特許第5934342号(P5934342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934342
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】無段変速機及びその油圧制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20160602BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20160602BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H61/662
   F16H61/04
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-507526(P2014-507526)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2013054390
(87)【国際公開番号】WO2013145972
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-74922(P2012-74922)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】江口 岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆浩
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227096(JP,A)
【文献】 特開2009−208751(JP,A)
【文献】 特開2006−307925(JP,A)
【文献】 特開2002−036918(JP,A)
【文献】 特開2001−150982(JP,A)
【文献】 特開平11−227668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12,61/16−61/24
61/66−61/70,63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸を介して駆動源に連結されたプライマリプーリと、
出力軸に連結されたセカンダリプーリと、
両プーリ間に巻き懸けられて動力を伝達するベルトと、
前記駆動源の運転状態に応じて設定された目標入力軸回転速度に基づいて前記両プーリの溝幅を変更して前記両プーリ間の速度比を調整すべく前記両プーリに供給するプーリ圧を制御する制御装置と、を備えた無段変速機であって、
前記制御装置が、
前記入力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記検出された回転速度の変化率に基づき前記無段変速機に入力されるイナーシャトルクを演算する演算手段と、
前記演算されたイナーシャトルクから正の部分を抽出して正イナーシャトルクを求める抽出手段と、
前記抽出された正イナーシャトルクに基づいて前記プーリ圧を補正する補正手段と、
を備える無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記入力軸の実際の回転速度を前記目標入力回転速度に到達させるために入力軸回転速度の変化率の目標値である目標回転速度変化率を設定し、
前記抽出手段は、前記目標回転速度変化率に基づいて算出された目標イナーシャトルク対する前記演算されたイナーシャトルクの正の部分を抽出するように構成される、
無段変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無段変速機であって、
前記入力軸の実際の回転速度を前記目標入力回転速度に到達させるために入力軸回転速度の変化率の目標値である目標回転速度変化率を設定し、
前記抽出された正イナーシャトルクを用い、前記正イナーシャトルクのうち前記入力回転速度の変化率が前記目標回転速度変化率に対応せず変化している部分の減少率を制限することで補正用イナーシャトルクを演算する補正演算手段を設け、
前記補正手段が、前記正イナーシャトルクとして前記補正用イナーシャトルクを用い、前記補正用イナーシャトルクが大きいほど前記プーリ圧を増大側に補正するように構成される、
無段変速機。
【請求項4】
入力軸を介して駆動源に連結されたプライマリプーリと、出力軸に連結されたセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き懸けられて動力を伝達するベルトと、前記駆動源の運転状態に応じて設定された目標入力軸回転速度に基づいて前記両プーリの溝幅を変更して前記両プーリ間の速度比を調整すべく前記両プーリに供給するプーリ圧を制御する制御装置と、を備えた無段変速機の油圧制御方法であって、
前記入力軸の回転速度を検出し、
前記検出された回転速度の変化率に基づき前記無段変速機に入力されるイナーシャトルクを演算し、
前記演算されたイナーシャトルクから正の部分を抽出して正イナーシャトルクを求め、
前記抽出された正イナーシャトルクに基づいて前記プーリ圧を補正する、
油圧制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の油圧制御方法であって、
前記入力軸の実際の回転速度を前記目標入力回転速度に到達させるために入力軸回転速度の変化率の目標値である目標回転速度変化率を設定し、
前記目標回転速度変化率に基づいて算出された目標イナーシャトルク対する前記演算されたイナーシャトルクの正の部分を抽出する、
油圧制御方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の油圧制御方法であって、
前記入力軸の実際の回転速度を前記目標入力回転速度に到達させるために入力軸回転速度の変化率の目標値である目標回転速度変化率を設定し、
前記抽出された正イナーシャトルクを用い、前記正イナーシャトルクのうち前記入力回転速度の変化率が前記目標回転速度変化率に対応せず変化している部分の減少率を制限することで補正用イナーシャトルクを求め、
前記正イナーシャトルクとして前記補正用イナーシャトルクを用い、前記補正用イナーシャトルクが大きいほど前記プーリ圧を増大側に補正する、
油圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の油圧制御に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(以下、「CVT」という。)は、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、両プーリの溝の幅を変更することによって変速比を無段階に変更する。CVTが伝達可能なトルクは、プライマリプーリ及びセカンダリプーリがベルトを押し付ける力(以下、「プーリ押し付け力」という。)によって決まり、プーリ押し付け力は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリに供給されるプライマリ圧及びセカンダリ圧によって決まる。
【0003】
したがって、CVTにおいては、伝達可能なトルクが、エンジントルク及びトルクコンバータトルク比によって決まるCVTへの入力トルクよりも小さくならないように、プライマリ圧及びセカンダリ圧を制御することによって、ベルトを滑らせることなく入力トルクを伝達できるようにしている。
【0004】
また、CVTの入力回転速度が変化すると、CVTにイナーシャトルクが入力され、CVTが実際に伝達する必要のあるトルクがその分だけ増大又は減少する。このため、CVTに入力されるイナーシャトルクを演算し、演算したイナーシャトルクに応じてプライマリ圧及びセカンダリ圧を補正するようにすれば、伝達可能なトルクを過不足なく確保することが可能である。
【0005】
なお、CVTに入力されるイナーシャトルク、及び、その演算方法については、JP11−20512Aに記載がある。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、CVTに入力されるイナーシャトルクに応じてプライマリ圧及びセカンダリ圧の補正を行うと、CVTの入力回転速度がハンチングする可能性がある。
【0007】
これは、CVTの入力回転速度の変化に基づきイナーシャトルクを求め、このイナーシャトルクに応じてプライマリ圧及びセカンダリ圧を補正すると、制御のタイミングのずれによってプライマリ圧及びセカンダリ圧の補正が逆にCVTの入力回転速度の変化を引き起こす場合があり、この場合、CVTの入力回転速度の変化とそれを受けたプライマリ圧及びセカンダリ圧の補正とが繰り返されてしまうからである。
【0008】
本発明の目的は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、イナーシャトルクに応じてプライマリ圧及びセカンダリ圧を補正するにあたり、CVTの入力回転速度がハンチングするのを抑えることである。
【0009】
本発明のある態様によれば、入力軸を介して駆動源に連結されたプライマリプーリと、出力軸に連結されたセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き懸けられて動力を伝達するベルトと、前記駆動源の運転状態に応じて設定された目標入力軸回転速度に基づいて前記両プーリの溝幅を変更して前記両プーリ間の速度比を調整すべく前記両プーリに供給するプーリ圧を制御する制御装置と、を備えた無段変速機であって、前記入力軸の回転速度を検出し、前記検出された回転速度の変化率に基づき前記無段変速機に入力されるイナーシャトルクを演算し、前記演算されたイナーシャトルクから正の部分を抽出して正イナーシャトルクを求め、前記抽出された正イナーシャトルクに基づいて前記プーリ圧を補正する、無段変速機が提供される。
【0010】
本発明の別の態様によれば、入力軸を介して駆動源に連結されたプライマリプーリと、出力軸に連結されたセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き懸けられて動力を伝達するベルトと、前記駆動源の運転状態に応じて設定された目標入力軸回転速度に基づいて前記両プーリの溝幅を変更して前記両プーリ間の速度比を調整すべく前記両プーリに供給するプーリ圧を制御する制御装置と、を備えた無段変速機の油圧制御方法であって、前記入力軸の回転速度を検出し、前記検出された回転速度の変化率に基づき前記無段変速機に入力されるイナーシャトルクを演算し、前記演算されたイナーシャトルクから正の部分を抽出して正イナーシャトルクを求め、前記抽出された正イナーシャトルクに基づいて前記プーリ圧を補正する、油圧制御方法が提供される。
【0011】
これらの態様によれば、実回転速度の変化率から演算されるイナーシャトルク演算値をそのままプライマリ圧及びセカンダリ圧の補正に使うのではなく、イナーシャトルク演算値のうち正の部分のみを使うようにしたので、プライマリ圧及びセカンダリ圧は常に増大側に補正され、補正が原因となって必要圧以上に油圧が低下しないため、ベルトが滑ることはない。
【0012】
また、実入力回転速度の変化率が目標回転速度変化率に対応せず、回転変化速度のみが変化している部分に対して、補正用イナーシャトルク演算値の減少率を制限したことにより、補正用イナーシャトルク演算値は、無段変速機の実入力回転速度のハンチングに追従することがなくなり、実入力回転速度のハンチングの持続を抑えることができる。
【0013】
本発明の実施形態及び本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、無段変速機の概略構成図である。
図2図2は、無段変速機の変速マップである。
図3図3は、イナーシャトルクに応じたプライマリ圧及びセカンダリ圧の補正制御の内容を示したフローチャートである。
図4A図4Aは、実イナーシャトルクを示した図である。
図4B図4Bは、正イナーシャトルクを示した図である。
図4C図4Cは、補正用イナーシャトルクを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、無段変速機(以下、「CVT」という。)1の概略構成を示している。プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3が両者の溝が整列するよう配置され、これらプーリ2、3の溝にはベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、エンジン5の側から順に、トルクコンバータ6、前後進切換え機構7、入力軸2inが設けられている。
【0016】
トルクコンバータ6は、エンジン5の出力軸に連結されるポンプインペラ6a、前後進切換え機構7の入力軸に連結されるタービンランナ6b、ステータ6c及びロックアップクラッチ6dを備える。
【0017】
前後進切換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6のタービンランナ6bに結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤ及びキャリア間を直結する発進クラッチ7b、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、発進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。
【0018】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9及びディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。
【0019】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3の溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。
【0020】
これら可動円錐板2b、3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecがプライマリプーリ室2c及びセカンダリプーリ室3cに供給されることにより固定円錐板2a、3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦接合させてプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間での動力伝達が行われる。
【0021】
変速は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3の溝の幅を変化させ、プーリ2、3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることによって行われる。
【0022】
プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する発進クラッチ7b、及び後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cへの供給油圧と共に変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0023】
変速機コントローラ12には、CVT1の実入力回転速度Ninを検出する入力回転速度センサ13からの信号と、CVT1の出力回転速度、すなわち、車速VSPを検出する車速センサ14からの信号と、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ15からの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、CVT1の油温TMPtを検出する油温センサ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19からのエンジン5の運転状態(エンジン回転速度Ne、エンジントルク、燃料噴時間、冷却水温TMPe等)に関する信号とが入力される。
【0024】
変速機コントローラ12は、図2に示す変速マップを参照して、車速VSPとアクセル開度APOに対応する目標入力回転速度tNinを設定し、実入力回転速度Ninが目標入力回転速度tNinに追従、到達するように、また、エンジントルク及びトルクコンバータトルク比によって決まるCVT1の基礎入力トルクを伝達するのに必要なプーリ押し付け力が得られるように、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを制御する。
【0025】
また、CVT1のアップシフト時等、実入力回転速度Ninが減少する場合は、CVT1に入力されるイナーシャトルク(正値)によって、CVT1が伝達する必要のあるトルクがCVT1への基礎入力トルクよりも大きくなる。このため、変速機コントローラ12は、イナーシャトルクを算出し、同演算値に応じてプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを増大補正し、ベルト4が滑るのを防止する。
【0026】
これに対し、CVT1のダウンシフト時等、実入力回転速度Ninが増大する場合は、CVT1に入力されるイナーシャトルク(負値)によって、CVT1が伝達する必要のあるトルクがCVT1への基礎入力トルクよりも小さくなる。このため、この場合は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを減少補正することが可能である。
【0027】
しかしながら、イナーシャトルクが負値になるタイミングと補正によってプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが下がるタイミングとがずれると、プーリ押し付け力が不足してベルト4が滑る可能性があるので、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの減少補正は行わないようにする。
【0028】
さらに、一般的に実入力回転速度Ninを目標入力回転速度tNinに追従、到達させるために、実入力回転速度の変化率の目標値となる目標回転速度変化率を設定し、変速に際して、実入力回転速度の変化率が目標回転変化率に追従するように制御するが、目標回転速度変化率が変化していないにもかかわらず、実入力回転速度の変化率が増減を繰り返している場合で、特にそれがCVT1の実入力回転速度Ninが減少している際に発生している場合は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正に用いるイナーシャトルク演算値(正値)に対して、イナーシャトルク演算値の減少率を制限し、制限後の値(補正用イナーシャトルク演算値)に応じてプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを増大補正するようにする。これにより、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正によって、実入力回転速度Ninのハンチングに対して、イナーシャトルク演算値が追従しにくくなるため、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正値の変動が持続しなくなる。よって、ハンチングの持続を抑制することが可能となる。
【0029】
図3は、変速機コントローラ12が行う、イナーシャトルク演算値に応じたプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正制御の内容を示したフローチャートである。また、図4A〜4Cは、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正に用いられる補正用イナーシャトルク演算値を説明するための図である。これらを参照しながらイナーシャトルクに応じたプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正制御について説明する。
【0030】
まず、S1では、変速機コントローラ12は、入力回転速度センサ13で検出される実入力回転速度Ninを読み込む。
【0031】
S2では、変速機コントローラ12は、CVT1に入力される実イナーシャトルクを演算する。実イナーシャトルク演算値は、プライマリプーリ2の軸周りの慣性モーメントに実入力回転速度Ninの変化率を掛けることによって演算することができる。
【0032】
図4Aの実線はこのようにして演算される実イナーシャトルク演算値を模式的に表している。図中一点鎖線は、目標入力回転速度tNinと実入力回転速度Ninとの差に基づいて設定される入力回転速度の変化率の目標値としての目標回転速度変化率にプライマリプーリ2の軸周りの慣性モーメントを掛けて得られる目標イナーシャトルク演算値である。
【0033】
S3では、変速機コントローラ12は、S2で演算された実イナーシャトルク演算値から正値をとる部分のみを抽出し、これを正イナーシャトルク演算値とする。
【0034】
図4Bの実線は、実イナーシャトルク演算値から値が正になる部分のみを抽出して得られる正イナーシャトルク演算値を示している。
【0035】
S4では、変速機コントローラ12は、S3で得られた正イナーシャトルク演算値のうち、入力回転速度の変化率の変動を要因とするイナーシャトルク演算値変化部分を特定し、特定されたイナーシャトルク演算値変化部分の減少率を制限して補正用イナーシャトルク演算値とする。
【0036】
ここで、イナーシャトルク演算値変化部分とは、変速比の変動によって、目標入力回転速度tNinに対応せず実入力回転速度Ninのみが目標入力回転速度tNinに対して変動している部分を指す。具体的には、実入力回転速度から演算される正イナーシャトルク演算値に対して、目標回転速度変化率と実入力回転速度Ninの変化率とがともに変化しない部分、及び目標回転速度変化率が変化し、これに追従するように実入力回転速度Ninの変化率が変化する部分を除いた部分である。
【0037】
また、減少率を制限するとは、イナーシャトルク演算値の減少率(=変化率×−1)が所定の下限値よりも大きい場合は下限値に制限することである。イナーシャトルク演算値の減少率が所定の下限値よりも大きくなると、イナーシャトルク演算値によって補正されるプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが、イナーシャトルク演算値の減少率に追従するように演算されることで、結果として、プーリ油圧の変動が発生してしまい、結果として、CVT1の実入力回転速度Ninのハンチングが持続するので、下限値はCVT1の実入力回転速度Ninのハンチングの持続が発生しにくい値に設定される。
【0038】
図4Cの実線は、正イナーシャトルク演算値のうち、イナーシャトルク演算値変化部分の減少率を制限することで得られる補正用イナーシャトルク演算値を示している。減少率が制限された部分は、補正用イナーシャトルク演算値が緩やかに変化する。
【0039】
S5では、変速機コントローラ12は、S4で得られた補正用イナーシャトルク演算値に基づきプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを補正する。補正用イナーシャトルク演算値は正値であり、CVT1が伝達する必要のあるトルクがその分大きくなるので、変速機コントローラ12は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを増大補正する。
【0040】
続いて、上記イナーシャトルク演算値に応じたプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態では、実イナーシャトルク演算値をそのままプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正に使うのではなく、実イナーシャトルク演算値のうち正の部分のみを使うようにした(S3)。これにより、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecは常に増大側に補正され、補正が原因となってベルト4が滑ることはない。
【0042】
さらに、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecの補正に用いる補正用イナーシャトルク演算値では、実入力回転速度Ninの変化率が目標回転速度変化率に対応せず変動している部分のうち、補正用イナーシャトルク演算値の減少率を制限するようにした。これにより、プーリ油圧の変動を抑制することができ、制御の安定性が高められ、CVT1の実入力回転速度Ninのハンチングの持続を抑えることができる(S4)。
【0043】
減少率の制限は実入力回転速度Ninの変化率が目標回転速度変化率に対応せず変化している部分に限って行われるので、補正用イナーシャトルク演算値の減少率の制限によって補正後のプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecが下がりにくくなることによるフリクション増大、燃費悪化は、最小限に抑えることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0045】
本願は日本国特許庁に2012年3月28日に出願された特願2012−74922号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C