特許第5934157号(P5934157)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934157
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】マルチディスク変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/14 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   F16H15/14
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-171401(P2013-171401)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-40584(P2015-40584A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100185487
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 哲生
(72)【発明者】
【氏名】丹下 宏司
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−053995(JP,A)
【文献】 特開平01−093658(JP,A)
【文献】 特公昭15−000714(JP,B1)
【文献】 特開2013−047569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチディスク変速機であって、
動力源からの回転が入力される入力軸と、
前記入力軸に対して平行に配置される出力軸と、
前記入力軸に設けられるプライマリディスクと、
前記出力軸に設けられ、前記プライマリディスクと重なり合うディスク重合領域を有するセカンダリディスクと、
一方の端部が回動軸を介して回動可能に連結され、前記ディスク重合領域において前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置される一対のアームと、
前記一対のアームにそれぞれ取り付けられ、前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置される一対の押付ローラと、
前記一対のアームに押付力を作用させ、前記一対の押付ローラを前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクに押し付けるディスククランプ機構と、
前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置され、前記一対のアームに前記回動軸と前記押付ローラとの間でそれぞれ挿通して前記一対のアームを前記入力軸と前記出力軸との間で移動可能に支持し、前記ディスククランプ機構から前記一対のアームに押付力を作用させると弾性変形して前記一対のアームの回動を許容する一対のガイド軸と、
前記一対のアームを、前記入力軸と前記出力軸との間で移動させる変速アクチュエータと、
を備えたことを特徴とするマルチディスク変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチディスク変速機であって、
前記一対のアームは、前記一対の押付ローラがそれぞれ取り付けられ、前記ディスククランプ機構から作用する押付力の大きさに応じて前記一対の押付ローラを前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクに押し付ける角度を変化させるローラ保持部をそれぞれ備え、
前記一対のガイド軸は、前記ローラ保持部にそれぞれ挿通して前記ローラ保持部を傾動可能に支持する、
ことを特徴とするマルチディスク変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチディスク変速機であって、
前記一対のガイド軸は、スプリングで前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクに向かって付勢された状態で、変速機ケースにそれぞれ支持される、
ことを特徴とするマルチディスク変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチディスク変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力軸に設けられたプライマリディスクと出力軸に設けられたセカンダリディスクとを部分的に重ね合わせてディスク重合領域を設け、この領域で両ディスクを一対の押付ローラで挟んで接触させることで、入力軸の回転を出力軸に伝達するマルチディスク変速機が開示されている。
【0003】
マルチディスク変速機においては、一対の押付ローラが両ディスクを挟む位置を変更することによって変速が実現される。すなわち、両ディスクを挟む位置を、入力軸に近づければ変速比がLow側(変速比大側)に変化し、出力軸に近づければ変速比がHigh側(変速比小側)に変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−53995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のマルチディスク変速機では、一対の押付ローラにスプリングの付勢力を直接作用させることで、押付ローラからディスクに押付力を作用させているが、押付ローラからディスクに押付力を作用させる構造としては、例えば、一方の端部が回動軸に回動可能に支持された一対のアームにそれぞれ押付ローラを取り付け、一対のアームの開放端側の間隔を狭めることで、押付ローラからディスクに押付力を作用させる構造とすることもできる。
【0006】
しかしながら、上記の構造では、アームの端部が回動軸によって支持されるので、回動軸から遠い位置では、可動部のガタによる一対のアームの回動軸の軸方向の位置ずれが大きくなりやすい。このような位置ずれが発生した場合は、一対のアームにそれぞれ取り付けられる一対の押付ローラがディスクと接触する位置にも回動軸の軸方向のずれが生じるので、両ディスクの接触部の幅が広くなってディスクの周速差による摩擦ロスが大きくなり、変速機の伝達効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、一対の押付ローラがディスクと接触する位置のずれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、マルチディスク変速機であって、動力源からの回転が入力される入力軸と、前記入力軸に対して平行に配置される出力軸と、前記入力軸に設けられるプライマリディスクと、前記出力軸に設けられ、前記プライマリディスクと重なり合うディスク重合領域を有するセカンダリディスクと、一方の端部が回動軸を介して回動可能に連結され、前記ディスク重合領域において前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置される一対のアームと、前記一対のアームにそれぞれ取り付けられ、前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置される一対の押付ローラと、前記一対のアームに押付力を作用させ、前記一対の押付ローラを前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクに押し付けるディスククランプ機構と、前記プライマリディスク及び前記セカンダリディスクを挟んで両側に配置され、前記一対のアームに前記回動軸と前記押付ローラとの間でそれぞれ挿通して前記一対のアームを前記入力軸と前記出力軸との間で移動可能に支持し、前記ディスククランプ機構から前記一対のアームに押付力を作用させると弾性変形して前記一対のアームの回動を許容する一対のガイド軸と、前記一対のアームを、前記入力軸と前記出力軸との間で移動させる変速アクチュエータと、を備えたことを特徴とするマルチディスク変速機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、回動軸と押付ローラとの間でアームに挿通するガイド軸により、一対のアームをそれぞれ支持するので、アームを支持する位置が、回動軸がアームを支持する場合よりも、押付ローラに近い位置となる。したがって、一対の押付ローラがディスクと接触する位置のずれを抑制できる。また、ディスククランプ機構から一対のアームに押付力を作用させると、ガイド軸が弾性変形して一対のアームの回動が許容されるので、ガイド軸が妨げとなることなく、押付ローラからディスクに押付力を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マルチディスク変速機を備えた車両の全体概略図である。
図2】マルチディスク変速機をエンジン側から見た図である。
図3図2における下面図である。
図4図2のIV−IV断面図である。
図5図2のV−V断面図である。
図6図5のVI−VI断面図である。
図7図2のVII−VII断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチディスク変速機を備えた車両の全体概略図である。
【0013】
車両1は、動力源としてのエンジン2と、マルチディスク変速機(以下、変速機と言う。)3と、左右の駆動軸4、5と、左右の駆動輪6、7とを備える。
【0014】
変速機3は、変速機ケース9と、入力軸10と、プライマリディスク11と、セカンダリディスク12と、押付機構13と、出力軸14と、乾式発進クラッチ15と、リバースギア16と、リバースアイドラギア17と、出力ギア18と、シンクロ機構19と、ファイナルギア20と、デファレンシャルギアユニット21とを備える。
【0015】
入力軸10と出力軸14とは平行に配置され、変速機ケース9によって回転可能に支持される。
【0016】
図2は変速機3をエンジン2側から見た図である。図3図2の下面図である。図4図2のIV−IV断面図である。なお、図2以降の図面については説明のため部材の一部を省略している。
【0017】
プライマリディスク11は、2枚の円形のディスク11aを入力軸10の軸方向に並べて入力軸10に取り付けて構成され、入力軸10と一体となって回転する。2枚のディスク11aの間にはスペーサ22が設けられ、2枚のディスク11aは、スペーサ22によって入力軸10の軸方向に所定の間隔を設けて配置される。プライマリディスク11は、ディスク11aの外周端が出力軸14に近接するように配置される。プライマリディスク11は入力軸10とともに図2の矢印方向に回転する。
【0018】
セカンダリディスク12は、センターディスク12aと、センターディスク12aの両面側に向かい合わせて設けた2枚のサイドディスク12bとを備える。セカンダリディスク12は、センターディスク12aとサイドディスク12bとを、出力軸14の軸方向に並べて出力軸14に取り付けて構成され、出力軸14と一体となって回転する。センターディスク12aとサイドディスク12bとの間にはスペーサ23が設けられ、センターディスク12aとサイドディスク12bとは、スペーサ23によって出力軸14の軸方向に所定の間隔を設けて配置される。セカンダリディスク12は、センターディスク12aの外周端、およびサイドディスク12bの外周端が入力軸10に近接するように配置される。
【0019】
プライマリディスク11のディスク11aは、セカンダリディスク12のセンターディスク12aとサイドディスク12bとの間に配置される。プライマリディスク11とセカンダリディスク12とは、入力軸10と出力軸14との間で、ディスクの一部が重なり合うディスク重合領域を形成する。
【0020】
ディスク重合領域において、プライマリディスク11のディスク11aとセンターディスク12aとの間には、以下に詳述する押付機構13による押付力が作用しない状態では、隙間が形成される。
【0021】
これに対し、押付機構13による押付力が作用する状況では、プライマリディスク11とセカンダリディスク12とが弾性変形して接触し、トルク伝達接触部が形成される。変速機3においては、プライマリディスク11とセカンダリディスク12との間にトルク伝達接触部が形成されることで、入力軸10から出力軸14への回転の伝達が実現される。また、軸心連結線Oは、入力軸10の軸心と出力軸14の軸心とを結び、入力軸10と出力軸14とに直交する線である。
【0022】
押付機構13は、押付ローラ機構30と、ディスククランプ機構31と、押付力調整機構32と、第1アクチュエータ33とを備える。
【0023】
第1アクチュエータ33は、押付ローラ機構30を軸心連結線Oに沿って移動させる。
【0024】
第1アクチュエータ33は、電動モータ34と、ボールスクリュー機構35と、ブラケット37とを備える。
【0025】
ボールスクリュー機構35は、一方の端部が電動モータ34の回転軸に連結され、電動モータ34の回転軸の回転方向に応じて正方向または逆方向に回転する。ボールスクリュー機構35は軸心連結線O方向に延設される。
【0026】
ブラケット37は、ボールスクリュー機構35が回転すると、ボールスクリュー機構35の回転に応じてボールスクリュー機構35の軸方向、つまり軸心連結線O方向に沿って移動する。ブラケット37には、電動モータ34側となるにつれてボールスクリュー機構35からの距離が短くなるテーパ面37aがエンジン2側の面に形成される。ブラケット37が電動モータ34によって往復動されると、テーパ面37aに所謂カムフォロワーのように追随するプッシュロッド(図示せず)が往復動され、プッシュロッドによって乾式発進クラッチ15のレリーズレバーが駆動されてクラッチの締結及び解放がなされる。
【0027】
ブラケット37は、軸心連結線O方向に延設される第1シャフト38を介して、押付ローラ機構30のローラ保持アーム42、43に連結する。電動モータ34によってボールスクリュー機構35が回転されると、ブラケット37はボールスクリュー機構35の回転方向に応じて軸心連結線O方向に沿って前後進し、押付ローラ機構30がブラケット37および第1シャフト38と一体となって軸心連結線O方向に沿って前後進する。
【0028】
図5は、図2のV−V断面図である。
【0029】
押付ローラ機構30は、押付ローラ40と、保持部41と、ローラ保持アーム42、43と、転動軸44と、付勢部45と、を備える。
【0030】
押付ローラ機構30は、プライマリディスク11及びセカンダリディスク12を挟んで両側に配置され、2本のガイドシャフト51に摺動可能に支持される。ガイドシャフト51は、プライマリディスク11及びセカンダリディスク12を挟んで両側にそれぞれ配置され、図2に示すように、軸心連結線O方向に延設されて、変速機ケース9に取り付けられたフレーム9aに両端が支持される。押付ローラ機構30は、第1アクチュエータ33によって軸心連結線O方向に移動し、目標とする変速比が実現される位置にトルク伝達接触部を形成する。なお、ガイドシャフト51については、後で詳しく述べる。
【0031】
ローラ保持アーム42、43は、一方の端部が回動軸52を介して回動可能に連結される。ローラ保持アーム42、43は、図5に示すように、ディスク11、12側に開口した断面形状を有する。
【0032】
ローラ保持アーム42、43の開放側の端部には、転動軸44がそれぞれ取り付けられる。転動軸44は、ローラ保持アーム42、43に、両端に設けられたニードルベアリングを介して回転可能に支持される。転動軸44にディスククランプ機構31のフロントクランプアーム67およびリアクランプアーム68から押付力が作用すると、ローラ保持アーム42、43が回動軸52を中心にして回動する。押付力が作用した状態で第1アクチュエータ33により押付ローラ機構30を軸心連結線O方向に移動させた場合は、転動軸44が転動するので、押付ローラ機構30の移動が妨げられることがない。
【0033】
保持部41は、ローラ保持アーム42、43の開口部にそれぞれ取り付けられる。保持部41は、軸心連結線O方向に交差する方向かつ同軸上に取り付けられる支持軸41aと支持軸41bとを有し、支持軸41aと支持軸41bとにより、ローラ保持アーム42、43に、ニードルベアリングを介して回動可能に支持される。
【0034】
押付ローラ40は、図4に示すように、保持部41に固定された第1軸部57に、ニードルベアリングを介して回転可能に支持される。押付ローラ40は、ディスク重合領域において、サイドディスク12bと当接し、第1軸部57を中心に回転する。押付ローラ40は、伝達される押付力が大きくなると、ディスク11、12を弾性変形させて、トルク伝達接触部を形成する。
【0035】
付勢部45は、ブラケット45aと圧縮スプリング45bとを有し、ローラ保持アーム42、43にそれぞれ取り付けられる。圧縮スプリング45bの開放端は、図5に示すように、保持部41の回動中心軸である支持軸41a、41bよりもディスク11、12に近い位置で保持部41と当接し、図4の矢印の方向に保持部41が回動するように、圧縮反力で常に保持部41を付勢する。保持部41は、図示しないストッパーと当接して回動が停止するようになっている。ストッパーの位置は、ディスク11、12と保持部41とが直交する状態を基準角度(0°)とした場合に、例えば、図4の矢印の方向に、保持部41が1°傾いた状態で回動が停止するように設定される。
【0036】
ここで、押付ローラ40の形状は、保持部41の回動中心軸よりも入力軸10側にオフセットした位置で、サイドディスク12bと当接するように設定される。オフセット量は、例えば1mmである。このため、押付ローラ40からディスク11、12に押付力を作用させると、押付ローラ40がディスク11、12から受ける反力に応じて、保持部41を図4に示す矢印とは反対の方向に回動させるモーメントが発生し、圧縮スプリング45bの付勢力と釣り合うように保持部41が図4の矢印とは反対の方向に回動する。
【0037】
また、押付ローラ40の形状は、保持部41が回動してサイドディスク12bと当接する角度が変化しても、サイドディスク12b当接する位置、すなわち上記のオフセット量が変化しないように設定されるとともに、押付ローラ40からディスク11、12に作用させる押付力が大きくなり、保持部41が図4の矢印とは反対の方向に回動するのにしたがって、サイドディスク12bと当接する部分の曲率が小さくなるように設定される。したがって、押付力が大きくなるほど、押付ローラ40とサイドディスク12bとの接触面積が大きくなるので、押付ローラ40及びディスク11、12にかかる応力が低減され、押付ローラ40及びディスク11、12の耐久性が確保される。
【0038】
続いて、ガイドシャフト51について説明する。図6は、図5のVI−VI断面図である。図7は、図2のVII−VII断面である。
【0039】
ガイドシャフト51は、保持部41に形成された挿通孔41cに直動ブッシュ53を介して挿通する。挿通孔41cは、回動軸52と押付ローラ40との間、かつ支持軸41a、41bと同軸上に、保持部41に形成される。2本のガイドシャフト51は、保持部41を介してローラ保持アーム42、43をそれぞれ支持することで、押付ローラ機構30を移動可能に支持する。
【0040】
このように押付ローラ機構30を支持する構造としては、例えば、回動軸52を軸心連結線O方向に延設し、変速機ケース9に固定して、ローラ保持アーム42、43を支持する構造とすることも考えられるが、この場合は、ローラ保持アーム42、43の端部が支持されるので、回動軸52から遠い位置では、可動部のガタによるローラ保持アーム42、43の軸心連結線O方向の位置ずれが大きくなりやすい。このような位置ずれが発生した場合は、ローラ保持アーム42、43に保持部41を介してそれぞれ取り付けられる一対の押付ローラ40がサイドディスク12bと接触する位置にも軸心連結線O方向のずれが生じる。このため、トルク伝達接触部の幅が広くなってディスク11、12の周速差による摩擦ロスが大きくなり、変速機3の伝達効率が低下する場合がある。
【0041】
これに対して、本実施形態では、保持部41に回動軸52と押付ローラ40との間で挿通するガイドシャフト51により、保持部41を介してローラ保持アーム42、43をそれぞれ支持するので、ローラ保持アーム42、43をそれぞれ支持する位置が、回動軸52が支持する場合よりも、押付ローラ40に近い位置となる。このため、一対の押付ローラ40の軸心連結線O方向の位置ずれに対するローラ保持アーム42、43の軸心連結線O方向の位置ずれの影響が小さくなるので、一対の押付ローラ40がサイドディスク12bと接触する位置のずれを抑制できる。したがって、トルク伝達接触部の幅が広くなってディスク11、12の周速差による摩擦ロスが大きくなることを抑制でき、変速機3の伝達効率の低下を抑制できる。
【0042】
また、上記のように、押付ローラ40からディスク11、12に作用させる押付力の大きさに応じて保持部41が回動するようにして押付ローラ40がサイドディスク12bと当接する角度を変化させ、押付ローラ40とサイドディスク12bとの接触面積を変化させることで押付ローラ40やディスク11、12の耐久性を確保しているが、挿通孔41cと直動ブッシュ53との接触長さが長いと、保持部41の回動を直動ブッシュ53が妨げてしまうので、保持部41の作動量を確保することができなくなる。
【0043】
これに対して、本実施形態では、図6に示すように、挿通孔41cの内周における中央部に全周に亘って凸部41dを形成し、挿通孔41cと直動ブッシュ53との接触長さを短くしているので、直動ブッシュ53が保持部41の回動を妨げることがない。つまり、ガイドシャフト51が、直動ブッシュ53を介して保持部41を傾動可能に支持するので、上記のように、一対の押付ローラ40がサイドディスク12bと接触する位置のずれを抑制できるように、押付ローラ40に近い位置でガイドシャフト51を保持部41に挿通させても、保持部41の作動量を確保することができ、押付ローラ40がサイドディスク12bと当接する角度を変化させることができる。
【0044】
また、ディスククランプ機構31からローラ保持アーム42、43に押付力を作用させると、回動軸52を中心にしてローラ保持アーム42、43が回動するが、このとき、ガイドシャフト51の剛性が高いと、ローラ保持アーム42、43の回動が妨げられ、押付ローラからディスク11、12に押付力を作用させることができなくなる。
【0045】
これに対して、本実施形態のガイドシャフト51は、ディスククランプ機構31からローラ保持アーム42、43に押付力を作用させたときに、保持部41を介して伝達される押付力により、ディスク11、12側に弾性変形する細軸のシャフトとされる。したがって、ローラ保持アーム42、43に押付力を作用させると、ガイドシャフト51が撓んでローラ保持アーム42、43の回動が許容されるので、ガイドシャフト51が妨げとなることなく、押付ローラ40からディスク11、12に押付力を作用させることができる。
【0046】
ガイドシャフト51は、上記のように、フレーム9aに両端が支持される。具体的には、図7に示すように、プランジャ54の圧縮スプリング54aにより、フレーム9aに設けられたスロット穴内でディスク11、12側に付勢された状態で支持される。
【0047】
ディスククランプ機構31が押付ローラ機構30に押付力を作用させていない状態では、押付ローラ40を介して伝達されるディスク11、12の反力により、ローラ保持アーム42、43が、間隔が拡がる方向に回動する。このとき、ガイドシャフト51がフレーム9aに固定されていると、ローラ保持アーム42、43の回動が妨げられ、ディスククランプ機構31が押付ローラ機構30に押付力を作用させていないにも関わらず、押付ローラ40がプライマリディスク11とセカンダリディスク12とを接触させ、入力軸10から出力軸14に回転が伝達されることが考えられる。
【0048】
これに対して、本実施形態では、ディスク11、12の反力が押付ローラ20及び保持部41を介してガイドシャフト51に伝達されると、ガイドシャフト51が、プランジャ54の圧縮スプリング54aを圧縮してディスク11、12から離れる方向に移動する。したがって、ガイドシャフト51がローラ保持アーム42、43の回動を妨げることがなく、ディスククランプ機構31が押付ローラ機構30に押付力を作用させていない状態で、入力軸10から出力軸14に回転が伝達されることを防止できる。
【0049】
ディスククランプ機構31は、アームシャフト65、フロントクランプアーム67およびリアクランプアーム68を備える。
【0050】
アームシャフト65は、軸心連結線O、および入力軸10に対して直角な方向に延びる円柱状の部材である。アームシャフト65は、入力軸10と直交し、かつ図5に示すように入力軸10の軸方向におけるプライマリディスク11の中心と重なるように設けられる。
【0051】
フロントクランプアーム67は、図3に示すように略L字状となる板状部材である。フロントクランプアーム67は一方の端部側でアームシャフト65に回動可能に支持されている。フロントクランプアーム67のもう一方の端部は、後述する押付力調整機構32の係合部72が形成されている。フロントクランプアーム67は、図5に示すようにディスク11、12側の側面67a(板状部材の厚みを形成する面)が転動軸44に当接する。
【0052】
リアクランプアーム68は、図3に示すように略L字状となる板状部材である。リアクランプアーム68は一方の端部側でアームシャフト65に回動可能に支持されている。リアクランプアーム68のもう一方の端部は、後述する押付力調整機構32のケース70に連結する。リアクランプアーム68は、図5に示すようにディスク11、12側の側面68a(板状部材の厚みを形成する面)が転動軸44に当接する。
【0053】
フロントクランプアーム67およびリアクランプアーム68は、押付力調整機構32によって発生する押付力によってアームシャフト65を支点として回動し、ローラ保持アーム42、43を挟持することで、押付ローラ40からプライマリディスク11およびセカンダリディスク12に押付力を作用させる。
【0054】
押付力調整機構32は、図4に示すようにケース70と、第2軸部71と、係合部72と、回動部73と、圧縮スプリング74とを備える。
【0055】
ケース70は、リアクランプアーム68の端部に連結する。ケース70は回動部73の一部を収容し、第2軸部71が取り付けられる。
【0056】
第2軸部71は、アームシャフト65と平行な円柱状の部材であり、回動部73を回動可能に支持する。
【0057】
回動部73には、図2に示すように、変速機ケース9に固定された第2アクチュエータ90の回転軸90aが、連結機構91を介して連結される。連結機構91は、2つのシャフト91aとスリットカップリング91bとを備え、シャフト91aに、回動部73と第2アクチュエータ90の回転軸90aとがそれぞれ接続される。
【0058】
スリットカップリング91bは、2つのシャフト91aを連結するカップリングに複数のスリットを形成したものであり、スリット間の薄肉部が弾性変形することで2つのシャフト91aの圧縮方向、引張方向、せん断方向、および曲げ方向の相対変位を許容しつつ、回転を伝達する部材である。
【0059】
リアクランプアーム68は、押付力調整機構32によって発生する押付力によってアームシャフト65を支点として回動するが、上記の構成によれば、スリットカップリング91bの可動範囲内において、第2アクチュエータ90の回転軸90aと回動部73の回動中心軸(第2軸部71)とを、抵抗なく偏心させることが可能となる。
【0060】
係合部72は、フロントクランプアーム67の端部に形成され、同端部からリアクランプアーム68側に延びる連結部75と、連結部75のリアクランプアーム68側の端部から第2軸部71を囲繞するように延びる曲面部76とを備える。曲面部76は、第2軸部71を中心とした円弧状の外周壁を有する。曲面部76の外周壁には、回動部73の第2ローラフォロア79が接触して転動する。
【0061】
回動部73は、回転ボディ77と、回転伝達ブロック78と、第2ローラフォロア79とを備える。回転ボディ77は、第1ボディ80と、第2ボディ81とを備える。
【0062】
第1ボディ80は、第2軸部71を挟むように延びた略U字状の部材である。第1ボディ80は、第2軸部71の外周壁に当接し、第2軸部71によって回動可能、且つ摺動可能に支持される。第1ボディ80は、開放側の端部に圧縮スプリング74の一方の端部を支持するストッパー82を備える。
【0063】
回転伝達ブロック78は、第2軸部71が貫通し、第2軸部71によって回動可能に支持される。回転伝達ブロック78は、圧縮スプリング74のストッパー82によって支持される端部とは反対側の端部を支持する。
【0064】
第1ボディ80と第2ボディ81とは接合されており、第2ボディ81には、第2ローラフォロア79が取り付けられる。
【0065】
回転ボディ77は、圧縮スプリング74の反力によって、常に第2軸部71からストッパー82に向かう向きに付勢されている。しかし、第2軸部71に対して圧縮スプリング74とは反対側に位置する第2ボディ81が回転伝達ブロック78に当接し、第2軸部71から圧縮スプリング74方向への回転ボディ77の移動は規制される。
【0066】
第2ローラフォロア79は曲面部76の円弧状の外周壁に当接して転動する。第2ローラフォロア79は、第2アクチュエータによって第2軸部71を回転ボディ77と一体となって回動し、圧縮スプリング74によって常に第2軸部71に向けて付勢される。
【0067】
押付力調整機構32は、第2アクチュエータ90によって、第2ローラフォロア79を第2軸部71を中心に回動させることで、圧縮スプリング74によって第2ローラフォロア79を第2軸部71に向けて付勢する力の方向を変更する。これにより、フロントクランプアーム67をリアクランプアーム68側へ押す力、すなわちローラ保持アーム42、43を挟持する押付力を変更する。
【0068】
以上述べたように、上記態様によれば、保持部41に回動軸52と押付ローラ40との間で挿通するガイドシャフト51により、保持部41を介してローラ保持アーム42、43をそれぞれ支持するので、ローラ保持アーム42、43を支持する位置が、回動軸52が支持する場合よりも、押付ローラ40に近い位置となる。このため、一対の押付ローラ40の軸心連結線O方向の位置ずれに対するローラ保持アーム42、43の軸心連結線O方向の位置ずれの影響が小さくなるので、一対の押付ローラ40がサイドディスク12bと接触する位置のずれを抑制できる。また、ローラ保持アーム42、43に押付力を作用させると、ガイドシャフト51が弾性変形してローラ保持アーム42、43の回動が許容されるので、ガイドシャフト51が妨げとなることなく、押付ローラ40からディスク11、12に押付力を作用させることができる(請求項1に対応する効果)。
【0069】
また、ガイドシャフト51が、直動ブッシュ53を介して保持部41を傾動可能に支持するので、一対の押付ローラ40がサイドディスク12bと接触する位置のずれを抑制できるように、押付ローラ40に近い位置でガイドシャフト51を保持部41に挿通させても、保持部41の作動量を確保することができ、押付ローラ40がサイドディスク12bと当接する角度を変化させることができる(請求項2に対応する効果)。
【0070】
また、ガイドシャフト51が、プランジャ54の圧縮スプリング54aにより、フレーム9aに設けられたスロット穴内でディスク11、12側に付勢された状態で支持されるので、ディスククランプ機構31が押付ローラ機構30に押付力を作用させていない状態で、ディスク11、12の反力が押付ローラ40及び保持部41を介してガイドシャフト51に伝達されると、ガイドシャフト51がプランジャ54の圧縮スプリング54aを圧縮してディスク11、12から離れる方向に移動する。したがって、ガイドシャフト51がローラ保持アーム42、43の回動を妨げることがなく、ディスククランプ機構31が押付ローラ機構30に押付力を作用させていない状態で、入力軸10から出力軸14に回転が伝達されることを防止できる(請求項3に対応する効果)。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0072】
3 マルチディスク変速機(変速機)
2 エンジン(動力源)
10 入力軸
14 出力軸
11 プライマリディスク
12 セカンダリディスク
52 回動軸
42 ローラ保持アーム(アーム)
43 ローラ保持アーム(アーム)
40 押付ローラ
31 ディスククランプ機
51 ガイドシャフト(ガイド軸)
33 第1アクチュエータ(変速アクチュエータ)
41 保持部(ローラ保持部)
54a 圧縮スプリング(スプリング)
9 変速機ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7