(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本発明者等の鋭意試験により、特許文献1にあるようなバリア放電装置では、中心誘電体の先端が接地電極からほとんど露出しないように放電空間が接地電極の先端から内側に大きく引き込むように設けられているため、放電空間内に放出されたエネルギが効果的に着火に利用されず、一定のリーン限界A/Fで安定した着火を得るためには電源周波数を一定値(例えば、850kHz)を超える周波数とする必要があることが判明した。
車両など電源が限られている内燃機関においては、できるだけ供給した点火エネルギを無駄なく着火に利用できるようにすることが重要であり、着火に必要な電源周波数が高くなれば、それだけ電源への要求が高くなり製造コストの増加にもなるため、低い電源周波数においても安定した点火が実現できることが望ましい。
さらに、放電ギャップが長手方向位置によって異なるようにすると、複数の放電ギャップの内のいずれの放電ギャップで放電が起こるかが確率的な事象となるため、運転状況に応じて燃焼室内の圧力が変化したときに、同じ条件であっても必ずしも放電が起きる放電ギャップが一定とならず、却って着火安定性が阻害されるおそれがあること、放電空間の容積が一定の容積(例えば、300mm
3)を超えると、放電空間内に放出された放電エネルギが混合気の点火に利用されずエネルギロスが大きくなったり、放電空間内に発生した初期火炎が燃焼室内に放出されることなく残留し、誘電体を過剰に加熱し、プレイグニションが発生したりするおそれがあることが判明した。
【0006】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、内燃機関に設けられ、誘電体で覆われた中心電極と接地電極との間に所定の周波数以下の交流電圧を印加して、上記誘電体によって区画した放電空間内に発生させた非平衡プラズマと燃焼室内の混合気との直接的な反応により、初期火炎を生成して内燃機関の点火を行う点火装置において、放電空間内の特定の位置にエネルギ集中させることにより、放電空間内に放電されたエネルギを効率的に利用して、着火性の向上を図ることのできる内燃機関用の点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明(
1、1c、1d、1e、1f、1g、1h)では、内燃機関(5)に設けられ、少なくとも、略軸状の中心電極(10)と該中心電極(10)を覆う略有底筒状の中心誘電体(11)と、該中心誘電体(11)と
第1の放電ギャップ(GP
130)を隔てて同軸に配設した略筒状の接地電極(12)と、上記中心電極(10)と上記接地電極(12)との間に、所定の周波数の高電圧を印加する交流高電圧電源(31)とを具備して、上記内燃機関(5)の点火を行う点火装置であって、上記中心誘電体(11)の誘電体先端筒状部(111)の外周表面の一部と、上記誘電体先端筒状部(111)の基端側を拡径して設けた放電空間基底部(112)と、上記接地電極(12)の接地電極筒状部(121)の内周面と、によって略筒状に区画した第1の放電空間(130)と、上記第1の放電空間(130)の先端側において、軸方向に対して一定の突出部形成幅(T
200)をもって、上記第1の放電空間(130)の
第1の放電ギャップ(GP
130)よりも狭い第2の放電ギャップ(GP
131)を有する第2の放電空間(131)を形成すべく、上記接地電極(12)の先端に位置する略環状の接地電極先端部(120)の内周側において、その内周面の
一部を上記誘電体先端筒状部(111)に向かって突出せしめた接地電極突出部(200)と、を具備し、上記誘電体(11)の上記誘電体先端筒状部(111)とその先端側で底部を構成する誘電体先端底部(110)とに覆われた上記中心電極(10)の中心電極放電部(100)の一部を上記接地電極先端部(120)よりも軸方向先端側に向かって延設して、上記内燃機関(5)の燃焼室(51)の内側に突出せしめる。
【0008】
さらに、上記放電空間基底部(112)の表面を基準面としたときの、上記中心電極放電部(100)の末端までの長さを中心電極放電部長さL
100とし、上記接地電極先端部(120)の末端までの長さを接地電極先端位置長さL
140とし、上記中心誘電体(11)の誘電体先端筒状部(111)の表面と上記接地電極突出部(200)の表面までの距離を
、上記第2の放電ギャップGP
131とし、上記接地電極突出部(200)を形成する幅を
、上記突出部形成幅T
200としたとき、GP
131+T
200<L
140<L
100の関係が成り立つ。
ただし、0.5mm<T200<2.5mm、とする。
【0009】
請求項
2の発明(1、1c、1d、1e、1f、1g、1h)では、
上記中心電極放電部長さL100と、上記接地電極先端位置長さL140とにおいて、1/3L
100≦L
140≦4/5L
100の関係が成り立つ。
【0010】
請求項
3の発明(1、1c、1d、1e、1f、1g、1h)では、上記第1の放電空間(130)を区画する上記中心誘電体(11)の誘電体先端筒状部(111)の表面と上記接地電極筒状部(121)の内側表面までの距離を
、上記第1の放電ギャップGP
130と
したとき、上記第2の放電ギャップGP
131と、上記第1の放電ギャップGP
130との関係において、1/4GP
130≦GP
131≦3/4G
130である。
【0011】
請求項
4の発明(1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h)では、上記交流高電圧電源(31)の周波数(f)が85kHz以上850kHz以下である。
【0012】
請求項
5の発明(1、1c、1d、1e、1f、1g、1h)では、上記第1の放電空間(130)の容積が300mm
3以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記接地電極突出部(200)を設けることによって、局所的に上記中心電極放電部(100)との距離が近くなるので、その周辺に電界集中が起こる。
上記中心電極放電部(100)の特定の範囲に対向する位置に電界集中させることにより、上記接地電極突出部(200)と誘電体先端筒状部(111)の表面との間にストリーマ放電(STR)を発生させ易くすると共に、中心電極放電部(100)の先端を接地電極先端部(120)よりも燃焼室(51)の内側に配設することによって、接地電極突出部(200)と上記誘電体先端筒状部(111)を介して最も高い電位となる中心電極放電部(100)の末端を覆う位置における上記誘電体筒状部(111)の表明との間での放電を起こり易くすることができる。
【0014】
このとき、上記接地電極突出部(200)によって上記第1の放電ギャップ(GP
130)よりも狭い上記第2の放電ギャップ(GP
131)が形成されるため、上記接地電極突出部(200)に電界集中が起こり、上記接地電極突出部(200)を挟んで基端側の放電空間(130)内と先端側の燃焼室(51)の内側の両方向に広がるように上記誘電体先端筒状部(111)の広い範囲に亘ってストリーマ放電(STR)が発生する。
このため、電界が集中する上記接地電極突出部(200)の周囲のエネルギ密度が高くなり、混合気の体積着火が起こり易くなる。
本発明者等の鋭意試験により、本発明によれば、85kHzから850kHzまでの広い周波数範囲に亘って、高いリーン限界空燃比に対して安定した着火を実現できることが判明した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して本発明の第1の実施形態における点火装置1の概要について説明する。 点火装置1は、高過給、高圧縮、高EGR、リーン燃焼による高効率、低NO
Xを達成するエンジン等の難着火性の内燃機関5に設けられ、少なくとも、略軸状の中心電極10と中心電極10を覆う略有底筒状の中心誘電体11と、中心誘電体11と所定の放電ギャップ130を隔てて同軸に配設した略筒状の接地電極120、121と中心電極10と接地電極12との間に、所定の周波数f(85kHz以上850kHz以下)の高電圧(例えば、20kV以上50kV以下)を印加する交流高電圧電源31とを具備する。
【0017】
本実施形態において、点火装置1では、
図1に示すように、中心誘電体11の先端に位置する誘電体先端筒状部111の外周表面の一部と、誘電体先端筒状部111の基端側を拡径して設けた放電空間基底部112と、接地電極12の先端側に位置する接地電極筒状部121の内周面と、によって第1の放電空間130が略筒状に区画されている。
【0018】
さらに、第1の放電空間130の先端側において、軸方向に対して一定の突出部形成幅T
200をもって、第1の放電空間130の放電ギャップGP
130よりも狭い第2の放電ギャップGP
131を有する第2の放電空間131を形成すべく、接地電極12の先端に位置する略環状の接地電極先端部120の内周側において、その内周面の全部を誘電体先端筒状部111に向かって突出せしめた接地電極突出部200が設けられている。
加えて誘電体11の誘電体先端筒状部111とその先端側で底部を構成する誘電体先端底部110とに覆われた中心電極10の中心電極放電部100の一部は、接地電極先端部120よりも軸方向先端側に向かって延設されて、内燃機関5の燃焼室51の内側に突出している。
【0019】
点火装置1は、誘電体先端筒状部11のほぼ中間に対向する位置において、接地電極先端部120の内周面を突出させた接地電極突出部200を設けるとすることによって、接地電極突出部200に電界集中を生じ易くすると共に、発生したストリーマ放電と燃焼室51内の混合気との反応を起こり易くし、比較的低い放電エネルギで、第1の放電空間130及び第2の放電空間131の広い範囲に亘って、ストリーマ放電STRを発生させ、燃焼室51の内部に導入した混合気と直接反応させて、初期火炎を生成して内燃機関5の点火を行うものである。
【0020】
ハウジングを兼用する接地電極12は、略筒状に形成され、中心誘電体11の外周側面の一部を覆いつつ点火装置1を内燃機関5に固定すると共に、略筒状に伸びる接地電極筒状部121とその先端側に設けられ、内燃機関5の燃焼室51内に開口する略環状の接地電極先端部120が延設されている。
接地電極12は、内燃機関5のシリンダヘッド50に固定されると共に電気的に接地された状態となっている。
なお、ハウジング及び接地電極は一体のものであるため、以下の説明において、その機能に応じて、適宜、ハウジング12、又は、接地電極12を使い分け、原則として、構造に係る場合にはハウジング12と称し、電極としての機能に係る場合には、接地電極12と称するものとする。
【0021】
また、本発明者等の鋭意試験により、放電空間基底部112の表面を基準面として、中心電極放電部100の末端までの長さを中心電極放電部長さL
100とし、接地電極先端部120の末端までの長さを接地電極先端位置長さL
140とし、中心誘電体11の誘電体先端筒状部111の外周表面と接地電極突出部200の表面までの距離を第2の放電ギャップGP
131とし、接地電極突出部200を形成する幅を極突出部形成幅T
200としたとき、GP
131+T
200<L
140<L
100の関係が成り立つように設定することによって、従来よりも高いリーン限界A/Fにおいて安定した着火性を発揮できることが判明した。
さらに、より望ましくは、1/3L
100≦L
140≦4/5L
100の関係が成り立つように、即ち、中心電極放電部100のほぼ中間の位置において、接地電極突出部200が誘電体先端筒状部111の表面に対向して突出するように形成することによって、高いリーン限界A/Fにおいて安定した着火性を維持できることが良いことが判明した。
【0022】
また、第1の放電空間130の容積は、300mm
3以下とするのが望ましく、第1の放電空間130の容積が、300mm
3を超えると第1の放電空間130内で成長した火炎からの熱がこもり、過剰に誘電体11が加熱され、プレイグニションを招いたり、燃焼室51内に噴出されることなく、発生した熱エネルギがシリンダヘッド50に拡散し、第1の放電空間130内放出されたエネルギが有効に燃焼に利用されず、着火が不安定となったりするおそれがある。
また、後述する試験結果にも示すように、放電空間130の放電空間長さL
130は、少なくとも第1の放電ギャップGP
130よりも長くする必要があるので、放電空間130の容積は、必然的に一定(例えば、15mm
3)以上の容積となる。
【0023】
一方、第1の放電空間130を区画する上記中心誘電体11の誘電体先端筒状部111の外周表面と接地電極筒状部121の内側表面までの距離を第1の放電ギャップGP
130とし、第2の放電空間131を区画する誘電体先端筒状部111の表面と接地電極突出部200の表面までの距離を第2の放電ギャップGP
131としたとき、第2の放電ギャップGP
131と、第1の放電ギャップGP
130との関係において、1/4GP
130≦GP
131≦3/4G
130で形成した場合に本発明の効果を発揮できる。
この範囲を超えて、第2の放電ギャップGP
131を狭くしすぎると、低い電圧で放電が開始されるため、却って着火性が低下し、第2の放電ギャップGP
131を広くしすぎると、電界集中の効果が低下し、接地電極突出部200を形成していないのと同じとなってしまう。
【0024】
中心電極10は、長軸状に形成された良導電性材料からなり、中心電極放電部100と、中心電極結合部101と、中心電極ステム部102と、中心電極端子部103とによって構成されている。
中心電極10には、導電性が高く、耐熱性に優れたニッケル合金や、これに銅等の高電導性材料を合わせたもの等を用いることができる。
なお、成形容易にすべく中心電極放電部100と中心電極ステム部102とは別体で設けられ、中心電極結合部101を介して電気的導通が図られている。
さらに、中心電極放電部100に斜線を施した部分が中心誘電体側面部111、中心誘電体底部110を介して接地電極突出部200との間で放電を起こし得る範囲であり、この範囲を中心電極放電部100と称しているが、その基端側の斜線を施していない部分と別体のものではなく中心電極結合部101迄は一体に形成されているものである。
中心電極端子部103は、外部に設けた高エネルギ電源30に接続されている。
【0025】
中心誘電体11は、アルミナ、ジルコニア等の高耐熱性の誘電材料を用いて略有底筒状に形成されており、中心誘電体11は、先端側底部110、誘電体先端筒状部111、放電空間基底部112、電極保持部113、拡径部114、頭部115、中心電極挿通孔116、118、電極係止面117によって構成されている。
拡径部114は、外径方向に径大となるように拡径されており、略環状に形成した封止部材を介して、上下方向からハウジング12を加締めて固定されている。
封止部材160、161は、略環状に形成した金属シール、タルク等を略筒状に形成した粉末成形体等の公知の封止部材を用いて、気密性を確保している。
ハウジング12の基端側に露出する頭部115は、中心電極端子部103とハウジング12との間で放電が起こらないよう絶縁性を確保している。
【0026】
頭部115の基端側には、必要に応じて、凹凸面が交互に並んだコルゲート状に形成して絶縁距離を長くし、電極端子部103とハウジング12との間でより一層沿面放電が起こり難くするようにしても良い。
中心電極挿通孔116、118内に長軸状の中心電極10が挿入され電極係止面117で中心電極10の結合部101が係止固定されている。
【0027】
ハウジングを兼用する接地電極12は、鉄、ニッケル、ステンレス等の公知の金属材料を用いて、略筒状に形成されており、シリンダヘッド50の内壁から燃焼室51内に所定の高さL
120だけ露出する略環状の接地電極先端部120、中心誘電体11との間に放電空間130を区画する接地電極筒状部121、シリンダヘッド50に固定するためのネジ部122、中心誘電体11の拡径部114を保持する係止部123、封止部材160、161を介して拡径部114を加締め固定する加締め部124、ネジ部122を螺締めするための六角部125等によって構成されている。
なお、本発明の点火装置1では、放電時に熱プラズマを発生しないので、本質的に電極の消耗が起こり難いので、接地電極先端部120や、中心電極先端部100等に、必ずしも、イリジウム等の耐熱性に優れた特別な材料を用いる必要はなく、一般的な点火プラグに用いられている材料を適宜選択できる。
【0028】
本発明の適用される内燃機関5について極簡単に説明する。内燃機関5は、本実施例においては、いわゆる4サイクルエンジンを例としてある。
内燃機関5は、図略の筒状のシリンダと、その上面を覆うシリンダヘッド50と、シリンダの内側で昇降可能に保持されたピストン52の頂面とで、燃焼室51を区画し、シリンダヘッド50に設けた吸気筒501と、これを開閉する吸気バルブ502と、シリンダヘッド50に設けた排気筒503と、これを開閉する排気バルブ504等によって構成されている。
ECU30は、内燃機関5の運転状況に応じて、図略の燃料噴射装置から燃料を噴射させ所定のタイミングで点火装置1に高周波電源31から所定の交流電圧を印加して、第1の放電空間130、第2の放電空間131、及び燃焼室51内に非平衡プラズマを発生させ、燃焼室52内の混合気に点火する。
なお、本発明において、内燃機関5を特に限定するものではなく、ガソリン、ディーゼル、気体燃料等の種々の燃料系に適用可能である。
【0029】
本発明の点火装置には、
図2に示すような、高周波f(例えば、周波数85kHz〜850kHz)で、最大電圧V
PP(例えば、20kV〜50kV)の高電圧電源30から1周期当たり一定量(例えば、1mJ)のエネルギが供給される。
高周波高電圧交流電圧の周波数に同期して、ストリーマ放電が完結的に放電される。当然のことながら、電源周波数が高いほど単位時間当たりの放電回数が増加し、点火エネルギも増える。
【0030】
図3を参照して本発明の効果について説明する。本図に示すように、中心電極10に高周波の交流電圧(300kHz、300mJ/1.0ms)が印加されると、接地電極突出部200の先端と中心誘電体11の誘電体先端筒状部111の表面との間でストリーマ放電STRが発生する。
このとき、本実施形態においては、接地電極突出部200によって第1の放電空間130における第1の放電ギャップGP
130よりも狭い放電ギャップGP
131が形成されるため、接地電極突出部200の先端に電界集中し、接地電極突出部200を挟んで先端側と基端側の両方向に広がるように誘電体先端筒状部111の広い範囲に亘ってストリーマ放電STRが発生する。
誘電体誘電体先端筒状部111及び誘電体底部110で覆われた中心電極放電部100の先端が接地電極先端部120より燃焼室51側に位置しているので、ストリーマ放電STRが燃焼室51側にも広がり、非平衡プラズマと混合気との反応が同時多発的に広範囲に発生し、高い着火性が発揮されることが、本発明者らの鋭意試験により判明した。
【0031】
図4A、
図4B、
図4Cを参照して、本発明の効果を確認するために比較例1、比較例2、比較例3、として用いた点火装置1X、1Y、1Zについて説明する。
なお、本発明の点火装置1と同じ構成については同じ符号を付し、構成が異なる部分に、X、Y、Zの枝番を付したので詳細な説明を省略し、本発明の点火装置1と相違する点を中心に説明する。
点火装置1Xでは、本発明の点火装置1と放電ギャプを全体的に小さくなるよう、接地電極突出部200Xを接地電極筒状部121及び接地電極先端部120に均等に形成し、放電ギャップGP
131を1mmに設定した。
点火装置1Yでは、接地電極先端部120だけでなく、接地電極筒状部121の内周面も複数箇所を誘電体11に対向するよう、略環状の接地電極突出部200Yを軸方向に複数並べて形成してある。
点火装置1Zでは、先端側に向かって徐々に突出量が大きくなるように複数の略環状の接地電極突出部200Zを軸方向に並べて形成してある。
具体的には、放電ギャップGP
131が、先端側から順に、0.75mm、1.00mm、1.25mm、1.5mmとなるように形成してある。
【0032】
点火装置1、点火装置1X、点火装置1Y、点火装置1Zを用いて、同一条件(周波数300kHz、ピーク電圧V
PP=50kV)でリーン限界A/Fを計測した結果を
図5Aに示し、点火装置1、点火装置1Xを用いて、電源周波数を変化させたときのリーン限界A/Fに与える影響を調査した結果を示す。
図5Aに示すように、本発明の第1の実施形態における点火装置1が比較例1、比較例2のいずれの場合よりも高いリーン限界A/Fを示すことが判明した。
また、
図5Bに示すように、電源周波数を低くすると、比較例1では、リーン限界A/Fが大きく低下するのに対して、本発明の実施例1では、(85kHzから850kHz)の広い周波数域に対して、安定して、比較例1よりも高いリーン限界A/Fを維持できることが判明した。
なお、比較例3においては、燃焼室内の圧力が高い状態においては、本発明と同じように、先端側の最も放電ギャップの狭い位置に放電が集中し、高いリーン限界A/Fでの着火が可能となる場合があるが、負荷の低い状態では、全ての放電ギャップで放電が起こるため、エネルギ密度の低下が起こり、本発明に比べてリーン限界A/Fが低くなる。
さらに、比較例3では、エンジン条件を変えたときに、放電空間130z内の圧力の変化に対して、突出量の異なる複数の接地電極突出部200zの内、ストリーマ放電が発生ずる位置が一定せず、同じエンジン条件でも、高いリーン限界A/Fで着火したり、低いリーン限界A/Fで着火したりすることがあり、却って着火安定性に欠けることが判明した。
【0033】
図5Aを参照して、放電ギャップの形状の違いによる効果について確認を行った試験結果について説明する。
実施例1は、
図1に示した本発明の点火装置1を用いて、一定の条件(電源周波数f=300kHz、実効電圧V
PP=50kV)で測定したリーン限界A/Fを示す。
なお、本試験は、回転数を2000rpm、図示平均有効圧力Pmiを300kPaとした比較的負荷の低いエンジン条件で行ったものである。
比較例1は、
図4Aに示した放電ギャップが全体的に均等に狭くなるように、形成した点火装置1Xを用いて、同一の条件でリーン限界A/Fを計測した結果を示し、比較例2は、
図4Bに示した、部分的に放電ギャップが狭くなる位置を軸方向に複数箇所並べて形成した点火装置1Yを用いた結果を示す。
本図に示すように、比較例1、2のいずれよりも本発明の実施例1の方が高いリーン限界A/Fを示すことが判明した。
【0034】
図5Bを参照して、電源周波数に対する本発明の効果について説明する。本発明の第1の実施形態における点火装置1と、
図4Aに示した点火装置1Xとを用いて、電源周波数を変化させて着火限界(リーン限界A/F)を調査した結果をそれぞれ実施例1、比較例1として示す。
比較例1として示した従来の点火装置1Xでは、電源周波数f(kHz)を低くすると急激にリーン限界A/Fが下がるが、本発明の実施例1では、電源周波数fを下げても、比較的高いレベルリーン限界A/Fを維持できる。
【0035】
本発明によれば、より低い電源周波数、即ち、より低いエネルギによって希薄な混合気への点火が可能となることが判明した。
電源周波数を一定(850kHz)以上とすれば、比較例1の方が高いリーン限界A/Fとなるが、要求される電源周波数が高くなれば、それだけ電源への負荷が大きくなるため自動車エンジンなどの電源が限られた環境で用いられるにおいては実用的でない。
【0036】
図6、
図7を参照して、本発明の第1の実施形態における放電空間130の容積及び点火装置1の接地電極突出部200の形成位置の最適な条件を見出すために行った試験結果について説明する。
図6に示すように、接地電極突出部200の放電空間130の容積及び接地電極突出部200の形成位置を変化させたときの効果を調べた。
【0037】
点火装置1aでは、放電空間130aの放電空間長さL
130を接地電極突出部200の表面と中心誘電体11の誘電体先端筒状部111の表面までの第2の放電ギャップGP
131の距離(例えば、1mm)と同じ長さに設定してある。
また、点火装置1bでは、接地電極先端部120の先端位置を中心誘電体11の誘電体先端底部110の先端位置に一致させ、放電空間長さL
130bと中心電極放電部長さL
100とを等しい長さに形成してある。
突出部形成幅T
200と第2の放電ギャップGP
131は一定(それぞれ、T
200=2mm、GP
131=1mm)とし、接地電極先端位置長さL
140を変化させたときのリーン限界A/Fを調査した結果を
図7に示す。
【0038】
接地電極先端位置長さL
140を第2の放電ギャップGP131と突出部成形幅T200との和を超え(GP
131+T
200<L
140)、中心電極放電部L100を超えない(L
140<L
100)の範囲に形成したときに、上述の比較例2の、リーン限界A/Fを超えるリーン限界A/Fとなり、接地電極先端位置長さL
140に対して、リーン限界A/Fが、上に凸の放物線を描くように変化し、1/3L
100から4/5L
100の範囲で高いリーン限界A/Fを維持できることが判明した。
なお、突出部形成幅T
200は、0.5mm〜2.5mmの範囲とするのが望ましい。
突出部形成幅T
200が、0.5mmより狭いと、電界集中の効果が低下すると共に、機械的強度が低くなるおそれもある。また、2.5mmを超えると、電界集中によるエネルギ密度向上の効果が低下するおそれがある。
【0039】
点火装置1aよりもさらに、第1の放電空間130の容積を小さくし、放電空間長さL
130を第2の放電ギャップGP
131よりも短くすると、接地電極突出部200aと誘電体先端筒状部111の表面との間の放電が生じ難くなり、比較例2よりもリーン限界A/Fが低くなり、点火装置1bよりもさらに、第1の放電空間容積を大きく接地電極先端位置L140が、中心誘電体放電部長さL
100を超えると、比較例2よりもリーン限界A/Fが低くなる。
すなわち、エネルギ集中レベルが、接地電極先端部位置L
140を中心電極放電部長さL
100の中心に対向する位置でピークに達し、基端側、先端側の何れの方向に対しても中心位置から離れるほど、エネルギ集中レベルが低くなることが判明した。
【0040】
以下に、本発明の点火装置1のいくつかの変形例(1c〜1h)について、図を参照しながら説明する。以下の実施形態において、点火装置1と同様の構成については、同じ符号を付し、各実施形態の特徴的な部分には、それぞれの実施形態に対してアルファベットの枝番を付したので、同様の構成については、説明を省略し、各実施形態における特徴的な部分を中心に説明する。
図8A、
図8Bを参照して、本発明の第2の実施形態における点火装置1cについて説明する。第1の実施形態における点火装置1では、接地電極先端部120の内周の全周に亘って中心誘電体11に向かって突出させた接地電極突出部200を形成した例を示したが、本実施形態では、接地電極先端部120cの内周の一部を中心誘電体11に向かって突出させて接地電極突出部200を形成している。
このような構成とすることで、さらなるエネルギ密度の向上が図られ、着火性が向上するものと期待できる。
【0041】
図9を参照して、本発明の第3の実施形態における点火装置1dについて説明する。
第1、第2の実施形態における点火装置1、1cでは、接地電極突出部200を、燃焼室51内に露出する接地電極先端部120の突出高さL
120と略同一の範囲を突出部形成幅T
200として、接地電極先端部120の内周の全部又は一部を中心誘電体11に向かって突出させた例を示したが、本図に示すように、点火装置1dでは、上記実施形態と同様の構成において、接地電極突出部200dの突出部形成幅T
200を1mm以下の薄い円環状に形成した点が相違する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の効果が発揮される。加えて、本実施形態によれば、接地電極突出部200dにおける電界集中がさらに進むだけでなく、接地電極突出部200dの熱容量が小さくなるので、エネルギロスの更なる低減を図ることができると推察される。
【0042】
図10を参照して、本発明の第4の実施形態における点火装置1eについて説明する。
本図に示すように、本実施形態においては、接地電極先端部120fの内側に、突出部形成幅T
200eの範囲で周方向に複数の接地電極突出部200eを略円錐状に形成して並べてある。
このとき、複数の接地電極突出部200eが軸方向に並ばないように千鳥に配設することによって、周方向に対して突出部形成幅T200eの範囲で均等にストリーマ放電の起点が分布し、接地電極突出部200eを挟んで誘電体先端筒状部111の基端側と先端側との広い範囲に亘って発生したストリーマ放電STRが一定の領域に分布する接地電極突出部200eに集中することでエネルギ密度を高くできるので、第1と同様の効果を発揮できる。
加えて、一つ一つの接地電極突出部200eが略円錐状に形成されているため、より一層電界集中が起こり易く、エネルギ密度を高くできると期待できる。
【0043】
図11を参照して、本発明の第5の実施形態における点火装置1fについて説明する。
本図に示すように、本実施形態においては、第1の実施形態における点火装置1と同様の構成に加え、基端側は誘電体先端筒状部111に向かって突出しつつ、先端に向かって径大となるように接地電極突出部200fにテーパ面を形成してある。
このような構成とすることによって、第1の実施形態における点火装置1と同様の効果に加え、接地電極突出部200fの誘電体先端筒状部111との距離が最も短くなっている部分が先尖状となっているので、より一層電界集中し易くなり、放電エネルギの効率的な放出が期待できる上に、接地電極先端部120が燃焼室51側に向かって拡径するように開口しているので、放電空間130内で発生した火炎核が速やかに排出され易くなりさらなる着火性向上が期待できる。
【0044】
図12を参照して、本発明の第6の実施形態における点火装置1gについて説明する。
本図に示すように、本実施形態においては、接地電極先端部120gを柱状に形成し、その先端につり下げるようにして接地電極突出部200hを略環状に形成して、誘電体先端筒状部111の中間位置に対向するようにしてある。
このような構成とすることにより、第1の実施形態における点火装置1と同様に、接地電極突出部200gを挟んで誘電体先端筒状部111の基端側と先端側との広い範囲に亘って発生したストリーマ放電STRが接地電極突出部200gに集中することでエネルギ密度を高くできる上に、燃焼室51内の混合気の入れ替わりが容易となり火炎成長速度の向上を図り、さらなる着火性の安定化が期待できる。
【0045】
図13を参照して、本発明の第7の実施形態における点火装置1hについて説明する。本実施形態においては、第1の実施形態における点火装置1と同様の構成に加えて、中心誘電体11hの誘電体先端筒状部111hが接地電極先端部120から燃焼室51内に露出する位置において、誘電体先端筒状部111の外径を先端に向かって径小となるように縮径する径変部201h及び誘電体の厚みを薄肉にした肉薄部202hを形成してある。
このような構成とすることによって、第1の実施形態と同様の効果に加え、肉薄部202hの表面電位を高くして、点火装置1hが燃焼室51内に突出する側のストリーマ放電STRのエネルギ密度を高くすることができる。
加えて、縮径部201hによって開口が広がるため、放電空間130内での体積着火により発生した火炎核が燃焼室51内に放出放出され易くなり、さらなる着火性の向上が期待できる。
なお、誘電体先端筒状部111hの全体の肉厚を薄くしてしまうと、接地電極突出部200に対向する位置における絶縁耐圧が低くなるが、接地電極突出部200の先端から軸方向に離れた位置が肉薄となっているために、絶縁破壊を招くことはない。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではなく、接地電極先端部の位置を中心誘電体の誘電体先端筒状部の略中間位置に配設すると共に、一定の突出部形成範囲において接地電極先端部の内周面の全部又は一部を誘電体先端筒状部に向かって突出せしめた接地電極突出部を形成することにより、電界集中により従来よりも低い周波数の交流電圧を用いて、比較的低いエネルギで、接地電極突出部を挟んで先端側と基端側の両方向に広がるように誘電体先端筒状部の広い範囲に亘ってストリーマ放電を発生させ効率的に体積着火を引き起こす本発明の趣旨に反しない限りにおいて、適宜変更可能である。
例えば、第5の実施形態に示した構成と第7の施形態に示した構成とを組み合わせた構成としても良い。