特許第5933962号(P5933962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933962
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】車輪径を調整する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 22/00 20060101AFI20160602BHJP
   B61K 9/12 20060101ALI20160602BHJP
   B61L 25/04 20060101ALI20160602BHJP
   G01B 21/10 20060101ALI20160602BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20160602BHJP
   G01M 17/10 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   G01C22/00 X
   B61K9/12
   B61L25/04
   G01B21/10
   G01B21/00 W
   G01M17/02 A
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-259736(P2011-259736)
(22)【出願日】2011年11月29日
(65)【公開番号】特開2012-118075(P2012-118075A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】201010577040.4
(32)【優先日】2010年11月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ウェン・チン・モウ
(72)【発明者】
【氏名】ニン・ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・サン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ボー・チャン
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−079942(JP,A)
【文献】 特開2005−067276(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0043486(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0233333(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 22/00
B61K 9/12
B61L 25/04
G01B 21/00
G01B 21/10
G01M 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪径を調整するための方法であって、
現車輪径分布ベクトルを入手するステップと、
前記現車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップと、
候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップと、
前記現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的磨耗率の減少が所定の条件に適合するように、前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを選択するステップと、
を含む、方法であって、
車輪径分布ベクトルは、列車の長手方向に沿ったそれぞれの車輪径を表わすベクトルである、方法
【請求項2】
履歴レコードにおいて既知車輪径分布ベクトルから前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するステップは、
前記履歴レコードから複数の既知車輪径分布ベクトル及びそれらに対応する実際の磨耗率を入手するステップと、
前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するために、前記複数の既知車輪径分布ベクトル及び対応する実際の磨耗率をクラスタ化するステップと、
各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率を計算するステップと、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップは、
各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの加重平均車輪径分布ベクトルを計算するステップと、
前記現車輪径分布ベクトルと前記加重平均車輪径分布ベクトルとの間の距離を計算し、前記距離を類似性スコアとして受け入れるステップと、
を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップは、
或る既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関して、そのクラスタに含まれた各既知車輪径分布ベクトルと前記現車輪径分布ベクトルとの間の距離を計算するステップと、
距離条件に適合する前記現車輪径分布ベクトルまでの距離を有する、前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタ内の既知車輪径分布ベクトル・クラスタの数に従って、前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタと前記現車輪径分布ベクトルとの間の類似性スコアを決定するステップと、
を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップは、
前記列車の車軸シーケンス(各車輪径)を調整することによって得ることができるすべての候補目標車輪径分布ベクトルを列挙するステップと、
各列挙された候補目標車輪径分布ベクトルに関して、そのベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップと、
を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記目標車輪径分布ベクトルを選択するステップは、前記現車輪径分布ベクトルを候補目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られた潜在的磨耗率の減少を、前記候補目標車輪径分布ベクトルの切り替え成果としてみなし、前記現車輪径分布ベクトルを前記候補目標車輪径分布ベクトルに切り替えるために必要なコストを、前記候補目標車輪径分布ベクトルの切り替えコストとしてみなして、前記切り替え成果が最大範囲への切り替えコストよりも大きい候補目標車輪径分布ベクトルを前記目標車輪径分布ベクトルとして選択するステップを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記目標車輪径分布ベクトルを選択するステップは、最適問題を解決することによって前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを決定するステップを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記現車輪径分布ベクトルを入手するステップは、
左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルを入手するステップと、
前記左車輪の現車輪径分布ベクトル及び前記右車輪の現車輪径分布ベクトルを結合して前記現車輪径分布ベクトルとするステップと、
を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
車輪径を調整するための装置であって、
現車輪径分布ベクトルを入手するように構成された入手手段と、
前記現車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために、前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第1の潜在的磨耗率決定手段と、
候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために、前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第2の潜在的磨耗率決定手段と、
前記現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的磨耗率の減少が所定の条件に適合するよう、前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを選択するように構成された選択手段と、
を含む、装置であって、
車輪径分布ベクトルは、列車の長手方向に沿ったそれぞれの車輪径を表わすベクトルである、装置
【請求項11】
履歴レコードにおいて既知車輪径分布ベクトルから前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するように構成された生成手段を更に含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記生成手段は、
前記履歴レコードから複数の既知車輪径分布ベクトル及びそれらの対応する実際の磨耗率を入手するように構成された手段と、
前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するために、前記複数の既知車輪径分布ベクトル及び対応する実際の磨耗率をクラスタ化するように構成された手段と、
各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率を計算するように構成された手段と、
を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の潜在的磨耗率決定手段は、
各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの加重平均車輪径分布ベクトルを計算するように構成された手段と、
前記現車輪径分布ベクトルと前記加重平均車輪径分布ベクトルとの間の距離を前記類似性スコアとして計算し、前記距離を類似性スコアとして受け入れるように構成された手段と、
を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記第1の潜在的磨耗率決定手段は、
或る既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関して、そのクラスタに含まれた各既知車輪径分布ベクトルと前記現車輪径分布ベクトルとの間の距離を計算するように構成された手段と、
距離条件に適合する前記現車輪径分布ベクトルまでの距離を有する、前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタ内の既知車輪径分布ベクトル・クラスタの数に従って、前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタと前記現車輪径分布ベクトルとの間の類似性スコアを決定するように構成された手段と、
を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記第2の潜在的磨耗率決定手段は、
前記列車の車軸シーケンス(各車輪径)を調整することによって得ることができるすべての候補目標車輪径分布ベクトルを列挙するように構成された手段と、
各列挙された候補目標車輪径分布ベクトルに関して、そのベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された手段と、
を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記選択手段は、前記現車輪径分布ベクトルを候補目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られた潜在的磨耗率の減少を、前記候補目標車輪径分布ベクトルの切り替え成果とみなし、前記現車輪径分布ベクトルを前記候補目標車輪径分布ベクトルに切り替えるために必要なコストを、前記候補目標車輪径分布ベクトルの切り替えコストとみなして、前記切り替え成果が最大範囲への切り替えコストよりも大きい候補目標車輪径分布ベクトルを前記目標車輪径分布ベクトルとして選択するように構成された手段を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記選択手段は、最適問題を解決することによって前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを決定するように構成された手段を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記入手手段は、
左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルを入手するように構成された手段と、
前記左車輪の現車輪径分布ベクトル及び前記右車輪の現車輪径分布ベクトルを結合して前記現車輪径分布ベクトルとするように構成された手段と、
を含む、請求項10乃至12のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車データ処理の分野に関し、特に、列車の車輪径を調整する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速列車システムにおいて、車輪は、安全性及び快適性を保証するための重要な要素の1つである。高速鉄道の運転手は、車輪の良好な稼動状態を維持する必要がある。車輪が良好な稼動状態にあるためには、各車輪の車輪径が所定の車輪径仕様に適合しなければならず、車輪間における車輪径の差(以後、車輪径差という)も所定の車輪径差の仕様に適合しなければならない。例えば、例示的な車輪径差の仕様は、同じ車軸に搭載される一対の車輪間に関して0.2mmという最大の車輪径差を規定し、同じボギー台車上に搭載された車輪間に関して3mmという最大のボギー台車車輪径差を規定している。
【0003】
高速列車の稼動中、車輪はレールとの接触のような外的要素のために磨耗し、その結果、車輪径は、車輪径仕様で規定された最小車輪径以下に減少してその車輪をスクラップ化させることがあり得る。外的要素の複雑性のために、種々の車輪の磨耗量は全く同じとはならない。その結果、車輪径が、車輪径仕様で規定された最小車輪径以下に未だ減少してなくても、その車輪径差は、最早、車輪径差仕様に適合せず、従ってその車輪は恐らくスクラップ化されるということが起こり得る。
【0004】
従って、列車の保守整備時には、車輪径差仕様に適合するように車輪径を調整することが必要である。既存の方法は、一般に、大きい車輪径を有する車輪と小さい車輪径を有する車輪との間の車輪径差を少なくするようにその大きい車輪径を有する車輪を研削する。図1の(A)は、調整前の車輪径を示し、図1の(B)は調整後の車輪径を示す。図1の(A)及び図1の(B)では、正方形ポイントの垂直座標が左車輪径を表わし、菱形ポイントの垂直座標が右車輪径を表わす。同じ水平座標を有するポイントは同じ車軸上に搭載された左車輪及び右車輪に対応する。調整後は、同じ車軸上の車輪間の車輪径差がほとんどゼロになり、菱形ポイントを正方形ポイントとほとんど重畳させていることがわかる。更に、調整によって、同じ車軸上の一対の車輪において大きい車輪径を有する車輪が、その一対の車輪における小さい車輪径を有する車輪と同じ車輪径を有するように研削されることも知られている。最大のボギー台車車輪径差が規定されている場合、同じボギー台車上の車輪のうちの最小車輪径に関して他の車輪を研削することが必要であることもある。
【0005】
研削後に最大の車輪径差に関する限度が満たされても、列車全体の車輪径分布がグローバルな視点の欠如のために変化することがある。図1の(C)は、調整前及び調整後の左車輪の比較を示す。この図では、菱形ポイントは調整前の車輪径を表わし、正方形ポイントは調整後の車輪径を表わす。円内のポイントによって表わされた連続する車輪間の分布は調整後に変化したということがわかる。そのような変化は、車輪の将来の稼動状態に悪い影響を与えることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車輪径調整のための方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施例による方法は、現在の車輪径分布ベクトル(以後、現車輪径分布ベクトルという)を入手するステップと、前記現車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップと、候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するステップと、前記現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的磨耗率の減少が所定の条件に適合するように、前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを選択するステップと、を含む。
【0008】
本発明の実施例による装置は、現車輪径分布ベクトルを入手するように構成された入手手段、前記現車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第1の潜在的磨耗率決定手段と、候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために、前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第2の潜在的磨耗率決定手段と、前記現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的磨耗率の減少が所定の条件に適合するように、前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを選択するように構成された選択手段と、を含む。
【0009】
本発明の実施例によって提供される技術的解決方法に従って、将来の潜在的磨耗率に関する車輪径分布ベクトルの影響は車輪径調整時に配慮され得るし、従って、車輪径分布ベクトルは最適化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】列車の車輪径分布を示すグラフである。
図2】本発明の実施例に従って車輪径を調整するための方法のフローチャートである。
図3】本発明の実施例に従って既知車輪径分布ベクトルを生成するためのフローチャートである。
図4】本発明の実施例に従って現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するための方法のフローチャートである。
図5】本発明の実施例に従って現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するための方法のフローチャートである。
図6】本発明の実施例に従って車輪径を調整するための装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図2は、本発明の実施例に従って車輪径を調整するための方法のフローチャートを示す。
【0012】
ステップ201において、保守整備されるべき列車の現車輪径分布ベクトルが得られる。
【0013】
現車輪径分布ベクトルは、保守整備されるべき列車の車輪の車輪径を測定することによって得ることができる。車輪径分布ベクトルは、列車の長手方向に沿った車輪径の分布を表わす。例えば、列車が48対の車輪を有すると仮定すると、車輪径分布ベクトルDは次式のように表わすことができる。
D=[d1,d2・・・d47,d48]
但し、di はi番目の車輪の車輪径を表わす。
【0014】
保守整備されるべき列車の左車輪の現車輪径分布ベクトルが右車輪の現車輪径分布ベクトルとは異なることがあり得るということは当業者には明らかであろう。処理の便宜上、左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルのどちらかが保守整備されるべき列車の現車輪径分布ベクトルとして選択され得る。保守整備されるべき列車の現車輪径分布ベクトルとして、左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルを混ぜ合わせることも可能である。例えば、前述のように、同じ軸に属する右車輪及び左車輪間の車輪径差が最大の軸車輪径差よりも小さいということを保証するために、通常は、大きい車輪径を有する方の車輪が研削される。Dが左車輪の現車輪径分布ベクトルであること及びDが右車輪の現車輪径分布ベクトルであることを仮定すると、保守整備されるべき列車の現車輪径分布ベクトルDL&Rは次式のようになり得る。
L&R=[min(dL1,dR1), min(dL2,dR2),・・・min(dL47,dR47),min(dL48,dR48)]
但し、“min”は、括弧内の値のうちの最小値をとることを意味する。
【0015】
保守整備されるべき列車の現車輪径分布ベクトルを左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルから得るための種々の方法を当業者は想起し得る。
【0016】
もちろん、左車輪の現車輪径分布ベクトル及び右車輪の現車輪径分布ベクトルを2つの現車輪径分布ベクトルとして扱うことも可能である。
【0017】
ステップ202では、現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアに従って、現車輪径分布ベクトルの潜在的な磨耗率が決定される。
【0018】
既知車輪径分布ベクトル・クラスタは、当該保守整備以前における種々の保守整備において記録された車輪径分布ベクトルから得られる。既知車輪径分布ベクトルと実際の磨耗率との間の対応関係が得られるよう、前の保守整備の終了時に車輪径分布ベクトルを測定及び記録すること、並びに次の保守整備時に実際の磨耗率を記録することも可能である。磨耗率は、ミリメータ単位での車輪径の減少量によって、またはそれに対応する金額によって表わすことが可能である。
【0019】
本発明の1つの実施例によれば、種々の既知車輪径分布ベクトルの各々を既知車輪径分布ベクトル・クラスタとして扱うことが可能である。即ち、各既知車輪径分布ベクトル・クラスタは1つの既知車輪径分布ベクトルしか含まず、従って既知車輪径分布ベクトルに対応する実際の磨耗率が既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率である。
【0020】
次に、図3を参照して本発明の別の実施例による既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成する方法を説明する。
【0021】
ステップ301において、複数の既知車輪径分布ベクトル及び対応する実際の磨耗率が履歴記録から得られる。
【0022】
ステップ302では、その複数の既知車輪径分布ベクトル及び対応する実際の磨耗率がクラスタ化される。
【0023】
パーティショニング・クラスタ化、階層的クラスタ化、密度の基づいたクラスタ化、モデルに基づいたクラスタ化等のような種々のクラスタ化方法が当業者により容易に想起可能である。なお、パーティショニング・クラスタ化は、更に、K平均(K-means)クラスタ化、K中央値(K-median)クラスタ化、及びK−NNクラスタ化を含み得る。
【0024】
そのようにして生成された既知車輪径分布ベクトル・クラスタは複数の既知車輪径分布ベクトル・クラスタを含み得る。
【0025】
ステップ303において、各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率が計算される。
【0026】
1つの既知車輪径分布ベクトルしか含まない既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関して、既知車輪径分布ベクトルに対応する実際の磨耗率は、既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率である。複数の既知車輪径分布ベクトルを含む1つの既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関して、その複数の既知車輪径分布ベクトルに対応する実際の磨耗率は、既知車輪径分布ベクトル・クラスタの平均磨耗率を得るために加重平均され得る。その加重平均化において使用されるウェイトを割り振る種々な方法を当業者は想起し得る。例えば、或る既知車輪径分布ベクトルの発生数とそれに対応する既知車輪径分布ベクトル・クラスタに含まれた既知車輪径分布ベクトルすべての合計発生数との比率が、その既知車輪径分布ベクトルに対応する実際の磨耗率のウェイトとして使用され得る。もちろん、すべての実際の磨耗率に同一のウェイトを割り振ることも可能である。
【0027】
ステップ301乃至303は、本発明の既知車輪径分布ベクトル・クラスタを初めて生成するステップを示す。既知車輪径分布ベクトル・クラスタの生成後、新たな既知車輪径分布ベクトル及びそれに対応する実際の磨耗率が記録されるたびに、その新たな既知車輪径分布ベクトル及び対応する実際の磨耗率が、既に生成された既知車輪径分布ベクトル・クラスタにクラスタ化され得るかどうかを決定することが可能である。それが肯定される場合、それは既に生成された既知車輪径分布ベクトル・クラスタにクラスタ化される。それが否定される場合、それらは、新たな既知車輪径分布ベクトル・クラスタにおける第1の既知車輪径分布ベクトルとして扱われる。
【0028】
現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するための多くの方法が存在する。図4は、本発明の1つの実施例に従って、現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するための方法を示す。
【0029】
ステップ401において、各既知車輪径分布ベクトル・クラスタの加重平均車輪径分布ベクトルが計算される。
【0030】
ベクトル平均化はその分野では一般的な技法であり、これに関する説明は省略される。加重平均化において使用されるウェイトを割り当てるための種々の方法を当業者は想起し得る。例えば、或る既知車輪径分布ベクトルの発生数と1つの対応する既知車輪径分布ベクトル・クラスタに含まれたすべての既知車輪径分布ベクトルの合計発生数との比率は、その既知車輪径分布ベクトルのウェイトとして使用することが可能である。1つの既知車輪径分布ベクトルしか持たない既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関しては、その既知車輪径分布ベクトルがその既知車輪径分布ベクトル・クラスタの加重平均車輪径分布ベクトルである。
【0031】
ステップ402では、現車輪径分布ベクトルと平均化された車輪径分布ベクトルとの間の距離が計算され、その距離は類似性スコアとみなされる。
【0032】
当業者はベクトル距離の種々の定義を想起し得るので、それに関する説明は省略される。
【0033】
図5は、本発明の別の実施例に従って現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するための方法を示す。
【0034】
ステップ501において、或る既知車輪径分布ベクトル・クラスタに関して、それに含まれる各既知車輪径分布ベクトルと現車輪径分布ベクトルとの間の距離が計算される。
【0035】
ステップ502では、既知車輪径分布ベクトルと現車輪径分布ベクトルとの間の距離が所定の距離条件を満たすときにはいつも、その既知車輪径分布ベクトル・クラスタに対応する類似性スコアが所定の量ずつインクリメントされる。
【0036】
本実施例では、類似性スコアの値が大きいほど、高い類似性スコアを表わす。例えば、距離閾値よりも小さい現車輪径分布ベクトルからの距離を有する既知車輪径分布ベクトルの数を、対応する既知車輪径分布ベクトル・クラスタと現車輪径分布ベクトルとの間の類似性スコアとして使用することが可能である。その数は、絶対数、相対数、またはそれの組み合わせであってもよい。この場合、「相対数」は、距離閾値よりも小さい現車輪径分布ベクトルからの距離を有する既知車輪径分布ベクトル・クラスタの絶対数と、対応する既知車輪径分布ベクトル・クラスタに含まれた既知車輪径分布ベクトルの絶対数との比率を意味する。
【0037】
当業者には明らかなように、現車輪径分布ベクトルが任意の既知車輪径分布ベクトル・クラスタと同じでないということがあり得る。その場合、現車輪径分布ベクトルを、新たな既知車輪径分布ベクトル・クラスタとして扱うことが可能である。
【0038】
図2のステップ203に説明を戻すと、候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率は、その候補目標車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアに従って決定される。
【0039】
候補目標車輪径分布ベクトルは、列車の車軸シーケンスを調整することによって得ることができる車輪径分布ベクトルである。或る列車では、車軸シーケンスの調整の最小単位はボギー台車である。即ち、1つのボギー台車上のすべての車軸が一体的に調整される必要がある。それは、車軸シーケンスを調整する1つの態様に属する。列車の車軸シーケンスが調整された後、車輪径分布ベクトルが変化し得るということは明らかである。変化した車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性の程度は、その変化前の車輪径分布ベクトルのそれとは異なることがある。従って、候補目標車輪径分布ベクトルは、現車輪径分布ベクトルのそれとは異なる潜在的磨耗率を持ち得る。候補目標車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性の程度を計算する方法は、現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性の程度を計算する方法と同じであり、その説明を省略する。
【0040】
ステップ204では、現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的な磨耗率の減少が所定の条件を満たすように、目標車輪径分布ベクトルが候補目標車輪径分布ベクトルから選択される。
【0041】
前述したように、各候補目標車輪径分布ベクトルに関して、それの潜在的磨耗率は既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの比較によって得ることが可能である。従って、現車輪径分布ベクトルを候補の車輪径分布ベクトルに切り替えることによって得られる潜在的な磨耗率の減少は容易に達成され、更に、潜在的な磨耗率の減少に対応する金額で表わされる所定の切り替え成果を容易に得ることができる。一方、現車輪径分布ベクトルを候補目標車輪径分布ベクトルに切り替えるためには金額で表わされた所定の切り替えコストが必要であるということは当業者には明らかであろう。所定の条件は、潜在的磨耗率の減少に対応する切り替え成果が必要な切り替えコストよりも可能な限り大きいということであろう。
【0042】
本発明の実施例によれば、目標車輪径分布ベクトルは、消耗方法(exhaustion method)によって選択することが可能である。先ず、列車の車軸シーケンスを調整することによって得られるすべての候補目標車輪径分布ベクトルが列挙される。当業者には明らかなように、或る限定された数の車軸に関して、候補目標車輪径分布ベクトルの総数が限定される。各候補目標車輪径分布ベクトルに対して、それの対応する切り替え成果及び切り替えコストを得ることができる。更に、切り替え成果が最大範囲までの切り替えコストよりも大きい候補目標車輪径分布ベクトルが目標車輪径分布ベクトルとして選択される。
【0043】
本発明の別の実施例によれば、目標車輪径分布ベクトルが、最適問題を解決することによって候補目標車輪径分布ベクトルから決定され得る。本実施例は、ボギー台車を切り替えの単位として使用することによって後述される。当業者には明らかなように、車軸を切り替えの単位として使用することも可能である。或る実施異例では、最適問題は次のように記述され得る。
・ 定数
N:ボギー台車の数
・ 決定変数
i,j:=1、ボギー台車iが切り替え後に位置jに位置付けられる場合
=0、そうでない場合
v:選択された目標車輪径分布ベクトルに対応する潜在的磨耗率
ADL:左車輪の目標車輪径分布ベクトル
ADR:右車輪の目標車輪径分布ベクトル
但し、iはボギー台車の通し番号であり、jはボギー台車の位置番号であり、共に[0,N−1]の範囲にある。
・ 制約事項
各iに対して、下記「数1」の式で表わされる
各jに対して、下記「数2」の式で表わされる
これらの2つの制約事項は、各ボギー台車が必ず1つの位置に位置付けられ、しかもその位置にだけ位置付けられる、ということを意味する。
【数1】

【数2】

・最適化目標
vを最小にする
下記「数3」を最大にする
但し、第1の最適化目標は、選択された目標車輪径分布ベクトルに対応する潜在的磨耗率を最小にすることであり、第2の最適化目標は、不変に保たれるようボギー台車の数を最大にすることである。
【数3】
【0044】
最適問題を考えると、当業者は種々のアルゴリズムによってその最適問題を解決することができる。最適問題を解決するための一般的な方法は、焼鈍しアルゴリズム、遺伝的アルゴリズム、及び整数計画アルゴリズムを含む。
【0045】
上述のように、列車の保守整備時に、研磨により車輪径差仕様に適合するように車輪径を調整することが必要である。最適問題を解決するための方法を使用することによって研磨の量、切り替えコスト、及び切り替え成果を包括的な見地で最適化することが可能である。再び、切り替えの単位としてボギー台車を仮定すると、最適問題を次のように記述することができる。
・ 定数
N:ボギー台車の数
M:各ボギー台車における車軸の数
BDL:左車輪の現車輪径分布ベクトル
BDR:右車輪の現車輪径分布ベクトル
T1:最大のボギー台車車輪径差
T2:最大の車軸車輪径差
・ 決定変数
i,j:=1、ボギー台車iが切り替え後に位置jに位置付けられる場合
=0、そうでない場合
v:選択された目標車輪径分布ベクトルに対応する潜在的磨耗率
ADL:左車輪の目標車輪径分布ベクトル
ADR:右車輪の目標車輪径分布ベクトル
δk:k番目の車軸上の大きい径を有する車輪の研削量
但し、iはボギー台車の通し番号であり、jはボギー台車の位置番号であり、共に、[0,N-1]の範囲にある。kは車軸の通し番号であり、kは車軸の通し番号であり、[0,M*N−1]の範囲にある。
・ 制約事項
各iに対して、下記「数4」の式で表わされる。
各jに対して、下記「数5」の式で表わされる。
|bdLK-bdRK|-δK≦T2
研削の後、同じボギー台車における車輪間の最大のボギー台車車輪径差≦T1
前者の2つの制約事項は、各ボギー台車が必ず1つの位置に位置付けられ、しかもその位置にだけ位置付けられる、ということを意味する。第3の制約事項は、同じ車軸上の左車輪及び右車輪の間の車輪径差が研削後の最大の車軸車輪径差よりも小さくなければならない、ということ意味する。
【数4】

【数5】

・ 最適化目標
vを最小化し
下記「数6」を最大にし
下記「数7」を最小にする
但し、第1の最適化目標は、選択された目標車輪径分布ベクトルに対応する潜在的磨耗率を最小にすることであり、第2の最適化目標は、不変に保たれるようボギー台車の数を最大にすることであり、第3の最適化目標は、研削量を最小にすることである。
【数6】

【数7】
【0046】
上記の最適問題を解決することによって、潜在的磨耗率、切り替えコスト、及び研削の量をできるだけ多く減少させるということに関して最適である目標車輪径分布ベクトルを出力することが可能である。
【0047】
図6は、本発明の実施例に従って車輪径を調整するための装置のブロック図である。その装置は、
現車輪径分布ベクトルを入手するように構成された入手手段と、
前記現車輪径分布ベクトルの潜在的磨耗率を決定するために前記現車輪径分布ベクトルと既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第1の潜在的磨耗率決定手段と、
候補目標車輪径分布ベクトルの潜在的な磨耗率を決定するために、前記候補目標車輪径分布ベクトルと前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタとの間の類似性スコアを計算するように構成された第2の潜在的磨耗率決定手段と、
前記現車輪径分布ベクトルを目標車輪径分布ベクトルに切り替えることによる潜在的磨耗率の減少が所定の条件に適合するように、前記候補目標車輪径分布ベクトルから前記目標車輪径分布ベクトルを選択するように構成された選択手段と、
を含む。
【0048】
図6に示されるように、その装置は、履歴レコードにおいて前記既知車輪径分布ベクトルから前記既知車輪径分布ベクトル・クラスタを生成するように構成された生成手段を更に含み得る。
【0049】
上記の方法及び装置がコンピュータ実行可能命令において具現化され及び/又はプロセッサ制御コードとして組み込まれ得るということは当業者には明らかであろう。なお、そのプロセッサ制御コードは、ディスク、CD、又はDVD−ROMのような搬送可能媒体、リード・オンリ・メモリのようなプログラマブル媒体(ファームウェア)、或いは光学的又は電子的信号キャリアのようなデータ搬送体上に搭載可能である。本発明の実施例の装置及びそれのコンポーネントは、ハードウェア回路において、例えば、超大規模集積回路又はゲート・アレイのような半導体、ロジック・チップ、トランジスタ等において、又はFPGA(書換え可能ゲート・アレイ)、プログラマブル論理デバイス等のようなプログラマブル・ハードウェア・デバイスにおいて具現化可能であり、或いは、上記のハードウェア回路及びファームウェアのようなソフトウェアの組み合わせにおいて具現化可能である。
【0050】
多くの実施例を図示及び説明したが、本発明の原理及び主旨から逸脱することなくそれらの実施例に対して種々の修正が行われ得るということは当業者には明らかであろう。本発明の技術的範囲は、「特許請求の範囲」の記載及びそれの均等物によって定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6