特許第5933977号(P5933977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933977硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル、及び、熱硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933977
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル、及び、熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/14 20060101AFI20160602BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20160602BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B01J13/14
   C08F2/44 B
   C08G59/50
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-2382(P2012-2382)
(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公開番号】特開2013-142107(P2013-142107A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 匡志
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭幸
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−075732(JP,A)
【文献】 特開2012−102195(JP,A)
【文献】 特開2012−219146(JP,A)
【文献】 特開2013−079317(JP,A)
【文献】 特開2012−136650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 63/00−63/10
B01J 13/02−13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルであって、
前記シェルは、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有し、
前記ラジカル重合性モノマーは、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを50〜95重量%含有し、
前記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、イミダゾール化合物を含有する
ことを特徴とする硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項2】
シェルの5%重量損失温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項3】
酢酸エチル中での溶解重量減少率が1重量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項4】
請求項1、2、又は3記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮することができる硬化剤及び/又は硬促進剤内包カプセルに関する。また、本発明は、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、シール剤、コーティング剤等の様々な用途に用いられている。一般に、エポキシ樹脂には、硬化反応を進行させるための成分として硬化剤が、また、硬化性を向上させるための成分として硬化促進剤が添加される。特に、硬化剤又は硬化促進剤とエポキシ樹脂とを安定な一液にするために、潜在性をもたせた硬化剤又は硬化促進剤が多用されている。このような潜在性硬化剤又は硬化促進剤には、配合されたエポキシ樹脂組成物の安定性を低下させることなく、硬化時には速やかに硬化を進行させることが求められている。
【0003】
潜在性硬化剤又は硬化促進剤として、例えば、特許文献1には、アミン類を主成分とする固体状の芯物質、および重合性二重結合を有する有機酸を含むラジカル重合性単量体の重合体を被覆層とするエポキシ樹脂マイクロカプセルが記載されている。しかしながら、重合性二重結合を有する有機酸を含むラジカル重合性単量体の重合体は耐熱性が不充分であることから、このようなマイクロカプセルは、エポキシ樹脂組成物に配合された場合に熱安定性が悪くなる。また、このようなマイクロカプセルは耐溶剤性も不充分である。
【0004】
また、特許文献2には、硬化剤を含有するコア部が、高分子化合物からなるシェル部で被覆されたコア/シェル構造を有するマイクロカプセル型硬化剤であって、上記コア部が、硬化剤を含有するポリマー成分で構成されており、上記コア部を構成するポリマー成分が、ラジカル重合性ポリマーであるマイクロカプセル型硬化剤が記載されている。特許文献2には、コア部を、硬化剤成分自身で構成するのではなく硬化剤を含有するポリマー成分で構成すると、混練に際してもマイクロカプセルが破壊されず、機械的強度に優れた硬化剤含有マイクロカプセルが得られることが記載されている。しかしながら、高分子化合物からなるシェル部は膜厚を高めることが難しく、このようなマイクロカプセルであっても、耐熱性及び耐溶剤性は充分ではない。
【0005】
また、特許文献1及び2のようなシェルにラジカル重合性モノマーの重合体を用いたマイクロカプセルにおいては、イミダゾール化合物がシェル形成時のラジカル重合を阻害することから、コア剤がイミダゾール化合物である場合には特に、耐熱性及び耐溶剤性に優れたマイクロカプセルを得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−247179号公報
【特許文献2】特開2000−351830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮することができる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することを目的とする。また、本発明は、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルであって、前記シェルは、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有し、前記ラジカル重合性モノマーは、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを50〜95重量%含有する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルにおいて、シェルにラジカル重合性モノマーの重合体を用い、かつ、ラジカル重合性モノマーに、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを比較的多量の所定の配合量で含有させることにより、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合であってもその影響を抑制し、耐熱性及び耐溶剤性を改善できることを見出した。本発明者は、このような硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、シェルに、コア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する。
上記シェルは、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有し、上記ラジカル重合性モノマーは、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーを50〜95重量%含有する。シェルにこのようなラジカル重合性モノマーの重合体を用いることにより、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルを、高度に架橋された、耐熱性及び耐溶剤性に優れたシェルとすることができる。即ち、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合であってもその影響を抑制することができる。これにより、本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び熱安定性を発揮することができ、また、速硬化性が低下することもない。
【0011】
上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーは、ラジカル重合性基を分子内に2つ以上有していればよく、ラジカル重合性基を分子内に多数有していてもよい。
【0012】
上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性及び耐溶剤性を向上させることができ、また、コア剤と相分離しやすい重合体が得られることから、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記ラジカル重合性モノマーにおける上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーの含有量は、下限が50重量%、上限が95重量%である。含有量が50重量%未満であると、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合には特に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下する。含有量が95重量%を超えると、シェルが架橋されすぎることにより、硬化時には加熱してもシェルが溶融又は分解せず、硬化反応に長時間を要する。
上記ラジカル重合性モノマーにおける上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーの含有量の好ましい下限は60重量%、好ましい上限は85重量%であり、より好ましい下限は70重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0014】
上記ラジカル重合性モノマーに含まれる上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー以外のモノマーとして、例えば、1官能のラジカル重合性基を有するモノマーが挙げられる。上記1官能のラジカル重合性基を有するモノマーとして、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル基を有する化合物が好ましい。上記ビニル基を有する化合物として、具体的には例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリロニトリル等の共役モノマー、又は、酢酸ビニル、塩化ビニル等の非共疫モノマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記ラジカル重合性モノマーの重合体を得る方法として、上記ラジカル重合性モノマー100重量部を、ラジカル重合開始剤2〜10重量部を用いて重合させる方法が好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が2重量部未満であると、シェル形成時にラジカル重合阻害が生じる場合には特に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性又は耐溶剤性が低下したり、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが形成されなかったりすることがある。10重量部を超えてラジカル重合開始剤を添加してもほとんど反応には寄与せず、ブリードアウト等の原因となることがある。
【0016】
上記ラジカル重合開始剤は特に限定されないが、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましく、具体的には例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ラジカル重合性モノマーを重合させる方法は特に限定されず、使用するラジカル重合開始剤の種類等に従って、光を照射したり加熱したりすることにより重合を開始させることができる。
【0017】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、上記シェルの表面に、更に別の層を有していてもよい。
【0018】
上記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、融点が100℃未満であることが好ましく、例えば、三級アミン化合物、イミダゾール化合物等のアミン化合物、又は、リン系触媒等が挙げられる。なかでも、硬化性に優れることから、イミダゾール化合物が好ましい。
上記イミダゾール化合物は特に限定されず、例えば、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、及び、これらの付加体等が挙げられる。
【0019】
また、上記イミダゾール化合物として、疎水性イミダゾール化合物を用いることが好ましい。なお、疎水性イミダゾール化合物とは、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であるイミダゾール化合物を意味する。
上記疎水性イミダゾール化合物は、炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物が好ましい。上記炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物として、例えば、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール等が挙げられる。なかでも、2−ウンデシルイミダゾールが好ましい。
【0020】
なお、イミダゾール化合物はシェル形成時にラジカル重合を阻害することから、従来、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤がイミダゾール化合物である場合には特に、耐熱性及び耐溶剤性に優れたマイクロカプセルを得ることは難しかった。これに対し、本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、シェルが上述のようなラジカル重合性モノマーの重合体を含有することから、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤がイミダゾール化合物である場合であっても耐熱性及び耐溶剤性に優れる。
【0021】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みは、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が0.8μmである。シェル厚みが0.05μm未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。シェル厚みが0.8μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要することがある。シェル厚みのより好ましい下限は0.08μm、より好ましい上限は0.5μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みとは、下記式(1)により算出される、カプセルの体積と内包体積比率から算出したシェルの体積を、カプセルの表面積で割ることで求められる値を意味する。
シェル厚み={カプセルの体積−(カプセルの体積×内包体積比率)}/カプセルの表面積 (1)
【0022】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、好ましい下限が15体積%、好ましい上限が70体積%である。内包体積比率が15体積%未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要したり硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを多量に配合する必要が生じたりすることがある。内包体積比率が70体積%を超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルが薄くなりすぎて強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。内包体積比率のより好ましい下限は25体積%、より好ましい上限は50体積%である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、平均粒子径を用いて算出したカプセルの体積とガスクロマトグラフィーを用いて測定したコア剤の含有量から、下記式(2)により算出される値を意味する。
内包体積比率(%)=(コア剤の含有量(重量%)×コア剤の比重(g/cm))/カプセルの体積(cm) (2)
【0023】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径は、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が10μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、所望の範囲の内包率を維持しようとすると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。平均粒子径が10μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを硬化性樹脂組成物に配合した場合に、加熱により硬化剤及び/又は硬化促進剤が放出された後、大きなボイドが生じて硬化物の信頼性が低下することがある。平均粒子径のより好ましい上限は3.0μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のカプセルが観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のカプセルの最長径をノギスで測定した平均値を意味する。
【0024】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度は、好ましい下限が250℃である。5%重量損失温度が250℃未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性が低いため、硬化性樹脂組成物に配合される場合に熱安定性が低下することがある。5%重量損失温度のより好ましい下限は280℃である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度とは、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)によりシェルを加温したときに、シェルの重量が初期重量から5%減少したときの温度を意味する。
【0025】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率は、1重量%未満であることが好ましい。溶解重量減少率が1重量%以上であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐溶剤性が低いため、溶剤と併用する場合の貯蔵安定性が低下することがある。溶解重量減少率は0.5重量%未満であることがより好ましい。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率とは、酢酸エチル中で硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを室温で24時間浸漬攪拌した後、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと酢酸エチルとを分離し、酢酸エチルを減圧留去することにより析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量を測定したときの、析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量と浸漬攪拌前の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの重量との比を意味する。
【0026】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを製造する方法は、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を上記ラジカル重合性モノマーに溶解した混合溶液(1)を、水性媒体に分散させて乳化液(1)とし、次いで、上述したようにラジカル重合性モノマーを重合させる方法が好ましい。また、上記ラジカル重合性モノマーを、水性媒体に分散させて乳化液(2)とし、次いで、上記ラジカル重合性モノマーの液滴に上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させた後、上述したようにラジカル重合性モノマーを重合させる方法も好ましい。
【0027】
上記水性媒体は特に限定されず、例えば、水に、乳化剤、分散安定剤等を添加した水性媒体が用いられる。上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0028】
上記乳化液(1)又は(2)を調製する際には、混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーに水性媒体を添加してもよく、水性媒体に混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーを添加してもよい。乳化方法として、例えば、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が挙げられる。
【0029】
上記ラジカル重合性モノマーの液滴に上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させる方法として、例えば、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上に乳化液(2)を加熱して、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を液体状とする方法が挙げられる。なかでも、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上かつ100℃未満に乳化液(2)を加熱して、水性媒体を蒸発させることなく硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させることが好ましい。また、例えば、乳化液(2)に液体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、乳化液(2)を攪拌する方法も挙げられる。
なお、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加する場合には、乳化液(2)に、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以下の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を添加してもよいし、予めラジカル重合性モノマーに固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を溶解しておいてもよい。
【0030】
得られた硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、純水を用いて繰り返して洗浄された後、真空乾燥等により乾燥されてもよい。
【0031】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮することができることから、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂用の潜在性硬化剤又は硬化促進剤として好適に用いられる。
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた熱安定性及び速硬化性を発揮することができる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することができる。また、本発明によれば、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0034】
(実施例1)
重合反応容器に、水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)380重量部とを投入し、水性媒体を調製した。次いで、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)36重量部と、ジビニルベンゼン9重量部と、メタクリロニトリル5重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z、四国化成工業社製、融点69〜74℃)50重量部を添加し2時間攪拌し、その後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)2.5重量部を添加し9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化促進剤内包カプセルを得た。
なお、ラジカル重合性モノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン及びメタクリロニトリル)における2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)の含有量は、90重量%であった。
【0035】
(実施例2)
重合反応容器に、水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)380重量部とを投入し、水性媒体を調製した。次いで、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)28重量部と、ジビニルベンゼン7重量部と、メタクリロニトリル15重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z、四国化成工業社製、融点69〜74℃)50重量部を添加し2時間攪拌し、その後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)2.5重量部を添加し9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化促進剤内包カプセルを得た。
なお、ラジカル重合性モノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン及びメタクリロニトリル)における2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)の含有量は、70重量%であった。
【0036】
(実施例3)
重合反応容器に、水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)380重量部とを投入し、水性媒体を調製した。次いで、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)20重量部と、ジビニルベンゼン5重量部と、メタクリロニトリル25重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z、四国化成工業社製、融点69〜74℃)50重量部を添加し2時間攪拌し、その後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)2.5重量部を添加し9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化促進剤内包カプセルを得た。
なお、ラジカル重合性モノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン及びメタクリロニトリル)における2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)の含有量は、50重量%であった。
【0037】
(実施例4)
ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)の添加量を2.5重量部から1.5重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0038】
(比較例1)
重合反応容器に、水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)380重量部とを投入し、水性媒体を調製した。次いで、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)40重量部と、ジビニルベンゼン10重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z、四国化成工業社製、融点69〜74℃)50重量部を添加し2時間攪拌し、その後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)2.5重量部を添加し9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化促進剤内包カプセルを得た。
なお、ラジカル重合性モノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)における2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)の含有量は、100重量%であった。
【0039】
(比較例2)
重合反応容器に、水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)380重量部とを投入し、水性媒体を調製した。次いで、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)16重量部と、ジビニルベンゼン4重量部と、メタクリロニトリル30重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、2−ウンデシルイミダゾール(C11Z、四国化成工業社製、融点69〜74℃)50重量部を添加し2時間攪拌し、その後、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製、10時間半減期温度66℃)2.5重量部を添加し9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化促進剤内包カプセルを得た。
なお、ラジカル重合性モノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン及びメタクリロニトリル)における2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー(1,4−ブタンジオールジアクリレート及びジビニルベンゼン)の含有量は、40重量%であった。
【0040】
<評価>
実施例及び比較例で得られた硬化促進剤内包カプセルについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0041】
(1)耐熱性(5%重量損失温度の測定)
乳鉢で粉砕した硬化促進剤内包カプセルを酢酸エチル中で24時間浸漬攪拌した後、遠心分離により固形分を分離した。分離した固形分を乾燥した後、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)により固形分を加温し、固形分の重量が初期重量から5%減少したときの温度を測定した。
【0042】
(2)耐溶剤性(酢酸エチル中での溶解重量減少率の測定)
酢酸エチル中で硬化促進剤内包カプセルを室温で24時間浸漬攪拌した後、硬化促進剤内包カプセルと酢酸エチルとを分離し、酢酸エチルを減圧留去することにより析出した硬化促進剤の重量を測定した。析出した硬化促進剤の重量と浸漬攪拌前の硬化促進剤内包カプセルの重量との比を求めた。
【0043】
(3)貯蔵安定性(ゲル分率の測定)
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化促進剤内包カプセルを0.13重量部添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、得られたエポキシ樹脂組成物を50μmの厚さに塗布して樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを40℃で3日間放置した後、酢酸エチル中で24時間以上浸漬、振とうさせた。浸漬後の樹脂フィルムを取り出し、酢酸エチル浸漬前後の樹脂フィルムの重量を測定することで、ゲル分率測定を行った。
なお、本明細書中、ゲル分率とは、酢酸エチル浸漬後に乾燥させた樹脂フィルム重量を酢酸エチル浸漬前の樹脂フィルム重量で割ることにより得られる値を意味する。
【0044】
(4)熱安定性
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化促進剤内包カプセルを0.13重量部添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、得られたエポキシ樹脂組成物をオーブンで120℃に加熱し、エポキシ樹脂組成物の粘度が初期粘度から2倍になるまでの時間を測定した。
なお、エポキシ樹脂組成物の粘度は、E型粘度計(VISCOMETER TV−22、東海産業社製、φ15mmローターを使用)を用いて、25℃、10rpmの条件で測定した。
【0045】
(5)速硬化性(硬化時間の測定)
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化促進剤内包カプセルを0.13重量部添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、得られたエポキシ樹脂組成物を210℃に熱したホットプレート上に置いたスライドガラスの上に滴下して、エポキシ樹脂組成物が硬化するまでの時間を測定した。
【0046】
(6)塗液粘度
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化促進剤内包カプセルをコア剤の有効成分が0.13重量部になるよう添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、E型粘度計(VISCOMETER TV−22、東海産業社製、φ15mmローターを使用)を用いて、25℃、10rpmの条件で粘度(Pa・sec)を測定した。
【0047】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性、熱安定性及び速硬化性を発揮することができる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することができる。また、本発明によれば、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。