(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934318
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/04 20060101AFI20160602BHJP
A23C 1/00 20060101ALN20160602BHJP
【FI】
G01N33/04
!A23C1/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-189006(P2014-189006)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2015-59936(P2015-59936A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】201310428082.5
(32)【優先日】2013年9月18日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506397420
【氏名又は名称】宜蘭食品工業股▲フン▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】514121251
【氏名又は名称】龍道(上海)企業管理有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蔡 旺家
【審査官】
草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−297017(JP,A)
【文献】
特開2000−102344(JP,A)
【文献】
特開2005−073576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/04
G01N33/48−33/98
A23C 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法であって、
粉乳を水と混合し、第1サンプル溶液を得るステップAと、
第1サンプル溶液を取り、ステンレス装置内に密封し、50〜90℃の条件下で5〜10分予熱処理し、120〜150℃の条件下で、5〜15分間高温処理し、冷却、遠心分離して第2サンプル溶液を得るステップBと、
第1サンプル溶液と第2サンプル溶液の体積に基づき、粉乳の固形率を獲得するステップCとを含み、
上述の粉乳の固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%とし、
上述の粉乳の固形率が2.00%より低ければ、そのタンパク質熱安定性は優れているとし、
上述の粉乳の固形率が2.00%以上で3.68%より低ければ、そのタンパク質熱安定性は普通であるとし、
上述の粉乳の固形率が3.68%以上であれば、そのタンパク質熱安定性は低いとすることを特徴とする、粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項2】
上述の第1サンプル溶液はタンパク質含有量が3%〜7%であることを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項3】
上述のステンレス装置はステンレス管材とすることを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項4】
上述のステンレス管材は、ステンレスパイプ、シリコンパッキング、ステンレスワッシャー及びステンレス螺合式密封キャップを包含することを特徴とする、請求項3記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項5】
ステップB中において、上述の高温処理の加熱媒体は沸点が300℃以上で、連続高温加熱条件下でも発煙或いは焦げを発生しない流体とすることを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項6】
ステップAにおいて、上述の水の温度は、50〜70℃とすることを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項7】
ステップA中において、上述の混合は、50〜70℃、300〜500rpm/minの条件下で、8〜12分間攪拌することを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項8】
ステップB中において、上述の冷却は、15〜25℃の流動水を用いて、15〜25℃まで冷却することを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項9】
ステップB中において、上述の遠心分離は、相対遠心力140〜180gの条件下で、4〜6分間遠心分離することを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【請求項10】
上述の粉乳は全脂粉乳或いは脱脂粉乳より選択することを特徴とする、請求項1記載の粉乳中のタンパク質熱安定性の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳製品加工領域に係り、特に、粉乳中の蛋白質の熱安定性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳飲料は生乳又は乳製品を原料とし、発酵させるか発酵させずに加工してなる製品であり、豊富な栄養成分と独特の風味を有しているため、多くの消費者に受け入れられ、愛されている。しかし、乳牛等が育てられる地域によって、生乳の生産量は制限を受け、且つ生乳製品の鮮度保持期間は短いため、できるだけ早く工場で処理して製品を生産する必要がある。これにより、生乳産地にはない乳製品加工企業は、一般に、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品を乳飲料の原料として採用している。このように、全脂粉乳、脱脂粉乳を原料とし、調製、超高温滅菌(UHT)処理により製造される製品は、濃縮還元乳製品と称される。
【0003】
濃縮還元乳製品は、加工過程中に、UHT処理を行なうとき、原料の粉乳中のタンパク質が高温条件下で変性しにくく沈殿を形成し、並びにミネラル物質と相互作用して滅菌設備のブレード或いはパイプライン上に付着して垢が形成し、滅菌設備システムの内圧力は、加熱表面の垢の形成につれて増加し、システムの内圧力が一定レベルに達すると、滅菌過程中の熱伝導に影響が生じて、熱処理効率が下がり、最終的な製品中のタンパク質指標が下がり、また微生物の大量増殖により変質が起こり、暫時生産停止して、滅菌設備を中間洗浄(AIC)せざるを得なくなる。タンパク質の熱安定性が優れている粉乳を原料とするとき、滅菌設備は少なくとも6時間は連続運転できる。タンパク質の熱安定性が低い粉乳を原料とすると、滅菌設備は一般に、1.5〜5時間運転した後に、AICを行なわなければならない。すなわち、タンパク質の熱安定性が低い粉乳を使用して乳製品を生産すると、生産コストがアップしてしまう。ゆえに、粉乳のタンパク質の熱安定性は直接的に滅菌設備の連続運転時間、AIC頻度及び生産コストに影響を与える。
【0004】
実際の生産において、異なるブランド或いは異なるバッチの粉乳のタンパク質の熱安定性は異なる。ゆえに、いかに異なるブランド或いは異なるバッチの粉乳中より、タンパク質の熱安定性が優れた粉乳を篩にかけて選出し、対応する生産を行ない、連続運転時間を延長し、AICの頻度を減らすことで、生産コストを減らすかが、乳製品加工企業にとって、切迫した必要となっている。台湾の現行の乳製品国家基準中にはタンパク質の熱安定性に対する特別な規定はなく、スピーディーに、正確に粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定する方法はしばらくのところ公開されておらず、このため、スピーディーに、正確に粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定する方法を提供することは、重要な現実的意義を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法を提供する。この測定方法で使用する測定装置は簡単で、製造コストが安く、且つスピーディーに正確に粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法を測定でき、中間洗浄の費用を減らし、生産効率を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の発明の目的を達成するため、本発明は以下の技術的解決策を提供する。
【0007】
本発明は粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法を提供し、それは以下のステップを含む。
ステップA: 粉乳を水と混合し、第1サンプル溶液を得る。
ステップB: 第1サンプル溶液を取り、ステンレス装置内に密封し、50〜90℃の条件下で5〜10分予熱処理し、120〜150℃の条件下で、5〜15分間高温処理し、冷却、遠心分離して第2サンプル溶液を得る。
ステップC: 第1サンプル溶液と第2サンプル溶液の体積に基づき、粉乳の固形率を獲得する。すなわち、粉乳の固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%である。
粉乳の固形率が2.00%より低ければ、そのタンパク質の熱安定性は優れている。
粉乳の固形率が2.00%以上で3.68%より低ければ、そのタンパク質の熱安定性は普通である。
粉乳の固形率が3.68%以上であれば、そのタンパク質熱安定性は低い。
【0008】
本発明の提供する測定方法は、特殊設計のステンレス管材を使用し、超高温滅菌処理の過程を正確にシミュレートし、これにより正確に粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定できる。
【0009】
測定結果の正確性を保証するため、第1サンプル溶液としてタンパク質含有量が3%〜7%のものを使用するのがよい。
【0010】
超高温滅菌装置のブレードと管路にはいずれもステンレス材質が採用されており、正確に超高温滅菌設備の作業状態をシミュレートするため、本発明中ではステンレス設備を採用して濃縮還元乳製品に対して熱処理を行なう。本発明が提供するある実施例においては、ステンレス装置はステンレス管材とされる。
【0011】
本発明が提供するある実施例において、ステンレス管材は特殊設計のステンレス管材とされる。ステンレス管材は、ステンレスパイプ、シリコンパッキング、ステンレスワッシャー及びステンレス螺合式密封キャップを包含する。
【0012】
超高温滅菌処理を行なうとき、気体の存在は乳製品の加工に対して良くない影響を与え得るため、実際の生産では、ガス抜き処理を行なわねばならない。正確に超高温滅菌処理過程をシミュレートして、測定結果が実際の生産により近くなるように、本発明が提供するある実施例において、ステップBで第1サンプル溶液をとってステンレス装置中に密封するときには、管を満杯にし、その中に空隙が発生しないようにする。
【0013】
好ましくは、ステップB中の高温処理の加熱媒体は、沸点が300℃以上で、高温加熱条件下でも発煙或いは焦げを発生しない流体とする。
【0014】
本発明の提供するある実施例において、ステップB中の高温処理の加熱媒体は、ジメチルシリコーンオイルとする。
【0015】
濃縮還元乳を得るために粉乳が十分に水に溶けるようにするため、好ましくは、ステップA中で第1サンプル溶液を調製するために使用する水の温度は、50〜70℃とする。
【0016】
製品の品質を保証し、垢の発生を減らすため、実際の生産中で濃縮還元乳製品を生産するとき、使用する水には脱イオン水を使用するのがよく、超高温滅菌処理過程を正確にシミュレートして、測定結果をより実際の生産に近づけるため、本発明の提供するある実施例において、第1サンプル溶液を調製するための水は脱イオン水とする。
【0017】
濃縮還元乳を得るために粉乳が十分に水に溶けるようにするため、本発明の提供するある実施例において、ステップAでの混合は、50〜70℃、300〜500rpm/minの条件下で、8〜12分間攪拌する。
【0018】
本発明が提供するある実施例では、ステップBでの冷却は、具体的には15〜25℃の流動水を用いて、予熱処理と、高温処理した第1サンプル溶液を、迅速に15〜25℃まで冷却する。
【0019】
タンパク質の沈殿を分離するため、遠心分離処理を行なう必要がある。本発明の提供するある実施例において、ステップBでの遠心分離は、相対遠心力140〜180kgの条件下で、4〜6分間遠心分離する。
【0020】
本発明が提供するある実施例において、粉乳は全脂粉乳或いは脱脂粉乳より選択する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は一種の、粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む。すなわち、粉乳を水と混合し、第1サンプル溶液を得るステップ、第1サンプル溶液を取り、ステンレス装置内に密封し、50〜90℃の条件下で5〜10分間予熱処理し、120〜150℃の条件下で、5〜15分間高温処理し、冷却、遠心分離して第2サンプル溶液を得るステップ、第1サンプル溶液と第2サンプル溶液の体積に基づき、粉乳の固形率を獲得するステップ。すなわち、粉乳の固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%である。粉乳の固形率が2.00%より低ければ、そのタンパク質の熱安定性は優れているとし、粉乳の固形率が2.00%以上で3.68%より低ければ、そのタンパク質の熱安定性は普通とし、粉乳の固形率が3.68%以上であれば、そのタンパク質熱安定性は低いとする。
【0022】
本発明の提供する測定方法を利用することで、正確に粉乳標準品のタンパク質の熱安定性を正確に測定でき、本発明が提供する測定方法により測定される粉乳標準品中のタンパク質の熱安定性は実際と一致する。すなわち、本発明の提供する測定方法によりタンパク質の熱安定性が優れているとされた粉乳は、超高温滅菌設備の連続運転時間が7.54時間にも及び、本発明の提供する測定方法でタンパク質の熱安定性が低いとされた粉乳は、超高温滅菌設備の連続運転時間が4.57時間しかなく、このような結果は、本発明の提供する測定方法を利用して測定される粉乳中のタンパク質の熱安定性は、実際の生産と符合し、既存の測定技術は正確には粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定できず、既存の測定技術の実際の生産における実用性は比較的低い。これから分かるように、本発明の提供する測定方法の測定設備は簡単で、製造コストが低く、スピーディーに、正確に、粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定でき、中間洗浄の費用を減らし、生産効率をアップすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は一種の、粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法を開示する。本技術領域における通常の知識を有する者であれば、本文の内容に基づき、適宜工程パラメータを変更して実施することができる。特に表明すべきこととして、全ての類似の交換或いは変更であって、本技術領域における通常の知識を有する者にとって、明らかに容易であることは、本発明に属すると見なされる、ということである。本発明の方法及び応用は、好ましい実施例を以て記述され、本技術領域における通常の知識を有する者であれば、本発明の内容、精神と範囲内より離脱することなく、本文に記述された方法と応用に対して、改良或いは適宜変更及び組み合わせを行なうことで、本発明の技術を実現及び応用できる。
【0024】
本発明の粉乳中のタンパク質の熱安定性の測定方法において使用される粉乳と装置は、いずれも市販されている。そのうち、ステンレス管材は、市販品を購入してもよく、また、文献(SOMMER,H.H.AND HART,E.B. The heat coagulation of milk. J.Biol.Chem.,40:137−151.1919.)を参照して設計してもよい。
【0025】
以下に実施例を組み合わせて、より詳しく本発明を説明する。
【0026】
実施例1 全脂粉乳標準品中のタンパク質の熱安定性測定である。
【0027】
3種類の、タンパク質熱安定性が既知である全脂粉乳標準品を選び、そのうち、標準品Aはタンパク質の熱安定性が優れ、標準品Bはタンパク質の熱安定性が普通で、標準品Cはタンパク質の熱安定性が低いものである。これら標準品中のタンパク質の含有量を測定した結果、これら3種類の標準品中のタンパク質の含有率はいずれも25%であった。上述の各標準品を30g量り取り、220gの50℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、300rpm/minで、量り取った標準品をゆっくりと水中に加え、12分間攪拌し、標準品を完全に溶かした後、それぞれ、タンパク質の含有量が3%である第1サンプル溶液A、第1サンプル溶液B、第1サンプル溶液Cを得る。そのうち、第1サンプル溶液Aは標準品Aより得られ、第1サンプル溶液Bは標準品Bより得られ、第1サンプル溶液Cは標準品Cより得られる。
【0028】
第1サンプル溶液A、第1サンプル溶液B、第1サンプル溶液Cをそれぞれステンレスパイプ中に投入し、管中を満たし、空隙を発生させず、シリコーンパッキン、ステンレスワッシャー、及びステンレス螺合式密封キャップを順に装着し、ステンレス管材を密封状態となし、二度重複して設置する。使用するステンレス管材は市販品を使用する。上述の、第1サンプル溶液A、第1サンプル溶液B、第1サンプル溶液Cを装填したステンレス管材を、50℃の加熱設備中に入れて、予熱処理を10分間行ない、取り出してから恒温設備中に入れ、高温処理し、恒温設備の加熱媒体は、ジメチルシリコーンオイルとされ、設定温度は120℃とし、高温処理の時間は15分間とする。加熱終了後には、迅速に高温処理後のステンレス管材を取り出し、15℃の流動水でステンレス管材の温度を迅速に15℃まで下げる。ステンレス管材のステンレス螺合式密封キャップを開け、上述の処理を終えたサンプル溶液を沈殿管中に注入し、160g,6分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液をとって、もう一つの沈殿管中に入れ、再び160g、6分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液を取り、それぞれ第2サンプル溶液A、第2サンプル溶液B、第2サンプル溶液Cを得て、それに対して定量し、固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%とし、結果を表1に示した。
【表1】
【0029】
上述の試験結果から分かるように、標準品Aの固形率平均値は、1.00%であり、2.00%より低く、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が優れたことが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0030】
標準品Bの固形率平均値は、2.20%であり、2.00%と3.68%の間であり、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が普通であることが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0031】
標準品Cの固形率平均値は、4.02%であり、3.68%より高く、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が低いことが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0032】
これから分かるように、本発明が提供する測定方法は、正確に全脂粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定することができる。
【0033】
実施例2 脱脂粉乳標準品中のタンパク質の熱安定性測定である。
【0034】
3種類の、タンパク質熱安定性が既知である脱脂粉乳標準品を選び、そのうち、標準品Dはタンパク質の熱安定性が優れ、標準品Eはタンパク質の熱安定性が普通で、標準品Fはタンパク質の熱安定性が低いものである。これら標準品中のタンパク質の含有量を測定した結果、これら3種類の標準品中のタンパク質の含有率はいずれも32%であった。上述の各標準品を28g量り取り、100gの70℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、500rpm/minで、量り取った標準品をゆっくりと水中に加え、8分間攪拌し、標準品を完全に溶かした後、それぞれ、タンパク質の含有率が7%である第1サンプル溶液D、第1サンプル溶液E、第1サンプル溶液Fを得る。そのうち、第1サンプル溶液Dは標準品Dより得られ、第1サンプル溶液Eは標準品Eより得られ、第1サンプル溶液Fは標準品Fより得られる。
【0035】
第1サンプル溶液D、第1サンプル溶液E、第1サンプル溶液Fをそれぞれステンレスパイプ中に投入し、満杯状態を保持し、その中に空隙を発生させず、シリコーンパッキン、ステンレスワッシャー、及びステンレス螺合式密封キャップを順に装着し、ステンレス管材を密封状態となし、二度重複して設置する。使用するステンレス管材は文献(SOMMER,H.H.AND HART,E.B. The heat coagulation of milk. J.Biol.Chem.,40:137−151.1919.)を参照して設計する。上述の第1サンプル溶液D、第1サンプル溶液E、第1サンプル溶液Fを装填したステンレス管材を、90℃の加熱設備中に入れて、予熱処理を5分間行ない、取り出してから恒温設備中に入れ、高温処理し、恒温設備の加熱媒体は、ジメチルシリコーンオイルとされ、設定温度は150℃とし、高温処理の時間は5分間とする。加熱終了後には、迅速に高温処理後のステンレス管材を取り出し、25℃の流動水でステンレス管材の温度を迅速に25℃まで下げる。ステンレス管材のステンレス螺合式密封キャップを開け、上述の処理を終えたサンプル溶液を沈殿管中に注入し、180g,4分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液をとって、もう一つの沈殿管中に入れ、再び180g、4分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液を取り、それぞれ第2サンプル溶液D、第2サンプル溶液E、第2サンプル溶液Fを得て、それに対して定量し、固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%とし、結果を表2に示した。
【表2】
【0036】
上述の試験結果から分かるように、標準品Dの固形率平均値は、0.86%であり、2.00%より低く、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が優れていることが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0037】
標準品Eの固形率平均値は、2.47%であり、2.00%と3.68%の間であり、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が普通であることが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0038】
標準品Fの固形率平均値は、3.88%であり、3.68%より高く、本発明の提供する測定方法でそのタンパク質の熱安定性が低いことが測定され、測定結果は実際と合致する。
【0039】
これから分かるように、本発明が提供する測定方法は、正確に脱脂粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定することができる。
【0040】
実施例3 全脂粉乳標準品中のタンパク質の熱安定性測定である。
【0041】
3種類の、異なるブランドの全脂粉乳を選び、それぞれブランドG、ブランドH、ブランドIとし、そのタンパク質含有量を測定し、その結果は、ブランドG、ブランドH、ブランドIの全脂粉乳について、それぞれ、25%、24.8%、24.5%であった。ブランドGの全脂粉乳を50g量り取り、200gの70℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、400rpm/minで、量り取ったブランドGの全脂粉乳をゆっくりと水中に加え、10分間攪拌し、完全に溶かした後、タンパク質の含有量が5%である第1サンプル溶液Gを得た。ブランドHの全脂粉乳を50g量り取り、198gの70℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、400rpm/minで、量り取ったブランドHの全脂粉乳をゆっくりと水中に加え、10分間攪拌し、完全に溶かした後、タンパク質の含有量が5%である第1サンプル溶液Hを得た。ブランドIの全脂粉乳を50g量り取り、195gの70℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、400rpm/minで、量り取ったブランドIの全脂粉乳をゆっくりと水中に加え、10分間攪拌し、完全に溶かした後、タンパク質の含有量が5%である第1サンプル溶液Iを得た。
【0042】
第1サンプル溶液G、第1サンプル溶液H、第1サンプル溶液ブランドIをそれぞれステンレスパイプ中に投入し、満杯状態を保持して、その中に空隙を発生させないようにし、シリコーンパッキン、ステンレスワッシャー、及びステンレス螺合式密封キャップを順に装着し、ステンレス管材を密封状態となし、二度重複して設置する。使用するステンレス管材は、文献(SOMMER,H.H.AND HART,E.B. The heat coagulation of milk. J.Biol.Chem.,40:137−151.1919.)を参照して設計する。上述の第1サンプル溶液G、第1サンプル溶液H、第1サンプル溶液Iを装填したステンレス管材を、70℃の加熱設備中に入れて、予熱処理を8分間行ない、取り出してから恒温設備中に入れ、高温処理し、恒温設備の加熱媒体は、ジメチルシリコーンオイルとし、設定温度は135℃とし、高温処理の時間は10分間とする。加熱終了後には、迅速に高温処理後のステンレス管材を取り出し、20℃の流動水でステンレス管材の温度を迅速に20℃まで下げる。ステンレス管材のステンレス螺合式密封キャップを開け、上述の処理を終えたサンプル溶液を沈殿管中に注入し、160g,5分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液をとって、もう一つの沈殿管中に入れ、再び160g、5分間の定量遠心分離を行ない、上層の上澄み液を取り、それぞれ第2サンプル溶液G、第2サンプル溶液H、第2サンプル溶液Iを得て、それに対して定量し、固形率=(第1サンプル溶液の体積−第2サンプル溶液の体積)/第1サンプル溶液の体積・100%とし、結果を表3に示した。
【0043】
実際の生産においては、超高温滅菌設備連続運転時間は、直接粉乳中のタンパク質の熱安定性が反映され得る。超高温滅菌設備連続運転時間が6時間を超過すれば、このバッチの粉乳中のタンパク質の熱安定性は優れていると判定できる。超高温滅菌設備連続運転時間が4時間〜6時間であれば、このバッチの粉乳中のタンパク質の熱安定性は普通であると判定できる。超高温滅菌設備連続運転時間が4時間以下であれば、このバッチの粉乳中のタンパク質の熱安定性は低いと判定できる。上述の三つの異なるブランド(ブランドG、ブランドH、ブランドI)の全脂粉乳を、タンパク質含有量が2.3%の濃縮還元乳の生産に使用し、超高温滅菌設備で138℃、4sの滅菌作業を連続実行し、スチームバルブが全開し、殺菌温度が138℃に達しないとき、超高温滅菌設備を連続運転時間を記録し、結果は表3に示す。
【表3】
【0044】
上述の試験結果から分かるように、ブランドGの固形率平均値は1.16%であり、本発明が提供する測定方法で測定してそのタンパク質の熱安定性は優れているとされ、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は7.54時間である。
【0045】
ブランドHの固形率平均値は1.92%であり、本発明が提供する測定方法で測定してそのタンパク質の熱安定性は優れているとされ、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は6.08時間である。
【0046】
ブランドIの固形率平均値は3.68%であり、本発明が提供する測定方法で測定してそのタンパク質の熱安定性は低いとされ、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は4.57時間である。
【0047】
これから分かるように、本発明の提供する測定方法は、正確に全脂粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定できる。
【0048】
対比例1 全脂粉乳標準品中のタンパク質の熱安定性測定である。
【0049】
実施例3中の3種類のブランド(ブランドG、ブランドH、ブランドI)の全脂粉乳について、周知の測定方法でそのタンパク質の熱安定性を測定する。
【0050】
具体的な測定方法は以下のとおりである。まず、3種類のブランド(ブランドG、ブランドH、ブランドI)の全脂粉乳中のタンパク質の含有率を測定し、その結果、これら3種類のブランドの全脂粉乳中のタンパク質の含有率は、25%であった。上述の各全脂粉乳をそれぞれ80g量り取り、320gの50℃の水を量り取り、IKA攪拌機を用いて、400rpm/minで、量り取った標準品をゆっくりと水中に加え、完全に溶かして、タンパク質の含有量が5%である全脂粉乳溶液を得る。全脂粉乳溶液は、400rpm/minの状況下で、10分間水和する。全脂粉乳溶液各100gをそれぞれ三つの250mLの血清瓶中に入れ、キャップを螺合し、三つの平行な全脂粉乳溶液を製造する。実験型高温高圧滅菌鍋のパラメータを、90℃、45分間に設定し、高温高圧滅菌鍋の型番はSTURDYsa−300vlである。三つの平行な全脂粉乳溶液を高温高圧滅菌鍋中で、90℃で、45分間処理する。高温高圧滅菌鍋が70℃以下に冷却されたとき、血清瓶を取り出し、並びに10mLの滅菌シリンジで全脂粉乳溶液を吸い取り、ゆっくりと500mLの水を入れた定量筒内に滴下する。測定基準は以下のとおりである。全脂粉乳溶液を高温高圧処理した後に、それをシリンジで500mLの水を入れた定量筒内に滴下し、その全脂粉乳溶液が迅速に均一に水中に分散すれば、そのタンパク質の熱安定性は優れているとする。全脂粉乳が水中に均一に分散し、肉眼で見える小顆粒状の凝結物がその中に懸濁していれば、そのタンパク質の熱安定性は普通であるとする。全脂粉乳溶液が比較的厳重な凝集現象を発生して、シリンジで滴下しにくく、且つ滴下時に凝集物が急速に水中に沈降すれば、そのタンパク質の熱安定性は比較的低いとする。全脂粉乳溶液に雲状の塊が出現し、水中に滴下するときに分散不能であり、雲状の塊が急速に水底に沈降するなら、そのタンパク質の熱安定性は低いとする。
【0051】
測定結果によると、3種類のブランド(ブランドG、ブランドH、ブランドI)の全脂粉乳を高温高圧処理した後に、それをシリンジで500mLの水を入れた定量筒内に滴下したところ、その全脂粉乳溶液はいずれも迅速に水中に分散し、上述の測定方法で測定したブランドG、ブランドH、ブランドIの全脂粉乳のタンパク質の熱安定性はいずれも優れていることが分かった。
【0052】
しかしながら、実際の生産では、ブランドGを使用してタンパク質含有量が2.3%の濃縮還元乳を生産する時、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は7.54時間連続運転であり、ブランドHを使用してタンパク質含有量が2.3%の濃縮還元乳を生産する時、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は6.08時間であり、ブランドIを使用してタンパク質含有量が2.3%の濃縮還元乳を生産する時、超高温滅菌設備の連続運転可能時間は4.57時間である。このことから、3種類のブランドの全脂粉乳の固形率には一定の違いがあることがわかり、3種類のブランドの全脂粉乳中のタンパク質の熱安定性にも一定の違いがあることが推知される。
【0053】
これから分かるように、上述の周知の測定方法は正確に粉乳中のタンパク質の熱安定性を測定することはできず、実際の生産中の実用性は比較的低い。
【0054】
以上は本発明の好ましい実施例の説明に過ぎず、並びに本発明を限定するものではなく、本発明に提示の精神より逸脱せずに完成されるその他の同等の効果の修飾或いは置換は、いずれも本発明の権利請求範囲内に属する。