(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明のパイプ3とホース5の接続構造1等の説明図である。
図2は、パイプ3のコーティング構造等の説明図である。
【0019】
図1のように、パイプ3とホース5はパイプ3の外表面側にホース5が挿入されることによって接続されている。
このパイプ3のパイプ内部空間31とホース5のホース内部空間51とは連通されている。パイプ内部空間31とホース内部空間51とはほぼ同一の直径を有するきわめて長い円柱状の形状を有し、このパイプ内部空間31とホース内部空間51を通って流体が圧送される。
ホース5は、ゴム、シリコン等によって形成された可撓性の管路部材である。
【0020】
パイプ3は、ホース5側のパイプ側端部32を有している。また、ホース5は、パイプ3側のホース側端部52を有している。
さらに、パイプ3は、他の部分より直径が大きくなることによって、ズレ及び抜けを防止するバルジ部36を有している。
また、バルジ部36よりもホース側端部52側、かつ、ホース5の外表面に、円筒状のクランプ7が配置される。
このクランプ7は、ホース5を内側方向に圧縮して、パイプ3とホース5の間の接触圧力を増加させて、摩擦力を増大させている。これによって、パイプ3とホース5との接続構造1にズレ及び抜けが生ずることを防ぐ役割がある。
【0021】
この接続構造1によって搬送される流体は、好適には、エンジンに供給するガソリン燃料である。
このようなガソリン燃料を圧送する管路(エンジンの燃料供給管路)の接続構造1は、その安全性を維持するために、高い防ズレ性能及び防抜け性能を有する必要がある。
さらに、パイプ3は防錆性能も有する必要がある。
【0022】
そこで、本実施形態では、パイプ3はFeを主成分とする円筒状の管である基部131によって形成される。
そして、この基部131の表面にZn(より正確には、Zn―Ni)による第1コーティング層132が形成される。この第1コーティング層132によって基部131に対する錆を防止することができる。
この第1コーティング層132は極めて薄いため、さらに、防錆性能を向上させるために3価クロメート(MFZnNi8−TK)によってコーティングした第2コーティング層133が形成される。
3価クロメート(黒色)による第2コーティング層133は、そのまま熱処理を行わなければ極めて高い防錆性能を発揮することができる。
しかし、逆に、防錆性能が高いということは、その表面が滑らかであることを意味する。
つまり、3価クロメートによる第2コーティング層133があることは、パイプ3とホース5との間のズレ及び抜けを防止するという観点からは不利である。
さらに、通常、パイプ3を製造する際には、製造装置等に機械油が用いられている、また、パイプ3を製造若しくは使用する人間の手等には油成分が含まれている。このような油がどうしても、パイプ3の外表面にほんのわずかな量は付着することが通常である。
そうすると、パイプ3からホース5がより少ない力で、ズレ及び抜けが生じてしまう。
【0023】
このズレ及び抜けを防止するために、本実施形態では、
図2以下で説明する熱処理を行っている。
【0024】
なお、パイプ3の3価クロメートによるコーティングは、従来は6価クロムによるコーティングが用いられていた。しかし、6価クロムについては、環境への問題からは現在は使用することは困難である。
そのため、本実施形態では、6価クロムによるコーティングではなく、3価クロメートによるコーティングを行っている。
【0025】
図3は、熱処理による、抜け圧及びズレ圧の熱処理の温度に対する圧力の変化を表したものである。
【0026】
図3のように、ズレ圧及び抜け圧の両者とも、熱処理温度が高くなるに従い高くなる傾向が生じていることが分かる。
【0027】
なぜこのような、ズレ圧及び抜け圧の増加が図られるのかについて、以下説明する。
【0028】
図4は、3価クロメートのコーティングに対して熱処理した場合の、熱処理の温度ごとの表面の状態の説明図である。
【0029】
図4のように、3価クロメートのコーティングは、100°C程度での熱処理を行うと、大きなクラックが生じずることが分かる。
そして、このクラックは温度が上昇するに従い大きくなることが分かる。
さらに、300°Cを超えると、クラックの間にさらに細かいクラックが生ずることが分かる。
なお、このクラックは、第2のコーティング層の3価クロメートまでは達するものの、第1のコーティング層にまでクラックを生じていないことが実験的に確かめられている。
【0030】
このように、クラックが生ずることによって、パイプ3の表面に凹凸ができることによって摩擦係数が増加して、ズレ及び抜けに強くなっている。
さらに、このクラックに、パイプ3の表面に付着した油等が流れ込み、パイプ3とホース5との接触面から油等が除去されることによって、摩擦係数が増加している。
この2つの効果によって、摩擦係数が増加して、ズレ及び抜けを防止することが可能となっている。
【0031】
図5は、熱処理と白錆の発生時間の関係の説明図である。
【0032】
図5のように、3価クロメートのコーティングを行っても、熱処理を行った場合、その耐錆性は大幅に低下する。
具体的には、100°C程度から低下が始まり、ほぼ150°Cでそのコーティングの効果が著しく低下することが分かる。
さらに、200°Cになるとほぼ完全にコーティングの結果がなくなっている。
これは、クラックの発生によって、3価クロメートによるコーティングしていない部分が生じてしまうからである。
換言すると、100°C以上で熱処理すれば摩擦係数を増加を開始させることが可能であり、150°C以上で熱処理すれば必要とされる程度に摩擦係数を増加させることが可能であり、200°C以上で熱処理すれば最大まで摩擦係数を増加させることが可能である。
【0033】
なお、同じ3価クロムのコーティングであっても、有色化成処理(IZ−264)の薄膜のようなコーティングの場合には、熱処理してもクラックは発生するものの、そのクラックの発生数は僅かであり、本実施形態の3価クロメート(黒色)のように、摩擦係数の増加はほとんど生じない。
【0034】
以上をまとめると、3価クロメートのコーティングをして熱処理を行わない場合には、高い防錆性能を発揮することができる。
他方、少なくとも100°C以上(好適には、150°C以上、更に好適には200°C以上)の熱による熱処理を行った場合には、防錆性能は大幅に低下するが、摩擦係数を大きくすることができる。
【0035】
そのため、本実施形態では、
図1のように、パイプ3のパイプ側端部32側に熱処理を行った熱処理部33を形成している。
この熱処理部33のパイプ側端部32とは反対側には、熱処理が行われていない非熱処理部35が形成されている。
そして、熱処理部33と非熱処理部35との間には、中間層34が形成されている。
この中間層34は、熱処理部33を熱処理する際に、熱が伝わってしまい一部熱処理が行われしまったのと同様になってしまう部分をいう。
パイプ3が金属で形成されており、熱伝導性が高いためどうしてもこのような中間層34が形成されてしまう。
ただし、この中間層34はできるだけ少ない面積であることが好ましいので、高周波加熱等を用いて短時間で熱処理を行うことが好適である。もっとも、熱処理の方法をこれに限定する趣旨ではない。
【0036】
なお、バルジ部36も熱処理部33に含まれる。
また、熱処理部33及び中間層34はホース5によって覆われることになる部分に形成することが必要である。
なぜなら、熱処理部33(中間層34)は、前述したように防錆性能が低い部分であり、この部分を空気中に曝してしまうと、錆の原因になってしまうからである。
換言すると、熱処理部33(中間層34)がホース5によって覆われる部分であれば、ホース5が水及び空気を遮断してくれるため防錆性能を犠牲にすることが可能であるからである。
【0037】
更に換言すると、熱処理部33(中間層34)がホース5によって覆われる部分であるということは、摩擦等によってズレ及び抜けを防止する必要がある部分のみに、クラックを生じさせて摩擦の増大させている、及び、油等の排除をさせているということもできる。
【0038】
なお、コーティングは防錆性能を向上させるために行われるため、本実施形態のようにわざと、防錆性能を低下させる熱処理を行うことは通常行われていない。本実施形態では、ホース3部分については、コーティングを行う必要が無いことを見出し、さらに、熱処理を行えばクラックによる摩擦力の向上を図っている。
【0039】
<実施形態の構成及び効果>
本実施形態のパイプ3とホース5の接続構造1は、金属によって形成されたパイプ3と、パイプ3のパイプ側端部32に、パイプ3の外側を囲うように挿入されている可撓性のホース5と、を有し、パイプ3の外表面は3価クロメートによってコーティングされ、パイプ3の一部にのみ、コーティングされた3価クロメートの表面にクラックが生ずる温度によって熱処理が行われている。
このような構成を有することから、効果的にズレ及び抜けを防止することができる。
【0040】
熱処理の温度は、100°C以上である。
このような構成を有することから、パイプ3の表面にクラックを発生させることができる。
【0041】
熱処理の温度は、150°C以上である。
このような構成を有することから、パイプ3の表面にクラックをほぼ確実に発生させることができる。
【0042】
熱処理の温度は、200°C以上である。
このような構成を有することから、パイプ3の表面にクラックを完全に発生させることができ、更に細かいクラックを発生させることができる。
【0043】
熱処理が行われるのは、前記パイプの前記可撓性ホースに囲われる部分である。
このような構成を有することから、熱処理をしてクラックを発生させても、その部分から錆が生ずることが無い。
【0044】
パイプ3の熱処理が行われている部分(熱処理部33)は、他の部分より外表面方向に張り出したバルジ部36を有し、ホース5の外表面には、ホース5を内側方向に圧縮させるクランプ7が位置し、クランプ7は、パイプ3の熱処理が行われる部分、かつ、バルジ部36よりも熱処理が行われていない側に位置している。
このような構成を有することから、接続構造1はよりズレ及び抜けに強い構造とすることができる。
【0045】
パイプは、亜鉛ニッケルメッキ膜厚によってコーティングされ、3価クロメートは、亜鉛ニッケルメッキ膜厚の外表面にコーティングされる。
このような構造を有することから、3価クロメートに加えて亜鉛ニッケルメッキ膜厚による防錆性能を発揮することができる。
【0046】
パイプ3とホース5の接続構造1が、本実施形態の車両のエンジンの燃料供給管路に適用されている。
これによって、車両のパイプ3とホース5の信頼性を向上させることができる。
【0047】
本実施形態のパイプ3は、金属によって形成された筒状の筒部を有し、筒部の外周側の表面は3価クロメートによってコーティングされており、筒部のうちホースが挿入された際には、当該ホースによって外周側が囲われる部分に熱処理が行われている。
このような構成を有することから、効果的にズレ及び抜けを防止することができる。
【0048】
本実施形態のパイプの表面処理方法は、金属によって形成された筒状の筒部に、3価クロメートによってコーティングする第1の工程と、前記筒部のうちホースが挿入された際には、当該ホースによって外周側が囲われる部分に熱処理を行う第2の工程と、を有する。
このような構成を有することから、効果的にズレ及び抜けを防止することができる。
【0049】
また、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々な変化した構造、構成、制御を行っていても良い。