特許第5934530号(P5934530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5934530特異なスクリューヘッドを備えた射出成形機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934530
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】特異なスクリューヘッドを備えた射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/60 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   B29C45/60
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-61240(P2012-61240)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-193282(P2013-193282A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】509207586
【氏名又は名称】株式会社アスカ工業
(74)【代理人】
【識別番号】100116481
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】末岡 憲治
【審査官】 井上 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−503725(JP,A)
【文献】 特開2011−148188(JP,A)
【文献】 特開平11−129299(JP,A)
【文献】 特開平9−70863(JP,A)
【文献】 特開平4−28518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に溝が設けられているとともに、樹脂排出口側の溝の断面積が樹脂導入口の溝の断面積に対して、1.1〜2.0倍であるスクリューヘッドを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に2〜8本の溝が設けられているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
表面にスクリューの軸に対して5〜60°の角度で溝が設けられているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項4】
表面に設けられた樹脂導入口の溝の断面形状が樹脂排出口側の溝の断面形状に対して横長であるスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形機。
【請求項5】
表面に設けられている溝の断面形状が樹脂導入口から樹脂排出口側に向って順次変化しているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は樹脂成形に好適な特異な形状のスクリューヘッドを備えた射出成形機に関するものであり、特に溶融樹脂の均質性及び流動性を向上させることに優れた特異なスクリューヘッドを備えた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
無機部材を含んだ高機能樹脂成形品を射出成形機で成形することは、現在では汎用されているが、無機部材を含んだ樹脂を射出成形機の成形素材として使用することは、シリンダーやスクリューの表面損傷及び耐久性に対して大きな負担となるため、より効率的に成形するための種々の改良が行われている。
例えば、ホッパーから充填された無機部材を含んだ樹脂を均質で効率的に可塑化できるよう、シリンダーやスクリューを改良することは勿論、スクリューヘッドと呼ばれるスクリューの先端部の構造も種々改良されている。
具体的には、溶融樹脂を先端部へ良好に誘導するために、スクリューヘッドにスクリュー軸と平行な溝を設ける構造のものがある(特許文献1)。しかしながら、シリンダー内の樹脂はスクリューの回転に伴って螺旋状に回転しながら可塑化及び溶融されて移送されるため、溝がスクリュー軸に対して平行に設けられているスクリューヘッドでは溶融樹脂の移送が円滑に行われないという問題がある。
【0003】
この様な従来のスクリューヘッドの問題点を解消するため、スクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に溝を設け、スクリューの回転力を利用して溶融樹脂を効率的にノズル方向へ移送できるようにしたものがある(特許文献2)。このような構造のスクリューヘッドについては、スクリューヘッドと連通又は閉鎖することができる逆止リングを組み合わせて樹脂の逆流を抑制する構造のもの(特許文献3)、スクリューヘッドを取り換え自在にしたもの(特許文献4)等に見られるように、種々の改良された形態が提示されている。
【0004】
しかしながら、従来から知られているものは、スクリューヘッド表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に設けられている溝の断面形状及び断面積が、樹脂導入口と樹脂排出口側で同じであることから、溶融樹脂が溝内を整流を形成しながら移送されるため、効率的な移送と均質な混合を行うことができず、スクリューヘッドの溝内に溶融樹脂が滞留する原因になっていた。そして、スクリューヘッドの溝内に滞留した溶融樹脂が熱分解によって炭化して製品中に異物として混入し、不良品としてトラブルを引き起こす原因にもなっていた。特に、食品容器、医療用器具、光学部品の分野ではこのような異物の混入は絶対に許されないため、良好なスクリューヘッドを備えた射出成形機の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−030016号公報
【特許文献2】特開平09−070863号公報
【特許文献3】特開平08−142138号公報
【特許文献4】特開2010−241010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、従来から使用されているスクリューの軸に対して傾斜する方向に溝が設けられたスクリューヘッドを備えた射出成形機における、溶融樹脂がスクリューによって充分に可塑化されているにもかかわらず効率的に移送できないという問題を解決するものであり、スクリューヘッドの樹脂流路内に溶融樹脂を滞留させることなく確実に定量移送することができるスクリューヘッドを備えた射出成形機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、溶融樹脂を均質に混合しながら円滑にスクリューヘッドに移送することができる射出成形機を提供するものであり、第1の発明によれば、スクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に溝が設けられているとともに、樹脂排出口側の溝の断面積が樹脂導入口の溝の断面積に対して、1.1〜2.0倍であるスクリューヘッドを備えたことを特徴とする射出成形機を提供する。
第2の発明によれば、表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に2〜8本の溝が設けられているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機を提供する。
第3の発明によれば、表面にスクリューの軸に対して5〜60°の角度で溝が設けられているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機を提供する。
第4の発明によれば、表面に設けられた樹脂導入口の溝の断面形状が樹脂排出口側の溝の断面形状に対して横長であるスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形機を提供する。
第5の発明によれば、表面に設けられている溝の断面形状が樹脂導入口から樹脂排出口側に向って順次変化しているスクリューヘッドを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の射出成形機を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、スクリューヘッドの表面にスクリューの回転する方向と同じ方向に傾斜する螺旋状の溝を設けることにより、スクリューの回転によって生じる溶融樹脂の流れを利用して溝内の樹脂の流れを円滑にすることができる。また、スクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜した螺旋状の溝を設けるとともに、該溝の断面形状を、樹脂の移送方向に向かって順次、横長(浅い)から縦長(深い)に変化させながら断面積を大きくすることにより、溶融樹脂の流れを整流から乱流に変化させて成形部材を均質に混合することができ、溶融樹脂を溝内に滞留させることなく定量供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本願発明のスクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜する方向に溝が設けられた射出成形機の要部を示した模式図である。
図2】本願発明のスクリューヘッドのA−A断面図、B−B断面図である。
図3】本願発明の他の構造のスクリューヘッドのA−A断面図、B−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
スクリューヘッドの表面にスクリューの軸方向に対して傾斜する方向に溶融樹脂を移送するための溝が設けられた射出成形用スクリューは、先行技術として提示しているように本出願前に知られており、該溝の断面形状は一般にU字型である。本願発明は従来から知られている射出成形用のスクリューをさらに改良するものであり、スクリューヘッドの表面に、前記U字型の溝を複数設けるとともに、このU字型の溝の断面形状を、樹脂導入口から樹脂排出口側に向って徐々に変化させ、樹脂排出口側の溝の断面積を、樹脂導入口に比べて1.1〜2.0倍程度大きくすることに特徴を有するものである。そして、このU字型の溝の断面形状は、樹脂導入口から樹脂排出口側に向って徐々に横長から縦長に変化させることがより好ましい。
【0011】
U字型の溝の断面形状を前述のように変化させることの意味は、樹脂導入口側の溝を横長にすることで、回転しながら送られてくる溶融樹脂がスクリューに導入され易くなるとともに、ノズル方向に行くに従って断面積を拡大して容積を大きくすることで、溶融樹脂に乱流が発生し、均質に混合された複合部材を射出することを可能にするものである。
なお、本願発明ではスクリューヘッドの表面に設ける溝の断面形状をU字型として説明しているが、溝の断面形状はU字型に限定されるわけではなく、例えばV字型などでもよい。必要なことは、樹脂導入口に比べて樹脂排出口側の断面積を大きくして、溶融樹脂を整流から乱流に変化させて均質に混合できるようにすることである。
すなわち、本願発明の特徴は、スクリューヘッドの表面に設けられたスクリューの軸に対して傾斜した溶融樹脂を移送するための溝の断面形状を徐々に変化させ、樹脂導入口に比べて樹脂排出口側の断面積を大きくして溶融樹脂の移送時に乱流を発生させる点にある。
以下、本願発明を図1図3に従って詳細に説明する。
【0012】
図1は、本願発明のスクリューヘッドの表面にスクリューの軸に対して傾斜した溝が設けられた射出成形機の要部を示した模式図ある。図1における(1)は射出成形機のシリンダー、(2)はスクリューヘッド、(3)はスクリュー、(4)はスクリューヘッドに設けられたスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝を示している。
なお、図1ではスクリューヘッド(2)に設けられたスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝(4)が1本だけ設けられたものが示されているが、これは発明の態様を分かり易く説明するためであり、実際のスクリューヘッド(2)におけるU字型の溝(4)は2〜8本程度設けることが好ましく、U字型の溝(4)のスクリュー(3)の軸に対する傾斜角度は5〜60°が好ましい。このスクリューヘッドに設けられるU字型の溝(4)の本数やスクリューの軸芯に対する傾斜角度は、使用する樹脂の物性や混合する部材の混合割合によって調整すればよい。
【0013】
図2のAは、図1のスクリューの軸に対して傾斜した溝(4)が設けられているスクリューヘッド(2)をA−Aで切断した時の断面図であり、Bは同じスクリューヘッド(2)をB−Bで切断した時の断面図である。
なお、図1では発明の態様を分かり易くするために、スクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝(4)が1本設けられているが、図2のA及びBでは、U字型の溝(4)が4本設けられている態様が示されている。図2のAにおける(1)はシリンダーであり、(2)は円錐形のスクリューヘッドであり、(4)はスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝である。また、図2のBにおける(1)はシリンダーであり、(2)は円錐形をしたスクリューヘッドであり、(4)はスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝を示している。
【0014】
図2のA及びBの断面図からも分かるように、スクリューヘッド(2)に設けられているスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝(4)の形状は、Aにおいては幅広で浅く、Bにおいては幅が狭く深い構造になっている。また、図3図2と異なる形態のスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝(4)を示したものであり、図2に示されているものと図3に示されているものとは溝の断面形状が異なるだけで本質的な差異はない。
なお、図2のB、図3のBにおいて、A−AとB−Bの溝(4)は直線で結ばれているが、これは説明を分かり易くするために単純化したものであり、図2及び図3の態様を正確に記載する場合は、A−AとB−Bの溝(4)は曲線で、且つ破線になる。
【0015】
本願発明における最も特徴的な構成は、図2のように、スクリューヘッド(2)に設けられているスクリューの軸に対して傾斜して設けられたU字型の溝(4)の断面形状が、Aにおいては幅広で浅く、Bにおいては幅が狭く深い構造を有する点であるが、断面形状を図3のように変化させてもよく、具体的には、図2及び図3のAにおける溝(4)の断面積に対して、図2及び図3のBにおける溝(4)の断面積は1.1〜2.0倍が好ましく、特に1.2〜1.5倍が好ましい。すなわち、本願発明の特徴は、樹脂排出口側の溝(4)の断面積を、樹脂導入口側の溝(4)の断面積より大きくして乱流を発生させることにより、溶融した樹脂が複雑な流れを形成し、効率的にしかも均質な混合を可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本願発明のスクリューベッドを備えた射出成形機は食品容器、医療用器具、光学部品のような、異物の混入が特に制限された樹脂成形に好適である。
【符号の説明】
【0017】
1 射出成形機のシリンダー
2 スクリューヘッド
3 スクリュー
4 スクリューの軸方向に対して傾斜して設けられた溝
図1
図2
図3