特許第5934710号(P5934710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジーの特許一覧

特許5934710ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給
<>
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000002
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000003
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000004
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000005
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000006
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000007
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000008
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000009
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000010
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000011
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000012
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000013
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000014
  • 特許5934710-ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934710
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】ローレンツ力直動型の無針式ジェット注射システムを用いた固形物および/または流体の供給
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/30 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   A61M5/30 500
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-532987(P2013-532987)
(86)(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公表番号】特表2013-539688(P2013-539688A)
(43)【公表日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】US2011055443
(87)【国際公開番号】WO2012048268
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】61/405,355
(32)【優先日】2010年10月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/391,053
(32)【優先日】2010年10月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】ハンター・イアン・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】タバーナー・アンドリュー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホーガン・エヌ・キャサリン
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0129693(US,A1)
【文献】 特表2005−508233(JP,A)
【文献】 特表2009−515669(JP,A)
【文献】 特表2008−532105(JP,A)
【文献】 特開2008−206477(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0187120(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0222657(US,A1)
【文献】 特開2002−179557(JP,A)
【文献】 特表2004−521677(JP,A)
【文献】 特表2002−535293(JP,A)
【文献】 特表2004−505733(JP,A)
【文献】 特表2008−535541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物を生体の表面を介して輸送する無針式輸送装置であって、
流体を貯蔵する貯蔵部と、
前記貯蔵部に連結されたノズルと、
固形物が充填され、前記ノズルに連結された、前記貯蔵部から分離されたカートリッジと、
前記貯蔵部に連通された、制御可能な電磁式のアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータは電気入力を受けて前記電気入力に応じた機械的な力を生成し、前記機械的な力は、前記貯蔵部内に圧力を発生させ、前記圧力の大きさは、前記機械的な力に応じて変化して、前記貯蔵部から前記ノズルを通じ前記流体を前記カートリッジに無針噴射させて前記固形物を前記カートリッジから生体内に送り込む、
無針式輸送装置。
【請求項2】
前記カートリッジはオリフィスを有し、前記固形物が前記オリフィスを介して、前記カートリッジから送り込まれる、請求項1に記載の無針式輸送装置。
【請求項3】
前記カートリッジは前記オリフィスを封じる無菌カバーを有し、前記固形物が前記無菌カバーを貫通して送り込まれる、請求項2に記載の無針式輸送装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、前記機械的な力を2つの方向のうちの一方に印加するように構成された、双方向性のアクチュエータである、請求項1に記載の無針式輸送装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、ローレンツ力アクチュエータを備える、請求項4に記載の無針式輸送装置。
【請求項6】
前記固形物は、薬剤の充填されたカプセルを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項7】
前記固形物は、移植物を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項8】
前記固形物は、RFIDタグを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項9】
前記固形物は、自己集合型基材を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項10】
前記固形物は、ワイヤを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項11】
前記固形物は、センサを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【請求項12】
前記固形物は、直径100μm超の微粒子を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無針式輸送装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2010年10月7日付出願の米国仮特許出願第61/391,053号の利益及び優先権、ならびに2010年10月21日付出願の米国仮特許出願第61/405,355号の利益及び優先権を主張する。双方の米国仮特許出願の全内容を、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【技術分野】
【0002】
本願は、概して無針式経皮輸送装置に関するものであり、特に無針式装置を用いた物質の供給方法に関する。なお、そのような物質には、固形物が含まれる。
【背景技術】
【0003】
針を使用しないジェット注射は、注射針及び注射筒(シリンジ)を用いた従来の供給方法にまつわる数多くの問題点(例えば、針刺し注射、鋭利物の廃棄コスト、尖鋭恐怖症、服薬コンプライアンス等)を解消するだけでなく、そのような従来の供給方法に劣らず効果的に薬剤を投与することのできる技術である。ジェット注射器は、注射用の高圧力の生成にアクチュエータを利用する点が特徴的である。必要とされる圧力は、オリフィスのサイズ、所望の注射深さ、薬剤の粘度、個人(又は個体)間の皮膚の違いなどに応じて、5.5〜30MPaと様々である。
【0004】
しかし、無針式ジェット注射器を用いた薬剤供給技術の長年の問題点として、目標組織に実薬を供給するにあたって、供給される量が変わらないように、繰り返し再現性よく行うのが難しいことが挙げられる。ばねや圧縮ガスを動力に用いる市販の装置では、注射の最中に薬剤に印加される圧力について、僅かな制御しかできないか、または全く制御することができない。そのため、治療用タンパク質分子を注射する場合、分子のサイズが大きいので、分子のせん断や活性損失が起こる可能性がある。また、そのような市販の装置では、大きな音が発生したり、痛みを感じたりする場合が多い。ガスが噴射されるオリフィス部分を可変構造にしたり、点火を高速/低速にしたりすることにより、圧力パルスの形状はある程度改善されるかもしれないが、精密な制御を実現するまでには至らない。なお、Stachowiakらの最新の研究により、動的に制御可能な圧電積層体を機械的な可撓体内部に設けたジェット注射器が開発された。Stachowiakらは、ジェット注射器の侵入深さと投薬機能とを切り離して研究を重ねた結果、被注入物のうち高速で供給させる量の割合を調節することにより、実際の組織の代わりとして用いたモデル物質(アクリルアミド)への侵入深さを精密に制御できることを実証した。しかし、Stachowiakらのジェット注射器は、拡張が困難なデザインなので、ピストンのストローク、つまり、供給可能な流体量に限界がある。
【0005】
電気で駆動するローレンツ力リニアモータは、ストローク(例えば、現在の装置で25mm、その結果、被供給量(例えば、現在の装置で250μL)を犠牲にすることなく、コイルの位置、それによる、薬剤の侵入深さおよび被供給量を、確実かつ精密に制御することができる。非特許文献1および非特許文献2を参照のこと。いずれの非特許文献も、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0006】
監視・サーボ制御された増幅器を利用することにより、アクチュエータへ送達される電気的なエネルギーに、注射の最中、薬剤量に対して圧力または速度の時間的に変化するプロファイル(すなわち、波形)を課すことができる。非特許文献3および非特許文献4を参照のこと。いずれの非特許文献も、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0007】
薬剤の被供給量を制御することにより、適切な用量(例えば、インスリン等)を確実に供給することができるだけでなく、1回の供給ごとの用量およびコストの減少(例えば、通常は筋肉内注射[IM]または皮下注射[SC]されるワクチンを皮内供給することによる減少)や、供給量の限られた薬剤(例えば、ワクチン等)の在庫を増大させることが可能となる。注入深さを制御することにより、SC(例えば、インスリン等)もしくはIM(例えば、破傷風等)を供給する場合、又は、通常以下の量のID(例えば、リドカイン、結核、HBV、インフルエンザ等)を供給する場合、体型にかかわらず、適切な組織層への供給を保障し、また、最も効果的な薬剤をより確実に供給できる。
【0008】
従来、ジェット注射器は、液体(例えば、インスリン、ヒト成長ホルモン等)、薬剤の溶解処方物(例えば、ワクチン、MAb(モノクローナル抗体)等)、粉末薬剤、薬剤でコーティングされた粒子(例えば、不活性な金粒子等)などを、目標組織内に送り込む目的で使用されてきた。しかしながら、近年のとどまることを知らないタンパク質ベースの薬剤やワクチンの開発に合わせて、供給性、安定性および力価(すなわち、バイオアベイラビリティ)が向上した薬剤処方物の開発も進み、より革新的な供給方法が要望されている。
【0009】
そのような要望に応えようと、環境応答性系(例えば、ヒドロゲル等)やリポソームや生分解性ポリマー、バルク(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、それらの共重合物等)および表面分解可能な材料を用いて制御された除放性のシステムを提供し、投与頻度を大きく減少させるという試みがなされた。しかし、そのような供給技術の多くが、高侵襲性の移植を必要とする。
【0010】
PowderJect装置(PowderJect Vaccines, Inc社製)を用いて、コーティングされた金粒子(粒径1.5〜2.5μm)、ワクチン処方物等で経皮粉末薬剤免疫化(epidermal powder immunization)を行い、これを評価した研究はあるが、ジェット注射器を用いた生分解性ポリマー/薬剤徐放処方物の供給の評価を行った研究はほとんどない。また、ねじ駆動型の装置を用いて、好適な生分解性の先導的な発射物およびその後に続く薬剤とともにヒト又は動物への注射物質を供給するということが提案されている。しかし、ねじ駆動型の装置では、本明細書で説明するローレンツ力直動型のジェット注射器とは対照的に、圧力対時間プロファイルの制御(ヘテロ集団(非均一な集団)における特定の目標組織/身体の一部だけに供給を行う際の必要条件)を、僅かしか行えないか、あるいは、全く行うことができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】B. Hemond, D.M. Wendell, N.C. Hogan, A.J. Taberner, and I.W. Hunter, "A Lorentz-force actuated autoloading needle-free injector,” in: Proceedings of the 28th Annual International Conference of the Engineering Medicine and Biology Society 1(2006) 679- 682, http://ieeexplore.ieee.org/hemond
【非特許文献2】A. J. Taberner, N.B. Ball, N.C. Hogan, and I. W. Hunter, "A portable needle-free jet injector based on a custom high power-density voice-coil actuator," in: Proceedings of the 28th Annual International Conference of the Engineering Medicine and Biology Society 1(2006) 5001-4, http://ieeexplore.ieee.org/taberner
【非特許文献3】Hemond et al. and Taberner et al.
【非特許文献4】B. Hemond, A. Taberner, C. Hogan, B. Crane, and I. Hunter, "Development and performance of a controllable autoloading needle-free jet injector," J Med Devices 5 (2010) 015001-1- 015001-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
薬剤の力価を増強および投薬頻度を減少させるために、非供給物から薬剤の徐放性と組み合わされた特定の箇所への供給のターゲット性の改善が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書で説明するように、ローレンツ力直動型のジェット注射器をサーボ制御し、固形物(例えば、徐放性高分子処方物、粉末ワクチン、薬剤被覆体等)を身体の表面を介して供給させる構成を採用することにより、特定の箇所への薬剤供給のターゲット性を向上させることができる。また、このような技術を基盤として、生物学的製剤以外の固形物の供給を実行することも考えられる。例えば、在庫、ヒト、貴重品等を追跡・管理するRFIDタグの供給、自己集合して例えば回路基板、細胞の骨格基材等を構築する自己集合型基材/基板の供給、電極、アンテナ等として利用可能な金属ワイヤ、被覆ワイヤまたはポリマーの供給、センサの供給、美容目的、医療目的、職業上の目的または個人の嗜好目的の入れ墨など、想定される用途は無限大である。
【0014】
また、本発明にかかるジェット注射器は、1つ以上のアクチュエータを利用することにより、表面を走査ために用いられ得る。これにより、平面上の複数の方向に移動可能となる。さらに、複数の互いに異なる深さに供給を行うことにより、例えば所与の物体の一部をなす多層構造(例えば、バーコード等)を形成したり、例えば組織(例えば、組織内の複数の互いに異なる層)および/または他の物体の、イメージ取得(画像化)に有用な構造を形成したりすることができる。
【0015】
本発明の実施形態は、ローレンツ力直動型のジェット注射技術にサーボ制御を適用し、1種以上の固形物を、目標(例えば皮膚等)に供給する技術に関する。なお、本発明の供給技術は、Medical Engineering & Physics August 2011に投稿されたA. J. Taberner, N.C.Hogan, and I. W. Hunter, "Real-time feedback-controlled needle-free jet injection using linear Lorentz-force motors," やA. J. Taberner, N.B. Ball, N.C. Hogan, and I.W. Hunter, A portable needle-free jet injector based on a custom high power-density voice-coil actuator, in Proceedings of the 28th Annual International Conference of the IEEE Engineering and Medicine and Biology Society, Vol. 1-15 (2006) 2531-2534に記載された装置構成を利用して実行することもできる。いずれの文献も、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0016】
また、本発明の供給技術は、ノズルに代えて、固形物を収容した使い捨てのカートリッジを備えた装置構成で実行することもできる。コイルモータを駆動させると、ノズルのオリフィスまたはカプセルのオリフィスから流体を押し出し、固形物を目標へ侵入させるために十分な力で発射することができるプランジャとなり得る。
【0017】
本明細書で説明する方法により、既存の方法に比べて数多くの利点および改善がもたらされる。以下に、幾つかの例を述べる:
a. 注入深さを制御できるので、目標内部の所望の位置に固形物を正確に供給することができる。
b. 固形の薬剤をパーッケージングすることにより、安定性の向上および長期の品質保持期限が得られる。
c. 固体粒子を供給することができるので、最適な薬物動態効果を奏するように粒子を調節し(例えば、持続放出性組成物、即放性組成物等)、これを使用することができる。
d. 固体粒子は、液体と違って大量に供給されることが少ないので、供給時の痛みが小さいか、全くない。なお、痛みとは、組織の伸張/せん断によるものであり、薬剤自体とは関係ない。
e. 双方向性のアクチュエータにより、粒子が溶解/分散した溶液を貯蔵バイアル/容器から取り出す動作と、これをアンプルに装填する動作とが可能になるので、必要なときに必要な量だけ供給(ジャストインタイムの供給)を行うことができる。
f. 薬剤を充填(担持)させたカプセル/移植物の場合、当該カプセル/移植物から薬剤が徐々に放出される。これを使用することにより、必要な注射回数を減らすことができるので、服薬受諾(acceptance)や服薬コンプライアンスの改善が期待できる。
g. 移植物を、無菌の(又は滅菌処理された)密封カートリッジに予め充填しておく。このようなカートリッジは、使用しない間適切な温度で保管することが可能である。実際に使用する際には、無菌の(又は滅菌処理された)ピストンシャフト端部に螺合させて、供給を実行することができる。ノズル先端に設けたれる無菌の(又は滅菌処理された)シール部材により、ジェット注射時の姿勢(すなわち、どのようにユーザが装置を把持するか)にかかわらず、発射が行われるまで、注射物を確実に保持することができる。
h. 調製工程が最小限で済むので、過失等の減少や、汚染リスクの低下が期待できる。
i. 被供給物質の種類に応じて、ノズルの構成を変更することができるので、非常に融通が利く。
【0018】
一構成において、本発明の一実施形態は、固形物を生体の表面を介して輸送する方法に関する。この輸送方法は、制御可能な電磁式のアクチュエータに対して電気入力を印加する過程を含む。前記電磁式のアクチュエータにより、前記電気入力に応じた機械的な力が生成される。一端部がノズルと連結した貯蔵部に対して、前記機械的な力が印加される。その機械的な力により、前記貯蔵部内に圧力が発生する。その圧力の大きさは、前記機械的な力に応じて変化するものである。前記圧力で前記貯蔵部から流体が噴射されることにより、前記固形物が前記生体内に送り込まれる。
【0019】
さらに、後述する構成のうち、1つ以上が含まれ得る。前記機械的な力を印加する過程の前に、前記貯蔵部内の前記流体に前記固形物が配されてもよい。この場合、前記力の印加により、正方向の圧力が生成され、この圧力によって前記貯蔵部から、前記流体の少なくとも一部および前記固形物が、前記ノズルを介して噴射され得る。また、前記機械的な力を印加する過程の前に、前記ノズルに連結されたカートリッジ内に前記固形物が配されてもよい。この場合、前記機械的な力の印加により、正方向の圧力が生成され、この圧力によって前記貯蔵部から、前記流体の少なくとも一部が前記ノズルを介して噴射されることにより、前記固形物が前記カートリッジのオリフィスを介して前記生体内に送り込まれ得る。また、前記アクチュエータは双方向性のアクチュエータであってもよく、前記機械的な力は、2つの方向のうちの一方に印加され得る。この場合、第1の方向に機械的な力を印加することにより、前記貯蔵部内に前記固形物が充填され、その後、前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に力を印加することにより、前記貯蔵部から前記固形物が押し出され得る。
【0020】
他の構成において、本発明の実施形態は、物質を対象の身体に供給する方法に関する。この供給方法は、前記対象の身体の表面の近傍に、無針注射器を位置決めする過程と、前記物質を、前記対象の身体に注入する過程と、前記注入の最中に、前記表面に沿って前記無針注射器を移動させることにより、前記表面を走査する過程とを含む。
【0021】
さらに、後述する構成のうち、1つ以上が含まれ得る。前記無針注射器が、前記対象の身体に接触させて配置されてもよい。また、前記無針注射器は、平面上を移動するように前記表面に沿って移動させられ得る。前記物質は、前記表面の内側における複数の互いに異なる深さに注入され得る。注入された前記物質は、前記表面の内側の互いに異なる深さにある複数の層を具備した、多層構造を形成し得る。前記対象の身体は組織を含み、および/または前記物質は固形物を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態において使用するのに好適である、制御可能な無針式経皮輸送装置の一例(すなわち、ジェット注射器等)を示す、概略ブロック図である。
図2A図1の装置において使用することのできる、制御可能な電磁式のアクチュエータの展開状態を示す断面図である。
図2B図1の装置において使用することのできる、制御可能な電磁式のアクチュエータの後退状態を示す断面図である。
図3A図2Aおよび図2Bの制御可能な電磁式のアクチュエータに対する電気入力の一例の、電流対時間プロファイルのグラフである。
図3B図3Aの電気入力を受けて制御可能な電磁式のアクチュエータが貯蔵部内に発生させる、物質を輸送するための圧力の一例の、圧力対時間プロファイルのグラフである。
図4】本発明において使用可能な、手持ち式のサーボ制御されるジェット注射器の写真である。
図5図4の装置において使用するのに好適である、制御可能な電磁式のアクチュエータの一実施形態を示す部分切開図である。
図6図4の装置において使用可能な、制御系のアーキテクチャの一実施形態を示すブロック図である。
図7図4の手持ち式のサーボ制御されるジェット注射器を用いた、虫ピン(minutien pin)の供給の様子を示す写真である。
図8A】死んだラットの皮膚に対する、水中に分散した一定量の6μmポリスチレンビーズの供給を、ジェット速度の時間(Tjet)および後続の速度(Vft)を同一に保ちながら、ジェット速度(Vjet)を変化させて実行した場合の、様々な被供給深さを示す写真である。
図8B】死んだラットの皮膚に対する、水中に分散した一定量の6μmポリスチレンビーズの供給を、ジェット速度の時間(Tjet)および後続の速度(Vft)を同一に保ちながら、ジェット速度(Vjet)を変化させて実行した場合の、様々な被供給量を示すグラフである。
図8C】死んだラットの皮膚に対する、水中に分散した一定量の6μmポリスチレンビーズの供給を、ジェット速度の時間(Tjet)および後続の速度(Vft)を同一に保ちながら、ジェット速度(Vjet)を変化させて実行した場合の、様々な被供給深さを示すグラフである。
図9】カートリッジ型の一実施形態を示す概略図である。
図10】サーボ制御されるマルチショット型の無針式ジェット注射装置を用いた表面処理の様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照すると、生体150の表面155を介して物質を輸送させる、例示的な無針式経皮輸送装置100(例えば、無針注射器など)は、本発明の実施形態においてそのような輸送を実行するのに好適な、サーボ制御能力を備えている。この例示的な無針式経皮輸送装置100は、下記の構成を有し得る。以下では、一種類の装置しか詳述しないが、本発明にかかる方法は、あらゆる種類の無針式経皮輸送装置を用いて実行することができ、上記の例示的な装置に必ずしも限定されない。
【0024】
装置100は、有効成分(例えば、薬剤等)を液状に調製した処方物を、生体(例えば、家畜動物、ヒト等)に注入(又は注射)するために使用され得る。このような構成の変形例として、あるいは、このような構成に加えて、装置100は、生体150から試料を採取するために使用され得る。これは、生体150の表面155を介して試料を取り出し、装置100外部または装置100内部に設けられた貯蔵部113にその試料を送り込むことによって実行され得る。
【0025】
典型的に、装置100は、生体150の表面155(例えば、皮膚等)を介してその表面155を突破るのに必要な直径および速度で物質を送り込むためのノズル114を備える。ノズル114から発射された物質は、ジェットを形成し、このジェットの力により、侵入深さが決まる。一般的に、ノズル114は、皮膚に接触させて配置することのできる平坦な表面部(例えば、ヘッド115など)を有する。また、ノズル114は、オリフィス101を形成している。オリフィス101の内径は、輸送流の直径を決める制御因子の一つである。また、オリフィス101を形成する導孔(又は導管)103の長さは、輸送圧力(例えば、注射圧力など)を決める制御因子の一つである。
【0026】
ノズル114は、シリンジ112に連結され得る。シリンジ112は、輸送される物質(又は輸送された物質)を一時的に貯蔵する貯蔵部113を形成し得る。シリンジ112は、少なくとも遠位端が貯蔵部113内において摺動可能に配置されたプランジャ(又はピストン)126を具備し得る。プランジャ126が、シリンジ112の長手軸心に沿って2つの方向のうちの任意の方向に移動することにより、それに応じた圧力が、貯蔵部113内に発生する。例えば、上市されている針なしシリンジ112、例えば、Equidyne Systems Inc.社(米国カリフォルニア州サンディエゴ)製の品番100100のシリンジ112が、装置100に取り付けられてもよい。
【0027】
有利なことに、制御可能なアクチュエータにより、チャンバ(又は貯蔵部)113に対し、圧力を選択的に印加することができる。電磁式のアクチュエータ125は、高速の立ち上がり時間(例えば、1ミリ秒未満)の高圧パルスを生成する。アクチュエータ125は、動的に制御可能なので、駆動の最中に、圧力対時間の調節を行うことができる。
【0028】
電磁式のアクチュエータ125は、直線方向の力を生成する。この直線方向の力は、物質の経皮輸送を行うためにプランジャ126に印加される。この力の伝達は、力伝達部材110(例えば、軸受111を介して摺動可能に連結した剛体棒等)によって実現され得る。
【0029】
アクチュエータ125は、固定側部材(例えば、磁石アセンブリ105等)と可動部材(例えば、コイルアセンブリ104等)とを有し得る。コイルアセンブリ104内で生成された力は、物質の経皮輸送を行うために、プランジャ126に直接印加されるか、または剛体棒110を介してプランジャ126に間接的に印加され得る。一般的に、アクチュエータ125、軸受111およびシリンジ112は、駆動の間にこれらを支持し且つこれらを定位置に維持するフレーム(又はハウジング)102に連結している。
【0030】
装置100は、当該装置の状態を知らせるユーザインターフェース120を備え得る。例えば、ユーザインターフェース120は、前記装置が駆動可能な状態であることを知らせる。例えば、注入(又は注射)を行うための条件が満たされている場合に、制御部108に接続された発光ダイオード(LED)が発光するものとされてよい。例えば、ユーザインターフェース120は、ユーザと装置100との間で詳細な情報を交換する、任意の適切な技術を具備するものとされてよい。これにより、例えば、投与量に関係するパラメータ、および/または試料(試料採取)に関係するパラメータ、および/または生体(例えば、年齢、体重等)に関係するパラメータを、ユーザが特定又は指定することができる。
【0031】
電源106は、アクチュエータ125のコイルアセンブリ104に対して電気入力を供給する。磁石アセンブリ105によって形成される磁場の存在下で、コイルアセンブリ104に対して電気入力が印加されることにより、機械的な力が発生する。この機械的な力は、コイルアセンブリ104を移動させ、シリンジ112のプランジャ126に対して仕事をすることができる。
【0032】
制御部108が、電源106とアクチュエータ125との間に電気的に接続されている。制御部108は、電源106からアクチュエータ125に対して供給される電気入力を、選択的に印加、停止または調節することができる。制御部108は、ローカルインターフェースによって操作可能な単純なスイッチであってもよい。例えば、ハウジング102に設けられたボタンを、ユーザが操作することにより、電源106からアクチュエータ125に対する電気入力を、選択的に印加または遮断できるようにしてもよい。制御部108は、電源106からの電力をアクチュエータ125に対して選択的に印加させるように構成された構成要素(例えば、電気回路等)を制御するものであってもよく、前記電気入力の形状は、選択(指定)された用途に応じて成形(決定)され得る。
【0033】
無針式経皮輸送装置100は、リモートインターフェース118を備え得る。リモートインターフェース118は、情報(例えば、装置100の状態、装置100内に収容された物質の状態等)を離れた場所に送信するものであってもよい。このような構成の変形例として、あるいは、このような構成に加えて、リモートインターフェース118は、制御部108と電気的に接続されて、離れた場所からの入力を受信して当該入力を制御部108に送り、アクチュエータ125の制御に影響を与えるものであってもよい。
【0034】
リモートインターフェース118には、離れた装置/ユーザと公衆交換電話網を介して相互作用可能なネットワークインターフェース、例えば、ローカルエリアネットワークインターフェース、ワイドエリアネットワークインターフェース、モデム、ワイヤレスインターフェース等が含まれ得る。
【0035】
制御部108は、それぞれに応じた物理的特性を検出する1つ以上のセンサからの入力を受け取るものであってもよい。例えば、装置100は、トランスデューサを備えていてもよい。このようなトランスデューサの例として、選択(指定)の基準に対する物体の座標位置(例えば、コイルの位置等)を検出する位置センサ116Bが挙げられる。同様に、変位量に基づいて、ある位置から別の位置への特定距離の移動を検出するようにしてもよい。有利なことに、このようにして得られたパラメータに基づき、投与量の指標となるプランジャ126の位置を検出することができる。また、近接センサにより、装置の一部(例えば、コイル等)が臨界的な距離に達したことを検出するようにしてもよい。これは、例えば、プランジャ126の位置、力伝達部材110の位置、または電磁式のアクチュエータ125のコイルアセンブリ104の位置を検出することによって実施され得る。一例として、光学式のセンサ(例えば、光学エンコーダ等)を用いて、コイルのターン数を計数することによってコイルの位置を検出する構成が考えられる。位置または変位量を測定するのに適したセンサには、他にも、誘導型トランスデューサ、滑り接触式の抵抗型トランスデューサ、フォトダイオード、線形可変変位トランス(LVDT)などが含まれる。
【0036】
他種のセンサ、例えば、力トランスデューサ116A等により、アクチュエータ125によってプランジャ126に印加される力を検出するようにしてもよい。図示のように、力トランスデューサ116Aは、コイルアセンブリ104の遠位端と力伝達部材110との間に位置決めされて、アクチュエータ125によって力伝達部材110に印加される力を検出し得る。図示の力伝達部材110は剛体なので、力がそのままプランジャ126に伝達される。この力により、プランジャ126が移動し、それに応じた圧力が貯蔵部113内に発生する。
【0037】
アクチュエータ125は、双方向性のアクチュエータとされ得る。これにより、アクチュエータ125が生成する機械的な力は、2つの方向のうちの任意の方向に印加することができる。つまり、正方向の力により、プランジャ126が貯蔵部113内に押し込まれて正方向の圧力が発生し、貯蔵部113内の物質がノズル114から押し出される。負方向の力により、プランジャ126がノズル114側から離れて近位側に向かって引かれて、負方向の圧力又は真空が発生し、装置外部の物質がノズル114を介して貯蔵部113内に吸引される。前記物質はアンプルから取り出されるものであってもよい。この場合、負方向の圧力により、貯蔵部113に前記物質が充填され得る。このような構成の変形例として、あるいは、このような構成に加えて、前記物質は、血液および/または組織および/または他の間質液のような生体から取り出されるものであってもよい。本発明の一部の実施形態では、後述するように、第1の方向に機械的な力を印加することによって貯蔵部113内に固形物を充填した後、前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に力を印加することによって貯蔵部113から前記固形物を押し出す。
【0038】
また、圧力トランスデューサ(図示せず)を設けて、チャンバ(又は貯蔵部)113内の物質に印加される圧力を直接検出するようにしてもよい。
【0039】
また、電気センサ116Cを設けて、アクチュエータ125に供給される電気入力を検出するようにしてもよい。電気センサ116Cは、コイル電圧およびコイル電流の少なくとも一方を検出し得る。既述した種類のセンサ以外にも、例えば、ジャイロメータ(角速度計)116D、および/または加速度計116E、および/または歪みゲージ116F、および/または温度センサ116G、および/または音響センサ(若しくは音響トランスデューサ)116H、および/または気圧センサ116Jが設けられてもよい。センサ116A〜116J(あるいは、まとめて符号116で表す)は制御部108に接続され、制御部108に各種検出された特性値が供給される。制御部108は、前記各種検出された特性値のうちの少なくとも1つを用いて、電源106からのアクチュエータ125に対する電気入力の印加を制御するものであってもよい。これにより、シリンジ112内で発生する圧力を制御して、所望の輸送性能を実現することができる。例えば、位置センサを利用してアクチュエータ125をサーボ制御することにより、コイルアセンブリ104を所望の位置に初期配置し、位置が変化した後はその位置に固定したまま、駆動サイクルを完了することができる。この場合、第1の位置から第2の位置までのコイルアセンブリ104の移動により、それに対応する量の物質が輸送される。制御部108は、物質の輸送量を、貯蔵部113の物理的サイズおよびコイルの位置に基づいて算出するようにプログラムされたプロセッサを含むものであってもよい。
【0040】
一般的に、駆動サイクルは、物質の輸送を実行するためのアクチュエータ125に対する電気入力の開始から、物質の輸送を停止するための前記電気入力の停止までに相当する。動的に制御可能な電磁式のアクチュエータ125に、サーボ制御能力が組み合わさることにより、駆動サイクルの最中に、圧力を調節することが可能になる。1つ以上のセンサ116を利用することにより、輸送の最中または駆動サイクルの最中において当該駆動サイクルのさらなる制御を行うことができる。このような構成の変形例として、あるいは、このような構成に加えて、ローカルインターフェースおよびリモートインターフェースの少なくとも一方を利用することにより、駆動サイクルの制御にさらに影響を与えることができる。
【0041】
また、制御部108には、生体表面(biological surface)の各種物理的特性をそれぞれ検出する、1つ以上のセンサ(図示せず)が接続されていてもよい。そのような情報を用いてアクチュエータ125をサーボ制御することにより、特定の用途に応じて、注入圧力(又は注射圧力)、つまり、皮膚に対する薬剤の侵入深さを調節するようにしてもよい。また、注入圧力(又は注射圧力)を、経時的に変化させてもよい。
【0042】
図2Aは、電磁インパルスを用いるアクチュエータ200の断面図である。アクチュエータ200は、環状の溝形の空洞214を画定する磁石アセンブリ205と、その空洞214に摺動自在に配置されたコイルアセンブリ203とを有する。コイル・磁石が成すアセンブリの長さは、コイル203のストロークを決める制御因子の一つである。
【0043】
磁石アセンブリ205は、中央の軸心に沿って列状に配設された磁石204A,204Bを含む。前記磁石の列は、1つ以上の磁石要素(例えば、永久磁石等)をスタック(又は交互に連結)させることによって形成され得る。強力かつ高磁束密度である磁石の種類として、希土類磁石が挙げられ、特に、N50磁石などのネオジム−鉄−ボロン磁石(例えば、NdFe14B)が知られている。一般的に、前記磁石によって形成される磁場は、図示の磁場線208のようになる。
【0044】
磁石204A,204Bは、一方の端部が閉じた軸方向の空洞を有する直円筒状のシェル201の一端部に取り付けられる。磁石204A,204Bとケースの内壁との間には形成される環状の溝が形成され、シェル201の他の端部からのアクセスを可能にしている。例えば、シェル201は、外径が約40mmで内径が約31.6mmであり、壁厚が約4.2mmである。磁石204A,204Bは、直径が約25.4mmの円筒状とされ得る。
【0045】
好ましくは、シェル201は、磁石204A,204Bによって形成される磁場を漏れ難くする材料で構成される。例えば、シェル201は、強磁性材またはフェライトで構成される。そのような強磁性材の一例として、炭素鋼と称される合金(例えば、米国鉄鋼協会(AISI)の型番:1026の炭素鋼など)が挙げられる。同様の強磁性材で構成されたエンドキャップ206が、磁石204A,204Bの前記他端部に取り付けられる。エンドキャップ206を設置することにより、磁場がエンドキャップ206内を導通するようになる。これにより、エンドキャップ206とシェル201の外壁との間の環状ギャップにおいて、径方向に流れる磁場を形成することができる。一般的に、エンドキャップ206の厚さは、シェル201の壁厚よりも厚く設定される。これにより、上側の(又はエンドキャップ206側の)磁石の一端部側で磁気回路を閉じることができるので、磁場が漏れ難くなる。シェル201の前述した例では、エンドキャップ206の軸方向の厚さは、約8mmとされる。
【0046】
コイルアセンブリ203は、導電体(例えば、銅線等)を巻型210に巻き回すことによって形成されたコイル212を含む。巻型210は円筒状とされ得る。これにより、軸方向に中空の空洞が形成され得る。この空洞のサイズは、コイル212が巻き付いた状態で環状の空間214内部に収まるように設定され得る。巻型210は、環状の空洞214に突き合わされる側の端部が実質的に閉じたものとされ得る。この閉じた端部は、プランジャ214または力受け棒体210を押圧し、力受け面を形成する。
【0047】
軽量で高強度のコイルアセンブリ203は、大きな力を高速で生成させなければならない用途、例えば、針無し輸送等の用途に対して望ましい。好ましくは、巻型210は、軽量にもかかわらず高強度であり且つ容易に機械加工可能な材料で構成される。そのような材料として、例えば、高温度の用途にも良好に対応可能なポリアセタール樹脂が挙げられる。巻型210は、前記環状の溝内に収まるように肉薄に設定される。このように巻型210は肉薄なので、環状の溝214を幅狭にすることができる。これにより、ギャップ内の磁場強度を増加させることができる。
【0048】
巻型210は、例えば、外径が約27mm、内径が約26mm、軸方向の長さが約46mmとされ得る。コイル212は、例えば、当該コイル212の長さ(約35mm)あたり約115の巻き数の割合で、28ゲージの銅線を巻型210に6層分巻き付けてなるものであり、この場合、ターン数は全部で700程度になる。磁石の材料にN50磁石を使用し、強磁性材としてAISIの型番:1026の炭素鋼を使用することにより、エンドキャップ206には、約0.55〜約0.63テスラの磁束が導通する(この数値は、エンドキャップ206の中心から径方向外方に遠ざかるにつれて減少する)。
【0049】
このようにして、コイル212には、エンドキャップ206とシェル201の壁との間に形成される磁場208に対して垂直に電流が流れる。これにより、コイル212には、長手軸心に沿った方向に力が働く。なお、その力の方向は、前記電流の方向によって決まる。前述した例示的な装置では、駆動サイクルのうちの突き破りフェーズに対応する約1ミリ秒の期間の間、コイルに約100ボルトの電記入力(又は駆動電圧)が印加される。輸送フェーズの間は、それよりも低い約2〜約5ボルトの電気入力が印加される。
【0050】
一般的に、コイル212は、2本の電気リード線216を介して電気入力信号を受け取る。シェル201は1つ以上の導孔218を有しており、リード線216は当該導孔218を通って電源106(図1)に接続されている。シェル201は、閉じた側の端部において、1つ以上のさらなる導孔を有していてもよい。当該さらなる導孔を通じて、コイルの移動時において空気が入れかわるようにしてもよい。コイル212と環状の溝214との間のギャップには比較的厳しい公差が設けられるので、そのような導孔がない場合、コイルの移動に抗する圧力が蓄積される可能性がある。このような構成の変形例として、あるいは、このような構成に加えて、巻型210は、駆動の最中において望ましくない減衰を行う圧力が蓄積するのをさらに防止する、1つ以上の開口220を有していてもよい。
【0051】
図2Aには、注入フェーズ(又は注射フェーズ)後または注入フェーズの最中のコイルアセンブリ203が示されており、コイル212がシェル210から押し出されることで、前部のプレート215が前進する。図2Bには、試料採取フェーズ後の、コイルアセンブリ203がシェル201内に後退した様子が示されており、コイルアセンブリ203はシェル201内に収まっている。
【0052】
導電性のコイル212は、比較的高振幅の(又は比較的大きい)電流を導通させるものとされ得る。これによって生成された大きな力は、大きな圧力の発生につながる。また、コイル212は、高周波数域の動作に対応できるように比較的低インダクタンス、例えば、100ミリヘンリーに設定され得る。低インダクタンスと高電流容量とを両立させる方法として、大径の導体を少ないターン数(例えば、1〜3ターン数)で巻いて形成されたコイルを使用することが考えられる。
【0053】
これにより、高速の立ち上がり時間の高圧パルスを生成可能な圧力アクチュエータが実現される。また、このアクチュエータの動作は、当該アクチュエータの物理的特性および電気入力電流を利用することにより、制御自在かつ十分に予測可能である。さらに、このアクチュエータは、コイルに流れる電流の方向に基づいて、互いに反対方向へ可逆的に力を生成することができる。
【0054】
そのような制御自在性により、注入プロファイル(又は注射プロファイル)が、高速の高圧パルスで皮膚外層を突破った後、低圧の長パルスで処方物を供給するようにできる。図3Aに、経時的に変化する電気入力の一例を示す。図3Aのグラフの線は、アクチュエータ125のコイルアセンブリ104に対して印加される電流の変化を表している。時間tにおいて、コイル104に電流が印加される。この電流は、休止時の数値(例えば、0アンペア)から最大値Iに上昇し、選択可能な(指定可能な)期間の間最大値Iを維持し、時間tにおいて別の電流値Iに遷移する。前記電流の振幅(又は大きさ)は、時間tまでの間ほぼ電流値Iで維持されてもよいし、あるいは、時間tまでの間経時的に変化するものであってもよい。時間tになると、前記電流は休止時の数値に戻る。
【0055】
時間tから時間tまでの期間を、まとめて、駆動期間または駆動サイクルと称することができる。上記電流入力と同様の形状の電流入力について、次のことが言える。時間tから時間tまでの期間を、突き破りフェーズと称することができる。その名前が示すとおり、高い電流値Iにより、これに応じた高い圧力が発生し、針や欄セットがなくとも生体の表面を突き破ることができる。駆動サイクルの残りの期間である時間tから時間tまでの期間を、輸送フェーズと称することができる。その名前が示すとおり、比較的低い電流値Iにより、低い圧力が発生し、突き破りフェーズにおいて形成された前記表面上の孔を介して、貯蔵部113(図1)からの物質を、前記生体に輸送することができる。
【0056】
図3Bは、電気入力を受けて貯蔵部113(図1)内に発生する圧力の、グラフの一例である。図示のとおり、時間tにおいて、圧力が休止時の数値から上昇する。このとき、相対最大値Pに達するまでに、電気コイルの伝達特性に起因する小さな遅延Δが伴うものと予想される。この最大の圧力値Pにより、図1に関連して説明したジェットを形成することができる。輸送フェーズでは、電流が減少することにより、圧力も低い圧力値Pに減少する。なお、この低い圧力値Pは、物質の所望な輸送を達成できるように設定された数値である。輸送フェーズは、所望の物質量の輸送が終了するまで続行される。その後、圧力が取り除かれて駆動サイクルが完了する。
【0057】
サーボ制御される注射器は、1つ以上の物理的特性(例えば、圧力、位置、体積など)に応じてリアルタイムで注入圧力(又は注射圧力)を生成するようにサーボ制御部と組み合わせて構成された、電磁式の圧力アクチュエータを備える。一部の実施形態において、前記サーボ制御される注射器は、針無し式の装置(無針注射器)である。前記電磁式の圧力アクチュエータは、高速の立ち上がり時間(例えば、1ミリ秒未満)の高圧パルスを生成し、皮膚の内側に処方物を注入(又は注射)する。そのような高速の立ち上がり時間により、輸送全体を約10ミリ秒未満で完了させることができる。アクチュエータによって生成される圧力は、1回の注入(又は注射)の駆動の間に、所望の注入結果(又は注射結果)が得られるように変化するものであってもよい。例えば、まず、処方物に対し、動物の皮膚外表層を貫通するための第1の圧力である高い圧力を付与する。皮膚を突破った後、次に、第2の圧力である低い圧力に低下させ、その圧力を残りの注入(又は注射)の間維持する。前記サーボ制御部により、チャンバ内の圧力の変化を検出することによって皮膚が突破られたか否かを判断し、それに応じて注入圧力(又は注射圧力)を調節するようにしてもよい。
【0058】
サーボ制御部108は、1つ以上のセンサ116から入力信号を受け取り、所定の関係に基づいて出力信号を生成する。サーボ制御部108の出力を用いて、制御自在な前記アクチュエータを駆動する電流の振幅(又は大きさ)を制御することにより、圧力の制御を行うようにしてもよい。
【0059】
サーボ制御部108において、センサ116からの入力の受取り、前記所定の関係に基づいた前記入力の処理、およびそれに応じた出力の生成、これらを繰返し行うことにより、リアルタイムの制御を実現することができる。好ましくは、注入(又は注射)の最中に注入圧力(又は注射圧力)を調節するために、検出−制御の全プロセスが、その注入(又は注射)の最中に何回も(複数回)実行される。例えば、サーボ制御部108は、センサから受け取った信号を処理して且つそれに応じた出力信号を100kHzの速度で(すなわち、10ミリ秒ごとに)高速生成することが可能な、高速のマイクロプロセッサを含むものとされる。このような高速の応答時間により、わずか5〜10ミリ秒の1回の注入(又は注射)の最中に、圧力を調節する機会を何百回も設けることができる。
【0060】
図4に、本発明の実施形態において使用するのに好適な、サーボ制御されるジェット注射器を示す。このジェット注射器は、手持ち式の注射器400と、リアルタイムコントローラ(リアルタイム制御部)(図示せず)と、線形電力増幅器(リニアパワーアンプ)とを備える。手持ち式の注射器400は、ローレンツ力リニアアクチュエータ(LLA)からなるモータ410内を移動する際に鋼製の押出成形体に沿って自由に摺動するボイスコイル420と、アンプル430と、プッシュボタン式の起動スイッチ440と、当該注射器400の内部構成品を取り囲むハウジング450と、コントローラに接続されたケーブル(又は配線)460とを具備する。なお、アンプル430として、例えば、上市されている使い捨てのアンプルであるInjex(登録商標)30(0.3mL;品番100100;Injex-Equidyne Systems, Inc社(米国カリフォルニア州フラートン)製)が挙げられる。
【0061】
部分切開図である図5を参照すると、アンプル430として、Injex(登録商標)30がジェット注射器の前部プレート535に螺合しており、かつ、ピストン510が移動コイル420の前部に螺合されている。アンプルは、入手し易さ、相対的な低コスト、性能の信頼性、注入装置(又は注射装置)への組み込み易さなどに基づいて選択され得る。また、アンプルは、先端部の内径を徐々に減少させる(又は先端部をテーパさせる)ことによって形成された、ノズルのオリフィス520、例えば、直径220±5μmのオリフィスを有するものであってもよい。図示の実施形態では、30mmのストロークにより、300μmの被供給量を達成することができる。
【0062】
ローレンツ力リニアモータは、例えば、直径360μmのエナメル被覆された銅線を、肉薄の巻型に対して、全部で582のターン数となるように6層巻き付けてなるものである。前記巻枠は、ポリエーテルイミドを機械加工してなるものであってもよい。ポリエーテルイミドを材料とすることにより、移動質量を最小限に(50g程度まで)抑えることができ、かつ、巻型に渦電流が誘起されて抗力が発生するのを防ぐことができる。前記銅線に電流を印加すると、最大200Nの軸方向のローレンツ力(力定数:10.8±0.5N/A)が発生する。前記コイルの総合的な直流抵抗は、約11.3Ωとなり得る。
【0063】
ボイスコイル420は、AISIの型番:1026の炭素鋼を押出成形してなるケーシング560内部で、支承面550上を自由に且つ円滑に摺動する。このケーシング560も磁気回路を形成する。その磁気回路には、前記ケーシング内に挿設された2つのNdFeB磁石525(0.4MN/m(50MGOe))が含まれる。磁気ギャップにおける磁束密度は、約0.6テスラとなり得る。
【0064】
前記コイルとの電気的な接続は、プラスチック被覆された可撓性の銅リボン線によって行なってもよい。1kHzを超える高帯域に対応可能な、10kΩのリニアポテンショメータ(すなわち、変位トランスデューサ)540を、リニアガイドに取り付けて、コイルの位置を監視するようにしてもよい。このような位置センサは、巻型の先端(leading edge)に取り付けられた可動ピンを介して前記コイルに接続される。このようにして構築されたシステムは、4kW増幅器(Techron社製)によって電力供給され、かつ、Labview(登録商標)8.5(National Instruments社製)で動作するPCベースのデータ取得・制御システムによって制御される。これにより、様々な波形をテストすることができ、かつ、電流および変位量を同時に評価することができる。
【0065】
コイルの位置の、高速な監視および高速なサーボ制御は、リアルタイムコントローラ(cRIO−9004(National Instruments社(米国テキサス州オースティン)製)を、再構成可能なフィールドプログラマブルゲートアレイ(PPGA)シャーシ(cRIO−9104)に埋め込んでなる、再構成可能な小型のシステムを用いて実行され得る。前記コントローラは、LabVIEW8.5のリアルタイム「ホスト」アプリケーションを実行することにより、前記FPGAの回路と相互作用し、高次の注入軌道計画(又は注射軌道計画)を実行し、ユーザの命令を解釈(interpret)して、リアルタイムのフィードバックおよび注入後の(または注射後の)フィードバックを行う。この「ホスト」アプリケーションのユーザインターフェースは、前記コントローラによって動作するウェブサーバによって表示され、ネットワーク接続されたラップトップ型コンピュータ上のウェブブラウザで操作可能とされ得る。
【0066】
位置を利用したジェット注射器の制御アルゴリズムは、2つのコンポーネントを有する。図6に示すように、これら2つのコンポーネントは、(1):所与のジェット速度を得るのに必要な電圧を予測する、速度に基づいたフィードフォワード(FF)モデル、および(2):注射器系へのノイズおよび外乱の影響を抑えるための、比例積分(PI)に基づいた線形な変位フィードバックコントローラからなる。コイルの移動時には、いずれのコンポーネントも有効となる。注入(又は注射)の最中にはFFが優勢となり、充填や位置維持の最中にはフィードバックが優勢となる。これにより、流体を正確な量で確実に供給することができる。
【0067】
注入波形(注入軌道)は、2つの異なる供給フェーズを有するように生成される。これら2つの供給フェーズは、短期間の高速の第1フェーズと、これに続く、変更可能な期間の低速の第2フェーズである。第1フェーズにより、コイルは、突き破りに必要とされる所望のジェット速度(Vjet)にまで加速される。この速度は、所定の期間(Tjet)の間維持される。その後、コイルは、次の低い速度(Vft)にまでゆっくりと減速される。この速度(Vft)は、コイルの位置が、所望の注入量(又は注射量)(V)を実現する変位量に達するまで維持される。コイルの位置対時間プロットの微分または傾きは、速度を表す。したがって、位置のフィードバックにより、ジェット速度のフィードバックが暗黙的に行われる。また、コイルの位置対時間プロットの積分を取ることにより、被供給量を算出することができる。
【0068】
本発明の一実施形態において、図1のジェット注射装置は、記録電極として使用可能な固形物(例えば、修飾高分子もしくは非修飾高分子製のワイヤ、金属製のワイヤなど)、またはその他の物質もしくは物体を、生体の表面を介して、組織(例えば、脳)などに注入するのに使用される。注入(又は注射)の口径および深さは、実際の用途に応じて適宜変更されてよい。
【0069】
例示的な一実施形態では、脳計測用のワイヤ(高分子製または金属製)が、その一端部が流体の充填されたアンプルのピストン側の先端につながった状態で、先端が組織の表面から飛び出すように当該組織に注入(又は注射)される。このように注入(又は注射)されたワイヤを、微小電極アレイのアセンブリに組み込むことにより、記録の実施が可能になる。このようなワイヤは、直径が10μm〜200μmとされ、長さが200μm〜15mmとなり得る。
【0070】
図7の写真には、図4のサーボ制御されるローレンツ力リニアアクチュエータを用いた、死んだラットの皮膚に対する、0.1mm×11mmの金属製のピン又はワイヤ(すなわち、虫ピン)の供給の様子が示されている。各虫ピンを、流体が充填されたアンプルのノズル内に配置した後、当該アンプルを組織に近接させてピンの発射を行った。図7の写真が示すとおり、流体50μLをジェット速度150m/秒で噴射することによってピンの供給を行ったところ、ピンはラットの皮膚を完全に貫通した。なお、いずれのピンの供給の場合も、Tjetを5ミリ秒、Vftを50m/秒と同一に保った。
【0071】
本発明の他の実施形態において、図1の装置は、流体中に懸濁した状態の直径100μm未満の粒子を、組織、組織類似体などに注入(又は注射)するのに使用される。前記粒子は、機能化されてもよい。前記懸濁した状態の粒子は、モータの双方向性を利用して、装置に充填され得る。ノズルのオリフィスに少し変更を施して、直径100μm超の微粒子を発射するようにしてもよい。大きな粒子の供給を行うために、例えば、ノズルの直径を大きくしたり、ノズルの長さを短くして流体の圧力損失を減少させたり、ノズルのテーパ形状を変化させたりしてもよい。
【0072】
図8Aの各写真には、図4の注入装置(又は注射装置)を用いた、死んだラットの皮膚に対する、水中に分散した球状の6μmポリスチレンビーズの供給の様子が示されている。ビーズの供給を、Tjetを5ミリ秒、Vftを50m/秒と同一に保ちながら、様々なジェット速度Vjet(100m/秒、125m/秒、140m/秒、150m/秒)で実行した。Vjetを100m/秒とした際には、組織を突破ることができなかった。注入(又は注射)後の組織を、注入(又は注射)部分の中心線に沿って切断し、その注入(又は注射)部分が上になるように広げて、写真を撮った。
【0073】
水中に分散したビーズのうち、実際に組織に注入された量は、注入(又は注射)後の組織の重量から当該組織表面に残った流体の重量を引いたものと、注入(又は注射)前の組織の重量との差分として算出され得る。前記組織表面に残った流体については、予め重量を測定しておいた濾紙に通した後、再び重量を測定した。図8Bのグラフは、水中に分散したビーズの全供給量と、そのうち実際に組織に供給された量とを縦軸とし、ジェット速度を横軸として表したものである。どのジェット速度の場合も全供給量は80%を超えたが、そのうち実際に組織に供給された量はジェット速度によって変化した。極小値である100m/秒の場合には、組織を突破るための圧力が不十分であり、極大値である150m/秒の場合には、組織を完全に貫通している。
【0074】
図8Cのグラフは、図8Aの写真からも分かるように、ジェット速度の増加とともに侵入深さが増加する様子を表したものである。ジェット速度を150m/秒とした場合の侵入深さのばらつきは、当該ジェット速度とは無関係である。というのも、このジェット速度では、どの組織試料も完全に貫通したので、前記ばらつきは、組織全体としての深さの組織試料間の違いを反映したものである。
【0075】
図9に示す本発明のさらなる他の実施形態は、図1に示す装置のアンプルおよび/またはノズルを、1回使い切りの予め充填されたカートリッジ900を保持できるよう改変したものである。カートリッジ900は、透明なプラスチック製(例えば、ポリカーボネート製)とされ得る。また、カートリッジ900は、カプセルまたは移植物を保持可能な形状のノズルを有する。カプセルまたは移植物の形状としては、例えば、球状、棒状などが挙げられる。カプセル収容部に通じる貫通路は、ピストンを保持するステンレス鋼シャフト910内に設けられた同様の通路と揃う(連通する)ように構成されている。前記ノズルの遠位端は、ねじが形成されていて、流体が装填されるプランジャを含むステンレス鋼シャフト910の端部に螺合して取り付けてもよい。任意で、前記ねじ部の近傍には、Oリング920が配設され得る。前記ステンレス鋼シャフトおよび前記プランジャの両方を、滅菌処理可能な材料で構成してもよい。前記アンプルの端部は、無菌カバー(滅菌処理されたカバー)930で覆われてもよい。駆動させると、プランジャにより、前記流体が前記カプセルに開いた開口(又はオリフィス)から押し出されることによって、前記移植物が前記カートリッジから前記無菌カバーを貫通して発射されて目標の組織に送り込まれる。
【0076】
一部の実施形態において、アクチュエータは、ガラス形成糖(例えば、トレハロース、スクロースなど)の、薬剤を含有した塊(shard)を送り込むのに使用される。糖の転移温度と製品保存温度との間には、関連性が成立し得ることから、糖は賦形剤によく利用される。
【0077】
他の実施形態は、サーボ制御されるジェット注射器を用いて、目標の身体(例えば、家畜動物、ペット、ヒトなど)に対し、1種以上の粒子状物質を含有する流体を、逐次的に複数回供給することに関する。流体の発射(又は噴射)により、目標の身体における所定の様々な深さに粒子が送り込まれる。これにより、例えば、自己集合型基材/基板による集合体、多層構造などを形成することができる。そのような集合は、例えば:
● 別々に供給された粒子状物質間の相互作用、
● 注入(又は注射)後の粒子状物質および/または流体の状態変化に基づく相互作用、
● 互いに異なる深さに供給された粒子状物質同士のスタック(層)形成による相互作用、
● 供給深さおよび注入(又は注射)後の状態変化の双方に基づく粒子状物質同士のスタック(層)形成による相互作用など、
によって生じる。
【0078】
図10では、複数の互いに独立したジェットアクチュエータ1002を備えた無針注射器1000(例えば、無針式経皮輸送装置100、手持ち式の注射器400など)を、目標の身体(例えば、生体の組織など)の表面155の近傍に位置決めし、物質を当該目標の身体に注入(又は注射)して、その注入(又は注射)の最中に、前記表面に沿って当該無針注射器1000を移動させ、前記表面を走査することにより、注入(又は注射)が達成され得る。なお、無針注射器1000には、アンプルが取り付けられている。前記表面の走査は、1つ以上のアクチュエータを利用することによって行われ得る。装置の走査動作は、加速度計1004を用いてサーボ制御され得る。また、その走査動作の最中の装置の向きは、3軸角速度計を用いてサーボ制御され得る。なお、加速度計1004は、例えば、加速度計/カメラのパッケージの形態で配設される。この無針注射器1000は、複数の注入(又は注射)部分にわたって注入(又は注射)し得る。例えば、無針注射器1000は、個別に制御されるジェット流(又は噴射流)1006を、複数の注入(又は注射)部分にわたって注入(又は注射)する。そのような注入(又は注射)部分は、走査済みの領域(すなわち、処理済みの表面領域1008)として、マーカー1008で標識されてもよい。無針注射器1000は、注入(又は注射)時に、目標の身体に接触させられ得る。また、無針注射器1000は、平面上を移動するように前記表面に沿って移動させられてもよい。前記物質は、前記表面の内側における複数の互いに異なる深さに注入(又は注射)され得る。注入された前記物質は、前記表面の内側の互いに異なる深さにある複数の層を具備した、多層構造を形成し得る。前記物質は固形物を含み得るか、あるいは、前記物質は固形物で実質的に構成され得る。
【0079】
当業者であれば、例示した無針式経皮輸送装置100および手持ち式の注射器400以外にも、様々な無針式注射器を、本発明の実施形態の方法に利用できることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で述べたパラメータが例示的なものに過ぎず、本発明にかかる方法および材料の詳細な用途によっては、実際のパラメータが変化し得ることを容易に理解するであろう。また、当業者であれば、前述した実施形態が例示的なものに過ぎず、添付の特許請求の範囲および等価物の範疇であれば、本明細書で具体的に説明した以外の形態であっても、本発明を実施できることを理解するであろう。さらに、構成要素について、材料、形状、サイズ、および構成要素間の相互関係を変更し、それらを多種多様に組み合わせたり置換したりしてもよく、そのような変形例および等価物も、本発明の一部をなすものとする。
なお、本発明は、実施態様として以下の内容を含んでいてもよい。
[実施態様1]
固形物を生体の表面を介して輸送する方法であって、制御可能な電磁式のアクチュエータに対して電気入力を印加する過程と、前記電磁式のアクチュエータにより、前記電気入力に応じた機械的な力を生成する過程と、一端部がノズルと連結した貯蔵部に対して、前記機械的な力を印加する過程であって、当該機械的な力により、前記貯蔵部内に圧力が発生し、当該圧力の大きさは、前記機械的な力に応じて変化するものであり、前記圧力で前記貯蔵部から流体を噴射することによって前記固形物を前記生体内に送り込む過程と、
を含む、輸送方法。
[実施態様2]
実施態様1に記載の輸送方法において、前記機械的な力を印加する過程の前に、前記貯蔵部内の前記流体に前記固形物を配し、前記力の印加で正方向の圧力を生成し、当該圧力によって前記貯蔵部から、前記流体の少なくとも一部および前記固形物を前記ノズルを介して噴射する、輸送方法。
[実施態様3]
実施態様1に記載の輸送方法において、さらに、前記機械的な力を印加する過程の前に、前記ノズルに連結されたカートリッジ内に前記固形物を配する過程、を含む、輸送方法。
[実施態様4]
実施態様3に記載の輸送方法において、前記機械的な力の印加で正方向の圧力を生成し、当該圧力によって前記貯蔵部から、前記流体の少なくとも一部を前記ノズルを介して噴射することにより、前記固形物を前記カートリッジのオリフィスを介して前記生体内に送り込む、輸送方法。
[実施態様5]
実施態様1に記載の輸送方法において、前記アクチュエータが双方向性のアクチュエータであり、前記機械的な力が、2つの方向のうちの一方に印加される、輸送方法。
[実施態様6]
実施態様5に記載の輸送方法において、さらに、第1の方向に機械的な力を印加することにより、前記貯蔵部内に前記固形物を充填する過程と、その後、前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に力を印加することにより、前記貯蔵部から前記固形物を押し出す過程と、を含む、輸送方法。
[実施態様7]
物質を対象の身体に供給する方法であって、前記対象の身体の表面の近傍に、無針注射器を位置決めする過程と、前記物質を、前記対象の身体に注入する過程と、前記注入の最中に、前記表面に沿って前記無針注射器を移動させることにより、前記表面を走査する過程と、を含む、供給方法。
[実施態様8]
実施態様7に記載の供給方法において、前記無針注射器を、前記対象の身体に接触させて配置する、供給方法。
[実施態様9]
実施態様7に記載の供給方法において、前記無針注射器を、平面上を移動するように前記表面に沿って移動させる、供給方法。
[実施態様10]
実施態様7に記載の供給方法において、前記物質を、前記表面の内側における複数の互いに異なる深さに注入する、供給方法。
[実施態様11]
実施態様10に記載の供給方法において、注入された前記物質が、前記表面の内側の互いに異なる深さにある複数の層を具備した、多層構造を形成する、供給方法。
[実施態様12]
実施態様7に記載の供給方法において、前記対象の身体が組織を含む、供給方法。
[実施態様13]
実施態様7に記載の供給方法において、前記物質が固形物を含む、供給方法。
【符号の説明】
【0080】
113 貯蔵部
114 ノズル
125 アクチュエータ
150 生体
155 生体の表面
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図8B
図8C
図9
図10
図7
図8A