特許第5934227号(P5934227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5934227大きなターゲットによる高圧スパッタリングのためのスパッタ源およびスパッタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934227
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】大きなターゲットによる高圧スパッタリングのためのスパッタ源およびスパッタリング方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   C23C14/35 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-534162(P2013-534162)
(86)(22)【出願日】2011年9月17日
(65)【公表番号】特表2013-543057(P2013-543057A)
(43)【公表日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】DE2011001744
(87)【国際公開番号】WO2012051980
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年6月13日
(31)【優先権主張番号】102010049329.5
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ファーレイ・ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】ポッペ・ウルリヒ
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−080565(JP,A)
【文献】 米国特許第06432285(US,B1)
【文献】 特開昭63−192866(JP,A)
【文献】 実開平05−096055(JP,U)
【文献】 特開昭63−199866(JP,A)
【文献】 特開平03−100173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00− 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタターゲットのための収容部と、漂遊磁界を発生するための1個または複数の磁界源とを備え、前記漂流磁界の磁力線がスパッタターゲットの表面から出て、再びこの表面に入る、0.5mbar以上の圧力でターゲット材料を基板にスパッタリング成膜するためのスパッタヘッドにおいて、
間に前記漂遊磁界が形成される、少なくとも1個の前記磁界源の北磁極と南磁極が、5mm以下だけ互いに離隔されていること、ターゲット収容部が、材料の浸食を前記スパッタターゲットに空間的に制限するためのシールドにより取り囲まれていること、および、前記ターゲット収容部と前記シールドとの間に固体絶縁体が配置されていること
その際、1個または複数の磁界源が、少なくとも一つのヨークリングを有し、当該ヨークリングが、L字形状の断面を有し、当該断面において、ヨークリングの基礎部分が、L字形状の断面の基礎であり、軸方向に延在する部分が、L字形状の断面の起立した部分であり、
その際、1個または複数の磁界源が、少なくとも一つの支持リングを有し、当該支持リングが、軸方向に延在する複数の貫通穴を有し、その際、支持リングが、ヨークリングの基礎部分上に配置されており、及びヨークリングの軸方向に延在する部分の軸方向の高さまで延在しており、
その際、1個または複数の磁界源が、複数の永久磁石を有し、当該永久磁石が支持リングによって支持されており、その際、複数の永久磁石の其々が、対応する貫通穴内に配置されており、その際、複数の永久磁石が、周囲において5mmよりも少ない間隔を有し配置されているよう、周囲に位置決めされており、
その際、ヨークリング、支持リング、及び複数の永久磁石が、本体内に配置されており、
その際、ヨークリングの軸方向に延在する部分が、支持リングの半径方向内側に配置されているので、支持リングによって支持される全ての複数の永久磁石の半径方向内側に配置されており、
その際、支持リングによって支持された全ての永久磁石が、ヨークリングの基礎部分と接触している第一の端部において北磁極及び南磁極の一方の共通の磁極と同じ磁極方向を有しており、及び他方の第二の端部において北磁極及び南磁極の他方の共通の磁極と共通の磁極方向を有しており、
その際、ヨークリングが強磁性であるので、複数の永久磁石の其々の各磁界が、一方の共通の磁極からヨークリングの基礎部分を通り、ヨークリングの軸方向に延在する部分に沿って、本体によって収容されるスパッタターゲットを通り、そしてスパッタターゲットを通り他方の共通の磁極へと戻るよう走破するか、
又は、
その際、1個または複数の磁界源が、ヨーク体を有し、当該ヨーク体が、本体内に設けられており、およびハニカム状構造を有する複数のセルを有し、その際、複数のセルの其々が、軸方向に延在する壁部と基礎部分によって境界づけられており、
その際、1個または複数の磁界源が、複数の支持要素を有しており、その際、複数の支持要素の其々が、複数のセルの対応するセルの中に配置され、対応するセルの基礎部分と軸方向に延在する壁部に接し、その際、各支持要素が、軸方向に延在する貫通穴を有し、
その際、1個または複数の磁界源が、複数の永久磁石を有し、その際、各永久磁石が、対応する支持要素の軸方向に延在する貫通穴内に配置されており、その際、各永久磁石が、複数の永久磁石の他の永久磁石に対して5mmよりも小さな間隔を有し配置されており、
その際、ヨーク体内の全ての永久磁石が、ヨーク体の基礎部分と接触している第一の端部において北磁極又は南磁極の一方の共通の磁極と共通の磁極方向を有しており、及び他方の第二の端部において北磁極又は南磁極の他方の共通の磁極と共通の磁極を有しており、及び、
その際、ヨーク体が強磁性であるので、複数の永久磁石の其々の各磁界が、一方の共通の磁極からヨーク体の基礎部分を通り、対応するセルの対応する壁部の軸方向に延在する部分に沿って、本体によって収容されるスパッタターゲットを通り、そしてスパッタターゲットを通り他方の共通の磁極へと戻るよう走破すること
を特徴とするスパッタヘッド。
【請求項2】
磁界源の強さが、前記ターゲット収容部の中央からエッジの方に向かって強まることを特徴とする請求項1に記載のスパッタヘッド。
【請求項3】
前記ターゲット収容部の表面に対する各磁界源の漂遊磁界の投影において、磁界強度の少なくとも90%が集中している領域が、材料浸食されないままである領域の完全に外側にあることを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタヘッド。
【請求項4】
スパッタプラズマの方に向いた、スパッタターゲットまたはターゲット収容部の表面の前に固定可能な固体絶縁体が設けられ、この固体絶縁体が運転中、シールドに最も近いところにあるこの表面の20%以下を、材料浸食から除外することができることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のスパッタヘッド。
【請求項5】
スパッタプラズマの方に向いた、スパッタターゲットまたはターゲット収容部の表面の前に固定可能な固体絶縁体が設けられ、この固体絶縁体が運転中、シールドに最も近いところにあるこの表面の10%以下を、材料浸食から除外することができることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタヘッド。
【請求項6】
スパッタプラズマの方に向いた、スパッタターゲットまたはターゲット収容部の表面の前に固定可能な固体絶縁体が設けられ、この固体絶縁体が運転中、シールドに最も近いところにあるこの表面の5%以下を、材料浸食から除外することができることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタヘッド。
【請求項7】
ターゲット表面と基板との間にスパッタガスのプラズマが形成される、0.5mbarから5.0mbarまでの圧力でターゲット材料を基板にスパッタリング成膜するための方法において、
前記ターゲット表面からプラズマの方向に放出された電子がプラズマ内で1個または複数の磁界源の磁力線によって方向を変えられ、
その際、各1個または複数の磁界源が、透磁性材料から成るヨーク、支持リング及び永久磁石から成っており、
その際、ヨークが、永久磁石の磁界を当該ヨークを通してターゲット表面へと案内し、その際、ヨークが、軸方向に延在する基礎部分を有し、この基礎部分が、永久磁石の高さまで延在しており、そしてこの基礎部分は、磁界を案内するために、支持リング及び永久磁石の半径方向内側に配置されており、及び、
その際、磁界源の北磁極と南磁極が1mm乃至5mmよりも少ない分までだけ互いに離隔されており、その際、ターゲット収容部が、材料の浸食を前記スパッタターゲットに空間的に制限するためのシールドにより取り囲まれていること、および、前記ターゲット収容部と前記シールドとの間に固体絶縁体が配置されていること、その際、磁界源の強さが、ターゲット表面の中央からエッジの方に向かって強まることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
技術水準
スパッタリングの際に、スパッタ室内で先ず最初に真空が作られ、そして所定の圧力のスパッタガスの雰囲気が作られる。スパッタヘッドに取付けられ、一般的にマイナスの電位に保たれるスパッタターゲットの近くにおいて、スパッタガスのガス放電が発火する。その際、スパッタガスの電気的に中立の原子または分子から、プラスの電気を帯びたイオンと遊離電子からなるスパッタプラズマが発生する。プラスの電気を帯びたイオンは、ターゲットのマイナスの電位によってターゲットの表面上へ加速され、当たって運動量輸送によって材料を放出する。この材料は反動によって一部が成膜すべき基板の方に飛び、そこに堆積する。同時に、イオンはこの照射によってターゲットから電子を遊離する。この電子は電界によってスパッタプラズマの方へ加速され、そこでスパッタガスの他の原子または分子を衝撃によってイオン化する。これにより、スパッタプラズマが得られる。
【0002】
大きな基板を1つの作業工程で成膜できるようにするために、より大きなスパッタターゲットを使用することが望まれる。しかしながら、ターゲットの大きさが増大するにつれて、プラズマは益々不安定になる。これに対処するために、マグネトロンスパッタリングの場合には、永久磁石の磁界の磁力線がプラズマを通過する。この磁界は、丸いスパッタターゲットの場合には、スパッタターゲットの収容部のエッジに取付けられた永久磁石リングと、このターゲット収容部の中央に取付けられた他の永久磁石との間に延在している。その際、漂遊磁界の一部は、スパッタプラズマが存在する空間を通って、湾曲した磁力線に沿って延在している。この漂遊磁界は自由な電子を長いサイクロイド軌道に沿って電界および磁界に対して横方向にスパッタプラズマを通過させる。このスパッタプラズマにおいて、電子はスパッタターゲットの多数の衝突原子によってイオン化され、プラズマを得るために寄与する。
【0003】
この方法は比較的に低い圧力の場合しか機能を発揮しないという欠点がある。より高い圧力の場合には、電子の平均自由路程が短すぎるので、電子は磁界が最も強い場所にのみ集まる。この磁界が弱いところでは、プラズマも弱い。その結果、スパッタターゲットの表面にわたってスパッタプラズマの強さが不均一になる。極端な場合には、プラズマが互いに分離された多数の部分に分かれる。この部分は大抵の場合、永久磁石の磁極のそばに限定されている。
【0004】
しかし、特に酸素雰囲気で酸化物層をスパッタリングするために、より高い圧力が必要になる。一方では、短くなった平均自由路程により、一層少ないマイナスの酸素イオンが不所望な反発作用によってターゲットから基板に投擲され、そこで既に堆積した層を傷つけるかまたは非化学量論的に浸食する(戻しスパッタ効果)。他方では、堆積時に正しい化学量論によって酸化物層をターゲットから基板に伝達するためには、より高い圧力が有利である。若干の材料は、比較的に高い酸素分圧でのみ、堆積層内に安定した化学量論的相を形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
課題および解決策
そこで、本発明の課題は、高圧でスパッタターゲットの表面全体にわたって安定したプラズマを発生するスパッタヘッドを提供することである。本発明の他の課題は、高圧でターゲット材料を均一な層厚で基板上に堆積させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は本発明に従い、主請求項と付帯請求項に係るスパッタヘッドによって並びに他の付帯請求項に係る方法によって解決される。他の有利な実施形はそれぞれ、従属請求項から明らかである。
【0007】
本発明の対象
本発明の範囲内で、ターゲットホルダ(本体)上にスパッタターゲット用収容面(ターゲット収容面)を有するスパッタヘッドが開発された。ターゲット収容面は任意の曲率を有することができ、この場合、実際の視点から平面の形状が多くの利点を有する。スパッタリングのために、ターゲットをターゲット収容面上に例えばろう付け、接着または焼結して固定することができる。スパッタヘッドは磁力線を有する漂遊磁界を発生するための1個または複数の磁界源を備えている。磁力線はスパッタターゲットの表面から出て、再びこの表面に入る。
【0008】
本発明では、間に漂遊磁界が形成される、少なくとも1個の磁界源の北磁極と南磁極が、10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは約1mmだけ互いに離隔されている。この間隔の有意義な下限は、スパッタターゲットとスパッタプラズマ(陰極暗部)との間の間隔によって決められている。スパッタガスの他の原子が電子の経路に沿ってイオン化される確率を高めるために、磁界は電子の経路をスパッタプラズマによって延長すべきである。そのために、磁界は陰極暗部を通ってスパッタプラズマ内まで達しなければならない。本発明に係るスパッタヘッドは0.5mbar以上、好ましくは1mbar以上の高圧でスパッタリングを改善することを意図している。このような圧力の場合、陰極暗部は一般的に10分の1mmにわたって延びている。プラズマに対して影響を及ぼすために、磁界はこの暗部と、ターゲット表面から永久磁石までの隔たりに打ち勝たなければならない。その際、一般的には0.8mm、好ましくは約1mmが北磁極と南磁極との間の技術的に有意義な最小間隔であると思われる。通常、ある範囲内で空間的に広がっている北磁極と南磁極との間の間隔とはその都度最短間隔を意味する。北磁極と南磁極との間の小さな間隔は磁界を局所に限定し、ターゲット収容面に沿った漂遊磁界の部分、すなわちターゲット収容面に対する漂遊磁界の投影を最大化する。
【0009】
約0.5mbarと約5mbarとの間の高圧下でのスパッタリングの際に、このように局所的に作用する磁界によって、スパッタプラズマのイオン化率、ひいてはスパッタターゲットの浸食速度を局所的に適合させることができることがわかった。そのために、本発明者は、スパッタターゲットとスパッタプラズマの間隔(陰極暗部)が、圧力に大きく左右されるスパッタガスのイオンと電子の平均自由路程によって決定されることを利用する。10−2mbar以下だけ低い圧力の場合に、陰極暗部は数センチメートルの拡がりを有することができる。漂遊磁界内の電子の長いサイクロイド軌道は、ターゲットからの離隔距離が短い場合に既に、スパッタガスの原子と電子との間に衝突を起こす。それによって、プラズマが早くイオン化される。従って、陰極暗部が幾らか減少する。しかし、10−2mbar以下のスパッタガス圧力の場合、陰極暗部は非常に強い磁界によって、陰極暗部の拡がりを1cm未満にほとんど抑制することができない。要求されるように局所化された磁界は、ターゲット収容部の平面に対して垂直な三次元寸法においても強く局所化され、この局所化により、磁力線の一部分だけが陰極暗部を通ってスパッタプラズマ内まで進出し、そこで磁界の強さが非常に弱くなる。それによって、スパッタターゲットの表面から放出された電子は、この磁力線に沿ってスパッタプラズマを通って案内されないので、このプラズマの更なるイオン化にはわずかしか寄与しない。
【0010】
それに対して、約0.5mbarと約5mbarとの間の圧力の場合、1mmよりも小さいかまたは0.1mmよりも小さいオーダーの陰極暗部が存在するにすぎない。この暗部には局所化された磁界によって問題なく貫通可能である。ターゲット表面から放出された電子は主として歳差運動して磁界の磁力線に対して横方向にプラズマを通って案内される(サイクロイド軌道)。それによって、プラズマ内のその路程が延長される。スパッタガスの原子または分子と電子間の衝突の数が増大することになり、それによってスパッタガスが強くイオン化される。プラスの電荷を帯びたイオンはマイナスの電荷を帯びたスパッタヘッドによって引きつけられ、材料浸食のために寄与する。高周波スパッタリング(RFスパッタリング)の場合にも、イオン化率は類似の方法で局所の漂遊磁界によって局所的に高められる。RFスパッタリングの場合、ターゲット収容部とマイナスの電位の個所の物質との間に、高周波の交番磁界が生じる。交番磁界の正の半波の間、ターゲットがその都度分極化され、負の半波の間材料が浸食される。これにより、絶縁体を成膜材料として使用することもできる。
【0011】
それによって、局所的に作用する磁界により、プラズマのイオン化率、ひいてはスパッタリング時の浸食速度を局所的に適合させることができる。その結果、本発明に係るスパッタヘッドによって、そのほかは同じパラメータで、従来技術のスパッタヘッドよりも均一な層厚を有する層を基板上に作ることができる。スパッタプラズマのイオン化率が従来技術のスパッタヘッドよりも均一に分布しているので、より大きなスパッタプラズマ、ひいてはより大きなスパッタターゲットを使用することができ、それによってより大きな工作物を1回の作業工程で成膜することができる。副次的な効果として、ターゲットがより均一に利用されることが挙げられる。慣用のマグネトロンスパッタリングの場合、浸食は例えば円形の溝に集中する。ターゲットがこの個所で完全に貫通するので、その全量の一部分しか浸食されていなくても、ターゲットを交換しなければならない。
【0012】
この効果は特に、スパッタターゲットと基板との間の間隔よりもはるかに大きなスパッタターゲットおよび/または基板が使用されるときに発揮される。約0.5mbarより大きなスパッタガス圧力の場合に、この間隔は約10〜30mmである。
【0013】
さらに、従来技術に係るマグネトロンスパッタの場合、不均一な浸食速度が、大きなターゲットの使用時にスパッタプラズマを不安定にする自己増幅プロセスへの出発点であることがわかった。スパッタプラズマ内には、ターゲットを加熱する熱が常時発生する。これは特に、高圧でスパッタリングされるときおよびプラズマとターゲットとの間の陰極暗部が非常に細いときに当てはまる。スパッタガスのイオンがターゲットの負の電位によって引きつけられることにより、スパッタリング時に正の流れがターゲットの方へ流れる。酸素雰囲気でスパッタリングする際には付加的に、マイナスの酸素イオンがターゲットに対して反発する。これはターゲットの方への他の正の流れ成分に相当する。ターゲットは全体流れに反作用する。この反作用は特に半導体のターゲットの場合に温度上昇につれて低下する。従って、ターゲットが既に高温である場所では、スパッタ流れのより大きな部分が集中している。そのために、他の場所からターゲットへの流れが排出される。小さなターゲットの場合には、ターゲット内の補償流れがこのプロセスに反作用する。これはより大きなターゲットの場合にはもはや十分ではないので、スパッタ流れが不足しているターゲットの場所で、スパッタプラズマが消える。本発明では最初からプラズマの均一なイオン化、ひいては均一な浸食速度がもたらされるので、スパッタ流れの不均一な分布がターゲットに生じない。この不均一な分布はこれによりそれ自体で増幅し得る。従って、本発明に係るスパッタヘッドによって、慣用のマグネトロンスパッタリングの場合よりも大きなターゲットをスパッタリングすることができる。
【0014】
本発明に係るスパッタヘッドによって、ターゲット上の領域が浸食を免れるように、スパッタターゲットの材料浸食をこの意味で特別に採寸することができる。ターゲット収容部の表面に対する各磁界源の漂遊磁界の投影において、磁界強さの少なくとも90%が集中する領域が材料浸食を免れる設定領域の完全に外側にあると有利である。材料浸食をスパッタターゲットに空間的に制限するために、スパッタターゲット用のターゲット収容面がシールドによって取り囲まれているときに、このような領域として、例えば円形のスパッタターゲットのエッジ領域(例えば20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下)が設定可能である。その際、スパッタプラズマがターゲット収容部とシールドの間の隙間に過度に接近することは不所望である。というのは、これがアークを発生し得るからである。
【0015】
本発明の一般的思想は、局所的な磁界によってスパッタプラズマに局所的に影響を及ぼすことにより、スパッタプラズマの強さの不均一性を補償することである。その際、従来技術のマグネトロンスパッタリングと異なり、磁界源によって影響を受けるターゲット表面の領域が、ターゲット表面の全面積に対して小さいことが重要である。従って、本発明は、スパッタターゲットのための収容部と、漂遊磁界を発生するための1個または複数の磁界源とを備え、漂流磁界の磁力線がスパッタターゲットの表面から出て、再びこの表面に入る、スパッタヘッドに関し、このスパッタヘッドは、ターゲット収容面に対する少なくとも1個の磁界源の磁界の投影において、磁界強度の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が、ターゲット収容面の10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下の面積部分に集中していることを特徴とする。
【0016】
局所的な磁界によるスパッタプラズマの局所的な影響は、スパッタターゲットが大きければ大きいほど、成膜の均一性をさらに改善する。従って、スパッタターゲットを収容するためのターゲット収容面が、30mm以上の直径、好ましくは50mmの以上の直径、さらに好ましくは60mm以上の直径を有するように形成されていると有利である。
【0017】
局所的な磁界によるスパッタプラズマの局所的な影響はさらに、使用されるスパッタターゲットが円形でなくてもよいという作用を有する。磁界源の位置および強さを介して、任意の形状のターゲット表面に、均一な強さを有するスパッタプラズマ、ひいては均一な材料浸食をもたらす磁界分布を発生することができる。それによって、本発明は、スパッタターゲットのための収容部と、漂遊磁界を発生するための1個または複数の磁界源とを備え、漂流磁界の磁力線がスパッタターゲットの表面から出て、再びこの表面に入る、スパッタヘッドに関し、このスパッタヘッドは、非円形ターゲット、特に楕円形、星形または多角形表面を有するターゲットを収容するように形成されていることを特徴とする。この形成は例えば、ターゲット収容面が相応する形状を有することにある。その代わりにあるいはこれと組み合わせて、スパッタターゲットの表面よりも大きくおよび/または異なるように形成されたターゲット収容面は、スパッタプラズマ寄りのターゲット収容部の表面の前に固定可能な固体絶縁体によって、材料浸食をターゲット表面またはその一部に限定するように、陰影を付けることが可能である。スパッタヘッド自体の材料浸食は行われない。特別な明細書部分には、2つの実施の形態が記載されている。この実施の形態は帯状基板を成膜するために、長方形のスパッタターゲットを使用する。この実施の形態では、浸食速度は磁界源の線状構造体によって基板の帯状形状に局所的に合わせられる。
【0018】
本発明のきわめて有利な実施形では、スパッタヘッドが、ターゲット収容面、ひいては運転中にスパッタターゲットを支持する本体と、材料浸食を空間的にスパッタターゲットに限定するための、スパッタターゲットを取り囲むシールドを備えている。本発明では、(ターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた)本体とシールドとの間に、固体絶縁体が配置されている。ターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた本体は一般的に電位であり、一方、シールドは設置電位である。従って、(ターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた)本体とシールドとの間には、数百ボルトの電圧(またはRFスパッタリングの場合には交流電圧振幅)がかかる。(ターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた)本体とシールドとの間の隙間は、平均自由路程よりも小さくなければならない。それによって、この隙間内で不所望なプラズマが形成されない。より大きな隙間内には、電子が衝突によりマイナスの電位によって加速され、ガス原子をイオン化し得る。この場合、他のイオンと電子が遊離する。それによって、シールドとターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた本体との間の隙間内でプラズマが雪崩のように形成され、電気的なアークを生じ得る。
【0019】
スパッタガス圧力の上昇につれて、平均自由路程、ひいては許容される隙間幅が小さくなる。すなわち、同じ設計電圧の場合、隙間にわたる電界強さが増大する。同時に、特に本発明者の試験のように酸素を含む雰囲気が選択されるときに、スパッタ室の雰囲気の破壊電界強度が低下する。従って、電気的なアークの発生は、スパッタリングが実施可能な最大スパッタガス圧力のための制限要因である。固体絶縁体は酸素を含む雰囲気よりもはるかに高い破壊電界強度を有する。同時に、固体絶縁体は(ターゲット収容面とスパッタターゲットを備えた)本体とシールドとの間の容積を占める。この容積はもはや電子のための加速区間として供されない。それによって結果的に、固体絶縁体は、はるかに高い圧力までスパッタリングできるようにする。固体絶縁体が本体とシールドとの間の空間を完全に占有すればするほど、この空間内での不所望なプラズマの形成が良好に抑制される。
【0020】
スパッタガス圧力の上限は、圧力上昇につれて過大に低下する平均自由路程によって生じる。約5mbarを超えた側では、スパッタターゲットから少しだけ離して(約1mm以下)スパッタプラズマが形成される。というのは、スパッタガスのさらに離れた領域では、電子がもはや、スパッタガスの原子をイオン化するのに十分なエネルギーを有していないからである。プラズマがターゲットの近くで発生していると、このプラズマの向こう側では他のイオン化は生じない。なぜなら、アースに対するスパッタターゲットの電位が実質的に既に陰極暗部を越えてプラズマまで低下しているからである。プラズマの向こう側では、電子はもはや加速されない。従って、プラズマ内で発生した熱は小さな領域に集中する。ターゲット表面はきわめて不均一に加熱され、スパッタプラズマは不安定になる。本発明では、少なくとも1個の磁界源の磁極が最小では互いに約1mmしか離れていない。これは約5mbarよりも上のスパッタガス圧力の場合に、約1mmの細いスパッタプラズマの安定化を非常に困難にする。
【0021】
磁界源が少なくとも1個の永久磁石を備え、この永久磁石の磁界が透磁性材料からなるヨークを通ってターゲット収容面まで案内されていると有利である。このようなヨークは例えば鉄のような金属からなっていると、大きな磁界強度の小型永久磁石を作るための代表的な材料よりもはるかに簡単に所望な形状に機械加工可能である。これは特に、複数の永久磁石の磁束が1つの同じヨークを通って案内されている本発明の他の有利な実施形に当てはまる。この実施形では、ヨークは複雑な機械的形状を有する。本発明の実施の形態は鉄製ヨークと銅製ホルダを備え、このホルダには小型の永久磁石を収容するための穴が穿設されている。鉄と銅はそれぞれ問題なく機械加工することができる。これに対して、永久磁石は希土類合金の焼結された粉末からなり、非常に脆いので、機械加工を試みると砕ける。永久磁石は銅製ホルダの穴内に装着可能である。永久磁石は磁界をターゲット収容部の方に誘導する。磁界は鉄製ヨーク内でターゲット収容面から永久磁石の後方の極へ戻される。全漂遊磁界はターゲット収容面の近くでのみ発生する。
【0022】
磁界源は少なくとも1個の電磁石を備えていてもよい。これは、浸食速度を局所的に適合させるために、磁界源の磁界強度をその位置で真空状態を壊さずに変更可能であるという利点がある。もちろん、必要な磁界強度を非常に狭い空間で発生することは技術的に難しい。というのは、これが多数のコイルまたは高い電流を必要とするからである。
【0023】
1個または複数のリング状、ハニカム状または線状の磁界源構造体が設けられていると有利である。その際、個々の磁界源は異なる磁界強度を有していてもよい。この構造体によって、浸食速度をターゲット表面にわたって均一にするかまたは他の方法に合わせることができる。磁界源が本発明に従ってそれぞれ局所的に作用する磁界だけを発生するので、その磁界強度は浸食速度の所望な分布に合わせて互いに独立して最適化可能である。そのために、隣接する磁界源の間隔が、各源の磁界のそれぞれ90%が集中している領域がオーバーラップしないように選択されている。
【0024】
本発明者の試験では、従来技術に係る円形スパッターゲットが使用されたときに、30mmの直径を有する円形基板に被覆された層厚は、基板の表面にわたって50%まで変化した。それに対して、同じターゲットが磁界源のリング状構造体を1個だけ備えた本発明に係るスパッタヘッドと共に使用したときには、層厚は10%までしか変化しなかった。層厚の均一な分布は特に、横方向構造を有する多層システムを製作するために重要である。このような製作プロセスは一般的に、例えばイオンカノン砲からのイオン砲撃による、面をカバーするエッチングステップを含んでいる。このイオンカノン砲はそれ自体制限されないで、加工すべき層のエッチングの後で適時に積極的に停止しなければならない。層厚が変化すると、層が若干の個所で完全にエッチング除去されず、および/または他の個所でその下にある層が傷つけられる。
【0025】
磁界強度を最適化する際に、専門家はフィードバックを必要とする。専門家は例えば、磁界源の構造体によって層を基板に堆積させて、基板にわたって層厚の分布を調べることにより、このフィードバックを手に入れることができる。1個所の層厚が所望な結果と異なっていると、これは、スパッタターゲットの所定の個所で浸食速度を高めるべきであるかまたは低下させるべきであるという信号である。
【0026】
所定の1個所で基板に堆積した材料は、磁石が存在するスパッタターゲットの多数の個所から浸食された材料の重なりである。最初のアプローチでは、ターゲット上の所定の個所「K」から出る材料によって生じる、基板上の1点の局所的な堆積速度の部分が、個所「K」の局所的なイオン化率または局所的な磁界強度に比例する。この認識によって、基板上の堆積速度の所望な空間的分布のために必要な最適な磁界強度分布をシミュレーションして、それに相応して磁界源を位置決めすることができる。そのために例えば一次方程式をたてることができる。この方程式では、局所的な磁界強度が求められ、所望な局所的堆積速度が右辺に記載されている。磁界源の強い局所化された作用は結果として、個々の方程式の間の複雑な非線形結合項が存在しないことになる。
【0027】
層厚の分配は特に高圧でのスパッタリングの際にこの方法で最適化可能である。というのは、基板がスパッタターゲットに対して比較的に小さな離隔距離(約20mm)にあり、スパッタターゲットから放出される原子または分子がほぼ直線に沿って基板の方へ移動するからである。低い圧力でのスパッタリングの際には、陰極暗部とプラズマ自体が明確に大きくなり、それによって原子または分子がスパッタターゲットから基板まではるかに長い距離を進む。基板上の所定の個所に堆積した材料がスパッタターゲット上のどの個所から出ているのかを理解することは困難である。
【0028】
シールドの近くに位置するスパッタターゲットのエッジ領域は、前に位置する磁界の寸法合わせだけによっては、材料浸食から除外することができない。その代わりにあるいは従来の上記手段と組み合わせて、本発明は、スパッタターゲットのための収容部と、材料の浸食をスパッタターゲットに空間的に制限するための、ターゲット収容部を取り囲むシールドとを備えたスパッタヘッドに関し、スパッタプラズマの方に向いた、スパッタターゲットまたはターゲット収容部の表面の前に固定可能な固体絶縁体が設けられ、この固体絶縁体が運転中、シールドに最も近いところにあるこの表面の20%以下、好ましくはシールドに最も近いところにあるこの表面の10%以下、さらに好ましくはシールドに最も近いところにあるこの表面の5%以下を、材料浸食から除外することができる。
【0029】
この手段は、ターゲット収容部とシールドとの間の隙間にスパッタプラズマを近づけすぎることによって生じるアークを防止する。この領域が固体絶縁体によって遮蔽されることにより、利用可能なターゲット表面の小さな犠牲によってプラズマの安定性が大幅に改善される。
【0030】
本発明の中心思想は、スパッタガス高圧下でスパッタリングする際に、スパッタターゲットの材料浸食の局所的な影響によって、得られる層の品質および特に層厚の均一性を改善することである。この中心思想は、スパッタガス高圧下でスパッタリングする際に、スパッタターゲットと基板の離隔距離が比較的に短いので、スパッタターゲット上の所定の個所の材料浸食と、基板上の所定の個所の材料堆積との間の理解できる因果関係が存在するという認識に基づいている。磁界源の適当な構造体によって影響を生じることができる。これに組み合わせて、スパッタターゲットの前に固定可能な固体絶縁体によって影響を有利に生じることができる。
【0031】
この中心思想は、0.5mbar以上、好ましくは1mbar以上のスパッタガス圧力で基板上にターゲット材料をスパッタ堆積させるための本発明に係る方法においても実現される。この方法の場合、ターゲット表面と基板との間にスパッタガスのプラズマが形成される。本発明では、ターゲット表面からプラズマの方に放出される電子が1個または複数の磁界源の磁力線によってプラズマ内で方向を変えられる。この磁界源の北磁極と南磁極は10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは約1mmだけ互いに離れている。
【0032】
これにより、スパッタヘッドの上記説明と同様に、スパッタプラズマのイオン化率、ひいてはターゲットからの材料浸食の速度を局所的に適合させることができる。これはスパッタプラズマの安定性を改善し、従って大きなスパッタターゲットの使用を可能にすると同時に、特に方法の有利な実施形において本発明に係るスパッタヘッドが使用されるときに、基板上で得られる層厚の均一性を改善することができる。
【0033】
特別な明細書部分
次に、本発明の対象を限定することなく、図に基づいて本発明の対象を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係るスパッタヘッドの実施の形態を備えたスパッタ源を示す。
図2】同心的な多数のリング状磁界源構造体を有する本発明に係るスパッタヘッドを備えた、直径が50mmを超えるスパッタターゲットに適したスパッタ源を示す。
図3】ハニカム状磁界源構造体を有する、直径が60mmを超えるスパッタターゲットに適したスパッタヘッドを示す。
図4】長い基板またはテープを成膜するための本発明に係るスパッタヘッドの実施の形態を備えたスパッタ源を示す。
図5】単位時間あたりより高い成膜速度を有する、図4に示した実施の形態の変形を示す。
図6】局所的な磁界源の分布および強さを最適化することによる、直径が30mmの基板における膜厚分布の均一化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明に係るスパッタヘッドの実施の形態を有するスパッタ源の概略的な構造を示す。スパッタヘッドは一方では基板表面に対して平行な平面に沿った断面図で示され、他方ではこれに対して90°だけ図面の平面から外に回転した平面に沿った断面図で示されている。スパッタヘッドは本体1を有し、この本体は直径が50mmのスパッタターゲット2のためのターゲット収容面11を有する。電位Vをかけることができる本体1は水冷の銅ブロックである。本体、ひいてはターゲット収容面11は(図1に示していない)シールドによってアース電位に接続され、かつ固体絶縁体3によってこのシールドから離隔されている。本体内には、磁界源のリング状構造体4が設けられている。この構造体4は凹部を有する周方向の鉄製ヨークリング41を備えている。この凹部には、銅製の支持リング42が装入されている。支持リング42は穴を有し、この穴には永久磁石43が挿入されている。本体1は支持リング42と(例えばSmCoまたはSmCo17からなる)永久磁石43を装備したヨークリング41のための組み込み室を有するので、永久磁石43をターゲット2のすぐ近くに配置することができる。
【0036】
永久磁石43がターゲット収容面11に直接接することができるので、局所的な漂遊磁界がその都度完全に利用される。使用可能なスパッタ出力はスパッタターゲット2で生成される熱量によって制限される。従って、この実施の形態では、磁石とターゲット収容面との間に、本体の材料の層が存在すると有利である。この層がスパッタターゲット2で生成された熱の少なくとも一部を排出するので、スパッタターゲットはより大きな出力の場合にも均一に冷却されたままであり、スパッタターゲットから出る熱流の少なくとも一部が永久磁石43から遠ざけられる。これにより、より大きな出力の場合にも、永久磁石43がそのキュリー温度よりもはるかに低い温度にとどまり、その強磁性を維持する。同時に、より大きな出力の場合にも、熱流が永久磁石でせき止められることが回避される。なぜなら、永久磁石43とターゲット収容面11との間にある金属の銅が、焼結されたセラミック体の永久磁石43よりもはるかに良好な熱伝導体であるからである。
【0037】
各永久磁石43は北磁極と南磁極を有する。北磁極は本実施の形態ではターゲット収容面11の近くにあり、南磁極はヨークリング41を通って磁石43と支持リング42の周りをターゲット収容面11の近くまで案内されている。これは図1において細部拡大によって明らかになる。従って、ターゲット収容面11、ひいてはターゲット2のすぐ近くに、北磁極と南磁極がある。両磁極の間に漂遊磁界が形成され、この漂遊磁界はターゲットの向こう側でスパッタプラズマ内に達し、そこで電子をプラズマ内のサイクロイド軌道上に保持する。
【0038】
構造体4が設けられていないと、形状5のスパッタプラズマの分布がターゲット2の前に生じる。プラズマはターゲット2のエッジにおいてその中央よりも非常に弱くなる。それによって、アースされた基板ヒータ7上に用意された基板6上に、層が堆積する。この層の厚さはきわめて不均一に分布する。基板のエッジの層の厚さは基板の中央の厚さの半分である。本発明では、各永久磁石43によってスパッタプラズマが局所的に強められる。これはスパッタプラズマを分布させるための付加的な寄与5aによって示してある。全体として、スパッタプラズマのイオン化率、ひいては浸食速度がきわめて均一化されて分布する。従って、基板6上に堆積した層の厚さはエッジ側で、基板6の中央のその値に対して10%だけ低下する。
【0039】
図2は、本発明に係るスパッタヘッドの他の実施の形態を示している。このスパッタヘッドは図1と比較して幾分大きなターゲットのための磁界源の互いに同心的に配置された3個のリング状構造体4a、4b、4cを備えている。この構造体はそれぞれ、図1の構造体4と同じ概要図に従って構成されている。構造体4aはヨークリング41aと支持リング42aと永久磁石43aを備えている。構造体4bはヨークリング41bと支持リング42bと永久磁石43bを備えている。構造体4cはヨークリング41cと支持リング42cと永久磁石43cを備えている。その際、ヨークリング41a、41b、41cは別個の要素でなくてもよい。すなわち、その代わりに、同等の価値のあるヨーク41を一体に製作することができる。スパッタヘッドは図1のように、一方では基板表面に対して平行な平面に沿った断面図で示され、他方ではこれに対して90°だけ図面の平面から外に回転した平面に沿った断面図で示されている。両断面図の相互の方向は図2において切断線A−Aによって表されている。
【0040】
構造体4aの永久磁石43aは最も強い磁界を局所的に発生する。これに対して、構造体4b、4cの永久磁石43b、43cはそれぞれ弱い磁界を発生する。これは、図2の下側部分に示すように、永久磁石43b、43cがそれぞれ永久磁石43aに対して短縮されていることによって実現されている。この場合、永久磁石の上端(南磁極)はそれぞれヨークリング41a、41bまたは41cに接している。その際、一方では永久磁石43a、43b、43cと、他方ではヨークリング41a、41bまたは41cはそれぞれ互いに引っ張り合っているので、永久磁石は機械的に固定され、接着する必要がない。その代わりに、永久磁石は、それぞれその下端(北磁極)が永久磁石をターゲット収容面11から分離する本体材料の層に接していてもよい。永久磁石43b、43cによって発生した漂遊磁界の大部分がスパッタプラズマに到達するであろう。これは、もちろん、機械的に幾分複雑な製作を必要とする。なぜなら、ヨークリング41a、41bまたは41cがそれぞれ、永久磁石43a、43bまたは43cの南磁極まで正確に達するピンを備えていなければならないからである。
【0041】
永久磁石43a、43b、43cの長さの違いは非常に大げさに示してある。内側の方へ弱くなる磁界によって、基板上で得られる層の厚さの均一性が良好になる。このようなスパッタヘッドによって、直径が60mm以上のスパッタターゲットを使用することができ、その際ターゲットを均一に利用した均一な層厚が実現可能である。さらに大きなスパッタターゲットのために、永久磁石のリング状構造体をさらに多く互いに同心的に配置することができる。
【0042】
図3は、本発明に係るスパッタヘッドの他の実施の形態を、基板表面に対しては垂直な平面(a)に沿った断面図で、および基板表面に対しては平行な平面(b)に沿った断面図で示す。磁界源の構造体4はハニカム状構造の鉄製ヨーク41を備えている。このヨークのセル内には、銅製の支持要素42と円筒状永久磁石43が挿入されている。永久磁石43の北磁極がターゲット収容部の方に向いていると、鉄製ヨーク41は南磁極を形成する。このヨーク41は多数のヨークリングからなっていないで、一体に製作されている。ハニカム構造体の個々のセルは円形横断面を有していてもよいし、多角形(ここでは六角形)横断面を有していてもよい。
【0043】
図3aにおいて永久磁石43の長さと、スパッタプラズマを分布させるための永久磁石の寄与5aによって示すように、異なる強さの永久磁石が使用される。その際、強さの違いは図式的に大げさに示してある。最も弱い磁石は中央にあり、エッジの方に向かって磁石は強くなっている。それによって、大きなターゲットの場合には一般的にエッジの方に向かってスパッタプラズマが弱まり、かつ不安定になるが、これに逆らう作用がある。このようなスパッタヘッドによって、図2に示した実施の形態のように、直径が60mm以上のスパッタターゲットを使用することができ、その際ターゲットを均一に利用した均一な層厚が実現可能である。
【0044】
図4は本発明に係るスパッタヘッドの他の実施の形態を、斜視図(a)と、基板表面に対して平行な平面に沿った断面図で示している。基板6は、ローラ61から巻き戻されて、成膜後、ローラ62に巻き取られる帯状体である。スパッタヘッドの本体1は直方体の形をしている。この本体内には、L字形の鉄製ヨーク棒41と、穴を有する直方体状の銅製支持要素42が入れられている。支持要素42の穴には、永久磁石43が挿入されている。ヨーク棒41、支持要素42および永久磁石43は共に、磁界源の構造体4を形成している。スパッタターゲット2と基板ヒータは見やすくするために記入されていない。
【0045】
図1と同様に、各永久磁石43の北磁極はスパッタターゲットのためのターゲット収容面11のすぐ近くにあり、一方、南磁極はL字形のヨーク棒41を通ってターゲット収容面の近くまで案内されている。発生する漂遊磁界はスパッタプラズマ内に達し、追加寄与5aだけ分布5を充実させる。それによって、プラズマのイオン化率がスパッタヘッドの幅にわたって均一化されるので、基板6の全幅にわたって均一な層を被覆することができる。加工領域は例えば約100mmと約1000mmとの間の長さを有する。基板帯状体6はスパッタヘッドの傍らを連続的に通過し、成膜される。
【0046】
図5図4に示した実施の形態の変形を示している。図4と同様に、基板ヒータは図示していない。基板帯状体6はローラ61から巻き戻されたり、ローラ62に巻き取られたりしない。その代わりに、基板帯状体は同じ方向に回転するこの両ローラによって何度も方向変換されるので、磁界源の多数の線状構造体4a〜4hの下方に沿って走行し、その都度さらに成膜される。スパッタヘッドのこの実施の形態は、図4に示した実施の形態よりも、単位時間あたり長い帯状体に、所定の層厚を成膜することができる。
【0047】
図6には、図1に示した局所的な磁界によるスパッタ速度の局所的な最適化が、スパッタ時に得られる層の均一化をどの程度改善することができるかが示してある。直径が30mmの円形の基板についてそれぞれ層厚dが基板中心からの距離Xの関数として記入してある。その際、層厚は基板中心のその値を基準として任意の単位で決められている。曲線aは本発明に従って設けられる磁界源を備えていないスパッタヘッドについての層厚の分布を示している。曲線bは、まだ最適でない本発明に係る磁界源構造体を備えたスパッタヘッドによって発生する分布を示している。明確な改善を既に認めることができる。すなわち、層厚が基板中心のその値の90%未満に低下しない領域が約3分の1だけ広がっている。曲線cは磁界源の最適な分布の場合に生じる分布を示している。実際に、30mmの基板直径の全体にわたって、層厚が基板中心のその値から約3%未満しかそれていない。この小さな偏差は機能性膜にとって一般的に許容される。曲線dは図1の強すぎる磁界源の場合の層厚分布を示している。この場合、局所的な磁界源の使用のきっかけであった、エッジの方への層厚の減少は、過剰に補正される。
【0048】
図7は、固体絶縁体を備えた本発明に係るスパッタヘッドの実施の形態の断面図である。図7aでは、1個だけの固体絶縁体3が本体1とシールド7との間に設けられている。
【0049】
図7bでは、スパッタターゲット2のエッジ領域を覆う他のリング状固体絶縁体32が設けられている。この絶縁体33は、スパッタプラズマがエッジまで延び、そこで本体1と、一方ではターゲット2、他方ではシールド7との間に電気的なアークが直接発生することを防止する。
【0050】
しかしながら、ターゲット2から削り取られた導電性材料の一部が絶縁体33上に堆積すると、この防護作用は失われる。そのために、図7cに示した実施の形態では、他の絶縁体リング34が設けられている。この絶縁体リングは1個または複数のスペーサ35を介して第1の絶縁体リング33から離隔されている。ターゲットから削り取られた材料は、絶縁体リング34上にのみ堆積し、絶縁体リング33には堆積しない。
【0051】
図7dでは、絶縁体リング33がターゲット2の表面の前ではなく、ターゲット収容部11の表面の前に配置されている。図7cに示した実施の形態と同じように、電気的なアークをもたらす、シールドに最も近いエッジ領域の不所望な材料浸食が防止される。しかし、図7cと異なり、小さな、ひいては低価格のターゲットを使用することができる。このターゲットの表面が完全に利用される。図7bと7cではそれぞれ、絶縁体リング33によって覆われたターゲット2の部分が利用されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d