(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933905
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のための触媒、触媒担体および方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/12 20060101AFI20160609BHJP
C10G 35/085 20060101ALI20160609BHJP
C10G 45/10 20060101ALI20160609BHJP
C10G 45/52 20060101ALI20160609BHJP
C10G 47/14 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B01J29/12 M
C10G35/085
C10G45/10 Z
C10G45/52
C10G47/14
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2001-578083(P2001-578083)
(86)(22)【出願日】2001年4月18日
(65)【公表番号】特表2003-531002(P2003-531002A)
(43)【公表日】2003年10月21日
(86)【国際出願番号】NL2001000308
(87)【国際公開番号】WO2001080996
(87)【国際公開日】20011101
【審査請求日】2008年4月15日
【審判番号】不服2014-5877(P2014-5877/J1)
【審判請求日】2014年4月1日
(31)【優先権主張番号】00201443.9
(32)【優先日】2000年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】バーカンプ, マリウス
【合議体】
【審判長】
真々田 忠博
【審判官】
川端 修
【審判官】
河原 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭50−8996(JP,B1)
【文献】
国際公開第98/35754(WO,A1)
【文献】
英国特許出願公告第1117210(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5重量%までのバインダー、5〜50重量%の少なくとも1の分子ふるい物質および50〜95重量%の非結晶性の、ゼオライトでないシリカ−アルミナから成り、かつ酸性であるビーズ型触媒担体をゾル−ゲル法によって製造する方法であって、前記ゾル−ゲル法が、分子ふるい物質をその中に分散させて含む、アルミニウムおよび珪素の無機塩の水性ゾルを、油相を通ってアルカリ性水相に添加することを含む、上記方法。
【請求項2】
炭化水素供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のための触媒の製造法であって、ビーズ型触媒担体を請求項1記載の方法に従って用意すること、および貴金属から選択される触媒的に活性な成分を上記触媒担体上に適用することを含む、上記方法。
【請求項3】
触媒が、少なくとも0.2の分散度を有し、前記ゾル−ゲル法が、分子ふるい物質をその中に分散させて含む、アルミニウムおよび珪素の無機塩の水性ゾルを、油相を通ってアルカリ性水相に滴下することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
担体物質中の非結晶性の、ゼオライトでないシリカ−アルミナをゾル−ゲル法によって得ることを含み、かつ上記シリカ−アルミナのSiとAlとの比が1:10〜200:1である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
担体物質中の非結晶性の、ゼオライトでないシリカ−アルミナをゾル−ゲル法によって得ることを含み、かつ上記シリカ−アルミナのSiとAlとの比が1:10〜200:1である、請求項2または3記載の方法。
【請求項6】
分子ふるい物質が、所望により変性されている、ゼオライトY、ゼオライトβ、ZSM−5、MCM−41およびゼオライトX、ならびにその他のゼオライトおよび変性ゼオライトの群から選択される、請求項1または4記載の方法。
【請求項7】
分子ふるい物質が、所望により変性されている、ゼオライトY、ゼオライトβ、ZSM−5、MCM−41およびゼオライトX、ならびにその他のゼオライトおよび変性ゼオライトの群から選択される、請求項2、3または5記載の方法。
【請求項8】
担体がバインダーを含まない、請求項1、4または6記載の方法。
【請求項9】
担体がバインダーを含まない、請求項2、3、5または7記載の方法。
【請求項10】
触媒が、触媒的に活性な成分として、触媒の重量において計算して0.01〜5重量%の貴金属を含む、請求項2、3、5、7または9記載の方法。
【請求項11】
担体が少なくとも5μモル/gのブレンステッド酸性度を有する、請求項1、4、6または8記載の方法。
【請求項12】
触媒が少なくとも5μモル/gのブレンステッド酸性度を有する、請求項2、3、5、7、9または10記載の方法。
【請求項13】
触媒的に活性な成分が、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムおよびロジウムの群から選択される少なくとも1の成分を含む、請求項2、3、5、7、9、10または12記載の方法。
【請求項14】
触媒的に活性な成分が、白金、パラジウムまたはそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
触媒的に活性な成分が、白金およびパラジウムを10:1〜1:10の重量比で含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
硫黄汚染物質を含有する炭化水素供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のための方法において、触媒を請求項2、3、5、7、9、10および12〜15のいずれか1項記載の方法に従って用意すること、および供給原料を、水素気体の存在下で、上記触媒と接触させることを含む、上記方法。
【請求項17】
供給原料の重量に基づいて、硫黄として計算して0.1〜500ppmの硫黄汚染物質含量を有する供給原料が処理される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
炭化水素供給原料がチオフェン様硫黄汚染物質を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
硫黄汚染物質を含有する炭化水素供給原料が、ホワイトオイル、溶媒、ディーゼル油または中間留分、ガソリン、樹脂およびケロシンから成る群から選択される、請求項16〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
供給原料が、上流の水素化脱硫装置からの生成物である、請求項16〜19のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、触媒用担体、ならびに硫黄汚染物質および所望により窒素汚染物質を含有する供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化触媒が石油蒸留物およびその誘導体の水素化において使用されるとき、供給原料が硫黄成分および所望により窒素成分を汚染物質として含み、そのことが、触媒の寿命に悪影響を及ぼすという点で問題がしばしば現れる。そのような方法では、慣用の水素化触媒、例えば担持されたニッケルまたは白金触媒が通常適用される。この不活性化の問題を減少させるために、水素化の前に気体または液体供給原料から硫黄化合物の少なくとも一部を除去することに多く注意が払われている。この方法は、水素化脱硫(HDS)としても知られている。硫黄汚染物質を含有する供給原料は、窒素汚染物質をも含有し、それも触媒毒として作用し得る。
【0003】
一般に、硫黄不純物は、メルカプタンまたはチオフェン様化合物、特にチオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンとして、ならびにそれらの置換生成物として供給原料に存在する。その不純物は、硫化されたCo−Mo触媒を使用してH
2Sおよび炭化水素に転化され得る。
【0004】
HDSプロセスにおいて生じたH
2Sは一般に気相にあり、通常は適する溶媒または溶媒混合物の使用によって気相から吸着され、そして処理されて硫黄元素になる。
【0005】
HDSプロセスから得られた液体生成物流はなおも硫黄をいくらか含む。HDS装置からのこれらの生成物流の典型的な硫黄レベルは、0.1〜500ppmの範囲である。
【0006】
続く水素化工程で触媒としてニッケルが使用されるとき、硫黄の大部分は、ニッケルによって吸収される。その結果、ニッケル触媒は経時的に不活性化されるであろう。
【0007】
上記と同様の問題が、担体上の金属触媒によって触媒される、硫黄を含有する供給原料の水素化異性化プロセスにおいて生じ得る。これらのプロセスでは、パラフィンの炭素鎖が、同じ炭素−水素比を有する別の炭素鎖に転化される。
【0008】
硫黄毒作用によって引き起こされるニッケル触媒の劣化は実際、不可逆プロセスであるが、貴金属触媒は、硫黄汚染物質の存在下でその活性を一部保持する。硫黄に対する貴金属の感度は、使用される担体および金属の特性に関係する。
【0009】
米国特許第3,943,053号では、硫黄および窒素化合物を含有する炭化水素画分に存在する芳香族化合物およびオレフィンの水素化のために、塩素化されたアルミナ担体上の約1:3の重量比の白金およびパラジウムの合金の触媒を使用することが提案されている。この触媒は、単一金属の触媒と比較して、排出物における芳香族化合物の量を66%減少させることが報告された。
【0010】
フランス特許出願2569995は、少なくとも12:1のシリカ:アルミナのモル比および高い比表面積を有するバーミキュライトに基づく触媒の使用を記載している。その触媒は、周期律表のVIII族から選択される少なくとも1の金属またはその化合物をさらに含む。該フランス特許出願に記載された最も好ましい触媒は、周期律表のVIII族から選択される金属の少なくとも1の酸化物を、周期律表のVI族から選択される金属の少なくとも1の酸化物と組み合わせて、該バーミキュライト担体上に含む。
【0011】
欧州特許出願公開第540,123号には、アルミナ、シリカ−アルミナおよびゼオライトの押出物であって、その上にPtおよびPdが沈着された押出物が記載されている。この物質の活性は、限られている。
【0012】
欧州特許出願0669162号は、炭化水素流の芳香族化合物の含量を低下させる方法のための触媒を開示している。該触媒は、周期律表のVIII族の1以上の金属が沈着された特定のシリカ−アルミナ担体を含む。
【0013】
この触媒の欠点は、特定のシリカ−アルミナ担体が、アルミニウムアルコラートおよび/またはカルボキシレートおよび珪素アルコラートおよび/またはカルボキシレートの溶液から得られるということである。担体の製造のためにこれらの有機出発物質を使用することは、環境の点から魅力的でない。さらに、その担体の製造は、粘性ペーストの押出を含む。これは、追加のプロセス工程である。
【0014】
欧州特許出願公開第582,347号では、水素化異性化触媒として、同じ欠点を有する同様の触媒が提案されている。この触媒の特定の欠点は、1〜3nmの小さい孔サイズである。このことは、この触媒を重質供給原料の処理にあまり適さないものにする。さらに、硫黄汚染物質も存在する環境での作用についての情報は何ら示されていない。
【0015】
国際特許出願公開第9835754号では、従来の触媒のかなりの改善が提案されている。この文献は、ゾル−ゲル法によって製造された非結晶性シリカ−アルミナ担体に基づく触媒を記載している。該方法は、最初にシリカ−アルミナのゾルを調製し、次いでゾル滴を油相および水性アルカリ相に連続的に通すことによってゲル化することを含む。
【0016】
白金およびパラジウムの他の触媒は、米国特許第5,308,814号および国際特許出願公開第94/19429号に開示されている。前者の文献に開示されている触媒は、ゼオライトY担体上に担持されており、後者では、ゼオライトβ担体上に担持されている。
【0017】
ゼオライト担体上の貴金属、例えば白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムおよびロジウムの触媒は、例えばアルミナ上のものよりも活性が高いと思われるが、いくつか欠点を有する。ゼオライト上の白金、パラジウムまたはそれらの組み合わせに基づく触媒を使用する水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫は、使用される供給原料がより重質であるとき、より困難になる傾向があることが分かった。さらに、これらのゼオライトのいくつかは高価な物質であり、したがって、これらのゼオライト担体上の触媒を使用することは経済的にあまり魅力的でない。
【0018】
上記した方法のいくつかが、硫黄汚染物質を含有する供給原料の水素化において改善を提供するとしても、特に、水素化された化合物の特性においておよび活性の点において、まだなお改善の余地がある。
【0019】
したがって、本発明の目的は、硫黄および所望により窒素汚染物質を含有する供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のための新規触媒を提供することである。該触媒は、上記汚染物質による毒作用に対して低い感度を有する。
【0020】
本発明の更なる目的は、水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫の高い活性を有する触媒が使用されるところの、硫黄汚染物質を含有する供給原料を水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫する方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、軽質および重質の両方の供給原料が水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫され得るところの、硫黄汚染物質を含有する供給原料を水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫する方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、上記目的を最適に組み合わせる、すなわち、上記の所望の品質および特性全ての、十分バランスが取れて微調整されたプロファイルを有する触媒が使用されるところの、硫黄汚染物質を含有する供給原料を水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫する方法を提供することである。
【0023】
本発明は、実質的にバインダーを含まない担体物質における分子ふるい物質(molecular sieve material)(例えば、その用語の最も広い意味におけるゼオライト)と非結晶性のシリカ−アルミナとの組み合わせが、貴金属触媒の活性の改善および触媒の性能の改善の両方を生じる、すなわち水素化された供給原料の改善された特性を生じるという驚くべき発見に基づく。
【0024】
したがって、本発明は
、5重量%までのバインダー、5〜50重量%の少なくとも1の分子ふるい物質および50〜95重量%の非結晶性の、ゼオライトでないシリカ−アルミナから成り、かつ酸性であるビーズ型触媒担体
をゾル−ゲル法によって製造する方法であって、前記ゾル−ゲル法が、分子ふるい物質をその中に分散させて含む、アルミニウムおよび珪素の無機塩の水性ゾルを、油相を通ってアルカリ性水相に添加することを含む、
上記方法に関する。また、本発明は、炭化水素供給原料を水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫するための触媒
の製造法に関し、
上記方法は、ビーズ型触媒担体
を請求項1記載の方法に従って用意すること、および貴金属から選択される触媒的に活性な成分を
上記触媒担体上に適用することを含む。上記触媒は、特に、少なくとも0.2の分散度を有する。特には、担体物質が完全にバインダーを含まない。
【0025】
好ましい実施態様は、従属請求項において定義されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
20重量%より多い、または30重量%までのバインダー物質を含む慣用の物質と比較して、本発明は、実質的な改善を提供する。バインダー物質の存在は、触媒的に活性な部位の数、およびしたがって反応器の処理量において実質的な増加を生じる。さらに、記すべきことは、貴金属の量に対する活性が改善されるということである。さらに、分子ふるい物質およびシリカ−アルミナのこの組み合わせを使用することにより、改善された特性を有する水素化された供給原料、例えばより良好なセタン価を有するディーゼル燃料を得ることができる。一般に、ディーゼル油のセタン価は、芳香族環を水素化するおよび/またはナフテン環を開くことによって改善され得る。これらの改善は、担体物質の製造のために、本明細書で定義されるゾル−ゲル法が使用される場合にさらに一層顕著である。
【0027】
本発明の重要な利点は、触媒の担体が、慣用の押出された担体よりもはるかに高い機械的強度を有するビーズから成ることにある。同時に、本発明に従う方法で使用される触媒の貴金属の活性は、CO吸着によって定義される、匹敵し得る活性貴金属表面を有する同様の触媒と比較してほぼ同等であるか、高い。言い換えると、本発明によれば、同じ量の触媒を使用しながら、欧州特許出願公開第0540123号に開示された方法と比較するとき、反応器の単位体積に対してより高い活性が達成される。
【0028】
本発明はさらに、5〜50重量%の少なくとも1の分子ふるい物質および50〜95重量%のシリカ−アルミナを含んで実質的にバインダーを含まない物質から成る触媒または触媒担体に関する。この物質は、触媒的に活性な物質のための酸性特性を有する担体として、あるいは、酸触媒の作用を受ける反応、例えば一般に異性化、アルキル化または(脱)水和反応のための触媒として使用され得る。この実施態様では、本発明の物質は、酸性度、およびバインダーの不存在の調整を、この不存在の固有に予期される問題を伴うことなく行うことができることを特徴とする。
【0029】
本発明はまた、炭化水素供給原料が水素化または脱水素化されるところの反応をその最も一般的な形態で含む方法に関する。特に、硫黄汚染物質を含有する炭化水素供給原料を、水素の存在下で反応させる。これらの供給原料の重要な組は、種々の硫黄含有石油蒸留物およびその誘導体によって形成される。
【0030】
本発明の方法で水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫されるべき典型的な供給原料は、通常、供給原料の重量に基づいて、硫黄として計算して0.1〜500ppm、好ましくは0.1〜300ppmの硫黄汚染物質を有する。そのような供給原料の例は、特にベンゼン、「ホワイトオイル」、ガソリン、中間留分、例えばディーゼル油およびケロセン、溶媒および樹脂である。特に、本発明方法は、これらの供給原料中の芳香族化合物を水素化する、例えばチオフェン様硫黄汚染物質および/または窒素含有汚染物質を含み得る炭化水素供給原料を脱芳香族化するために使用されるべきである。
【0031】
驚くべきことに、芳香族供給原料中のオレフィンが、本発明の方法で選択的に水素化され得ることがさらに分かった。特に、パラジウムのみを含む触媒が使用されるとき、芳香族供給原料中のオレフィンのこの水素化は非常に有効である。
【0032】
特定の実施態様では、本発明の触媒を、国際特許出願公開第97/03150号に記載された手順に従ってニッケル触媒と組み合わせる。この実施態様に従う方法では、硫黄汚染物質を含む炭化水素供給物質を、ニッケル触媒の接触の前にまたは同時に本発明の触媒と接触させる。こうして、ニッケル触媒の硫黄耐性が改善され、非常に長い寿命が得られる。
【0033】
本発明の方法は、水素化に適する種々の型の反応器、例えば固体床反応器、流動床反応器、スラリー相反応器、細流相反応器などで行われ得る。
【0034】
本発明の方法の異なる実施態様では、供給原料の性質および所望の反応に必要な温度に少なくとも部分的に依存して、反応器の構成およびプロセス設計において改変が行われ得る。
【0035】
プロセス条件は、使用される供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫のために使用される公知のものである。
【0036】
水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫に使用される水素(分)圧は、供給原料の種類に依存し、好ましくは0.5〜300バール、より好ましくは0.9〜250バールである。
【0037】
一般に、本発明の方法に適する条件は、50〜450℃の温度および0.1〜25h
-1の時間当たりの液体空間速度(LHSV)をさらに含む。供給原料の種類および水素分圧に応じて、温度は、上記範囲内で適切に選択され得る。特に記すべきことは、水素化分解が最も高い温度、すなわち450℃までの温度を必要とし、一方、水素化脱硫の場合は400℃までの温度で十分である。水素化および水素化異性化は、350℃までの温度を使用して行われ得る。
【0038】
種々の比較的重質の供給原料、特に、比較的高い沸点を有する硫黄化合物(例えば、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよび置換されたジベンソチオフェン)を含有するものは、水素化のために相当高い温度を必要とし、そのプロセスのために使用されるべき温度は、触媒的に活性な物質、特に白金、パラジウムまたはそれらの組み合わせが非常に有効であるところの温度に対応する。
【0039】
上記したように、硫黄汚染物質を含有する炭化水素供給原料を水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫するための有利な方法をもたらす本発明の重要な局面は、非常に特定の触媒の選択である。すなわち、本発明は、上記したように、水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫において使用するための触媒にも関する。
【0040】
本発明の好ましい実施態様によれば、触媒が少なくとも0.2の分散度を有する。本明細書で定義される分散度は、この実施態様の触媒の重要な局面である。分散度は、以下に説明するように決定される第1パルスに吸着されるCO分子の数と、触媒サンプル中に存在する金属原子の数との比として定義される。
【0041】
担体中には、ある量の分子ふるい物質、一般には、結晶性のミクロまたはメソ多孔性物質、例えばゼオライト、変性されたゼオライトまたはリン酸アルミニウム、好ましくは酸性形態のゼオライトが存在する。ゼオライトまたは変性されたゼオライトの用語は、SiおよびAlに基づく伝統的なゼオライト物質だけでなく、他の物質、例えばチタンに基づくゼオライトも包含されることを示すために使用される。
【0042】
分子ふるい物質の量は、5〜50重量%、好ましくは15〜40重量%であり得る。適するゼオライトは、酸性のゼオライト、例えば酸性形態のゼオライトX、Y、β、MCM−41、ZSM−5、それらの変性物などである。他のありうる物質は、リン酸アルミニウムである。
【0043】
本発明に従う触媒の担体に存在するシリカ−アルミナは、結晶性である分子ふるい物質とは反対に、非結晶性である。結晶化度は一般に、X線回折によって決定される。非結晶性シリカ−アルミナ(特に非ゼオライト物質)は、1/2高さでの幅が1.0°未満の弧である回折ピークを何ら示さないX線回折パターン(2倍回折角に対して測定)を有する。
【0044】
シリカ−アルミナ/ゼオライト担体の酸性度は例えば、実験の部に記載されているように、ピリジン吸着/脱着を使用して測定され得る。
【0045】
しかし、好ましい実施態様によれば、その物質は酸性の特性を有し、特に、実験の部で定義されるように、少なくとも5μモル/gのブレンステッド酸性度を有する。特には、下限が25、最も好ましくは50μモル/gである。
【0046】
これに関して記すべきことは、触媒的に活性な金属の単体への適用が、酸性度に大きな影響を及ぼさないことである。特に貴金属の充填が2重量%より下のときはそうである。
【0047】
触媒の担体は、ゾル−ゲル法によって得られる。この方法は、環境の点から非常に魅力的である。これらの方法は、例えば欧州特許出願公開第0090994号に記載されており、分子ふるい物質をその中に分散させて含む、アルミニウムおよび珪素の無機塩の水性ゾルを、油相を通ってアルカリ性の水相へ滴下することを含む。こうして、均一な多孔性を有する均質なビーズが得られる。
【0048】
この特定の方法での担体の製造の利点は、押出などの別個の成形工程を行うことなくビーズが得られるということである。さらに、ビーズは、反応容器の充填および取り出し(unloading)の際に非常に便利にかつ安全に取り扱うことができ、また、そのほぼ球の形状故に反応容器において非常に高い充填度を可能にする。
【0049】
このゾル−ゲル製造法により担体を製造することの別の利点は、得られる担体が、非常に高い機械的強度を有し、また、微粉の製造を、あったとしてもほとんど生じないということである。担体のバルククラッシュ強度(BCS)およびサイドクラッシュ強度(SCS)は共に非常に高い値を有する。
【0050】
英国特許第790,476号には、ゾル−ゲル法によって得られ得るシリカ−アルミナ担体上に白金および/またはパラジウムを含む触媒が開示されている。しかし、この触媒は、炭化水素画分を改質する方法のための触媒である。また、この文献に記載されたシリカ−アルミナ担体の製造は、ゾル−ゲル法によるシリカ担体の製造を含み、アルミナは、イオン交換法またはその後の含浸工程によって後で導入される。記載された製造は、本発明にしたがって使用される触媒の担体よりも小さい表面積を有する担体をもたらす。
【0051】
本発明で使用されるべき触媒のシリカ−アルミナ担体は、25〜1200m
2/gの範囲、好ましくは25〜1000m
2/gの範囲において選択される表面積を有し得る。より好ましくは、担体の表面積が200〜1000m
2/gの範囲である。特定の範囲内にある表面積を有する担体は、触媒を最も活性なものにすることが分かった。
【0052】
本発明に従う方法において使用される触媒の担体の平均孔サイズ(円筒形の孔であると仮定して、孔の体積(<60nm)および表面積(BET)から計算される)は好ましくは、2.0nmより大きく、より好ましくは2.5nmより大きい。金属成分の担体への適用は、平均孔サイズをあまり変えないことが分かった。
【0053】
本発明によれば、Si/Al原子比が1:10〜200:1、好ましくは1:10〜100:1である。1:3〜50:1のSi/Al原子比を有することが最も好ましい。この範囲内において、活性の最適な増加が認められる。
【0054】
好ましくは、触媒が、触媒の重量に基づいて、少なくとも0.01、より好ましくは0.01〜5、最も好ましくは0.1〜2重量%の貴金属、すなわちロジウム、ルテニウム、イリジウム、白金、パラジウムまたはそれらの組み合わせを含む。
【0055】
触媒は好ましくは、白金およびパラジウムの両方を含む。この好ましい実施態様では、本発明の触媒に使用される白金およびパラジウムが好ましくは、10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5の重量比で存在する。注目すべきことは、金属が活性であるところの化学的形状がはっきりしないということである。これは、純粋な金属であってもよいが、金属スルフィドまたは金属アロイが硫黄耐性における増加に少なくとも部分的に寄与することもあり得る。
【0056】
本発明に従って使用される触媒は、必要な特性を有する担体上に貴金属成分を適用することにより製造され得る。そのような製造およびその条件の例は、当業者に公知である。1以上の活性金属成分またはその前駆体の担体物質への施与は、含浸、吸着、イオン交換、化学蒸着(CVD)または析出によって行うことができ、必要ならば前駆体を実際の触媒に転化するためのさらなる処理を行う。
【0057】
本発明は、非結晶性の酸性担体を、硫黄汚染物質を含有する供給原料の水素化、水素化異性化、水素化分解および/または水素化脱硫反応における白金、パラジウムまたはそれらの組み合わせに基づく触媒の性能を改善するために使用する方法をも包含する。
【実施例】
【0058】
実験
実施例において示したデータを得るために、以下の方法を使用した。
【0059】
触媒の酸性度
ピリジン吸着実験を、KBr窓を備えた拡散反射率高温室(Spectra-Tech)で行った。気体がその部屋を通って流動し、かつその部屋が排気され得るように、その部屋を気体系と連結した。
【0060】
サンプルを挽いて微粉末にし、アルミニウムのサンプルカップに入れた。サンプルを最初に450℃に加熱し、不活性気体流をその部屋に通しながら、450℃で少なくとも1時間保持した。環境温度に冷却した後、ピリジン不活性気体混合物をその部屋に約1分間通した。次いで、ピリジン流を停止し、一方、不活性気体の流動は続き、その系をこの状態で少なくとも1時間保持した。最後に、サンプルを不活性気体流中で180℃に加熱し、180℃で少なくとも1時間保持し、次いで、室温に冷却した。ブレンステッドおよびルイス酸部位上の吸着されたピリジンの量を、450℃での気体除去および180℃でのピリジンの脱着の後、公知の吸光度係数を有する対応するピリミジニウムバンドおよびピリジンルイス酸バンドを使用することにより赤外線スペクトルにおける相違を使用して決定された。
【0061】
分散
分散度は、以下のように25℃および1バールの圧力で、触媒の還元された形態でサンプル上に吸着されたCOの量を測定することにより決定され得る。触媒の既知量のサンプルを反応器に入れ、200℃で水素を用いて還元した。水素中で25℃に冷却した後、ヘリウムを用いて少なくとも30分間反応器をフラッシングする。次いで、ヘリウム流を、既知量のCOの6パルスと交換し、COの濃度を、反応器の出口で、熱伝導率検出器を用いて測定する。触媒およびCOの量は、触媒が第1パルスの後にCOで飽和されるように選択され、第2〜6パルスは、これを立証するために使用される。
【0062】
分散度の上限は、1つの貴金属(Pt、Ir、Ru、RhまたはPd)原子に結合され得るCO原子の理論的数に対応する。実際の目的のためには、一般に1の値が適する上限である。
【0063】
本発明を、下記の非限定的実施例に基づいてさらに説明する。
触媒製造
30重量%のゼオライトYを含有する担体を、ゼオライトHY粉末およびシリカおよびアルミニウム硫酸塩の溶液から、水性ゾル−ゲル法によって製造した。こうして得られた球をMVS052と命名する。MVS052のブレンステッド酸性度は、RTでのピリジン吸着および180℃での脱着によって決定されるとき、312μモル/gであった。MVS052に、PdおよびPtを含有する水性溶液を含浸させた。乾燥および還元の後、MVC069と命名された触媒が得られた。Pd含量は0.89重量%であった。Pt含量は0.30重量%であった。分散度は0.23であった。
【0064】
炭化水素転化
MVC069を固定床反応器に充填し、50バールの全圧、260℃の反応器入口温度、1.5リットル/hのLHSVおよび750リットル/hの水素GHSVで炭化水素流と接触させた。供給原料および生成物の特性を表に示す。
【0065】
【表1】