【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルであって、前記シェルは、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有し、前記ラジカル重合性モノマーは、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを50〜95重量%含有する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルにおいて、シェルにラジカル重合性モノマーの重合体を用い、かつ、ラジカル重合性モノマーに、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを比較的多量の所定の配合量で含有させることにより、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合であってもその影響を抑制し、耐熱性及び耐溶剤性を改善できることを見出した。本発明者は、このような硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する。
上記シェルは、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有し、上記ラジカル重合性モノマーは、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを50〜95重量%含有する。シェルにこのようなラジカル重合性モノマーの重合体を用いることにより、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルを、高度に架橋された、耐熱性及び耐溶剤性に優れたシェルとすることができる。即ち、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合であってもその影響を抑制することができる。これにより、本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び熱安定性を発揮することができ、また、速硬化性が低下することもない。
【0011】
上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーは、ラジカル重合性基を分子内に2つ以上有していればよく、ラジカル重合性基を分子内に多数有していてもよい。
【0012】
上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性及び耐溶剤性を向上させることができ、また、コア剤と相分離しやすい重合体が得られることから、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記ラジカル重合性モノマーにおける上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーの含有量は、下限が50重量%、上限が95重量%である。含有量が50重量%未満であると、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合には特に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下する。含有量が95重量%を超えると、シェルが架橋されすぎることにより、硬化時には加熱してもシェルが溶融又は分解せず、硬化反応に長時間を要する。
上記ラジカル重合性モノマーにおける上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーの含有量の好ましい下限は60重量%、好ましい上限は85重量%であり、より好ましい下限は70重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0014】
上記ラジカル重合性モノマーに含まれる上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー以外のモノマーとして、例えば、1官能のラジカル重合性基を有するモノマーが挙げられる。上記1官能のラジカル重合性基を有するモノマーとして、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル基を有する化合物が好ましい。上記ビニル基を有する化合物として、具体的には例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリロニトリル等の共役モノマー、又は、酢酸ビニル、塩化ビニル等の非共疫モノマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記ラジカル重合性モノマーの重合体を得る方法として、上記ラジカル重合性モノマー100重量部を、ラジカル重合開始剤2〜10重量部を用いて重合させる方法が好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が2重量部未満であると、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合には特に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性又は耐溶剤性が低下したり、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが形成されなかったりすることがある。10重量部を超えてラジカル重合開始剤を添加してもほとんど反応には寄与せず、ブリードアウト等の原因となることがある。
【0016】
上記ラジカル重合開始剤は特に限定されないが、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましく、具体的には例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ラジカル重合性モノマーを重合させる方法は特に限定されず、使用するラジカル重合開始剤の種類等に従って、光を照射したり加熱したりすることにより重合を開始させることができる。
【0017】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、上記シェルの表面に、更に別の層を有していてもよい。
【0018】
上記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、融点が100℃未満であることが好ましく、例えば、三級アミン化合物、イミダゾール化合物等のアミン化合物、又は、リン系触媒等が挙げられる。なかでも、硬化性に優れることから、イミダゾール化合物が好ましい。
上記イミダゾール化合物は特に限定されず、例えば、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、及び、これらの付加体等が挙げられる。
【0019】
また、上記イミダゾール化合物として、疎水性イミダゾール化合物を用いることが好ましい。なお、疎水性イミダゾール化合物とは、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であるイミダゾール化合物を意味する。
上記疎水性イミダゾール化合物は、炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物が好ましい。上記炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物として、例えば、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール等が挙げられる。なかでも、2−ウンデシルイミダゾールが好ましい。
【0020】
なお、イミダゾール化合物はシェル形成時にラジカル重合を阻害することから、従来、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤がイミダゾール化合物である場合には特に、耐熱性及び耐溶剤性に優れたマイクロカプセルを得ることは難しかった。これに対し、本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、シェルが上述のようなラジカル重合性モノマーの重合体を含有することから、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤がイミダゾール化合物である場合であっても耐熱性及び耐溶剤性に優れる。
【0021】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みは、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が0.8μmである。シェル厚みが0.05μm未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。シェル厚みが0.8μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要することがある。シェル厚みのより好ましい下限は0.08μm、より好ましい上限は0.5μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みとは、下記式(1)により算出される、カプセルの体積と内包体積比率から算出したシェルの体積を、カプセルの表面積で割ることで求められる値を意味する。
シェル厚み={カプセルの体積−(カプセルの体積×内包体積比率)}/カプセルの表面積 (1)
【0022】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、好ましい下限が15体積%、好ましい上限が70体積%である。内包体積比率が15体積%未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要したり硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを多量に配合する必要が生じたりすることがある。内包体積比率が70体積%を超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルが薄くなりすぎて強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。内包体積比率のより好ましい下限は25体積%、より好ましい上限は50体積%である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、平均粒子径を用いて算出したカプセルの体積とガスクロマトグラフィーを用いて測定したコア剤の含有量から、下記式(2)により算出される値を意味する。
内包体積比率(%)=(コア剤の含有量(重量%)×コア剤の比重(g/cm
3))/カプセルの体積(cm
3) (2)
【0023】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径は、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が10μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、所望の範囲の内包率を維持しようとすると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。平均粒子径が10μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを硬化性樹脂組成物に配合した場合に、加熱により硬化剤及び/又は硬化促進剤が放出された後、大きなボイドが生じて硬化物の信頼性が低下することがある。平均粒子径のより好ましい上限は3.0μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のカプセルが観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のカプセルの最長径をノギスで測定した平均値を意味する。
【0024】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度は、好ましい下限が250℃である。5%重量損失温度が250℃未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性が低いため、硬化性樹脂組成物に配合される場合に熱安定性が低下することがある。5%重量損失温度のより好ましい下限は280℃である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度とは、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)によりシェルを加温したときに、シェルの重量が初期重量から5%減少したときの温度を意味する。
【0025】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率は、1重量%未満であることが好ましい。溶解重量減少率が1重量%以上であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐溶剤性が低いため、溶剤と併用する場合の貯蔵安定性が低下することがある。溶解重量減少率は0.5重量%未満であることがより好ましい。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率とは、酢酸エチル中で硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを室温で24時間浸漬攪拌した後、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと酢酸エチルとを分離し、酢酸エチルを減圧留去することにより析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量を測定したときの、析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量と浸漬攪拌前の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの重量との比を意味する。
【0026】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを製造する方法は、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を上記ラジカル重合性モノマーに溶解した混合溶液(1)を、水性媒体に分散させて乳化液(1)とし、次いで、上述したようにラジカル重合性モノマーを重合させる方法が好ましい。また、上記ラジカル重合性モノマーを、水性媒体に分散させて乳化液(2)とし、次いで、上記ラジカル重合性モノマーの液滴に上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させた後、上述したようにラジカル重合性モノマーを重合させる方法も好ましい。
【0027】
上記水性媒体は特に限定されず、例えば、水に、乳化剤、分散安定剤等を添加した水性媒体が用いられる。上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0028】
上記乳化液(1)又は(2)を調製する際には、混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーに水性媒体を添加してもよく、水性媒体に混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーを添加してもよい。乳化方法として、例えば、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が挙げられる。
【0029】
上記ラジカル重合性モノマーの液滴に上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させる方法として、例えば、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上に乳化液(2)を加熱して、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を液体状とする方法が挙げられる。なかでも、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上かつ100℃未満に乳化液(2)を加熱して、水性媒体を蒸発させることなく硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させることが好ましい。また、例えば、乳化液(2)に液体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、乳化液(2)を攪拌する方法も挙げられる。
なお、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加する場合には、乳化液(2)に、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以下の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を添加してもよいし、予めラジカル重合性モノマーに固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を溶解しておいてもよい。
【0030】
得られた硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、純水を用いて繰り返して洗浄された後、真空乾燥等により乾燥されてもよい。
【0031】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮することができることから、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂用の潜在性硬化剤又は硬化促進剤として好適に用いられる。
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物もまた、本発明の1つである。