特許第5933684号(P5933684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イエフペ エネルジ ヌヴェルの特許一覧 ▶ トータル ラフィナージュ マーケティングの特許一覧

特許5933684第VIII族および第VIB族からの金属を含む、水素化処理における使用のための触媒、並びに、クエン酸およびコハク酸C1−C4ジアルキルによる調製
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933684
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】第VIII族および第VIB族からの金属を含む、水素化処理における使用のための触媒、並びに、クエン酸およびコハク酸C1−C4ジアルキルによる調製
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/34 20060101AFI20160602BHJP
   B01J 37/20 20060101ALI20160602BHJP
   B01J 27/30 20060101ALI20160602BHJP
   B01J 38/52 20060101ALI20160602BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20160602BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20160602BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B01J31/34 M
   B01J37/20
   B01J27/30 M
   B01J38/52
   B01J37/08
   B01J37/02 101C
   C10G45/08 B
【請求項の数】22
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-500436(P2014-500436)
(86)(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公表番号】特表2014-514142(P2014-514142A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】FR2012000052
(87)【国際公開番号】WO2012127128
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】11/00.840
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(73)【特許権者】
【識別番号】513235083
【氏名又は名称】トータル ラフィナージュ マーケティング
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】シモン ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ギシャール ベルトラン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ グランディ ヴァレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ミヌー デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ダトゥ ジャン−ピエール
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−528252(JP,A)
【文献】 特表2010−531224(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/054712(WO,A1)
【文献】 特開2003−299960(JP,A)
【文献】 特表2000−511820(JP,A)
【文献】 特開2008−290071(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0243530(US,A1)
【文献】 特表2009−519815(JP,A)
【文献】 特開2012−045545(JP,A)
【文献】 特表2013−514169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C10G1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナをベースとする無定形担体と、少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、リンと、少なくとも1種の第VIB族元素および少なくとも1種の第VIII族元素を含む水素化脱水素基とを含む触媒であって、触媒のラマンスペクトルは、少なくとも1種のケギン型ヘテロポリアニオンの特徴である990および/または974cm−1におけるバンドと、前記コハク酸C1−C4ジアルキルの特徴的バンドと、クエン酸の主要な特徴的バンドとを含み、さらに酢酸も含み、そのラマンスペクトルは、酢酸の特徴である896cm−1におけるラインを含む、炭化水素供給原料の水素化処理用触媒。
【請求項2】
コハク酸ジアルキルは、コハク酸ジメチルであり、触媒のラマンスペクトルは、主なバンドを、ケギン型ヘテロポリアニオンの特徴である990および/または974cm−1において、コハク酸ジメチルの特徴である853cm−1において、およびクエン酸の特徴である785および956cm−1において有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
コハク酸ジアルキルは、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチルまたはコハク酸ジイソプロピルである、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
担体は、25重量%超のアルミナを含有する、請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項5】
アルミナまたはシリカ−アルミナによって構成される担体を含む、請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項6】
ホウ素および/またはフッ素も含む、請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項7】
水素化脱水素基は、モリブデン、ニッケル、および/またはコバルトを含む、請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項8】
硫化される、請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒の調製方法であって、連続する以下の工程:
ab) 水素化脱水素基の元素と、場合によるリンとを含有する触媒前駆体を調製する工程であって、前記前駆体は熱処理を経たものである、工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、リンが全体として工程ab)における含浸により導入されなかったならば少なくとも1種のリン化合物と、酢酸とを含む含浸溶液を含浸させる少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む、方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒の調製方法であって、連続する以下の工程:
a) アルミナをベースとする無定形担体に、水素化脱水素基の元素と、場合によるリンとを含有する少なくとも1種の溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
b) 180℃以下の温度での乾燥工程であって、場合によりその後に、少なくとも350℃の範囲の温度で焼成を行う、工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、リンがその全体において工程a)で導入されなかったならば少なくとも1種のリン化合物と、酢酸とを含む含浸溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む、方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒の調製方法であって、連続する以下の工程:
a’b’) 水素化脱水素基と、場合によるリンとを含む使用済み触媒の再生工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、リンが触媒にその全体において工程a’b’)で導入されなかったならば、場合による少なくとも1種のリン化合物と、酢酸とを含む含浸溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む、方法。
【請求項12】
水素化脱水素基の全部が、工程a)の間に導入される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
工程c)は、水および/またはエタノールの存在下に行われる、請求項9〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
コハク酸ジアルキルおよびクエン酸は、工程c)の含浸溶液に、コハク酸ジアルキル対触媒前駆体の含浸させられた第VIB族元素(単数または複数)のモル比0.15〜2モル/モルの範囲、および、クエン酸対触媒前駆体の含浸させられた第VIB族元素(単数または複数)のモル比0.05〜5モル/モルの範囲に相当する量で導入される、請求項9〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
酢酸対触媒前駆体の含浸させられた第VIB族元素(単数または複数)のモル比は、0.1〜6モル/モルの範囲であり、(クエン酸+酢酸)対触媒前駆体の含浸させられた第VIB族元素(単数または複数)のモル比は、0.15〜6モル/モルの範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程d)は、17〜50℃の温度で行われる、請求項9〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
工程e)は、80〜180℃の温度で行われ、その後の焼成を伴わない、請求項9〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
含浸によって導入されるリンの量は、0.1〜20重量%の範囲(工程ab)またはb)における熱処理後の触媒前駆体に対する酸化物の重量として表される)であり、第VIB族元素(単数または複数)の量は、5〜40重量%の範囲(工程ab)またはb)における熱処理後の触媒前駆体に対する酸化物の重量として表される)であり、第VIII族元素(単数または複数)の量は、1〜10重量%の範囲(工程ab)またはb)における熱処理後の触媒前駆体に対する酸化物の重量として表される)である、請求項9〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
工程e)の終わりに得られる生成物は、硫化工程を経る、請求項9〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜のいずれか1つに記載の触媒あるいは請求項9〜19のいずれか1つに記載の方法を用いて調製された触媒の存在下での、炭化水素供給原料の水素化処理方法。
【請求項21】
水素化処理は、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属、芳香族化合物の水素化または水素化転化である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
水素化処理は、深度ガスオイル水素化脱硫である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化処理の分野における触媒、その調製方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素留分の水素化処理のための触媒は、通常、炭化水素留分に含まれる硫黄含有または窒素含有の化合物を除去することを目的とし、これにより、例えば、石油製品が、所与の適用(自動車燃料、ガソリンまたはガスオイル、家庭用燃料、ジェット燃料)についての要求される規格(硫黄含有率、芳香族化合物含有率、等)に適合するようになされる。それはまた、供給原料を予備処理するように作用し得、供給原料から不純物が除去され、その後に、供給原料は、その物理化学的特性を改変するための種々の転換方法を経る;例は、改質方法、真空蒸留物の水素化分解、接触分解または常圧または真空の残渣の水素化転化である。水素化処理触媒の組成および使用は、B S Clausen、H T TopsoeeおよびF E Massothによる論文(非特許文献1)において非常に詳細に記載されている。硫化の後、担体上に複数の表面種が存在し、それらの全てがターゲットの反応において機能するわけではない。そのような種は、特に、Topsoeeらによる公表文献(非特許文献2)において番号26において非常に詳細に記載されている。
【0003】
欧州共同体における自動車汚染基準の厳格化(非特許文献3)により、精製業者は、ディーゼル燃料およびガソリンの硫黄含有率を大幅に低減させることを強いられてきた(2009年1月1日において硫黄は最大10重量parts per million(ppm)であるのに対して、2005年1月1日において50ppmである)。さらに、精製業者は、水素化処理方法のためにますます多くの難処理性の供給原料を用いることを余儀なくされており、これは、一方で、原油が、より重質になりかつそれ故により多くの不純物を含有するためであり、他方で、精製所における転化方法の数が増加しているためである。実際、それらは、常圧蒸留に直接由来する留分より水素化処理し難い留分を発生させる。挙げられ得る例は、LCO(light cycle oil:軽質サイクルオイル)としても知られる、接触分解に由来するガスオイル留分であり、これは、その高い芳香族化合物含有率を意味する。そのような留分は、常圧蒸留に由来するガスオイル留分と共に同時処理される;それらは、従来の触媒と比較して大幅に向上した水素化脱硫および水素化の機能を有する触媒を必要とし、これにより、芳香族化合物の量が低減させられて、規格に準拠する密度およびセタン指数が得られる。
【0004】
さらに、転化方法、例えば、接触分解または水素化分解は、酸基(acid function)を有する触媒を用い、これにより、それらは、窒素含有不純物、特に塩基性の窒素含有化合物の存在に対して特に敏感になる。したがって、触媒を用いて、これらの化合物を除去するように前記供給原料を事前処理することが必要である。そのような水素化処理触媒は、向上した水素化基(hydrogenating function)も必要とする。第1の水素化脱窒工程がC−N結合に隣接する芳香環を水素化する工程であるとして知られているからである。
【0005】
したがって、向上した性能を有する新規な触媒を得るための水素化処理触媒の調製方法を発見することが重要である。
【0006】
有機化合物を水素化処理触媒に加えて、それらの活性を向上させることは、今や、当業者に周知である。多くの特許は、種々の系列の有機化合物、例えば、エーテル化されてよい、モノ−、ジ−またはポリ−アルコールの使用を保護している(特許文献1〜5)。C2−C14モノエステルにより改変された触媒が、特許文献6および7に記載されているが、これらの改変が、常に、精製業者が燃料の硫黄含有率に関する一層より多くの限定的な規格を適合させることができるほど十分に触媒性能を向上させるわけではない。
【0007】
この問題を克服するために、Totalからの特許文献8は、第VIB族および第VIII族金属と、担体としての耐火性酸化物と、有機化合物とを含む触媒であって、該有機化合物は、式R1−O−CO−R2−CO−O−R1またはR1−CO−O−R2−O−CO−R1を有する少なくとも2つのカルボン酸エステル基を含み、ここで、各R1は、独立して、C1−C18アルキル基、C2−C18アルケニル基、C6−C18アリール基、C3−C8シクロアルキル基、C7−C20アルキルアリールまたはアリールアルキル基を表し、あるいは、2つのR1基が一緒に二価C2−C18基を形成し、R2は、C1−C18アルキレン基、C6−C18アリーレン基、C3−C7シクロアルキレン基、またはそれらの組合せを表し、R1およびR2によって表される炭化水素基の炭素質鎖は、場合により、N、SおよびOから選択される1種以上のヘテロ原子を含有または保有し、基R1およびR2のそれぞれは、場合により、式−C(=O)O−R1または−O−C(=O)−R1(式中、R1は、上記に示された意味を有する)を有する1以上の置換基を保有する、触媒の使用を提案している。好ましい実施形態は、コハク酸C1−C4ジアルキル、特にコハク酸ジメチルを用い、これは、実施例において用いられている。これらの化合物は、溶媒(溶媒の長いリストが挙げられる)またはカルボン酸の存在下に導入されてよい。特に挙げられる約30種の酸の中に、酢酸が存在するが、これは、約10種の好ましい酸の中には挙げられない。ここで、クエン酸が好ましいことが、留意されるべきである。
【0008】
特許文献8に記載された触媒の調製方法は、数日、例えば49〜115日かかるかもしれない熟成および熱処理の工程を含み、これにより、これらの触媒の製造が大幅に制限され、かつその結果、改良が必要となるであろう。
【0009】
他の従来技術の特許には、水素化処理触媒上での有機酸またはアルコールの組み合わされた使用に関連する活性の増大が記載されている。したがって、株式会社ジャパンエナジーからの特許文献9として公表された特許出願には、
・ 発明の第1の好ましい実施形態において、触媒担体と、元素周期律分類の第VI族および第VIII族からの1種以上の金属と、有機酸とを含有する溶液を調製すること;発明の第2の好ましい実施形態において、この溶液はリン前駆体も含む;
・ 200〜400℃での熱処理;
・ 得られた触媒に有機酸またはアルコールを金属のモル当たり0.1〜2の割合で含浸させること;
からなる解決策が提案されている。
【0010】
発明の好ましい実施の1つが、200℃以下の温度での乾燥を含む一方で、第2の好ましい実施は、400℃以上の温度での最終の熱処理を含む。
【0011】
より一層水素が欠乏している供給原料が精製業者に利用可能になされているために、そのような触媒は、新たな環境規制を満たすのに十分な活性を有しないことが観察された。
【0012】
同様に、特許文献10は、活性化方法であって、概略的には、第VIII族および第VIB族からの金属の酸化物を含む再生された触媒上に存在する結晶質のCoMoOタイプの相の量を低減させることができ、該方法は、再生された触媒を、酸および有機添加剤と接触させることを含む、方法を特許請求している。クエン酸(citric acid:CA)とポリエチレングリコール(polyethylene glycoo:PEG)の組合せが、多くの実施例において、この目的のために、再生された触媒上で用いられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/41848号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/76741号パンフレット
【特許文献3】米国特許第4012340号明細書
【特許文献4】米国特許第3954673号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0601722号明細書(特開平6−226108号公報)
【特許文献6】欧州特許出願公開第0466568号明細書(特開平4−227071号公報)
【特許文献7】欧州特許出願公開第1046424号明細書(特開2000−342971号公報)
【特許文献8】国際公開第2006/077326号パンフレット
【特許文献9】特開平07−136523号公報
【特許文献10】国際公開第2005/035691号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】B S Clausen、H T TopsoeeおよびF E Massoth著、「Catalysis Science and Technology」、1996年、Springer-Verlag、第11巻
【非特許文献2】Topsoeeら著、「Catalysis Review Science and Engineering」、1984年、p395−420
【非特許文献3】「Official Journal of the European Union」、L76、2003年3月22日、Directive 2003/70/CE、pL76/10−L76/19)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、触媒およびその調製方法に関し、触媒は、水素化処理のために用いられることが可能であり、触媒性能(特に、触媒活性)を、従来技術の触媒と比較して向上させることが可能となる。実際、コハク酸C1−C4ジアルキル、特にコハク酸ジメチルを、クエン酸と組み合わせて、場合により酢酸の存在下に、乾燥させられ、焼成され、または再生された触媒前駆体上で用いることにより、驚くべきことに、大幅に向上した触媒活性が得られるに至るこが示された。
【0016】
より正確には、本発明は、アルミナをベースとする無定形担体と、少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、リンと、少なくとも1種の第VIII族元素および少なくとも1種の第VIB族元素を含む水素化脱水素基とを含む触媒であって、触媒のラマンスペクトルは、少なくとも1種のケギン型ヘテロポリアニオンの特徴である990および/または974cm−1におけるバンドと、前記コハク酸C1−C4ジアルキル(succinate)の特徴的バンドと、クエン酸の特徴的バンドとを含む、触媒に関する。好ましい実施形態において、触媒は酢酸も含む。
【0017】
本発明はまた、硫化された触媒に関する。それは、本出願中に記載された触媒を硫化することによって得られる。
【0018】
水素化脱水素基は、少なくとも1種の第VIII族元素(好ましくは、コバルトおよび/またはニッケル)と、少なくとも1種の第VIB族元素(好ましくは、モリブデンおよび/またはタングステン)とを含む。好ましくは、水素化脱水素基は、モリブデンと、コバルトおよび/またはニッケルとを含む。
【0019】
得られる触媒は、以下のものを有する特徴的ラマンスペクトルを有する:
1) ケギン型ヘテロポリアニオン(単数または複数)PXY1140x−および/またはPY1240x−(式中、Yは、第VIB族金属であり、Xは、第VIII族金属である)の特徴的バンド。
【0020】
Griboval, Blanchard, Payen, Fournier, Duboisによると、Catalysis Today 45 (1998), 277のFig. 3e)において、乾燥させられた触媒の構造PCoMo1140x−の主要バンドは、232、366、943、974cm−1にあり、M T Popeの“Heteropoly and Isopoly Oxometallates”、Springer Verlag、p 8によると、これらのバンドは、原子XまたはYの性質の特徴ではなく、ヘテロポリアニオンの構造の特徴である。このタイプの間隙(lacunary)ケギン型ヘテロポリアニオンの最も強い特徴的バンドは、974cm−1に位置する。
【0021】
Griboval, Blanchard, Gengembre, Payen, Fournier, Dubois, Bernardによると、Journal of Catalysis 188 (1999), 102のFigure 1a)において、ヘテロポリアニオンのバルクの状態のPMo1240x−であって、例えば、対イオンとしてコバルトを有する、ものの主要バンドは、251、603、902、970、990cm−1にある。このケギン型ヘテロポリアニオンの最も強い特徴的バンドは、990cm−1にある。再び、M T Popeは、“Heteropoly and Isopoly Oxometallates”, Springer Verlag, p 8において、これらのバンドは、XまたはY原子の性質の特徴ではなく、完全型、間隙型または置換型のケギン型ヘテロポリアニオンの構造の特徴であることを本発明者らに通知する。
【0022】
2) 用いられるコハク酸ジアルキル(単数または複数)の特徴的バンド。コハク酸ジメチルのラマンスペクトルは、この分子に固有の指紋を構成する。スペクトルの300〜1800cm−1帯域において、このスペクトルは、以下の系統のバンド(最も強いバンドのみが、報告される,cm−1)によって特徴付けられる:391、853(最も強いバンド)、924、964、1739cm−1。コハク酸ジメチルの最も強い特徴的バンドは、853cm−1にある。コハク酸ジエチルのスペクトルは、考慮されるスペクトル帯域において以下の主要バンドを含む:861(最も強いバンド)、1101、1117cm−1。同様に、コハク酸ジブチルの場合:843、1123、1303、1439、1463cm−1およびコハク酸ジイソプロピルの場合:833、876、1149、1185、1469(最も強いバンド)、1733cm−1
【0023】
3) クエン酸の特徴的バンド;主要バンドは:785、947、956、908cm−1にある。クエン酸の最も強い特徴的バンドは、785および956cm−1にある。
【0024】
好ましい実施形態において、触媒は、酢酸も含み、896cm−1にその最も強い特徴的ラマンバンドを有する。酢酸の他の特徴的バンドは:448、623、896cm−1にある。最も強いバンドは、896cm−1にある。
【0025】
バンドの正確な位置、それらの形状およびそれらの相対強度は、スペクトル記録条件に応じて、ある程度まで変動し得るが、それらは、この分子の特徴であり続ける。有機化合物のラマンスペクトルはまた、ラマンスペクトルデータベース(例えば、the Spectral Database for Organic Compounds, http://riodb01.ibase.aist.go.jp/sdbs/cgi-bin/direct_frame_top.cgi参照)において、あるいは、製品供給業者によって(例えば、www.sigmaaldrich.com参照)、文書で十分に裏付けされている。
【0026】


ラマンスペクトルは、イオン化アルゴンレーザ(514nm)を備えた分散ラマンタイプの分光計により得られた。レーザ光線は、倍率50の長作動距離対物レンズ(long working length objective)を備えた顕微鏡を用いて、サンプル上に集束させられた。サンプルにおけるレーザの電力は、1mW程度である。サンプルによって発せられるラマンシグナルは、同一の対物レンズによって集められ、1800rpmのグレーティングを用いて分散させられ、次いで、CCD検出器によって集められた。得られたスペクトル分解能は、0.5cm−1程度のものであった。記録されたスペクトル帯域は、300〜1800cm−1の範囲であった。取得期間は、記録された各ラマンスペクトルについて120秒で固定された。
【0027】
コハク酸ジアルキルは、有利には、コハク酸ジメチル、コハク酸ジブチルまたはコハク酸ジイソプロピルである。
【0028】
好ましくは、用いられるコハク酸ジアルキルは、コハク酸ジメチルであり、触媒のスペクトルは、主要ラマンバンドを、ケギン型ヘテロポリアニオン(単数または複数)の特徴である990および/または974cm−1に、コハク酸ジメチルの特徴である853cm−1に、およびクエン酸の特徴である785および956cm−1に、および場合によっては、酢酸の特徴である896cm−1に有する。
【0029】
好ましくは、本発明の触媒は、アルミナまたはシリカ−アルミナによって構成される担体を含む。
【0030】
本発明の触媒は、ホウ素および/またはフッ素および/またはケイ素、好ましくはホウ素および/またはフッ素を含んでもよい。
【0031】
本発明の触媒の調製方法も記載され、この方法は、クエン酸(場合により酢酸を有する)とコハク酸C1−C4ジアルキルの組合せを含む溶液を用いて、リンを含有する化合物の存在下または非存在下に、少なくとも1種の水素化脱水素基と、場合によるリンと、無定形担体とを含有する、180℃未満の温度での乾燥させられた触媒前駆体を含浸させるための少なくとも1回の工程と、その次の、リンを含有する前記含浸させられた触媒前駆体の熟成工程と、次の、200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後に焼成工程(calcining step)(空気中の熱処理)を伴わない、工程とを含む;得られた触媒は、好ましくは、硫化工程を経る。
【0032】
上記に記載されたような本発明の触媒の調製方法であるが、しかし焼成された触媒前駆体から出発し、前記触媒前駆体は、以前のものと同様の方法で調製されたものであるが、180℃以下の温度での乾燥工程後に焼成されたものである、方法も記載される。上記と同様の方法で、得られた触媒は、好ましくは、硫化工程を経る。
【0033】
焼成(酸化雰囲気中での熱処理)は、新鮮な触媒(すなわち、これは、未だ使用されていない)の調製の間、少なくとも350℃で行われる。温度は、600℃未満、通常550℃未満、例えば、350〜550℃、好ましくは400〜520℃、あるいは、好ましくは420〜520℃または450〜520℃である;500℃以下の温度が通常有利である。
【0034】
上記に記載されたような本発明の触媒の調製方法であるが、しかし使用済み(使用された)かつ再生された(使用済の触媒上に沈着させられた炭素の燃焼)の触媒から出発する、方法も記載されている。再生は、一般的に、350〜550℃の範囲、通常400〜520℃の範囲、420〜520℃の範囲、あるいは、450〜520℃の範囲の温度で行われる;500℃または480℃以下の温度が、通常有利である。
【0035】
本発明の範囲内で他の実施形態が想定されてよい;例えば、乾燥工程の後に、触媒前駆体は、乾燥温度(これは、最大180℃である)超、かつ、焼成温度(これは、少なくとも350℃である)以下での熱処理を経る。
【0036】
これらの簡易かつ迅速な調製方法は、個々の工程が数時間を超えないため、工業的スケールで従来技術の方法より良好な生産性を提供する。
【0037】
したがって、より正確には、本発明は、触媒の調製方法であって、連続する以下の工程:
ab) 水素化脱水素基の元素と、場合によるリンとを含有する触媒前駆体を調製する工程であって、前記前駆体は少なくとも1回の熱処理を経たものである、工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、工程ab)における含浸によって全体としてリンが導入されなかったならば、少なくとも1種のリン化合物と、場合による酢酸とを含む含浸溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む、方法について記載する。
【0038】
工程ab)の熱処理は、最大180℃の温度での乾燥のための少なくとも1回の工程を含む。それは、焼成工程を含んでもよい。それは、再生工程中に含まれていてもよい。
【0039】
乾燥させられかつ場合により焼成された触媒を用いる、調製の実施形態の1つにおいて、本発明の方法は、連続する以下の工程:
a) アルミナをベースとする無定形担体に、水素化脱水素基の元素、および場合によるリンを含有する少なくとも1種の溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程であって、得られる生成物は「触媒前駆体」と称される、工程と;
b) 180℃以下の温度での乾燥工程であって、場合によりその後に、少なくとも350℃、好ましくは420〜520℃の範囲の温度で焼成を行う工程であって;生成物は「乾燥させられたまたは焼成された触媒前駆体」と称される、工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、工程a)において全体としてリンが導入されなかったならば、少なくとも1種のリン化合物と、場合による酢酸とを含む含浸溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む。
【0040】
本発明は、使用済み触媒である触媒前駆体から出発する触媒の調製方法も記載しており、これは、以下の連続する工程:
a’b’) 水素化脱水素基と、場合によるリンとを含む使用済み触媒の再生工程と;
c) 少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルと、クエン酸と、工程a’b’)において全体としてリンが触媒に導入されなかったならば、場合による(好ましくは)少なくとも1種のリン化合物と、場合による酢酸とを含む含浸溶液を含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程と;
e) 200℃未満の温度での乾燥工程であって、その後の焼成工程を伴わない、工程と;
を含む。
【0041】
好ましくは、工程e)の終わりに得られた生成物は、硫化のための工程f)を経る。本発明はまた、硫化触媒に関する。
【0042】
以下に記載されるように、本発明の方法は、好ましくは、以下の実施様式を単独であるいは組み合わせて用いて行われる:担体は、アルミナまたはシリカ−アルミナによって構成される;水素化基の全体が、工程a)の間に導入される;リンの全ては、工程a)の間に導入される;コハク酸ジアルキルは、コハク酸ジメチルである;工程c)は、水および/またはエタノールの存在下に行われる;工程d)は、17℃から60℃または50℃までの範囲の温度で行われる;工程e)は、80〜180℃の範囲の温度で行われる。
【0043】
1つの実施形態において、乾燥工程b)は、180℃未満の温度で行われ、熱処理またはその後の焼成を伴わない。
【0044】
例として、本発明の方法は、連続する以下の工程:
a) 前記担体に、水素化脱水素基の元素の全て、およびリンの全てを含有する溶液を乾式含浸させるための少なくとも1回の工程と;
b) 75〜130℃の範囲の温度での乾燥工程であって、その後の熱処理を伴わない、工程と;
c) コハク酸ジメチルと、クエン酸と、場合による酢酸とを含む含浸溶液を乾式含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 17〜60℃での熟成工程と;
e) 乾燥工程であって、好ましくは窒素中、80〜160℃の範囲の温度で行われ、その後の熱処理を伴わない、工程と;
を含む。
【0045】
水素化脱水素基と、アルミナをベースとする無定形担体とを含有する触媒前駆体、並びに、その調製様式は、以下に記載される。
【0046】
本発明の方法の工程a)の終わりに得られる前記触媒前駆体は、全体として、当業者に周知の方法のいずれかを用いて調製されてよい。
【0047】
前記触媒前駆体は、水素化脱水素基を含有する。有利には、それは、ドーパントとしてのリンおよび/またはホウ素および/またはフッ素、並びに、無定形担体を含有する。
【0048】
(無定形担体)
前記触媒前駆体の無定形担体は、アルミナをベースとする。それは、一般的に25重量%超、さらには35重量%超、好ましくは50重量%超のアルミナを含有する。好ましくは、それは、アルミナのみまたはシリカ−アルミナを含有し、場合により、金属(単数または複数)および/またはドーパント(単数または複数)も含み、この金属および/またはドーパントは、含浸とは別に導入される(例えば、担体の調製(混合、解膠等)の間または成形の間に導入される)。
【0049】
担体は、成形(好ましくは、押出)の後に得られる。それは、焼成(一般的には300〜600℃)を経る。
【0050】
好ましくは、担体は、アルミナによって構成される。好ましくは、アルミナは、ガンマアルミナであり、より好ましくは、前記担体は、ガンマアルミナによって構成される。
【0051】
別の好ましい場合、それは、25重量%超、さらには35重量%超、好ましくは、少なくとも50重量%(あるいは50重量%超)のアルミナを含有するシリカ−アルミナである。担体中のシリカ含有率は、最大50重量%、通常45重量%以下、好ましくは40重量%以下である。好ましくは、担体は、シリカ−アルミナによって構成される。
【0052】
ケイ素源は、当業者に周知である。挙げられてもよい例は、ケイ酸、粉末形態のシリカまたはコロイド形態のシリカ(シリカゾル)、並びに、オルトケイ酸テトラエチル(Si(OEt))である。
【0053】
用語「無定形担体」は、アルミナまたはシリカ−アルミナ中に存在し得る結晶質相とは別の結晶質相を含有しない担体を意味する。
【0054】
(水素化脱水素基)
前記触媒前駆体の水素化脱水素基は、少なくとも1種の第VIB族元素および少なくとも1種の第VIII族元素によって提供される。
【0055】
水素化脱水素元素の全量は、有利には、全触媒重量に対する酸化物の重量で6%超である。好ましい第VIB族元素は、モリブデンおよびタングステンであり、特にモリブデンである。好ましい第VIII族元素は、非貴金属元素であり、特にコバルトおよびニッケルである。有利には、水素化脱水素基は、モリブデン、ニッケルおよび/またはコバルトを含む(好ましくは、モリブデン、ニッケルおよび/またはコバルトによって構成される)。
【0056】
有利には、水素化基は、以下の元素の組合せによって形成される群から選択される:コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、またはニッケル−モリブデン−タングステン。
【0057】
水素化脱硫または水素化脱窒および芳香族化合物の水素化の高い活性が望まれる場合、水素化脱水素基は、有利には、ニッケルおよびモリブデンの組合せによって提供される;モリブデンの存在下でのニッケルおよびタングステンの組合せも有利であり得る。真空蒸留物またはより重質なタイプの供給原料の場合、コバルト−ニッケル−モリブデンのタイプの組合せが、有利には用いられてよい。
【0058】
用いられてよいモリブデン前駆体もまた、当業者に周知である。用いられてよいモリブデン源の例は、酸化物および水酸化物、モリブデン酸およびそれらの塩、特にアンモニウム塩、例えば、モリブデン酸アンモニウム、七モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)およびそれらの塩、並びに、場合によりケイモリブデン酸(HSiMo1240)およびその塩である。モリブデン源は、例えば、ケギン(Keggin)型、間隙ケギン型(lacunary Keggin)、置換ケギン型、ドーソン(Dawson)型、アンダーソン(Anderson)型またはストランドバーグ(Strandberg)型の任意のヘテロポリ化合物であってもよい。好ましくは、三酸化モリブデン、並びに、ストランドバーグ型、ケギン型、間隙ケギン型、または置換ケギン型のヘテロポリ化合物(ヘテロポリアニオン)が用いられる。
【0059】
用いられてよいタングステン前駆体も当業者に周知である。用いられてよいタングステン源の例は、酸化物および水酸化物、タングステン酸およびそれらの塩、特にアンモニウム塩、例えば、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸およびそれらの塩、並びに、場合によるケイタングステン酸(HSiW1240)およびその塩である。タングステン源は、例えば、ケギン型、間隙ケギン型、置換ケギン型、またはドーソン型の任意のヘテロポリ化合物であってもよい。好ましくは、アンモニウム酸化物およびアンモニウム塩が用いられ、例えば、メタタングステン酸アンモニウム、または、ケギン型、間隙ケギン型、または置換ケギン型のヘテロポリアニオンである。
【0060】
第VIB族元素(単数または複数)の前駆体(単数または複数)の量は、工程ab)またはb)の熱処理後の触媒前駆体に対する第VIB族元素の酸化物の重量で有利には5〜40%の範囲、好ましくは、8〜35重量%の範囲、より好ましくは10〜30重量%の範囲である。
【0061】
用いられてよい第VIII族元素(単数または複数)の前駆体は、有利には、酸化物、水酸化物、ヒドロキシ炭酸塩、炭酸塩および硝酸塩から選択される;例として、ヒドロキシ炭酸ニッケル、炭酸コバルトまたは水酸化コバルトが好ましい。
【0062】
第VIII族元素(単数または複数)の前駆体(単数または複数)の量は、工程ab)またはb)の熱処理後の触媒前駆体に対する第VIII族元素の酸化物の重量で、有利には1〜10%、好ましくは1.5〜9重量%の範囲、非常に好ましくは、2〜8重量%の範囲である。
【0063】
前記触媒前駆体の水素化脱水素基は、調製の種々の段階で、かつ種々の方法で、触媒に導入されてよい。前記水素化脱水素基は、常に、成形された担体に含浸させることによって、少なくとも部分的に、好ましくはその全体で導入される。それは、前記無定形担体の成形の間に部分的に導入されてもよい。
【0064】
水素化脱水素基が、前記無定形担体の成形の間に部分的に導入される場合、それは、マトリクスとして選択されるアルミナゲルとの混合の際にのみ、部分的に導入されてよく(例えば、第VIB族元素(単数または複数)の最大10重量%が、例えば混合によって導入され)、水素化元素(単数または複数)の残りは、後に導入される。好ましくは、水素化脱水素基が、混合の際に部分的に導入される場合、前記工程の間に導入される第VIB族元素(単数または複数)の割合は、最終触媒上に導入される第VIB族元素(単数または複数)の全量の5重量%未満である。好ましくは、少なくとも1種の(あるいは、全ての)第VIB族元素は、導入の様式にかかわらず、少なくとも1種の(あるいは、全ての)第VIII族元素と同時に導入される。元素を導入するためのこれらの方法および量が用いられるのは、特に、水素化脱水素基がCoMoによって構成される場合である。
【0065】
水素化脱水素基が、前記無定形担体の成形後に、少なくとも部分的に、好ましくはその全体において導入される場合、前記水素化脱水素基は、有利には、無定形担体上に、成形および焼成された担体上への過剰溶液含浸のための1回以上の工程によって、あるいは好ましくは1回以上の乾式含浸工程によって、好ましくは、前記成形および焼成された担体の乾式含浸によって、金属の前駆体塩を含有する溶液を用いて導入される。非常に好ましくは、水素化脱水素基は、その全体において、前記無定形担体の成形の後に、金属の前駆体塩を含有する含浸溶液を用いる前記担体の乾式含浸によって導入される。前記水素化脱水素基の導入は、有利には、成形および焼成された担体の含浸のための1回以上の工程によって、活性相の前駆体(単数または複数)の溶液を用いて行われてもよい。元素が、対応する前駆体塩の含浸のための複数の工程において導入される場合、触媒の中間の乾燥のための工程は、一般的に50〜180℃の範囲、好ましくは60〜150℃の範囲、より好ましくは75〜130℃の範囲の温度で行われる。
【0066】
(リン)
リンも、触媒に導入される。別の触媒ドーパントが導入されてもよく、これは、好ましくはホウ素およびフッ素から選択され、単独あるいは混合物として用いられる。ドーパントは、触媒的性質をそれ自体において有しないが、金属(単数または複数)の触媒活性を増大させる追加元素である。
【0067】
ホウ素源は、ホウ酸であってよく、好ましくは、オルトホウ酸HBO、二ホウ酸アンモニウムまたは五ホウ酸アンモニウム、酸化ホウ素、またはホウ酸エステルである。ホウ素は、例えば、水/アルコール混合物または水/エタノールアミン混合物中のホウ酸の溶液によって導入されてよい。
【0068】
好ましいリン源は、オルトリン酸HPOであるが、その塩およびエステル、例えばリン酸アンモニウムも適している。リンは、第VIB族元素(単数または複数)と同時に、ケギン型、間隙ケギン型、置換ケギン型またはストランドバーグ型のヘテロポリアニオンの形態で導入されてもよい。
【0069】
用いられてよいフッ素源は、当業者に周知である。例として、フッ化物アニオンが、フッ化水素酸またはその塩の形態で導入されてよい。これらの塩は、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機化合物により形成される。後者の場合、塩は、有利には、有機化合物とフッ化水素酸との間の反応による反応混合物中に形成される。フッ素は、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムまたは重フッ化アンモニウム(ammonium bifluoride)の水溶液の含浸によって導入されてよい。
【0070】
ドーパントは、有利には、触媒前駆体に、工程ab)またはb)の熱処理後の触媒前駆体に対する以下の前記ドーパントの酸化物の量で導入される:
・ 前記ドーパントがホウ素である場合、0〜40重量%の範囲、好ましくは0〜30重量%の範囲、より好ましくは0〜20重量%の範囲、好ましくは、0〜15重量%の範囲、一層より好ましくは0〜10重量%の範囲;ホウ素が存在する場合、最小量は、好ましくは0.1〜0.5重量%である;
・ 前記ドーパントがリンである場合、0.1(または0.5)〜20重量%の範囲、好ましくは0.1(または0.5)〜15重量%の範囲、より好ましくは0.1(または0.5)〜10重量%の範囲である;この量は、含浸によって導入されるリンの量を表す;それ故に、新鮮な触媒を調製する際、それは、工程a)の間、および、リンが工程a)において含浸されなかったかあるいはリンの全てが含浸されたわけではなかったならば工程c)の間に含浸させられた量を表す;再生された触媒に関し、これは、再生後の使用済み触媒上に存在するリンの量に工程c)の間に含浸させられたリンの量を加えた量を表す;再生された触媒上に存在するリンは、新鮮な状態にあるこの触媒の調製の間に行われた含浸に由来する;
・ 前記ドーパントがフッ素である場合、0〜20重量%の範囲、好ましくは0〜15重量%の範囲、より好ましくは0〜10重量;フッ素が存在する場合、最小量は、好ましくは0.1または0.5重量%である。
【0071】
リンは常に存在する。リンは、一般的に、担体に水素化脱水素基の少なくとも1種の元素を含浸させる間に導入され(方法の工程a))、および/または、コハク酸C1−C4アルキル(succinate)および酸(単数または複数)を含浸させる間に導入される(方法の工程c))。好ましくは、それは、その全体で、工程a)において、すなわち、触媒前駆体上に導入される。
【0072】
有利には、リンは、その全体においてあるいは部分的に、水素化脱水素基の前駆体(単数または複数)との混合物として、成形された無定形担体、好ましくは、アルミナまたはシリカ−アルミナの押出物上に、金属の前駆体塩およびドーパント(単数または複数)の前駆体(単数または複数)を含有する溶液を用いる前記無定形担体の乾式含浸によって導入される。
【0073】
好ましくは、これは、他のドーパントについても同様である。ドーパントは、担体の合成時に導入されてもよい。それは、選択されたマトリクス、例えばかつ好ましくは、オキシ水酸化アルミニウム(ベーマイト)(アルミナの前駆体)の解膠の直前または直後に導入されてもよい。対照的に、リンは、成形された担体上に、好ましくは含浸によって、有利には乾式含浸によって導入されなければならない。
【0074】
一層より好ましくは、本発明の方法の工程a)における「触媒前駆体」は、水素化脱水素基の各元素の少なくとも1種の前駆体を含有する含浸溶液により、リン前駆体の存在下に調製され、無定形担体は、アルミナまたはシリカ−アルミナによって構成される。
【0075】
(乾燥工程b))
前記水素化脱水素基および場合によるドーパントの、成形された焼成担体中またはこの担体上への導入の後、有利には、乾燥工程b)が行われ、この乾燥工程b)の間に、金属酸化物(単数または複数)の金属前駆体塩の溶媒(溶媒は、一般的に水である)は、50〜180℃の範囲、好ましくは60〜150℃の範囲または65〜145℃の範囲、非常に好ましくは70〜140℃の範囲、より好ましくは75〜130℃の範囲の温度で除去される。
【0076】
本発明の方法において、得られた「乾燥させられた触媒前駆体」を乾燥させるための工程の後、空気中、200℃超の温度での熱処理工程は、決して行われない。有利には、これらの温度範囲内で、最大150℃の温度が用いられる。
【0077】
したがって、一般的に、本発明の方法の工程a)において、前記「触媒前駆体」は、水素化脱水素基の1種(あるいは2種以上)の前駆体およびリンを含む溶液の、成形および焼成されたアルミナをベースとする無定形担体上への乾式含浸によって得られ、その後に、180℃未満の温度での乾燥が行われる。
【0078】
したがって、「乾燥させられた触媒前駆体」が、工程b)の終わりに得られる。
【0079】
別の調製方法において、工程a)の後、触媒前駆体は、乾燥させられ、次いで、少なくとも350℃の温度で焼成される。焼成温度は、600℃未満、通常550℃未満、例えば350〜550℃の範囲、好ましくは400〜520℃の範囲、より好ましくは420〜520℃の範囲または450〜520℃の範囲である;500℃未満の温度が有利である。
【0080】
別の調製方法において、使用済触媒(水素化脱水素基およびリンを含有する)は、再生される(a’b’)と称される工程)。この方法は、以下に詳述されることとなる。得られた再生された触媒は、下記の工程を経る。
【0081】
(方法の工程c))
本発明の方法の工程c)によると、前記乾燥させられたあるいは焼成されたあるいは再生された触媒前駆体は、少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキル(特にコハク酸ジメチル)、クエン酸、および場合による酢酸を含む含浸溶液を含浸させられる。
【0082】
前記化合物は、有利には、本発明の方法の工程c)の含浸溶液中に、(工程ab)またはb)における熱処理後の触媒前駆体に対する)以下に相当する量で、導入される:
・ コハク酸ジアルキル(例えば、コハク酸ジメチル)対触媒前駆体の第VIB族からの含浸させられた元素(単数または複数)のモル比は、0.15〜2モル/モルの範囲、好ましくは0.3〜1.8モル/モルの範囲、好ましくは0.5〜1.5モル/モルの範囲、より好ましくは0.8〜1.2モル/モルの範囲である;
・ クエン酸対触媒前駆体の第VIB族からの含浸させられた元素(単数または複数)のモル比は、0.05〜5モル/モルの範囲、好ましくは0.1または0.5〜4モル/モルの範囲、より好ましくは1.3〜3モル/モルの範囲、非常に好ましくは1.5〜2.5モル/モルの範囲である;
・ 酢酸が存在する場合の、酢酸対触媒前駆体の第VIB族からの含浸させられた元素(単数または複数)のモル比は、0.1〜6モル/モルの範囲、好ましくは0.5〜5モル/モルの範囲、より好ましくは1.0〜4モル/モルの範囲、非常に好ましくは1.5〜2.5モル/モルの範囲である;
・ (クエン酸+酢酸)対触媒前駆体の第VIB族からの含浸させられた元素(単数または複数)のモル比は、0.15〜6モル/モルの範囲である。
【0083】
本発明の方法の工程c)において、コハク酸ジアルキルとクエン酸(場合により酢酸を含む)との組合せは、少なくとも1回の含浸工程によって、好ましくは、含浸溶液を前記触媒前駆体上に含浸させるための単一の工程において、(乾燥させられ、焼成され、焼成された)触媒前駆体上に導入される。
【0084】
前記組合せは、有利には、1回以上の工程において、スラリー含浸、過剰含浸、または乾式含浸によって、あるいは、当業者に公知の任意の他の手段を用いて沈着させられてよい。
【0085】
本発明の調製方法の工程c)の好ましい実施において、工程c)は、単一の乾式含浸工程である。
【0086】
本発明の方法の工程c)によると、工程c)の含浸溶液は、コハク酸C1−C4ジアルキル(特にはコハク酸ジメチル)とクエン酸の組合せを少なくとも含む。好ましくは、それは、酢酸も含有する。
【0087】
本発明の方法の工程c)において用いられる含浸溶液は、当業者に知られる任意の非プロトン性溶媒、特に、トルエンまたはキシレンを含むものを用いて完成させられてよい。
【0088】
本発明の方法の工程c)において用いられる含浸溶液は、当業者に公知の任意の極性溶媒を用いて完成させられてよい。用いられる前記極性溶媒は、有利には、メタノール、エタノール、水、フェノールおよびシクロヘキサノールによって形成される群から選択され、単独であるいは混合物として用いられる。本発明の方法の工程c)において用いられる前記極性溶媒は、有利には、炭酸プロピレン、DMSO(dimethylsulphoxide:ジメチルスルホキシド)、またはスルホランによって形成される群から選択されてもよく、単独であるいは混合物として用いられる。好ましくは、極性プロトン性溶媒が用いられる。通常の極性溶媒およびそれらの誘電率(dielectric constant)のリストが、著書“Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry” by C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474に見出され得る。
【0089】
好ましくは、工程c)は、水および/またはエタノールの存在下に行われる。好ましくは、それは、コハク酸ジアルキル、クエン酸、場合による酢酸、並びに、水および/またはエタノールのみを含有する。
【0090】
用いられるコハク酸ジアルキルは、好ましくは、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジプロピル、コハク酸ジイソプロピルおよびコハク酸ジブチルからなる群に含まれている。好ましくは、用いられるコハク酸C1−C4ジアルキルは、コハク酸ジメチルまたはコハク酸ジエチルである。非常に好ましくは、用いられるコハク酸C1−C4ジアルキルは、コハク酸ジメチルである。少なくとも1種のコハク酸C1−C4ジアルキルが用いられ、好ましくは1種のみであり、好ましくはコハク酸ジメチルである。
【0091】
(調製方法の工程d))
本発明の調製方法の工程d)によると、工程c)からの触媒前駆体または再生された含浸させられた触媒は、熟成工程を経る。それは、有利には、大気圧で行われる。温度は、一般的に、17〜60℃の範囲または17〜50℃の範囲である。一般に、10分〜48時間の範囲、好ましくは、30分〜5時間の範囲の熟成期間で十分である。これより長い時間は、除外されない。熟成期間を調整する簡易な手段は、ラマン分光法により、本発明の方法の工程c)からの乾燥させられた含浸させられた触媒前駆体における、ケギン型ヘテロポリアニオンの形成を特徴付けることである。非常に好ましくは、改質ヘテロポリアニオンの量を改変することなく生産性を向上させるために、熟成期間は、30分〜4時間の範囲である。一層より好ましくは、熟成期間は、30分〜3時間の範囲である。
【0092】
(調製方法の工程e))
本発明の調製方法の工程e)によると、工程d)からの触媒前駆体または触媒は、乾燥工程を経る。
【0093】
この工程の目的は、輸送、貯蔵、および操作の可能な触媒であって、特に、水素化処理装置に充填するための触媒を得ることである。有利には、本発明の選択される実施形態に応じて、コハク酸C1−C4ジアルキル(特にコハク酸ジメチル)とクエン酸の組合せを導入する役割を果たした任意の溶媒の全てまたは一部が除去される。全ての場合において、特にコハク酸C1−C4ジアルキル(特にコハク酸ジメチル)とクエン酸の組合せのみが用いられる場合において、輸送、貯蔵、操作または充填の工程の間に押出物が互いにくっつくのを防止するために、触媒は、乾燥したようにみえるようにされる。
【0094】
本発明の方法の乾燥工程e)は、有利には、当業者に公知の任意の技術を用いて行われる。それは、有利には、大気圧または減圧下で行われる。好ましくは、この工程は、大気圧で行われる。
【0095】
この工程e)は、有利には、200℃未満、一般的に50〜200℃の範囲、好ましくは60〜190℃の範囲、非常に好ましくは80〜180℃の範囲の温度で行われる。有利には、次の200℃超の温度での熱処理なしでこれらの温度範囲が用いられる。
【0096】
それは、有利には、トンネル炉内、流動床内、振動流動床内、流動床熱交換器内、横断床内、または乾燥および/または焼成を可能とする任意の技術において行われ、好ましくは、流動床内で行われる。好ましくは、用いられるガスは、空気、あるいは不活性ガス(例えば、アルゴンまたは窒素)のいずれかである。非常に好ましくは、乾燥は、窒素中で行われる。
【0097】
好ましくは、この工程の継続期間は、30分〜4時間の範囲、より好ましくは、45分〜3時間の範囲である。
【0098】
本発明の方法の工程e)の終わりに、乾燥させられた触媒が得られ、これは、200℃超の温度でのあらゆるその後の焼成工程もその後の熱処理工程も経ない。
【0099】
工程d)または工程e)の終わりに得られる触媒は、990および974cm−1における最も強いバンド(ケギン型ヘテロポリアニオン)、コハク酸C1−C4ジアルキルに相当するバンド(コハク酸ジメチルでは、最も強いバンドは853cm−1にある)、クエン酸の特徴的バンド(最も強いバンドは、785および956cm−1にある)、および場合による、酢酸のバンド(最も強いバンドは、896cm−1にある)を含むラマンスペクトルを有する。
【0100】
上記に記載されたように、別の様式において、コハク酸C1−C4ジアルキルおよび酸(単数または複数)が含浸させられた触媒前駆体は、水素化基が、少なくとも1種の第VIB族元素および少なくとも1種の第VIII族元素によって提供された、再生された使用済み触媒である。それらの量および特徴は、上記に挙げられたものに相当する。担体も同様である。有利には、この触媒は、リンを含有し、これは、好ましくは、新鮮な触媒の調製の間に、含浸によって導入される。
【0101】
前記再生された触媒は、純粋であっても希釈されていてもよい酸素の存在下に、「再生」として知られる熱処理工程を経る。この工程は、触媒上に存在するコークスの少なくとも一部を、燃焼によって除去することを目的とする。この工程の間、化学処理は行われない。
【0102】
再生処理は、350〜550℃の範囲、一般的に450〜520℃の範囲、または420〜520℃の範囲、または400〜520℃の範囲の温度で行われてよい。それは、好ましくは、焼き払われるべき炭素の性質に応じて、420〜500℃の範囲、または450〜520℃の範囲で行われる。当業者は、触媒の焼結を回避するかあるいは最小限に止めながら、コークス(あるいはその前駆体)を焼き払うのに必要な温度を最適化させるであろう。
【0103】
この工程の間に、コークスの燃焼を可能とするが触媒上で、局所的であっても550℃を超えないように、温度はモニタリングされなければならない。550℃の温度を超えると、例えば、その多孔度が損なわれる結果となり得るだろう。このようなモニタリングは、当業者に周知である。この再生段階の間の床内の温度は、当業者に公知の任意の技術を用いて、例えば、熱電対を触媒バルク中に置くことによって、モニタリングされてよい。
【0104】
酸素を含む混合物によりこの工程が行われる場合、希釈剤が、窒素または任意の他の不活性ガスから選択されてよい。酸素の量は、処理の継続期間を通して固定されてよく、あるいは、それは、再生方法の過程中に変動してよい。例として、温度は、処理の間に、複数の段階に従って変動し得、温度は、周囲温度からコークスの最終燃焼温度(これは、依然として550℃以下である)にわたって変動し得るだろう。この再生工程のこの継続期間は、処理されるべき触媒の量および存在するコークスの性質および量に依存することとなる。この継続期間は、実際に、0.1時間から数日間にまで変わり得る。通常、それは、1〜20時間の範囲である。
【0105】
この後者の実施による触媒の調製方法は、他の実施と同一である以下の工程:
c) コハク酸C1−C4ジアルキル(好ましくは、コハク酸ジメチル)、クエン酸、および場合による酢酸を含む含浸溶液を乾式含浸させるための少なくとも1回の工程と;
d) 熟成工程であって、一般的には17〜60℃の範囲の温度で行われる、熟成工程と;
e) 乾燥工程であって、好ましくは窒素中で、200℃未満、一般的に少なくとも80℃、好ましくは80〜180℃の範囲の温度で行われ、その後の焼成工程は伴わない、工程と;
を含む。
【0106】
それを用いる前に、(工程e後の)乾燥させられた触媒を、硫化触媒に転換することが有利であり、これにより、その活性種が形成される。この活性化または硫化の段階は、当業者に周知の方法を用いて、有利には、スルホ−還元雰囲気(sulpho-reducing atmosphere)中、水素および硫化水素の存在下に行われる。


【0107】
本発明の方法の工程e)の終わりに(触媒前駆体が、乾燥させられた、焼成された、再生された、等の状態であるかどうかにかかわらず)、得られた前記乾燥させられた触媒は、したがって、有利には、中間の焼成工程を伴わずに、硫化の工程f)を経る。本発明による硫化された触媒が得られる。
【0108】
前記乾燥させられた触媒は、有利には、現場外で(ex situ)あるいは現場内で(in situ)硫化される。硫化剤は、ガス状HSまたは触媒を硫化する目的で炭化水素供給原料を活性化させるために用いられる硫黄を含有する任意の他の化合物である。前記硫黄含有化合物は、有利には、アルキルジスルフィド、例えば、ジメチルジスルフィド(dimethyldisulphide:DMDS)、アルキルスルフィド、例えば、ジメチルスルフィド、n−ブチルチオール、tert−ノニルポリスルフィドタイプのポリスルフィド化合物、例えば、供給業者ARKEMAによって販売されるTPS−37またはTPS−54、または、効率的に触媒を硫化するために用いられ得る当業者に知られる任意の他の化合物から選択される。好ましくは、触媒は、硫化剤および炭化水素供給原料の存在下に、現場内硫化される。非常に好ましくは、触媒は、ジメチルジスルフィドで補足された炭化水素供給原料の存在下に、現場内硫化される。
【0109】
最後に、別の局面において、本発明は、本発明の触媒を用いる、炭化水素供給原料の水素化処理方法に関する。そのような方法の例は、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属、芳香族水素化および水素化転化の方法である。
【0110】
本発明の方法を用いて得られ、好ましくは、硫化のための工程f)を経た、乾燥させられた触媒は、有利には、炭化水素供給原料、例えば、オイルカット、石炭からの留分または天然ガスから生じた炭化水素を水素化処理するために、より具体的には、炭化水素供給原料の水素化、水素化脱窒、水素化脱芳香族、水素化脱硫、水素化脱金属または水素化転化の反応のために用いられる。
【0111】
これらの使用において、本発明の方法によって得られ、好ましくは、硫化工程f)を経た触媒は、従来技術の触媒に対して、向上した活性を有する。これらの触媒は、有利には、接触分解のための供給原料の事前処理、あるいは残渣の水素化脱硫、あるいはガスオイル(ULSD:ultra-low sulphur diesel(超低硫黄ディーゼル))の深度水素化脱硫(deep hydrodesulphurization)の間に用いられてもよい。
【0112】
水素化処理方法において用いられる供給原料の例は、ガソリン、ガスオイル、真空ガスオイル、常圧残渣、真空残渣、常圧蒸留物、真空蒸留物、重質燃料、オイル、ワックスおよびパラフィン、使用済みオイル、残渣または脱アスファルト原油、あるいは、熱的または触媒的転化の方法に由来する供給原料であり、これらは、単独でまたは混合物として用いられる。処理される供給原料、特に上記に挙げられたものは、一般的に、ヘテロ原子、例えば、硫黄、酸素および窒素を含有し、重質供給原料では、それらは、通常金属も含有する。
【0113】
上記の炭化水素供給原料の水素化処理のための反応を行う方法において用いられる操作条件は、一般に以下の通りである:温度は、有利には180〜450℃の範囲、好ましくは250〜440℃の範囲であり、圧力は、有利には0.5〜30MPaの範囲、好ましくは1〜18MPaの範囲であり、毎時空間速度は、有利には0.1〜20h−1の範囲、好ましくは0.2〜5h−1の範囲であり、水素/供給原料の比(液体供給原料の体積当たりの、標準の温度および圧力の条件下に測定される水素の体積として表される)は、有利には50〜2000L/Lの範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0114】
以下の実施例は、本発明の方法を用いて調製された触媒の活性が、従来技術の触媒と比較して、大幅に増加することを実証しており、かつ、本発明をより詳細に記載しているが、本発明の範囲を決して制限するものではない。
【0115】
(実施例1:比較例の再生された触媒B1およびB2の調製)
用いられたマトリクスは、供給業者Condea Chemie GmbHによって販売されている、超微細平板状ベーマイトまたはアルミナゲルからなるものであった。このゲルを、66%の硝酸(乾燥ゲルの重量(グラム)当たり酸7重量%)を含有する水溶液と混合し、次いで、15分間にわたり混合した。混合の終わりに、得られたペースト状物を、径1.6mmの円筒状オリフィスを有するダイ中に通した。次いで、押出物を、120℃で終夜乾燥させ、600℃で2時間にわたり、乾燥空気の重量(kg)当たり水50gを含有する湿潤空気中で焼成した。低結晶性の立方晶系のガンマアルミナのみからなる担体の押出物を得た。
【0116】
コバルト、モリブデン、およびリンを押出物形態にある上述のアルミナ担体に加えた。含浸溶液の調製は、酸化モリブデン(24.34g)および水酸化コバルト(5.34g)を、水溶液中の高温リン酸溶液(7.47g)中に溶解させることによって行った。乾式含浸の後、押出物を、周囲温度(20℃)で水飽和雰囲気中12時間にわたり熟成させるように放置して、次いでそれらを90℃で終夜乾燥させて、450℃で2時間にわたり焼成した。焼成された触媒Aを得た。酸化物の形態で表される、触媒Aの最終組成は、したがって、以下の通りであった:MoO=22.5±0.2(重量%)、CoO=4.1±0.1(重量%)およびP=4.0±0.1(重量%)。
【0117】
焼成された触媒Aを、横断床装置内に充填して、2重量%のジメチルジスルフィドを補足した直留ガスオイルで硫化した。次いで、直留ガスオイルおよび接触分解からのガスオイルの混合物のHDS試験を、300時間にわたり行った。試験の後、使用済み触媒を、排出して、回収して、還流下にトルエンにより洗浄し、次いで2つのバッチに分離した。第1のバッチを、各温度段階について、量を増やしながら酸素を導入することによって制御される燃焼炉内で再生し、これにより、コークスの燃焼に関連する発熱性を制限した。最終再生段階は、450℃であった。再生された触媒を、XRDによって分析した。結晶質CoMoOの存在の特徴である26°におけるラインが存在しないことを確認した。この触媒は、以降、B1と示すこととする。洗浄された使用済み触媒の第2のバッチを、コークス燃焼の発熱性を制御することなく、マッフル炉内において450℃で再生した。再生後に行われたXRD分析によって、結晶質CoMoOの存在の特徴である26°に薄いラインが存在することが示された。さらに、以降B2と示されるこの触媒は、非常に鮮明な明るい青色を有していた。
【0118】
(実施例2:本発明による再生された触媒C1の調製−クエン酸による製造)
触媒C1の調製は、エタノール中に希釈されたクエン酸およびコハク酸ジメチルの溶液の、触媒B1上への乾式含浸によって行った。クエン酸(CA)およびコハク酸ジメチル(dimethyl succinate:DMSU)の意図された量は、それぞれ15重量%および10重量%(すなわち、AC/Mo=0.50モル/モルおよびDMSU/Mo=0.44モル/モル)であった。閉鎖式容器内における周囲温度での24時間の熟成期間の後、触媒を、窒素の流れ中(1NL/g/g)1時間にわたり乾燥させた。
【0119】
触媒C1を、ラマン分光法によって分析した。特に、それは、990cm−1におけるケギン型HPAの主要バンドと、それぞれ785cm−1および851cm−1におけるクエン酸およびコハク酸ジメチルの特徴的バンドとを有していた。
【0120】
(実施例3:本発明による再生された触媒C2の調製−クエン酸および酢酸による製造)
触媒C2の調製は、エタノール中に希釈されたクエン酸、コハク酸ジメチル、および酢酸の溶液の、結晶質CoMoO相を有する触媒B2上への乾式含浸によって行った。クエン酸(CA)、コハク酸ジメチル(DMSU)および酢酸(acetic acid:AA)の意図された量は、それぞれ15重量%、10重量%および20重量%であった(すなわち、AC/Mo=0.50モル/モル、DMSU/Mo=0.44モル/モルおよびAA/Mo=2.13モル/モル)。閉鎖式容器内における周囲温度での24時間の熟成期間の後、触媒を、窒素の流れ中(1NL/g/g)1時間にわたり乾燥させた。
【0121】
触媒C2をラマン分光法によって分析した。特に、それは、990cm−1におけるケギン型HPAの主要バンドと、それぞれ785cm−1、851cm−1および896cm−1におけるクエン酸、コハク酸ジメチルおよび酢酸の特徴的バンドとを有していた。
【0122】
(実施例2の2:本発明による再生された触媒C1bisの調製−クエン酸および酢酸による製造)
触媒の調製は、実施例3の場合と同様の方法であるが、再生された触媒B1を用いて行った。
【0123】
(実施例3の2:本発明による再生された触媒C2bisの調製−クエン酸による製造)
触媒の調製は、実施例2の場合と同様の方法であるが、再生された触媒B2を用いて行った。
【0124】
(実施例4:圧力下および硫化水素の存在下でのシクロヘキサン中のトルエンの水素化における、触媒B1、B2、C1、C2、C1bisおよびC2bisの比較試験)
上記の触媒を、Microcatタイプのパイロット装置(Vinciにより製造)の管型反応器の横断固定床内で、現場内で動力学的に硫化し、流体は、頂部から底部に移動した。水素化活性の測定を行ったのは、圧力下でかつ空気を侵入させることなく、触媒を硫化する役割を果たす炭化水素供給原料を用いた硫化の直後であった。
【0125】
硫化および試験の供給原料は、5.8%のジメチルジスルフィド(DMDS)、20%のトルエンおよび74.2%のシクロヘキサンからなっていた(重量による)。
【0126】
硫化は、2℃/分の温度上昇を伴って周囲温度から350℃にわたって、HSV:4h−1およびH/HC=450NL/Lで行われた。触媒試験は、350℃において、HSV:2h−1および硫化のH/HCと同等のH/HCで行われ、最低4つのサンプルを取って、ガスクロマトグラフィーによる分析を行った。
【0127】
この方法で、等しい体積の触媒の安定化した触媒活性が、トルエンの水素化反応について測定された。
【0128】
活性化測定の詳細な条件は以下の通りであった:
・全圧: 6.0MPa;
・トルエンの圧力: 0.37MPa;
・シクロヘキサンの圧力: 1.42MPa;
・メタンの圧力: 0.22MPa;
・水素の圧力: 3.68MPa;
・HSの圧力: 0.22MPa;
・触媒の体積: 4cm(2〜4mm長の押出物);
・毎時空間速度: 2h−1
・試験および硫化の温度: 350℃
【0129】
液体流出物サンプルを、ガスクロマトグラフィーによって分析した。未転化トルエン(T)のモル濃度、並びに、その水素化生成物(メチルシクロヘキサン(MCC6)、エチルシクロペンタン(EtCC5)およびジメチルシクロペンタン(DMCC5))の濃度を用いて、以下によって定義されるトルエン水素化度XHYDを計算した:
【0130】
【数1】
【0131】
トルエンの水素化反応が、用いられた試験条件下に一次であり、反応器は、理想的ピストン反応器としてふるまうので、触媒の水素化活性AHYDは、以下の式を適用することによって計算され得た:
【0132】
【数2】
【0133】
表1において、触媒B1およびB2(本発明に合致しない)、および触媒C1およびC2(本発明に合致する)の相対的水素化活性が比較された。この相対的水素化活性は、基準としてみなされた触媒B2(本発明に合致しない)の活性(活性100%)に対する触媒の活性の比に等しい。
【0134】
【表1】
【0135】
制御されない条件下で再生された触媒B2(本発明に合致しない)は、再生された触媒B1(本発明に合致しない)より低い活性を有していた。
【0136】
表1は、15重量%のクエン酸(CA)および10重量%のコハク酸ジメチル(DMSU)を触媒B1に加えることによって調製された、補足された触媒C1(本発明に合致する)の活性が、出発触媒と比較して、16%向上したこと;酢酸を加えることによって、この増加が20%まで増えたこと(触媒C1bis)を示している。
【0137】
表1は、15重量%のクエン酸(CA)および10重量%のコハク酸ジメチル(DMSU)を触媒B2に加えることによって調製された、補足された触媒C2bis(本発明に合致する)の活性が、出発触媒と比較して、24%向上したこと;酢酸を加えることにより、この増加が37%まで増えたこと(触媒C2)を示している。
【0138】
これらの触媒の結果は、再生された触媒上、特に、結晶質相を有する再生された触媒(B2)上のクエン酸(CA)とコハク酸ジメチル(DMSU)の組合せの特定のかつ驚くべき効果を示している。この効果は、酢酸を加えることによって、さらに向上する。