵飲食品を製造し、得られた発酵飲食品の官能評価試験を行った。結果を表6、8、11、および13に示す。発酵培地の基質には、ニンジン果汁またはトマト果汁を用い(「発酵培地の条件」を参照)、該発酵培地を発酵させて野菜発酵液を調製し、これを発酵飲食品とした。発酵には前培養したラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いた(「菌株」を参照)。発酵中のpH低下は、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った(「pH低下方法」を参照)。以下、より詳細に説明する。
【0050】
<発酵飲食品の製造>
(1)前培養物の調製
市販の乳酸菌用培地(M.R.S培地、OXOID社製)を、濃度が62g/Lとなるように蒸留水に溶解させ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。続いて、該滅菌済み培地にラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株を植菌し、30℃で18時間前培養した。
【0051】
(2)発酵培地の調製
(A)ニンジン果汁を基質に用いた場合
pH5.5、Brix.42%のニンジン濃縮果汁を蒸留水で希釈し、pH5.7、リンゴ酸含量0.3質量%、Brix.12%に調整後、さらに表4、5、および7に示すように、pH、リンゴ酸含量、Brix.を適宜再調整した(「発酵培地の条件」を参照)。この時、表4、5、および7に示すように、一部の実施例において乳として脱脂粉乳を、一部の比較例において脱脂粉乳および/またはグルタミン酸を添加した。そして、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して発酵培地を調製した。植物性原料として透明ニンジン果汁を用いる場合は、前記ニンジン濃縮果汁を蒸留水で希釈した後、公知の方法によりUF膜処理して透明果汁としてから、pH、リンゴ酸含量およびBrix.を調整した。
【0052】
(B)トマト果汁を基質に用いた場合
pH4.3、Brix.20%のトマト濃縮果汁を蒸留水で希釈し、pH4.4、フラクトース含量2.5質量%、Brix.12%に調整後、さらに表9、10、および12に示すように、pH、フラクトース含量、Brix.を適宜再調整した(「発酵培地の条件」を参照)。この時、表9、10、および12に示すように、一部の実施例において乳として脱脂粉乳を、一部の比較例において脱脂粉乳および/またはグルタミン酸を添加した。そして、121℃で15分間オートクレーブ滅菌して発酵培地を調製した。植物性原料として透明トマト果汁を用いる場合は、前記トマト濃縮果汁を蒸留水で希釈した後、公知の方法によりUF膜処理して透明果汁としてから、pH、フラクトース含量およびBrix.を調整した。
【0053】
(3)対数増殖期終了時間の決定
前記前培養物を前記発酵培地に1容量%植菌し、30℃で18時間培養して発酵を行った。
発酵中、1時間ごとに生菌数を測定し、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株およびラクトバチルス ブレビスJCM1059株の対数増殖期終了時間が、いずれも10時間であることを確認した。
【0054】
(4)野菜発酵液の調製
(a)クエン酸添加でのpH調整
pH調整剤であるクエン酸を、40質量%となるように蒸留水に溶解させ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌し、滅菌済みクエン酸水溶液を調製した。
そして、前記前培養物を前記発酵培地に1容量%植菌し、30℃で18時間(比較例2および比較例2'は108時間)培養して発酵を行った。
発酵中、1時間ごとにpHを測定し、前記滅菌済みクエン酸水溶液を用いて、対数増殖期終了時間(発酵開始後10時間)まで表4、5、7、9、10、および12に示す速度でpHを低下させた(「対数増殖期後培地pH」を参照)。
発酵終了後、得られた発酵培地を直ちに10℃に冷却して、野菜発酵液を得た。
【0055】
(b)共培養でのpH調整
市販の乳酸菌用培地(M.R.S培地、OXOID社製)を、濃度が62g/Lとなるように蒸留水に溶解させ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。続いて、該滅菌済み培地にラクトバチルス ペントーサスBP−10958株を植菌し、30℃で18時間前培養した。
そして、前記前培養物とラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の前培養物とを前記発酵培地に各1容量%植菌し、30℃で18時間培養して発酵を行った。
発酵中、1時間ごとにpHを測定した。ラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株の対数増殖期終了時(10時間)のpHは表4、5、9、および10に示す通りであった(「対数増殖期後培地pH」を参照)。
発酵終了後、得られた発酵培地を直ちに10℃に冷却して、野菜発酵液を得た。
【0056】
なお、表4、5、7、9、10、および12に示すリンゴ酸、フラクトース、乳(無脂乳固形分)およびグルタミン酸の含有量は、いずれも培地中における質量%表示である。また、乳およびグルタミン酸が「×」であることは、培地中にこれらを別途添加していないことを示す。
なお、一部の比較例においては発酵中のpH調整を行わず、そのまま10℃で3週間保存した。この場合は、表7および12において、「pH低下速度」を「−」と表示した。
【0057】
(5)野菜発酵液の保存
pH調整済みの前記野菜発酵液を容器に充填して密封し、10℃で3週間保存した。
【0058】
以下、製造方法の主たる特徴となる部分を抜粋し、各実施例および比較例ごとに示す。
(A)ニンジン果汁を基質に用いた場合
(実施例1−1〜1−13)
植物性原料として、ニンジン果汁(実施例1−1〜1−6、1−10〜1−13)または透明ニンジン果汁(実施例1−7〜1−9)を用いて、表4に示すpH、リンゴ酸含量に調整し、Brix.を12%(実施例1−1〜1−12)または7%(実施例1−13)に調整して発酵培地を調製した。そして、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株を用いて発酵を行った。また、発酵中のpH低下をクエン酸の添加で行った。
【0059】
以下の実施例および比較例については、実施例1−1〜1−13とは異なる特徴部分を記載した。
(実施例2−1〜2−4)
乳を無脂乳固形分として表4に示す量を添加して発酵培地を調製した。
(実施例3−1〜3−3)
発酵時におけるpH低下速度を表5に示すように、実施例3−1では最初の5時間は0.25、続く5時間は0.1とし、実施例3−2では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.1とし、実施例3−3では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.2とした。
(実施例4−1〜4−3)
乳を無脂乳固形分として3質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵時におけるpH低下速度を表5に示すように、実施例4−1では最初の5時間は0.25、続く5時間は0.1とし、実施例4−2では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.1とし、実施例4−3では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.2とした。
(実施例5)
発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図2に示す。
(実施例6)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図3に示す。
(実施例7)
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。
(実施例8)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。
(実施例9)
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図4に示す。
(実施例10)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサス FERM BP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図5に示す。
【0060】
(比較例1−1〜1−3、および比較例2)
クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例3)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例4−1〜4−6)
リンゴ酸含量を0.2質量%より小さく(比較例4−1)、または2.0質量%より大きく(比較例4−2)して発酵培地を調製し、あるいは、pHを5.0より小さく(比較例4−3、4−5)、または7.0より大きく(比較例4−4、4−6)して発酵培地を調製し、発酵を行った。さらに、比較例4−1では、発酵培地中のBrix.を7%とした。
(比較例5)
発酵時におけるpH低下速度を0.3より大きくした。
(比較例6)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵時におけるpH低下速度を0.3より大きくした。
(比較例7)
グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調整した。
(比較例8)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%、グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調製した。
(比較例9)
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例10)
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製して、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
【0061】
(B)トマト果汁を基質に用いた場合
(実施例1'−1〜1'−10)
植物性原料として、トマト果汁(実施例1'−1〜1'−3、1'−7〜1'−10)または透明トマト果汁(実施例1'−4〜1'−6)を用いて、表9に示すpH,フラクトース含量に調整し、Brix.を12%(実施例1'−1〜1'−9)または7%(実施例1'−10)に調整して発酵培地を調製した。そして、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株を用いて発酵を行った。また、発酵中のpH低下をクエン酸の添加で行った。
【0062】
以下の実施例および比較例については、実施例1'−1〜1'−10とは異なる特徴部分を記載した。
(実施例2'−1〜2'−4)
乳を無脂乳固形分として表9に示す量を添加して発酵培地を調製した。
(実施例3'−1〜3'−3)
発酵時におけるpH低下速度を表10に示すように、実施例3'−1では最初の5時間は0.25、続く5時間は0.1とし、実施例3'−2では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.1とし、実施例3'−3では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.2とした。
(実施例4'−1〜4'−3)
乳を無脂乳固形分として3質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵時におけるpH低下速度を表10に示すように、実施例4'−1では最初の5時間は0.25、続く5時間は0.1とし、実施例4'−2では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.1とし、実施例4'−3では最初の5時間は0.30、続く5時間は0.2とした。
(実施例5')
発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図6に示す。
(実施例6')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図7に示す。
(実施例7')
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。
(実施例8')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った。
(実施例9')
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図8に示す。
(実施例10')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った。なお、この時のpH低下速度を図9に示す。
【0063】
(比較例1'−1〜1'−3、および比較例2')
クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例3')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例4'−1〜4'−6)
フラクトース含量を2.0質量%より小さく(比較例4'−1)、または20.0質量%より大きく(比較例4'−2)して発酵培地を調製し、あるいは、pHを5.0より小さく(比較例4'−3、4'−5)、または7.0より大きく(比較例4'−4、4'−6)して発酵培地を調製し、発酵を行った。さらに、比較例4'−1では、発酵培地中のBrix.を7%とした。
(比較例5')
発酵時におけるpH低下速度を0.3より大きくした。
(比較例6')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製し、さらに、発酵時におけるpH低下速度を0.3より大きくした。
(比較例7')
グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調製した。
(比較例8')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%、グルタミン酸を0.3質量%添加して発酵培地を調製した。
(比較例9')
ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
(比較例10')
乳を無脂乳固形分として3.0質量%添加して発酵培地を調製して、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行い、さらに、クエン酸の添加またはラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養による発酵中のpH低下を行わなかった。
【0064】
<発酵飲食品の生菌数の測定>
野菜発酵液の発酵終了直後および保存後のラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株の生菌数を、以下の方法により測定した。測定結果を表6、8、11および13に示す(「発酵終了直後菌数」、「保存後菌数」を参照)。
(1)ラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株のみで発酵させた場合の測定方法
ブロモクレゾールパープル(BCP)加プレートカウント寒天培地(栄研化学株式会社製)を所定の濃度に溶解し、121℃で15分間滅菌した。そして得られた発酵液を適宜段階希釈し、この希釈液を前記滅菌培地に添加して、35℃で72時間培養し、菌数を測定した。
(2)ラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株と、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株とで共発酵させた場合の測定方法
(a)総菌数の測定
BCP加プレートカウント寒天培地(栄研化学株式会社製)を所定の濃度に溶解し、121℃で15分間滅菌した。そして得られた発酵液を適宜段階希釈し、この希釈液を前記滅菌培地に添加して、35℃で72時間培養し、培養物中の総菌数を測定した。
(b)ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の菌数の測定
上記BCP加プレートカウント寒天培地に食塩を最終濃度が6.5質量%となるように添加した培地を調製した。そして得られた発酵液を適宜段階希釈し、この希釈液を前記滅菌培地に添加して、35℃で72時間培養し、培養物中のラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の菌数を測定した。
(c)ラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株の菌数の測定
前記(a)の総菌数から前記(b)のラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の菌数を差し引いて、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株またはラクトバチルス ブレビスJCM1059株の菌数とした。
【0065】
<発酵飲食品の官能評価>
(1)評価方法
発酵後の野菜発酵液を別途凍結保存しておき、その解凍品と、前記10℃保存発酵液とを比較して、どちらが好ましいかを、男性25名、女性25名、合計50名の評価員により官能評価した(評価1)。
また、前記10℃保存発酵液を各実施例および比較例の間で比較して、どちらが好ましいかを、男性25名、女性25名、合計50名の評価員により官能評価した(評価2)。
結果を表6、8、11および13に示す(「保管後官能評価を参照」)。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
【表13】
【0076】
(2)評価結果
(A)ニンジン果汁を基質に用いた場合
実施例1−1〜1−12の結果より、これらはいずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。
すなわち、発酵培地中のリンゴ酸含量が0.3〜1.8質量%で、かつ発酵培地のpHが5.0〜7.0の範囲内においては、pH低下速度が0.1〜0.3のいずれにおいても、官能評価結果に有意差はなく、いずれも味や香り、保存性が良好であることが確認された。
一方、実施例1−13の結果より、Brix.7%の場合も、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。
【0077】
実施例2−1〜2−4の結果より、発酵培地への乳の添加量を0.2〜20.0質量%の範囲内で変化させても、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0078】
実施例3−1〜3−3の結果より、発酵培地のpHが5.0〜7.0の範囲内においてはpH低下速度を途中で変化させても、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0079】
実施例4−1〜4−3の結果より、発酵培地へ乳を3.0質量%添加した場合でも、pH低下速度を途中で変化させても、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0080】
実施例5および6の結果より、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
また、実施例5のサンプルは実施例1−2のサンプルよりも、また実施例6のサンプルは実施例2−2のサンプルよりも、それぞれ発酵風味が付与されて味や香りが一層良好であり、官能上より好ましいものであることが確認された。すなわち、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養によるpH低下が、発酵飲食品の呈味向上に効果的であることが示された。
【0081】
実施例7および8の結果より、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0082】
実施例9および10の結果より、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
また、実施例9のサンプルは実施例7のサンプルよりも、また実施例10のサンプルは実施例8のサンプルよりも、それぞれ発酵風味が付与されて味や香りが一層良好であり、官能上より好ましいものであることが確認された。すなわち、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養によるpH低下が、発酵飲食品の呈味向上に効果的であることが示された。
【0083】
比較例1−1〜1−3のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、発酵直後および保存後の菌数から明らかな通り、保存中に発酵が進行したことによるものであった。
そして、比較例1−1と実施例1−1、比較例1−2と実施例1−2、比較例1−3と実施例1−3の各サンプル間にも、いずれも官能評価結果に有意差が認められ、比較例1−1〜1−3のサンプルは、いずれも味や香りが満足できるものではなかった。
これらの結果は、比較例1−1〜1−3において、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが大きくなり過ぎたことが原因であった。
【0084】
比較例2のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、実施例1−1のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、発酵直後の段階ですでに味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵中にpH低下を行わず、野菜発酵液の発酵度が高いことが原因であった。
【0085】
比較例3のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、保存中に発酵が進行したことによるものであった。
そして、実施例2−2のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、味や香りが満足できるものではなかった。
これらの結果は、比較例3において、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが大きくなり過ぎたことが原因であると考えられた。
【0086】
比較例4−1〜4−6のサンプルは、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例4−1と実施例1−13、比較例4−2〜4−4と実施例1−2、比較例4−5〜4−6と実施例1−11の各サンプル間には、いずれも官能評価結果に有意差が認められた。すなわち、比較例4−1〜4−6のサンプルは、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
比較例4−1では、発酵直後の菌数から明らかなように、リンゴ酸含量が低いために発酵度が低いことが原因であった。
比較例4−2では、リンゴ酸含量が高いために、発酵前の発酵培地のpH調整に用いた炭酸カリウムの量が多くなり、塩の副生量が多くなったことが原因であった。
比較例4−3および4−5では、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵前の発酵培地のpHが低いために、発酵度が低いことが原因であった。
比較例4−4および4−6では、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵前の発酵培地のpHが高いために発酵度が低いことに加え、発酵前のpH調整に用いた炭酸カリウムおよび発酵中のpH低下に用いたクエン酸の量がいずれも多く、その結果、塩の副生量が多くなったことが原因であった。
【0087】
比較例5および比較例6のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例5のサンプルは実施例1−2のサンプルに対して、比較例6のサンプルは実施例2−2のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
これは、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、pH低下速度が大き過ぎ、その結果、対数増殖期終了時のpHが低くなり過ぎたために、発酵度が低いことが原因であった。
【0088】
比較例7および比較例8のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例7のサンプルは実施例1−2のサンプルに対して、比較例8のサンプルは実施例2−2のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
これは、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、発酵培地へ添加したグルタミン酸が野菜発酵液中に残存していることと、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株が発酵中にγ−アミノ酪酸(GABA)を産生したことが原因であった。
【0089】
比較例9および比較例10のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、発酵直後および保存後の菌数から明らかな通り、保存中に発酵が進行したことによるものであった。そして、比較例9のサンプルは実施例7のサンプルに対して、比較例10のサンプルは実施例8のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、比較例9および比較例10のサンプルは、いずれも味や香りが満足できるものではなかった。
これは、用いた菌株がラクトバチルス ブレビスJCM1059株であっても、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが高くなり過ぎたことが原因であった。
【0090】
(B)トマト果汁を基質に用いた場合
実施例1'−1〜1'−9の結果より、これらはいずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。
すなわち、発酵培地中のフラクトース含量が2.0〜20.0質量%で、かつ発酵培地のpHが5.0〜7.0の範囲内においては、pH低下速度が0.1〜0.3のいずれにおいても、官能評価結果に有意差はなく、いずれも味や香り、保存性が良好であることが確認された。
一方、実施例1'−10の結果より、Brix.7%の場合も、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。
【0091】
実施例2'−1〜2'−4の結果より、発酵培地への乳の添加量を0.2〜20.0質量%の範囲内で変化させても、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0092】
実施例3'−1〜3'−3の結果より、pH低下速度を途中で変化させても、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0093】
実施例4'−1〜4'−3の結果より、発酵培地へ乳を3.0質量%添加した場合でも、pH低下速度を途中で変化させても、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0094】
実施例5'および6'の結果より、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサス BP−10958株の共培養で行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
また、実施例5'のサンプルは実施例1'−2のサンプルよりも、また実施例6'のサンプルは実施例2'−2のサンプルよりも、それぞれ発酵風味が付与されて味や香りが一層良好であり、官能上より好ましいものであることが確認された。すなわち、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養によるpH低下が、発酵飲食品の呈味向上に効果的であることが示された。
【0095】
実施例7'および8'の結果より、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用いて発酵を行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
【0096】
実施例9'および10'の結果より、ラクトバチルス ブレビスJCM1059株を用い、さらに、発酵中のpH低下をラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養で行った場合、発酵培地への乳の添加有無に関わらず、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められず、いずれも、味や香り、保存性が良好であることが確認された。
また、実施例9'のサンプルは実施例7'のサンプルよりも、また実施例10'のサンプルは実施例8'のサンプルよりも、それぞれ発酵風味が付与されて味や香りが一層良好であり、官能上より好ましいものであることが確認された。すなわち、ラクトバチルス ペントーサスBP−10958株の共培養によるpH低下が、発酵飲食品の呈味向上に効果的であることが示された。
【0097】
比較例1'−1〜1'−3のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、発酵直後および保存後の菌数から明らかな通り、保存中に発酵が進行したことによるものであった。
そして、比較例1'−1と実施例1'−1、比較例1'−2と実施例1'−2、比較例1'−3と実施例1'−3の各サンプル間にも、いずれも官能評価結果に有意差が認められ、比較例1'−1〜1'−3のサンプルは、いずれも味や香りが満足できるものではなかった。
これらの結果は、比較例1'−1〜1'−3において、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが大きくなり過ぎたことが原因であった。
【0098】
比較例2'のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかったものの、実施例1'−1のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、発酵直後の段階ですでに味や香りが満足できるものではなかった。これは、発酵中にpH低下を行わず、野菜発酵液の発酵度が高いことが原因であった。
【0099】
比較例3'のサンプルは、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、保存中に発酵が進行したことによるものであった。
そして、実施例2'−2のサンプルに対して官能評価結果に有意差が認められ、味や香りが満足できるものではなかった。
これらの結果は、比較例3'において、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが大きくなり過ぎたことが原因であると考えられた。
【0100】
比較例4'−1〜4'−6のサンプルは、いずれも、凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例4'−1と実施例1'−10、比較例4'−2〜4'−4と実施例1'−2、比較例4'−5〜4'−6と実施例1'−8の各サンプル間には、いずれも官能評価結果に有意差が認められた。すなわち、比較例4'−1〜4'−6のサンプルは、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
比較例4'−1では、発酵直後の菌数から明らかなように、フラクトース含量が低いために発酵度が低いことが原因であった。
比較例4'−2では、フラクトース含量が高いために、甘味が強過ぎることが原因であった。
比較例4'−3および4'−5では、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵前の発酵培地のpHが低いために、発酵度が低いことが原因であった。
比較例4'−4および4'−6では、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵前の発酵培地のpHが高いために発酵度が低いことに加え、発酵前のpH調整に用いた炭酸カリウムおよび発酵中のpH低下に用いたクエン酸の量がいずれも多く、その結果、塩の副生量が多くなったことが原因であった。
【0101】
比較例5'および比較例6'のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例5'のサンプルは実施例1'−2のサンプルに対して、比較例6'のサンプルは実施例2'−2のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
これは、発酵直後の菌数から明らかなように、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、pH低下速度が大き過ぎ、その結果、対数増殖期終了時のpHが低くなり過ぎたために、発酵度が低いことが原因であった。
【0102】
比較例7'および比較例8'のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差は認められなかった。しかし、比較例7'のサンプルは実施例1'−2のサンプルに対して、比較例8'のサンプルは実施例2'−2のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、いずれも保存前の段階ですでに、味や香りが満足できるものではなかった。
これは、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、発酵培地へ添加したグルタミン酸が野菜発酵液中に残存していることと、ラクトバチルス ブレビスBP−4693株が発酵中にγ−アミノ酪酸(GABA)を産生したことが原因であった。
【0103】
比較例9'および比較例10'のサンプルは、いずれも凍結保存サンプルと10℃保存サンプルとの間に、官能評価結果の有意差が認められた。これは、発酵直後および保存後の菌数から明らかな通り、保存中に発酵が進行したことによるものであった。そして、比較例9'のサンプルは実施例7'のサンプルに対して、比較例10'のサンプルは実施例8'のサンプルに対して、それぞれ官能評価結果に有意差が認められ、比較例9'および比較例10'のサンプルは、いずれも味や香りが満足できるものではなかった。
これは、用いた菌株がラクトバチルス ブレビスJCM1059株であっても、発酵培地への乳の添加の有無に関わらず、発酵中のpH低下を行わなかった結果、対数増殖期終了時のpHが高くなり過ぎたことが原因であった。
【0104】
以上の結果より、本発明の製造方法により製造された発酵飲食品は、味や香りに優れ、10℃で3週間保存しても変質し難いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明により、味や香りが良く保存性に優れた、生きた乳酸菌を含有した健康増進志向の発酵飲食品を提供できる。
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]