【文献】
岩下真理,他3名著,下水汚泥焼却灰からのりん回収技術の開発,環境システム計測制御学会 学会誌「EICA」,2009年,第14巻,第1号,p.15-18
【文献】
岩下真理,他2名著,下水汚泥焼却灰からのリン回収,土木学会第56回年次学術講演会 講演概要集,2001年10月,p.608-609
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼却灰から前記薬剤に抽出されるリンの溶出濃度のPアルカリ度依存性に基づいて、リンの溶出濃度のPアルカリ度依存性の傾向が変化するリンの所定Pアルカリ度をあらかじめ計測し、前記薬剤のPアルカリ度を、前記リンの所定Pアルカリ度より1.0(当量/kg)低いPアルカリ度以上にすることを特徴とする請求項3または4に記載の焼却灰からのリン抽出方法。
前記焼却灰から前記薬剤に抽出されるリンの溶出濃度のPアルカリ度依存性に基づいて、リンの溶出濃度のPアルカリ度依存性の傾向が変化するリンの所定Pアルカリ度をあらかじめ計測し、前記薬剤のPアルカリ度を、前記リンの所定Pアルカリ度以下にすることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の焼却灰からのリン抽出方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
まず、Pアルカリ度について説明する。本発明において用いるアルカリ度とは水中に含まれているアルカリ成分、すなわち酸を消費する成分の量を炭酸カルシウム(CaCO
3)の量に換算して表示したものであり、水素イオン濃度を表わすpHとは異なる。アルカリ度の高い水は酸が添加されても中和してしまうためにpHの変化が生じにくくなり、この意味から水が持つ酸に対する緩衝能力と表現されることもある。
【0017】
公定法では、アルカリ度は測定対象液中に塩酸を用いた中和滴定により測定される。Pアルカリ度の測定方法は、試薬にフェノールフタレインを使用し、pHが8.3になるまでの塩酸量からアルカリ成分の量を求める方法である。このPアルカリ度は、水中のアルカリ成分のうち水酸化物イオン量に対応する。
【0018】
また、本発明において、Pアルカリ度は、焼却灰の単位質量当たりの当量によって規定する。また、炭酸カルシウム(CaCO
3)の分子量が100.09g/molであり、炭酸イオンが2価であることから、通常用いられるPアルカリ度(mg−CaCO
3/l)と、当量(eq/l)で規定されるPアルカリ度との関係は、以下の(1)式で表される。
【0019】
【数1】
なお、単位「eq/l」は、アルカリ性反応液の単位体積(l)当たりの当量(当量/l)である。
【0020】
そして、所定のPアルカリ度(当量/l)のアルカリ性溶液(薬液)を焼却灰に対して用いる場合、単位質量当たりの焼却灰に対して使用するアルカリ性溶液の量(液固比)に応じてPアルカリ度が変化する。従って、単位質量の焼却灰に対して使用するアルカリ性溶液のPアルカリ度(当量/kg)との関係は、以下の(2)式で表される。
【0022】
すなわち、焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度(当量/kg)は、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量と同様に議論することが可能となる。したがって、アルカリ性溶液における、焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度(当量/kg)を変化させた時に生じる現象の傾向は、本質的には、アルカリ性溶液における、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量を変化させた時に生じる現象の傾向になる。
【0023】
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決し上記目的を達成するために行った、種々の実験および鋭意検討について説明する。
【0024】
まず、本発明者は、焼却灰からのリンの回収プロセスを実施し、焼却灰からアルカリ性反応液中にリンを抽出した後に行う処理灰とリン抽出液との固液分離に用いられるろ材の目詰まり状態を詳細に分析した。すなわち、本発明者が分析したところによると、目詰まりの初期段階においては、酸性溶液およびアルカリ性溶液のいずれを用いてもろ材の目詰まりを除去して再生させることが可能であった。しかしながら、実際に目詰まりが生じた段階においては、アルカリ性溶液を用いてろ材を再生することができず、高濃度の酸性溶液を用いた場合でも、長時間の再生処理が必要となった。このことから、本発明者は、目詰まりの原因が難溶解性結晶の成長であり、この難溶解性結晶が目詰まり物であると考えた。
【0025】
そこで、本発明者は、ろ材の目詰まり物の元素分析を行った。この元素分析においては、反応液として、Pアルカリ度が、11.0〜12.0(当量/kg)(55000〜60000(mg−CaCO
3/l))のNaOH溶液を用いたリン抽出工程を、50〜60℃の温度範囲で90分間行った後に、固液分離工程を行うという一連の作業を繰り返し行って、目詰まりをしたろ材の目詰まり物を用いた。そして、この目詰まり物を、走査電子顕微鏡を用いて観測し、蛍光X線分析装置(SEM−EDS)(日本電子(株)製)を用いて元素分析を行った。この元素分析結果を
図6に示す。
図6に示す元素分析結果によれば、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)およびカルシウム(Ca)の特性X線の強度が大きいことから、本発明者は、ろ材の目詰まり物には、Na、Al、Si、PおよびCaが多く含まれているとの知見を得た。なお、これらの元素のうちのPについては、リン抽出液中に多く含まれているために検出されたと考えられることから、本発明者は、ろ材の目詰まり物を構成する元素としては、Na、Al、SiおよびCaが含まれていると考えた。
【0026】
本発明者は、目詰まり物が難溶解性結晶であるとの知見と、目詰まり物を構成する元素の知見とに基づいて、目詰まり物の結晶に対してX線回折分析を行った。なお、このX線回折分析においては、X線回折装置(X' Pert PRO、PANalytical社製)を用いた。このX線回折分析結果を
図7に示す。
【0027】
図7に示すX線回折分析結果から、A型ゼオライトに由来するピーク(
図7中、Zのピーク)が多く見られることが分かる。このことから、本発明者は、ろ材の主な目詰まり物がA型ゼオライト(アルミノケイ酸塩)であるという知見を得るに至った。
【0028】
以上の知見に基づいて、本発明者は、A型ゼオライトの発生を抑制することによって、ろ材の目詰まりを防止することができるとの観点から、A型ゼオライトの発生を抑制する方法についてさらに検討を重ねた。そして、本発明者は、A型ゼオライトは溶解性Alと溶解性Siとの反応により生成され、焼却灰から強アルカリ性溶液を用いてリン抽出を行うに当たり、抽出のされやすさはPとAlとで同等であり、Siの溶出のしやすさはPやAlに比して低いことを知見した。すなわち、本発明者は実験によって、焼却灰を処理するに際して、アルカリ性反応液における水酸化物イオン量、すなわちPアルカリ度を増加させていくと、まず、先行してPやAlの溶出量が増加し、さらに水酸化物イオン量、Pアルカリ度を増加させていくと、Siの溶出量が増加し始めることを知見するに至った。これにより、本発明者は、A型ゼオライトの生成を抑制するためには、溶解性Siの生成を抑制する必要があるとの考えに至った。
【0029】
そこで、本発明者は、リンを抽出するためのアルカリ性反応液における焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量、特に焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度に着目した。なお、以下、焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度を、Pアルカリ度と称する。そして、本発明者は、アルカリ性反応液における、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量を、このアルカリ性反応液に溶出するイオン状シリカ(SiO
2)の濃度の、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量依存性の傾向が変化する値以下、具体的には、Pアルカリ度依存性の傾向が変化する値(所定Pアルカリ度)以下にすることによって、溶解性Siの生成を抑制してA型ゼオライトの発生を抑制しつつPの抽出を確保できることを想起するに至った。本発明は以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0030】
次に、以上の検討に基づいて案出された本発明の第1の実施形態による焼却灰からのリン抽出方法について説明する。
図1に、この第1の実施形態によるリン回収方法のフローチャートを示す。
【0031】
図1に示すように、まず、薬剤としての、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液などのアルカリ性反応液1の調整が行われる(反応液調整工程、ステップST1)。この反応液調整工程においては、NaOH水溶液と後述する再生液とが混合されつつ、そのPアルカリ度が調整される。なお、アルカリ性反応液1としては、NaOH水溶液以外にも水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いることもでき、いわゆる、水酸化物イオン(OH
−)量を制御可能な種々の薬剤を用いることができる。
【0032】
ここで、表1は、この第1の実施形態におけるリン抽出方法の処理対象となる3種類の焼却灰A〜Cの性状を示す。なお、これらの焼却灰A〜Cは、それぞれ互いに全く異なる地点において採取された汚泥から得られた焼却灰である。
【0034】
表1に示すように、焼却灰Aは、Pの濃度およびCaの濃度がいずれも通常の濃度であり、比較的Pが抽出されやすい焼却灰である。これに対し、焼却灰Bは、Caの濃度が通常であるのに対しPの濃度が低めであり、このことから、比較的Pが抽出されにくい焼却灰である。さらに、焼却灰Cは、Pの濃度は通常であるがCaの濃度が高めであることから、焼却灰Aに比して比較的Pが抽出されにくい焼却灰である。そして、この第1の実施形態においては、焼却灰2として、このような性状が異なる3種類の焼却灰A,B,Cを採用して、Pを抽出する方法について説明する。
【0035】
ここで、本発明の第1の実施形態によるアルカリ性反応液1のPアルカリ度について、次のように決定する。
【0036】
まず、焼却灰からアルカリ性反応液1に溶出するP、Al、イオン状シリカ(SiO
2)の濃度における、焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度依存性(以下、Pアルカリ度依存性)を測定する。そして、これらの測定結果に基づいてアルカリ性反応液1のPアルカリ度を決定する。
図2,3,4はそれぞれ、第1の実施形態によるアルカリ性反応液1に溶出される物質の濃度のPアルカリ度依存性を示す。
図2は、焼却灰A〜CのPの溶出濃度のPアルカリ度依存性、
図3は、焼却灰A〜CのAlの溶出濃度のPアルカリ度依存性、
図4は、焼却灰A〜Cのイオン状シリカ(SiO
2)の溶出濃度のPアルカリ度依存性の計測結果を示す。
【0037】
図2に示すように、アルカリ性反応液1に抽出されるPの濃度傾向は、焼却灰A〜Cのいずれを処理対象とした場合であっても、次のような傾向を有する。すなわち、アルカリ性反応液1のPアルカリ度が比較的低いところでは、Pアルカリ度が増加するのに伴って、抽出されるPの濃度が急激に増加する。そして、アルカリ性反応液1のPアルカリ度がある値以上になると、抽出されるPの濃度の増加は緩やかになる。そこで、このPの濃度の増加傾向が変化するPアルカリ度をPの所定Pアルカリ度(
図2中、P
P)とする。Pの所定Pアルカリ度は、Pアルカリ度が比較的低いところの傾きの大きい直線とPアルカリ度が比較的高いところの傾きが小さい直線との交点のPアルカリ度とすることができる。換言すると、
図2に示すグラフにおいて、焼却灰A〜Cのいずれの焼却灰においても、そのPアルカリ度依存性は、所定Pアルカリ度までは傾きが大きく、所定Pアルカリ度を超えると傾きが小さくなるというように、所定Pアルカリ度の前後において、Pの溶出濃度のPアルカリ度依存性の傾向は変化する。
【0038】
また、
図3に示すように、アルカリ性反応液1に溶出されるAlの濃度傾向についてもPの場合と同様に、焼却灰A〜Cのいずれを処理対象とした場合であっても、次のような傾向を有する。すなわち、アルカリ性反応液1のPアルカリ度が比較的低いところではPアルカリ度が増加するのに伴って、Alの濃度が急激に増加し、Pアルカリ度がある値以上になるとAlの濃度の増加傾向は緩やかになる。そこで、このAlの濃度の増加傾向が変化するPアルカリ度をAlの所定Pアルカリ度(
図3中、P
Al)とする。Alの所定Pアルカリ度は、Pの所定Pアルカリ度の導出の場合と同様に、Pアルカリ度が比較的低いところの傾きの大きい直線とPアルカリ度が比較的高いところの傾きが小さい直線との交点のPアルカリ度とすることができる。すなわち、Alの所定Pアルカリ度の前後において、Alの溶出濃度のPアルカリ度依存性の傾向は変化する。
【0039】
また、
図4に示すように、アルカリ性反応液1に溶出されるイオン状シリカの濃度傾向は、焼却灰A〜Cのいずれを処理対象とした場合であっても、次のような傾向を有する。すなわち、アルカリ性反応液1のPアルカリ度が比較的低いところでは、Pアルカリ度が増加するに伴ってイオン状シリカの濃度も緩やかに増加し、Pアルカリ度がある値以上となるとイオン状シリカの濃度の増加傾向が急になる。このイオン状シリカの濃度の増加傾向が変化するPアルカリ度をイオン状シリカの所定Pアルカリ度(
図4中、P
Si)とする。このイオン状シリカの所定Pアルカリ度は、PやAlの場合と同様に、Pアルカリ度が比較的低いところの傾きの小さい直線とPアルカリ度が比較的高いところの傾きが大きい直線との交点のPアルカリ度とすることができる。すなわち、イオン状シリカの所定Pアルカリ度の前後において、イオン状シリカの溶出濃度のPアルカリ度依存性の傾向は変化する。
【0040】
そして、
図2から、この第1の実施形態において、Pの含有濃度およびCaの含有濃度がいずれも通常の濃度であり、比較的Pが抽出されやすい焼却灰Aにおいて、Pの所定Pアルカリ度は、約6.0(当量/kg)(30000mg/l)であり、
図3から、Alの所定Pアルカリ度は、約8.0(当量/kg)(40000mg/l)であることが分かる。また、
図4から、この第1の実施形態におけるイオン状シリカの所定Pアルカリ度は、約9.4(当量/kg)(47000mg/l)であることが分かる。
【0041】
また、上述した本発明者が実験および鋭意検討を行って得た知見によれば、種々の焼却灰から強アルカリ性溶液を用いてリンの抽出を行うに当たり、抽出のされやすさはPとAlとで同等であり、Siの溶出のしやすさはPやAlに比して低い。これにより、Siの所定Pアルカリ度は、PやAlの所定Pアルカリ度より大きくなる。
【0042】
以上から、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を0(当量/kg)より大きくイオン状シリカの所定Pアルカリ度以下にすることにより、イオン状シリカの溶出濃度が大幅に増加しないことがわかる。さらに、アルカリ性反応液1のPアルカリ度が0より大きくPやAlの所定Pアルカリ度以下の範囲においては、Pアルカリ度の増加に伴ってPやAlの溶出濃度が急激に増加するのに対し、イオン状シリカの溶出濃度の増加は緩やかである。そこで、本発明者の知見によれば、Pの抽出量を確保しつつ、イオン状シリカの溶出を抑制するには、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を、Pの所定Pアルカリ度より1.0(当量/kg)(5000mg/l)低いPアルカリ度以上にすれば、リン抽出方法におけるPの回収率を所望の範囲内で確保することができる。
【0043】
また、
図2および
図3から分かるように、本発明者の知見によれば、アルカリ性反応液1のPアルカリ度がPやAlの所定Pアルカリ度より大きい範囲では、Pアルカリ度の増加に伴うPやAlの溶出量の増加の割合は、所定Pアルカリ度以下の範囲に比して小さい。そこで、水酸化物イオンの所定量当たりのPの溶出量、すなわち必要とされるPアルカリ度を可能な限り低くしてPの回収効率を向上させることを考慮すると、アルカリ性反応液1のPアルカリ度をPの所定Pアルカリ度以下とすることによって、アルカリ性反応液1に必要な水酸化物イオン量を抑制しつつ、リン抽出処理によるPの回収率を所望の範囲内で確保することができる。
【0044】
これらの知見から、この第1の実施形態においては、焼却灰AからPを抽出する場合には、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を、9.4(当量/kg)(47000mg/l)以下とし、さらに、(6.0−1.0=)5.0(当量/kg)以上9.4(当量/kg)以下(25000mg/l以上47000mg/l以下)とするのが好ましく、5.0(当量/kg)以上6.0(当量/kg)以下(25000mg/l以上30000mg/l以下)とするのがより好ましい。
【0045】
また、焼却灰BからPを抽出する際にも、上述した焼却灰AからPを抽出する場合と同様にして、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を決定する。すなわち、Caの含有濃度が通常であるのに対しPの含有濃度が低めであって、比較的Pが抽出されにくい焼却灰Bにおいて、
図2から、Pの所定Pアルカリ度が約6.6(当量/kg)(33000mg/l)であり、
図3から、Alの所定Pアルカリ度が約7.0(当量/kg)(35000mg/l)であることが分かる。また、
図4から、焼却灰Bにおけるイオン状シリカの所定Pアルカリ度が約8.0(当量/kg)(40000mg/l)であることが分かる。
【0046】
そこで、焼却灰BからPを抽出する場合には、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を、8.0(当量/kg)(40000mg/l)以下とし、さらに、(6.6−1.0=)5.6(当量/kg)以上8.0(当量/kg)以下(28000mg/l以上40000mg/l以下)とするのが好ましく、5.6(当量/kg)以上6.6(当量/kg)以下(28000mg/l以上33000mg/l以下)とするのがより好ましい。
【0047】
また、焼却灰CからPを抽出する場合においても同様にして、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を決定する。すなわち、Pの含有濃度は通常であるがCaの含有濃度が高めであって、比較的Pが抽出されにくい焼却灰Cにおいて、
図2から、Pの所定Pアルカリ度が約6.4(当量/kg)(32000mg/l)であり、
図3から、Alの所定Pアルカリ度が約5.6(当量/kg)(28000mg/l)であることが分かる。また、
図4から、焼却灰Cにおけるイオン状シリカの所定Pアルカリ度が約8.4(当量/kg)(42000mg/l)であることが分かる。
【0048】
そこで、焼却灰CからPを抽出する場合には、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を、8.4(当量/kg)(42000mg/l)以下とし、さらに、(6.4−1.0=)5.4(当量/kg)以上8.4(当量/kg)以下(27000mg/l以上42000mg/l以下)とするのが好ましく、5.4(当量/kg)以上6.4(当量/kg)以下(27000mg/l以上32000mg/l以下)とするのがより好ましい。
【0049】
(リン抽出方法)
上述のようにしてそれぞれの焼却灰A〜Cの性状に応じて、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を調整した後、
図1に示すように、少なくともP、Al、Siを含有する汚泥焼却灰などの焼却灰2をアルカリ性反応液1に混合させてリン抽出液を得る、いわゆるリン抽出を行う(リン抽出工程、ステップST2)。これにより、Pを含有する溶液であるP抽出液が得られる。このとき、焼却灰2には多量のリンのほか、砒素(As)などの有害成分も含有されているが、これらの成分はアルカリ性反応液1との接触により液体側に抽出される。次に、ろ材としてろ布を用いたろ過処理による固液分離を行うことによって、固体成分である処理灰と、液体成分であるリン抽出液とが分離される(固液分離工程、ステップST3)。
【0050】
その後、固液分離された固体成分である処理灰とアルカリ性反応液1とが再度混合されて2回目のリン抽出工程が行われる(ステップST4)。続いて、ステップST3と同様にして2回目の固液分離工程が行われる(ステップST5)。これらの工程により2回のリン抽出工程が施された処理灰とリン抽出液とが得られる。以上のようにリン抽出工程と固液分離工程とを2回行うことにより、リンの回収率を向上させることができる。
【0051】
次に、処理灰に付着しているアルカリ性反応液やAs、Se等の有害成分を除去するために処理灰の洗浄が行われる(灰洗浄工程、ステップST6)。この第1の実施形態においては、処理灰の洗浄として、洗浄水(水道水、井水、処理水など)を用いた水洗浄が行われる。続いて、ろ布を用いたろ過処理による固液分離を行うことによって、固体成分の処理灰と液体成分であり廃棄される廃液とが分離される(固液分離工程、ステップST7)。その後、固液分離された固体分である処理灰に対して処理水を再度混合して2回目の灰洗浄工程が行われる(ステップST8)。続いて、ステップST7と同様にして固液分離工程が行われる(ステップST9)。
【0052】
以上により2回の灰洗浄処理がされた処理灰と廃液とが固液分離される。これらのうちの廃液に対しては、中和などの従来公知の方法により廃棄処理がされる。このように、灰洗浄工程と固液分離工程とを2回行うことにより、AsやAlなどを効率よく除去することができるとともに、pHを低下させてより中性に近づけることが可能となる。
【0053】
次に、処理灰に対して、処理水を添加しつつ例えば硫酸(H
2SO
4)などの酸を加えることにより弱酸洗浄を行う(弱酸洗浄工程、ステップST10)。なお、この第1の実施形態においては、使用する酸として取り扱いの容易なH
2SO
4を用いているが、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)等を用いることも可能である。この弱酸洗浄工程により、処理灰に付着しているアルカリ性反応液やAs、Se等が除去される。続いて、処理灰と酸性溶液との混合物に対して、ベルト濃縮装置を用いた濃縮が行われる(ベルト濃縮工程、ステップST11)。これによって、処理灰と酸性溶液との混合物が、濃縮され清浄化された処理灰と濃縮によって排出される廃液とに分離される。これらのうちの廃液に対しては、中和などの従来公知の方法により廃棄処理がされる。
【0054】
次に、濃縮された処理灰を乾燥させて処理灰に付着した水分を除去する(乾燥工程、ステップST12)。これによって、最終的に水分の含有が最小限となった清浄な処理灰3が得られる。この清浄な処理灰3は土壌環境基準を満たすことから、例えばアスファルトフィラーや下層路盤材などとして使用することができる。
【0055】
さて、ステップST3およびステップST5の固液分離工程において分離されたリン抽出液に対しては、Ca成分4を添加することにより、リン酸Caを析出させる(リン酸塩析出工程、ステップST13)。この第1の実施形態においては、Ca成分として、消石灰(水酸化カルシウム(Ca(OH)
2))を用いることができ、その添加量は、リン抽出液中のリン酸が(1)式に従って反応すると仮定した場合に水酸化カルシウムが過不足なく反応する量(以下、反応等量)の1.3倍〜1.5倍である。
2PO
43−+3Ca(OH)
2⇒Ca
3(PO
4)
2+6OH
− ……(1)
【0056】
その後、リン酸塩が析出した混合物に対して固液分離を行うことにより、リン酸Caなどのリン酸塩の結晶が取り出される(固液分離工程、ステップST14)。この固液分離工程においては、ステップST3、ステップST5における処理灰に対する固液分離と同様に、ろ布を用いたろ過処理が行われるが、ろ過処理以外にも重力沈降を採用することも可能である。そして、固液分離工程により分離された液体成分は、再生液としてアルカリ性反応液1に混合されて循環使用される。他方、固液分離により分離された固体分としてのリン酸塩の結晶に対しては、処理水を添加することにより洗浄が行われる(洗浄工程、ステップST15)。これにより、リン酸塩の結晶に付着している各種有害成分が除去されて、清浄なリン酸塩の結晶が得られる。その後、リン酸塩の結晶と処理水との混合物に対して、ステップST11におけるベルト濃縮工程と同様にして、ベルト濃縮装置を用いた濃縮を行うことにより、リン酸塩の結晶が濃縮され、廃液と分離される(ベルト濃縮工程、ステップST16)。
【0057】
次に、濃縮された清浄なリン酸塩の結晶に対して、乾燥処理を行うことにより、リン酸塩の結晶に含まれる水分が最小限まで除去される(乾燥工程、ステップST17)。その後、リン酸塩の結晶を粒状に粉砕する造粒処理が行われる(造粒工程、ステップST18)。これにより粉末状のリン酸カルシウム5が得られる。このリン酸カルシウム5は、例えばリン酸肥料の原料として有効利用することができる。
【0058】
以上説明したように、この第1の実施形態によれば、アルカリ性反応液1のPアルカリ度を、イオン状シリカのPアルカリ度依存性が変化するイオン状シリカの所定Pアルカリ度以下、好ましくはPの所定Pアルカリ度より1.0(当量/kg)(5000mg/l)低いPアルカリ度以上、より好ましくはPの所定Pアルカリ度以下とすることによって、Pの抽出量の大幅な減少を招くことなく、溶解性Siの生成を抑制してA型ゼオライトの発生を抑制し、リン抽出工程後の固液分離に用いられるろ布の目詰まりを防止することができる。
【0059】
さらに、この第1の実施形態によれば、表1に示すような性状の異なる種々の焼却灰からリンを抽出する場合であっても、リン、アルミニウム、およびイオン状シリカがアルカリ性反応液1に溶出する際のPアルカリ度依存性は、いずれの焼却灰においても同様の傾向を有することから、本発明によるリン抽出方法でのアルカリ性反応液の調整方法に基づいて、リンを抽出するためのアルカリ性反応液1のPアルカリ度、すなわち水酸化物イオン量を制御することにより、あらゆる性状の焼却灰2において、溶解性Siの生成を抑制してA型ゼオライトの発生を抑制し、リン抽出工程後の固液分離に用いられるろ布の目詰まりを防止することができる。
【0060】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態においては、第1の実施形態と同一の部分についてはその説明を省略する。
図5に、本発明の第2の実施形態によるリン回収方法のフローチャートを示す。
【0061】
図4に示すように、まず、第1の実施形態と同様に、アルカリ性反応液1の調整(ステップST21)、リン抽出工程(ステップST22)および固液分離工程(ステップST23)が行われ、処理灰とリン抽出液とが分離される。ここで、この第2の実施形態においては、第1の実施形態と異なり、リン抽出工程と固液分離工程とはそれぞれ1回のみ行われる。このようにリン抽出工程と固液分離工程とが1回のみの場合、処理灰に付着している、処理灰の3倍程度の質量の付着水には、多くのPおよび未反応のNaOHが残存している。
【0062】
その後、第1の実施形態におけると同様に、灰洗浄工程(ステップST24)およびろ布を用いたろ過処理による固液分離工程(ステップST25)が行われ、固体成分としての処理灰と液体成分とが分離される。ここで、この第2の実施形態においては、第1の実施形態と異なり、灰洗浄工程と固液分離工程とはそれぞれ1回のみ行われる。なお、上述したように、リン抽出工程と固液分離工程とが1回のみの場合、処理灰に付着した付着水には多くのPおよび未反応のNaOHが残存していることから、灰洗浄工程および固液分離工程によって分離された液体成分にはPおよび未反応のNaOHが含まれる。そのため、この液体成分は、リン抽出液として利用される。
【0063】
その後、処理灰に対して、処理水を加えつつ例えばH
2SO
4などの酸を添加するとともに、ポリ硫酸第二鉄(ポリテツ)を添加することにより、弱酸洗浄が行われる(弱酸洗浄工程、ステップST26)。この弱酸洗浄工程においてポリテツを添加していることにより、処理灰に付着しているAsの溶出を抑制しつつ処理灰の中和洗浄を行うことが可能となる。続いて、処理灰と酸性溶液との混合物に対して、固液分離処理が行われる(固液分離工程、ステップST27)。これによって、処理灰を含む混合物が、清浄化された処理灰と排出される廃液とに分離される。これらのうちの廃液に対しては、中和などの従来公知の方法により廃棄処理がされる。なお、この第2の実施形態においては、必要に応じて排出される廃液の一部をリン抽出液として用いることも可能である。
【0064】
次に、第1の実施形態におけると同様に、乾燥工程(ステップST28)を行うことにより、最終的に水分の含有が最小限となった清浄な処理灰3が得られる。
【0065】
さて、ステップST23およびステップST25の固液分離工程において分離されたリン抽出液に対しては、リン酸塩析出工程によりCa成分4を添加してリン酸Caを析出させる(ステップST29)。この第2の実施形態においては、Ca(OH)
2の添加量は、第1の実施形態における添加量に比して少ない量、具体的には、リン抽出液の反応等量の1.3倍未満である。
【0066】
その後、第1の実施形態におけると同様に、固液分離工程(ステップST30)、処理水を用いた洗浄工程(ステップST31)、ベルト濃縮工程(ステップST32)、乾燥工程(ステップST33)および造粒工程(ステップST34)を行うことにより、粉末状のリン酸カルシウム5が得られる。
【0067】
次に、この第2の実施形態においては、第1の実施形態と異なり、ステップST30の固液分離工程において分離された再生液に対しては、アルカリ性反応液1に混合させて循環使用する前に、必要に応じて、再生液に含まれるAsを除去する処理(As除去工程、ステップST35)や、再生液に含まれるAlを除去する処理(Al除去工程、ステップST36)が行われる。
【0068】
具体的には、As除去工程は、ステップST30において固液分離された再生液中に含まれるAsの濃度が所定値(例えば、10mg/l)以上になった場合に行われる。このAs除去工程においては、再生液に消石灰を添加してAsを吸着させた後、固液分離を行うことによって、再生液からAsを除去する。ここで、再生液に添加する消石灰の添加量については、Asの濃度に応じて適宜決定される。
【0069】
また、Al除去工程は、ステップST30において固液分離された再生液中に含まれるAlの濃度が所定値(例えば、10000mg/l)以上になった場合に行われる。このAl除去工程においては、再生液に溶解性Siを添加することによりAlを除去する。
【0070】
以上説明したように、この第2の実施形態によれば、リン抽出工程とこれに続く固液分離工程とをそれぞれ1回のみ行い、灰洗浄工程とこれに続く固液分離工程とをそれぞれ1回のみ行って分離された液体をリン抽出液としていることにより、Pの抽出量を低減させることなく、その工程数を低減することができる。また、弱酸洗浄工程においてポリテツを添加していることにより、処理灰からのAsの溶出を抑制することが可能となる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0072】
上述した第2の実施形態においては、リン酸Caを析出させた後の固液分離により分離された再生液に対して、Asの濃度が所定値を超えた場合にAs除去工程を行っているが、Asの濃度が所定値を超えた場合に、ステップST29のリン酸塩析出工程において添加するCa(OH)
2の添加量を増加させて、反応等量の1.3倍以上1.5倍以下としCaの量を増加させるようにしてもよい。
【0073】
上述した実施形態においては、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量依存性の一例として、焼却灰の単位質量当たりのPアルカリ度依存性を採用しているが、焼却灰の単位質量当たりの水酸化物イオン量依存性の他の例として、焼却灰の液固比依存性に基づいて、P、Al、およびSiの溶出を制御することも可能である。
【0074】
また、上述した実施形態において、所定Pアルカリ度の導出方法としては、Pアルカリ度の計測値のうちの、最も大きい側の計測値から順次小さい側の計測値に向けて直線を当て、他方で、Pアルカリ度の計測値のうちの、最も小さい側の計測値から順次大きい側の計測値に向けて直線を当て、それらの2本の直線の交点におけるPアルカリ度を所定Pアルカリ度とする導出方法を採用しても良い。