【実施例】
【0096】
実施例1:新規な抗−200/100−kD自己抗体が壊死性ミオパチー患者の血清に存在する。
近位筋力低下、上昇したクレアチンキナーゼ(CK)レベル、筋電図検査(EMG)におけるミオパチーの徴候、及び/又は筋疾患のその他の徴候を有する患者225人から得た筋生検試料を、優位に壊死性のミオパチーを有するものを同定するために精査した。顕著な炎症性細胞の浸潤、縁取りされている空胞(封入体筋炎の特性)、筋束周辺萎縮(皮膚筋炎(DM)に特徴的)、又は特異診断を特徴付けるその他の特性が注目される生検結果を有する患者は、優位な壊死性のミオパチーを発症していると考えなかった。
【0097】
合計38人の患者(全体の17%)を筋生検で優位に壊死性のミオパチーを発症していると同定した。これらのうち、既存の試験方法を用いて、12人の患者に特定の筋疾患が確定診断された。10人の患者は、抗シンセターゼ自己抗体の存在(1人は抗−Jo−1、2人は抗−PL−2、そして1人は抗−PL−7を有している)によって、或いは抗−シグナル認識粒子(SRP)自己抗体の存在(6人の患者)によって特定されるように自己免疫ミオパチーを発症しており;これらの患者はそれぞれ免疫抑制療法に明確な陽性応答も有していた。さらに、1人の患者は深刻な甲状腺機能低下に関連する壊死性ミオパチーを発症しており、他のものは肢帯筋ジストロフィー2B型(すなわち、ジスフェリン異常症:後で遺伝子検査で確認された)を発症していた。残りの患者26人(最初の群の〜10%)は病因が不明確な優位な壊死性のミオパチーを発症していた。
【0098】
上記26人の患者から採取した血清を新規な自己抗体の存在についてスクリーニングした。注目すべきことに、これらの患者のうちの16人の患者(62%)由来の血清が、放射活性標識化ヒーラ細胞抽出物から、それぞれ大きさがおよそ200kD及び100kDの1対のタンパク質を免疫沈降したことを見出した(
図1)。これらのタンパク質は、公知の筋炎に特異的な自己抗原のそれに対応していない分子量を有して、常に対として免疫沈降した。抗−200/100kD自己抗体の免疫沈降は再現性があったが、ヒーラ細胞抽出物を免疫ブロット法に用いた場合、血清に200−kD又は100−kDタンパク質は検出されなかった。
【0099】
これらの抗体の壊死性表現型に対する特異性を評価するために、残りの群において抗−200/100−kD自己抗体の免疫活性を試験した。優位な壊死性ミオパチーを発症していない患者187人のうちわずか1人の患者(0.5%)由来の血清が200−kD及び100−kDタンパク質を免疫沈降して、この知見が壊死性ミオパチーを有する患者のそれに高度に特異的である(フィッシャーの直接確率検定によりp<10
−15)ことを明らかにしている。抗−SRP抗体を有する6人の患者を含む、既知の疾患と関連している壊死性ミオパチーを有する12人の患者由来の血清は何れも、分子量200kd又は100kdのタンパク質を免疫沈降しなかった。
【0100】
抗−200/100−kD自己抗体陽性血清のうちの幾つかが、更なるタンパク質を免疫沈降した。例えば、患者8,089由来の血清は、200−kD及び100−kDタンパク質と同様に、〜70−kDのタンパク質を免疫沈降した(
図1、レーン2)。注目すべきは、追加のタンパク質のそれぞれは、抗−200/100自己抗体陽性患者由来の16血清のうちわずか1つに認識された。さらに、抗−シグナル認識粒子ミオパチーの患者に見られるような、分子量72−kD、54−kD、及び/又は21−kDのタンパク質を包含する、既に認識されている筋炎特異性自己抗原と大きさが一致する、抗−200/100−kD自己抗体陽性血清の何れにも追加的バンドは認識されなかった。
【0101】
実施例2:スタチンの使用は抗−200/100−kD自己抗体陽性と統計的に相関する。
16人の壊死性ミオパチーを有する抗−200/100−kD自己抗体陽性患者の人口統計学的情報、検査所見、低下のパターン、大腿部核磁気共鳴画像(MRI)及びその他の臨床的特性を解析した(表1)。抗−200/100−kD自己抗体特異性、優位な壊死性のミオパチーを単独で有する患者をこの解析から除外した(表1)。
【0102】
【表1】
【0103】
男性と女性がほぼ同数いて、発症時の平均年齢が54歳であった。16人の患者全てが成人期に発症した、普通の強さの、急性又は亜急性の筋力低下の発症を以前に報告していた。初期評価時に、全ての患者が筋位筋力低下、両大腿部MRI上での筋浮腫の徴候、及び平均値が10,333IU/リットル(範囲、3,052〜24,714)である、顕著に上昇したクレアチンキナーゼレベルを有していた。精査のために使用できる16の筋電図(EMGs)のそれぞれが、ミオパチーの特性を明らかにした。患者16人のうちの14人(88%)は炎症性ミオパチーを立証し、残りの2人は非炎症性ミオパチーであった。
【0104】
その他の優位な臨床的特性は、患者16人中12人(75%)の筋肉痛、患者16人中8人(50%)の関節痛、及び患者16人中10人(63%)の嚥下障害を含んでいた。患者16人中たった2人(13%)がレイノー症状を有していた。患者16人中7人(44%)が非特異的な発疹を報告したが、どの患者も検査上又は過去の根拠によるDMに一致する皮膚特性を有していなかった。これらの患者は何れも臨床検査で可溶性核抗原に対する抗体を有しておらず(抗−Ro、抗−La、抗−RND、及び抗−Scl−70を含む)、どの患者もその他の結合組織疾患の基準に合致しなかった。2人の患者が過去に悪性腫瘍があった:1人は筋疾患の発症5年前に再発していない子宮癌を治療していた、そして他のものは治療後に寛解した前立腺癌があった。
【0105】
抗200/100自己抗体陽性患者は何れも筋疾患の家族歴を有していなかった。更に、遺伝的筋疾患を示唆する翼状肩胛骨、顔面筋力低下、非対称性筋力低下、或いはその他の顕著な徴候はこれらの患者のそれぞれに存在していなかった。
【0106】
注目すべきことに、16人のうち10人(63%)の患者が筋力低下発症前にスタチン治療を受けていた。筋肉症状発症前のスタチン治療の平均±SD期間は31.3±27.4ヶ月(0〜84ヶ月範囲)であった。それぞれのケースで、スタチン投薬の中断は明確な臨床的改善をもたらさなかった。そしてスタチン中断から筋生検までの平均±SD期間は5.2±4.6ヶ月(1〜14ヶ月範囲)であった。病歴の精査は他の重大な筋毒性への暴露を明らかにしなかった。
【0107】
スタチン使用との関連が偶然に起きたのかどうかを確認するために、筋炎を有する患者の別の群におけるスタチン使用の頻度を分析評価した(表2)。
【0108】
【表2】
【0109】
DM患者33人のうち5人(15.2%)、PM患者38人のうち7人(18.4%)、及びIBM患者31人のうち11人(35.3%)が筋生検を受ける前にスタチンで治療されていた;スタチン使用の頻度は、DM及びPMの両群と比較すると抗−200/100自己抗体陽性群で有意に(P<0.05)増大していた。しかしながら、この分析では、抗−200/100自己抗体陽性の患者群とIBM群との間にスタチン使用に関して有意な差はなかった(P=0.08)。高齢患者の方がスタチンで治療される可能性が高いので、異なった形態の筋炎を有する患者の年齢を評価した。平均±SD年齢が57.8±14.8歳である、抗−200/100自己抗体陽性患者全員と比べると、IBM患者の患者全群は、平均±SD年齢が67.7±9.9歳で、有意に高齢であった。年齢が50歳又はそれ以上の患者のみをこの分析に含めると、抗−200/100自己抗体陽性患者12人のうち10人(83.3%)、DM患者16人のうち4人(25%)、PM患者19人のうち7人(36/8%)、そしてIBM患者30人のうち10人(33.3%)がスタチン治療を受けていた(表2)。この年齢対応比較において、スタチン治療は、DM(P=0.02)、PM(P=0.011)、及びIBM(P=0.003)集団と比較して、抗−200/100自己抗体陽性集団において有意に増大していた。
【0110】
慢性的に挿管されている四肢麻痺患者から軽度の筋力低下のみを有する数人の患者にいたる臨床表現型に著しい差異が存在した。患者の大半における固有の特徴は、筋肉内酵素レベルの顕著な上昇にも関わらず、それらの強度の相対的な保存であった。しかし、数人の患者の医療記録は、それ以上では筋力低下が生ずるような明らかな閾値筋内酵素レベル(通常3,000〜7,000IU/リットル)を示した。
【0111】
実施例3:抗−200/100−kD自己抗体陽性患者に起こるミオパチーは免疫抑制療法に応答する。
投薬計画及び治療応答(筋力の他覚的改善に基づく)は変動する。抗−200/100自己抗体陽性患者16人の臨床所見を入手できた。長期に渡って追跡した14人の患者のうち、9人(64%)は完全に或いはほぼ完全に免疫抑制に応答して、5人(36%)は免疫抑制に部分的に応答した。これら5人の患者は、筋力低下の進展が安定化した1人の患者を含んでいたが、免疫抑制では改善されなかった。14人の患者のうち6人(43%)は免疫抑制剤を徐々に減らすか断つと再発した。14人の患者のうち7人(60%)は現在免疫抑制剤を徐々に減らしているが今日まで再発が起きていない。1人の患者だけが筋力低下の再発なしで免疫抑制剤を完全に減らしていた。
【0112】
【表3-1】
【0113】
【表3-2】
【0114】
殆どの患者がプレドニゾンに対して殆ど初期応答せず、併用免疫抑制療法を必要とした。リツキシマブ及び静注用免疫グロブリンを加えると、プレドニゾン及びアザチオプリン又はメトトレキサートが有効に補助された。プレドニゾンに対して殆ど初期応答しなかったにも関わらず、殆どの患者は維持療法のためにある用量のプレドニゾンを必要として、ステロイドの減量に伴う筋力低下を訴えた。
【0115】
実施例4:抗−200/100−kD自己抗体陽性に関連する壊死性ミオパチーは免疫介在ミオパチーに特有な特徴を有している。
抗−200/100自己抗体を有する患者17人のうち16人(94%)が、優位な筋繊維壊死を示す筋生検試料を有していて:残りの患者の生検試料は広範な炎症性浸潤が優位であったので、その後の分析にはこの生検の結果を含めなかった。精密な検査により筋生検試料16のうち5つ(31%)で炎症性細胞の筋内膜及び/又は血管周囲堆積が明らかにされたが、炎症の程度は、PM又はDM患者から得た典型的な筋生検試料に見られるものと比べて軽度であった。抗−200/100自己抗体陽性を有する患者から得た生体試料はどれも軽度を超える脱神経の兆候を明らかにせず、どの生体試料も異常なグリコーゲン蓄積又はアミロイド沈着に陽性ではなかった。
【0116】
抗−200/100自己抗体陽性である壊死性ミオパチー患者16人のうち、8人の患者から得た凍結筋組織サンプルをさらなる分析に利用した。血管形態を評価するために、切片を抗−CD31抗体で染色した。肥厚壁を有する異常に肥大した筋内膜毛細血管が8つの生検試料のうち5つ(63%)で観察された(
図2Bの矢印)。しかし、筋組織内の毛細血管の密度はどの筋生検試料においても目立って減少はしなかった。
【0117】
利用可能な抗−200/100自己抗体陽性筋生検試料を細胞膜傷害複合体を認識する抗体で染色して補体沈着を評価した。筋内膜毛細血管はこの抗体によっては確実には認識されなかったが(
図3D)、8つの筋生検試料のうち6つ(75%)において、小筋周膜血管が染色された(
図3A及び3B)。反対に、コントロールの筋生検試料由来の血管は細胞膜傷害複合体抗体で強くは染まらなかった。予想通り、細胞膜傷害複合体の沈着が壊死性並びに変性筋原繊維にも存在するので:これは非特異的な知見と見なした。しかし、8つの抗−200/100自己抗体陽性筋生検試料のうち4つ(50%)において、非壊死性筋繊維である、散乱した筋線維表面が細胞膜傷害複合体に対してポジティブ染色した(
図3C及び3D);示されているように、これらの筋細胞の幾つかは相対的に小さく、これらが再生繊維であることを示唆している。
【0118】
抗−200/100自己抗体陽性筋生検試料のクラスIMHCを認識する抗体による染色により、8つの試料のうち4つ(50%)の筋繊維鞘が明確にクラスIMHC陽性であることが示された(
図4)。その他の幾つかは不明確なクラスIMHC染色を有するが、このことは、幾つかの実験において陽性コントロールに含まれた、JO−1−陽性PM患者由来の筋生検試料で見られるものよりかなり劣る強さであると見られる。
【0119】
自己免疫性ミオパチー(総称して筋炎という)は、対称性近位筋力低下、上昇した血清クレアチンキナーゼレベル、及び筋電図上での筋障害所見によって臨床的に特徴付けられる疾患のファミリーである(Dalakas MC, et al., Lancet 2003;362:971-82 and Mammen AL. Ann N Y Acad Sci 2010;1184:134-53)。その他の筋疾患が同様な症状を引き起こし得るが、この疾患のみがいつも決まって免疫抑制療法に応答するので、自己免疫性疾患の診断が重要な治療及び予後を支援する。
【0120】
他の全身性自己免疫疾患と同様に、自己抗体と独特な臨床表現型との強い関連性が自己免疫性ミオパチー患者に観察される。例えば、アミノアシル−トランスファーRNA(tRNA)シンセターゼに対する自己抗体はよくある筋炎−特異的自己抗体(MSAs)であって、筋炎患者の〜20%で観察される(Targoff IN, et al,. Rheum Dis Clin North Am 2002;28:859-90, viii)。これら及び他のtRNAシンセターゼを認識する自己抗体は、間質性肺炎、レイノー症状、関節炎、及び職工の手として知られている特徴的皮膚所見を包含する、ある特定の様々な臨床的特徴と関連している(Yoshida S, et al., Arthritis Rheum 1983;26:604-11; Marguerie C, et al., Q J Med 1990;77:1019-38)。自己抗体のスクリーニングは免疫介在筋疾患の診断に重要な役割を果たす可能性があるが、このような抗体は必ずしも観察されるとは限らない。
【0121】
自己免疫性ミオパチーの別のよく認識されている特徴は、筋生検試料における炎症性浸潤の存在である(Dalakas MC, et al., 2003)。しかしながら、いくらかの自己免疫性ミオパチー患者由来の筋生検試料は、炎症性細胞浸潤を含有していても、ごく僅かである。例えば、SRPの成分に対する筋炎−特異的自己抗体(MSAs)を有する患者は、広範に及ぶ炎症性細胞浸潤のない、変性、壊死性、及び再生筋細胞が注目される生検試料を有している(Miller T, et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002;73:420-8; Kao AH, et al., Arthritis Rheum 2004; 50:209-15; Hengstman GJ, et al., Ann Rheum Dis 2006;65:1635-8; 及び Dimitri D, et al., Muscle Nerve 2007;35:389-95)。従って、他では壊死性ミオパチーと診断されていない患者が、診断に用いることのできる固有の自己抗体も有しているかもしれない。
【0122】
ミオパチー患者225人の群のうちで、38人が壊死性ミオパチー優位の筋生検試料を有していた。広範に及ぶ臨床検査の後に、これらの患者の12人に特定の疾患を診断できた;これらの患者は大部分が抗−シグナル認識粒子(抗−SRP)或いは抗シンセターゼ筋炎であった。残り26人の患者の血清を新規の自己抗体の存在についてスクリーニングして、これらの血清の内の16が、それぞれ約200kD及び100kDの分子量をもつ1対のタンパク質を免疫沈降したことが観察された。さらに、別の患者187人のうち、1人の患者が豊富な炎症性細胞浸潤を示す生体試料を有し、この免疫特異性を共有していた。抗−200/100−kD自己抗体を有する患者は、抗−SRPを包含する、他の公知の自己抗体を有していなかった。従って、抗−200/100−kD自己抗体は、26人の患者のうちの突発性壊死性ミオパチーを有する16人(62%)を代表する、ミオパチー患者固有の小集団を特徴付けている。
【0123】
多くの点で、抗−200/100−kD自己抗体免疫特性を有する患者の臨床的特徴は、免疫介在ミオパチーの別の形態を有する患者のそれと似ている;両群は、上昇したクレアチンキナーゼレベルを有する近位筋力低下の亜急性発症を経験し、筋電図検査での炎症性ミオパチーの所見、MRI上での浮腫の証拠、及び、殆どの場合、免疫抑制療法に対する明確な応答を有していた。しかしながら、抗−200/100−kD自己抗体陽性患者に幾つかの固有の特性があった。第一に、数人の患者は非常に高いクレアチンキナーゼレベル(3,000〜8,000IU/リットルの範囲)を有しているが、殆ど筋力低下がなかった。これは、これらの患者の、広範に及ぶ筋肉破壊と歩調を合わせる十分な効率で筋肉を再生する際だった能力を示唆しているか、或いはこれらの患者が筋力低下を引き起こさずにクレアチンキナーゼの漏洩を可能にする筋膜異常性を有していることを示唆しており;このような異常性は、非壊死性筋原繊維の筋繊維鞘上への細胞膜傷害複合体沈着という知見と一致している。第二に、これらの患者の>60%において、スタチン治療が筋肉症状の進展に先行していて、これはこの筋毒素による治療を中断した後にも長く持続していた。重要なことは、この関連性が高齢患者に顕著であった;50歳又はそれ以上の年齢の抗−200/100kD−自己抗体陽性患者の80%以上がスタチンに暴露されていた。この比率は、多発性筋炎、皮膚筋炎、又は封入体筋炎患者の年齢対応群におけるスタチン治療の比率より有意に高かった。
【0124】
抗−200/100−kD抗体陽性患者は、よく記載されている抗SRP抗体を有する患者群とある特定の特性を共有しているが、2つの重要な知見がこれらの群を別のものとして区別する。第1は、抗−200/100−kD抗体を有する患者由来の血清はシグナル認識粒子サブユニットの何れも認識せず、そして抗SRP自己抗体を有する患者由来の血清は分子量が〜200kD又は〜100kDのタンパク質を認識しない。これらの観察は、抗−200/100−kD自己抗体特異性を有する患者は抗SRP抗体を有する患者群から免疫学的に区別されることを明らかにしている。第2に、極めて高いCKレベルを有する抗−200/100自己抗体陽性患者の何人かは筋力低下をほとんど有していない。高いCKレベルを有し抗SRP抗体を有する患者は一般に一様に筋力が非常に弱いので、このことは異例のことである。
【0125】
抗−200/100自己抗体を有する患者における筋疾患を更に特徴付けるために、筋生検試料を、細胞膜傷害複合体、内皮細胞マーカー、及びクラスI MHCに対する抗体で染色した。細胞膜傷害複合体の沈着が補体カスケードの末期を示して、組織が免疫系による破壊の標的になっていることを示唆しているだろう。筋内膜毛細血管への細胞膜傷害複合体の沈着は皮膚筋炎患者に示されていて(Kissel JT et al., N Engl J Med 1986;314:329-34 及びEmslie-Smith AM et al., Ann Neurol 1990;27:343-56)、そして生検試料の4回のうち3回の分析が抗SRPに陽性である(Miller T, et al., 2002; Kao AH, et al., 2004; Hengstman GJ, et al., 2006; and Dimitri D, et al., 2007);このことは筋ジストロフィーには生じない(Spuler S et al., Neurology 1998;50:41-6)。抗−200/100−kD自己抗体を有する患者から得た生検試料中に筋内膜毛細血管への細胞傷害複合体の沈着は観察されなかったが、8試料のうち5つにおいて、筋内膜毛細管が異常に厚くそして肥大していた。同様な形態学的異常が、抗SRP抗体を有する患者及び「痩せ細った毛細血管を有する壊死性ミオパチー」患者群の両方において記載されている。後者の群が抗−200/100−kD自己抗体有する患者及び抗SRP抗体を有する患者と幾つかの形態学的特徴を共有しているが、これらの患者は別の結合組織疾患又は活性腫瘍のいずれかを有していることで異なっていた(Emslie-Smith AM and Engel AG, Neurology 1991;41:936-9)。
【0126】
それが毛細血管上に存在していなくても、筋内膜小血管中の細胞膜傷害複合体沈着は、抗−200/100−kD自己抗体を有する患者から得た生検試料8つのうち6つ(75%)で明らかであった。学説に結び付けていないが、これらの場合における複合体の沈着がこの患者群における新規な血管標的を反映している可能性があるということは理にかなっている。加えて、非壊死性繊維の表面に局在している細胞膜傷害複合体が、分析した抗−200/100自己抗体を有する患者由来の生体試料8つのうち4つ(50%)で認められた。非壊死性繊維上に細胞膜傷害複合体が存在することは免疫介在ミオパチーにおいて既に報告されているが(Oxenhandler R, et al., Hum Pathol 1982;13:745-57)、これはこれらの疾患の一般的な特徴ではない;抗SRPミオパチーの複数の研究において、細胞膜傷害複合体は、筋生検試料の7つのうちたった1つ(Miller T, et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002;73:420-8)、6つのうち0(Hengstman GJ, et al., 2006)、そして3つのうち1つ(Dimitri D, et al., Muscle Nerve 2007;35:389-95)で非壊死繊維上に観察された。非壊死性筋繊維上への細胞膜傷害複合体の沈着が幾つかのジストロフィーにおいても生じると報告されていること(Spuler S, et al., Neurology 1998;50:41-6)、及び血管及び筋繊維上への細胞膜傷害複合体沈着は、初期の病理学的事象よりもむしろ二次的な細胞膜障害であるかもしれないということに注目すべきである。
【0127】
最終的に、入手可能な生検試料8つのうち4つがクラスI MHCで染色された筋繊維鞘を有する筋原繊維を包含していた。これは免疫介在ミオパチーの特性であって筋ジストロフィー及びその他の筋肉及び神経疾患の患者由来生体試料においては希であるか又は存在しない(Van der Pas J, et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75:136-9及びSundaram C, et al., Neurol India 2008;56:363-7)。比べて、SRPに対する抗体を有する患者におけるクラスI MHC染色を評価する研究の結果を取り纏めると;ある研究は患者3人のうち2人にクラスI MHC陽性線維を明らかにし(Dimitri D, et al., 2007)、2番目の研究は患者6人のうち3人にこれらの線維を示し(Miller T, et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002;73:420-8)、3番目の研究は6人の患者だれにもこの線維を示さなかった(Hengstman et al, 2006)。
【0128】
興味深いことに、2つの最近の報告が、壊死性ミオパチーがスタチン治療中に発症して、筋毒性薬物治療の中断にも関わらず進展した患者を記載している(Needham, et al., Neuromuscul Disord 2007;17: 194-200及びGrable-Esposito et al., Muscle Nerve 2010;41:185-90)。この2つの報告のうち大きい方で、Grable-Esposito et al.,は、抗−200/100−kD自己抗体陽性患者の我々の群で観察された臨床特性を共有している、明らかに免疫介在性、スタチン関連壊死性ミオパチーを発症した患者25人を記載した。例えば、この患者群は近位筋力低下を有し、殆ど同数の男性及び女性を包含し、8,203IU/リットルの平均クレアチンキナーゼレベルを有し、筋力を改善するために複数の免疫抑制剤を必要とし、そして免疫抑制剤の低減によって再発を経験していた。同様な患者8人から得た筋生検試料が Needhamと共同研究者によって詳細に分析された(Needham, et al., 2007)。ここでは、Needham, et al.,に記載されている全ての生検試料が非壊死性筋線維の表面上で上昇したクラスI MHCの発現を有していて、そこに記載されている抗−200/100−kD自己抗体陽性患者8人のうちわずか4人がクラスI MHC染色に陽性であった。
【0129】
結論として、上で報告された結果は、壊死性ミオパチー及び新規な抗−200/100自己抗体特異性を有する患者の群を同定している。興味深いことには、この表現型の発症はスタチン投薬治療の経験と関連している。自己抗体の存在に加えて、全ての患者が免疫抑制に応答して、この治療を軽減すると多くのものが筋力低下の再発を経験した。これらの知見はこれらの対象における免疫介在性ミオパチーの存在を示す傾向にある。非壊死性繊維の表面上のクラスI MHCの存在はこの過程を免疫が介在していることも裏付けている。実際に、壊死性ミオパチー及び抗−200/100自己抗体を有するこれらの患者は恐らく免疫抑制療法で治療すべき自己免疫疾患を有しているのだろう。
【0130】
実施例5:スタチンによる200−kD及び100−kD自己抗原発現の上方調節
上で報告したように、IMNMを有する患者群から得た血清は、放射標識化ヒーラ抽出物から、−200−kD及び−100kDタンパク質を免疫沈降した。
【0131】
スタチンの使用とこれらの抗−200/100自己抗体の発症との強い関連性を前提として、ヒーラ細胞を10pMのメビノリン又は賦形剤(DMSO)単独のいずれかで24時間前処理した後、
35S−メチオニン/システインで標識化した。これら溶解物のタンパク質等価性を確認するために、Mi−2又はPM−Sclに対する抗体を用いて免疫沈降を実施した。予想通りに、同量のMi−2及びPM−Scl複合体の5タンパク質成分がそれぞれの溶解物型で検出された。その一方、200−kD及び100−kDの両タンパク質の3倍に増加したレベルが、メビノリン処理細胞から免疫沈降して、これらの自己抗原のレベルがスタチンによって上方調節されることを明らかにした(
図5A)。
【0132】
Goldstein 及び Brown(Goldstein JL and, Brown MS. Nature 1990;343:425-30)は、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素(HMG−CoA還元酵素又はHMGCRと省略する)の発現はスタチン処理によって上方調節されるということを最初に明らかにした。Morikawa 及び共同研究者はこれらの知見を筋細胞に拡大した(Morikawa S et al., J Atheroscler Thromb 2005;12:121-31)。彼らはDNAマイクロアレイ解析を用いて、スタチンがヒト骨格筋細胞株中の19遺伝子の発現を誘発し、その殆どがコレステロール生合成に関連していることを明らかにした。これらのうちHMG−CoA還元酵素を、その分子量が97−kDなので、100−kD自己抗原の候補として選択した。
【0133】
35S−メチオニンで標識化したHMGCRを(IVTT)で作成して、抗−200/100−kD自己抗体を有する患者16人から得た血清を用いる、さらに、スタチンに暴露していないDM患者3人及び3人の健常な個人からなる陰性コントロールの対象6人から得た血清を用いる免疫沈降測定に用いた。抗−200/100−kD陽性患者から得た血清はHMGCRを免疫沈降したのに対して、コントロール群から得た血清は沈降しなかった(
図5B)。
【0134】
実施例6:抗−200/100−kD自己抗体はHMG−CoA還元酵素のC−末端断片を認識する。
HMG−CoA還元酵素は1つの小さい細胞外ドメイン、7つの膜貫通ドメイン、及び1つの細胞内触媒ドメインを有する膜タンパク質である。抗−HMGCR抗体を有する患者から得た血清が認識するタンパク質の領域を特定するために、
35S−メチオニンで標識化した全長のHMGCRタンパク質、細胞外及び膜貫通ドメインを包含するN−末端断片(aa1〜377)、及び分子の細胞内部分を包含するC−末端断片(aa340〜888)を合成した。抗−HMGCR陽性患者から得た血清は全長のHMGCR及びC−末端断片を一貫して免疫沈降したが、N−末端断片を免疫沈降しなかった(
図6)。
35S−メチオニンで標識化した全長のHMGCRタンパク質の免疫沈降前に、抗−HMGCR陽性血清を非標識化C−末端HMGCRの濃度を増大させながら前培養すると、免疫沈降しなくなった(
図7A)。総合すると、これらの知見は、抗−HMGCR自己抗体がこの酵素の細胞内C−末端部分を認識したことを明らかにしている。
【0135】
実施例7:固有の自己抗体は200−kDタンパク質を認識しない。
抗HMGCR陽性患者から得た血清が200−kDタンパク質を認識する独特な自己抗体を含んでいるか否かを確認するために、
35S−メチオニンで標識化し、メビノリン処理したヒーラ細胞抽出物から、再びこれを精製したC−末端HMGCRタンパク質と前培養して、免疫沈降を実施した(
図7B)。この手法はHMGCR及び−200−kDタンパク質の両方の免疫沈降を阻害して、−200−kDタンパク質はHMGCRと共免疫沈降するか又はHMGCR二量体であるかの何れかであることを示唆している。
【0136】
実施例8:患者血清中の抗−HMGCR自己抗体を検出する新規なELISAの検証。
抗−HMGCR自己抗体について患者を迅速にスクリーニングするために、ELISAを開発した。相対吸光度値が3標準偏差であるか又はスタチンを服用したことのないコントロールの健常対象20人の平均値より高い場合は血清サンプルが抗−HMGCRに陽性であると特定した。この方法を用いて、先にヒーラ細胞抽出物から免疫沈降によって確認されている抗−200/100−kD陽性血清16の全てが抗−HMGCR陽性であることを見出した。これに対して、DM患者33人(以前にスタチンを服用していた5人を含む)及びIBM患者31人(以前にスタチンを服用していた11人を含む)は誰も抗−HMGCR陽性ではなかった。
【0137】
次に、2002年5月から2010年4月の間、the Johns Hopkins Myositis Centerで長期に渡る研究に登録されていた患者全750人から得た血清サンプルをスクリーニングするために、このHMGCR ELISAを用いた。これらのうち、45人の患者(6%)がELISAによって抗−HMGCR陽性であった(表4)。
【0138】
【表4】
【0139】
* 表4において、「HMGCR ELISA」欄に列挙した吸光度値は、任意の陽性コントロールサンプル(サンプル9176)の吸光度に相対する単位である。
HMG−CoA還元酵素(HMGCR)抗体 についての酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)における陽性結果のカットオフ値は0.215吸光度単位であり;この値はスタチンを投与されたことのない健常対象20人の平均より大きい3標準偏差に等しかった。
スタチンの使用は血清検査前の期間を示している。
クレアチンキナーゼ(CK)値はIU/リットルで表されている。
筋電図(EMG)所見は、正常、炎症性ミオパチー(IM)、又は非炎症性ミオパチー(NIM)として分類した。
筋生検所見は、壊死+炎症(N+I)、壊死性ミオパチー(NM)、又は壊死+縁取りされている空胞(N+RV)として分類した。
rs4149046に対する遺伝子型決定はDNAサンプルが入手可能な抗−HMG−CoA還元酵素抗体陽性患者17人について実施した。
n/a= 適用せず。
W=白人、B=黒人、A=アジア人
【0140】
ELISAを評価するために、ELISAと、2009年1月から2010年4月の間に経時的に固有な患者307人から採取した、この群由来の血清の小集団を用いて得られたIVTT免疫沈降データとを比較した。この小集団において、抗−HMGCR陽性患者17人が両方法で同定された。ELISAが、免疫沈降法で陰性であった追加1名の抗−HMGCR陽性を同定した(血清10029)。この患者は上昇したCKレベルを伴う壊死性ミオパチーを有しているので、これは真のHMGCR陽性血清であり、擬陽性の血清ではないことが確認された。この結果は、これら2つの方法の間の非常に高い相関性を明らかにして、このELISA試験が抗−HMGCR自己抗体を検出するための信頼性のある、有効なスクリーニングであると認証している。
【0141】
実施例9:抗−HMGCR陽性患者の臨床的特徴
抗−HMGCR陽性患者45人のうち、30人(66.7%)が以前にスタチンを服用していた(表1)。50歳又はそれ以上で我々のクリニックを訪れた患者26人のうち、24人がスタチンを服用していた(92.3%)。従って、抗−HMGCR自己抗体を有する患者におけるスタチン使用の比率は、我々及び他の者が以前に報告している、DM(25%)、PM(36.8%)、及びIBM(33.3%)を含む、他のミオパチーを有する患者(年齢〜50歳)について年齢を対応させたものより有意に高い(Grable-Esposito et al., 2010 and Christopher-Stine et al.,2010)。
【0142】
抗−HMGCR陽性患者は、近位筋力低下(95.6%)、上昇したCKレベル(平均±SD;9,718±7,383IU/リットル)、及びEMG上での筋疾患の所見(97.3%)によって特徴付けられた(表2)。入手可能な筋生検試料40の全て(100%)が優位に変性した、再生した、そして/又は壊死した繊維を有することが報告された。顕著な炎症性浸潤が筋生検サンプル40のうち8つ(20%)に確認され、そして生検試料40のうち1つに縁取りされている空胞が視覚化された:この患者は優位に近位筋力低下を有していてIBMに典型的な臨床的特徴を有していなかった。スタチンを服用したことのない患者は、その若年性(平均±SD37±17歳対59±9歳)、高いCKレベル(13,392±8,839対7,881±5,875IU/リットル)、及び人種(白人が46.7%対86.7%)を除いて、スタチンを服用したことのあるものと臨床的に区別ができなかった(表5)。
【0143】
【表5】
【0144】
抗−HMGCR陽性患者45人のうちの43人が他には全身性自己免疫疾患を有していない(95.6%)とはいえ、患者8196はJo−1抗体及び間質性肺疾患を有していた。別の患者(患者8038)は強皮症、抗−PM−Scl抗体、及び間質性肺疾患を有していた。これらの患者は何れも筋肉症状を発症する前にスタチンを服用していなかった。
【0145】
抗−HMGCR陽性患者の大部分が免疫介在性のミオパチーと一致する臨床的特徴を有していた。しかし、1人の患者(患者8144)はスタチン使用後の持続性筋肉痛、正常な自覚的及び他覚的筋力、両大腿部のMRI上での異常ではない所見、EMG上の正常な所見、及びわずか254IU/リットルのCKレベルのみを示した。この患者のHMGCR ELISAの結果は、2000の正常コントロールの平均を越える3−標準偏差より低かった。従って、この患者は筋力低下のサイン及び/又はHMGCR自己抗体の発症を観察すべきである。
【0146】
実施例10:スタチンミオパチー性の抗−HMGCR陽性患者に関連する単一ヌクレオチド多型の保有率は増大しなかった。
Study of the Effectiveness of Additional Reductions in Cholesterol and Homocysteine (SEARCH) Collective (N Engl J Med 2008;359: 789-99) で公表された最近の研究は、SLCO1B1遺伝子(すなわち、rs4149056C対立遺伝子)における特定多型の存在がスタチンミオパチーの発症と強い関連性があることを明らかにした。この遺伝子は、スタチンの肝摂取を調節する、有機アニオントランスポーターポリペプチドOATP−1B1をコードする。〜12,000人の参加者(殆どがヨーロッパ系)の集団におけるC対立遺伝子の保有率は0.15であったのに対して、シンバスタチンを80mg/日の用量で開始して1年以内にスタチンミオパチーを発症した人における保有率は0.54であった。
【0147】
抗−HMGCR陽性患者17人からDNAサンプルを入手できて、この集団におけるrs4149056C対立遺伝子の保有率は0.12であった。スタチンを服用しておらず、そして/又はヨーロッパ系でない患者6人を除外すると、残りの患者11人におけるこのC対立遺伝子の保有率は0.14であった。遺伝子型を同定した対象の数が少なかったが、この抗−HMGCR陽性患者におけるrs4149056C対立遺伝子の保有率は、ヨーロッパ系の中で先に報告されている0.14〜0.22の範囲(SEARCH Collaborative Group, N Engl J Med 2008;359: 789-99)と一致している。
【0148】
実施例11:HMG−CoA還元酵素の発現は、抗−HMG−CoA還元酵素自己抗体陽性患者における再生筋線維中で上方調節される。
インビボにおけるHMG−CoA還元酵素発現を直接試験するために、筋生検切片を市販のポリクローナル抗−HMG−CoA還元酵素抗体(Millipore, Billerica, MA)で染色した。筋炎関連自己抗原は再生の特性を示して筋細胞において高レベルで発現されるので(Casciola-Rosen et al., J Exp Med 2005;201:591-601 及び Mammen et al, Arthritis Rheum 2009;60: 3784-93)、筋生検切片を抗−NCAM抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)で共染色した。NCAM(神経細胞接着分子)は筋再生について確立されたマーカーである。正常な特性を示している筋生検切片において、HMGCR(
図8E)及びNCAM(
図8D)が比較的低いレベルで発現された(
図8Fも参照されたい)。一方、抗−HMGCR−CoA還元酵素自己抗体陽性患者(数ヶ月〜数年スタチンを服用していなかった)から得た筋生検サンプル中で、NCAM陽性線維は優位だった(
図8A)。興味深いことに、これらNCAM陽性線維の殆どが高レベルのHMGCR−CoA還元酵素も発現した(
図8B〜C)。これらの知見は、抗−HMGCR−CoA還元酵素自己抗体陽性患者から得た再生筋線維が高レベルのHMGCRを発現することのインビボでの確認を提供する。
【0149】
スタチン類は、通常は軽度な、筋肉に対する公知の副作用を有する、広く処方されている薬剤の種類である。自己免疫性ミオパチー及びスタチン使用と関連している200−kD及び100−kDタンパク質を認識する新規な自己抗体が本明細書の上記に記載されている。本明細書で報告された結果は、HMGCRとしての自己抗原の同定を介してスタチンへの暴露とIMNMのこの異型の間の妥当な因果関係を明らかにしている。免疫沈降測定が、この酵素のC−末端に対する自己抗体の特異性を明らかにし、一方競合実験は、抗−HMGCR自己抗体がHMGCR及び200−kDタンパク質の両方を免疫沈降することを確認した。大きいタンパク質は、結合タンパク質又はHMGCRの多量体であろう。後者の可能性が、HMGCRは97−kDの単量体として及び200−kDの2量体として免疫沈降され得ることを示す別の研究(Parker et al., J Biol Chem 1989;264:4877-87)によって裏付けられている。
【0150】
HMGCRを関連する自己抗原と同定して、患者の血清を迅速にスクリーニングするためにELISAが開発された。このELISAを用いて、Johns Hopkins Myositis Centerを訪れたミオパチーが疑われる患者の抗−HMGCR自己抗体の保有率が6%であることが分かった。抗−HMGCR自己抗体は、筋生検で壊死性ミオパチー患者に特異的に同定されて、IBM、DM患者、又は正常コントロールには見出されなかった。従って、抗−HMGCR自己抗体は、この群において最も多く見られる自己抗体であって、次は、抗−Jo−1だけである。壊死性ミオパチーは免疫が介在しているとは限らないので、ELISAによる抗−HMGCRの検出は、大部分が免疫抑制療法に応答する、このIMNMの形態を有する患者の同定に診断的に役立つ可能性が高い。
【0151】
抗−HMGCR陽性患者45人のうち、1人がJo−1陽性抗シンセターゼ症候群を有し(2.2%)、別の1人が抗−PM−Scl自己抗体を伴う強皮症を有していた(2.2%)。よって、自己免疫性筋疾患の別の形態を有しているものと同様に、抗−HMGCR自己抗体を有する患者は、希な例であるが、他の結合組織疾患と重複する症候群を有している可能性がある。
【0152】
重要なのは、HMG−CoA還元酵素の筋肉での発現は、スタチンへの暴露によって、さらにNCAM発現を特徴とする再生筋細胞において、増大する。このことは、スタチンの存在によって開始され、及び抗−HMG−CoA還元酵素自己抗体に関連する免疫介在性筋肉障害は、筋肉の再生に関連して一貫して増大するHMG−CoA還元酵素の発現を介して、スタチンを中断した後でも持続するということを示唆している。
【0153】
スタチンを服用している大部分の患者は免疫介在性ミオパチーを発症しないので、遺伝的感受性を包含する、その他の因子も影響しているはずである。患者を自己限定性のスタチンミオパチーに罹りやすくする最も一般的な遺伝因子はrs4149056C対立遺伝子の存在であり、これはシンバスタチンを1日に80mg服用している患者におけるスタチンミオパチーの最大60%を占めている(SEARCH Collaborative Group 2008)。この多型が、OATP−1B1トランスポーターによるスタチンの肝摂取を減少させてミオパチーのリスクを増大させる可能性が最も高い。しかしながら、この遺伝子変化は抗−HMG−CoA還元酵素自己抗体陽性患者に過剰に存在しておらず、自己免疫応答の発症には別の遺伝的感受性又は環境共暴露が必要であることを示唆している。
【0154】
興味深いことには、抗−HMG−CoA還元酵素自己抗体陽性患者の33%が以前にスタチンを服用していなかった。これらの患者が疾患発症時に若くて、より高いクレアチンキナーゼレベルを有していたとしても、彼らも明らかに免疫介在性ミオパチーも有していて、そして別にはスタチンに暴露された者と区別ができない。別の遺伝的及び/又は環境的な因子がこれらの患者において高レベルのHMG−CoA還元酵素発現を引き起こす可能性がある。
【0155】
本明細書に記載されている臨床患者が筋力低下及びミオパチーのその他の顕著な特徴を示したので、抗−HMGCR自己抗体が、より軽度の症状を有して、スタチンを服用している患者中にどの程度広がっているかについて本研究は取り組んでいない。しかし、他にミオパチーの切実な臨床的兆候を有していない、抗−HMGCR陽性患者は誰も、継続的なスタチン誘発性筋肉痛を有することは確認されていない。このことは、自己免疫応答が一部の患者においては軽度なミオパチー症状とも関連していることを示唆している。
【0156】
本明細書の上記実施例1〜4で報告された結果は以下の材料及び方法を用いて得られた。
【0157】
(患者)
保存血清、評価のために入手可能な筋生検試料、並びに近位筋力低下、上昇したクレアチンキナーゼ(CK)レベル、ミオパチーの筋電図検査(EMG)所見、磁気共鳴画像上での筋浮腫、及び/又は筋生検上のミオパチーの特徴によって特定されたミオパチーを有する225人の患者をJohns Hopkins Institutional Review Boardで承認された、2007年3月から2008年12月までの、長期に渡る研究に登録した。病歴を提供すること及びJohns Hopkins Myositis Center で健康診断を受けることに加えて、これらの患者は以下の幾つか又は全てを含む総合評価を受けた:(1)筋電図検査及び神経伝導検査、(2)非対称両大腿部MRI、(3)肺機能検査、(4)胸部、腹部、及び骨盤のコンピュータ断層撮影を含む悪性腫瘍のスクリーニング、(5)CKレベル、抗核抗体(ANA)スクリーニング、赤血球沈降速度(ESR)、C−反応タンパク質(CRP)レベル、抗Ro/Laスクリーニング、及び筋炎特異的自己抗体(MSA)スクリーニングを含む、異なる民間試験所数ヶ所で実施される標準的な実験室評価、及び(6)臨床又は生検特徴によって疑わしいときは、肢帯筋ジストロフィー(肢帯筋ジストロフィー評価パネル(Athena Diagnostics, Worcester, MA)による)、酸性マルターゼ欠損症(グリコーゲン貯蔵ミオパチー「A」プロフィル(Athena Diagnostics)及び/又はαグルコシダーゼ活性についての乾燥血斑試験(Genzyme, Cambridge, MA)による)、及び/又は顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)DNA試験(Athena Diagnostics)による)を含む遺伝性筋疾患の検査。
【0158】
抗−200/100自己抗体を有する患者においてスタチンが増加する頻度で用いられていたか否かを確認するために、明確な或いは可能性の高い多発性筋炎(PM)又は皮膚筋炎(DM)(Bohan and Peter, N Engl J Med 1975;292:344-7 and 292:403-7)を有していたこの群の患者、更に恐らく封入体筋炎(IBM)(Griggs RC, et al., Ann Neurol 1995;38:705-13)を有する患者についてスタチン使用の頻度を確認した。患者の年齢をスチューデント両側t−検定を用いて比較した。異なった群におけるスタチン使用の頻度を比較するためにカイ二乗検定を用いた。
【0159】
(筋生検解析)
筋生検試料を三角筋、二頭筋、又は大腿四頭筋群から得た。それぞれのケースにおいて、選択した筋肉が弱いことを試験医師が確認した。筋生検試料から得たスライドをJohns Hopkins Neuromuscular Pathology Laboratory で評価した。これらの検討はヘマトキシリン及びエオシン染色した組織、更に下記の染色剤の幾つか又は全てを包含した:改変ゴモリ・トリクローム、pH4.3、pH4.6、及びpH9.4におけるアデノシントリホスファターゼ、NADテトラゾリウム還元酵素、酸性ホスファターゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、チトクロームオキシダーゼ、エステラーゼ、アルカリホスファターゼ、過ヨウ素酸−シッフ(PAS)、PAS−ジアスターゼコントロール、及びコンゴレッド。凍結及びパラフィン包埋試料を、変性、再生、及び/又は壊死繊維、初期筋内膜炎症、血管周囲炎症、縁取りされている空胞、筋束周辺萎縮、及び線維症の存在について規定通りにスクリーニングした。優位に異常な組織学的特徴としての壊死性筋線維の存在に基づき;筋貪食を受けている壊死性筋線維を除外して、「壊死性ミオパチー」生検試料を同定した。炎症性細胞はあっても、少なかった。抗−200/100−kD自己抗体特異性を有する患者から得た筋生検試料を、CD31(内皮細胞マーカー)、C5b−9(すなわち、細胞膜傷害複合体)、及びクラスI主要組織適合複合体(MHC)を認識する抗体で染色した。
【0160】
つまり、厚さ7μの凍結筋生検切片を氷冷したアセトン中で固定した。ペルオキシターゼ遮断剤(Dako, Carpinteria, CA)中で室温で10分間処理した後、切片を5%ウシ血清アルブミン/リン酸緩衝食塩液(BSA/PBS)と37℃で1時間培養した。一次抗体を1%BSA/PBS中、以下の希釈で調製し:クラスIMHC(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)には1:50、CD31(Dako)には1:20、Cb5−9(Santa Cruz Biotechnology)には1:50;初期培養は4℃で一晩実施した。PBSを洗浄した後、スライドを西洋ワサビペリオキシダーゼ標識化ヤギ抗−マウス二次抗体(Dako)と1%BSA/PBS中、1:500で1時間室温で培養した。化合物3,3’−ジアミノベンジジンクロモゲン(Dako)は、それぞれの抗体を可視化するために用い、そして全ての切片をヘマトキシリンで対比染色した。正常な筋組織サンプルを陰性コントロールとして用いて、Jo−1陽性の筋炎患者から得た筋組織をクラスI MHC染色の陽性コントロールとして用いた。それぞれの一次抗体に対して、全ての筋切片を同時に同じ条件下で処理した。
【0161】
(免疫沈降)
それぞれの患者から採取した血清サンプルを−80℃で保存した。標準的な手法を用いて培養したヒーラ細胞を100μCi/mlの
35S−メチオニン及びシステイン(MP Biomedicals, Solon, OH)で、メチオニンを含まず、及びシステインを含まない培地中で、2時間放射標識した。細胞をその後、緩衝液A(50mMのトリスpH7.4、150mMのNaCl、5mMのEDTA、0.5%のノニデット(Nonidet)P40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びプロテアーゼ阻害カクテル)中で溶解した。それぞれを10cmのシャーレで緩衝液A1mLに溶解して10の免疫沈降に用いた。1μlの患者血清を100μlの放射標識化溶解物に加えて、緩衝液B(1%のノニデットP40、20mMのトリス、pH7.4、150mMのNaCl、1mMのEDTA、及びプロテアーゼ阻害カクテル)で容量を1mlにし、そして混合物を4℃で1時間回転して免疫沈降を実施した。プロテインAアガロースビーズ(Pierce, Rockford, IL)を抗体−抗原複合体を沈殿させるために用い、次いで10%のSDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動した
放射標識化免疫沈降物をX線蛍光撮影で可視化した。
【0162】
本明細書の上記実施例5〜11で報告された結果は以下の材料及び方法を用いて得られた。
【0163】
(患者及び遺伝子型判定)
2002年5月と2010年4月の間に、近位筋力低下、上昇したクレアチンキナーゼ(CK)レベル、筋電図(EMG)上でのミオパチー所見、核磁気共鳴画像(MRI)上での筋浮腫、及び/又は筋生検でのミオパチー特性によって定義して、ミオパチーが疑われる患者750人を長期に渡る研究に登録した。患者がBohanとPeterの基準(Bohan and Peter, N Engl J Med 1975;292:344-7 and 403-7)に従う推定又は確定疾患を有している場合に、患者を多発性筋炎(PM)又は皮膚筋炎(DM)を有していると定義し、彼らがGriggs et al.の基準(Griggs et al., Ann Neurol 1995;38:705-13)に見合っていたら、封入体筋炎(IBM)を有していると定義した。各対象から血清が入手でき、そして対象260人からDNAサンプルが入手できた。以前にスタチンに暴露していない健常なコントロール対象25人からも血清サンプルを得た。対象全てを、Johns Hopkins Institutional Review Board によって承認されたプロトコールに登録した。DNAサンプルが入手できた抗HMG−CoA還元酵素陽性患者17人全てに対して、適切に検証されたTaqMan(登録商標) Drug Metabolism Genotyping Assay (Applied Biosystems, Carlsbad, CA) を用いて、rs4159056C対立遺伝子の遺伝子型判定を実施した(詳細な臨床情報についての表4を参照されたい)。
【0164】
(放射標識化細胞溶解物からの免疫沈降)
ヒーラ細胞を10μMメビノリン(Sigma, St. Louis, MO)の存在下又は非存在下で22時間培養し、次いで100μCi/mlの
35S−メチオニン/システイン(MP Biomedicals, Solon, OH)で放射標識化し、溶解して、患者血清で免疫沈降した(上記実施例1〜4を参照されたい)。免疫沈降物を還元し、煮沸し、電気泳動(10%ドデシル硫酸ントリウム−ポリアクリルアミドゲル)に付して、X線蛍光撮影で可視化した。
【0165】
(
35S−メチオニン標識化インビトロ転写/翻訳(IVTT)タンパク質を用いる免疫沈降)
全長ヒトHMG−CoA還元酵素をコードするDNAをInvitrogen (Carlsbad, CA)から購入した。N−末端断片(アミノ酸(aa)1〜377)をコードするDNAをR377からストップコドンまで突然変異させて作成した。HMG−CoA還元酵素のC−末端(aa340〜888)をコードするDNAを、全長DNAを鋳型として用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で作成した。構築物を配列決定し、検証して、IVTT反応(Promega, Madison, WI)で用い、
35S−メチオニン標識化タンパク質を作成した。これらの産物を用いて免疫沈降を実施して、上記のように免疫沈降物を検出した。
【0166】
(競合実験)
それぞれの患者血清1マイクロリットルを、グルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合タンパク質として発現されたヒトHMG−CoA還元酵素の触媒ドメイン(aa426〜888)(以下「C−末端HMG−CoA還元酵素」と呼ぶ;Sigma)と共に前培養した(30分、4℃、50μl中)。続いて、前培養した抗体を、全長IVTT HMG−CoA還元酵素又はメビノリン処理したヒーラ細胞から作られた放射標識化溶解物との免疫沈降に用いた。
【0167】
(抗−HMGCR ELISA)
ELISAプレート(96ウェル)をリン酸緩衝食塩水(PBS)に希釈した100ngのC−末端HMG−CoA還元酵素(Sigma)で1晩4℃でコーティングした。複製ウェルをPBSのみで培養した。プレートを洗浄した後、PBSに1:400で希釈したヒト血清サンプルを0.05%のTween20と共にウェルに37℃で1時間加えた。洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したヤギ抗ヒト抗体(1:10,000;Pierce, Rockford, IL)を、37℃で30分間各ウェルに加えた。SureBlue(登録商標)ペルオキシダーゼ試薬(KPL, Gaithersburg, MD)を用いて発色を行って、450nmの吸光度を確認した。各サンプルについて、PBSでコーティングしたウェルのバックグランド吸光度を対応するC−末端HMG−CoA還元酵素でコーティングしたウェルのそれから差し引いた。試験サンプルの吸光度をそれぞれのELISAに含まれている参照血清である、任意の陽性コントロールサンプル(サンプル9176)における吸光度との比で表した。
【0168】
(免疫組織化学)
ヒト生検試料の採取及び使用はJohns Hopkins Institutional Review Boardで承認された。抗HMGCR抗体を有する患者6人及び正常コントロール対象3人から得た筋生検試料を検討した。全ての生体試料は3ヶ月以上にわたってスタチンを投薬されていなかった患者から得た。パラフィン切片の染色を先に記載(9)したように実施した。抗体培養は、ウサギ抗−HMGCR(Millipore)とマウス抗−神経細胞接着分子(抗−NCAM;Santa Cruz Biotechnology)一次抗体との混合物、続いてロバ抗−ウサギIgG Alexa Fluor594(HMGCRを検出するために)及びロバ抗−マウスIgG Alexa Fluor488(NCAMを検出するため)二次抗体(Invitrogen)との混合物を含んでいた。
【0169】
(その他の実施態様)
前述の説明から、本明細書に記載されている本発明を、様々な使用及び条件に適用するために、改変及び修正できることは明らかであろう。このような実施態様もまた以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0170】
本明細書の可変部の定義の何れかにおける構成要素のリストの記述は、単一構成要素又はリストされている構成要素の組合わせ(又は小組合わせ)の何れかとしてのその可変部の定義を包含している。本明細書の実施態様の記述は、単一の実施態様の何れかとしての、又はその他の何れかの実施態様又はそれらの部分との組合わせとしてのその実施態様を包含している。
【0171】
本明細書に述べられている全ての特許及び刊行物は、それぞれの独立した特許及び刊行物が参照により取り込まれることを具体的にそして個々に示しているのと同じ程度に、参照により本明細書に取り込まれている。