(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のRE−123系酸化物超電導層を備えた超電導線材は、金属テープの基材上に中間層を介し酸化物超電導層を積層し、その上に薄い銀の安定化層を積層している。しかし、この銀の安定化層は酸素熱処理時の酸素量変動を調節できるように薄く形成されるので、ピンホールが存在している場合がある。また、銀の安定化層はスパッタ法などの成膜法により形成されているため、長尺の超電導線材を製造する場合に、剥離または欠けなどを生じ易い問題がある。更に、酸化物超電導層の表面を銀の安定化層で覆ってはいるものの、酸化物超電導層の側面側を何らかの層で覆っている訳ではない。従って、側面側からの水分の浸入に対策を講じる必要がある。
このため、上述の特許文献に示すように、金属のスタビライザストリップで積層構造の超電導インサートを囲む構造、またはC字形状の補強テープで高温超電導線材を囲む構造が有望と思われる。ところが、テープ状の酸化物超電導体を金属テープなどで取り囲み、半田で固定する構造は、銅テープと酸化物超電導体との界面の半田密着性が問題となり、長尺の超電導線材の全長において、わずかでも隙間が生じていると、その隙間部分から水分が浸入するおそれがある。
【0007】
図8は、この種の酸化物超電導体を銅テープで取り囲む構造を想定した場合の構造の一例を示す。
図8に示す構造では、金属製のテープ状の基材100の一面側に中間層101を介し酸化物超電導層102と銀の安定化層103とを積層してテープ状の酸化物超電導積層体104を構成する。さらに、この酸化物超電導積層体104の周囲を銅テープ105で取り囲むことにより被覆構造の酸化物超電導導体106が形成されている。この例の酸化物超電導導体106は、例えば、銅テープ105の端縁部に半田層107を形成し、基材100の裏面側において、端縁部を重ねた銅テープ105を互いに半田付けすることで銅テープ105の端縁どうしが一体化されている。
【0008】
一方、
図8に示す構造の銅テープ105により酸化物超電導積層体104を取り囲んだ構造では、銅テープ105の重ね合わせ部分を半田付けした場合、テープ状の酸化物超電導積層体104の全長においてわずかでも半田接合の不良部分が生じていると水分の浸入を許すおそれがあり、水分の浸入を完全には阻止できない。
また、
図8に示す構造の酸化物超電導導体106は、銅テープ105の一方の端部と他方の端部が重なった部分で厚みが大幅に変わる。従って、超電導コイルなどを構成する場合に、巻胴に超電導導体106を巻回すると、1層巻きでは問題を生じないものの、多層巻きする場合に銅テープ105の重なり部分で巻き乱れが生じ易い問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような従来の背景に鑑みなされたもので、水分の浸入を阻止できる構造を形成して内部の酸化物超電導層を劣化させないようにした酸化物超電導線材を提供することを目的とする。また、超電導コイル用などのために酸化物超電導線材をコイル状に巻き付ける場合、巻き乱れを生じない酸化物超電導線材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材は、基材表面と基材裏面を有する金属製のテープ状の基材と、前記基材表面に設けられた中間層と、前記中間層の上に設けられた酸化物超電導層と、保護表面を有するとともに前記酸化物超電導層の上に設けられた保護層と、を有するテープ状の酸化物超電導積層体と、テープ端部を有する金属テープと、低融点金属層と、で形成される被覆部と、を有し、前記金属テープは、前記酸化物超電導積層体よりも幅が広く、前記保護表面と前記酸化物超電導積層体の両側面と前記裏面の幅方向における両端部とを覆い、前記金属テープの幅方向における両端部が前記裏面の両端部に被せて設けられ、前記低融点金属層は、前記酸化物超電導積層体とその周囲に設けられた前記金属テープとの間に充填されて前記金属テープと前記酸化物超電導積層体とを接合し、充填された前記低融点金属層の一部が前記金属テープの幅方向の両端部の間に形成される凹部に延出している。
本発明の第1態様である酸化物超電導線材を用いた場合、酸化物超電導積層体とその周囲の金属テープとの間に充填された低融点金属層が酸化物超電導積層体の周囲を覆っている構造であるので、金属テープの内側に位置する酸化物超電導層に対し外部からの水分の浸入を防止できる。さらに、本発明の第1態様である酸化物超電導線材を用いた場合、基材裏面端部に被せられた金属テープの端部から外部に出された低融点金属の被覆部で金属テープの両端部と基材裏面との隙間部分を覆うので、金属テープの端部側から金属テープの内側へ水分が浸入することを防止できる。
金属テープの端部から外部に延出した低融点金属で形成される被覆部は、金属テープの両端部間の凹部内に出ているのみであり、金属テープの厚さに比べ厚みが向上している訳ではない。したがって、低融点金属の被覆部を基材裏面側に備えた酸化物超電導線材をコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
【0011】
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記凹部が前記凹部を構成する前記金属テープの両端部表面位置から外方に膨れ出ていない前記低融点金属層で形成される埋込層により覆われて形成されていてもよい。
基材裏面端部を覆った金属テープの両端部間の凹部を低融点金属の埋込層で充填すると、金属テープの両端部と基材裏面との隙間部分を低融点金属が確実に覆う。したがって、金属テープの端部側から金属テープの内側へ水分が浸入することを防止できる。更に、低融点金属の埋込層が凹部を構成する金属テープ両端部表面位置から外部に膨出することがない。したがって、金属テープ両端部間の凹部の部分を低融点金属の埋込層で埋めた酸化物超電導線材をコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記金属テープの外周面全体が前記低融点金属層により覆われていてもよい。
この構造により、基材裏面端部を覆った金属テープの両端部間の隙間部分を低融点金属の埋込層で充填し、その上に低融点金属層が形成される。したがって、金属テープの両端部間の隙間部分の上に大きな段差を生じることなく低融点金属層を設けた構造となる。よって、酸化物超電導線材をコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
【0012】
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記基材裏面端部側を覆った前記金属テープの両端部のそれぞれの被覆幅が0.75mm以上であってもよい。
基材を覆う金属テープにおいて基材裏面端部側を覆う構造の被覆幅を0.75mm以上とすることで、水分の浸入を防止する上で信頼性の高い構造とすることができる。
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記凹部の幅が2.0mm以下であることが好ましい。凹部の幅が、上記の範囲である場合、埋込層を構成する低融点金属が表面張力で充分に凹部の内側に拡がり、信頼性の高い埋め込み構造を実現できる。
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記金属テープが厚さ15μm以上の銅テープであってもよい。
厚さ15μm以上の銅テープであるならば、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に転移しようとした場合に電流のバイパスとなるため望ましい。
本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材においては、前記埋込層が、前記酸化物超電導積層体と前記金属テープとの間に充填された前記低融点金属層の一部に加え、外部から追加された低融点金属を含んでいてもよい。
酸化物超電導積層体とその周囲の金属テープとの間に充填された低融点金属層の一部のみで埋込層を形成する場合、低融点金属の量が不足する場合もあるので、追加で外部から低融点金属を追加して埋込層を構成することができる。この場合、凹部の間隔が大きく低融点金属の量が不足する懸念がある場合であっても、充分な量の低融点金属を凹部に充填して埋込層を形成することができる。
【0013】
本発明の第2態様に係る超電導コイルにおいては、本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材を備える。
【0014】
本発明の第3態様に係る超電導ケーブルにおいては、本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材を備える。
【0015】
本発明の第4態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、金属製のテープ状の基材の表面側に中間層が設けられ、前記中間層の上に酸化物超電導層が設けられ、前記酸化物超電導層の上に保護層が設けられたることで形成されるテープ状の酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体よりも幅が広く、周面に低融点金属めっき層を形成した金属テープとを準備し、前記金属テープで前記酸化物超電導積層体の前記保護層側と両側面側と幅方向における基材裏面側の両端部とを覆うように前記金属テープを酸化物超電導積層体に被せ、前記低融点金属めっき層を溶融状態とする温度に加熱し、ロールで加圧して前記酸化物超電導積層体と前記金属テープとの間を低融点金属層で埋め込み、前記低融点金属層の一部を前記基材裏面端部を覆った前記金属テープの端部から外部に延出させて被覆部を形成する。
上記方法を用いることで、酸化物超電導積層体の周囲を低融点金属層で覆ってその外側に金属テープを配置した構造を作製できるので、金属テープの内側に位置する酸化物超電導層に対し外部から水分が浸入することを防止できる。また、基材裏面端部に被せられた金属テープの端部と基材裏面との間から外部に出した低融点金属製の被覆部で金属テープの端部を覆うので、金属テープの両端部と基材裏面の間から金属テープ内側へ水分が浸入することを防止できる。
金属テープの端部から外部に出した低融点金属で形成される被覆部は金属テープの両端部間の隙間部分に突出しているのみであり、この部分の影響により金属テープの厚さに比べ厚みが向上している訳ではない。したがって、低融点金属の被覆部を基材裏面側に備えた酸化物超電導線材をコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
【0016】
本発明の第4態様に係る酸化物超電導線材に製造方法においては、前記基材裏面端部側を覆った前記金属テープの両端部間に形成される凹部を、この凹部が開口している位置から外方に膨出していない低融点金属の埋込層により覆っていてもよい。
この構造により、基材裏面端部を覆った金属テープの両端部間の凹部を低融点金属の埋込層で充填しているので、金属テープの両端部間の凹部の上に突出する部分を生じることなく低融点金属の埋込層を設けた構造となる。したがって、酸化物超電導線材をコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
【発明の効果】
【0017】
前記本発明の態様に係る酸化物超電導線材によれば、酸化物超電導積層体とその周囲の金属テープとの間に充填された低融点金属層が酸化物超電導積層体の周囲を覆っている構造を有しているので、金属テープの内側に位置する酸化物超電導層に対し、外部から水分が浸入することを防止できる酸化物超電導線材を提供できる。
基材裏面端部に被せられた金属テープの端部及び金属テープの両端部と基材裏面とで形成される凹部の部分を外部に露出する低融点金属の被覆部で覆うので、金属テープの端部側から金属テープの内側への水分の浸入を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る第1実施形態の酸化物超電導線材の一部を断面とした斜視図であり、この実施形態の酸化物超電導線材Aにおいては、内部に設けられたテープ状の酸化物超電導積層体1が、銅などの導電性材料で形成される金属テープ2で覆われている。
この例の酸化物超電導積層体1は、
図2に示すようにテープ状の基材3の一面側(
図1では下面側)に、中間層4と酸化物超電導層5と保護層6とがこの順に積層されて形成される。
前記基材3は、可撓性を有する超電導線材とするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属で形成されることが好ましい。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金で形成されることが好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適である。基材3の厚さは、通常は、10〜500μmである。また、基材3として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。
【0020】
中間層4は、以下に説明する下地層と配向層とキャップ層とで形成される構造を一例として適用できる。
下地層を設ける場合は、以下に説明する拡散防止層とベッド層とで形成される複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層で形成される構造を採用することができる。
下地層として拡散防止層を設ける場合、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましく、拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmである。
下地層としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減し、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料で形成される単層構造あるいは複層構造を採用できる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmである。また、拡散防止層とベッド層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0021】
配向層は、配向層の上に形成する酸化物超電導層5の結晶配向性を制御するバッファー層として機能する。配向層は、酸化物超電導層と格子整合性の良い金属酸化物で形成されることが好ましい。配向層の好ましい材料として、具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示できる。配向層は、単層構造でも良いし、複層構造でも良い。
配向層は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、またはイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);有機金属塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法を用いて積層できる。これらの方法の中でも特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層及びキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)で形成される配向層は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0022】
キャップ層は、前記配向層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されることが好ましい。このように形成されるキャップ層は、前記配向層よりも高い面内配向度が得られる可能性がある。
キャップ層の材料は、上記機能を発現し得れば特に限定されないが、好ましい材料として具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層の材料がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができる。PLD法によるCeO
2層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で成膜することができる。CeO
2のキャップ層5の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上であることが好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることが好ましい。
【0023】
酸化物超電導層5は通常知られている酸化物超電導体の組成を広く適用することができ、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)で形成される材料、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
y)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
y)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δで形成される組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体で形成される材料を用いても良いのは勿論である。酸化物超電導層5の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0024】
酸化物超電導層5の上面を覆うように形成されている保護層6は、Agで形成され、DCスパッタ装置またはRFスパッタ装置などの成膜装置により成膜されている。また、酸化物超電導層5の厚さは1〜30μm程度である。なお、本実施形態の保護層6は、成膜装置により酸化物超電導層5の上面側に主体に形成されているが、成膜装置のチャンバの内部でテープ状の基材3を走行させながら成膜されているので、基材3の両側面と中間層4の両側面と酸化物超電導積層5の両側面および基材3の裏面に対し保護層6の成膜粒子が回り込む。したがって、基材3の両側面と中間層4の両側面と酸化物超電導積層5の両側面および基材3の裏面にも保護層6の構成元素粒子が若干堆積されている。
このAg粒子の回り込み堆積が生じる場合、ニッケル合金で形成されるハステロイ製の基材3の裏面側と側面側に半田層7が密着するが、Ag粒子の回り込みによる堆積が無い場合は、ニッケル合金で形成されるハステロイ製の基材3に半田層7が満足に密着しなくなるおそれがある。
【0025】
また、前記保護層6の表面(保護表面)及び両側面と、その下に形成される酸化物超電導積層5の両側面と、中間層4の両側面と、基材3の両側面とを覆うとともに、基材3の裏面側の両端部3a(裏面両端部)を覆うように銅などの導電性材料で形成される金属テープ2が設けられている。
金属テープ2は、一例として良導電性の金属材料で形成され、酸化物超電導層5が超電導状態から常電導状態に転移した時に、保護層6とともに、電流を転流するバイパスとして機能する。金属テープ2を構成する材料としては、良導電性を有すればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、Al、Cu−Al合金等の比較的安価な材料で形成される材料を用いることが好ましい。中でも、高い導電性を有し、安価であることから銅で形成されることが好ましい。なお、酸化物超電導線材Aを超電導限流器用途に使用する場合、金属テープ2は高抵抗金属材料より構成され、例えば、Ni−Cr等のNi系合金などで形成される。金属テープ2の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、15〜300μmとすることが好ましく、20〜300μmとすることがより好ましい。
【0026】
前記金属テープ2の表面と裏面の両方には半田層(低融点金属層)7が形成されている。この半田層7は、金属テープ2の外面を覆っている外部側被覆層7aと、金属テープ2の内面側に密着して酸化物超電導積層体1の周囲を覆っている内部側被覆層7bと、金属テープ2の両端部の先端部分を覆っている被覆部7cとで形成される。
金属テープ2と半田層7とについてより詳しく説明すると、金属テープ2は、横断面が略C字型となるように折り曲げられ、表面壁2aと側壁2bと裏面壁2cとで形成され、酸化物超電導積層体1の保護層6側から基材3の裏面両端部3aまでが半田7で覆われている。即ち、保護層6の表面及び両側面と、酸化物超電導層5の両側面と、中間層4の両側面と、基材3の両側面と、基材3の裏面両端部3aとが金属テープ2に覆われている。よって、半田層7の内部側被覆層7bは、酸化物超電導積層体1の全周面のうち、金属テープ2が覆っている部分の全てを被覆するように設けられ、さらに、金属テープ2と酸化物超電導積層体1との間を完全に埋めるように充填されている。前記基材3の裏面側の幅方向中央部は、金属テープ2の裏面壁2cに覆われていない。従って、基材3の裏面中央部上であって金属テープ2の一対の裏面壁2c間には、凹部2dが設けられている。
【0027】
また、半田層7の被覆部7cは、金属テープ2の裏面壁2cの先端から凹部2d側に若干膨れ出るように被覆層7a、7bよりも肉厚に形成される。さらに、半田層7の被覆部7cは、金属テープ2の裏面壁2cの先端部と基材3の裏面との間の隙間を閉じるように設けられている。
この半田層(低融点金属層)7は、この実施形態では半田から形成されているが、低融点金属層として、融点240〜400℃の金属、例えば、Sn、Sn合金、またはインジウム等で形成されていても良い。半田を用いる場合、Sn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Sn−Bi系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、またはSn−Ag系などで形成される半田を用いても良い。なお、半田層7を溶融させる場合、その融点が高いと、酸化物超電導層5の超電導特性に悪影響を及ぼす。したがって、半田層7の融点は低い方が好ましく、この点、融点350℃以下、より好ましくは240〜300℃前後の融点を有する材料が望ましい。
半田層7の厚さは、1μm〜10μmの厚さ範囲が好ましく、2μm〜6μmの範囲であることがより好ましい。半田層7の厚さが1μm未満の場合、酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間の隙間を完全に充填できずに、隙間を生じるおそれがある。更に、半田を溶融させている間に半田層7の構成元素が拡散して、銅テープ2と、あるいはAgの保護層6との間に合金層を生成するおそれがある。逆に、半田層7の厚さを10μmを超える厚さにすると、後述するようにロールにより加熱加圧して半田を溶融し、半田付けする際、金属テープ2の裏面壁2cの先端側から半田が延出する量が多くなり、被覆部7cの厚さが必要以上に大きくなる。その結果、酸化物超電導線材Aの巻回時に巻き乱れを生じる可能性が高くなる。
【0028】
図1に示す構造の酸化物超電導線材Aは、酸化物超電導積層体1とその周囲の金属テープ2との間に充填された半田層7が酸化物超電導積層体1の周囲を覆っている。したがって、金属テープ2の内側に位置する酸化物超電導層1に対し外部からの水分の浸入を防止できる。
また、基材3の裏面端部に被せられた金属テープ2の裏面壁2cから外部に突出するように被覆層7a、7bより厚く形成された半田層7の被覆部7cで金属テープ2の両端部と基材3の裏面との隙間を覆っている。したがって、金属テープ2の端部側から金属テープ2の内側へ水分が浸入することを確実に防止できる効果がある。
また、金属テープ2の裏面壁2cの端部を被覆する半田で形成される被覆部7cは、金属テープ2の両端部間に形成される凹部2dに多少延出している程度であり、金属テープ2の厚さに比べこの延出部分の厚みが特に向上している訳ではない。したがって、基材3の裏面側に被覆部7cを備えた酸化物超電導線材Aをコイル巻きする場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い。
また、フォーマ上にこの酸化物超電導線材を複数層巻き付けて超電導ケーブルを形成する場合でも巻き乱れが生じ難くなる。
【0029】
図1に示す構造の酸化物超電導線材Aを製造するには、
図3Aに示すように基材3と中間層4と酸化物超電導層5と保護層6とを積層したテープ状の酸化物超電導積層体1を用意し、この酸化物超電導積層体1の保護層6を下にして、その下方に金属テープ2を配置する。ここで用いる金属テープ2の表裏面にはめっきにより半田層8、9が形成されている。これらの半田層8、9は2μm〜6μm程度の厚さとすることが好ましい。なお、本発明では、必ずしも金属テープ2の表裏面の両方に半田層が設けられている必要はなく、保護層6を覆う側の一方にのみ半田層が設けられた金属テープ2を用いても良い。
次に、酸化物超電導積層体1の中央下部に金属テープ2の中央部を位置合わせして配置し、フォーミングロールなどを用いて金属テープ2を整形して基材3の両端側に沿って金属テープ2の両端側を上方に折り曲げる。続いて、基材3の両端に沿って更に内側に折り曲げて、金属テープ2により基材3の両端部を包むように曲げ加工して金属テープ2を横断面C字状に折り曲げ加工する。
【0030】
この状態から加熱炉で全体を半田層8、9の溶融温度に加熱する。続いて半田層8、9の溶融温度から50℃程度低い温度に加熱した加圧ロールを用いてC字状に曲げ加工した金属テープ2と酸化物超電導積層体1とを加圧する。ここで用いる半田層8、9の融点が一例として240℃〜350℃であるならば、この融点より50℃低い190℃〜300℃の範囲の温度を選択することが好ましい。
この処理により、溶融した半田層8、9は酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間を完全に埋めるように溶融して拡がり、それらの間の間隙に充填される。この後、全体を冷却し、溶融している半田を固化させると、
図3Cに示すように半田層7を備えた
図1に示す構造と同様の構造の酸化物超電導線材Aを得ることができる。
【0031】
図4は本発明に係る第2実施形態の酸化物超電導線材の横断面図を示す。第2実施形態の酸化物超電導線材Bは、第1実施形態の酸化物超電導線材Aと同様に、内部に設けられたテープ状の酸化物超電導積層体1を銅などの導電性材料で形成される金属テープ2で覆われている。
この実施形態の酸化物超電導線材Bと第1実施形態の酸化物超電導線材Aとは、金属テープ2の内周面側のみに半田層(低融点金属層)17の内部側被覆層17aが形成されるとともに、C字型の金属テープ2の一対の裏面壁2cの先端縁の間に形成される凹部2dの縁の部分が半田層(低融点金属層)で形成される埋込層17cにより埋め込まれている点で異なる。
図4に示す構造の酸化物超電導線材Bにおいて、その他の構造は第1実施形態の酸化物超電導線材Aと同様であり、同様の構造については同一の符号を付し、それら構造の説明を略する。
【0032】
図4に示す酸化物超電導線材Bは、酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間が内部側被覆層17aにより充填されるとともに、金属テープ2の裏面壁2c間の間隙部分が埋込層17cにより埋められている。従って、この埋込層17cが水分の浸入を抑制し、金属テープ2の内側の酸化物超電導層5側への水分浸入を防止する。
図4に示す酸化物超電導線材Bのように、金属テープ2の外面に半田層を設けない構造としても、金属テープ2の内面側に内部側被覆層17aを設け、埋込層17cを設けることで水分が内部に浸入しない構造を実現できる。
図4に示す酸化物超電導線材Bを製造するには、
図3A〜
図3Cに示す工程と同様の工程を採用して片面のみに半田層を設けた金属テープ2を用い、この金属テープ2を
図3A〜
図3Cにおいて説明した場合と同様に折り曲げ加工し、半田層を加熱溶融させてロールにより加圧すれば良い。
金属テープ2の片面に設ける半田層の厚さを調整するか、加圧ロールに別途半田を供給するなどの手段を用いて金属テープ2の一対の裏面壁2cの間の間隙部分が、埋込層17cによって埋まる程度の半田量とすることにより、
図4に示す構造の酸化物超電導線材Bを得ることができる。金属テープ2の一面に設ける半田層の厚さは、最低2μm程度であることが必要である。また、半田層の供給のために、Sn箔またはSnワイヤを金属テープ2の一対の裏面壁2cの間の間隙部分に供給し、これらを溶融して間隙部分を埋め込み、接合する方法を採用することもできる。
【0033】
図5は本発明に係る第3実施形態の酸化物超電導線材の横断面図を示している。この実施形態の酸化物超電導線材Cは、第1実施形態の酸化物超電導線材Aと同様に、内部に設けられたテープ状の酸化物超電導積層体1が銅などの導電性材料で形成される金属テープ2で覆われている。
この実施形態の酸化物超電導線材Cと第2実施形態の酸化物超電導線材Bとは、金属テープ2の外周面側に半田層(低融点金属層)17の外部側被覆層17bが形成されている点で異なっている。その他、C字型の金属テープ2の裏面壁2c、2cの先端縁の間に形成される凹部2dが半田層(低融点金属層)で形成される埋込層17cにより埋め込まれている点については第2実施形態と同様である。
図4に示す構造の酸化物超電導線材Cにおいて、その他の構造は第2実施形態の酸化物超電導線材Bと同様であり、同様の構造については同一の符号を付し、それら構造の説明を略する。
【0034】
図5に示す酸化物超電導線材Cは、酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間が内部側被覆層17aにより充填され、金属テープ2の外周面全体が外部側被覆層17bにより覆われるとともに、金属テープ2の一対の裏面壁2cの間の間隙部分が埋込層17cにより埋められている。したがって、内部側被覆層17aと外部側被覆層17bと埋込層17cとが水分の浸入を抑制し、金属テープ2の内側に配置される酸化物超電導層5へ水分が浸入することを防止する。
図5に示す酸化物超電導線材Cのように、金属テープ2の外面側と内面側とに半田層を設けた構造として、更に埋込層17cを設けることで水分を内部に浸入させることのない構造を実現できる。
図5に示す酸化物超電導線材Cを製造するには、
図3A〜Cに示す工程と同様の工程を採用して両面に半田層を設けた金属テープ2を用い、この金属テープ2を
図3A〜
図3Cに説明した場合と同様に折り曲げ加工し、半田層を加熱溶融させてロールにより加圧すれば良い。
金属テープ2の両面に設ける半田層の厚さを調整するか、加圧ロールに別途半田を供給するなどの手段を用いて金属テープ2の一対の裏面壁2cの間の間隙部分が埋込層17cによって埋まる程度の量の半田を用いることにより、
図5に示す構造の酸化物超電導線材Cを得ることができる。
【0035】
図6に示す酸化物超電導線材Dは、酸化物超電導積層体1と金属テープ2の間が内部側被覆層17aにより充填され、金属テープ2の外周面全体が外部側被覆層17bにより覆われるとともに、金属テープ2の一対の裏面壁2c間に形成される凹部2dの部分が埋込層17dにより埋められている。従って、内部側被覆層17aと外部側被覆層17bと埋込層17dとが水分の浸入を抑制し、金属テープ2の内側に配置される酸化物超電導層5へ水分が浸入することを防止する。
なお、本実施形態の構造では、凹部2dの上端縁位置(金属テープ2の一対の裏面壁2cの一対の先端上縁2eが構成する凹部2dの開口位置)よりも外部側に膨れ出ないように、埋込層17dが形成される。即ち、埋込層17dはその表面を金属テープ2の一対の裏面壁2cの一対の先端上縁2eが構成する凹部2dの開口位置よりも内側に位置するように凹部2d内に形成されている。
【0036】
図6に示す酸化物超電導線材Dのように、金属テープ2の外面側と内面側とに半田層を設けた構造として、更に埋込層17dを設けることで水分が内部に浸入しない構造を実現できる。
図6に示す酸化物超電導線材Dを製造するには、
図3A〜
図3Cに示す工程と同様の工程である
図7A〜
図7Cに示す工程を採用する。つまり、両面に半田層を設けた金属テープ2を用い、この金属テープ2を
図3A〜
図3Cに説明した場合と同様に
図7A〜
図7Cに示すように折り曲げ加工し、半田層を加熱溶融させてロールにより加圧することで酸化物超電導線材Dを製造することができる。
金属テープ2の両面に設ける半田層の厚さを調整し、加圧ロールに別途半田を供給するなどの方法を用いて金属テープ2の一対の裏面壁2cの間に設けられる凹部2dが埋込層17cによって埋まる程度の量の半田を用いることにより、
図6に示す構造の酸化物超電導線材Dを得ることができる。このように半田を追加することによって、埋込層17cの量を充分に確保することができる。
【0037】
図6に示す構造のように凹部2dの開口位置(金属テープ2の端部表面に相当する上端位置)から外部に膨れ出ていない埋込層17dを設けることで金属テープの内部側へ水分が浸入することを防止できる。なお、金属テープ2として表面に外部側被覆層17bを設けた構造を採用した場合、金属テープ2の実質的な表面は外部側被覆層17bの表面となる。従って、埋込層17dは外部被覆層17bの表面から外方に突出しない厚さで形成される。
また、コイル加工して1層目の上に2層目以降を巻き付ける場合、1層目及び2層目の酸化物超電導線材Dを重ねて配置したとしても膨れ出している部分が無いので巻き乱れを生じることがない。
【0038】
また、水分の浸入を防止できる構造の信頼性をより高めることを考慮し、本発明者が種々研究した結果、金属テープ2と酸化物超電導積層体1の裏面側の接触長を一定値以上確保しつつ溶融半田で隙間を埋めることが重要であることが分かった。即ち、酸化物超電導積層体1の裏面側において、金属テープ2の折返し端縁どうしの隙間の部分に形成される凹部2dをディッピング法などの方法で半田により封止する際、隙間の幅方向長さ(凹部2dの幅)が一定値以下である場合、半田により隙間を確実に封止できることが分かった。この封止のメカニズムと隙間の幅方向長さとの相関は、主に半田の表面張力によって決定されるものであると考えられる。
この背景から、凹部2dの幅は2.0mm以下であることが好ましい。凹部2dの幅を2.0mm以下に設定することで低融点金属がその表面張力で凹部2d内に充分に拡がり、隙間を埋めるので、水分浸入防止の面で信頼性の高い構造を提供できる。
【0039】
また、本発明にかかる酸化物超電導線材を巻回することでコイル体21を構成し、これらを必要数積層して超電導コイル20を形成してもよい(
図9)。
さらに、中心部に配置された撚線構造等のフォーマ31の外周側に順次本発明に係る第1の酸化物超電導線材と、電気絶縁層32と、第2の酸化物超電導線材と、銅などの良導電性金属材料からなるシールド層33と、を備えることで、超電導ケーブル30を形成してもよい(
図10)。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)で形成される厚さ100μm、幅5mm、長さ10mのテープ状の基材上に、Al
2O
3の拡散防止層(厚さ80nm)と、Y
2O
3のベッド層(厚さ30nm)と、イオンビームアシスト蒸着法によるMgOの中間層(厚さ10nm)と、PLD法によるCeO
2のキャップ層(厚さ300nm)と、YBa
2Cu
3O
7−xで示される組成の酸化物超電導層(厚さ1μm)と、DCスパッタ法によるAgの保護層(厚さ10μm)を積層したテープ状の酸化物超電導積層体を用意した。基材から保護層までを含めた酸化物超電導積層体の厚さは約110μmである。
【0041】
前記酸化物超電導積層体に500℃で酸素アニール処理を行った。この後、両面に厚さ2μmのSnめっき層を形成した厚さ20μm、幅10mmの銅テープを
図3Aに示すようにAgの保護層外面に沿わせ、銅テープの幅方向両端側を曲げてコ字型に加工し、次いで銅テープの両端側を基材裏面側に折り曲げるように整形した。
その後、260℃の加熱炉を通過させてSnを溶融させている間に、200℃に加熱している加圧ロールを用いて全体を厚さ方向に加圧して表裏面に溶融して存在しているSnを均一の厚さにした。この加圧ロールによる加熱加圧処理により、銅テープとその内側に設けた酸化物超電導積層体との間の隙間を溶融スズで埋めるとともに、溶融スズの一部を銅テープの両端部と基材裏面側との隙間から外側に若干延出させ、
図3Cに示す被覆部を有した酸化物超電導線材を得た。
得られた酸化物超電導線材10mについて、レーザ変位計を用いて厚み寸法の最大値と最小値を測定した。このレーザ変位計が、1回でスキャンする範囲は幅方向1mmであるので、計測値はその範囲の平均値が求められている。レーザ変位計でスキャンする範囲は、基材裏面側の銅テープの端部を必ず含むように計測し、基材裏面側において銅テープの端部間の隙間部分の厚み情報を含むデータとして計測値を求めた。
【0042】
図8に示すように銅テープを酸化物超電導積層体の周囲に被せて銅テープの幅方向両端部を重ね合わせた構造について、比較のために同様の試験を行った。
これら各試料の測定結果について、以下の表1にまとめて記載する。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す試験結果のように両面にSnめっきを形成した試料の寸法は、±10μm以下(7%)の公差であり、銅テープの厚み寸法公差、金属製の基材の厚み寸法公差を5%以内とした銅テープ、基材を用いていることを考慮すると、上述の製造方法により生成する銅テープの寸法公差は、ほぼ0とみなすことができる。
また、片面Snめっきした試料と両面Snめっきした試料を用い、信頼性試験(プレッシャークッカー試験、1気圧、100℃、湿度100%、試験時間25〜100(h;時間))を行った結果を以下の表2に示す。
表2において特性低下試料数とは、試験前に計測した元の酸化物超電導線材(試験数)の電流値に対して10%以上電流値が低下した酸化物超電導線材の試料数である。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示す試験結果から、片面をSnめっきした試料において、50時間までのプレッシャークッカー試験で電流値の低下が見られず、両面をSnめっきした試料において、100時間までのプレッシャークッカー試験で電流値の低下が見られなかった。なお、プレッシャークッカー試験は、酸化物超電導線材の耐水性を試験する場合の条件を考慮すると、極めて過酷な加速試験である。すなわち、このプレッシャークッカー試験において50時間に耐えることは、通常使用において全く問題のない耐水性であることを意味し、100時間に耐えることは工業材料としての使用形態において信頼性の面で全く問題のない状態であることを意味する。
この面から鑑み、本発明の酸化物超電導線材は、片面Sn被覆型の構造と両面Sn被覆型のいずれの構造においても優れた水分浸入防止効果を得ることができた。
【0047】
次に、先に説明したAgの保護層までを備えた酸化物超電導積層体(長さ1m)を用い、先と同様の酸素アニール後、両面に厚さ2μmのSnめっき層を形成した厚さがそれぞれ20μmであって、幅が異なる複数の銅テープをそれぞれ用いて
図7Aに示すようにAgの保護層外面に沿わせた。次いで
図7Bに示すように銅テープの幅方向両端側を曲げてコ字型に加工し、次いで
図7Cに示すように銅テープの両端側を基材裏面側に折り曲げるようにC字型に整形し、幅の異なる銅テープで被覆した複数の超電導線材試料を得た。
【0048】
その後、260℃の加熱炉を通過させてSnを溶融させている間に、200℃に加熱している加圧ロールを用いて全体を厚さ方向に加圧して表裏面に溶融して存在しているSnの厚さを均一にした。この加圧ロールによる加熱加圧処理により、銅テープとその内側に設けた酸化物超電導積層体との間の隙間を溶融スズで埋めるとともに、溶融スズの一部を銅テープの両端部と基材裏面側との隙間から外側に若干延出させた。更に、個々の超電導線材の凹部に、半田こてにより手作業で
図7Cに示す埋込層を形成し、各酸化物超電導線材を得た。
これらの複数の酸化物超電導線材について、被覆に使用した銅テープの厚さを以下の表3に示す。
これら各幅の銅テープを被覆した超電導線材を10本用意し、100℃、湿度100%、1気圧下でのプレッシャークッカー試験(PCT試験)を100時間行なった。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示す結果から分かるように、銅テープ厚が20μm未満の場合、銅テープが薄いほど特性が低下する試料数が増大している。また、銅テープ厚が15μm以上で特性試験結果が格段に改善されており、銅テープ厚が20μm以上の試料では特性が低下する試料は生じなかった。なお、銅テープ厚が10μm以下ではテープが薄すぎて作業中に破断するおそれも増大する。
【0051】
次に、酸化物超電導積層体の基材裏面端部側を銅テープが覆う被覆長(銅テープの端部が基材裏面端部側を被覆する場合の被覆幅)について、試験した。
銅テープ厚さの変化により試験に影響が出ないように銅テープの厚みを20μmに固定した。また、前記加圧ロールを行うことで、上述の酸化物超電導積層体をC字型に成形した銅テープが被覆する構造の酸化物超電導線材を作製した。なお、この試験に供した構造は、
図3Cに示すように銅テープの端部間に形成される凹部を半田が完全には覆っていない被覆部を設けた構造であり、埋込層の無い構造である。
超電導積層体を被覆する銅テープの被覆長は以下の表4に示すように変更されており、先の試験で行った条件と同等のプレッシャークッカー試験に供した。なお、ここで示す被覆長とは、C字型の銅テープの両端部が基材裏面を覆う合計幅なので、C字型の銅テープの一側端が被覆する長さ(幅)は、被覆長を示す数値の半分である。よって、銅テープの一方の端縁が覆う被覆長は表4の数値の半分となる。以上の結果を以下の表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示す試験結果から、金属テープの被覆長を金属テープの両端側合わせて1.5mm未満にすると特性低下する試料数が増大するが、被覆長1.5mm以上では特性低下する試料数が少なくなる。また、2.5mm以上では特性低下する試料が発生しなかった。このことから、超電導積層体を金属テープにより被覆する場合、金属テープ幅方向両端側の被覆長を1.5mm以上とすることが望ましいと考えられる。なお、金属テープの一側の端部の被覆長としては、0.75mm以上で特性が低下する試料数が少なくなり、1.25mm以上で特性が低下する試料が発生しなくなる。
【0054】
次に、超電導積層体を被覆する金属テープの非被覆長(凹部幅)を変化させた場合の信頼性について試験した。なお、銅テープ被覆長は、表3に示す結果から、被覆長1.5mmの場合の結果が優れていたので被覆長1.5mmに条件を固定し、非被覆長(凹部幅)を変更する条件で試験した。なお、非被覆長の長い比較例6、7の試料は幅5mmの酸化物超電導積層体に代えて幅12mmの酸化物超電導積層体を用いた。
裏面封止の結果を示す欄に記載の○印は
図6に示すように凹部を半田の埋込層で覆うことができた場合を示し、×印は見かけ上は半田の埋込層が形成されているが、染色浸透探傷試験を実施すると、銅テープが密着していない部分が存在することを知見できた試料である。
なお、染色浸透探傷試験とは、検査用の赤色などの浸透液を試料に塗布し、塗布後に試料に付着した一端浸透液を水洗して除去し、試料の表面を乾燥した後、試料に現像液を塗布すると、塗布部位に存在するクラックなどに染みこんでいた浸透液が表面ににじみ出し、指示模様を描くことにより、クラックの存在を検出できる試験方法(JISZ2343規定)である。
【0055】
【表5】
【0056】
表5に示す試験結果から、半田により埋込層を凹部内に形成する場合、凹部の幅が広すぎると、半田により凹部内に密着した埋込層を形成できないことが分かった。したがって、凹部内に密着した埋込層を得るためには、凹部幅を2.0mm以下にする必要があることが判明した。
これは、溶融した半田が表面張力で凹部内に均一に広がるうちは、良好な埋込層となるが、凹部幅が大きくなりすぎると、表面張力が作用しても半田が凹部内に行き渡らなくなることを意味している。
【0057】
次に、酸化物超電導線材を用いて超電導コイルを製造する場合、コイルを巻く場合に作業性及び寸法影響性を考慮すると、酸化物超電導線材の表面側と裏面側とで突部が形成されていない状態が望ましい。このため、銅テープを成形後に加熱して半田を融かした後、ロール圧着した場合の影響を試験した。
上述の表5に示す結果から判断すると、半田の表面張力の影響により、金属テープ非被覆長(凹部幅)を2.1mm以上にすると、完全には基材を封止できなくなる結果が得られた。
そこで、凹部幅が2.1mmより大きい場合を想定し、加熱ロールで圧着した上に、更に凹部内に半田を追加して埋込層を形成し、凹部内を完全に半田で埋め込む構造を作製して裏面封止の状態を試験した。なお、凹部幅が大きい実施例20、21の試料は幅5mmの酸化物超電導積層体に代えて幅12mmの酸化物超電導積層体を用いている。
【0058】
【表6】
【0059】
表6に示す結果から、凹部に半田をロールで圧着し、更に凹部に半田を追加して埋込層を形成した場合は、1.5〜9.0mmまでのいかなる凹部幅であっても、凹部を半田で埋めて封止しているならば、信頼性を確保できることが判明した。このことから、凹部に半田を充分な量充填することで、より完全な水分浸入防止構造を提供できることが分かった。