特許第5934329号(P5934329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5934329高表面積黒鉛化カーボン及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934329
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】高表面積黒鉛化カーボン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/04 20060101AFI20160602BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20160602BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20160602BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160602BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20160602BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20160602BHJP
   H01M 4/96 20060101ALN20160602BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160602BHJP
【FI】
   C01B31/04 101B
   B01J23/89 M
   B01J35/10 301G
   H01M8/02 E
   H01M4/92
   !H01M4/88 C
   !H01M4/96 M
   !H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-230710(P2014-230710)
(22)【出願日】2014年11月13日
(62)【分割の表示】特願2010-546735(P2010-546735)の分割
【原出願日】2008年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-42614(P2015-42614A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】12/033,859
(32)【優先日】2008年2月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391010758
【氏名又は名称】キャボット コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】スン,イペン
(72)【発明者】
【氏名】シェン,チァン−ピン
(72)【発明者】
【氏名】ライス,ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】アタナッソバ,パオリナ
(72)【発明者】
【氏名】メーザー,ジェフリー ディー.
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0008562(US,A1)
【文献】 特開2006−347864(JP,A)
【文献】 特表2004−534713(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0026755(US,A1)
【文献】 特開2005−154268(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0129604(US,A1)
【文献】 特開2004−071253(JP,A)
【文献】 特開2002−015745(JP,A)
【文献】 特開平06−196174(JP,A)
【文献】 特開2005−026174(JP,A)
【文献】 特表2007−529404(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0244644(US,A1)
【文献】 特開2002−146235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
B01J21/00−38/74
H01M4/86−4/98
H01M8/00−8/02,8/08−8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高表面積黒鉛化カーボンの製造方法であって、200m2/g〜1000m2/gの表面積を有する高表面積黒鉛化カーボンを生成するために、出発カーボン材料について黒鉛化する工程及び表面積を増加する工程を含み、該出発カーボン材料が複合粒子を含み、それぞれの複合粒子がカーボン相及びテンプレート相を含み、該表面積を増加する工程が、テンプレート相を除去することによって行われ、該出発カーボン材料がカーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む、製造方法。
【請求項2】
該黒鉛化することによって、XRDにより測定される0.3500nm未満のd間隔を有する黒鉛化カーボン材料が生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
黒鉛化する工程及び表面積を増加する工程の両方の後の高表面積黒鉛化カーボンと黒鉛化する工程の後であるが表面積を増加する工程の前の黒鉛化カーボンとの間の表面積の差が、100m2/gよりも大きい、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該表面積を増加することにより高表面積カーボンが生成され、該高表面積カーボンと該出発カーボン材料との間の表面積の差が200m2/g〜1500m2/gである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該黒鉛化工程が、1分間〜10時間の間、800℃〜2700℃の温度範囲に熱処理すること、または1分間〜10時間の間、1500℃未満の温度で触媒と接触させることを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該出発カーボン材料がカーボンブラックを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
孔質構造を有するシリカ粒子とカーボン前駆体とを混合する工程と、
該カーボン前駆体をカーボンに変換して、該複合粒子を生成する工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該黒鉛化工程が、1分間〜10時間の間、1000℃〜2700℃の温度範囲に該複合粒子を熱処理すること、または1分間〜10時間の間、1200℃未満の温度で該複合粒子と触媒とを接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒鉛化カーボンに関する。特に、本発明は、高表面積黒鉛化カーボン、好ましくは触媒用途に好適な高表面積黒鉛化カーボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学反応からのエネルギーを電気の流れに直接変換する電気化学的デバイスである。燃料電気の動作中に、燃料、例えば水素(またはメタノールなどの液体燃料)の連続流がアノードに供給され、一方で、同時に、酸化剤、例えば空気の連続流がカソードに供給される。燃料は触媒を介してアノードで酸化され電子を放出する。次いで、これらの電子は、外部負荷によって、再び触媒を介して酸化剤が減少して電子が消費されるカソードに導かれる。アノードからカソードへの電子の一定の流れは、有益な作用を発揮するために作られ得る電流を構成する。
【0003】
従来より、燃料電池触媒は、カーボンブラックなどの導電性担体粒子上に配置された活性相を含む。使用される活性相の組成及び構造に加えて、担体粒子の組成及び構造が、最も重要である。概して、活性相が配置され得る表面を最大化し、それによって反応物/触媒の接触を最大化するように、担体粒子は高表面積を有すべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに、担体粒子は、燃料電池の動作条件下で十分な耐久性を有すべきである。ほとんどの燃料電池用途について、担体相は、負荷サイクル条件下及び高電位にて十分な耐久性を有すべきである。一般的に用いられるカーボン担体の耐久性は、特に典型的には輸送用途のための開始/停止サイクルの際の、電池の高電位及び高温における腐食に起因して、主な課題となる。したがって、燃料電池用途、及び特に自動車の燃料電池用途における触媒担体としての使用に好適な、高耐久性の高表面積担体粒子についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、好ましくは触媒の担体粒子としての使用に好適な、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。高表面積黒鉛化カーボンは、活性相が高表面積黒鉛化カーボン上に配置される触媒用途に特に適している。触媒は、例えば、燃料電池、例えば直接メタノール型燃料電池または水素空気型燃料電池などの燃料電池の電極層に用いられ得る。好ましい態様において、触媒は、H2−空気燃料電池のカソードに用いられる酸素還元触媒である。
【0006】
第1実施態様において、本発明は、出発カーボン材料を黒鉛化して黒鉛化カーボンを生成する工程;及び黒鉛化カーボン内のカーボンの少なくとも一部を酸化して高表面積黒鉛化カーボンを生成する工程を含む、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。
【0007】
第2実施態様において、前記工程の順番が反対であり、本発明は、出発カーボン材料を酸化して高表面積カーボン、好ましくはメソ多孔性を有する高表面積カーボンを生成する工程;及び高表面積カーボンを黒鉛化して高表面積黒鉛化カーボンを生成する工程を含む、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。
【0008】
出発カーボン材料は所望によりカーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。前記第1実施態様において、出発カーボン材料が部分的に黒鉛化されたカーボンである場合、黒鉛化カーボン(黒鉛化工程の後であるが、例えば酸化によって表面積を増加する前)、並びに高表面積黒鉛化カーボンは、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。同様に、前記第2実施態様において、出発カーボン材料が部分的に黒鉛化されたカーボンである場合、高表面積黒鉛化カーボン(酸化工程及び黒鉛化工程の両方の後)は、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。
【0009】
所望により、黒鉛化カーボン材料及び/または高表面積黒鉛化カーボンは、XRDで測定される0.3500nm未満のd間隔(カーボン層面間の平均距離)を有する。他の態様において、黒鉛化カーボン材料及び/または高表面積黒鉛化カーボンは、約0.3354nm(完全に黒鉛化されたカーボン、黒鉛)〜約0.3500nm(部分的に黒鉛化されたカーボン)のd間隔を有する。
【0010】
黒鉛化工程は所望により、前記第1実施態様における出発カーボン材料または前記第2実施態様の高表面積カーボンを、ある温度、例えば約1000℃〜約2700℃の範囲の最高温度に加熱して、好ましくはその最高温度で、例えば約0.5時間〜約10時間、少なくとも1分間、または少なくとも10分間の間、保持して、熱処理することを含む。他の態様において、黒鉛化工程は、前記第1実施態様における出発カーボン材料または前記第2実施態様の高表面積カーボンを、ある温度、例えば約2400℃未満の最高温度に加熱して、好ましくはその最高温度で、例えば約0.5時間〜約10時間、少なくとも1分間、または少なくとも10分間の間、保持しながら、触媒に接触させることを含む。
【0011】
前記第1実施態様において、酸化は、所望により、黒鉛化カーボンの一部を、O2、空気、O3、HNO3などの酸素含有酸、蒸気、またはCO2などの1以上の酸素含有剤と接触させることを含み、所望により、前記接触は、黒鉛化カーボンの一部を酸化し、高表面積黒鉛化カーボンを生成するのに効果的な条件下で、触媒の存在下で行われる。他の態様において、酸化は、約0.5〜約15時間の間、蒸気を含む流動化媒体を用いて黒鉛化カーボンを流動化することを含み、流動化媒体は所望により約600℃〜約1500℃の温度を有する。
【0012】
同様に、前記第2実施態様において、酸化は所望により、出発カーボン材料の一部を、O2、空気、O3、HNO3などの酸素含有酸、蒸気、またはCO2などの1以上の酸素含有剤と接触させることを含み、所望により、前記接触は、カーボン出発材料の一部を酸化し、高表面積カーボンを生成するのに効果的な条件下で、触媒の存在下で行われる。他の態様において、酸化は、約0.5〜約15時間の間、蒸気を含む流動化媒体を用いて出発カーボン材料を流動化することを含み、流動化媒体は所望により約600℃〜約1500℃の温度を有する。
【0013】
所望により、前記第1実施態様において、高表面積黒鉛化カーボンと黒鉛化カーボンとの間の表面積の差が、約100m2/gよりも大きく、例えば約300m2/gよりも大きい。例えば、高表面積黒鉛化カーボンの表面積は所望により、約200m2/g〜約800m2/g、例えば、約200m2/g〜約400m2/g、または約400m2/g〜約800m2/gである。同様に、前記第2実施態様において、高表面積カーボンとカーボン出発材料との間の表面積の差が、約300m2/gよりも大きく、例えば約500m2/gよりも大きい。例えば、高表面積カーボンの表面積は、所望により、約200m2/g〜約800m2/g、例えば、約200m2/g〜約400m2/g、または約400m2/g〜約800m2/gである。
【0014】
他の実施態様において、本発明は、上述の方法のいずれかによって生成された高表面積黒鉛化カーボンを対象とする。他の態様において、本発明は、上述の方法のいずれかによって生成された高表面積黒鉛化カーボンを含む触媒組成物、及びその上に配置された活性相を対象とする。他の実施態様において、本発明は、触媒組成物を含む電極を対象とする。
【0015】
他の実施態様において、本発明は、高表面積黒鉛化カーボン粒子の製造方法であって、それぞれの複合粒子がカーボン相及びテンプレート相を含む複合粒子を提供する工程;複合粒子を黒鉛化して黒鉛化複合粒子を生成する工程;及び黒鉛化複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する工程を含む、製造方法を対象とする。前記方法は、所望により、カーボン前駆体がシリカ粒子の多孔質構造に侵入するのに効果的な条件下で、多孔質構造を有するシリカ粒子とカーボン前駆体とを混合する工程;及びカーボン前駆体を、多孔質シリカ粒子の多孔質構造内でカーボンに変換して、前記提供工程で提供される複合粒子を生成する工程をさらに含む。カーボン相は所望により、カーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。カーボン相が部分的に黒鉛化されたカーボンを含む場合、次いで、高表面積黒鉛化カーボン粒子は、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。
【0016】
他の実施態様において、本発明は、高表面積黒鉛化カーボン粒子の製造方法であって、それぞれの粒子がカーボン相及びテンプレート相を含む複合粒子を提供する工程;複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積カーボン粒子を生成する工程;及び高表面積カーボン粒子を黒鉛化して高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する工程を含む、製造方法を対象とする。前記方法は、所望により、カーボン前駆体がシリカ粒子の多孔質構造に侵入するのに効果的な条件下で、多孔質構造を有するシリカ粒子とカーボン前駆体とを混合する工程;及びカーボン前駆体を、多孔質シリカ粒子の多孔質構造内でカーボンに変換して、前記提供工程で提供される複合粒子を生成する工程をさらに含む。カーボン相は所望により、炭化水素、ポリマー、カーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。カーボン相が部分的に黒鉛化されたカーボンを含む場合、次いで、高表面積黒鉛化カーボン粒子は、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。
【0017】
他の実施態様において、本発明は、触媒粒子を含む電界触媒層を含む膜電極組立体(MEA)を対象とする。触媒粒子は、高表面積黒鉛化カーボン担体粒子上に配置された合金活性相を含み、MEAが、本明細書で定義する腐食試験手順を少なくとも100時間、例えば少なくとも200時間、維持した後、1A/cm2にて50mV未満、例えば25mV未満の性能(performance)を低減する。他の態様において、カーボン担体粒子は、酸化及び黒鉛化を施されたものである。MEAは所望により、0.5mgPt/cm2未満、例えば、0.4mgPt/cm2未満、0.2mgPt/cm2未満、または0.1mgPt/cm2未満の負荷量(loading)を有する。カーボン担体粒子は所望により400m2/gを超える表面積を有する。
【0018】
他の実施態様において、本発明は、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法であって、高表面積黒鉛化カーボンを生成するために、出発カーボン材料、所望によりカーボンブラックについて黒鉛化する工程及び表面積を増加する工程をいずれかの順で含む、製造方法を対象とする。この実施態様において、表面積を増加する工程は、酸化またはテンプレート相を除去することによって行われる。所望により、表面積を増加することは酸化によって行われ、そして、黒鉛化は酸化の前に行われ、黒鉛化は、XRDにより測定される0.3500nm未満のd間隔、所望により0.3354nm〜0.3500nmのd間隔を有する黒鉛化カーボン材料を生成する。表面積を増加することは、所望により、酸化によって行われ、黒鉛化の前に高表面積カーボンを生成する。この実施態様において、高表面積カーボンと出発カーボン材料との間の表面積の差は、200m2/g〜1500m2/gである。
【0019】
本発明は以下の制限するものではない図を考慮してより良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】黒鉛の単位セル構造を示す。
図2】1200℃及び1800℃における熱処理前及び熱処理後のカーボンブラック(Ketjen black(KB))についてのXRDプロファイルを示す。
図3】3つの異なるカーボンブラックについての熱処理温度の関数としてXRDピーク(002)の強度を表すグラフを示す。
図4】熱処理温度が増加するにつれて、BET表面積が減少し、平均空孔直径が増加することを表すチャートを示す。
図5】熱処理前のKBカーボンブラック及び熱処理後のKBカーボンブラックについてのTEM像に基づく粒子径分析を示す。
図6】本発明の一態様による蒸気エッチングシステムの工程系統図を示す。
図7】カーボンブラック粒子のアモルファス部分を除去することによる蒸気エッチングによってどのようにカーボンの表面積が増加するかを表したものである。
図8A】エッチング時間の関数としての蒸気エッチングされたカーボンブラックのXRDプロファイルを示す。
図8B】エッチング時間の関数としての蒸気エッチングされたカーボンブラックのXRDプロファイルを示す。
図8C】エッチング時間の関数としての蒸気エッチングされたカーボンブラックのXRDプロファイルを示す。
図9】蒸気エッチングが進むにつれてのカーボン微細構造における限定するものではない可能な変化を表す。
図10】蒸気エッチングを行う前のカーボンブラック(VXC72)についての空孔径の分布を示す。
図11】245分間、950℃における蒸気エッチングを行った後のカーボンブラック(VXC72)についての空孔径の分布を示す。
図12】クロノアンペロメトリー法によって測定される異なるカーボン担体についての1.2Vにおける時間に対する腐食電流のプロットである。
図13A】例9のカーボン腐食試験法によるMEA内の触媒の性能を示す。
図13B】例9のカーボン腐食試験法によるMEA内の触媒の性能を示す。
図13C】例9のカーボン腐食試験法によるMEA内の触媒の性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
いくつかの実施態様において、本発明は、高表面積黒鉛化カーボン、好ましくは触媒担体粒子としての使用に好適な高表面積黒鉛化カーボン、さらに好ましくは燃料電池の触媒担体粒子用の高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。高表面積黒鉛化カーボンは、活性相が高表面積黒鉛化カーボン上に配置される触媒用途に特に適している。さらに本発明の高表面積黒鉛化カーボンは好ましくは高い耐久性及び耐腐食性を有する。使用される触媒は、例えば、燃料電池、例えば直接メタノール型燃料電池または水素空気型燃料電池の電極層に用いられ得る。
【0022】
上述のように、本発明のいくつかの実施態様は、高表面積黒鉛化カーボンを生成する方法を対象とする。一実施態様において、例えば、本発明は、出発カーボン材料を黒鉛化して黒鉛化カーボンを生成する工程;及び黒鉛化カーボン内のカーボンの少なくとも一部を酸化して高表面積黒鉛化カーボンを生成する工程を含む、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。他の実施態様において、前記工程の順番が反対であり、本発明は、出発カーボン材料の少なくとも一部を酸化して高表面積カーボンを生成する工程;及び高表面積カーボンを黒鉛化して高表面積黒鉛化カーボンを生成する工程を含む、高表面積黒鉛化カーボンの製造方法を対象とする。どちらの実施態様においても、出発カーボン材料は所望によりカーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。所望により、カーボン材料はペレット化したカーボンブラックを含む。出発カーボン材料が部分的に黒鉛化されたカーボンを含む場合、次いで、様々な実施態様において、(酸化の前に黒鉛化を行う上述の実施態様における)黒鉛化カーボン、並びに(いずれの実施態様における)高表面積黒鉛化カーボンは、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。
【0023】
他の実施態様において、本発明は、カーボン相及びテンプレート相を含む複合粒子を用いる、高表面積黒鉛化カーボン粒子の製造方法を対象とする。この実施態様において、本方法は、それぞれの複合粒子がカーボン相及びテンプレート相を含む複合粒子を提供する工程;複合粒子を黒鉛化して黒鉛化複合粒子を生成する工程;及び黒鉛化複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する工程を含む。本方法は、所望により、(i)カーボン前駆体がシリカ粒子の多孔質構造に侵入するのに効果的な条件下で、多孔質構造を有するシリカ粒子とカーボン前駆体とを混合する工程;及び(ii)カーボン前駆体を、多孔質シリカ粒子の多孔質構造内でカーボンに変換して、前記提供工程で提供される複合粒子を生成する工程をさらに含む。カーボン相は所望により、カーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。カーボン相が部分的に黒鉛化されたカーボンを含む場合、次いで、高表面積黒鉛化カーボン粒子は、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。カーボン相はその上かまたはその空孔の内部に配置される炭化水素を含むことができる。
【0024】
他の実施態様において、本方法は、前述の実施態様で記載したように、カーボン相及びテンプレート相を有する複合粒子を含むが、黒鉛化工程及び除去工程の順番が反対である。具体的には、この態様において、本発明は、それぞれの複合粒子がカーボン相及びテンプレート相を含む複合粒子を提供する工程;複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積カーボン粒子を生成する工程;及び高表面積カーボン粒子を黒鉛化して高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する工程を含む、高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する方法を対象とする。本方法は、所望により、(i)カーボン前駆体がシリカ粒子の多孔質構造に侵入するのに効果的な条件下で、多孔質構造を有するシリカ粒子とカーボン前駆体とを混合する工程;及び(ii)カーボン前駆体を、多孔質シリカ粒子の多孔質構造内でカーボンに変換して、前記提供工程で提供される複合粒子を生成する工程をさらに含む。カーボン相は所望により、炭化水素(hydrogen carbon)、カーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。カーボン相が部分的に黒鉛化されたカーボンを含む場合、次いで、高表面積黒鉛化カーボン粒子は、好ましくは、部分的に黒鉛化されたカーボンよりも黒鉛化される。
【0025】
他の実施態様において、本発明は、上述の方法のいずれかによって生成された高表面積黒鉛化カーボンを対象とする。他の態様において、本発明は、上述の方法のいずれかによって生成された高表面積黒鉛化カーボンを含む触媒組成物、及びその上に配置された活性相を対象とする。他の実施態様において、本発明は、そのような触媒組成物を生成する方法を対象とする。他の実施態様において、本発明は、触媒組成物を含む電極、及びそのような電極を形成する方法を対象とする。
【0026】
他の実施態様において、本発明は、触媒粒子を含む電界触媒層を含む膜電極組立体(MEA)を対象とする。触媒粒子は、カーボン担体粒子上に配置された合金活性相を含み、MEAは、腐食試験手順を少なくとも100時間、例えば少なくとも200時間、維持した後、1A/cm2にて50mV未満、例えば25mV未満の性能を低減する。他の態様において、カーボン担体粒子は、酸化及び黒鉛化を施されたものである。MEAは所望により、0.5mgPt/cm2未満、例えば、0.4mgPt/cm2未満、0.2mgPt/cm2未満、または0.1mgPt/cm2未満の負荷量を有する。カーボン担体粒子は所望により400m2/gを超える表面積を有する。この実施態様の目的上、「腐食試験手順」とは、以下の実施例で特定する腐食試験手順を意味する。さらに、「少なくともX時間の腐食試験手順によって」とは、MEAが、下記に特定する腐食試験手順を少なくともX時間、施されることを意味する。X時間とは、下記の実施例で特定されるステップ2、加速腐食手順に記載されるように、1.2Vを施された累積時間である。すなわち、本明細書の目的上、「X時間」は、下記の実施例で特定されるステップ1、寿命性能の開始における試験時間を含まない。
【0027】
出発カーボン材料
出発カーボン材料の物理化学的特性は幅広く変わり得る。所望による実施態様において、出発カーボン材料はカーボンブラックを含む。所望により、出発カーボン材料はペレット化したカーボンブラックを含み、ペレット化したカーボンブラックは所望により10μmよりも大きい、例えば、25μmよりも大きい、50μmよりも大きい、100μmよりも大きい、200μmよりも大きい、500μmよりも大きい、または約1mmよりも大きい平均ペレット径を有する。範囲に関しては、カーボンブラック出発材料、例えばペレット化したカーボンブラック出発材料は、所望により、約10μm〜約5mm、例えば、約100μm〜約5mm、または約200μm〜約2mmの平均ペレット径を有する。カーボンブラック出発材料は所望によりペレット径の分布を有し、2mmより大きいペレット径が0質量%〜3質量%、1〜2mmのペレット径が15質量%〜80質量%、500μm〜1mmのペレット径が15質量%〜80質量%、250μm〜500μmのペレット径が1質量%〜15質量%、125μm〜250μmのペレット径が0質量%〜10質量%、及び125μm未満のペレット径が0質量%〜5質量%であるペレット径の分布を有する。これに関連して、ペレット径の分布及び平均ペレット径は、参照によって本明細書にその全体が組み込まれるASTM D1511−00による、メッシュサイズを減らしながら積み重ねた一連のふるいを振動させて、そこにカーボンブラックのペレットを通過させ、次いで、それぞれのふるいで集められた質量を測定することによって決定される。
【0028】
本発明の方法の工程のいずれか(例えば、下記に記載する酸化工程など)に流動床反応炉を用いる場合は、カーボンブラック出発材料は好ましくは流動化に適している。例えば、この態様において、カーボンブラック出発材料は、好ましくは、乏しい流動化特性を示しがちである#120メッシュのふるいを通過するカーボンブラック粒子、例えば、約125μm未満のペレット径を有するカーボンブラック粒子の粒径画分として本明細書で定義されるカーボンブラック微粒子を実質的に含まない。様々な所望による実施態様において、カーボンブラック出発材料は、約15質量%未満のカーボンブラック微粒子、例えば、約10質量%未満、約5質量%未満、または約2質量%未満のカーボンブラック微粒子を含む。
【0029】
参照によって本明細書にその全体が組み込まれるASTM D3849−04(ASTM粒子径とも言う)によって測定されるカーボン出発材料、例えばカーボンブラック出発材料の平均一次粒子径(Dp)は、所望により、約100nm未満、例えば約75nm未満、約50nm未満、約30nm未満、約20nm未満、または約10nm未満である。範囲に関しては、カーボン出発材料の平均一次粒子径は、所望により、約5nm〜約100nm、例えば、約10nm〜約50nm、約10nm〜約40nm、約10nm〜約30nm、または約10nm〜約20nmである。
【0030】
カーボンブラック凝集体は、接触点にて融合され、せん断によって容易に分離され得ないカーボンブラック一次粒子の構造体として定義される。カーボン出発材料の平均凝集体径(Dagg)は、参照によって本明細書にその全体が組み込まれるASTM D3849−04に記載されるイメージング技術を用いてTEM像解析から抽出することができ、具体的には次の式に基づく。
【化1】
式中、Dmaxは、TEM解析からの粒子の算術数平均最大直径であり、Dminは、TEM解析からの粒子の算術数平均最小直径である。いくつかの例示的な具体例において、カーボンブラック出発材料は、約500nm未満、例えば約400nm未満、約300nm未満、約200nm未満、または約100nm未満である平均凝集体径を有する。範囲に関しては、カーボンブラック出発材料の平均凝集粒子径は、所望により、約30nm〜約500nm、例えば、約50nm〜約300nm、または約100nm〜約300nmである。
【0031】
カーボン出発材料、例えばカーボンブラック出発材料の構造は、平均一次粒子径に対する平均凝集体径の比(Dagg/Dp)によって特徴付けられ得る。カーボンブラック出発材料についてのDagg/Dpの比は、所望により、約1〜約12、例えば、約2〜約10、または約4〜約10の範囲であり、より高い数字はより大きい構造(greater structure)を示す。より低い範囲の制限に関しては、カーボンブラック出発材料についてのDagg/Dpの比は、所望により、約4よりも大きく、例えば、約7よりも大きいか、または約11よりも大きい。
【0032】
本方法の工程のいずれかが流動床反応炉にて行われる場合、カーボンブラック出発材料のかさ密度は、カーボンブラック出発材料の流動化特性に著しい影響を有し得る。いくつかの例示的な実施態様において、カーボン出発材料、例えばカーボンブラック出発材料またはペレット化したカーボンブラック出発材料のかさ密度は、所望により、0.15〜0.5g/cm3、例えば約0.2〜約0.45g/cm3、または約0.25〜約0.45g/cm3である。
【0033】
本発明の方法によって生成される高表面積黒鉛化カーボンの一次粒子及び凝集体の大きさは、適切な形態を有するカーボンブラック出発材料を選択することによって制御され得る。ファーネスカーボンブラックは、幅広い範囲の一次粒子及び凝集体の大きさで入手可能である。これらのカーボンブラック出発材料は、所望により、未エッチングであることができ、または、その場で(すなわちカーボンブラック反応炉内で)ある程度エッチングされたものであることができる。他のカーボンブラック、例えばサーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、またはガスファーネスブラックなどが、カーボンブラック出発材料として採用され得る。
【0034】
いくつかの具体的な限定されない例において、カーボンブラック出発材料は、Ketjen black EC600、Ketjen black EC300、Vulcan XC72(バインダー有りまたは無し)、Black Pearls 700、 Black Pearls 800、 Vulcan XC605、 Regal 350、 Regal 250、 Black Pearls 570、 及びVulcan XC68からなる群から選択される1以上のカーボンブラックを含む。
【0035】
黒鉛化
黒鉛は、炭素原子がsp2混成結合を有するカーボンの結晶形態である。黒鉛中の炭素原子は、ABABまたはABCABCなどの連続的に積み重ねられた六角形の実質的に平面環に配置される。隣接して積み重ねられる層は、概して図1に示すように順に重ねて配置される。炭素−炭素結合長は、六員環内では約1.42Å(0.142nm)であり、六員環に垂直のc軸方向では約3.354Å(0.3354nm)である。積み重ね層は、安定な二重結合によって保持された炭素原子の六角形配列を含むが、層間のファンデルワールス力は弱い。黒鉛のX線回折(XRD)分析は、(002)、(10)、(004)、及び(110)面について主な回折ピークを示す。カーボン材料の黒鉛化の度合いは、XRD(002)回折ピークによって測定されるc軸方向において隣接する六員環の間の平均距離として本明細書で定義されるその「間隔d」によって特徴付けられ得る。間隔dは次のブラッグの公式によって計算され得る。
【化2】
λ=放射源の波長(銅の場合1.54Å)
θ=回折角度(ピーク002)
d=2つのカーボン層面の間隔
【0036】
アモルファスカーボンは、炭素六角網面がほとんど平行とならない大小さまざまの炭素六角網面部分としてみなされ得る。概して、本明細書の目的上、約3.500nm未満の間隔dを有するカーボン材料は、黒鉛カーボンとみなされる。当業者に明らかなように、アモルファスカーボン及び黒鉛という用語は相対的な用語であり、様々なカーボン相の連続したつながりが、これらの2つの相の間に存在する。例えば、カーボンブラックのカーボン相は、概して上記の極端なものの間にある。
【0037】
上述のように、本発明の様々な実施態様は、カーボン含有材料を黒鉛化する工程を含む。いくつかの態様において、カーボン含有材料は、カーボン出発材料、例えばカーボンブラック、アモルファスカーボン、部分的に黒鉛化されたカーボン、高表面積カーボン、または複合粒子を含む。黒鉛化工程は、カーボン含有材料の平均空孔径及び耐腐食性を有利に増加する。黒鉛化工程の後に生成された組成物は、所望により、次いで酸化されて、高表面積黒鉛化カーボンを生成する。
【0038】
他の実施態様において、カーボン含有材料は、複合粒子を含み、黒鉛化工程は黒鉛化された複合粒子を生成する。本明細書で用いるとき、用語「複合粒子」とは、少なくとも2つの別個の組成及び構造の相を有する粒子を意味する。好ましい態様において、複合粒子は、カーボン相及びテンプレート相を含む。この態様において、黒鉛化工程の後に、テンプレート相は好ましくは、黒鉛化された複合粒子から除去されて高表面積黒鉛化カーボンを生成する。
【0039】
他の態様において、カーボン含有材料は高表面積カーボンを含み、例えば、蒸気エッチング法などによって既に酸化されている高表面積カーボン、及び/または複合カーボン粒子からテンプレートを除去することによって生成された高表面積カーボンを含む。この態様において、高表面積黒鉛化カーボンは、黒鉛化工程(その後の酸化工程またはテンプレート除去工程を必要とせずに)の際に、生成される。もちろん、黒鉛化工程後の高表面積黒鉛化カーボンのさらなる処理(例えば、酸化またはテンプレートの除去)を、所望により採用して、例えば、高表面積黒鉛化カーボンの表面積をさらに増加することができる。
【0040】
本発明の様々な実施態様によって、用語「黒鉛化」(及びその変化態様)は、黒鉛含有量を増加することを意味する。黒鉛化において生成されたカーボン材料が(全体として)黒鉛とみなされるかどうかに関係なく、黒鉛含有量を増加することとは、黒鉛の割合が、アモルファスカーボン相に対して増加することと、XRDによって測定される間隔dが減少することを意味する。同様に、本明細書で用いられる場合、用語「黒鉛化カーボン」とは、黒鉛を構成し得るかまたは構成し得ない黒鉛化工程に送られたカーボンである。
【0041】
黒鉛化工程は、所望により、カーボン含有材料、例えば出発カーボン材料を、カーボン含有材料が黒鉛化するのに十分な時間、黒鉛化温度に熱処理することを含む。本明細書で用いられる場合、用語「黒鉛化温度」とは、アモルファスカーボン相の量に対してカーボン含有材料中の黒鉛化カーボン相の量が増加するように、カーボン含有材料中のカーボンの構造が改質される温度を意味する。
【0042】
黒鉛化温度は、例えばカーボン含有材料の特定の組成に依存して、幅広く変わり得る。好ましい実施態様において、黒鉛化温度は、約800℃〜約3000℃、例えば約1000℃〜約2700℃の範囲の温度である。
【0043】
同様に、カーボン含有材料を黒鉛化するのに十分な最終温度における時間は変わり得る。様々な例示的な実施態様において、時間は、約1分〜約10時間、例えば約0.5〜約10時間、約1〜約8時間、または約3〜約5時間である。
【0044】
黒鉛化工程は、カーボン含有材料を黒鉛化するのに必要な温度を維持することができる任意の装置で行われ得る。好ましくは、黒鉛化は1つの炉内で行われる。
【0045】
一実施態様において、黒鉛化工程は触媒の存在下で行われる。この実施態様は、より低い温度にて黒鉛化が可能となる点で有利である。例えば、黒鉛化工程は、所望により、約0.5〜約10時間、例えば約1〜約8時間、または約3〜約5時間の間、約1200℃未満、約1000℃未満、または約800℃未満の温度にて、カーボン含有材料、例えば出発カーボン材料と触媒とを接触させることを含む。使用される特定の触媒は幅広く変わり得る、例示的な黒鉛化触媒の非限定的なリストには、例えばNiO、CoO、及びCaOなどの金属酸化物、例えばNi(NO32、Co(NO32、及びFe(NO33などの金属硝酸塩、並びに例えばNaOH、KOH、及びCa(OH)2などのアルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物等が含まれる。任意の好適な(例えば、温度が注意深く制御できる)熱処理装置を使用することができ、例えば箱形炉、回転炉、または流動床などが挙げられる。
【0046】
所望により、黒鉛化工程は、XRDによって測定される0.3500nm未満、例えば、0.3450nm未満、または0.3420nm未満の間隔dを有する黒鉛化カーボンを生成する。他の態様において、黒鉛化工程は、0.3354nm〜0.3500nm、例えば、0.3354nm〜0.3450nm、または0.3354nm〜0.3420nmの間隔dを有する黒鉛化カーボンを生成する。黒鉛化工程が酸化工程の後に行われるそれらの実施態様において、黒鉛化工程は好ましくは、0.3354nm〜0.3500nm、例えば0.3354nm〜0.3450nm、または0.3354nm〜0.3420nmの間隔dを有する高表面積黒鉛化カーボンを生成する。
【0047】
上述のように、黒鉛化カーボンは概して耐腐食性を向上するため、望ましい。所定のカーボン試料についてカーボンの耐腐食性の度合いを測定するために多くの方法が用いられ得る。例えば、あるカーボン試料についてのカーボンの耐腐食性のレベルは、概して、その間隔dと逆の相関がある。概して、所定のカーボン試料の間隔dが小さいほど、その耐腐食性は高くなる。
【0048】
図2は、約2時間の滞留時間、1200℃及び1800℃のそれぞれの温度にて黒鉛化を施されたカーボンブラック(Ketjen black(KB))についてのXRDプロファイルを示す。プロットAは、熱処理前のカーボンブラックを表す。(002)及び(10)の回折ピークの非常に低い強度、並びに(004)及び(110)の回折ピークがみられないことは、熱処理前のカーボンブラックが実質的にアモルファスであることを示している。1200℃における熱処理後(プロットB)、及び特に1800℃における熱処理後(プロットC)において、(004)及び(110)の回折ピークの存在、並びに(002)及び(10)の回折ピークの顕著な増加からも明らかなように、カーボンの結晶含有量が増加した。理論に束縛されることなく、熱処理は、層状面及び小結晶(アモルファス)を動かし、再配置して、より秩序だった三次元構造を形成すると考えられる。熱処理後の球形カーボン粒子の微細構造の変化に関して、TEMプロファイルは、カーボン粒子の表面におけるカーボン領域よりも、通常は主により小さくより不完全な結晶とより多くの単一層面とからなる球形粒子の中心部または内部領域のカーボンが、粒子の表面により平行に配向されることを示唆している。
【0049】
図3は、2つの異なるカーボンブラック(KB EC600及びCSX644)を熱処理することによる影響を比較したものであって、それぞれの処理について、2時間の間、1200℃〜2400℃に熱処理温度を増加させながら、XRDピーク(002)の強度を比較したものである。比較のために、図3はまた、未熱処理のVXC72についてのXRDピーク(002)の強度を示す。示すように、温度が増加するにつれて、c軸方向に配向した層状面の増加及びそれによる黒鉛化の増加を反映して、両方のカーボンブラックのピーク(002)の強度も増加した。
【0050】
概して、黒鉛化工程における黒鉛化の割合が増加するにつれて、カーボン材料の表面積は減少する傾向がある。この影響を図4に示す。図4は、黒鉛化温度が高くなるにつれて、BET表面積が減少することを示す。この表面積の減少は、例えば、耐腐食性を実質的に減少させることなく(以下に詳細に説明するように)黒鉛化カーボンが続いて処理されてその表面積を増加する場合は、特に懸念しなくてもよい。しかしながら、さらなる処理が望まれない場合は、黒鉛化工程に用いられる条件(例えば温度)は、表面積と耐腐食性との間の適切なバランスを提供するために注意深く選択されるべきである。例えば、黒鉛化温度は好ましくは、約2700℃未満、例えば約2500℃未満、または2100℃未満である。
【0051】
図4はまた、黒鉛化温度の増加に伴って全体の表面積は減少するが、黒鉛化温度の増加に伴って、より大きい空孔(約5〜約100mm)の平均空孔直径は増加する傾向があることを示す。この空孔径の増加はまた、意図する用途のための所望の空孔径特性を有する黒鉛化カーボンを提供するために、考慮に入れておくべきである。対照的に、マイクロ空孔(<2.0nm)のようなより小さい大きさの空孔は、増加する黒鉛化温度において、閉じる傾向がある。
【0052】
さらに、黒鉛化工程において黒鉛化の度合いが増加し表面積が減少しても、黒鉛化工程に送られたカーボン粒子の平均一次粒子径は、驚くべきことに、実質的に同じ粒子径を保つ。説明のために、1つの非限定的な実施態様において、TEM像に基づく一次粒子径(図5に示す)は、熱処理前のKB EC600カーボンブラックについては12.6nmであり、2時間、2100℃における熱処理後のKB EC600カーボンブラックについては13.9nmであり、標準偏差は5.8nmであった。
【0053】
カーボン表面積を増加すること
本発明の方法は、カーボン含有材料の表面積を増加する工程を含み、好ましくは、上述の黒鉛化工程と組み合わせたカーボン含有材料の表面積を増加する工程を含む。これらの態様において、カーボン含有材料は、例えば、黒鉛化カーボン(黒鉛化工程に既に送られたもの)、カーボン出発材料(黒鉛化工程にまだ送られてないもの)、または複合粒子(黒鉛化されたものでもよく、または黒鉛化されていないものでもよい)を含むことができる。したがって、表面積を増加する工程は、黒鉛化工程の前または後に行うことができる。所望により、カーボン含有材料はペレット化したカーボンブラックを含む。
【0054】
所望により、表面積を増加する工程の後のカーボン含有材料と、表面積を増加する工程の前のカーボン含有材料との間の表面積の差は、約100m2/gよりも大きく、例えば約200m2/gよりも大きく、約300m2/gよりも大きく、または約400m2/gよりも大きい。例えば、高表面積黒鉛化カーボンの表面積は、所望により、約200m2/g〜約1000m2/g、例えば、約200m2/g〜約600m2/g、または約200m2/g〜約400m2/gである。
【0055】
カーボン含有材料の表面積を増加する工程は、例えば、カーボン含有材料を酸化する工程、または複合材料を使用する実施態様においてテンプレート相を除去する工程を含むことができる。
【0056】
酸化
一実施態様において、表面積を増加する工程は、カーボン含有材料、例えば黒鉛化若しくは非黒鉛化カーボンまたは複合粒子を酸化する工程を含む。酸化は好ましくは、カーボン含有材料、例えば黒鉛化若しくは非黒鉛化カーボンの一部と、1以上の酸化剤、例えば、O2、O3、酸素含有酸、水(例えば蒸気)、またはCO2とを接触させることを含み、上記接触は、所望により触媒の存在下で、カーボン含有材料を酸化するのに効果的な条件下で行われ、好ましくは高表面積カーボンを生成する。好ましい実施態様において、酸化は、図6に示すような蒸気エッチング方法を含む。本明細書で用いるとき、用語「蒸気エッチング」とは、蒸気を含む酸化媒体を用いてカーボン含有材料を酸化することを意味する。他の好ましい実施態様において、カーボン材料は、部分的に黒鉛化されたカーボンであり、酸化媒体は酸素を含む。
【0057】
好ましい実施態様において、酸化は、流動床反応システムで行われる。この態様において、カーボン含有材料は所望によりペレット化された(黒鉛化されていてもよく、または黒鉛化されていないものでもよい)カーボンブラックを含む。ペレット化されたカーボンブラックは、本発明の方法に望ましい流動化特性を示すことが分かった。任意の様々な従来のカーボンブラックのペレット化技法を用いて、非ペレット化カーボンブラック材料をペレット化し、ペレット化カーボンブラック出発材料を生成することができる。例えば、ペレットは、微細カーボン粉末が水とともにピンミキサーに投入され次いで高せん断下で混合される湿式ペレット化によって形成され得る。また、高分子または低分子バインダーを水に添加して、ペレットの硬度または耐久性を改良することができる。ペレット化の他の方法は、乾式ペレット化である。微細なカーボンブラック粉末が大きなロータリードラムに投入され、再利用された(または種)ペレットとともに混合される。ドラムの回転動作によって、微細粉末はペレットとともに混合されてペレットと組み合わせられる。
【0058】
所望により、カーボン含有材料、例えば黒鉛化若しくは非黒鉛化カーボンまたは複合粒子は、第1BET窒素表面積(N2SAとも言う)を有する。様々な所望による実施態様において、第1BET窒素表面積は、約1000m2/g未満、例えば、約500m2/g未満、約300m2/g未満、または約100m2/g未満である。酸化工程、所望により流動床反応システムで生成された高表面積カーボン(所望により高表面積黒鉛化カーボン)は、好ましくは第1BET窒素表面積よりも大きい第2BET窒素表面積を有する。
【0059】
高度にエッチングされたカーボンブラックのメソ多孔性対マイクロ多孔性の割合は、統計的厚さ比表面積(STSA)に対するBET窒素表面積の比によって特徴付けられ得る。BET窒素表面積は概してカーボンブラックの全表面積、すなわち、外部の表面積及びメソポーラス及びマイクロポーラスに起因する表面積を含む全表面積を反映するが、一方で、STSA表面積は概して、外部の表面積及びメソ空孔に起因するカーボンブラックの表面積のみを反映する(すなわち、マイクロ空孔に起因する表面積を除く)。本明細書で用いるとき、用語「STSA表面積」とは、参照によって本明細書にその全体が組み込まれるASTM D6556−04により測定される表面積を意味する。概して、BET窒素表面積及びSTSA表面積が類似するほど(すなわち、その比が1に近づくほど)、カーボンブラックのマイクロ空孔は減少する。いくつかの例示的な実施態様において、カーボンブラック出発材料は、0.9よりも大きい、例えば、約1.1よりも大きい、約1.3よりも大きい、または約1.5よりも大きいBET窒素表面積/STSA比を有する。本発明の酸化プロセスの際に、マイクロ多孔性(すなわち、BET窒素表面積/STSA比)は、最初、増加し得るが、図7を参照しながら以下に記載するように、マイクロポーラス構造が酸化され、カーボンブラック粒子が「空洞化」されるにつれて、最終的には減少するだろう。酸化工程の際、BET窒素表面積/STSA比は理想的には1に近づく。
【0060】
流動化剤
酸化が用いられてカーボン含有材料の表面積を増加する場合、本方法は、好ましくは、酸化剤及び所望により窒素などの希釈剤を含む流動化剤を用いて、流動床にてカーボン含有材料(例えば出発カーボン材料または黒鉛化カーボン)を流動化する工程を含む。
【0061】
酸化剤の組成は、例えば採用されるカーボンブラック出発材料の組成及び所望の反応条件に依存して、幅広く変わり得る。いくつかの制限しない実施態様において、酸化剤は、O2、空気、O3、水(例えば蒸気)、またはCO2などの1以上の酸素含有剤を含む。いくつかの特に好ましい実施態様において、酸化剤は、蒸気を含むか、蒸気からなるか、または本質的に蒸気からなる。好ましくは、流動化剤は、少なくとも50質量%の蒸気、少なくとも75質量%の蒸気、少なくとも90質量%の蒸気、または100質量%の蒸気を含む。
【0062】
所望により、流動化剤は、希釈剤、すわなち、主にカーボンブラック出発材料を酸化すること以外の理由で流動化剤に含まれる材料をさらに含む。例えば、希釈剤は、不活性ガス、例えば窒素またはアルゴンを含むことができる。したがって、流動化剤は、所望により、不活性ガス、例えば窒素またはアルゴンをさらに含む。開始の際は、流動化剤は希釈剤を含み、酸化剤をほとんどまたは全く含まないことができる。希釈剤を含み酸化剤をほとんどまたは全く含まない流動化剤を採用することによって、流動床反応炉の温度プロファイルが調整され(すなわち、流動床が加熱され)熱力学的に有利な反応を形成する間、カーボン含有材料は希釈剤で流動化され得る。一旦、所望の温度プロファイルが達成されると、流動化剤の酸化剤の含有量を増加して、所望の、酸化剤:希釈剤の比及び反応の進行を提供することができる。同様の手順が、反応炉の停止に用いられ得る。
【0063】
望ましくは、本発明の方法の酸化速度は、高表面積(所望により黒鉛化された)カーボンを生成するのに効果的な条件下で、流動床にてカーボン含有材料と酸化剤とを接触させる工程の際に、流動化剤中の希釈剤(例えば窒素)に対する酸化剤の比を制御することによって、注意深く制御され得る。結果として、本発明の方法によって生成された高表面積(所望により黒鉛化された)カーボンの第2BET窒素表面積は、流動化剤中の希釈剤(例えば窒素)に対する酸化剤の比を制御することによって、注意深く制御され得る。
【0064】
酸化条件
このたび、カーボンブラックは、効果的に酸化され、流動床反応炉にてその表面積を増加することができることが分かった。流動床反応炉は、他の反応炉の種類と比べて、酸化剤とカーボン含有材料、例えば出発カーボン材料または黒鉛化カーボンとの接触を改良し、カーボンブラック生成物の生成において、より早い反応時間及びカーボンブラック出発材料のより均質なエッチングをもたらす、という利点を提供する。好ましい実施態様において、上述のように、酸化剤は蒸気エッチングプロセスを含む。他の好ましい実施態様において、特にカーボン材料が部分的に黒鉛化カーボンである場合、酸化媒体は酸素を含む。
【0065】
流動床反応炉は概して、流動化剤導入ゾーンまたはプレナム、及び流動化剤導入ゾーンの上に配置された反応ゾーン(酸化ゾーン)または床を含む。動作中に、カーボン含有材料は酸化ゾーン(例えばエッチングゾーン)で流動化され流動床を形成する。2つのゾーンは好ましくは、底部の格子(grate)、スクリーン、プレート(plate)、または類似の分離構造によって分離される。これらは、エッチングゾーンから流動化剤導入ゾーンへのカーボン含有材料の流れを実質的に排除しながら、流動化剤を流動化剤導入ゾーンから酸化ゾーンまたはエッチングゾーン(流動床)へ流動させるための複数の開口部を含む。
【0066】
理論に束縛されるものではないが、本発明の方法は、カーボンブラック出発材料から、例えば欠陥などの活性サイト、アモルファスカーボン、単一層面(single layer planes)などを除去することによって表面積を増加すると考えられる。このプロセスは、図7に示され、アモルファスカーボンを除去して、高度に酸化された高表面積のカーボン、所望により高黒鉛化レベルを有する高度に酸化された高表面積のカーボンを生成することが表されている。図7において、一次粒子(カーボン含有材料)は、粒子の表面に概して平行に配向された層状面を有する、より大きくより完全な結晶を含む「殻(shell)」によって表される同心の結晶態様(concentric crystallite mode)を有するものとして描かれている。粒子の中央領域または「中心部」は、主に小さく不完全な結晶、単一層面、及び場合によっては層状面に組み込まれていないばらばらのカーボン(disorganized carbon)を含む。さらに、例えば欠陥、官能基などの、カーボン表面にいくらかの(より高エネルギーの)活性サイトがある。本発明の方法の際に、酸化剤分子(例えば水分子)が最初にカーボン表面の活性サイトを攻撃して、その表面から炭素原子を除去し、ガス相のCOまたはCO2及び水素(次の式1及び2を参照)を生成して、より多くの炭素原子の露出をもたらす。粒子の中心部における炭素原子は、表面上の炭素原子よりも高いエネルギーを有する傾向があり、酸化(例えばエッチング)速度は、表面上よりも粒子の中心部の方が速い傾向がある。
【0067】
より具体的には、蒸気エッチングについて、理論に束縛されることはないが、カーボン含有材料(例えば出発カーボン材料または黒鉛化カーボン)は、蒸気改質に似た反応メカニズムで(所望により前もって黒鉛化された)高表面積カーボンに変換される。蒸気エッチングの生成物は、CO及び水素並びに/またはCO2及び水素を含む。CO及びCO2の相対量は、カーボンに対する蒸気の比と温度とに依存する。例えば、カーボンに対する蒸気のより高い比は、CO2及び水素の生成に有利に働く。関連する蒸気エッチング反応は以下の通りである。
【化3】
【0068】
蒸気エッチングが酸化工程で使用される場合、蒸気エッチングは、好ましくは、蒸気を含む流動化剤を用いて流動床反応炉にてカーボン含有材料(例えば出発カーボン材料または黒鉛化カーボン)を流動化することを含む。上で示したように、流動化剤は、1以上のさらなる成分、例えば窒素またはアルゴンなどの不活性ガスを含むことができる。流動床反応炉に投入される希釈剤に対する蒸気の比を制御することによって、カーボンブラック出発材料の蒸気エッチングの度合いが望ましくは、注意深く制御され得る。カーボンブラックの蒸気エッチングの度合いはまた、カーボンに対する蒸気流量の比によって制御され得る。カーボンに対する蒸気流量のより大きな比は、より大きなエッチング(greater etching)に有利に働く。
【0069】
流動床反応炉で使用される特定の条件は、例えばカーボンブラック出発材料の物理的特性などの要因、及び特にカーボン含有材料の流動化性(fluidizability)に依存して変わり得る。流動床反応炉の望ましい条件に影響するさらなる要因には、流動化プレートの設計、並びに使用される流動床反応炉の設計が含まれる。
【0070】
流動床反応炉における酸化の速度及び度合いを制御する他の重要なパラメータは、流動床の温度である。概して、流動床温度が高いほど、酸化の速度は速くなる。蒸気エッチングプロセスは好ましくは、反応の大きな吸熱特性のため(ΔH300K=31.4kcal/mol)、約700℃よりも高い温度で行われる。いくつかの制限しない実施態様において、流動床の温度は約700℃よりも高く、例えば約900℃よりも高いか、または約1000℃よりも高い。範囲に関しては、流動床の温度は所望により約700℃〜約1400℃、例えば約700℃〜約1300℃、約900℃〜約1100℃、または約1000℃〜約1100℃である。本明細書で用いられるとき、用語「流動床温度」とは、カーボンブラック生成物を生成するのに効果的な条件下で、流動床にてカーボンブラック出発材料と酸化剤、例えば蒸気とを接触させる工程の際の、流動床の平均温度を意味する。
【0071】
流動化剤が流動床に導入されるところにおける表面速度は、酸化剤とカーボン含有材料(例えば出発カーボン材料または黒鉛化カーボン)との接触の度合いを制御する上での他の重要な要因である。理想的には、表面速度は、流動床に含まれるカーボン含有材料を流動化された態様で振る舞わせるために十分に大きいが、カーボン含有材料を取り込むほど大きくはなく、それによって流動床反応炉からカーボンが排出される。いくつかの限定しない実施態様において、流動化剤は、約0.03〜約0.15m/s、例えば、約0.05〜約0.13m/s、または約0.05〜約0.10m/sの流動床の表面速度を有する。
【0072】
(所望により黒鉛化された)高表面積カーボンを生成することが望まれるカーボン含有材料の酸化の度合いは概して、カーボンブラック出発材料に対する反応時間の最後における累積酸化剤の質量比に比例する。いくつかの例示的な限定しない実施態様において、カーボンブラック出発材料に対する反応時間の最後における累積酸化剤の質量比は、約0.5〜約3、例えば約0.5〜約2.5、約0.5〜約2、または約1〜約2である。同様のパラメータは、流動床におけるカーボン含有材料に対する蒸気量の比であり、好ましくは、約0.05〜約0.50kg蒸気/kgカーボン含有材料/時間、例えば約0.1〜約0.4kg蒸気/kgカーボンブラック出発材料/時間、または約0.2〜約0.3kg蒸気/kgカーボン含有材料/時間である。
【0073】
カーボン含有材料から(所望により黒鉛化された)高表面積カーボンを生成する上で採用される反応時間は、例えば、カーボン含有材料と高表面積カーボンとの間の表面積及び空孔率における所望の差、流動床反応炉の温度、流動化剤の表面ガス速度、流動化剤の酸化剤含有量、カーボンブラック出発材料の投入質量(mass loading)、及び流動床反応プロセスについての当業者の十分な知識内である他のパラメータに依存して、変化し得る。いくつかの限定しない実施態様において、前記条件は、約0.5〜約24時間、例えば約0.5〜約15時間、約2〜約12時間、または約3〜約9時間の反応時間を含む。
【0074】
所望のカーボン含有材料の酸化の度合い、並びに反応時間は、とりわけ、高表面積カーボンの第2BET窒素表面積と、カーボン含有材料、例えばカーボンブラック出発材料または黒鉛化カーボンの第1BET窒素表面積との間の所望の差に依存するだろう。いくつかの限定しない例示的な実施態様において、前記条件、例えば反応時間、流動床温度、流動化剤の酸化剤含有量等のうち1以上は、第1BET窒素表面積よりも第2BET窒素表面積が、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2.0倍、少なくとも約4.0倍、または少なくとも約8.0倍だけ大きくなるように制御される。範囲に関しては、前記条件は所望により、第1BET窒素表面積よりも第2BET窒素表面積が、約1.5倍〜約8.0倍、例えば、約3.0倍〜約8.0倍、または約5.0倍〜約8.0倍だけ大きくなるように制御される。所望により、第1BET窒素表面積と第2BET窒素表面積との間の差は、約100m2/gよりも大きい、例えば約200m2/gよりも大きい、約300m2/gよりも大きい、約400m2/gよりも大きい、約500m2/gよりも大きい、約800m2/gよりも大きい、約1000m2/gよりも大きい、または約1200m2/gよりも大きい。
【0075】
酸化(例えば蒸気エッチング)工程は所望により高圧下で行われる。酸化プロセス、例えば流動床反応炉内で採用される酸化剤(例えば蒸気)の分圧は、広い範囲にわたって変わり得る。概して、前記プロセスで採用される分圧は、約0.1〜約1気圧、例えば約0.2〜約0.8気圧、または約0.3〜約0.7気圧の範囲内である。
【0076】
所望により、酸化は、触媒の存在下で行われる。使用される場合、触媒は所望により、例えば、金属酸化物(例えばNiO、CuO、Fe23等)、金属硝酸塩(例えばNi(NO32、Cu(NiO32等)、または金属水酸化物(例えばFe(OH)3、NaOH、KOH、及びCa(OH)2等)、または酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸バリウム、ギ酸バリウム、若しくは塩化バリウムなどのアルカリ土類金属塩(有機アニオンまたは無機アニオンのいずれかを有する)を含む。触媒が使用される場合は、カーボンに対する触媒の質量比は所望により、約0.0001〜約0.5、例えば約0.001〜約0.1、または約0.005〜約0.05である。
【0077】
酸化、例えば蒸気エッチングプロセスの際、流動床に含まれるカーボン材料の試料を得て、分析し、表面積の所望の増加が達成されたか測定することができる。好ましい実施態様において、(例えば導管を介して)流動床と流体連結状態にあるサイクロン等の分離装置は、そこに含まれているカーボンブラックを定期的にサンプリングする。与えられた試料のエッチングレベルは、ASTM D2414−06aに記載される様式に類似した様式で、所望により機械ではなく手動(すなわち手)による混合方法を使用して、cc/100gカーボンブラックを単位としたオイル吸収(すなわち、DBPまたはジブチルフタレート吸収)係数を手動で測定することによって見積もられ得る。例えば、約400〜約700cc/100gの目標手動オイル吸収係数が望ましくあり得る(この目標数は、約800〜約1500m2/gのVulcan XC72カーボンブラックについてのBET表面積に対応する)。表面積の所望の増加が達成された後、得られた(所望により黒鉛化された)高表面積カーボンは、概して流動化剤の流れを止めて流動床を純窒素または他の不活性ガスの流れ下で冷却し、次いで、例えば流動化剤導入ゾーンを介して、及び流動化剤導入ゾーンと流体連結状態にある生成物排出口を介して、高表面積カーボンを除去することによって、蒸気エッチング装置から除去される。
【0078】
図6は、本発明の一実施態様による例示的な流動床反応システム600の工程系統図を提供する。蒸気エッチングシステム600は、ゾーンが底部のスクリーンまたは格子625によって互いに分離されている、流動化剤導入ゾーンまたはプレナム610及び酸化またはエッチングゾーン611を含む流動床反応炉608を含む。通常の動作の際、エッチングゾーン611は、カーボン含有材料及び所望により触媒を含む流動床612を含む。エッチングゾーン611は好ましくは、1以上のヒーターによって加熱され、所望の温度プロファイルを提供する。
【0079】
示すように、流動化剤が、蒸気及び/または実質的に不活性の流動化剤(例えばN2)を含む場合、蒸気は好ましくは、蒸気発生器601(ポンプ602によって促進される)によって提供され、実質的に不活性の流動化剤は、実質的に不活性の流動化剤源603によって提供される。実質的に不活性の流動化剤及び蒸気(所望の比を提供するようにバルブによって制御される)は、導管604及び605のそれぞれを通り、ガス予熱器606に導入する前に混合される。ガス予熱器606は好ましくは、蒸気エッチングプロセスを促進するために、流動床反応炉608に導入する前に流動化剤の温度を増加する。
【0080】
ガス予熱器606における予熱後に、流動化剤は、導管607を介して、流動化剤導入ゾーンまたはプレナム610に送られる。流動化剤導入ゾーンまたはプレナム610内に導入される流動化剤が正圧であるため、流動化剤が、スクリーンまたは格子625の開口部を通過し、酸化またはエッチングゾーン611に入る。流動化剤が酸化またはエッチングゾーン611に入るにつれて、それが流動床612におけるカーボンブラック及び所望による触媒を流動化させる。加えて、流動化剤が酸化またはエッチングゾーン611に入るにつれて、過剰の酸化剤(例えば蒸気)、ガス状副生成物、及びいくらかの量の引き込まれた微粒子が、流動床反応炉608の上部から導管615を介して除かれ、ガス状副生成物から微粒子を分離するために、1以上の分離装置、例えばサイクロン、バグハウス、フィルター等を含み得る分離システム616に送られる。
【0081】
示すように、サンプリング装置614は、導管613を介して流動床612と流体連結状態にあり、その中に含まれるカーボン材料を定期的にサンプリングして、所望の酸化度合いが達成されているかどうかを測定する。表面積の所望の増加が達成された後、得られた高表面積カーボンは、流動化剤の流れを止めて流動床を純窒素または他の不活性ガスの流れ下で冷却させ、次いで、流動化剤導入ゾーン610を介して、及び流動化剤導入ゾーン610と流体連結状態にある生成物排出口624を介して、カーボンブラック生成物を除去することによって、流動床反応炉から除かれる。
【0082】
図8A〜8Cは、エッチング時間の関数としての蒸気エッチングされたカーボンのXRDパターンを示す。示すように、カーボンの種類に関係なく、回折ピーク(002)は概して蒸気エッチングに敏感であった。その敏感さは、蒸気エッチングが進むにつれてピーク(002)の強度が顕著に減少することによって反映される。対照的に、回折ピーク(10)の強度は、蒸気エッチングプロセスによって最小限に影響された。(002)のピークは、カーボンの三次元秩序を反映し、一方で、(10)のピークは、層状面により関連する。理論に束縛はされないが、これらの結果は、図9に示すように、長距離の格子配向秩序がエッチングの際に破壊されるか、または層状面がエッチングの進行につれてより無配向になることを示唆している。
【0083】
図10及び11は、245分間、1000℃における蒸気エッチングの前(図10)及び後(図11)のカーボンブラック(VXC72)についての空孔径分布を示す。図10に示すように、親(蒸気エッチングされていない)カーボンブラックの平均空孔径は、約10〜約100nm程度であった。一次粒子が30nm程度であったため、これらの空孔は、主として、凝集体の間に形成された空孔(interpores)である。蒸気エッチングの際に、マイクロ−及びメソ−空孔は、粒子から炭素原子を除去することによって作り出された。図11に示すように、50nmよりも大きい空孔画分も形成されるが、蒸気エッチングによって作り出された空孔のほとんどは、約3〜約5nm程度の平均空孔径を有していた。この結果は、水銀ポロシメーターによって確認された。
【0084】
上述の酸化プロセスについては、酸化剤として蒸気に関して記載したが、同じかまたは類似のプロセスが、他の酸化剤、例えばO2、空気、NOx、またはCO2、またはCO2/H2O、空気/H2Oなどのそれらの混合物などとともに採用され得る。簡潔にするために、所望による蒸気エッチングプロセスについての上の記載は、蒸気の代わりにこれらの酸化剤のそれぞれに関連するように、参照によって本明細書に組み込まれる。もちろん、他の酸化剤を用いて、カーボン含有材料の表面積を増加することができ、その方法が、箱形炉、トンネル炉、回転炉などの従来の炉を使用するなど、流動床とは異なる方法であってもよい。
【0085】
テンプレート相の除去
他の実施態様において、カーボン含有材料の表面積は、そこからテンプレート相を除去することによって増加され、好ましくは、カーボン前駆体が、テンプレート相によって形成される空孔を含むカーボン相に変換される炭化工程の後に行われる。この実施態様において、カーボン含有材料は好ましくは複合粒子、好ましくはカーボン相及びテンプレート相を含む炭化複合粒子を含む。
【0086】
上述のように、黒鉛化工程は、複合粒子からテンプレートを除去する工程の前または後に行われ得る。このように、一態様において、本方法は、複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積カーボン粒子を生成し、高表面積カーボン粒子は次いで黒鉛化されて高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成する工程を含む。他の態様において、本方法は、最初に複合粒子を黒鉛化して黒鉛化複合粒子を生成し、その後に黒鉛化複合粒子からテンプレート相を除去して高表面積黒鉛化カーボン粒子を生成することを含む。
【0087】
一実施態様において、テンプレートを除去する工程は、テンプレートがテンプレート除去媒体中に溶解し複合粒子から遊離してカーボンマトリックス中に空孔を形成するのに効果的な条件下で、黒鉛化または非黒鉛化複合粒子を1以上のテンプレート除去媒体と混合することを含む。テンプレート除去媒体は好ましくは水を含み、酸性または塩基性の水溶液を含んでもよい。テンプレートを除去した後、得られた粒子、好ましくは実質的にテンプレートを含まない粒子は、ろ過されて洗浄され、所望により複数のろ過工程及び洗浄工程で行われる。
【0088】
一態様において、テンプレート除去媒体は、塩基性水溶液を含む。特定の塩基性溶液は幅広く変わり得る。いくつかの好ましい態様において、塩基性溶液は、水に溶解したNaOH、NH4OH、またはKOHを含む。塩基性溶液の濃度は、例えば、約0.1〜約20M、例えば、約1〜約10M、または約2〜約5Mの範囲であることができる。
【0089】
別法では、テンプレート除去媒体は、酸性水溶液を含む。特定の酸性溶液は幅広く変わり得る。いくつかの好ましい態様において、酸性溶液は、水に溶解したHF、HCl、H2SO4、HNO3を含む。酸性溶液の濃度は、例えば、約0.1〜約20M、例えば、約0.5〜約15M、または約2〜約10Mの範囲であることができる。
【0090】
複合粒子を用いる本発明のそれらの態様において、本発明は、所望により、(1)予備炭化した複合粒子を生成する工程、及び/または(2)予備炭化した複合粒子を炭化して炭化複合粒子を生成する工程のいずれかまたは両方をさらに含む。予備炭化した複合粒子とは、カーボン前駆体及びテンプレート相を含む粒子を意味する。所望による炭化工程において、カーボン前駆体はカーボン相、好ましくはテンプレート相の存在によって形成される空隙(void)を含むカーボン相に変換される。最終的に、テンプレート除去工程の際、これらの空隙は、カーボン相内の空孔に変換され、メソポーラスカーボン相を生成する。例えば、複合粒子、例えば炭化複合粒子からテンプレート相を除去する工程を含む本発明の方法において、本方法は、所望により、(i)カーボン前駆体がテンプレート粒子の多孔質構造に侵入するのに効果的な条件下で、多孔質構造を有するテンプレート粒子、例えばシリカ粒子と、カーボン前駆体とを混合する工程、及び(ii)カーボン前駆体を多孔質シリカ粒子の多孔質構造内でカーボンに変換して、複合粒子を生成する工程をさらに含む。このように生成されたカーボン相は所望によりカーボンブラック、アモルファスカーボン、及び/または部分的に黒鉛化されたカーボンを含む。
【0091】
予備炭化複合粒子を生成するために使用される特定の方法は、幅広く変わり得る。一態様において、予備炭化複合粒子は、テンプレート相をカーボン前駆体で満たすことによって合成される。この態様において、カーボン前駆体は好ましくは、カーボン前駆体をテンプレート粒子の空孔に侵入させる液体ビヒクル内に配置される。
【0092】
テンプレート相は好ましくは多孔質粒子、例えば多孔質セラミック粒子を含む。いくつかの非限定的実施態様において、テンプレート相は、例えば、0.5nm〜10nmの範囲の空孔径を有するシリカ、チタニア、MCM−48、またはSBA−15を含む。
【0093】
カーボン前駆体は好ましくはテンプレート相の空孔に侵入することができる有機化合物を含む。有機化合物は好ましくは容易に分解されてカーボン相を形成するものであり、所望により高温で行われる。いくつかの非限定的実施態様において、カーボン前駆体には、スクロース、フェノール樹脂、またはフルフリルアルコール、または任意の種類の炭化水素ポリマーが含まれる。
【0094】
予備炭化複合粒子を炭化して炭化複合粒子を生成する工程は、好ましくは、予備炭化複合粒子中のカーボン前駆体をカーボン相に変換するのに効果的な条件下で、高温にて予備炭化複合粒子を処理することを含む。高温とは、例えば0.5〜100時間、例えば0.5〜50時間、または0.1〜10時間の範囲で、例えば50〜2500℃、例えば100〜1500℃、または300〜1200℃の範囲であることができる。
【0095】
予備炭化複合粒子が炭化複合粒子に変換された後、テンプレート相は好ましくは、上述のように除去される。
【0096】
複合粒子を生成し炭化する方法、及びテンプレートをそこから除去する方法についてのさらなる説明は、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる、J.E.Hampsey等,"Templating synthesis of ordered mesoporous carbon particles," 43 Carbon 2977−2982(2005); K.Bohme等,"Templated synthesis of mesoporous carbon from sucrose − the way from the silica pore filling to the carbon material," 43 Carbon 1918−1925(2005); R. Ryoo等, "Synthesis of highly ordered carbono molecular sieves via templatemediated structural transformation," 100(37) J.Phys.Chem.B.7743−6(1999); 及び T.Kyotani,"Control of pore structure in carbon," 38 Carbon 269−286(2000)を参照されたい。
【0097】
上述のように、いくつかの実施態様において、本発明は、高表面積黒鉛化カーボン及びその上に配置された活性相を含む触媒粒子、並びにそのような触媒粒子を生成する方法を対象とする。
【0098】
カーボンブラック担体相及びその上に配置された活性相を含む触媒粒子を生成するための多くの方法が知られている。好ましい実施態様において、触媒粒子は、スプレーコンバージョン反応炉(spray conversion reactor)にて生成される。この実施態様において、液体混合物は、カーボン担体粒子、すなわち上述の高表面積黒鉛化カーボンと、活性層前駆体と、液体ビヒクルとを含んで生成される。液体混合物は、液体ビヒクルを蒸発させて活性相前駆体をカーボン担体粒子上に配置された活性相に変換するのに効果的な条件下で高温にてスプレーされる。そのような方法は、例えば、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる2007年7月12日に公開された米国特許出願公開第2007/0160899Al号に記載されている。また、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる2007年6月1日に出願された米国特許出願第11/756,997号を参照されたい。
【0099】
特に好適な実施態様において、本発明は、触媒粒子を生成する方法を対象とする。その方法は、(a)第1金属前駆体、液体ビヒクル、及び高表面積黒鉛化カーボンを含む支持体前駆体、を含む前駆体媒体を提供する工程、(b)前駆体媒体をスプレーコンバージョン、例えばスプレー乾燥して、液体ビヒクルの少なくとも一部を蒸発させて、中間体粒子を形成する工程、並びに(c)高表面積黒鉛化カーボン上に配置された活性相を含む(好ましくは活性相ナノ粒子、例えば、150nm未満、50nm未満、25nm未満、10nm未満、8nm未満、5nm未満、または約3nm未満の平均粒径を有する粒子を含む)触媒粒子を形成するのに効果的な温度(例えば約250〜約750℃)に中間体粒子を加熱する工程を含む。例えば、高表面積黒鉛化カーボン上に合金活性相を形成することが望まれる場合、前駆体媒体は所望により1以上のさらなる金属前駆体を含む。
【0100】
他の実施態様において、本発明は、触媒粒子を生成する方法を対象とする。その方法は、(a)第1金属前駆体、液体ビヒクル、及び高表面積黒鉛化カーボンを含む支持体前駆体、を含む前駆体媒体を提供する工程、(b)前駆体媒体をエアロゾル化して液体混合物の液滴を含む流動性エアロゾルを生成する工程、並びに(c)液体ビヒクルを少なくとも部分的に蒸発させること、及び高表面積黒鉛化カーボン上に配置された活性相を含む(好ましくはナノ粒子を含む)触媒粒子を形成することに効果的な条件下で、約250〜約750℃の温度に流動性エアロゾルを加熱する工程を含む。例えば、高表面積黒鉛化カーボン上に合金活性相を形成することが望まれる場合、前駆体媒体は所望により1以上のさらなる金属前駆体を含む。
【0101】
スプレーコンバージョン法に加えて、他の実施態様においては、触媒粒子は、当業者に周知の湿式沈降法によって生成される。
【0102】
活性相は幅広く変わり得る。好ましい実施態様において、活性相は白金または任意の他の貴金属を含む。というのは、これらの材料が最も活性であり、燃料電池の腐食環境に最も良く耐えられるためである。他の実施態様において、活性相は1以上の合金、例えば貴金属合金を含む。いくつかの例示的な触媒合金が、例えば、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる米国特許第4,186,110号(Pt−Ti、Pt−Al、Pt−Al−Si、Pl−Sr−Ti、Pt−Ce)、同第4,316,944号(Pt−Cr)、及び同第4,202,934号(Pt−V)に記載されている。
【0103】
他の実施態様において、活性相は三元合金触媒を含む。例えば、米国特許第4,447,506号は、酸素の電気化学的還元についての触媒作用について、担体非合金化貴金属のみの場合の触媒作用の2.5倍超の触媒作用を有する三元貴金属含有合金触媒を開示している。同様に、米国特許第4,677092号及び同第4,711829号は、酸素の電気化学的還元のための三元合金触媒であって、触媒の安定性及び比活性を改良するための規則構造を有する三元合金触媒を開示している。米国特許第4,794,054号は、面心立方格子構造を有するPt−Fe−Co三元合金を開示し、米国特許第4,970,128号は、Pt−Fe−Cu三元規則合金を開示している。米国特許第5,068,161号は、Pt−Co−Cr三元合金触媒系に加えて、いくつかのPt−Ni及びPt−Mn触媒系を開示している。米国特許第5,189,005号は、導電性担体及びその上に担持された規則構造を有するPt−Ni−Co合金粒子を含む白金合金触媒を開示している。
【0104】
活性相は幅広く変わり得るため、使用される活性相前駆体もまた幅広く変わり得る。第1表は、活性相前駆体として用いることができ、触媒粒子の形成前または形成中(例えばスプレーコンバージョン法による)に、正常に反応して対応する金属または金属酸化物を生成するであろういくつかの化合物についていくつかの非限定的な例を示す。また、列記された各金属前駆体が成分を提供する目的材料を第1表に列記する。
【0105】
【表1】
【表2】
【0106】
これらのより低コストのために、第1表のいくつかの好ましい前駆体には、硝酸塩、酢酸塩、及び塩化物が含まれる。
【0107】
電極形成
さらに、いくつかの実施態様において、本発明は、上述の触媒粒子を含む電極、特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC)または水素−空気型燃料電池などの燃料電池用の電極、並びにそのような電極を形成する方法を対象とする。好ましい実施態様において、上述の触媒粒子は、炭素布、若しくはカーボン紙に堆積されるか、または膜(Nafion膜などのポリマー電解質膜(PEM))に直接堆積されるインクに構成される。堆積工程は、スプレー堆積によって達成され得る。別法では、本発明による触媒粒子の堆積は、例えば、ペン/シリンジ、連続的なインクジェットまたは要求に応じて液滴を落とすインクジェット、液滴堆積、スプレー、フレキソ印刷、リソグラフ印刷、グラビア印刷、他の凹版印刷、デカール転写等によって行われ得る。例えば、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる2003年4月16日に出願された、インクジェット印刷などの直接描画方法を用いてPEM’s上に触媒含有インクを印刷する方法を開示する米国特許出願公開第2004/0038808号を参照されたい。
【0108】
触媒粒子を含むインクからスプレー堆積法にて電極及び膜電極組立体を形成する方法は、参照によって本明細書にその全体が組み込まれる同時係属の2006年9月22日に出願された米国特許出願第11/534,561号、及び2007年2月27日に出願された同第11/679,758号に完全に開示されている。
【実施例】
【0109】
本発明は、次の限定しない例を考慮してより良く理解されるだろう。
【0110】
例1.エッチングによるVulcan VXC72(商標)を用いた高表面積カーボンの調製
【0111】
21.8kgのカーボンブラックVXC72(商標)(Cabot Corp.)のペレットを流動床反応炉に投入し(図6の蒸気エッチングシステムの工程系統図を参照)、流動床を加熱する間、流動床をガス予熱器を通した窒素でパージした。流動床の温度が約950℃の設定温度に到達した後、蒸気を蒸気発生器から流動床反応炉に導入し蒸気エッチングプロセスを開始した。この例においては純粋蒸気を使用したが、他の実施対応では前記プロセスの間、所望の蒸気エッチング条件に依存して、窒素配管を部分的に開いたままにしてもよい。蒸気流量は6.9kg/時間であり、カーボンに対する蒸気の比(全カーボンに対する時間あたりのkg蒸気)は0.23kg/時間/kgであり、カーボンブラックペレットについて望ましい流動化特性を提供した。245分後、蒸気エッチングプロセスを停止し、得られたエッチングされたカーボンの特性を明らかにした。元のVXC72カーボンブラック(第2表)の179m2/gに対して、上述のエッチングされたVXC72のBET窒素表面積は885.3m2/gであり、エッチング後に5倍の増加を示した。
【0112】
親VXC72カーボンブラック(図10)と例1のエッチングされた粒子(図11)との空孔径分布の比較は、蒸気エッチングプロセスが約2〜約5nmの範囲内の空孔径を顕著に増加することを示している。
【0113】
例2A及び2B.蒸気エッチングによるBP700(例2A)及びBP800(例2B)を用いた高表面積カーボンブラックの調製
【0114】
例1に記載されるプロセスに類似したプロセスの下で、異なる特性を有するカーボンブラック、BP700(商標)及びBP800(商標)を、蒸気エッチングプロセスに使用した。蒸気エッチング条件を第2表に示す。得られたエッチングされたカーボンのBET表面積、空孔体積、及び平均空孔径を、元のカーボンブラックの特性とあわせて第2表に示す。蒸気でエッチングした試料のBET表面積は、それらの親カーボンブラックの表面積に対して約8倍の表面積を有していた。
【0115】
【表3】
【0116】
例3.カーボンブラックの熱処理
【0117】
市販のカーボンブラック、Ketjen black EC600(KB)(商標)を、5〜6時間のランピング時間(ramp times)で1200〜2700℃に温度を上昇させて熱処理し、不活性ガス(N2)雰囲気下で所望の温度にて2時間、滞留させた。熱処理条件を第3表に示す。例3A〜3Fは、それぞれ、1200℃、1500℃、1800℃、2100℃、2400℃、及び2700℃にて熱処理された試料である。例3A〜3FについてXRDから計算した間隔dは、その元の(「純粋な」アモルファスの)KB EC600粉末の間隔dが測定不能であるのに対して、それぞれ、0.3593nm、0.3422nm、0.3495nm、0.3458nm、0.3499nm、及び0.3429nmであり、黒鉛化のレベルが概して、熱処理後に顕著に増加することを示している。概して、熱処理温度の増加に伴って、黒鉛化の度合いも増加した。
【0118】
【表4】
【0119】
例4.蒸気エッチングされたカーボンブラックSE−VXC72の熱処理
【0120】
例1の蒸気エッチングされたVXC72(SE−VXC72)を、例3に記載した異なる温度にて熱処理した。1200℃、1500℃、1800℃、2100℃、及び2400℃にて熱処理したSE−VXC72の間隔dは、SE−VXC72の間隔dの値が0.3572nmであるのに対して、それぞれ、0.3565nm、0.3487nm、0.3484nm、0.3470nm、及び0.3449nmであった。熱処理したSE−VXC72のより小さい間隔dの値は、増加した黒鉛化レベルを示す。1800℃にて熱処理したSE−VXC72試料は、280m2/gのBET表面積、1.32cc/gの空孔体積、及び18.8nmの平均空孔径を有していた。
【0121】
例5.空気中での黒鉛化Ketjen black(KB)の焼成
【0122】
例3A〜3Fの熱処理されたKBの所定量を、以下の手順にしたがって空気中で焼成した。
【0123】
a)2℃/分にて空気中で室温から100℃に加熱;
b)空気中で30分間、100℃にて保持;
c)2℃/分の傾斜にて空気中で100℃から最高温度Tに加熱;及び
d)4時間、Tにて保持し、次いで、粒子を室温に冷却。
【0124】
温度Tが370℃〜570℃の範囲である場合に、このプロセスで焼成した試料について、例5A、5B、及び5Cで詳細に説明するように、物理化学特性の特性評価を行った。
【0125】
例5A
例3Eの2400℃で熱処理した75gのKB EC600を、例5に記載した手順に従って470℃にて空気中で焼成した。焼成後の試料の特性を、親試料とともに、第4表に示す。焼成前後の試料の間隔dは比較的変化が無く、焼成後の黒鉛化レベルの変化が無かったことを示している。しかしながら、焼成試料のBET表面積は親試料よりも非常に大きく、すなわち、234m2/gに対して386m2/gであり、表面積の65%超の増加を示した。
【0126】
例5B
例3Fの2700℃で熱処理した75gのKB EC600を、例5に記載した手順に従って470℃にて空気中で焼成した。焼成後の試料の特性を、親試料とともに、第4表に示す。焼成前(0.3429nm)及び焼成後(0.3470nm)の間隔dの変化は比較的小さく、焼成後の黒鉛化レベルは実質的に変化がないことを示している。しかしながら、焼成試料のBET表面積は親試料よりも非常に大きく、すなわち、200m2/gに対して324m2/gであり、表面積の50%超の増加を示した。
【0127】
例5C
例3Fの2700℃で熱処理した75gのKB EC600を、例5に記載した手順に従って520℃にて空気中で焼成した。焼成後の試料の特性を、親試料とともに、第4表に示す。焼成前(0.3429nm)及び焼成後(0.3438nm)の間隔dの変化は比較的小さく、焼成後の黒鉛化レベルは実質的に変化がないことを示している。しかしながら、焼成試料のBET表面積は親試料よりも非常に大きく、すなわち、220m2/gに対して454m2/gであり、表面積の100%超の増加を示した。
【0128】
X線光電子分光(XPS)分析は、空気中における焼成後にカーボン表面積上の酸素含有量が顕著に増加していることを示した。
【0129】
【表5】
【0130】
例6A.黒鉛化カーボン上への60質量%のPt電界触媒の生成
【0131】
Dow Chemicals製の28.72gのMethocel E3セルロースと、Air Products製のSurfynol DF110D消泡剤を、1リットル容器内で、例3Dで得られた2100℃で熱処理した169.64gのKetjen Black EC600に添加し、DI水を加えて約10質量%の溶液を作った。次いで、その溶液に、1時間、800rpmにて高せん断混合を施した。得られた混合物を加工して分散剤を用いてカーボンを分散させ、十分なDI水を加えて7.78質量%のカーボンを含有した分散体を作った。
【0132】
上記のカーボン分散体の149.92gのカーボン基礎原料を、混合容器に入れた。180.45gの水酸化白金テトラアミンを、別の容器に入れた。672.63gのDI水を第3の容器に入れた。
【0133】
高せん断条件下で、上述の量の水酸化白金テトラアミンを、カーボン分散体に添加した。10分間の高せん断混合後、次いで、得られた溶液を、540℃の入口温度及び300℃の出口温度にて制御された条件下のスプレーコンバージョン反応炉内で変換した。得られた触媒を触媒1として示す。Pt粒子の平均結晶径は、XRDによって、約4〜5nmであると測定された。
【0134】
例6B.高表面積黒鉛化カーボン上への60質量%のPt50Co50合金の電界触媒粉末の生成
【0135】
Dow Chemicals製の7.3gのMethocel E3セルロースを、1リットル容器内で、例5Cに記載した焼成された熱処理Ketjen black41.95gに添加し、DI水を加えて約10質量%の溶液を作った。得られた溶液に、1時間、800rpmにて高せん断混合を施した。得られた混合物を加工して分散剤を用いてカーボンを分散させ、十分なDI水を加えて7.36質量%のカーボンを含有した分散体を作った。
【0136】
60質量%のPt50Co50合金触媒の理論的収量50gを作るために、575.79gの4質量%のテトラアミン白金硝酸塩(TAPN、5質量%のPt(5wt% in Pt))の溶液を、174.21gの4質量%のコバルト硝酸塩(Co(NO32・6H2O、20.3質量%のCo(20.3wt% in Co)))と混合した。高せん断条件下で、上記のカーボン分散体から希釈された500gの4質量%のカーボン溶液を、4質量%の金属溶液に徐々に添加した。10分間のせん断混合後、次いで、得られた溶液をスプレーコンバージョン反応炉に投入し、540℃の入口温度及び300℃の出口温度の制御された条件下で、その溶液を担持触媒に変換した。
【0137】
スプレーコンバージョン反応炉から直接生成された合金粉末について、以下の手順に従って後処理を施した。
【0138】
(a)30分間、室温(30℃)にて、N2パージ;
(b)5℃/分でN2中にて50℃に昇温し、20分間保持;
(c)50℃から5℃/分でN2中にて150℃に昇温し、N2中にて20分間保持;
(d)150℃から5℃/分でN2中にて300℃に昇温;
(e)5体積%のH2及び95体積%のN2の混合物に切り替え、2時間、300℃にて保持;及び
(f)N2に切り替え、収集前に10℃/分で室温に冷却。
【0139】
次いで、PtCo合金粉末に、以下の手順に従って酸溶液浸出プロセスを施した。
【0140】
(a)PtCo合金粉末と0.5MのH2SO4溶液を混合;
(b)24時間、85℃にて、スラリーを還流;
(c)DI水を用いて還流スラリーをろ過及び洗浄;並びに
(d)少なくとも3時間、90℃にて洗浄粉末を乾燥。
【0141】
スプレーコンバージョン、次いで後処理、浸出プロセス、及び乾燥プロセスを施すことによって得られた例6Bの粉末を、触媒2として示した。触媒2についてのPt合金粒子の平均結晶径は、約3〜5μmであった。
【0142】
例6C.高表面積の蒸気エッチングされたカーボン上への60質量%のPt50Co50合金の電界触媒粉末の生成
【0143】
例4に記載した蒸気エッチングされたVXC72カーボン担体(SE−VXC72)の熱処理によって得られたカーボン上の60質量のPt50Co50合金の電界触媒粉末を、例6Bに記載したものと同じ方法によって生成した。
【0144】
浸出加工及び乾燥加工後の例6Cの粉末を触媒3として示した。触媒3についてのPt合金粒子の平均触媒径は約3〜5nmであった。
【0145】
例6D.(比較例) 市販のKetjen black(KB)EC600カーボン担体上への60質量%のPtの生成
【0146】
60質量%のPt/KBの理論的収量100gを作るために、543gのテトラアミン白金水酸化物塩と957gのDI水とを、せん断条件下で混合して、4質量%のPt溶液を調製した。1000gの4質量%のカーボン溶液を、4質量%の金属溶液に徐々に添加した。10分間のせん断混合後、次いで、得られた溶液をスプレーコンバージョン反応炉に投入し、540℃の入口温度及び300℃の出口温度の制御された条件下で、その溶液を担持触媒に変換した。作った触媒を、触媒4として示した。Pt粒子の平均結晶径は、約3.5nmであると測定された。
【0147】
例7.MEA生成物及びラミネート加工
【0148】
4つのMEAを、以下の手順にしたがって、触媒1、2、3、及び4のそれぞれから生成した。300mgの電界触媒材料、触媒1、2、3、または4を、3gの脱イオン化した水及び2.55gの5質量%のNafion溶液と混合した。次いで、その溶液を250Wの超音波浴に入れて、10分間、超音波で分解した。得られたインクを用いて、所望の量のPtまたはPt合金触媒がカソード内に含まれるように、50cm2の活性面積を有するNafion212の一表面上に触媒被覆膜(CCM)のカソードを印刷した。60質量%のPt/Cまたは60質量%のPtCo/C触媒についての腐食耐久試験用に、0.4mg/Pt/cm2のカソード負荷(cathode loading)を使用した。CCMのアノードを、全てのMEAについて0.05mgPt/cm2の標準的負荷量にてNafionの反対面上に10質量%のPt/Cを含有するインクを印刷することによって生成した。同一のガス拡散層を、アノード及びカソードに適用して膜電極組立体(MEA)を生成し、その後に5分間、150℃にて8250重量ポンドの圧力でホットプレスした。
【0149】
例8.カーボン腐食の電気化学評価
【0150】
カーボン担体についての腐食抵抗の電気化学的評価において、液体電解質(2MのH2SO4酸)中の3つの電極系を用いてクロノアンペロメトリー法を行った。作用電極は、Ptメッシュ上にプレスされたガス拡散層及び触媒層を有する空気呼吸ガス拡散電極である。Pt線(wire)を対電極として使用し、硫酸水銀/硫酸第二水銀を参照電極として使用した。
【0151】
ガス拡散層を、白金メッシュ上に最大35質量%のテフロン(登録商標)を有する500gの疎水化(テフロン(登録商標)化)カーボンブラックをプレスすることによって、最初に形成した。このガス拡散層の上に、調査中の65質量%のカーボンブラックと、同じ種類の35質量%のテフロン(登録商標)化カーボンブラックとの混合物を含む触媒層を混合しプレスして、作用電極を形成した。これらの実験のための負荷量を67.6gカーボン/m2に維持した。2Mの硫酸を電解質媒体として使用して、半電池系を室温にて保持した。クロノアンペロメトリー測定を、様々な電位、例えば標準水素電極(NHE)に対して0.8V、1.0V、1.2V、1.4V、及び1.5Vにて行った。
【0152】
上記の条件下でカーボンについての1.2Vにおける腐食試験の結果を図12に示す。図12は、時間の関数として腐食電流(mA)をプロットしている。概して、同じ時間にてカーボンについての腐食電流が大きいほど、電気化学的酸化または腐食の速度は大きくなる。市販のKetjen black(KB EC600)は、調査したカーボンの中で、特に最初の段階、例えば0〜200秒にて、最も高い腐食速度を有していた。対照的に、2700℃にて熱処理したカーボンブラック(例3F)は、最も低いカーボン腐食電流を有していた。これらの結果は、XRDによって測定される間隔d値が、より高い黒鉛化レベルはより低い腐食電流をもたらすことを示していることについて、一致している。また、図12から、高表面積黒鉛化カーボン(例4、例5A〜5C)は、Ketjen black EC600及びVulcan XC72などの市販のカーボンブラックよりも、低い腐食電流及び良好な耐腐食性を有することが、分かる。
【0153】
第5表は、標準水素電極(NHE)に対する様々な電位における異なるカーボンについてのクロノアンペロメトリー測定値を示す。データから、カーボンの腐食及び腐食電流は、より高い電位にて、より厳しくなることが分かる。しかしながら、電位(0.8〜1.5V)の範囲について、本発明の様々な実施態様のカーボン担体(例えば、例4、5A、5B、5C)は、比較例よりも非常に低い腐食電流を示す。本発明のカーボン担体の優れた耐腐食性を、次の考察によってさらに詳述する。この評価における腐食電流は、同じ質量のカーボンによって規格化され、カーボン担体の表面積によっては規格化されず、高表面積を有するカーボンは概して、より高い腐食電流を有するだろう。本発明のカーボン担体の成果である予期しない利点は、Vulcan XC72(BET表面積250m2/g)に対して、高度に黒鉛化されたカーボン(BET表面積280m2/gを有する例4、BET表面積386m2/gを有する例5A、BET表面積324m2/gを有する例5B、及びBET表面積454m2/gを有する例5C)が、同じ電圧条件で測定して、より低い腐食電流を有することである。これは、高表面積の耐腐食性カーボンが、開示する本方法によって生成され得るということを明示している。
【0154】
以下の第5表は、標準水素電極(NHE)に対する様々な電位における異なるカーボンについてのクロノアンペロメトリー測定値を示す。
【0155】
【表6】
【0156】
例9.MEA性能
【0157】
MEA性能評価を、50cm2のセルで行った。MEAを、次の条件下で約12時間、調整した。セル温度を80℃に設定した。アノード流量は、背圧無し及び100%RH(アノードバブラーの露点は80℃であった)で、520SCCM水素であった。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を85℃に予熱した。カソード流量は、背圧無し及び100%RH(カソードバブラーの露点は80℃であった)で、2060SCCM空気であった。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を85℃に予熱した。MEAを調整するために、電池の電圧を、0.8V(200秒間保持)及び0.5V(600秒間保持)の間でサイクルさせた。電圧サイクルを12時間、継続した。
【0158】
調整が完了するとすぐに、MEAを次の腐食試験手順によって評価した。
【0159】
腐食試験手順
【0160】
ステップ1、寿命性能の開始:セル温度を80℃に設定した。アノード流量を、1平方インチあたり10ポンド(0.68atm)の背圧、及び50%RH(アノードバブラーの露点は64℃であった)の、化学量論量の3倍となる水素にて化学量論的に制御した。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を69℃に予熱した。カソード流量を、1平方インチあたり10ポンド(0.68atm)の背圧、及び50%RH(カソードバブラーの露点は64℃であった)の、化学量論量の3倍となる空気にて化学量論的に制御した。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を69℃に予熱した。50A(1A/cm)の全電流にて開始して、定電流条件でデータを収集した。セルを10分間、この時間にわたって電圧を測定して平均化しながら、50Aに保持した。10分間にわたる平均電圧を記録した。次いで、平均電圧を、40、30、25、20、15、10、5、及び0Aの全電流にて、同じ方法で収集した。
【0161】
ステップ2、加速腐食: 寿命性能の開始(ステップ1)後、試験セルを外部電源につなげて、1.2Vに設定し、次の条件下で15時間、そのままにした。ステップ2(加速腐食)の間、セル温度を80℃に設定した。アノード流量は、背圧無し及び100%RH(アノードバブラーの露点は80℃であった)で、520SCCM水素であった。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を85℃に予熱した。カソード流量は、背圧無し及び100%RH(カソードバブラーの露点は80℃であった)で、2060SCCM窒素であった。ガス管内の水の凝縮を避けるために、管を85℃に予熱した。
【0162】
ステップ2(15時間の加速腐食)を完了した後、ステップ1を繰り返し、分極曲線を記録した。MEAが、合計45〜210時間の加速腐食にさらされるまで、ステップ1及び2を繰り返した。
【0163】
電界触媒のカーボン耐腐食性を、45〜210時間の、加速腐食、ステップ2の所定時間後の1A/cm2にてステップ1で記録した分極曲線の間の電圧差に基づいて比較した。良好なカーボン耐腐食性は、1A/cm2における寿命性能の開始と、45〜210時間の加速腐食後との間の電圧のより小さい減少によって反映される。図13A図13B、及び図13Cは、15〜210時間の間の様々な時間の加速腐食後の、触媒4(比較例4)、触媒1、及び触媒3のそれぞれの性能の変化を示す。
【0164】
市販のカーボンブラック(比較例、触媒4、図13A)に担持された60質量%のPtについて、図13Aに示すように性能の大きな低下をもたらす従来のカーボン担体の厳しい腐食のために、ほんの30時間後に、1A/cm2における電圧が、もはや測定され得ないということが分かる。図13Bは、熱処理KB(触媒1)に担持された60質量%のPtの性能を示す。100時間の試験期間の際に、1A/cm2にて0.35〜0.45Vの小さな変化のみが測定され、市販のカーボンブラック担体に担持された触媒(図13A)と比べて腐食に対するカーボン安定性の顕著な改良が明らかになった。驚くべきことに、1A/cm2における性能が、大幅な低下を示さないだけでなく、90時間の腐食試験後に約50mVの高い水準であった。理論に束縛はされないが、向上した性能は、腐食プロセスの結果としての黒鉛化カーボン担体の表面組成の変化に起因し得る。これらの結果は、本発明のカーボン担体に基づく触媒を含むMEAが、カーボン腐食が促進される動作条件下にさらされる場合に、優れた耐久性を提供することができることを裏付ける。
【0165】
カーボン腐食試験手順による、空気中で熱処理されたカーボンを酸化することによって得られた高表面積黒鉛化カーボンに基づく触媒3(例6C)の性能試験を、図13Cに示す。試験結果は、135時間の後でさえも、1A/cm2における電圧は依然として0.45V超を維持した。これは、寿命の初期(0時間)における性能よりも著しく高性能である。180時間の加速腐食試験後の触媒3についても、1A/cm2にて50mV未満の低下がみられ、非常に高い耐久性を示した。
【0166】
前述の例は、単に説明を目的として提供したものであり、本発明を限定するものとしては全く解釈するべきではない。本発明を、様々な例示的実施態様を参照しながら記載したが、用いた記載は、例証及び説明のための記載であり、限定するための記載ではない。変化は、その態様において本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、現在示している、及び補正した、添付の請求項の範囲で可能である。本発明を、特定の手段、材料、及び実施態様を参照して本明細書に記載したが、本発明は、本明細書に開示した特定のものに限定する意図はない。代わりに、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、全ての機能的に等しい構造、方法、及び使用に拡張される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C