(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934712
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】ヒ素含有材料の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 30/04 20060101AFI20160602BHJP
C01G 3/12 20060101ALI20160602BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20160602BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20160602BHJP
C22B 30/02 20060101ALI20160602BHJP
B01D 11/02 20060101ALN20160602BHJP
【FI】
C22B30/04
C01G3/12
C22B3/04
C22B3/44 101A
C22B30/02
!B01D11/02 A
【請求項の数】22
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-534125(P2013-534125)
(86)(22)【出願日】2011年10月19日
(65)【公表番号】特表2014-501842(P2014-501842A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】AU2011001329
(87)【国際公開番号】WO2012051652
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年10月17日
(31)【優先権主張番号】2010904681
(32)【優先日】2010年10月20日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】515075393
【氏名又は名称】トゥウォング・プロセス・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Toowong Process Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・ネイコン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・マイケル・ウェイ
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03248212(US,A)
【文献】
米国特許第03911078(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素を含んで成る硫化物材料からヒ素を選択的に除去するための方法であって、
硫化物材料と硫化物材料からヒ素を浸出させる浸出溶液とを接触させて、溶解したヒ素を含んで成る貴液とヒ素含有量が減じられた硫化物材料を含んで成る固形物を形成することを含む浸出工程を行う工程、その後、貴液から固形物を分離する工程を含み、
浸出工程に供される新しい浸出溶液は、硫化物材料中に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫化物含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で存在する硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る、方法。
【請求項2】
再利用溶液を接触の工程に供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再利用溶液が、硫化物材料中に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で存在する硫化物含有化合物を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
新しい浸出溶液又は再利用溶液中に存在する硫化物含有化合物の量により、0〜1.2のS2/Asのモル比が得られる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
新しい浸出溶液は硫化物化合物を含んでいない、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
接触工程に供される新しい浸出溶液が、固形物中に存在するAsの各モルに対して(当量OH−として算出された)少なくとも8モルのアルカリ材料を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
新しい浸出溶液が、1.75モル/L〜6.25モル/Lの濃度で存在する水酸化ナトリウムを含んで成る、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
30℃から浸出溶液又はスラリーの沸点までの温度で浸出工程を行い、又、浸出工程で形成される固形材および浸出溶液のスラリーは、5〜90%w/wの範囲の固形含量を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
大気圧を上回る圧力で浸出工程を行い、又、浸出工程で用いられる温度が100℃を上回っている、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ヒ素含有硫化物材料もアンチモンを含んで成り、ヒ素およびアンチモンの両方のレベルを低減する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
浸出工程が開路浸出処理を含み、又は浸出工程が浸出溶液の再利用を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ヒ素を含んで成る硫化物材料からヒ素を選択的に除去するための方法であって、
硫化物材料と硫化物材料からヒ素を浸出させる新しい浸出溶液とを接触させて、溶解したヒ素を含んで成る浸出溶液とヒ素含有量が減じられた硫化物材料を含んで成る固形物を形成することを含む浸出工程を行う工程、
固形物を貴液から分離する工程、および、
浸出工程に浸出溶液の少なくとも一部を再利用する工程
を含み、
浸出工程に供される新しい浸出溶液が、硫化物材料中に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫化物含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で存在する硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る、方法。
【請求項13】
浸出工程で再利用される浸出溶液が、1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物を含んで成る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物が、硫化物材料中に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で、浸出工程で再利用される浸出溶液に存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物が、硫化物材料中に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の1.0倍を上回る量で、浸出工程で再利用される浸出溶液に存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
浸出工程に供される新しい浸出溶液は硫化物含有化合物を含んでいない、請求項12〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
固形材がアンチモンを含んでおり、固形材からアンチモンもまた除去する、請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
アンチモンを含んで成る硫化物材料からアンチモンを選択的に除去するための方法であって、
硫化物材料と硫化物材料からアンチモンを浸出させる浸出溶液とを接触させて、溶解したアンチモンを含んで成る貴液とアンチモン含有量が減じられた硫化物材料を含んで成る固形物を形成することを含む浸出工程を行う工程、その後、貴液から固形物を分離する工程を含み、浸出工程に供される新しい浸出溶液が、硫化物材料中に存在するアンチモンと反応するために必要とされる硫化物含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で存在する硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る、方法。
【請求項19】
アンチモンを含んで成る硫化物材料から少なくともいくつかのアンチモンを選択的に除去するための方法であって、
硫化物材料と硫化物材料からアンチモンを浸出させる新しい浸出溶液とを接触させて、溶解したアンチモンを含んで成る浸出溶液とアンチモン含有量が減じられた硫化物材料を含んで成る固形物を形成することを含む浸出工程を行う工程、固形物を貴液から分離する工程、および、浸出工程に浸出溶液の少なくとも一部を再利用する工程を含み、浸出工程に供される新しい浸出溶液が、硫化物材料中に存在するアンチモンと反応するために必要とされる硫化物含有化合物の量に基づく準化学量論的な量で存在する硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る、方法。
【請求項20】
新しい浸出溶液又は再利用溶液中に存在する硫化物含有化合物の量により、0〜1.0のS2/Asのモル比が得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項21】
30℃から浸出溶液又はスラリーの沸点までの温度で浸出工程を行い、浸出工程で形成される固形材および浸出溶液のスラリーは、5〜60%w/wの範囲の固形含量を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
30℃から浸出溶液又はスラリーの沸点までの温度で浸出工程を行い、浸出工程で形成される固形材および浸出溶液のスラリーは、30〜55%w/wの範囲の固形含量を有する、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒ素含有材料、特にヒ素を含む固形硫化物材料の処理方法に関する。この処理方法は、鉱石、濃縮物、尾鉱、スラグ、濃縮フュ−ム等を処理するために使用されてよい。
【背景技術】
【0002】
ヒ素は、厳しい環境基準が課せられている毒性のある重金属である。不運にも、ヒ素は、多くの鉱物、鉱体、濃縮物および他の価値のある成分をまた含む他の鉱物で見受けられる。例えば、硫ヒ銅鉱は、大量のヒ素、例えば、20〜25重量%のヒ素を含む鉱石および濃縮物に多く見受けられる硫化銅である。又、リードおよび他の金属の製錬の間に形成されるスパイスも大量のヒ素を含むことがある。
【0003】
価値のある成分を回収するために、そのような固形材を処理することがしばしば望まれている。しかしながら、そのような材料の処理では、材料のヒ素の含有量を考慮しなければならない。製錬によりそのようなヒ素含有材料の標準的な処理は、著しい労働衛生および労働安全問題と環境の観点からの懸案事項を生じさせる、揮発性ヒ素の放出をもたらしてしまう。
【0004】
そのようなヒ素含有材料を処理するための1つの方法として、ヒ素含有材料からヒ素を選択的に除去するための浸出工程をヒ素含有材料に対して行うことが挙げられる。次いで、固形材から溶解性のヒ素を含有する貴液を分離するために、固体/液体分離工程を活用する。この浸出工程から回収された固形材はヒ素含有量が減じられている(又は少ない)。又、望ましくは、アンチモンおよびビスマス等の他の毒性の重金属も、浸出工程の間に固形材から除去されてよい。この処理に続き、次いで、他の価値のある成分を回収するために、例えば、乾式冶金法又は湿式冶金法によりヒ素量が減じられた固形材を処理することができる。
【0005】
硫化物材料からヒ素を除去するための現行の方法は、典型的には、硫化ナトリウム(Na
2S)を含むアルカリ溶液で硫化物材料を濾すことを含む。この溶液は、典型的には水酸化ナトリウム(NaOH)および硫化ナトリウム(Na
2S)を含む。例えば、硫ヒ銅鉱(Cu
3AsS
4を含むために概して受容された銅鉱物)処理では、下記の反応が論文で報告されている。
2Cu
3AsS
4(s)+3Na
2S
(aq)=3Cu
2S(s)+2Na
3AsS
4(aq) (1)
【0006】
現存するかもしれない任意の石黄(一般的な単斜晶系の硫化ヒ素鉱物)は、論文で報告された下記の式(2)により、硫化ナトリウムと反応する。
3Na
2S
(aq)+As
2S
3=2Na
3AsS
3(aq) (2)
【0007】
上記式は、全てのヒ素を完全に除去するために必要とされるNa
2Sの化学量論量がヒ素のモル数の1.5倍であることを示している。実際のところ、商業的な方法は、硫化物とヒ素とのモル比が典型的には6〜12の範囲であるNa
2S量を用いる。おおよそ化学量論量のNa
2Sが使用されると、ヒ素の除去はかなりゆっくりであると分かっている。
【0008】
米国特許3911078号では、硫化銅含有鉱物からヒ素およびアンチモンを除去するための方法が記載されている。この特許では、水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを含む溶液を濾す使用方法が記載されている。濾す際に硫化ナトリウムの約2〜3倍の化学量論量、又はヒ素の全モルとアンチモンの全モルのため約3〜4.5モルのNa
2Sを使用することが好ましい。更に、この特許では、この過剰なNa
2Sの存在が、ヒ素およびアンチモンの完全なる除去を基本的に保証していることを記載している。もちろん、過剰なNa
2Sを使用するための条件は、浸出工程に対して供給するための多量のNa
2Sを得るための条件により操作コストの増大を招く。
【0009】
上記のとおり、硫化物材料からヒ素を除去するためのほとんどのアルカリ硫化物浸出工程は、S
2−/As=1.5の化学量論条件を優に上回るS
2−/Asのモル比の硫化物を使用する。典型的には、モル比が6〜12のS
2−/Asが、90%を上回るヒ素除去を達成するために使用される。一般的には、既知のアルカリ硫化物浸食工程で用いられる処理条件として、80〜95℃の範囲の温度、10〜50%w/wのスラリー密度、および6〜12のS
2−/Asのモル比が挙げられる。
【発明の概要】
【0010】
硫化物材料からのヒ素の効果的な除去は、低モル比のS
2−/Asを用いて達成することができる。
【0011】
ある形態では、本発明は、ヒ素を含有する硫化物材料からヒ素を選択的に除去するための方法を供する。この方法は、溶解性ヒ素を含む貴液とヒ素含有量が減じられた材料を含む固形物を形成するために、硫化物材料と硫化物材料からヒ素を浸出させる浸出溶液とを接触させることを含む浸出工程、続いて、固形物と貴液とを分離する工程を含む。浸出工程に供される新しい浸出溶液は、硫化物材料にあるヒ素と反応するために求められる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る。
【0012】
(特許請求の範囲を含む)本明細書全体を通じて、その硫化物材料にあるヒ素と反応するために要求される硫黄含有化合物の量は、式(1)又は(2)に従い決定される。
【0013】
ある態様では、再利用溶液又は新しい浸出溶液が、浸出工程に供される。ある態様では、再利用溶液又は新しい浸出溶液は、硫化物材料にあるヒ素と反応するために求められる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する硫化物含有化合物を有していてよい。
【0014】
ある態様では、新しい浸出溶液又は再利用溶液にある硫化物含有化合物の量は、(上記の反応1又は2により、硫化物材料から浸出されるヒ素の量に基づく)硫化物含有化合物の準化学量論的な量である。ある態様では、新しい浸出溶液又は再利用溶液にある硫化物含有化合物の量により、0〜1.5、より好ましくは0〜1.2、更により好ましくは0〜1のS
2−/Asのモル比が得られる。
【0015】
ある態様では、新しい浸出溶液は硫化物化合物を含んでいない。
【0016】
ある態様では、硫化物含有化合物は、Na
2S又は他の硫化物から選択されてよい。又、硫化物化合物は、浸出溶液にNaSH又はS(元素硫黄)等の他の硫黄含有化合物を加えることにより浸出溶液に生じさせてよい。ある態様では、硫黄含有化合物は、望ましくは無水又は水和物の形で供することができる、硫化ナトリウム(Na
2S)であってよい。
【0017】
ある態様では、接触工程で供される新しい浸出溶液は、固形物に存在するAsの各モルのため少なくとも8モル、より好ましくは少なくとも16モルの(等価OH
−として計算された)アルカリ材料を有する。
【0018】
ある態様では、浸出溶液に存在するアルカリ材は、ナトリウム系アルカリ材を含んで成る。ナトリウム系アルカリ材は、水酸化ナトリウムを含んで成ってよい。又、他のアルカリ材が浸出溶液に用いられてよいことは理解できよう。例えば、炭酸ナトリウムが浸出溶液に使用されてよく、又は実際には、他の溶解性の、又は部分的に溶解性の、又は更にわずかに溶解性のアルカリ材が使用されてよい。又、カリウム等の他のアルカリ土類金属のアルカリを本発明の態様に使用可能であることが考えられる。実際のところ、本発明は、幅広いアルカリ材を使用することを包含してよい。使用されてよい他のアルカリ材のいくつかの例として、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、石灰、生石灰、又は苛性マグネシアが挙げられる。
【0019】
ある態様では、新しい浸出溶液は水酸化ナトリウムを含む。新しい浸出溶液は、1.75モル/L〜6.25モル/Lの水酸化ナトリウム含有物を有していてよい。ある態様では、新しい浸出溶液は、固形物中のAsの各モルに対して少なくとも8モル、より好ましくは少なくとも16モルの水酸化ナトリウムを有していてよい。
【0020】
ある態様では、新しい浸出溶液は、硫化物材料に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫化物の量の0〜1.0倍の量で存在する硫化物を有する、水酸化ナトリウム溶液を含んで成る。
【0021】
浸出工程のために用いられる温度は、30℃〜浸出溶液又はスラリーの沸点まで及んでよい。好ましくは、30〜115℃の範囲、より好ましくは80〜115℃の範囲にある。浸出工程は大気圧で行われてよい。しかしながら、ある態様では、圧力容器で浸出工程を行ってもよい。これらの態様では、浸出工程で用いられる圧力は大気圧より高いものであってよく、浸出工程で用いられる温度は100℃よりも高くてもよい。
【0022】
浸出工程で形成される固形材および浸出溶液のスラリーは、5〜90%w/w、好ましくは5〜60%w/w、より好ましくは30〜55%w/wの範囲の固形含量を有していてよい。
【0023】
本発明の方法は、ヒ素を含む全ての硫化物材料を処理するために使用されてよい。これは、ヒ素を含有する鉱物、鉱石、中間物、スラグ、マット、濃縮ガス等を含む。本発明の方法は、ヒ素含有硫化鉱物、鉱石および濃縮物を処理するために特に適当である。
【0024】
本発明の方法は、アンチモンを又含む硫化鉱物を処理するために使用されてよい。又、実際のところ、多くのヒ素含有硫化鉱物はアンチモンを含んでおり、本発明は、そのような硫化鉱物中にあるヒ素およびアンチモンの両方のレベルの低減を可能とする。
【0025】
本発明者は、浸出工程に供される硫化物含有鉱物の量が減じられた新しい浸出溶液を用いると、環境条件および/又は下流処理条件を満たす十分なヒ素を除去することができることを驚くべきことに見出した。又、本発明は、処理の操作費用は、典型的には浸出溶液に加えられることを要する硫化物含有鉱物(又は溶液に硫化物を生じさせるために加えられる硫黄含有鉱物)の量にかなり左右されるので、処理の操作費用を低減する。産業的に用いられる処理で使用される最も一般的な硫化物含有鉱物はNa
2Sであり、そのような処理の操作費用は、浸出サーキットに加えられることを要するNa
2Sの量にかなり左右される。
【0026】
当業者に既知の任意の固体/液体分離処理は、貴液から(ヒ素含有物が減じられた又は大変減じられた)固形残渣を分離するために使用されてよい。固体/液体分離処理の特定の選択は、本発明の成功した操作に欠かせないものではない。当業者は、本発明で使用されてよい適当な固体/液体分離処理として、ろ過、沈降、浄化、沈殿濃縮、遠心分離、脱水、デカント等が挙げられると理解するであろう。
【0027】
一旦、固形残渣が浸出貴液から分離されると、固形残渣は、固形残渣からアルカリ溶液を除去するために任意の洗浄工程に供されてよい。次いで、(典型的には価値のある成分を含み、ヒ素含有物が減じられた)固形残渣は、ストレージに送られ、又は固形残渣から価値のある成分を回収するための処理にふされてよい。例えば、処理される硫化物材料が硫化銅鉱石又は濃縮物を含んでいる場合、固形残渣は硫化銅を含んでおり、残渣は残渣から銅を回収するために、例えば製錬により、又は湿式製錬処理により処理されてよい。
【0028】
浸出工程の後固形残渣から分離される貴液は、貴液からヒ素を除去するために処理されてよい。当業者は、溶解したヒ素を含む貴液は、貴液からヒ素を除去するための多くの方法で処理されてよいことを理解するであろう。例えば、貴液は、ヒ素化合物を形成するために結晶化、イオン交換、溶媒抽出、又は沈殿過程に移されてよい。ヒ素の結晶化又は沈殿は、ヒ素化合物が沈殿するまで貴液のpHを低減することにより生じさせてよく、第2鉄等の他の金属イオンの追加により促進されてよい。又、貴液は、ヒ素化合物の沈殿を生じさせるために冷却されてよい。沈殿されたヒ素化合物は貴液から分離されてよい。貴液は、浸出工程で少なくとも部分的に再利用されてよい。
【0029】
同様に、浸出貴液が溶解したアンチモンを含んでいる場合、浸出貴液は溶液からアンチモンを除去するための任意の既知の方法により処理されてよい。
【0030】
貴液は、当業者により既知の方法を使用して、アルカリ材料を再生するために更に処理されてよい。
【0031】
本発明の方法で使用される浸出工程は単一の浸出工程を用いてよく、又は、複数の浸出工程を用いてよい。浸出工程は、並流浸出工程、向流浸出工程、又は逆流浸出工程を含んでよい。
【0032】
浸出方法は、開路浸出方法を含んでいてよく、又は浸出溶液の再利用を含む浸出路を含んでいてよい。
【0033】
第2形態では、本発明は、ヒ素を含む硫化物材料からヒ素を選択的に除去するための方法を供する。該方法は、溶解したヒ素を含む浸出溶液とヒ素含有量が減じられた材料を含んで成る固形物を形成するために、硫化物材料とその硫化物材料からヒ素を浸出させる新しい浸出溶液とを接触させることを含む浸出工程を行う工程、浸出溶液から固形物を分離する工程、および浸出溶液の少なくとも一部を浸出工程で再利用すること工程を含んで成る。浸出工程に供される新しい浸出溶液は、硫化物材料に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する、硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る。
【0034】
適当には、浸出工程で再利用される浸出溶液は、1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物を含んで成る。1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物は、硫化物材料に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で、浸出工程で再利用される浸出溶液に存在してもよい。
【0035】
他の態様では、1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物は、硫化物材料に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の1.0倍未満の量で、浸出工程で再利用される浸出溶液に存在してもよい。
【0036】
本発明者は、驚くべきことに、ヒ素を含有する硫化物材料と、硫化物材料に存在するヒ素と反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する硫化物含有化合物を有する新しい浸出溶液との接触は、ヒ素を溶解させるだけでなく、浸出溶液に1つ又はそれよりも多い溶解した硫化物含有化合物を生じさせることができることが分かった。浸出工程に戻して浸出溶液の少なくとも一部を再利用することにより、ヒ素の浸出の反応速度を高めると考えられている、溶解性の硫化物化合物が浸出工程に戻される再利用溶液に存在するという結果をもたらす。
【0037】
ある態様では、浸出工程で供される新しい浸出溶液は、硫化物含有化合物を含まない。
【0038】
本発明の第2形態のある態様では、その方法は連続的な方法として行われる。この方法では、新しい浸出溶液は最初に浸出工程に入れられる。浸出溶液は浸出工程から除かれ、浸出溶液の一部は浸出工程に再循環流として戻される。浸出工程からの固形分の除去は、典型的には浸出工程で固形分の供給速度と同じ速度で生じる。新しい浸出溶液は、浸出工程での化学条件が新しい浸出溶液および再利用される浸出溶液の流入が組み合わさることで満たされるように追加される。
【0039】
ある態様では、最大80%の浸出溶液が浸出工程で再利用される。他の態様では、最大60%、又は最大50%、又は最大40%、又は最大30%の浸出溶液が浸出工程で再利用される。
【0040】
又、本発明の第2形態の方法は、固形材がアンチモンを含んでいる場合、アンチモンを除去してよい。
【0041】
又、本発明者は、本発明の浸出処理がアンチモンを含む固形硫化物材料からアンチモンを除去又は回収するために使用することができると考えている。従って、第3形態では、本発明は、アンチモンを含む硫化物材料からアンチモンを選択的に除去するための方法を供する。該方法は、溶解したアンチモンを含む貴液とアンチモン含有量が減じられた材料を含んで成る固形物を形成するために、硫化物材料とその硫化物材料からアンチモンを浸出させる浸出溶液とを接触させることを含む浸出工程を行う工程、次いで、貴液から固形物を分離する工程を含んで成る。浸出工程に供される新しい浸出溶液は、硫化物材料に存在するアンチモンと反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する、硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る。
【0042】
第4形態では、本発明は、アンチモンを含む硫化物材料からアンチモンを選択的に除去するための方法を供する。該方法は、溶解したアンチモンを含む浸出溶液とアンチモン含有量が減じられた材料を含んで成る固形物を形成するために、硫化物材料とその硫化物材料からアンチモンを浸出させる新しい浸出溶液とを接触させることを含む浸出工程を行う工程、次いで、貴液から固形物を分離する工程、および浸出溶液の少なくとも一部を浸出工程で再利用する工程を含んで成る。浸出工程に供される新しい浸出溶液は、硫化物材料に存在するアンチモンと反応するために必要とされる硫黄含有化合物の量の0〜1.0倍の量で存在する、硫化物含有化合物を有するアルカリ溶液を含んで成る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明の態様で使用するために適当なフローシートを示すプロセスフロー図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の別の態様で使用するために適当なフローシートを示すプロセスフロー図を示す。
【
図3】
図3は、本発明の別の態様で使用するために適当なフローシートを示すプロセスフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図面は本発明の好ましい態様を示すために供されると認識されよう。それ故、本発明は、添付図面に示される特徴に単に限定されるものと考えるべきではないと理解されよう。
【0045】
図1は、本発明のある態様で使用するために適当なプロセス・フローシートを示す。
図1に示されるプロセス・フローシートでは、浸出工程10が行われる。硫ヒ銅鉱石又は濃縮物等の固形硫化物含有材料のフィード12が浸出工程10に供される。又、NaOHおよびNa
2Sを含む溶液を含んで成る浸出溶液14も浸出工程10に供される。浸出溶液14は、浸出工程10に供される固形硫化物含有材料に存在するヒ素と完全に反応するために必要とされるNa
2Sの量の0〜1.0倍の量で存在するNa
2Sを含む。これにより、S
2−/Asのモル比が0〜1.5の範囲になる。
【0046】
典型的には1〜10時間の範囲内にある、浸出工程で望ましい時間で滞留させた後、浸出工程10からのスラリーは固体/液体分離ステップ16に移される。固体/液体分離ステップ16は、固体および液体を分離するための適当な既知の単位操作を含んで成ってよい。その例として、ろ過、沈降、および浄化が挙げられる。
【0047】
工程16で分離される固体は、更なる処理および/又は保管のためにライン18を通じて供される。溶解したヒ素を含有する貴液を含んで成る、工程16で分離される液体は、ヒ素を除去するために使用される液体処理工程のためにライン20を通じて供される。
【0048】
図1に示されるプロセス・フローシートは、開路浸出フローシートを含む。ライン14を通じて供給される浸出溶液は新しい浸出溶液を含んで成る。
【0049】
図2は、本発明の別の態様で使用するための別のフローシートを示す。
図2で示される態様では、浸出工程は浸出容器50で行われる。ヒ素を含有する固形硫化物材料のフィード52は浸出容器50に供給される。新しい浸出溶液はライン54を通じて浸出容器に供給される。新しい浸出溶液は、Na
2Sを含んでいないアルカリ溶液、又は浸出容器50に供される固形硫化物含有材料に存在するヒ素と(反応式(1)又は(2)により)完全に反応するために必要とされるNa
2Sの量の0〜1.0倍の量で存在するNa
2Sを含むアルカリ溶液を含んで成る。
【0050】
浸出工程で望ましい時間で滞留させた後、浸出容器50からスラリーは固体/液体分離プロセス56に移される。固体は、ライン58を通じて固体/液体分離プロセス56から離れる。工程56でスラリーから分離される液体は、ヒ素が溶液から除去されるヒ素除去工程62へライン60を通じて移される。きれいにされた溶液64は、浸出容器50にライン66を通じて部分的に再循環される。きれいにされた溶液の残りは、最終処理又は保管庫(又はストレージ;storage)にライン68を通じて移送される。
【0051】
図2に示されるプロセス・フローシートは、浸出工程50に戻る溶液を再利用するためにリサイクルライン66を組み入れている。これは、浸出工程50にライン54を通じて供給される必要がある新しい浸出溶液の量を低減する可能性を有している。
【0052】
図3は再利用した浸出溶液を使用する別の代替フローシートを示す。
図3に示す態様では、浸出工程は浸出容器80で行われる。ヒ素を含有する固形硫化物材料のフィード82は、浸出容器80に供給される。新しい浸出溶液はライン84を通じて浸出容器に供給される。新しい浸出溶液は、Na
2Sのないアルカリ溶液、又は浸出容器80に供される固形硫化物含有材料に存在するヒ素と完全に反応するために必要とされるNa
2Sの量の0〜1.0倍の量で存在するNa
2Sを含むアルカリ溶液を含んで成る。
【0053】
浸出工程で望ましい時間で滞留させた後、浸出容器80からスラリーは固体/液体分離プロセス86に移される。固体は、ライン88を通じて固体/液体分離プロセス86から離れる。工程86でスラリーから分離される液体はライン90を通じて除去される。ライン90中の液体又は浸出溶液の一部は、ライン96を通じて浸出容器80に再利用される。ライン90中の浸出溶液の残りは洗浄され、ヒ素除去され、又は処分される。
【0054】
図2および3に示されるある態様では、新しい浸出溶液は、硫化ナトリウムのない苛性ソーダ溶液等のアルカリ溶液を含んで成ってよい。本発明者は驚くべきことに、新しい浸出溶液が浸出し又は固形材料と反応する際に、新しい浸出溶液は、溶解した硫化物化合物を生じさせることが可能であると分かった。その結果、浸出工程(50又は80)に戻される再利用される浸出溶液は、溶解した硫化物化合物を含んでいることがある。本発明者は、これが浸出工程でヒ素およびアンチモンの除去の反応速度を有利に改善すると考えている。
【0055】
当業者は、固体/液体分離工程56から回収される浸出溶液は、アルカリ度を元に戻すため又は浸出工程50で再利用するための硫化物材料を回収するため、又は他の過程で再使用するため、又はそれ自体価値のある商品として回収および販売のため他の処理にふされてよいと認識するであろう。当業者は、多くの異なる既知の方法が浸出溶液を処理するために使用されてよいと容易に認識するであろう。
【実施例】
【0056】
本発明の態様を実施するために、いくつかの実験的試験が実験室規模で行われた。表1は、浸出工程で使用された反応条件および浸出工程に供される固形材料からのヒ素の除去を含む試験の結果をまとめたものである。表1では、試験番号2は本発明の範囲内にある実験結果である。実際のところ、試験番号2では初期の浸出溶液はNa
2Sを含んでいないが、浸出工程に供される固形硫化物材料からヒ素が87%除去された。
【0057】
表1:
【0058】
浸出工程に対して再利用していない浸出溶液を用いて、開路フローシートを使用した更なる一連の例を実施した。その結果を表2に示す。
【0059】
表2:
【0060】
表2(続き):
【0061】
再利用した浸出溶液を用いて、閉路浸出フローシートを使用した更なる例を実施した。その結果を表3に示す。
【0062】
表3:
【0063】
表3(続き):
【0064】
(再利用していない浸出溶液を用いて)開路浸出フローシートを使用した更なる試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0065】
表4:
【0066】
表4(続き):
【0067】
表4において、例16は比較例である。
【0068】
再利用した浸出溶液を用いて閉路浸出試験を更に行った。その結果を表5に示す。
【0069】
表5:
【0070】
表5(続き):
【0071】
表5(続き):
【0072】
表5(続き):
【0073】
表5(続き):
【0074】
表5(続き):
【0075】
本発明の態様は、浸出工程に供される初期の浸出溶液が、固形硫化物材料に存在するヒ素と反応し、又除去するために必要とされる量よりも化学量論過剰である量でNa
2Sを含むことを要しない、固形硫化物含有材料からヒ素を除去するための方法を供する。これは、商業的に許容可能な時間枠でヒ素の十分な除去を保証するために、かなり化学量論過剰のNa
2Sを必要とした、この分野での標準的な認識に対して、非常に変わった驚くべき結果である。本発明の結果として、初期の浸出溶液で、又は浸出工程に供される作成された浸出溶液で浸出工程に供するために必要とされるNa
2Sの量が低減されるので、浸出管路(又は循環路又はサーキット;circuit)の操作費用をかなり低減することができる。
【0076】
本発明は、ヒ素を含む固形硫化物材料からヒ素を選択的に除去するための方法を供する。又、この方法は、硫化物材料に含まれてもよいアンチモンを選択的に除去してよい。銅、亜鉛、鉛、金、銀、白金族金属、コバルトおよびニッケル等の金属は、浸出溶液からの残渣に大部分残っている。
【0077】
本発明が本明細書に記載しているもの以外に変更と修正がされてよいことは、当業者には理解されよう。本発明がその精神と範囲内で全てのそのような変更と修正を含んでいると理解されよう。