特許第5934612号(P5934612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5934612車両用前照灯の点灯制御装置、車両用前照灯システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934612
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】車両用前照灯の点灯制御装置、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/24 20060101AFI20160602BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B60Q1/24 B
   B60Q1/14 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-193165(P2012-193165)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-58173(P2014-58173A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-184658(P2012-184658)
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤原 千佳
【審査官】 竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−185410(JP,A)
【文献】 特開2006−69298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/24
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用前照灯による光照射状態を制御するための点灯制御装置であって、
カメラにより撮影される自車両の前方の画像に基づいて前方車両及び歩行者の位置を検出する車両/歩行者検出部と、
前記車両/歩行者検出部によって検出される前記歩行者及び前記前方車両の位置に基づいて、前記歩行者と前記前方車両の単位時間あたりの相対的な位置変化量を検出する位置変化量検出部と、
前記位置変化量検出部によって検出される前記単位時間あたりの相対的な位置変化量に基づいて、前記歩行者と前記前方車両とが所定時間内に一定範囲まで接近するか否かを判定する接近判定部と、
前記接近判定部による判定結果が肯定的である場合には前記歩行者を含む領域の上方側を前記光の非照射範囲に設定して下方側を前記光の照射範囲に設定し、前記接近判定部による判定結果が否定的である場合には前記歩行者を含む領域の上方側及び下方側のいずれも前記光の照射範囲に設定する光照射範囲設定部と、
前記光照射範囲設定部によって設定される前記光の照射範囲及び前記光の非照射範囲に対応した制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する配光制御部と、
を含む、
車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項2】
前記単位時間あたりの相対的な位置変化量は、相対角速度である、
請求項1に記載の車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記車両/歩行者検出部により前記前方車両及び前記歩行者の位置が検出されてから前記配光制御部により前記制御信号が出力されて前記車両用前照灯による光照射状態が変化するまでに要すると想定される処理遅延時間であるか又は当該処理遅延時間に相関する時間である、
請求項1又は2に記載の車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項4】
前記車両/歩行者検出部によって検出される前記歩行者及び前記前方車両の位置に基づいて前記歩行者と前記前方車両とが重なったか否かを判定する歩行者重なり判定部、
を更に含み、
前記光照射範囲設定部は、前記歩行者重なり判定部により前記歩行者と前記前方車両が重なったと判定され、かつ前記歩行者より前記前方車両が手前と判断された場合には前記歩行者を含む領域のすべてを前記光の非照射範囲に設定する、
請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用前照灯の点灯制御装置と、
前記点灯制御装置によって制御される車両用前照灯、
を含む、車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前照灯による照射状態を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間に車両を走行させる際に、運転者は、基本的に前照灯によりハイビームを照射させることにより車両の前方を確認し、必要に応じてロービームに切り換えるが、切り替えの煩わしさや道路環境によりロービームを用いる場合も多い。このとき、いわゆるカットオフラインより上側に光を照射すると、対向車両や先行車両(以下、これらを「前方車両」という。)にグレアを与えるおそれがある。このため近年では、自車両に搭載されたカメラによって前方車両を撮影して得られる画像を用いて前方車両のランプ(テールランプまたはヘッドランプ)の位置を検出し、前方車両の位置が遮光範囲となるようにしてハイビームの照射パターンを制御する配光制御技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、前方車両へのグレアを抑制するとともに歩行者の早期発見や遠方視認性の向上を図ることができる。また、自車両の前方に存在する歩行者を検出してその領域にマーキングライトを照射することで、運転者による歩行者の早期発見を補助する技術も種々提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0003】
ところで、前方車両の近くに歩行者が存在し、この歩行者に対して自車両からマーキングライトを照射しているときに、例えばこの歩行者の位置が前方車両の側方に移動しつつある場合を考える。この場合に、前方車両や歩行者が移動して歩行者が前方車両に隠れると歩行者に対するマーキングライトの照射が停止されるが、実際には配光制御にタイムラグが生じ得る。このため、歩行者が前方車両に隠れた後にも少しの時間はマーキングライトの照射が継続してしまい、前方車両に対して一時的にグレアを与えてしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4624257号公報
【特許文献2】特開2006−159928号公報
【特許文献3】特開2008−120162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、歩行者に対してマーキングライトを照射する場合において前方車両へグレアを与えることを回避し得る配光制御技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の車両用前照灯の点灯制御装置は、車両用前照灯による光照射状態を制御するための点灯制御装置であって、(a)カメラにより撮影される自車両の前方の画像に基づいて前方車両及び歩行者の位置を検出する車両/歩行者検出部と、(b)車両/歩行者検出部によって検出される歩行者および前方車両の位置に基づいて、歩行者と前方車両の単位時間あたりの相対的な位置変化量を検出する位置変化量検出部と、(c)位置変化量検出部によって検出される単位時間あたりの相対的な位置変化量に基づいて、歩行者と前方車両とが所定時間内に一定範囲まで接近するか否かを判定する接近判定部と、(d)接近判定部による判定結果が肯定的である場合には歩行者を含む領域の上方側を光の非照射範囲に設定して下方側を光の照射範囲に設定し、接近判定部による判定結果が否定的である場合には歩行者を含む領域の上方側及び下方側のいずれも光の照射範囲に設定する光照射範囲設定部と、(e)光照射範囲設定部によって設定される光の照射範囲及び非照射範囲に対応した制御信号を生成して車両用前照灯へ出力する配光制御部を含む、車両用前照灯の点灯制御装置である。
【0007】
上記構成によれば、歩行者と前方車両とが所定時間内に一定範囲まで接近すると予測される場合に、歩行者を含む領域の上方側を光の非照射範囲に設定して下方側を光の照射範囲に設定してマーキングライトが照射される。したがって、歩行者に対してマーキングライトを照射する場合において配光制御のタイムラグに起因して前方車両へグレアを与えることを回避することが可能となる。
【0008】
上記の点灯制御装置においては、例えば、単位時間あたりの相対的な位置変化量が相対角速度であることが好ましい。
【0009】
これによれば、両者の相対的な位置変化量を簡単に求めることができる。特に、車両/歩行者検出部によって検出される歩行者および前方車両の位置が角度によって表されている場合にはそれらの値を用いることで位置変化量を簡単に求められる。
【0010】
上記の点灯制御装置において、例えば、所定時間は、車両/歩行者検出部により前方車両及び歩行者の位置が検出されてから配光制御部により制御信号が出力されて車両用前照灯による光照射状態が変化するまでに要すると想定される処理遅延時間であるか又は当該処理遅延時間に相関する時間であることが好ましい。
【0011】
これにより、配光制御のタイムラグに対応した所定時間を定めることができる。
【0012】
上記の点灯制御装置は、車両/歩行者検出部によって検出される歩行者及び前方車両の位置に基づいて歩行者と前方車両とが重なったか否かを判定する歩行者重なり判定部をさらに含み、光照射範囲設定部は、歩行者重なり判定部により歩行者と前方車両が重なったと判定され、かつ歩行者より前方車両が手前と判断された場合には歩行者を含む領域のすべてを光の非照射範囲に設定する、ことも好ましい。
【0013】
これにより、歩行者が前方車両と重なった場合においても確実にグレアを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る一態様の車両用前照灯システムは、上記した車両用前照灯の点灯制御装置と、この点灯制御装置によって制御される車両用前照灯を含んで構成される。
【0015】
これにより、歩行者に対してマーキングライトを照射する場合において前方車両へグレアを与えることを回避することが可能な車両用前照灯システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
図2図2(A)は、ランプユニットの構成例を示す模式図である。図2(B)は、ランプユニットの光学的な構成を示す模式図である。
図3図3は、図2(A)に示したランプユニットを用いて形成される配光パターンを説明するための図である。
図4図4は、マーキングライトの照射制御の概要を説明するための図である。
図5図5は、一実施形態の車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、一実施形態の車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。
図7図7(A)および図7(B)は、それぞれ、自車両、前方車両および歩行者の位置関係を説明するための図である。
図8図8(A)および図8(B)は、それぞれ、マーキングライトの照射制御について説明するための図である。
図9図9は、マーキングライトの照射制御における数値例を示すグラフである。
図10図10は、歩行者と前方車両の重なり検出処理をさらに加えた場合の車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。
図11図11(A)および図11(B)は、それぞれ、マーキングライトの照射制御について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。図1に示す車両用前照灯システムは、自車両の前方の空間(対象空間)を撮像して得られる画像に基づいて配光パターンを設定して光照射を行うものであり、カメラ10、車両/歩行者検出部11、制御部12、一対のランプユニット20R、20Lを含んで構成されている。なお、車両/歩行者検出部11および制御部12が点灯制御装置に相当し、各ランプユニット20R、20Lが車両用前照灯に相当する。
【0019】
カメラ10は、自車両の所定位置(例えば室内バックミラー付近)に設置されており、自車両の前方の空間を撮影し、その画像(画像データ)を出力する。
【0020】
車両/歩行者検出部11は、カメラ10から出力される画像データを用いて所定の画像処理を行うことにより、前方車両の位置および歩行者の位置をそれぞれ検出し、それぞれの位置情報を制御部12へ出力する。ここでいう「前方車両」とは、先行車両または対向車両である。この車両/歩行者検出部11は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現される。この車両/歩行者検出部11は、例えばカメラ10と一体に構成されている。なお、車両/歩行者検出部11の機能は制御部12において実現されてもよい。
【0021】
制御部12は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現されるものであり、機能ブロックとしての位置変化量検出部13、接近判定部14、歩行者重なり判定部15、光照射範囲設定部16および配光制御部17を備える。
【0022】
位置変化量検出部13は、車両/歩行者検出部11によって検出される歩行者および前方車両の位置に基づいて、歩行者と前方車両の単位時間あたりの相対的な位置変化量を検出する。本実施形態では、位置変化量として相対角速度が求められる。
【0023】
接近判定部14は、位置変化量検出部13によって検出される単位時間あたりの相対的な位置変化量に基づいて、歩行者と前方車両が所定時間内に一定範囲まで接近するか否かを判定する。
【0024】
歩行者重なり判定部15は、車両/歩行者検出部11によって検出される歩行者および前方車両の位置に基づいて、歩行者と前方車両が重なったか否かを判定する。
【0025】
光照射範囲設定部16は、車両/歩行者検出部11によって検出される歩行者および前方車両の各位置に応じた光照射範囲を設定する。具体的には、光照射範囲設定部16は、前方車両の存在する領域を光の非照射範囲としてそれ以外を光の照射範囲に設定するとともに、歩行者の存在する領域を周囲の領域より光強度の大きいマーキングライトの照射範囲として設定する。また、光照射範囲設定部16は、接近判定部14により歩行者と前方車両が接近したと判定された場合には歩行者を含む領域の上方側をマーキングライトの非照射範囲に設定し、下方側をマーキングライトの照射範囲に設定し、さらに歩行者重なり判定部15により歩行者と前方車両が重なったと判定され、かつ歩行者より前方車両が手前と判断された場合には歩行者を含む領域の上方側および下方側をともにマーキングライトの非照射範囲に設定する。
【0026】
配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定される光照射範囲に基づいてその配光パターンに応じた制御信号(配光制御信号)を生成し、各ランプユニット20R、20Lへ出力する。
【0027】
ランプユニット20Rは、自車両の前方右側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21およびマトリクスLED22を有する。同様に、ランプユニット20Lは、自車両の前方左側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21およびマトリクスLED22を有する。
【0028】
LED点灯回路21は、配光制御部17から出力される制御信号に基づいて、マトリクスLED22に含まれる複数のLED(発光ダイオード)に対して駆動信号を供給することにより、各LEDを選択的に点灯させる。
【0029】
マトリクスLED22は、マトリクス状に配列された複数のLEDを備えており、LED点灯回路21から供給される駆動信号に基づいて複数のLEDが選択的に点灯する。このマトリクスLED22は、複数のLEDをそれぞれ独立に点灯させ、かつその光強度(明るさ)を制御することが可能である。
【0030】
なお、図1においては図示を省略しているが、車速が速い場合の精度向上や遠方視認性の向上、カメラによる検知精度の向上を図るために近赤外線ランプをさらに用いてもよい。その場合には、カメラ10としても近赤外線カメラを用いる必要がある。また、歩行者検知用に遠赤外線カメラを用いてもよく、その場合には、車両のバンパー内など車両外に遠赤外線カメラを設置すればよい。
【0031】
図2(A)は、ランプユニットの構成例を示す模式図である。また、図2(B)は、各ランプユニットの光学的な構成を示す模式図である。図2(A)に示すランプユニット20R(または20L)は、ハイビーム部とロービーム部が一体化されたハイ/ロービーム部24を備える。ハイ/ロービーム部24は、上記したマトリクスLED22とその前面に配置されたレンズ23を備えており、マトリクスLED22から出射する光がレンズ23によって前方へ投影されることでハイビーム、ロービーム等が形成される。ここでは10行30列のLEDを備えるマトリクスLED22を想定している。
【0032】
図3は、図2(A)に示したランプユニットを用いて形成される配光パターンを説明するための図である。図3に示す配光パターンは、全体として10行30列の領域に分割されており、相対的に上側に配置されたハイビーム領域101と、相対的に下側に配置されたロービーム領域102を含んでいる。これら10行30列の領域に対して選択的に光照射が行われる。また、ハイビーム領域101とロービーム領域102との境界はカットオフライン103と呼ばれる(図中、点線で示す)。本例のカットオフライン103は、水平方向の略中央において段差を有しており、この段差より左側が右側よりも相対的にラインが高くなっている。このカットオフライン103は、概ね、前方車両111の上側よりも低い位置になり、かつ歩行者112の上半身(特に頭部)よりも低い位置となるようにその高さが設定される。
【0033】
図4(A)および図4(B)は、それぞれ、マーキングライトの照射制御の概要を説明するための図である。図4(A)に示すように、自車両110と前方車両(この場合、対向車両)111が相対しており、かつ前方車両111の側方に歩行者112が存在する場合を考える。この場合には、自車両110からは、自車両110の前方を照らすための照射光(ロービームやハイビーム)120のほかに、歩行者112を照らすためのマーキングライト121が歩行者112の方向に向けて照射される。このときに、本実施形態の車両用前照灯システムは、前方車両111や歩行者112の位置の時間的な変動量(位置変化量)を検出することにより歩行者112が前方車両111で隠されるまでに要する時間を予測し、この予測した時間に対応して歩行者112へのマーキングライト121の照射を停止する。それにより、図4(B)に示すように、実際に歩行者112が前方車両111で隠されたときには、すでにマーキングライト121が消灯されているので、前方車両111へグレアを与えることを回避できる。
【0034】
以下に、上記のようなマーキングライトの照射制御を実現するための動作手順について説明する。なお、通常のロービームやハイビームの照射制御については説明を省略する。また、マーキングライトについては、基本的に、ロービーム領域とハイビーム領域のいずれにおいても歩行者を含んだ領域が照射されているものとする。
【0035】
図5および図6は、それぞれ、一実施形態の車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。また、図7(A)および図7(B)は、それぞれ、自車両、前方車両および歩行者の位置関係を説明するための図である。また、図8(A)および図8(B)は、それぞれ、マーキングライトの照射制御について説明するための図である。
【0036】
カメラ10により撮影される自車両の前方の画像に基づいて、車両/歩行者検出部11により前方車両および歩行者の位置が検出される。この位置検出は、一定期間毎に実行される。本実施形態では、歩行者の位置情報としての角度αpと、前方車両の位置情報としての角度αc1、αc2が検出される。図7(A)あるいは図7(B)に示すように、歩行者112の角度αpは、自車両110の進行方向を基準とした相対的な角度で検出される。また、前方車両111の角度αc1は、自車両110の進行方向を基準とした前方車両111の左端(自車両110から見た左端)のランプ位置の相対的な角度で検出され、前方車両111の角度αc2は、自車両110の進行方向を基準とした前方車両111の右端(自車両110から見た右端)のランプ位置の相対的な角度で検出される。
【0037】
位置変化量検出部13は、歩行者の角度αpと前方車両の角度αc1、αc2を取得し(ステップS11)、歩行者の角度αpが前方車両の角度αc2よりも大きいか(αp>αc2か)を判定する(ステップS12)。αpがαc2より大きい場合というのは、図7(A)に示すように水平方向において歩行者112が前方車両111よりも自車両から遠い位置にいる場合に対応する。つまり、本ステップS12では、歩行者112が前方車両111よりも自車両110から遠いかどうかを判定していることになる。角度αpが角度αc2よりも大きくない場合には(ステップS12;NO)、後述するステップS19へ移行する。
【0038】
角度αpが角度αc2よりも大きい場合に(ステップS12;YES)、位置変化量検出部13は、歩行者と前方車両の右端との角度差(αp−αc2)を算出し、これを用いて歩行者と前方車両の単位時間あたりの相対的な位置変化量としての相対角速度ωを算出する(ステップS13)。ここで、相対角速度ωは、直近の2回の位置検出タイミングで算出された角度差(αp−αc2)の差分Δ(αp−αc2)をそれらの位置検出タイミングの相互間隔である単位時間Δtで除算することによって得られる。すなわち、ω=Δ(αp−αc2)/Δtを演算して得られる。
【0039】
次に、接近判定部14は、位置変化量検出部13によって求められた相対角速度ωを用いて、歩行者と前方車両が所定条件を満たした状態に接近したか否かを判定する(ステップS14)。この判定は、例えば以下の消灯判定式を用いて行われる。
αp−αc2<ω×Td×k
【0040】
ここで、Tdは配光制御に要する処理遅延時間であり、例えば160ミリ秒間に設定される。より具体的には、この処理遅延時間は、例えば車両/歩行者検出部11により前方車両と歩行者の位置が検出されてから配光制御部16により制御信号が出力されて各光学ユニット20R、20Lによる光照射状態が変化するまでに要すると想定される時間であり、予め実測することにより定めることができる。また、kは任意に設定される定数であり、例えば1に設定される。この定数kを処理遅延時間に乗算した値は、処理遅延時間に相関する時間となる。定数kを増減することで消灯判定式による判定結果を微調整することができる。すなわち、実際に車両用前照灯システムを動作させてみた際に、歩行者と前方車両との接近がより早いタイミングで検出されるようにしたい場合には定数kを1より小さい値に設定すればよいし、逆の場合には定数kを1より大きい値に設定すればよい。
【0041】
消灯判定式の技術的な意味は以下の通りである。相対角速度ωに処理遅延時間Tdと定数kを乗算した値が現在の歩行者と前方車両の角度差(αp−αc2)と一致する場合というのは、その時点から所定時間(Td×k)が経過した時には歩行者と前方車両の角度差が0になる場合といえる。すなわち、所定時間(Td×k)が経過した時には、歩行者の位置と前方車両の右端の位置がほぼ一致するほどに接近するということである。そして、角度差(αp−αc2)よりも(ω×Td×k)が大きくなるということは、所定時間(Td×k)が経過した時には歩行者が前方車両に隠れる状態になるほど接近するといえる。このため、消灯判定式に示す条件が満たされる場合には、所定時間(Td×k)内に歩行者が前方車両に隠れてしまうと予測される一定範囲まで両者が接近している状態であると判断できる。
【0042】
歩行者と前方車両が上記の所定条件を満たした状態で接近している場合には(ステップS14;YES)、その旨の判定結果が接近判定部14から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、カットオフライン(図3参照)より上方のマーキングライトを消灯し、カットオフラインより下方のマーキングライトを点灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS15)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。具体的には、図8(A)に示すように、前方車両111に歩行者112が一定程度接近した時点でマーキングライト121のカットオフライン103よりも上方の部分が消灯し、マーキングライト121のカットオフライン103よりも下方の部分が引き続き点灯するように配光制御される。
【0043】
次に、歩行者重なり判定部15は、歩行者および前方車両の検出結果に基づいて歩行者と前方車両が重なったか否かを判定する(ステップS16)。例えば、歩行者および前方車両の検出結果に基づいて、歩行者の一部または前方車両の一部が隠れたと判断できる場合には両者が重なったと判断する。
【0044】
歩行者と前方車両が重なった場合に(ステップS16;YES)、歩行者重なり判定部15は、歩行者よりも前方車両のほうが手前(自車両に近い側)にいるか否かを判定する(ステップS17)。例えば、歩行者について上半身側(頭部)と下半身側が識別可能に検出されている場合には、上半身側だけ検出され、下半身側が検出されない場合に、前方車両のほうが手前であると判定できる。
【0045】
歩行者よりも前方車両のほうが手前である場合に(ステップS17;YES)、その旨の判定結果が歩行者重なり判定部15から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、カットオフライン(図3参照)より下方のマーキングライトも消灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS18)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。具体的には、図8(B)に示すように、前方車両111が歩行者112よりも手前になったときに、マーキングライト121のカットオフライン103よりも上方の部分も下方の部分も消灯するように配光制御される。
【0046】
なお、上記ステップS14、ステップS16、ステップS17のいずれかにおいて否定判断(NO)がなされた場合には、マーキングライトの配光制御を終了する。
【0047】
また、上記したステップS12において、角度αpが角度αc2よりも大きくない場合には(ステップS12;NO)、位置変化量検出部13は、歩行者の角度αpが前方車両の角度αc1から所定の余裕角度βを除算した値よりも小さいか、すなわち(αp<αc1−β)となっているか否かを判定する(ステップS19)。αpが(αc1−β)より小さい場合というのは、上記した図7(B)に示すように水平方向において歩行者112が前方車両111よりも自車両から近い位置にいる場合に対応する。つまり、本ステップS12では、歩行者112が前方車両111よりも自車両110に近いかどうかを判定していることになる。
【0048】
αpが(αc1−β)より小さい場合に(ステップS19;YES)、位置変化量検出部13は、歩行者と前方車両の左端との角度差{(αc1−β)−αp}を算出し、これを用いて歩行者と前方車両の単位時間あたりの相対的な位置変化量としての相対角速度ωを算出する(ステップS20)。ここで、相対角速度ωは、直近の2回の位置検出タイミングで算出された角度差{(αc1−β)−αp}の差分Δ{(αc1−β)−αp}をそれらの位置検出タイミングの相互間隔である単位時間Δtで除算することによって得られる。すなわち、ω=Δ{(αc1−β)−αp}/Δtを演算して得られる。
【0049】
次に、接近判定部14は、位置変化量検出部13によって求められた相対角速度ωを用いて、歩行者と前方車両が所定条件を満たした状態に接近したか否かを判定する(ステップS21)。
この判定は、例えば以下の消灯判定式を用いて行われる。
(αc1−β)−αp<ω×Td×k
ただし、上記と同様にTdは配光制御に要する処理遅延時間であり、例えば160ミリ秒間に設定される。また、kは任意に設定される定数であり、例えば1に設定される。この定数kを増減することで消灯判定式による判定結果を微調整することができる。消灯判定式の物理的な意味は上記と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0050】
歩行者と前方車両が上記の所定条件を満たした状態で接近している場合には(ステップS21;YES)、その旨の判定結果が接近判定部14から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、カットオフライン(図3参照)より上方のマーキングライトを消灯し、カットオフラインより下方のマーキングライトを点灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS22)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。
【0051】
次に、歩行者重なり判定部15は、歩行者および前方車両の検出結果に基づいて歩行者と前方車両が重なったか否かを判定する(ステップS23)。例えば、歩行者および前方車両の検出結果に基づいて、歩行者の一部または前方車両の一部が隠れたと判断できる場合には両者が重なったと判断する。
【0052】
歩行者と前方車両が重なった場合に(ステップS23;YES)、歩行者重なり判定部15は、歩行者よりも前方車両のほうが手前(自車両に近い側)にいるか否かを判定する(ステップS24)。例えば、歩行者について上半身側(頭部)と下半身側が識別可能に検出されている場合には、上半身側だけ検出され、下半身側が検出されない場合に、前方車両のほうが手前であると判定できる。
【0053】
歩行者よりも前方車両のほうが手前である場合に(ステップS24;YES)、その旨の判定結果が歩行者重なり判定部15から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、カットオフライン(図3参照)より下方のマーキングライトも消灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS25)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。
【0054】
なお、上記ステップS19、ステップS21、ステップS23、ステップS24のいずれかにおいて否定判断(NO)がなされた場合には、マーキングライトの配光制御を終了する。
【0055】
図9は、マーキングライトの照射制御における数値例を示すグラフである。ここでは、前方車両としての対向車両が自車両の前方80mの位置から時速30km/hで自車両に接近しつつあり、歩行者が自車両の前方50mの位置から時速4km/hで自車両の直進方向と同方向へ進んで対向車両の右端へ接近しつつある状況を想定する。なお、車幅や道幅などは一般的な数値を想定した。また、処理遅延時間Tdは160ミリ秒間であり、歩行者および前方車両の位置(角度)を検出するタイミングは60ミリ秒間毎であるとする(つまり、Δt=60ms)。このとき、歩行者と前方車両の角度差は時刻0の時点で1.8°程度であり、時刻4sを少し過ぎた時点で0°となる。本実施形態の車両用前照灯システムによれば、歩行者と前方車両の角度差が負の値になるより前のタイミングでマーキングライトの上方が消灯されるので、前方車両に対してグレアを与えないことが分かる。
【0056】
ところで、上記した処理手順では画像処理結果に基づいて歩行者と前方車両の重なりを検出していたが、これらの位置検出結果である角度の値に基づく両者の重なり検出処理をさらに行うようにすることも好ましい。以下にその場合の処理手順を説明する。なお、図5および図6に示した処理手順と重複する部分については説明を省略する。
【0057】
図10は、歩行者と前方車両の重なり検出処理をさらに加えた場合の車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。ここに示すフローチャートは、上記した図6に示したステップS19で否定判断がなされた後の処理として行われるものである。また、図11(A)および図11(B)は、それぞれ、マーキングライトの照射制御について説明するための図である。
【0058】
歩行者の角度αpが前方車両の角度αc2よりも大きくない場合であって(ステップS12;NO)、かつ、歩行者の角度αpが前方車両の角度(αc1−β)よりも小さくない場合(ステップS19;NO)、歩行者重なり検出部15は、歩行者の角度αp、前方車両の角度αc1、αc2に基づいて、歩行者と前方車両が重なったか否かを判定する(ステップS30)。例えば、それぞれの角度の間にαc1<αp<αc2の関係が成り立つ場合、もしくは、歩行者の角度αpが取得できない場合(検出不可である場合)には、歩行者と前方車両が重なったと判断できる。
【0059】
歩行者と前方車両が重なった場合に(ステップS30;YES)、歩行者重なり検出部15は、歩行者が前方車両の手前に存在するか否かを判定する(ステップS31)。例えば、歩行者の角度αpが取得できており、αc1<αp<αc2の関係が成り立つ場合には歩行者が手前に存在すると判断できる。反対に、歩行者の角度αpが取得できない場合には歩行者が手前に存在しないと判断できる。
【0060】
歩行者が前方車両の手前に存在する場合に(ステップS31;YES)、その旨の判定結果が歩行者重なり判定部15から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、カットオフライン(図3参照)より上方のマーキングライトを消灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS32)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。具体的には、図11(A)に示すように、歩行者112が前方車両111よりも手前になったときに、マーキングライト121のカットオフライン103よりも上方の部分が消灯するように配光制御される。
【0061】
一方、歩行者が前方車両の手前に存在しない場合に(ステップS31;NO)、その旨の判定結果が歩行者重なり判定部15から光照射範囲設定部16へ出力される。これを受けて光照射範囲設定部16は、すべてのマーキングライトを消灯するように光照射範囲を設定する。配光制御部17は、光照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲に基づいて配光パターンを設定し、この配光パターンに応じた制御信号を生成して出力する(ステップS33)。この制御信号に基づいて各光学ユニット20R、20Lが動作することにより所望の配光パターンが実現される。具体的には、図11(B)に示すように、前方車両111が歩行者112よりも手前になったときに、マーキングライト121のカットオフライン103よりも上方の部分も下方の部分もすべて消灯するように配光制御される。
【0062】
なお、上記ステップS30において否定判断(NO)がなされた場合には、マーキングライトの配光制御を終了する。
【0063】
このような本実施形態によれば、歩行者と前方車両とが所定時間内に一定範囲まで接近すると予測される場合に、歩行者を含む領域の上方側を光の非照射範囲に設定して下方側を光の照射範囲に設定してマーキングライトが照射される。したがって、歩行者に対してマーキングライトを照射する場合において配光制御のタイムラグに起因して前方車両へグレアを与えることを回避することが可能となる。
【0064】
なお、本発明は上述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態においては歩行者や前方車両の位置情報が角度によって得られていたが、これらの位置情報が二次元座標によって表されていてもよい。その場合であっても、二次元座標から角度を演算することにより上記実施形態と同様に配光制御が可能である。あるいは、角速度を用いなくとも、歩行者と前方車両の相対的な位置関係の時間変化を直近の位置変化量から予測することで上記実施形態と同様に配光制御が可能である。また、上記した各実施形態では1つのカメラと1つの車両/歩行者検出部を備える場合を例示していたが、歩行者検出用と車両検出用で別々のカメラと検出部が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10:カメラ
11:車両/歩行者検出部
12:制御部
13:位置変化量検出部
14:接近判定部
15:歩行者重なり判定部
16:光照射範囲設定部
17:配光制御部
20R、20L:ランプユニット
21:LEDドライバ
22:マトリクスLED
23:レンズ
24:ハイ/ロービーム部
101:ハイビーム領域
102:ロービーム領域
103:カットオフライン
110:自車両
111:前方車両
112:歩行者
120:ロービーム/ハイビーム
121:マーキングライト
図1
図2
図5
図6
図7
図10
図3
図4
図8
図9
図11