特許第5934102号(P5934102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5934102PUFA誘導体による酸化ストレス障害の緩和
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934102
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】PUFA誘導体による酸化ストレス障害の緩和
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/201 20060101AFI20160602BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20160602BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   A61K31/201
   A61K31/202
   A61P43/00 123
   A61P9/10
   A61P3/06
   A61P9/10 101
   A61P43/00 105
   A61P25/00
   A61P19/00
   A61P21/00
   A61P3/00
   A61K31/231
   A61K31/232
【請求項の数】18
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2012-537152(P2012-537152)
(86)(22)【出願日】2010年10月29日
(65)【公表番号】特表2013-509439(P2013-509439A)
(43)【公表日】2013年3月14日
(86)【国際出願番号】US2010054866
(87)【国際公開番号】WO2011053870
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年10月29日
(31)【優先権主張番号】61/256,815
(32)【優先日】2009年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510247526
【氏名又は名称】レトロトップ、 インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RETROTOPE, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】シチェピノフ、 ミハイル エス.
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06417233(US,B1)
【文献】 Shchepinov,M.S.,“Reactive Oxygen Species, Isotope Effect, Essential Nutrients, and Enhanced Longevity”,Rejuvenation Res.,2007年 3月,Vol.10,No.1,pp.47-59
【文献】 J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1,1991年,No.3,pp.581-587
【文献】 Biochim. Biophys. Acta - Lipids and Lipid Metabolism,1985年 7月31日,Vol.835,No.3,pp.421-425
【文献】 Shchepinov,M.S.,“Reactive Oxygen Species, Isotope Effect, Essential Nutrients, and Enhanced Longevity”,Rejuvenation Res.,2007年 3月,Vol.10,No.1,P.47-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/201
A61K 31/202
A61K 31/231
A61K 31/232
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルのみを含有する、対象のミトコンドリア欠損疾患またはミトコンドリア呼吸欠損疾患の進行の治療または予防において使用するための医薬組成物であって、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、投与時に対象のミトコンドリア膜に組み込まれ、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルにおける同位体が、天然に存在する量よりも豊富に存在し、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、少なくとも1つの重水素を有する式IIの化合物
【化1】
(式中、
Rは水素またはCであり、
は水素またはアルキルであり、
Yはそれぞれ独立に重水素または水素であり、
Xはそれぞれ独立に重水素または水素であり、
nは1〜5であり、
mは1〜10であり、
pは1〜10である。)
であることを特徴とする医薬組成物
【請求項2】
前記対象が補酵素Q欠損を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記対象が、a)神経系疾患を有するかもしくは神経系疾患にかかりやすい、b)ジスキネジアを有するかもしくはジスキネジアにかかりやすい、c)運動失調を有するかもしくは運動失調にかかりやすい、d)筋骨格疾患を有するかもしくは筋骨格疾患にかかりやすい、e)筋力低下を有するかもしくは筋力低下を起こしやすい、f)神経筋疾患を有するかもしくは神経筋疾患にかかりやすい、またはg)代謝性疾患を有するかもしくは代謝性疾患にかかりやすい、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
有効成分として同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルのみを含有する、先天性代謝異常の対象において酸化ストレスの低減に使用するための医薬組成物であって、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、投与時に対象の脳および/または神経組織に組み込まれ、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルにおける同位体が、天然に存在する量よりも豊富に存在し、該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、少なくとも1つの重水素を有する式IIの化合物
【化2】
(式中、
Rは水素またはCであり、
は水素またはアルキルであり、
Yはそれぞれ独立に重水素または水素であり、
Xはそれぞれ独立に重水素または水素であり、
nは1〜5であり、
mは1〜10であり、
pは1〜10である。)
であることを特徴とする医薬組成物
【請求項5】
前記先天性代謝異常がダウン症候群である、請求項4に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記組成物がヒトの摂取に適しており、および
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、対象による摂取もしくは取込み後に対象の体成分に組み込まれる時にその化学的同一性を保持することができる、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、11,11,D2−リノール酸、11−D−リノール酸、11,11,14,14,D4−リノール酸、11,14,D2−リノール酸、11,11,D2−リノレン酸、11−D−リノレン酸、14−D−リノレン酸、および14,14−D2−リノレン酸からなる群から選択される同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、もしくは該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸のエチルエステル又はグリセリルエステルである、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、前ビスアリル位において重水素をさらに含む、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、50%〜99%の同位体純度を有する同位体修飾された多価不飽和脂肪酸である、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、ビスアリル位または前ビスアリル位において酸化に対して安定化している、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、酸化感受性位において酸化に対して安定化されている、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルが、ビスアリルの炭素原子と水素原子の酸化感受性位において酸化に対して安定化されている、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記対象が、自動酸化に抵抗するのに十分な濃度の同位体修飾された多価不飽和脂肪酸を維持するための十分な量の該同位体修飾された多価不飽和脂肪酸を投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記対象が運動失調を有するかまたは運動失調にかかりやすい、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸エステルが、11,11,D2−リノール酸、11−D−リノール酸、11,11,14,14,D4−リノール酸、11,14,D2−リノール酸、11,11,D2−リノレン酸、11−D−リノレン酸、14−D−リノレン酸、または14,14−D2−リノレン酸のエチルエステル又はグリセリルエステルである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸エステルが、11,11,D2−リノール酸、11−D−リノール酸、11,11,14,14,D4−リノール酸、11,14,D2−リノール酸、11,11,D2−リノレン酸、11−D−リノレン酸、14−D−リノレン酸、または14,14−D2−リノレン酸のエチルエステルである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸エステルが、11,11,D2−リノール酸、11−D−リノール酸のエチルエステルである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記同位体修飾された多価不飽和脂肪酸エステルが、11,11,D2−リノール酸のエチルエステルである、請求項1に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国仮出願番号第61/256,815号の優先権を主張する。
【0002】
同位体修飾された多価不飽和脂肪酸(PUFA)および他の修飾されたPUFAは、特定の疾患を治療する方法において有用である。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
本願と同じ譲受人に譲渡された米国出願番号第12/281,957号は、正常な体成分と機能的に等しいが、活性酸素種(ROS)、活性窒素種(RNS)または放射線によって媒介されるプロセスなどの分解/有害プロセスに対してより高い耐性を有する体成分、例えば脂肪を摂取時に形成する化合物のクラスに言及する。参照によって本明細書に組み込まれるこの出願文書は、少なくとも1つの交換可能なH原子がHであり、かつ/または少なくとも1つのC原子が13Cである必須栄養素に言及する。この出願文書はまた、11,11ジジュウテロリノール酸を開示している。
【0004】
重水素化メチレン基のC原子が13Cであり得る、11,11ジジュウテロリノール酸および11,11,14,14D4リノレン酸ならびに類似の化合物が開示されている。Shchepinov,M、Reactive Oxygen Species Isotope EFFECT,Essential Nutrients,and Enhanced Longevity、Rejuvenation Research、vol.10、No.1(2007年)(非特許文献1)。この論文は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0005】
酸化ストレスは様々な疾患に関連し得るが、どの抗酸化剤が様々な疾患の治療において成功するかは予測不可能である。したがって当技術分野では、様々な疾患に対して成功する治療が必要とされている。したがって当技術分野では、様々な疾患の治療に有用なさらなる同位体修飾された多価不飽和脂肪酸(PUFA)および他の修飾されたPUFAが必要とされている。
【0006】
PUFAの特定の位置を置き換えることは、PUFAが関与する有益な代謝プロセスを予防し、または減速させることもあり、したがって当技術分野では、これらの代謝プロセスを十分に維持すると同時に有害な酸化プロセスに抵抗する、修飾されたPUFAを決定することが有益となり得る。
【0007】
また当技術分野では、有害な酸化プロセスを予防するのに必要な重原子置換の最小量を決定して、重原子置換の費用を節約することが有益となり得る。本明細書では、これらおよび他の態様に対処する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7271315号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shchepinov,M、Reactive Oxygen Species Isotope EFFECT,Essential Nutrients,and Enhanced Longevity、Rejuvenation Research、vol.10、No.1(2007年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、これらの必要性、およびさらなる同位体修飾された多価不飽和脂肪酸(PUFA)、その模倣薬(mimetic)またはエステルプロドラッグの必要性に対処するものである。さらに本開示は、ヒト対象などの対象において修飾されたPUFAを使用する、特定の疾患の新しい治療方法および予防方法の必要性に対処するものである。
【0011】
いくつかの実施形態は、神経変性疾患を有するか、または神経変性疾患にかかりやすい対象を選択するステップと、投与時に対象の脳および/または神経組織に組み込まれる有効量の同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを対象に投与するステップとを含む、神経変性疾患の進行を治療または予防する方法を含む。神経変性疾患を有する患者には、他の疾患の中でも、a)アルツハイマー病を有するか、またはアルツハイマー病にかかりやすい、b)軽度認知障害を有するか、または軽度認知障害にかかりやすい、c)パーキンソン病を有するか、またはパーキンソン病にかかりやすい、d)統合失調症を有するか、または統合失調症にかかりやすい、e)双極性障害を有するか、または双極性障害にかかりやすい、f)筋萎縮性側索硬化症を有するか、または筋萎縮性側索硬化症にかかりやすい対象が含まれ得る。
【0012】
いくつかの実施形態は、眼の酸化的疾患を有するか、または眼の酸化的疾患にかかりやすい対象を選択するステップと、投与時に対象の眼組織に組み込まれる有効量の少なくとも1つの同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを対象に投与するステップとを含む、眼の酸化的疾患の進行を治療または予防する方法を含む。眼の酸化的疾患を有する対象には、他の疾患の中でも、網膜疾患を有するかもしくは網膜疾患にかかりやすい、加齢性黄斑変性症を有するかもしくは加齢性黄斑変性症にかかりやすい、糖尿病性網膜症を有するかもしくは糖尿病性網膜症にかかりやすい、または網膜色素変性症を有するかもしくは網膜色素変性症にかかりやすい対象が含まれ得る。
【0013】
さらなる実施形態は、高密度リポタンパク質レベルの増大および/または低密度リポタンパク質レベルの減少を必要としている対象を選択するステップと、投与時に高密度リポタンパク質レベルが増大され、かつ/または低密度リポタンパク質レベルが低減される、有効量の同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを対象に投与するステップとを含む方法を含む。対象には、他の疾患の中でも、アテローム硬化性血管疾患を有するかまたはアテローム硬化性血管疾患にかかりやすい対象が含まれ得る。
【0014】
さらなる実施形態は、補酵素Q10欠損などのミトコンドリア欠損もしくはミトコンドリア呼吸欠損疾患を有するか、またはミトコンドリア欠損もしくはミトコンドリア呼吸欠損疾患にかかりやすい対象を選択するステップと、投与時に対象のミトコンドリア膜に組み込まれる有効量の同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを対象に投与するステップとを含む、補酵素Q10欠損などのミトコンドリア欠損またはミトコンドリア呼吸欠損疾患の進行を治療または予防する方法を含む。他のミトコンドリア欠損またはミトコンドリア呼吸欠損疾患を有する対象には、a)神経系疾患を有するかもしくは神経系疾患にかかりやすい、b)ジスキネジアを有するかもしくはジスキネジアにかかりやすい、c)運動失調を有するかもしくは運動失調にかかりやすい、d)筋骨格疾患を有するかもしくは筋骨格疾患にかかりやすい、e)筋力低下を有するかもしくは筋力低下を起こしやすい、f)神経筋疾患を有するかもしくは神経筋疾患にかかりやすい、またはg)代謝性疾患を有するかもしくは代謝性疾患にかかりやすい対象が含まれる。
【0015】
諸方法はまた、先天性代謝異常を有する対象を選択するステップと、投与時に対象の脳および/または神経組織に組み込まれる有効量の同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを対象に投与するステップとを含む、先天性代謝異常を治療する方法を含む。先天性代謝異常は、例えばダウン症候群であり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、一方法は、対象の細胞または組織が、PUFAの自動酸化を維持するのに十分な濃度の同位体修飾されたPUFAを維持する、十分な量の同位体修飾されたPUFAを対象に投与するステップを含む。
【0017】
ビスアリル位において少なくとも1つの13Cまたは少なくとも2つの重水素原子を含む同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬もしくはエステルプロドラッグ、またはその模倣薬もしくは模倣薬エステルを含む多価不飽和脂肪酸組成物であって、該組成物がヒトの食用に適しており、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸もしくはそのエステル、またはその模倣薬もしくは模倣薬エステルが、対象による摂取もしくは取込み後に対象の体成分に組み込まれる場合、その化学的同一性を保持することができるか、または対象において多価不飽和脂肪酸もしくはその模倣薬の高級同族体への変換を受けることができ、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸における同位体の量が、天然に存在する存在量レベルを超え、ただし、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸は、11,11,14,14,D4−リノレン酸または11,11,D2−リノール酸ではない組成物などの化合物および組成物も企図される。同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはその模倣薬は、11,11,14,14,D4−リノール酸、11,11,D2−リノレン酸および14,14,D2−リノレン酸からなる群から選択される同位体修飾された多価不飽和脂肪酸であり得る。同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグは、前ビスアリル位において重水素をさらに含む、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸であり得る。同位体修飾された多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグは、
【0018】
【化1-1】

【0019】
【化1-2】

【0020】
【化1-3】

【0021】
またはそのエステルプロドラッグからなる群から選択される模倣薬であり得る。いくつかの実施形態では、これらの化合物および組成物は、本明細書に開示の疾患または障害のいずれかを治療するために使用することができる。
【0022】
同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはそのエステルプロドラッグは、約50%〜99%の同位体純度を有する同位体修飾された多価不飽和脂肪酸またはエステルであり得る。
【0023】
他の態様では、多価不飽和脂肪酸組成物は、特定の疾患機構の予防に有効となるように化学的に修飾されている、天然に存在する多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグを含み、化学修飾は、天然に存在する多価不飽和脂肪酸、その模倣薬またはエステルプロドラッグの元素組成を変化させず、ただし、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸は、11,11,14,14,D4−リノレン酸または11,11,D2−リノール酸ではない。例えば、天然に存在する多価不飽和脂肪酸、模倣薬またはエステルプロドラッグは、酸化感受性位などにおいて酸化に対して安定であり得る。ある場合には、安定化は、重同位体置換を介して行われる。酸化感受性位には、ビスアリルの炭素原子と水素原子における置換が含まれ得る。
【0024】
これらおよび他の実施形態を、本明細書においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(A)ROSによって生じるPUFAの酸化、(B)毒性のあるカルボニル化合物の形成の図である。
図2】例1〜4に記載の重水素化PUFAのH−および13C−NMR分析の図である。
図3】は、リノレン酸を用いる処理に対するcoqヌル変異体の感受性が、同位体強化によって抑制されることを示す図である。酵母coq3、coq7およびcoq9ヌル変異体を、W303酵母遺伝的背景(WT)で調製した。酵母菌株を、YPD培地(1%Bacto酵母抽出物、2%Bactoペプトン、2%デキストロース)で増殖させ、対数期増殖の間に集菌した(OD600nm=0.1〜1.0)。細胞を滅菌水で2回洗浄し、リン酸緩衝液(0.10Mリン酸ナトリウム、pH6.2、0.2%デキストロース)に再懸濁して、OD600nm=0.2にした。試料を除去し、0.20OD/mlから開始した1:5連続希釈物を、YPDプレート培地上に蒔いて、0時間の未処理対照を提供した(左上パネルに示す)。指定の脂肪酸を、リン酸緩衝液中20mlの酵母に添加して最終濃度200uMにした。2時間、4時間および16時間目に試料を除去し、1:5連続希釈物を調製し、YPDプレート培地上にスポットした。30℃で2日間増殖させた後、写真を撮った。このパネルは、異なる日に実施した2つの独立なアッセイの代表である。
図4】同位体強化したD4−リノレン酸で処理した酵母coq変異体が、PUFA媒介性の細胞死滅に耐性を有することを示す図である。アリコート100ulを、1、2および4時間目に除去し、希釈した後にYPDプレート上に広げたことを除き、図6−1に記載の通り、脂肪酸高感度アッセイを実施した。2〜2.5日後に写真を撮り、コロニー数を計数した。酵母菌株は、野生型(○)、atp2(△)またはcoq3(□)を含み、脂肪酸処理は、オレイン酸C18:1(実線)、リノレン酸、C18:3、n−3(破線)または11,11,14,14−D4−リノレン酸、C18:3、n−3(点線)を含む。
図5】GC−MSによる脂肪酸メチルエステル(FAME)標準の分離および検出を示す図である。FAMEを記載の通り調製し(Moss CW、Lambert MA、Merwin WH.Appl.Microbiol.1974年;1、80〜85頁)、指示量の遊離脂肪酸およびC17:0(内部標準)200μgを、メチル化および抽出にかけた。試料分析を、Agilent 6890−6975GC−MSによりDB−ワックスカラム(0.25mm×30m×フィルムの厚さ0.25m)(Agilent、カタログ122−7031)で実施した。
図6】外因的に供給した脂肪酸の酵母による取込みを示す図である。WT(W303)酵母を、対数期に集菌し、0時間または4時間のいずれかにわたって、200μMの指定の脂肪酸存在下でインキュベートした。酵母細胞を集菌し、滅菌水で2回洗浄し、次いでアルカリメタノリシスおよび鹸化にかけ、記載の通り脂質を抽出した(Moss CW、Lambert MA、Merwin WH.Appl.Microbiol.1974年;1、80〜85頁(Shaw、1953年 Shaw、W.H.C.;Jefferies,J.P. Determination of ergosterol in yeast.Anal Chem 25:1130;1953年)。各指定の脂肪酸を、μg/OD600nm酵母として表し、C17:0内部標準の回収に対して補正した。
図7】GC−MS分析にかけた酵母抽出物のクロマトグラムである。異なるトレースは、それぞれ0時間および4時間のインキュベーションを表す。各FAME(C18:1、C18:3およびD4−リノレン酸)のピーク面積を、C17:0標準のピーク面積で割り、較正曲線で定量化した。内因性の16:0および16:1の変化は非常に少なく、外因的に添加した脂肪酸では著しく高かった。
図8】パラコートによる急性中毒後のH−PUFAおよびD−PUFA処理したMVEC細胞の生存率を示す図である。試験したすべての細胞型について、D−PUFAは、対照と比較して、MVEC細胞について図に示したものと類似の保護作用を有していた。
図9】D−PUFAが、C57BL/6マウスにおいてMPTP誘発性の線条体ドーパミン枯渇を部分的に減弱することを示す図である。8週齢のマウスに、D−PUFAまたはH−PUFAのいずれかを栄養補助した無脂肪食を6日間与え、40mg/kgのMPTP、i.p.または生理食塩水に曝露し、D−PUFAまたはH−PUFA食を継続して、6日後に屠殺した。線条体のドーパミンを、HPLCによって測定した。MPTPは、H−PUFAを与えたマウスでは強い枯渇をもたらしたが(78%)、D−PUFAを与えた群では著しく少なかった(47%)。
図10】D−PUFAが、C57BL/6マウスにおいてMPTP誘発性の黒質a−syn蓄積を部分的に減弱することを示す図である。8週齢のマウスに、D−PUFAまたはH−PUFAのいずれかを栄養補助した無脂肪食を6日間与え、40mg/kgのMPTP、i.p.または生理食塩水に曝露し、D−PUFAまたはH−PUFA食を継続して、6日後に屠殺した。a−synの免疫反応性を、コホートの黒質からの切片で観測した。生理食塩水で処理した両方の群で神経網染色が明らかになったが、H−PUFAを与え、MPTP処理したマウスでは、強い細胞体染色が見られた。D−PUFAを与え、MPTP処理した群では、a−syn−陽性細胞体の強度および数の明らかな減少が比較によって観測された。縮尺バー=25μm。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい実施形態の詳細な説明
導入として、脂質を形成する脂肪酸は、生細胞の主成分の1つとして周知である。したがって、これらは数々の代謝経路に関与し、様々な病理において重要な役割を果たす。必須多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、脂肪酸の重要なサブクラスである。必須栄養素は、直接的にまたは変換により必須の生物学的機能に役立ち、内因的には産生されず、または必要量を満たすのに十分な量では産生されない食品成分である。恒温動物では、2つの厳密に必須のPUFAは、リノール酸(cis,cis−9,12−オクタデカジエン酸;(9Z,12Z)−9,12−オクタデカジエン酸;LA;18:2;n−6)および過去にビタミンFとして公知のα−リノレン酸(cis,cis,cis−9,12,15−オクタデカトリエン酸;(9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸;ALA;18:3;n−3)である(Cunnane SC. Progress in Lipid Research 2003年;42:544〜568頁)。LAは、さらなる酵素的不飽和化および伸長によって、アラキドン酸(AA;20:4;n−6)などの高級n−6PUFAに変換され、ALAは、それに限定されるものではないが、エイコサペンタエン酸(EPA;20:5;n−3)およびドコサヘキサエン酸(DHA;22:6;n−3)を含む高級n−3シリーズを生じさせる(Goyens PL.ら、Am.J.Clin.Nutr.2006年;84:44〜53頁)。PUFAまたはPUFA前駆体の本質的な性質のために、それらの欠損には多くの実例がある。これらは、しばしば病状と関連している。特定の病気に対する有効性が証明されている多くのPUFA栄養補助剤が、店頭で利用可能である(例えば、米国特許第7271315号(特許文献1)、米国特許第7381558号)。
【0027】
脳組織は、脳の神経細胞膜内のリン脂質の35%を構成するPUFAに特に富んでいる(Hamilton JA.ら、J.Mol.Neurosci.2007年;33:2〜11頁)。神経細胞膜内に豊富にある3つの特に重要な脂肪酸は、カルジオリピンを構成するLA;その欠損が脳の発達を妨げ、最適な脳機能を損なう可能性があるDHA;必須であるが潜在的に毒性のある代謝産物をもたらすAAである。
【0028】
PUFAは、膜、特にミトコンドリア膜に、最適な酸化的リン酸化性能に必要な適切な流動性を付与する。PUFAはまた、酸化ストレスの開始および伝播において重要な役割を果たす。PUFAは、元の事象を増幅する鎖反応を介して、ROSと反応する(Sun M、Salomon RG、J.Am.Chem.Soc.2004年;126:5699〜5708頁)。電子伝達複合体I活性に極めて重要なミトコンドリア膜に特異的なPUFAに富んだリン脂質であるカルジオリピンには、特に重要である(Paradies Gら、Gene 2002年;86:135〜141頁)。
【0029】
高レベルの脂質ヒドロペルオキシドの非酵素的形成は、いくつかの有害な変化をもたらすことが公知である。非酵素的形成は、膜の流動性および透過性に負の影響を及ぼし、膜タンパク質の酸化をもたらし、これらのヒドロペルオキシドは、数多くの高度反応性カルボニル化合物に変換され得る。後者には、アクロレイン、マロンジアルデヒド、グリオキサール、メチルグリオキサールなどの反応種が含まれる(Negre−Salvayre Aら、Brit.J.Pharmacol.2008年;153:6〜20頁)。しかし、PUFA酸化の最も有名な産物は、α,β−不飽和アルデヒドである4−ヒドロキシノン−2−エナール(4−HNE;LAまたはAAなどのn−6PUFAから形成される)、4−ヒドロキシヘキセ−2−エナール(4−HHE;ALAまたはDHAなどのn−3PUFAから形成される)、および対応するケトアルデヒドである(Esterfbauer Hら、Free Rad.Biol.Med.1991年;11:81〜128頁;Long EK、Picklo MJ.Free Rad.Biol.Med.2010年;49:1〜8頁)。これらの反応性カルボニルは、マイケル付加またはシッフ塩基の形成経路を介して(生体)分子を架橋し、数多くの病理学的プロセス、加齢性および酸化ストレスに関係する状態、ならびに老化に関与するとされてきた。重要なことに、PUFAは、1,4−ジエン系のメチレン基(ビスアリル位)が、ROSならびにシクロゲナーゼ(cyclogenase)およびリポキシゲナーゼ(lipoxygenase)などの酵素に対してアリルメチレンよりも実質的に不安定であることから、ある場合には特定の部位で酸化すると思われる。
【0030】
それに限定されるものではないが、神経学的疾患、糖尿病、高濃度の低密度リポタンパク質(LDL)に関連する疾患およびAMDを含む、酸化ストレスに関係する多くの疾患がある。多くのかかる疾患の正確な病因論には、さらなる解明が必要であるが、PUFA酸化およびその後の反応性カルボニルによる架橋または誘導体化は、しばしば際立った役割を果たす。加齢性黄斑変性症(AMD)における酸化ストレスの役割は、かなり重要であることが公知である(Beatty Sら、Survey Ophtalm.2000年;45:115〜134頁;(de Jong Paulus T V M Age−related macular degeneration.The New England journal of medicine 2006年;355(14):1474〜85頁);Wu J、Seregard Sら、Survey Ophtalm.2006年;51:461〜481頁)。ほぼすべての主な神経学的疾患は、酸化ストレスに関連することが公知である。例えば、酸化膜成分は、β−およびα−シヌクレイン凝集を、それぞれ共有結合性および非共有結合性の機構によって促進するが、これらはアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)ならびにシヌクレイン病に関連している。PUFA過酸化の反応産物は、臨床的に最も重要な神経学的脳疾患である孤発性アミロイド疾患において、タンパク質の誤った折り畳みを誘発し得る(Bieschke J.ら、Acc.Chem.Res.2006年;39:611〜619頁)。
【0031】
PUFAの過酸化および過酸化したPUFAから形成される反応性化合物に関する障害のいくつかの例には、それに限定されるものではないが以下が含まれる。
【0032】
加齢性黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症(RP)および糖尿病性網膜症(DR)
高酸素レベル、日光への曝露および高PUFA含量は、眼組織のPUFA過酸化の増大をもたらす。酸化ストレスは、AMDの病変形成において主な役割を果たす(Beatty Sら、Survey Ophtalm.2000年;45:115〜134頁)。網膜におけるHNEおよびHHEなどのPUFA過酸化産物のレベルの増大が報告されている(Long EKら、Free Rad.Biol.Med.2010年;49:1〜8頁)。PUFA過酸化産物は、網膜色素上皮(RPE)リポフスチンの形成に主な役割を果たすが、リポフスチンは、それ自体、可視光線への照射時にROSを発生させることがあり、AMDの病因において主な役割を果たす(Katz ML、Arch.Gerontol.Geriatr.2002年;34:359〜370頁)。MDAを含むPUFA過酸化産物は、PUFA過酸化がヒトの白内障の病変形成における開始ステップであることが公表されたように、白内障の形成を含む水晶体の病理において際立った役割を果たす(Borchman D.ら、J.Lipid Res.2010年;51:2473〜2488頁)。翼状片および円錐角膜を含むヒトの角膜の疾患の病態生理学におけるPUFA過酸化産物の役割も、同様に重要である(Shoham Aら、Free Rad.Biol.Med.2008年;45:1047〜1055頁)。糖尿病性網膜症も、酸化ストレスおよびPUFA過酸化に関連する(Baynes JW、Thorpe SR.Diabetes1999年;48:1〜9頁)。
【0033】
いくつかの態様では、AMD、RPまたはDRを有するか、またはそれにかかりやすい対象の同定は、蛍光眼底造影検査などの当技術分野で公知の診断試験によって、または血管プロセスの異常の同定によって決定することができる。さらに、光干渉断層撮影診断を使用して、かかる対象を同定することができる。
【0034】
アルツハイマー病(AD)および軽度認知障害(MCI)
Cooper JL.Drugs & Aging 2003年;20:399〜418頁参照。アミロイド斑および神経原線維変化は、ADの神経病理学的特徴であるが、これらが疾患の原因であるか結果であるかは、まだ議論の余地がある。酸化ストレスおよび関連炎症は、ADプロセスに関与する。ADにおける酸化ストレスの増大を支持する直接的な証拠は、(1)AD脳におけるROS刺激性Fe、AlおよびHgの増大、(2)AD脳におけるPUFA過酸化の増大およびPUFAの減少、ならびにAD脳室液の4−HNEの増大、(3)AD脳におけるタンパク質およびDNAの酸化増大、(4)AD脳におけるエネルギー代謝の減退およびチトクロムcオキシダーゼの減少、(5)神経原線維変化における最終糖化産物(AGE)、MDA、カルボニル、ペルオキシ亜硝酸、ヘムオキシゲナーゼ−1およびSOD−1、ならびに老人斑におけるAGE、ヘムオキシゲナーゼ−1、SOD−1、ならびに(6)アミロイドβペプチドがROSを発生し得ることを示す研究である(Markesbery WR.Free Rad.Biol.Med.1997年;23:134〜147頁)。
【0035】
脂質代謝異常は、ADにおいて顕著な役割を果たす。アミロイド前駆体タンパク質プロセシングおよびAbペプチド産生に関与するすべてのタンパク質は、内在性膜タンパク質である。さらに、Abを産生するc−セクレターゼの切断は、膜の中心部で起こり、したがって切断酵素の脂質環境は、Abの産生およびAD病変形成に影響を及ぼす(Hartmann T.ら、J.Neurochem.2007年;103:159〜170頁)。脂肪過酸化は、高レベルのマロンジアルデヒド、イソプロスタン、ならびにHNEおよびアクロレインによる高レベルのタンパク質修飾を特徴とする(Sayre LMら、Chem.Res.Toxicol.2008年;21:172〜188頁;Butterfield DAら、Biochim.Biophys.Acta 2010年;1801:924〜929頁)。食事性PUFAは、遅発性の孤発性ADの発症の主な危険因子である。PUFAの飽和度および最初の二重結合の位置は、ADの危険性を決定付ける最も重要な因子であり、不飽和脂肪およびn−3二重結合は保護を付与するが、過剰の飽和脂肪またはn−6二重結合は危険性を増大する。DHAおよびAAは、特にADに関連する(Luzon−Toro Bら、Neurol.Psychiatr.Brain Res. 2004年;11:149〜160頁)。DHAは、興奮性膜の主成分であり、乳児の成熟を促進し、成人脳における強力な神経保護薬でもあり、ADの予防において潜在的な役割を有する。AAは、多くの神経伝達物質系におけるセカンドメッセンジャーとして作用するエイコサノイドの重要な供給源である。食事性PUFAとアポリポタンパク質Eイソ型の相互作用は、細胞膜内の持続性自動過酸化の危険性および速度、ならびに膜修復有効性を決定付けることができる。
【0036】
脂肪過酸化は、MCI患者の脳内に存在することが報告されている。いくつかの研究によって、酸化的損傷は、ADの病変形成における初期事象として、疾患の進行またはおそらくはその発症を減速するための治療標的として働き得ることが確立されている(Markesbery WR.Arch.Neurol.2007年;64:954〜956頁)。MCIはまた、MDA、HNE、アクロレインおよびイソプロスタンなどの脂肪過酸化産物によって形成される高レベルの共役体を特徴とし得る(Butterfield DAら、Biochim.Biophys.Acta2010年;1801:924〜929頁)。
【0037】
アルツハイマー病を有するか、またはアルツハイマー病にかかりやすい対象の同定は、当技術分野で公知である。例えば対象は、国立神経疾患脳卒中研究所(NINCDS)−アルツハイマー病関連障害協会(ADRDA)によって設定された基準を使用して同定され得る。基準は、記憶、言語、知覚技能、注意力、建設的能力、方向付け、問題解決および機能的能力に関係するものである。類似の診断試験を使用してMCI患者を同定することもできる。
【0038】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSは、運動神経細胞に影響を及ぼす遅発性の進行性神経変性疾患であり(上位および下位運動神経細胞の喪失)、結果的に筋肉の消耗および呼吸不全による死亡に至る(Boillee S.ら、Neuron 2006年;52:39〜59頁)。ほとんどのALS症例の病因は、依然として不明であるが、ALSは酸化ストレスと強い関連があると認識されている。家族性ALS(fALS)は、変異SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)の酸化によって引き起こされる(Kabashi E.ら、Ann.Neurol.2007年;62:553〜559頁)。fALSに関連する100を超えるSODの変異が存在する(Barnham KJら、Nature Rev.Drug Discov.2004年;3:205〜214頁)。第1のステップはSODの「単量体化」であり、次いでSODモノマーが凝集し、次いでそれらの間に異常なS−S結合が形成され(Kabashi E.ら、Ann.Neurol.2007年;62:553〜559頁)、毒性のある集合体が生成される(それらが誤って折り畳まれるか、物体をつまらせるか、またはその両方により(Barnham KJら、Nature Rev.Drug Discov.2004年;3:205〜214頁)。
【0039】
fALSに関連するSOD1変異は、NADPHオキシダーゼ依存性のROS産生における酸化還元センサー機能の喪失に関連し、制御されないROSの発生によって媒介されるミクログリアの神経毒性のある炎症反応をもたらすことが示された(Liu Y、Hao WLら、J.Biol.Chem.2009年;284:3691〜3699頁)。孤発性ALS(sALS)は、より一般的である(症例の90%)。
【0040】
ALS症例の病因論は、依然として不明であるが、ALSは酸化ストレスおよび炎症と関連があることが認識されている。タンパク質の酸化は、ある試験ではsALS患者の85%にものぼる(Coyle JT.ら、Science 1993年;262:689〜695頁)。また、中枢神経系(CNS)組織、髄液および血清における脂肪過酸化およびHNE形成の両方の増大が、家族性および孤発性の両方のALS症例について報告された(Simpson EPら、Neurology 2004年;62:1758〜1765頁)。ALSにおける酸化ストレスの源は、明らかになっていないが、興奮毒性、ミトコンドリアの機能障害、鉄蓄積または免疫活性化を含むいくつかのプロセスから生じ得る(Simpson EPら、Neurology 2004年;62:1758〜1765頁)。共にALSの酸化ストレスの誘因および標的であるfALSおよびsALSにおいて、ミトコンドリアが重要な役割を果たすという証拠がある(Bacman SRら、Molec.Neurobiol.2006年;33:113〜131頁)。COX−2阻害は、脊髄神経変性を低減し、ALS遺伝子導入マウスの生存を延長することが報告されているが(Minghetti L. J Neuropathol Exp Neurol 2004年;63:901〜910頁)、このことは、ALSの病因におけるPUFA酸化産物の役割を強調している。ALS患者におけるHHE−タンパク質共役の増大の証拠もある(Long EK、Picklo MJ. Free Rad.Biol.Med.2010年;49:1〜8頁)。酸化ストレスがALSに関連しているにも関わらず、抗酸化剤療法の試みは、まだ成功していない(Barber SCら、Biochim.Biophys.Acta2006年;1762:1051〜1067頁)。
【0041】
ALSを有するか、またはその危険性がある対象の同定は、当技術分野で公知の診断方法を使用して決定することができる。例えば、片方の肢における上位および下位運動神経の徴候、筋電図検査(EMG)、末梢神経障害およびミオパチーを排除するための神経伝導速度(NCV)測定、磁気共鳴画像(MRI)、ならびに/または他の疾患の可能性を排除するための血液および尿検査などの試験の1つまたは組合せを使用することができる。
【0042】
本明細書に開示の化合物によって治療することができる他のCNS疾患も企図され、それには、中でもヤコブソン(Jacobson)症候群、脊髄性筋萎縮症および多系統萎縮症などの変形性の神経疾患および神経筋疾患および障害が含まれる。
【0043】
アテローム硬化性血管疾患(ASVD)
血管に影響を及ぼす脂肪材料の蓄積の結果であるこの状態は、心筋梗塞および脳卒中を含む多くの病理をもたらす。PUFA過酸化産物は、低密度リポポリタンパク質(LDL、「悪玉脂肪」)の形成および蓄積において非常に重要な役割を果たす(Esterbauer Hら、Free Rad.Biol.Med.1991年;11:81〜128頁;Requena JRら、Biochem.J.1997年;322:317〜325頁)。アテローム硬化性血管疾患を有する対象を同定するために、数々の診断試験が利用可能である。
【0044】
いくつかの実施形態では、HDLとLDLの比は、本明細書に記載の修飾されたPUFAの投与時に著しく上昇する。例えば以下の表3では、H−PUFAの投与時のHDL:LDL比と比較して、D−PUFAの投与時には、約86%のHDL:LDL比の上昇が見られた。この百分率は、(LDLレベル)=(総コレステロール)−(HDLレベル)−(トリグリセリドレベルの20%)の計算に基づく。いくつかの態様では、HDL−LDL比は、修飾されたPUFAの投与時に(投与プロトコルのプロセスなどにわたって)、投与前のHDL:LDL比と比較して少なくとも約5%、例えば少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%またはそれ以上上昇する。
【0045】
補酵素Q10欠損(Q10−)などのミトコンドリア疾患
ミトコンドリア欠損またはミトコンドリア呼吸欠損疾患には、膜内で生じるミトコンドリア呼吸欠損などのミトコンドリア膜要素の酸化によって引き起こされる疾患および障害が含まれる。膜の機能性は、全体的なミトコンドリア機能にとって重要である。
【0046】
補酵素Q欠損は、神経系疾患(ジスキネジア、運動失調)、筋骨格疾患(筋力低下、神経筋疾患)、代謝性疾患等を含む多くの疾患に関連している。Q10は、酸化ストレスの制御において重要な役割を果たす。Q10−は、PUFA過酸化および形成された産物の毒性によるPUFA毒性の増大に関連することが示されている(Do TQら、PNAS USA 1996年;93:7534〜7539頁)。補酵素Q10欠損を有する対象を同定するための数々の診断試験が、当技術分野で公知である。
【0047】
ダウン症候群(DS)
DS(染色体21のトリソミー)は、アルツハイマー病に類似の早計の老化および精神遅滞に関連する。自己免疫疾患および白内障の発生率も高く、このことはDSの個体における酸化ストレスの増大を示している(Jovanovic SVら、Free Rad.Biol.Med.1998年;25:1044〜1048頁)。染色体21は、Cu/Zn SODおよびアミロイドβ−ペプチドをコードし、したがってDSは、これらの遺伝子産物および代謝産物のオーバーフローを特徴とし、特に過剰のHを伴う、カタラーゼに対するSOD比の上昇を特徴とする(Sinet PM.Ann.NY Acad.Sci.1982年;396:83〜94頁)。DSの個体では、タンパク質および脂質酸化のマーカー(MDA、HNE等)、ならびに最終糖化産物および脂肪過酸化(lipoxidation)最終産物が著しく増大する(Busciglio J、Yankner BA. Nature 1995年;378:776〜779頁;Odetti Pら、Biochem.Biophys.Res.Comm.1998年;243:849〜851頁)。DSにおける酸化ストレスの重要性は、抗酸化剤を用いることによって酸化の副作用を低減するための広範な試みをもたらしたが、最近の無作為化試験では、抗酸化剤栄養補助剤の有効性を示す証拠は見られていない(Ellis JMら、Brit.Med.J.2008年;336:594〜597頁)。ダウン症候群の対象は、標準の染色体試験によって同定することができる。
【0048】
パーキンソン病(PD)
PDは、ROSによって引き起こされる酸化ストレスに関連し、ROSは、PDにおけるドーパミン細胞変性をもたらすカスケードに寄与する。しかし酸化ストレスは、ミトコンドリアの機能障害、興奮毒性、一酸化窒素毒性および炎症などの疾患および変形性プロセスの他の成分と密接に関連している。細胞内の毒性のある脂質ペルオキシドの形成は、毒性のある細胞カスケードの活性化を介して、黒質神経細胞における損傷に直接的に関連するとされている。PDに関連する酸化的損傷は、PUFAレベルで始まり、次いでタンパク質ならびに核DNAおよびmtDNAに伝わり(例えば、シヌクレインプロセシング/レビー小体形成において)、HNEおよびMDAなどの酸化的損傷の毒性のあるカルボニル産物は、タンパク質とさらに反応して、細胞生存能を損なう可能性がある。一酸化窒素は、スーパーオキシドと反応して、ペルオキシ亜硝酸および最終的にはヒドロキシル基を生成することが公知である。タンパク質分解の変化は、PDにおけるドーパミン作用性の細胞死にとって非常に重要なものとして関連付けられている。酸化ストレスは、これらのプロセスを直接的に損なう可能性があり、HNEなどの酸化的損傷の産物は、26Sプロテアソームに損傷を与える可能性がある。HNEは、PDの病変形成に直接関連するとされている(Selley ML. Free Rad.Biol.Med.1998年;25:169〜174頁;Zimniak P、Ageing Res.Rev.2008年;7:281〜300頁)。さらに、プロテアソーム機能の機能障害は、フリーラジカルの発生および酸化ストレスをもたらす(Jenner P. Annals Neurol.2003年;53:S26〜S36頁)。PDの病因に関連するROSのさらなる源は、ドーパミン作用性神経細胞内のドーパミン(DA)の代謝回転である(Hastings TG、J Bioenerg.Biomembr.2009年;41:469〜72頁)。PUFA過酸化産物を介して媒介される核酸への酸化的損傷も、PDの病因に寄与する(Martin LJ、J.Neuropathol.Exp.Neurol.2008年;67:377〜87頁;Nakabeppu Y.ら、J.Neurosci.Res、2007年;85:919〜34頁)。酸化ストレスが、PDの原因または結果であろうとなかろうと、酸化ストレスの低減は、疾患の進行に影響を及ぼす可能性が高い。
【0049】
パーキンソン病を有するか、またはパーキンソン病にかかりやすい対象の同定は、当技術分野で公知の様々な試験によって決定することができる。例えば、試験および診断の組合せは、例えばレボドパに対する陽性反応を含む、医学的病歴および神経学的検査を基にすることができる。さらに、対象の同定は、動作緩慢および強剛性および/または静止時振戦および/または姿勢の不安定性などの、Parkinson’s Disease Society Brain Bank and the National Institute of Neurological Disorders and Strokeの診断基準に従って決定することができる。
【0050】
統合失調症および双極性障害(BP)
PUFAは、神経発達および統合失調症などのいくつかの精神疾患に影響を及ぼすことが公知である。DHA、エイコサペンタエン酸(EPA)およびAAは、これに関して特定の重要性がある。統合失調症では、EPAの補給といくつかの症状の改善との間に正の相関関係がある(Luzon−Toro Bら、Neurol.Psychiatr.Brain Res.2004年;11:149〜160頁)。統合失調症およびBDの両方において、酸化ストレスおよびHNEレベルは著しく上昇する(Wang JFら、Bipolar Disorders 2009年;11:523〜529頁)。シナプス機能障害は、AD、ALS、PDなどの神経病理における初期の病原性事象であることが公知である(LoPachin RMら、Neurotoxicol.2008年;29:871〜882頁)。このシナプス毒性の分子機構は未知であるが、刊行されている証拠によって、これらの疾患は、酸化ストレス、PUFA過酸化(図1)、ならびにその後のアクロレインおよび4−HNEなどのα,β−不飽和カルボニル誘導体の遊離に関する共通の病態生理学的カスケードを特徴とすることが示唆されている。
【0051】
統合失調症または双極性障害を有する対象を同定するための数々の診断試験が、当技術分野では公知である。
【0052】
最新の研究は、神経障害を含む酸化ストレス関連疾患の病因に対して最も強力な有害作用が、酸化ストレスまたはROSによってではなく、特に反応性カルボニル化合物の求電子的毒性によってもたらされることを示唆している(Zimniak P、Ageing Res.Rev.2008年;7:281〜300頁)。これらのカルボニル化合物は、シナプス前タンパク質と付加物を形成することによって、神経終末損傷を引き起こし得る。したがって、特定の脳領域の酸化的ストレスを受けた神経細胞におけるアクロレインおよびHNEの内因的発生は、神経変性状態に関連するシナプス毒性と機構的に関係している。
【0053】
さらに、アクロレインおよびHNEは、タイプ2のアルケンとして公知の大型クラスの構造的に関連する化学物質のメンバーである。このクラスの化学物質(例えば、アクリルアミド、メチルビニルケトンおよびメチルアクリレート)は、ヒト環境における広汎性の汚染物質であり、新しい研究は、これらのα,β−不飽和カルボニル誘導体も神経終末にとって毒性があることを示している。多くの神経変性疾患の初期段階中に発生する局所的シナプス毒性は、酸化PUFAからの反応性カルボニル化合物の内因的発生によって媒介される。さらに、この神経病原性(neuropathogenic)プロセスの発生および進行は、他のタイプ2のアルケンへの環境曝露によって促進される。
【0054】
高濃度の4−HNE(5〜10mM)および他の反応性カルボニルは、いくつかの変性疾患の病変形成に関与しており、したがって、酸化ストレスの誘発物質およびメディエーターとして広く認められている(Uchida K.Prog.Lipid Res.2003年;42:318〜343頁)。しかし、多種多様な細胞プロセスをモジュレートし、数々のシグナル伝達経路を活性化するためには、正常な生理的(0.1〜0.3mM)濃度の細胞4−HNEが必要とされる(Chen Z.−H.ら、IUBMB Life 2006年;58:372〜373頁;Niki E.Free Rad.Biol.Med.2009年;47:469〜484頁)。したがって、濃度を低下させるが、細胞から反応性カルボニルを完全には除去しないことが望ましい。
【0055】
PUFAの酵素的酸化は、いくつかの重要なクラスの生物学的メディエーターを含むエイコサノイド、特にプロスタノイドを生じる。これらのメディエーターのいくつか、特にω−6PUFAから形成されるもの(プロスタグランジンおよびトロンボキサン)は、強力な炎症促進性作用を有し、血液凝固を開始し得る。アスピリンなどの既存の薬物は望ましくない副作用を有するため、PUFAの酵素的酸化を下方制御し、したがってそれらの形成を下方制御するための新しい手法の開発が望ましい。
【0056】
多くの神経学的障害および他の障害の発症および進行における必須PUFAの酸化の重要性は、酸化ストレスおよび反応性カルボニルによって与えられる関連の損傷を低減するように設計される介入の開発を促進するのに役立った。かかる手法は、酸化種の中和に焦点を当てるものである(抗酸化剤栄養補助剤)。かかる介入の成功は制限されてきた。かかる手法のいくつかの欠点には、(それに限定されるものではないが)小分子および酵素的抗酸化剤の両方に関連する以下の点が含まれる。(a)生細胞中に既に存在するほぼ飽和量の抗酸化剤は、抗酸化剤の量の任意のさらなる増加が、それがたとえ実質的でも、残りのROSレベルに対して、あるとしても漸増的な効果しかもたらし得ないことを意味すること(Zimniak P、Ageing Res.Rev.2008年;7:281〜300頁)、(b)ROSは、細胞シグナル伝達において重要な役割を果たしており、その妨害は有害作用を有し得ること(Packer L、Cadenas E.Free Rad.Res.2007年;41:951〜952頁)、(c)特定の生理的状態/特定の部位において、ROSは、抗酸化剤によって減弱され得る保護機能を有すること(Salganik RI. J.Am.Coll.Nutr.2001年;20:464S〜472S頁)、(d)抗酸化剤の酸化形態は、それら自体が有害になり得ること(Zimniak P、Ageing Res.Rev.2008年;7:281〜300頁)、(e)適度なレベルのROSは、保護機構の気密性(hormetic)(適応性)の上方制御に寄与すること(Calabrese EJら、Toxicol.Appl.Pharmacol.2007年;222:122〜128頁)、(f)HNEおよびHHEなどの反応性カルボニル化合物には、フリーラジカルの性質がなく、したがって抗酸化剤によって中和することができないこと。しかしこれらは、グルタチオン(GSH)などの細胞のスルフヒドリル化合物を枯渇させることによって、やはり細胞の酸化還元状態を著しく変えることができる。
【0057】
いくつかの反応の速度は、結合が連結する原子の同位体の性質によって影響を受ける。一般に、重同位体において終結する結合は、より軽い同位体において終結する結合よりも切断されにくい。水素原子と他の原子との間の結合は、水素がHではなくHである場合に切断されにくいという特徴がある。炭素原子と別の原子との間の結合の切断率を比較すると、13Cとの結合は、12Cとの結合よりも切断されにくいという類似の効果が見られる。これは同位体効果として公知であり、十分に説明されているものである。多くの同位体は、「化学反応の同位体効果」において記載の通り、この効果を示すことが公知である。(Collins CJ、Bowman NS(eds)1970年 Isotope effects in chemical reactions)。
【0058】
本発明のいくつかの態様は、以下の、(1)必須PUFAは、脂質膜、特にミトコンドリア膜が適切に機能するのに極めて重要であるが、それらの固有の欠点、すなわち有害な転帰を伴うROSによって酸化される傾向は、多くの神経学的疾患に関与しているという理解、(2)抗酸化剤は、そのプロセスの確率的性質および抗酸化剤による治療に対するPUFA過酸化産物(反応性カルボニル)の安定性に起因して、PUFA過酸化の悪影響を解消し得ないこと、ならびに(3)PUFA内の酸化されやすい部位がROSによって受ける損傷は、それらの部位がかかる酸化を受けにくくなるようにする手法を使用することによって、それらの有益な物理的特性のいずれも損なうことなく克服できることから生じる。本発明のいくつかの態様は、最も酸化の問題となる必須PUFAおよびPUFA前駆体の部位のみにおいてこのことを達成する同位体効果の使用を説明するものであり、他の態様では、最も酸化の問題となる部位に加えて、他の部位も企図する。
【0059】
他の化学的な手法を使用してPUFA内の酸化されやすい位置を保護することによって、同じ効果が達成され得ることが、当業者には理解されよう。特定のPUFA模倣薬は、天然のPUFAと構造的な類似性を有するにもかかわらず、構造的強化に起因してROSによる酵素的酸化に対して安定になる。
【0060】
したがっていくつかの実施形態では、同位体修飾された多価不飽和脂肪酸または模倣薬は、化学的に、または1つもしくは複数の同位体、例えば13Cおよび/もしくは重水素を用いた強化によって安定にされている、天然に存在するPUFAと構造的な類似性を有する化合物を指す。一般に、重水素が強化に使用される場合、メチレン基上の両方の水素が強化され得る。
【0061】
本発明のいくつかの態様は、重同位体によって1つ、いくつか、またはすべてのビスアリル位が置換されている必須PUFAの類似体である化合物を提供する。いくつかの実施形態では、酵素的変換時にPUFAのビスアリル位になるCH基は、PUFA酸化が因子となる神経障害の予防または治療に有用な重同位体で置換されている。
【0062】
ビスアリル位は、一般に、1,4−ジエン系のメチレン基に相当する、多価不飽和脂肪酸またはその模倣薬の位置を指す。前ビスアリル位は、酵素的不飽和化の際にビスアリル位になるメチレン基を指す。
【0063】
いくつかの実施形態では、PUFAの化学的同一性、すなわち化学的構造は、同位体置換または同位体置換を模倣する置換に関係なく、摂取時に同じままである。例えば、必須PUFA、すなわちヒトなどの哺乳動物が一般に合成しないPUFAの化学的同一性は、摂取時に同じままであり得る。しかしある場合には、PUFAは、哺乳動物においてさらなる伸展/不飽和化を受け、したがって摂取時にそれらの化学的同一性が変化することがある。化学的同一性は、模倣薬に関しても同様に未変化のままであり得、または類似の伸展/不飽和化を受け得る。いくつかの実施形態では、伸展され、任意選択により不飽和化されるPUFAは、摂取およびさらなる代謝時に、高級同族体と呼ばれ得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、天然に存在する存在量レベルは、自然の同位体の天然存在量と比較され得る、PUFAに組み込むことができる同位体、例えば13Cおよび/または重水素のレベルを指す。例えば13Cは、すべての炭素原子において約1%の13C原子の天然存在量を有する。したがって、PUFAにおいて天然存在量を超える13Cを有する炭素の相対的百分率は、そのすべての炭素原子のうち13Cで強化されたものが2%などの約1%を超える天然存在量レベルを有することができるが、好ましくは各PUFA分子内の1つまたは複数の炭素原子に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%超または100%が13Cである。
【0065】
水素に関して、いくつかの実施形態では、重水素は、地球上の海洋においてすべての天然に存在する水素の約0.0156%の天然存在量を有する。したがって、重水素のその天然存在量を超える存在量を有するPUFAは、このレベルを超えるか、またはその水素原子のうち重水素で強化されたものが0.02%などの約0.0156%を超える天然存在量レベルを有することができるが、好ましくは各PUFA分子内の1つまたは複数の水素原子に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%超または100%が重水素である。
【0066】
いくつかの態様では、PUFAの組成物は、同位体修飾されたPUFAおよび同位体修飾されていないPUFAの両方を含有する。同位体純度は、a)同位体修飾されたPUFA分子の相対数と、b)同位体修飾されたPUFAおよび重原子を伴わないPUFAの両方のすべての分子、との間の比較である。いくつかの実施形態では、同位体純度は、重原子を除いてその他は同じであるPUFAを指す。
【0067】
いくつかの実施形態では、同位体純度は、同位体修飾されたPUFAと重原子を伴わないPUFAの分子の総数に対する、組成物中の同位体修飾されたPUFA分子の百分率を指す。例えば、同位体純度は、同位体修飾されたPUFAと重原子を伴わないPUFAの分子の総数に対して、同位体修飾されたPUFA分子が約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%であり得る。いくつかの実施形態では、PUFAの同位体純度は、組成物中のPUFA分子の総数の約50%〜99%であり得る。同位体修飾されたPUFAと重原子を伴わないPUFAの合計100個のすべての分子のうち、2個の同位体修飾されたPUFA分子は、その2個の同位体修飾された分子が含有する重原子の数にかかわらず、2%の同位体純度を有することになる。
【0068】
いくつかの態様では、同位体修飾されたPUFA分子は、メチレン基の2個の水素が、共に重水素によって置き換えられる場合など、2個の重水素原子を含有し、したがって「D2」PUFAと呼ぶことができる。同様に、同位体修飾されたPUFA分子は、4個の重水素原子を含有し、「D4」PUFAと呼ぶことができる。
【0069】
分子内の重原子の数または同位体負荷は変わり得る。例えば、同位体負荷が相対的に低い分子は、2個または4個の重水素原子を含有することができる。負荷が非常に高い分子では、それぞれの水素が重水素で置き換えられ得る。したがって同位体負荷は、各PUFA分子の重原子の百分率を指す。例えば、同位体負荷は、同種の重原子を伴わないPUFAと比較して、同種の原子の数が約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%であり得る(例えば、水素は、重水素と「同種」であり得る)。意図しない副作用は、PUFA組成物内の同位体純度が高いが、所与の分子内の同位体負荷が低い場合に減少すると期待される。例えば、代謝経路は、同位体純度は高いが同位体負荷が低いPUFA組成物を使用することによって受ける影響が少なくなる。
【0070】
いくつかの態様では、同位体修飾されたPUFAは特定の組織においてある量の重原子を付与する。したがっていくつかの態様では、重分子の量は組織における同種の分子の特定の百分率となる。例えば、重分子の数は同種の分子の総量の約1%〜100%であり得る。いくつかの態様では、分子の10〜50%が同種の重分子で置換されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、必須PUFAと同じ化学的結合構造であるが、特定の位置に異なる同位体組成を有する化合物は、非置換化合物とは著しく有益に異なる化学特性を有することになる。酵素的酸化またはROSによる酸化などの酸化に関する特定の位置は、図1に示す通り、必須の多価不飽和脂肪酸およびそれらの誘導体のビスアリル位を含む。以下に示す、ビスアリル位において強化された必須PUFA同位体は、酸化に対してより安定になる。したがって、本発明のいくつかの態様は、式(1)の化合物を使用する特定の方法を提供する(その部位は炭素−13でさらに強化され得る。R1=アルキルまたはH;m=1〜10;n=1〜5であり、各ビスアリル位において、両方のY原子は重水素原子である)。例えば、
【0072】
【化2】

【0073】
11,11−ジジュウテロ−cis,cis−オクタデカジエン酸(11,11−ジジュウテロ−(9Z,12Z)−9,12−オクタデカジエン酸;D−LA);および11,11,14,14−テトラジュウテロ−cis,cis,cis−9,12,15−オクタデカトリエン酸(11,11,14,14−テトラジュウテロ−(9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸;D−ALA)。いくつかの実施形態では、前記位置は、重水素化に加えて炭素−13によって、それぞれ天然に存在する存在量レベルを超える同位体存在量のレベルで、さらに強化され得る。PUFA分子におけるすべての他の炭素−水素結合は、任意選択により天然存在量レベル以上で重水素および/または炭素−13を含有することができる。
【0074】
必須PUFAは、不飽和化および伸長によって高級同族体に生化学的に変換される。したがって、前駆体PUFAにおいてビスアリルではないいくつかの部位は、生化学的変換時にビスアリルになる。次いで、かかる部位は、酵素的酸化またはROSによる酸化に対して感受性が高くなる。さらなる一実施形態では、既存のビスアリル部位に加えてかかる前駆ビスアリル部位が、以下に示す通り同位体置換によって強化される。したがって、本発明のこの態様は、式(2)の化合物の使用を提供する(各ビスアリル位および各前ビスアリル位において、両方のXまたは両方のY原子が重水素原子であり得る。R1=アルキルまたはH;m=1〜10;n=1〜5;p=1〜10である)。
【0075】
【化3】

【0076】
前記位置は、重水素化に加えて炭素−13によって、それぞれ天然に存在する存在量レベルを超える同位体存在量のレベルで、さらに強化され得る。PUFA分子におけるすべての他の炭素−水素結合は、任意選択により天然存在量レベル以上で重水素および/または炭素−13を含有することができる。
【0077】
異なるビスアリル部位におけるPUFAの酸化は、酵素的酸化またはROSによって生じる酸化の際に、異なる組の産物をもたらす。例えば、4−HNEはn−6PUFAから形成され、4−HHEはn−3PUFAから形成される(Negre−Salvayre Aら、Brit.J.Pharmacol.2008年;153:6〜20頁)。かかる酸化産物は、様々な制御特性、毒性、シグナル伝達特性等の特性を有する。したがって、かかる酸化の相対的程度を制御することが望ましい。したがって、本発明のいくつかの態様は、異なる部位における酸化の相対的収率を制御するために、以下に示す通り、PUFAのビスアリルまたは前ビスアリル位におけるY−Yおよび/またはX−Xの対のいずれかが重水素原子になるように、選択されたビスアリルまたは前ビスアリル位において安定な重同位体で特異的に強化された式(3)の化合物の使用を提供する。R1=アルキルまたはH;m=1〜10;n=1〜6;p=1〜10である。
【0078】
【化4】

【0079】
前記位置は、重水素化に加えて炭素−13によってさらに強化され得る。PUFA分子におけるすべての他の炭素−水素結合は、天然存在量レベル以上で重水素を含有することができる。先に示した構造における破断線は、様々な数の二重結合、様々な数のすべての炭素、ならびに同位体強化されたビスアリルおよび前駆ビスアリル部位の様々な組合せを有するPUFAを表すことを理解されよう。
【0080】
酸化を減速するために使用される、同位体強化されたn−3(ω−3)およびn−6(ω−6)必須多価不飽和脂肪酸、ならびに不飽和化/伸長によってそれらから生化学的に生成されたPUFAの両方を提供する、先に例示した化合物の正確な構造を以下に示す。PUFAは、酸化感受性部位において同位体強化されている。Rは、Hまたはアルキルであり得、は、12Cまたは13Cのいずれかを表す。
【0081】
D−リノール酸には、以下が含まれる。
【0082】
【化5】

【0083】
以下の過重水素化リノール酸は、微生物学的方法によって、例えばDおよび13Cを含有する培地で増殖させることによって、生成することができる。
【0084】
【化6】

【0085】
D−アラキドン酸には、以下が含まれる。
【0086】
【化7】

【0087】
以下の過重水素化アラキドン酸は、微生物学的方法によって、例えばDおよび13Cを含有する培地で増殖させることによって、生成することができる。
【0088】
【化8】

【0089】
D−リノレン酸には、以下が含まれる。
【0090】
【化9-1】

【0091】
【化9-2】

【0092】
【化9-3】

【0093】
以下の過重水素化リノレン酸は、Dおよび13Cを含有する培地で増殖させるなどの微生物学的方法によって、生成することができる。
【0094】
【化10】

【0095】
本発明のいくつかの態様では、必須であるかどうかにかかわらず、食事から摂取され、体内で使用され得る任意のPUFAを利用することができる。必須または非必須PUFAまたは前駆体の場合、栄養補助された安定化材料は、他の食事による取込みおよび生体内生産(bio-manufacture)と競合して、疾患を引き起こす利用可能な種の濃度を低減することができる。
【0096】
本発明のいくつかの態様では、先の構造を用いて記載の通り酸化感受性位置において同位体強化されたPUFAは、適切な同位体、重水素および/または炭素−13の天然存在量と比較して、前記位置において重同位体強化されている。
【0097】
いくつかの実施形態では、開示の化合物は、99%以上の同位体純度まで濃縮されている。いくつかの実施形態では、前記位置における重同位体強化は、50%〜99%が重水素および/または炭素−13である。
【0098】
本発明のさらなる一実施形態では、ビスアリル位において同位体強化されているPUFAまたはそれらの必須前駆体は、酸化ストレスに関連する神経学的疾患に対する予防のための化合物として使用される。
【0099】
本発明のさらなる一実施形態では、ビスアリル位においてまたは生化学的不飽和化の際にビスアリルになる位置において同位体強化されているPUFAまたはそれらの必須前駆体は、酸化ストレスに関連する神経学的疾患に対する予防のための化合物として使用される。
【0100】
本発明のさらなる一実施形態では、ビスアリル位において同位体強化されているPUFAまたはそれらの必須前駆体は、酸化ストレスおよびAMDに関連する神経学的疾患に対する治療として使用される。
【0101】
本発明のさらなる一実施形態では、ビスアリル位においてまたは生化学的不飽和化の際にビスアリルになる位置において同位体強化されているPUFAまたはそれらの必須前駆体は、酸化ストレスおよびAMDに関連する神経学的疾患に対する治療として使用される。
【0102】
いくつかの実施形態では、修飾された脂肪酸は、食事を介して薬物または栄養補助剤として投与される場合、エチルエステルまたはグリセリルエステルなどの、親脂肪酸または模倣薬の非毒性の薬学的に適切なエステルとしてのプロドラッグとして投与することができる。このエステルは、腸内の薬物の耐性の一助になり、消化を助け、吸収される薬物の活性な酸形態にエステルプロドラッグを脱エステル化する腸内の高レベルのエステラーゼに依存する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書の修飾された脂肪酸のプロドラッグエステルを包含する。市場、栄養および臨床試験の文献におけるこのクラスの薬物の例には、Glaxo’s Lovaza(ω3脂肪酸エステル、EPA、DHAおよびα−リノレン酸の混合物)、Abbott’s Omacor(ω−3−脂肪酸エステル)およびほとんどの魚油栄養補助剤(DHAおよびEPAエステル)が含まれる。いくつかの態様では、組織または細胞へのエステルプロドラッグの組込みは、修飾された親PUFAが体成分として使用されるときのその組込みを指す。
【0103】
いくつかの実施形態では、安定化組成物は、それらの元素組成を変化させることなく、天然に存在する脂肪酸を模倣する。例えば、置換基は、化学的な原子価殻を保持することができる。いくつかの実施形態は、特定の疾患機構の防止に有効になるように化学的に修飾されるが、材料の元素組成を変化させない(同位体置換など)ように修飾される天然に存在する脂肪酸、模倣薬およびそれらのエステルプロドラッグを含む。例えば重水素は、同じ元素の水素の形態である。いくつかの態様では、これらの化合物は元素組成を維持し、酸化に対して安定化されている。酸化に対して安定ないくつかの化合物は、酸化感受性位において安定になる。いくつかの化合物は、重同位体置換により酸化に対して安定になり、次いでビスアリルの炭素水素結合等において安定になる。
【0104】
いくつかの態様では、本発明の組成物には、米国特許出願第12/281,957号に開示の化合物は含まれない。
【0105】
さらなる一実施形態では、PUFAの酸化されやすいビスアリル部位は、以下に示す通り、ビスアリル水素を活性化する二重結合の距離をさらに離し、したがってビスアリル位を排除すると同時に、特定のPUFA流動性を保持することによって、水素引き抜き反応から保護され得る。これらのPUFA模倣薬は、ビスアリル位をもたない。
【0106】
【化11】

【0107】
さらなる一実施形態では、PUFAの酸化されやすいビスアリル部位は、以下に示す通り、II価のヘテロ原子を使用し、したがってビスアリル水素を排除することによって、水素引き抜き反応から保護され得る。これらのPUFA模倣薬は、やはりビスアリル水素を有していない。
【0108】
【化12】

【0109】
さらなる一実施形態では、PUFA模倣薬、すなわち天然のPUFAに構造的に類似しているが、構造的差異に起因して酸化を受けることがない化合物を、前述の目的で使用することができる。PUFAの酸化されやすいビスアリル部位は、以下に示す通り、ジメチル化によって水素引き抜き反応から保護され得る。これらのPUFA模倣薬は、ビスアリル部位においてジメチル化される。
【0110】
【化13】

【0111】
さらなる一実施形態では、PUFAの酸化されやすいビスアリル部位は、以下に示す通り、アルキル化によって水素引き抜き反応から保護され得る。これらのPUFA模倣薬は、ビスアリル部位においてジアルキル化される。
【0112】
【化14】

【0113】
さらなる一実施形態では、以下に示す通り、二重結合の代わりにシクロプロピル基を使用することによって、酸に特定の流動性を付与すると同時に、ビスアリル部位を排除することができる。これらのPUFA模倣薬は、二重結合の代わりにシクロプロピル基を有する。
【0114】
【化15】

【0115】
さらなる一実施形態では、以下に示す通り、適切な立体構造内に二重結合の代わりに1,2−置換シクロブチル基を使用することによって、酸に特定の流動性を付与すると同時に、ビスアリル部位を排除することができる。これらのPUFA模倣薬は、二重結合の代わりに1,2−シクロブチル基を有する。
【0116】
【化16】

【0117】
二重結合の代わりに1,2−シクロブチル基を有する模倣薬の先の実施形態の修飾では、適切な立体構造内に二重結合の代わりに1,3−置換シクロブチル基を使用することによって、酸に特定の流動性を付与すると同時に、ビスアリル部位を排除することができる。以下のPUFA模倣薬は、二重結合の代わりに1,3−シクロブチル基を有する。
【0118】
【化17】

【0119】
本発明のいくつかの態様の化合物は、記載の通り(Rapoport SIら、J.Lipid Res.2001年;42:678〜685頁)、適切な条件下で神経細胞および組織によって取り込まれると予測され、したがって、これらの細胞または組織を酸化ストレスから保護するのに有用となる。
【0120】
強化されたPUFAまたはそれらの前駆体の送達は、改変された食事を介して行うことができる。あるいは、強化されたPUFAまたはそれらの前駆体は、それら自体、食物もしくは食品栄養補助剤として、またはそれに限定されるものではないがアルブミンとの複合体を含む、「担体」との複合体として投与することができる。
【0121】
薬物送達および医薬品送達のために一般に使用される方法などの、強化されたPUFAまたはそれらの前駆体の他の送達方法を使用することもできる。これらの方法には、それに限定されるものではないが、経口送達、局所送達、経鼻送達などの経粘膜送達、篩板を介する経鼻送達、静脈内送達、皮下送達、吸入または点眼薬を介するものが含まれる。
【0122】
それに限定されるものではないが、リポソーム送達法を含む、標的送達法および徐放による方法を使用することもできる。
【0123】
本発明のさらなる一態様は、式(1〜3)の化合物、ならびに酸化ストレスが病因となるAMDおよび神経学的疾患の治療のための先に例示の化合物の使用を提供する。
【0124】
化合物が投与される期間中、対象の細胞および組織が高レベルの同位体修飾された化合物を含有する期間にわたって、本明細書に記載の同位体修飾された化合物が投与され得ることを企図する。
【0125】
重水素化されていないPUFAなどのすべての同位体修飾されていないPUFAを、重水素化されているPUFAなどの同位体修飾されたPUFAで置換する必要はない。いくつかの実施形態では、自己酸化の鎖反応を維持することによってH−PUFAなどの非修飾PUFAを予防するために、膜内にD−PUFAなどの十分に同位体修飾されたPUFAを有することが好ましい。自己酸化中、1つのPUFAが酸化し、その近くに酸化されていないPUFAが存在する場合、酸化されていないPUFAは、酸化したPUFAによって酸化され得る。これも、自動酸化と呼ぶことができる。ある場合には、低濃度の、例えばD−PUFAを有する膜内に「希薄な」H−PUFAが存在する場合、この酸化サイクルは、H−PUFA間の距離に起因して中断し得る。いくつかの実施形態では、同位体修飾されたPUFAの濃度は、自動酸化鎖反応を維持するのに十分な量で存在する。自動酸化鎖反応を中断させるための膜内の同種の分子の合計は、例えば1〜60%、5〜50%または15〜35%である。これは、IRMS(同位体比質量分析法)によって測定することができる。
【0126】
本発明のさらなる一態様は、活性な化合物の食事、栄養補助剤または医薬組成物を提供する。
【0127】
活性成分を含有する組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性懸濁液、水中油エマルジョン、分散性散剤もしくは顆粒、エマルジョン、硬質もしくは軟質カプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤として、経口使用に適した形態であってよい。かかる組成物は、増量剤、可溶化剤、矯味剤、安定剤、着色剤、保存剤および医薬製剤の技術者に公知の他の薬剤などの添加剤を含有することができる。さらに、経口形態は、本明細書に記載の化合物を含有する食品または食品栄養補助剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、栄養補助剤は、食品または対象の食事に含有される主要な脂肪に応じて、ω−3またはω−6脂肪酸などのPUFAの1種が食品に添加され、または栄養補助剤として使用され得るように、オーダーメイドすることができる。さらに組成物は、治療を受ける疾患に応じてオーダーメイドすることができる。例えばLDLに関連する状態は、リノール酸から生成されるカルジオリピンが酸化されるので、より多量のD−リノール酸を必要とし得る。他の実施形態では、網膜疾患および神経学的/CNS状態などは、D−ω−3脂肪酸がこれらの疾患の治療に関連性が高いので、D−リノレン酸などのω−3脂肪酸をより多量に必要とし得る。いくつかの態様では、疾患がHNEに関連する場合、D−ω−6脂肪酸が処方されるべきであり、HHEについてはD−ω−3脂肪酸が処方されるべきである。
【0128】
組成物はまた、スプレー、クリーム、軟膏、ローションとして、またはパッチ、包帯もしくは創傷用包帯材への成分もしくは添加剤として、局所適用によって送達するのに適していてよい。さらに、本化合物は、機械的な手段によって疾患部位に送達することができるか、または正常な組織には豊富でないか、もしくは存在しない疾患状態の組織の態様と親和性のあるアルブミンなどの、リポソーム(疾患状態の組織との親和性をリポソームに提供する化学修飾を伴うか、または伴わない)、抗体、アプタマー、レクチンもしくは化学的リガンドなどの全身標的技術の使用によって、疾患部位を標的にすることができる。いくつかの態様では、化粧品の局所適用は、パッチなどによって皮膚を介して送達するための、本明細書に記載の同位体修飾された化合物または模倣薬である担体の使用を含み得る。眼の障害は、点眼薬で治療することができる。
【0129】
医薬組成物は、注射による投与に適した形態であってもよい。かかる組成物は、溶液、懸濁液またはエマルジョンの形態であってよい。かかる組成物は、安定化剤、抗菌剤、または医薬品の機能を改善するための他の材料を含むことができる。本発明のいくつかの態様はまた、注射による投与または経口もしくは局所使用に適した溶液、懸濁液またはエマルジョンに容易に形成または再構成することができる、ドライ、乾燥(dessicated)または凍結乾燥形態の化合物を包含する。注射による送達は、全身送達に適しており、眼に関係する障害を治療するための眼への注射などの局所送達にも適していてよい。
【実施例】
【0130】
実験:MALDI−TOF質量スペクトルは、PE−ABI Voyager Elite遅延引き出し機器で記録した。スペクトルは、加速電圧25KVおよび遅延100msにより正イオンモードで得た。別段特定されない限り、1HのNMRスペクトルは、Varian Gemini 200MHz分光計で記録した。HPLCはWaters系で実施した。化学物質は、Sigma−Aldrich Chemical Company(USA)、Avocado research chemicals(UK)、Lancaster Synthesis Ltd(UK)およびAcros Organics(Fisher Scientific、UK)から得た。シリカゲル、TLCプレートおよび溶媒は、BDH/Merckから得た。IRスペクトルは、Vertex 70分光計を用いて記録した。Hおよび13CのNMRスペクトルは、Bruker AC 400機器を用いて、CDCl中、それぞれ400MHzおよび100MHzで得た(内部標準として、Hについてはδ=0.00におけるTMSまたはδ=7.26におけるCHClおよび13Cについてはδ=77.0におけるCHCl)。
【0131】
例1.11,11−D2−リノール酸の合成
【0132】
【化18】

【0133】
1,1−ジジュウテロ−オクト−2−イン−1−オール(2)。ブロモエタン(100ml)、1,2−ジブロモエタン(1ml)および削り状マグネシウム(31.2g)から調製した臭化エチルマグネシウムの乾燥THF(800ml)溶液に、ヘプチン−1((1);170ml)をアルゴン下で30〜60分間かけて滴下添加した。反応混合物を1時間撹拌し、次いでジュウテロパラホルム(Deuteroparaform)(30g)を、一度に注意深く添加した。反応混合物を穏やかに2時間還流させ、−10℃に冷却し、次いで水5〜7mlをゆっくり添加した。混合物をクラッシュアイススラリー0.5kgおよび濃硫酸40mlに注ぎ、ヘキサン0.5Lで洗浄した。有機相を分離し、残りの水相を5:1ヘキサン:酢酸エチルで抽出(3×300ml)した。混合有機画分を、飽和NaCl(1×50ml)、飽和NaHCO(1×50ml)で洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒を真空中で蒸発させて、無色油119.3g(99%)を得、それをさらなる精製なしに使用した。HRMS、m/z C12Oの計算値:128.1168;実測値:128.1173。H NMR(CDCl,δ):2.18(t,J=7.0,2H)、1.57(s,1H)、1.47(q,J=7.0Hz,2H)、1.31(m,4H)、0.87(t,J=7.0Hz,3H)。
【0134】
1,1−ジジュウテロ−1−ブロモ−オクト−2−イン(3)。(2)(3.48g;27.2mmol)およびピリジン(19ml)の乾燥ジエチルエーテル(300ml)溶液に、ジエチルエーテル35ml中PBr36mlを、アルゴン下で撹拌しながら−15℃で30分かけて滴下添加した。反応混合物を室温まで徐々に温め、次いで撹拌しながら3時間還流させ、撹拌なしに1時間還流させた。次いで、反応混合物を−10℃に冷却し、氷水500mlを添加した。残渣が溶解したら、飽和NaCl(250ml)およびヘキサン(250ml)を添加し、有機層を分離した。水性画分をヘキサン(2×100ml)で洗浄し、混合有機画分をNaCl(2×100ml)で洗浄し、微量のヒドロキノンおよびトリエチルアミンの存在下で、NaSOで乾燥させた。溶媒を、大気圧において蒸留によって、その後回転蒸発によって除去した。残渣を減圧蒸留(3mmHg)によって分留して、薄黄色油147.4gを得た(ジュウテロパラホルムで計数して82%)。b.p.75℃。HRMS、m/z C11Brの計算値:190.0324;実測値:189.0301、191.0321。H NMR(CDCl,δ):2.23(t,J=7.0Hz,2H,CH)、1.50(m,2H,CH)、1.33(m,4H,CH)、0.89(t,J=6.9Hz,3H,CH)。
【0135】
11,11−ジジュウテロ−オクタデカ−9,12−ジイン酸メチルエステル(5)。CuI(133g)を、DMF(CaHで新しく蒸留した)400mlに急速に添加し、その後乾燥NaI(106g)、KCO(143g)を添加した。次いで、デカ−9−イン酸メチルエステル((4);65g)を一度に添加し、その後臭化物(3)(67g)を添加した。追加のDMF250mlを使用してフラスコ壁から試薬をすすぎ、反応混合物のバルクに入れ、次いで12時間撹拌した。次いで、飽和NHCl水溶液500mlを撹拌しながら添加し、その後数分以内に飽和NaCl水溶液を添加し、次いでヘキサン:EtOAcの5:1混合物(300ml)を添加した。混合物をさらに15分間撹拌し、次いで細かいメッシュのSchottガラスフィルターを介して濾過した。残渣を、ヘキサン:EtOAcミックスで数回洗浄した。有機画分を分離し、水相をさらに抽出した(3×200ml)。混合有機画分を乾燥させ(NaSO)、微量のヒドロキノンおよびジフェニルアミンを添加し、溶媒を真空中で蒸発させた。残渣を1mmHgですぐに蒸留して、沸点165〜175℃の画分79g(77%)を得た。HRMS、m/z C1928の計算値:292.2369;実測値:292.2365。H NMR(CDCl,δ):3.67(s,3H,OCH)、2.3(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.14(t,J=7.0Hz,4H,CH)、1.63(m,2H,CH)、1.47(m,4H,CH)、1.3(m,10H,CH)、0.88(t,J=7.0Hz,3H,CH)。
【0136】
11,11−ジジュウテロ−cis,cis−オクタデカ−9,12−ジエン酸メチルエステル(6)。酢酸ニッケル四水和物(31.5g)の96%EtOH(400ml)懸濁液を、塩が溶解するまで撹拌しながら約50〜60℃に加熱した。フラスコを水素でフラッシュし、次いでNaBH溶液(EtOH(170ml)中NaBH懸濁液(7.2g)を15分撹拌し、その後濾過することによって調製した)130mlを、撹拌しながら20〜30分間かけて滴下添加した。15〜20分以内にエチレンジアミン(39ml)を一度に添加し、その後5分以内にEtOH(200ml)中(5)(75g)を添加した。反応混合物を、水素(1気圧)下で激しく撹拌した。水素吸収は約2時間で停止した。反応混合物に、ヘキサン900mlおよび氷冷したAcOH55mlを添加し、その後水(15ml)を添加した。ヘキサン(400ml)を添加し、混合物を分離させた。水性画分を、ヘキサン:EtOAcの5:1ミックスによって抽出した。抽出の完了をTLCによって監視した。混合有機相を希釈したHSO溶液で洗浄し、その後飽和NaHCOおよび飽和NaClで洗浄し、次いでNaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した。シリカゲル(シリカゲル60、Merck;162g)を、硝酸銀(43g)の無水MeCN(360ml)溶液に添加し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。得られた含浸シリカゲルを、50℃で3時間乾燥させ(吸引ポンプ)、次いで油ポンプで8時間乾燥させた。生成物1グラム当たり、このシリカを30g使用した。反応混合物を少量のヘキサンに溶解し、銀修飾シリカゲルに適用し、1〜3%勾配のEtOAcで予洗した。非極性汚染物質を洗い流したら(TLCによる制御)、生成物を10%EtOAcで溶出し、溶媒を真空中で蒸発させて、標題エステル(6)52gを無色液体として得た。HRMS、m/z C1932の計算値:296.2682;実測値:296.2676。IR(CCl):ν=1740cm−1H NMR(CDCl,δ):5.32(m,4H)、3.66(s,3H,OCH)、2.29(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.02(m,4H,CH)、1.60(m,2H,CH)、1.30(m,14H,CH)、0.88(t,J=7.0Hz,3H,CH)。
【0137】
11,11−ジジュウテロ−cis,cis−オクタデカ−9,12−ジエン酸(7)。KOH(46g)の水(115ml)溶液を、エステル(6)(46g)のMeOH(60ml)溶液に添加した。反応混合物を40〜50℃で2時間撹拌し(TLCによる制御)、次いで水200mlで希釈した。溶媒の3分の2を除去した(ロータリーエバポレーター)。希硫酸をpH2になるまで残渣に添加し、その後少量のペンタンと共にジエチルエーテルを添加した。有機層を分離し、水層を少量のペンタンと共にジエチルエーテルで洗浄した。混合有機画分を飽和NaCl水溶液で洗浄し、次いでNaSOで乾燥させた。溶媒を蒸発させて、43gの(7)(99%)を得た。IR(CCl):ν=1741、1711cm−1
【0138】
例2.11,11,14,14−D4−リノレン酸の合成
【0139】
【化19】

【0140】
1,1−ジジュウテロ−ペンタ−2−イン−1−オール(9)。ブロモエタン(100ml)および削り状マグネシウム(31.3g)から調製した臭化エチルマグネシウムの乾燥THF(800ml)溶液中、ブチ−1−イン(8)を浴(−5℃)上でゆっくり発泡させた。時々発泡を停止し、ブチ−1−インを入れたシリンダーを秤量して、消費速度を測定した。多量の沈殿物が形成して間もなく、アルキンの供給を停止した(消費されたアルキンの測定質量は125gであった)。反応混合物を30分かけて室温まで温め、次いで15分間撹拌した。次いで、混合物を30℃まで加熱すると、その時点で沈殿物が溶解し、次いで室温でさらに30分間撹拌した。ジュウテロパラホルム(28g)を一度に添加し、混合物を3時間還流させて、透明溶液を形成した。それを室温に冷却し、クラッシュアイス(800g)および濃HSO50mlの混合物に注いだ。ヘキサン(400ml)を添加し、有機層を分離した。水相をNaClで飽和させ、ヘキサン:EtOAcの4:1混合物(1L)で抽出した。抽出プロセスの完了を、TLCによって監視した。混合有機相を、飽和NaCl、NaHCOで洗浄し、再度NaClで洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒を、大気圧において蒸留によって除去した(最大蒸気温度105℃)。残渣(70.5g;94%)を、さらなる精製なしに使用した。HRMS、m/z COの計算値:86.0699;実測値:86.0751。H NMR(CDCl,δ):2.21(q,J=7.5Hz,2H,CH)、1.93(br s,1H,OH)、1.12(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):87.7、77.6、13.7、12.3(CDのシグナルは欠けている)。
【0141】
1,1−ジジュウテロ−1−ブロモ−ペンタ−2−イン(10)。(9)(70.5g)およびピリジン(16.5ml)の乾燥ジエチルエーテル(280ml)溶液に、ジエチルエーテル50ml中PBr32.3mlを、アルゴン下で撹拌しながら−10℃で30分かけて滴下添加した。反応混合物を1時間かけて室温まで徐々に温めた。少量のヒドロキノンを添加し、次いで混合物を4.5時間還流させた。次いで反応混合物を−10℃に冷却し、氷水350mlを添加した。残渣が溶解したら、飽和NaCl(350ml)およびヘキサン(300ml)を添加し、有機層を分離した。水性画分をジエチルエーテル(2×150ml)で洗浄し、混合有機画分をNaCl(2×50ml)で洗浄し、微量のヒドロキノンおよびトリエチルアミンの存在下で、NaSOで乾燥させた。溶媒を大気圧で除去し、次いで沸点147〜155℃の画分を留去した。あるいは、100℃に達した後、大気圧での蒸留を停止させ、生成物を77〜84℃で留去した(25mmHg)。収率:107gの澄明液体。HRMS、m/z CBrの計算値:147.9855;実測値:146.9814、148.9835。IR(CCl):ν=2251cm−1H NMR(CDCl,δ):2.23(q,J=7.5Hz,2H,CH)、1.11(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):89.3、74.5、13.4、12.6(CDのシグナルは欠けている)。
【0142】
1,1,4,4−テトラジュウテロ−オクタ−2,5−ジイン−1−オール(12)。乾燥THF400ml中、臭化エチル(53ml)および削り状マグネシウム(15.8g)から調製した臭化エチルマグネシウムを、乾燥THF350mlに少量ずつ添加すると同時に、激しく撹拌しながらこの混合物中にアセチレンを発泡させた(約25L/時間の速度で)。グリニャール試薬溶液を、2〜5分当たり約10mlで混合物に供給した。すべての臭化エチルマグネシウムを添加したら(約2.5時間後)、その系中にアセチレンをさらに15分間発泡させた。ジュウテロパラホルム(17.3g)およびCuCl(0.2g)をアルゴン下で添加し、ジュウテロパラホルムが溶解するまで反応混合物を撹拌なしに2.5時間還流させて、(11)の溶液を得た。乾燥THF250ml中、マグネシウム14.8gおよび臭化エチル50mlから調製した臭化エチルマグネシウム溶液を、20分かけて反応混合物に滴下添加した。ガスの発生が停止したらコンデンサーを取り付け、溶媒250mlを留去した。次いで、反応混合物を30℃に冷却し、CuCl(1.4g)を添加し、その後臭化物(10)(69g)を15分かけて滴下添加した。次いで、反応混合物を5時間還流させ、わずかに冷却し(冷却が速すぎると沈殿物が形成することになる)、クラッシュアイススラリー(1〜1.2kg)および濃HSO40mlに注いだ。混合物をヘキサン(600ml)で洗浄した。有機画分を分離し、水性画分を5:1のヘキサン:EtOAc(2×400ml)でさらに抽出した。混合有機画分を飽和NaClで洗浄し、その後飽和NaHCOおよびNaClで洗浄した。溶媒のバルクを、微量のヒドロキノンおよびトリエチルアミンの存在下で大気圧において除去した。残渣を、シリカゲル100mlでフラッシュした(溶離液:7:1のヘキサン:EtOAc)。溶媒のバルクを大気圧において除去し、残りをロータリーエバポレーターで除去した。得られた標題化合物49.5g(85%)を、さらなる精製なしに使用した。HRMS、m/z COの計算値:126.0979;実測値:126.0899。IR(CCl):ν=3622cm−1H NMR(CDCl,δ):2.16(q,J=7.5Hz,2H,CH)、1.85(br s,1H,OH)、1.11(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):82.3、80.4、78.3、72.6、13.7、12.2。
【0143】
1,1,4,4−テトラジュウテロ−1−ブロモ−オクタ−2,5−ジイン(13)を、臭化物(3)について記載の通り合成した。アルコール(12)54.2gに対して、ピリジン2ml、PBr14mlおよびジエチルエーテル250mlを使用した。生成物を、4mmHgで蒸留することによって精製した。収率:53g(65%)の(13);b.p.100〜110℃。HRMS、m/z CBrの計算値:188.0135;実測値:187.0136、189.0143。IR(CCl):ν=2255cm−1H NMR(CDCl,δ):2.13(q,J=7.5Hz,2H,CH);1.07(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):82.5、81.8、75.0、72.0、13.6、12.2。
【0144】
11,11,14,14−テトラジュウテロ−オクタデカ−8,12,15−トリイン酸メチルエステル(15)を、11,11−ジジュウテロ−オクタデカ−9,12−ジイン酸メチルエステル(5)について記載のものと類似の方法で合成した。CuI(97g)を、DMF400ml(CaHで新しく蒸留した)に急速に添加し、その後乾燥NaI(77.5g)、KCO(104.5g)を添加した。次いで、デカ−9−イン酸メチルエステル((14);47.5g)を一度に添加し、その後臭化物(13)(48.5g)を添加した。追加のDMF250mlを使用してフラスコ壁から試薬をすすぎ、反応混合物のバルクに入れ、次いで12時間撹拌した。次いで、飽和NHCl水溶液500mlを撹拌しながら添加し、その後数分以内に飽和NaCl水溶液(300ml)を添加し、その後ヘキサン:EtOAcの5:1混合物(300ml)を添加した。混合物をさらに15分間撹拌し、次いで細かいメッシュのSchottガラスフィルターを介して濾過した。残渣を、ヘキサン:EtOAcミックスで数回洗浄した。有機画分を分離し、水相をさらに抽出した(3×200ml)。混合有機画分を乾燥させ(NaSO)、微量のヒドロキノンおよびジフェニルアミンを添加し、溶媒を真空中で蒸発させた。残渣を1mmHgですぐに蒸留して、沸点173〜180℃の画分45.8g(62%)を得た。さらなる結晶化を以下の通り実施した。エステル(15)をヘキサン(500ml)に溶解し、−50℃に冷却した。形成した結晶を、冷却したヘキサンで洗浄した。このステップの収率は80%である。HRMS、m/z C1922の計算値:290.2180;実測値:290.2200。H NMR(CDCl,δ):3.66(s,3H,OCH)、2.29(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.15(m,4H,CH)、1.61(m,2H,CH)、1.47(m,2H,CH)、1.30(m,6H,CH)、1.11(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):174.1、82.0、80.6、74.7、74.6、73.7、73.0、51.3、33.9、28.9、28.6、28.52、28.49、24.8、18.5、13.7、12.2。
【0145】
11,11,14,14−テトラジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸メチルエステル(16)を、11,11−ジジュウテロ−cis,cis−オクタデカ−9,12−ジエン酸メチルエステル(「6」)について記載のものと類似の方法で合成した。酢酸ニッケル四水和物(42g)の96%EtOH(400ml)懸濁液を、塩が溶解するまで約50〜60℃にして撹拌しながら加熱した。フラスコを水素でフラッシュし、次いでNaBH溶液(EtOH(170ml)中NaBH懸濁液(7.2g)を15分間撹拌し、その後濾過することによって調製した)130mlを、撹拌しながら20〜30分間かけて滴下添加した。15〜20分以内にエチレンジアミン(52ml)を一度に添加し、その後5分以内にEtOH(200ml)中(15)(73g)を添加した。反応混合物を、水素(1気圧)下で激しく撹拌した。水素吸収は約2時間で停止した。反応混合物に、ヘキサン900mlおよび氷冷したAcOH55mlを添加し、その後水(15ml)を添加した。ヘキサン(400ml)を添加し、混合物を分離させた。水性画分を、ヘキサン:EtOAcの5:1ミックスによって抽出した。抽出の完了をTLCによって監視した。混合有機相を希釈したHSO溶液で洗浄し、その後飽和NaHCOおよび飽和NaClで洗浄し、次いでNaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した。精製のためのシリカゲルを、(6)に記載の通り調製した。生成物1グラム当たりこのシリカを30g使用した。反応混合物を少量のヘキサンに溶解し、銀修飾シリカゲルに適用し、1〜5%勾配のEtOAcで予洗した。非極性汚染物質を洗い流したら(TLCによる制御)、生成物を10%EtOAcで溶出し、溶媒を真空中で蒸発させて、標題エステル(16)42gを無色液体として得た。HRMS、m/z C1928の計算値:296.2649;実測値:296.2652。IR(CCl):ν=1740cm−1H NMR(CDCl,δ):5.4(m,6H,CH−二重結合)、3.68(s,3H,OCH)、2.33(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.09(m,4H,CH)、1.62(m,2H,CH)、1.33(m,8H,CH)、0.97(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):174.1、131.9、130.2、128.2、128.1、127.7、126.9、51.3、34.0、29.5、29.04、29.02、27.1、25.5、24.9、20.5、14.2。
【0146】
11,11,14,14−テトラジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸(17)。KOH(1.5g、27mmol)の水(2.6ml)溶液を、エステル(16)(1.00g、3.4mmol)のMeOH(15ml)溶液に添加した。反応混合物を40〜50℃で2時間撹拌し(TLCによる制御)、次いで水20mlで希釈した。溶媒の3分の2を除去した(ロータリーエバポレーター)。希硫酸をpH2になるまで残渣に添加し、その後少量のペンタンと共にジエチルエーテルを添加した(50ml)。有機層を分離し、水層を少量のペンタンと共にジエチルエーテルで洗浄した(3×30ml)。混合有機画分を飽和NaCl水溶液で洗浄し、次いでNaSOで乾燥させた。溶媒を蒸発させて、0.95gの(17)(100%)を得た。IR(CCl):ν=1741、1711cm−1
【0147】
例3.14,14−D2−リノレン酸の合成
【0148】
【化20】

【0149】
4,4−ジジュウテロ−オクタ−2,5−ジイン−1−オール(19)。臭化エチル(9.2ml、123.4mmol)および削り状マグネシウム(2.74g、112.8mmol)から調製した臭化エチルマグネシウムの乾燥THF40ml溶液に、氷浴上で撹拌しながら、THF(5ml)中プロパルギルアルコール(3.16g、56.4mmol)を10〜15分間かけて滴下添加した。反応混合物を室温まで温め、時に40℃まで温めながらさらに2時間撹拌した。こうして生成されたジアニオンに、CuCl0.13gを添加し、その後THF(20ml)中臭化物(10)(6.9g)をゆっくり(15分かけて)添加した。次いで、反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで5時間還流させた。次いで、反応混合物を5時間還流させ、わずかに冷却し(冷却が速すぎると沈殿物が形成することになる)、クラッシュアイススラリーおよび濃HSO2.5mlに注いだ。混合物をヘキサン(600ml)で洗浄した。有機画分を分離し、水性画分を5:1のヘキサン:EtOAcでさらに抽出した。混合有機画分を飽和NaClで洗浄し、その後飽和NaHCOおよびNaClで洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒のバルクを、微量のヒドロキノンおよびトリエチルアミンの存在下で大気圧において除去した。生成物を、CC(ヘキサン:EtOAc=15:1)によって精製して、3.45g(59%)の生成物19を得た。HRMS、m/z COの計算値:124.0855;実測値:124.0849。IR(CCl):ν=3622cm−1H NMR(CDCl,δ):4.21(m,2H,CH)、2.4(m,1H,OH)、2.16(q,J=7.5Hz,2H,CH)、1.11(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):82.3、80.4、78.3、72.6、51.0、13.7、12.2。
【0150】
4,4−ジジュウテロ−1−ブロモ−オクタ−2,5−ジイン(20)を、すべての溶媒をロータリーエバポレーターで除去したことを除き、(3)について記載の通り合成した。3.4gの(19)(27mmol)から、臭化物(20)3.9g(75%)を得、それをさらなる精製なしに使用した。HRMS、m/z CBrの計算値:186.0011;実測値:185.0019、187.0012。IR(CCl):ν=2255cm−1H NMR(CDCl,δ):3.88(br s,2H,CH)、2.13(q,J=7.5Hz,2H,CH)、1.07(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):82.5、81.8、75.0、72.0、14.8、13.6、12.2。
【0151】
14,14−ジジュウテロ−オクタデカ−8,12,15−トリイン酸メチルエステル(21)を、(5)について記載の通り合成した。CuI9.7g、NaI7.8g、KCO10.5g、臭化物(20)4.85g、メチルエステル(14)4.75gおよび無水DMF40mlから得られた生成物を、CC(25:1のヘキサン:EtOAc)によって精製して、標題化合物4.5g(60%)を得た。HRMS、m/z C1924の計算値:288.2056;実測値:288.2046。H NMR(CDCl,δ):3.66(s,3H,OCH)、3.12(m,2H,CH)、2.29(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.15(m,4H,CH)、1.61(m,2H,CH)、1.47(m,2H,CH)、1.30(m,6H,CH)、1.11(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):174.1、82.0、80.6、74.7、74.6、73.7、73.0、51.3、33.9、28.9、28.6、28.52、28.49、24.8、18.5、13.7、12.2、9.7。
【0152】
14,14−ジジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸メチルエステル(22)を、リノール酸誘導体(6)について記載の通り合成した。4.5gの(21)の還元のために、酢酸ニッケル四水和物2.6gおよびエチレンジアミン3.2mlを使用した。生成物を、(6)について記載の通りAgNOを含浸させたシリカゲルで精製した。HRMS、m/z C1930の計算値:294.2526;実測値:294.2529。IR(CCl):ν=1740cm−1H NMR(CDCl,δ):5.37(m,6H,CH−二重結合)、3.68(s,3H,OCH)、2.82(m,2H,CH)、2.33(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.09(m,4H,CH)、1.62(m,2H,CH)、1.33(m,8H,CH)、0.97(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):174.1、131.9、130.2、128.2、128.1、127.7、126.9、51.3、34.0、29.5、29.1、29.04、29.02、27.1、25.5、24.9、20.5、14.2。
【0153】
14,14−ジジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸(23)。(22)(1g、3.4mmol)のMeOH(15ml)溶液に、KOH(1.5g、27mmol)の水(2.6ml)溶液を一度に添加した。次いで、反応混合物を(7)について記載の通り処理して、標題の酸0.94g(99%)を得た。IR(CCl):ν=1741、1711cm−1
【0154】
例4.11,11−D2−リノレン酸の合成
【0155】
【化21】

【0156】
ペンタ−2−イン−1−オール(24)ブチン−1((8);10.4g)を、THF(100ml)中ブロモエタン(11.2ml)および削り状マグネシウム(3.6g)から調製した氷冷溶液中で発泡させた。反応混合物を室温まで温め、次いで15分間撹拌した。次いで、混合物を30℃まで加熱すると、その時点ですべての沈殿物が溶解した。熱を除去し、混合物をさらに30分間撹拌し、次いでパラホルム(3g)を一度に添加した。反応混合物を3時間還流させ(すべてのパラホルムが溶解した)、次いで室温に冷却し、クラッシュアイス(80g)および濃HSO8mlの混合物に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。有機相を、飽和NaHCOおよびNaClで洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、残渣(7.56g;90%)をさらなる精製なしに使用した。HRMS、COのm/z算出値:84.0575;実測値:84.0583。
【0157】
1−ブロモ−ペンタ−2−イン(25)。(24)(11.7g)およびピリジン(2.66ml)の乾燥ジエチルエーテル(34ml)溶液に、ジエチルエーテル5ml中PBr5.2mlを、アルゴン下で撹拌しながら−10℃で30分かけて滴下添加した。反応混合物を1時間かけて室温まで徐々に温めた。触媒量のヒドロキノンを添加し、次いで混合物を4.5時間還流させた。次いで、反応混合物を−10℃に冷却し、氷水35mlを添加した。残渣が溶解したら、飽和NaCl(35ml)およびジエチルエーテル(30ml)を添加し、有機層を分離した。水性画分をジエチルエーテル(2×15ml)で洗浄し、混合有機画分をNaCl(2×400ml)で洗浄し、MgSOで乾燥させた。溶媒を、大気圧に次いで減圧下(25mmHg)で除去し、60〜90℃の画分を収集した。収率:11.1g(84%)。HRMS、CBrのm/z算出値:145.9731;実測値:144.9750、146.9757。
【0158】
1,1−ジジュウテロ−オクタ−2,5−ジイン−1−オール(26)を、収率87%で(12)について記載の通り合成した。HRMS、m/z COの計算値:124.0855;実測値:124.0868。IR(CCl):ν=3622cm−1H NMR(CDCl,δ):2.65(m,2H,CH)、2.4(m,1H,OH)、2.1(q,2H,CH)、1.09(t,3H,CH)。
【0159】
1,1−ジジュウテロ−1−ブロモ−オクタ−2,5−ジイン(27)を、すべての溶媒をロータリーエバポレーターで除去したことを除き、(3)について記載の通り合成した。生成物を、減圧下で蒸留によって精製した。収率:86%(b.p.100〜105℃、4mm Hg)。(HRMS,m/z CBrの計算値:186.0011;実測値:184.9948、187.9999。IR(CCl):ν=2255cm−1H NMR(CDCl,δ):2.66(m,2H,CH)、2.1(q,2H,CH)、1.09(t,3H,CH)。
【0160】
11,11−ジジュウテロ−オクタデカ−8,12,15−トリイン酸メチルエステル(28)を、(5)について記載の通り合成した。CuI7.1g、NaI5.66g、KCO7.65g、臭化物(27)3.55g、メチルエステル(4)3.47gおよび無水DMF30mlから得られた生成物を、CC(25:1のヘキサン:EtOAc)によって精製して、標題化合物3.7gを得た。HRMS、m/z C1924の計算値:288.2056;実測値:288.2069。H NMR(CDCl,δ):3.7(s,3H,OCH)、3.15(br. s,2H,CH)、2.35(m,2H,CH)、2.17(m,4H,CH)、1.61(m,2H,CH)、1.48(m,2H,CH)、1.35(m,6H,CH)、1.11(t,3H,CH)。
【0161】
11,11−ジジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸メチルエステル(29)を、リノール酸誘導体(6)について記載の通り合成した。3.7gの(28)の還元のために、酢酸ニッケル四水和物2.16gおよびエチレンジアミン2.62mlを使用した。生成物を、(6)について記載の通りAgNOを含浸させたシリカゲルで精製して、1.5gを得た。HRMS、m/z C1930の計算値:294.2526;実測値:294.2402。IR(CCl):ν=1740cm−1H NMR(CDCl,δ):5.37(m,6H,CH−二重結合)、3.6(s,3H,OCH)、2.82(m,2H,CH)、2.33(t,o=7.5Hz,2H,CH)、2.09(m 4H,CH)、1.62(m,2H,CH)、1.33(m,8H,CH)、0.97(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):174.1、131.9、130.2、128.2、128.1、127.7、126.9、51.3、34.0、29.5、29.1、29.04、29.02、27.1、25.5、24.9、20.5、14.2。
【0162】
11,11−ジジュウテロ−cis,cis,cis−オクタデカ−8,12,15−トリエン酸(30)。(29)(1.5g、5.1mmol)のMeOH(7.5ml)溶液に、KOH(1.5g、27mmol)の水(3ml)溶液を一度に添加した。次いで、反応混合物を(17)について記載の通り処理して、標題の酸0.9gを得た。IR(CCl):ν=1741、1711cm−1H NMR(CDCl,δ):11.2(br s,1H,COOH)、5.37(m,6H,CH−二重結合)、2.83(m,2H,CH)、2.35(t,J=7.5Hz,2H,CH)、2.06(m 4H,CH)、1.63(m,2H,CH)、1.32(m,8H,CH)、0.97(t,J=7.5Hz,3H,CH)。13C NMR(CDCl,δ):180.4、131.9、130.2、128.3、128.1、127.6、127.1、34.1、29.5、29.1、29.03、28.98、27.2、25.5、24.6、20.5、14.2。
【0163】
例5.例1〜4に記載の重水素化PUFAのH−および13C−NMR分析(図2
Hおよび13Cスペクトルに特徴的な面積、すべての値をppmで表す。(パネルA)11位におけるLin酸の重水素化は、Hおよび13C NMRスペクトルのピークの消失によって確認される。H原子が存在しないことに起因して、δΗ2.764におけるピークの消失が予測される(H NMR)。δ25.5におけるピークの消失は、核オーバーハウザー効果と、この特定の炭素原子がLin酸の重水素化形態における2個のD原子によって五重線に分裂することの組合せに起因して生じる。(パネルB)H NMRスペクトルは、部位特異的に重水素化されたαLnnのC11位およびC14位におけるH原子が同時発生し(δΗ2.801)、したがっていずれかの部位(11,11−H、14,14−Dまたは11,11−D、14,14−H)における重水素化は、このピークの積分を50%減少させるが、両方の部位(11,11,14,14−D)における重水素化は、δ2.801のピークの完全な消失をもたらすことを示している。しかし、C11位およびC14位について観測されるピークは、小さいが検出可能な差異によって分離されるので、13C NMR実験によって3つの重水素化形態の間を明確に区別することができる。したがって、C11位またはC14位のいずれかにおける重水素化は、それぞれδ25.68またはδ25.60のピーク消失をもたらすが、両方の部位における重水素化は、2つの対応するピークの消失をもたらす。
【0164】
例6.PUFA過酸化を停止させることができる同位体強化
Q値が小さい酵母(coq変異体)は、脂肪酸のインビボ自動酸化を評価するための理想的な系を提供する。補酵素Q(ユビキノンまたはQ)は、低分子親油性抗酸化剤、ならびにミトコンドリア内膜の呼吸鎖における電子シャトルとして働く。補酵素Qの生合成および機能のためには10種の出芽酵母遺伝子(COQ1〜COQ10)が必要とされ、いずれかが欠失すると、呼吸欠損が生じる(Tran UC、Clarke CF.Mitochondrion 2007年;7S,S62頁)。coq酵母変異体は、PUFAの自動酸化産物に対して非常に感受性であることが示された(Do TQら、PNAS USA 1996年;93:7534〜7539頁;Poon WW、Do TQ、Marbois BN、Clarke CF.Mol.Aspects Med.1997年;18,s121頁)。出芽酵母はPUFAを産生しないが(Paltauf F、Daum G.Meth.Enzymol.1992年;209:514〜522頁)、出芽酵母は、外因的に提供される場合にはPUFAを利用することができ、したがってそれらの内容物を操作することができる(Paltauf F、Daum G.Meth.Enzymol.1992年;209:514〜522頁)。リノレン酸による4時間の処理後では、Q値が小さい(coq2、coq3およびcoq5)酵母変異体の1%未満が生存可能である(Do TQら、PNAS USA 1996年;93:7534〜7539頁;Poon WW、Do TQ、Marbois BN、Clarke CF.Mol.Aspects Med.1997年;18、s121頁)。それとは対照的に、この処理を受けた野生型(親の遺伝的背景は、菌株W303−1Bである)細胞の70%は、生存可能なままである。Q値が小さい酵母は、容易に酸化する他のPUFA(アラキドン酸など)にも過敏性であるが、一不飽和オレイン酸による処理に対して、野生型の親の菌株と同じ挙動をする(Do TQら、PNAS USA 1996年;93:7534〜7539年)。cor1またはatp2変異体酵母(それぞれbcl複合体またはATP合成酵素が欠如している)は、PUFA処理に対して野生型耐性を示すため、Q値が小さい酵母変異体の過敏性は、呼吸不能の二次的効果ではない(Do TQら、PNAS USA 1996年;93:7534〜7539頁;Poon WW、Do TQ、Marbois BN、Clarke CF.Mol.Aspects Med.1997;18、s121頁)。
【0165】
プレート希釈アッセイを使用して、PUFA感受性を評価することができる。このアッセイは、連続5倍希釈物のアリコートをYPDプレート培地上にスポットすることによって実施され得る(図3)。異なる菌株の感受性は、各スポットにおける細胞密度の視覚的検査によって観測することができる。
【0166】
リノレン酸による処理は、coqヌル変異体の生存能の劇的な喪失を引き起こす。全く対照的に、D4−リノレン酸で処理したcoq変異体は死滅せず、オレイン酸で処理した酵母と類似の生存能を保持していた。定量的コロニー計数によって、オレイン酸およびD4−リノレン酸で処理した細胞の生存能は類似するが(図4)、coq変異体の生存能は、標準のリノレン酸による4時間の処理後に100倍を超えて減少したことが明らかになった。これらの結果は、過敏性のcoq変異体の細胞死滅に対する耐性によって証明される通り、同位体で強化されたリノレン酸が、標準のリノレン酸よりもはるかに自動酸化に対して耐性があることを示している。
【0167】
GC−MSは、酵母細胞における脂肪酸およびPUFAを検出することができる。酵母はPUFAを合成しないが、酵母は、外因的に供給されたリノール酸およびリノレン酸を実際に組み込む(Avery SVら、Applied Environ.Microbiol.1996年;62、3960頁;Howlett NGら、Applied Environ.Microbiol.1997年;63、2971頁)。
【0168】
したがって、酵母は、外因的に供給されたD4−リノレン酸も組み込み得る可能性が高いと思われる。しかし、リノレン酸およびD4−リノレン酸に対する特異的な感受性は、自動酸化よりも細胞への統合の差異に起因し得る可能性が高い。その通りであるかどうかを試験するために、この脂肪酸の取込み度を監視した。最初に、C18:1、C18:3、D4−18:3およびC17:0(内部標準として使用される)の脂肪酸メチルエステル(FAME)の分離状態を決定した。図5に示すGC−MSクロマトグラムは、これらの脂肪酸メチルエステル標準の分離および検出の感受性の両方を裏付けている。
【0169】
野生型酵母を対数期増殖中に集菌し、脂肪酸感受性アッセイについて記載の通り、リン酸緩衝液と0.20%デキストロースの存在下、外因的に添加した脂肪酸の存在下でインキュベートした(0または4時間)。細胞を集菌し、滅菌水10mlで2回洗浄し、次いで酵母細胞ペレットを前述の通りアルカリメタノリシスによって処理した。C17:0を内部標準として添加して、GC−MS後に脂肪酸をメチルエステル(FAME)として検出する(図6)。4時間のインキュベーション後に検出された18:3およびD4の量を、較正曲線から外挿した。これらの結果は、4時間のインキュベーション期間中に、酵母がリノレン酸およびD4−リノレン酸の両方を貪欲に組み込むことを示唆している。これらの結果に基づくと、D4−C18:3による処理に対するcoq変異酵母の強化された耐性は、取込みの欠如に起因しないことが明らかである。
【0170】
D2−リノレン酸、11,11−D2−リノレン酸および14,14−D2−リノレン酸も、この酵母モデルに対して使用し、それに匹敵する保護をもたらした。
【0171】
例7.酸化ストレスを軽減し、AMDおよび糖尿病性網膜症の病理に関与する網膜細胞における生存率を増大するD−PUFA
微小血管内皮(MVEC)、網膜色素上皮(RPE)および網膜神経細胞(網膜神経節細胞)を含むいくつかの細胞型を、細胞培養における生存について試験した。細胞を、水素化(対照)または重水素化D2−リノール酸(ω−6;LA)およびD4−リノレン酸(ω3;ALA)(20μM;ω−6対ω−3比:1:1または2:1)のいずれかを含有する培地中で、72時間維持した。細胞へのPUFAの組込みを、GCによって監視した。MVECへのPUFAの組込みを示す表1によれば、PUFAは、細胞によって容易に取り込まれることが示された。
【0172】
【表1】

【0173】
次いで、細胞を、一般的な酸化ストレス発生化合物であるパラコート(PQ;500μM)で処理した。生存率の測定のために、血球計算器およびトリパンブルー排除法を使用して細胞を計数した。図8は、パラコートによる急性中毒後のH−PUFAおよびD−PUFA処理したMVEC細胞の生存率を示す。試験したすべての細胞型について、D−PUFAは、対照と比較して、MVEC細胞について図8に示したものと類似の保護作用を有していた。
【0174】
例8.脳組織のリン脂質膜へのD−PUFAの急速な組込みを確認する同位体比質量分析法
D2−LAおよびD4−ALAを食事補給によって送達する場合、前記PUFAは、哺乳動物においてさらに伸展/不飽和化され、したがってそれらの化学的同一性が変化し得るので、動物組織への組込みは、クロマトグラフィー系の分析技術では監視することができない。本発明者らは、脂質膜における重水素組成のすべての増加を測定することができる同位体比質量分析技術を使用し、したがってD2−LA、D4−ALAおよびこれらの2つに由来する任意の他のPUFAの組込みについて報告した。この方法を使用して、マウス脳組織へのD−PUFAの実質的な取込みを検出した。マウスに、PUFAの唯一の供給源としてD−PUFAまたはH−PUFAを6日間栄養補助し、40mg/kgのMPTP((1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)または生理食塩水ビヒクルに急激に曝露し、同じ食事をさらに6日間継続した。MPTPは、パーキンソン病のマウスにおいて十分に認識されているモデルである。脳を取り出し、解剖し、生理食塩水で処理したマウスからのホモジネート試料を、重水素含量について分析した。MSを異なる濃度のD2−LAおよびD4−ALAで較正し、H−PUFAベースラインと比較した(表2)。表2は、脳組織のリン脂質膜へのD−PUFAの組込みについての同位体比質量分析測定を示す。
【0175】
データは、重水素レベルのMS標準であるウィーン標準平均海水(V−SMOW)レベルに対して測定した試料における重水素ピーク面積のδと、水素ピークの面積比の比(dD/H)としてパーミル(‰)で表される。D−PUFAを与えたマウスは、参考文献と一致する1日3〜8%の重水素レベルを組み込んだ。高次PUFAの濃度は、単回用量のLAおよびALAを投与して8時間以内に脳内でピークに達し、そのLAおよびALAは、高級PUFAが存在しない場合には必要に応じて酵素的に不飽和化され、伸長される。
【0176】
【表2】

【0177】
先の3つの試料のそれぞれは、D2−リノレン酸:D4−リノレン酸1:1比の混合物を含有する。
【0178】
例9.D−PUFAを栄養補助したマウスの毒性学研究−主な血液バイオマーカーにおける明らかな異常なし
より長期の投与パラダイム(すなわち、3週間の食事の置き換え)を用いたH−PUFAおよびD−PUFAを栄養補助したマウスの血清の化学的分析(UC Davisで実施した)では、H−PUFA/D−PUFA生理食塩水で処理したマウスについて腎臓機能、肝機能、血液脂質等の主なバイオマーカーにおいて差異は明らかにならなかった。この例では、D−PUFAは、D2−リノール酸:D4−リノレン酸の2:1混合物である。
【0179】
試験したパラメータには、表3のトリグリセリド、総タンパク質、総ビリルビン、リン、遊離脂肪酸、HDL、グルコース、クレアチン、コレステロール、カルシウム、血液尿素窒素、アルカリホスファターゼ、アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ等の測定が含まれていた。
【0180】
【表3】

【0181】
例10.HDLレベルを増大し、LDLレベルを低減するD−PUFAによる栄養補助
食事性PUFAの唯一の供給源としてD−PUFAを3週間栄養補助したマウスは、H−PUFA(101mg/dl)を投与した対照コホートと比較して、わずかに高レベルのHDL(115mg/dl;例9)を有する。D−PUFAコホートはまた、H−PUFA対照群(181mg/dl)と比較して低レベルのコレステロール(158mg/dl)を有する。H−PUFAコホートに関するLDLレベル、すなわちコレステロールレベルとHDLの差異は80mg/dlであり、またはD−PUFAコホートの43mg/dlと比較してほぼ2倍高い。(D−PUFAは、D2−リノール酸:D4−リノレン酸の1:1混合物である。)
例11.パーキンソン病のマウスMPTPモデル:ドーパミン喪失を保護するD−PUFA補給
ビスアリル位におけるPUFAの同位体強化は、酸化ストレスに関係する傷害を予防し、したがって神経保護薬になる。マウスに、D−PUFAまたはH−PUFAのいずれかを6日間与え(無脂肪食(MPBio)に、10%脂肪を栄養補助した(10%(すなわち総脂肪の1%)がLA:ALA(1:1)またはD2−LA:D4−ALA(1:1)混合物である飽和および一不飽和(オレイン酸))、次いでMPTPまたは生理食塩水を用いてチャレンジした。神経化学的分析によって、D−PUFAを与えたマウスから、77.8±13.1(D−PUFA;n=4)対28.3±6.3(H−PUFA;n=3)ng/mgのタンパク質のほぼ3倍高い値と共に、線条体のドーパミンの著しい神経保護が明らかになった。(D−PUFAは、D2−リノレン酸:D4−リノレン酸の1:1混合物である)。DAの代謝産物である3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)レベルの著しい改善も、D−PUFA群、ならびにウエスタンブロット分析によるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の線条体の免疫反応性において見られた。重要なことに、生理食塩水で処理したマウスにおいて、線条体のDAレベルの上昇傾向(11%)が、D−PUFA対H−PUFAを与えたコホートに見られた(p=0.053;図9)。
【0182】
例12.D−PUFA補給によるα−シヌクレイン(Cynuclein)凝集の減弱
a−syn発現の増大は、ヒトにおけるパーキンソン症候群および動物モデルのPD様の病理を誘発し得る。野生型タンパク質の発現を強化するSNCAの増殖変異であるa−syn遺伝子は、常染色体優性パーキンソニズムに必然的に関連する。タンパク質レベルの増大は、形成されるプロテイナーゼ−Kに耐性のある凝集同属種および病原性作用を媒介するニトリル化/リン酸化形態と共に、a−synの自己組織化を促進する。先の例に記載の通り、D−PUFA対H−PUFAの投与は、D−PUFA対H−PUFAで処理し、MPTPに曝露したマウスの黒質細胞体における毒性のあるa−synの蓄積を低減する(図10)。D−PUFAは、D2−リノレン酸:D4−リノレン酸の1:1混合物である。
図1
図2A
図2B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図3