(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934313
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】ケミカルループプロセスを制御・最適化するためのシステム
(51)【国際特許分類】
F24J 1/00 20060101AFI20160602BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
F24J1/00 301
G05B13/04
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-182317(P2014-182317)
(22)【出願日】2014年9月8日
(62)【分割の表示】特願2012-551310(P2012-551310)の分割
【原出願日】2011年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-26383(P2015-26383A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2014年10月8日
(31)【優先権主張番号】13/014,776
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/299,590
(32)【優先日】2010年1月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515322297
【氏名又は名称】ゼネラル エレクトリック テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】General Electric Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ アブヒナヤ
(72)【発明者】
【氏名】レイ ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ロウ シンシェン
【審査官】
後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−070569(JP,A)
【文献】
特開2004−316938(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/111379(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J 1/00
F23C 10/02−10/14
G05B 13/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケミカルループプラントを最適化するためのシステムにおいて、
酸化装置と還元装置と複数の分離器とを備えるケミカルループであって、前記酸化装置は還元された固体を酸化し、前記還元装置に前記酸化された固体を移送するよう作用し、前記還元装置は前記酸化された固体を還元し、前記還元された固体を前記酸化装置に移送するよう作用する、ケミカルループと、
前記ケミカルループ内の少なくとも1つのパラメータを各々測定するための少なくとも2つのセンサであって、前記ケミカルループ内に位置する導管に設置されるとともに、少なくとも1つのデータ信号を各々生成するように構成された少なくとも2つのセンサと、
前記各少なくとも1つのデータ信号を受信するように構成され、前記ケミカルループ内の前記固体の流れを調節するために、少なくとも1つの制御信号を前記ケミカルループ内に位置する少なくとも1つの第1のバルブに送信するように構成されている制御部と、
を備え、
前記導管は、略垂直状であり、前記複数の分離器の少なくとも1つと前記導管内に位置する第2のバルブとの間にそれらと流体連通するように位置し、前記分離器の少なくとも1つは、前記酸化装置及び前記還元装置の少なくとも一方の下流に設置されており、
前記少なくとも2つのセンサは、前記導管内の固体の高さ、質量および体積のうちの少なくとも1つを測定するように構成されている第1のセンサと、前記ケミカルループの一部分で測定された差圧、前記ケミカルループの一部分における質量流量、及び前記ケミカルループの一部分における空気流量のうち少なくとも1つを決定するように構成されている第2のセンサとを含み、
前記ケミカルループは、第1および第2のケミカルループを含み、
前記第1のケミカルループが前記酸化装置と前記複数の分離器の内の第1の分離器を備え、
前記第2のケミカルループが前記還元装置と前記複数の分離器の内の第2の分離器を備え、
前記第1および第2のケミカルループのそれぞれが前記少なくとも2つのセンサを備えている、
制御システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのセンサは、前記酸化装置、前記導管、及び前記ケミカルループ内で前記酸化装置の下流に設置される前記第1の分離器と流体連通している出口ラインのうちの少なくとも1つにおいて測定される前記差圧を決定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのセンサは、前記酸化装置の入口、前記導管、及び前記ケミカルループ内で前記酸化装置の下流に設置される前記第1の分離器と流体連通している出口ラインのうちの少なくとも1つにおいて測定される前記質量流量を決定するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2のバルブは、その内部に固体を移送させるための入口及び2つの出口を備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2のケミカルループは少なくとも1つの第3のバルブを有しており、前記制御部は、前記第2のケミカルループ内の固体の流れを調節するために前記少なくとも1つの第3のバルブを調節するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2のケミカルループ内に位置する少なくとも1つの第3のバルブを制御するよう構成されており、前記第1のケミカルループは、前記第2のケミカルループと流体連通し、前記第1のバルブ及び前記第3のバルブのうち少なくとも1つは、前記第1のケミカルループと前記第2のケミカルループとの間の固体の流れを調節するように構成されている、請求項1乃至5のいずれかにに記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのセンサと通信するデータ取得システムをさらに備えている、請求項1乃至6のいずれかにに記載のシステム。
【請求項8】
前記制御部は、前記少なくとも1つのセンサと通信するデータ取得システムをさらに備えている、請求項1乃至7のいずれかにに記載のシステム。
【請求項9】
前記ケミカルループプラントは、マルチケミカルループ、利用または隔離のためのCO2捕捉を備えるケミカルループに基づくプラント、および、ケミカルループに基づくCO2-Readyプラントの少なくとも1つを含む、請求項1乃至8のいずれかにに記載のシステム。
【請求項10】
前記酸化装置及び還元装置は、輸送反応器である、請求項1乃至9のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年1月29日付出願の同時係属中の米国特許仮出願第61/299,590号の米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張する。米国特許仮出願第61/299,590号の内容の全ては参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府ライセンス権)
本発明は、米国エネルギー省によって授与された契約第DE−FC26−07NT43095号に基づき政府の支援のもとになされたものである。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は概して発電・気化プロセスの制御・最適化のためのシステム及び方法に関し、より具体的には、発電・気化プラント内で採用されるケミカルループプロセスを制御・最適化するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ケミカルループ(CL)は、例えば石炭や石油、バイオ燃料、バイオマス及びその他燃料等の燃料を燃焼させる発電プラント(例えば、電力又は蒸気生成プラント)内で利用することができる。CLを採用している典型的なシステムとしては、例えばカルシウム系又は金属系の化合物等の固体を酸化装置と称される第1の反応器と還元装置と称される第2の反応器との間を「ループ」させる高温プロセスを利用したものがある。酸化装置内で起こる酸化反応においては、酸化装置に注入される空気から得られる酸素が、酸化装置に導入される固体によって捕捉される。そして、捕捉された酸素は、酸化した固体によって還元装置に運ばれる。還元装置では、酸素は、上記燃料のうちの1つ、例えば石炭を燃焼及び/又は気化させるために使用される。還元装置の還元反応の後、固体は捕捉した酸素を解放して、酸化装置に戻されて再び酸化される。このようにループが形成され、サイクルが繰り返される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの生成システムにおいては、複数のCLループが相互に作用する。CLプロセス、特にマルチループCLプロセスの制御及び最適化は複雑となり得る。固体の移送によって制御及び最適化が複雑化するだけでなく、化学及び熱反応により、例えば、固体の移送による時間遅延や、燃焼及び気化プロセスにおける化学反応速度等の変動的要素がもたらされるのである。これは、制御・最適化システムにおいて一般的に考慮される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で例示する態様によれば、ケミカルループ内で1つ以上のパラメータを測定するための1つ以上のセンサを備えるケミカルループシステムを最適化するための制御システムが提供される。センサは、ケミカルループ内に位置する導管に設置される。センサは、導管内の固体の量を表す1つ以上のデータ信号を生成する。制御システムは、センサと通信するデータ取得システムを備える。制御システムはまた、限定的ではないが、コンピュータ等のデータ取得システムと通信する制御部を備える。データ取得システムはデータ信号を受信し、制御部は制御信号を生成する。制御部は、ケミカルループ内に位置する1つ以上のバルブと通信する。バルブは、ケミカルループ内の固体の流れを調節するように構成されている。
【0007】
本明細書に開示するその他の態様によれば、データ信号は、導管内の固体の高さ、体積、及び/又は質量を表す。
【0008】
本明細書に開示するその他の態様によれば、データ信号は、ケミカルループの一部分で測定された差圧、ケミカルループの一部分の質量流量、及び/又はケミカルループの一部分の空気流量を表す。
【0009】
本明細書に開示するその他の態様によれば、センサが位置する導管は、略垂直状であり、分離器と他のバルブとの間にそれらと流体連通するように位置する。分離器と他のバルブは両方とも導管内に位置している。分離器は、ケミカルループ内で酸化装置及び還元装置のうちの少なくとも一つの下流に位置する。
【0010】
本明細書に開示するその他の態様によれば、ケミカルループシステムは、第2のケミカルループと流体連通している第1のケミカルループを備える。1つ以上の制御信号は、第1のケミカルループ内に位置する1つ以上の第1のバルブと、第2のケミカルループ内に位置する1つ以上の第2のバルブに送られる。第2のバルブは、第2のケミカルループを通じた及び/又は第1及び第2のケミカルループ間の固体の流れを、調節するように構成されている。
【0011】
本明細書に開示するその他の態様によれば、ケミカルループの制御・最適化方法が開示される。酸化装置の内部領域と流体連通している第1の導管を有する酸化装置が設けられる。また、第1の導管と流体連通しているとともに、第2の導管が接続された分離器も設けられる。第2の導管は、一部略垂直に配置されている。制御バルブは、第2の導管内に位置し、1つ以上のセンサは、分離器と制御バルブとの間で、第2の導管の略垂直部分に位置する。また、制御システムも設けられる。センサは、制御システムと通信する。センサは第2の導管内の固体の量を表す1つ以上のデータ信号を生成する。データ信号は、制御システムにより受信される。制御バルブは制御信号を用いて制御され、ケミカルループ内の固体の流れを調節する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】発電プラントのCLシステムの簡略化したブロック図である。
【
図2】発電プラントの相互接続マルチループCLシステムの簡略化したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで参照する図面は、実施形態の一例であり、同様の構成要素には同様の番号を付している。
【0014】
本明細書では、例えば、発電プラント及び/又は気化プラント内で採用される、1つ以上のケミカルループ(CL)を有するケミカルループシステムの制御・最適化システムが開示される。制御・最適化システムでは、例えば、システム内の熱や、圧力や、質量流量や、質量のレベル及び体積や、反応時間等といったプラント及びプロセスパラメータを、システム内の1つ以上のポイントにおいて測定し、所望の動作条件を維持するために、測定結果に応じてバルブ部分、フロー、及び/又は体積を調整する。
【0015】
図1は、発電プロセスで使用するためのシングルループCLシステムを示す。シングルループCLシステムは、原則的に参照符号100によって示される。
図1に示すように、CLシステム100は、還元反応を起こすことができる還元装置110(例えば、還元反応器)と、酸化反応を起こすことができる酸化装置120(例えば、酸化反応器)とを備える。反応器としては、例えば、輸送反応器や、流動層反応器が適している。還元装置110と酸化装置120は、以下に説明するようにお互いに流体連通している。還元装置は、還元装置で生成された気体を除去するための出口112を備える。一の実施形態においては、CLシステム100は本出願人所有の特許第7,083,658号広報に記載されたものと同様であり、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。CLシステムは発電プロセスで使用するものとして記載されているが、限定はされないが合成ガス生成に使用されるものや二酸化炭素を隔絶するために使用されるもの等の、限定はされないが気化プロセスを含む他の運用もまた考えられる。
【0016】
図1に示すように、給気部130は、間に伸びる導管150を介して酸化装置120の内部領域と流体連通している。導管150内において、導管150に排出される空気流を調節するための制御バルブ250が、給気部130の下流に位置する。一の実施形態においては、導管150は、概して酸化装置及び/又は還元装置110の下方に位置する。酸化装置120の出口122は、例えばサイクロンである分離器180の入口172と流体連通している。分離器180は、例えば通常分離器の上部に位置する通気孔である気体出口182を備える。また、分離器180は、例えば分離器の端部で気体出口182と略反対側に位置するパイプである他の出口184を備える。分離器180の他の出口184は、導管190を介して、例えばシールポット制御バルブ(SPCV)である制御バルブ200と流体連通している。一の実施形態においては、導管190は略垂直状である。
【0017】
さらに
図1を参照すると、SPCV200においては2つの出口203及び204が形成される。一方の出口203は導管156を通じて還元装置110に接続されており、これによってSPCV200と還元装置110の内部領域間が流体連通している。SPCV200の他方の出口204は、導管150と流体連通している他の導管205に接続されている。SPCV200は、給気部130と流体連通している2つの給気ライン201及び202とも流体連通している。給気ライン201は、内部に制御バルブ254を備え、給気ライン202は、内部に他の制御バルブ252を備える。制御バルブ252及び254のいずれも、以下に説明するようにSPCV200への空気流を調節する。
【0018】
図1に示すように、還元装置110の内部領域は、1)入口210を介して例えば粉砕炭供給部である燃料源(図示せず)と、2)他の入口220を介して石灰石及び/又は炭酸カルシウム(CaCO
3)の供給源(図示せず)と、3)さらに他の入口230を介して蒸気供給部(図示せず)と流体連通している。還元装置110はまた、導管155を介して制御バルブ256の入口と流体連通している出口111を備える。制御バルブ256の出口は、導管155を介して、導管205と流体連通している。
【0019】
CLシステム100は、CLシステム全体に亘って配置され、それぞれが1つ以上のデータ信号を生成する複数のセンサを備える。センサ及びデータ信号は、1)酸化装置120の差圧を測定し、データ信号DP120を生成するための差圧センサS120と、2)導管190の差圧を測定し、データ信号DP190を生成するための差圧センサS190と、3)導管205の差圧を測定し、データ信号DP205を生成するための差圧センサ205と、4)導管150内のポイント152に位置し、データ信号D152を生成する、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS152と、5)導管190内のポイント192に位置し、データ信号D192を生成する、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS192と、6)導管205内のポイント207に位置し、データ信号D207を生成する、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS207と、7)導管190内のポイント194で測定を行い、データ信号D194を生成する質量、体積、及び/又はレベルセンサS194を含むが、これらに限定されない。
【0020】
また、データ信号は、例えばコンピュータである外部ソース(図示せず)において生成された所定のデータ信号DRを含む。所定のデータ信号DRは、調節制御、負荷変更制限、及び/又はプラント停止・開始特性を含むが、それらに限定されない。質量レベル、質量流量、空気流量、及び質量体積はポイント152,192,194及び207で測定されるものとして説明及び図示したが、質量レベル、質量流量、空気流量、及び質量体積は本明細書で開示される広義の態様から逸脱しない範囲において、複数のポイントにおいても測定可能である。更に、センサS120,S190,S205,S152,S192,S207及びS194は、導管、還元装置、酸化装置又は分離器の外面若しくは内面又は内部領域に位置してもよく、或いはこれらと流体連通してもよい。
【0021】
一の実施形態においては、1)質量レベルという用語は、ある時点又は複数の時点における特定の導管の固体の充填の程度、例えば、導管190内の固体の高さ、又はある導管の特定の断面における固体の量を意味する。2)質量体積という用語は、ある時点又は複数の時点における、例えばキログラム及び/又は、分数若しくはパーセンテージ等の質量単位で表される、導管内又は導管の一部分の最大容量に対するそこに存在する固体の量を意味する。固体の質量レベル及び質量体積を測定する様々な技術を採用することができる。例えば、超音波センサ、音波センサ、レーザセンサ、容量センサ、及びこれらの組合せであってよいが、それらに限定はされない。センサは対応する導管、その内部又は動作可能な範囲でその近辺に搭載することができる。
【0022】
図1を参照すると、通信リンク285を介してデータ取得システム(DAS)290と通信する制御システム280が図示されている。一の実施形態においては、制御システムはコンピュータである。制御システム280は、相互通信する解析モジュール281と、信号生成部282と、信号送信部283とを備える。DAS290は、適切なデータリンクを介して、差圧センサS120、差圧センサS190、差圧センサS205、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS152、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS192、質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS207、質量体積及び/又はレベルセンサS194、及び外部ソースと通信する。従ってDAS290は、データ信号DP120,DP190,DP205,D152,D192,D207,D194及びDRを受信する。信号送信部283は、以下に説明するように、制御信号C250,C252,C254及びC256を制御バルブ250,252,254及び256へそれぞれ送信するために、制御バルブ250,252,254及び256と通信する。
【0023】
一の実施形態においては、制御システム280は、例えば、比例・積分・微分(PID)コントローラや、ファジーコントローラや、適応コントローラや、モデルベースコントローラ等の、1つ以上の制御モジュールを備える。適応コントローラは、例えば、自己同調適応制御、ニューロ適応制御、ニューラルネットワーク(NN)及び/又はウェーブレットネットワークを備えてもよい。本実施形態で採用しているCLシステム及びプロセスは、多重フェーズのフローと化学反応を伴うため、これらのシステムは、特に質量輸送速度や化学反応速度によるプロセス非線形性及び時間遅延を特徴とする。そのため、非線形制御・最適化技術がCLプロセス内で一般的に採用されている。一の実施形態においては、制御システム280は、例えば、質量や、運動量やエネルギーバランスの式等の、第1原理式により導き出される非線形動的CLモデリングとシミュレーションとを有する。非線形動的CLモデリングとシミュレーションは、例えば、常微分方程式(ODE)、代数微分方程式(AE)、及び偏微分方程式(PDE)のうち1つ以上を、単独又は任意に組み合わせて含んでよい。また、第1原理式をデータ駆動モデルと組み合わせたハイブリッド動的モデル構造においては、例えばニューラルネットワーク(NN)等のデータ起動モデルの、経験モデル法を使用してもよい。さらに、線形及び非線形モデルの両方を使用する多変数モデル予測制御(MPC)であれば、CLプロセスの動的最適化が実現できる。
【0024】
ここに記載するように、制御システム280の目的のひとつは、CLシステム100内の固体の質量流量の調節である。限定はされないが、質量や体積及び/又はレベルセンサS194等の、質量、フロー、体積、及びレベルセンサを使用すれば、CLシステム内の質量流量に関して、従来の制御システムよりも有益な情報が提供される。例えば、導管190内の固体の体積及び/又はレベルは、CLシステム100に対する十分なシール圧力の決定に役立つ。導管190内の固体のレベルの上昇に伴い、シール圧力が増大する。CLシステム100内のシール圧力が高いほど、CLシステムの動作範囲が拡大する。導管190内の固体のレベルは、例えば、制御バルブ256を介する固体の(例えばCa)供給の調節により、制御することができる。従って、導管190内の体積及び/又はレベルの測定値は、CLシステム100の動作範囲を変更するために制御バルブ256の位置を調節する制御信号の生成に利用される、パラメータとして機能する。更に、導管190内の体積及び/又はレベルに少なくとも部分的に基づく制御信号C250,C252,C254及びC256によって、動作パラメータの変動を最小化できる。例えば、CLシステムの動作限界において、あるいはその近辺でCLシステム100が安定すれば、CLシステムの動作の採算性が向上する。
【0025】
一の実施形態においては、CLシステム100は、熱ループ240を備える。熱ループ240は、酸化装置120内で発生した熱を抽出するために、酸化装置120と連通する熱交換器241を備えている。熱ループ240は、例えば蒸気タービン246を備える。蒸気タービン246は、酸化中に生成される熱を用いて熱湯給水242によって生成される蒸気244を使用して、発電器248を駆動する。
【0026】
動作中の還元装置内では、還元反応の結果、例えば、カルシウム(Ca)等の固体が生成される。一の実施形態においては、Caは硫化カルシウム(CaS)である。Caは、還元装置110から導管155,205及び150を介して酸化装置120の内部領域に排出される。Caは酸化装置120内で酸化され、酸化カルシウム(CaO)が生成される。CaOは導管170を通じて分離器180に移送される。分離器180においては、例えば窒化ガス(N
2)等の酸化気体がCaOから除去され、気体出口182を通じて分離器から排出される。そしてCaOは、分離器180から導管190を介してSPCV200へ排出される。CaOの一部分は、導管156を通じてSPCV200から還元装置110へと送られる。CaOは、酸素を還元装置110へ届けるためのキャリアである。また、燃料が、入口210を介して還元装置110へ届けられ、石灰石が入口220を介して還元装置へ導入される。燃料と石灰石は、燃焼及び/又は気化反応においてCaOに含まれる酸素と反応することによって、CaOをCaに還元する。その後、Caは導管155と導管150を通じて酸化装置120に戻され、酸化装置120において再度酸化されCaOとなる。上記したようなサイクルが繰り返される。
【0027】
以上、CLシステム100は酸化カルシウム系のCLシステムであるとして説明したが、例えば、参照により本明細書に組み込まれる本出願人所有の米国特許第7,533,620号広報に記載されるように、CLシステム100内に金属酸化物を採用することも適用可能である。
【0028】
また、還元装置110内での還元によって、還元装置から出口112を介して除去される気体も生成される。この気体は、例えば、合成ガス、水素ガス(H
2)、及び/又は二酸化炭素ガス(CO
2)を含む。この気体の組成、例えばこの気体内の合成ガス、水素ガス(H
2)、及び/又は二酸化炭素ガス(CO
2)の比率は、燃料と空気の比率によって異なる。
【0029】
動作中の制御システム280は、給気部130から導管150へ供給される空気の量と給気部130からSPCV200へ供給される空気の量に基づいて、CLシステム100内で移送される固体(例えばCa及びCaO)の量を制御する。例えば、1)制御バルブ250は、導管150へ導入される空気の量を制御して、酸化装置120へ移送される固体(例えばCa)の量を制御する。2)次に制御バルブ252が、SPCV給気部入口202へ導入される空気の量を制御して、SPCV200から還元装置110へ送るCaOの量を制御する。3)制御バルブ254は、SPCV給気部入口201へ導入される空気の量を制御して、SPCVから(例えば還元装置110を迂回する)導管205へ送るCaOの量を制御する。
【0030】
CLシステム100内の固体の移送の制御は、解析モジュール281による、データ信号DP120,DP190,DP205,D152,D192,D207,D194及びDRの解析に基づく。データ取得システムDAS290は、データ信号DP120,DP190,DP205,D152,D192,D207,D194及びDRを収集し、データリンク285を介してデータ信号を制御システム280へ送信する。制御システム280の解析モジュール281は、データ信号DP120,DP190,DP205,D152,D192,D207,D194及びDRを解析し、比較する。また、解析モジュール281は、空気及び固体のフロー及び/又は体積をCLシステム100内の様々なポイントで調整するための制御信号を生成する信号生成部282へ、データを送信する。空気及び/又は固体の、フロー及び/又は体積の調整は、CLシステム100内で測定する2つ以上のパラメータ(例えば導管190及び酸化装置120の差圧の差)の比較(例えば差を求めること)に基づいており、及び/又は所定の設定ポイントに合わせるよう、及び/又は例えば導管190内の所定の質量レベルに基づいて行われるルールベース制御・最適化の決定に合わせるよう行われる。
【0031】
例えば、制御信号C250,C252及びC254がデータ信号DP120,DP190,DP205,D152,D192,D207,D194及びDRに基づいて信号生成部282により生成され、信号送信部283によって制御バルブ250,252及び254へそれぞれ送信され、給気部130から制御バルブ250,252及び254を通じた空気流がそれぞれ調節される。制御バルブ256は、導管150を通じて酸化装置120に戻される還元装置110からの個体(例えばCa)の量を制御する。制御バルブ256は、制御システム280からの制御信号C256に対応して動作する。
【0032】
図1はシングルループのCLシステム100を示すが、ここで説明する制御・最適化システム及び方法は同システムにおけるものに限定されない。例えば、複数ループによるCLの使用が考えられる。そのようなCLには、第1のケミカルループ300Aと第2のケミカルループ300Bとを備える
図2に示すような2つのループのCLシステム300及び、水蒸気賦活及び/又は焼成を利用する複数ループCLや、本出願人所有の米国特許第7,083,658号広報に記載される複数ループCL等の、他の複数ループCLが含まれるがそれに限定はされない。
【0033】
第1のケミカルループ300Aにおいて、導管305Aを介して還元装置310Aと流体連通している給気部302が図示されている。制御バルブ350Aは、導管305Aに排出される空気流を調節するために、導管305A内において給気部302Aの下流に位置する。一の実施形態においては、通常導管305Aは、還元装置310Aの下方に位置する。還元装置310Aは、導管315Aを介して分離器320Aと流体連通している。分離器320Aは、導管325Aを介してSPCV330Aと流体連通している。SPCV320Aは、2つの出口332A及び334Aを備える。SPCV330Aの出口332Aは、導管335A及び導管305Aを介して還元装置310と流体連通している。他方の出口334Aは、以下に説明するように、第2のケミカルループ300Bと流体連通している。また、SPCV330Aは、SPCV330Aに接続された2つの空気入口ライン301A及び311Aを備える。空気入口ライン301Aは、内部に制御バルブ354Aを備える。制御バルブ354Aは、導管306Aを介して給気部302Aと流体連通している。空気入口ライン311Aは、内部に制御バルブ352Aを備える。制御バルブ352Aは、導管306Aを介して給気部302Aと流体連通している。
【0034】
第2のケミカルループ300Bにおいて、導管305Bを介して酸化装置310Bと流体連通している給気部302Bが図示されている。制御バルブ350Bは、導管305Bに排出される空気流を調節するために、導管305B内において、給気部302Bの下流に位置する。一の実施形態においては、通常導管305Bは酸化装置310Bの下方に位置する。酸化装置310Bは、導管315Bを介して分離器320Bと流体連通している。分離器320Bは、導管325Bを介してSPCV330Bと流体連通している。SPCV330Bは、2つの出口332B及び334Bを備える。SPCV330Bの出口332Bは、導管335B及び導管305Bを介して酸化装置310Bと流体連通している。他方の出口334Bは、以下に説明するように、第1のケミカルループ300Aと流体連通している。また、SPCV330Bは、SPCV330Bに接続された2つの空気入口ライン301B及び311Bを備える。空気入口ライン301Bは、内部に制御バルブ354Bを備える。制御バルブ354Bは、導管306Bを介して給気部302Bと流体連通している。空気入口ライン311Bは、内部に制御バルブ352Bを備える。制御バルブ352Bは、導管306Bを介して給気部302Bと流体連通している。
【0035】
さらに
図2を参照すると、導管340Aを介して酸化装置310Bと流体連通しているSPCV330Aの出口334Aが図示されている。また、導管340Bを介して還元装置310Aと流体連通しているSPCV330Bの出口334Bが図示されている。
【0036】
CLシステム300は、CLシステム内全体に亘って配置され、それぞれが1つ以上のデータ信号を生成する複数のセンサを備える。第1のケミカルループ300Aのセンサ及びデータ信号は、1)還元装置310Aの差圧を測定し、データ信号DP310Aを生成するための差圧センサS310Aと、2)導管325Aの差圧を測定し、データ信号DP325Aを生成するための差圧センサS325Aと、3)導管335Aの差圧を測定し、データ信号DP335Aを生成するための差圧センサS335Aと、4)導管335A内のポイント337Aに位置し、データ信号D337Aを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS337Aと、5)導管305A内のポイント307Aに位置し、データ信号D307Aを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS307Aと、6)導管325A内のポイント327Aに位置し、データ信号D327Aを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS327Aと、7)導管325A内のポイント329Aで測定を行い、データ信号D329Aを生成する質量体積及び/又はレベルセンサS329Aとを含むが、これらに限定されない。一の実施形態においては、ポイント329Aはポイント327Aの上方にある。
【0037】
第2のケミカルループ300Bのセンサ及びデータ信号は、1)酸化装置310Bの差圧を測定し、データ信号DP310Bを生成するための差圧センサS310Bと、2)導管325Bの差圧を測定し、データ信号DP325Bを生成するための差圧センサS325Bと、3)導管335Bの差圧を測定し、データ信号DP335Bを生成するための差圧センサS335Bと、4)導管335B内のポイント337Bに位置し、データ信号D337Bを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS337Bと、5)導管305B内のポイントに位置し、データ信号D307Bを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS307Bと、6)導管325B内のポイント327Bに位置し、データ信号D327Bを生成する質量レベル、質量流量、及び/又は空気流量センサS327Bと、7)導管325B内のポイント329Bで測定を行い、データ信号D325Bを生成する質量体積及び/又はレベルセンサS329Bとを含むが、これらに限定されない。一の実施形態においては、ポイント329Bはポイント327Bの上方にある。
【0038】
センサ(S310A,S310B),(S325A,S325B),(S335A,S335B),(S337A,S337B),(S307A,S307B),(S327A,S327B),及び(S329A,S329B)は、上述したCLシステム100の各センサS120,S190,S205,S207,S152,S192及びS194と同様である。また、データ信号は、例えばコンピュータである外部ソース(図示せず)において生成された所定のデータ信号DRを含む。所定のデータ信号DRは、調節制御、負荷変更制限、及び/又はプラント停止・開始特性を含むが、これらに限定されない。質量レベル、質量流量、空気流量、及び質量体積はポイント337A,337B,335A,335B,307A,307B,325A及び325Bで測定するものとして説明及び図示されているが、質量レベル、質量流量、空気流量、及び質量体積は本明細書で開示される広義の態様から逸脱しない範囲において、複数のポイントにおいても測定可能であると考えられる。
【0039】
図2を参照すると、通信リンク485を介してデータ取得システム(DAS)490と通信する制御システム480が図示されている。制御システム480及びDAS490は、上述したCL100の制御システム280及びDAS290と同様に構成されている。例えば、DAS490は、センサS337A,S337B,S335A,S335B,S307A,S307B,S325A及びS325Bと通信し、制御システム480は制御バルブ350A,350B,352A,352B,354A及び354Bと通信する。以下に説明するように、制御システムは、制御信号C350A,C350B,C352A,C352B,C354A及びC354Bを、それぞれ制御バルブ350A,350B,352A,352B,354A及び354Bへ送信する。
【0040】
動作中、固体(例えばCa及び/又はCaO)は、ケミカルループ300A及び300B内で(ここでは「再循環移送」と称する)及びケミカルループ300Aと300Bとの間で(ここでは「クロスオーバー移送」と称する)移送される。例えば、ケミカルループ300A内で、還元装置310から流出して分離器320A及びSPCV330Aを通るCaの一部は、導管335A及び305Aを介して再循環し、還元装置310へと戻る。制御バルブ350Aは、導管305Aへ導入される空気の量を制御して、還元装置310Aに供給される固体(例えばCa)の量を制御する。同様に、ケミカルループ300Bを参照すると、酸化装置310Bから流出して分離器320B及びSPCVを通るCaOの一部は、導管335B及び305Bを介して再循環し、酸化装置310Bへと戻る。制御バルブ350Bは、導管305Bに導入される空気の量を制御して、酸化装置310Bに供給される固体(例えばCaO)の量を制御する。
【0041】
あるいは、クロスオーバー移送では、固体(例えばCa及び/又はCaO)は、ケミカルループ300Aと300Bとの間で移送される。例えば、ケミカルループ300Aを参照すると、分離器320A及びSPCV330Aを通じて還元装置310Aから流出するCaの一部は、導管340A及び305Bを介して酸化装置310Bへ移送される。同様に、ケミカルループ300Bを参照すると、分離器320B及びSPCV330Bを通じて酸化装置310Bから流出するCaOの一部は、導管340B及び305Aを介して還元装置310Aへ移送される。
【0042】
ケミカルループ300Aにおいては、制御バルブ354Aは、給気部入口301Aへと導入される空気の量を制御して、SPCV330Aから導管340Aを介して酸化装置310Bへと移送されるCaの量を制御する。ケミカルループ300Bにおいては、制御バルブ354Bは、給気部入口301Bへ導入される空気の量を制御して、SPCV330Bから導管340Bを介して還元装置310Aへと移送されるCaOの量を制御する。
【0043】
制御システム480は、データ信号DP310A,DP325A,DP335A,D337A,D307A,D327A,D329A,DP310B,DP325B,DP335B,D337B,D307B,D327B及びD325Bの解析に基づいて、制御信号C350A,C350B,C352A,C352B,C354A及びC354Bを制御バルブ350A,350B,352A,352B,354A及び354Bへ供給する。
【0044】
様々な例示の実施形態を参照して本開示を説明したが、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更を加えたり、本発明の要素を均等物に置き換えたりできることが当業者には理解されるであろう。また、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況や材料を本発明の教示に適合させるように多くの変形を行うことができる。したがって、本発明は、この発明を実施するために考えられた最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、添付の請求項の範囲内の全ての実施形態を含むことが意図されている。