【実施例】
【0014】
以下、本発明を適用した車体構造の実施例について説明する。
実施例の車体構造は、例えば乗用車等の自動車のボディに適用されるものである。
図1は、実施例の車体構造を適用した自動車用車体の模式的外観斜視図であって、ホワイトボディ(未艤装車体)を斜め前方の斜め上方側から見た図である。
実施例において、車両は例えばステーションワゴン型の乗用車である。
【0015】
車体1は、フロアパネル10、トーボード20、フロントサイドフレーム30、サイドストラクチュア40、ルーフクロスメンバ51〜53等を有して構成される鋼製モノコックボディである。
【0016】
フロアパネル10は、車室床面部を構成するパネル状の部材である。
フロアパネル10の車幅方向における中央部には、トランスミッション、プロペラシャフト、エキゾーストパイプ等が収容されるフロアトンネル11が形成されている。
フロアトンネル11は、フロアパネル10の中央部を上方に張り出させて形成され、車両の前後方向に延びている。
【0017】
トーボード20は、車室とエンジンルームとを区画する隔壁である。
トーボード20は、フロアパネル10の前端部から上方へ延びて配置されている。
【0018】
フロントサイドフレーム30は、車室前方に設けられ、エンジンE(
図6等参照)が収容されるエンジンルームの左右側部から、フロアパネル10前半部の下面部にかけて車両前後方向に延びて配置された車両の構造部材である。
フロントサイドフレーム30は、エンジンルームを挟み、左右に離間して1対が設けられている。
フロントサイドフレーム30は、エンジンルームの側部においては、閉断面を有する梁状に形成されている。
【0019】
また、フロントサイドフレーム30は、フロアパネル10の下方においては、フロアパネル10の下面部に、下側が凸となるハット状の部材を溶接することによって、実質的に閉断面に形成されている。
なお、本明細書等において、ハット状とは、フロアパネル10に対して上方又は下方へ張り出した凸部の両側に、フロアパネル10に沿ってフランジ状に張り出した溶接しろを有する形状を指すものとする。
【0020】
フロントサイドフレーム30におけるトーボード20近傍の上部には、図示しないフロントサスペンションストラットの上部が取り付けられるマウント部31が形成されている。
左右のフロントサイドフレーム30の前端部間は、梁状の部材であるバンパビーム32によって接続されている。
左右のフロントサイドフレーム30は、フロアパネル10の前端部近傍において、
図2に示すクロスメンバ33によって連結されている。
【0021】
サイドストラクチュア40は、車室側面部を構成する部分であって、サイドシル41、Aピラー42、Bピラー43、リアクォータ44、Cピラー45、Dピラー46、ルーフサイドフレーム47等を有して構成されている。
【0022】
サイドシル41は、前輪ホイールハウスと後輪ホイールハウスの間において、フロアパネル10の左右側端部に沿って車両前後方向に延在する部材である。
サイドシル41は、車両前後方向から見た断面が実質的に閉断面となるように形成されている。サイドシル41の構成については、後に詳しく説明する。
サイドシル41は、図示しないフロントドア及びリアドアがそれぞれ設けられるフロントドア開口及びリアドア開口の下端部をそれぞれ構成する。
【0023】
図2は、
図1の車体のサイドシル前端部を車両下方側から見た外観斜視図である。
図3は、
図1の車体のサイドシル前端部を車両下方側から見た平面視図である。
図2、
図3に示すように、サイドシル41の前端部は、前輪FWの後方側に対向して配置され、車両のスモールオーバーラップオフセット衝突時には、車体1に対して相対的に後退してきた前輪FWから後向きの圧縮荷重が入力される。
【0024】
Aピラー42は、サイドシル41の前端部から上方へ延びた柱状の部分である。
Aピラー42の下部は、トーボード20の側端部に沿って配置されている。
Aピラー42の上部は、図示しないフロントガラスの側端部に沿って配置されている。
また、Aピラー42は、図示しないフロントドアのヒンジが設けられるとともに、フロントドア開口の前部を構成する。
【0025】
Bピラー43は、サイドシル41の中間部から上方へ延びた柱状の部分である。
Bピラー43は、図示しないフロントドアのラッチ及びリアドアのヒンジが設けられるとともに、フロントドア開口の後部、及び、リアドア開口の前部を構成する。
【0026】
リアクォータ44は、サイドシル41の後端部よりも後方の車体側面部の下半部を構成する部分である。
Cピラー45及びCピラー46は、リアクォータ44の上端部における前端部及び後端部から上方へ延びて形成されている。Cピラー45及びDピラー46の間には、図示しないリアクォータガラスが設けられる。
リアクォータ44の前端部には、図示しないリアドアのラッチが設けられる。
また、リアクォータ44の前端部及びCピラー45は、リアドア開口の後部を構成する。
【0027】
ルーフサイドフレーム47は、車両のルーフ側端部に沿って車両の前後方向に延びた部材であって、Aピラー42、Bピラー43、Cピラー45、Dピラー46の上端部を順次連結するものである。
ルーフサイドフレーム47は、フロントドア開口、リアドア開口の上部を構成するとともに、図示しないリアクォータガラスの上端部を保持する。
【0028】
ルーフクロスメンバ51,52,53は、車幅方向にほぼ沿って配置され、左右のルーフサイドフレーム47を連結する部材である。
ルーフクロスメンバ51は、左右のAピラー42の上端部近傍を連結する。
ルーフクロスメンバ52は、左右のBピラー43の上端部近傍を連結する。
ルーフクロスメンバ53は、左右のDピラー46の上端部近傍を連結する。
【0029】
また、車体1は、シートクロスメンバ61,62、トルクボックス70、ダイアゴナルメンバ80等を備えている。
【0030】
シートクロスメンバ61,62は、図示しないフロントシートのシートレールが固定される基部であるとともに、車体1の補剛のため、フロアパネル10の上面に沿って車幅方向に延びて配置された部材である。
シートクロスメンバ61,62は、車幅方向から見た断面形状が上方に凸となるハット状断面のパネルを、フロアパネル10の上面部にスポット溶接することによって、フロアパネル10との間に実質的に閉断面部を形成する。
シートクロスメンバ61,62は、フロアトンネル11の側面部と、サイドシル41の車幅方向内側の面部とを連結している。
シートクロスメンバ61は、車両前後方向における位置が、Aピラー42の下端部とBピラー43の下端部との間に配置されている。
シートクロスメンバ62は、車両前後方向における位置が、Bピラー43の下端部近傍に配置されている。
【0031】
トルクボックス70は、フロアパネル10の前端部とトーボード20の下端部との接続部近傍の領域において、フロントサイドフレーム30の中間部とサイドシル41の前端部とを連結する部材である。
トルクボックス70は、例えば、鋼板をプレス加工して成型したパネル状の部材である。
トルクボックス70は、車幅方向に延びて形成されかつ下方へ張り出して形成された凸部を有し、この凸部は、フロアパネル10の下面部との間に閉断面部71a、71bを形成する。
閉断面部71a、71bは、車両の前後方向に配列され、フロントサイドフレーム30と後述するダイアゴナルメンバ80の前端部82との間を、車幅方向にほぼ沿って連結している。
【0032】
ダイアゴナルメンバ80は、トルクボックス70とサイドシル41との連結部、及び、フロントサイドフレーム30を連結する補強部材である。
ダイアゴナルメンバ80は、例えば、鋼板をプレス加工して成型したパネル状の部材である。
ダイアゴナルメンバ80は、前端部が後端部に対して車幅方向外側に広がるよう、車両前後方向及び車幅方向に対して傾斜して配置されている。
ダイアゴナルメンバ80は、長手方向から見た断面形状が下方に凸となるハット状断面のパネルを、フロアパネル10の下面部にスポット溶接することによって、フロアパネル10との間に閉断面部81を形成するようになっている。この閉断面部81は、トルクボックス70及びサイドシル40の結合部と、フロントサイドフレーム30との間にわたして配置されている。
【0033】
以下、フロアパネル10、フロントサイドフレーム30、サイドシル41、トルクボックス70、ダイアゴナルメンバ80のパネル構成(板組み)について、より詳細に説明する。
図4は、
図2のA−A部、B−B部、C−C部の模式的矢視断面図である。
図4(a)は、A−A部を示し、
図4(b)は、B−B部を示し、
図4(c)は、C−C部を示している。
【0034】
図3及び
図4(a)に示すように、ダイアゴナルメンバ80の前端部82は、トルクボックス70の内側(トルクボックス70とフロアパネル10との間)に挿入され、平面視においてトルクボックス70と重なって配置されている。
前端部82の車幅方向外側の面部は、サイドシル41の車幅方向内側の面部と当接している。
図4(a)等に示すように、サイドシル41は、車幅方向外側に配置されたアウタパネル41aと内側に配置されたインナパネル41bとを上下端に設けられたフランジ部でスポット溶接することによって、実質的に矩形の閉断面を有するよう構成されている。
また、サイドシル41の内側には、アウタパネル41aとインナパネル41bとの間に挟まれて配置され、閉断面の中央部に配置されるリンホースメント41cが設けられている。
【0035】
フロアパネル10の側端部は、上方に立ち上げられたフランジ部が、インナパネル41bの車幅方向内側の面部の上下方向における中間部にスポット溶接され、ダイアゴナルメンバ80は、フロアパネル10の下方側において、インナパネル41bの側面部に突き当てられている。
また、トルクボックス70は、この領域では、サイドシル41の下面部及びダイアゴナルメンバ80の下面部に、それぞれスポット溶接によって結合されている。
また、
図3に示すように、ダイアゴナルメンバ80の閉断面部81の前端部は、サイドシル41の前端部よりも車両前方側に配置されている。
【0036】
また、
図4(b)に示す
図4(a)の後方側の領域では、トルクボックス70は、フロアパネル10と車幅方向にわたって当接するとともに複数個所でスポット溶接され、これによって
図4(a)に示す閉断面部71aの後方側は閉じられている。
また、ダイアゴナルメンバ80の周囲においては、トルクボックス70は、ダイアゴナルメンバ80の閉断面部81の下面及び側面にスポット溶接により接合されている。
【0037】
また、
図4(c)に示すダイアゴナルメンバ80のフロントサイドフレーム30との接合部においては、ダイアゴナルメンバ80はサイドシル41からは離間するとともに、車幅方向内側の側端部83がフロントサイドフレーム30の下面にスポット溶接によって接合されている。この部分では、フロントサイドフレーム30及びダイアゴナルメンバ80の閉断面部81のフロアパネル10下面からの突出高さは、実質的に同等に設定されており、側端部83は、閉断面部81の下面部から車幅方向に突き出して形成されている。
【0038】
また、ダイアゴナルメンバ80とフロントサイドフレーム30との接合部の上部(フロアパネル10の上面側)には、上述したシートクロスメンバ61が設けられている。
ダイアゴナルメンバ80の閉断面部81は、トルクボックス70の後端部からフロントサイドフレーム30との接合部近傍まで、実質的にストレートに形成されるとともに、車両の前後方向及び車幅方向に対して斜めに形成されている。
【0039】
以下、上述した実施例の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。
比較例の説明において、上述した実施例と実質的に共通する部分については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
比較例の車体構造は、実施例におけるダイアゴナルメンバ80を設けていないものである。
【0040】
以下、実施例及び比較例の車体におけるスモールオーバーラップオフセット衝突時の車体変形について説明する。
図5は、比較例の車体構造におけるオフセット衝突時の車体変形を示す模式図であって、
図5(a)は衝突前の状態を示し、
図5(b)は衝突後の状態を示している。
比較例においては、フロントサイドフレーム30の外側に障害物Bが衝突した場合に、前輪FWが車体に対して相対的に後退してサイドシル41の前端部に衝突する。
これにより、サイドシル41を含むサイドストラクチュア40が車体1の他部に対して相対的に後退する。
サイドストラクチュア40が後退することによって、Aピラー42に取り付けられたステアビームの後退や、フロアパネル10とサイドシル41との溶接箇所の破断が発生する。
また、サイドシル41に圧縮荷重が集中的に負荷されることによって、サイドシル41の座屈変形、折れが発生する。
【0041】
図6は、実施例の車体構造におけるオフセット衝突時の車体変形を示す模式図であって、
図6(a)は衝突前の状態を示し、
図6(b)は衝突後の状態を示している。
実施例においては、前輪FWが車体1に対して相対的に後退した場合に、サイドシル41よりも先にダイアゴナルメンバ80に荷重が入力される。
ダイアゴナルメンバ80は、前端部82から入力された圧縮荷重を、閉断面部81を経由してフロントサイドフレーム30のシートクロスメンバ61近傍の部分に伝達する。
これによって、フロントサイドフレーム30のシートクロスメンバ61よりも前方側の部分にも引張応力が発生し、サイドストラクチュア40と、フロントサイドフレーム30等の車体1の他部との間で荷重位相差が軽減される。
その結果、サイドストラクチュア40の車体1の他部に対する後退が抑制され、Aピラー42及びステアビームの後退、ドア開口の大変形、フロアパネル10の破断等を抑制することができる。
【0042】
以上説明した本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)前輪FWが後退してトルクボックス70に荷重が入力された際に、直ちにダイアゴナルメンバ80を介してサイドストラクチュア40側からフロントサイドフレーム30側へ荷重を伝達することができる。これによって、フロントサイドフレーム30でエネルギを吸収することができ、サイドストラクチュア40周辺の変形を抑制することができる。さらにダイアゴナルメンバ80との結合部より前方のフロンドサイドフレーム30にも引張荷重が入力され、フロントサイドフレーム30とサイドストラクチュア40との荷重位相差が低減されてサイドストラクチュア40の後退、変形及びフロアパネル10の破断等を防止することができる。
(2)ダイアゴナルメンバ80の前端部をサイドシル41の前端部よりも車両前方側に配置したことによって、前輪FWからフロントサイドフレーム30への荷重伝達をより早期に行なうことができる。
(3)ダイアゴナルメンバ80のフロントサイドフレーム30との結合箇所を、シートクロスメンバ61が設けられた箇所とすることによって、フロアパネル10のフロアトンネル11側や反対側のフロントサイドフレーム30等の車体1の他部への荷重伝達を行い、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0043】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、車体構造を構成する各部材の構造、形状、材質、製法等は適宜変更することができる。
また、車形も実施例のようなステーションワゴン型に限らず、例えばセダン車、SUV車、多人数乗り車など適宜変更することができる。