【実施例】
【0022】
図1は、本実施例に係る高圧部含浸体の製造工程が示されている。先ず、高圧部含浸体100を製作するにあたり、高圧用カバー110と、二次コイル120と、コイル収容分体130とが準備される(工程1参照)。
【0023】
高圧用カバー110は、殻状体の分割部位であって、高圧方向d1及びコネクタ方向f1に開口部112及び111がL状に形成される。当該高圧用カバー110は、二次コイル120の一部を覆うように同コイルの概形に沿った形状とされる。
【0024】
二次コイル120は、絶縁性の二次ボビンに二次ワイヤ(銅線)が巻回されたものである。この二次ボビンは、PBT等の絶縁性樹脂が用いられており、複数の鍔部124が所定の間隔で形成される。そして、鍔部の隙間には、二次ワイヤが各々巻かれている。また、鍔部の一端には、コネクタ方向f1へ所定厚保突き出た環状体122が形成され、其の内部に挿通孔121が形成されている。挿通孔121は、顎部の他端側に達する貫通孔であって、当該顎部の他端側には、フランジ方向f2へ所定厚保突き出た環状体123が形成される。また、二次コイル120は、二次ワイヤの端部を絡げるコイル用端子が適宜設けられる(図示なし)。尚、二次コイル120は、後述する一次コイル及び鉄心を伴ってコイルアセンブリを構成する。このうち二次コイル120についてのみが、高圧部含浸体100に収容される。
【0025】
コイル収容分体130は、収容部131、空間形成半体133、底部135、接続部136、が絶縁性樹脂(PPS,PBT等)によって一体成形されている。このうち、収容部131は、四方囲む壁面と底部135とによって殻状体の残り半分を形成しており、内部に収容空間132が形成されている。このように収容部131と底部135とは、二次コイル120の一部分を収容させる。また、四方囲む壁部のうち適宜の部位131aには、二次コイル120の環状体122及び123に嵌合するよう欠部131bが設けられている。
【0026】
本実施例に係るコイル収容分体130は、底部135に連設するように接続部136が設けられている。当該接続部136は、収容空間132から高圧方向d1へ繋がる連通孔(図示なし)が形成されており、その連通孔の途中に高圧端子(高圧中継部)が固定されている。即ち、高圧端子は、一方では連通孔を介して収容空間132に繋がり、他方では連通孔を介して高圧方向d1のプラグホールへと繋がる。
【0027】
また、コイル収容分体130は、低圧方向d2に欠部131bを臨ませ且つ高圧方向d1へ接続部136を臨ませる中間的位置に、空間形成半体133が設けられている。この空間形成半体133は、後述する非高圧部含浸体を伴ってコイルアセンブリを其の内部へ格納させる。本実施例に係る空間形成半体133は、収容空間132を中央へ配置させた略円形の板状体とされ、其の縁部には頭部カバー230との嵌合構造133bが形成されている。また、空間形成半体133にはコネクタ方向f1に舌片133aが設けられている。
【0028】
図示の如く、工程2では、コイル収容分体130の収容空間132へ二次コイル120の一部を収容させる。このとき、二次コイル120の環状体122及び123は、コイル収容分体130の欠部131bへ嵌合され、これにより、収容空間132と壁部131の外部空間とを分離させている。尚、二次コイル120は、高圧方向d1へ臨む端子が設けられており、本工程によって、二次ワイヤの一端と接続部136内の高圧端子とが電気的に接続される。
【0029】
工程3では、高圧用カバー110の開口部112と壁部131の開口部とを当接させ、両者の接触部を固着させる。このとき、フランジ方向f2では、二次コイル120の環状体123と高圧用カバー110の欠部(図示なし)とが嵌合され、収容空間132の内外を分離する。かかる接触部は、超音波溶接によって、容易且つ正確に一体化される。また、接着剤等を用いた他の接続手段を用いても良い。
【0030】
図示の如く、高圧用カバー110は、工程2の段階で露出していた二次コイル120の残りの部分を覆い、収容部131及び底部135の構成(主ケース分体)と供に二次コイル120の周囲を包囲する。このように、二次コイル120を包囲する構造は、複数のパーツ(高圧用カバー110,壁部131,底部135)から成り、特許請求の範囲における高圧用ケース体に相当するものである。かかる構造を成す為、高圧用カバー110では二次コイル120(二次コイルの一部)を受け入れるに足る大きさの開口部112が形成され、壁部131でも二次コイル120(二次コイルの別の一部)の収容部分を受け入れるに足る大きさの開口部が形成される。即ち、二次コイル収容部をケース分体の双方へ挿入可能とさせるよう、当該ケース分体の開口部が適宜の大きさに設定されている。
【0031】
また、コネクタ方向d1では、高圧用カバー110の開口部111によって、内部間隙空間(高圧部領域)と外部空間(非高圧部領域)との連絡路が形成される。この内部間隙空間(高圧部領域)は、二次コイル120から成る内部構造と、高圧部用ケース体から成る高低圧分離構造と、の各表面によって包囲され画成される空間である。ここで、画成とは、内部間隙空間(本実施例の高圧部領域)と外部空間(本実施例の非高圧部領域)との境界を形成させることを指す。
【0032】
その後、高圧部用ケース体には、開口部111(樹脂充填孔)を介してエポキシ樹脂140が液状の状態で充填され、適宜の処理によって当該樹脂が硬化され、これにより、二次ワイヤの全てと高圧端子の所定箇所を絶縁含浸させた高圧用含浸体の製作が完了する(工程4(図示なし)/特許請求の範囲における高圧部絶縁構造成形工程に相当)。
【0033】
本実施例に係る高圧部含浸体100は、要求耐電圧の高い絶縁構造領域をコンパクトに構成させ、他の低圧でも許容される絶縁構造領域とは分離されたものである。従って、ここで使用されるエポキシ樹脂は、絶縁性能の高い高品質の材質を用いて、高い耐電圧を確保させている。また、高圧部含浸体100は、点火コイル全体と比較してコンパクト化されている為、熱処理における予熱・硬化時間を短縮させることも可能となる。
【0034】
また、本実施例では、一次コイル及び鉄心といった二次コイル以外のコイルアセンブリを成す構成を排除させている。特に、本実施例に係る高圧部含浸体100は、鉄心及びこれに巻回される一次コイルの挿通孔を設けることで後述するI字鉄心等を排除させたものであって、当該高圧部含浸体100のコンパクト化に特徴が認められる。これにより、高圧部含浸体100は、熱容量が格段に低下され、高圧用の絶縁領域の熱処理につい製造上非常に有利となる。更に、当該高圧部含浸体100は、残りのコイルアセンブリを装着させるに適した構造を具備しており、当該絶縁構造を製作するのみで他の組付部品を用いることなくコイルアセンブリの組付作業が行われる。
【0035】
上述の如く、高圧部絶縁構造成形工程では、トランスファ成形工程(後述)での圧入樹脂よりも樹脂粘度を低く抑えることを目的として、充填時に液状のエポキシ樹脂を投入させている。このため、内部間隙空間には、細部までエポキシ樹脂140が行渡り、且つ、ボイドの少ない状態で樹脂140が充填され、これが硬化されることで高耐圧・高品質の絶縁構造が形成されることにもなる。
【0036】
尚、エポキシ樹脂を硬化させる方法については、熱硬化させる方法を用いても良く、2液混合させて化学的に硬化させる方法を用いても良い。いずれにしても、トランスファ成形工程で圧入される樹脂の粘度よりも低粘度のエポキシ樹脂が使用条件となる。
【0037】
高圧部含浸体100が完成すると、工程5〜工程6(
図2参照)では、コイルアセンブリの組立てが行われる。当該コイルアセンブリは、高圧部部品に属する二次コイル120と、非高圧部コイル部品に属する外周鉄心220及び挿通体210と、から構成される組立体である。
【0038】
工程5に示す如く、挿通体210は、積層珪素鋼板等から成るI字鉄心211と、この表面を絶縁させる絶縁層215と、これに巻回される一次ワイヤ212(一次コイル)と、一次ワイヤの端部に設けられた端子用フレーム214と、から構成される。また、当該端子用フレーム214は、I字端子に嵌入される部分が絶縁体とされ、その両脇に端子部213が設けられている。そして、端子部213の各々では、一次ワイヤ212の各端が巻回され、当該一次ワイヤ212に導通する端子が形成されることとなる。
【0039】
かかる挿通体210は、高圧部含浸体100の挿通孔121へ挿入され組付・装着される。これにより、コネクタ方向f1では、端子用フレーム214及び端子部213が配置されると供に、I字鉄心211の露出面の一端が方向f1へ向くよう配置される。また、フランジ側f2では、I字鉄心211の露出面の他端が方向f2へ向くよう配置される。かかる挿通体210は、其の何の部品も非高圧部領域に配置されることになる。
【0040】
その後、工程6に示す如く、高圧部含浸体100の二次コイル周囲を囲うように、外周鉄心221及び222が装着される。かかる外周鉄心221,222の各々は、I字鉄心211の露出面に当接し、磁束経路を形成する。このように、非高圧部コイル部品は、コイルアセンブリを形成する部品であっても二次コイルほど耐圧要求が高くはないので、高圧含浸体100の周辺であって且つ非高圧部領域に配置される。また、外周鉄心220のf1側には、イグナイタ240が装着され、当該イグナイタ端子243とI字鉄心の端子部213とが電気的に接続される。尚、イグナイタの下部端子242は、アース用の端子である。
【0041】
上述の如く、本実施例に係る高圧部含浸体は、コイルアセンブリの残りの部品が当該含浸体の外部から組付けられるので、コイルアセンブリの仮組体を容易に組み立てることが可能となる。そして、当該高圧部含浸体は、追加的な部品を特段必要とせず、挿通孔121及び空間形成半体133といった本実施例の必要構成によってコイルアセンブリの仮組体を維持するように機能する。
【0042】
その後、本実施例に係る点火コイル10は、コイルアセンブリの収容部を絶縁させるため、其の収容部位の周囲を囲撓するように所定厚保の非高圧部含浸体が形成され、当該非高圧部含浸体の製作が完了する。かかる非高圧部含浸体に要求される耐電圧は、一次コイルの印加電圧に耐えればよく、高圧部領域の要求耐圧と比較して十分に低い。このため、非高圧部含浸体は、高圧部含浸体ほど絶縁性状の品質が要求されるものでなく、熱処理についても其の時間等について条件を緩和することができる。
【0043】
工程7(
図3(a)参照)は、非高圧部含浸体を製作するトランスファ成形工程が示されている。当該工程7で用いられる金型CS1は、高圧部含浸体100を金型内部へ収容させると、コイルアセンブリの周囲に第1の空間Xを形成させる。そして、工程7では、加圧・溶融させた熱硬化性樹脂をプランジャーから圧入させ、当該熱硬化性樹脂R1を第1の空間Xへ充填させる。このため、コイルアセンブリは、熱硬化性樹脂R1によって其の周辺が含浸され、熱硬化処理によって、第1の空間Xに相当する部位が非高圧部含浸体として形成(製作)される。
【0044】
特に、工程7で製作される非高圧部含浸体は、コイルアセンブリ周辺の主体部構造に相当するものであって、後述するコネクタ部及びフランジ部といった複雑な形状を含むものではない。このため、工程7では、熱硬化性樹脂R1を溶融・加圧して金型へ圧入(トランスファー成形)して低圧領域の構造を製作するものの、其の圧入させるべき空間形状が簡素化されているので、金型チャンバー内の圧力を低く設定することが可能となる。従って、かかる成形工程では、仮組されたコイルアセンブリのレイアウトを崩すことなく、正規のレイアウトにて当該部品を含浸・硬化させることが可能となる。
【0045】
また、本実施例に係る点火コイルによると、要求耐電圧に応じて異なる含浸体が形成されるので、絶縁充填材に関する事項は、各々の含浸体に対応して個別的に設定される。例えば、高圧部含浸体100は、高耐圧に適したエポキシ材を用いることで点火コイル全体としての絶縁性を向上させることができる。また、非高圧部含浸体では、安価な樹脂材を用いることができ、更に、熱硬化工程における熱処理条件を緩和させることが可能となる。尚、トランスファ成形工程で用いられる熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂,不飽和ポリエステル,エポキシ樹脂等、機械的強度・絶縁性能に応じて適宜選択されるものである。
【0046】
工程8(
図3(b)参照)は、追加構造体を製作する射出成形工程が示されている。当該工程8で用いられる金型CS2は、工程7で製作された中間製作物を金型内部へ収容させると、当該中間製作物のうち非高圧部含浸体235の周囲に第2の空間A〜Bが形成される。この第2の空間A〜Bは、何れも、中間製作物の熱硬化性樹脂235の一部表面に接する部位(接触空間部位)に設けられている。従って、工程8では、溶融された熱可塑性樹脂(PPS,PBT等)が当該空間A〜Bへ充填されると、この熱可塑性樹脂が接触空間部位にも行渡り、熱可塑性樹脂自身の構造と非高圧部含浸体とが其の接触面で付着することとなる。以下、空間A〜Bに形成される構造体を、追加構造体と呼ぶこととする。
【0047】
図示の如く、空間Aに形成される追加構造体は、コネクタ端子を配備させたコネクタ部234である。従って、ここでの追加構造体234は、コネクタ端子を内部へ格納するような殻状体とされる為、複雑な形状を呈している。しかし、本実施例によれば、非高圧部含浸体が既に硬化されているので、金型CS2のチャンバー内が高圧になっても、コイルアセンブリのレイアウトは守られる。従って、本実施例では、溶融樹脂を加圧・圧入させる射出成形方法を採用し、複雑な形状部であっても樹脂が確実に廻るよう工夫されている。
【0048】
また、空間Bに形成される追加構造体は、金属ブッシュ233を収容させたフランジ部232である。この追加構造体232にあっても、非高圧部構造体の後工程で製作することで、当該非高圧部構造体の形状を簡素化させる役割を果たす。そして、フランジ部232は、射出成形工程で形成されることにより、其れ自身の品質が守られる。
【0049】
本実施例によると、追加構造体が非高圧部構造体とは別の工程で製作されるので、コイルアセンブリ周囲の絶縁構造の製作が既に完了しており、当該コイルアセンブリのレイアウトを崩すことがない。このため、射出成形工程では、所望の圧力にて溶融樹脂を供給することが可能となり、これによって形成される追加構造体の品質が保たれる。
【0050】
かかる工程8は、金型CS2のチャンバー部に樹脂が充填されると、これを温度制御(冷却)することで内部の熱可塑性樹脂が硬化される。そして、かかる工程が終了すると、チャンバー内から成形物が取り出され、当該成形物の周囲のバリが除去され、点火コイル10の要部が完成する(工程9参照)
【0051】
本実施例の更なる特徴として、トランスファ成形工程は、コネクタ端子(導電構造の一例)又は金属ブッシュへ導通する中継導体(導電構造の一例)を非高圧部構造体の外部へ突出するように、これら導電構造の一部が熱硬化性樹脂によって含浸される。即ち、工程7の完了時では、かかる導電構造の一端が非高圧部構造体によって支持されることとなる。
【0052】
そして、射出成形工程は、先の熱硬化性樹脂から外部へ突出した構造部位を含んだ状態で、追加構造体を形成させている。即ち、コネクタ端子等の導電構造は、一方の領域で非高圧部含浸体に固着され、他方の領域では追加構造体に固着されることとなる。このため、非高圧部含浸体と追加構造体とは、双方構造体の境界における付着力のみならず、導電構造と樹脂材との固着力によっても、双方が強固に固定されることとなる。
【0053】
特に、この導電構造は、非高圧部含浸体と追加構造体との付着面を通過するよう配されるのが好ましい。これにより、導電構造は、当該付着面の剥離が生じないよう、当該付着面を境とする双方樹脂の骨組として機能する。