特許第5934618号(P5934618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934618
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】端子金具
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/02 20060101AFI20160602BHJP
   H01R 4/34 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   H01R4/02 Z
   H01R4/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-202924(P2012-202924)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-59970(P2014-59970A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100120053
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 輝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 典男
【審査官】 前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−297447(JP,A)
【文献】 特開2006−286385(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/093544(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/02
H01R 4/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の芯線を絶縁被覆した電線の導体部分が超音波溶着されて電気的に接続される端子金具であって、前記電線の導体部分が超音波溶着される溶着部と、該溶着部の軸方向に連なって形成され、厚み方向に貫通穴が穿設される平板状の取付部とを備え、
前記貫通穴をその貫通方向から見たときの輪郭は、大径円と、該大径円よりも半径が小さい小径円と、これら2つの円とそれぞれ接する2本の接線とから形成され、前記小径円は、前記大径円よりも前記溶着部に近い方に位置してなる端子金具。
【請求項2】
複数の芯線を絶縁被覆した電線の導体部分が超音波溶着されて電気的に接続される端子金具であって、前記電線の導体部分が超音波溶着される溶着部と、該溶着部の軸方向に連なって形成され、厚み方向に貫通穴が穿設される平板状の取付部とを備え、
前記取付部は、幅方向の両端面が互いに平行に形成されるストレート部を有し、
前記貫通穴をその貫通方向から見たときの輪郭は、大径円と、該大径円よりも半径が小さい第1の小径円及び第2の小径円と、前記第1の小径円及び前記大径円とそれぞれ接する2本の接線と、前記第2の小径円及び前記大径円とそれぞれ接する2本の接線とから形成され、前記第1の小径円は、前記大径円よりも前記溶着部に近い方に位置し、前記第2の小径円は、前記大径円よりも前記溶着部と遠い方に位置してなり、
前記大径円と前記第1の小径円は、前記ストレート部の前記軸方向の領域内に形成されるものである端子金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具に係り、特に電線の導体部分が超音波溶着される端子金具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの移動体には、種々の電子機器などが搭載されており、この電子機器にバッテリなどの電源からの電力や制御装置からの制御信号などを伝えるためにワイヤハーネスが配索されている。このワイヤハーネスは、複数の電線と、この電線の端末に取り付けられた端子金具などを備えている。
【0003】
この種の電線はそれぞれ、導電性の複数の素線を撚り合わせた芯線と、この芯線を被覆する絶縁性の被覆部とを備えており、この電線の端末の被覆部を除去して露出した芯線が端子金具に溶着される。芯線と端子金具との溶着には、超音波溶着が施される。
【0004】
図6に示すように、端子金具51は、露出した芯線53が溶着される溶着部55と、電子機器などに電気接続される円形の貫通穴57が設けられた取付部59を備えている。超音波溶着を行うときは、露出した芯線53を端子金具51の溶着部55に設けた一対の側壁61間に配置し、その上からホーン63を一対の側壁61間に挿入する。そして、ホーン63を芯線53に押し付けながら、芯線53に超音波振動を付与することにより、芯線53が溶着部55に超音波溶着される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−338328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようにホーンを超音波振動させると、ホーンの振動エネルギが溶着部から取付部に伝播し、取付部が共振することがある。すると、取付部の所定位置に振動による応力が集中し、その応力が材料の降伏点を超えたときに、取付部に亀裂や破断が生じるおそれがある。この共振による応力の集中は、取付部に振動が伝播する際に、振動が伝播する方向と直交する方向の断面積の変化が著しい箇所、例えば、貫通穴の周縁の溶着部寄りの部位(図5のA部)に多く発生する。
【0007】
本発明の課題は、電線の導体部分を端子金具に超音波溶着する際に、取付部のき裂や破断を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の芯線を絶縁被覆した電線の導体部分が超音波溶着されて電気的に接続される端子金具であって、電線の導体部分が超音波溶着される溶着部と、この溶着部の軸方向に連なって形成され、厚み方向に貫通穴が穿設される平板状の取付部とを備え、貫通穴をその貫通方向から見たときの輪郭は、大径円と、この大径円よりも半径が小さい小径円と、これら2つの円とそれぞれ接する2本の接線とから形成され、小径円は、大径円よりも前記溶着部に近い方に位置してなることを特徴とする。
【0009】
このように貫通穴の溶着部に近い方の部位に大径円よりも曲率半径が小さい小径円の輪郭を形成することにより、取付部の軸方向と直交する方向の断面積が、振動の伝播する方向に沿って急激に減少するのを抑制することができる。これにより、貫通穴の周縁の溶着部寄りの部分に、共振によって応力が集中するのを緩和することができるため、取付部のき裂や破断を防ぐことができる。
【0010】
また、本発明は、複数の芯線を絶縁被覆した電線の導体部分が超音波溶着されて電気的に接続される端子金具であって、電線の導体部分が超音波溶着される溶着部と、この溶着部の軸方向に連なって形成され、厚み方向に貫通穴が穿設される平板状の取付部とを備え、取付部は、幅方向の両端面が互いに平行に形成されるストレート部を有し、貫通穴をその貫通方向から見たときの輪郭は、大径円と、この大径円よりも半径が小さい第1の小径円及び第2の小径円と、第1の小径円及び大径円とそれぞれ接する2本の接線と、第2の小径円及び大径円とそれぞれ接する2本の接線とから形成され、第1の小径円は、大径円よりも溶着部に近い方に位置し、第2の小径円は、大径円よりも溶着部と遠い方に位置してなり、大径円と第1の小径円は、ストレート部の軸方向の領域内に形成されるものであることを特徴とする。
【0011】
このように貫通穴の溶着部と遠い方の部位に大径円よりも曲率半径が小さい第2の小径円の輪郭を形成することにより、取付部の軸方向と直交する方向の断面積が、振動の伝播する方向に沿って急激に増加するのを抑制することができる。これにより、貫通穴の周縁の溶着部寄りの部分に加えて、貫通穴の周縁の溶着部と遠い方の部分においても、共振によって応力が集中するのを緩和することができるため、取付部のき裂や破断をより広い範囲で防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電線の導体部分を端子金具に超音波溶着する際に、取付部のき裂や破断を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る端子金具の一実施形態の超音波溶着前の外観斜視図である。
図2】本発明に係る端子金具の一実施形態の超音波溶着後の外観斜視図である。
図3】本発明に係る端子金具の一実施形態の貫通穴を拡大して示す平面図である。
図4】本発明に係る端子金具の一実施形態の断面積の変化を説明する図である。
図5】本発明に係る端子金具の他の実施形態における貫通穴の平面図と端子金具の断面積の変化を説明する図である。
図6】従来の端子金具の超音波溶着前の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る端子金具の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明に係る端子金具に周知の超音波溶着装置を用いて超音波溶着を施すものである。したがって、本実施形態では、端子金具の構成及び作用を中心に説明し、超音波溶着装置の構成は簡単な説明に留める。また、本実施形態では、端子金具に接続される電線として、自動車に搭載されるワイヤハーネスを用いる例を説明するが、電線の種類は、この例に限られるものではない。
【0015】
図1に示すように、電線11は、導電性の複数の素線からなる芯線13(導体部分)と、絶縁性の被覆部15とを備えている。芯線13は、銅や、銅合金などの導電性の金属で形成される。被覆部15は、絶縁性の合成樹脂などからなり、芯線13を被覆している。
【0016】
端子金具17は、所定形状に打ち抜いた金属板材を曲げ加工して形成される。この端子金具17は、露出した芯線13が溶着される芯線接続部19と、貫通穴21が厚み方向に形成されて電子機器などに電気接続される平板状の取付部23とが、軸方向(長手方向)に連なって設けられている。取付部23は、幅方向の両端面が互いに平行に形成されるストレート部24と、幅方向の両端面の間隔が先端に向かって次第に狭くなるテーパ部25を有している。芯線接続部19は、芯線13が重ねられる溶着部26と、この溶着部26の幅方向の両端から立設する一対の側壁27とを備えている。
【0017】
超音波溶着装置は、ホーン29と、端子金具17を支持する治具(図示せず)などを備えて構成される。超音波溶着装置は、治具の上に端子金具17をセットし、電線11の芯線13を端子金具17の溶着部26の上に重ねた状態で、芯線13を端子金具17に押し付け、加圧しながら、芯線13に超音波エネルギを付与するものである。具体的には、図1に示すように、一対の側壁27間に芯線13を配置した状態でホーン29を矢印の方向(図1の下方)に移動させ、超音波振動させながら芯線13を溶着部26に向けて押し付ける。すると、各芯線13は振動によって発熱し、溶融するため、図2に示すように、一体となって芯線接続部19に溶着される。
【0018】
ところで、このようにホーン29を超音波振動させると、ホーン29の振動エネルギが芯線接続部19(溶着部26)から取付部23に伝播し、取付部23が共振することがある。特に、取付部23に振動が伝播する際は、その振動が伝播する方向と直交する方向の断面積の変化が著しい箇所(例えば、貫通穴21の周縁の芯線接続部19寄りの部位)に、共振による応力が集中し易く、その応力が材料の降伏点を超えると、取付部23に亀裂や破断が生じるおそれがある。
【0019】
次に、このような端子金具17の取付部23の特徴構成について説明する。
【0020】
端子金具17には、断面円形のボルトやナットなどの図示しない留め具が挿通される貫通穴21が設けられている。図3に示すように、貫通穴21は、その貫通方向から見たときの輪郭が、涙滴形、つまり、半径の異なる大径円31及び小径円33と、これらの円とそれぞれ接する2本の接線35,37とを結んで形成される。ここで、小径円33とは、大径円31の半径R1よりも小さな半径R2を有する円を意味し、大径円31と小径円33の中心は、いずれも取付部23の長手方向の中心軸X上に配置され、小径円33は、大径円31よりも芯線接続部19に近い位置に配置されている。
【0021】
本実施形態では、貫通穴21の小径円33は、ストレート部24の軸方向の領域内に形成されているものとする。大径円31の半径R1は、留め具などの大きさに合わせて設定されているため、例えば、図5の貫通穴57の半径と同じ寸法に設定される。
【0022】
図4に、本実施形態の貫通穴21について、図5に示した従来の貫通穴57と対比して説明する。図4の(b)と(c)は、本実施形態の貫通穴21と図5の貫通穴57の形状をそれぞれ中心軸Xと直交する方向の断面積の変化として模式化したものであり、図の縦方向の幅が断面積の大きさを表している。すなわち、軸方向において、縦方向の幅が狭くなるときは、断面積が減少することを意味し、縦方向の幅が広くなるときは、断面積が増加することを意味する。なお、以下の説明において、断面積の変化率とは、軸方向の振動が伝播する方向(図4の右側から左側に向かう方向)に沿って断面積が変化する割合を意味するものとする。
【0023】
まず、図5に示す円形の貫通穴57の場合、図4(c)の拡大図Zに示すように、断面積の変化率(減少率)が比較的大きくなる領域が存在する。これに対し、本実施形態の貫通穴21は、図4(b)の拡大図Yに示すように、大径円31よりも芯線接続部19に近い位置に、大径円31よりも曲率半径が小さい小径円33の輪郭が形成される。このため、貫通穴21は、貫通穴57よりも断面積の減少率を小さくすることができる。また、貫通穴21は、軸方向において、大径円31及び小径円33とそれぞれ接する2本の接線35,37に沿って断面積が減少していくため、断面積の減少率を一定に保つことができる。
【0024】
本実施形態によれば、電線11の芯線13を超音波溶着する際に、取付部23において、振動が伝播する方向と直交する方向の断面積が、振動の伝播する方向に沿って急激に減少するのを抑制することができる。したがって、貫通穴21の周縁の芯線接続部19寄りに位置する部分、つまり図1のA´部を中心として、共振による応力の集中を緩和することができるため、取付部23の亀裂や破断を防ぐことができる。
【0025】
次に、本発明に係る端子金具の他の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の端子金具は、基本的に図1に示す端子金具17と同じである。本実施形態の端子金具が図1の端子金具17と異なる点は、貫通穴の輪郭が大径円と2つの小径円を含んで形成される点にある。
【0026】
本実施形態の貫通穴39は、図5(a)に示すように、貫通方向から見たときの輪郭が、大径円31と、第1の小径円41及び第2の小径円43と、第1の小径円41及び大径円31とそれぞれ接する2本の接線45、47と、第2の小径円43及び大径円31とそれぞれ接する2本の接線49,51とを結んで形成される。ここで、第1の小径円41とは、大径円31の半径R1よりも小さな半径R3を有する円を意味し、第2の小径円43とは、大径円31の半径R1よりも小さな半径R4を有する円を意味する。半径R3とR4は、異なっていても良いし同じであってもよい。大径円31の中心と、第1の小径円41及び第2の小径円43の中心は、いずれも取付部23の長手方向の中心軸X上に配置され、第1の小径円41は、大径円31よりも芯線接続部19に近い位置に配置され、第2の小径円43は、大径円31よりも芯線接続部19と遠い位置に配置される。貫通穴39は、少なくとも大径円31及び第1の小径円41の部分が、取付部23におけるストレート部24の軸方向の領域内に形成される。
【0027】
本実施形態では、大径円31よりも芯線接続部19に近い位置に、大径円31よりも曲率半径が小さい第1の小径円41の輪郭が形成されるだけでなく、大径円31よりも芯線接続部19と遠い位置に、大径円31よりも曲率半径が小さい第2の小径円43の輪郭が形成されている。このため、図5(b)に示すように、貫通穴39は、貫通穴57(大径円31)と比べて、軸方向における断面積の急激な減少と増加の両方を抑制することができる。これにより、貫通穴39の周縁の芯線接続部19寄りの部分に加えて、貫通穴39の周縁の取付部23の先端寄りの部分においても、共振による応力の集中を緩和することができるため、取付部23のき裂や破断をより広い範囲で防ぐことができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、上記の実施形態は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記の実施形態の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
11 電線
13 芯線
17 端子金具
19 芯線接続部
21,39 貫通穴
23 取付部
24 ストレート部
26 溶着部
29 ホーン
31 大径円
33 小径円
35,37,45,47,49,51 接線
41 第1の小径円
43 第2の小径円
図1
図2
図3
図4
図5
図6