(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933736
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20160602BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20160602BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20160602BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20160602BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B81B1/00
B81C3/00
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-538632(P2014-538632)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076271
(87)【国際公開番号】WO2014051054
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-216267(P2012-216267)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北森 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和真
【審査官】
原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−066382(JP,A)
【文献】
特開2007−075950(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/028093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00−19/32
B81B 1/00
B81C 3/00
G01N 35/08,37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に溝が形成された第1の基板と、
前記第1の基板と互いの一面同士を接合して一体に設けられ、前記第1の基板の溝とともに流路を形成する第2の基板と、
前記流路の内面の一部に修飾して配設され、前記流路内に供給した対象物質を捕捉する捕捉体、前記対象物質に電気的または化学的な作用を与える電極、触媒のうち少なくとも一つの修飾物とを備えてなり、
前記第1の基板と前記第2の基板はそれぞれ、ガラス基板あるいはシリコン基板であり、
前記第1の基板と前記第2の基板の一面同士の接合部が、少なくとも一方の基板のシリカがフッ素と結合したF−Si結合を含み、
前記第1の基板と前記第2の基板の一面同士の接合部のフッ素濃度が0.6at.%以上であることを特徴とする機能性デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の機能性デバイスにおいて、
前記第1の基板と前記第2の基板の少なくとも一方の基板は、接合前の前記一面にSiO2層を備えた基板であることを特徴とする機能性デバイス。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の機能性デバイスにおいて、
前記流路がマイクロあるいはナノスケールの微細流路であることを特徴とする機能性デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性デバイスにおいて、
前記接合部の接合強度が0.5J/m2以上であることを特徴とする機能性デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の機能性デバイスにおいて、
前記修飾物がシランカップリング剤からなる捕捉体であることを特徴とする機能性デバイス。
【請求項6】
第1の基板の一面に溝を形成する工程と、
前記第1の基板と第2の基板とを接合したときに前記溝と前記第2の基板の一面とによって形成される流路の内面に対応する位置に、捕捉体、電極、触媒のうち少なくとも一つの修飾物を配置する工程と、
前記第1の基板の一面と前記第2の基板の一面の少なくとも一方に酸素プラズマ照射とフッ素供給を行い、その一面の親水性を調整する工程と、
修飾配置した前記修飾物が熱損傷することのない温度を保持しながら前記第1の基板と前記第2の基板の前記一面同士を接合する工程とを備え、
前記第1の基板と前記第2の基板がそれぞれ、ガラス基板あるいはシリコン基板であることを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の機能性デバイスの製造方法において、
前記流路がマイクロあるいはナノスケールの微細流路であることを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7のいずれかに記載の機能性デバイスの製造方法において、
接合前の前記第1の基板の一面と前記第2の基板の一面の少なくともいずれか一方の水の接触角が10度から50度であることを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の機能性デバイスの製造方法において、
前記温度が25〜100℃であることを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の機能性デバイスの製造方法において、
前記修飾物がシランカップリング剤からなる捕捉体であることを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の機能性デバイスの製造方法において、
前記修飾物を修飾して配置する工程において、パターニングの際に行う洗浄工程として、フォトマスクを通じて真空紫外線光を照射するようにしたことを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか一項に記載の機能性デバイスの製造方法において、
前記修飾物を修飾して配置する工程において、パターニングの際に行う洗浄工程として、フォトマスクを通じてプラズマを照射するようにしたことを特徴とする機能性デバイスの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の機能性デバイスを用いた対象物質の検出方法であって、
前記流路に対象物質を含む試料溶液を注入する工程と、
前記流路内の前記修飾物に捕捉された対象物質を検出する工程と、を有することを特徴とする対象物質の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法に関する。
本願は、2012年9月28日に出願された日本国特願2012−216267号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロスケールの微細空間は、混合・反応時間の短縮化、試料・試薬量の大幅な低減、小型デバイス化などを実現するものとして、診断・分析などの分野での利用が期待されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、数センチメートル角のガラス基板(マイクロチップ)上に、深さが数百μm以下の溝からなるマイクロチャネル(マイクロ流路)を形成して、別の基板と接合することでこのマイクロチャネルに液体を漏れ無く流すことを可能にする。また、チャネル内面に生体物質や触媒、電極などの機能性材料を部分的に修飾することで、所望の機能を付与してさまざまな化学システムを集積化することが提案され、実用化されている。このマイクロチャネルを構成する基板材料としては、高い強度、耐溶剤性、検出のための光学的透明性を有するガラス材料が望まれる。しかし、後述するようにガラスは基板同士の接合に高温条件(石英ガラスでは1000℃以上)を必要とするため、機能を付与するために修飾した生体物質や触媒、電極が熱損傷にとどまらずすべて焼失してしまう。そのため、従来一方の基板には接合しやすいエラストマーなど別の基板が用いられて、ガラス基板のみでチャネルを構成することが困難であった。
【0003】
また、近年、ナノスケールの微細空間は、マイクロスケールの微細空間と比べて溶液物性がユニークな性質を示すことから、ガラス基板上に、数十〜数百nmのナノチャネル(ナノ流路、拡張ナノ流路)を形成し、このナノチャネルのユニークな化学・物理的特性を利用して革新的な機能性デバイスを実現することが大きな注目を集めている。例えば、大きさが数十μmの細胞一個の中のタンパク質などを、それよりも圧倒的に小さな空間である拡張ナノ空間で分析することで、これまでの多数細胞の平均では分からなかった各細胞固有の機能解析が可能となり、癌診断などを初期に発生した癌細胞一個で行うことなどが期待される。また、少数分子をとり扱い易い極微細空間であることを利用して分子一個で測定でき、超高感度な分析ツールになることも期待される。このようなナノスケールの微細空間を構成する基板材料は、マイクロチャネルの場合と同様にガラスが望まれるが、前述のように接合温度が高いため、生体物質や触媒、電極などの修飾はこれまで困難であった。また、ナノスケールのチャネルは極めて小さいため、マイクロチャネルで用いられてきたエラストマーのようなソフトな材料は変形によりチャネルが容易に閉塞するため用いることができない。
【0004】
前述のように、このようなマイクロスケールやナノスケールの微細空間(微細流路1)を備えてなる機能性デバイスAを製造する際には、
図10に示すように、ガラス基板2上に形成したマイクロ/ナノチャネル1内に、例えば、DNAや生体試料などのマイクロ/ナノスケールの対象物質を操作、捕捉、分析などするための捕捉体(抗体、生体分子など)3や、対象物質を電気的、化学的に操作などするための電極4、触媒5など(修飾物)をパターニングすることが必要になる。
【0005】
そして、フォトリソグラフィー、コンタクトプリンティング、インクジェット法などを用い、一方のガラス基板2に形成されたマイクロ/ナノチャネル1の内面に捕捉体3などをパターニングし、この一方のガラス基板2に他方のガラス基板6を重ね合わせ、マイクロ/ナノチャネル1を形成する。その後、接合することによって、内面に捕捉体3などをパターニングしたマイクロ/ナノチャネル1を備えてなる機能性デバイスAを製造する。これにより、例えば、一対のガラス基板2、6を接合して形成された閉流路のマイクロ/ナノチャネル1に、例えば、対象物質の目的分子を含む試料溶液を流通させると、目的分子を捕捉体3で捕捉することができ、この機能性デバイスAを用いることで目的分子を単一分子で分析することが可能になると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特表2003−516129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のように、一対のガラス基板2、6を重ね合わせて接合するためには、例えば1060℃で6時間加熱する必要がある。そのため、マイクロ/ナノチャネル1の内面の所定位置にパターニングした捕捉体3などが焼失して所望の機能を得られないという問題があった。また、一対のガラス基板2、6を接合した後から、マイクロ/ナノチャネル1の内面の所定位置に捕捉体3などを部分的にパターニング(修飾)することも従来なされてきたが、この熱融着後の部分修飾は精度よくパターニングすることが非常に難しい。また、マイクロチャネルの上下左右壁面に修飾されるという問題もあった。
【0008】
このため、化学、バイオ、エネルギー分野などでは、マイクロ/ナノチャネルの化学・物理的特性を利用する革新的な機能性デバイスを実現するために、マイクロ/ナノチャネル内に生体分子などを好適にパターニングして、高精度で信頼性の高い機能性デバイスを製造できる手法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、機能性デバイスは、一面に溝が形成された第1の基板と、前記第1の基板と互いの一面同士を接合して一体に設けられ、前記第1の基板の溝とともに流路を形成する第2の基板と、前記流路の内面の一部に修飾して配設され、前記流路内に供給した対象物質を捕捉する捕捉体、前記対象物質に電気的または化学的な作用を与える電極、触媒のうち少なくとも一つの修飾物とを備えてなり、シリカとフッ素が結合して前記第1の基板と前記第2の基板の一面同士の接合部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記第1の基板と前記第2の基板がそれぞれ、ガラス基板あるいはシリコン基板であってもよい。
【0011】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいて、前記第1の基板と前記第2の基板の少なくとも一方の基板は、接合前の前記一面にSiO
2層を備えた基板であってもよい。
【0012】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記流路がマイクロあるいはナノスケールの微細流路であってもよい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記1の基板と前記第2の基板のいずれか一方の前記一面にフッ素を供給して前記接合部が形成されていてもよい。
【0014】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記接合部のフッ素濃度が0.6at.%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記接合部の接合強度が0.5J/m
2以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記流路に加圧して供給された前記対象物質を含む試料溶液の圧力を2000kPaとしても前記試料溶液の漏出が生じない耐圧性能を備えるように前記接合部が形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、接合前の前記第1の基板の一面と前記第2の基板の一面の少なくともいずれか一方が、水の接触角が10度から50度となる親水性を備えて形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記第1基板と前記第2基板とを25〜100℃で接合して形成されていてもよい。
【0019】
本発明の第1の態様に係る機能性デバイスにおいては、前記修飾物がシランカップリング剤であってもよい。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、機能性デバイスの製造方法は、第1の基板の一面に溝を形成する流路形成工程と、前記第1の基板の一面と第2の基板の一面の少なくとも一方に、捕捉体、電極、触媒のうち少なくとも一つの修飾物を配置するとともに、修飾した部分以外を洗浄するパターニング工程と、前記基板のパターニング工程を施していない部分の水の接触角を制御する接触角制御工程と、修飾配置した少なくともいずれか一種の前記捕捉体、電極、触媒が熱損傷することのない温度を保持しながら前記第1の基板と前記第2の基板の前記一面同士を接合する基板接合工程とを備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記第1の基板と前記第2の基板がそれぞれ、ガラス基板あるいはシリコン基板であってもよい。
【0022】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記流路がマイクロあるいはナノスケールの微細流路であってもよい。
【0023】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記接触角が10度から50度であることが好ましい。
【0024】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記温度が25〜100℃であることが好ましい。
【0025】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記修飾物がシランカップリング剤であってもよい。
【0026】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記接触角制御工程として、前記第1の基板の一面と前記第2の基板の一面の少なくとも一方に酸素プラズマ照射とフッ素供給を行う工程を備えていてもよい。
【0027】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記パターニング工程における洗浄工程として、フォトマスクを通じて真空紫外線光を照射するようにしてもよい。
【0028】
本発明の第2の態様に係る機能性デバイスの製造方法においては、前記パターニング工程における洗浄工程として、フォトマスクを通じてプラズマを照射するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
上記した機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法においては、流路の形成と、捕捉体、電極、触媒の少なくとも一つの修飾物を配設した一方の基板と他方の基板の一面同士がシリカとフッ素の結合によって接合されることで、修飾物が熱損傷することのない温度を保持しながら接合して機能性デバイスを製造することができる。このため、従来のように捕捉体、電極、触媒(修飾物)に熱損傷が生じることがなく、また、流路を形成する一つの内面の任意の位置に捕捉体、電極、触媒を比較的容易に且つ精度よくパターニングすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスを示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスの微細流路に試料溶液を流通させ、対象物質を固定化させている状態を示す図である。
【
図3】一面に微細流路を形成した一方の基板を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスの製造方法において、他方の基板の一面に捕捉体をパターニングする工程を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスの製造方法において、一方の基板と他方の基板を重ね合わせ、互いの一面同士を接合する工程を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスの製造方法において、一方の基板と他方の基板の一面同士を低温接合する工程を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る機能性デバイスの製造方法において、一方の基板と他方の基板を重ね合わせ、互いの一面同士を接合する工程を示す斜視図である。
【
図8】接合前の基板の一面のプラズマ照射後のフッ素濃度と水の接触角の関係を示す図である。
【
図9】接合前の基板の一面のプラズマ照射後のフッ素濃度と、接合後の基板の接合部のフッ素濃度の関係、及び接合前の基板の一面、接合後の基板の接合部のフッ素濃度と基板の接合強度の関係を示す図である。
【
図10】従来の機能性デバイスの製造方法の接合工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、
図1から
図9を参照し、本発明の一実施形態に係る機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法について説明する。
【0032】
本実施形態の機能性デバイスBは、
図1に示すように、数センチメートル角の同形同大の2枚のガラス基板(一方の基板(第1の基板)2と他方の基板(第2の基板)6)を重ね合わせて形成されている。このとき、一方のガラス基板2の一面2aには、中央部を間に左右の両側部側にそれぞれ、深さが数百μm以下の溝からなるマイクロチャネル(マイクロ流路、マイクロスケールの微細流路1(1a))が形成されている。また、これら左右両側部側のマイクロチャネル1aはそれぞれ、略U字状、略逆U字状に形成され、両端を側部側に配し、中央部を境に左右対称にして配置して形成されている。
【0033】
さらに、一方のガラス基板2の一面2aには、中央部に、左右のマイクロチャネル1aを連通させるようにして、深さが数十〜数百nmで、左右方向に直線状に延びるナノチャネル(拡張ナノ流路、ナノスケールの微細流路1(1b))が複数形成されている。
【0034】
また、他方のガラス基板6の一面6aには、捕捉体(修飾物)としてのAPTES(アミノプロピルトリエトキシシラン:シランカップリング剤)10が中央部の複数箇所に筋状に修飾して配設されている。例えば、幅が50μm(10a)、100μm(10b)、200μm(10c)、300μm(10d)の複数の筋状のAPTES10が所定の間隔をあけて並設されている。
【0035】
本実施形態の機能性デバイスBは、一方のガラス基板2と他方のガラス基板6の一面2a、6a同士を接合することにより、内部に、互いに連通するマイクロチャネル1aとナノチャネル1bを備えて形成されている。また、このとき、本実施形態の機能性デバイスBにおいては、中央部に断面が方形状に形成されたナノチャネル1bの4つの内面のうち一つの内面に、複数のAPTES10がそれぞれ所定の間隔をあけ、所定位置に部分的に修飾されている。さらに、左右両側部側のマイクロチャネル1aはそれぞれ、端部を外部に開口させて形成されている。
【0036】
そして、上記構成からなる本実施形態の機能性デバイスBにおいては、
図2に示すように、一方のマイクロチャネル1aの端部からマイクロチャネル1aの内部に、例えば、DNA(対象物質11)を含む試料溶液Sを注入する。そして、この試料溶液Sがナノチャネル1bを流通すると、捕捉体のAPTES10とDNA11がクロスリンカーにより共有結合し、捕捉体のAPTES10にDNA11が選択的に捕捉される。これにより、機能性デバイスBのナノチャネル1bの内面の所定位置に、DNA11が部分的に固定化される。
【0037】
ここで、本実施形態の機能性デバイスBによれば、上記のようにDNA11を用いて細胞中のタンパク質をナノチャネル1b内で捕捉できることにより、癌細胞に発現したタンパクなどを一細胞レベルで分析することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態の機能性デバイスBは、例えば、生体分子(対象物質11)を含む試料溶液Sを注入し、数十〜数百nmのナノチャネル1bの内面に生体分子11をパターニングすると、生体分子11の相互作用を利用した分析試料の濃縮や分離、定量分析などが可能になる。さらに、ナノチャネル1bが持つフェムトリットルからアトリットルの極めて小さな空間体積を利用し、単一分子レベルの分析をも可能になり、例えばナノチャネル1bに免疫分析を集積化することで、単一細胞のような微量試料の高感度定量分析手法への展開が可能になる。また、このような空間を用いれば、サイズが制御された空間でかつ比表面積が非常に高いので、クロマトグラフィを用いた高効率な分離操作も可能となる。
【0039】
次に、本実施形態の機能性デバイスBの製造方法について説明する。本実施形態の機能性デバイスBの製造する際には、
図3に示すように、一方のガラス基板(第1の基板)2の一面2aに、レーザー加工、エッチング加工など、適宜手段を用いてマイクロチャネル1aやナノチャネル1bの微細流路1を形成する(流路形成工程)。
【0040】
また、
図4に示すように、他方のガラス基板(第2の基板)6の一面6aに、捕捉体(修飾物)の一例としてAPTES10(10a、10b、10c、10d)を修飾配置する(パターニング工程)。このとき、例えば、他方のガラス基板6の一面6aの全面にAPTES10を修飾しておき、幅が50μm、100μm、200μm、300μmの複数の筋状で所定の間隔をあけてAPTES10が捕捉体として形成されるように、フォトマスク12を介して、波長が172nmの真空紫外線光を他方のガラス基板6の一面6aに10分間程度照射する。このように真空紫外線光を照射すると、発生した活性酸素種によってAPTES10が分解する。
【0041】
これにより、フォトマスク12によって真空紫外線光が照射されない部分のAPTES10が残り、他方のガラス基板6の一面6aに、幅が50μm、100μm、200μm、300μmの複数の筋状のAPTES(10a、10b、10c、10d)が所定の間隔をあけて修飾形成される。すなわち、捕捉体のAPTES10のパターンが形成される。また、この工程によりAPTES10以外の部分は真空紫外線光により表面が洗浄され、つづく接合過程に適した表面を提供することが可能となる。
【0042】
次に、
図6に示すように、一方のガラス基板2の一面2aに、酸素圧力60Pa、250Wで40秒間、酸素プラズマ(O
2プラズマ)を照射し、これら一方のガラス基板2の一面2aを活性化させる。また、この酸素プラズマの照射と同時にフッ素(四フッ化メタン:CF
4)を供給し、一方のガラス基板2の一面2aの親水性の調整を図る。なお、親水性の評価は、接触角の測定で行い、パターニング工程を施していない基板2の水の接触角が10〜50°となるようにフッ素処理を行なった。なお、本実施例では、フッ素処理を行なったが、接触角を10〜50°に調整できれば、いずれの方法でもよい。例えば、修飾部位を保護した状態でのプラズマ処理や化学処理(酸やアルカリ)などが考えられる。
【0043】
なお、本実施形態では、いずれか一方のガラス基板2(6)の一面2a(6a)を活性化させるものとしているが、APTES10を別の基板で被覆するなどして保護した状態で一方のガラス基板2と他方のガラス基板6の両方の一面2a、6aを活性化させるようにしてもよい。
【0044】
次に、
図5及び
図7に示すように、活性化させ、親水性を調整した一方のガラス基板2の一面2aと他方のガラス基板6の一面6aを面接触させて重ね合わせる。そして、本実施形態では、捕捉体のAPTES10が熱損傷することのない25〜100℃程度の低温で加熱しつつ、一方のガラス基板2と他方のガラス基板6を1000〜5000Nの力で押圧し、この状態で数時間保持する。そして、一方のガラス基板2の面2aが活性化されているため、上記のように低温であっても所定の接合強度をもって一方のガラス基板2と他方のガラス基板6の一面2a、6a同士が強固に接合することになる(基板接合工程)。
【0045】
このときの条件およびパターンの確認方法等を表1にまとめた。この表1に示す通り、本実施例の機能性デバイスBは、微細流路1に供給した試料溶液の圧力を2000kPaとして試料溶液の漏出の有無を確認した耐圧性能試験により、2000kPaの高圧力であっても漏れがなく十分な耐圧性能を示し、接合後の修飾物も実使用上問題ないことが確認された。なお、本実施例の一形態であるフッ素処理をおこなったものでは、界面(接合部7)にF(フッ素)の存在が確認されている。また、前述のように水の接触角は30°には限定されず、接触角を10〜50°に制御できれば、表1に示す接合強度を0.5J/m
2以上にすることができ、その結果、マイクロ・ナノ流体を漏れ無く駆動することができるので、マイクロやナノスケールの微細空間を形成する基板同士の接合法として好適に用いることができる。
【0047】
また、表1において、基板の接合強度の評価では、従来よく用いられる亀裂開口法(crack−opening method)を採用した。具体的に、接合した基板の間にレーザーブレードを挿入して、基板が剥がれた長さから接合強度を算出した。表面のフッ素原子の同定のために、接合後剥離した基板表面を光電子分光法で測定して、F−Si結合(フッ素とシリカの結合)に由来するエネルギー (687.1eV)のピーク強度から確認した。〔基板1〕の接触角は、プラズマ処理・フッ素処理後の基板に水滴を滴下して、基板表面における水/ガラス界面の接触角をカメラにより撮影して算出した。修飾物については、接合した基板に修飾したAPTESと反応するDNAもしくは抗体(タンパク質)を流してAPTESがある部位に修飾した。DNAの修飾パターンを確認するために、修飾したDNAと相補的な配列を持ち蛍光標識をしたDNAを流して、ハイブリダイゼーションによりこの蛍光標識DNAがパターニング部位に固定されることを蛍光顕微鏡により確認した。抗体(タンパク質)については、蛍光標識した抗原を流して、抗体と抗原抗体反応によりパターニング部位に固定化されることを蛍光顕微鏡により確認した。
【0048】
また、
図8に示すように、基板2、6の一面2a、6aの水の接触角は、フッ素供給無しで酸素プラズマ照射を行った場合よりもフッ素を供給した酸素プラズマ照射後の方が大きくなることが確認された。さらに、
図8に示す通り、プラズマ照射後の基板2、6の一面2a、6aのフッ素濃度(原子濃度)と水の接触角との間に、また、
図9に示す通り、接合前におけるプラズマ照射後の基板2、6の一面2a、6aのフッ素濃度と、基板2、6を接合した後の接合部7(
図1、
図2、
図6参照)のフッ素濃度との間に、それぞれ相関関係が認められた。
【0049】
すなわち、
図8及び
図9の実験結果に示される通り、接合前におけるプラズマ照射後の基板2、6の一面2a、6aのフッ素濃度を2〜9at.%にすると、基板2、6を接合した後の接合部7のフッ素濃度が0.6〜3.5at.%となることが確認された。そして、接合前の基板2、6の一面2a、6aのフッ素濃度と接合後の基板2、6の接合部7のフッ素濃度が上記の濃度範囲であると、表1に示したように、一方の基板2と他方の基板6の接合強度が0.5J/m
2以上となり、漏れる圧力が2000kPa以上となる十分な耐圧性能が得られることが確認された。
ここで、接合後の基板2、6の接合部7のフッ素濃度は、接合した後の基板2、6を剥離し、その表面のフッ素濃度を測定して得た値である。
【0050】
なお、本実施形態では、ガラス基板2、6を25〜100℃程度で加熱し、1000〜5000Nの押圧力で数時間保持することによって接合するものとしたが、捕捉体10(3)(電極4、触媒5)などが熱損傷することのない温度でガラス基板2、6を接合すればよく、加熱温度、押圧力、時間は特に本実施形態のように限定する必要はない。熱損傷する温度は材料にもよるが、例えば酸化チタンという光触媒では550℃以下であれば高い触媒機能を有する構造を維持しており問題ない。
【0051】
そして、上記のように一対のガラス基板2、6の一面2a、6a同士を接合することにより、内部に、互いに連通するマイクロチャネル1aとナノチャネル1bの微細流路1を備え、且つナノチャネル1bの内面の所望の位置に捕捉体としてのAPTES10が部分的に修飾配置された機能性デバイスBを形成することができる。
【0052】
したがって、本実施形態の機能性デバイスB及び機能性デバイスBの製造方法においては、マイクロあるいはナノスケールの微細流路1の形成と、捕捉体10の修飾配置を施した一方のガラス基板2と他方のガラス基板6の一面2a、6a同士を、捕捉体10が熱損傷することのない温度を保持しながら接合して機能性デバイスBが形成される。このため、従来のように捕捉体に熱損傷が生じることがなく、また、微細流路1を形成する一つの内面の任意の箇所に部分的に捕捉体10を比較的容易に且つ精度よくパターニングすることが可能になる。よって、高精度で信頼性の高い機能性デバイスBを得ることが可能になる。
【0053】
また、一方の基板2と他方の基板6がそれぞれ、ガラス基板であることにより、酸素プラズマによる活性化処理、フッ素供給による親水性処理などを用いることで、一面2a、6a同士を25〜100℃程度の低温で接合することが可能になり、確実に捕捉体10の熱損傷を防止して機能性デバイスBを形成することが可能になる。また、親水性の評価を水の接触角の測定で行うようにし、この基板の水の接触角が10〜50°となるようにして親水性を制御すると、基板2、6の一面2a、6a同士を強固で好適に接合することが可能になる。
【0054】
さらに、他方のガラス基板6の一面6aにAPTES10を修飾し、真空紫外線光を照射してAPTES10の不要部分を分解除去し、APTES10を捕捉体として用いると、高精度でパターニングを行なうことが可能になる。
【0055】
また、接合する基板2、6の少なくとも一方にガラス基板を用いることで、蛍光顕微鏡を用いて観察を行う等、機能性デバイスBの外側から流路1内を観察することが可能になる。
【0056】
さらに、修飾物としてシランカップリング剤を用いることにより、好適な捕捉体を形成することが可能になるとともに、基板2、6をより強固に接合することが可能になる。
【0057】
以上、本発明に係る機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0058】
例えば、本実施形態では、一方の基板2と他方の基板6がともにガラス基板であるものとして説明を行ったが、いずれかの基板2(6)あるいは両方の基板2、6としてシリコン基板を用いてもよい。この場合においても、シリコン基板の表面にはSiO
2層が存在するため、本実施形態と同様、低温で基板2、6の一面2a、6a同士を接合して機能性デバイスBを製造することができ、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
すなわち、本発明に係る基板は、表面にSiO
2が存在している基板であればよく、より好ましくは表面にSiO
2層が存在している基板であればよく、このような基板を用いることで、本実施形態と同様の機能性デバイスBを製造でき、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0059】
また、本実施形態では、微細流路1の一つの内面にAPTES10を捕捉体として修飾するものとして説明を行ったが、本発明にかかる捕捉体(修飾物)はAPTES10に限定されるものではない。例えば、捕捉体としてスペルミジンなどを用いてもよく、捕捉する対象物質11に応じて適宜選択すればよい。
【0060】
さらに、本実施形態では、微細流路1の一つの内面に捕捉体10、3を修飾配置するものとして説明を行ったが、微細流路1に流す試料溶液S中の対象物質11に対し、電気的あるいは化学的な作用を与える電極4や触媒5(修飾物)を修飾配置するようにしてもよい。勿論、捕捉体10、3、電極4、触媒5を適宜単独、複数組み合わせで修飾配置して機能性デバイスBを構成してもよい。
【0061】
ここで、周知の通り、電極4は、例えば電子の受け渡しにより、酸化還元反応を誘起する作用を発現するものであり、白金、金、クロム、アルミなどの金属などが一例として挙げられる。そして、この電極4を修飾配置する際には、スパッタリング法や化学蒸着法、物理蒸着法、めっき法などの方法を適用することができる。
また、触媒5は、例えば化学反応速度を促進して反応物の生成速度を向上させる作用を発現するものであり、酸化チタン、パラジウム、鉄、モリブデンなどが一例として挙げられる。そして、この触媒5を修飾配置する際には、スパッタリング法や化学蒸着法、物理蒸着法、触媒粒子の付着などの方法を適用することができる。
【0062】
また、本実施形態では、他方の基板6の一面6aに捕捉体10(電極4、触媒5)をパターニングする手法として、APTES10の捕捉体を全面に修飾した他方のガラス基板6の一面6aに、フォトマスク12を介して真空紫外線光を照射し、この真空紫外線光の照射よってAPTES10を分解する手法を例示した。これに対し、捕捉体10、さらには電極4や触媒5のパターニングには、例えば、フォトリソグラフィー、コンタクトプリンティング、インクジェット法などを用いてもよく、勿論、真空紫外線法による分解操作による手法を用いることに限定する必要はない。ただし、修飾後には修飾部以外のエリアを洗浄する工程が必要である。このために、修飾部を別の基板などで保護して、真空紫外線光やプラズマ照射などで洗浄することも可能である。また、触媒な電極などでは保護した後に、酸やアルカリなどの化学的な処理が可能の場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0063】
上記の機能性デバイス及び機能性デバイスの製造方法においては、流路の形成と、修飾物の修飾配置を施した第1の基板と第2の基板の一面同士を、修飾物が熱損傷することのない温度を保持しながら接合して機能性デバイスが形成される。このため、従来のように修飾物に熱損傷が生じることがなく、また、流路を形成する一つの内面の任意の箇所に部分的に修飾物を比較的容易に且つ精度よくパターニングすることが可能になる。よって、高精度で信頼性の高い機能性デバイスを得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0064】
1 微細流路
1a マイクロチャネル(マイクロ流路、溝)
1b ナノチャネル(ナノ流路、拡張ナノ流路、溝)
2 一方のガラス基板(一方の基板、第1の基板)
2a 一面
3 捕捉体(修飾物)
4 電極(修飾物)
5 触媒(修飾物)
6 他方のガラス基板(他方の基板、第2の基板)
6a 一面
7 接合部
10 APTES(捕捉体(修飾物))
11 対象物質
12 フォトマスク
A 従来の機能性デバイス
B 機能性デバイス
S 試料溶液